説明

既存建物の外フレーム式の耐震補強構造

【課題】 本発明は、外フレームの耐力を容易に高めることができる耐震補強構造を提供すること。
【解決手段】 既存建物の外側に配置される複数のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11および複数のプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12をPC鋼材により組立て構成される外フレーム14により既存建物を耐震補強する耐震補強構造において、外フレーム14の一部に、プレキャストコンクリート製ブレース1aが組み込まれていることを特徴とする耐震補強構造。また、プレキャストコンクリート製ブレース1aが外フレーム15の構面内に位置するように組み込まれて、前記外フレーム14が補強されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の外部にプレキャストプレストレスコンクリート部材で新しい補強外フレームを構築し、既存建物とはせん断力伝達部材で接合する外フレーム式の耐震補強構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物の耐震改修工法は、大別すると次の(1)〜(10)がある。
【0003】
(1)耐震壁の増設(増設壁、増し打ち壁、開口部閉塞壁、そで(袖)壁等を構築する)。(2)鉄骨枠組補強(鉄骨ブレース、鋼板壁等を構築する)。(3)外付け鉄骨補強(外付けブレースを構築する)。(4)外部架構増設補強(コアの増設、メガ架構の増設、バットレスの増設)。(5)RC巻き立て補強(柱等に溶接金網・フ―プ筋などを配設)。(6)鋼板補強(柱等を角形鋼管、円形鋼板などで補強)。(7)連続繊維補強(柱等をシート貼り、成形板で補強)。(8)免震構造化(基礎免震、地下免震、中間免震など)。(9)制振機構の組込み(AMD、TMD,金属ダンパー、オイルダンパー等)。(10)その他建物損傷集中の回避(Fesの改善、壁スリット、破壊モードの改善)等があり、建物の用途、規模、構造、使用性、施工性などで選択されているのが現状である。
【0004】
(1)〜(10)の耐震補強工法のうち、既存建物を使用(居住)状態で補強施工可能なのは、(3)外付け鉄骨補強と、(4)外部架構増設補強であり、本発明は(4)の系列に属するものである。この種の従来例として、特許第3369387号公報(特許文献1)、特開平10−18639(特許文献2)などがある。
【0005】
特許第3369387号に開示の技術は、既存建物と干渉しない領域にこれとは独立し、既存建物の構面外周と平行で、既存建物の構面外に位置する平面架構からなる耐震架構、もしくは床が伴わない立体架構の耐震架構を、その耐震架構が水平力を分担するように構築するもので、これにより既存建物に構造的改良を加えることなく、当該既存建物の架構に応力が集中することを回避するものである。
【0006】
前記の従来技術は、公知の外フレーム補強工法に属する技術で具体的構造は開示されていないが、耐震架構なる記載から鋼材をトラスに組んで構築されるものと考えられる。
【0007】
特開平10−18639号に開示の技術は、建物の外周面に位置する柱、梁に沿って、補強柱および補強梁とこれらの間に架設された補強ブレースからなる補強フレームを延在させるもので、既存の外フレーム補強構造を改良するものであり、X字状の前記補強フレームを全体にわたり千鳥状に配置すること、および建物の側面全体または壁面中心部から側端部に向けて漸次高くなるように構成するものである。これによる作用効果は、大きな水平外力により建物の側端部に位置する柱に作用する軸力を、従来の補強構造に比較して低減することや、建物の中心部における強度的な無駄を小さくすることなどである。
【0008】
このように、既存建物の外部に新たにフレームを組み耐力を確保している。また、従来、耐震補強構造に利用できる技術として、コンクリートブレースをコンクリート柱とコンクリート梁の構面の外側に配置して補強する構造も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3369387号公報
【特許文献2】特開平10−18639号公報
【特許文献3】特許第3096664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の場合は、外フレームの全体にブレースを密に配置形態であるので、低耐震性の既存建物に対して外フレームが高剛性となり、地震時に既存建物と外フレームとの接合部の既存建物側で破壊される恐れがあり、既存建物と外フレームとの剛性のバランスが図られていないという問題がある。
【0010】
また、新たに外フレームを増設する場合、床面積の増加による確認申請に伴う制約、敷地の条件で新たな外フレームの増設が出来ないなど、様々な制約を受け必要なフレームの増設を行えない事がある。
【0011】
そこで、本発明は、既存建物と外フレームとの剛性のバランスを容易に図ることができる耐震補強構造を提供することを目的とする。
また、本発明は、設計条件、敷地条件など様々な条件で充分な柱・梁による外フレームによる耐震補強が出来ない場合に、柱・梁による外フレームの耐力を容易に高めることができる耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明の耐震補強構造においては、既存建物の外側に新設梁を介して配置される複数のプレキャストコンクリート製補強柱ユニットおよび複数のプレキャストコンクリート製補強梁ユニットをPC鋼材により組立て構成される外フレームにより既存建物を耐震補強する耐震補強構造において、外フレームの一部に、プレキャストコンクリート製ブレースが組み込まれて外フレームが補強されていることを特徴とする。
