説明

新規DNA断片およびそれを含む組換えベクター、それらによって形質転換された形質転換体、ならびにそれらの利用

【課題】バチルス属細菌を宿主とする系において、組換えタンパク質の種類に関係なく、タンパク質を大量かつ効率よく生産することができる新たな手段を提供することにある。
【解決手段】特定の遺伝子調節領域を単独で、または該遺伝子調節領域およびシグナルペプチドをコードする遺伝子を組み合わせて利用することにより、上記課題は解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質を生産するための、転写を調節する塩基配列およびシグナルペプチドをコードする塩基配列を有するDNA断片およびそれを含む組換えベクター、それらによって形質転換された形質転換体、ならびにそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子工学の進歩により、種々の生物体を宿主細胞として利用したタンパク質の生産が可能となった。特に、外来遺伝子を含む組換えベクターを宿主細胞に導入する宿主−ベクター系がよく知られている。宿主−ベクター系を用いれば、外来遺伝子を宿主細胞の染色体に組み込むことなく、組換えタンパク質を取得することができる。
【0003】
宿主−ベクター系における宿主細胞として広く利用されているのが大腸菌(Escherichia coli)である(たとえば、特許文献1を参照)。大腸菌は、世代時間が約20分と短く、様々な糖類を資化して増殖することができる。さらに大腸菌に適した多くのプラスミドベクターが開発されており、大腸菌を宿主細胞とする宿主−ベクター系は組換えタンパク質の迅速かつ安定な工業生産を実現している。
【0004】
しかしながら、大腸菌の組換えタンパク質を菌体内に蓄積するという性質のために、大腸菌自体の生育が阻害され、さらに菌体内のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の作用により組換えタンパク質の機能が失いやすいという、組換えタンパク質の大量かつ安定に生産する上で不利な点があった。さらに、組換えタンパク質を取得するためには菌体を回収して破砕し、かつ、発熱性物質の一種であるリポポリサッカライドを注意深く除去しなければならない。このために、組換えタンパク質の採取・精製のための工程が頻雑になるという問題も生じていた。
【0005】
そこで、これらの問題を解決すべく、枯草菌(Bacillus subtilis)を利用した宿主−ベクター系がこれまでに研究されている。枯草菌は、世代時間が約30分とほとんど大腸菌と変わらず、菌体外へのタンパク質の分泌が可能であり、さらにリポポリサッカライドを菌体構成成分として含まない。そのために、枯草菌を用いた宿主−ベクター系は、大腸菌を用いた宿主−ベクター系と比較すると、組換えタンパク質を大量かつ安定に生産することができ、さらに組換えタンパク質を容易に採取・精製することができるという利点を有している。
【0006】
たとえば、このような枯草菌を宿主とする宿主−ベクター系を利用して組換えタンパク質を生産した例として、ストレプトコッカス・ピョゲネス (Streptococcus pyogenes)株由来のストレプトリジンO遺伝子を発現ベクターに導入し、得られた組換えベクターにより枯草菌を形質転換することで、培養上清からストレプトリジンOを得ることができたことが報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許2988951号公報
【特許文献2】特開平05−184372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、枯草菌を用いた宿主−ベクター系において、組換えタンパク質の種類によっては組換えベクター上の転写を調節する塩基配列(以下、「遺伝子調節領域」と呼ぶ)が何らかの理由で正常に機能しない場合があった。このために、組換えタンパク質の発現が抑えられるという問題のあることが明らかになった。また、遺伝子調節領域が正常に機能したとしても、シグナルペプチドをコードする塩基配列(以下、「シグナルペプチド遺伝子」と呼ぶ)が機能しなかったり、遺伝子調節領域とシグナルペプチド遺伝子の組み合わせが適当でなかったりする場合は、組換えタンパク質がプロテアーゼなどによる分解の受けやすい状態のまま細胞内または細胞膜内に留まるなどの問題があることも分かってきた。
【0008】
そこで、上記問題を解決した、組換えタンパク質の種類に関係なく、組換えタンパク質遺伝子を大量に発現し、かつ、効率よく細胞外に分泌することができる、宿主−ベクター系の確立が枯草菌を宿主とする組換えタンパク質の生産には必要であることが明らかとなった。
【0009】
したがって、本発明の第一の目的は、枯草菌を宿主とする系において、組換えタンパク質の種類に関係なく、タンパク質を大量かつ効率よく生産することができる新たな手段を提供することにある。より具体的には、組換えタンパク質の種類に関係なく、組換えタンパク質を大量に発現することができる遺伝子調節領域を含むDNA断片を提供することにある。これに加え、組換えタンパク質を効率よく細胞外に分泌することができる、遺伝子調節領域およびシグナルペプチド遺伝子の組み合わせを含むDNA断片を提供することにある。さらに、遺伝子調節領域または遺伝子調節領域およびシグナルペプチド遺伝子の下流に組換えタンパク質をコードする塩基配列(以下、「組換えタンパク質遺伝子」と呼ぶ)を連結させたDNA断片を提供することにある。
【0010】
本発明の第二の目的は、上記DNA断片を含む組換えベクター、それによって形質転換された形質転換体、およびそれらを利用した組換えタンパク質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、寄託番号FERM AP−20227のバチルス・エスピー JAMB750(Bacillus sp. JAMB750)株が持つ遺伝子調節領域をクローニングした。さらにシグナルペプチドの分泌性能を高めることを目的として新たにシグナルペプチドをデザインした。この結果、これらを含むDNA断片の下流に、組換えタンパク質の構造遺伝子を結合し、これを適当なベクターに挿入して枯草菌に導入すれば、タンパク質の種類に関係なく、該組換えタンパク質を大量に生産し、かつ、効率よく細胞外に分泌することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列を含み、その下流に存在する遺伝子の発現を促進しうるDNA断片が提供される。
(a)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列;
(b)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基の欠失、置換、逆位もしくは付加された塩基配列;または
(c)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAの塩基配列。
