説明

施肥方法、液肥の製造方法、灌漑用水の改質方法及び各方法を実施する装置

【課題】乾燥地域で使用されるための保水力を有し且つ窒素による土壌汚染を防止できる液肥の製造方法とその施肥方法、および灌漑用水に十分な保水性を付与するための灌漑用水の改質方法を提供すること。
【解決手段】被発酵材に灌漑用水を加えた原料をメタン発酵処理し、メタン発酵液中の窒素を低減するために、メタン発酵液中のアンモニアを除去するアンモニア除去工程を有し、更に、アンモニア除去された発酵液に保水性を付与するための発酵液改質処理工程を設けることにより、土壌中の窒素汚染を低減し且つ保水性のある肥料を製造するとともに、灌漑用水の改質も行うことができることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌漑用水とメタン発酵を効果的に組み合わせて成る施肥方法、液肥の製造方法、灌漑用水の改質方法及び各方法を実施する装置に係り、特に、乾燥地域での利用に適した施肥方法、液肥の製造方法、灌漑用水の改質方法及び各方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下水、河川水、湖沼水等を灌漑用水として利用し農地に灌水する灌水システムが知られている。
しかし、乾燥地域(例えば、アメリカやオーストラリア等の一部地域)では、農地に、前述した灌漑システムにより灌水しても直ぐに農地が乾燥したり、乾燥のため水分中に含まれる塩分が濃縮され塩害が生じる状況にあった。そのため、農地の乾燥を防ぐために多量の水を使用しなければならなかった。しかし、乾燥地域では灌漑用水は貴重であるため、農地に灌水したときに蒸発しにくい(保水性のある)灌漑用水が求められていた。
【0003】
一方、従来より、生ごみ、家畜糞尿、下水処理汚泥等の有機性廃棄物を原料(被発酵材)として嫌気性処理であるメタン発酵処理を行い、その際に発生するバイオガスを回収してリサイクルエネルギーとして活用する技術が知られている(特許文献1)。そして、前述のメタン発酵処理を行って得られるメタン発酵液が、その液中に植物栄養成分を多量に含むことから農地に還元され肥料としての利用が検討されている。
【0004】
しかし、前記メタン発酵液を肥料としてそのまま農地還元すると以下のような問題があった。
該発酵液中には相当量の有機体窒素およびアンモニア態窒素が含まれ、発酵液中のケルダール窒素(有機体窒素とアンモニア態窒素の合計)の数値がかなり高くなっており、発酵液をこのまま肥料として農地に還元すると、前記有機体窒素およびアンモニア態窒素が土壌中の微生物によって硝酸イオンや亜硝酸イオンになり、これらの硝酸態窒素のうち植物に吸収されない過剰窒素分が地下水に入り込んで地下水を汚染(窒素汚染)するという問題が生じていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、例えば農地に灌漑と施肥を一度に(一遍に)行えると共に、灌漑された水の蒸発をしにくくすることができるようにすることにある。更には、施肥による窒素汚染も防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係る第1の態様は、灌漑用水を加えた被発酵材をメタン発酵する発酵工程と、前記発酵工程で生じる発酵液を農地に供給する発酵液供給工程と、を有することを特徴とするに係る施肥方法である。
本態様によれば、例えば農地への灌漑と施肥を一度に行うことができるので作業効率がよい。また、農地へ灌漑された水は、単なる水の状態ではなくメタン発酵液を成す水であるので、単なる水の状態に比べて蒸発しにくくなっている。すなわち、メタン発酵液の状態で農地に給水することによって、農地が乾燥しにくい状態を実現することができ、以って肥料の土壌中への浸透性、更には植物による吸収性を向上する効果が得られる。
【0007】
本発明に係る第2の態様は、第1の態様に係る施肥方法において、前記発酵工程の後にアンモニア除去工程を有することを特徴とする。
【0008】
メタン発酵工程を経た発酵液中には被発酵材中に含まれる有機態窒素が分解されたアンモニア態窒素が多く含まれているが、本態様によれば、そのアンモニア態窒素がアンモニア除去工程で除去されるので、発酵液中の窒素が低減されており、前記窒素汚染の虞が少ない肥料として発酵液を利用することができる。
【0009】
本発明に係る第3の態様は、第2の態様に係る施肥方法において、前記アンモニア除去工程後の発酵液の一部または全部を前記発酵工程に戻すことを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、被発酵材に加える灌漑用水の一部として、或は代わりとして前記アンモニア除去工程後の発酵液の一部または全部を利用するので、灌漑用水の使用量を節約することができる。乾燥地帯のような灌漑用水が貴重な地域では、特に効果がある。
【0011】
本発明に係る第4の態様は、第2の態様または第3の態様に係る施肥方法において、前記メタン発酵工程は60℃以上の温度で行われることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、60℃以上、好ましくは62℃、65℃、更には70℃でメタン発酵(超高温発酵)することにより、メタン発酵槽内で有機態窒素がアンモニア態窒素に分解する量が多くなる。よって後段のアンモニア除去工程で有機態窒素が分解して生じた多量のアンモニア除去することにより、発酵液中の有機体窒素およびアンモニア態窒素の量を低減でき、発酵液を肥料として農地に施肥した場合、前記窒素汚染を防止することができる。
【0013】
本発明に係る第5の態様は、第1の態様から第4の態様のいずれか1つに記載された態様に係る施肥方法において、メタン発酵工程後の発酵液に乳酸菌を添加することを特徴とする。
本態様によれば、乳酸菌を付与することによりメタン発酵液が改質されて保水性が向上するので、特に乾燥地域に発酵液を肥料として施肥する場合に効果がある。さらに、従来の灌漑用水と異なり保水効果を有する灌漑用水として利用できる。
