説明

新規ヨウ素製造法

【課題】 ヨウ化物イオンを含む水溶液からマンガン酸化物およびマンガン酸化細菌を用いてマンガン資源を再利用しつつヨウ素を製造する方法の提供。
【解決手段】 (a) 水溶液中のヨウ化物イオンをマンガン酸化物で酸化してヨウ素化する工程、
(b) 工程(a)でマンガン酸化物から生じたマンガンイオンおよびヨウ化物イオン含有原料
水溶液に含まれていたマンガンイオンをマンガン酸化物に変換する工程、および
(c) 工程(a)で得られたヨウ素を回収する工程、
を含むヨウ化物イオン含有原料水溶液からヨウ素を製造する方法であって、工程(a)〜(c)がpH4〜pH9の条件で行われる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素化物を含む水溶液からヨウ素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は産地が偏在する貴重な天然資源であり、価格も高価であることからこれらを効率的に回収する方法が産業上強く求められている。ヨウ素の回収方法に関しては種々の方法が提案されている。
【0003】
ヨウ化物イオン含有液からヨウ素を回収する方法として、ヨウ化物イオンを含む天然カン水中のヨウ化物イオンを塩素、塩素水または次亜塩素酸等を酸化剤として用いてヨウ化物イオンを酸化し、陰イオン交換樹脂を用いてポリヨウ化物イオンとして回収し硫酸および塩素で処理して結晶として回収する方法(特許文献1参照)、酸化により遊離したヨウ素をブローアウト法により回収する方法(特許文献2および3を参照)、回収できなかったヨウ素を一旦還元し再度酸化する循環回収工程を加えることにより回収率を上げる方法(特許文献4および5を参照)、無機ヨウ素化合物を含む水溶液の回収処理には塩素ガス(Cl2)や過酸化水素(H2O2)を用いてヨウ素とする方法が最も一般的である(非特許文
献1参照)。しかしながら、ヨウ素廃液中に多くの有機分や、無機不純物が多く含有されている場合は、ヨウ素回収のための前処理が必要となり経済的に好ましくなく、また高収率で高純度のヨウ素を得る原料としては好ましくない。
【0004】
また、酸化剤として用いる塩素、塩素水または次亜塩素酸等は、毒性が強くまた環境への影響が大きく、用いた酸化剤の処理が必要であった。
【0005】
一方、二酸化マンガン等の酸化マンガンがヨウ化物イオンを酸性条件下でヨウ素化する反応が知られていた。しかしながら、ヨウ化物イオンを効率的にヨウ素化するには、強酸性条件下で反応させる必要があった。また、上記反応においてヨウ化物イオンの酸化に用いたマンガンは還元されマンガンイオン(Mn2+)に変換されるが、生じたマンガンイオンの処理等に強アルカリ薬品や発癌性物質を使用する必要があった。
【0006】
本発明者は、先に効率よくマンガンイオンを酸化し得るマンガン酸化細菌を単離した(特許文献6から9を参照)。該マンガン酸化細菌は、マンガン含有水溶液からマンガンを酸化沈殿させることが可能であった。
【0007】
【特許文献1】特公昭57-100901号公報
【特許文献2】特公昭28-6615号公報
【特許文献3】特許第2732635号公報
【特許文献4】特開平2-184502号公報
【特許文献5】特開平2-209201号公報
【特許文献6】特許3188924号公報
【特許文献7】特許3321591号公報
【特許文献8】特許3321592号公報
【特許文献9】特許3455749号公報
