説明

新規縮合多環化合物および有機発光素子

【課題】 純度のよい発光色相を呈し、高効率、高輝度で長寿命な光出力を有する新規化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式[1]で示されることを特徴とする縮合多環化合物。
【化1】


(一般式[1]において、X乃至Xのうち少なくとも2つは、置換あるいは無置換のアリール基または置換あるいは無置換の複素環基から選ばれた基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。また、Y及びYのうち少なくとも1つは、置換あるいは無置換のアリール基または置換あるいは無置換の複素環基から選ばれた基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規縮合多環化合物及びそれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子における最近の進歩は著しい。
【0003】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化、酸素や湿気等による劣化等に対する耐久性の面で未だ多くの問題がある。
【0004】
さらにはフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合は、色純度がよく、高効率の青色の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分でない。その一方で、特に色純度、発光効率及び耐久性が高い有機発光素子並びにこれを実現するための材料が求められている。
【0005】
上記の課題を解決するため、ベンゾフルオランテン骨格を有する有機化合物を発光素子に用いる試みがなされている(特許文献1及び2)。
【0006】
とはいえ発光色相や効率や輝度や耐久性といった観点からは更なる改善が必要である。
【0007】
一方、ジインデノクリセン骨格を有する有機化合物の合成例について報告がなされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−189247号公報
【特許文献2】特開2005−235787号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Org.Chem.,64,1650―1656(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献に記載の有機化合物とそれを有する有機発光素子は実用化という観点からは改善の余地がある。
【0011】
具体的には実用化のためには更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化、酸素又は湿気などによる劣化等の耐久性の面で改善が必要である。
【0012】
さらにはフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合、求められる有機発光素子には色純度が良く、高効率の青の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分でない。
【0013】
したがって特に色純度や発光効率、耐久性が高い有機発光素子及びそれを実現する材料が求められている。
【0014】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものである。即ち本発明の目的は、より具体的には新規縮合多環化合物とそれを有する有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする縮合多環化合物を提供する。
【0016】
【化1】

【0017】
(XとXのうち少なくとも1つと、XとXのうち少なくとも1つと、YとYのうち少なくとも1つはアリール基または複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の一般式[I]で示される縮合多環化合物は、発明を解決する手段において述べたような設計指針にもとづき開発がなされた。そして本発明は高発光効率、高色純度で安定性の高い有機発光素子用材料を提供し、極めて高効率で高色純度な光出力を有し、極めて耐久性のある有機発光素子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】有機発光素子と、有機発光素子に電気信号を供給する手段とを模式的に示す図である。
【図2】画素に接続される画素回路と画素回路に接続される信号線と電流供給線とを模式的に示す図である。
【図3】画素回路を示す図である。
【図4】有機発光素子とその下のTFTとを示す断面模式図である。
【図5】縮合多環化合物C−1の構造式とそのHOMOの電子雲とLUMOの電子雲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る一般式[1]で示される縮合多環化合物はジインデノクリセン骨格の特定の位置に置換基を有する化合物である。無置換のジインデノクリセンは希薄溶液中において434nmに蛍光ピーク波長を有しており、青色蛍光材料、特に有機発光素子用発光材料として適した蛍光特性を有している。青色とは430nm〜490nmの領域に発光ピークをもつことであり、好ましくは430nm〜445nmである。
【0021】
縮合多環化合物は平面構造を有しているため有機溶媒に難溶であり、合成や精製の際に多大な困難を伴うため、本発明では各種置換基を導入することでこの問題を回避する試みを検討した。さらに、無置換のジインデノクリセンを有機発光素子における発光層へ用いる場合、濃度によっては分子同士の会合により、EL発光が長波長側にシフトする傾向が見られる。
【0022】
以下に、導入する置換基の位置や種類が、ジインデノクリセン骨格の蛍光特性や熱的安定性に及ぼす効果について、詳細を以下に述べる。
【0023】
第1に、蛍光波長に対する置換位置の効果について述べる。次に第2に、アリール置換基導入による分子間会合抑制効果について述べる。そして第3に、導入する置換基の種類について述べる。
【0024】
【化2】

【0025】
まず第1に、蛍光波長に対する置換位置の効果について述べる。
【0026】
一般式[1]の一例として例示化合物A−6と比較対象のC−1(ジインデノクリセン)、C−2、C−3、C−4のトルエン希薄溶液中における蛍光スペクトルを測定した。例示化合物A−6の構造式は下記の例示化合物群に示す。C−1、C−2、C−3、C−4の構造式は後述する比較例に示す。
【0027】
C−1は、上記一般式[2]においてR乃至R16が水素原子である。C−2は、上記一般式[2]においてR及びR13に2−メチル−1−ナフチル基を有し、他は全て水素原子である。C−3は、上記一般式[2]においてR及びRにフェニル基、R12、R15に3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基を有し、他は全て水素原子である。C−4は、上記一般式[2]においてR及びRに1,3,5−トリイソプロピル−フェニル基を有し、他は全て水素原子である。下表1に示す通り、無置換のC−1と比較して例示化合物A−6及びC−4が長波長化しないことがわかった。この結果から、例示化合物A−6及びC−4はC−2及びC−3よりも蛍光が純青色、すなわち430nm〜445nmに近く、青色蛍光材料としてより優れているといえる。
【0028】
【表1】

