説明

新規植物成分およびそれを含有する植物成長阻害剤

【課題】環境や人体に対して安全性の高い植物成長阻害剤を提供すること。
【解決手段】タイワンレンギョウ溶媒抽出、精製して単離されるポリガラシック酸−3−グルコピラノシド−28−〔ラムノピラノシル−(1→3)−キシロピラノシル−(1→4)−ラムノピラノシル−(1→2)アラビノピラノシド〕を有効成分として、上記課題を解決する植物成長阻害剤が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、タイワンレンギョウ(Duranta repense)から抽出される新規配糖体およびそれを有効成分として含有する植物成長阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】農耕地等においては雑草害を回避するために、現在では多くの合成除草剤が使用されている。また、公園等の緑地においては適切な植生管理を行うために、やはり多くの合成化合物が植物成長調節剤として投入されている。これらの化合物を環境中に投入する際には、乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、安定剤などの合成化合物を添加し、乳剤、油剤、水和剤、粉剤、水溶剤などの製剤として使用されている。
【0003】これらの製剤は、合成化合物の混合物であるため一般に疎水性が高く、自然環境中では分解されにくい。また、農薬等の疎水性の高い化合物は、人体においては特定の臓器に蓄積して障害を引き起こしやすいとされている。近年、環境や人体に対してより安全性の高い農業用資材が求められていることから、農薬も疎水性の低い化合物を有効成分とする製剤が市場に出回るようになってきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明では、強い植物成長阻害作用を持っているとされるタイワンレンギョウ(Duranta repense)を材料として用い、植物体内に存在している植物成長阻害物質を単離・精製し、その化学構造および生物活性を明らかにすることによって、新規の化学構造を持った植物成長阻害剤を提供する。本発明では、得られた植物成長阻害物質を用いて、あるいは市販の農薬と混合することによって、環境や人体に対して安全性の高い植物成長阻害剤を提供することを目的としている。
【0005】
【発明が解決するための手段】熱帯や亜熱帯地方を中心に生育しているタイワンレンギョウは、我が国においても観賞用植物あるいは庭木、生垣、街路樹として利用されている。タイワンレンギョウの葉には植物の生育を抑制する成分が含まれていることから、東南アジア諸国ではタイワンレンギョウの葉を土壌に播くことにより雑草を防除しているという。
【0006】本発明者等は、タイワンレンギョウに含まれる植物成長阻害作用の原因物質を解明すべく、鋭意研究を進めた結果、タイワンレンギョウの抽出物からその原因物質を単離することに成功し、さらにその原因物質の化学構造は下記式(I)で表される新規化合物ポリガラシック酸−3−グルコピラノシド−28−〔ラムノピラノシル−(1→3)−キシロピラノシル−(1→4)−ラムノピラノシル−(1→2)アラビノピラノシド〕であり、このものが多くの植物に対して優れた成長阻害作用を示すことを見出し、本発明を完成させたものである。


【0007】本発明の式(I)の化合物は、文献未載の新規化合物であり、カラシナ、レタス、アオゲイトウ等を指標とする各種植物の成長を約50〜200μMで50%阻害する植物成長阻害活性を有するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の式(I)で示される化合物は、例えばクマツヅラ科の植物であるタイワンレンギョウの葉の乾燥粉末から得ることができる。タイワンレンギョウの葉をメタノールあるいは水とメタノールの混液等で抽出し、溶媒を留去後、これを水に懸濁して酢酸エチルと分配し、水画分は水和したn−ブタノールと分配し、n−ブタノール画分は活性炭、シリカゲル、化学修飾型シリカゲル、アルミナ、セルロースを担体としてカラムクロマトグラフィー等により分画して本発明の化合物を得ることができる。
【0009】本発明の式(I)で示される化合物は、旋光度[α](MeOH)=4.5゜(c1.37)、融点223〜225℃の理化学的性質を有する。
【0010】また赤外線吸収スペクトルUmax(KBr)cm−1は次のとおりである。
3437,2933,1736,1720,1638,1047
