説明

新規化合物

【課題】有機溶剤に対して溶解性の優れたジオキサジン色素を提供すること。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物。


〔式(I)において、R1〜R4は、相互に独立に、水素原子又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示し(但し、R1〜R4のうち少なくとも1つは、置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基である。)、R5及びR6は、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基又はニトロ基を示し、Zは、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はフェノキシ基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、印刷インク、インクジェットインク、プラスチック着色材料、エレクトロルミネッセンス材料、カラーフィルタ用着色組成物、電気泳動表示素子用着色組成物等に好適に使用できる新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオキサジン系色素は、主として赤色、紫色ないし青色の色調を有し、該色素の一部は、耐熱性、耐光性の良好な顔料又は染料として知られている。特に、トリフェノジオキサジン母核にインドール環が縮環した化学構造である、8,18−ジクロロ−5,15−ジエチル−5,15−ジヒドロジインドロ[3,2−b:3’,2’−m]トリフェノジオキサジン骨格を有するものは、有機顔料としてはC.I.ピグメントバイオレット23が、有機染料としてはC.I.ダイレクトブルー108が実用に供されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、C.I.ピグメントバイオレット23は、良好な耐熱性や耐光性を示すが、顔料である故に溶剤に対する溶解性が低く、種々の用途に用いるためには煩雑な顔料分散工程を経る必要があった。そして、色相の点においては、染料の鮮明さには及ばなかった。また、C.I.ダイレクトブルー108は、C.I.ピグメントバイオレット23をスルホン化した化学構造であるが、有機溶剤に難溶であり、有機溶剤系の塗料やインキ、プラスチック着色剤として用いるためには不適切であった。更に、水中でのモル吸光係数が低く、着色力の点でも不十分であった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−16038号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.,87,2578−2581(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、有機溶剤系の塗料や各種インク、プラスチック着色材料、エレクトロルミネッセンス材料、カラーフィルタ用着色組成物、電気泳動表示素子用着色組成物等として用いることのできる、有機溶剤に対して溶解性の優れたジオキサジン色素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記式(I)で表される化合物が上記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記式(I)で表される化合物を提供するものである。
【0009】
【化1】

【0010】
〔式(I)において、
1〜R4は、相互に独立に、水素原子又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示し(但し、R1〜R4のうち少なくとも1つは、置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基である。)、
5及びR6は、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基又はニトロ基を示し、
Zは、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はフェノキシ基を示す。〕
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、有機溶剤に対する溶解性が高い色素化合物であるため、塗料、印刷インク、インクジェットインク、プラスチック着色材料、エレクトロルミネッセンス材料、カラーフィルタ用着色組成物、電気泳動表示素子用着色組成物等に好適に用いることができる。また、本発明の化合物は、分解温度が高いため、耐熱性が要求される用途に特に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明において使用する式(I)中の記号の定義を説明する。
1〜R4は、相互に独立に、水素原子又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示すが、アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、中でも、有機溶剤に対する溶解性の観点から、直鎖状であることが好ましい。
また、該アルキル基の置換基としては、例えば、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数3〜8のアルコキシ基等を挙げることができる。中でも、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数3〜8のアルコキシ基が好ましく、特に炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましい。
1〜R4が非置換アルキル基の場合、炭素数は1〜20であるが、有機溶剤に対する溶解性、耐熱性の観点から、炭素数は1〜18が好ましく、2〜18がより好ましく、特に6〜18が好ましい。
他方、R1〜R4が置換アルキル基である場合、アルキル基の炭素数は1〜20であるが、1〜10が好ましく、特に1〜6が好ましい。この場合、置換アルキル基の総炭素数は、2〜20が好ましく、特に5〜18が好ましい。
これらのうち、R1〜R4としては、有機溶剤に対する溶解性、耐熱性の観点から、非置換の炭素数1〜20の直鎖状アルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基を有する炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
なお、R1〜R4のうち少なくとも1つは、置換若又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基であるが、R1〜R4のうち2個以上が置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましい。
【0013】
5及びR6は、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基又はニトロ基を示すが、中でも、水素原子、アルキル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。アルキル基の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜12がより好ましく、またアルコキシ基の炭素数は1〜8が好ましく、1〜4がより好ましい。なお、アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0014】
Zは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はフェノキシ基を示すが、中でも、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基の炭素数としては、1〜8が好ましく、特に1〜4が好ましい。なお、アルコキシ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0015】
式(I)で表される化合物の好適な具体例を下記表1及び2に示すが、これらに限定されるものではない。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
次に、本発明に係る化合物の製造方法について好適な実施形態に基づいて説明する。
式(I)で表される化合物は種々の方法で製造することができるが、例えば、下記スキームを経て製造することが可能である。
【0019】
【化2】