【0029】
上記のように、導入したアリール置換基が蛍光スペクトルに及ぼす効果について考察する。例示化合物A−6及びC−3は共に4つのアリール置換基を有しているが、C−3は例示化合物A−6に比べ、蛍光ピーク波長は17nmも長波長化した。また、C−2は2つのアリール置換基を有するが、例示化合物A−6に比べ蛍光ピーク波長は8nm長波長化した。そこでジインデノクリセンC−1について密度汎関数法(Density Functional Theory)を用いて、B3LYP/6−31G*レベルでの分子軌道計算を行った。
【0030】
C−1の化合物のHOMOの電子雲とLUMOの電子雲とを図5に示す。
【0031】
分子軌道の計算の結果、HOMOの電子雲は、上記一般式[2]においてR乃至R、R、及びR14に結合する炭素上への分布が少なく、それ以外の炭素原子上に主に分布していた。一方、LUMOの電子雲は分子全体に非局在化しており、特に上記一般式[2]においてR乃至R16が結合する炭素上では大きな偏りはみられなかった。この計算結果と蛍光スペクトル測定結果を考慮すると、ジインデノクリセン骨格では置換基の導入位置によってHOMOに対する摂動の程度が異なり、蛍光特性に違いを生じることが理解できる。したがって非局在化しているLUMOよりも局在化しているHOMOに注目して置換基をジインデノクリセン骨格に影響を与えない位置に導入することが好ましいことに本発明者は気付いた。
【0032】
上記一般式[2]においてR及びR13にアリール基を有するC−2及びR6、9、12及びR15にアリール基を有するC−3はHOMOに対する共鳴安定化の寄与が大きく、蛍光スペクトルがより長波長化したといえる。
【0033】
従って、ジインデノクリセン誘導体を青色蛍光材料として用いる場合、蛍光の長波長化を防ぐために、置換基を導入する位置は上記一般式[2]においてR乃至R、R、及びR14であることが好ましい。
【0034】
第2に、アリール置換基導入による分子間会合抑制効果について述べる。
【0035】
例示化合物A−6及びC−1、C−2、C−3、C−4のスピンコート膜を作成し、蛍光スペクトルを測定したところ、希薄溶液中の蛍光スペクトルと比較して最もピーク波長がシフトしたのはC−1であった。この時の蛍光スペクトルは幅広く、緑色から黄色領域にまで及んでいたことから、無置換体であるC−1は固体状態において縮合多環上のπ電子相互作用により強く分子間会合して安定化し、蛍光が長波長化したといえる。
【0036】
置換基を有するジインデノクリセン誘導体の中では、4つのアリール基を有する例示化合物A−6、C−3及び2つのアリール基を有するC−4においてピーク波長差が小さく、分子間会合が抑制されているといえる。
【0037】
従って、ジインデノクリセン誘導体同士の分子会合は、ジインデノクリセンに4つアリール基を導入することにより抑制される。また、2つの置換基でも上記一般式[2]においてR7及びR13にアリール基を導入するよりも、上記一般式[2]においてR1及びR3にアリール基を導入する方が、分子間会合抑制効果が高い。
【0038】
表2にスピンコート膜における蛍光スペクトルのピーク波長及びトルエン希薄溶液中とのピーク波長差を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
次に、アリール置換基導入によるホスト材料との相互作用抑制効果について述べる。例示化合物A−6及びC−1、C−2、C−3、C−4についてそれぞれドーパント材料として以下に示す化合物b−2をホスト材料として共蒸着膜を作成し、蛍光スペクトルを測定した。ドーパント材料とホスト材料の重量比率は5:95でガラス基板上に20nmの膜厚で蒸着した。また、蛍光スペクトルはホスト材料の発光が消光していることから、発光スペクトルがドーパントの発光によるものと確認した。
【0041】
【化3】

【0042】
表3に共蒸着膜における蛍光スペクトルのピーク波長及びCIE色度を示す。
【0043】
共蒸着膜での青発光として良好なのは例示化合物A−6であった。また、トルエン希薄溶液と共蒸着膜のCIE色度の変化が少なかったのも例示化合物A−6であった。
【0044】
従って、良好な青発光を得る為には、R1、R3、R8、及びR14という特定の位置に4つアリール基を導入することが好ましい。それは、例示化合物A−6において、例示化合物A−6同士の分子会合抑制効果が大きいこと及び、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きいことを反映したものと言える。
【0045】
【表3】