【0014】
本発明に係る第6の態様は、灌漑用水を加えた被発酵材をメタン発酵する発酵槽と、前記発酵槽から得られた発酵液を肥料として農地に供給する供給装置と、を備えたことを特徴とする施肥装置である。
本発明によれば、第1の態様と同様の効果が得られる。
【0015】
本発明に係る第7の態様は、低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える第1工程と、第1工程を経た前記被発酵材に対してメタン発酵処理する第2工程と、前記第2工程で得られる発酵液からアンモニアを除去する第3工程と、を有することを特徴とする液肥の製造方法である。ここで、「低含水率の被発酵材」とは、それ自体の含水率では完全混合型の湿式メタン発酵処理に適さないレベルの被発酵材を意味し、例えば肉牛の糞尿(固形分濃度15重量%以上、含水率85%以下)等が挙げられる。
【0016】
本態様によれば、低含水率の被発酵材であっても灌漑用水を加えることにより流動性が向上し、メタン発酵の処理の効率が上がり、且つメタン発酵処理後の発酵液をアンモニア除去処理することによって、メタン発酵液中の窒素が低減された液肥を製造することができる。よって、当該液肥を使用した場合には、前記窒素汚染を防ぐ事ができる。
さらに、灌漑用水が従来の灌漑用水と異なり肥料的効果を有する灌漑用水としても利用できる。
【0017】
本発明に係る第8の態様は、低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える第1工程と、第1工程を経た前記被発酵材に対してメタン発酵処理する第2工程と、前記第2工程で得られる発酵液の保水性を向上させる発酵液改質処理工程を有することを特徴とする液肥の製造方法である。
【0018】
本態様によれば、低含水率の被発酵材であっても水を加えることにより流動性が向上し、メタン発酵の処理の効率が上がり、且つメタン発酵液が改質されて保水性が付与された液肥を製造できるので、特に乾燥地域の農地に施肥する場合に効果がある。一方、灌漑用水としては、従来の灌漑用水と異なり保水効果を一層有する灌漑用水として利用できる。
【0019】
本発明に係る第9の態様は、低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える第1工程と、第1工程を経た前記被発酵材に対してメタン発酵処理する第2工程と、前記第2工程で得られる発酵液からアンモニアを除去する第3工程と、前記第3工程で得られたアンモニア除去発酵液の保水性を向上させるアンモニア除去発酵液改質工程を有することを特徴とする液肥の製造方法である。
【0020】
本態様によれば、第8の態様の作用効果に加えて、メタン発酵処理後の発酵液をアンモニア除去処理することによってメタン発酵液中の窒素が低減され、更に保水性も有する肥料を製造することができる。
【0021】
本発明に係る第10の態様は、低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水添加装置と、前記灌漑用水添加装置によって灌漑用水が加えられた前記被発酵材に対してメタン発酵処理するメタン発酵槽と、前記メタン発酵処理で得られる発酵液からアンモニアを除去するアンモニア除去装置と、を備えたことを特徴とする液肥の製造装置である。
本態様によれば、第7の態様と同様の効果を有する液肥を製造することができる。
【0022】
本発明に係る第11の態様は、被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
【0023】
本態様によれば、灌漑用水は、メタン発酵処理を経ることにより、単なる水とは異なる性状に改質され(例えば粘性が増す)、水分が蒸発しにくくなっている。且つ当該灌漑用水中には植物栄養成分を多量に含んでいるので、従来の灌漑用水とは違って保水性と肥料性をもって改質された灌漑用水として利用することができる。
【0024】
本発明に係る第12の態様は、被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、前記第2改質工程で得られた改質された灌漑用水からアンモニアを除去する灌漑用水第3改質工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
【0025】
本態様によれば、メタン発酵処理後の改質された灌漑用水からアンモニア除去処理することによって、窒素が低減された灌漑用水に改質されるので、当該灌漑用水を農地に灌水した場合であっても前記窒素汚染を防ぐ事ができる。
【0026】
本発明に係る第13の態様は、被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、前記第2改質工程で得られた改質された灌漑用水の保水性を向上させる改質灌漑用水保水性付与工程を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
本態様によれば、灌漑用水は、保水性が付与される改質が行われることによって乾燥に強い灌漑用水に改質されているので、特に乾燥地域の農地への灌水については効果がある。
【0027】
本発明に係る第14の態様は、被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、前記第2改質工程で得られた改質された灌漑用水からアンモニアを除去する灌漑用水第3改質工程と、前記第3改質工程で得られたアンモニアが除去されたアンモニア除去灌漑用水の保水性を向上させる改質灌漑用水保水性付与工程を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
本態様によれば、第12の態様の効果と第13の態様の効果の双方の効果を得ることができる。
【0028】
本発明に係る第15の態様は、第11から第14のいずれか1つの態様に係る灌漑用水の改質方法において、前記被発酵材が低含水率の被発酵材であることを特徴とする。