【非特許文献1】増補改訂、ヨウ素綜説 松岡敬一郎著 霧が関出版平成4年4月20日 第二版 p73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヨウ化物イオンを含む水溶液からマンガン酸化物およびマンガン酸化細菌を用いてマンガン資源を再利用しつつヨウ素を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、塩素や次亜塩素酸等を用いず、また硫酸等の酸性溶液を用いず、穏やかな条件下でヨウ素を製造する方法について鋭意検討を行った。ヨウ化物イオンが二酸化マンガン等のマンガン酸化物で酸化されヨウ素を生じる反応において、ヨウ素の酸化により生じたマンガンイオンを酸化してマンガン酸化物に変換することにより、マンガンを再利用しつつヨウ化物イオンを効率的にヨウ素に変換することができることを見出した。本発明者は、先に新規なマンガン酸化細菌を単離しており、マンガンイオンの酸化に該マンガン酸化細菌を利用することにより、反応系のpH条件等を変化させることなく、反応系に常にマンガン酸化物が供給され、ヨウ化物イオンの酸化が進みヨウ素が生成することをさらに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] (a) 水溶液中のヨウ化物イオンをマンガン酸化物で酸化してヨウ素化する工程、
(b) 工程(a)でマンガン酸化物から生じたマンガンイオンおよびヨウ化物イオン含有原料
水溶液に含まれていたマンガンイオンをマンガン酸化物に変換する工程、および
(c) 工程(a)で得られたヨウ素を回収する工程、
を含むヨウ化物イオン含有原料水溶液からヨウ素を製造する方法であって、工程(a)〜(c)がpH4〜pH9の条件で行われる方法。
[2] 工程(a)、工程(b)および工程(c)が同一の容器中で行われる[1]のヨウ素を製造す
る方法。
[3] 工程(b)のマンガンイオンのマンガン酸化物への変換が、pH4〜pH9の条件でマン
ガンを酸化し得るマンガン酸化細菌を用いて行われる、[1]または[2]のヨウ素を製造する方法。
[4] マンガン酸化細菌が、セデセア属 FERM P-17064菌株および/またはシュワネラ属FERM P-17220菌株である[3]の方法。
[5] マンガン酸化細菌が、オシラトリア(Ocillatoria)などの藍藻、ナビキュラ(Navicula)などの珪藻およびウロトリックス(Ulothrix)などの緑藻を含むものである藻類
が共生した微生物共生体として存在している[3]または[4]の方法。
[6] 工程(c)のヨウ素の回収が、水蒸気または加温空気の吹き込みによって行われる[1]から[5]のいずれかのヨウ素を製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、塩素や次亜塩素酸および硫酸等の有害危険物質を用いることなく、pH4〜9の条件下でヨウ化物イオン含有水溶液からヨウ素を製造することができる。また、ヨウ化物イオン含有水溶液にマンガン酸化物とマンガン酸化細菌を添加することにより、ヨウ化物イオンの酸化により生じたマンガンイオンを直ちにマンガン酸化物に再変換できるので、同一の反応容器中で反応条件を変化させることなく、かつマンガン酸化物を新たに添加することなく、ヨウ化物イオンの酸化が進行し、ヨウ素を効率的に製造することができる。本発明は、マンガン資源を再利用しつつ、ヨウ素を製造することができ、使用済みマンガン電池等の再利用も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法において、ヨウ化物イオンを含む水溶液をそのまま用いることもできるし、濃縮して用いてもよい。濃縮する場合の濃縮方法は限定されないが、例えば蒸発または蒸留により無機ヨウ素化合物を濃縮することができる。
【0013】
ヨウ化物イオン(I-)を含む水溶液としては、80〜125ppmのI-を含む天然かん水、5〜2
0ppmのI-を含む天然の水等が挙げられる。5〜20ppmのI-を含む天然の水としては、ヨウ化物イオンを含む温泉水が挙げられ、例えば北海道 十勝支庁広尾郡大樹町が所有する晩成温泉の温泉水が挙げられる。
【0014】
本発明のヨウ素製造法において、原料として用いるヨウ化物イオンを含む水溶液のI-濃度は限定されないが、5ppm〜106ppmが望ましい。
【0015】