【0013】
さらに本発明によれば、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列を含み、その下流に存在する遺伝子の発現を促進し、さらにその遺伝子の遺伝子産物を細胞外に分泌しうるDNA断片が提供される。
(a)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチドをコードする塩基配列からなる塩基配列;
(b)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチドをコードする塩基配列からなる塩基配列において、1もしくは数個の塩基の欠失、置換、逆位もしくは付加された塩基配列;または
(c)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチドをコードする塩基配列からなる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAの塩基配列。
【0014】
さらに本発明によれば、下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列を含み、その下流に存在する遺伝子の発現を促進し、さらにその遺伝子の遺伝子産物を細胞外に分泌しうるDNA断片が提供される。
(a)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる塩基配列;
(b)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる塩基配列において、1もしくは数個の塩基の欠失、置換、逆位もしくは付加された塩基配列;または
(c)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAの塩基配列。
【0015】
さらに本発明によれば、上記した遺伝子調節領域を含む本発明のDNA断片の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された組換えタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA断片、および上記した遺伝子調節領域およびペプチド遺伝子を含む本発明のDNA断片の塩基配列およびその下流に直接的に連結された組換えタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA断片が提供される。
【0016】
好ましくは、上記した組換えタンパク質は、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、加リン酸分解酵素、脱離酵素、異性化酵素、合成酵素、および修飾酵素からなる群から選ばれる1種の酵素である。
【0017】
さらに本発明によれば、本発明のDNA断片を含む組換えベクターが提供される。
【0018】
好ましくは、上記した組換えベクターは、プラスミド、バクテリオファージ、またはレトロトランスポゾンである。
【0019】
さらに本発明によれば、下記(a)または(b)の宿主からなる形質転換体が提供される。
(a)上記した本発明のDNA断片を形質導入した宿主;または
(b)上記した本発明の組換えベクターを含む宿主。
【0020】
好ましくは上記した宿主が微生物であり、さらに好ましくはグラム陽性細菌であり、より好ましくはバチルス属に属する微生物である。
【0021】
さらに本発明によれば、下記(a)および(b)の工程を含む組換えタンパク質の製造方法が提供される。
(a)上記した本発明の形質転換体の培養工程;および
(b)該組換えタンパク質の採取工程。
【0022】
好ましくは、組換えタンパク質が、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、加リン酸分解酵素、脱離酵素、異性化酵素、合成酵素、および修飾酵素からなる群から選ばれる1種の酵素である。
【0023】
さらに本発明によれば、上記した本発明の組換えタンパク質の製造方法に使用するための上記した本発明の形質転換体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(A)本発明のDNA断片
本発明のDNA断片は、遺伝子調節領域を含むDNA断片、遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子を含むDNA断片、遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結された組換えタンパク質遺伝子を含むDNA断片、ならびに遺伝子調節領域およびその下流に直接的もしくは間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子およびその下流に直接的に連結された組換えタンパク質遺伝子を含むDNA断片である。
【0025】
本明細書にいう「その下流に存在する遺伝子の発現を促進しうる」とは、遺伝子調節領域の3´末端側に位置する遺伝子の転写効率を高め、遺伝子産物の発現を促進しうる作用のことを意味する。
【0026】
本発明の遺伝子調節領域を含むDNA断片は、配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列を含むDNA断片である。配列番号1に記載の塩基配列を含むDNA断片は、たとえば、実施例2に示す方法により、バチルス・エスピー JAMB750株の染色体DNAから取得することができる。一方、配列番号2に記載の塩基配列を含むDNA断片は、たとえば、実施例5に示す方法により、配列番号1に記載の塩基配列にランダム変異を導入することにより取得することができる。
【0027】
本発明の遺伝子調節領域を含むDNA断片を取得するその他の方法としては、たとえば、配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの通常知られる任意の方法で作製することができる。
【0028】
本発明の遺伝子調節領域を含むDNA断片は、たとえば、発現ベクターに組み込み宿主である枯草菌を形質転換することにより、または直接枯草菌の染色体に組み込み形質転換することにより、その下流に存在するタンパク質遺伝子の転写を活性化し、タンパク質の発現を促進させる。
【0029】
本明細書でいう「1から数個の塩基の欠失、置換、逆位、付加および/または挿入を有する塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から9個、特に好ましくは1から5個、最適に好ましくは1から3個程度を意味する。また、「塩基の欠失」とは配列中の塩基の欠落もしくは消失を意味し、「塩基の置換」は配列中の塩基が別の塩基に置き換えられていること、「塩基の逆位」とは隣り合う2以上の塩基の位置が逆になっていること、「塩基の付加」とは塩基が付け加えられていること、「塩基の挿入」とは配列中の塩基の間に別の塩基が挿し入れられていることをそれぞれ意味する。
