説明

新規内生真菌およびその使用法

【課題】特定の植物病原菌、細菌、線虫および昆虫に活性を有する揮発性抗生物質の混合物を産生する新規内生真菌を提供する。
【解決手段】本発明は、有効量の、揮発性抗生物質を産生するムスコドル種を適用することを含む、微生物感染から植物、土壌および種子を防除する方法、またはそれを処置する方法を提供する。本発明は、この新規ムスコドル株および抗生物質、ならびにこの菌株により産生される代謝産物を単独、あるいは他の化学的および生物学的殺菌剤との組み合わせ物として含む殺真菌剤、殺菌剤、殺昆虫剤および殺線虫剤にも関する。同様に、関連する気体産生真菌の同定法および単離法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2001年4月16日および2002年3月11日にそれぞれ提出された米国仮出願番号第60/283,902号および第60/363,072号の利益を35U.S.C.§119(e)のもとで主張する。これらの出願内容を本明細書中に援用する。
【0002】
発明の分野
本発明は、揮発性抗生物質を産生する新規真菌の分離に関する。揮発性化合物は、植物およびヒトの病原性真菌および細菌、昆虫ならびに線虫に対する生物学的活性を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本出願中、種々の文献および書籍の引用は著者名および年によって示した。各出版物に関する全書誌事項は、本明細書の最後部の請求の範囲の直前に見出すことができる。
【0004】
真菌が、疾病の治療や工業的利用においておよび殺虫剤として有用である抗生物質、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、テトラサイクリンおよびシクロスポリンなどを産生することは広く認められているが、これら抗生物質のいずれも揮発性ではない。多くの真菌種は低濃度の気体物質、とくに特有の不快臭を有するものを発することが知られており、これは真菌揮発性物質の化学的分析を促した(Bjurman et al., 1992)。これら揮発性物質のいくつかは多くの真菌に共通しているが、他は一菌種に特有のようである(Schnurer et al., 1999; Rapior et al., 2000)。Dennis & Webster (1971)は、ある種のトリコデルマ種(Trichoderma spp.) が、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)、ピチウム・ウルチウム(Pythium ultimum)およびフサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)などの試験真菌の増殖を阻害する揮発性抗生物質を産生したことを報告した。アセトアルデヒドが揮発性物質のひとつであると示唆されたが、試験真菌のいずれに対する致死性も当著者らによって報告されておらず、真菌培養物の揮発性成分の包括的化学分析はなされなかった。このように、真菌培養物の揮発性化合物について何らかの注目が年々なされたにも関わらず、真菌によって産生される揮発性抗微生物剤の致死性混合物の報告はなかった。
【0005】
種々の微生物が植物疾病を制御するのに有用な生物学的活性を示すこともまた公知である。作物学および園芸学的に重要な種々の植物疾病を制御するための生物学的殺虫剤の確認および開発の分野における進歩はあったが、現在使用中のほとんどの農薬は未だ合成化合物である。これら化学的殺真菌剤の多くはEPAによって発癌性物質として分類され、野生生物および他の非標的種に対して毒性である。例えば、臭化メチルは、土壌燻蒸剤としておよび収穫後微生物侵襲の処理に広く用いられる。そのヒトおよび動物への高毒性ならびに大気への有害な影響のために、臭化メチルの使用はまもなく排除されると思われ、本剤および他の合成殺虫剤のためのより安全な代替物を見出すことが強く求められている。
【0006】
本発明は、この要求を満たし、さらに関連する有利性を提供する。
【発明の概要】
【0007】
発明の詳細な説明
真菌、細菌、昆虫および線虫に対する活性を有する揮発性抗生物質の混合物を産生する、ムスコドル・アルブス(Muscodor albus)およびムスコドル・ロセウス(Muscodor roseus)を含む、新規内生真菌を提供する。一様相において、ムスコドルは、例えば、これに限定はされないが配列番号1〜4に記載の部分ゲノム配列を含む、本明細書に提供される情報を用いて同定される。二つの新規株は、特許手続き上の微生物寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の規定のもとに、2002年2月1日に受託番号30547および30548の下でNRRLに寄託された。
【0008】
また、真菌および/または揮発性化合物を含む組成物を提供する。組成物は、土壌処理ならびに植物体、種子、穀粒および果実の病原性真菌および細菌からの防除に有用である。組成物はまた、収穫後食物を細菌および真菌の侵襲から防除するのにも有用である。さらに組成物は、ヒトまたは動物排泄物の処理ならびに建築物および木材などの建築材料の毒性カビ侵襲の処理および/または防除のために有用である。さらに本発明は、細菌、昆虫、線虫および真菌感染から土壌、植物体、種子、穀粒、排泄産物、建築材料および収穫後食物産物を防除、またはそれを処理する方法を提供する。
【0009】
表の簡単な説明
表1は、M.アルブスの揮発性化合物およびM.アルブス化合物の人工的混合物の、試験微生物群に及ぼす影響を示す。M.アルブス気体への暴露後、気体から除去した後の試験微生物の生存能力を評価した。人工的環境は、M.アルブス気体分析後に同定した化合物から構成された。人工的環境における微生物増殖を3.2〜90 μl/50 ccの化合物の人工的混合物への暴露後に測定して、IC50を得た。対照と比した%増殖および生存能力を60 μl/50 ccへの暴露後に測定した。生存能力は3日目に化合物を除去した後に決定した。
【0010】
表2は、バーミュキュライトを用いて植えてから1週間後のポット当たりのプロッコリ−苗の平均数(平均±標準偏差)を示す。ポットにはインキュベーション期間なしで直ちに植えた。
【0011】
表3は、リンゴのアオカビを抑制するムスコドル・アルブスの能力を決定する実験の結果を示す。
【0012】
表4は、M.アルブスによって産生される揮発性化合物のGC/MS分析の結果を示す。いくつかの小ピークおよびブレークスルーピークは、全面積の1%しか占めないことから全分析から除いた。対照PDAプレートで見出された化合物はこの表に含まれない。
【0013】
表5は、各クラスの揮発性化合物の阻害的影響を決定するためのアッセイの結果を示す。これは、試験化合物の不在における対照と比較した、試験微生物増殖の%として表される。相対的生物学的活性を決定するために、M.アルブスの天然揮発性物質中の個々のクラスの化合物を評価した。各化合物は、M.アルブス中でそれらが生じる相対濃度で60 μl/50 cc空間すなわち1.2 μl/ccの最適試験濃度で2日間暴露について試験した。
【0014】
表6は、被覆黒穂病菌で侵襲されたオオムギ種子の処理に用いたムスコドル・アルブス揮発性物質を示す。非処理および非侵襲種子の組合せを対照として用いた。
【0015】
本発明を実施するための形態
本開示中、種々の出版物、特許および公開された特許明細書は明示する引用によって参照する。これら出版物、特許および公開された特許明細書は、本発明が懸かる技術状況をより詳細に記述するために本開示の参考文献として援用する。
【0016】
本発明の実施には、特に記載がなければ、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の当業の技術範囲内の従来技術を用いる。そのような技術は文献で詳細に説明されている。これらの方法は、次の出版物に記載されている。例えば、Sambrook et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F.M. Ausubel et al. eds. (1987); METHODS IN ENZYMOLOTY シリーズ(Academic Press, Inc.); PCR: A PRACTICAL APPROACH (M. MacPherson et al. IRL Press at Oxford University Press (1991); およびPCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995)などを参照されたい。
【0017】
定義
単数形「a」「an」(不定冠詞)および「the」(定冠詞)は、文脈に明らかな規定がなければ、複数の言及を含む。例えば、不定冠詞を有する用語「細胞」は、その混合物を含む複数の細胞を包含する。