ヨウ化物イオン(I-)を酸化してヨウ素(I2)に変換する。この際、マンガン酸化物を用いて酸化すればよい。従来のヨウ素製造法においては、塩素や次亜塩素酸を用いてヨウ化物イオンを酸化していたが、本発明においてはこれらの薬品は使用する必要はない。マンガン酸化物としては、酸化マンガン(II)(一酸化マンガン、MnO)、酸化マンガン(II)一水和物(水酸化マンガン(II))、酸化マンガン(III)(三酸化二マンガン、Mn2O3)、酸化マンガン(IV)(二酸化マンガン、MnO2)、酸化マンガン(IV)一水和物(MnO2・H2O)、酸化マンガン(VII)(七酸化二マンガン、Mn2O7)、酸化水酸化マンガン(MnO(OH))等が挙げられる。この中でも、二酸化マンガンが好適に用いることができる。
また、使用済みマンガン乾電池に含まれるマンガン酸化物を用いてもよい、使用済みマンガン乾電池には主に酸化水酸化マンガンと二酸化マンガンが含まれる。
【0016】
また、マンガン酸化物を用いてヨウ化物イオンを酸化する場合、一般的には濃硫酸を加えて強酸性条件下で行う。これは酸性条件下の方が、ヨウ化物イオンの酸化反応速度が速くなるからである。例えば、0.1MのKI溶液10mlに0.1gのMnO2を添加して、約18℃で反応させた場合、ヨウ化物イオンの酸化反応率(含まれるI-のうちのI2に返還したI-の割合)は、pH6付近で約1%、pH2付近で約8%、pH1付近で約27%である。しかしながら、本発明の方法においては、マンガン酸化物を用いたヨウ素の酸化により生じたマンガンイオンを酸化し、マンガン酸化物に変換し再利用する。従って、1回のヨウ化物イオンの酸化反応率が低くても、水溶液中に残っているヨウ化物イオンを繰り返し酸化し、ヨウ素を生成させるので、pH4〜9、好ましくはpH4〜8の比較的中性に近いpH条件下でヨウ化物イオンの酸化反応を行うことができる。ヨウ素化物を含む原料水溶液のpHがpH4〜9の範囲を外れているときは、酸またはアルカリ水溶液を添加して、pH4〜9に調節すればよい。
【0017】
このときの、ヨウ化物イオンとマンガン酸化物の量比は、適宜決定すればよく、マンガン酸化物の比が大きいほど、ヨウ化物イオンの酸化反応率は高くなる。また、反応温度は、10℃から40℃程度が好ましい。
【0018】
上記酸化過程によりヨウ素(I2)とマンガンイオンが生成する。この際、実際にはI-の状態で存在している。ヨウ素は、蒸発しやすいのでブローアウト法等により回収することができる。すなわち、酸化により生じたヨウ素を反応液に空気や水蒸気を吹き込むことにより、空気と接触させ、ヨウ素を反応系から遊離させ、蒸発遊離したヨウ素を吸収・晶析・精製すればよい。
【0019】
ヨウ化物イオンを含む原料水溶液中のヨウ化物イオンのすべてまたはほとんどがヨウ素に変換されてから、ヨウ素を回収してもよい。また、本発明の方法においては、ヨウ化物イオンの酸化反応に用いるマンガン酸化物が常に反応系に供給されるので、常にヨウ化物イオンの酸化反応が進行し、ヨウ素が生成している。従って、生成しているヨウ素をその都度回収してもよい。
【0020】
ヨウ素の酸化反応に伴い生じるマンガンイオンを酸化し、再度マンガン酸化物とする。この際、マンガン酸化細菌を用いるのが望ましい。上記のマンガン酸化物を添加し、ヨウ化物イオンのヨウ素への酸化が進行した、反応系にそのままマンガン酸化細菌を添加すればよい。マンガン酸化細菌により、反応系のマンガンイオンがマンガン酸化物に変換され
、マンガン酸化物が反応系に残ったヨウ化物イオンを再度酸化してヨウ素が生成する。マンガン酸化細菌によるマンガンイオンの酸化の反応条件は、マンガン酸化細菌がマンガンを酸化し得る条件である。pHはpH4〜9が好ましく、さらにpH4〜8が好ましい。温度は10℃〜40℃の範囲で可能であるが、このましくは30〜40℃である。
【0021】
マンガン酸化細菌は、Mn(II)をMn(IV)に酸化する細菌である(Leptothrix discophora
