方法
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2免疫応答のTh2-型への偏りを改変する方法であって、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少することによって、Th2-型への偏りを低減させること;または、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加することによって、Th2-型への偏りを増大させること、を含む方法。本発明の方法によって改変された抗原または本発明によるワクチンまたは本発明による組成物、および、医薬的に許容されるキャリアを含む医薬組成物。病気の予防または治療のための医薬の製造における、本発明の方法によって改変された抗原または本発明によるワクチンまたは本発明による組成物または本発明による医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原に曝露した動物、例えばヒトの、Th1/Th2-型の免疫応答のTh2型への偏りを改変するための、抗原を改変する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原刺激に対する適応的免疫応答は、T-helper type-1(Th1)およびT-helper type 2(Th2)と呼ばれる、大きく2つの型に分けることができる。これらの応答は、応答の間にT細胞によって分泌されるサイトカインの型によって基本的には定義される、抗原に対する幅広い免疫応答をカバーしている。一般的に、Th1型へと偏った応答は、インターフェロンガンマおよびインターロイキン-12(IFN-γおよびIL-12、それぞれ)サイトカインの分泌によって特徴付けられる。Th1応答は、強いCD8+キラーT細胞応答を付随する傾向があり、そのため、ウィルス、細胞内細菌(例えば、Tuberculosis、MycobacteriaおよびSalmonella spp.)、細胞内寄生虫および酵母などの細胞内病原菌に対する免疫によって重要である。制御できない場合は、Th1細胞は、免疫病理を媒介し、I型糖尿病、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、実験的自己免疫性脳炎などの自己免疫疾患にも関連する(O’Garra and Arai, (2000) Trends Cell Bio 10, 542-550を参照)。
【0003】
免疫応答におけるTh2への偏りは、Th1偏りと異なったサイトカイン産生バランスによって特徴付けられる。それ故、Th2細胞は、例えば、IL-4、5、9および13を含むプロファイルのサイトカインを産生し、同時に、B細胞を増殖し、抗体分泌プラズマ細胞へと分化するように指令を出し、抗寄生虫応答において複数の型の細胞の機能を可能にする。幾つかのTh2サイトカイン(例えば、IL-4)は、Th1-型サイトカインの産生と拮抗するのに対して、幾つかのTh1-型サイトカイン(例えば、IFN-γ)は、Th2-型サイトカインの産生と拮抗する。細胞内病原菌に対して防御する機能を有するTh1細胞と対照的に、Th2細胞は、腸管寄生蠕虫を含む細胞外病原菌に対する防御を付与するという重要な役割を担っている。しかしながら、これらの細胞は、また、アレルギーおよびアトピーの兆候を媒介する。このことは、Th2-誘導サイトカインが、気道過敏性(例えば、喘息)およびIgEの産生を誘導することができるという知見と一致する(Dong and Flavell, (2000) Arthritis Res 2, 179-188を参照)。
【0004】
Th1-およびTh2-特異的サイトカインの両方は、それぞれ自身の個別のT細胞サブセットの増殖および分化を促進することができるが、付加的に、反対のサブセットの発達を阻害することができる。Th1細胞は、Th2細胞の増殖を阻害するIFNγを産生するのに対して、Th2細胞は、Th1細胞によるIFNγの産生を阻害するインターロイキン-4(IL-4)を産生する(de Waals Malefyt, (1997), Smin Oncology 3, suppl 9, S9-94-S9-98)。このことによって、多くの応答が2つの型の間でバランスを取っているのに対して、Th1およびTh2応答が、たびたび、相互に排他的であることが説明できるであろう。
【0005】
過敏性は、外来性抗原に対する、過大なまたは望ましくない免疫応答として定義することができる免疫系の応答の1つのクラスである。これらは、組織の損傷をもたらし、アレルギーを含む重篤な病気を引き起こし得る有害な免疫応答である。過敏性応答は、免疫機構に応じて、I型からIV型として分類される。
【0006】
身体の任意の組織に影響を及ぼす様々な兆候において、アレルギーが生じる。摂取した物質に対するアレルギーは、特に、消化管、皮膚、肺、鼻および中枢神経系に一般的に影響を及ぼす。これらの組織に影響を及ぼす摂取した物質に対するアレルギー反応は、腹痛、腹部膨満、腸機能の乱れ、嘔吐、発疹、皮膚炎、喘鳴および息切れ、鼻汁および鼻づまり、頭痛および行動変化として現れる。加えて、幾つかのアレルギー反応においては、循環器系および呼吸器系にアナフィラキシーショックがもたらされ、ある場合においては死をもたらす。
【0007】
特定の慢性疾患においては、摂取した物質に対するアレルギーが、ある割合の患者の病気の推定原因であるとも認識されている。これらの病気には、アナフィラキシーショックに対する感受性、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性腸症候群、偏頭痛および子供における過敏性が含まれる。食物アレルギーは、炎症性腸症候群(潰瘍性大腸炎およびクローン病)の特定の患者の因子となっている可能性もある。
【0008】
吸引した物質に対するアレルギーは、鼻炎、喘息または花粉症として表れる可能性がある。気管および/または眼が影響を受けやすい。例えば、病院の研究室の制御された条件下で、喘息は、アレルゲンの吸引によって誘発することができる。この応答は、即時型喘息反応(EAR)、I型アレルギー応答の発現に続く、遅発型喘息反応(LAR)、典型的なIV型アレルギー応答によって特徴付けられる(Allergy and Allergic Diseases (1997), A.B. Kay (Ed.), Blackwell Science, pp 1113-1130を参照)。EARは、アレルゲン曝露後数分間で生じ、10分から15分間で最大になり、通常、1時間までにベースライン近くに戻る。EARは、ヒスタミンおよびロイコトリエンなどの肥満細胞に由来するメディエーターのIgEを介した放出に依存することが、一般的に受け入れられている。対照的に、LARは、6-9時間で最大に達し、少なくとも部分的には、喘息応答における炎症の構成要素を示すと考えられており、この意味から、慢性喘息の有用なモデルとして機能してきた。
【0009】
遅発型喘息応答は、遅発型応答(LPR)として総称される、アレルギー刺激に対する一般的な応答である。LPRは、特に、アレルゲンの皮内または鼻腔内投与後における皮膚および鼻に見られる。
【0010】
皮膚接触によるアレルギーは、湿疹またはアレルギー性皮膚炎として現れる可能性がある。アトピー性皮膚炎は、小児科集団の10%までに影響を及ぼしている炎症性皮膚疾患である。これは、痒み、慢性的な再発性の経過および身体にわたる一般的な分布によって特徴付けられる。通常、アレルギーの家族歴および早期乳児期での条件開始が存在する。一般的な治療方法は、単純な皮膚軟化剤または一般的なコルチコステロイドを使用することである。一般的なコルチコステロイドの長期間の使用によって、望ましくない副作用が、特に子供において生じる可能性がある。接触アレルゲンには、ラテックス、洗剤または粉石けんの他の成分、動物の鱗屑およびイエダニ類が含まれる。
【0011】
アレルゲンに応答してIgE抗体を産生する固体が、後に、同じアレルゲンに出会ったときに、アレルギー反応は起こる。アレルゲンは、過敏反応またはアレルギー反応を引き起こす抗原である。アレルゲンは、曝露された組織のIgE結合肥満細胞の活性化によって引き起こされ、アレルギーの特徴を示す一連の応答が導かれる。IgEが、特に、発展途上国において流行している寄生虫に対する防御免疫に関与しているという証拠が存在する。しかしながら、先進国においては、無害な抗原に応答するIgEが圧倒的であり、アレルギーは病気の重要な原因となっている。先進国におけるアレルギーの治療の重要性のために、IgEの通常の生理学的役割についてよりも、IgEを介した応答の病理学についてより多く知られている。
【0012】
IgE産生は、I型アレルギー応答におけるTh2-クラスのTh細胞によってもたらされる。
【0013】
IgE産生がTh2細胞によってもたらされ、Th2細胞由来サイトカインが気道過敏性を誘導するので(例えば、喘息)、Th2細胞が、アレルゲンに対する免疫応答において主要な役割を果たしていることは明らかである。
【0014】
現在、アレルギー疾患の治療は、主に、抗-ヒスタミン剤、β2アゴニストおよび最も一般的に使用されているグルココルチコステロイドなどの薬を用いた対象療法である。しかしながら、この治療は、基礎をなす異常な免疫応答およびその要因には、何の影響も及ぼさない。
【特許文献1】WO 99/53946
【特許文献2】WO 99/38987
【特許文献3】WO 97/24139
【非特許文献1】O’Garra and Arai, (2000) Trends Cell Bio 10, 542-550
【非特許文献2】Dong and Flavell, (2000) Arthritis Res 2, 179-188
【非特許文献3】de Waals Malefyt, (1997), Smin Oncology 3, suppl 9, S9-94-S9-98
【非特許文献4】Allergy and Allergic Diseases (1997), A.B. Kay (Ed.), Blackwell Science, pp 1113-1130
【非特許文献5】Soltysik et al (1995) Vaccine 13, 1403-1410
【非特許文献6】Allison and Fearon (2000) Eur J Immunol 30, 2881-2887
【非特許文献7】Apostolopoulos et al (1995) Proc Natl Acad Sci USA 92, 10128-10132
【非特許文献8】Rhodes et al (1995) Nature 377, 71-75
【非特許文献9】Zheng et al (1992) Sxience 256, 1560-1563
【非特許文献10】Willis et al (2002) Alcohol Clin Exp Res 26, 94-106
【非特許文献11】Willis et al (2003) Int Immunophamacol 3, 1381-1399
【非特許文献12】Glomb and Monnier, (1995) J Biol Chem 270, 10017-26
【非特許文献13】Mosmann, T. R., and Coffman, R. L. (1989) Annu Rev Immunol 7, 145-173
【非特許文献14】Alkan (1978) Eur J Immunol 8, 112-8
【非特許文献15】Buss et al (1997) Free Radical Biology & Medicine 23, 361-66
【非特許文献16】Robinson et al (1999) Analytical Biochemistry 266, 48-57
【非特許文献17】Dickinson et al., Glutathione in defense and signaling: lessons from a small thiol. Ann. NY. Acad. Sci. 973: 488-604 (2002)
【非特許文献18】Burcham et al., Aldehyde-sequestering drugs: tools for studying protein damage by lipid peroxidation products-Toxicology: 181-182, 229-236 (2002)
【非特許文献19】Hipkiss, AR, Carnosine, a protective, anti-ageing peptide?, Int. J. Biochem. Cell Biol. 30, 863-868 (1998)
【非特許文献20】ener et al., Melatonin and N-acetylcysteine have beneficial effects during hepatic ischemia and reperfusion, Life Sciences 72: 2707-2718 (2003)
【非特許文献21】Varma et al., Oxidative damage to mouse lens in culture. Protective effect of pyruvate. Biochem. Biophysica Acta 1621: 246-252 (2003)
【非特許文献22】Klotz et al., Emerging functional endopoints of trace element status, J. Nutr. 133: 1448S-1451S (2003)
【非特許文献23】Adams et al., “Reactive Carbonyl formation by oxidative and non-oxidative pathways” Frontiers in Bioscience 6: 17-24 (2001)
【非特許文献24】MacDonald et al., Immunology of parasitic helminth infections, Infection and Immunity 70: 427-433 (2002)
【非特許文献25】Meeusen and Piedrafita, Exploting natural immunity to helminth parasites for the development of veterinary vaccines, Int. J. Parasitol. 33: 1285-1290 (200)
【非特許文献26】Chung & Champagne, J Agric Food Chem 1999, 47, 5227-31 and 2001, 49, 3911-16
【非特許文献27】Wal, Thermal processing and allergenicity of foods, Allergy 58: 727-729 (2003)
【非特許文献28】Bayer et al., Effects of cooking methods on peanut allergenicity, J. Allergy Clin. Immunol. 107: 1077-1081 (2001)
【非特許文献29】Svedman et al., Deodorants: an experimental provocation study with hydroxycitronellal, Contact Dermatitis 48 (8): 217-223 (2003)
【非特許文献30】Niwa et al., Protein oxidative damage in the stratum corneum: evidence for a link between environmental oxidants and the changing prevalence of nature of atopic dermatitis in Japan, British J Dermatol, 149: 248-254 (2003)
【非特許文献31】Rumchev et al., Domestic exposure to formaldehyde significantly increases the risk of asthma in young children, Eur Respir J, 20(2): 403-408 (2002)
【非特許文献32】Tuma DJ, Role of malondialdehyde-acetaldehyde adducts in liver injury, Free Radic Biol Med, 32 (4): 303-8 (2002)
【非特許文献33】Nordback et al., The role of acetaldehyde in the pathogenesis of acute alcoholic pancreatitis, Ann Surg, 214 (6): 671-678 (1991)
【非特許文献34】Salgaller and Bajpai, Immunogenicity of glutaraldehyde-treated bovine pericardial tissue xenografts in rabbits, J. Biomedical Materials Research 19: 1-12 (1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
我々は、抗原上の、アルデヒドなどの反応性カルボニル基の存在が、Th2-型に偏った免疫応答を導き、そのため、過敏性反応を誘導することを見出した。我々は、例えば、反応性カルボニル基の数を減少させることによって、Th2への偏りが減ずることを見出した。我々は、例えば、抗原から反応性カルボニル基を還元的除去する単純な1つの工程を提供する。この方法は、特に、(ヒトなどの)動物に投与すべき薬剤(例えば、ワクチンまたは治療薬)のアレルギー性を低減するのに使用する。
【0016】
我々は、また、例えば、反応性カルボニル基の数を増加させることによって、Th2への偏りが増すことも見出した。我々は、例えば、抗原に反応性カルボニル基を加える単純な1つの工程を提供する。この方法は、特に、望ましくないTh1応答が存在する病気の状態、または、抗-寄生虫ワクチンなどのTh2-型応答が有用なワクチンにおいて使用する。
【0017】
反応性カルボニル基は、酸素原子に二重結合し、他の2つの基または原子に一重結合した炭素原子である。このような基の例には、ケトンおよびアルデヒドが含まれる。アルデヒド(R-HC=O)などの、基の1つが水素である場合、C=Oの極性が増し、カルボニル基を非常に反応性にする(図1)。
【0018】
「反応性カルボニル基」については、我々は、前記した全ての反応性種だけでなく、反応性カルボニルの前駆体化学形態およびタンパク質とのアルデヒド反応の間の中間体化学形態、例えば、NaBH3CNまたはNaBH4によって還元されることができるシッフ塩基を含む。反応性カルボニルの存在は、2,4-ジニトロフェニル-ヒドラジン(DNPH)の、アルデヒドのカルボニル基との反応性に基づいた既知のアッセイを使用して検出することができる。
【0019】
アルデヒド基およびアルデヒド-抗原付加物の免疫増強(アジュバント)特性は、以前に報告されていた。しかしながら、抗原上にアルデヒド基が存在することが、抗原に、抗原に曝露した動物において、過敏性反応、すなわちTh2-型に偏った免疫応答を誘導する役割を果たさせることは報告されていない。
【0020】
反応性カルボニル基は、天然において抗原に存在し、免疫応答を喚起することに関与している。例えば、QS-21、精製したサポニン免疫原性アジュバントは、トリテルペン上にアルデヒドを含む。Soltysik et al (1995) Vaccine 13, 1403-1410には、アルデヒド基を改変したQS-21誘導体が、抗体産生または細胞障害性T細胞の誘導に対してアジュバント活性を示さなかったことを実証し、この官能基がアジュバント機構に関与しているかもしれないことを示唆している。
【0021】
抗原またはアジュバントへのアルデヒド基の付加によって、免疫原性を増すことができることも知られている。例えば、Allison and Fearon (2000) Eur J Immunol 30, 2881-2887には、グリコールアルデヒド処理による、免疫原性が乏しい抗原へのアルデヒドの導入が、マウスにおける抗体産生において、どのようにして免疫原性を数桁増すかが記載されている。更には、WO 99/53946では、抗原へのアルデヒドの導入が、Th1およびTh2応答の両方を示す増大した抗体応答をもたらすことが報告されている。Apostolopoulos et al (1995) Proc Natl Acad Sci USA 92, 10128-10132では、抗原を過酸化型マンナンにカップリングすることによる抗現上へのアルデヒドの産生が、細胞障害性T細胞およびTh1応答を誘発する能力を増すことが報告されている。しかしながら、この特定の例では、マンナンは、固有の免疫応答の受容体による認識が原因で、Th1免疫応答へと偏らせているようである。それゆえ、このことは、アルデヒド存在下でのTh1への偏りを説明しているであろう。
【0022】
抗原またはアジュバントを直接改変することだけでなく、抗原にアルデヒド-産生試薬を提供することによって、免疫応答を増大させるという報告が幾つかなされている(Rhodes et al (1995) Nature 377, 71-75; Zheng et al (1992) Science 256, 1560-1563)。
【0023】
最後に、Willis et al (2002) Alcohol Clin Exp Res 26, 94-106およびWillis et al (2003) Int Immunophamacol 3, 1381-1399では、マロンジアルデヒド-アセトアルデヒド付加化合物(MAA)が存在することによって、スカベンジャー受容体を介して、抗体およびT細胞増殖応答がin vivoで誘導されることが報告されている。
【0024】
反応性カルボニル基(アルデヒド基を含む)は、アルデヒド処理によってタンパク質上に産生することができる。しかしながら、抗原をアルデヒドで処理することによって、その一部が反応性カルボニルを有し、他のものは非反応性、非アルデヒドの最終生成物である様々な抗原-アルデヒド付加物がもたらされることに着目することは重要である。アルデヒドを用いた抗原の付加によって、その一部が安定であり、一部は不安定である様々な構造がもたらされる。これらの付加物の種類と割合は、使用したアルデヒドのタイプは別として、例えば、抗原のタイプ、pH、温度および反応時間などの物理化学的指数に依存する。
【0025】
例えば、Acharya and Mnning (Proc. Natl. Acad. Sci. 80, 3590-3594; 1983)は、「2-オキソエチル化タンパク質」のみがアルデヒド基を有する、多くのグリコールアルデヒドタンパク質付加物を研究している。
【0026】
また、メイラード反応(還元糖とアミノ酸またはタンパク質のアミノ構造との間の反応)の間に、タンパク質が改変され、全てがアルデヒド基を有するわけではないが、様々なアルデヒド-タンパク質付加物の産生がもたらされる。カルボキシメチル-リジン(CML)は、例えば、タンパク質-アルデヒド反応の生成物であり、アルデヒド基を有していない(Glomb and Monnier, (1995) J Biol Chem 270, 10017-26)。
【0027】
それゆえ、反応性カルボニル基は、抗原上に付加された構造の部分でしかない。この観点から、免疫病理学的研究は、タンパク質上の新規の完全な付加構造(アルデヒド基がタンパク質の構成部分となりうる)ほど、具体的には、反応性カルボニル基の重要性にほとんど焦点をあててこなかった。
【0028】
更に、従来技術は、抗原が過敏性を誘導する能力を変更するために、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を変更することは示唆していない。その上、Willis et al(上記参照)では、ハプテン化タンパク質(アルデヒドは、タンパク質による付加を通して免疫原性が得られるハプテンである)を論じているが、本発明は、反応性カルボニル基の付加または除去による、抗原に対する免疫応答のタイプに及ぼす免疫調節効果に関する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第一の態様は、抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2免疫応答のTh2-型への偏りを改変する方法であって、
(i) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少することによって、Th2-型への偏りを低減させること;または
(ii) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加することによって、Th2-型への偏りを増大させること、
を含む方法を提供する。
【0030】
以下に要点を示すように、本発明の第一の態様の方法は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、減少オプション)。この方法は、ワクチンを含む、抗原への患者の過敏性を減ずるのに特に有用性を有することができる。本発明の第一の態様は、また、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのにも使用することができる(すなわち、増加オプション)。この方法は、抗原のTh2-誘導免疫原性を増すのに特に有用性を有することができる。
【0031】
どのようにして、本発明の第一の態様の方法が、抗原を改変して、Th1/Th2免疫応答のTh2-型への偏りを改変するかという例を、付随する実施例に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
「抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少する」については、我々は、反応性カルボニル基の数を、10%、25%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、99.5%またはそれ以上、例えば100%まで減少させることを意味する。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を測定する方法を以下に規定し、付随する実施例に記載する。
【0033】
「Th2-型への偏りを低減する」については、我々は、本発明の第一の態様(減少オプション)の方法によって改変した抗原に曝露した動物が、そのように改変されていない抗原に曝露した動物の免疫応答と比較して、Th2細胞よりも、Th1細胞によって誘導される免疫原性応答またはバランスの取れたTh1/Th2応答によってより特徴付けられる免疫原性応答を発達することを意味する。改変した抗原は、低減した全般的な免疫原性を呈することができる。
【0034】
以下に論じるTh1/Th2-細胞型の比率の1つまたは複数の指標(例えば、マウスにおけるIgG2a抗体に対するIgG1抗体の相対的レベル)は、改変した抗原によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に変化が存在することを示すことが好ましい。このような変化は、非処理抗原(すなわち、反応性カルボニル基を保持する抗原)によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に対する、Th1/Th2細胞型比率におけるTh1細胞の、1.2倍、1.5倍、1.8倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、70倍または100倍程度の増加とすることができる。このことは、Th1/Th2-細胞型の比率においてTh2への偏りがまだ存在するかもしれない可能性を除外するものではない。
【0035】
「抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加する」については、我々は、1モルの抗原上に存在する反応性カルボニル基のモル数を、0から0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10モルまたはそれ以上に増加することを意味する。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を測定する方法を以下に規定し、付随する実施例に記載する。
【0036】
「Th2-型への偏りを増大する」については、我々は、本発明の第一の態様(増加オプション)の方法によって改変した抗原に曝露した動物が、そのように改変されていない抗原に曝露した動物の免疫応答と比較して、Th1細胞よりも、Th2細胞によって誘導される免疫原性応答によってより特徴付けられる免疫原性応答を発達することを意味する。その抗原は、増大した全般的な免疫原性を呈することができる。
【0037】
以下に論じるTh1/Th2-細胞型の比率の1つまたは複数の指標(例えば、マウスにおけるIgG2a抗体に対するIgG1抗体の相対的レベル)は、改変した抗原によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に変化が存在することを示すことが好ましい。このような変化は、非処理抗原(すなわち、反応性カルボニル基を加えていない抗原)によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に対する、Th1/Th2細胞型比率におけるTh2細胞の、1.2倍、1.5倍、1.8倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、70倍または100倍程度の増加とすることができる。このことは、Th1/Th2-細胞型の比率においてTh1への偏りがまだ存在するかもしれない可能性を除外するものではない。
【0038】
選択した抗原についてのIgG1抗体濃度に対するIgG2a抗体濃度の比率が、マウスにおいて、増加または減少する場合に、改変したTh2-型応答が観察される。増加したIgG2a/IgG1濃度は、マウスにおける低減したTh2プロファイルと相関があり、その逆も相関している(Mosmann, T. R., and Coffman, R. L. (1989) Annu Rev Immunol 7, 145-173)。
【0039】
リンパ節細胞の増殖、IFNγ産生の増加、IL5および/またはIgEレベルの増加、または他のサイトカインのレベルの増加は、また、特にヒトにおいて、Th1/Th2細胞型比率を評価するのに使用するべきである。例えば、抗原特異的T細胞応答を調べるために、ヒトまたは動物起源のリンパ節細胞の増殖を測定するex vivoアッセイ(Alkan (1978) Eur J Immunol 8, 112-8)を使用することができる。Th1応答はT細胞増殖およびIL-2産生に依存するので、このアッセイは、主に、Th1応答のために使用される。リンパ節細胞培養液は、また、細胞上清の分析、細胞内FACS染色またはElisa-spot手法(Elispot)によって、Th1/Th2細胞型サイトカインプロファイルを測定するのに使用することができる。高い相対的レベルのIFNγおよび/またはTNFおよび/またはIL-12産生、ならびに、低い相対的レベルのIL-4および/またはIL-5および/またはIL-13産生は、Th1細胞型応答を示し、高い相対的レベルのIL-4および/またはIL-5および/またはIL-13産生、ならびに、低い相対的レベルのIFNγおよび/またはTNFおよび/またはIL-12産生は、Th2細胞型応答を示す。
【0040】
抗原に存在する反応性カルボニル基の数を測定する方法は、付随する実施例に示す方法を含む。適した方法としては、以下を含む。
1. Buss et al (1997) Free Radical Biology & Medicine 23, 361-66によって開示された、ELISA方法に基づく免疫学的測定方法;以下の改変した方法を使用することができる:
・10μlのサンプル(2-10μgのタンパク質)+40μlのDNP 10mM(2M HCl中)、十分に混合し、振盪しながら45分間インキュベートする。
・5μlの混合液(1-5μgのタンパク質)+95μlのコーティングバッファー(NaHCO3、pH=8.5)。
・ELISAプレートを、100μl/wellの前記溶液でコーティングし、4℃で一晩(または90分間37℃で)インキュベートする。
・PBSで三回洗浄する。
・200μlのブロッキングバッファー(BSA 1%/PBS)を加え、30分間室温でインキュベートする。
・前記のように洗浄する。
・100μlの抗-DNPビオチン化Ab(1/1000)を加え、室温で一時間インキュベートする。
・前記のように洗浄する。
・100μlのストレプトアビジン-HRP(1/1000)を加え、室温で一時間インキュベートする。
・前記のように洗浄する。
・100μlの基質(TMB ultra)を加える。
・100μlのH2SO4を用いて、適切な時間で反応を停止する。
・450nmを読む。
2. Robinson et al (1999) Analytical Biochemistry 266, 48-57に記載されたウェスタンブロッティング;この方法は、図5で示されたデータを得るための付随する実施例において使用した。
3. 図2で示されたデータを得るための付随する実施例において使用した分光または比色DNPHアッセイ;
4. HPLCによるタンパク質のフラクション化と組み合わせた分光DNPHアッセイ;
5. 質量分析も、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の変化を測定するのに使用することができる。
【0041】
任意の適した方法が、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる。適した方法としては、以下を含む:
1. NaBH4、NaCNBH3、ジメチルアミンボランまたはピリジンボランを含む水素化物などの強力な還元剤と抗原との反応;この方法の詳細なプロトコールは、付随する実施例で示し、以下に記載する:
アルデヒドを有する抗原のインキュベーションの間、または、反応性カルボニルの付加の後のいずれかにおいて、1-3時間室温でまたは37℃で、0.1mM NaBH4と抗原をインキュベートすることによって、反応性カルボニル基を減少させることができる。その後、製品の取扱説明書に従って、Microcon(登録商標)10kDa cutoff microspin flterを用いてサンプルを脱塩する。
2. 適切な触媒の存在下での抗原の水素化;例えば、CH=O+H2によって、非反応性ヒドロキシメチル最終生成物であるCH2-OHが得られる(有機化学II−アルデヒド/ケトンの還元を参照)。この方法の詳細なプロトコールは、付随する実施例に見出すことができる。
3. 反応性カルボニルの数を除去または減少する1つの方法においては、グルタチオン(Dickinson et al., Glutathione in defense and signaling: lessons from a small thiol. Ann. NY. Acad. Sci. 973: 488-604 (2002)を参照)、アミノグアニジンおよびピリドキサミン(Burcham et al., Aldehyde-sequestering drugs: tools for studying protein damage by lipid peroxidation products-Toxicology: 181-182, 229-236 (2002)を参照)などのアルデヒド-封鎖またはスカベンジャー試薬または剤を使用する。また、カルノシン(Hipkiss, AR, Carnosine, a protective, anti-ageing peptide?, Int. J. Biochem. Cell Biol. 30, 863-868 (1998)を参照)、メラトニンおよびN-アセチルシステイン(Sener et al., Melatonin and N-acetylcysteine have beneficial effects during hepatic ischemia and reperfusion, Life Sciences 72: 2707-2718 (2003)を参照)、ピルビン酸(Varma et al., Oxidative damage to mouse lens in culture. Protective effect of pyruvate. Biochem. Biophysica Acta 1621: 246-252 (2003)を参照)ならびに銅、亜鉛、テルリウムおよびセレニウム金属イオン(Klotz et al., Emerging functional endopoints of trace element status, J. Nutr. 133: 1448S-1451S (2003)を参照)を、反応性カルボニルを生じる酸化損傷を防ぐまたは回復するのに使用することができる。
【0042】
抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加するために、任意の適した方法を使用することができる。方法には、アルデヒド(例えば、グリコールアルデヒド、アセトアルデヒド、マロンアルデヒドおよびホルムアルデヒド)を用いた処理などの付随する実施例において規定される方法を含む。適した方法の更なる例には、例えば、NaIO4を用いた糖タンパク質の糖の酸化、および、メイラード反応を介した還元糖とタンパク質の反応を含む;また、UV光、オゾン、酸化窒素、放射線放射、好中球活性(ミエロペルオキシダーゼ経路を介した)、金属触媒酸化経路、次亜塩素酸およびペルオキシ亜硝酸酸化、ならびにアミノ酸の酵素的改変も含む。これらの方法の例については、Adams et al., “Reactive Carbonyl formation by oxidative and non-oxidative pathways” Frontiers in Bioscience 6: 17-24 (2001)を参照せよ。
【0043】