本態様によれば、低含水率の被発材に灌漑用水を加えた場合であっても、改質された灌漑用水は、第11の態様から第14の態様のいずれか1つの態様と同様の効果を得ることができる。
【0029】
本発明にかかる第16の態様は、被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質装置と、前記第1改質装置で前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改発酵槽と、を備えること特徴とする灌漑用水の改質装置である。
本態様によれば、灌漑用水を、第11の態様から第15の態様のいずれか1つの態様の効果を有する灌漑用水に改質することができる。
【0030】
本発明に係る第17の態様は、被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、灌漑用水に前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を加えるメタン発酵液添加工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
【0031】
本態様によれば、灌漑用水は、メタン発酵処理により、粘性が増して水分が蒸発しにくくなっており、且つ灌漑用水中には植物栄養成分を多量に含んでいるので、従来の灌漑用水とは違って保水性と肥料性をもった改質された灌漑用水として利用することができる。
【0032】
本発明に係る第18の態様は、被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液からアンモニアを除去するメタン発酵液アンモニア除去工程と、灌漑用水に前記メタン発酵液アンモニア除去工程で得られたアンモニアが除去されたメタン発酵液を加えるアンモニア除去発酵液添加工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
【0033】
本態様によれば、メタン発酵処理後の改質された灌漑用水からアンモニア除去処理することによって、窒素が低減された灌漑用水に改質されるので、当該灌漑用水を農地に灌水した場合であっても前記窒素汚染を防ぐ事ができる。
【0034】
本発明に係る第19の態様は、被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、灌漑用水に前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を加えるメタン発酵液添加工程と、前記メタン発酵液添加工程で得られた灌漑用水添加メタン発酵液の保水性を向上させる保水性付与工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
【0035】
本態様によれば、灌漑用水は、保水性が付与されることによって乾燥に強い灌漑用水に改質されているので、特に乾燥地域の農地への灌水については効果がある。
【0036】
本発明に係る第20の態様は、被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液からアンモニアを除去するメタン発酵液アンモニア除去工程と、前記メタン発酵液アンモニア除去工程で得られたアンモニアが除去されたアンモニア除去発酵液に該アンモニア除去発酵液の保水性を向上させる保水性付与工程と、灌漑用水に前記保水性付与工程で保水性が付与された前記アンモニア除去発酵液加える保水性付与アンモニア除去発酵液添加工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
本態様によれば、第18の態様の効果と第19の態様の双方の効果を得ることができる。
【0037】
本発明に係る第21の態様は、被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵槽と、灌漑用水に前記被発酵材メタン発酵槽で得られたメタン発酵液を加えるメタン発酵液添加槽と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法である。
本態様によれば、灌漑用水を、第17から第20のいずれか1つの態様の効果を有する灌漑用水に改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の概略構成図。
【図2】本発明に係る第2の実施形態の概略構成図。
【図3】本発明に係る第3の実施形態の概略構成図。
【図4】本発明に係る第4の実施態様の概略構成図。
【図5】本発明に係る第5の実施態様の概略構成図。
【図6】A液(実施例1)、B液(実施例2)およびC液(比較例)の熱天秤法における重量減少ピーク時の温度を求めた重量減少曲線。
【図7】A液(実施例1)、B液(実施例2)およびD液((肉牛糞尿堆肥に灌漑用水を加え液)の温度と粘度の関係を表すグラフ。
【図8】アンモニア放散塔における放散塔内の温度と放散される出口アンモニア濃度との関係を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、第1から第4の各態様においては、液肥を製造する方法および装置と灌漑用水の改質方法および装置とは同一のラインにあるので、灌漑用水の改質方法および装置の説明は、液肥を製造する方法および装置に含めて説明する。
【0040】
図1は、本発明に係る第1の実施態様を表した概略図である。
本発明にかかる第1の実施態様は、被発酵材Mに灌漑用水Wを加えた被発酵材をメタン発酵処理して得られるメタン発酵液1’を最終的に液肥として農地へ施肥または改質された灌漑用水として灌水するラインL1と、被発酵材Mに灌漑用水Wを加えた被発酵材をメタン発酵処理して得られるバイオガスGをガスホルダー11で回収し最終的にガスエンジン12等のエネルギーとして使用するラインL2とを備えている。
【0041】