【0018】
用語「含んでなる(含む)」は、組成物および方法が、列挙した構成要素を含むが、他を除外しないことを意味するように意図される。組成物および方法を定義するために使用する場合の「〜から本質的になる」は、組み合せに本質的に重要な他の構成要素を除外することを意味する。従って、ここで定義されるような構成要素から本質的になる組成物は、分離精製法からの微量混入物および農業的に許容できる担体を除外しない。「〜から成る」は、他の組成分の微量要素および本発明の組成物を適用する重要な方法過程以上のものを除外することを意味する。これら移行用語のそれぞれによって定義された具体例は、本発明の範囲内である。
【0019】
本明細書中、「生物学的制御」は、第二の生物の使用による病原体または昆虫の制御と定義される。生物学的制御の公知のメカニズムには、根の表面域を真菌と競合して優勢になることによって根腐れ病を制御する腸内細菌が含まれる。抗生物質のような細菌性毒素は病原体を制御するために使用されてきた。毒素を単離して植物に直接適用することもできるし、また細菌種を投与してその場で毒素を産生させてもよい。
【0020】
用語「真菌」または「真菌類」は、クロロフィルを欠き、有核胞子を有する多様な生物を含む。真菌類の例としては、酵母、カビ、ウドンコ病菌、サビ菌類、およびキノコがあげられる。
【0021】
用語「細菌」は、明確な核を有しないあらゆる原核生物を含む。
「殺虫性」とは、植物害虫の死亡率を増加させるまたは増殖速度を抑制する、物質の能力を意味する。
「殺真菌性」は、真菌の死亡率を増加させるまたは増殖速度を抑制する、物質の能力を意味する。
「殺昆虫性」とは、昆虫またはその幼虫の死亡率を増加させるまたは増殖速度を抑制する、物質の能力を意味する。
「殺菌性」とは、細菌の死亡率を増加させるまたは増殖速度を抑制する、物質の能力を意味する。
「殺線虫性」とは、線虫の死亡率を増加させるまたは増殖速度を抑制する、物質の能力を意味する。
【0022】
「抗生物質」は、微生物を殺すまたは抑制することができるあらゆる物質を含む。抗生物質は、微生物によってまたは合成工程にもしくは半合成工程によって生産され得る。従って、この用語は、真菌を抑制または死滅させる物質、例えばシクロヘキシミドまたはニスタチンを含む。
【0023】
用語「培養」は、種々の培地上または培地中で生物の増殖させることをいう。「全ブロス培養物」とは、細胞および培地の双方を含む液体培養物をいう。「上清」とは、ブロス中で増殖した細胞を遠心分離、ろ過、沈降、または当業者に公知の他の方法によって除去したときに残る液体ブロスをいう。
【0024】
「有効量」とは、有益または所望の結果をもたらすに充分な量を意味する。有効量は、一回またはそれ以上の投与で付与することができる。処理や防除のに関しては、「有効量」は標的感染または病態を改善、安定化、逆転、進行遅滞させるに充分な量を意味する。
【0025】
「ポジティブコントロール」は、殺虫活性を有することが公知の化合物を意味する。「ポジティブコントロール」は、市販で入手可能な化学的殺虫剤を含むがこれには限らない。用語「ネガティブコントロール」は、殺虫活性を有さないことが公知の化合物を意味する。ネガティブコントロールの例は、水または酢酸エチルである。
【0026】
用語「代謝物」または「揮発性物質」は、生物学的活性を有する微生物の発酵のあらゆる化合物、物質または副産物を指す。ほとんどの場合、揮発性物質は、大気の温度および圧力下で容易に揮発する。
【0027】
用語「突然変異株」とは、親株の変異種、さらに、所望の生物学的活性が親株によって発現されるものと同様である突然変異株または変異株を得る方法をも指す。「親株」とは、ここでは突然変異前のオリジナルのムスコドル株と定義する。突然変異株は自然界で人間の介在なしで生じる。また、当業者に公知の多様な方法および組成物を用いて得ることができる。例えば、親株をN-メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジンやエチルメタンスルホンなどの化学物質を用いて、またはガンマ線、X線による照射またはUV照射によって、または当業者に公知の他の手段によって処理することができる。
【0028】
「組成物」は、活性作用物と、不活性の(例えば、検出可能な作用物や標識または液状担体)またはアジュバントのような活性の他の化合物、担体または組成物との組み合せの意味を意図する。農業用担体の例は以下に提供される。真菌もまた、担体と、あるいは少なくとも一つの化学または生物学的殺虫剤とともに組成物に調製することができる。
【0029】
すべての数字表記指定、例えば、範囲を含むpH、温度、時間、濃度および分子量は近似値であって、0.1で(+)または(−)に変動し得る。必ずしも常に明記はされていないが、すべての数字表記指定は用語「約」が前置きされているものと理解すべきである。また、必ずしも常に明記はされていないが、ここで記述される試薬は単に代表例であって、それに同等のものは当業者に公知であることを理解すべきである。
【0030】
本発明内で組成物の良好な分散および吸着を達成するために、全ブロス培養物、上清および/または揮発性物質を分散および吸着を助ける成分と調合することは有利であろう。適切な調合物には、当業者に公知のもの(水和粉末、微粒等)、適当な媒体等にマイクロカプセル化したもの、水性フロアブルや水性懸濁液などの液体、揮発性組成物および乳化可能な濃縮物などがある。他の適切な調合物は当業者に公知である。
【0031】
「変異株」は、本発明の株の確認のための特徴の全てを有する株であって、その部分配列がGenBank寄託所に寄託された生物のゲノムと高ストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズするゲノムを有すると確認され得る株である。「ハイブリダイゼーション」とは、ひとつまたはそれ以上のポリヌクレオチドが反応して、ヌクレオチド残基間の水素結合によって安定化された複合体を形成する反応を指す。水素結合は、ワトソン-クリック塩基対合、フーグスティーン結合または他の配列特異的様式で起き得る。複合体は、二重構造を形成する二本鎖、複数鎖複合体を形成する三本またはそれ以上の鎖、自己ハイブリダイズした一本鎖、またはこれらの組み合わせからなることができる。ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー」の条件下で行うことができる。一般に、低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション反応は、約40℃で10×SSCまたは等イオン強度/温度の溶液中で行われる。中位ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、通常約50℃で6×SSC中で行われ、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション反応は、一般に約60℃で1×SSC中で行われる。
【0032】
変異株はまた、M.ロセウスまたはM.アルブスのゲノムと85%以上、より好ましくは90%以上またはより好ましくは95%以上の配列相同性を示すゲノム配列を有する株と定義され得る。ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドまたはポリペプチド領域)が別の配列とあるパーセント(例えば、80%、85%、90%または95%)の「配列相同性」を有するというのは、アラインメントさせたときに二つの配列を比較すると塩基(またはアミノ酸)がそのパーセントで同じであることを意味する。このアラインメントおよびパーセント相同性または配列一致性は、当業で公知のソフトウェアプログラム、例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F.M. Ausubel et al., eds., 1987) Supplement 30, 7.7.18項、表7.7.1に記載のものを用いて決定できる。好ましくは、デフォルトパラメータをアラインメントに用いる。好ましいアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを用いるBLASTである。とくに、好ましいプログラムは、次のデフォルトパラメータを用いるBLASTNおよびBLASTPである。遺伝子コード=標準;フィルター=無;鎖=両方;カットオフ値=60;期待値=10;マトリックス=BLOSUM62;記載=50配列;分類手段=HIGH SCORE;データベース=non-redundant(重複なし)、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIR。これらプログラムの詳細は、次のインターネットアドレスで見出される、www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLAST。