本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原に曝露した動物は、哺乳類、例えばヒト、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、または、ワクチン接種を在来種の保護のために使用することができるキツネもしくはアナグマなどの野生種等とすることができる。動物は、非常に若い、成長過程、成長または老年でもよい。動物がヒトである場合、ヒトは大人または子供とすることができ、男性または女性のいずれかとすることができる。代替的に、動物は鳥、例えば、ニワトリ、ヒチメンチョウまたは他のそのような家禽類とすることができる。好ましくは、動物はヒトである。
【0044】
抗原とは、免疫応答を誘導することができる物質であり、天然に存在するもの、リコンビナント体または合成産物とすることができる。用語「抗原」には、また、タンパク質キャリアと、ステロイド、糖または核酸などの非-タンパク質分子の複合体であって、非-タンパク質分子に対する免疫応答の産生のための免疫原として使用される複合体を含む。
【0045】
本発明の第一の態様の実施態様では、抗原が、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類もしくは核酸である、またはこれらを含む。
【0046】
抗原は、様々な天然または合成起源から由来することができる。合成起源には、ラテックスおよびタンパク質分散剤を含むことができる。
【0047】
代替的に、抗原またはその一部は、哺乳類細胞、植物細胞、細菌、ウィルス、真菌類または寄生虫に由来することができる。抗原は、腫瘍抗原または自己抗原とすることができ、またはこれらを含むことができる、すなわち、抗原は、意図した受容者に存在するものの1つとすることができる。抗原は、生きたまたは死滅した組織に由来することができる。
【0048】
前記で論じたように、本発明の第一の態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少して、抗原に対する免疫応答のTh2への偏りを低減する方法、すなわち除去工程を提供する。免疫応答のTh2への偏りを低減するのに有用な抗原の例には、自己抗原の反応性カルボニル付加をもたらすアルコール摂取によって誘導される肝臓もしくは膵臓病変、または、ホルムアルデヒドを含むアルデヒドを含むタバコの煙によって誘導される自己反応性肺病変などのように、自己反応性が見られる抗原を含む。改変した抗原は、以下に更に論じる脱感作治療に使用することができる。
【0049】
加えて、抗原から反応性カルボニル基を除去する方法に関連した前記した封鎖/スカベンジャー剤および抗酸化剤は、全身にまたは局所的に使用して、フリーのアルデヒドの数を減少するのに、または、in vivoで抗原上の反応性カルボニル付加物の数を減少するのに使用することができる。
【0050】
代替的に、本発明の第一の態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加して、抗原に対する免疫応答のTh2への偏りを増大する方法、すなわち付加工程を提供する。
【0051】
幾つかの場合、例えば、リウマチ性関節炎においては、増大したTh1免疫応答によって、病気がもたらされる。それゆえ、本発明の第一の態様の方法の応用は、抗原における反応性カルボニル基の数を増加して、局所的な免疫応答をより良性なTh2-型の応答へと偏らせる剤、例えばアルデヒドの使用とすることができる。例えば、弱いアルデヒドは、関節炎の炎症部位へと注入し、Th2への偏りを誘導することができる。類似の応用は、他の自己免疫性のTh1に偏った病気に関連させることができる。
【0052】
本発明の第一の実施態様は、抗原がワクチンまたはワクチン成分であることである。
【0053】
本発明の第一の態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、減少オプション)。本発明が望ましい実施可能なワクチンまたはワクチン成分の例には、以下に定義するホルムアルデヒド処理したものが含まれる。
【0054】
代替的に、本発明の第一態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのに使用することができる(すなわち、増加オプション)。幾つかのワクチン、例えば、住血吸虫属および糸状虫などの寄生蠕虫に対するワクチンは、増大したTh2応答によって恩恵を受けることができる。それゆえ、IgE産生を含む潜在的なTh-2型免疫応答は、病気に対する予防のために必要であろう(MacDonald et al., Immunology of parasitic helminth infections, Infection and Immunity 70: 427-433 (2002)およびMeeusen and Piedrafita, Exploting natural immunity to helminth parasites for the development of veterinary vaccines, Int. J. Parasitol. 33: 1285-1290 (200)を参照)。それゆえ、ワクチン抗原への反応性カルボニルの導入は、免疫原性を増し、Th-2型の応答へと免疫応答を偏らせる。有効であるならば、このようなワクチンは、ヒトおよび動物の健康にとって重要である。
【0055】
ホルムアルデヒド処理は、病原体、例えばウィルスおよび細菌に対するワクチンを不活性化、安定化および保存する標準的な手法である。しかしながら、いくつかのワクチンは、患者によっては過敏性応答をもたらしうる。付随する実施例に見ることができるように、我々は、このことが、ホルムアルデヒド処理した結果によるワクチン上の反応性カルボニル基の存在が原因であることを示した。それゆえ、ホルムアルデヒド処理ワクチンを改変して、反応性カルボニル基を除去することによって、患者がこのようなワクチンに対して示す過敏性応答性を低減することができる可能性がある。
【0056】
したがって、本発明の第一の態様の更なる実施態様は、ワクチンまたはワクチン成分を、本発明の第一の態様の方法によって改変する前に、ホルムアルデヒド処理することである。本発明の第一の態様の方法は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、減少オプション)。本発明の第一の態様の減少オプションによって改変することができるワクチンの例には、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹、インフルエンザ、ヒトメタプネウマウィルス(human metapneumavirus)、ハンタバックス(Hantavax)(腎症候性出血熱の原因因子であるハンタウィルスに対する市販のワクチン)、WEE、EEE、VEE(西洋、東洋およびベネズエラウマ脳炎)、脳炎ウィルス、炭疽菌、おたふく風邪、百日咳、ウィルス性肝臓炎、骨膜炎、ポリオ、肺炎、風疹、破傷風、ジフテリア、コロナウィルス感染または動物またはヒトの他の局所的もしくは全身性感染に対するワクチンを含む。
【0057】
特定の食物、例えば、魚、甲殻類、カニ、ロブスター、ピーナッツ、ナッツ、小麦グルテン、卵および牛乳に存在する抗原は、アレルゲンを誘発しうる。特に、前記したように、ナッツアレルギーは、個体によっては重篤な免疫応答を引き起こし、アナフィラキシーショックをもたらし、場合によっては死にいたらしめる。
【0058】
幾つかの食物の調製によって、タンパク質上に反応性カルボニル基を生じてしまう。例えば、反応性カルボニル基は、加熱によって、メイラード反応を介して食物に加えることができる。食物を高温でローストまたは加熱することによって(例えば、100-125℃より高温、Wal, Thermal processing and allergenicity of foods, Allergy 58: 727-729 (2003)参照)、反応性カルボニルの添加がもたらされ、このことが、これらの食物に免疫原性を与え、Th2-型免疫応答を誘発することを我々は見出した(Chung & Champagne, J Agric Food Chem 1999, 47, 5227-31 and 2001, 49, 3911-16)。
【0059】
本発明の第一の態様の方法は、食物中に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、除去工程)。本発明のこの態様の実施態様においては、反応性カルボニル基の数を減少させる抗原は、食物中に存在する。本発明のこの態様の更なる実施態様は、反応性カルボニル基の数を減少させた食物を、加工食品、保存食品、ベビーフード、レディミールへ導入する、または、皮膚へ、例えばスキンクリーム、美容製品、フェイスパック等に添加することである。
【0060】
反応性カルボニル基は、本発明の第一の態様の方法において、例えば、水素および適切な触媒(前記参照)を用いた水素添加によって、食物抗原から除去することができる。このような方法は、当業者によって明らかであるように、食品産業の慣習と矛盾するものではない。それ故、本発明のこの態様の方法は、食物が消費される前のバルクな状態の食物に存在する任意の抗原の免疫原性特性およびTh-2へと偏らせる(アレルギー誘発)特性を低減するのに使用することができる。このことは、食物に存在する任意の抗原の免疫原性およびアレルギー誘発性が低減するので、消費者にとって有益であり、更に、アレルギー誘発の危険性があることを食物にラベルする必要が少なくなるので、食品製造者にとっても有益であろう。
【0061】
付随する実施例に示すように、ローストしたピーナッツおよびドライローストしたピーナッツは、生のピーナッツに比べて、反応性カルボニル基の数が増加してした。このことは、ピーナッツのローストが疫学的にピーナッツアレルギーと関連しているのに対して、非調理の、フライした、またはボイルしたピーナッツはそうではないように、アレルギー免疫応答を誘発する反応性カルボニル基の役割を示している(Bayer et al., Effects of cooking methods on peanut allergenicity, J. Allergy Clin. Immunol. 107: 1077-1081 (2001))。それ故、本発明のこの態様の更なる実施態様においては、反応性カルボニル基の数が減少した食物は、ローストしたナッツ、例えば、ローストしたピーナッツおよびドライローストしたピーナッツである。
【0062】
抗原は、また、ヒトまたは動物の自己タンパク質または抗原とすることができる。皮膚に関連して、適した抗原には、以下の例示した文献に記載したものを含みうる:Svedman et al., Deodorants: an experimental provocation study with hydroxycitronellal, Contact Dermatitis 48 (8): 217-223 (2003); Niwa et al., Protein oxidative damage in the stratum corneum: evidence for a link between environmental oxidants and the changing prevalence of nature of atopic dermatitis in Japan, British J Dermatol, 149: 248-254 (2003)。呼吸器系抗原は、例えば、Rumchev et al., Domestic exposure to formaldehyde significantly increases the risk of asthma in young children, Eur Respir J, 20(2): 403-408 (2002)に論じられている。肝臓または膵臓抗原は、例えば、Tuma DJ, Role of malondialdehyde-acetaldehyde adducts in liver injury, Free Radic Biol Med, 32 (4): 303-8 (2002); Nordback et al., The role of acetaldehyde in the pathogenesis of acute alcoholic pancreatitis, Ann Surg, 214 (6): 671-678 (1991)に論じられている。この文献においては、アルデヒドで付加した自己タンパク質が、潜在的に、観察された過敏性反応を誘発または助長していた。抗原の例には、サイログロブリン、インスリン、腫瘍特異的抗原もしくは腫瘍マーカーまたはDNAを含む。抗原は、また、ヒトにおいて使用するブタおよびウシ起源のグルタルアルデヒド処理した心臓弁などの異種移植片とすることができる(Salgaller and Bajpai, Immunogenicity of glutaraldehyde-treated bovine pericardial tissue xenografts in rabbits, J. Biomedical Materials Research 19: 1-12 (1985)を参照)。
【0063】
前記に概略したように、様々な還元剤、例えば、NaBH4、NaCNBH3、ジメチルアミンボランまたはピリジンボランを、本発明の第一の態様において、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる。それゆえ、本発明のこの態様の更なる実施態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の減少が、還元剤を用いた還元によって達成することである。本発明のこの態様の更なる実施態様においては、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の減少が、水素添加の使用によって達成される。また、反応性カルボニル基は、単離した抗原を処理するための、またはin vivoでの治療剤としての、アルデヒドスカベンジャー/封鎖剤または抗酸化剤の使用によって、抗原上で減少させることができる。
【0064】
代替的に、前記で概略したように、反応性カルボニル基を抗原に加えることができる様々な方法(例えば、アルデヒドまたはホルムアルデヒド処理、酸化またはメイラード反応)が存在する。それ故、本発明のこの態様の更なる実施態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の増加が、ホルムアルデヒドを含むアルデヒド、酸化またはメイラード反応によって達成されることである。
【0065】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変されたワクチンまたはワクチン成分を提供する。
【0066】
前記で概略したように、本発明の第一の態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、除去工程)。このような改変したワクチンは、本発明の方法に供していないワクチンよりも、アレルギー誘発性が低いと考えられる。加えて、改変したワクチンによって誘発された免疫応答のパターンは、異なるパターンの防御免疫をもたらし、例えば、少ないワクチン投与量で感染に対する防御の強化、ワクチン防御期間の延長、および、ワクチンの副作用の頻度の低下をもたらす。このような改変の効果は、反応性カルボニル基を保持する部分に対する免疫応答に基づいて機能し、そして、共投与する物質(例えば、組み合わせた多価ワクチンの他の成分)に基づいて機能すると予期される。このようなワクチンの例は、付随する実施例で提供する。
【0067】
前記および付随する実施例で論じるように、ホルムアルデヒド不活性化およびワクチンの保存によって、反応性カルボニル基が存在することとなる。それ故、本発明のこの態様の実施態様においては、本発明の第一の態様の方法を用いて、存在する反応性カルボニル基の数を減少する前に、ワクチンまたはワクチン成分を化学的に変性し、ホルムアルデヒド処理し、または、その他の場合においては、反応性カルボニル基の付加を引き起こす条件に供する。
【0068】
本発明の第二の態様の更なる実施態様においては、存在する反応性カルボニル基の数を減少するように改変したワクチンまたはワクチン成分は、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹、インフルエンザ、ヒトメタプネウマウィルス、ハンタバックス、WEE、EEE、VEE、脳炎ウィルス、炭疽菌、おたふく風邪、百日咳、ウィルス性肝臓炎、骨膜炎、ポリオ、肺炎、風疹、破傷風、ジフテリア、コロナウィルス感染または動物またはヒトの他の局所的もしくは全身性感染である。
【0069】
代替的に、本発明の第一の態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのに使用することができる(すなわち、付加工程)。このことが望ましい有力なワクチンまたはワクチン成分の例には、前記したような、住血吸虫属および糸状虫などの寄生蠕虫に対するワクチンを含む。それゆえ、本発明のこの態様の実施態様においては、ワクチンまたはワクチン成分を、本発明の第一の態様の方法を用いて、存在する反応性カルボニル基の数を増加させるように改変する。
【0070】
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変された食物を提供する。本発明のこの態様に含まれる食物の例を前記に概略する。特に、食物はローストしたナッツ、例えば、ローストしたおよびドライローストしたピーナッツであることが好ましい。ローストしたナッツの反応性カルボニル基の存在は、付随する実施例において論じる。
【0071】
本発明の第四の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原または本発明の第二の態様によるワクチンもしくはワクチン成分、およびアジュバントを含む組成物である。
【0072】
大部分のタンパク質は、それ自身を投与しても、免疫原性が乏しいか、免疫得原性を有してない。タンパク質抗原に対する強力な適応免疫応答には、ほとんど通常は、アジュバントとして知られている因子との混合物で抗原を注入する必要がある。アジュバントは、アジュバントと混合する物質の免疫原性を増大する任意の物質である。アジュバントは、通常は免疫原と安定な結合を形成しない点で、タンパク質キャリアとは異なるが、この差異のひとつの例外は、抗原への反応性カルボニルの付加である。更にその上、アジュバントは、免疫化の開始に必要であるのに対して、キャリアは、ハプテンに対する一次応答だけでなく、その後の応答も誘発するのに必要である。一般的に使用されるアジュバントは、フロイント(完全および不完全)、無機ゲル(例えば水酸化アルミニウム)、界面活性物質(例えばリソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エモリエント、ジニトロフェノール等)、Bacille Calmette-GuerinおよびCorynebacterium parvumなどのヒトにおいて使用できるアジュバント、または類似の免疫刺激剤である。使用することができるアジュバントの付加的な例には、MPL-TDMアジュバント(monophosphoryl Lipid A、合成トレハロース ジコリノマイコレート)を含む。例えば、「Vaccine aduvants」 2000, Ed. Derek O’Hagan, Humana Press, New Jerseyを参照。
【0073】
アジュバントは、幾つかの異なる方法で、免疫原性を増大することができる。第一に、アジュバントは、可溶性タンパク質抗原を、マクロファージなどの抗原提示細胞によってより容易に取り込まれる微粒子物質へと変化させる。例えば、抗原をアジュバントの粒子(ミョウバンなど)上に吸着させ、鉱油中で乳化することによって粒子状にし、または、ISCOMもしくは生分解性合成ビーズのコロイド粒子へと導入することができる。このことによって、ある程度、免疫原性が増大するが、このようなアジュバントは、細菌または細菌産物も含んでいなければ、比較的に弱い効果しか有さない。このような微生物成分は、アジュバントが免疫原性を増大させる第二の手段であり、免疫原性の増大に対する正確な寄与は不明であるが、明らかに、アジュバントのより重要な成分である。微生物産物は、より有効な抗原提示細胞になるように、マクロファージまたは樹状細胞にシグナルを伝達することができる。その効果の1つは、炎症性サイトカインの産生および強い局所的炎症性応答を誘導することである;この効果は、恐らく、応答を増大する活性に内因しているものであるが、ヒトへの用途を大いに妨げるものである。アジュバント効果を達成する第三の手段は、抗原への反応性カルボニルを付加することである(前記参照)。
【0074】
本発明の第五の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変された抗原、または、本発明の第二の態様によるワクチンもしくはワクチン成分、または、本発明の第四の態様による組成物、および、医薬的に許容されるキャリアを含む医薬組成物を提供する。
【0075】
抗原、ワクチンまたは組成物を、単独で投与することができるが、1つまたは複数の許容可能なキャリアとともに、医薬調合物として提示することが好ましい。キャリアは、前記抗原、ワクチンまたは組成物と適応し、受容者に有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。一般的には、キャリアは、滅菌およびパイロジェンフリーである水または生理食塩水である。
【0076】
調合物は、便利なことには、単位用量形態で提示することができ、製薬業界でよく知られた任意の方法で調製することができる。このような方法には、活性成分を、1つまたは複数の副成分から構成されるキャリアと会合させる工程を含む。一般的に、調合物は、活性成分を、液体キャリアもしくは微粉化した固体キャリアまたはその両方と均一且つ密接に会合させ、その後に、必要であれば、製品を成形することによって調製する。
【0077】
経口投与に適した本発明による調合物は、カプセル、カシェ剤またはタブレットなどの個別単位として提示することができ、それぞれは、予め求めた活性成分を、粉末または顆粒として;溶液または水性液体もしくは非水性液体中の懸濁液として;または、水中油型液体エマルジョンまたは油中水型液体エマルジョンとして含む。活性成分は、ボーラス、舐剤またはペーストとしても提示することができる。
【0078】
タブレットは、任意に1つまたは複数の副成分と共に、圧縮または型打ちによって調製することができる。圧縮したタブレットは、適した機械において、任意に、バインダー(例えば、ポビドン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポビドン、架橋デンプングリコール酸ナトリウム)、界面活性もしくは分散剤と混合して、粉末または顆粒などの自由に流動する形態で活性成分を圧縮することによって調製することができる。型打ちしたタブレットは、適した機械において、不活性な液体希釈剤で潤いを与えた粉末状の化合物の混合物を型打ちすることによって調製することができる。タブレットは、任意にコーティングまたは分割することができ、例えば、望む放出プロファイルを提供するために、様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用して、活性成分のゆっくりとした放出または制御した放出をもたらすことができる。
【0079】
口への局所適用に適した調合物には、風味をつけたベース(通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント)に活性成分を含む薬用キャンディー;ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性なベースに活性成分を含むトローチ;ならびに適した液体キャリアに活性成分を含むマウスウォッシュを含む。
【0080】
非経口投与に適した調合物には、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、および、調合物を対象とする受容者の血液と等張にする溶質を含みうる水性および非水性の滅菌注入溶液;ならびに、懸濁剤および増粘剤を含みうる水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。調合物は、単位用量または複数回用量のコンテナー(例えば、シールしたアンプルおよびバイアル)で提示することができ、使用直前に滅菌液体キャリア(例えば、注入用の水)の添加のみが必要なフリーズドライ(凍結乾燥)条件で保存することができる。即席注入溶液および懸濁液は、前記した種類の滅菌粉末、顆粒およびタブレットから調製することができる。
【0081】
好ましい単位用量調合物は、一日当りの投与量もしくは単位の、一日当りのサブ投与量の、または適切なフラクションの活性成分を含む調合物である。
【0082】
前記に特に記載した成分に加えて、本発明の調合物は、対象とする調合物のタイプを考慮したこの業界における一般的な他の剤を含むことができ、例えば、経口投与に適した調合物は、香味剤を含むことができる。
【0083】
本発明の第六の態様は、抗原を曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを低減するための、還元剤の使用である。前記で定義したように、還元剤は、特に、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少する際に使用される。適した還元剤は、NaBH4、NaCNBH3を含む水素化物を含む。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる適した方法は、本発明の第一の態様と関連して、前記する。
【0084】
本発明の第七の態様は、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを増大するための、ホルムアルデヒドを含むアルデヒド、酸化またはメイラード反応の使用である。前記したように、適したアルデヒドは、グリコールアルデヒド、アセトアルデヒド、マロンアルデヒド、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドを含み、抗原の酸化は、例えば、NaIO4を使用して実施することができる。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのに使用することができる適した方法は、本発明の第一の態様と関連して、前記する。
【0085】
本発明のこの態様は、特に、過剰なTh1応答によって特徴付けられる病気の治療における使用とすることができる。このような病気の患者は、本発明の第一の態様を使用して抗原に存在する反応性カルボニル基の数が増加するように改変された自己抗原または外来性抗原で治療することができる。このような改変した抗原は、患者に対して、非-Th1、非-病原性免疫応答の発達を誘導し、病原性Th1免疫応答の逆制止を導くことができる。このような抗原の例は、非-Th1非-病原性免疫応答を誘導するホルマリンで処理したサイログロブリンとすることができる。
【0086】
本発明の第八の態様は、病気の予防または治療のための医薬の製造における、本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原、または、本発明の第二の態様によるワクチンもしくはワクチン成分、または、本発明の第四の態様による組成物、または、本発明の第五の態様による医薬組成物の使用である。
【0087】
このような医薬から利益を享受することができる病気の例には、反応性カルボニル基が生じる病気が含まれる。これらの病気は、前記で概略したように、自己タンパク質を改変し、自己抗原に対する望まない免疫応答を誘導することが病状の一因となっている。例には、糖尿病、尿毒症、アルコール依存症またはアテローム性動脈硬化を含む。
【0088】
このような医薬から利益を享受することができる更なる病気の例には、過剰なTh1-型免疫応答が生じる病気を含む。それ故、抗原への反応性カルボニル基の付加によって、免疫応答を、Th2-型応答へとより偏らせることができる。このような病気の例には、リューマチ性関節炎および他の自己免疫性のTh1へと偏った病気が含まれる。代替的に、アルデヒドまたは抗原上にアルデヒドを付加する他の剤を、リューマチ性関節炎の患者の関節のように、病的な状態のTh1-型応答を病的な状態の程度がより弱いTh2-型応答へと向ける必要がある局所的部位に注入することができる。このような手法は、特に、有害な免疫応答を担う抗原が不明である場合に使用することができる。
【0089】
本発明の第九の態様は、ワクチンまたはワクチン成分として使用する医薬の製造における、本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原、または、本発明の第四の態様による組成物、または、本発明の第五の態様による医薬組成物の使用である。
【0090】
ワクチンまたはワクチン成分は、存在する反応性カルボニルの数を減少させるために(すなわち、除去工程)、本発明の第一の態様の方法を使用して改変した抗原、組成物、または医薬組成物を含むことができる。このようなワクチンまたはワクチン成分の例には、以下に示すものが含まれる。
【0091】
代替的に、ワクチンまたはワクチン成分は、存在する反応性カルボニルの数を増加させるために(すなわち、付加工程)、本発明の第一の態様の方法を使用して改変した抗原、組成物、または医薬組成物を含むことができる。このようなワクチンまたはワクチン成分の例には、以下に示すものが含まれる。
【0092】
本発明の第十の態様は、患者を抗原に対して脱感作させるのに使用する医薬の製造における、本発明の第一の態様の方法によって改変した、反応性カルボニル基の数を減少させた抗原、または、本発明の第二の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させたワクチンもしくはワクチン成分、または、本発明の第三の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させた食物、または、本発明の第四の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させた組成物、本発明の第五の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させた医薬組成物の使用である。
【0093】
存在する反応性カルボニル基の数を減少させた、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分、食物、または、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分を含む組成物もしくは医薬組成物は、患者を脱感作させ、例えば、過敏性応答の臨床的兆候を低減させるのに使用することができる。脱感作とは、アレルギー反応が抑制されることを期待して、アレルギーを示す個体を、投与量を増した抗原に曝露する方法である。脱感作には、恐らく、Th1とTh2細胞の間のバランスをシフトさせて、産生する抗体とサイトカインのプロファイルを変化させることが関与している。
【0094】
存在する反応性カルボニル基の数を減少させた、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分、食物、または、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分を含む組成物もしくは医薬組成物を用いた脱感作は、例えばWO 99/38987で論じられている、患者のアレルゲン-特異的IgE抗体を枯渇させるアレルゲン-非特異的 抗-IgE抗体などの、他の治療と組み合わせて使用することができる。
【0095】
患者を抗原に対して脱感作させるのに使用される、本発明の第一の態様によって改変することができる有力な抗原には、例えばWO 97/24139に記載された、主要なピーナッツアレルゲンAra h IおよびAra h IIが含まれる。他の抗原には、反応性カルボニル基の存在が原因でアレルギー性である任意の抗原が含まれる。
【0096】
本発明の第十一の態様は、抗原、ならびに、抗原上の反応性カルボニル基の数を減少することができる還元剤、または、抗原上の反応性カルボニル基の数を増加させるアルデヒド、ホルムアルデヒド、酸化もしくはメイラード反応を触媒する剤、ならびに、場合によっては、アジュバントおよび/もしくは医薬的に許容可能なキャリアを含むパーツのキットを提供する。
【0097】
本発明の第十二の態様は、医薬において使用するための、本発明の第一の態様の方法によって改変された抗原または本発明の第二の態様のワクチンもしくはワクチン成分である。
【0098】
本明細書で参照した如何なる出版物も、参照によって組み込まれる。
【0099】
本発明を、以下の非制限的な図および実施例を参照して、より詳細に記載する。
【実施例】
【0100】
(実施例1:抗原上の反応性カルボニル基が、Th-2型免疫応答を導く:ホルマリン-不活性化ワクチンによって誘導される過敏性反応の分子メカニズム)
〈要約〉
タンパク質およびリポタンパク質上のアルデヒド基の存在は、アテローム性動脈硬化、糖尿病およびアルコール性肝臓疾患などの様々な病気に関与している。呼吸器合胞体ウィルス(RSV)は、幼児および高齢者の重篤な呼吸器疾患の主要な原因となっている。1960年代に使用されていたホルマリン-不活性化ワクチンが、幼児に、その後の自然感染後に生じる病気を増やす傾向にあったので、RSVワクチンの研究は、妨げられてきた。しかしながら、ワクチンが誘導する過敏性についての分子的機序は明らかにされていない。我々は、本明細書において、グリコールアルデヒドまたはホルムアルデヒドを用いた処理によるオボアルブミン(OVA)への反応性カルボニル基の付加が、マウスにおけるそのタンパク質の免疫原性を低減させ、そして、免疫応答を、Th2-型応答へと偏らせることを示す。増大した免疫原性およびTh2-型応答は、反応性カルボニル基の還元的除去によって、両方とも消滅した。我々は、ワクチンを調製するために前記で使用したプロトコールに従って、ホルムアルデヒドによって不活性化したRSV(FI-RSV)が、反応性カルボニル基を含むことを実証する。FI-RSVワクチン-誘導病状の既知のモデルを使用して、FI-RSVでマウスを免疫し、その後に生きたRSVでマウスをアレルギー誘発することによって、Th2-型応答、肺好酸球増加症および体重減少が誘導され、そして、これらは、反応性カルボニル基の還元的除去によって消滅した。我々は、それ故、不活性化の間に、RSVに反応性カルボニル基を付加することが、Th2-免疫応答をもたらす主要な機構であり、病状に関連していることを提案する。更にその上、我々は、ワクチンを含む他の抗原に反応性カルボニル基を付加することが、文献に記載されている他の過敏性およびアレルギー反応に関与していることを提言する。
【0101】
〈序文〉
反応性カルボニルは、アルデヒドなどの高い反応性を有する化学種、または、ケトンなどの幾分かより弱い反応性を有する構造を含む化学基である。アルデヒドは、様々な化合物と反応して分子外-および分子内-分子架橋を生じることができるので、一般に、医薬、研究および工業で使用されている。アルデヒドは、典型液な空気汚染源であり、職業的環境(織物、紙、樹脂、木材会社)において見出されており(1-3)、殺菌調合物で利用されており(4)、細胞および組織研究のための固定剤/不活性剤として用いられており(5)、そして、異種移植片(6)およびワクチン調製物において使用されている(7)ので、アルデヒドへの曝露は広く知られている。反応性カルボニルは、様々な条件下でin vivoで生じ、タンパク質、脂質、糖およびアミノ酸の酸化によって、ならびに、非酵素的なタンパク質の糖化の結果として生じることができる(8-15)。
【0102】
反応性カルボニルを付加したタンパク質またはリポタンパク質の病理学的な重要性は、高い酸化ストレスの状態がこのような付加を生じる、糖尿病、アテローム性動脈硬化、尿毒症性症候群、および加齢などの病状において、非常に研究されている(8、11、14-17)。反応性カルボニルを付加した、タンパク質および低密度リポタンパク質(LDL)を含む、巨大分子は、スカベンジャー受容体を介して、マクロファージなどのスカベンジング細胞の最初の標的になり(8、10、12、16、18-22)、積極的に取り入れら、これらの細胞によって分解される(10、12、20-23)。反応性カルボニル付加物を介して、抗原を、マクロファージスカベンジャー受容体-A(MSR-A)などのマクロファージスカベンジャー受容体へ標的化することによって、T細胞へ抗原を提示することができ(24)、抗原の免疫原性を増すことができる(25-28)。
【0103】
ホルマリン(ホルムアルデヒド)処理は、幾つかの微生物ワクチンを不活性化し、保存する標準的な手法である。しかしながら、幾つかの特殊な反応が、ホルムアルデヒド-不活性化呼吸器合胞体ウィルス(RSV)で免疫し(29)、および、麻疹ウィルスで免疫し(30)、その後に自然感染した人々において報告された。1960年代に使用されたホルマリン(ホルムアルデヒド)-不活性化RSVワクチン(FI-RSV)の場合における、幾人かの死亡者数をもたらした、ワクチンを行なった後にRSV感染した幾人かの子供の肺病の特殊な肥大した形態の進行によって、ワクチンの使用が終了することとなった。動物モデルを用いたその後の研究によって、FI-RSVに対する増大したTh2応答の特性が、レシピエントを、高いレベルのTh2サイトカインおよび過度の肺の好酸球炎症によって特徴付けられる特殊な肺病に罹りやすくしたことが明らかになった(31-34)。しかしながら、ホルマリン-不活性化ワクチンが免疫応答を偏らせる機構は、明らかになっていない。
【0104】
我々は、本明細書で、グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒドを用いた処理によって鶏卵オボアルブミン(OVA)に付加した反応性カルボニル基が、マウスにおいて、Th2サイトカインプロファイルおよびIgG1抗体産生によって特徴付けられる、抗原に対するTh2-型応答を誘導することを示す。この応答は、OVA上の反応性カルボニル付加物が、非-反応性アルキル部分へと化学的に還元されて除去された場合には、消滅する。我々は、RSVのホルムアルデヒド処理が反応性カルボニルを付加することを示し、そして、RSVワクチン-誘導病状の既知モデルにおいて、FI-RSVでのマウスの免疫が、還元したFI-RSVまたはHI-RSVとは対照的に、生きたRSVでのアレルギー誘発によって、関連した病状を伴うTh2-型応答をマウスにもたらすことを実証する。それゆえ、我々は、ホルマリン固体を介した反応性カルボニルの付加が、RSVワクチンが幼児に過敏性をもたらす主要な機構であることを提案する。