【0046】
これらの結果より、化合物単体の、希薄溶液状態及び固体膜状態で良好な青発光スペクトルを得るためには、HOMOに対する共鳴安定化の寄与が小さい置換位置に置換基を入れることが好ましいと言える。さらに好ましくは、分子同士の会合やホスト材料との相互作用を起こしにくい置換基を導入することが好ましいといえる。具体的には、一般式[2]においてR乃至R、R、及びR14のいずれかに置換することが好ましく、有機発光素子として良好な青発光スペクトルを得ることに貢献する。R乃至R、R、及びR14はのアリール基または複素環基が好ましく、さらに好ましくはジインデノクリセン骨格と共鳴安定の寄与が低いという観点からアリール基が好ましい。
【0047】
さらには、他の材料に混合・分散させた、固体状態でも良好な青発光スペクトルを得るためには、一般式[2]においてR1、R3、R8、及びR14のいずれもが置換されていることが好ましい。この場合、ジインデノクリセン誘導体同士の分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果も大きくなる。
【0048】
以上の効果は有機発光素子の発光層として一般式[1]の縮合多環化合物を用いた場合、良好な青発光を示すことにつながる。
【0049】
第3に、導入する置換基の種類について述べる。
【0050】
非特許文献1にジインデノクリセン誘導体C−5{上記一般式[2]においてR10及びR16にジ(4−tert−ブチルフェニル)メチル基を有し、他は全て水素原子}の合成例があり、その熱的安定性についても記載がある。たとえば“J.Org.Chem.,64,1650―1656(1999)”において、pp.1651―1652;本文及び“Scheme 5”、p.1654;“Experimental Section”中の“Chrysene 23”の項に記載がある。
【0051】
それによれば、C−5は封管中で加熱すると当初黄色固体であったものが、180℃から徐々に茶色に変色して332℃で融解及び分解してしまう。ここで、ジインデノクリセンに結合するメチル基にはベンジル水素が存在しており、これが解離して生成するラジカルやアニオン対はジインデノクリセンの縮合多環と共鳴構造を取ることにより大きく安定化する。またベンジル水素が結合するsp炭素上には3つのアリール基が結合して立体的に込み合っており、不安定である。このように電子的及び立体的要因により、C−5におけるベンジル水素は非常に不安定であり、容易に熱分解を起こす原因となっていることが推察される。このような不安定性は熱に対してのみならず、酸素や光、塩基といったものにも生じる可能性があるから、C−5を蛍光材料として用いるのは好ましくない。
【0052】
一方、例示化合物A−6を窒素雰囲気下で熱重量−示差熱分析(TG−DTA)装置により測定したところ、350℃においても分解は観測されなかった。
ベンジル水素がないため、熱安定性が高いと言える。
【0053】
従って、縮合多環化合物の一般式[1]におけるX乃至X、Y及びYはアリール基または複素環基が良く、さらに好ましくはフェニル基が良い。
【0054】
これら3点を踏まえ、更に本発明者が鋭意検討したところ、以下の縮合多環化合物が好ましいことが分かった。
【0055】
すなわち、下記一般式[1]で示されることを特徴とする縮合多環化合物が好ましい。
【0056】
【化4】

【0057】
(XとXのうち少なくとも1つと、XとXのうち少なくとも1つと、YとYのうち少なくとも1つはアリール基または複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。)
また前記X、X、Y、及びYはそれぞれ独立に前記アリール基または前記複素環基から選ばれ、前記X及びXは水素原子であることが更に好ましい。
【0058】
また更にX、X、Y、及びYはフェニル基であることがより好ましい。
【0059】
本発明に係る縮合多環化合物が有するアリール基と複素環基について説明する。
【0060】
アリール基として例えば、フェニル基、ナフチル基、ペンタレニル基、アントリル基、ピレニル基、インダセニル基、アセナフテニル基、フェナントリル基、フェナレニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、アセフェナントリル基、アセアントリル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基、フルオレニル基などを挙げる。もちろんこれらに限定されるものではない。
【0061】
複素環基として例えば、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基などを挙る。もちろんこれらに限定されるものではない。
【0062】
さらに上記アリール基や複素環基は置換基を有するものも含まれる。アリール基や複素環基が有する置換基として例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基などの複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基などのアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基などのアルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、フッ素、塩素などのハロゲン原子などを挙げる。もちろんこれらに限定されるものではない。
【0063】
本発明に係る縮合多環化合物の一例を構造式として以下に示す。
【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
【化8】