メタン発酵液1’を液肥として農地へ施肥または改質された灌漑用水として灌水するラインL1は、被発酵材Mに灌漑用水添加装置20を用いて灌漑用水Wを加える工程(第1工程または灌漑用水第1改質工程)を経た被発酵材を、撹拌翼2で撹拌しながらメタン発酵処理(第2工程または灌漑用水第2改質工程)するメタン発酵槽1、メタン発酵槽1で発酵処理されて得られたメタン発酵液1’を気液接触させて発酵液1’中のアンモニアを除去(第3工程または灌漑用水第3改質工程)するためのアンモニア除去装置であるアンモニア放散塔3、アンモニア放散塔3にメタン発酵液1’と気液接触させる気体(空気)を送り込むためのブロワー4、アンモニア放散塔3において放散されたアンモニアを脱臭装置8に導くためのアンモニア導出管7およびアンモニア放散塔3によってアンモニアが除去されたアンモニア除去発酵液3’を農地へ液肥として施肥するための液肥(または改質灌漑用水)供給装置6で構成されている。
【0042】
一方、被発酵材Mに灌漑用水添加装置20を用いて灌漑用水Wを加える工程を経た被発酵材Mをメタン発酵処理して得られるバイオガスGを、ガスエンジン12等のエネルギーとして使用するラインL2は、メタン発酵槽内1で発生したバイオガスGを導出するための導出管9、メタン発酵によってバイオガスと供に発生する硫黄化合物(例えば硫化水素、メルカプタン等)中の硫黄分を除去するための脱硫装置10、および脱硫後のバイオガスをガスエンジン12等に送り込むために、一時的にバイオガスを貯留しておくためのガスホルダー11から構成されている。
【0043】
なお、バイオガス導出管9を途中で分岐させて、メタン発酵槽1で発生したバイオガスGをアンモニア放散塔3で気液接触させるための気体としてアンモニア放散塔3に送り込むためのバイオガス導入管を設ける構成としてもよい。このような構成とすれば、わざわざブロワー4を設ける必要がなくなる。
【0044】
本態様でメタン発酵処理される被発酵材Mとしては、例えば畜産廃棄物、有機性汚泥、緑農廃棄物などが挙げられる。畜産廃棄物としては、例えば、家畜である豚、牛(搾乳牛・肉牛)、ニワトリ等の糞尿や、屠体および/またはその加工品が挙げられる。また、緑農廃棄物には家庭の生ゴミの他、産業廃棄物生ごみとして、農水産業廃棄物、食品加工廃棄物等が含まれる。特に、本態様では低含水率(固形物濃度15〜40重量%)の原料、例えば肉牛の糞尿等を処理する場合には優れている。
【0045】
また、被発酵材Mに加えられる灌漑用水W(改質される灌漑用水)としては、地下水、河川水、湖沼水等が挙げられる。本発明では、被発酵材Mに灌漑用水添加装置20を用いて灌漑用水Wを加えて、後段の工程を経ることにより、灌漑用水W自体が従来の単なる灌漑用水でなく、保水性を兼ねた灌漑用水兼液肥として改質される。ここで灌漑用水とは、田畑に水を引いて土地を潤すために用いられる水をいう。
【0046】
また、本発明は、被発酵材Mに灌漑用水Wを加える工程を有しているので、低含水率(固形物濃度15〜40重量%)の原料を使用する場合には、メタン発酵槽1内で流動性が上がり、原料自体が撹拌翼2によって十分に撹拌され、メタン発酵処理が効率よく行える効果を有している。
【0047】
メタン発酵処理工程を行うメタン発酵槽1は、絶対嫌気性のメタン発酵菌による活動を維持するために、空気を完全に遮断したタンクにより構成される。発酵槽1は固形物濃度(通常3〜40重量%の範囲)と発酵温度(通常、中温発酵では約32〜37℃、高温発酵では約52〜55℃、超高温発酵では約60〜70℃)によって、運転条件が異なってくる。例えば、本発明のように、灌漑用水を低含水率(固形物濃度15〜40重量%)の原料に加えて含水率が85重量%以上とした原料の場合は、湿式型の完全混合方式の発酵槽を使用することが好ましい。
【0048】
なお、発酵槽1には、必要に応じて保温のための加熱手段を設けておくことが好ましい。
上述した含水率が85%以上である原料の場合は、完全混合方式の発酵槽を用い、超高温メタン発酵菌(至適温度65℃)では滞留時間(Retention Time)を10日間程度、高温メタン発酵菌(至適温度55℃)では滞留時間(Retention Time)を15日間程度、中温メタン発酵菌(至適温度37℃)では滞留時間を25〜30日間程度とすることが可能である。
【0049】
ここで、例えば、灌漑用水Wを低含水率(固形物濃度15〜40重量%)の原料に加えて含水率が85重量%以上とした原料を用いてメタン発酵処理したメタン発酵液1’は、嫌気性微生物の菌体およびその代謝産物に由来する各種のアミノ酸(有機態窒素を多く含む)や有機酸などを多量に含んでいる。
【0050】
したがって、メタン発酵液1’中には有機態窒素が含まれていることになるが、メタン発酵液1’を、窒素分が比較的多い土壌で構成されている農地にこのまま散布すると、窒素が土壌中で硝酸イオンまたは亜硝酸イオンに変化し、地下水を汚染してしまうこととなる。そこで、有機態窒素をアンモニア態窒素に分解して、後段のアンモニア除去工程でアンモニアとして除去することによって、メタン発酵液1’中の窒素の量を低減するのが良い。そのため、メタン発酵槽1で行われる処理は、高温(50〜55℃)または超高温(60〜70℃)のメタン発酵処理であることが好ましい。60℃以上で行われる超高温処理であればなお好ましい。理由は、メタン発酵処理の温度が高い程、有機態窒素がアンモニア態窒素に分解される量が多くなるからである。勿論、中温メタン発酵であっても有機態窒素はアンモニア態窒素に分解されるため、メタン発酵槽1で行われる処理は中温メタン発酵であっても構わない。
【0051】
メタン発酵処理で得られたメタン発酵液1’はメタン発酵槽1からアンモニア除去装置3に導入される。本態様ではアンモニア除去装置としてアンモニア放散塔3が設けられている。
【0052】
本態様で使用するアンモニア放散塔3は、アンモニア放散塔3の上部から液体(メタン発酵液1’)を導入し、下部からブロワー4より気体(空気)を導入して液体と気体を対向させて接触するように構成したものである。勿論、アンモニア放散塔3は、気液接触できるように構成されていればよく、対向式に限られるものではない。例えばスプレー式、棚段式等が挙げられる。なお、アンモニア除去装置については、アンモニア放散塔3に限られるものではなく、例えば膜分離装置等などが使用可能である。