【0030】
本明細書でいう「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989または、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0031】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0032】
本明細書にいう「シグナルペプチド」とは、シグナルペプチドをコードする塩基配列の下流に存在する遺伝子の遺伝子産物のアミノ末端に付加して、遺伝子産物を細胞外に分泌しうるペプチドを意味する。また、「遺伝子産物を細胞外に分泌しうる」とは、上記した通り、シグナルペプチドが遺伝子産物である組換えタンパク質のアミノ末端側に付加し、組換えタンパク質の小胞体膜への付着および膜通過等を導き、最終的に細胞外に組換えタンパク質を分泌しうる作用を意味する。
【0033】
本明細書にいう「配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された」とは、配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列と、この塩基配列の3´末端側に0〜1000程度の塩基を介して連結されることを意味する。
【0034】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子からなるDNA断片は、上記した遺伝子調節領域と0〜1000程度の塩基を介して連結されたシグナルペプチド遺伝子を含むDNA断片であり、好ましくは、上記した遺伝子調節領域と0〜100程度の塩基を介して連結された配列表の配列番号3に記載のシグナルペプチド遺伝子を含むDNA断片である。
【0035】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子からなるDNA断片は、たとえば実施例3または5で示す方法により取得できる。また、シグナルペプチド遺伝子を含むDNA断片に限っては、たとえば、通常知られるシグナルペプチド遺伝子または配列表の配列番号3に記載の塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの通常知られる任意の方法で作製することができる。化学合成法としては、たとえば、ホスホアミダイト法を応用することにより自動合成しうる。なお、配列表の配列番号3に記載のシグナルペプチドは、バチルス属細菌の分泌するタンパク質群のアミノ末端側のアミノ酸配列情報から統計処理してデザインして得られた数十候補のアミノ酸配列から、組換えタンパク質生産性を評価し選択したものである。本配列は1または数個、好ましくは1または2個のアミノ酸残基を付加、欠失または置換しても利用できる。
【0036】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子からなるDNA断片は、たとえば、発現ベクターに組み込み宿主である枯草菌を形質転換することにより、または直接枯草菌の染色体に組み込み形質転換することにより、その下流に存在するタンパク質遺伝子の転写を活性化し、タンパク質の発現を促進させ、さらに発現したタンパク質を菌体外に分泌させ得る。
【0037】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結された組換えタンパク質遺伝子を含むDNA断片は、上記した遺伝子調節領域およびその3´末端側に0〜1000程度の塩基を介して連結された組換えタンパク質遺伝子からなるDNA断片である。
【0038】
一方、本発明の遺伝子調節領域、その下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子、およびその下流に直接的に連結された組換えタンパク質遺伝子を含むDNA断片は、上記した遺伝子調節領域、その3´末端側に0〜1000程度の塩基を介して連結されたシグナルペプチド遺伝子、およびさらにその3´末端側に連結された組換えタンパク質遺伝子からなるDNA断片であり、好ましくは、上記シグナルペプチド遺伝子は配列表の配列番号3に記載のシグナルペプチド遺伝子である。
【0039】
本発明のDNA断片の具体例としては、実施例4で示している通り、配列表の配列番号1に記載の塩基配列、その下流に10塩基を介して連結された配列番号3に記載のシグナルペプチドをコードする遺伝子およびさらにその下流に直接的に連結されたβアガラーゼ遺伝子を含むDNA断片である。
【0040】
本発明のDNA断片に含まれる組換えタンパク質遺伝子の遺伝子産物である組換えタンパク質は特に限定されず、たとえば、洗剤、食品、繊維、飼料、化学品、医療、診断など各種産業用酵素や、生理活性ペプチドなどが含まれる。また、産業用酵素の機能別には、酸化還元酵素 ( O x i d o r e d u c t a s e ) 、転移酵素 ( T r a n s f e r a s e ) 、加水分解酵素 ( H y d r o l a s e ) 、加リン酸分解酵素( P h o s p h o r y l a s e )、脱離酵素 ( L y a s e )、異性化酵素 ( I s o m e r a s e ) 、合成酵素 (L i g a s e / S y n t h e t a s e )、修飾酵素(Modifying enzyme) 等が含まれる。さらに具体的には、セルラーゼおよび寒天分解酵素等の糖質分解酵素、サイクロデキストリン合成酵素などの糖質転移酵素、マルトースホスホリラーゼやトレハロースホスホリラーゼなどの二糖類加リン酸分解酵素、ならびに硫酸基転移酵素などの糖質修飾酵素などが挙げられる。実施例は、本発明のDNA断片を利用して、糖質分解酵素の一種であるα−またはβ−アガラーゼ、およびセルラーゼを大量に分泌生産しうることを示す。
【0041】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結された組換えタンパク質遺伝子からなるDNA断片、または遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子、ならびにその下流に直接的に連結された組換えタンパク質遺伝子からなるDNA断片を取得する方法としては、たとえば実施例3および5で示している通り、大腸菌−枯草菌のシャトルベクターであるpHY300PLKプラスミドにより、マルチクローニング部位であるEcoRI部位に遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子からなるDNA断片を挿入し、同じくマルチクローニング部位であるBamHI部位に組換えタンパク質遺伝子を挿入してプラスミドDNAとして取得する方法がある。
【0042】