【0068】
【化9】

【0069】
これら構造式で示した例示化合物のうち、A−2、A−6、A−10、A−14、A−15、A−18、A−19、B−2、B−3、B−5、B−6、D−1、D−3、D−4及びD−5は一般式[2]においてR、R、R、及びR14に置換基を有する構造であり、分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きく、良好な青発光を示すという点で更に好ましい。
【0070】
A−2、A−6、A−10、A−14、A−15、A−18及びA−19は熱安定性という点で更に好ましい。
【0071】
A−6、A−10、A−14、A−15、A−18及びA−19はアルキル基が置換するフェニル基がジインデノクリセン骨格に置換し、分子会合抑制の効果が著しく大きいという点で更に好ましい。
【0072】
実施例1のA−6及び実施例2のA−8は、分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きく、良好な青発光示すこと及び熱安定性が高いという点で好ましい。そして同じ効果を得られるのは例示化合物のうちA−2、A−3、A−7、A−10、A−11、A−14、A−15、及びA−18である。
【0073】
実施例2のA−8は、分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きく、良好な青発光を示すこと及び構造的に非対称性ゆえ昇華温度が低く熱安定性が高いという点で好ましい。そして同じ効果を得られるのは例示化合物のうちA−4及びA−12である。
【0074】
合成例に記載の化合物A−16は、分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きく、良好な青発光示すこと及び2種類の置換基を有する非対称性ゆえ昇華温度が低く熱安定性が高いという点で好ましい。そして同じ効果を得られるのは例示化合物のうちA−15である。
【0075】
合成例に記載の化合物B−2は、分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きく、良好な青発光示すという点で好ましい。そして同じ効果を得られるのは例示化合物B−3及びB−5である。
【0076】
合成例に記載の化合物C−1は置換基として複素環基を持つことで電子吸引性が向上し、耐酸化性が向上し、分子会合抑制効果が大きく、他の分子(特にホスト材料)との相互作用抑制効果が大きく、良好な青発光示すという点で好ましい。そして同じ効果を得られるのはこれら構造式で示した例示化合物のうちD−2及びD−4である。
【0077】
一般式[I]で示される縮合多環化合物は有機発光素子用材料として使用できる。
【0078】
その中で、一般式[I]で示される縮合多環化合物はホール輸送層、電子輸送層および発光層として用いることができ、高発光効率、長寿命素子を得ることができる。
【0079】
また、一般式[I]で示される化合物は発光層として使用する場合、種々の態様で用いて高色純度、高発光効率、長寿命素子を得ることができる。
【0080】
発光層とはその層自体が発光する層のことである。本発明に係る有機発光素子はこの発光層以外に他の機能層を有しても良くその場合有機発光素子は発光層を含め他の機能層とともに積層されている。有機発光素子の層構成については後述する。
【0081】
発光層である有機化合物層は上記一般式[1]で示される縮合多環化合物を有する。
【0082】
発光層において上記一般式[1]で示される縮合多環化合物を単独で用いてもよい。あるいはゲスト材料として用いてもよい。
【0083】
本発明においてゲスト材料とは有機発光素子の実質的な発光色を規定する材料のことであり、それ自体が発光する材料である。
【0084】
ホスト材料は、このゲスト材料よりも組成比が高い材料のことである。
【0085】
ゲスト材料は有機発光層において組成比が低く、ホスト材料は組成比が高い。この場合組成比とは有機化合物層を構成する全成分を分母とする重量%で示される。
【0086】
上記一般式[1]で示される縮合多環化合物を、ゲストとして用いる場合の含有量としては、好ましくは、発光層の全重量に対して0.1重量%以上30重量%以下であり、更に好ましくは、濃度消光を抑制する場合には、0.1重量%以上15重量%以下である。有機化合物層がホスト材料とゲスト材料のみから構成される場合もこの数値範囲が当てはまる。
【0087】
有機化合物層において、ゲスト材料は有機化合物層全体に均一あるいは濃度勾配を有して含まれていてもよい。あるいは有機化合物層のある領域にのみ含まれて別の領域ではゲスト材料を含まない領域があってもよい。
【0088】
またこの上記一般式[1]で示される縮合多環化合物をゲストとして用いる場合には、ホスト材料としては、特に限定されるものではないが、安定なアモルファス膜から構成される有機発光素子を提供するためには、縮合多環誘導体が好ましく用いられる。そして、高効率で耐久性のある有機発光素子を提供するためにはホスト材料自身の発光収率が高いことやホスト自身の化学的安定性が必要とされる。そのため、更に好ましくはフルオレン誘導体、ピレン誘導体、フルオランテン誘導体、ベンゾフルオランテン誘導体等の蛍光量子収率が高く化学的に安定な縮合多環誘導体が好ましい。
【0089】
耐久性のある有機発光素子を提供するためには、それを構成する有機発光素子用化合物の化学的安定性が必要になる。
【0090】
上記一般式[1]で表される縮合多環化合物は5員環構造による電子吸引効果により一重項酸素分子等の求電子反応による反応性は低く化学的に安定である。また、5員環構造が2つあることは、フルオランテン、ベンゾフルオランテン等の5員環構造が一つある骨格より化学的安定性が高い。
【0091】
上記一般式[1]で示される縮合多環化合物は5員環構造による電子吸引性により電子注入性を備え、有機発光素子用材料として使用した場合、駆動電圧を低下することができる。また、5員環構造が2つあることは、フルオランテン、ベンゾフルオランテン等の5員環構造が1つある骨格より駆動電圧を低下する効果は高い。
【0092】
本発明に係る有機発光素子をディスプレイに応用する場合、ディスプレイの表示領域内の青色発光画素として好ましく用いることが出来る。上記一般式[1]で示される縮合多環化合物は、希薄溶液中における発光ピークが430−450nmと青発光として最適なピーク位置を示す。
【0093】
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0094】
本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された有機化合物を含む一層または複数の層により構成される有機発光素子において、前記有機化合物を含む層のうち少なくとも一層が、一般式[1]で示される縮合多環化合物を少なくとも1種類含有する。
【0095】
有機化合物を含む層、すなわち有機化合物層は本発明に係る有機発光素子において少なくとも1層設けられている。
【0096】
一対の電極の間には上記有機化合物層以外の化合物層を有していても良い。
【0097】
一対の電極の間には有機化合物層を含む化合物層が2層以上設けられていても良い。このような場合を多層型の有機発光素子と呼ぶことにする。
【0098】
以下に、多層型の有機発光素子の好ましい例として第一から第五までを示す。
【0099】
