説明

新規リパーゼ及びこれを用いた機能性脂質の合成方法

【課題】グリセロールの2位に対して優先的に触媒作用を有し、2位に高度不飽和脂肪酸を結合させて機能性脂質の合成に資するリパーゼを提供する。
【解決手段】リパーゼは、モルティエレラ属SAM2197株(FERM BP−6261)により生産されるリパーゼである。そして、このリパーゼは、グリセロールの2位に対し優先的にエステル結合を促進させる触媒作用を有する。高度不飽和脂肪酸とグリセロールとにこのリパーゼを介在させることで、グリセロールの2位に高度不飽和脂肪酸を結合させた機能性脂質を合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規リパーゼ及びこれを用いた機能性脂質の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含めた後生動物には自身の生理代謝過程に必須であっても、自身では合成できない脂肪酸の分子種がある。ヒトにとっては、高度不飽和脂肪酸が必須脂肪酸であり、自身では合成できない高度不飽和脂肪酸を合成する他の生物を食物として摂取することで補っている。
【0003】
高度不飽和脂肪酸は、例えば魚油等、動物性油脂に多く存在しており、グリセロールの2位に高度不飽和脂肪酸が結合した油脂が生物に対して生理活性を与えている。この2位に高度不飽和脂肪酸が結合した油脂を工業的に合成することが望まれており、リパーゼ等の酵素を用いて、グリセロールの2位に高度不飽和脂肪酸が結合した油脂を合成することが試みられている。
【0004】
リパーゼは油脂の分解、合成に作用する酵素として知られており、各種油脂の製造、加工分野では、微生物由来のリパーゼが広く用いられている。しかし、これまで用いられてきたリパーゼは、トリグリセリドがもつ3つの脂肪酸のうち、1位及び3位に特異的に作用するもの、或いは、非特異的に作用するものであった。このため、特に高い生理活性機能を有する高度不飽和脂肪酸の多くが位置する2位を交換・修飾することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第98/39468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、グリセロールの2位に対して優先的に触媒作用を有し、2位に高度不飽和脂肪酸を結合させて機能性脂質の合成に資するリパーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリパーゼは、
モルティエレラ属SAM2197株(FERM BP−6261)により生産され、グリセロールの2位に対して優先的に触媒作用を有する。
【0008】
また、分子量が11kDaであることが望ましい。
【0009】
また、至適pHが8〜10であることが望ましい。
【0010】
また、至適温度が45〜55℃であることが望ましい。
【0011】
また、前記モルティエレラ属SAM2197株を培養して120〜168時間後に回収し、精製して得られることが好ましい。
【0012】
本発明に係る機能性脂質の合成方法は、
グリセロールと高度不飽和脂肪酸とに上記に記載のリパーゼを介在させ、2−モノグリセリドを合成する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
また、前記高度不飽和脂肪酸としてアラキドン酸(Arachidonic acid)、エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid)、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid)及びジホモ−γ−リノレン酸(Dihomo−gamma−linolenic acid)から選択される一種以上を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るリパーゼは、グリセロールと脂肪酸とに介在させることで、グリセロールの2位に優先的に作用する特性を有しており、高い生理機能を有する機能性脂質を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】リパーゼ活性の追跡結果を示すグラフである。
【図2】Superdex200によるゲル濾過結果を示すグラフである。
【図3】MALDI−TOF−MS解析図である。
【図4】リパーゼ活性とpHとの関係を示すグラフである。
【図5】リパーゼ活性と温度との関係を示すグラフである。
【図6】リパーゼの基質特異性を示すグラフである。