【0033】
出願者らは、ムスコドルと名づける新規真菌を単離して、特徴づけをした。新規ムスコドルの二菌種、すなわちムスコドル・アルブスおよびムスコドル・ロセウスもまた、単離されて特徴づけされた。ムスコドル・アルブスの部分ゲノム配列は配列番号1および2に、そしてムスコドル・ロセウス(A3-5と称される)の部分ゲノム配列は配列番号3および4に提示される。ムスコドル・ロセウス(A10)の部分ゲノム配列もまた得られた。ムスコドル・アルブスの単離培養物は受託番号30547でNRRLに寄託された。A3-5と称するムスコドル・ロセウスの単離培養物は受託番号30548でNRRLに寄託された。したがって、本発明はムスコドルと称される単離新規真菌ならびにその二菌種のムスコドル・アルブスおよびムスコドル・ロセウス、およびそれらの突然変異株を提供する。
【0034】
本発明はさらに、単離されたムスコドル培養物によって産生される気体状組成物(「揮発性物質」)を提供する。一様相において、揮発性組成物は表4に示される成分を有する。気体状組成物は、適当な分散剤または担体と組み合わせることができる。別の様相において、組成物は一つまたはそれ以上の殺真菌剤、殺昆虫剤、殺線虫剤、抗微生物剤、殺菌剤または食物保存剤の有効量を任意に含む。
【0035】
本出願者らはさらに、揮発性副産物の成分を同定して、市販の入手可能な材料からそれを合成した。合成揮発性物質の成分は表4に表示される。必ずしも常に明記されないが、合成組成物は、真菌ムスコドルによって産生される天然の気体副産物の代替物としてまたは代用物としてここに記載の方法で使用できることを理解すべきである。
【0036】
ムスコドル気体は、ヒトの健康問題に関連する他の多くの微生物に影響を与える。これは、C.アルビカンス(C. albicans)(表2)ならびにA.フミガツス(A. fumigatus)およびシュードモナス種(Pseudomonas sp.)を含む、ヒトの主要な真菌および細菌の病原体に対して致死性を有する。S. アウレウス(S. aureus)およびE. コリ(E. coli)などの食物を汚染する細菌を殺す(表2)。これはスタキボトリス種(Stachybotrys sp.)(家屋および公共建築の汚染物)さらに多数の木材腐食真菌に対して致死性であることが見出された。
【0037】
このように、真菌および真菌によって産生される気体は、真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物の増殖を阻害するかそれを殺すのに有用である。当業者に公知の方法を用いて、真菌またはその揮発性副産物を、生物を殺すかその増殖を阻害するに有効な量で生物に接触させる。あるいは、真菌および/またはその揮発性副産物を使用して、ヒトまたは動物排泄物を、例えば廃棄水または固体の管理や処理の構成分として処理することができる。これらはまた、例えば、細菌または真菌汚染を低減または除去するなどして、ヒトおよび動物排泄物の浄化にも有用である。さらにまた、真菌および/またはその揮発性副産物は、建築物、建築材料または建築材料間の空間に揮発性副産物の有効量を接触させることによって建築材料や建築物内の毒性カビを処理または防除するのに使用できる。説明目的のためのみであるが、有効量の揮発性副産物は単独でまたは室内あるいは全建築物の燻蒸中に他の燻蒸剤と組み合わせて使用することができる。
【0038】
農業用に適用使用する場合は、本発明は、真菌、細菌、微生物、および昆虫からなる群から選択される生物の来襲に対して果実、種子、植物体または植物体周辺の土壌を処理または防御する方法を提供し、これは有効量の単離ムスコドル培養物またはその揮発性副産物を微生物に接触させることによってなされる。
【0039】
さらに本発明は、新規ムスコドル真菌を同定する方法であって、スクリーニングされる有効量の真菌をムスコドル・アルブスまたはムスコドル・ロセウスの揮発性物質と培養条件で接触させ、ムスコドル・アルブスまたはムスコドル・ロセウスの揮発性物質に抵抗性の真菌を選択し、これによって新規ムスコドル真菌を同定する方法を提供する。さらに、この方法によって選択されたムスコドル真菌単離株を提供する。
【0040】
さらになお、本発明の単離ムスコドルを培養し、増殖しているムスコドルによって産生される揮発性組成物を集めることによって揮発性組成物を得る方法が提供される。
【0041】
次に実施例を提供して本発明を説明する。これら実施例は限定を意図するものではない。
【実施例】
【0042】
実施例
実施例1 真菌の単離
ムスコドル・アルブス
1997年の秋にホンジュラスLa Ceibaの西20マイルの位置するCinnamomum zeylanicumの成木の小ぶりの枝数本を採取して、直ちにモンタナ州立大学に運んで処理した。枝の内側樹皮、白太および外側木部組織の小片を無菌的に除去して、水寒天を含むペトリ皿上に置いた。数日のインキュベーションの後、成長している真菌の菌糸先端を無菌的に除去して、ポテトデキストロース寒天(PDA)上に置いた。さらに7日後、真菌コロニーをガンマ線照射したカーネーションの葉(0.5×0.5 cm)に移して胞子産生を促進した。分離されたいくつかの真菌のうち、そのカビ臭によって大いに注目される一つを単離株「620」と称し、これは後にムスコドル・アルブスと同定された。
【0043】
ムスコドル・ロセウス
真菌を、オーストラリアのNorthern Territory南緯12°59'39"東経132°28'50"から得られたFern-Leafed Grevellia(Grevillea pteridifolia)の小ぶり枝数本から単離した。いくつかの小ぶりの枝(直径0.5 cm)の内側樹皮、白太および外側木部組織の小片を無菌的に除去して、水寒天を含むペトリ皿上に置いた(Strobel et al., 1996)。数日のインキュベーションの後、成長している真菌の菌糸先端を無菌的に除去して、ポテトデキストロース寒天(PDA)上に置いた。さらに7日後、真菌コロニーをガンマ線照射したカーネーションの葉(0.5×0.5 cm)および他の植物材料に移して胞子産生を促進した。分離されたいくつかの真菌のうち、そのカビ臭によって大いに注目される一つを単離株「A3-5」と称した。
【0044】
ムスコドルの追加株を南緯15°29'29"東経131°23'12"にあるAustralia Ironwood(硬質樹木)(Erythophelum chlorostachys)の小ぶりの枝数本から得た。この内生菌は選択ツールとしてM.アルブスの揮発性物質を用いて単離された。内生菌をそこから分離する植物材料を、M.アルブスの急速増殖中の2週目培養物と同じ寒天プレートに置いた。次いで、植物材料から成長している唯一の生物はM.アルブスに抵抗性であるもので、これはおそらく他の揮発性抗生物質産生菌またはキシラリア科(Xylariaceae)グループのM.アルブスの関連株である(Strobel et al., 2001)。この木からもっともよく分離される内生菌は、ペスタロチオプシス種(Pestalotiopsis spp.)および他のキシラリア種(Xylaria spp.)であった。これを内部で「A-10」と称した。
【0045】
実施例2 真菌の増殖および保存
真菌を、トリプシン処理ソイブロス寒天(TSBA)コーンミール寒天(CMA)、麦芽寒天(MA)、ポテトデキストロース寒天(PDA)(ディフコラボラトリーズ、デトロイト、ミシガン州)を含む多様な培地で増殖させた。また、真菌を、水寒天を含むペトリ皿上に、西洋シロマツ(Pinus monticola)、黒クルミ(Juglans nigra)およびカエデ(Acer saccharum)の小木削りくず、さらにシナモン(C. zeylanicum)の樹皮片の個々の試料とともに接種して、胞子産生を促進した。
【0046】
単離株620の最良の貯蔵法を決定するために、いくつかの条件が試された。真菌を、ペトリ皿中のPDAの上表面に置かれた滅菌ワットマンNo.1濾紙ディスク上で増殖させた。真菌を寒天プラグとしてPDAプレート上の濾紙ディスクの中央に接種した。プレートを22℃で14日間インキュベートした。次いで、紙ディスクを取り出して、層流フード中に滅菌条件下で1日または真菌菌糸体を保持する紙が乾燥するまで置いた。次いで、紙ディスクを多数片に切って、種々の条件下で保存した。また、真菌を含む寒天プラグを滅菌蒸留水中に置いて4℃で保存した。別組の試験条件において、寒天上で増殖している菌糸体片を15%グリセロール中に置いて-70℃で保存した。真菌生存能力を、各試験において、菌糸体断片をPDAプレート上に置いて真菌増殖を3〜4日後に調べることによって判定した。