第一の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/発光層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。ここで使用する有機発光素子は、それ自体でホール輸送能、電子輸送能及び発光性の性能を単一で有している場合や、それぞれの特性を有する化合物を混ぜて使う場合に有用である。
【0100】
第二の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。この場合は、発光物質はホール輸送性かあるいは電子輸送性のいずれか、あるいは両方の機能を有している材料をそれぞれの層に用い、発光性の無い単なるホール輸送物質あるいは電子輸送物質と組み合わせて用いる場合に有用である。また、この場合、発光層は、ホール輸送層あるいは電子輸送層のいずれかから成る。
【0101】
第三の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これは、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものである。そしてホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した化合物と適時組み合わせて用いることができる。そして極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の化合物が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層に各キャリヤあるいは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0102】
第四の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これは陽極とホール輸送層の密着性改善あるいはホールの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0103】
第五の多層型の有機発光素子の例としては、基板上に、順次(陽極/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極)を設けた構成のものを挙げる。これはホールあるいは励起子(エキシトン)が陰極側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層)を、発光層、電子輸送層間に挿入した構成である。イオン化ポテンシャルの非常に高い化合物をホール/エキシトンブロッキング層として用いる事により、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0104】
本発明において一般式[1]で表わされる縮合多環化合物を含む発光領域とは、上記の発光層の領域を言う。
【0105】
ただし、第一乃至第五の多層型の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る縮合多環化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0106】
本発明に係る一般式[1]で示される縮合多環化合物は、第一乃至第五例のいずれの形態でも使用することができる。
【0107】
本発明に係る有機発光素子においては、有機化合物を含む層に本発明に係る一般式[1]で示される有機化合物が少なくとも一種含有されるものであり、特に発光層のドーパント材料として用いられることが好ましい。
【0108】
本発明に係る縮合多環化合物は、発光層のホスト材料として用いてもよい。
【0109】
本発明に係る縮合多環化合物は、発光層以外の各層、即ちホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層の何れか叉は、電子注入層に用いても良い。
【0110】
ここで、本発明に係る縮合多環化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
【0111】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。正孔注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0112】
主にホスト材料としては、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0113】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で、注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0114】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0115】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0116】
本発明に係る有機発光素子を有する基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0117】
なお、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等で被覆し、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0118】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0119】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0120】
本発明に係る有機発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライトなどが考えられる。
【0121】
表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。表示装置は例えばPCあるいはテレビジョン、あるいは広告媒体といった画像表示装置して用いられることが出来る。あるいは表示装置はデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の、表示部に用いられてもよい。
【0122】
あるいは表示装置は電子写真方式の画像形成装置、即ちレーザービームプリンタや複写機等の操作表示部に用いられても良い。
【0123】
また、電子写真方式の画像形成装置、即ちレーザービームプリンタや複写機等の感光体へ潜像を露光する際に用いる光源として用いることが出来る。独立にアドレスできる有機発光素子を複数アレイ状(例えば線状)に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、潜像を形成することができる。本発明に係る有機発光素子を用いることで、これまでは光源とポリコンミラーと各種光学レンズ等を配置するのに必要だった空間を減少させることができる。
【0124】
照明装置やバックライトに関しては、本発明に係る有機発光素子を用いることで省エネルギー効果が期待できる。また本発明に係る有機発光素子は平面光源として利用できる。
【0125】