【図7】アシルグリセロールの合成反応経過を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係るリパーゼは、糸状菌モルティエレラ(Mortierella)属モルティエレラ(Mortierella)亜属に属するSAM2197株(FERM BP−6261)により生産されるリパーゼである。このリパーゼは、トリグリセロール(1,2,3−プロパントリオール)の2位に対し、優先的に触媒作用を発揮する。
【0017】
また、このリパーゼは、以下の特徴を有する。
分子量:11kDa
至適pH:8〜10
至適温度:45〜55℃
【0018】
本実施の形態に係るリパーゼは、SAM2197株を培養することで生産されるが、SAM2197株の培養は、一例として以下に示す培養条件及び培養方法で行うことができる。
【0019】
SAM2197株の胞子、菌糸、又は予め培養して得られた培養液を、液体培地又は固体培地に接種し培養することができる。液体培地の場合、炭素源としてはグルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール、クエン酸、コーンスターチ等の一般的に使用されているものがいずれも使用できるが、特にグルコース、フラクトース、マルトース、グリセロール、クエン酸、コーンスターチが好ましい。窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、ならびに硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源等の一般的に使用されているものを用いることができる。この他必要に応じて微量栄養源として用いる、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸塩、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、塩化マグネシウム、塩化カリウム等の無機塩及びビタミン等全て一般的に使用されているものが使用できる。
【0020】
本実施の形態に係るリパーゼは、SAM2197株を培地中で培養して120〜168時間経過後に回収し、精製されていることが好ましい。好ましくは、培養時間が132〜156時間、より好ましくは144時間である。
【0021】
なお、リパーゼの精製は一例として、以下のようにして行うことができる。培養後、培養物をフィルターで濾過し、菌体と培養上清を得る。菌体はヘキサンで軽く洗浄して、表面の油脂を除去した後、20mM Tris−HCl,pH9.0(以下、TBと記す)に懸濁して、氷上でガラスビーズとともにホモジナイズして破砕する。不溶性成分を遠心分離(10,000rpm,15min)で除去し、その上清を新たな試験管に移し、冷アセトンを50%となるように加えて4時間冷却し、遠心分離(10,000rpm,10min)により活性成分を沈殿回収する。培養上清も同様に処理して、沈殿に活性成分を回収する。これらをTBに溶解させ、同緩衝液に対して透析する。不溶性物質を遠心分離で除去した後、TBで平衡化したDEAE−Sepharoseカラム(5ml,GE Healthcare)にかける。0−2M NaClを含むTBを用いてグラジエント溶出を行い、活性画分を集める。これを、1M硫酸アンモニウムを含むTBで平衡化したphenyl−Sepharose Fast Flowカラム(1ml,GE Healthcare)にかけ、カラムを十分に洗浄した後、0−1M硫酸アンモニウムを含むTBでグラジエント溶出する。活性成分がまだ吸着している場合は、1−1.5%CHAPS(3−[(3−cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate)を含むTBで溶出させる。集めた活性画分をTBに対して透析し、遠心した後、Superdex 200カラム(HR 10/30,GE Healthcare)にかけ、0.15M NaClを含むTBで溶出する。このようにしてリパーゼを精製することができる。
【0022】
(機能性脂質の合成方法)
本実施の形態に係る機能性脂質の合成方法は、上述したリパーゼをグリセロールと脂肪酸とに介在させて2−モノグリセリドを合成する工程を含む。
【0023】
機能性脂質として、例えば、グリセロールの2位にアラキドン酸(Arachidonic acid;AA)、エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid;EPA)、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid;DHA)等の高度不飽和脂肪酸が結合した2−モノグリセリドが挙げられる。