【0047】
ムスコドル・ロセウス単離株(ここでA3-5およびA-10と称する)の最良の貯蔵法を判定するために、いくつかの条件が試された。真菌を、ペトリ皿中のPDAの表面に置かれた滅菌ワットマンNo.1濾紙ディスク上で増殖させた。真菌を寒天プラグとしてPDAプレート上の濾紙ディスクの中央に接種した。プレートを22℃で14日間インキュベートした。次いで、紙ディスクを取り出して、層流フード中に滅菌条件下で1日または真菌菌糸体を保持する紙が乾燥するまで置いた。次いで、紙ディスクを多数片に切って、23℃、4℃、0℃および-70℃で保存した。また、真菌を含む寒天プラグを滅菌蒸留水中に置いて4℃で保存した。別組の試験条件において、寒天上で増殖している菌糸体片を15%グリセロール中に置いて-70℃で保存した。各試験において、真菌生存能力を、菌糸体断片をPDAプレート上に置いて真菌増殖を3〜4日後に調べることによって決定した。
【0048】
実施例3 真菌DNAの単離
DNA単離のために、全真菌を1.5 mlのポテトデキストロースブロス(PDA)中で23℃で18から24時間増殖させた。菌糸体を遠心分離によって集めて、滅菌ddH2Oで二回洗浄した。全ゲノムDNAをLeeおよびTaylor(1990)の方法で抽出した。
【0049】
実施例4 18SリボゾームDNAの増幅
各真菌からの18S rDNA遺伝子の部分ヌクレオチド塩基対断片を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して単一断片としてプライマーUK4F(5' CYGGTTGATCCTGCCRG)およびUREV(5' GYTACCTTGACGAACTT)を用いて増幅した。PCRは50 μl反応容器中で行われ、これには0.1 μgゲノムDNA、各0.4 μMのプライマー、0.16 mMの4種dNTP、および10 mMトリス塩酸(25℃でpH 9.0)、50 mM KCl、3mM MgCl2、0.1%トリトンX-100の緩衝液に溶かした5 μ Taqポリメラーゼ(プロメガ)が含まれた。増幅は30サイクルで行った(94.5℃で45秒、53.5℃で45秒、72.5℃で90秒)。
【0050】
実施例5 ITS(Internal Transcribed Space)配列および5.8S rDNAの増幅
試験真菌のITS領域を、PCRおよび汎用ITSプライマーのITS5(5' GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG)およびITS4(5' TCCTCCGCTTATTGATATGC)(White et al., 1990)を用いて増幅した。PCRは50 μl反応容器中で行われ、これには0.1 μgゲノムDNA、各0.4 μMのプライマー、0.16 mMの4種dNTP、および10 mMトリス塩酸(25℃でpH 9.0)、50 mM KCl、3mM MgCl2、0.1%トリトンX-100の緩衝液に溶かした5 μ Taqポリメラーゼ(プロメガ)が含まれた。PCRのサイクル条件は、変性94℃で1.5分、アニーリング55℃で2.5分、伸長72℃で3分の40サイクルで、最終伸長72℃で10分間であった(Willits, 1999)。PCR産物をゲル精製して、QuickStep PCR精製キット(Edge Biosystems)を用いて脱塩した。
【0051】
実施例6 18S rDNAおよびITS1&2配列の検索および比較
ムスコドル・アルブス
ムスコドル・アルブスの18S rDNAおよびITS1-2配列の双方を各シリアル番号AF324337およびAF324336でGenBankに寄託した。これらの配列についてもまた、BLAST 2.1およびNCBIの検索(ウェブサイトwww.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)の下で、検索および他の真菌配列との比較を行った。比較およびアラインメント配列はClustal Wバージョン1.7(Thomson J. and Gibson T., 1997)を用いて行い、後に手動でアラインメントした。
【0052】
発見的検索および最大節約性コンセンサス発見的検索を用いる最大節約性ブートストラップ法(Felsenstein, 1985)はPAUP*(Swofford, 1999)を用いて行った。ブートストラップ分析は次のように設定した。100回繰り返し、ツリーバイセクション-リコネクションブランチスワッピングおよびランダム配列追加。全特性に等しく重きがおかれた。参照分類群はTaphrinales:Protomyces inouyei (GenBankシリアル番号D11377)、タフリナ・ウィエスネリ(D12531)、T. deformans(U00971)およびT. pruni-subcordatae(AB000957)であった。
【0053】
ムスコドル・ロセウス
培養物コレクション「A3-5」の18S rDNAおよびITS1&2配列の双方を各シリアル番号AY034664およびAY034665でGenBankに寄託した。単離株「A-10」の18S rDNAはAY049023と称された。加えて、「A3-5」の18S rDNAおよびITS1&2配列の双方についてもまた、BLAST 2.2.1(Altschul et al., 1997)、NCBIの検索(ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)の下で検索または他の真菌配列との比較を行った。比較およびアラインメント配列はCLUSTALWバージョン1.7(Thomson and Gibson, 1997)を用いて行い、後に手動でアラインメントした。
【0054】
アラインメントした1708 bpの18S rDNA部分配列の系統発生的分析を、PAUP*(Phylogeny Using Parsimony Analysis)プログラムバージョン4.0b4a(Swofford, 1999)の最大節約性分析を用いて行った。parsimony-informativeキャラクター数は190と1448で、これらの数は一定していた。系統発生的分析は、参考分類群を含む18分類群について行った。参照分類群はタフリナ目(Taphrinales):タフリナ・ウィエスネリ(Taphrina wiesneri)(GenBank受託番号D12531)、タフリナ・デホルマンス(Taphrina deformans)(U00971)およびタフリナ・プルニ-スブコルダタ(Taphrina pruni-subcordatae)(AB000957)であった。残りの15種は、ムスコドル・アルブス(AF324337)、ムスコドル・ロセウス(AY034664)、キシラリア・カルポフィラ(Xylaria carpophila)(Z49785)、X. クルタ(X. curta)(U32417)、X. ヒポキシロン(X. hypoxylon)(U20378)、X. ポリモルファ(X. polymorpha)(AB014043)、キシラリア種(Xylaria sp.)(AB014042)、ロセリニア・ネカトリキス(Rosellinia necatrix)(AB014044)、ポロニア・プンクタタ(Poronia punctata)(AF064052)、ダルジニア・コンセントリカ(Daldinia concentrica)(U32402)、ヒポキシロン・フラギホルム(Hypoxylon fragiforme)(AB014046)およびヒポキシロン・アトロロセウス(Hypoxylon atroroseus)(U32411)、ペスタロスファエリア・ハンセニイ(Pestalosphaeria hansenii)(AF242846)、ジスコストロマ・トリセルラル(Discostroma tricellular)(AF346546)およびアンフィスファエリア種(Amphisphaeria sp.)(AF346545)であった。
【0055】
ブートストラップ分析は次のように設定した。100回繰り返し、ツリーバイセクション-リコネクションブランチスワッピング、ランダム配列追加。全特性に等しく重きがおかれた。
【0056】
実施例7 ムスコドル・アルブスによって産生される抗生揮発性物質の分析