【0105】
〈結果〉
〈グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理によってOVAに反応性アルデヒド基が生じる。〉
アルデヒドは、反応性カルボニル基としても知られているアルデヒド基を介してタンパク質と反応する。側鎖アミノ基、特にリジンが、シッフ塩基付加物の形成のための、グリコールアルデヒドなどのアルデヒドの第一の標的である(35)(図1aおよび1b)。グリコールアルデヒドと、側鎖アミノ酸のリジン残基との間に形成されるシッフ塩基は、例えば、アマドリ転移を経て、タンパク質上に反応性カルボニル基を形成する(35)(図1a)。これらの反応性中間体の生成を介して、タンパク質-アルデヒド付加物が、他のアミノ酸と反応して、架橋を形成することができる。
【0106】
ホルムアルデヒドは、1つだけ例外として(36)、反応性カルボニルをタンパク質に付加する能力については考えられていなかった。反応性カルボニルは、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)によってラベルすることができ、このことによって、タンパク質上での検出および測定のための方法が提供される(37)。モデルタンパク質としてOVA、および、反応性カルボニルを検出するための標準的な比色DNPHアッセイを使用して(38)、我々は、タンパク質のグリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理が反応性カルボニルを付加することを示す前記の研究(36)の結果を確認した(図2)。同じ条件下、および、等モル量のアルデヒドとタンパク質を用いて、グリコールアルデヒドが、ホルムアルデヒドよりも、より有効にOVAへの反応性カルボニルを付加することが証明された。グリコールアルデヒド-タンパク質付加物については、反応性カルボニル形成の基礎が良く特徴づけされているが、タンパク質上で反応性カルボニルを生じるホルムアルデヒドの能力に関してはあまり知られていない。最も有望な方法は、反応性カルボニルが、ホルムアルデヒド-タンパク質中間付加物の自己酸化を介して形成されることである(図1b)。加えて、我々は、OVAのグリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理によって形成された反応性カルボニルが、還元剤によるアルデヒド-タンパク質付加物の還元的アルキル化によって、除去されることを確認した(39)(図2)。
【0107】
〈OVAのグリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理によって、外来性アジュバントの非存在下で、OVAに免疫原性を与える。〉
アジュバントの非存在下で、BALB/cマウスを、グリコールアルデヒドまたはホルムアルデヒドのいずれかで処理したOVAを用いて免疫することによって、堅調なIgG1抗体応答がもたらされた(図3a)。グリコールアルデヒド処理OVAは、モル当りのタンパク質に付加した反応性カルボニルの数が増すのと一致して、ホルムアルデヒド処理OVAよりも高いタイターのIgG1を示した。非処理OVA、または、グリコールアルデヒドもしくはホルムアルデヒドで処理し、その後にNaCNBH3もしくはNaBH4で還元したOVAは、非免疫原性であり、これは、FCAに溶かして投与したOVAが最も高いタイターを誘発したのに対して、対照的であった。アルデヒド-処理OVAによって誘発したIgG2aアイソタイプの分析によって、応答の全てはIgG1であり、有意なIgG2a応答は検出されなかったことが示された(図3b)。対照的に、FCAに溶かしたOVAで免疫したマウスは、強いIgG2a応答を有していた。これらのデータによって、グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理の両方が、処理を行わなければ乏しい免疫原性のタンパク質(例えばOVA)について、アジュバント特性を有していることが実証された、そして、誘発された抗体応答が圧倒的にIgG1であることも実証された。
【0108】
〈アルデヒド-処理OVAはTh2-型免疫応答を誘発する。〉
アルデヒド-処理OVAについてのIgG1応答が優位であることによって、その応答においてはTh2-型に偏っていることが示唆された。反応性カルボニル基がこのような偏りを媒介しているという考えを調べるために、我々は、免疫したマウスの脾臓細胞における、アルデヒド-処理OVAに対するサイトカイン応答のプロファイルを研究した。ホルムアルデヒド-処理OVAで免疫し、その後にネイティブOVAを用いてin vitroで刺激したマウスの脾臓細胞は、増加したIL-5(図4a)および低いIFN-γ分泌(図4b)によって特徴付けられるTh2-型サイトカイン遊離を示した。このことは、高いIFN-γおよび有意でないIL-5遊離が観察された(図4a、b)、FCAに溶かしたOVAを用いて免疫した動物とは対照的であった。免疫した動物の異なる群の間で、IL-4産生における有意な差異は存在しなかった(図4c)。還元したアルデヒド-処理OVAは、IFN-γおよびIL-5の最小の産生によって特徴付けられる、非改変OVAに似たサイトカインプロファイルを有していた(図4a、b)。このことは、如何なるIgG応答も誘発することができないことと一致する(図4a、b)。
【0109】
〈ホルマリン-不活性化RSVは反応性カルボニルを含む。〉
我々は、反応性カルボニル基のTh2へと偏らせる特性を、歴史的にTh2応答と関連しているアルデヒド-不活性化ワクチン、すなわち、ホルマリン-不活性化RSV(FI-RSV)ワクチンに適用することができるかを調べることを望んだ。我々は、タンパク質上の反応性カルボニルの検出のために、アルデヒド-処理OVAを使用した比色アッセイと対照的に有効である感度の高いELISAを使用した。我々は、オリジナルプロトコール(29)に基づく方法で調製したホルマリン-不活性化(FI)-RSVモデルワクチンが、加熱-不活性化した同じもの(HI-RSV)に比較して、有意に多くの数の反応性カルボニルを含んでいることを実証した(図5)。予想通りに、我々は、また、ホルマリン処理したmock感染コントロールが、増加した含量の反応性カルボニルを有していることも見出した(図5)。これらは、恐らく、コントロール調製物における、宿主細胞-誘導タンパク質と関連しているであろう。OVA系での我々の知見と一致して、FI-RSVのNaCNBH3での還元(FI-RSV-Red)によって、モデルRSVワクチンの反応性カルボニルが取り除かれた。
【0110】
〈FI-RSVは、生きたRSVでの誘発後に、Th2-型免疫応答をもたらす。〉
我々は、その後、生きたRSVでの誘発によってFI-RSVワクチンにおいて観察される増大したTh2応答、および、対応する肺の病状を模倣する既知のマウスモデルシステム(31、34、40)を利用した。BALB/cマウスを、mock-感染(Mock)、加熱-不活性化(HI)、ホルムアルデヒド-不活性化(FI)およびホルムアルデヒドで不活性化してその後に還元してアルデヒド基を取り除いたRSV(FI-RSV Red)を用いて免疫した。全ての接種材料は、オリジナルのワクチンプロトコール(41)に従って、水酸化アルミニウムを用いて沈殿させた。
【0111】
マウスは、50μlのワクチンを筋肉内に二回免疫した。最後の免疫後2週間後に、マウスを、鼻腔内への5×105PFUの生きたRSVの投与によってアレルギー誘発した。誘発により、FI-RSVワクチンを受け取っていたマウスは、4日間にわたる累進的な体重減少によって明らかである病状を示した(図6a)。FI-RSVを用いて免疫したマウスは、アレルギー誘発後4日間で、炎症細胞、特に好酸球による広範囲に渡る肺の炎症を発症した(図6b)。対照的に、還元したFI-RSV、HI-RSVまたはホルマリン不活性化mockワクチンを投与したマウスは、有意に低い炎症性好酸球の数を有していた(図6b)。より多くの炎症性CD8+T細胞が、FI-RSVよりも、還元したFI-RSVおよびHI-RSVのBALにおいて観察され、これは、FI-RSVを投与したマウスにおけるTh2-型への偏りと一致していた(図6c)。このことと一致して、HI-RSVおよび還元したFI-RSVに由来するBAL CD8+T細胞は、FI-RSVを免疫したマウスよりも、有意に高いレベルのIFN-γを産生していた。このことは、同じマウスから回収した肺細胞から得られたサイトカインのプロファイルによって確かめられた:FI-RSV-免疫マウスに由来する細胞は、還元したFI-RSVよりも、有意に高いレベルのIL-5および低いレベルのIFN-γを産生した(図7aおよびb)。HI-RSVおよびmock FI-RSVによって産生されたIFN-γおよびIL-5のレベルは、FI-RSVと還元したFI-RSVの中間であった(図7aおよびb)。FI-RSV-免疫マウスにおいては、還元したFI-RSVおよびHI-RSVと比較して、脾臓細胞によるIL-4およびIL-10産生がより高くなる傾向にあったが、その差は有意ではなかった(図7cおよびd)。
【0112】
〈ヒトでの使用が許可された市販のワクチンは、反応性カルボニル基を含みうる。〉
我々は、ヒトにおいて使用可能なワクチンを入手し、反応性カルボニル含量についてテストした。テストしたワクチンの間で、図11aに示すように、ジフテリア、破傷風および百日咳成分を含むワクチン(INFANRIX、INFANRIX-HIB、ACT-HIB-DTP)が、最も高い含量の反応性カルボニルを有していた。我々は、その後、水素化シアノホウ酸ナトリウムを用いて(前記の方法)、これらの基を減少させた。結果を図11bに示す。
【0113】
〈考察〉
我々は、本明細書において、ホルムアルデヒドを含むアルデヒドによる、反応性カルボニルのタンパク質への付加が、タンパク質の免疫原性を変更し増大させ、マウスにおける免疫応答をTh2-型応答に偏らせたことを実証した。我々は、FI-RSV抗原に存在する反応性カルボニルが、生きたRSVでのアレルギー誘発に対する免疫応答を増強したTh2応答へと偏らせるのに主要な役割を果たしていることを示すことによって、我々の知見の1つの重要な態様を強調する。このアルデヒド-依存Th2応答は、生きたRSVでのアレルギー誘発後に生じる体重減少および広範囲に渡る好酸球炎症によって特徴付けられ、そして、FI-RSVで免疫したマウスに選択的である。還元剤による還元的アルキル化を介した、FI-RSVワクチン内のタンパク質上の反応性カルボニル基の除去によって、Th2-型への偏りは消滅し、病状も低減する。ワクチンが誘導する病状におけるアルデヒドの重要な役割は、非常に低いレベルのアルデヒド付加物しか含まず、生きたウィルスによるアレルギー誘発によってFI-RSVで免疫したマウスにおいて見られた病変の多くを示さないHI-RSVワクチンから得られたデータと一致した。本明細書で使用したFI-RSVワクチン抗原を調製し、免疫した子供においてRSV感染によってTh2に偏ったアトピー形態の病気を引き起こす元のワクチンと同じ方法で投与した。それ故、我々は、ホルムアルデヒド処理による元のRSVワクチンへ付加した反応性カルボニルが、元のRSVワクチンでの免疫化に関連した過敏性の主要な原因となっていることを提案する。更にその上、我々は、アルデヒド付加物の還元的除去によって、このRSVワクチン、および、他のホルマリン-不活性化ワクチン調製物における増強した応答を防ぐ方法を提供することを提案する。
【0114】
我々は、幾つかのヒトで使用するための市販のワクチンにおける高い含量の反応性カルボニルは、免疫応答に影響を及ぼすことができると考えている。試験したワクチンの間で、ジフテリア、破傷風および百日咳抗原(DTP)を含むワクチンが、最も高い反応性カルボニル含量を有することが示された。ワクチンに通常使用されるトキソイドは、ホルマリン不活性化によって調製されることに着目すべきである。化学(ホルマリン)処理または遺伝子的な解毒のいずれかによって得られるトキソイドに対する免疫応答への異なる影響は、Tonon et al (47)による論文において見られる。更にその上、DTPワクチンを、生まれてから三ヶ月から開始して、非常に若い子供に三回投与する。新生児の免疫システムは、Th2免疫応答へと偏り、Th2型免疫源を使用することによって、その後の免疫応答も偏らせることは推測することができる。
【0115】
抗原への反応性カルボニル付加についての免疫増強特性は、最近、報告されている(28)。アルデヒド保有抗原の免疫学的アジュバント特性を探索する際に、我々は、OVAのアルデヒド処理がIgG1抗体応答を誘発するが、IgG2a抗体応答を誘発しないことを見出した。このことは、FCA(IgG2aおよびIgG1応答の両方を誘発する有力なTh1アジュバント)に溶かして投与したOVAとは対照的であった。アルデヒド-付加OVAがIgG2aを誘発しないこと(マウスにおけるIFN-γ産生、それゆえTh1応答の指標である)は、アルデヒド-タンパク質付加物によって誘発された増加したIgG1抗体タイターに関する、2つの以前の報告と一致した(28、42)。最近の研究において、興味深いことに、抗原のアルデヒド-付加が、FCAによって誘発されるIgG2aのタイターを減少し、アルデヒド付加物による、Th2-型抗体応答へと偏らせる有力な効果が示唆された。我々が、アルデヒド-付加OVAまたはFI-RSVのいずれかを用いたマウスの免疫の後にサイトカイン発現で得たデータは、アルデヒド付加がTh2-型の免疫応答をもたらすという知見と完全に一定している。
【0116】
我々が、なぜ、アルデヒド基が、付加された抗原に対する免疫応答をTh2へと偏らせるのか理解していないのに対して、アルデヒド付加物が抗原の免疫原性を増大させる機構は、少なくとも部分的には解明されている。タンパク質およびリポタンパク質などの巨大分子へのアルデヒド付加は、アテローム性動脈硬化(8、11)、糖尿病(8、11、15)、尿毒症(16)およびアルコール誘導肝臓病(26、42-44)などの様々な病状において記載されており、高い酸化ストレス状態下の場合に、アルデヒド基が生じ、ホストタンパク質に付加される。これらの改変タンパク質およびリポタンパク質は、スカベンジャー受容体を介して、マクロファージによって効率的に取り込まれ、T細胞依存性体液応答の準備を行う。この応答におけるアルデヒド-付加物の中心的な役割についての証拠は説得力があり、以下の例を含む:a)アルデヒド処理以外の方法(例えば、酸化)によって糖タンパク質上に生じたアルデヒド基は、同じように、糖タンパク質の免疫原性を増大し、抗原-特異的IgG1応答を有する(28);b)付加したアルデヒド基は、付加した抗原の免疫原性のみを変更し、例えば、共投与した非改変抗原の免疫原性は変更しない(28);c)タンパク質上のアルデヒド基の還元的除去が、マクロファージスカベンジャー受容体による、改変したタンパク質の取り込みを無効化し、抗体応答を誘発する能力を消滅させる(28);d)単量アルデヒド-タンパク質付加物は、架橋種と同様の免疫原性を示し(28)、このことは、架橋のみが観察された効果に関与しているわけではないことを示している。
【0117】
反応性カルボニル-付加物のTh2-型免疫応答促進特性という我々の発見によって、FI-RSVワクチンによって誘導される病状以外の病状を明らかにすることができる。例えば、アルデヒドは、ホルマリン-不活性化麻疹ワクチンに対する過度にTh2-へと偏ったアトピー症、ならびに、環境および職業によるアルデヒド曝露に対する過敏性およびアレルギー応答に関与している。更にその上、反応性カルボニルは、好中球によるグリコールアルデヒドの産生によって、炎症反応の間に、in vivoでタンパク質に付加されることができる(13、45)。このことによって、自己抗原に対する局所的なTh2-型応答の誘導を導かれ、1型過敏性およびアレルギー反応が誘導される可能性を秘めている。我々は、これらの一般的な条件の根幹をなす機構に関する我々の解明、および、反応性カルボニルの還元的除去が病状を緩和するという我々の実証によって、病状の予防および制御のより深い理解がもたらされることを提言する。
【0118】
〈方法〉
〈アルデヒドによるOVA改変〉
OVA(10μM)を、PBSに溶かした20mMのグリコールアルデヒドまたはホルムアルデヒドと、3時間37℃でインキュベートした。非反応のアルデヒドを、Microcon(登録商標)10 centrifugation filter(Amicon Ltd.)を用いて、5000xgで三回、トータルで〜303のバッファー交換を行って、溶液の遠心ろ過により取り除いた。反応性カルボニル基は、OVAへのアルデヒド付加時における0.1mMのNaCNBH3の添加か、あるいは、OVA改変に続く0.1mMのNaBH4とのインキュベーションを介してのいずかによって、還元した。サンプルを、その後、Microcon(登録商標)10 centrifugation filter(Amicon Ltd.)を介して、5000xgで三回溶液をろ過することによって脱塩した。
【0119】
BCA Protein assay(Pierce)を使用して、タンパク質濃度を求め、その濃度を、280nmでの吸光度を測定することによって確認した。
【0120】
〈反応性カルボニルの測定〉
〈A. 比色方法〉
125-250μgのタンパク質を、500μlの10mM 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)と、500μlの容積の2Mの塩酸中で、1時間室温で、10-15分毎に攪拌しながらインキュベートした。混合液を、11.000xgで3分間遠心し、上清を捨てた。ペレットを、三回、1mlのエタノール-酢酸エチル(1:1 V/V)で洗浄し、フリーのDNPHを取り除いた。その際、各回毎に、サンプルを、再遠心分離する前に、10分間静置した。沈殿したタンパク質を、1mlのグアニジン溶液中で、15-30分間、37℃で再溶解させた。不溶物質を、11,000xgで3分間遠心することによって取り除いた。上清の吸光度を375nmで測定し、反応性カルボニル含量を、モル吸収係数22,000M-1cm-1を用いて計算した。
【0121】
〈B. ELISA方法〉
5-10μgのアルデヒド-処理または非処理タンパク質(OVAまたはRSV)を、室温で、40μlの10mM DNPHと、2Mの塩酸中で45分間、10分毎に攪拌しながらインキュベートした。150μlのコーティングバッファー(pH 8.5のNaHCO3)を溶液に加え、そのうちの100μlを、一晩4℃でELISAプレートをコーティングするのに使用した。その後、プレートを、PBSを用いて洗浄し、200μlのPBS/1% BSAでブロッキングを行った。タンパク質に結合したDNPHを、ビオチン化抗-DNP抗体およびHRP-コンジュゲートストレプトアビジン(Jackson Laboratories)を用いて検出した。TMB基質(Pierce Ltd.)を用いて発色させ、1MのH2SO4で反応を停止した後に、450nmの吸光度を測定することによって結果を得た。
【0122】
〈免疫〉
6-8週齢の雌のCBAまたはBALB/cマウスに、100μlのPBSに溶かした20-25μgのネイティブまたは改変OVAを用いて皮下免疫を行った。マウスに、免疫開始後3から4週間後に、100μlのPBSに溶かした20-25μgのネイティブタンパク質を用いて追加の皮下免疫を行った。血清回収のために、マウスの尻尾から血を抜き取り、追加免疫後2週間でマウスを殺して、サイトカイン応答分析のために、脾臓細胞を回収した。
【0123】
〈OVAまたはRSV-特異的抗体についてELISA〉
ELISAプレート(Microlon high binding, Greiner Bio-one)を、一晩、pH8.5の炭酸バッファーに溶かしたネイティブOVAを用いて、4℃でコーティングした。プレートを、1時間室温で、200μlのPBA/1% ウシ血清アルブミン(BSA, Sigma Ltd.)でブロッキングし、PBSで三回洗浄し、抗血清および免疫前血清の、100μlのPBA/1% BSAに溶かした連続希釈液を、プレートに加えた。1時間室温でインキュベーション後、プレートを3回PBSで洗浄し、OVA-特異的IgG1またはIgG2aアイソタイプを、HRPコンジュゲート抗-マウスアイソタイプ(Jackson Laboratories Co.)を用いて検出した。シグナルは、TMB基質を用いて発色させ、1MのH2SO4で反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0124】
〈OVAに特異的なサイトカイン分泌細胞をカウントするためのELISPOTアッセイ〉
ELISPOTプレート(Millipore Ltd.)を、一晩4℃で、pH 8.5の炭酸コーティングバッファーに溶かした5μg/mlのIL-2、IL4、IL-5、IL-10、IFN-γに対する精製抗-サイトカイン抗体100μl(BD-Pharmingen Ltd.)を用いてコーティングした。コーティングバッファーを捨て、ウェルを、200μlのブロッキングバッファー(PBS/1% BSA)を用いて1回洗浄した。200μlのブロッキングバッファーをそれぞれのウェルに加え、その後、2時間室温(RT)でインキュベートした。ブロッキングバッファーを捨て、5×104および2.5×104の細胞を2サンプルずつELISPOTウェルに加え、プレートを37℃で24時間インキュベートした。その後、細胞を捨て、ウェルを、200μl/ウェルのdd H2Oを用いて、各回3-5分間ウェルを浸すことによって二回洗浄した。その後、ウェルを、ブロッキングバッファーを用いて再度三回洗浄した。検出抗体、ビオチン化IL-2、IL4、IL-5、IL-10、IFNγ(BD Pharmingen Ltd.)を、その後、ブロッキングバッファーで1/250に希釈し、100μlを各ウェルに加えた。プレートを、2時間室温でインキュベートした。検出抗体を捨て、ウェルを、200μlのブロッキングバッファーを用いて5回洗浄した。100μlのエクストラアビジン-アルカリフォスファターゼ(ろ過したPBSで1/1000に希釈)を各ウェルに加えて、2時間室温でインキュベートした。この溶液を捨て、プレートを200μl/ウェルの洗浄バッファーを用いて五回洗浄した。100μlのBCIP/NTB AKP基質をウェルに加え、暗い点が現れるまでインキュベートした(10-20分)。その後、水道水でプレートを洗浄してスポットの成長を停止させ、プレートを風乾した。スポットを、ELISPOTリーダーを用いてカウントした。
【0125】
〈ワクチン調製〉
FI-RSVワクチンを、(29)に記載されているように調製した。簡略して述べると、RSVを、HEp-2細胞で増殖させ、フラスコを凍結して解凍し、細胞を回収してプールした。ウォーターバス内で10分間ソニケーション後、調製物を10分間1000rpmで遠心し、上清を回収した。ホルマリンを72時間(37℃)加え(最終濃度1:4000)、サンプルを、4℃で、1時間、50,000xgで超遠心した(SW28ローターを備えたBeckman L8-M超遠心)。ペレットを、PBSで元の容積の25分の1に希釈し、ミョウバン(4mg/ml, Imfect Alum, Pierce)および遠心分離(30分間, 1000g)を用いて、30分間の沈殿後に、4倍濃縮液を得た。HI-RSVを、ホルマリン添加以外は、全く同じ方法で調製した。非-感染のHEp-2細胞を含むFI-Mockを、FI-RSVと同じ方法で処理した。
【0126】
〈細胞回収〉
RSVを用いたアレルギー誘発の4日後に、マウスを殺して、以前に記されているように(46)、気管支肺胞洗浄液(BAL)、肺組織、脾臓および血清を回収した。簡略して述べると、Eagle’s MEMに溶かした1mlの12mMリドカインを用いて肺を膨らませ、滅菌チューブ中で氷上に静置した。100μlの各サンプルをガラススライド上で細胞遠心し、好酸球カウントのために、ヘマトキシリンとエオシンを用いて染色した。
【0127】
〈RSVに特異的なサイトカイン分泌細胞をカウントするためのELISPOTアッセイ〉
IFNγ、IL-4、IL-5およびIL-10を産生する細胞を、ELISPOTによって数えた。簡略して述べると、マイクロセルロース-底の96穴プレートを、一晩、炭酸-重炭酸バッファーで溶かしたキャプチャー抗体(Pharmingen)を用いてコーティングした。肺細胞を2サンプルずつ加え(ウェル当り5×104)、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間インキュベートした。その後、適切なビオチン化抗-サイトカイン抗体(Pharmingen)を更に2時間加え、その後、アルカリフォスファターゼ-コンジュゲート アビジン(Sigma)とBCIP/NBT基質(Sigma)により青いスポットを生じさせた。スポットを、自動化したスポットカウンター(AID EliSpot Reader System)を用いてカウントした。結果を、百万の細胞当りのスポットの数として表す。
【0128】
〈ピーナッツタンパク質抽出〉
生のピーナッツおよびローストしたピーナッツを、コーヒーグラインダーによって、その後で、乳鉢と乳棒によって細かくした。その後、各回4000gで回転して、5当量の冷アセトンを用いて3回脱脂し、最終的に、一晩4℃で乾燥させた。タンパク質を、乾燥粉体から連続して抽出した;粉末をPBSに加え、その後、4時間室温で攪拌した。その後、サンプルを2000gで、5分間室温で遠心し、上清を回収し、12000gで1分間遠心し、上清を回収し、0.45μmフィルターを介してろ過した。サンプルについては、BCAタンパク質アッセイによってタンパク質濃度をアッセイした。
【0129】
[参考文献]
【0130】
(実施例2:グリコールアルデヒドによるオボアルブミンの処理がTh2への免疫の偏りを導く)
雌のCBAマウスを、PBSに溶かした25μgのオボアルブミンまたはflu HA(20mMのグリコールアルデヒド(GA)で改変した、または、フロイント完全アジュバントと混合した)を用いて皮下に免疫した。マウスを、免疫してから3週間後に、PBSに溶かしたネイティブなHAを用いて追加免疫した。マウスから血清を取り出し、1/100に希釈し、IgG1およびIgG2a抗体の存在を、OVAまたはHAでコーティングしたELISAプレートを用いて検出した。HAに結合した特異的抗体を、抗-マウスIgG1またはIgG2a-HRPコンジュゲート抗体を用いて検出した。
【0131】
用いた方法は、実施例1で概略した方法と同じである。この実験から得られた結果を、図8に示す。
【0132】
図8に示されたデータから、グリコールアルデヒド処理を行ったOVAまたはHAに曝露したマウスは、IgG2a抗体産生よりもIgG1抗体産生が非常に増加したことは明らかであり、このことは、マウスがTh2抗体プロファイルを発達させたことを示している。
【0133】
(実施例3:OVAへの反応性カルボニルの付加の定量およびその還元的除去)
反応性カルボニルを、前記の方法にしたがって、グリコールアルデヒドを用いてOVAに付加した。3つの異なる濃度のグリコールアルデヒドを使用した:2、10および20mM(図9)。20mMのグリコールアルデヒドを用いて処理したOVAであって、1モルのOVAにつき約5.5の反応性カルボニルを含むサンプルを、10または100mMのNaBH4を用いて還元した(図9)。これらの全ての改変後のOVAの反応性カルボニル含量を、前記した比色DNPHアッセイを使用して定量した。
【0134】
(実施例4:ドライローストしたピーナッツは非調理のピーナッツよりも多くの数の反応性カルボニルを含む)
生のピーナッツおよびローストしたピーナッツまたはドライローストしたピーナッツを、市販のコーヒーグラインダーを使用して荒く挽き、その後、乳鉢および乳棒を用いて細かくした。その後、粉末を、各アセトン洗浄後に4000gで回転して、5当量の冷アセトンを用いて3回脱脂し、その後、一晩4℃で乾燥させた。その後に、PBSに加え、4時間室温で攪拌することによって、タンパク質を乾燥粉体から抽出した。その後、サンプルを2000gで、5分間室温で遠心した。上清を2000gで5分間室温することによって更に不溶物を除いた。その後、上清を回収し、0.45μmフィルター(Amicon)を介してろ過した。サンプルについては、BCAタンパク質アッセイによってタンパク質濃度をアッセイした。
【0135】
ピーナッツサンプルを、0.1M NaBH4を用いて、2時間37℃で処理し、その後、脱塩し、反応性カルボニル含量を減少させた。
【0136】
反応性カルボニル含量を測定するためのDNPH ELISAを、5μgタンパク質/ウェルを使用して、実施例1に記載したように実施した。エラーバーは、2つの独立した2サンプルずつ行ったELISAの標準偏差である。データを図10に示す。
【0137】
図10からわかるように、ピーナッツのローストまたはドライローストによって、ピーナッツタンパク質の反応性カルボニル含量は有意に増加した。反応性カルボニルは、0.1MのNaBH4での還元によって、タンパク質から除去された。
【0138】
(実施例5:マロンジアルデヒド(MDA)および(E)-4-ヒドロキシノネナール(HNE)によるモデルタンパク質(オボアルブミン)上の反応性カルボニル基の産生)
MDAおよびHNEは、アルコール摂取またはAGE産生における脂質酸化の間に生じたアルデヒドとして、前記されている。それらは、マクロファージによる改変タンパク質の取り込みの増加および免疫原性の増大と関連している。
【0139】
図13から15には以下が示されている:
1.MDAおよびHNEは、タンパク質に、還元可能な反応性カルボニル基を付加する。
2.これらのアルデヒドによって改変したOVAの免疫原性は、balb/cマウスにおいて、通常はIgG1応答が増大し、IgG2aは増大しない。
3.反応性カルボニル基が還元によって除去された場合、前記増大は消滅する。
4.HNE-改変OVAは、高いIL-5および低いIFNγ産生を誘導する。
5.ポイント2および4は、Th2へと偏った応答を示唆している。
6.この応答は、反応性カルボニル基を還元した場合には、消滅する。
【0140】
(実施例6:還元したOVAの抗原性および免疫原性)
本実施例において、我々は、化学的還元によって、タンパク質の構造は変化しないことを示す。フロイント完全アジュバント(FCA)に溶かした還元したOVAを注入し、非改変OVAに対する抗体応答を求めた。また、グリコールアルデヒド(GA)によって改変したOVA、またはGA-改変および還元したOVAについて、免疫原性を調べた。
【0141】
図16には以下が示されている:
1.FCAに溶かして注入した場合、還元したOVAは、ネイティブエピトープに対する抗体を誘発する。このことによって、還元したタンパク質の構造的な完全性が確認される。
2.GA-改変OVAは、OVAよりも免疫原性を有しており、この免疫原性は、反応性カルボニル基を除去する更なる還元によって消滅する。
【0142】
(実施例7:生のピーナッツタンパク質と比較したローストしたピーナッツタンパク質の免疫原性)
図17には以下が示されている:
1.ローストしたピーナッツタンパク質は、balb/cマウスにs.c.注入した場合、生のピーナッツタンパク質よりも免疫原性を有しているようである。
2.この免疫原性は、主に、IgG1応答であり、IgG2a応答ではない。
3.反応性カルボニル基を除去するためにローストしたピーナッツタンパク質抽出物の還元によって、IgG1応答が減少する。
【0143】
(実施例8:グルタルアルデヒドの、モデルタンパク質(OVA)への反応性カルボニル基を付加する能力)
前記したように、グルタルアルデヒド(GLA)を、バイオプロステーシスを保存するために使用することができる。このような改変した組織の免疫原性は変化するであろう。
【0144】
図18には以下が示されている:
1.GLAは、モデルタンパク質(OVA)に反応性カルボニル基を付加することができる。
2.その付加した反応性カルボニル基は還元することができる。
【0145】
(実施例9:fluヘマグルチニン(HA)のグリコールアルデヒド処理によるTh1/Th2の偏り)
反応性カルボニル基によるTh2への偏りを更に示すために、我々は、ここでは、ウィルス-関連タンパク質、ヘマグルチニン(現在のホルムアルデヒド-改変ワクチンの一部である)を使用する。
図12には以下が示されている:
1.HA上での反応性カルボニル基の産生は、よりTh2応答へとマウスにおける応答を偏らせるようである。
2.この偏りは、カルボニル基を還元した場合には逆になる。
【0146】
(実施例10:還元反応のための方法)
還元反応
目的
このセクションが終了するまでに、
1.化学選択的還元における、様々な還元剤(ヒドリドvs中性の還元剤)の反応性の差異を活用し、異なる反応性を説明する機構の論理的根拠を付与することができるようになる。
2. 近接したケトンの還元の結果を制御し、選択的にsynおよびanti 1,3-および1,2-ジオールを合成するために、出発原料の固有のキラリティーを使用することができるようになる。
3.良く定義されたT.S.ダイアグラムを用いて、ジアステレオ選択的な反応を合理的に説明できるようになる。
4.還元反応における遷移金属の用途の広さの正しい認識を得る。
5.溶解金属還元の合成の有用性の正しい認識を得る。
6.ハロゲン化物の脱酸素化および還元のためにラジカル化学を使用することができるようになる。
【0147】
II.A カルボン酸誘導体の還元および関連した官能性
【0148】
【化1】
【0149】
酸化反応の場合に直面した選択性および反応性の類似の問題が、還元反応にも生じる。
・化学選択性。多くの異なる官能基は、様々な方法で還元することができる。我々は、他の部分はそのままにして、たびたび、選択的に1つの官能基を減少する必要がある。
・カルボン酸誘導体の場合、2つの可能性ある還元生成物が存在する:アルデヒドおよびアルコール。理想的には、我々は、どちらかの生成物を入手する選択的な方法が必要である。
【0150】
Q? なぜ、たびたび、アルデヒドのエステルの還元を止めることが難しいのか?(開始物質と中間生成物の相対的な求電子性を考慮)
・立体選択性。非対称に置換されたケトンは、還元で二級アルコールを提供し、分子内に新たな立体中心を導入する。我々は、出発原料または試薬(または両方)による制御を使用して、この還元の立体化学の結果(相対的および絶対)を制御する方法が必要である。このコースにおいては、出発原料-制御ジアステレオ選択的還元のみを考慮する。エナンチオ選択的還元は、別の場所でカバーする(H Tye Asymmetric Synthesisコース)。
【0151】
II.A.1 ヒドリド還元剤
最も重要な還元剤のうちの幾つかは、アルミニウムおよびホウ素のヒドリド(水素化物)である。原理的に反応性が異なる多くの種類が存在する。それらは、全て、求核性ヒドリドの供給源として機能し、それゆえ、求電子性種に対して最も反応的である。最も広く使用されているヒドリド剤の幾つかを、以下に論じる。
【0152】
II.A.1.i 水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)
・最も有力な還元剤の1つである。
・非常に発火しやすい試薬であり、それ故、注意して使用しなければならない。
・反応は、通常、エーテル溶媒(例えば、THF、Et2O)中で行う;LiAlH4は、プロトン性溶媒(すなわち、NaBH4)と激しく反応する。
・LiAlH4の非常に高い反応性は、この試薬に、比較的に低いレベルの化学選択性しか付与しない。しかしながら、強い求電子性基に対して最も反応的である。
【0153】
【表1】
【0154】
実質的に各カルボン酸誘導体を還元できることに加えて、LiAlH4の高い反応性によって、他の官能基を還元するのに有用となる:
【0155】
【化2】
【0156】
【化3】
【0157】
この場合、近接したアルコールが不可欠である。反応は、アルケンを遊離する三重結合のtrans-選択的ヒドロメタレーションを介して進行する:
【0158】
【化4】
【0159】
エポキシド環-開環
非対称的置換エポキシドの場合、位置選択性の問題が生じる。非環式系においては、求核性化合物(ヒドリド)は、エポキシドのより立体障害が少ない側で、SN2反応で反応する傾向がある。
【0160】
【化5】
【0161】
環式系においては、アキシャル位での攻撃が好ましい(transジアキシャル環開環)
【0162】
【化6】
【0163】
II.A.1.ii 水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)
・LiAlH4より穏やかである。
・エステル存在下でアルデヒドおよびケトンを化学選択的に還元するのにたびたび使用される(エステルは、NaBH4で還元されるが、通常は、非常に低い割合である(低い求電子性))。
・反応は、H2Oを含むプロトン性溶媒で行われる。NaBH4は、大部分の非プロトン性の溶媒に不溶である。
【0164】
関連する試薬
水素化ホウ素リチウムおよびカルシウム
水素化ホウ素ナトリウムの反応部位はヒドリドアニオンであるが、そのカウンターイオンも、試薬系の反応性を調節するのに使用することができる。LiBH4およびCa(BH4)2を含む多くの他の水素化ホウ素試薬は購入することができる。これらの試薬の両方は、より反応性を有し、アルデヒドおよびケトンに加えて、容易にエステルを還元する。これらの試薬の増加した反応性は、カルボニル基に増加した求電子性を付与するカチオンのルイス酸性の増加が原因である(ルイス酸-ルイス塩基形成)。
【0165】
II.A.1.iii 水素化ホウ素ナトリウム-塩化セリウム(III)
問題1:Dr-非飽和カルボン酸の位置選択的還元。1,2-還元
・アリルアルコール(非常に重要な官能基)への良好な経路
解決:1:1の比のNaBH4とCeCl3を使用-Luche還元
【0166】
【化7】
【0167】
選択的1,4-還元を得るため:
a) 触媒による水素化
b)「銅ヒドリド」[PPh3CuH]6 Strykerの試薬
【0168】
問題2:より求電子的なアルデヒドの存在下でケトンを化学選択的に還元する方法。
・ケトンの存在下でアルデヒドを化学選択的に還元することは、通常、求核性ヒドリド供給源への高い反応性を活用することによって、達成することができる。
【0169】
Q? なぜ、アルデヒドは、ケトンよりも求電子性であるのか?