【0053】
アンモニア放散塔3内の温度は、メタン発酵処理して得られた発酵液1’中のアンモニアが適切に放散できる温度であればよく、約35〜80℃であることが好ましい。
【0054】
アンモニア放散塔3内で気液接触して放散したアンモニアは、アンモニア導出管7を通じて脱臭装置8に導入され脱臭される。脱臭装置8ではアンモニアやアンモニアとともに放散した悪臭成分(メルカプタン、スカトール等)の除去が行われる。
【0055】
一方、アンモニア放散塔3で気液接触してアンモニアが除去された発酵液3’は地下水汚染の原因となる窒素が低減され、アンモニア放散塔3から導出され液肥(または改質灌漑用水)供給装置6を通じて液肥(または改質灌漑用水)として農地に施肥(または灌水)される。本発明によって製造された液肥(発酵液3’)は発酵液であるため、ある程度の粘度(0〜50℃において100mPaS以上)を有しているので、水分が蒸発しにくくなっている。
【0056】
一方、被発酵材Mに灌漑用水Wを加える工程で使用された灌漑用水Wは、上述した液肥(発酵液3’)が製造される工程を経て、それ自体が従来の単なる灌漑用水でなく、灌漑した水の蒸発をしにくくする灌漑用水兼液肥として改質され、新たな機能を持った灌漑用水として利用することができる。
【0057】
なお、液肥(または改質灌漑用水)供給装置6としては、ノズルの口径が従来のものより大きいスプリンクラーや設置してある貯留槽に液肥を溜めてそこから農地へ施肥(灌水)するような固設型の装置が使用できる。また、液肥(または改質灌漑用水)をタンク等に入れて移動しながら農地へ施肥するような移動型の装置も使用できる。
【0058】
以上のように、本発明は、例えば、被発酵材が低含水率(固形物濃度15〜40重量%)のものであっても、被発酵材に灌漑用水を加え、メタン発酵処理されて得られたメタン発酵液をアンモニア除去工程に通すことによりメタン発酵液中の窒素を低減し、地下水への窒素汚染がない液肥を製造することが可能であり、また、その液肥を施肥する発明である。
【0059】
さらに、灌漑用水の改質の点から見れば、灌漑用水に肥料性および灌漑した水を蒸発しにくくするという機能を新たに付与する灌漑用水の改質方法及び装置の発明でもある。
【0060】
図2は、本発明に係るメタン発酵システムの第2の実施態様を表した概略図である。
第1の実施態様と相違する部分を説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0061】
本態様では、第1の実施態様において、被発酵材原料Mに灌漑用水とともにアンモニア放散塔3で気液接触してアンモニアが除去された発酵液3’の一部をアンモニア除去発酵液導出管3’’を通じて加えることができるように構成したものである。
これにより、乾燥地域では貴重な灌漑用水を節約することが可能となる。
【0062】
図3は、本発明に係るメタン発酵システムの第3の実施態様を表した概略図である。
第1の実施態様と相違する部分を説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0063】
本態様では、アンモニア除去工程を経てアンモニア除去されたアンモニア除去発酵液3’を、液肥(または改質灌漑用水)供給装置6を用いて農地へ施肥(または灌水)する前に、アンモニア除去発酵液3’を改質するために発酵液改質処理工程(または改質灌漑用水保水性付与工程)を設けた態様である。
【0064】
発酵液改質処理工程では、発酵液改質処理装置5によって、保水性が付与される。
特に、乾燥地域においては、肥料も灌漑用水も保水性が要求される。そのため、本態様は、アンモニア除去発酵液3’をそのまま施肥(または灌水)せずに、発酵液改質処理装置5で保水性を付与してから液肥(または改質灌漑用水)供給装置6を用いて農地へ施肥(または灌水)する態様である。
【0065】
本態様における、発酵液改質処理工程ではアンモニア除去発酵液3’に乳酸を加え保水性を向上させている。添加する乳酸の量については、要求される保水性に応じて適宜調整すればよい。
この発酵液改質処理工程により、本発明で製造される液肥には保水性が付与され、その一方では、被発酵材Mに灌漑用水Wを加える工程で使用された灌漑用水Wは、液肥および保水性という新たな機能を有する改質された灌漑用水として使用できる。
【0066】
図4は、本発明に係るメタン発酵システムの第4の実施態様を表した概略図である。
第2の実施態様と相違する部分を説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0067】
本態様は第2の態様に、アンモニア除去工程を経てアンモニア除去されたアンモニア除去発酵液3’を、液肥(または改質灌漑用水)供給装置6を用いて農地へ施肥(または灌水)する前に、アンモニア除去発酵液3’を改質するために発酵液改質処理工程を設けた態様である。
発酵液改質処理工程では、発酵液改質処理装置5によって、保水性が付与される。
【0068】
本態様では、乾燥地域では貴重な灌漑用水を節約することが可能となるとともに、第3の態様と同様に、施肥される液肥には保水性が付与されるとともに、灌漑用水Wは改質されて、液肥という肥料的な機能、灌漑した水を蒸発しにくくする機能および保水性という機能を有する灌漑用水として使用できる。
【0069】
図5は、本発明にかかる灌漑用水の改質方法及び装置に関する実施態様を表したものである。
既に前述したように、第1の実施態様から第4の実施態様においても、従来の灌漑用水に新たな機能(肥料としての機能および保水性)を付与して灌漑用水の改質を行うことができるが、本態様では、第1の実施態様から第4の実施態様以外の方法で灌漑用水の改質を行う方法として、(1)〜(4)の方法を挙げた。
【0070】