ペトリ皿内で増殖しているM.アルブス菌糸体上の空間中の気体を分析するための方法が考案された。「固相マイクロ抽出」注射器を真菌揮発性物質を捕捉するために使用した。ファイバー材料(Supelco)は、安定フレックスファイバー上のポリジメチルシロキサン上の50/30ジビニルベンゼン/カルブレンを使用した。注射器をペトリ皿の側面に開けた小孔を通して位置して、蒸気相に45分間暴露させた。次いで、質量選択的検出機を備えたガスクロマトグラフ(Hewlett Packard 5890シリーズIIプラス)に注射器を挿入した。膜厚0.50 mmの30 m × 0.25 mm I.D. ZB Wax毛細管カラムを揮発性物質の分離に使用した。25℃で2分、次いで5℃/分で220℃になるようにカラム温度をプログラムした。担体ガスはHelium Ultra High Purity(地元配給)で、初期カラムヘッド圧は50 kPaであった。ヘリウム圧は、分離工程中の担体ガス流速を一定に保つためにオーブンの勾配温度とともに徐々に上昇させた。揮発性物質を捕捉するに先立ち、ファイバーを240℃で20分間ヘリウムガス流の下で調整した。注入時間30秒を用いて、試料ファイバーをGCに導入した。ガスクロマトグラフは、質量解析度1500で作動するVG 70E-HF二重焦点磁気質量分光計とインターフェイスで接続した。MSは、質量範囲35〜360 amuで質量10進当たり0.50秒の速度で走査した。データ取得およびデータ処理は、VG SIOS/OPUSインターフェースおよびソフトウェアパッケージ上で行った。M.アルブスによって産生された未知物質の初期同定は、NISTデータベースを用いるライブラリー比較によって行った。
【0057】
比較分析をPDAのみを含むペトリ皿上で行い、ここから得られる物質はほとんどはスチレンであるがそれらを真菌を含むプレートによる分析値から差し引いた。20/28の化合物の最終同定を、ここに記載のGC/MS法を用いて認証標準物質との比較を基に行った。しかし、揮発性物質の約20%のみからなる他の8化合物に関してはNISTデータベース情報を基に仮同定のみを行い、M.アルブス化合物の人工的混合物を用いたバイオアッセイのいずれにも含まなかった。
【0058】
最初の概算として、真菌培養物中に見出された各化合物の定量分析は、GC-MS分析後に得られた相対的ピーク面積を基にした。この値を使用して、培養物に生ずる相対割合でM.アルブス気体の人工的環境を調製した。
【0059】
実施例8 真菌揮発性化合物の構成源
M.アルブスによって産生される化合物の主なものは、Aldrich Chem Co.から得たが、バレンセンはFluka Chem Co.から得、合成ブルネセンはU.C.バークレー化学科のDr. Clayton Heathcockから得たが、HeathcookおよびRatcliffe(1971)の方法で合成することもできる。
【0060】
市販で入手できなかった他のエステルは、Heofle, G. et al.(1978)に記載のアシル化工程のいくつかを用いて得た。
【0061】
プロパン酸、2-メチル、3-メチルブチルエステル: 塩化イソブチリル(2 ml、19.1 mmol)を、イソアミルアルコールの0℃溶液(1 ml、9.5 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(583 mg、4.8 mmol)、およびピリジン(0.85 ml、10.5 mmol)のジクロロメタン溶液に徐々に加えた。添加完了後5分で沈殿が明らかだった。アルゴン下で12時間攪拌後、反応物を20 mlの0.1 N HCl中に注いだ。層を分離して、水層を20 mlの塩化メチレンで抽出した。有機層を合わせて、10 mlの飽和塩化アンモニウム水溶液、次いで10 mlの飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥して、濾過して、真空中で濃縮した。精製を14 mm Vigreauxカラム(bp 60〜62℃、25 mm)を通す蒸留によって行った。得られた透明無色油をAmberlyst 15上で攪拌して、残留する塩化イソブチリルを除去した。1H NMR (250 MHz, CDCl3) 4.09 (t, 2H, J 6.7), 2.53 (m, 1H), 1.68 (m, 1H), 1.52 (q, 2H, J 6.5), 1.16 (d, 6H, J 7.0), 0.92 (d, 6H, J 6.5)。
【0062】
プロパン酸、2-メチル-エチルエステル: 塩化イソブチリル(2 ml、19.1 mmol)を、エチルアルコールの0℃溶液(0.55 ml、9.5 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(583 mg、4.8 mmol)、およびピリジン(0.85 ml、10.5 mmol)のジクロロメタン溶液に徐々に加えた。添加完了後5分で沈殿が明らかだった。アルゴン下で12時間攪拌後、反応物を20 mlの0.1 N HCl中に注いだ。層を分離して、水層を20 mlの塩化メチレンで抽出した。有機層を合わせて、10 mlの飽和塩化アンモニウム水溶液、次いで10 mlの飽和重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥して、濾過して、真空中で濃縮した。精製を14 mm Vigreauxカラム(bp 102℃)を通す蒸留によって行った。1H (300 MHz, CDCl3) 4.12 (q, 2H, J 7.2), 2.52 (m, 1H), 1.25 (t, 3H, J 6.9), 1.16 (d, 6H, J 7.2)。
【0063】
1-ブタノール、3-メチル、酢酸塩: アルゴンガス下で塩化アセチル(6.5 ml、91.8 mmol)を、イソアミルアルコールの0℃溶液(5 ml、45.9 mmol)、N,N-ジメチルピリジン(2.8 g、23 mmol)、および無水ピリジン(4.1 ml、50.5 mmol)のジクロロメタン溶液(92 ml)に滴下して加えた。反応混合物を100 mlの0.1 N HCl中に注いで、得られる層を分離した。有機層を50 mlの飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄してから、硫酸マグネシウム上で乾燥した。有機層を濾過して、透明油が得られるまで真空中で濃縮した。得られた油を蒸留(bp 134〜136℃)によって精製して、酢酸イソアミルを得た。1H NMR (300 MHz, CDCl3) 4.08 (t, 2H, J 6.9), 2.03 (s, 3H), 1.68 (m, 1H), 1.51 (q, 2H, J 6.9), 0.92 (d, 6H, J 6.6)。
【0064】
実施例9 インビトロペトリ皿アッセイにおける、揮発性物質による真菌およびヒト病原菌の阻害
【0065】
Strobel et al., 2001に記載のようにして、寒天片をPDAプレートの中央部から除去して、微生物が増殖し得るようなほぼ同サイズの別々の二区分を作った。M.アルブス培養物の一寒天プラグを一区分上において、プラスチック袋に入れたプレートを用いて10日間増殖させた。10日後、もう一つの区分に種々の病原性真菌を接種し、M.アルブスなしの区分プレートを対照とした。各処理に3プレートを用いた。ペニシリウム・エキスパンスム(Penicillium expansum)、モニリニア・フルクチコラ(Monilinia fructicola)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)および細菌を胞子/細胞懸濁液として適用し、他の病原菌を単一の3または6 mmの菌糸体プラグとして各プレートに適用した。コロニー直径によって測定した病原菌増殖を、3日後に評価した。病原菌の生存能力を評価するために、接種領域の寒天を引き上げてそれを新鮮PDAプレートに移すことによる再単離を、実験の最後に試みた。
【0066】
確認された揮発性M.アルブス化合物が試験微生物を阻害、あるいは、死滅させる相対的能力もまた、表1に示されている。試験溶液を、M.アルブス培養物の気体相に生じる相対的割合で化合物を小瓶に入れることによって調製した。試験混合物を、PDAを含むペトリ皿の中央に置いた前滅菌したマイクロカップ(4×6 mm)中に置いた。非使用時には、混合物を0℃で保存した。試験微生物は3 mm3寒天塊(試験真菌当たり少なくとも3寒天塊)上で新鮮増殖しているのを切り取ったもので、これをマイクロカップから2〜3 cmの位置に置いて、プレートを二重のパラフィルムで包んだ。所定期間の後、寒天塊端からの菌糸体増殖の測定を行った。しかし、細菌およびカンジダ・アルビカンスの場合は、PDAプレートの試験側に線条接種して、接種された寒天プレートのオリジナル領域からの再線条接種によって新たな可視増殖および生存能力を調べた。適切な対照もまた、試験溶液をマイクロカップに入れないことで設定した。
【0067】