・アルデヒドはケトンよりも求電子性であるので、それゆえ、非常に水和/アセタール化されやすい。
・アセタールは、水素化ホウ素試薬によっては還元されない。
・Ce(III)は、良好なルイス酸であり、強い親酸素性を有する-カルボニル基、特にアルデヒドの水和を促進する。それゆえ、一時的にアルデヒドをアセタール/水和物としてマスクして、ケトンの選択的な還元を可能にすることができる。マスクされなかったアルデヒドが反応する。
解決:含水EtOH中の1:1 NaBH4-CeCl3を使用
【0170】
【化8】
【0171】
II.A.1.iv 水素化シアノホウ素ナトリウム(NaCNBH3)
C.F. Lane, Synthesis, 1975, 135-146
・非常に有用な水素化ホウ素試薬である。
・pH7でNaBH4よりも穏やかである。
・反応性は、非常にpHに依存する-酸性条件下(pH3より低い)で耐性を有する数少ない水素化ホウ素化物の1つである。
pH3-4:NaCNBH3は容易にアルデヒドおよびケトンを還元する。
pH6-7:NaCNBH3は容易にイミニウムイオンを還元するが、C=O基を還元しない-この特性が、最も重要な用途-還元的アミノ化-を担う。
・アルデヒドまたはケトンと二級または一級アミンをカップリングすることによる、二級および三級アミンを合成する非常に有用な方法である。
【0172】
【化9】
【0173】
Q? アミン形成のための代替的な方法は、一級または二級アミンをハロゲン化アルキルでアルキル化することであるか?このアプローチの問題は何か?ヒント-生成したアミンは、開始物質よりも、多かれ少なかれ求核性であるか?
【0174】
【化10】
【0175】
Q? この反応の立体選択性の説明
【0176】
【化11】
【0177】
II.A.1.v 他のヒドリド還元剤
多くの他のヒドリド還元剤が存在する。以下は、立体選択的還元における使用のためのバルキーな還元剤として開発された:
【0178】
【表2】
【0179】
4-Tert-ブチルシクロヘキサノンの立体選択的な還元
【0180】
【化12】
【0181】
【表3】
【0182】
どのような要素が、この還元の立体化学的な結果に影響を及ぼすか?
【0183】
ヒント:反応に関与する求核試薬、求核試薬のサイズなどの要素を考慮せよ。開始ケトンおよび2つの生成物のニューマン投影式を記載し、分子がどのように開始物質から生成物へと進行するかを考慮せよ-エクリプス配座は好ましくない。
【0184】
II.A.2 中性還元剤
前記で論じた試薬は全てヒドリドであり、求核性試薬として作用する-これらは、良好な求電子試薬と最も容易に反応する。還元剤の他のクラスは、中性である還元剤である。これらは、異なる機構を介して反応し、結果として、時には、前記したヒドリド試薬を補完するような全く異なる選択性を有する。
【0185】
【化13】
【0186】
【表4】
【0187】
II.A.2.i ボラン(BH3)
ボランは、単離するには非常に不安定である(ダイマーB2H6として、または、ルイス酸-ルイス塩基複合体、例えば、BH3THFもしくはBH3Me2Sとしてのいずれかで存在する)。
・エステルの存在下、カルボン酸をアルコールに選択的に還元するのに非常に有用な試薬である。
・アミドは、また、対応するアルコールへと容易に還元する。
【0188】
【化14】
【0189】
より電子が豊富なカルボン酸誘導体は、最も容易に還元されると思われる-ヒドリド還元剤と完全に反対の反応性。
【0190】
Q? なぜ、カルボン酸は、エステルと比較して迅速に還元されるのか?
手掛かり:ボランは、カルボン酸と反応して、トリアシルオキシボランを生じる(プロトノリシス)。これは、本質的には、混合した無水物であり、それゆえ、非常に反応性を有する。エステルは、この方法で反応することができず、それゆえ、より遅い速度で還元される。
【0191】
【化15】
【0192】
注意!
ボランは良好な還元剤であるが、不飽和系(三重結合および二重結合)をハイドロボレーションするのに非常に有用でもある-化学選択性は問題となりうる。
【0193】
【表5】
【0194】
II.A.2.ii 水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBALH)
【0195】
【化16】
【0196】
・非常に広く、特にエステルを還元するために使用されている還元剤である。
エステルは、化学量論および反応条件に依存して、アルデヒドまたはアルコールのいずれかに還元することができる:
【0197】
【化17】
【0198】
ニトリルもアルデヒドに還元される。この場合、反応は、酸を用いたワークアップで加水分解するイミンを介して進行し、アルデヒド生成物が得られる:
【0199】
【化18】
【0200】
ラクトンは、アルデヒド生成物の過剰還元を防ぐ有用な方法を提供する。これらの場合、ラクトンはラクトールに還元され、そのヘミアセタール官能基は、基本的にアルデヒドをマスクし、過剰還元を防ぐ:
【0201】
【化19】
【0202】
II.A.2.iii Al(OiPr)3を用いたMeerwein-Ponndorf-Verley還元
・カルボニル基(基本的にはアルデヒドおよびケトン)を還元する比較的古い反応である。
・イソプロパノールはヒドリド供与体として作用する。
・副生成物はアセトンである。
・反応は可逆的である-可逆的酸化は、Oppenauer酸化として知られている。
・その機構は、既知のイス型T.S.(Zimmerman-Traxler)を介して進行する様々な試薬に典型的なものであり、ベータ-ヒドリドをカルボニル基に分子内で転移させる。
【0203】
【化20】
【0204】
この反応機構を、γ-ヒドロキシケトンの配向された還元のための方法と比較せよ(Me4NHB(OAc)3-およびEvans-Tischenko還元)-その機構は非常に類似している-イス型Zimmeran-Traxler遷移状態は、6-員環の遷移状態を介して進行することができる反応の立体化学結果を合理的に説明するのに、非常に共通して使用される。
【0205】
II.B プロキラルケトンの立体選択的な還元
ヒドリド求核性物質をキラルケトンに付加することによって、ジアステレオマーが得られる-立体中心がカルボニル基に近接(1,2-または1,3-位(すなわち、D-またはr-ヒドロキシケトン))している場合、保護基、反応条件および還元剤を注意深く選択することによって、還元における高い立体選択性を、たびたび得ることができる。1,2-および1,3-ジオールは、天然物に広く分布している(エリスロマイシンおよび関連するポリケタイドマクロライド参照)。ヒドロキシケトンの立体選択的還元によって、このような官能基を導入する信頼性のある経路が提供される。
【0206】
【化21】
【0207】
次に、それぞれの還元について考察する。幾つかの試薬が新規なものであろうが、根幹をなすコンセプトとモチーフを既に認識しているであろう;もしそうでないならば、化学のこの領域を復習せよ-このレクチャーコースの中で、何度も何度も、現れるであろう。
【0208】
例えば、Chemistryのこの領域を深く論ずるためには、以下を参照せよ:
1. F. A. Carey, R. J. Sundberg, Advanced Organic Chemistry: Volume B, Plenum Press, New York, 1990 (3rd Edition), pp 241-244
2. M. B. Smith, Organic Synthesis, McGraw-Hill, New York, 1994, pp400-417
3. E. L. Eliel, S. H. Wilen, Stereochemistry of Organic Compounds, Wiley, New York, 1994, pp 858-938
【0209】
II.B.1 anti-1,3-ジオールのジアステレオ選択的形成
anti-1,3-ジオールを、対応するr-ヒドロキシ-ケトンから形成するために、多くの方法が開発されている。全ては、既知の6員環のイス型遷移状態を介した分子内ヒドリド転移(すなわち、Meerwein-Ponndorf-Verley還元)の利点を有する、いわゆる配向された還元に基づいている。
【0210】
II.B.1.i Davisの分子内ヒドロシリル化
【0211】
【化22】
【0212】
工程1:シリルエーテル形成
・工程2:シランをルイスまたはブレンステッド酸で処理し、ヒドリド転移を誘導する。ジアステレオ選択性のレベルは良好であり、320:1から120:1という優れたanti:synが得られる(BF3OEt2およびSnCl4は特に良好な結果が得られた)。
・シリルアセタール生成物は安定であり、イソプロピル基によって、この官能基は安定なジオール保護基となる。
・シリルアセタールのフッ化物による脱保護によって、フリーのジオールが提供される。
【0213】
シリルエーテルのフッ化物による脱保護の機構とは何ですか?
ヒント:ケイ素は、空の低い軌道を有する(3d AO)。
イス型T.S.を介した分子内ヒドリド転移は、反応の立体化学的な結果として説明される。
【0214】
【化23】
【0215】
II.B.1.ii テトラメチルアンモニウム トリアセトキシ水素化ホウ素(Evans)
Evansは、Me4NHB(OAc)3を用いて、代替的なアプローチを導入した。
D. A. Evans, K. T. Chapman, E. M. Carreira, J. Am. Chem. Soc., 1988, 110, 3560-3578
【0216】
選択性のレベルは、Davisの方法ほど高くはないが、この反応は、実施がより容易であり、一般的に高い収率である(ペイオフ)。
【0217】
【化24】
【0218】
r-ケトンだけを還元することを注意せよ-エステルは、そのままである(化学選択性)。
反応の立体選択的な結果を満足させるT.S.を描写せよ(ヒント:AcOH共溶媒により酸触媒を提供する)
【0219】
II.B.1.iii Evans-Tishchenko反応
D. A. Evans, A. H. Hoveyada, J. Am. Chem. Soc., 1990, 112, 6447-6449
・高い立体制御レベルのanti-1,3-ジオールが提供される。
・1つの有力な利点は、配向した水酸基がエステルとして保護されることである(アルデヒドの選択によってPGの特性が求まる)。
・この方法によって、1,3-ジオールから開始して得ることが時には困難な2つの二級アルコールの分別が可能となる。
【0220】
その機構には、r-ヒドロキシケトンの、アルデヒド(アシル保護基の供給源)との反応が含まれ、二ヨウ化サマリウム(SmI2)によって媒介される。サマリウムによって、既知の遷移状態の形成が確かなものとなり(配位による-ランタノイドが強力な強い親酸素性であることを想起せよ)、アルデヒドからケトンへのヒドリド転移を促す。
【0221】
【化25】
【0222】
Q? どのように、ヒドリドの供給源がアルデヒドであることを証明するか?
もう1つの例:
【0223】
【化26】
【0224】
II.B.2 Syn-1,3-ジオールのジアステレオ選択的形成
キレート-制御分子内ヒドリド転移
r-水酸基とケトンの間でキレートを形成することができる金属によって、シクロヘキセンの分子構造と似た分子構造が提供される:
【0225】
【化27】
【0226】
・キレート上での分子内ヒドリド転移は、その後、syn-1,3-ジオール生成物が提供されると予想される。このことは、実際に事実である。
・最も確実な反応条件は、低い温度でのEt2B(OMe)-NaBH4である:
K.-M. Chen, G. E. Hardtmann, K. Prasad, O. Repic, M. J. Shapiro, Tetrahedron Lett., 1987, 28, 155-158
【0227】
【化28】
【0228】
明確な構造を使用して、この反応の立体選択的な結果を説明できることを確認せよ。
・良好なsyn選択性も付与する他の試薬はZn(BH4)2およびDIBALHである。
K. Narasaka, F.-C. Pai, Tetrahedron, 1984, 40, 2233-2238
【0229】
このテーマには多くの変形型が存在する(内部キレート化に続く分子内ヒドリド転移)。エステルをキレートの形成のために使用する例としては、以下がある:
【0230】
【化29】
【0231】
観察されたこの反応の立体化学的な結果を説明するT.S.図を描写せよ。
【0232】
II.B.3 Anti-1,2-ジオールのジアステレオ選択的な形成
キレート制御を活用せよ:
それゆえ、必要であるのは:
・フリーアルコールまたは保護基がキレートを形成することができる保護されたアルコール(アルキルエーテル)。
・キレート中間体を形成することができる金属(典型的な金属はZn(II)、Mg(II)、Ti(IV)等を含む)。
【0233】
この場合も、キレート中間体は、コンホメーション的に非常にリジッドであり、カルボニル基の2つのジアステレオ面を立体的に区別する[これはCramキレート化である]。
【0234】
【化30】
【0235】
【化31】
【0236】
II.B.4 Syn-1,2-ジオールのジアステレオ選択的形成
このためには以下が必要である:
・保護基の慎重な選択;キレート形成を防ぎ、非常にバルキーである保護基(大きなシリル保護基が理想的である)。
・立体制御を説明するためのFelkin-Anh T.S.を使用する。
【0237】
【化32】
【0238】
Felkin-Anh T.S.を参照にして立体および立体電子の議論を理解できることを確認せよ。
他の例には以下がある:
1.T. Takahashi, M. Miyazawa, J. Tsuji, Tetrahedron Lett., 1985, 26, 5139-5142
2.L. E. Overman, R. J. McCready, Tetrahedron Lett., 1982, 23, 2355-2358
【0239】
II. 他の還元方法
II.C.1 Raney-Nickel
・C-S結合の水素化分解において最も広く使用されている。
例を以下に示す:
【0240】
【化33】
【0241】
・アルケンおよびアルキンの水素添加にも使用されている。
【0242】
II.C.2 酸性媒体での亜鉛
ハロケトンの還元
・非常に穏やか
・高い化学選択性
例を以下に示す:
【0243】
【化34】
【0244】
ラクトン、アセテート、グリコシド結合およびアセタールの全てがそのままであることに注意せよ。
Q? 還元の機構は何か?ヒント:反応には1つの電子移動を含む。
1,4-エノンの還元
例を以下に示す:
【0245】
【化35】
【0246】
亜鉛エノラート中間体が存在することに着目せよ:この反応は、それゆえ、エノラートの位置選択的な形成のために使用することができる。
【0247】
Clemmenson還元
・カルボニル基(ケトンおよびアルデヒド中)の完全な還元のための古典的な方法。
・反応条件は非常に激しい。
例を以下に示す:
【0248】
【化36】
【0249】
II.D. 水素と遷移金属触媒を用いた水素添加
・典型的な触媒は、Pt、Pd、Rh、RuおよびNi(後期遷移金属)-微細に懸濁した固体として、またはチャコールまたはアルミナなどの不活性な支持体に吸着させて通常は使用される。
・反応は、金属の表面で生じる-不均一な触媒。
・水素は、syn付加工程において、あまり立体障害を有さない面上に常に移される。
例を以下に示す:
【0250】
【化37】
【0251】
・様々な均一触媒も有効である、例えば、Wilkinsonの触媒[(PPh3)3RhCl]。
・H2存在下での遷移金属触媒によって、カルボニル基は還元されるが、その速度は、通常は、オレフィンの還元よりも遅い(化学的選択性を可能とする)。
例を以下に示す:
【0252】
【化38】
【0253】
Q? どのようにして、ビシクロの形が、水素添加の立体選択性を制御するのか?
エナンチオ選択的な還元は、ここでは論じない。
【0254】
II.D.1 アルキンの部分的な還元
・(Z)-アルケンへの有用な経路である。
・過剰な還元を最小にするために、触媒を修飾する必要がある。
・Lindlarの触媒(Pd-CaCO3-PbO)が最も広く使用されている。PbOは、触媒部位として作用することによって、触媒の反応性を調節する。
・他の系には、キノリンを加えたPd-BaSO4が含まれる。
例を以下に示す:
【0255】
【化39】
【0256】
II.D.2 水素化分解
・ベンジルエーテルは、Pd/C/H2によって容易に切断され、フリーのアルコールおよびトルエンが提供される。
・切断は、穏やかで中性の条件下で行なわれる。
・結果として、ベンジルエーテルは、たびたび、アルコール保護基として使用される。
【0257】
【化40】
【0258】
II.E 溶解金属還元(ナトリウム/アンモニアまたはリチウム/アンモニア)
・非常に様々に用途があり、ここでは3つのみ論じる。
・反応は、1つの電子移動過程を介して進行する。
【0259】
II.E.i 位置特異的なエノラート形成
【0260】
【化41】
【0261】
エノラートは、アンビデントな求核試薬である-2つの異なる求電子性を有する中間体リチウムエノラートの反応の位置選択性と異なることを説明することができるべきである。
【0262】
II.E.2 Birch還元
芳香族環の部分的な還元
機構:
【0263】
【化42】
【0264】
・(比較的に制御された穏やかな)反応条件下で、反応をジヒドロ段階で停止する。
・還元の速度は、環の置換基によって影響を受ける-中間体は負電荷を有するので、速度は、驚くべきことではないが、電子吸引性置換基によって増加する。
・置換基は、プロトン化の位置にも影響する。
【0265】
【化43】
【0266】
これらの反応の位置化学を説明できることを確認せよ。
【0267】
アルキンの還元
・(E)-アルケンへの有用な経路である。
・ラジカルまたはラジカルアニオン中間体の平衡化によって、熱力学的により安定なアルケン(通常は(E)-アルケン)が合成することを確実なものとする。
機構:
【0268】
【化44】
【0269】
II.F フリーラジカル還元
・ハロゲン化アルキルを還元するのに使用する。
・一般的な水素原子供与体は水素化トリブチルスズ(Bu3SnH)である。
機構:
【0270】
【化45】
【0271】
【化46】
【0272】
【化47】
【0273】
Q? この反応の機構は何ですか?ヒント:反応の推進力は、C=O結合の形成である。
【0274】
要約
このセクションにおいては、カルボニル基を、化学選択的に、位置選択的に、そして立体選択的に還元する様々な方法について論じ、還元方法には、非常に様々な還元剤の開発が必要であることを理解してきた。様々な還元剤の機構を理解することによって、有力な反応官能基へと向かわせる反応性を予測するための良好な方法が可能である。また、不飽和化合物(オレフィン、アルキンおよび芳香族化合物)を還元する様々な方法についても論じ、このような反応の触媒としての、後期遷移金属の重要性を理解してきた。還元には、電子の獲得が必要である;金属は、電子の有力な供給源である。酸性媒体中の亜鉛およびNH3中のLiまたはNaが良好な還元系であることを理解してきた。フリーラジカル還元は、特別な地位を示す;特に、穏やかで中性の条件下で、ハロゲン化物および類似の系を還元するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1a】グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒドとタンパク質との反応。(a)還元をその後に行う、グリコールアルデヒド-タンパク質反応。
【図1b】(b)還元をその後に行う、提案されたホルムアルデヒド-タンパク質反応。
【図1c】(c)タンパク質のホルムアルデヒド-改変の詳細と最終生成物。
【図2】DNPH比色アッセイによって測定した反応性カルボニル含量。10μMのオボアルブミン(OVA)を、20mMのグリコールアルデヒド(GA)またはホルムアルデヒド(FA)と、PBS中で37℃で3時間処理した。幾つかのサンプルについては、アルデヒドとのインキュベーションの間に、NaCNBH3の添加によって還元も行った。
【図3a】非処理OVAまたは反応性カルボニルを付加したOVAで免疫したマウスにおける抗体応答。(a)IgG1応答:マウスを、25μgの非改変のOVA(OVA/PBS)またはグリコールアルデヒドで改変したOVA(OVA/GA)もしくはホルムアルデヒドで改変したOVA(OVA/FA)で免疫した。改変したOVAについては、NaCNBH3で還元し、付加したアルデヒド基を取り除いた。フロイント完全アジュバント中のOVA(OVA/FCA)を、ポジティブコントロールとして使用した。マウスを、PBSに溶かした25μgの非改変OVAを用いて、4週間後および2週間後に追加免疫し、血液を採取し、ネイティブなOVAでコートしたELISAプレート上でIgG1反応性をアッセイした。それぞれデータは、個々のマウスからの応答を示す。
【図3b】(b)前記(a)のように実施したIgG2a応答。
【図4a】反応性カルボニル-付加OVAに応答したサイトカイン遊離。(a)IL-5産生脾臓細胞。マウスを、PBSに溶かしたOVA(OVA/PBS)、または20mMのホルムアルデヒドで処理したOVA(OVA/FA)、または20mMのホルムアルデヒドで処理し更に還元したOVA(OVA/FA Red)、またはフロイント完全アジュバントに溶かしたOVA(OVA/FCA)を用いて免疫した。4週間後に、追加免疫用量を投与し(非改変OVA)、その2週間後に、免疫したマウスの脾臓から細胞を取り出し、96穴のELISPOTプレート内で24時間37℃でOVAを用いてパルスした。その後、スポットを成長させ、カウントした。それぞれのデータは、個々のマウスからの応答を示す。
【図4b】(b)IFN-γ産生脾臓細胞。
【図4c】(c)IL-4産生脾臓細胞。
【図5】DNPH ELISAアッセイによって測定したRSV(呼吸器合胞体ウィルス)の反応性カルボニルの含量。mock感染(mock)、加熱-不活性化RSV(HI-RSV)、ホルムアルデヒド-不活性化RSV(FI-RSV)およびホルムアルデヒド-不活性化-その後に-還元RSV(FI-RSV Re)を、ELISAプレート上でコーティングしたDNPHとインキュベートし、DNPH-タグ反応性カルボニル基を、抗-DNP抗体によって検出した。
【図6a】感染性RSVを用いたアレルギー誘発後におけるFI-RSVおよび還元したFI-RSVワクチンの効果。生きたRSVでのアレルギー誘発後に、毎日、マウスの体重を測定した。(a)FI-RSV-ワクチンマウスは、RSV誘発後3日間で、コントロールのPBS-接種群およびFI-RSV-Re群よりも有意に体重が減少したのに対し、HI-RSVおよびFI-mock群は中間に位置していた。
【図6b】(b)生きたRSVで誘発して4日後に、個別のマウスのBALにおける好酸球をカウントした。FI-RSV-Reワクチンマウスは、FI-RSV群に比較して、気管支肺胞洗浄液(BAL)における好酸球の数が減少したのに対し、PBSのみで免疫したコントロール群は、検出可能な好酸球は存在しなかった。HI-RSVおよびFI-mock群は、中間的な数の好酸球を有していた。
【図6c】(c) 生きたRSVで誘発して4日後に、個別のマウスのBALにおけるCD+8 T細胞をカウントした。FI-RSV免疫マウスと比較して、FI-RSV-ReおよびHI-RSVで免疫したマウスに由来するBALにおいては、有意に高いCD+8 T細胞数が存在していた。FI-mockおよびコントロールPBS群は、中間的な数のCD+8 T細胞を有していた。
【図7a】肺細胞によるサイトカイン産生。サイトカインは、RSVアレルギー誘発後4日目に、ELISPOTによって測定した。結果は、百万の細胞当りのサイトカインを産生する細胞の数として表される。(a)IFN-γ-分泌T細胞は、FI-RSV-還元およびHI-RSV群で、FI-RSV群よりも有意に高かった。FI-mock群は中間に位置し、PBSコントロール群は、FI-RSV群と似ていた。
【図7b】(b)IL-5分泌T細胞の数は、FI-RSV群で、FI-RSV-還元群よりも有意に高かった。HI-RSVおよびFI-mock群は、中間的な数のIL-5分泌T細胞を有し、PBSコントロール群は、FI-RSV-還元群と似ていた。
【図7c】(c)IL-4分泌T細胞の数は、FI-RSVで、FI-RSV-還元群よりも高かった。FI-mock群は、FI-RSV群と似ていたのに対して、HI-RSV群はFI-RSV-還元群と似ていた。PBSコントロール群は、最も少ない数のIL-4分泌T細胞を有していた。
【図7d】(d)FI-RSV群は、最も多い数のIL-10分泌T細胞を有していた:より少ない数のIL-10分泌T細胞は、FI-RSV-還元、HI-RSV、FI-mockおよびPBSで免疫した群から得られた。
【図8A】グリコールアルデヒドで処理したオボアルブミンまたはインフルエンザヘマグルチニン(HA)で免疫したマウスのTh2抗体アイソタイププロファイル。A-D:雌のCBAマウスを、20mMのグリコールアルデヒド(GA)で改変した、または、フロイント完全アジュバントと混合した、PBS中の25μgのオボアルブミン(A-B)またはインフルエンザHA(C-D)を用いて皮下経路で免疫した。マウスは、PBSで溶かしたネイティブな非改変のタンパク質を用いて、免疫後3週間後に追加免疫した。1/100に希釈した血清を、OVAまたはHAでコーティングしたELISAプレート上で、特異的なIgG1およびIgG2aについてアッセイし、抗-マウスIgG1またはIgG2a-HRPコンジュゲート抗体によって検出した。エラーバーは、各群における4匹のマウスから得られた平均値の±標準偏差を表す。(A)は、改変しなかった、20mMグリコールアルデヒドで改変した、または、FCAと混合したOVAに対するIgG1応答性を示す。
【図8B】(B)は、(A)のように処理したOVAに対するIgG2a応答性を示す。
【図8C】(C)は、(A)におけるOVAのように処理したインフルエンザHAに対するIgG1応答性を示す。
【図8D】(D)は、(A)におけるOVAのように処理したHAに対するIgG2a応答性を示す。
【図9】比色DNPHアッセイを用いたOVAへの反応性カルボニル付加の定量。OVAは、処理を行なわなかった(OVA/PBS)、または、2mM、10mMもしくは20mMのグリコールアルデヒド(GA)で処理し、または、その後に、前記したように10mMもしくは100mMのNaBH4で還元した。その後に、反応性カルボニルを、前記した比色DNPHアッセイを用いて測定した。
【図10】生のまたはローストしたピーナッツタンパク質抽出物の反応性カルボニル含量およびその還元除去。ピーナッツタンパク質を、プロトコールに記載したように(上記参照)抽出して可溶化させ、BCAタンパク質アッセイによって濃度をアッセイした。サンプルを、0.1M NaBH4の存在下で、2時間37℃で還元し、Microcon 10を用いて脱塩した。ピーナッツタンパク質上の反応性カルボニル基を測定するELISAを、5μgタンパク質/ウェルで、(前記に)記載したように実施した。
【図11a】市販のワクチンにおける反応性カルボニル含量。a)ワクチン調製物のタンパク質濃度は、BCAタンパク質アッセイによって測定した;ELISAでは、1μgタンパク質/ウェルを使用し、前記した方法によって、反応性カルボニル基を測定した。
【図11b】b)ここでは、市販のワクチンの1つが、多くの数の反応性カルボニルを含むことを示すが、水素化シアノホウ酸ナトリウムでの処理(前記した方法)によって、反応性カルボニル基の数を減少することができた。
【図12】ヘマグルチニン免疫:IgG2a/IgG1によって求めたTh1/Th2比率。Balb/cマウスを、ネイティブ形態の、グリコールアルデヒド(GA)で処理した、または、グリコールアルデヒドで処理しNaBH4還元したfluヘマグルチニン(HA)を用いて免疫した。3週間後、マウスを、ネイティブHAで追加免疫し、1週間後に血清を採取し、ネイティブHAに対するIgG1およびIgG2a応答性について試験した。IgG1応答性に対するIgG2a応答性の比率を、Th1/Th2バランスの指標として計算した。
【図13】MDAおよびHNEを用いたOVAの処理:反応性カルボニル基。マロンジアルデヒド(MDA)およびヒドロキシノネナール(HNE)の、反応性カルボニル基をOVAへ付加する能力、および、NaBH4による付加物の還元性を、DNPH ELISAによって評価した。
【図14a】MDAおよびHNE処理したOVAを用いた免疫の効果。Balb/cマウスを、マロンジアルデヒド(MDA)もしくはヒドロキシノネナール(HNE)のいずれかで改変した、アルデヒドで改変してNaBH4還元した、または、フロイント完全アジュバント(FCA)に溶かした30μgのOVAでs.c.注入した。3週間後、マウスを、30μgの非改変OVAでs.c.追加免疫した。血清を採取し、非改変OVAに対するIgGa/IgG2aおよびIgE応答性を、ELISAを用いて検出した(IgEグラフは、追加免疫前の応答を表す)。
【図14b】図14a参照。
【図14c】図14b参照。
【図15】MDAおよびHNE処理したOVAに応答したサイトカイン遊離。MDAもしくはHNEで改変したOVA、改変し還元したOVA、またはFCAに溶かしたOVAを用いて免疫したbalb/cマウスに由来する脾細胞を、OVAでin vitro刺激し、IL-5およびIFN-ガンマ分泌を、ELISPOTによってモニターした。
【図16】還元したOVAの抗原性および免疫原性。PBSまたはFCAに溶かした、非処理またはNaBH4還元OVA(25μg)を、balb/cマウスへとs.c.注入した。また、グリコールアルデヒド(GA)処理したOVA、ならびに、GA処理し還元したOVAを、同じ投与量で注入した。マウスを、3週間後にネイティブOVAで追加免疫し、ネイティブOVAに対するIgGaおよびIgG2a応答性について、血清をアッセイした。
【図17】ローストしたおよび生のピーナッツタンパク質の免疫原性。Balb/cマウスを、50μgの生の、生でNaBH4を用いて還元した、ドライローストした、および、ドライローストしNaBH4を用いて還元したピーナッツタンパク質で、s.c.免疫した。3週間後、生のピーナッツタンパク質に対するIgG1およびIgG2a応答性について、血清をアッセイした。
【図18】グルタルアルデヒドによる反応性カルボニル付加。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原に曝露した動物、例えばヒトの、Th1/Th2-型の免疫応答のTh2型への偏りを改変するための、抗原を改変する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原刺激に対する適応的免疫応答は、T-helper type-1(Th1)およびT-helper type 2(Th2)と呼ばれる、大きく2つの型に分けることができる。これらの応答は、応答の間にT細胞によって分泌されるサイトカインの型によって基本的には定義される、抗原に対する幅広い免疫応答をカバーしている。一般的に、Th1型へと偏った応答は、インターフェロンガンマおよびインターロイキン-12(IFN-γおよびIL-12、それぞれ)サイトカインの分泌によって特徴付けられる。Th1応答は、強いCD8+キラーT細胞応答を付随する傾向があり、そのため、ウィルス、細胞内細菌(例えば、Tuberculosis、MycobacteriaおよびSalmonella spp.)、細胞内寄生虫および酵母などの細胞内病原菌に対する免疫によって重要である。制御できない場合は、Th1細胞は、免疫病理を媒介し、I型糖尿病、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、実験的自己免疫性脳炎などの自己免疫疾患にも関連する(O’Garra and Arai, (2000) Trends Cell Bio 10, 542-550を参照)。
【0003】
免疫応答におけるTh2への偏りは、Th1偏りと異なったサイトカイン産生バランスによって特徴付けられる。それ故、Th2細胞は、例えば、IL-4、5、9および13を含むプロファイルのサイトカインを産生し、同時に、B細胞を増殖し、抗体分泌プラズマ細胞へと分化するように指令を出し、抗寄生虫応答において複数の型の細胞の機能を可能にする。幾つかのTh2サイトカイン(例えば、IL-4)は、Th1-型サイトカインの産生と拮抗するのに対して、幾つかのTh1-型サイトカイン(例えば、IFN-γ)は、Th2-型サイトカインの産生と拮抗する。細胞内病原菌に対して防御する機能を有するTh1細胞と対照的に、Th2細胞は、腸管寄生蠕虫を含む細胞外病原菌に対する防御を付与するという重要な役割を担っている。しかしながら、これらの細胞は、また、アレルギーおよびアトピーの兆候を媒介する。このことは、Th2-誘導サイトカインが、気道過敏性(例えば、喘息)およびIgEの産生を誘導することができるという知見と一致する(Dong and Flavell, (2000) Arthritis Res 2, 179-188を参照)。
【0004】
Th1-およびTh2-特異的サイトカインの両方は、それぞれ自身の個別のT細胞サブセットの増殖および分化を促進することができるが、付加的に、反対のサブセットの発達を阻害することができる。Th1細胞は、Th2細胞の増殖を阻害するIFNγを産生するのに対して、Th2細胞は、Th1細胞によるIFNγの産生を阻害するインターロイキン-4(IL-4)を産生する(de Waals Malefyt, (1997), Smin Oncology 3, suppl 9, S9-94-S9-98)。このことによって、多くの応答が2つの型の間でバランスを取っているのに対して、Th1およびTh2応答が、たびたび、相互に排他的であることが説明できるであろう。
【0005】
過敏性は、外来性抗原に対する、過大なまたは望ましくない免疫応答として定義することができる免疫系の応答の1つのクラスである。これらは、組織の損傷をもたらし、アレルギーを含む重篤な病気を引き起こし得る有害な免疫応答である。過敏性応答は、免疫機構に応じて、I型からIV型として分類される。
【0006】
身体の任意の組織に影響を及ぼす様々な兆候において、アレルギーが生じる。摂取した物質に対するアレルギーは、特に、消化管、皮膚、肺、鼻および中枢神経系に一般的に影響を及ぼす。これらの組織に影響を及ぼす摂取した物質に対するアレルギー反応は、腹痛、腹部膨満、腸機能の乱れ、嘔吐、発疹、皮膚炎、喘鳴および息切れ、鼻汁および鼻づまり、頭痛および行動変化として現れる。加えて、幾つかのアレルギー反応においては、循環器系および呼吸器系にアナフィラキシーショックがもたらされ、ある場合においては死をもたらす。
【0007】
特定の慢性疾患においては、摂取した物質に対するアレルギーが、ある割合の患者の病気の推定原因であるとも認識されている。これらの病気には、アナフィラキシーショックに対する感受性、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性腸症候群、偏頭痛および子供における過敏性が含まれる。食物アレルギーは、炎症性腸症候群(潰瘍性大腸炎およびクローン病)の特定の患者の因子となっている可能性もある。