また、本発明に係る有機発光素子を支持する基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜などを設けて発色光をコントロールする事も可能である。また、基板に薄膜トランジスタ(TFT)を設け、それに有機発光素子を接続して発光非発光を制御することができる。また、複数の有機発光素子をマトリックス状に配置して、即ち面内方向に配置して照明装置として用いることも可能である。
【0126】
次に、本発明に係る有機発光素子を使用した表示装置について説明する。この表示装置は、本発明に係る有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段と、を具備するものである。以下、図面を参照して、アクティブマトリクス方式を例にとって、本発明に係る表示装置を詳細に説明する。
【0127】
はじめに図中の符号を説明する。1は表示装置、2と15はそれぞれ画素回路、11は走査信号ドライバー、12は情報信号ドライバー、13は電流供給源、14は画素を示す。
21は第一の薄膜トランジスタ(TFT)、22はコンデンサー(Cadd)、23は第二の薄膜トランジスタ(TFT)、24は有機発光素子を示す。
31は基板、32は防湿層、33はゲート電極、34はゲート絶縁膜、35は半導体膜、36はドレイン電極、37はソース電極、38はTFT素子、39は絶縁膜を示す。
310はコンタクトホール(スルーホール)、311は陽極、312は有機層、313は陰極、314は第一の保護層、315は第二の保護層を示す。
【0128】
図1は、表示装置の一形態である、本発明に係る有機発光素子と、本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とを備えた表示装置の構成例を模式的に示す図である。
【0129】
図2は、画素に接続される画素回路と画素回路に接続される信号線と電流供給線とを模式的に示す図である。
【0130】
本発明に係る有機発光素子に電気信号を供給する手段とは、図1において走査信号ドライバー11、情報信号ドライバー12、電流供給源13及び図2において画素回路15のことを指す。
【0131】
図1の表示装置1は、走査信号ドライバー11、情報信号ドライバー12、電流供給源13が配置され、それぞれゲート選択線G、情報信号線I、電流供給線Cに接続される。ゲート選択線Gと情報信号線Iの交点には、画素回路15が配置される(図2)。本発明に係る有機発光素子からなる画素14はこの画素回路15ごとに対応して設けられる。画素14は有機発光素子である。従って、本図においては発光点として有機発光素子を示している。本図において有機発光素子の上部電極が他の有機発光素子の上部電極と共通していても良い。もちろん上部電極は各発光素子毎に個別に設けられていても良い。
【0132】
走査信号ドライバー11は、ゲート選択線G1、G2、G3・・・Gnを順次選択し、これに同期して情報信号ドライバー12から画像信号が情報信号線I1、I2、I3・・・Inのいずれかを介して画素回路15に印加される。
【0133】
次に、画素の動作について説明する。図3は、図1の表示装置に配置されている1つの画素を構成する回路を示す回路図である。図3は第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23が有機発光素子24を発光させるための電流を制御している。図3の画素回路2においては、ゲート選択線Giに選択信号が印加されると、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)21がONになり、コンデンサー(Cadd)22に画像信号Iiが供給され、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23のゲート電圧を決定する。有機発光素子24には第二の薄膜トランジスタ(TFT2)(23)のゲート電圧に応じて電流供給線Ciより電流が供給される。ここで、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)23のゲート電位は、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)21が次に走査選択されるまでコンデンサー(Cadd)22に保持される。このため、有機発光素子24には、次の走査が行われるまで電流が流れ続ける。これにより1フレーム期間中常に有機発光素子24を発光させることが可能となる。
【0134】
なお不図示ではあるが、有機発光素子24の電極間の電圧を薄膜トランジスタが制御する電圧書き込み方式の表示装置にも本発明に係る有機発光素子は用いられることが出来る。
【0135】
図4は、図1の表示装置で用いられるTFT基板の断面構造の一例を示した模式図である。TFT基板の製造工程の一例を示しながら、構造の詳細を以下に説明する。
【0136】
図4の表示装置3を製造する際には、まずガラス等の基板31上に、上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜32がコートされる。防湿膜32を構成する材料として、酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体等が用いられる。次に、スパッタリングによりCr等の金属を製膜することで、所定の回路形状にパターニングしてゲート電極33を形成する。
【0137】
続いて、酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により製膜し、パターニングしてゲート絶縁膜34を形成する。次に、プラズマCVD法等により(場合によっては290℃以上の温度でアニールして)シリコン膜を製膜し、回路形状に従ってパターニングすることで半導体層35を形成する。
【0138】
さらに、この半導体膜35にドレイン電極36とソース電極37とを設けることでTFT素子38を作製し、図3に示すような回路を形成する。次に、このTFT素子38の上部に絶縁膜39を形成する。次に、コンタクトホール(スルーホール)310を、金属からなる有機発光素子用の陽極311とソース電極37とが接続するように形成する。
【0139】
この陽極311の上に、多層あるいは単層の有機層312と、陰極313とを順次積層することにより、表示装置3を得ることができる。このとき、有機発光素子の劣化を防ぐために第一の保護層314や第二の保護層315を設けてもよい。本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0140】
尚、上記の表示装置は、スイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
【0141】
上記ITO電極の上に多層あるいは単層の有機発光層/陰極層を順次積層し有機発光表示パネルを得ることができる。本発明に係る縮合多環化合物を用いた表示パネルを駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0142】
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)および、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
【実施例】
【0143】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
<実施例1>
例示化合物A−6の合成
以下に示すスキームに従い、合成した。
【0145】
【化10】