具体的には、たとえば、まず目的の組換えタンパク質遺伝子を有する生物の染色体DNAを鋳型にPCR増幅を用いて目的タンパク質の分泌性、安定性や活性に必要な部位を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む該組換えタンパク質遺伝子を増幅する。得られる組換えタンパク質遺伝子のPCR増幅物とpHY300PLKを制限酵素BamHIで消化することによって得られたDNA断片をライゲーションする。得られるライゲーション反応液により大腸菌を形質転換し、pHY300PLKのBamHI部位に該組換えタンパク質遺伝子が挿入されているプラスミドを含む形質転換体を選択し、この形質転換体からプラスミドDNAを調製する。得られるプラスミドDNAを制限酵素EcoRIで処理して切断する。バチルス・エスピー JAMB750株の染色体DNAを鋳型にプロモーター部位やSD配列などを含む遺伝子調節領域をPCR増幅し、上記のEcoRIで切断された開環プラスミドDNAとライゲーションし、得られるライゲーション反応液により大腸菌を形質転換する。正常に形質転換した形質転換体を選択し、プラスミドDNAを調製することで、本発明のDNA断片を取得することができる。
【0043】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結された組換えタンパク質遺伝子からなるDNA断片は、たとえば、発現ベクターに組み込み宿主である枯草菌を形質転換することにより、または直接枯草菌の染色体に組み込み形質転換することにより、組換えタンパク質遺伝子の発現を促進しうる。
【0044】
本発明の遺伝子調節領域およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチド遺伝子、ならびにその下流に直接的に連結された組換えタンパク質遺伝子からなるDNA断片は、たとえば、発現ベクターに組み込み宿主である枯草菌を形質転換することにより、または直接枯草菌の染色体に組み込み形質転換することにより、組換えタンパク質の発現を促進し、さらに発現する組換えタンパク質を菌体外に分泌しうる。
【0045】
(B)本発明の組換えベクター
本発明のDNA断片は適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、宿主細胞内で自立的に複製することが可能なもの(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、本発明で用いるベクターは、プラスミド、バクテリオファージ、またはレトロトランスポゾンである。このようなベクターに組み込まれた本発明のDNA断片は、ベクター内で機能的かつ構造的に安定に保持される。
【0046】
宿主細胞内で自立的に複製することが可能なベクターの具体例としては、pRS413、pRS415、pRS416、YCp50、pAUR112またはpAUR123などのYCp型大腸菌−酵母シャトルベクター;pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pAUR101またはpAUR135などのYIp型大腸菌−酵母シャトルベクター;大腸菌由来のプラスミド(たとえば、pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pUC119、pTV118N、pTV119N、pBluescript、pHSG298、pHSG396またはpTrc99AなどのColE系プラスミド;pACYC177またはpACYC184などのp1A系プラスミド;pMW118、pMW119、pMW218またはpMW219などのpSC101系プラスミドなど);枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5など);pHY300PLKなどの大腸菌−枯草菌シャトルベクターを挙げることができる。またファージベクターとして、λファージ(たとえば、Charon 4A、Charon21A、EMBL4、λgt100、gt11、zap)、ψX174、M13mp18、M13mp19などを挙げることができる。レトロトランスポゾンとしてはTy因子などを挙げることができる。また、融合タンパク質として発現する発現ベクター、例えばpGEXシリーズ(ファルマシア製)、pMALシリーズ(Biolabs社製)を使用することもできる。
【0047】
本発明の組換えベクターは、本発明のDNA断片の他さらに選択マーカー遺伝子、ターミネーター、およびエンハンサーなどを機能的に含有してもよい。選択マーカー遺伝子としては、たとえば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、またはたとえばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、シクロヘキシミド、テトラマイシン、ネオマイシンもしくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。本発明のDNA断片、選択マーカー遺伝子、ターミネーター、およびエンハンサーをそれぞれ機能的に連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は、当業者に通常知られる方法、たとえば、Molecular Cloning (1989) (Cold Spring Harbor Lab.)に記載の方法である。各々の組換えベクターにおける挿入位置は、組換えベクターの複製に関与していない領域であればどこでも良く、通常はベクター内のマルチクローニングサイトが利用される。
【0048】
(C)本発明の形質転換体
本発明のDNA断片または組換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。すなわち、本発明の形質転換体は、本発明のDNA断片を導入してなる、または本発明の組換えベクターを含有する形質転換体である。
【0049】
本明細書でいう「DNA断片を形質導入した宿主」における「DNA断片を形質導入した」とは、バクテリオファージなどによって、本発明のDNA断片を宿主細胞へ導入すること、あるいは、本発明のDNA断片が宿主細胞の染色体DNAに組み込まれることを意味する。
【0050】
本発明のDNA断片または組換えベクターが導入される宿主細胞は、微生物であり、好ましいのはグラム陽性菌であり、さらに好ましくは枯草菌であり、最適に好ましいのは枯草菌のISW1214株、BD170株、または168株等である。しかし、本発明のDNA断片または組換えベクターを安定に保持し、複製することができるものであれば、枯草菌以外のバチルス(Bacillus)属細菌などを使用してもよい。
【0051】