【0024】
グリセロールと上記高度不飽和脂肪酸とにリパーゼを介在させることで、リパーゼがグリセロールの2位に位置する水酸基と、高度不飽和脂肪酸のカルボキシル基とのエステル結合を優先的に生じさせる。これにより、上述した2−モノグリセリドを合成することができる。
【0025】
高度不飽和脂肪酸がグリセロールの2位に結合した機能性脂質は、生物に対して生理的活性を与えうる。
【0026】
なお、グリセロールの2位のほか、1位及び3位に脂肪酸が結合した場合、特異的に1,3−リパーゼ等の酵素で、1位及び3位に結合した脂肪酸を加水分解し、2−モノグリセリドを得てもよい。
【0027】
また、リパーゼを用いて低温でグリセロールの2位に高度不飽和脂肪酸を結合させた場合、生成するモノグリセリドが析出し、リパーゼ反応の系外に出されるため、2−モノグリセリドを得ることができる。
【0028】
また、同様の反応において、減圧下で水分量を一定範囲に制限すると、モノグリセリドからジグリセリドを合成する活性が低下するため、2−モノグリセリドを選択的に得ることができる(Watanabe Y.et al.,Journal of American Oil Chemists Society,82,619−623,2005)。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて、本実施の形態に係るリパーゼ、及び、これを用いた機能性脂質の合成方法について詳細に説明する。
【0030】
以下の実施例において、monocaprylin、monopamitin、monoolein、monolinolein、monolinoleninは、シグマ−アルドリッチ株式会社製を用いた。dicaprylin、diolein、dilinoleinは、フナコシ株式会社製を用いた。その他のトリアシルグリセロール及び脂肪酸エステルは、和光純薬株式会社製を用いた。
【0031】
まず、SAM2197株を、50mLの基本培地(0.5%glucose,1%soybean powder,0.3%KHPO,0.1%NaSO,0.05%CaCl・2HO,0.05%MgCl・6HO,0.01%antifoam,pH7.0)を用い、28℃、160rpmの条件下で培養した。
【0032】
培養開始後72時間後に1%となるようにアマニ油を加えた後、培養上清、菌体内可溶性画分及び膜画分のリパーゼ活性を追跡した。
【0033】
リパーゼ活性は、以下のように、油水乳濁系で酢酸銅法によって測定した。まず、5%オリーブ油を含む50mMリン酸緩衝液(pH7.4)を10分間超音波処理した。この乳濁液1mLを、適当な容量(4mL程度)の培養上清、細胞抽出液或いは精製酵素溶液(20mM Tris−HCl、pH9.0)に加えて、37℃で1時間振盪しながらインキュベートした。反応は、1mLの塩酸と3.5mLのイソオクタンを加え、5分間煮沸することによって停止させた。
【0034】
遊離脂肪酸を含む上層のイソオクタン相(3.5mL)を新たな試験管に移し、1mLの5%(w/v)酢酸銅水溶液(ピリジンでpH6.1に調整)を加えてよく混合した。1分間遠心し、上層を新たな試験管に移して、溶媒を蒸発除去した。
【0035】
脂肪酸は100μLのイソオクタンに溶解させ、715nmにおける吸光度を測定して、オレイン酸標準物質との比較で、1μmoleの脂肪酸が1時間に生成した場合を1Uとした。
【0036】
図1にリパーゼ活性の追跡結果を示す。図1をみると、96時間後には、培養上清、菌体内可溶性画分及び菌体内膜画分の全ての活性が消失したが、144時間後には上清で753U/ml、菌体可溶性画分で276U/mlの最大活性が得られた。なお、菌体内膜画分には活性がわずかしか検出されなかった。
【0037】
菌体内リパーゼに着目し、最大活性を示した培養時間に菌体を回収し、リパーゼを精製した。
【0038】
精製リパーゼは以下のようにして得た。培養6日目(培養開始から144時間)の培養物をフィルター(東洋濾紙No.2)で濾過し、菌体と培養上清を得た。
【0039】
菌体はヘキサンで軽く洗浄して、表面の油脂を除去した後、20mM Tris−HCl,pH9.0(以下、TBと記す)に懸濁して、氷上でガラスビーズとともにホモジナイズして破砕した。遠心分離(10,000rpm,15min)により不溶性成分を除去した。
【0040】
上清を新たな試験管に移し、冷アセトンを50%となるように加えて4時間冷却し、遠心分離(10,000rpm,10min)により活性成分を沈殿回収した。
【0041】