【0011】精製された化合物の構造は、通常の手法、例えば、各種核磁気共鳴(NMR)スペクトル(H−NMR,13C−NMR,DEPT,13−1HCOSY,H−H COSY,HMBC,HSQC,COLOC,NOESY,ROESY,NOE差スペクトル、一次元および二次元HOHAHA,J分解スペクトル)および質量分析法(FAB−MS)により決定できる。本発明の式(I)で示される化合物の13C−NMRスペクトルのデータを表1に示す。
【0012】
【表1】




【0013】本発明の式(I)で示される化合物の植物成長阻害剤として使用する場合は、対象とする植物を限定しない。例えば、ノビエ(タイヌビエの総称)、コナギ、アオビユ、アオゲイトウ、エノコログサ等の水田、畑地、樹園地、湿地等の発生する一年生草および多年生草の防除を目的として使用することができる。
【0014】本発明の式(I)で示される化合物は、出芽前及び出芽後にある植物に対して優れた成長抑制作用を示すことから、有用植物の植え付け予定地に予め処理するとか有用植物の植え付け後(有用植物が樹園地の如く既に定植されている場合を含む)雑草の発生前期から生育期に処理することにより、本発明植物成長阻害剤の有する特徴ある生理活性を効果的に発現させることができる。しかし本発明植物成長阻害剤はこのような態様においてのみ使用されねばならないというものではなく、例えば本発明植物成長阻害剤は水田用除草剤としても使用することができるばかりでなく、一般雑草の成長阻害剤としても使用することができ、例えば刈り取り跡、休耕田畑、畦畔、農道、水路、牧草造成地、墓地、公園、道路、運動場、建物の周辺の空き地、開墾地、線路、森林等の一般雑草の防除の為に使用することもできる。この場合、本発明の式(I)で示される化合物の処理時期は、雑草の生育始期に限定されるものではなく、生育期にある雑草を防除することが可能である。
【0015】本発明の式(I)で示される化合物を植物成長阻害剤として使用する場合、上記の方法で精製された化合物(式1)に水に溶解して使用しても良いが、一般的には適当な液体担体に溶解若しくは分散させ、または適当な粉末担体と混合若しくは吸着させ、さらに所望の場合は、これらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、安定剤などを添加し、乳剤、油剤、水和剤、粉剤、水溶剤などに製剤して使用することができる。
【0016】有効成分の濃度は、一般に乳剤、油剤、水和剤では1〜20%が適当であり、水和剤、粉剤では2〜40%が適当である。ただし、使用目的によってこれらの濃度は適宜変更することができる。また、乳剤、水和剤、水溶剤は使用に際して水で10〜1000倍に希釈して使用する。
【0017】製剤に使用する液体担体として、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール類)などの溶剤が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用する。
【0018】また、粉末担体としては、タルク、カオリン、ベントナイト、ゼオライト、消石灰、珪藻土、酸性白土のような鉱物質粉末、さらにアルミナ、シリカゲル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用する。
【0019】さらに、展着剤、乳化剤、浸透剤、分散剤、可溶化剤などとして界面活性剤を使用することができ、この場合には、高級アルコールの硫酸エステル、高級脂肪酸エステル、アルキルアリールスルホン酸エステル、アルキレンオキシド系界面活性剤などが用いられる。
【0020】本発明の式(I)で示される化合物を有効成分とする植物成長阻害剤は、各種植物の成長阻害若しくは枯殺するために、そのまま又は水等で適宜希釈し、若しくは懸濁させた形で、成長阻害若しくは枯殺に有効な量を、当該植物に、又は当該植物の発生若しくは生育が好ましくない場所において、茎葉または土壌に処理して使用する。
【0021】本発明の式(I)で示される化合物を有効成分とする植物成長阻害剤の使用量は、種々の因子、例えば目的、対象植物、雑草又は作物の発生/生育状況、植物の発育傾向、天候、環境条件、剤型、施用方法、施用場所、施用時期等により変動するが、有効成分化合物の施用量を目的に応じて適宜選択すればよい。
【0022】本発明の(I)で示される化合物を有効成分とする植物成長阻害剤を更に防除対象草種、防除適期の拡大のために、あるいは薬量の低減をはかる目的で、他の除草剤、植物成長調節剤などを配合して使用することも可能である。
【0023】
【実施例】以下に本発明の代表的な実施例を示すが、本発明はこれら実施例にその技術的範囲を限定するものではない。
【0024】実施例1.本発明の式(I)で示される化合物の精製タイワンレンギョウの乾燥した葉200gをメタノールにて反復抽出した後、得られた抽出物をロータリーエバポレータを用いてメタノールを留去するとともに濃縮、乾固し、これを水に懸濁した。懸濁液のpHを2規定塩酸にて2.5とし、これを酢酸エチルと分配した。水層はさらに水和したn−ブタノールと分配し、n−ブタノール画分を上記同様に濃縮・乾固した後、再び水に懸濁した。