【0008】
吸引した物質に対するアレルギーは、鼻炎、喘息または花粉症として表れる可能性がある。気管および/または眼が影響を受けやすい。例えば、病院の研究室の制御された条件下で、喘息は、アレルゲンの吸引によって誘発することができる。この応答は、即時型喘息反応(EAR)、I型アレルギー応答の発現に続く、遅発型喘息反応(LAR)、典型的なIV型アレルギー応答によって特徴付けられる(Allergy and Allergic Diseases (1997), A.B. Kay (Ed.), Blackwell Science, pp 1113-1130を参照)。EARは、アレルゲン曝露後数分間で生じ、10分から15分間で最大になり、通常、1時間までにベースライン近くに戻る。EARは、ヒスタミンおよびロイコトリエンなどの肥満細胞に由来するメディエーターのIgEを介した放出に依存することが、一般的に受け入れられている。対照的に、LARは、6-9時間で最大に達し、少なくとも部分的には、喘息応答における炎症の構成要素を示すと考えられており、この意味から、慢性喘息の有用なモデルとして機能してきた。
【0009】
遅発型喘息応答は、遅発型応答(LPR)として総称される、アレルギー刺激に対する一般的な応答である。LPRは、特に、アレルゲンの皮内または鼻腔内投与後における皮膚および鼻に見られる。
【0010】
皮膚接触によるアレルギーは、湿疹またはアレルギー性皮膚炎として現れる可能性がある。アトピー性皮膚炎は、小児科集団の10%までに影響を及ぼしている炎症性皮膚疾患である。これは、痒み、慢性的な再発性の経過および身体にわたる一般的な分布によって特徴付けられる。通常、アレルギーの家族歴および早期乳児期での条件開始が存在する。一般的な治療方法は、単純な皮膚軟化剤または一般的なコルチコステロイドを使用することである。一般的なコルチコステロイドの長期間の使用によって、望ましくない副作用が、特に子供において生じる可能性がある。接触アレルゲンには、ラテックス、洗剤または粉石けんの他の成分、動物の鱗屑およびイエダニ類が含まれる。
【0011】
アレルゲンに応答してIgE抗体を産生する固体が、後に、同じアレルゲンに出会ったときに、アレルギー反応は起こる。アレルゲンは、過敏反応またはアレルギー反応を引き起こす抗原である。アレルゲンは、曝露された組織のIgE結合肥満細胞の活性化によって引き起こされ、アレルギーの特徴を示す一連の応答が導かれる。IgEが、特に、発展途上国において流行している寄生虫に対する防御免疫に関与しているという証拠が存在する。しかしながら、先進国においては、無害な抗原に応答するIgEが圧倒的であり、アレルギーは病気の重要な原因となっている。先進国におけるアレルギーの治療の重要性のために、IgEの通常の生理学的役割についてよりも、IgEを介した応答の病理学についてより多く知られている。
【0012】
IgE産生は、I型アレルギー応答におけるTh2-クラスのTh細胞によってもたらされる。
【0013】
IgE産生がTh2細胞によってもたらされ、Th2細胞由来サイトカインが気道過敏性を誘導するので(例えば、喘息)、Th2細胞が、アレルゲンに対する免疫応答において主要な役割を果たしていることは明らかである。
【0014】
現在、アレルギー疾患の治療は、主に、抗-ヒスタミン剤、β2アゴニストおよび最も一般的に使用されているグルココルチコステロイドなどの薬を用いた対象療法である。しかしながら、この治療は、基礎をなす異常な免疫応答およびその要因には、何の影響も及ぼさない。
【特許文献1】WO 99/53946
【特許文献2】WO 99/38987
【特許文献3】WO 97/24139
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
我々は、抗原上の、アルデヒドなどの反応性カルボニル基の存在が、Th2-型に偏った免疫応答を導き、そのため、過敏性反応を誘導することを見出した。我々は、例えば、反応性カルボニル基の数を減少させることによって、Th2への偏りが減ずることを見出した。我々は、例えば、抗原から反応性カルボニル基を還元的除去する単純な1つの工程を提供する。この方法は、特に、(ヒトなどの)動物に投与すべき薬剤(例えば、ワクチンまたは治療薬)のアレルギー性を低減するのに使用する。
【0016】
我々は、また、例えば、反応性カルボニル基の数を増加させることによって、Th2への偏りが増すことも見出した。我々は、例えば、抗原に反応性カルボニル基を加える単純な1つの工程を提供する。この方法は、特に、望ましくないTh1応答が存在する病気の状態、または、抗-寄生虫ワクチンなどのTh2-型応答が有用なワクチンにおいて使用する。
【0017】
反応性カルボニル基は、酸素原子に二重結合し、他の2つの基または原子に一重結合した炭素原子である。このような基の例には、ケトンおよびアルデヒドが含まれる。アルデヒド(R-HC=O)などの、基の1つが水素である場合、C=Oの極性が増し、カルボニル基を非常に反応性にする(図1)。
【0018】
「反応性カルボニル基」については、我々は、前記した全ての反応性種だけでなく、反応性カルボニルの前駆体化学形態およびタンパク質とのアルデヒド反応の間の中間体化学形態、例えば、NaBH3CNまたはNaBH4によって還元されることができるシッフ塩基を含む。反応性カルボニルの存在は、2,4-ジニトロフェニル-ヒドラジン(DNPH)の、アルデヒドのカルボニル基との反応性に基づいた既知のアッセイを使用して検出することができる。
【0019】
アルデヒド基およびアルデヒド-抗原付加物の免疫増強(アジュバント)特性は、以前に報告されていた。しかしながら、抗原上にアルデヒド基が存在することが、抗原に、抗原に曝露した動物において、過敏性反応、すなわちTh2-型に偏った免疫応答を誘導する役割を果たさせることは報告されていない。
【0020】
反応性カルボニル基は、天然において抗原に存在し、免疫応答を喚起することに関与している。例えば、QS-21、精製したサポニン免疫原性アジュバントは、トリテルペン上にアルデヒドを含む。Soltysik et al (1995) Vaccine 13, 1403-1410には、アルデヒド基を改変したQS-21誘導体が、抗体産生または細胞障害性T細胞の誘導に対してアジュバント活性を示さなかったことを実証し、この官能基がアジュバント機構に関与しているかもしれないことを示唆している。
【0021】
抗原またはアジュバントへのアルデヒド基の付加によって、免疫原性を増すことができることも知られている。例えば、Allison and Fearon (2000) Eur J Immunol 30, 2881-2887には、グリコールアルデヒド処理による、免疫原性が乏しい抗原へのアルデヒドの導入が、マウスにおける抗体産生において、どのようにして免疫原性を数桁増すかが記載されている。更には、WO 99/53946では、抗原へのアルデヒドの導入が、Th1およびTh2応答の両方を示す増大した抗体応答をもたらすことが報告されている。Apostolopoulos et al (1995) Proc Natl Acad Sci USA 92, 10128-10132では、抗原を過酸化型マンナンにカップリングすることによる抗現上へのアルデヒドの産生が、細胞障害性T細胞およびTh1応答を誘発する能力を増すことが報告されている。しかしながら、この特定の例では、マンナンは、固有の免疫応答の受容体による認識が原因で、Th1免疫応答へと偏らせているようである。それゆえ、このことは、アルデヒド存在下でのTh1への偏りを説明しているであろう。
【0022】
抗原またはアジュバントを直接改変することだけでなく、抗原にアルデヒド-産生試薬を提供することによって、免疫応答を増大させるという報告が幾つかなされている(Rhodes et al (1995) Nature 377, 71-75; Zheng et al (1992) Science 256, 1560-1563)。
【0023】
最後に、Willis et al (2002) Alcohol Clin Exp Res 26, 94-106およびWillis et al (2003) Int Immunophamacol 3, 1381-1399では、マロンジアルデヒド-アセトアルデヒド付加化合物(MAA)が存在することによって、スカベンジャー受容体を介して、抗体およびT細胞増殖応答がin vivoで誘導されることが報告されている。
【0024】
反応性カルボニル基(アルデヒド基を含む)は、アルデヒド処理によってタンパク質上に産生することができる。しかしながら、抗原をアルデヒドで処理することによって、その一部が反応性カルボニルを有し、他のものは非反応性、非アルデヒドの最終生成物である様々な抗原-アルデヒド付加物がもたらされることに着目することは重要である。アルデヒドを用いた抗原の付加によって、その一部が安定であり、一部は不安定である様々な構造がもたらされる。これらの付加物の種類と割合は、使用したアルデヒドのタイプは別として、例えば、抗原のタイプ、pH、温度および反応時間などの物理化学的指数に依存する。
【0025】
例えば、Acharya and Mnning (Proc. Natl. Acad. Sci. 80, 3590-3594; 1983)は、「2-オキソエチル化タンパク質」のみがアルデヒド基を有する、多くのグリコールアルデヒドタンパク質付加物を研究している。
【0026】
また、メイラード反応(還元糖とアミノ酸またはタンパク質のアミノ構造との間の反応)の間に、タンパク質が改変され、全てがアルデヒド基を有するわけではないが、様々なアルデヒド-タンパク質付加物の産生がもたらされる。カルボキシメチル-リジン(CML)は、例えば、タンパク質-アルデヒド反応の生成物であり、アルデヒド基を有していない(Glomb and Monnier, (1995) J Biol Chem 270, 10017-26)。
【0027】
それゆえ、反応性カルボニル基は、抗原上に付加された構造の部分でしかない。この観点から、免疫病理学的研究は、タンパク質上の新規の完全な付加構造(アルデヒド基がタンパク質の構成部分となりうる)ほど、具体的には、反応性カルボニル基の重要性にほとんど焦点をあててこなかった。
【0028】
更に、従来技術は、抗原が過敏性を誘導する能力を変更するために、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を変更することは示唆していない。その上、Willis et al(上記参照)では、ハプテン化タンパク質(アルデヒドは、タンパク質による付加を通して免疫原性が得られるハプテンである)を論じているが、本発明は、反応性カルボニル基の付加または除去による、抗原に対する免疫応答のタイプに及ぼす免疫調節効果に関する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第一の態様は、抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2免疫応答のTh2-型への偏りを改変する方法であって、
(i) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少することによって、Th2-型への偏りを低減させること;または
(ii) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加することによって、Th2-型への偏りを増大させること、
を含む方法を提供する。
【0030】
以下に要点を示すように、本発明の第一の態様の方法は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、減少オプション)。この方法は、ワクチンを含む、抗原への患者の過敏性を減ずるのに特に有用性を有することができる。本発明の第一の態様は、また、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのにも使用することができる(すなわち、増加オプション)。この方法は、抗原のTh2-誘導免疫原性を増すのに特に有用性を有することができる。
【0031】
どのようにして、本発明の第一の態様の方法が、抗原を改変して、Th1/Th2免疫応答のTh2-型への偏りを改変するかという例を、付随する実施例に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
「抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少する」については、我々は、反応性カルボニル基の数を、10%、25%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、99.5%またはそれ以上、例えば100%まで減少させることを意味する。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を測定する方法を以下に規定し、付随する実施例に記載する。
【0033】
「Th2-型への偏りを低減する」については、我々は、本発明の第一の態様(減少オプション)の方法によって改変した抗原に曝露した動物が、そのように改変されていない抗原に曝露した動物の免疫応答と比較して、Th2細胞よりも、Th1細胞によって誘導される免疫原性応答またはバランスの取れたTh1/Th2応答によってより特徴付けられる免疫原性応答を発達することを意味する。改変した抗原は、低減した全般的な免疫原性を呈することができる。
【0034】
以下に論じるTh1/Th2-細胞型の比率の1つまたは複数の指標(例えば、マウスにおけるIgG2a抗体に対するIgG1抗体の相対的レベル)は、改変した抗原によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に変化が存在することを示すことが好ましい。このような変化は、非処理抗原(すなわち、反応性カルボニル基を保持する抗原)によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に対する、Th1/Th2細胞型比率におけるTh1細胞の、1.2倍、1.5倍、1.8倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、70倍または100倍程度の増加とすることができる。このことは、Th1/Th2-細胞型の比率においてTh2への偏りがまだ存在するかもしれない可能性を除外するものではない。
【0035】
「抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加する」については、我々は、1モルの抗原上に存在する反応性カルボニル基のモル数を、0から0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10モルまたはそれ以上に増加することを意味する。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を測定する方法を以下に規定し、付随する実施例に記載する。
【0036】
「Th2-型への偏りを増大する」については、我々は、本発明の第一の態様(増加オプション)の方法によって改変した抗原に曝露した動物が、そのように改変されていない抗原に曝露した動物の免疫応答と比較して、Th1細胞よりも、Th2細胞によって誘導される免疫原性応答によってより特徴付けられる免疫原性応答を発達することを意味する。その抗原は、増大した全般的な免疫原性を呈することができる。
【0037】
以下に論じるTh1/Th2-細胞型の比率の1つまたは複数の指標(例えば、マウスにおけるIgG2a抗体に対するIgG1抗体の相対的レベル)は、改変した抗原によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に変化が存在することを示すことが好ましい。このような変化は、非処理抗原(すなわち、反応性カルボニル基を加えていない抗原)によって誘発したTh1/Th2細胞型比率に対する、Th1/Th2細胞型比率におけるTh2細胞の、1.2倍、1.5倍、1.8倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、70倍または100倍程度の増加とすることができる。このことは、Th1/Th2-細胞型の比率においてTh1への偏りがまだ存在するかもしれない可能性を除外するものではない。
【0038】
選択した抗原についてのIgG1抗体濃度に対するIgG2a抗体濃度の比率が、マウスにおいて、増加または減少する場合に、改変したTh2-型応答が観察される。増加したIgG2a/IgG1濃度は、マウスにおける低減したTh2プロファイルと相関があり、その逆も相関している(Mosmann, T. R., and Coffman, R. L. (1989) Annu Rev Immunol 7, 145-173)。
【0039】
リンパ節細胞の増殖、IFNγ産生の増加、IL5および/またはIgEレベルの増加、または他のサイトカインのレベルの増加は、また、特にヒトにおいて、Th1/Th2細胞型比率を評価するのに使用するべきである。例えば、抗原特異的T細胞応答を調べるために、ヒトまたは動物起源のリンパ節細胞の増殖を測定するex vivoアッセイ(Alkan (1978) Eur J Immunol 8, 112-8)を使用することができる。Th1応答はT細胞増殖およびIL-2産生に依存するので、このアッセイは、主に、Th1応答のために使用される。リンパ節細胞培養液は、また、細胞上清の分析、細胞内FACS染色またはElisa-spot手法(Elispot)によって、Th1/Th2細胞型サイトカインプロファイルを測定するのに使用することができる。高い相対的レベルのIFNγおよび/またはTNFおよび/またはIL-12産生、ならびに、低い相対的レベルのIL-4および/またはIL-5および/またはIL-13産生は、Th1細胞型応答を示し、高い相対的レベルのIL-4および/またはIL-5および/またはIL-13産生、ならびに、低い相対的レベルのIFNγおよび/またはTNFおよび/またはIL-12産生は、Th2細胞型応答を示す。
【0040】
抗原に存在する反応性カルボニル基の数を測定する方法は、付随する実施例に示す方法を含む。適した方法としては、以下を含む。
1. Buss et al (1997) Free Radical Biology & Medicine 23, 361-66によって開示された、ELISA方法に基づく免疫学的測定方法;以下の改変した方法を使用することができる:
・10μlのサンプル(2-10μgのタンパク質)+40μlのDNP 10mM(2M HCl中)、十分に混合し、振盪しながら45分間インキュベートする。
・5μlの混合液(1-5μgのタンパク質)+95μlのコーティングバッファー(NaHCO3、pH=8.5)。
・ELISAプレートを、100μl/wellの前記溶液でコーティングし、4℃で一晩(または90分間37℃で)インキュベートする。
・PBSで三回洗浄する。
・200μlのブロッキングバッファー(BSA 1%/PBS)を加え、30分間室温でインキュベートする。
・前記のように洗浄する。
・100μlの抗-DNPビオチン化Ab(1/1000)を加え、室温で一時間インキュベートする。
・前記のように洗浄する。
・100μlのストレプトアビジン-HRP(1/1000)を加え、室温で一時間インキュベートする。
・前記のように洗浄する。
・100μlの基質(TMB ultra)を加える。
・100μlのH2SO4を用いて、適切な時間で反応を停止する。
・450nmを読む。
2. Robinson et al (1999) Analytical Biochemistry 266, 48-57に記載されたウェスタンブロッティング;この方法は、図5で示されたデータを得るための付随する実施例において使用した。
3. 図2で示されたデータを得るための付随する実施例において使用した分光または比色DNPHアッセイ;
4. HPLCによるタンパク質のフラクション化と組み合わせた分光DNPHアッセイ;
5. 質量分析も、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の変化を測定するのに使用することができる。
【0041】
任意の適した方法が、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる。適した方法としては、以下を含む:
1. NaBH4、NaCNBH3、ジメチルアミンボランまたはピリジンボランを含む水素化物などの強力な還元剤と抗原との反応;この方法の詳細なプロトコールは、付随する実施例で示し、以下に記載する:
アルデヒドを有する抗原のインキュベーションの間、または、反応性カルボニルの付加の後のいずれかにおいて、1-3時間室温でまたは37℃で、0.1mM NaBH4と抗原をインキュベートすることによって、反応性カルボニル基を減少させることができる。その後、製品の取扱説明書に従って、Microcon(登録商標)10kDa cutoff microspin flterを用いてサンプルを脱塩する。
2. 適切な触媒の存在下での抗原の水素化;例えば、CH=O+H2によって、非反応性ヒドロキシメチル最終生成物であるCH2-OHが得られる(有機化学II−アルデヒド/ケトンの還元を参照)。この方法の詳細なプロトコールは、付随する実施例に見出すことができる。
3. 反応性カルボニルの数を除去または減少する1つの方法においては、グルタチオン(Dickinson et al., Glutathione in defense and signaling: lessons from a small thiol. Ann. NY. Acad. Sci. 973: 488-604 (2002)を参照)、アミノグアニジンおよびピリドキサミン(Burcham et al., Aldehyde-sequestering drugs: tools for studying protein damage by lipid peroxidation products-Toxicology: 181-182, 229-236 (2002)を参照)などのアルデヒド-封鎖またはスカベンジャー試薬または剤を使用する。また、カルノシン(Hipkiss, AR, Carnosine, a protective, anti-ageing peptide?, Int. J. Biochem. Cell Biol. 30, 863-868 (1998)を参照)、メラトニンおよびN-アセチルシステイン(Sener et al., Melatonin and N-acetylcysteine have beneficial effects during hepatic ischemia and reperfusion, Life Sciences 72: 2707-2718 (2003)を参照)、ピルビン酸(Varma et al., Oxidative damage to mouse lens in culture. Protective effect of pyruvate. Biochem. Biophysica Acta 1621: 246-252 (2003)を参照)ならびに銅、亜鉛、テルリウムおよびセレニウム金属イオン(Klotz et al., Emerging functional endopoints of trace element status, J. Nutr. 133: 1448S-1451S (2003)を参照)を、反応性カルボニルを生じる酸化損傷を防ぐまたは回復するのに使用することができる。
【0042】
抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加するために、任意の適した方法を使用することができる。方法には、アルデヒド(例えば、グリコールアルデヒド、アセトアルデヒド、マロンアルデヒドおよびホルムアルデヒド)を用いた処理などの付随する実施例において規定される方法を含む。適した方法の更なる例には、例えば、NaIO4を用いた糖タンパク質の糖の酸化、および、メイラード反応を介した還元糖とタンパク質の反応を含む;また、UV光、オゾン、酸化窒素、放射線放射、好中球活性(ミエロペルオキシダーゼ経路を介した)、金属触媒酸化経路、次亜塩素酸およびペルオキシ亜硝酸酸化、ならびにアミノ酸の酵素的改変も含む。これらの方法の例については、Adams et al., “Reactive Carbonyl formation by oxidative and non-oxidative pathways” Frontiers in Bioscience 6: 17-24 (2001)を参照せよ。
【0043】
本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原に曝露した動物は、哺乳類、例えばヒト、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、または、ワクチン接種を在来種の保護のために使用することができるキツネもしくはアナグマなどの野生種等とすることができる。動物は、非常に若い、成長過程、成長または老年でもよい。動物がヒトである場合、ヒトは大人または子供とすることができ、男性または女性のいずれかとすることができる。代替的に、動物は鳥、例えば、ニワトリ、ヒチメンチョウまたは他のそのような家禽類とすることができる。好ましくは、動物はヒトである。
【0044】
抗原とは、免疫応答を誘導することができる物質であり、天然に存在するもの、リコンビナント体または合成産物とすることができる。用語「抗原」には、また、タンパク質キャリアと、ステロイド、糖または核酸などの非-タンパク質分子の複合体であって、非-タンパク質分子に対する免疫応答の産生のための免疫原として使用される複合体を含む。
【0045】
本発明の第一の態様の実施態様では、抗原が、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類もしくは核酸である、またはこれらを含む。
【0046】
抗原は、様々な天然または合成起源から由来することができる。合成起源には、ラテックスおよびタンパク質分散剤を含むことができる。
【0047】
代替的に、抗原またはその一部は、哺乳類細胞、植物細胞、細菌、ウィルス、真菌類または寄生虫に由来することができる。抗原は、腫瘍抗原または自己抗原とすることができ、またはこれらを含むことができる、すなわち、抗原は、意図した受容者に存在するものの1つとすることができる。抗原は、生きたまたは死滅した組織に由来することができる。
【0048】
前記で論じたように、本発明の第一の態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少して、抗原に対する免疫応答のTh2への偏りを低減する方法、すなわち除去工程を提供する。免疫応答のTh2への偏りを低減するのに有用な抗原の例には、自己抗原の反応性カルボニル付加をもたらすアルコール摂取によって誘導される肝臓もしくは膵臓病変、または、ホルムアルデヒドを含むアルデヒドを含むタバコの煙によって誘導される自己反応性肺病変などのように、自己反応性が見られる抗原を含む。改変した抗原は、以下に更に論じる脱感作治療に使用することができる。
【0049】
加えて、抗原から反応性カルボニル基を除去する方法に関連した前記した封鎖/スカベンジャー剤および抗酸化剤は、全身にまたは局所的に使用して、フリーのアルデヒドの数を減少するのに、または、in vivoで抗原上の反応性カルボニル付加物の数を減少するのに使用することができる。
【0050】
代替的に、本発明の第一の態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加して、抗原に対する免疫応答のTh2への偏りを増大する方法、すなわち付加工程を提供する。
【0051】
幾つかの場合、例えば、リウマチ性関節炎においては、増大したTh1免疫応答によって、病気がもたらされる。それゆえ、本発明の第一の態様の方法の応用は、抗原における反応性カルボニル基の数を増加して、局所的な免疫応答をより良性なTh2-型の応答へと偏らせる剤、例えばアルデヒドの使用とすることができる。例えば、弱いアルデヒドは、関節炎の炎症部位へと注入し、Th2への偏りを誘導することができる。類似の応用は、他の自己免疫性のTh1に偏った病気に関連させることができる。
【0052】
本発明の第一の実施態様は、抗原がワクチンまたはワクチン成分であることである。
【0053】
本発明の第一の態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、減少オプション)。本発明が望ましい実施可能なワクチンまたはワクチン成分の例には、以下に定義するホルムアルデヒド処理したものが含まれる。
【0054】
代替的に、本発明の第一態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのに使用することができる(すなわち、増加オプション)。幾つかのワクチン、例えば、住血吸虫属および糸状虫などの寄生蠕虫に対するワクチンは、増大したTh2応答によって恩恵を受けることができる。それゆえ、IgE産生を含む潜在的なTh-2型免疫応答は、病気に対する予防のために必要であろう(MacDonald et al., Immunology of parasitic helminth infections, Infection and Immunity 70: 427-433 (2002)およびMeeusen and Piedrafita, Exploting natural immunity to helminth parasites for the development of veterinary vaccines, Int. J. Parasitol. 33: 1285-1290 (200)を参照)。それゆえ、ワクチン抗原への反応性カルボニルの導入は、免疫原性を増し、Th-2型の応答へと免疫応答を偏らせる。有効であるならば、このようなワクチンは、ヒトおよび動物の健康にとって重要である。
【0055】
ホルムアルデヒド処理は、病原体、例えばウィルスおよび細菌に対するワクチンを不活性化、安定化および保存する標準的な手法である。しかしながら、いくつかのワクチンは、患者によっては過敏性応答をもたらしうる。付随する実施例に見ることができるように、我々は、このことが、ホルムアルデヒド処理した結果によるワクチン上の反応性カルボニル基の存在が原因であることを示した。それゆえ、ホルムアルデヒド処理ワクチンを改変して、反応性カルボニル基を除去することによって、患者がこのようなワクチンに対して示す過敏性応答性を低減することができる可能性がある。
【0056】
したがって、本発明の第一の態様の更なる実施態様は、ワクチンまたはワクチン成分を、本発明の第一の態様の方法によって改変する前に、ホルムアルデヒド処理することである。本発明の第一の態様の方法は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、減少オプション)。本発明の第一の態様の減少オプションによって改変することができるワクチンの例には、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹、インフルエンザ、ヒトメタプネウマウィルス(human metapneumavirus)、ハンタバックス(Hantavax)(腎症候性出血熱の原因因子であるハンタウィルスに対する市販のワクチン)、WEE、EEE、VEE(西洋、東洋およびベネズエラウマ脳炎)、脳炎ウィルス、炭疽菌、おたふく風邪、百日咳、ウィルス性肝臓炎、骨膜炎、ポリオ、肺炎、風疹、破傷風、ジフテリア、コロナウィルス感染または動物またはヒトの他の局所的もしくは全身性感染に対するワクチンを含む。
【0057】
特定の食物、例えば、魚、甲殻類、カニ、ロブスター、ピーナッツ、ナッツ、小麦グルテン、卵および牛乳に存在する抗原は、アレルゲンを誘発しうる。特に、前記したように、ナッツアレルギーは、個体によっては重篤な免疫応答を引き起こし、アナフィラキシーショックをもたらし、場合によっては死にいたらしめる。
【0058】
幾つかの食物の調製によって、タンパク質上に反応性カルボニル基を生じてしまう。例えば、反応性カルボニル基は、加熱によって、メイラード反応を介して食物に加えることができる。食物を高温でローストまたは加熱することによって(例えば、100-125℃より高温、Wal, Thermal processing and allergenicity of foods, Allergy 58: 727-729 (2003)参照)、反応性カルボニルの添加がもたらされ、このことが、これらの食物に免疫原性を与え、Th2-型免疫応答を誘発することを我々は見出した(Chung & Champagne, J Agric Food Chem 1999, 47, 5227-31 and 2001, 49, 3911-16)。
【0059】
本発明の第一の態様の方法は、食物中に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、除去工程)。本発明のこの態様の実施態様においては、反応性カルボニル基の数を減少させる抗原は、食物中に存在する。本発明のこの態様の更なる実施態様は、反応性カルボニル基の数を減少させた食物を、加工食品、保存食品、ベビーフード、レディミールへ導入する、または、皮膚へ、例えばスキンクリーム、美容製品、フェイスパック等に添加することである。
【0060】
反応性カルボニル基は、本発明の第一の態様の方法において、例えば、水素および適切な触媒(前記参照)を用いた水素添加によって、食物抗原から除去することができる。このような方法は、当業者によって明らかであるように、食品産業の慣習と矛盾するものではない。それ故、本発明のこの態様の方法は、食物が消費される前のバルクな状態の食物に存在する任意の抗原の免疫原性特性およびTh-2へと偏らせる(アレルギー誘発)特性を低減するのに使用することができる。このことは、食物に存在する任意の抗原の免疫原性およびアレルギー誘発性が低減するので、消費者にとって有益であり、更に、アレルギー誘発の危険性があることを食物にラベルする必要が少なくなるので、食品製造者にとっても有益であろう。
【0061】
付随する実施例に示すように、ローストしたピーナッツおよびドライローストしたピーナッツは、生のピーナッツに比べて、反応性カルボニル基の数が増加してした。このことは、ピーナッツのローストが疫学的にピーナッツアレルギーと関連しているのに対して、非調理の、フライした、またはボイルしたピーナッツはそうではないように、アレルギー免疫応答を誘発する反応性カルボニル基の役割を示している(Bayer et al., Effects of cooking methods on peanut allergenicity, J. Allergy Clin. Immunol. 107: 1077-1081 (2001))。それ故、本発明のこの態様の更なる実施態様においては、反応性カルボニル基の数が減少した食物は、ローストしたナッツ、例えば、ローストしたピーナッツおよびドライローストしたピーナッツである。