培養上清も同様に処理して、沈殿に活性成分を回収した。
【0042】
これらをTBに溶解し、同緩衝液に対して透析した。不溶性物質を遠心分離で除去した後、TBで平衡化したDEAE−Sepharoseカラム(5mL,GE Healthcare)にかけた。0−2M NaClを含むTBを用いてグラジエント溶出を行い、活性画分を集めた。
【0043】
この活性画分を、1M硫酸アンモニウムを含むTBで平衡化したphenyl−Sepharose Fast Flowカラム(1mL,GE Healthcare)にかけ、カラムを十分に洗浄した後、0−1M硫酸アンモニウムを含むTBでグラジエント溶出した。この際に、活性成分はまだ吸着していたので、1−1.5%CHAPS(3−[(3−cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonate)を含むTBで溶出させた。
【0044】
集めた活性画分をTBに対して透析し、遠心した。その後、Superdex200カラム(HR 10/30,GE Healthcare)にかけ、0.15M NaClを含むTBで溶出した。
【0045】
なお、精製ステップを表1に示す。精製の各段階において、回収した活性画分以外にはリパーゼ活性は認められなかった。
【表1】


【0046】
上述のようにして得られた精製リパーゼについてゲル濾過を行った。その結果を図2に示す。図2中、Voはボイド容積、Tvは全カラム容積、各数値はマーカータンパク質の分子量(kDa)である。図2をみると、破線で示すUV吸収(280nm)の吸収ピークと一致する活性ピークがボイド画分(>1,300kDa)に認められる。
【0047】
また、MALDI−TOF−MS(Ultraflex TOF/TOF;Bruker Daltonics)解析を行った。MALDI−TOF−MS解析は、精製リパーゼ1ngを用い、以下の条件でおこなった。
リニアモード/ポジティブ,
加速電圧=25kV,
MALDIマトリックス=2,5−dihydroxybenzoic acid,
キャリブレーション=外部
【0048】
その結果を図3に示す。図3を見ると、マイナーなピークとともに、10,965Daのマスシグナルが認められる。
【0049】
以上のゲル濾過及びMALDI−TOF−MS解析結果から、精製リパーゼの分子量は約11kDaであることがわかる。
【0050】
続いて、精製リパーゼの活性及び安定性におけるpHの影響を検証した。
【0051】
精製リパーゼ(34μg/mL)の37°Cにおけるリパーゼ活性を、オリーブ油を基質とする各種50mM緩衝液(glycine−HCl,pH2;acetate buffer,pH3−6;phosphate buffer,pH6−7;Tris−HCl,pH8−9;glycine−NaOH,pH9−12)中で、それぞれ測定した。
【0052】
また、精製リパーゼのpHに対する安定性を検証するため、精製リパーゼを上記各緩衝液中で4°C,24時間インキュベートした後に、リパーゼ活性を測定した。
【0053】
その結果を図4に示す。図4をみると、精製リパーゼはpH2−12の範囲で酵素活性を維持している。また、至適pHは8〜10であり、特にpH9で最も良好であった。このような幅広いpHで活性を維持する特性は、P.caseicolum、P.crustosum、P.rouqueforti、Bysoochlamys verrucosaなどのわずかな例を除いては珍しく、ほとんどのリパーゼは酸性側が至適pHである。このことから、精製リパーゼは広範囲のpH条件下で用い得る。また、24時間インキュベートした後の酵素活性(安定性)についても、上記とほぼ同様の傾向を示し、幅広いpHで活性を維持していることがわかる。
【0054】
続いて、精製リパーゼの活性及び安定性に与える温度の影響を検証した。
【0055】
精製リパーゼ(34μg/mL)の50mMリン酸緩衝液(pH7.4)におけるリパーゼ活性を、オリーブ油を基質として、種々の温度下で測定した。
【0056】
また、精製リパーゼの温度に対する安定性を検証するため、精製リパーゼを各温度で1時間インキュベートした後、リパーゼ活性を測定した。
【0057】
図5にその結果を示す。図5をみると、精製リパーゼは、20−80°Cの反応条件下で活性を維持していた。至適温度は45〜55℃であり、50℃で最も良好な活性を示している。なお、70°C以上で1時間以上保持した場合は失活した。これまでのほとんどのリパーゼは40°C以下が至適温度であり、50°C或いは60°C以上ではリパーゼ活性がなかったことからすると、精製リパーゼは特徴的であり、広範囲の温度条件下で使用が可能である。
【0058】