(1)の方法は、メタン発酵液添加槽21にて、灌漑用水Wにメタン発酵処理されてメタン発酵槽1から導出されるメタン発酵液1’を加えて灌漑用水Wを改質し、改質された灌漑用水を改質灌漑用水供給装置6を用いて農地に灌水するものである。この方法で改質される灌漑用水は、メタン発酵液が灌漑用水と親和性があり、かつ所定の粘度(0〜50℃において100mPaS以上)を有しているため水分が蒸発しにくく乾燥に強い。さらに、メタン発酵液中には有機態窒素が多く含まれる。従来ならば有機態窒素は土壌中の窒素汚染の原因となるが、土壌自体が痩せていて窒素が十分にない土地において、本方法で改質された灌漑用水を散布すれば、植物が窒素分を吸収し窒素による地下水汚染は発生しない。
【0071】
つまり、本方法で得られた改質された灌漑用水は、乾燥地帯で土地が痩せており植物が育つのに十分な窒素分が土壌中にない地域の農地の灌漑用水として適している。
【0072】
(2)の方法は、アンモニア除去発酵液添加槽21’にて、灌漑用水Wにメタン発酵液1’をアンモニア放散塔3で気液接触させてアンモニア除去したアンモニア除去発酵液3’を加えて灌漑用水Wを改質し、改質された灌漑用水を改質灌漑用水供給装置6を用いて農地に灌水するものである。この方法で改質された灌漑用水は、(1)の方法で得られた灌漑用水と同様、発酵液であることから灌漑用水との親和性があり、所定の粘度を有しているため(0〜50℃において100mPas以上)水分が蒸発しにくい。さらにアンモニア除去発酵液3’はアンモニアが除去されているため、全窒素量が低減されており本方法で改質された灌漑用水で農地に灌水しても窒素で地下水が汚染されることはない。
【0073】
つまり、本方法で得られた改質された灌漑用水は、乾燥地帯で植物が育つのにある程度の窒素分が土壌中に存在している地域の農地の灌漑用水として適している。
【0074】
(3)の方法は、改質発酵液添加槽21’’にて、灌漑用水Wにアンモニア除去発酵液3’を発酵液改質処理装置5において乳酸を加えて処理(保水性付与工程)した改質発酵液を加えて灌漑用水Wを改質し、改質された灌漑用水を改質灌漑用水供給装置6を用いて農地に灌水するものである。
【0075】
つまり、この方法で改質された灌漑用水は、改質発酵液中に保水性を向上させる乳酸が添加されているので、(1)、(2)で改質された灌漑用水を使用する地域よりもより、乾燥が激しい地域の農地の灌漑用水として適している。
【0076】
(4)の方法は、(1)で改質された灌漑用水を発酵液改質処理装置5において乳酸を加える処理を行ってさらに灌漑用水Wを改質し、改質灌漑用水供給装置6を用いて灌漑用水として農地に灌水するものである。すなわち(1)の方法で得られた改質された灌漑用水にさらに保水性を付与したものである。
【0077】
よって、この方法で改質された灌漑用水は、乾燥が激しい地帯で且つ土地が痩せており植物が育つのに十分な窒素分が土壌中にない地域の農地の灌漑用水として適している。
【0078】
第5図を参照にして、本発明の灌漑用水の改質方法を説明したが、本発明の特徴は、従来は農地に灌漑するためだけに使用されていた灌漑用水に、肥料的な機能、灌漑した水を蒸発しにくくする機能および保水性という機能を新たに持たせたことにある。
【0079】
また、それだけではなく、方法の(1)〜(4)に示したように農地の土壌の種類や農地の気候条件に応じて、最も適した改質された灌漑用水を選択できるというという、いわば「灌漑用水の種類の選択機能」が加わった。つまり、従来は地域や土壌の種類等に関係なく、農地に水を撒くためだけの灌漑用水であったものが、本発明によって、農地の土壌の種類や農地の気候条件に応じて灌漑用水を選択することも可能となった。
【0080】
〔実施例1〕
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
固形分約18%の肉牛の糞尿(低含水率の被発酵材)約10kgに灌漑用水約16Lを加えて(含水率93%)、10Lのメタン発酵槽を用いて、高温メタン発酵処理(65℃)を行った。
【0081】
次に、メタン発酵処理して得られたメタン発酵液(消化液)の一部を、内部が60℃に維持された充填塔方式のアンモニア放散塔の上部に注入し、アンモニア放散塔の下部からブロワーで導入した空気と気液接触させて、アンモニア除去処理を行った発酵液(液肥)を得た(A液)。この発酵液を、熱天秤(理学株式会社製:TG−8101DサーモフレックスTAS300)を使用した熱天秤法にて保水性発現試験(温度と重量減微分値との関係を求める試験)を行った。
【0082】
〔実施例2〕
実施例1と同様にアンモニア除去処理を行った発酵液(液肥)に乳酸菌製剤0.2〜0.3g/L加えて改質発酵液(液肥)を得た(B液)。その後、実施例1と同様に熱天秤法にて保水性発現試験(温度と重量減微分値との関係を求める試験)を行った。
【0083】
〔比較例〕
比較例として、微細岩石粉約10gに灌漑用水100mL含ませた(約10重量%になるように添加した)微細岩石粉含有液(含水率93%)を得た(C液)。実施例1、2と同様に熱天秤法にて保水性発現試験(温度と重量減微分値との関係を求める試験)を行った。
【0084】
実施例1(A液)、2(B液)及び比較例(C液)の熱天秤法によって測定された結果を図6に示す。
図6は、A〜C液についての熱天秤法における重量減少ピーク時の温度を求めた重量減少曲線である。たて軸に重量微分値、横軸に温度が目盛られている。
【0085】
C液とA液を比較するとC液の重量減少ピーク時の温度は約100℃で、A液の重量減少ピーク時の温度は約115℃となっている。よって、A液はC液よりも高い温度まで保水性を有していることが確認できる。
【0086】
微細岩石粉含有液は微細岩石粉と水との親和性が弱いために保水力が弱く、温度が水の沸点近くなると水分を保持しきれなくなるのが原因である。
【0087】
一方、A液は被発酵材である肉牛の糞尿に灌漑用水を加えてメタン発酵することにより、メタン発酵により得られたメタン発酵液中の成分とその中に含まれている灌漑用水との親和性が高いため、C液よりも保水性の大幅な向上がみられた。