【0062】
抗原は、また、ヒトまたは動物の自己タンパク質または抗原とすることができる。皮膚に関連して、適した抗原には、以下の例示した文献に記載したものを含みうる:Svedman et al., Deodorants: an experimental provocation study with hydroxycitronellal, Contact Dermatitis 48 (8): 217-223 (2003); Niwa et al., Protein oxidative damage in the stratum corneum: evidence for a link between environmental oxidants and the changing prevalence of nature of atopic dermatitis in Japan, British J Dermatol, 149: 248-254 (2003)。呼吸器系抗原は、例えば、Rumchev et al., Domestic exposure to formaldehyde significantly increases the risk of asthma in young children, Eur Respir J, 20(2): 403-408 (2002)に論じられている。肝臓または膵臓抗原は、例えば、Tuma DJ, Role of malondialdehyde-acetaldehyde adducts in liver injury, Free Radic Biol Med, 32 (4): 303-8 (2002); Nordback et al., The role of acetaldehyde in the pathogenesis of acute alcoholic pancreatitis, Ann Surg, 214 (6): 671-678 (1991)に論じられている。この文献においては、アルデヒドで付加した自己タンパク質が、潜在的に、観察された過敏性反応を誘発または助長していた。抗原の例には、サイログロブリン、インスリン、腫瘍特異的抗原もしくは腫瘍マーカーまたはDNAを含む。抗原は、また、ヒトにおいて使用するブタおよびウシ起源のグルタルアルデヒド処理した心臓弁などの異種移植片とすることができる(Salgaller and Bajpai, Immunogenicity of glutaraldehyde-treated bovine pericardial tissue xenografts in rabbits, J. Biomedical Materials Research 19: 1-12 (1985)を参照)。
【0063】
前記に概略したように、様々な還元剤、例えば、NaBH4、NaCNBH3、ジメチルアミンボランまたはピリジンボランを、本発明の第一の態様において、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる。それゆえ、本発明のこの態様の更なる実施態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の減少が、還元剤を用いた還元によって達成することである。本発明のこの態様の更なる実施態様においては、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の減少が、水素添加の使用によって達成される。また、反応性カルボニル基は、単離した抗原を処理するための、またはin vivoでの治療剤としての、アルデヒドスカベンジャー/封鎖剤または抗酸化剤の使用によって、抗原上で減少させることができる。
【0064】
代替的に、前記で概略したように、反応性カルボニル基を抗原に加えることができる様々な方法(例えば、アルデヒドまたはホルムアルデヒド処理、酸化またはメイラード反応)が存在する。それ故、本発明のこの態様の更なる実施態様は、抗原に存在する反応性カルボニル基の数の増加が、ホルムアルデヒドを含むアルデヒド、酸化またはメイラード反応によって達成されることである。
【0065】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変されたワクチンまたはワクチン成分を提供する。
【0066】
前記で概略したように、本発明の第一の態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる(すなわち、除去工程)。このような改変したワクチンは、本発明の方法に供していないワクチンよりも、アレルギー誘発性が低いと考えられる。加えて、改変したワクチンによって誘発された免疫応答のパターンは、異なるパターンの防御免疫をもたらし、例えば、少ないワクチン投与量で感染に対する防御の強化、ワクチン防御期間の延長、および、ワクチンの副作用の頻度の低下をもたらす。このような改変の効果は、反応性カルボニル基を保持する部分に対する免疫応答に基づいて機能し、そして、共投与する物質(例えば、組み合わせた多価ワクチンの他の成分)に基づいて機能すると予期される。このようなワクチンの例は、付随する実施例で提供する。
【0067】
前記および付随する実施例で論じるように、ホルムアルデヒド不活性化およびワクチンの保存によって、反応性カルボニル基が存在することとなる。それ故、本発明のこの態様の実施態様においては、本発明の第一の態様の方法を用いて、存在する反応性カルボニル基の数を減少する前に、ワクチンまたはワクチン成分を化学的に変性し、ホルムアルデヒド処理し、または、その他の場合においては、反応性カルボニル基の付加を引き起こす条件に供する。
【0068】
本発明の第二の態様の更なる実施態様においては、存在する反応性カルボニル基の数を減少するように改変したワクチンまたはワクチン成分は、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹、インフルエンザ、ヒトメタプネウマウィルス、ハンタバックス、WEE、EEE、VEE、脳炎ウィルス、炭疽菌、おたふく風邪、百日咳、ウィルス性肝臓炎、骨膜炎、ポリオ、肺炎、風疹、破傷風、ジフテリア、コロナウィルス感染または動物またはヒトの他の局所的もしくは全身性感染である。
【0069】
代替的に、本発明の第一の態様の方法は、ワクチンまたはワクチン成分に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのに使用することができる(すなわち、付加工程)。このことが望ましい有力なワクチンまたはワクチン成分の例には、前記したような、住血吸虫属および糸状虫などの寄生蠕虫に対するワクチンを含む。それゆえ、本発明のこの態様の実施態様においては、ワクチンまたはワクチン成分を、本発明の第一の態様の方法を用いて、存在する反応性カルボニル基の数を増加させるように改変する。
【0070】
本発明の第三の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変された食物を提供する。本発明のこの態様に含まれる食物の例を前記に概略する。特に、食物はローストしたナッツ、例えば、ローストしたおよびドライローストしたピーナッツであることが好ましい。ローストしたナッツの反応性カルボニル基の存在は、付随する実施例において論じる。
【0071】
本発明の第四の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原または本発明の第二の態様によるワクチンもしくはワクチン成分、およびアジュバントを含む組成物である。
【0072】
大部分のタンパク質は、それ自身を投与しても、免疫原性が乏しいか、免疫得原性を有してない。タンパク質抗原に対する強力な適応免疫応答には、ほとんど通常は、アジュバントとして知られている因子との混合物で抗原を注入する必要がある。アジュバントは、アジュバントと混合する物質の免疫原性を増大する任意の物質である。アジュバントは、通常は免疫原と安定な結合を形成しない点で、タンパク質キャリアとは異なるが、この差異のひとつの例外は、抗原への反応性カルボニルの付加である。更にその上、アジュバントは、免疫化の開始に必要であるのに対して、キャリアは、ハプテンに対する一次応答だけでなく、その後の応答も誘発するのに必要である。一般的に使用されるアジュバントは、フロイント(完全および不完全)、無機ゲル(例えば水酸化アルミニウム)、界面活性物質(例えばリソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エモリエント、ジニトロフェノール等)、Bacille Calmette-GuerinおよびCorynebacterium parvumなどのヒトにおいて使用できるアジュバント、または類似の免疫刺激剤である。使用することができるアジュバントの付加的な例には、MPL-TDMアジュバント(monophosphoryl Lipid A、合成トレハロース ジコリノマイコレート)を含む。例えば、「Vaccine aduvants」 2000, Ed. Derek O’Hagan, Humana Press, New Jerseyを参照。
【0073】
アジュバントは、幾つかの異なる方法で、免疫原性を増大することができる。第一に、アジュバントは、可溶性タンパク質抗原を、マクロファージなどの抗原提示細胞によってより容易に取り込まれる微粒子物質へと変化させる。例えば、抗原をアジュバントの粒子(ミョウバンなど)上に吸着させ、鉱油中で乳化することによって粒子状にし、または、ISCOMもしくは生分解性合成ビーズのコロイド粒子へと導入することができる。このことによって、ある程度、免疫原性が増大するが、このようなアジュバントは、細菌または細菌産物も含んでいなければ、比較的に弱い効果しか有さない。このような微生物成分は、アジュバントが免疫原性を増大させる第二の手段であり、免疫原性の増大に対する正確な寄与は不明であるが、明らかに、アジュバントのより重要な成分である。微生物産物は、より有効な抗原提示細胞になるように、マクロファージまたは樹状細胞にシグナルを伝達することができる。その効果の1つは、炎症性サイトカインの産生および強い局所的炎症性応答を誘導することである;この効果は、恐らく、応答を増大する活性に内因しているものであるが、ヒトへの用途を大いに妨げるものである。アジュバント効果を達成する第三の手段は、抗原への反応性カルボニルを付加することである(前記参照)。
【0074】
本発明の第五の態様は、本発明の第一の態様の方法によって改変された抗原、または、本発明の第二の態様によるワクチンもしくはワクチン成分、または、本発明の第四の態様による組成物、および、医薬的に許容されるキャリアを含む医薬組成物を提供する。
【0075】
抗原、ワクチンまたは組成物を、単独で投与することができるが、1つまたは複数の許容可能なキャリアとともに、医薬調合物として提示することが好ましい。キャリアは、前記抗原、ワクチンまたは組成物と適応し、受容者に有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。一般的には、キャリアは、滅菌およびパイロジェンフリーである水または生理食塩水である。
【0076】
調合物は、便利なことには、単位用量形態で提示することができ、製薬業界でよく知られた任意の方法で調製することができる。このような方法には、活性成分を、1つまたは複数の副成分から構成されるキャリアと会合させる工程を含む。一般的に、調合物は、活性成分を、液体キャリアもしくは微粉化した固体キャリアまたはその両方と均一且つ密接に会合させ、その後に、必要であれば、製品を成形することによって調製する。
【0077】
経口投与に適した本発明による調合物は、カプセル、カシェ剤またはタブレットなどの個別単位として提示することができ、それぞれは、予め求めた活性成分を、粉末または顆粒として;溶液または水性液体もしくは非水性液体中の懸濁液として;または、水中油型液体エマルジョンまたは油中水型液体エマルジョンとして含む。活性成分は、ボーラス、舐剤またはペーストとしても提示することができる。
【0078】
タブレットは、任意に1つまたは複数の副成分と共に、圧縮または型打ちによって調製することができる。圧縮したタブレットは、適した機械において、任意に、バインダー(例えば、ポビドン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポビドン、架橋デンプングリコール酸ナトリウム)、界面活性もしくは分散剤と混合して、粉末または顆粒などの自由に流動する形態で活性成分を圧縮することによって調製することができる。型打ちしたタブレットは、適した機械において、不活性な液体希釈剤で潤いを与えた粉末状の化合物の混合物を型打ちすることによって調製することができる。タブレットは、任意にコーティングまたは分割することができ、例えば、望む放出プロファイルを提供するために、様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用して、活性成分のゆっくりとした放出または制御した放出をもたらすことができる。
【0079】
口への局所適用に適した調合物には、風味をつけたベース(通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント)に活性成分を含む薬用キャンディー;ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性なベースに活性成分を含むトローチ;ならびに適した液体キャリアに活性成分を含むマウスウォッシュを含む。
【0080】
非経口投与に適した調合物には、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、および、調合物を対象とする受容者の血液と等張にする溶質を含みうる水性および非水性の滅菌注入溶液;ならびに、懸濁剤および増粘剤を含みうる水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。調合物は、単位用量または複数回用量のコンテナー(例えば、シールしたアンプルおよびバイアル)で提示することができ、使用直前に滅菌液体キャリア(例えば、注入用の水)の添加のみが必要なフリーズドライ(凍結乾燥)条件で保存することができる。即席注入溶液および懸濁液は、前記した種類の滅菌粉末、顆粒およびタブレットから調製することができる。
【0081】
好ましい単位用量調合物は、一日当りの投与量もしくは単位の、一日当りのサブ投与量の、または適切なフラクションの活性成分を含む調合物である。
【0082】
前記に特に記載した成分に加えて、本発明の調合物は、対象とする調合物のタイプを考慮したこの業界における一般的な他の剤を含むことができ、例えば、経口投与に適した調合物は、香味剤を含むことができる。
【0083】
本発明の第六の態様は、抗原を曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを低減するための、還元剤の使用である。前記で定義したように、還元剤は、特に、抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少する際に使用される。適した還元剤は、NaBH4、NaCNBH3を含む水素化物を含む。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少するのに使用することができる適した方法は、本発明の第一の態様と関連して、前記する。
【0084】
本発明の第七の態様は、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを増大するための、ホルムアルデヒドを含むアルデヒド、酸化またはメイラード反応の使用である。前記したように、適したアルデヒドは、グリコールアルデヒド、アセトアルデヒド、マロンアルデヒド、ホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒドを含み、抗原の酸化は、例えば、NaIO4を使用して実施することができる。抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加するのに使用することができる適した方法は、本発明の第一の態様と関連して、前記する。
【0085】
本発明のこの態様は、特に、過剰なTh1応答によって特徴付けられる病気の治療における使用とすることができる。このような病気の患者は、本発明の第一の態様を使用して抗原に存在する反応性カルボニル基の数が増加するように改変された自己抗原または外来性抗原で治療することができる。このような改変した抗原は、患者に対して、非-Th1、非-病原性免疫応答の発達を誘導し、病原性Th1免疫応答の逆制止を導くことができる。このような抗原の例は、非-Th1非-病原性免疫応答を誘導するホルマリンで処理したサイログロブリンとすることができる。
【0086】
本発明の第八の態様は、病気の予防または治療のための医薬の製造における、本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原、または、本発明の第二の態様によるワクチンもしくはワクチン成分、または、本発明の第四の態様による組成物、または、本発明の第五の態様による医薬組成物の使用である。
【0087】
このような医薬から利益を享受することができる病気の例には、反応性カルボニル基が生じる病気が含まれる。これらの病気は、前記で概略したように、自己タンパク質を改変し、自己抗原に対する望まない免疫応答を誘導することが病状の一因となっている。例には、糖尿病、尿毒症、アルコール依存症またはアテローム性動脈硬化を含む。
【0088】
このような医薬から利益を享受することができる更なる病気の例には、過剰なTh1-型免疫応答が生じる病気を含む。それ故、抗原への反応性カルボニル基の付加によって、免疫応答を、Th2-型応答へとより偏らせることができる。このような病気の例には、リューマチ性関節炎および他の自己免疫性のTh1へと偏った病気が含まれる。代替的に、アルデヒドまたは抗原上にアルデヒドを付加する他の剤を、リューマチ性関節炎の患者の関節のように、病的な状態のTh1-型応答を病的な状態の程度がより弱いTh2-型応答へと向ける必要がある局所的部位に注入することができる。このような手法は、特に、有害な免疫応答を担う抗原が不明である場合に使用することができる。
【0089】
本発明の第九の態様は、ワクチンまたはワクチン成分として使用する医薬の製造における、本発明の第一の態様の方法によって改変した抗原、または、本発明の第四の態様による組成物、または、本発明の第五の態様による医薬組成物の使用である。
【0090】
ワクチンまたはワクチン成分は、存在する反応性カルボニルの数を減少させるために(すなわち、除去工程)、本発明の第一の態様の方法を使用して改変した抗原、組成物、または医薬組成物を含むことができる。このようなワクチンまたはワクチン成分の例には、以下に示すものが含まれる。
【0091】
代替的に、ワクチンまたはワクチン成分は、存在する反応性カルボニルの数を増加させるために(すなわち、付加工程)、本発明の第一の態様の方法を使用して改変した抗原、組成物、または医薬組成物を含むことができる。このようなワクチンまたはワクチン成分の例には、以下に示すものが含まれる。
【0092】
本発明の第十の態様は、患者を抗原に対して脱感作させるのに使用する医薬の製造における、本発明の第一の態様の方法によって改変した、反応性カルボニル基の数を減少させた抗原、または、本発明の第二の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させたワクチンもしくはワクチン成分、または、本発明の第三の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させた食物、または、本発明の第四の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させた組成物、本発明の第五の態様による、反応性カルボニル基の数を減少させた医薬組成物の使用である。
【0093】
存在する反応性カルボニル基の数を減少させた、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分、食物、または、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分を含む組成物もしくは医薬組成物は、患者を脱感作させ、例えば、過敏性応答の臨床的兆候を低減させるのに使用することができる。脱感作とは、アレルギー反応が抑制されることを期待して、アレルギーを示す個体を、投与量を増した抗原に曝露する方法である。脱感作には、恐らく、Th1とTh2細胞の間のバランスをシフトさせて、産生する抗体とサイトカインのプロファイルを変化させることが関与している。
【0094】
存在する反応性カルボニル基の数を減少させた、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分、食物、または、改変した抗原、ワクチンもしくはワクチン成分を含む組成物もしくは医薬組成物を用いた脱感作は、例えばWO 99/38987で論じられている、患者のアレルゲン-特異的IgE抗体を枯渇させるアレルゲン-非特異的 抗-IgE抗体などの、他の治療と組み合わせて使用することができる。
【0095】
患者を抗原に対して脱感作させるのに使用される、本発明の第一の態様によって改変することができる有力な抗原には、例えばWO 97/24139に記載された、主要なピーナッツアレルゲンAra h IおよびAra h IIが含まれる。他の抗原には、反応性カルボニル基の存在が原因でアレルギー性である任意の抗原が含まれる。
【0096】
本発明の第十一の態様は、抗原、ならびに、抗原上の反応性カルボニル基の数を減少することができる還元剤、または、抗原上の反応性カルボニル基の数を増加させるアルデヒド、ホルムアルデヒド、酸化もしくはメイラード反応を触媒する剤、ならびに、場合によっては、アジュバントおよび/もしくは医薬的に許容可能なキャリアを含むパーツのキットを提供する。
【0097】
本発明の第十二の態様は、医薬において使用するための、本発明の第一の態様の方法によって改変された抗原または本発明の第二の態様のワクチンもしくはワクチン成分である。
【0098】
本明細書で参照した如何なる出版物も、参照によって組み込まれる。
【0099】
本発明を、以下の非制限的な図および実施例を参照して、より詳細に記載する。
【実施例】
【0100】
(実施例1:抗原上の反応性カルボニル基が、Th-2型免疫応答を導く:ホルマリン-不活性化ワクチンによって誘導される過敏性反応の分子メカニズム)
〈要約〉
タンパク質およびリポタンパク質上のアルデヒド基の存在は、アテローム性動脈硬化、糖尿病およびアルコール性肝臓疾患などの様々な病気に関与している。呼吸器合胞体ウィルス(RSV)は、幼児および高齢者の重篤な呼吸器疾患の主要な原因となっている。1960年代に使用されていたホルマリン-不活性化ワクチンが、幼児に、その後の自然感染後に生じる病気を増やす傾向にあったので、RSVワクチンの研究は、妨げられてきた。しかしながら、ワクチンが誘導する過敏性についての分子的機序は明らかにされていない。我々は、本明細書において、グリコールアルデヒドまたはホルムアルデヒドを用いた処理によるオボアルブミン(OVA)への反応性カルボニル基の付加が、マウスにおけるそのタンパク質の免疫原性を低減させ、そして、免疫応答を、Th2-型応答へと偏らせることを示す。増大した免疫原性およびTh2-型応答は、反応性カルボニル基の還元的除去によって、両方とも消滅した。我々は、ワクチンを調製するために前記で使用したプロトコールに従って、ホルムアルデヒドによって不活性化したRSV(FI-RSV)が、反応性カルボニル基を含むことを実証する。FI-RSVワクチン-誘導病状の既知のモデルを使用して、FI-RSVでマウスを免疫し、その後に生きたRSVでマウスをアレルギー誘発することによって、Th2-型応答、肺好酸球増加症および体重減少が誘導され、そして、これらは、反応性カルボニル基の還元的除去によって消滅した。我々は、それ故、不活性化の間に、RSVに反応性カルボニル基を付加することが、Th2-免疫応答をもたらす主要な機構であり、病状に関連していることを提案する。更にその上、我々は、ワクチンを含む他の抗原に反応性カルボニル基を付加することが、文献に記載されている他の過敏性およびアレルギー反応に関与していることを提言する。
【0101】
〈序文〉
反応性カルボニルは、アルデヒドなどの高い反応性を有する化学種、または、ケトンなどの幾分かより弱い反応性を有する構造を含む化学基である。アルデヒドは、様々な化合物と反応して分子外-および分子内-分子架橋を生じることができるので、一般に、医薬、研究および工業で使用されている。アルデヒドは、典型液な空気汚染源であり、職業的環境(織物、紙、樹脂、木材会社)において見出されており(1-3)、殺菌調合物で利用されており(4)、細胞および組織研究のための固定剤/不活性剤として用いられており(5)、そして、異種移植片(6)およびワクチン調製物において使用されている(7)ので、アルデヒドへの曝露は広く知られている。反応性カルボニルは、様々な条件下でin vivoで生じ、タンパク質、脂質、糖およびアミノ酸の酸化によって、ならびに、非酵素的なタンパク質の糖化の結果として生じることができる(8-15)。
【0102】
反応性カルボニルを付加したタンパク質またはリポタンパク質の病理学的な重要性は、高い酸化ストレスの状態がこのような付加を生じる、糖尿病、アテローム性動脈硬化、尿毒症性症候群、および加齢などの病状において、非常に研究されている(8、11、14-17)。反応性カルボニルを付加した、タンパク質および低密度リポタンパク質(LDL)を含む、巨大分子は、スカベンジャー受容体を介して、マクロファージなどのスカベンジング細胞の最初の標的になり(8、10、12、16、18-22)、積極的に取り入れら、これらの細胞によって分解される(10、12、20-23)。反応性カルボニル付加物を介して、抗原を、マクロファージスカベンジャー受容体-A(MSR-A)などのマクロファージスカベンジャー受容体へ標的化することによって、T細胞へ抗原を提示することができ(24)、抗原の免疫原性を増すことができる(25-28)。
【0103】
ホルマリン(ホルムアルデヒド)処理は、幾つかの微生物ワクチンを不活性化し、保存する標準的な手法である。しかしながら、幾つかの特殊な反応が、ホルムアルデヒド-不活性化呼吸器合胞体ウィルス(RSV)で免疫し(29)、および、麻疹ウィルスで免疫し(30)、その後に自然感染した人々において報告された。1960年代に使用されたホルマリン(ホルムアルデヒド)-不活性化RSVワクチン(FI-RSV)の場合における、幾人かの死亡者数をもたらした、ワクチンを行なった後にRSV感染した幾人かの子供の肺病の特殊な肥大した形態の進行によって、ワクチンの使用が終了することとなった。動物モデルを用いたその後の研究によって、FI-RSVに対する増大したTh2応答の特性が、レシピエントを、高いレベルのTh2サイトカインおよび過度の肺の好酸球炎症によって特徴付けられる特殊な肺病に罹りやすくしたことが明らかになった(31-34)。しかしながら、ホルマリン-不活性化ワクチンが免疫応答を偏らせる機構は、明らかになっていない。
【0104】
我々は、本明細書で、グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒドを用いた処理によって鶏卵オボアルブミン(OVA)に付加した反応性カルボニル基が、マウスにおいて、Th2サイトカインプロファイルおよびIgG1抗体産生によって特徴付けられる、抗原に対するTh2-型応答を誘導することを示す。この応答は、OVA上の反応性カルボニル付加物が、非-反応性アルキル部分へと化学的に還元されて除去された場合には、消滅する。我々は、RSVのホルムアルデヒド処理が反応性カルボニルを付加することを示し、そして、RSVワクチン-誘導病状の既知モデルにおいて、FI-RSVでのマウスの免疫が、還元したFI-RSVまたはHI-RSVとは対照的に、生きたRSVでのアレルギー誘発によって、関連した病状を伴うTh2-型応答をマウスにもたらすことを実証する。それゆえ、我々は、ホルマリン固体を介した反応性カルボニルの付加が、RSVワクチンが幼児に過敏性をもたらす主要な機構であることを提案する。
【0105】
〈結果〉
〈グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理によってOVAに反応性アルデヒド基が生じる。〉
アルデヒドは、反応性カルボニル基としても知られているアルデヒド基を介してタンパク質と反応する。側鎖アミノ基、特にリジンが、シッフ塩基付加物の形成のための、グリコールアルデヒドなどのアルデヒドの第一の標的である(35)(図1aおよび1b)。グリコールアルデヒドと、側鎖アミノ酸のリジン残基との間に形成されるシッフ塩基は、例えば、アマドリ転移を経て、タンパク質上に反応性カルボニル基を形成する(35)(図1a)。これらの反応性中間体の生成を介して、タンパク質-アルデヒド付加物が、他のアミノ酸と反応して、架橋を形成することができる。
【0106】
ホルムアルデヒドは、1つだけ例外として(36)、反応性カルボニルをタンパク質に付加する能力については考えられていなかった。反応性カルボニルは、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)によってラベルすることができ、このことによって、タンパク質上での検出および測定のための方法が提供される(37)。モデルタンパク質としてOVA、および、反応性カルボニルを検出するための標準的な比色DNPHアッセイを使用して(38)、我々は、タンパク質のグリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理が反応性カルボニルを付加することを示す前記の研究(36)の結果を確認した(図2)。同じ条件下、および、等モル量のアルデヒドとタンパク質を用いて、グリコールアルデヒドが、ホルムアルデヒドよりも、より有効にOVAへの反応性カルボニルを付加することが証明された。グリコールアルデヒド-タンパク質付加物については、反応性カルボニル形成の基礎が良く特徴づけされているが、タンパク質上で反応性カルボニルを生じるホルムアルデヒドの能力に関してはあまり知られていない。最も有望な方法は、反応性カルボニルが、ホルムアルデヒド-タンパク質中間付加物の自己酸化を介して形成されることである(図1b)。加えて、我々は、OVAのグリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理によって形成された反応性カルボニルが、還元剤によるアルデヒド-タンパク質付加物の還元的アルキル化によって、除去されることを確認した(39)(図2)。
【0107】
〈OVAのグリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理によって、外来性アジュバントの非存在下で、OVAに免疫原性を与える。〉
アジュバントの非存在下で、BALB/cマウスを、グリコールアルデヒドまたはホルムアルデヒドのいずれかで処理したOVAを用いて免疫することによって、堅調なIgG1抗体応答がもたらされた(図3a)。グリコールアルデヒド処理OVAは、モル当りのタンパク質に付加した反応性カルボニルの数が増すのと一致して、ホルムアルデヒド処理OVAよりも高いタイターのIgG1を示した。非処理OVA、または、グリコールアルデヒドもしくはホルムアルデヒドで処理し、その後にNaCNBH3もしくはNaBH4で還元したOVAは、非免疫原性であり、これは、FCAに溶かして投与したOVAが最も高いタイターを誘発したのに対して、対照的であった。アルデヒド-処理OVAによって誘発したIgG2aアイソタイプの分析によって、応答の全てはIgG1であり、有意なIgG2a応答は検出されなかったことが示された(図3b)。対照的に、FCAに溶かしたOVAで免疫したマウスは、強いIgG2a応答を有していた。これらのデータによって、グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒド処理の両方が、処理を行わなければ乏しい免疫原性のタンパク質(例えばOVA)について、アジュバント特性を有していることが実証された、そして、誘発された抗体応答が圧倒的にIgG1であることも実証された。
【0108】
〈アルデヒド-処理OVAはTh2-型免疫応答を誘発する。〉
アルデヒド-処理OVAについてのIgG1応答が優位であることによって、その応答においてはTh2-型に偏っていることが示唆された。反応性カルボニル基がこのような偏りを媒介しているという考えを調べるために、我々は、免疫したマウスの脾臓細胞における、アルデヒド-処理OVAに対するサイトカイン応答のプロファイルを研究した。ホルムアルデヒド-処理OVAで免疫し、その後にネイティブOVAを用いてin vitroで刺激したマウスの脾臓細胞は、増加したIL-5(図4a)および低いIFN-γ分泌(図4b)によって特徴付けられるTh2-型サイトカイン遊離を示した。このことは、高いIFN-γおよび有意でないIL-5遊離が観察された(図4a、b)、FCAに溶かしたOVAを用いて免疫した動物とは対照的であった。免疫した動物の異なる群の間で、IL-4産生における有意な差異は存在しなかった(図4c)。還元したアルデヒド-処理OVAは、IFN-γおよびIL-5の最小の産生によって特徴付けられる、非改変OVAに似たサイトカインプロファイルを有していた(図4a、b)。このことは、如何なるIgG応答も誘発することができないことと一致する(図4a、b)。
【0109】
〈ホルマリン-不活性化RSVは反応性カルボニルを含む。〉
我々は、反応性カルボニル基のTh2へと偏らせる特性を、歴史的にTh2応答と関連しているアルデヒド-不活性化ワクチン、すなわち、ホルマリン-不活性化RSV(FI-RSV)ワクチンに適用することができるかを調べることを望んだ。我々は、タンパク質上の反応性カルボニルの検出のために、アルデヒド-処理OVAを使用した比色アッセイと対照的に有効である感度の高いELISAを使用した。我々は、オリジナルプロトコール(29)に基づく方法で調製したホルマリン-不活性化(FI)-RSVモデルワクチンが、加熱-不活性化した同じもの(HI-RSV)に比較して、有意に多くの数の反応性カルボニルを含んでいることを実証した(図5)。予想通りに、我々は、また、ホルマリン処理したmock感染コントロールが、増加した含量の反応性カルボニルを有していることも見出した(図5)。これらは、恐らく、コントロール調製物における、宿主細胞-誘導タンパク質と関連しているであろう。OVA系での我々の知見と一致して、FI-RSVのNaCNBH3での還元(FI-RSV-Red)によって、モデルRSVワクチンの反応性カルボニルが取り除かれた。
【0110】
〈FI-RSVは、生きたRSVでの誘発後に、Th2-型免疫応答をもたらす。〉