各試験微生物のIC50データを得るために、PDAプレート上の空間50 cc当たり3.2〜90 μlの人工的混合物に関する試験を3回反復して行った。個々のクラスの化合物もまた、全混合物の最適濃度で生じる相対量で試験されたが、それは標準ペトリ皿における培養物上の空間50 cc当たり試験混合物60 μlである。例えば、エステルは同定された揮発性物質の44%を占め、空間50 cc当たり26.4 μlで試験され、同定された他のクラスの各化合物にも同手法が用いられた。最後に、各化合物、とくにエステル類のものは、60 μl中で起きる濃度または相対割合で試験した。試験微生物の生存能力は、小寒天塊を無菌的に取り出し、それをPDAプレート上に置いて1〜3日後に増殖を観察することによって調べた。
【0068】
F. ソラニ(F. solani)およびF. オキシスポルム・リコペルシシ(F. oxysporum lycopersici)を除くいずれの病原菌もM.アルブスの存在下では増殖せず(表1)、その増殖は阻害された。3日後に新鮮プレートに移したとき、これら両病原菌はM.アルブスが存在しても生存した。また、M.アルブスの揮発性物質はM.アルブスそれ自体またはその近縁のキシラリア種を殺さなかったが、キシラリア種の増殖は阻害した(表1)。
【0069】
実施例10 揮発性化合物のクラスおよび各揮発性成分の、インビトロアッセイにおける試験
【0070】
それぞれの相対的生物学的活性を決定するために、M.アルブスの自然揮発性物質中の化合物の個々のクラスを評価した。化合物の各クラスをその生じる相対割合で、全60 μl/50 cc(1.2 μl/cc)中でそれの生じるパーセントのレベルで試験した(表5)。これは選択された7試験真菌群を用いて行った。各群の化合物は、試験微生物に対していくらかの阻害活性を有した(表5)。しかし、比較すれば、エステルが他の化合物群のいずれよりもより高い阻害活性を有した(表5)。
【0071】
エステルのクラス中の各化合物を個々に評価した。各エステルの比較試験を表5の条件で行った場合、1-ブタノール、3-メチル、酢酸塩は表5に示すような全エステルの結果をほとんど完全に模した。これは同定されたエステルを合わせた全部の62%を表すことから、0.32 μl/ccのレベルで試験した。さらに、極小の阻害的生物活性はプロピオン酸、2-メチル、3-メチルブチルエステルで示され、ほとんどゼロかゼロの活性しか他の一部のエステルでは見られなかった。エステル類および1-ブタノール、3-メチル-酢酸塩はバイオアッセイ試験では阻害活性を有したが、標準3日間暴露期間下では試験真菌の死はいかなる試験条件下でも認められなかった。試験微生物の死が完全人工的環境および自然のM.アルブスのペトリ皿環境の双方で認められたことから、これは重要な観察である。この結果は、M.アルブス揮発性物質の場合に追加的または相乗的メカニズムが作用していることを強く示唆する。このように、各クラスの化合物が多かれ少なかれ阻害活性を有するが、試験真菌および細菌の死をもたらすには成分の完全混合物が必要である(表1)。
【0072】
M.アルブスの揮発性物質がE. コリを阻害し殺すことができるという事実(表1)を基に、M.アルブスを用いて実験を行って、その気体がE. コリおよび他の糞便微生物などのヒトおよび動物排泄物中に見られる細菌叢を阻害し殺すことができるかどうかを判定した。これら微生物は通常、自然災害や戦争を含む重大危機時に赤痢や他の疾病を引き起こす。可能性として、M.アルブスは、ヒトおよび動物排泄物を浄化するためのフィールド適用に開発利用できることが考えられる。そこで我々の実験に従って、PDAを含むペトリ皿の半分片側上に増殖しているM.アルブスの2週目コロニーを調製した。次いでプレートの別の半分片側に固体ヒト排泄物を線条塗布した(標準微生物学的手法を用いる)。M.アルブスのコロニーの存在しない対照プレートを作成した。23℃で2日間インキュベーションしたところ、albusを含むプレートよりも対照プレートの方に有意に多数の細菌および真菌コロニーが増殖するのが認められた。類似の実験において、M.アルブスを単独でヒト液体排泄物(尿)中でインキュベートしたところ、細菌増殖が盛んな対照(M.アルブスが存在しない)とは照的に細菌増殖が完全に排除された。
【0073】
実施例11 土壌病原菌リゾクトニア・ソラニに対するムスコドル・アルブスのインビボでの活性
【0074】
これらの実験のために、PDAプレート上の一培養物を1Lの増殖媒体(バーミキュライト)に加えることによって、まず増殖媒体にR. ソラニを侵襲させる。この割合は、低いポット間変動でほぼ100%の苗死をもたらす。次に、種々のかたちのムスコドル・アルブスを増殖媒体に加え、それを3インチプラスチックポットに入れる。ポットに約70個のブロッコリーの種子を播いて、トレイに入れて底から給水する。約1週間後に苗を数える。対照群は、R. ソラニのみ、ムスコドル・アルブスのみ、および増殖媒体だけからなる。実験によって、一処理当たり3または4個のポットを完全無作為に割り当てる。
【0075】
10日目PDB液体培養物をミキサーで2,3秒間均質化して、バーミキュライト1L当たり50または200 mlの割合で混ぜた。1L当たり2プレート分の2週目培養物を用いて、上記と同様にして固体寒天培養物処理を行った。充填後ただちにポットに播種した。さらにポット中の揮発性物質の密閉の影響も調べた。すなわち、各処理群で、ポット3個をプラスチック袋で覆ってゴムバンドを用いて密閉し、別のポット3個をそのままにした。袋は3日後に除去した。結果は、高割合(200 ml/Lバーミキュライト)の液体培養物の適用は、PDA上のムスコドル固体培養物と同様に悪変防除に効果的であったことを示す(表2)。植える前にインキュベーション期間がなくてもこれら処理で正常出現割合が得られたので、ムスコドル適用の効果は即時と思われる。低割合の液体培養物は悪変をいくらか減らしたが、効果的ではなかった。プラスチック袋を用いたポット中揮発性物質の密閉は効果を向上させなかった(表2)。
【0076】
実施例12 侵襲された果実の収穫後処理としての、ムスコドル・アルブスの活性
リンゴ(cv Gala)の赤道相当部上に爪で単一傷をつけて、これを3.8 L容プラスチック箱に入ったプラスチックプレートに傷部を上にして置いた。各箱にリンゴ9個を入れ、一処理当たり箱3個を用いた。実験24時間前(前インキュベーション)か実験直前に、ペニシリウム・エキスパンスムを、分子胞子懸濁液(104/ml)として果物の各傷当たり20 μlをピペットで接種した。ムスコドル燻蒸処理には、定着させた140gのライムギ粒を容器に入れてから、それを密閉した。対照は、密閉箱に接種された果実のみを含んだ。これらを室温(19〜22℃)でインキュベートした。7、14および21日後に、感染した果実のパーセントとして疾病を評価した(表3)。前インキュベーション処理したものではリンゴの感染は認められなかったが、ムスコドルに果実を暴露する直前に接種した果実では21日後評価で7%とごく低い感染率が見られた。
【0077】
実施例13 昆虫および線虫に対するムスコドル・アルブスの活性
線虫(Caenorhabditis elegans
モート(周辺凹部)システムを用いたプレート(Worapong et al., 2001)の片側にM.アルブスを、反対側にE. コリ、またはE. コリのついた自由生息線虫をそれぞれ接種した。ムスコドルを接種しない同一プレート群を調製した。5日後、ムスコドルなしのプレートでは線虫の増殖大集団が広がり、これはモートを超えてペトリ皿の反対側まで侵入し始めていた。E. コリは対のプレートで正常コロニー-形態で増殖していた。ムスコドル処理プレートでは、菌糸体がPDA表面を横切るような実質コロニーが形成された。存在した線虫は動きはするが不活発であった。7日までにはムスコドルはPDAの端に達して、E. コリのプレートのモート中および円虫のプレート中に菌糸体を伸ばしていた。ほんの少数の線虫の生存成虫が寒天上に認められたが、その可動性は限られていた。
【0078】
シロイチモンジヨトウ(Spodoptera exigua
M.アルブスを定着させたオートクレーブ処理ライムギ種子の約150グラムを含む小プラスチックビーカー3個をプラスチック箱(約250 in2)に入れた。対照の箱を室温で真菌ビーカー3個なしで準備した。両箱は、リゾクトニア・ソラニの小プラグを中央に置いたPDAのペトリ皿を、バイオアッセイインジケーターとして含んだ。人工餌上に重なっていたシロイチモンジヨトウ卵を含む96穴マイクロタイタープレートを各箱に入れた。2日後、ムスコドルを含まない箱の卵が孵化し始めてR. ソラニが新菌糸体を形成した。ヨトウムシ卵はM.アルブスのライムギ培養物を含む箱では孵化しなかった。さらに、R. ソラニの増殖は抑制された。5日後、非処理箱内のヨトウムシは第二から第三齢に達した。
【0079】
対のマイクロタイタープレートを、人工餌で3日間増殖させたヨトウムシ幼虫とともに箱に入れた。非処理対照と比較してムスコドル箱内のプレートでは摂食が止まって矮小に留まった。5日後、処理したプレート中のヨトウムシは死滅した。
【0080】
コーンルートワーム甲虫(Diabrotica undecimpunctata