本明細書でいう「バチルス属」とは、通常知られるバチルス属に含まれるすべての種類を含み限定されないが、たとえば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・クラウジイ(Bacillus clausii)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、およびバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)などを意味する。なお、バチルス属は分類上再編成を受け続けており、当該属は再分類された種も含むものとする。たとえば、ジオバチルス(Geobacillus)属、アルカリバチルス(Alkalibacillus)属、アンフィバチルス(Amphibacillus)属 、アミロバチルス(Amylobacillus)属、アノキシバチルス(Anoxybacillus)属 、ゴリバチルス(Goribacillus)属、セラシバチルス(Cerasibacillus)属、グラシリバチルス(Gracilibacillus)属、ハロバチルス(Halolactibacillus)属、ハロアルカリバチルス(Halalkalibacillus)属、フィロバチルス(Filobacillus)属、ジョーガリバチルス(Jeotgalibacillus)属、サリバチルス(Salibacillus)属、オーシャノバチルス(Oceanobacillus)属、マリニバチルス(Marinibacillus)属、リシニバチルス(Lysinibacillus)属、レンチバチルス(Lentibacillus)属、ウレーバチルス(Ureibacillus)属、サリニバチルス(Salinibacillus)属、ポンチバチルス(Pontibacillus)属、ピシバチルス(Piscibacillus)属、パラリオバチルス(Paraliobacillus)属、ヴァージバチルス(Virgibacillus)属、サルシューギニバチルス(Salsuginibacillus)属、テニューイバチルス(Tenuibacillus)属、タラソバチルス(Thalassobacillus)属、サームアルカリバチルス(Thermalkalibacillus)属、チューメバチルス(Tumebacillus)属などがあり、これらもまた本明細書にいうバチルス属に含まれるものとする。
【0052】
本発明のDNA断片または組換えベクターを宿主細胞に導入する方法はとくに限定されないが、たとえば、コンピテントセル法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、カルシウムイオン法、リポフェクション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、相同または異種組換え法等を用いることができる。宿主細胞が枯草菌である場合は、コンピテントセル法またはプロトプラスト法が好ましい。
【0053】
本発明のDNA断片または組換えベクターにより形質転換した形質転換体を取得する方法は、たとえば、本発明のDNA断片の下流に結合した選択マーカー遺伝子などの適当な遺伝子の発現を指標とする方法、DNAプローブを用いたハイブリダイゼーションによる方法、および組換えタンパク質の基質特異性を利用する方法などを用いることができる。組換えタンパク質の基質特異性を利用する方法の具体例としては、実施例4で示すとおり、本発明のDNA断片の下流にβアガラーゼ遺伝子を組み込み、形質転換操作を終えた宿主細胞を寒天培地上で培養することにより、アガラーゼ活性により寒天が溶解したコロニーを選択することで、本発明のDNA断片または組換えベクターにより形質転換した形質転換体を取得することができる。
【0054】
(D)本発明の組換えタンパク質の製造方法
本発明は、本発明の形質転換体を通常知られる方法にしたがって適当な培地に接種して培養し、培養物から組換えタンパク質を採取してなる、組換えタンパク質の製造方法を包含する。
【0055】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地としては、炭素源、窒素源、無機物、および必要に応じ使用菌株の必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、天然培地、合成培地のいずれでもよい。
【0056】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の炭素源としては、該形質転換体が資化しうる物であればよく、例えば、グルコース、マルトース、フラクトース、マンノース、トレハロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、デキストリン、糖蜜などの糖質、またはクエン酸、コハク酸などの有機酸、またはグリセリンなどの脂肪酸も使用することができる。
【0057】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の窒素源としては、各種有機および無機の窒素化合物、さらに培地は各種の無機塩を含むことができる。たとえば、コーンスティープリカー、大豆粕、あるいは各種ペプトン類等の有機窒素源、そして塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム等の無機窒素源などの化合物が使用可能である。また、グルタミン酸などのアミノ酸および尿素などの有機窒素源が炭素源にもなることはいうまでもない。さらに、ペプトン、ポリペプトン、バクトペプトン、肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆粕、乾燥酵母、カザミノ酸、ソリュブルベジタブルプロテイン等の窒素含有天然物も窒素源として使用できる。
【0058】
本発明の形質転換体の培養に用いる栄養培地の無機物としては、たとえば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。具体的には、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が用いられる。さらに、必要に応じて、アミノ酸ならびにビオチンおよびチアミンなどの微量栄養素ビタミンなども適宜用いられる。
【0059】
たとえば、組換え枯草菌168株によって組換えタンパク質を製造する場合、グルコースやフラクトースなどの単糖類、スクロースやマルトース等の二糖類、またはデンプン等の多糖類等を炭素源とし、ペプトン、大豆粉、酵母エキス、魚肉エキスまたはコーンスティープリカー等を窒素源とし、さらに金属塩等を配合した培地を用いることができる。
【0060】
培養法としては液体培養法がよく、回分培養、流加培養、連続培養または灌流培養のいずれを用いてもよいが、工業的には通気攪拌培養法が好ましい。培養温度とpHは、使用する形質転換体の増殖に最も適した条件を選べばよい。培養時間は微生物が増殖し始める時間以上の時間であればよく、好ましくは8〜120時間であり、さらに好ましくは組換えタンパク質遺伝子の遺伝子産物が最大に生成する時間までである。たとえば、形質転換体が枯草菌の場合の培養は、通常、温度15〜42℃、好ましくは28〜37℃、pH5〜9、好ましくは6〜8、培養日数2〜7日間から選ばれる条件で振盪または通気攪拌して行われる。枯草菌の増殖を確認する方法は特に制限はないが、たとえば、培養物を採取して顕微鏡で観察してもよいし、吸光度で観察してもよい。また、培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5〜20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したりすればよい。