【0025】水に懸濁したn−ブタノール画分を、活性炭を吸着剤とするカラムクロマトグラフィー〔クロマトグラフ用活性炭素、和光純薬工業(株)製、水を用いて充填〕に付し、カラムを水で洗浄後、メタノールで溶出した。メタノールで溶出された画分は、ロータリーエバポレータを用いて減圧乾固・濃縮し、30%メタノール/クロロホルムに溶かした。
【0026】次に、この30%メタノール/クロロホルムに溶かした画分は、シリカゲルを吸着剤とするカラムクロマトグラフィー〔ワコーゲルC−200、和光純薬工業(株)製、30%メタノール/クロロホルムを用いて充填〕に付し、カラムを30%メタノール/クロロホルムで洗浄後、45%メタノール/クロロホルムで溶出した。45%メタノール/クロロホルムで溶出した画分は、ロータリーエバポレータを用いて減圧乾固・濃縮し、40%メタノール/水に溶かした。
【0027】次に、この40%メタノール/水に溶かした画分は、オクタデシルシリル基でシリカゲルを修飾した吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィー〔Bondesil C18,ジーエルサイエンス(株)製、40%メタノール/水を用いて充填〕に付し、カラムを40%メタノール/水で洗浄後、55%メタノール/水で溶出した。55%メタノール/水で溶出した画分は、ロータリーエバポレータを用いて減圧乾固・濃縮し、50%メタノール/水に溶かした。
【0028】次に、この50%メタノール/水に溶かした画分は、オクタデシルシリル基でシリカゲルを修飾した吸着剤を充填したカラム〔Shim−pack PREP−ODS(H),4.6mmφ×250mm,島津製作所製〕を用いた分取用の高速液体クロマトグラフィーに注入し、UV210nmでモニターしながら50%メタノール/水で溶出(流速9.9ml/分)した。試料を注入してから65〜73分後に検出されたピークを集め、ロータリーエバポレータを用いて減圧乾固・濃縮することにより、式(I)で示される化合物を固形物として420mg得た。この画分は、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(No.5715,Silica Gel60F−254,厚さ 0.25mm,Merck社製)上でn−ブタノール、酢酸、水の混液(3:1:1)あるいはピリジン、酢酸エチル、酢酸、水の混液(5:5:1:3)で展開し、溶媒を乾燥後、ヨウ素の蒸気によりあるいはジフェニルアミン、アニリン、リン酸、混液を噴霧後加熱することによりあるいは5%リンモリブデン酸/エタノール溶液を噴霧後加熱すること等により、単一のスポットを示した。
【0029】このようにして得られた式(I)で示される蒸気の化合物は、実施例2に示される方法で構造決定され、文献検索により新規の化合物であることが判明した。
【0030】実施例2. 本発明の化合物の構造決定本発明の化合物は、重メタノール中において、複雑なH−NMRスペクトルを示した。特徴的なシグナルとして、高磁場側にシングレットメチル基6個とタブレットメチル基2個が観測され、また3.2−4.0ppmの領域には糖由来と考えられる多数のシグナル、2級水酸基の付け根のシグナル3個(3.62,4.34,4.50ppm)とオレフィンプロトンのシグナル1個(5.37ppm)、そして糖のアノマープロトンのシグナル5個(4.42,4.52,5.02,5.13,5.60ppm)が認められた。13C−NMRスベクトルからは合計58個の炭素のシグナルが観測され、DEPTスペクトルからこれらはメチル炭素8個、メチレン炭素12個、メチン炭素30個、4級炭素8個から構成されていることが分かった。また、FAB−MSの分析結果からM=1222が得られたことから、本発明の化合物の分子式をC589427と決定した。
【0031】本発明の化合物を5%乾燥塩酸/メタノールにより3日間105℃で反応させ、反応生成物をSep PakC18〔日本ウォーターズ(株)製〕を用いて50%メタノール/水および100%メタノール画分に分画した。100%メタノール画分に含まれる化合物の13C−NMRスペクトルは、ポリガラシック酸(Polygalacic acid)の文献データと完全に一致したことから、本発明の化合物はアグリコン部にpolygalacic acidを含んでいる配糖体であることが明らかになった。このことから、アグリコン部に帰属されなかった糖由来の13C−NMRシグナルは、メチル基2個、メチレン基3個、メチン基23個であった。またH−NMRスペクトルよりアノマープロトンのシグナルは5個であったことから、本発明の化合物は6炭糖3個と5炭糖2個で構成されており、そのうち2個は末端(5位または6位)がデオキシ体であることが分かった。