等,Appl. Environ. Microbiol., 63, (7), 2502〜2506(1997))。本発明の方法において用い得るマンガン酸化細菌は限定されず、マンガン鉱物を酸化し得る細菌ならばいずれも用い得るが、例えば、セデセア属(Cedecea)GSJ/MITA24A/ASHO-RO/1、セデセア属(Cedecea)GSJ/MITA24A/ASHO-RO/1、アエロモナス属(Aeromonas)GSJ/MITA24B/ASHO-RO/2、シュワネラ属(Shewanella)GSJ/MITA24C/ASHO-RO/3等が挙げられる。また、これらの菌の変異株で
あって、マンガン酸化能を有する微生物も用いることができる。これらの菌については、特許3188924号公報、特許3321591号公報、特許3321592号公報、特許3455749号公報に記載されている。これらの微生物は、オシラトリア(Ocillatoria)などの藍藻(シアノバクテリア)、ナビキュラ(Navicula)などの珪藻、ウロトリックス(Ulothrix)などの緑藻と共
生しており、共生体を本発明の方法に用いることもできる。上記マンガン酸化細菌または共生体は有機物を含有しない水を用いて、太陽光のみで培養を行うことができる。したがって、有機物を栄養源として特に人工的に添加する必要がない。その他、レプトスリクス・ディスコホラ(Leptothrix discophora)、放線菌等もマンガンを酸化することが知ら
れており、これらの細菌をも使用することができる。
【0022】
セデセア属(Cedecea)GSJ/MITA24A/ASHO-RO/1は、1998年11月25日に独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)
に、受託番号FERM P-17064で寄託されている。シュワネラ・プトレファシエンス(Shewanellaputrefaciens)GSJ/MITA24C/ASHO-RO/3は、1999年2月17日に独立行政法人 産業技
術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、
受託番号は、FERM P-17220で寄託されている。
【0023】
本発明においては、ヨウ素化物含有原料水溶液中のヨウ化物イオンをマンガン酸化物により酸化してヨウ素を生成する工程(a)、工程(a)の結果生じたマンガンイオンをマンガン酸化細菌を用いてマンガン酸化物に酸化する工程(b)、生じたヨウ素を回収する工程(c)を含む。
【0024】
工程(a)、工程(b)および工程(c)は同時に行うことができる。この場合、ヨウ化物イオ
ン含有原料水溶液中に、マンガン酸化物とマンガン酸化細菌を同時にまたはマンガン酸化細菌の添加が、マンガン酸化物の添加より後になるように、添加すればよい。ヨウ化物イオンからのヨウ素の生成およびマンガン酸化物からのマンガンイオンの生成は同時に行われ、ヨウ素も連続的に生成する。生成したヨウ素を反応系に空気や水蒸気を吹き込むことにより回収することができ、工程(a)および工程(b)が進行中に、生成したヨウ素を回収してもよいし、工程(a)および工程(b)の完了後、原料水溶液中のヨウ化物イオンのすべてまたはほとんどがヨウ素に変換してから、ヨウ素を回収してもよい。この方法を行う場合は、一連の工程を反応容器を変えることなく、同じ反応容器で行うことができる。
【0025】
また、工程(a)、工程(b)および工程(c)を別々に行ってもよい。例えば、工程(a)を行い、ついで工程(b)を行い、工程(a)および工程(b)を繰り返し、必要量のヨウ素が生じた後
に、工程(c)でヨウ素を回収することができる。この場合は、工程(a)および(b)が終了し
た時点で、ヨウ素を回収するともに、反応系のマンガン酸化物および/またはマンガン酸化細菌を回収すればよい。
【0026】
本発明において、すべての工程はpH4〜9の条件下で行うことができる。ヨウ化物イオ