【0061】
本発明の形質転換体の培養において、組換えベクターに選択マーカーを含有させている場合などでは、選択マーカーに対応した抗生物質を栄養培地とともに加える。たとえば、選択マーカーとしてテトラサイクリン耐性遺伝子およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含有する場合は、適当な濃度に調製したテトラサイクリン溶液およびクロラムフェニコール溶液をそれぞれ加える。また、必要であれば、本発明のポリヌクレオチドを有する遺伝子の発現を誘導する発現誘導剤を培養開始時または培養開始から形質転換体の増殖を確認した後に加える。たとえば、発現誘導剤としては、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いる。
【0062】
このようにして得られた培養物から、組換えタンパク質を採取する。該組換えタンパク質は通常形質転換体外に蓄積される。そこで、形質転換体外に蓄積された組換えタンパク質を培養上清から採取する。本発明の組換えタンパク質の製造方法における組換えタンパク質の採取工程は、一般のタンパク質の採取の手段に準じて行うことができる。たとえば、通常知られる手段によって形質転換体を除いた後に培養上清を組換えタンパク質含有物として用いることができる。
【0063】
ただし、宿主の種類によっては組換えタンパク質を形質転換体内または形質転換体の細胞膜内に蓄積する場合もあり得る。その場合は、特に限定はされないが、たとえば、有機溶剤やリゾチームのような酵素によって形質転換体を溶解する方法、および、超音波破砕法、フレンチプレス法、ガラスビーズ破砕法、ダイノミル破砕法等の細胞破砕法で得られた形質転換体の細胞破砕物および/または培養物を遠心分離法、ろ過法等の操作によって形質転換体と培養上清に分離する。このようにして得られた培養上清を、組換えタンパク質含有物として用いることができる。また、分離した形質転換体をそのまま組換えタンパク質含有物とすることもできる。
【0064】
上記組換えタンパク質含有物は、そのままで使用することもできるが、必要に応じて、たとえば塩析法、沈澱法、透析法、限外濾過法等の通常知られる方法を単独または組み合わせることにより工業用途の濃縮組換えタンパク質含有物を調製できる。
【0065】
さらに前記濃縮組換えタンパク質含有物を、たとえば、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、レジンカラム法等の通常知られる単離・精製法の組合せに供すことにより、精製組換えタンパク質を得ることができる。
【実施例】
【0066】
[実施例1]遺伝子調節領域探索用プラスミドの構築
遺伝子調節領域DNA断片検索用ベクターpPTCFを以下の方法で構築した。
マイクロバルビファー・エスピー JAMB−A7(Microbulbifer sp. JAMB-A7)株(寄託番号;FERM BP−8320)由来の染色体DNAを鋳型にして、配列表の配列番号4に記載のプライマーAおよび配列番号5に記載のプライマーBを用いてPCRを行い、DNA断片Aを得た。得られたDNA断片Aを制限酵素EcoRIで処理し、あらかじめEcoRIで処理しておいた枯草菌−大腸菌のシャトルプラスミドであるpHY300PLK(ヤクルト社製)と連結することにより環状プラスミドBを構築した。環状プラスミドBを用いて大腸菌HB101株を形質転換し、形質転換体Cを得た。形質転換体Cから環状プラスミドBを調製し、その中から寒天分解酵素遺伝子の上流にPHY300PLK由来のポリリンカー部位を有するプラスミドをpPTCFと命名した。
【0067】
[実施例2]遺伝子調節領域の取得(1)
制限酵素Sau3AIによりバチルス・エスピー JAMB750(Bacillus sp. JAMB750)株(寄託番号:FERM AP−20227)の染色体DNAを処理した後、これを制限酵素BamHIで切断した実施例1で構築したプラスミドpPTCFと混ぜてT4DNAリガーゼによりライゲーション反応し、ライゲーション反応液Dを得た。得られたライゲーション反応液Dにより枯草菌を形質転換し、形質転換体E群を得た。形質転換体E群の培養に用いた再生培地として、コハク酸ナトリウム 8%、寒天 1%、カザミノ酸 0.5%、酵母エキス 0.5%、リン酸2水素カリウム 0.15%、リン酸水素2カリウム 0.35%、グルコース 0.5%、硫酸マグネシウム 0.4%、牛血清アルブミン 0.01%、メチオニン 0.001%、ロイシン 0.001%およびテトラサイクリン 7.5μg/mlからなるDM3培地を用いた。形質転換体E群をDM3培地上で培養し、周囲に寒天の窪みを形成した約2000個のクローンを選択し、それぞれを液体培養した。この液体培養では、ポリペプトンS 3%、魚肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.05%、リン酸2水素カリウム 0.1%、マルトース 4%、硫酸マグネシウム 0.02%、塩化カルシウム 0.05%およびテトラサイクリン 7.5μg/mlを組成成分とする液体培地を用い、30℃、48時間の振とう条件で培養した。各培養液を超音波で破砕し(Handy sonic model UR−20P、TOMY SEIKO CO.製を使用)、得られた超音波破砕物の寒天分解酵素活性を測定した。その中で最も活性の高かったものを選択し、この形質転換体の持つプラスミドをpCDAG1と命名した。なお、寒天分解酵素活性は下記の方法で測定した。
【0068】
寒天分解酵素活性の測定は95℃にて加温溶解し、50℃まで冷却した精製寒天 0.2%(ナカライテスク社製)を基質として、50mM MOPS緩衝液(pH 7.0)中、50℃で行った。酵素反応によって生成した還元糖を3、5−ジニトロサリチル酸(DNS)法により測定した。
【0069】
[実施例3]遺伝子調節領域の取得(2)
サラッソモナス・エスピー JAMB−A33(Thalassomonas sp. JAMB−A33)株(寄託番号;DSM17297)由来の染色体DNAを鋳型に配列表の配列番号6に記載のプライマーCと配列番号7に記載のプライマーDを用いてPCR増幅を行い、約300bpから成るPCR増幅DNA断片Fを取得した。このPCR増幅DNA断片Fを制限酵素HindIIIで処理し、あらかじめHindIIIで切断しておいたpHY300PLKとリガーゼ反応により連結し、環状プラスミドGを得た。環状プラスミドGにより大腸菌HB101株を形質転換した。形質転換体からプラスミドを調製し、pHYTERと命名した。