我々は、その後、生きたRSVでの誘発によってFI-RSVワクチンにおいて観察される増大したTh2応答、および、対応する肺の病状を模倣する既知のマウスモデルシステム(31、34、40)を利用した。BALB/cマウスを、mock-感染(Mock)、加熱-不活性化(HI)、ホルムアルデヒド-不活性化(FI)およびホルムアルデヒドで不活性化してその後に還元してアルデヒド基を取り除いたRSV(FI-RSV Red)を用いて免疫した。全ての接種材料は、オリジナルのワクチンプロトコール(41)に従って、水酸化アルミニウムを用いて沈殿させた。
【0111】
マウスは、50μlのワクチンを筋肉内に二回免疫した。最後の免疫後2週間後に、マウスを、鼻腔内への5×105PFUの生きたRSVの投与によってアレルギー誘発した。誘発により、FI-RSVワクチンを受け取っていたマウスは、4日間にわたる累進的な体重減少によって明らかである病状を示した(図6a)。FI-RSVを用いて免疫したマウスは、アレルギー誘発後4日間で、炎症細胞、特に好酸球による広範囲に渡る肺の炎症を発症した(図6b)。対照的に、還元したFI-RSV、HI-RSVまたはホルマリン不活性化mockワクチンを投与したマウスは、有意に低い炎症性好酸球の数を有していた(図6b)。より多くの炎症性CD8+T細胞が、FI-RSVよりも、還元したFI-RSVおよびHI-RSVのBALにおいて観察され、これは、FI-RSVを投与したマウスにおけるTh2-型への偏りと一致していた(図6c)。このことと一致して、HI-RSVおよび還元したFI-RSVに由来するBAL CD8+T細胞は、FI-RSVを免疫したマウスよりも、有意に高いレベルのIFN-γを産生していた。このことは、同じマウスから回収した肺細胞から得られたサイトカインのプロファイルによって確かめられた:FI-RSV-免疫マウスに由来する細胞は、還元したFI-RSVよりも、有意に高いレベルのIL-5および低いレベルのIFN-γを産生した(図7aおよびb)。HI-RSVおよびmock FI-RSVによって産生されたIFN-γおよびIL-5のレベルは、FI-RSVと還元したFI-RSVの中間であった(図7aおよびb)。FI-RSV-免疫マウスにおいては、還元したFI-RSVおよびHI-RSVと比較して、脾臓細胞によるIL-4およびIL-10産生がより高くなる傾向にあったが、その差は有意ではなかった(図7cおよびd)。
【0112】
〈ヒトでの使用が許可された市販のワクチンは、反応性カルボニル基を含みうる。〉
我々は、ヒトにおいて使用可能なワクチンを入手し、反応性カルボニル含量についてテストした。テストしたワクチンの間で、図11aに示すように、ジフテリア、破傷風および百日咳成分を含むワクチン(INFANRIX、INFANRIX-HIB、ACT-HIB-DTP)が、最も高い含量の反応性カルボニルを有していた。我々は、その後、水素化シアノホウ酸ナトリウムを用いて(前記の方法)、これらの基を減少させた。結果を図11bに示す。
【0113】
〈考察〉
我々は、本明細書において、ホルムアルデヒドを含むアルデヒドによる、反応性カルボニルのタンパク質への付加が、タンパク質の免疫原性を変更し増大させ、マウスにおける免疫応答をTh2-型応答に偏らせたことを実証した。我々は、FI-RSV抗原に存在する反応性カルボニルが、生きたRSVでのアレルギー誘発に対する免疫応答を増強したTh2応答へと偏らせるのに主要な役割を果たしていることを示すことによって、我々の知見の1つの重要な態様を強調する。このアルデヒド-依存Th2応答は、生きたRSVでのアレルギー誘発後に生じる体重減少および広範囲に渡る好酸球炎症によって特徴付けられ、そして、FI-RSVで免疫したマウスに選択的である。還元剤による還元的アルキル化を介した、FI-RSVワクチン内のタンパク質上の反応性カルボニル基の除去によって、Th2-型への偏りは消滅し、病状も低減する。ワクチンが誘導する病状におけるアルデヒドの重要な役割は、非常に低いレベルのアルデヒド付加物しか含まず、生きたウィルスによるアレルギー誘発によってFI-RSVで免疫したマウスにおいて見られた病変の多くを示さないHI-RSVワクチンから得られたデータと一致した。本明細書で使用したFI-RSVワクチン抗原を調製し、免疫した子供においてRSV感染によってTh2に偏ったアトピー形態の病気を引き起こす元のワクチンと同じ方法で投与した。それ故、我々は、ホルムアルデヒド処理による元のRSVワクチンへ付加した反応性カルボニルが、元のRSVワクチンでの免疫化に関連した過敏性の主要な原因となっていることを提案する。更にその上、我々は、アルデヒド付加物の還元的除去によって、このRSVワクチン、および、他のホルマリン-不活性化ワクチン調製物における増強した応答を防ぐ方法を提供することを提案する。
【0114】
我々は、幾つかのヒトで使用するための市販のワクチンにおける高い含量の反応性カルボニルは、免疫応答に影響を及ぼすことができると考えている。試験したワクチンの間で、ジフテリア、破傷風および百日咳抗原(DTP)を含むワクチンが、最も高い反応性カルボニル含量を有することが示された。ワクチンに通常使用されるトキソイドは、ホルマリン不活性化によって調製されることに着目すべきである。化学(ホルマリン)処理または遺伝子的な解毒のいずれかによって得られるトキソイドに対する免疫応答への異なる影響は、Tonon et al (47)による論文において見られる。更にその上、DTPワクチンを、生まれてから三ヶ月から開始して、非常に若い子供に三回投与する。新生児の免疫システムは、Th2免疫応答へと偏り、Th2型免疫源を使用することによって、その後の免疫応答も偏らせることは推測することができる。
【0115】
抗原への反応性カルボニル付加についての免疫増強特性は、最近、報告されている(28)。アルデヒド保有抗原の免疫学的アジュバント特性を探索する際に、我々は、OVAのアルデヒド処理がIgG1抗体応答を誘発するが、IgG2a抗体応答を誘発しないことを見出した。このことは、FCA(IgG2aおよびIgG1応答の両方を誘発する有力なTh1アジュバント)に溶かして投与したOVAとは対照的であった。アルデヒド-付加OVAがIgG2aを誘発しないこと(マウスにおけるIFN-γ産生、それゆえTh1応答の指標である)は、アルデヒド-タンパク質付加物によって誘発された増加したIgG1抗体タイターに関する、2つの以前の報告と一致した(28、42)。最近の研究において、興味深いことに、抗原のアルデヒド-付加が、FCAによって誘発されるIgG2aのタイターを減少し、アルデヒド付加物による、Th2-型抗体応答へと偏らせる有力な効果が示唆された。我々が、アルデヒド-付加OVAまたはFI-RSVのいずれかを用いたマウスの免疫の後にサイトカイン発現で得たデータは、アルデヒド付加がTh2-型の免疫応答をもたらすという知見と完全に一定している。
【0116】
我々が、なぜ、アルデヒド基が、付加された抗原に対する免疫応答をTh2へと偏らせるのか理解していないのに対して、アルデヒド付加物が抗原の免疫原性を増大させる機構は、少なくとも部分的には解明されている。タンパク質およびリポタンパク質などの巨大分子へのアルデヒド付加は、アテローム性動脈硬化(8、11)、糖尿病(8、11、15)、尿毒症(16)およびアルコール誘導肝臓病(26、42-44)などの様々な病状において記載されており、高い酸化ストレス状態下の場合に、アルデヒド基が生じ、ホストタンパク質に付加される。これらの改変タンパク質およびリポタンパク質は、スカベンジャー受容体を介して、マクロファージによって効率的に取り込まれ、T細胞依存性体液応答の準備を行う。この応答におけるアルデヒド-付加物の中心的な役割についての証拠は説得力があり、以下の例を含む:a)アルデヒド処理以外の方法(例えば、酸化)によって糖タンパク質上に生じたアルデヒド基は、同じように、糖タンパク質の免疫原性を増大し、抗原-特異的IgG1応答を有する(28);b)付加したアルデヒド基は、付加した抗原の免疫原性のみを変更し、例えば、共投与した非改変抗原の免疫原性は変更しない(28);c)タンパク質上のアルデヒド基の還元的除去が、マクロファージスカベンジャー受容体による、改変したタンパク質の取り込みを無効化し、抗体応答を誘発する能力を消滅させる(28);d)単量アルデヒド-タンパク質付加物は、架橋種と同様の免疫原性を示し(28)、このことは、架橋のみが観察された効果に関与しているわけではないことを示している。
【0117】
反応性カルボニル-付加物のTh2-型免疫応答促進特性という我々の発見によって、FI-RSVワクチンによって誘導される病状以外の病状を明らかにすることができる。例えば、アルデヒドは、ホルマリン-不活性化麻疹ワクチンに対する過度にTh2-へと偏ったアトピー症、ならびに、環境および職業によるアルデヒド曝露に対する過敏性およびアレルギー応答に関与している。更にその上、反応性カルボニルは、好中球によるグリコールアルデヒドの産生によって、炎症反応の間に、in vivoでタンパク質に付加されることができる(13、45)。このことによって、自己抗原に対する局所的なTh2-型応答の誘導を導かれ、1型過敏性およびアレルギー反応が誘導される可能性を秘めている。我々は、これらの一般的な条件の根幹をなす機構に関する我々の解明、および、反応性カルボニルの還元的除去が病状を緩和するという我々の実証によって、病状の予防および制御のより深い理解がもたらされることを提言する。
【0118】
〈方法〉
〈アルデヒドによるOVA改変〉
OVA(10μM)を、PBSに溶かした20mMのグリコールアルデヒドまたはホルムアルデヒドと、3時間37℃でインキュベートした。非反応のアルデヒドを、Microcon(登録商標)10 centrifugation filter(Amicon Ltd.)を用いて、5000xgで三回、トータルで〜303のバッファー交換を行って、溶液の遠心ろ過により取り除いた。反応性カルボニル基は、OVAへのアルデヒド付加時における0.1mMのNaCNBH3の添加か、あるいは、OVA改変に続く0.1mMのNaBH4とのインキュベーションを介してのいずかによって、還元した。サンプルを、その後、Microcon(登録商標)10 centrifugation filter(Amicon Ltd.)を介して、5000xgで三回溶液をろ過することによって脱塩した。
【0119】
BCA Protein assay(Pierce)を使用して、タンパク質濃度を求め、その濃度を、280nmでの吸光度を測定することによって確認した。
【0120】
〈反応性カルボニルの測定〉
〈A. 比色方法〉
125-250μgのタンパク質を、500μlの10mM 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)と、500μlの容積の2Mの塩酸中で、1時間室温で、10-15分毎に攪拌しながらインキュベートした。混合液を、11.000xgで3分間遠心し、上清を捨てた。ペレットを、三回、1mlのエタノール-酢酸エチル(1:1 V/V)で洗浄し、フリーのDNPHを取り除いた。その際、各回毎に、サンプルを、再遠心分離する前に、10分間静置した。沈殿したタンパク質を、1mlのグアニジン溶液中で、15-30分間、37℃で再溶解させた。不溶物質を、11,000xgで3分間遠心することによって取り除いた。上清の吸光度を375nmで測定し、反応性カルボニル含量を、モル吸収係数22,000M-1cm-1を用いて計算した。
【0121】
〈B. ELISA方法〉
5-10μgのアルデヒド-処理または非処理タンパク質(OVAまたはRSV)を、室温で、40μlの10mM DNPHと、2Mの塩酸中で45分間、10分毎に攪拌しながらインキュベートした。150μlのコーティングバッファー(pH 8.5のNaHCO3)を溶液に加え、そのうちの100μlを、一晩4℃でELISAプレートをコーティングするのに使用した。その後、プレートを、PBSを用いて洗浄し、200μlのPBS/1% BSAでブロッキングを行った。タンパク質に結合したDNPHを、ビオチン化抗-DNP抗体およびHRP-コンジュゲートストレプトアビジン(Jackson Laboratories)を用いて検出した。TMB基質(Pierce Ltd.)を用いて発色させ、1MのH2SO4で反応を停止した後に、450nmの吸光度を測定することによって結果を得た。
【0122】
〈免疫〉
6-8週齢の雌のCBAまたはBALB/cマウスに、100μlのPBSに溶かした20-25μgのネイティブまたは改変OVAを用いて皮下免疫を行った。マウスに、免疫開始後3から4週間後に、100μlのPBSに溶かした20-25μgのネイティブタンパク質を用いて追加の皮下免疫を行った。血清回収のために、マウスの尻尾から血を抜き取り、追加免疫後2週間でマウスを殺して、サイトカイン応答分析のために、脾臓細胞を回収した。
【0123】
〈OVAまたはRSV-特異的抗体についてELISA〉
ELISAプレート(Microlon high binding, Greiner Bio-one)を、一晩、pH8.5の炭酸バッファーに溶かしたネイティブOVAを用いて、4℃でコーティングした。プレートを、1時間室温で、200μlのPBA/1% ウシ血清アルブミン(BSA, Sigma Ltd.)でブロッキングし、PBSで三回洗浄し、抗血清および免疫前血清の、100μlのPBA/1% BSAに溶かした連続希釈液を、プレートに加えた。1時間室温でインキュベーション後、プレートを3回PBSで洗浄し、OVA-特異的IgG1またはIgG2aアイソタイプを、HRPコンジュゲート抗-マウスアイソタイプ(Jackson Laboratories Co.)を用いて検出した。シグナルは、TMB基質を用いて発色させ、1MのH2SO4で反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0124】
〈OVAに特異的なサイトカイン分泌細胞をカウントするためのELISPOTアッセイ〉
ELISPOTプレート(Millipore Ltd.)を、一晩4℃で、pH 8.5の炭酸コーティングバッファーに溶かした5μg/mlのIL-2、IL4、IL-5、IL-10、IFN-γに対する精製抗-サイトカイン抗体100μl(BD-Pharmingen Ltd.)を用いてコーティングした。コーティングバッファーを捨て、ウェルを、200μlのブロッキングバッファー(PBS/1% BSA)を用いて1回洗浄した。200μlのブロッキングバッファーをそれぞれのウェルに加え、その後、2時間室温(RT)でインキュベートした。ブロッキングバッファーを捨て、5×104および2.5×104の細胞を2サンプルずつELISPOTウェルに加え、プレートを37℃で24時間インキュベートした。その後、細胞を捨て、ウェルを、200μl/ウェルのdd H2Oを用いて、各回3-5分間ウェルを浸すことによって二回洗浄した。その後、ウェルを、ブロッキングバッファーを用いて再度三回洗浄した。検出抗体、ビオチン化IL-2、IL4、IL-5、IL-10、IFNγ(BD Pharmingen Ltd.)を、その後、ブロッキングバッファーで1/250に希釈し、100μlを各ウェルに加えた。プレートを、2時間室温でインキュベートした。検出抗体を捨て、ウェルを、200μlのブロッキングバッファーを用いて5回洗浄した。100μlのエクストラアビジン-アルカリフォスファターゼ(ろ過したPBSで1/1000に希釈)を各ウェルに加えて、2時間室温でインキュベートした。この溶液を捨て、プレートを200μl/ウェルの洗浄バッファーを用いて五回洗浄した。100μlのBCIP/NTB AKP基質をウェルに加え、暗い点が現れるまでインキュベートした(10-20分)。その後、水道水でプレートを洗浄してスポットの成長を停止させ、プレートを風乾した。スポットを、ELISPOTリーダーを用いてカウントした。
【0125】
〈ワクチン調製〉
FI-RSVワクチンを、(29)に記載されているように調製した。簡略して述べると、RSVを、HEp-2細胞で増殖させ、フラスコを凍結して解凍し、細胞を回収してプールした。ウォーターバス内で10分間ソニケーション後、調製物を10分間1000rpmで遠心し、上清を回収した。ホルマリンを72時間(37℃)加え(最終濃度1:4000)、サンプルを、4℃で、1時間、50,000xgで超遠心した(SW28ローターを備えたBeckman L8-M超遠心)。ペレットを、PBSで元の容積の25分の1に希釈し、ミョウバン(4mg/ml, Imfect Alum, Pierce)および遠心分離(30分間, 1000g)を用いて、30分間の沈殿後に、4倍濃縮液を得た。HI-RSVを、ホルマリン添加以外は、全く同じ方法で調製した。非-感染のHEp-2細胞を含むFI-Mockを、FI-RSVと同じ方法で処理した。
【0126】
〈細胞回収〉
RSVを用いたアレルギー誘発の4日後に、マウスを殺して、以前に記されているように(46)、気管支肺胞洗浄液(BAL)、肺組織、脾臓および血清を回収した。簡略して述べると、Eagle’s MEMに溶かした1mlの12mMリドカインを用いて肺を膨らませ、滅菌チューブ中で氷上に静置した。100μlの各サンプルをガラススライド上で細胞遠心し、好酸球カウントのために、ヘマトキシリンとエオシンを用いて染色した。
【0127】
〈RSVに特異的なサイトカイン分泌細胞をカウントするためのELISPOTアッセイ〉
IFNγ、IL-4、IL-5およびIL-10を産生する細胞を、ELISPOTによって数えた。簡略して述べると、マイクロセルロース-底の96穴プレートを、一晩、炭酸-重炭酸バッファーで溶かしたキャプチャー抗体(Pharmingen)を用いてコーティングした。肺細胞を2サンプルずつ加え(ウェル当り5×104)、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間インキュベートした。その後、適切なビオチン化抗-サイトカイン抗体(Pharmingen)を更に2時間加え、その後、アルカリフォスファターゼ-コンジュゲート アビジン(Sigma)とBCIP/NBT基質(Sigma)により青いスポットを生じさせた。スポットを、自動化したスポットカウンター(AID EliSpot Reader System)を用いてカウントした。結果を、百万の細胞当りのスポットの数として表す。
【0128】
〈ピーナッツタンパク質抽出〉
生のピーナッツおよびローストしたピーナッツを、コーヒーグラインダーによって、その後で、乳鉢と乳棒によって細かくした。その後、各回4000gで回転して、5当量の冷アセトンを用いて3回脱脂し、最終的に、一晩4℃で乾燥させた。タンパク質を、乾燥粉体から連続して抽出した;粉末をPBSに加え、その後、4時間室温で攪拌した。その後、サンプルを2000gで、5分間室温で遠心し、上清を回収し、12000gで1分間遠心し、上清を回収し、0.45μmフィルターを介してろ過した。サンプルについては、BCAタンパク質アッセイによってタンパク質濃度をアッセイした。
【0129】
[参考文献]
【0130】
(実施例2:グリコールアルデヒドによるオボアルブミンの処理がTh2への免疫の偏りを導く)
雌のCBAマウスを、PBSに溶かした25μgのオボアルブミンまたはflu HA(20mMのグリコールアルデヒド(GA)で改変した、または、フロイント完全アジュバントと混合した)を用いて皮下に免疫した。マウスを、免疫してから3週間後に、PBSに溶かしたネイティブなHAを用いて追加免疫した。マウスから血清を取り出し、1/100に希釈し、IgG1およびIgG2a抗体の存在を、OVAまたはHAでコーティングしたELISAプレートを用いて検出した。HAに結合した特異的抗体を、抗-マウスIgG1またはIgG2a-HRPコンジュゲート抗体を用いて検出した。
【0131】
用いた方法は、実施例1で概略した方法と同じである。この実験から得られた結果を、図8に示す。
【0132】
図8に示されたデータから、グリコールアルデヒド処理を行ったOVAまたはHAに曝露したマウスは、IgG2a抗体産生よりもIgG1抗体産生が非常に増加したことは明らかであり、このことは、マウスがTh2抗体プロファイルを発達させたことを示している。
【0133】
(実施例3:OVAへの反応性カルボニルの付加の定量およびその還元的除去)
反応性カルボニルを、前記の方法にしたがって、グリコールアルデヒドを用いてOVAに付加した。3つの異なる濃度のグリコールアルデヒドを使用した:2、10および20mM(図9)。20mMのグリコールアルデヒドを用いて処理したOVAであって、1モルのOVAにつき約5.5の反応性カルボニルを含むサンプルを、10または100mMのNaBH4を用いて還元した(図9)。これらの全ての改変後のOVAの反応性カルボニル含量を、前記した比色DNPHアッセイを使用して定量した。
【0134】
(実施例4:ドライローストしたピーナッツは非調理のピーナッツよりも多くの数の反応性カルボニルを含む)
生のピーナッツおよびローストしたピーナッツまたはドライローストしたピーナッツを、市販のコーヒーグラインダーを使用して荒く挽き、その後、乳鉢および乳棒を用いて細かくした。その後、粉末を、各アセトン洗浄後に4000gで回転して、5当量の冷アセトンを用いて3回脱脂し、その後、一晩4℃で乾燥させた。その後に、PBSに加え、4時間室温で攪拌することによって、タンパク質を乾燥粉体から抽出した。その後、サンプルを2000gで、5分間室温で遠心した。上清を2000gで5分間室温することによって更に不溶物を除いた。その後、上清を回収し、0.45μmフィルター(Amicon)を介してろ過した。サンプルについては、BCAタンパク質アッセイによってタンパク質濃度をアッセイした。
【0135】
ピーナッツサンプルを、0.1M NaBH4を用いて、2時間37℃で処理し、その後、脱塩し、反応性カルボニル含量を減少させた。
【0136】
反応性カルボニル含量を測定するためのDNPH ELISAを、5μgタンパク質/ウェルを使用して、実施例1に記載したように実施した。エラーバーは、2つの独立した2サンプルずつ行ったELISAの標準偏差である。データを図10に示す。
【0137】
図10からわかるように、ピーナッツのローストまたはドライローストによって、ピーナッツタンパク質の反応性カルボニル含量は有意に増加した。反応性カルボニルは、0.1MのNaBH4での還元によって、タンパク質から除去された。
【0138】
(実施例5:マロンジアルデヒド(MDA)および(E)-4-ヒドロキシノネナール(HNE)によるモデルタンパク質(オボアルブミン)上の反応性カルボニル基の産生)
MDAおよびHNEは、アルコール摂取またはAGE産生における脂質酸化の間に生じたアルデヒドとして、前記されている。それらは、マクロファージによる改変タンパク質の取り込みの増加および免疫原性の増大と関連している。
【0139】
図13から15には以下が示されている:
1.MDAおよびHNEは、タンパク質に、還元可能な反応性カルボニル基を付加する。
2.これらのアルデヒドによって改変したOVAの免疫原性は、balb/cマウスにおいて、通常はIgG1応答が増大し、IgG2aは増大しない。
3.反応性カルボニル基が還元によって除去された場合、前記増大は消滅する。
4.HNE-改変OVAは、高いIL-5および低いIFNγ産生を誘導する。
5.ポイント2および4は、Th2へと偏った応答を示唆している。
6.この応答は、反応性カルボニル基を還元した場合には、消滅する。
【0140】
(実施例6:還元したOVAの抗原性および免疫原性)
本実施例において、我々は、化学的還元によって、タンパク質の構造は変化しないことを示す。フロイント完全アジュバント(FCA)に溶かした還元したOVAを注入し、非改変OVAに対する抗体応答を求めた。また、グリコールアルデヒド(GA)によって改変したOVA、またはGA-改変および還元したOVAについて、免疫原性を調べた。
【0141】
図16には以下が示されている:
1.FCAに溶かして注入した場合、還元したOVAは、ネイティブエピトープに対する抗体を誘発する。このことによって、還元したタンパク質の構造的な完全性が確認される。
2.GA-改変OVAは、OVAよりも免疫原性を有しており、この免疫原性は、反応性カルボニル基を除去する更なる還元によって消滅する。
【0142】
(実施例7:生のピーナッツタンパク質と比較したローストしたピーナッツタンパク質の免疫原性)
図17には以下が示されている:
1.ローストしたピーナッツタンパク質は、balb/cマウスにs.c.注入した場合、生のピーナッツタンパク質よりも免疫原性を有しているようである。
2.この免疫原性は、主に、IgG1応答であり、IgG2a応答ではない。
3.反応性カルボニル基を除去するためにローストしたピーナッツタンパク質抽出物の還元によって、IgG1応答が減少する。
【0143】
(実施例8:グルタルアルデヒドの、モデルタンパク質(OVA)への反応性カルボニル基を付加する能力)
前記したように、グルタルアルデヒド(GLA)を、バイオプロステーシスを保存するために使用することができる。このような改変した組織の免疫原性は変化するであろう。
【0144】
図18には以下が示されている:
1.GLAは、モデルタンパク質(OVA)に反応性カルボニル基を付加することができる。
2.その付加した反応性カルボニル基は還元することができる。
【0145】
(実施例9:fluヘマグルチニン(HA)のグリコールアルデヒド処理によるTh1/Th2の偏り)
反応性カルボニル基によるTh2への偏りを更に示すために、我々は、ここでは、ウィルス-関連タンパク質、ヘマグルチニン(現在のホルムアルデヒド-改変ワクチンの一部である)を使用する。
図12には以下が示されている:
1.HA上での反応性カルボニル基の産生は、よりTh2応答へとマウスにおける応答を偏らせるようである。
2.この偏りは、カルボニル基を還元した場合には逆になる。
【0146】
(実施例10:還元反応のための方法)
還元反応
目的
このセクションが終了するまでに、
1.化学選択的還元における、様々な還元剤(ヒドリドvs中性の還元剤)の反応性の差異を活用し、異なる反応性を説明する機構の論理的根拠を付与することができるようになる。
2. 近接したケトンの還元の結果を制御し、選択的にsynおよびanti 1,3-および1,2-ジオールを合成するために、出発原料の固有のキラリティーを使用することができるようになる。
3.良く定義されたT.S.ダイアグラムを用いて、ジアステレオ選択的な反応を合理的に説明できるようになる。
4.還元反応における遷移金属の用途の広さの正しい認識を得る。
5.溶解金属還元の合成の有用性の正しい認識を得る。
6.ハロゲン化物の脱酸素化および還元のためにラジカル化学を使用することができるようになる。
【0147】
II.A カルボン酸誘導体の還元および関連した官能性
【0148】
【化1】
【0149】
酸化反応の場合に直面した選択性および反応性の類似の問題が、還元反応にも生じる。
・化学選択性。多くの異なる官能基は、様々な方法で還元することができる。我々は、他の部分はそのままにして、たびたび、選択的に1つの官能基を減少する必要がある。
・カルボン酸誘導体の場合、2つの可能性ある還元生成物が存在する:アルデヒドおよびアルコール。理想的には、我々は、どちらかの生成物を入手する選択的な方法が必要である。
【0150】
Q? なぜ、たびたび、アルデヒドのエステルの還元を止めることが難しいのか?(開始物質と中間生成物の相対的な求電子性を考慮)
・立体選択性。非対称に置換されたケトンは、還元で二級アルコールを提供し、分子内に新たな立体中心を導入する。我々は、出発原料または試薬(または両方)による制御を使用して、この還元の立体化学の結果(相対的および絶対)を制御する方法が必要である。このコースにおいては、出発原料-制御ジアステレオ選択的還元のみを考慮する。エナンチオ選択的還元は、別の場所でカバーする(H Tye Asymmetric Synthesisコース)。
【0151】
II.A.1 ヒドリド還元剤
最も重要な還元剤のうちの幾つかは、アルミニウムおよびホウ素のヒドリド(水素化物)である。原理的に反応性が異なる多くの種類が存在する。それらは、全て、求核性ヒドリドの供給源として機能し、それゆえ、求電子性種に対して最も反応的である。最も広く使用されているヒドリド剤の幾つかを、以下に論じる。
【0152】
II.A.1.i 水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)
・最も有力な還元剤の1つである。
・非常に発火しやすい試薬であり、それ故、注意して使用しなければならない。
・反応は、通常、エーテル溶媒(例えば、THF、Et2O)中で行う;LiAlH4は、プロトン性溶媒(すなわち、NaBH4)と激しく反応する。
・LiAlH4の非常に高い反応性は、この試薬に、比較的に低いレベルの化学選択性しか付与しない。しかしながら、強い求電子性基に対して最も反応的である。
【0153】
【表1】
【0154】
実質的に各カルボン酸誘導体を還元できることに加えて、LiAlH4の高い反応性によって、他の官能基を還元するのに有用となる:
【0155】
【化2】
【0156】
【化3】
【0157】
この場合、近接したアルコールが不可欠である。反応は、アルケンを遊離する三重結合のtrans-選択的ヒドロメタレーションを介して進行する:
【0158】
【化4】
【0159】
エポキシド環-開環
非対称的置換エポキシドの場合、位置選択性の問題が生じる。非環式系においては、求核性化合物(ヒドリド)は、エポキシドのより立体障害が少ない側で、SN2反応で反応する傾向がある。
【0160】
【化5】
【0161】
環式系においては、アキシャル位での攻撃が好ましい(transジアキシャル環開環)
【0162】
【化6】
【0163】
II.A.1.ii 水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)
・LiAlH4より穏やかである。
・エステル存在下でアルデヒドおよびケトンを化学選択的に還元するのにたびたび使用される(エステルは、NaBH4で還元されるが、通常は、非常に低い割合である(低い求電子性))。
・反応は、H2Oを含むプロトン性溶媒で行われる。NaBH4は、大部分の非プロトン性の溶媒に不溶である。
【0164】
関連する試薬
水素化ホウ素リチウムおよびカルシウム
水素化ホウ素ナトリウムの反応部位はヒドリドアニオンであるが、そのカウンターイオンも、試薬系の反応性を調節するのに使用することができる。LiBH4およびCa(BH4)2を含む多くの他の水素化ホウ素試薬は購入することができる。これらの試薬の両方は、より反応性を有し、アルデヒドおよびケトンに加えて、容易にエステルを還元する。これらの試薬の増加した反応性は、カルボニル基に増加した求電子性を付与するカチオンのルイス酸性の増加が原因である(ルイス酸-ルイス塩基形成)。
【0165】
II.A.1.iii 水素化ホウ素ナトリウム-塩化セリウム(III)
問題1:Dr-非飽和カルボン酸の位置選択的還元。1,2-還元
・アリルアルコール(非常に重要な官能基)への良好な経路
解決:1:1の比のNaBH4とCeCl3を使用-Luche還元
【0166】
【化7】
【0167】
選択的1,4-還元を得るため:
a) 触媒による水素化
b)「銅ヒドリド」[PPh3CuH]6 Strykerの試薬
【0168】
問題2:より求電子的なアルデヒドの存在下でケトンを化学選択的に還元する方法。
・ケトンの存在下でアルデヒドを化学選択的に還元することは、通常、求核性ヒドリド供給源への高い反応性を活用することによって、達成することができる。
【0169】
Q? なぜ、アルデヒドは、ケトンよりも求電子性であるのか?
・アルデヒドはケトンよりも求電子性であるので、それゆえ、非常に水和/アセタール化されやすい。
・アセタールは、水素化ホウ素試薬によっては還元されない。
・Ce(III)は、良好なルイス酸であり、強い親酸素性を有する-カルボニル基、特にアルデヒドの水和を促進する。それゆえ、一時的にアルデヒドをアセタール/水和物としてマスクして、ケトンの選択的な還元を可能にすることができる。マスクされなかったアルデヒドが反応する。
解決:含水EtOH中の1:1 NaBH4-CeCl3を使用
【0170】
【化8】
【0171】
II.A.1.iv 水素化シアノホウ素ナトリウム(NaCNBH3)
C.F. Lane, Synthesis, 1975, 135-146
・非常に有用な水素化ホウ素試薬である。
・pH7でNaBH4よりも穏やかである。
・反応性は、非常にpHに依存する-酸性条件下(pH3より低い)で耐性を有する数少ない水素化ホウ素化物の1つである。
pH3-4:NaCNBH3は容易にアルデヒドおよびケトンを還元する。
pH6-7:NaCNBH3は容易にイミニウムイオンを還元するが、C=O基を還元しない-この特性が、最も重要な用途-還元的アミノ化-を担う。
・アルデヒドまたはケトンと二級または一級アミンをカップリングすることによる、二級および三級アミンを合成する非常に有用な方法である。
【0172】
【化9】
【0173】
Q? アミン形成のための代替的な方法は、一級または二級アミンをハロゲン化アルキルでアルキル化することであるか?このアプローチの問題は何か?ヒント-生成したアミンは、開始物質よりも、多かれ少なかれ求核性であるか?
【0174】
【化10】
【0175】
Q? この反応の立体選択性の説明
【0176】
【化11】
【0177】
II.A.1.v 他のヒドリド還元剤
多くの他のヒドリド還元剤が存在する。以下は、立体選択的還元における使用のためのバルキーな還元剤として開発された:
【0178】
【表2】
【0179】
4-Tert-ブチルシクロヘキサノンの立体選択的な還元
【0180】
【化12】
【0181】
【表3】
【0182】
どのような要素が、この還元の立体化学的な結果に影響を及ぼすか?
【0183】
ヒント:反応に関与する求核試薬、求核試薬のサイズなどの要素を考慮せよ。開始ケトンおよび2つの生成物のニューマン投影式を記載し、分子がどのように開始物質から生成物へと進行するかを考慮せよ-エクリプス配座は好ましくない。
【0184】
II.A.2 中性還元剤
前記で論じた試薬は全てヒドリドであり、求核性試薬として作用する-これらは、良好な求電子試薬と最も容易に反応する。還元剤の他のクラスは、中性である還元剤である。これらは、異なる機構を介して反応し、結果として、時には、前記したヒドリド試薬を補完するような全く異なる選択性を有する。
【0185】
【化13】
【0186】
【表4】
【0187】
II.A.2.i ボラン(BH3)
ボランは、単離するには非常に不安定である(ダイマーB2H6として、または、ルイス酸-ルイス塩基複合体、例えば、BH3THFもしくはBH3Me2Sとしてのいずれかで存在する)。
・エステルの存在下、カルボン酸をアルコールに選択的に還元するのに非常に有用な試薬である。
・アミドは、また、対応するアルコールへと容易に還元する。
【0188】
【化14】
【0189】
より電子が豊富なカルボン酸誘導体は、最も容易に還元されると思われる-ヒドリド還元剤と完全に反対の反応性。
【0190】
Q? なぜ、カルボン酸は、エステルと比較して迅速に還元されるのか?
手掛かり:ボランは、カルボン酸と反応して、トリアシルオキシボランを生じる(プロトノリシス)。これは、本質的には、混合した無水物であり、それゆえ、非常に反応性を有する。エステルは、この方法で反応することができず、それゆえ、より遅い速度で還元される。
【0191】
【化15】
【0192】
注意!