対のマイクロタイタープレートを、人工餌上に重なっていたコーンルートワーム卵とともに箱に入れた。試験箱にプレートを入れた時に卵はちょうど孵化し始めた。卵のほぼ半数がムスコドル箱中で孵化した。残りは孵化せず、新生幼虫はすべて2日内に死んだ。非処理対照箱内のマイクロタイタープレートでは、1週間後に穴当たり3〜6個の第三齢地虫が認められるような正常な侵襲が起きていた。
【0081】
実施例14 黒穂病菌に侵襲された大麦種子のムスコドル・アルブスによる処理
コントロールされ反復実験において、ウスチラゴ・ホルデイ(Ustilago hordei)(被覆黒穂病菌、表6)で侵襲された大麦種子25個を二つの寒天プレートのそれぞれにM.アルブスの気体とともに4日間置いた後、温室内の試験ポットに植えた。15週間後、植物を採取して種子穂先の黒穂病を調べた。M.アルブス気体に暴露しておいた2群の植物でこの疾病に対する100%の抑制が認められ、気体処理によるいかなる阻害や損傷の兆候もなかった。同数の対照植物(非処理およびU. ホルデイ侵襲種子)が本実験ではそれぞれ50%および41%の感染種子穂先を有した。また、予想されたように、非侵襲種子からは疾病の穀粒を有しない植物が生育した。
【0082】
結果および考察
ムスコドル・アルブス、gen. et sp. nov.、は子嚢菌網群キシラリアに分子類縁を有する不完全菌網(無胞子不完全菌目)内生菌種である。この真菌は、その18S rDNA(2089 bp)がこのグループの代表的菌群と96〜98%相同であるためにキシラリア科と関係がある。さらに、M.アルブスのITS1、5.8S、およびITS2配列(652 bp)は、X. アルブスクラ(X. arbuscula)、X. ロンギペス(X. longipes)、およびX. マリ(X. mali)を含むいくつかのキシラリア種と89〜92%レベルで近似関係を示した。18S rDNAおよびITS1 & 2 5.8 S rDNAの双方は特有で、したがって、ムスコドルは分類学上、別個の属および種と考えられる。(Worapong et al., 2001)
【0083】
M.アルブスの揮発性物質はまた、病原性真菌を接種した植物に対して試験された。揮発性物質それ自体は、試験された高等植物に無害であった。しかし、ウスチラゴ・ホルデイを接種した種子の処理に揮発性物質を用いることによって、オオムギの被覆黒穂病菌を100%抑制することを示すことが可能であった。このように、揮発性抗生物質産生真菌の潜在的実用上の重要性のために、このグループの他の生物が天然に存在するかどうかを判定することは重要と思われた。
【0084】
内生真菌の単離のための標準的手法を用いて、さらにM.アルブスの揮発性物質を培養における選択ツールとして用いることによって、少なくともさらに二つの揮発性抗生物質産生性内生菌を単離した。これら生物は、オーストラリア原産の二つの別の樹木種から得られた。これら二つの真菌培養物は、培養中に子実体を形成しなかったこと、胞子を形成しなかったこと、カビ臭を有したこと、および多くの微生物に対して阻害的または致死的であったことなど、M.アルブスと類似性を有した。しかし同様に、これら生物は、M.アルブスとは異なる培養的、化学的および分子生物学的な性質を有した。
【0085】
一生物の分子的特徴はそれに特有で、とくに重要な構造(胞子形成)や他の性質が不明な場合には、分類に役立て得ることはよく証明されてきた。したがって、形態学的データと合わせた系統発生的特徴マッピング法は、真菌の同定を助け得る。通常、rDNA遺伝子はその高保存性から、分類学目的の標的とされる(Bruns et al., 1991; Guarro et al., 1999およびMitchell et al., 1995)。その18S rDNAに加えて、ITS1&2配列もまた保存配列である。M.ロセウス「A3-5」(2055 bp)の18S rDNAの部分配列をBLASTN 2.2.1の下でGenBankのデータと検索した結果、部位1-981、1319-2084からのムスコドル・アルブス(AF324337)の2089 bpとの100%相似性、キシラリア・ポリモルファ(Xylaria polymorpha)(AB014043)の982 bpおよびヒポキシロン・フラギホルム(ABO14046)との98%相似性、ならびにロセリニア・ネカトリキス(AB014044)の982 bpとの97%相似性が示された。加えて、単離株「A-10」は、その18S rDNA(2051 bp)が単離株「A3-5」のそれと99%配列類似性を有する。
【0086】
一方、M.ロセウス「A3-5」のITS 1&2および5.8S rDNA配列の比較分析によって、ムスコドル・アルブス(AF324337)、X. アルブスクラ CBS 452.63(AF163029)およびCBS 454.63(AF163028)、X. エンテロロイカ(X. enteroleuca) CBS 148.(AF163033)、X. ロンギペス CBS 148.73(AF163038)、X. マリ CBS 385.35(AF163040)、X. コルヌ-ダマ(X. cornu-damae) CBS 724.69(AF163031)のITS 1&2とそれぞれ、99、91、91、91、90および89%の相似性が認められた。部分的18S rDNAまたはITS 1&2および5.8S rDNA配列のいずれでも全同一性は見出されなかった。
【0087】
18S配列に基づく系統発生的分析によって、M.ロセウスはムスコドル・アルブス(AF324337)との姉妹グループであることが100複製からのロバストブートストラップ信頼度測定100%で示された。加えて、最大節約性分析によって、M.アルブスとM.ロセウスの双方が、アンフィシャエリア科(Amphishaeriaceae)の三つの代表属であるペスタロスファエリア・ハンセニイ(AF242846)、ジスコストロマ・トリセルラル(AF346546)およびアンフィシャエリア種(AF346545)よりもキシラリア種、ロセリニア・ネカトリキス(AB014044)およびポロニア・プンクタタ(AF064052)などのキシラリア科により近いことが100複製からのブートストラップ測定信頼度68%で示された(Felsenstein, 1985)。この結果はまた、30の同等に最節約性の18S rDNA分岐図の厳正コンセンサス発見的検索系統樹によっても支持された。したがって、M.ロセウスは、キシラリア科キシラリア目に入れられるべきである。さらに、比較の結果、M.ロセウス「A3-5」の18S rDNAならびにITS 1&2および5.8S rDNAの双方がM.アルブスと高相似性を有する(Worapong et al., 2001)。また、分子生物学的データ(18S rDNA)は、M.ロセウスの単離株「A3-5」および「A-10」の双方は近縁で事実上同一の生物であると考えるべきであると示唆している。さらに、分子生物学的データは、この提案された新規真菌種M.ロセウスからの以前に記載されたM.アルブスの区分に関する考えのいくらかの支持を提供する。
【0088】
M.ロセウスの分子生物学はこの生物がキシラリア科グループに分類されるのが最もふさわしいことを示すが、M.アルブスとの18S rDNA近縁性も示す。しかし、そのような近縁性が限定されたr-DNA分子レベルであるために、二つの真菌は同一であるという主張もあり得る。それにもかかわらず、M.アルブスおよびM.ロセウスの双方における他の化学的性質を調べると、異なることが見出された。さように、M.アルブスとM.ロセウスの双方はともにカビ臭を生ずる生化学的能力があり、これは強力な抗生物質的性質をもたらすことが示されているが、これら二つの生物によって産生される多くの揮発性物質はGC/MSで測定されたように同一であった。真菌が多様な有臭物質を確かに産生することはしばしば指摘されてきたが、ムスコドル種のすばらしい抗生的性質は特有のもののようである(Bjurman et al., 1992; Rapoir et al., 2000およびSchnurer et al., 1999)。しかし、これら二真菌の揮発性物質もまた、異なる化合物を含んでいたrobel et al., 2001)。例えば,M.アルブスは2-ノナノン、カリオフィレンおよび酢酸2-フェニルエチルエステルを産生するが、これら化合物はいずれのM.ロセウスの単離株でも検出されなかった。一方、M.ロセウスの両単離株は、2-ブテノン酸、エチルエステル、1,2,4,トリメチルベンゼンおよび2,3ノナジエンなどのM.アルブス揮発性物質において検出されない化合物を産生した。この結果から、M.アルブスは分類学的にM.ロセウスとは別のものであると示唆するこの報告に与えられた課題へのいくらかの化学的支持が得られる。
【0089】