【0020】
(上記スキーム中、Rは置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示し、Xは求核置換反応における脱離基を示し、R5、R6及びZは前記と同義である。)
【0021】
上記スキームにおいては、化合物Aを塩基存在下にてRXと反応させて、化合物AをN−アルキル化し、化合物Bを得ることができる。
【0022】
化合物Aとしては、例えば、Zがエトキシ基であり、かつR5及びR6が水素原子である化合物(C.I.ピグメントバイオレット37)が、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社より市販されているが、公知の方法により合成してもよい。
RXにおいて、Xで示される脱離基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基等を挙げることができる。
上記スキームにおけるRXの使用量は、化合物Aに対して通常4倍当量であるが、例えば、化合物A中の2つのアセトアミド基をN−アルキル化する場合、化合物Aに対して通常2倍当量使用すればよい。このように、化合物AをN−アルキル化すべきモル数に応じて、RXの使用量を適宜選択することが可能である。
【0023】
塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、カリウムt−ブトキシド、トリエチルアミン、DBU、水素化ナトリウム等を挙げることができる。
塩基の使用量は、N−アルキル化により脱離するHXに対して通常1当量以上であるが、好ましくは2倍当量である。
【0024】
また、上記反応は、溶剤中で行うことが好ましく、該溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド、N−メチルピロリドン等のピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン等のイミダゾリジノン、アセトニトリル等のニトリル、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール、エタノール等のアルコールを挙げることができる。これら溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
溶媒の使用量は、化合物Aの質量に対して、好ましくは2〜20(w/V)%、より好ましくは5〜10(w/V)%となる量である。
【0025】
反応温度は、好ましくは0〜150℃、より好ましくは20〜100℃である。特に好ましくは20℃〜50℃である。また、反応時間は、好ましくは1〜24時間、より好ましくは3〜6時間である。
反応終了後、反応液を、ろ過、洗浄、再沈殿、再結晶、遠心分離、クロマトグラフィー等の通常の精製手段を適宜組み合わせて、式(I)で表わされる化合物を単離することができる。
【0026】
このようにして得られた本発明の化合物は、シクロヘキサノン等のケトンを始めとする種々の有機溶媒に可溶であり、またTG−DTA分析における5%質量減少温度が300℃以上という優れた耐熱性を有することができる。
【0027】
したがって、本発明の化合物を塗料、印刷インク、インクジェットインク、カラーフィルタ用着色組成物等として好適に用いることが可能であり、その場合、有機溶剤、高分子化合物、退色防止剤、硬化モノマー、光重合開始剤等の公知の成分と組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
上記表2中の化合物(14)の合成
カリウムt−ブトキシド1.96g(17.5mmol)、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製のC.I.ピグメントバイオレット37(以下、「PV−37」と称する。)1.63g(2.2mmol)及びジメチルホルムアミド20mLを混合し室温で2時間攪拌し、更に1−ブロモドデカン1.10g(4.4mmol)を加え、5時間攪拌した。その後、セライトろ過を行い、ろ液を水300mLにより再沈した。得られた沈殿物をヘキサンで洗浄し、紫色の固体1.2gを得た。得られた化合物の1H−NMR(溶剤:重水素化クロロホルム)スペクトルは以下の通りであり、目的の化合物であることが確認された。
【0030】
1H−NMR:δ7.95−7.44(m、10H)、7.00(s、2H)、6.66(s、2H)、3.98(t、4H)、3.20−3.10(m、4H)、2.02(m、6H)、1.59−1.29(m、48H)、1.00(t、6H)
【0031】
上記で得られた化合物を1−メトキシ−2−プロピルアセテートに溶解し、濃度約0.0010質量%の溶液を調製し、吸収スペクトルを測定した。その結果、λmax=562nm、ε=50000mol-1cm-1Lであった。
また、得られた化合物は、シクロヘキサノンに10質量%以上溶解した。
また、得られた化合物の熱重量−示差熱同時測定分析(以下、「TG−DTA」と称する。)の結果、5%質量減少温度は、303℃であった。
【0032】
実施例2
上記表2中の化合物(16)の合成
カリウムt−ブトキシド1.96g(17.5mmol)、PV−37を1.63g(2.2mmol)及びジメチルホルムアミド20mLを混合し室温で2時間攪拌し、更に1−ブロモシクロヘキシルメタン0.78g(4.4mmol)を加え、5時間攪拌した。その後、セライトろ過を行い、ろ液を水300mL中にて再沈した。得られた沈殿物をヘキサンで洗浄し、紫色の固体1.2gを得た。得られた化合物の1H−NMR(溶剤:重水素化クロロホルム)スペクトルは以下の通りであり、目的の化合物であることが確認された。