ボランは良好な還元剤であるが、不飽和系(三重結合および二重結合)をハイドロボレーションするのに非常に有用でもある-化学選択性は問題となりうる。
【0193】
【表5】
【0194】
II.A.2.ii 水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBALH)
【0195】
【化16】
【0196】
・非常に広く、特にエステルを還元するために使用されている還元剤である。
エステルは、化学量論および反応条件に依存して、アルデヒドまたはアルコールのいずれかに還元することができる:
【0197】
【化17】
【0198】
ニトリルもアルデヒドに還元される。この場合、反応は、酸を用いたワークアップで加水分解するイミンを介して進行し、アルデヒド生成物が得られる:
【0199】
【化18】
【0200】
ラクトンは、アルデヒド生成物の過剰還元を防ぐ有用な方法を提供する。これらの場合、ラクトンはラクトールに還元され、そのヘミアセタール官能基は、基本的にアルデヒドをマスクし、過剰還元を防ぐ:
【0201】
【化19】
【0202】
II.A.2.iii Al(OiPr)3を用いたMeerwein-Ponndorf-Verley還元
・カルボニル基(基本的にはアルデヒドおよびケトン)を還元する比較的古い反応である。
・イソプロパノールはヒドリド供与体として作用する。
・副生成物はアセトンである。
・反応は可逆的である-可逆的酸化は、Oppenauer酸化として知られている。
・その機構は、既知のイス型T.S.(Zimmerman-Traxler)を介して進行する様々な試薬に典型的なものであり、ベータ-ヒドリドをカルボニル基に分子内で転移させる。
【0203】
【化20】
【0204】
この反応機構を、γ-ヒドロキシケトンの配向された還元のための方法と比較せよ(Me4NHB(OAc)3-およびEvans-Tischenko還元)-その機構は非常に類似している-イス型Zimmeran-Traxler遷移状態は、6-員環の遷移状態を介して進行することができる反応の立体化学結果を合理的に説明するのに、非常に共通して使用される。
【0205】
II.B プロキラルケトンの立体選択的な還元
ヒドリド求核性物質をキラルケトンに付加することによって、ジアステレオマーが得られる-立体中心がカルボニル基に近接(1,2-または1,3-位(すなわち、D-またはr-ヒドロキシケトン))している場合、保護基、反応条件および還元剤を注意深く選択することによって、還元における高い立体選択性を、たびたび得ることができる。1,2-および1,3-ジオールは、天然物に広く分布している(エリスロマイシンおよび関連するポリケタイドマクロライド参照)。ヒドロキシケトンの立体選択的還元によって、このような官能基を導入する信頼性のある経路が提供される。
【0206】
【化21】
【0207】
次に、それぞれの還元について考察する。幾つかの試薬が新規なものであろうが、根幹をなすコンセプトとモチーフを既に認識しているであろう;もしそうでないならば、化学のこの領域を復習せよ-このレクチャーコースの中で、何度も何度も、現れるであろう。
【0208】
例えば、Chemistryのこの領域を深く論ずるためには、以下を参照せよ:
1. F. A. Carey, R. J. Sundberg, Advanced Organic Chemistry: Volume B, Plenum Press, New York, 1990 (3rd Edition), pp 241-244
2. M. B. Smith, Organic Synthesis, McGraw-Hill, New York, 1994, pp400-417
3. E. L. Eliel, S. H. Wilen, Stereochemistry of Organic Compounds, Wiley, New York, 1994, pp 858-938
【0209】
II.B.1 anti-1,3-ジオールのジアステレオ選択的形成
anti-1,3-ジオールを、対応するr-ヒドロキシ-ケトンから形成するために、多くの方法が開発されている。全ては、既知の6員環のイス型遷移状態を介した分子内ヒドリド転移(すなわち、Meerwein-Ponndorf-Verley還元)の利点を有する、いわゆる配向された還元に基づいている。
【0210】
II.B.1.i Davisの分子内ヒドロシリル化
【0211】
【化22】
【0212】
工程1:シリルエーテル形成
・工程2:シランをルイスまたはブレンステッド酸で処理し、ヒドリド転移を誘導する。ジアステレオ選択性のレベルは良好であり、320:1から120:1という優れたanti:synが得られる(BF3OEt2およびSnCl4は特に良好な結果が得られた)。
・シリルアセタール生成物は安定であり、イソプロピル基によって、この官能基は安定なジオール保護基となる。
・シリルアセタールのフッ化物による脱保護によって、フリーのジオールが提供される。
【0213】
シリルエーテルのフッ化物による脱保護の機構とは何ですか?
ヒント:ケイ素は、空の低い軌道を有する(3d AO)。
イス型T.S.を介した分子内ヒドリド転移は、反応の立体化学的な結果として説明される。
【0214】
【化23】
【0215】
II.B.1.ii テトラメチルアンモニウム トリアセトキシ水素化ホウ素(Evans)
Evansは、Me4NHB(OAc)3を用いて、代替的なアプローチを導入した。
D. A. Evans, K. T. Chapman, E. M. Carreira, J. Am. Chem. Soc., 1988, 110, 3560-3578
【0216】
選択性のレベルは、Davisの方法ほど高くはないが、この反応は、実施がより容易であり、一般的に高い収率である(ペイオフ)。
【0217】
【化24】
【0218】
r-ケトンだけを還元することを注意せよ-エステルは、そのままである(化学選択性)。
反応の立体選択的な結果を満足させるT.S.を描写せよ(ヒント:AcOH共溶媒により酸触媒を提供する)
【0219】
II.B.1.iii Evans-Tishchenko反応
D. A. Evans, A. H. Hoveyada, J. Am. Chem. Soc., 1990, 112, 6447-6449
・高い立体制御レベルのanti-1,3-ジオールが提供される。
・1つの有力な利点は、配向した水酸基がエステルとして保護されることである(アルデヒドの選択によってPGの特性が求まる)。
・この方法によって、1,3-ジオールから開始して得ることが時には困難な2つの二級アルコールの分別が可能となる。
【0220】
その機構には、r-ヒドロキシケトンの、アルデヒド(アシル保護基の供給源)との反応が含まれ、二ヨウ化サマリウム(SmI2)によって媒介される。サマリウムによって、既知の遷移状態の形成が確かなものとなり(配位による-ランタノイドが強力な強い親酸素性であることを想起せよ)、アルデヒドからケトンへのヒドリド転移を促す。
【0221】
【化25】
【0222】
Q? どのように、ヒドリドの供給源がアルデヒドであることを証明するか?
もう1つの例:
【0223】
【化26】
【0224】
II.B.2 Syn-1,3-ジオールのジアステレオ選択的形成
キレート-制御分子内ヒドリド転移
r-水酸基とケトンの間でキレートを形成することができる金属によって、シクロヘキセンの分子構造と似た分子構造が提供される:
【0225】
【化27】
【0226】
・キレート上での分子内ヒドリド転移は、その後、syn-1,3-ジオール生成物が提供されると予想される。このことは、実際に事実である。
・最も確実な反応条件は、低い温度でのEt2B(OMe)-NaBH4である:
K.-M. Chen, G. E. Hardtmann, K. Prasad, O. Repic, M. J. Shapiro, Tetrahedron Lett., 1987, 28, 155-158
【0227】
【化28】
【0228】
明確な構造を使用して、この反応の立体選択的な結果を説明できることを確認せよ。
・良好なsyn選択性も付与する他の試薬はZn(BH4)2およびDIBALHである。
K. Narasaka, F.-C. Pai, Tetrahedron, 1984, 40, 2233-2238
【0229】
このテーマには多くの変形型が存在する(内部キレート化に続く分子内ヒドリド転移)。エステルをキレートの形成のために使用する例としては、以下がある:
【0230】
【化29】
【0231】
観察されたこの反応の立体化学的な結果を説明するT.S.図を描写せよ。
【0232】
II.B.3 Anti-1,2-ジオールのジアステレオ選択的な形成
キレート制御を活用せよ:
それゆえ、必要であるのは:
・フリーアルコールまたは保護基がキレートを形成することができる保護されたアルコール(アルキルエーテル)。
・キレート中間体を形成することができる金属(典型的な金属はZn(II)、Mg(II)、Ti(IV)等を含む)。
【0233】
この場合も、キレート中間体は、コンホメーション的に非常にリジッドであり、カルボニル基の2つのジアステレオ面を立体的に区別する[これはCramキレート化である]。
【0234】
【化30】
【0235】
【化31】
【0236】
II.B.4 Syn-1,2-ジオールのジアステレオ選択的形成
このためには以下が必要である:
・保護基の慎重な選択;キレート形成を防ぎ、非常にバルキーである保護基(大きなシリル保護基が理想的である)。
・立体制御を説明するためのFelkin-Anh T.S.を使用する。
【0237】
【化32】
【0238】
Felkin-Anh T.S.を参照にして立体および立体電子の議論を理解できることを確認せよ。
他の例には以下がある:
1.T. Takahashi, M. Miyazawa, J. Tsuji, Tetrahedron Lett., 1985, 26, 5139-5142
2.L. E. Overman, R. J. McCready, Tetrahedron Lett., 1982, 23, 2355-2358
【0239】
II. 他の還元方法
II.C.1 Raney-Nickel
・C-S結合の水素化分解において最も広く使用されている。
例を以下に示す:
【0240】
【化33】
【0241】
・アルケンおよびアルキンの水素添加にも使用されている。
【0242】
II.C.2 酸性媒体での亜鉛
ハロケトンの還元
・非常に穏やか
・高い化学選択性
例を以下に示す:
【0243】
【化34】
【0244】
ラクトン、アセテート、グリコシド結合およびアセタールの全てがそのままであることに注意せよ。
Q? 還元の機構は何か?ヒント:反応には1つの電子移動を含む。
1,4-エノンの還元
例を以下に示す:
【0245】
【化35】
【0246】
亜鉛エノラート中間体が存在することに着目せよ:この反応は、それゆえ、エノラートの位置選択的な形成のために使用することができる。
【0247】
Clemmenson還元
・カルボニル基(ケトンおよびアルデヒド中)の完全な還元のための古典的な方法。
・反応条件は非常に激しい。
例を以下に示す:
【0248】
【化36】
【0249】
II.D. 水素と遷移金属触媒を用いた水素添加
・典型的な触媒は、Pt、Pd、Rh、RuおよびNi(後期遷移金属)-微細に懸濁した固体として、またはチャコールまたはアルミナなどの不活性な支持体に吸着させて通常は使用される。
・反応は、金属の表面で生じる-不均一な触媒。
・水素は、syn付加工程において、あまり立体障害を有さない面上に常に移される。
例を以下に示す:
【0250】
【化37】
【0251】
・様々な均一触媒も有効である、例えば、Wilkinsonの触媒[(PPh3)3RhCl]。
・H2存在下での遷移金属触媒によって、カルボニル基は還元されるが、その速度は、通常は、オレフィンの還元よりも遅い(化学的選択性を可能とする)。
例を以下に示す:
【0252】
【化38】
【0253】
Q? どのようにして、ビシクロの形が、水素添加の立体選択性を制御するのか?
エナンチオ選択的な還元は、ここでは論じない。
【0254】
II.D.1 アルキンの部分的な還元
・(Z)-アルケンへの有用な経路である。
・過剰な還元を最小にするために、触媒を修飾する必要がある。
・Lindlarの触媒(Pd-CaCO3-PbO)が最も広く使用されている。PbOは、触媒部位として作用することによって、触媒の反応性を調節する。
・他の系には、キノリンを加えたPd-BaSO4が含まれる。
例を以下に示す:
【0255】
【化39】
【0256】
II.D.2 水素化分解
・ベンジルエーテルは、Pd/C/H2によって容易に切断され、フリーのアルコールおよびトルエンが提供される。
・切断は、穏やかで中性の条件下で行なわれる。
・結果として、ベンジルエーテルは、たびたび、アルコール保護基として使用される。
【0257】
【化40】
【0258】
II.E 溶解金属還元(ナトリウム/アンモニアまたはリチウム/アンモニア)
・非常に様々に用途があり、ここでは3つのみ論じる。
・反応は、1つの電子移動過程を介して進行する。
【0259】
II.E.i 位置特異的なエノラート形成
【0260】
【化41】
【0261】
エノラートは、アンビデントな求核試薬である-2つの異なる求電子性を有する中間体リチウムエノラートの反応の位置選択性と異なることを説明することができるべきである。
【0262】
II.E.2 Birch還元
芳香族環の部分的な還元
機構:
【0263】
【化42】
【0264】
・(比較的に制御された穏やかな)反応条件下で、反応をジヒドロ段階で停止する。
・還元の速度は、環の置換基によって影響を受ける-中間体は負電荷を有するので、速度は、驚くべきことではないが、電子吸引性置換基によって増加する。
・置換基は、プロトン化の位置にも影響する。
【0265】
【化43】
【0266】
これらの反応の位置化学を説明できることを確認せよ。
【0267】
アルキンの還元
・(E)-アルケンへの有用な経路である。
・ラジカルまたはラジカルアニオン中間体の平衡化によって、熱力学的により安定なアルケン(通常は(E)-アルケン)が合成することを確実なものとする。
機構:
【0268】
【化44】
【0269】
II.F フリーラジカル還元
・ハロゲン化アルキルを還元するのに使用する。
・一般的な水素原子供与体は水素化トリブチルスズ(Bu3SnH)である。
機構:
【0270】
【化45】
【0271】
【化46】
【0272】
【化47】
【0273】
Q? この反応の機構は何ですか?ヒント:反応の推進力は、C=O結合の形成である。
【0274】
要約
このセクションにおいては、カルボニル基を、化学選択的に、位置選択的に、そして立体選択的に還元する様々な方法について論じ、還元方法には、非常に様々な還元剤の開発が必要であることを理解してきた。様々な還元剤の機構を理解することによって、有力な反応官能基へと向かわせる反応性を予測するための良好な方法が可能である。また、不飽和化合物(オレフィン、アルキンおよび芳香族化合物)を還元する様々な方法についても論じ、このような反応の触媒としての、後期遷移金属の重要性を理解してきた。還元には、電子の獲得が必要である;金属は、電子の有力な供給源である。酸性媒体中の亜鉛およびNH3中のLiまたはNaが良好な還元系であることを理解してきた。フリーラジカル還元は、特別な地位を示す;特に、穏やかで中性の条件下で、ハロゲン化物および類似の系を還元するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1a】グリコールアルデヒドおよびホルムアルデヒドとタンパク質との反応。(a)還元をその後に行う、グリコールアルデヒド-タンパク質反応。
【図1b】(b)還元をその後に行う、提案されたホルムアルデヒド-タンパク質反応。
【図1c】(c)タンパク質のホルムアルデヒド-改変の詳細と最終生成物。
【図2】DNPH比色アッセイによって測定した反応性カルボニル含量。10μMのオボアルブミン(OVA)を、20mMのグリコールアルデヒド(GA)またはホルムアルデヒド(FA)と、PBS中で37℃で3時間処理した。幾つかのサンプルについては、アルデヒドとのインキュベーションの間に、NaCNBH3の添加によって還元も行った。
【図3a】非処理OVAまたは反応性カルボニルを付加したOVAで免疫したマウスにおける抗体応答。(a)IgG1応答:マウスを、25μgの非改変のOVA(OVA/PBS)またはグリコールアルデヒドで改変したOVA(OVA/GA)もしくはホルムアルデヒドで改変したOVA(OVA/FA)で免疫した。改変したOVAについては、NaCNBH3で還元し、付加したアルデヒド基を取り除いた。フロイント完全アジュバント中のOVA(OVA/FCA)を、ポジティブコントロールとして使用した。マウスを、PBSに溶かした25μgの非改変OVAを用いて、4週間後および2週間後に追加免疫し、血液を採取し、ネイティブなOVAでコートしたELISAプレート上でIgG1反応性をアッセイした。それぞれデータは、個々のマウスからの応答を示す。
【図3b】(b)前記(a)のように実施したIgG2a応答。
【図4a】反応性カルボニル-付加OVAに応答したサイトカイン遊離。(a)IL-5産生脾臓細胞。マウスを、PBSに溶かしたOVA(OVA/PBS)、または20mMのホルムアルデヒドで処理したOVA(OVA/FA)、または20mMのホルムアルデヒドで処理し更に還元したOVA(OVA/FA Red)、またはフロイント完全アジュバントに溶かしたOVA(OVA/FCA)を用いて免疫した。4週間後に、追加免疫用量を投与し(非改変OVA)、その2週間後に、免疫したマウスの脾臓から細胞を取り出し、96穴のELISPOTプレート内で24時間37℃でOVAを用いてパルスした。その後、スポットを成長させ、カウントした。それぞれのデータは、個々のマウスからの応答を示す。
【図4b】(b)IFN-γ産生脾臓細胞。
【図4c】(c)IL-4産生脾臓細胞。
【図5】DNPH ELISAアッセイによって測定したRSV(呼吸器合胞体ウィルス)の反応性カルボニルの含量。mock感染(mock)、加熱-不活性化RSV(HI-RSV)、ホルムアルデヒド-不活性化RSV(FI-RSV)およびホルムアルデヒド-不活性化-その後に-還元RSV(FI-RSV Re)を、ELISAプレート上でコーティングしたDNPHとインキュベートし、DNPH-タグ反応性カルボニル基を、抗-DNP抗体によって検出した。
【図6a】感染性RSVを用いたアレルギー誘発後におけるFI-RSVおよび還元したFI-RSVワクチンの効果。生きたRSVでのアレルギー誘発後に、毎日、マウスの体重を測定した。(a)FI-RSV-ワクチンマウスは、RSV誘発後3日間で、コントロールのPBS-接種群およびFI-RSV-Re群よりも有意に体重が減少したのに対し、HI-RSVおよびFI-mock群は中間に位置していた。
【図6b】(b)生きたRSVで誘発して4日後に、個別のマウスのBALにおける好酸球をカウントした。FI-RSV-Reワクチンマウスは、FI-RSV群に比較して、気管支肺胞洗浄液(BAL)における好酸球の数が減少したのに対し、PBSのみで免疫したコントロール群は、検出可能な好酸球は存在しなかった。HI-RSVおよびFI-mock群は、中間的な数の好酸球を有していた。
【図6c】(c) 生きたRSVで誘発して4日後に、個別のマウスのBALにおけるCD+8 T細胞をカウントした。FI-RSV免疫マウスと比較して、FI-RSV-ReおよびHI-RSVで免疫したマウスに由来するBALにおいては、有意に高いCD+8 T細胞数が存在していた。FI-mockおよびコントロールPBS群は、中間的な数のCD+8 T細胞を有していた。
【図7a】肺細胞によるサイトカイン産生。サイトカインは、RSVアレルギー誘発後4日目に、ELISPOTによって測定した。結果は、百万の細胞当りのサイトカインを産生する細胞の数として表される。(a)IFN-γ-分泌T細胞は、FI-RSV-還元およびHI-RSV群で、FI-RSV群よりも有意に高かった。FI-mock群は中間に位置し、PBSコントロール群は、FI-RSV群と似ていた。
【図7b】(b)IL-5分泌T細胞の数は、FI-RSV群で、FI-RSV-還元群よりも有意に高かった。HI-RSVおよびFI-mock群は、中間的な数のIL-5分泌T細胞を有し、PBSコントロール群は、FI-RSV-還元群と似ていた。
【図7c】(c)IL-4分泌T細胞の数は、FI-RSVで、FI-RSV-還元群よりも高かった。FI-mock群は、FI-RSV群と似ていたのに対して、HI-RSV群はFI-RSV-還元群と似ていた。PBSコントロール群は、最も少ない数のIL-4分泌T細胞を有していた。
【図7d】(d)FI-RSV群は、最も多い数のIL-10分泌T細胞を有していた:より少ない数のIL-10分泌T細胞は、FI-RSV-還元、HI-RSV、FI-mockおよびPBSで免疫した群から得られた。
【図8A】グリコールアルデヒドで処理したオボアルブミンまたはインフルエンザヘマグルチニン(HA)で免疫したマウスのTh2抗体アイソタイププロファイル。A-D:雌のCBAマウスを、20mMのグリコールアルデヒド(GA)で改変した、または、フロイント完全アジュバントと混合した、PBS中の25μgのオボアルブミン(A-B)またはインフルエンザHA(C-D)を用いて皮下経路で免疫した。マウスは、PBSで溶かしたネイティブな非改変のタンパク質を用いて、免疫後3週間後に追加免疫した。1/100に希釈した血清を、OVAまたはHAでコーティングしたELISAプレート上で、特異的なIgG1およびIgG2aについてアッセイし、抗-マウスIgG1またはIgG2a-HRPコンジュゲート抗体によって検出した。エラーバーは、各群における4匹のマウスから得られた平均値の±標準偏差を表す。(A)は、改変しなかった、20mMグリコールアルデヒドで改変した、または、FCAと混合したOVAに対するIgG1応答性を示す。
【図8B】(B)は、(A)のように処理したOVAに対するIgG2a応答性を示す。
【図8C】(C)は、(A)におけるOVAのように処理したインフルエンザHAに対するIgG1応答性を示す。
【図8D】(D)は、(A)におけるOVAのように処理したHAに対するIgG2a応答性を示す。
【図9】比色DNPHアッセイを用いたOVAへの反応性カルボニル付加の定量。OVAは、処理を行なわなかった(OVA/PBS)、または、2mM、10mMもしくは20mMのグリコールアルデヒド(GA)で処理し、または、その後に、前記したように10mMもしくは100mMのNaBH4で還元した。その後に、反応性カルボニルを、前記した比色DNPHアッセイを用いて測定した。
【図10】生のまたはローストしたピーナッツタンパク質抽出物の反応性カルボニル含量およびその還元除去。ピーナッツタンパク質を、プロトコールに記載したように(上記参照)抽出して可溶化させ、BCAタンパク質アッセイによって濃度をアッセイした。サンプルを、0.1M NaBH4の存在下で、2時間37℃で還元し、Microcon 10を用いて脱塩した。ピーナッツタンパク質上の反応性カルボニル基を測定するELISAを、5μgタンパク質/ウェルで、(前記に)記載したように実施した。
【図11a】市販のワクチンにおける反応性カルボニル含量。a)ワクチン調製物のタンパク質濃度は、BCAタンパク質アッセイによって測定した;ELISAでは、1μgタンパク質/ウェルを使用し、前記した方法によって、反応性カルボニル基を測定した。
【図11b】b)ここでは、市販のワクチンの1つが、多くの数の反応性カルボニルを含むことを示すが、水素化シアノホウ酸ナトリウムでの処理(前記した方法)によって、反応性カルボニル基の数を減少することができた。
【図12】ヘマグルチニン免疫:IgG2a/IgG1によって求めたTh1/Th2比率。Balb/cマウスを、ネイティブ形態の、グリコールアルデヒド(GA)で処理した、または、グリコールアルデヒドで処理しNaBH4還元したfluヘマグルチニン(HA)を用いて免疫した。3週間後、マウスを、ネイティブHAで追加免疫し、1週間後に血清を採取し、ネイティブHAに対するIgG1およびIgG2a応答性について試験した。IgG1応答性に対するIgG2a応答性の比率を、Th1/Th2バランスの指標として計算した。
【図13】MDAおよびHNEを用いたOVAの処理:反応性カルボニル基。マロンジアルデヒド(MDA)およびヒドロキシノネナール(HNE)の、反応性カルボニル基をOVAへ付加する能力、および、NaBH4による付加物の還元性を、DNPH ELISAによって評価した。
【図14a】MDAおよびHNE処理したOVAを用いた免疫の効果。Balb/cマウスを、マロンジアルデヒド(MDA)もしくはヒドロキシノネナール(HNE)のいずれかで改変した、アルデヒドで改変してNaBH4還元した、または、フロイント完全アジュバント(FCA)に溶かした30μgのOVAでs.c.注入した。3週間後、マウスを、30μgの非改変OVAでs.c.追加免疫した。血清を採取し、非改変OVAに対するIgGa/IgG2aおよびIgE応答性を、ELISAを用いて検出した(IgEグラフは、追加免疫前の応答を表す)。
【図14b】図14a参照。
【図14c】図14b参照。
【図15】MDAおよびHNE処理したOVAに応答したサイトカイン遊離。MDAもしくはHNEで改変したOVA、改変し還元したOVA、またはFCAに溶かしたOVAを用いて免疫したbalb/cマウスに由来する脾細胞を、OVAでin vitro刺激し、IL-5およびIFN-ガンマ分泌を、ELISPOTによってモニターした。
【図16】還元したOVAの抗原性および免疫原性。PBSまたはFCAに溶かした、非処理またはNaBH4還元OVA(25μg)を、balb/cマウスへとs.c.注入した。また、グリコールアルデヒド(GA)処理したOVA、ならびに、GA処理し還元したOVAを、同じ投与量で注入した。マウスを、3週間後にネイティブOVAで追加免疫し、ネイティブOVAに対するIgGaおよびIgG2a応答性について、血清をアッセイした。
【図17】ローストしたおよび生のピーナッツタンパク質の免疫原性。Balb/cマウスを、50μgの生の、生でNaBH4を用いて還元した、ドライローストした、および、ドライローストしNaBH4を用いて還元したピーナッツタンパク質で、s.c.免疫した。3週間後、生のピーナッツタンパク質に対するIgG1およびIgG2a応答性について、血清をアッセイした。
【図18】グルタルアルデヒドによる反応性カルボニル付加。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを改変する方法であって、
(i) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少することによって、Th2-型への偏りを低減させること;または
(ii) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加することによって、Th2-型への偏りを増大させること、
を含む方法。
【請求項2】
前記動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原が、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類もしくは核酸であるか、またはこれらを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗原またはその一部が、哺乳類細胞、植物細胞、細菌、ウィルス、真菌類または寄生虫に由来する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗原またはその一部が腫瘍または自己抗原に由来する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原がワクチンまたはワクチン成分である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって反応性カルボニル基の数を減少させる方法によって改変される前に、ホルムアルデヒド処理されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応性カルボニル基の数が減少した抗原が、食物中に存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応性カルボニル基の数が減少した食物が、加工食品、保存食品、ベビーフード、もしくはレディミールへ導入されているか、または、皮膚へ塗布する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応性カルボニル基の数が減少した食物が、ローストしたナッツである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗原に存在している反応性カルボニル基の数の減少が、還元剤を用いた還元によって達成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗原に存在している反応性カルボニル基の数の減少が、水素添加によって達成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗原に存在している反応性カルボニル基の数の増加が、アルデヒドまたはホルムアルデヒド処理、酸化またはメイラード反応によって達成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変したワクチンまたはワクチン成分。
【請求項15】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、請求項1、11または12に記載の方法による存在する反応性カルボニル基の数の減少の前に、ホルムアルデヒド処理されている、請求項14に記載のワクチンまたはワクチン成分。
【請求項16】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹、インフルエンザ、ヒトメタプネウマウィルス、ハンタウィルス(腎症候性出血熱(HFRS)の原因因子)、WEE、EEE、VEE(西洋、東洋およびベネズエラウマ脳炎)、脳炎ウィルス、炭疽菌、おたふく風邪、百日咳、ウィルス性肝臓炎、骨膜炎、ポリオ、肺炎、風疹、破傷風、ジフテリア、コロナウィルス感染のためのワクチンまたはワクチン成分である、請求項6もしくは7に記載の方法、または、請求項14もしくは15に記載のワクチンもしくはワクチン成分。
【請求項17】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって存在する反応性カルボニル基の数が増加するように改変されている、請求項14に記載のワクチンまたはワクチン成分。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された食物。
【請求項19】
前記食物がローストされたナッツである、請求項18に記載の食物。
【請求項20】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分、および、アジュバントを含む組成物。
【請求項21】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分、または、請求項20に記載の組成物、および、医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【請求項22】
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを低減するための、還元剤の使用。
【請求項23】
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを増大するための、アルデヒド、ホルムアルデヒド、酸化またはメイラード反応の使用。
【請求項24】
病気の予防または治療のための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分、または、請求項20に記載の組成物、または、請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
ワクチンまたはワクチン成分として使用するための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項20に記載の組成物、または、請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
患者を抗原に対して脱感作させるのに使用するための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変した、反応性カルボニル基の数を減少させた抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させたワクチンもしくはワクチン成分、または、請求項18もしくは19に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させた食物、または、請求項20に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させた組成物、または、請求項21に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させた医薬組成物の使用。
【請求項27】
抗原と、抗原上の反応性カルボニル基の数を減少することができる還元剤、または、抗原上の反応性カルボニル基の数を増加させるためのアルデヒド、ホルムアルデヒド、酸化もしくはメイラード反応を触媒する剤と、場合によっては、アジュバントおよび/もしくは医薬的に許容可能なキャリアとを含むパーツのキット。
【請求項28】
医薬において使用するための、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分。
【請求項1】
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを改変する方法であって、
(i) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を減少することによって、Th2-型への偏りを低減させること;または
(ii) 抗原に存在する反応性カルボニル基の数を増加することによって、Th2-型への偏りを増大させること、
を含む方法。
【請求項2】
前記動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原が、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類もしくは核酸であるか、またはこれらを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗原またはその一部が、哺乳類細胞、植物細胞、細菌、ウィルス、真菌類または寄生虫に由来する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗原またはその一部が腫瘍または自己抗原に由来する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原がワクチンまたはワクチン成分である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって反応性カルボニル基の数を減少させる方法によって改変される前に、ホルムアルデヒド処理されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応性カルボニル基の数が減少した抗原が、食物中に存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応性カルボニル基の数が減少した食物が、加工食品、保存食品、ベビーフード、もしくはレディミールへ導入されているか、または、皮膚へ塗布する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応性カルボニル基の数が減少した食物が、ローストしたナッツである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗原に存在している反応性カルボニル基の数の減少が、還元剤を用いた還元によって達成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗原に存在している反応性カルボニル基の数の減少が、水素添加によって達成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗原に存在している反応性カルボニル基の数の増加が、アルデヒドまたはホルムアルデヒド処理、酸化またはメイラード反応によって達成された、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変したワクチンまたはワクチン成分。
【請求項15】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、請求項1、11または12に記載の方法による存在する反応性カルボニル基の数の減少の前に、ホルムアルデヒド処理されている、請求項14に記載のワクチンまたはワクチン成分。
【請求項16】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、呼吸器合胞体ウィルス、麻疹、インフルエンザ、ヒトメタプネウマウィルス、ハンタウィルス(腎症候性出血熱(HFRS)の原因因子)、WEE、EEE、VEE(西洋、東洋およびベネズエラウマ脳炎)、脳炎ウィルス、炭疽菌、おたふく風邪、百日咳、ウィルス性肝臓炎、骨膜炎、ポリオ、肺炎、風疹、破傷風、ジフテリア、コロナウィルス感染のためのワクチンまたはワクチン成分である、請求項6もしくは7に記載の方法、または、請求項14もしくは15に記載のワクチンもしくはワクチン成分。
【請求項17】
前記ワクチンまたはワクチン成分が、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって存在する反応性カルボニル基の数が増加するように改変されている、請求項14に記載のワクチンまたはワクチン成分。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された食物。
【請求項19】
前記食物がローストされたナッツである、請求項18に記載の食物。
【請求項20】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分、および、アジュバントを含む組成物。
【請求項21】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分、または、請求項20に記載の組成物、および、医薬的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【請求項22】
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを低減するための、還元剤の使用。
【請求項23】
抗原を改変して、抗原に曝露した動物のTh1/Th2-型免疫応答のTh2-型への偏りを増大するための、アルデヒド、ホルムアルデヒド、酸化またはメイラード反応の使用。
【請求項24】
病気の予防または治療のための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分、または、請求項20に記載の組成物、または、請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
ワクチンまたはワクチン成分として使用するための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項20に記載の組成物、または、請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
患者を抗原に対して脱感作させるのに使用するための医薬の製造における、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変した、反応性カルボニル基の数を減少させた抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させたワクチンもしくはワクチン成分、または、請求項18もしくは19に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させた食物、または、請求項20に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させた組成物、または、請求項21に記載の、反応性カルボニル基の数を減少させた医薬組成物の使用。
【請求項27】
抗原と、抗原上の反応性カルボニル基の数を減少することができる還元剤、または、抗原上の反応性カルボニル基の数を増加させるためのアルデヒド、ホルムアルデヒド、酸化もしくはメイラード反応を触媒する剤と、場合によっては、アジュバントおよび/もしくは医薬的に許容可能なキャリアとを含むパーツのキット。
【請求項28】
医薬において使用するための、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって改変された抗原、または、請求項14から17のいずれか一項に記載のワクチンもしくはワクチン成分。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2007−511497(P2007−511497A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538962(P2006−538962)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004827
【国際公開番号】WO2005/049074
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(500165809)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (32)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004827
【国際公開番号】WO2005/049074
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(500165809)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (32)
【Fターム(参考)】
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