精製リパーゼの基質特異性を調べるため、異なるアシル鎖長や不飽和結合数の脂肪酸をもつモノアシルグリセロール(以下、MAGとも記す)、ジアシルグリセロール(以下、DAGとも記す)、トリアシルグリセロール(以下、TAGとも記す)、及び、脂肪酸エステルの加水分解活性を測定した。
【0059】
1mMのトリアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、天然植物油、リン脂質、及び、2mMの脂肪酸メチルエステルに対する加水分解活性を、加水分解によって遊離した遊離脂肪酸を定量することにより行った。なお、それぞれの基質について、30℃及び50℃の条件下での活性を測定した。
【0060】
その結果を図6に示す。30℃又は50°Cで、或いはその両方で、各種MAGやTAGに対して活性が認められたが、DAGに関しては不図示の1,3−dicaprylin、1,3−dipalmitin、1,2−diolein、1,3−diolein、1,2−dilinoleinにおいて、いずれの温度でも活性は検出されなかった。
【0061】
飽和脂肪酸をもつTAGに対して30°Cで活性がなかったのは、基質の融点が低いことから同温度では溶解していないためと考えられる。不飽和脂肪酸の遊離活性はTAGよりもMAGにおいて高く、アシル鎖の不飽和度に依存していた。
【0062】
なかでも、1−monolinoleninが最も高い値を示した。2−monooleinと2−monolinoleinは、それぞれ1−monooleinと1−monolinoleinよりも高い活性を与えた。
【0063】
一方、それぞれ不図示のmethylbutyrate、methyllaurate、methylpalmitate、methylpamitoleate、methylsterate、methyllinoleate、methyllinolenate、methyleicosapentaenoateなどの脂肪酸メチルエステルに対しては、30℃及び50°Cにおいて活性が検出されず、methylcaprylateとmethyloleateでは50°Cでのみ検出された。
【0064】
天然植物油では、キャメリア油(Camellia oil)が最も高い活性を与えた。これは不飽和脂肪酸を多く含む(〜86%oleic acid)ためであると考えられる。
【0065】
オリーブ油(Olive oil)とアマニ油(Linseed oil)はほとんど差がなかった。興味深いことに、卵黄ホスファチジルコリン(Phosphatidylcholine)に対して高い活性を示した。これは真菌由来リパーゼでは極めて珍しく、他起源のリパーゼではアシルグリセロールとリン脂質の両方に対して作用することはない。
【0066】
(アシルグリセロールの加水分解)
オレイン酸のみを持つ種々のアシルグリセロールからのリパーゼ作用による加水分解物について、脂質組成を調べた。
【0067】
100mgの各種基質と、1mLの精製リパーゼ(10U)と、1mLの50mMリン酸緩衝液(pH7.4)とからなる反応液を30°Cで1時間、170rpmで撹拌しながらインキュベートした。生成物を以下のように分離し、定量した。
【0068】
脂質の組成はシリカゲルプレート(Kieselgel 60;Merck)を用いた薄層クロマトグラフィーによって同定及び定量した。MAG異性体をより良く分離する場合は、プレートを3%シュウ酸に浸して、一晩乾燥したものを用いた。展開溶媒として、それぞれヘキサン/エーテル/酢酸(70:30:1,v/v)あるいはクロロホルム/アセトン/酢酸(96:4:1,v/v)を用いた。脂質は2%硫酸銅/13%硫酸溶液あるいは50%硫酸メタノール溶液を噴霧して、140°Cで加熱することにより可視化した。
【0069】
その結果を表2に示す。
【表2】


【0070】
Trioleinを基質とした場合、1,2−DAG及び1,3−DAG(それぞれ8.5%及び1.9%)ならびに遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)(9.8%)が生成したが、MAGはなかった。これは、精製リパーゼがTAGの1/3位に対して効率的に作用すること、ならびに、DAGの加水分解が律速であることを示唆している。
【0071】
1,2−Diolein及び1,3−Dioleinの加水分解では、Trioleinで示したような脂肪酸は遊離されず、両DAG間での異性化も認められなかった。しかし、1,2−Dioleinに限っては、TAGの生成(41%)が見られた。
【0072】