【0032】本発明の化合物の糖組成を明らかにするために、本発明の化合物を5%乾燥塩酸/メタノールより反応させ、Sep Pak C18〔日本ウォーターズ(株)製〕を用いて反応生成物から糖画分を分離し、これをIN−HCl中で30分間加熱環流することより脱メチル化を行い、これを定法に従いトリメチルシリル化して、ガスクロマトグラフ分析により標品のトリメチルシリル化糖と保持時間を比較した。標品のトリメチルシリル化糖と保持時間を比較し、これが一致するものについてはさらにco−injectionによりピークが完全に一致することを確認した。その結果、本発明の化合物に含まれる糖は、グルコース、アラピノース、キシロース、ラムノース(2分子)であることが確認された。
【0033】本発明の化合物を、熱水(105℃)中で4日間加水分解し、Sep PakC18〔日本ウォーターズ(株)製〕を用いて反応生成物からアグリコンを含む画分を単離し、このプロサポゲニンの各種NMRスペクトルを測定したところ、その化学構造は3位にグルコースの結合したポリガラシック酸であることが明らかになった。このことは、このプロサポゲニンの構成糖を上記と同様の方法で調べることによっても確かめられた。
【0034】本発明の化合物、アグリコン部のポリガラシック酸、上記の方法で得られたプロサプゲニンの13C−NMRスペクトルを比較した結果、アラピノース、キシロース、ラムノース2分子は28位に結合していることが明らかになった。これらの糖の結合様式については、本発明の化合物のH−NMR,13C−NMR,DEPT,13C−H COSY,13C−H COSY,H−HCOSY,HMBC,HSQC,COLOC,NOESY,ROESY,NOE差スペクトル、一次元および二次元HOHOHAHA,J分解スベクトルを解析することにより、ラムノピラノシル−(1→3)−キシロピラノシル−(1→4)−ラムノピラノシル−(1→2)−アラビノピラノシドの構造を持っていることが明らかになった。
【0035】以上の情報を総合することにより、本発明の化合物の化学構造は、式(1)で示される、ポリガラシック酸−3−グルコピラノシド−28−〔ラムノピラノシル−(1→3)−キシロピラノシル−(1→4)−ラムノピラノシル−(1→2)アラビノピラノシド〕であることが明らかになった。
【0036】本発明の式(1)で示される化合物が、植物成長阻害作用を持つことを裏付ける試験例を以下に説明する。
【0037】本発明の式(1)で示される化合物を、0.5%寒天中で所定濃度に調整し、これを試験管(長さ130mm,直径17.5mm)中に1ml加えた。寒天がゲル化した後、カラシナ、アオゲイトウ、レタス、シロクローバの各種子を6個体づつ置床し、暗所で25℃下に3〜5日保持した後、幼根長及び下胚軸長を測定した。植物生育阻害活性は、本発明の式(1)で示される化合物を加えない対照区に対する百分率で示した。その結果を1−3に示す。
【0038】
【発明の効果】本発明により提供される新規トリテルペノイド系サポニンポリガラシック酸−3−グルコピラノシド−28−〔ラムノピラノシル−(1→3)−キシロピラノシル−(1→4)−ラムノピラノシル−(1→2)アラビノピラノシド〕は、実施例3により実証されるとおり植物成長阻害剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】カラシナの幼根及び下胚軸の伸長成長に対する本発明の化合物(I)の阻害効果である。
【図2】レタスの幼根及び下胚軸の伸長成長に対する本発明の化合物(I)の阻害効果である。
【図3】シロクローバの幼根及び下胚軸の伸長成長に対する本発明の化合物(I)の阻害効果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリガラシック酸−3−グルコピラノシド−28−〔ラムノピラノシル−(1→3)−キシロピラノシル−(1→4)−ラムノピラノシル−(1→2)アラビノピラノシド〕。
【請求項2】 タイワンレンギョウ(Duranta repense)から抽出され、以下の物性を有する化合物。
旋光度:[α](MeOH)=46.5゜(c1.37)
融点: 223〜225℃赤外線吸収スペクトルUmax(KBr)cm−1:3437,2933,1736,1720,1638,104713C−NMRスペクトル:



【請求項3】 請求項1または2の化合物を有効成分として含有する植物成長阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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