発現ベクターpJEXOPT1を以下の方法で構築した。
実施例2で得られたプラスミドpCDAG1を鋳型にして、配列表の配列番号8に記載のプライマーEおよび配列番号9に記載のリン酸化プライマーFを用いてPCRにより約300bpから成る遺伝子調節領域の増幅を行い、PCR増幅物Hを得た。
一方、配列番号18に記載の塩基配列からなる合成一本鎖DNAと配列番号19に記載の塩基配列からなる合成一本鎖DNAをアニーリングさせ二本鎖DNA断片Iを得て、この末端にリン酸化処理を施した。得られたPCR増幅物Hと二本鎖DNA断片Iをリガーゼ反応により結合し、これを鋳型にして配列番号10に記載のプライマーGと配列番号11に記載のプライマーHを用いてPCR増幅を行った。得られたPCR増幅断片を制限酵素であるEcoRIおよびBamHIで処理した後、EcoRIとBamHIで処理したpHYTERと連結することにより環状プラスミドを構築した。本プラスミドを用いて大腸菌HB101株を形質転換した。形質転換体からプラスミドを調製し、pJEXOPT1と命名した。
【0070】
[実施例4]発現ベクターによるβアガラーゼ分泌生産
βアガラーゼ生産菌であるマイクロバルビファー・エスピー JAMB−A49(Microbulbifer sp. JAMB−A94)株(寄託番号;FERM BP−8321)の染色体を鋳型とし、配列表の配列番号12に記載のプライマーIおよび配列番号13に記載のプライマーJを用いてβアガラーゼ酵素遺伝子DNA断片をPCR増幅した。これを制限酵素BamHIで処理した。発現ベクターpJEXOPT1を制限酵素BamHIで切断し、リガーゼでβアガラーゼ酵素遺伝子と連結した。このβアガラーゼ酵素遺伝子を含むpJEXOPT1で大腸菌HB101株を形質転換した。βアガラーゼ活性を示す形質転換体からプラスミドを調製し、pJEXOPT1bと命名した。このプラスミドを用いて枯草菌ISW1214(Bacillus subtilis ISW1214)株を形質転換し、テトラサイクリン入り再生培地による選抜を行った。得られた形質転換体をポリペプトンS 5%、魚肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.05%、リン酸水素カリウム0.1%、マルトース5%、塩化マグネシウム0.02%、塩化カルシウム0.05%、およびテトラサイクリン15μg/mlを組成成分とするPPS培地中で、30℃、72時間、130rpmにて撹拌培養を行い、菌体を除去して得られた培養上清に含まれるβアガラーゼ活性を測定した。その結果、培養液1Lあたり約0.15gのβアガラーゼの大量生産が確認できた。
【0071】
[実施例5]遺伝子調節領域の改変
一方、プラスミドpCDAG1を鋳型にして配列表の配列番号8に記載のリン酸化プライマーEおよび配列番号9に記載のリン酸化プライマーFを用いてPCRによる増幅を行った。得られたPCR断片をpUC18のSmaI部位に導入した。構築されたプラスミドを鋳型にして、プライマーEおよびプライマーFを用いてDiversify PCR Random Mutagenesis Kit( クロンテック社)を用い、キットのプロトコールにしたがって、PCR増幅断片中にランダムに変異を導入した。このランダム変異操作を5回繰り返した。得られたPCR産物を鋳型にプライマーEおよびリン酸化プライマーFを用いてPCR増幅を行った。その後T4DNAポリメラーゼを用いてPCR産物の末端を平滑にした。
一方、配列番号18に記載の塩基配列からなる合成一本鎖DNAと配列番号19に記載の塩基配列からなる合成一本鎖DNAをアニーリングさせ二本鎖DNA断片を得て、この末端にリン酸化処理を施した。
得られたPCR産物と二本鎖DNA断片をリガーゼ反応により結合した。得られたDNA断片を制限酵素EcoRI、BamHIで処理した後、EcoRIとBamHIで処理したpHYTERと連結することにより環状プラスミド群を構築した。本プラスミド群を用いて大腸菌HB101株を形質転換した。得られた数千あまりの形質転換体からまとめてプラスミド群を調整した。これをプラスミド群Aとした。次にβアガラーゼ生産菌であるマイクロバルビファー・エスピー JAMB−A94(Microbulbifer sp. JAMB−A94)株の染色体を鋳型とし、配列番号12に記載のプライマーIおよび配列番号13に記載のプライマーJを用いてβアガラーゼ酵素遺伝子DNA断片をPCR増幅した。これを制限酵素BamHIで処理した。プラスミド群Aを制限酵素BamHIで切断し、リガーゼによってβアガラーゼ酵素遺伝子と連結した。これらを用いて大腸菌HB101株を形質転換した。βアガラーゼ活性を示す形質転換体からプラスミドを調製し、これらのプラスミドを用いて枯草菌ISW1214株を形質転換し、テトラサイクリン入り再生培地による選抜を行った。得られた形質転換体をPPS培地(ポリペプトンS 5%、魚肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.05%、リン酸水素カリウム 0.1%、マルトース 5%、塩化マグネシウム 0.02%、塩化カルシウム 0.05%、テトラサイクリン 15μg/ml)中で30℃、72時間、130rpmにて撹拌培養を行い、得られた培養上清に含まれるβアガラーゼ活性を測定した。その結果、培養液1Lあたり約0.2gのβアガラーゼの大量生産できるプラスミドpJEXOPT2を取得できた。
【0072】
[実施例6]発現ベクターによるセルラーゼ分泌生産
セルラーゼ生産菌であるバシラス・アキバイ1139(Bacillus akibai1139)株(寄託番号;JCM 9157T) (J. Gen. Microbiol. 1986, 132, 2329-2335. Fukumoriら、Int J Syst Evol Microbiol. (2005)55:2309-15. Nogi, Y.ら)の染色体を鋳型とし、配列表の配列番号14に記載のプライマーMおよび配列番号15に記載のプライマーNを用いてセルラーゼ酵素遺伝子DNA断片をPCR増幅した。これを制限酵素BamHIで処理した。pJEXOPT1、pJEXOPT2を制限酵素BamHIで切断し、リガーゼによってセルラーゼ酵素遺伝子と連結した。これらを用いて大腸菌HB101株を形質転換した。セルラーゼ活性を示す形質転換体からプラスミドを調製し、各々pJEXOPT1C、pJEXOPT2Cと命名した。これらのプラスミドを用いて枯草菌ISW1214株を形質転換し、テトラサイクリン入り再生培地による選抜を行った。得られた形質転換体をPPS培地(ポリペプトンS 3%、魚肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.05%、リン酸水素カリウム 0.1%、マルトース 4%、塩化マグネシウム 0.02%、塩化カルシウム 0.05%、テトラサイクリン 15μg/ml)中で30℃、72時間、130rpmにて撹拌培養を行い、得られた培養上清に含まれるセルラーゼ活性を測定した。その結果、培養液1LあたりpJEXOPT1Cでは約1g、pJEXOPT2Cでは約1.5gのセルラーゼの大量生産が確認できた。