【0088】
さらに、A液とB液を比べるとB液の重量減少ピーク時の温度は135℃でありA液のそれよりも高くなっている。これは乳酸を加えることによって保水性が上がる効果があることを示している。
【0089】
また、A液およびB液の肥料成分の化学分析結果は、植物に必要な3大栄養素である窒素、リン酸、カリウムは、それぞれ0.5重量%、0.3重量%、0.5重量%の割合で存在しており、A液およびB液は主要3成分の揃った肥料として使用できることが確認された。
【0090】
以上より、本発明は保水性を有する液肥の製造方法であるとともに、その液肥を灌漑用水として利用もできることから、従来の灌漑用水に保水性および肥料となる機能を付与した灌漑用水を改質する発明でもある。
【0091】
図7は、A、BおよびD(肉牛糞尿堆肥に灌漑用水を加え含水率を93%とした液)の各液の粘度と温度の関係をあらわしたグラフである。なお粘度は振動板型粘度計によって測定した。
【0092】
乾燥地帯では、日中では日差しが強く土壌表面は50℃を超える場合もある。そのため、灌漑用水として使用する場合は、所定の粘度を有することによって、水分の蒸発を抑制することができる。そこで、本発明は、被発酵材である肉牛糞尿と灌漑用水を加えてメタン発酵処理し、当該処理によって改質した灌漑用水を得ることで所定の粘度を持たせて、灌漑用水に水の蒸発をしにくくするという新たな機能を付与している。
【0093】
A液およびB液においては、土壌表面の温度が50℃になった場合でも粘度が100mPaS以上を維持しており、単に肉牛糞尿堆肥に灌漑用水を加えた液を農地に灌水したよりは、土壌の乾燥を防ぐことができる。
【0094】
上述したように、実施例では肉牛の糞尿に灌漑用水を加えてメタン発酵することで灌漑用水に粘度を付与し、灌水した場合には水の蒸発をしにくくしている。そして、さらに、メタン発酵で得られたメタン発酵液は、液中のアンモニアがアンモニア除去工程において除去され、アンモニア除去された発酵液は発酵液改質処理工程において乳酸を添加することにより、保水性が向上し、且つ窒素による地下水汚染が発生しない灌漑用水として使用することができる。
【0095】
図8は、アンモニア放散塔における放散塔内の温度と放散される出口アンモニア濃度(アンモニア放散塔の出口での濃度)との関係を示したものである。これによると、温度が高いほど放散されるアンモニアの量が多いことがわかる。
【0096】
従って、窒素分がある程度土壌中に存在する農地では、アンモニア放散塔内の温度を高くしてアンモニアを多く放散させて、メタン発酵液中のトータル窒素の量を減らした状態で、農地に施肥あるいは灌水することができるので窒素による地下水汚染を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、十分な保水力を有し且つ窒素による土壌汚染を防止できる液肥の製造方法とその施肥方法、および液肥を製造する際に使用する灌漑用水の改質方法に関するものであり、特に乾燥地域の農地に施肥する場合や灌水する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 メタン発酵槽、 1’ メタン発酵液、 2 撹拌翼、 3 アンモニア放散塔、 3’ アンモニア除去発酵液、 3’’ アンモニア除去発酵液導出管、 4 ブロワー、 5 発酵液改質処理装置、 6 液肥(改質灌漑用水)供給装置、 7 アンモニア導出管、 8 脱臭装置、 9 バイオガス導出管、 10 脱硫装置、 11 ガスホルダー、 12 ガスエンジンコジェネレーション、 21 メタン発酵液添加槽、 21’ アンモニア除去発酵液添加槽、 21’’ 改質発酵液添加槽
【先行技術文献】
【特許文献】
【0099】
【特許文献1】特開平10−235317号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌漑用水を加えた被発酵材をメタン発酵する発酵工程と、
前記発酵工程で生じる発酵液を農地に供給する発酵液供給工程と、を有することを特徴とする施肥方法。
【請求項2】
請求項1に記載の施肥方法において、
前記発酵工程の後にアンモニア除去工程を有することを特徴とする施肥方法。
【請求項3】
請求項2に記載の施肥方法において、
前記アンモニア除去工程後の発酵液の一部または全部を前記発酵工程に戻すことを特徴とする施肥方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記メタン発酵工程は60℃以上の温度で行われることを特徴とする施肥方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載された施肥方法において、
メタン発酵工程後の発酵液に乳酸菌を添加することを特徴とする施肥方法。
【請求項6】
灌漑用水を加えた被発酵材をメタン発酵する発酵槽と、
前記発酵槽から得られた発酵液を肥料として農地に供給する供給装置と、を備えたことを特徴とする施肥装置。
【請求項7】
低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える第1工程と、
第1工程を経た前記被発酵材に対してメタン発酵処理する第2工程と、
前記第2工程で得られる発酵液からアンモニアを除去する第3工程と、を有することを特徴とする液肥の製造方法。
【請求項8】
低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える第1工程と、
第1工程を経た前記被発酵材に対してメタン発酵処理する第2工程と、
前記第2工程で得られる発酵液の保水性を向上させる発酵液改質処理工程を有することを特徴とする液肥の製造方法。
【請求項9】
低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える第1工程と、
第1工程を経た前記被発酵材に対してメタン発酵処理する第2工程と、
前記第2工程で得られる発酵液からアンモニアを除去する第3工程と、