ン含有原料水溶液のpHがpH4〜9の範囲にあれば、反応が終了するまでpHの調整を行わなくても、最終的にヨウ素を回収することができる。また、適宜酸やアルカリを添加して、pHを調整してもよい。pHを調整する場合は、pH4〜7の酸性条件化に調整することが好ましい。また、各工程は、10℃から40℃の温度範囲で行うことができるが、マンガン酸化細菌を用いる工程は、30℃〜40℃が好ましい。一連の反応を10℃〜40℃の範囲で固定して行うこともできるし、各工程で温度を変えてもよい。
【0027】
また、反応終了後には、反応系にマンガン酸化物とマンガンイオンが含まれるが、マンガンイオンをマンガン酸化細菌を用いてマンガン酸化物に変換し、マンガン酸化物、このましくは二酸化マンガンとして回収することができ、該二酸化マンガンは、再度工程(a)
のヨウ化物イオンの酸化に用いることができる。本願発明において、最初に使用済みマンガン乾電池のマンガン酸化物を用いることができ、本発明の工程が終了した後に、マンガン酸化物を再度回収できるので、本発明の方法は、マンガンを有効に再利用することができる。すなわち、本発明の方法は、マンガン資源を有効に利用して、ヨウ素化物含有水溶液から、ヨウ素を製造する方法でもある。
【0028】
上記の工程(a)から工程(c)を同時に行う方法は、具体的には以下のように行えばよい。但し、以下に記載する方法は一例であり、材料水溶液の種類および量、用いる酸化マンガンの種類および量、用いるマンガン酸化細菌の種類および量、反応pHおよび反応温度等は適宜改変することが可能である。
【0029】
ヨウ化物イオンを100ppm含有する水(pH6.0)10lを入れた反応容器に、二酸化マンガン10gおよびマンガン酸化細菌を添加し、37℃で攪拌する。反応容器中では、二酸化マンガンによるヨウ化物イオンの酸化反応が進みヨウ素およびマンガンイオンが生じる。生じたマンガンイオンは、マンガン酸化細菌の作用で二酸化マンガンに変換され、再度ヨウ化物イオンを酸化する。原料水溶液中のヨウ化物イオンがすべてヨウ素に変換するまで、ヨウ素の酸化およびマンガンイオンの酸化が繰り返される。生じたヨウ素は、反応容器に空気を吹き込むことによりブローアウト法で回収することができる。
【0030】
図1に従来のヨウ素製造法と本願発明のヨウ素製造法の概念図を示す。図1上が従来の概念であり、ヨウ化物イオンを塩素等で酸化してヨウ素を得る。図1下が本願発明の概念であり、ヨウ化物イオンをマンガン酸化物で酸化するとともに、生じたマンガンイオンをマンガン酸化細菌で再酸化しマンガン酸化物に変換し、再びヨウ化物イオンを酸化する。マンガンを系中でマンガン酸化物とマンガンイオンの間で変換させることにより、繰り返し再利用することができる。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕 ヨウ化物イオンを含む水溶液からの中性付近条件下でのヨウ素の生成
(1) 10mlの0.1MKI溶液(pH6.03)に0.1gのMnO2を添加し、18℃で攪拌した。反応液は褐色・緑色を呈した。反応液を0.45μmのディスポフィルターでろ過し、ろ液に1%デンプ
ン液を添加したところ紫色を呈した。
【0033】
上記のろ液5mlを1/100Nチオ硫酸ナトリウム溶液で紫色が消失するまで滴定した。要し
たチオ硫酸ナトリウムは0.35mlであった。同様の検討を4mlのろ液を用いて行ったおころ
、滴定に要したチオ硫酸ナトリウムは0.35mlであった。平均すると、0.1Nのヨウ化物イオンが8/10000Nのヨウ素となった。このことは、0.8%のヨウ素イオンが反応してヨウ素に
なったことを示す。
【0034】
次いで、使用後の残ったMnO2に0.1MKI溶液を10ml加えたところ、反応は起こらず、デンプン液を入れたときの呈色は認められなかった。さらに、硫酸を1滴垂らすと、褐色・緑色を呈し、ヨウ素が生成したことを示した。このことは、酸性条件でより反応が進むことを示す。