【0073】
[実施例7]発現ベクターによるαアガラーゼ分泌生産
αアガラーゼ生産菌であるサラッソモナス・エスピー JAMB−A33(Thalassomonas sp. JAMB−A33)株(寄託番号;DSM 17297)の染色体を鋳型とし、配列表の配列番号16に記載のプライマーOおよび配列番号17に記載のプライマーPを用いてαアガラーゼ酵素遺伝子DNA断片をPCR増幅した。これを制限酵素BamHIで処理した。pJEXOPT1、pJEXOPT2を制限酵素BamHIで切断し、リガーゼによってαアガラーゼ酵素構造遺伝子と連結した。これらを用いて大腸菌HB101株を形質転換した。アガラーゼ活性を示す形質転換体からプラスミドを調製し、各々pJEXOPT1a、pJEXOPT2aと命名した。これらのプラスミドを用いて枯草菌ISW1214株を形質転換し、テトラサイクリン入り再生培地による選抜を行った。得られた形質転換体をPPS培地(ポリペプトンS 5%、魚肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.05%、リン酸水素カリウム 0.1%、マルトース 5%、塩化マグネシウム 0.02%、塩化カルシウム 0.05%、テトラサイクリン 15μg/ml)中で30℃、72時間、130rpmにて撹拌培養を行い、得られた培養上清に含まれるαアガラーゼ活性を測定した。その結果、培養液1LあたりpJEXOPT1aでは0.2g、pJEXOPT2aでは0.3gのαアガラーゼの大量生産が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列を含み、その下流に存在する遺伝子の発現を促進しうるDNA断片:
(a)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列;
(b)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基の欠失、置換、逆位もしくは付加された塩基配列;または
(c)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAの塩基配列。
【請求項2】
下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列を含み、その下流に存在する遺伝子の発現を促進し、さらにその遺伝子の遺伝子産物を細胞外に分泌しうるDNA断片:
(a)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチドをコードする塩基配列からなる塩基配列;
(b)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチドをコードする塩基配列からなる塩基配列において、1もしくは数個の塩基の欠失、置換、逆位もしくは付加された塩基配列;または
(c)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結されたシグナルペプチドをコードする塩基配列からなる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAの塩基配列。
【請求項3】
下記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列を含み、その下流に存在する遺伝子の発現を促進し、さらにその遺伝子の遺伝子産物を細胞外に分泌しうるDNA断片:
(a)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる塩基配列;
(b)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる塩基配列において、1もしくは数個の塩基の欠失、置換、逆位もしくは付加された塩基配列;または
(c)配列表の配列番号1または2に記載の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAの塩基配列。
【請求項4】
請求項1に記載のDNA断片の塩基配列およびその下流に直接的または間接的に連結された組換えタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA断片。
【請求項5】
請求項2または3に記載のDNA断片の塩基配列およびその下流に直接的に連結された組換えタンパク質をコードする塩基配列を含むDNA断片。
【請求項6】
組換えタンパク質が、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、加リン酸分解酵素、脱離酵素、異性化酵素、合成酵素、および修飾酵素からなる群から選ばれる1種の酵素である、請求項4または5に記載のDNA断片。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のDNA断片を含む組換えベクター。
【請求項8】
組換えベクターが、プラスミド、バクテリオファージ、またはレトロトランスポゾンである、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項9】
下記(a)または(b)の宿主からなる形質転換体:
(a)請求項1〜6に記載のDNA断片を形質導入した宿主;または
(b)請求項7または8に記載の組換えベクターを含む宿主。
【請求項10】
宿主が微生物である、請求項9に記載の形質転換体。
【請求項11】
宿主がグラム陽性細菌である、請求項9に記載の形質転換体。
【請求項12】
宿主がバチルス属に属する微生物である、請求項9に記載の形質転換体。
【請求項13】
下記(a)および(b)の工程を含む組換えタンパク質の製造方法:
(a)請求項9〜12のいずれか1項に記載の形質転換体の培養工程;および
(b)該組換えタンパク質の採取工程。
【請求項14】
組換えタンパク質が、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、加リン酸分解酵素、脱離酵素、異性化酵素、合成酵素、および修飾酵素からなる群から選ばれる1種の酵素である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の組換えタンパク質の製造方法に使用するための請求項9〜12のいずれか1項に記載の形質転換体。

【公開番号】特開2009−17841(P2009−17841A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183934(P2007−183934)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【Fターム(参考)】