1−Monooleinは2−Monooleinよりもよく加水分解され、脂肪酸遊離量の比はおよそ2:1であった。これは図6に示した結果とほぼ一致した。いずれの場合もDAGは検出されなかったが、2−monooleinの方だけにTAGの生成(29%)が認められた。
【0073】
以上の結果は、2−Monooleinから遊離された脂肪酸が2−MAGに再び取り込まれてTAGを生成したことを示唆している。
【0074】
(アシルグリセロールの合成)
精製リパーゼを触媒として、グリセロールとオレイン酸からアシルグリセロールの合成を、以下のようにして行った。1.8mlのグリセロール/オレイン酸混合液(7:1,v/v)と0.2mlの精製リパーゼ(20U)からなる反応液を、120min,37°Cで振盪しながらインキュベートした。
【0075】
生成物をクロロホルムで抽出して、薄層クロマトグラフィーで脂質組成の分析を行い、脂質組成の経時変化を追跡した。その結果を図7に示す。
【0076】
図7を見ると、反応初期では、ほぼ同モル量の1−MAG及び2−MAGが生成したが、1,2−DAG及び1,3−DAGは少量蓄積した後、減少に転じた。1−MAGは最終的に14.5%に達した。
【0077】
一方、TAGは2−MAGの減少に対応して増加し、最終的に22%となった。これは2−MAGの1,3位への脂肪酸付加によりTAGが増加したものと考えられる。
【0078】
また、2−MAG、1,2−DAG、1,3−DAG、TAGの合計組成(26%)は、1−MAGの組成(15%)に対して2倍程度高く、精製リパーゼはグリセロールの2位に脂肪酸を直接付加する活性が高いことを示している。
【0079】
精製リパーゼは2−MAG及び1,2−DAGを主に経由する生合成経路にて作用しTAGを生成しており、また、グリセロールに対しては、溶媒非存在下でも2位に強く作用するという、極めて特徴的な性質を有しているといえる。そして、精製リパーゼは加水分解よりも合成をより強く促進する傾向がある。このようなことから、機能性を付与するために構造設計して作られる構造脂質の合成にも有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
モルティエレラ属SAM2197株により生産されたリパーゼは、グリセロールの2位に位置する水酸基と脂肪酸とのエステル結合を優先的に促進させる触媒作用を有する。2位に高度不飽和脂肪酸を有する高い生理機能をもつ機能性脂質の合成が容易になるので、高い生理機能を備える食品や飼料、医薬品等の製造分野での利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルティエレラ属SAM2197株(FERM BP−6261)により生産され、グリセロールの2位に対して優先的に触媒作用を有するリパーゼ。
【請求項2】
分子量が11kDaである請求項1に記載のリパーゼ。
【請求項3】
至適pHが8〜10である請求項1又は2に記載のリパーゼ。
【請求項4】
至適温度が45〜55℃である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリパーゼ。
【請求項5】
前記モルティエレラ属SAM2197株を培養して120〜168時間後に回収し、精製して得られた請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリパーゼ。
【請求項6】
グリセロールと高度不飽和脂肪酸とに請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリパーゼを介在させ、2−モノグリセリドを合成する工程を含む機能性脂質の合成方法。
【請求項7】
前記高度不飽和脂肪酸としてアラキドン酸(Arachidonic acid)、エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoic acid)、ドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid)及びジホモ−γ−リノレン酸(Dihomo−gamma−linolenic acid)から選択される一種以上を用いることを特徴とする請求項6に記載の機能性脂質の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−234692(P2011−234692A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110684(P2010−110684)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】