前記第3工程で得られたアンモニア除去発酵液の保水性を向上させるアンモニア除去発酵液改質工程を有することを特徴とする液肥の製造方法。
【請求項10】
低含水率の被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水添加装置と、
前記灌漑用水添加装置によって灌漑用水が加えられた前記被発酵材に対してメタン発酵処理するメタン発酵槽と、
前記メタン発酵処理で得られる発酵液からアンモニアを除去するアンモニア除去装置と、を備えたことを特徴とする液肥の製造装置。
【請求項11】
被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、
前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項12】
被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、
前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、
前記第2改質工程で得られた改質された灌漑用水からアンモニアを除去する灌漑用水第3改質工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項13】
被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、
前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、
前記第2改質工程で得られた改質された灌漑用水の保水性を向上させる改質灌漑用水保水性付与工程を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項14】
被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質工程と、
前記第1改質工程を経た前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改質工程と、
前記第2改質工程で得られた改質された灌漑用水からアンモニアを除去する灌漑用水第3改質工程と、
前記第3改質工程で得られたアンモニアが除去されたアンモニア除去灌漑用水の保水性を向上させる改質灌漑用水保水性付与工程を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項15】
請求項11から請求項14に記載されたいずれか1項の灌漑用水の改質方法において、前記被発酵材が低含水率の被発酵材であることを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項16】
被発酵材に灌漑用水を加える灌漑用水第1改質装置と、
前記第1改質装置で前記灌漑用水が加えられた灌漑用水添加被発酵材に対しメタン発酵処理を行い改質された灌漑用水を得る灌漑用水第2改発酵槽と、を備えることを特徴とする灌漑用水の改質装置。
【請求項17】
被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、
灌漑用水に前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を加えるメタン発酵液添加工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項18】
被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、
前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液からアンモニアを除去するメタン発酵液アンモニア除去工程と、
灌漑用水に前記メタン発酵液アンモニア除去工程で得られたアンモニアが除去されたメタン発酵液を加えるアンモニア除去発酵液添加工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項19】
被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、
灌漑用水に前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を加えるメタン発酵液添加工程と、
前記メタン発酵液添加工程で得られた灌漑用水添加メタン発酵液の保水性を向上させる保水性付与工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項20】
被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵工程と、
前記被発酵材メタン発酵工程で得られたメタン発酵液からアンモニアを除去するメタン発酵液アンモニア除去工程と、
前記メタン発酵液アンモニア除去工程で得られたアンモニアが除去されたアンモニア除去発酵液に該アンモニア除去発酵液の保水性を向上させる保水性付与工程と
灌漑用水に前記保水性付与工程で保水性が付与された前記アンモニア除去発酵液加える保水性付与アンモニア除去発酵液添加工程と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質方法。
【請求項21】
被発酵材をメタン発酵する被発酵材メタン発酵槽と、
灌漑用水に前記被発酵材メタン発酵槽で得られたメタン発酵液を加えるメタン発酵液添加槽と、を有することを特徴とする灌漑用水の改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−202427(P2010−202427A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47314(P2009−47314)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】