【0033】
1H−NMR:δ7.95−7.34(m、10H)、6.95(s、2H)、6.56(s、2H)、3.97(t、4H)、3.20−3.10(m、4H)、2.05(m、6H)、1.59−1.18(m、24H)、0.99(t、6H)
【0034】
上記で得られた化合物を1−メトキシ−2−プロピルアセテートに溶解し、濃度約0.0010質量%の溶液を調製し、吸収スペクトルを測定した。その結果、λmax=565nm、ε=55000mol-1cm-1Lであった。
また、得られた化合物は、シクロヘキサノンに10質量%以上溶解した。
また、得られた化合物のTG−DTAの結果、5%質量減少温度は、310℃であった。
【0035】
実施例3
上記表2中の化合物(13)の合成
カリウムt−ブトキシド1.96g(17.5mmol)、PV−37を1.63g(2.2mmol)及びジメチルホルムアミド20mLを混合し室温で2時間攪拌し、更に1−ブロモへキサン0.73g(4.4mmol)を加え、5時間攪拌した。その後、セライトろ過を行い、ろ液を水300mL中にて再沈した。得られた沈殿物をヘキサンで洗浄し、紫色の固体1.3gを得た。得られた化合物の1H−NMR(溶剤:重水素化クロロホルム)スペクトルは以下の通りであり、目的の化合物であることが確認された。
【0036】
1H−NMR:δ7.95−7.44(m、10H)、6.98(s、2H)、6.56(s、2H)、3.97(t、4H)、3.20−3.10(m、4H)、1.98(m、6H)、1.59−1.28(m、24H)、0.99(t、6H)
【0037】
上記で得られた化合物を1−メトキシ−2−プロピルアセテートに溶解し、濃度約0.0010質量%の溶液を調製し、吸収スペクトルを測定した。その結果、λmax=558nm、ε=60000mol-1cm-1Lであった。
また、得られた化合物は、シクロヘキサノンに10質量%以上溶解した。
また、得られた化合物のTG−DTAの結果、5%質量減少温度は、315℃であった。
【0038】
実施例4
上記表1中の化合物(4)の合成
水素化ナトリウム0.3g(7.5mmol)、PV−37を1.63g(2.2mmol)及びジメチルホルムアミド20mLを混合し室温で2時間攪拌し、更に1−ブロモドデカン2.19g(8.8mmol)を加え、3時間攪拌した。その後、セライトろ過を行い、ろ液を水300mL中にて再沈した。得られた沈殿物をヘキサンで洗浄し、紫色の固体1.5gを得た。得られた化合物の1H−NMR(溶剤:重水素化クロロホルム)スペクトルは以下の通りであり、目的の化合物であることが確認された。
【0039】
1H−NMR:δ7.95−7.44(m、10H)、6.98(s、2H)、6.56(s、2H)、3.97(t、4H)、3.20−3.10(m、4H)、1.98(m、6H)、1.59−1.28(m、96H)、0.99(t、6H)
【0040】
上記で得られた化合物を1−メトキシ−2−プロピルアセテートに溶解し、濃度約0.0010質量%の溶液を調製し、吸収スペクトルを測定した。その結果、λmax=542nm、ε=50000mol-1cm-1Lであった。
また、得られた化合物は、シクロヘキサノンに10質量%以上溶解した。
また、得られた化合物のTG−DTAの結果、5%質量減少温度は、310℃であった。
【0041】
比較例
PV−37を1−メトキシ−2−プロピルアセテートに溶解し、濃度約0.0010質量%の溶液を調製し、吸収スペクトルを測定した。その結果、562nmにおいてε=600mol-1cm-1Lであった。
また、PV−37は、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、シクロヘキサノンのいずれにも、0.1質量%すら溶解しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物。
【化1】

〔式(I)において、
1〜R4は、相互に独立に、水素原子又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20のアルキル基を示し(但し、R1〜R4のうち少なくとも1つは、置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基である。)、
5及びR6は、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメチル基又はニトロ基を示し、
Zは、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はフェノキシ基を示す。〕
【請求項2】
前記R1〜R4のうち少なくとも1つは、非置換の炭素数1〜20の直鎖状アルキル基であるか、又は炭素数3〜8のシクロアルキル基で置換された炭素数1〜20のアルキル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記Zは炭素数1〜8のアルコキシ基であり、前記R5及びR6は水素原子である、請求項1又は2に記載の化合物。

【公開番号】特開2011−252133(P2011−252133A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128934(P2010−128934)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】