【0146】
【化11】

【0147】
a)化合物a−2の合成
500ml三ツ口フラスコに、クリセン(化合物a−1)15.16g(66.4mmol)及び四塩化炭素350mlを入れ、室温下で攪拌しながら、臭素21g(131mmol)を100分間かけ、ゆっくり滴下した。反応溶液を昇温し、3時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却し、析出してきた結晶をろ過した。得られた結晶をトルエン溶媒で再結晶し、化合物a−2(白色結晶)19.5g(収率76.1%)を得た。
【0148】
b)化合物a−4の合成
100ml三ツ口フラスコに、化合物a−2、2.69g(7.00mmol)、化合物a−3、3.73g(20.0mmol)、トルエン20mlおよびエタノ−ル10mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸セシウム10g/水20mlの水溶液を滴下し、次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、81mgを添加した。77度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−4(白色結晶)3.20g(収率89%)を得た。
【0149】
c)化合物a−6の合成
50ml三ツ口フラスコに、化合物a−4、3.20g(1.65mmol)、化合物a−5、3.10g(18.9mmol)、酢酸パラジウム、141mg(0.630mmol)、リン酸カリウム、13.4g(63.0mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’−6‘−ジメトキシビフェニル、621mg(1.51mmol)、トルエン、80mlおよび水5mlを入れ、窒素雰囲気中、90度に昇温し、6時間攪拌した。反応後、水100mlを加え、反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン展開溶媒)で精製し、化合物a−6(白黄色結晶)2.70g(収率63.3%)を得た。
【0150】
d)化合物a−7の合成
200ml三ツ口フラスコに、化合物a−6、1.30g(1.92mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン、0.98g(3.84mmol)、[Ir(OMe)COD] 254mg(0.384mmol)4,4’−ジ−tert−ブチル−2,2’−ビピリジン(dtbpy)、0.268g(1.0mmol)、及びシクロヘキサン50mlを入れ、窒素雰囲気中、80度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム展開溶媒)で精製し、ピナコールボラン体3種類の異性体混合物である化合物a−7(白色結晶)1.53g(収率86%)を得た。
【0151】
e)化合物a−9の合成
100ml三ツ口フラスコに、化合物a−7、3.20g(3.45mmol)、化合物a−8、2.06g(10.34mmol)、酢酸パラジウム、77.5mg(0.345mmol)、リン酸カリウム、7.32g(34.5mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’−6’−ジメトキシビフェニル、311mg(0.759mmol)、ジオキサン、50mlおよび水5mlを入れ、窒素雰囲気中、100度に昇温し、6時間攪拌した。反応後、水100mlを加え、反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン展開溶媒)で精製し、メシチル基置換体3種類の異性体混合物である化合物a−9(白黄色結晶)1.60g(収率50.8%)を得た。
【0152】
f)化合物a−10の合成
100ml三ツ口フラスコに、化合物a−9、1.0g(1.10mmol)及びジクロロメタン50mlを入れ、窒素雰囲気中、氷冷で攪拌下、三臭化ホウ素、3.30mlをゆっくり滴下した。1時間攪拌後、反応溶液を室温で8時間攪拌した。反応後、反応溶液に水50ml加え、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、酢酸エチル混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−10(白黄色結晶)0.450g(収率47%)を得た。異性体はこの時点で分離した。
【0153】
g)化合物a−11の合成
100ml三ツ口フラスコに、化合物a−10、0.450g(0.517mmol)及び無水ピリジン50mlを入れ、窒素雰囲気中、氷冷で攪拌下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(TfO)、0.376ml(2.07mmol)をゆっくり滴下し、1時間攪拌後、反応溶液を室温で2時間攪拌した。反応後、反応溶液に水50ml加え、有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(クロロホルム、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物a−11(白黄色結晶)0.386g(収率65%)を得た。
【0154】
h)例示化合物A−6の合成
50ml三ツ口フラスコに、化合物a−11、0.320g(0.278mmol)、酢酸パラジウム、125mg(0.557mmol)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)1.6ml、リチウムクロライド、70.8mg(1.66mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’−6‘−ジメトキシビフェニル、502mg(1.22mmol)およびDMF20mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で攪拌後、さらに150℃に昇温し5時間攪拌した。反応後有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、例示化合物A−6(黄色結晶)60mg(収率25.4%)を得た。
【0155】
質量分析法により、例示化合物A−6のM+である849を確認した。
【0156】
また、HNMR測定により、例示化合物A−6の構造を確認した。
【0157】
H NMR(CDCl,400MHz) σ(ppm):9.14(s,2H),8.44(s,2H),7.97(d,2H),7.87(m,4H),7.21(d,2H),7.05(s,2H),7.05(s,2H),6.98(s,2H),6.98(s,2H),2.40(s,6H),2.37(s,6H),2.14(s,12H),2.12(s,12H)
例示化合物A−6を含む濃度1x10−5mol/lのトルエン溶液の蛍光スペクトルを、日立製F−4500を用いて励起波長370nmで測定した。蛍光ピーク波長は上記表1に示した通りである。
【0158】
さらに、例示化合物A−6を含む濃度が0.1wt%のテトラヒドロフラン溶液を調製した。この溶液をガラス板上に滴下し、最初に500RPMの回転で10秒、次に1000RPMの回転で40秒スピンコートを行い、膜を形成した。次に、日立製F−4500を用いて上記有機膜の蛍光スペクトルを励起波長370nmで測定した。蛍光ピーク波長は上記表2に示した通りである。
【0159】
例示化合物A−6と化合物b−2の重量比率を5:95でガラス基板上に20nmの膜厚で蒸着した。また、蛍光スペクトルはホスト材料の発光が消光していることから、発光スペクトルがドーパントの発光によるものと確認した。CIE色度は上記表3に示した通りである。
【0160】
【化12】