次いで、3mlの反応液に対し1/100Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定したところ、8.10ml
のチオ硫酸ナトリウムを要した。27%のヨウ素イオンが反応しヨウ素が生じた。
【0035】
(2) 0.1MKI溶液の25mlに硫酸を添加し、pH1.87に調整した。この溶液10mlにMnO20.1gを添加したのち、(1)と同様にろ過し、ろ液2mlを1/100Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴
定したところ1.6mlを要した。このことは、ヨウ素化物の8%が反応し、ヨウ素が生じた
ことを示す。
実施例1は、中性付近で、ヨウ化物イオンの酸化が進行することを示す。
【0036】
〔実施例2〕 マンガン酸化細菌による二酸化マンガンの酸化
マンガン酸化細菌の菌株によるマンガンを含む水の処理ペプトンや酵母エキスなどの有機栄養を添加した人工海水溶液、あるいはその人工海水濃度を5倍程度まで希釈した溶液に、マンガン酸化細菌の菌株の1種または2種以上を接種した系を調整し、無接種の系とともに37℃或いは20℃において振とう培養した。この液の一部を分取して、660nmにおけ
る吸光度(光学密度、OD 660)微生物量及び溶存マンガン濃度(Mn2+)を測定した。
【0037】
マンガンの初期濃度を60ppmとして有機栄養を添加した20mlの100%人工海水溶液のpHを7.5とし、マンガン酸化細菌の1白金耳を接種した系と、未接種(無菌)系の液を20℃で
培養した結果を図1に示す。この図から、高塩濃度の液体中でも二酸化マンガンの沈殿が生じ、化学的には沈殿しない水溶液から高濃度のマンガンイオンを除去することができることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるヨウ素の製造の概念を示す図である。
【図2】マンガン酸化細菌による二酸化マンガンの酸化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 水溶液中のヨウ化物イオンをマンガン酸化物で酸化してヨウ素化する工程、
(b) 工程(a)でマンガン酸化物から生じたマンガンイオンおよびヨウ化物イオン含有原料
水溶液に含まれていたマンガンイオンをマンガン酸化物に変換する工程、および
(c) 工程(a)で得られたヨウ素を回収する工程、
を含むヨウ化物イオン含有原料水溶液からヨウ素を製造する方法であって、工程(a)〜(c)がpH4〜pH9の条件で行われる方法。
【請求項2】
工程(a)、工程(b)および工程(c)が同一の容器中で行われる請求項1記載のヨウ素を製
造する方法。
【請求項3】
工程(b)のマンガンイオンのマンガン酸化物への変換が、pH4〜pH9の条件でマンガン
を酸化し得るマンガン酸化細菌を用いて行われる、請求項1または2に記載のヨウ素を製造する方法。
【請求項4】
マンガン酸化細菌が、セデセア属 FERM P-17064菌株および/またはシュワネラ属FERM P-17220菌株である請求項3記載の方法。
【請求項5】
マンガン酸化細菌が、オシラトリア(Ocillatoria)などの藍藻、ナビキュラ(Navicula)などの珪藻およびウロトリックス(Ulothrix)などの緑藻を含むものである藻類が共
生した微生物共生体として存在している請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)のヨウ素の回収が、水蒸気または加温空気の吹き込みによって行われる請求項
1から5のいずれか1項に記載のヨウ素を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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