M.ロセウス(単離株「A3-5」および「A-10」)のより古典的な他の性質をも調べて、M.アルブスと比較した。M.ロセウスのこれら単離株は、増殖の遅い、密な、薄バラ色の菌糸体を試験した全培地上で産生した。これは、白っぽい菌糸体を全対応試験培地上で産生するM.アルブスと対照的である(Worapong et al., 2001)。宿主植物材料すなわちカーネーション葉を含むものを含むいかなる培地でも胞子は形成されなかった。菌糸の直径は多様(0.8-3.6 μm)で、しばしば絡み合ってより複雑な構造、さらに菌糸コイルまでも形成した。これら菌糸は一般にM.アルブスのものよりも大きかった。M.ロセウスの菌糸体は一般にM.アルブスよりもより複雑な絡み合った構造を培養中に形成する。事実、培養中の真菌の菌糸コイルの出現は我々の経験ではよく見られるものではないが、これら構造物はM.ロセウス培養物でしばしば見られた。
【0090】
最後に、M.ロセウスに関しての最良の保存条件は濾紙上で乾燥した後に-70℃に置くことであったことは特筆すべきである。これらの条件下で、真菌は1.5年以上生存し続ける。また、この真菌は4℃で無菌水中で保存し得たが、6ヶ月後の生存生物回収率はより低かった。また、-70℃で15%グリセロール中での保存は、生物生存能力を効果的に維持した。
【0091】
以上の考察および実施例は技術を説明するためのみを意図する。当業者に明らかなように、本発明の精神および範囲に反することなく上記には多様な修飾が可能である。
【0092】
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【0098】
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【0099】
【表1】

【0100】
Legend: *人工的混合物中で用いた明確に同定された各化合物の量は、GC/MS分析で得られた化合物の電子イオン化クロスセクション(総面積の%)を適用することによって得られた。人工混合物は、PDAを含む試験ペトリ皿の中央に置かれた前滅菌したマイクロカップ(4×6 mm)中にそれらを置くことによって続いて試験された。新鮮増殖している試験微生物(あるいは線条接種された微生物)を含む寒天プラグを、中央マイクロカップから2〜3 cmに位置させた。次いで、プレートを二重のパラフィルムで包み、23℃で2日またはそれ以上インキュベートした。線状菌糸体増殖の測定を、接種物寒天プラグの端から菌糸コロニーの端まで行った。#:本実験では測定されなかった。
【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
*:標準化合物または分析対象化合物のいずれのスペクトルにも分子イオンピークが観察されなかった。#:この成分のスペクトルおよび保持時間が観察され、物質はNISTデータベース中の最もそれらしい化合物と一致するが、保持時間またはMSのいずれによっても適切な同定標準化合物の使用によるデータの確認はされていない。これらの化合物はバイオアッセイ試験における人工的混合物には入れなかった。
【0105】
【表5】

【0106】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムスコドル・アルブスの単離された培養物又はその突然変異体。
【請求項2】
ムスコドル・ロセウスの単離された培養物又はその突然変異体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の単離された培養物によって産生される揮発性組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の単離された培養物又は担体を含む組成物。
【請求項5】
前記担体が農業的に許容される担体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
殺真菌剤、殺昆虫剤、抗微生物剤、殺菌剤、殺線虫剤および食物保存剤からなる群から選択される農業用組成物の農業的有効量をさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
殺真菌剤、殺昆虫剤、抗微生物剤、殺菌剤、殺線虫剤および食物保存剤からなる群から選択される農業用揮発性化合物の農業的有効量をさらに含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物の増殖を阻害する方法であって、請求項1または2に記載の培養物の有効量を上記生物と接触させることを含む上記方法。
【請求項9】
真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物の増殖を阻害する方法であって、請求項3に記載の揮発性組成物の有効量を上記生物と接触させることを含む上記方法。
【請求項10】
果実、植物体、種子、穀粒または植物体周囲土壌を、真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物による侵襲から防除する方法、またはそれを処理する方法であって、請求項1または2に記載の培養物の有効量を上記生物と接触させることを含む上記方法。
【請求項11】
果実、植物体、種子、穀粒または植物体周囲土壌を、真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物による侵襲から防除する方法、またはそれを処理する方法であって、請求項3に記載の揮発性組成物の有効量を上記生物と接触させることを含む上記方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の培養物の有効量を、ヒトまたは動物の排泄物と接触させることを含む、ヒトまたは動物の排泄物の処理方法。
【請求項13】
請求項3に記載の揮発性組成物の有効量を生物と接触させることを含む、ヒトまたは動物の排泄物の処理方法。
【請求項14】
請求項1または2に記載の培養物の有効量を建築材料と接触させることを含む、建築材料を毒性カビの侵襲から防除する方法、またはそれを処理する方法。
【請求項15】
請求項3に記載の揮発性組成物の有効量を生物と接触させることを含む、建築材料を毒性カビの侵襲から防除する方法、またはそれを処理する方法。
【請求項16】
表4に記載の成分を含む組成物。
【請求項17】
殺真菌剤、殺昆虫剤、抗微生物剤、殺菌剤、殺線虫剤および食物保存剤からなる群から選択される農業用組成物の有効量を、果実、植物体、種子、穀粒または植物体周囲土壌と接触させることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
殺真菌剤、殺昆虫剤、抗微生物剤、殺菌剤、殺線虫剤および食物保存剤からなる群から選択される農業用組成物の有効量を、果実、植物体、種子、穀粒または植物体周囲土壌と接触させることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物の増殖を阻害する方法であって、請求項12〜15のいずれか1項に記載の組成物の有効量を上記生物と接触させることを含む上記方法。
【請求項20】
果実、植物体、種子、穀粒または植物体周囲土壌を、真菌、細菌、微生物、線虫および昆虫からなる群から選択される生物による侵襲から防除する方法、またはそれを処理する方法であって、請求項17〜19のいずれか1項に記載の組成物の有効量を上記生物と接触させることを含む上記方法。
【請求項21】
新規ムスコドル真菌の同定方法であって、スクリーニングされる真菌の有効量を、培養条件下でムスコドル・アルブスまたはムスコドル・ロセウスの揮発性物質に接触させ、そしてムスコドル・アルブスまたはムスコドル・ロセウスの揮発性物質に対して抵抗性である真菌を選択することによって新規ムスコドル真菌を同定することを含む上記同定方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法によって選択される単離されたムスコドル真菌。
【請求項23】
請求項1または2に記載の単離されたムスコドルを培養し、そして増殖しているムスコドルによって産生される揮発性組成物を回収することを含む、揮発性組成物の取得方法。
【請求項24】
単離されたムスコドル真菌。

【公開番号】特開2010−77156(P2010−77156A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−276630(P2009−276630)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【分割の表示】特願2002−580717(P2002−580717)の分割
【原出願日】平成14年4月11日(2002.4.11)
【出願人】(503379520)
【Fターム(参考)】