【0161】
<実施例2>
例示化合物A−7、A−8の合成
化合物a−9までは実施例1と同様にして合成し、実施例1、f)において化合物a−10の精製時に単離できるA−7及びA−8の中間体であるOH体をそれぞれ単離し、以下に示すスキームにより例示化合物A−7、A−8を合成した。
【0162】
【化13】

【0163】
【化14】

【0164】
<合成例>
実施例1と同様にして、化合物a−5及びa−8に変えて以下の表4に示す、ボロン酸体及び臭素体を用いることで例示化合物A−16、B−2、B−6及びD−1が合成できる。
【0165】
【表4】

【0166】
<実施例3>
素子作成
ガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0167】
透明導電性支持基板上に下記化合物b−1で示される化合物のクロロホルム溶液をスピンコート法により20nmの膜厚で成膜して正孔輸送層を形成した。
【0168】
さらに、以下の有機層と電極層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜して、素子を作製した。
発光層(20nm):例示化合物A−6(重量濃度5%):化合物b−2(重量濃度95%)
電子輸送層(40nm):化合物b−3
金属電極層1(0.5nm):LiF
金属電極層2(150nm):Al
【0169】
【化15】

【0170】
本実施例のEL素子に4.0Vの印加電圧で発光輝度454cd/m、CIE色度(0.16,0.25)の良好な青色発光が観測された。
【0171】
さらに、窒素雰囲気下で電流密度を100mA/cmに保ち、電圧を100時間連続印加したところ、初期輝度に対する100時間後の輝度劣化率は20%以下で小さかった。
【0172】
<実施例4−7>
実施例1の例示化合物A−6に代えて、表5に示す化合物を用いた他は実施例1と同様に素子を作成し、同様な評価を行ったところ、いずれの素子においても良好な青色発光を確認した。以下にその結果を示す。
【0173】
【表5】

【0174】
(比較例1)[C−1の製造方法]
下記のスキームに従って、C−1を合成できる。
【0175】
実施例1と同様にして、C−1のトルエン溶液、スピンコート膜及び化合物b−1との共蒸着膜の蛍光スペクトルを測定した。蛍光ピーク波長、CIE色度をそれぞれ上記表1、2及び表3に示す。
【0176】
【化16】

【0177】
(比較例2)[C−2の製造方法]
下記のスキームに従って、C−2を合成できる。
【0178】
実施例1と同様にして、C−2のトルエン溶液、スピンコート膜及び化合物b−1との共蒸着膜の蛍光スペクトルを測定した。蛍光ピーク波長、CIE色度をそれぞれ上記表1、2及び表3に示す。
【0179】
【化17】

【0180】
(比較例3)[C−3の製造方法]
下記のスキームに従って、C−3を合成できる。
【0181】
実施例1と同様にして、C−3のトルエン溶液、スピンコート膜及び化合物b−1との共蒸着膜の蛍光スペクトルを測定した。蛍光ピーク波長、CIE色度をそれぞれ上記表1、2及び表3に示す。
【0182】
【化18】

【0183】
(比較例4)[C−4の製造方法]
下記のスキームに従って、C−4を合成できる。
【0184】
実施例1と同様にして、C−4のトルエン溶液、スピンコート膜及び化合物b−1との共蒸着膜の蛍光スペクトルを測定した。蛍光ピーク波長、CIE色度をそれぞれ上記表1、2及び表3に示す。
【0185】
【化19】

【符号の説明】
【0186】
1 表示装置
11 走査信号ドライバー
12 情報信号ドライバー
13 電流供給源
14 画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とする縮合多環化合物。
【化1】


(XとXのうち少なくとも1つと、XとXのうち少なくとも1つと、YとYのうち少なくとも1つはアリール基または複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。)
【請求項2】
前記X、X、Y、及びYはそれぞれ独立に前記アリール基または前記複素環基から選ばれ、前記X及びXは水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の縮合多環化合物。
【請求項3】
前記X、X、Y、及びYはフェニル基であることを特徴とする請求項2に記載の縮合多環化合物。
【請求項4】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、前記一対の電極の間に配置されている有機化合物を含む有機化合物層とを有する有機発光素子において、前記有機化合物が、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の縮合多環化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層が、発光層であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素と前記画素に電気信号を供給する手段を有する画像表示装置であって、前記画素は請求項4または5のいずれか一項に記載の前記有機発光素子を有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248133(P2010−248133A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99943(P2009−99943)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】