第2発明では、第1発明の耐震補強構造において、プレキャストコンクリート製ブレースが外フレームの構面内に位置するように組み込まれて、前記外フレームが補強されていることを特徴とする。
第3発明では、第2発明の耐震補強構造において、プレキャストコンクリート製ブレースの一端部とコンクリート製補強梁ユニットの接合部において、前記各コンクリート部材の対抗面にはそれぞれ滑り部材が定着され、前記滑り部材どうしが当接するように前記各コンクリート部材は配置され、前記各滑り部材と前記各コンクリート部材とには貫通する孔が設けられ、その孔には充填材が注入されること無く緊張材が貫通されて、その緊張材に緊張力が導入されて、前記接合部が圧着されていることを特徴とする。
第4発明では、第1発明から第3発明のいずれかの耐震補強構造において、プレキャストコンクリート製ブレースは、その他端部が、プレキャストコンクリート製補強梁ユニットの断面と同形状とされたブロック状部分とされ、プレキャストコンクリート製補強梁ユニットに直列に接続する梁の一部を兼ねたプレキャストコンクリート製ブレースとされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によると、外フレーム全体にブレースを配置する場合に比べて、外フレームの一部に部分的にプレキャストコンクリート製ブレースを組み込めばよいので、既存建物と剛性のバランスを図りながら、経済的に外フレームを補強して耐力を高めることができ、しかも既存建物の剛性に適した耐震性に高めることができる。
第2発明によると、プレキャストコンクリートコンクリート製ブレースを外フレームの構面内に位置するように組み込むので、外フレームを増設する場合の床面積の増加による確認申請に伴う制約を受けることなく、敷地の条件で新たな外フレームの増設が出来ない場合等、必要なフレームの増設を行えない場合でも、外フレームを増設することなく、外フレームの耐力を容易に高めることができる。
第3発明によると、プレキャストコンクリート製ブレースの一端部の接合部は、コンクリート製補強梁ユニットの下面側ですべり可動可能な圧着された接合部とされているので、地震時に既存建物から外フレームに水平力が作用した場合、すべり可動部の摺動により摩擦熱に変換してエネルギーを吸収して、既存建物の耐震性を高めることができる。
また、すべりを生じるため、プレキャストコンクリート製ブレースに作用する最大荷重が明確なので、耐震設計が容易になる。
第4発明によると、プレキャストコンクリート製ブレースの他端部のブロック状部分をPC鋼材により確実に固定することができ、また、プレキャストコンクリート製ブレースにブロック状部分以外に別個に固定するための部分を設けることなく、しかも梁の一部を兼ねることができるので、プレキャストコンクリート製補強梁ユニットを短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明において使用されるプレキャストコンクリート製ブレースについて説明すると、図13および図14の(a)(b)の各図は、本発明において使用されるプレキャストコンクリート製ブレース1a,1bの正面図および側面図を示すものであって、前記プレキャストコンクリート製ブレース1a,1bは、そのブレース本体2の一端部(上端部)に上部ブロック3を備えていると共に、他端部(下端部)に下部ブロック4を備えている。プレキャストコンクリート製ブレース1a,1bは、上下の梁幅内および左右の柱幅内に収まる寸法にされて、構面内に収まるようにされている。
【0015】
前記の上部ブロック3と、下部ブロック4と、これらを接続する斜材としてのブレース本体2には、これらの内部に配筋されると共にこれらに渡って埋め込み配置されているPC鋼材5の端部が上部ブロック3と下部ブロック4の端部付近で緊張定着されてプレストレスが導入され一体化されている。
【0016】
図13および図14に示すプレキャストコンクリート製ブレース1a,1bの上部ブロック3の上端部の凹部には、その凹部表面にモルタルを介して定着され、滑り部材として機能する石板6が固定されている。また、前記上部ブロック3には、前記石板6と上部ブロック3の裏面に渡って貫通した縦PC鋼材挿通用孔7が、石板6の各楕円状孔と上部ブロック3本体に埋め込み配置されたシースにより形成されている。
【0017】
また、前記上部ブロック3の一側面(対向されて内面側となる面)には、上下方向に間隔をおくと共に左右方向に連続した凹凸部8aが形成されている。前記の凹凸部8aは、対向配置される他方のプレキャストコンクリート製ブレース1aの凹凸部8bに嵌合当接して上下方向のずれ止めが図られ、上下方向の一体化が図られる。なお、対向する他方の凹凸部8bの凹凸は、前記凹凸部8aの凹凸と半ピッチ位置がずれて、凹凸の噛み合いが可能にされている。
【0018】
図13に示すプレキャストコンクリート製ブレース1aの下部ブロック4は、梁の一部として組み込む形態で、前記下部ブロック4には、左右方向に貫通するようにシースが埋め込み配置されると共に上下方向に間隔をおいて平行に埋め込み配置されて、複数の横PC鋼材挿通用孔9が形成されている。
【0019】
図14に示すプレキャストコンクリート製ブレース1bの下部ブロック4は、地中梁等に固定するために、複数の縦PC鋼材挿通用孔10がシースの埋め込み配置により形成されている。また、上部ブロック3の一側面(対向されて内面側となる面)は、前記と同様凹凸部8aが形成され、対向配置されるプレキャストコンクリート製ブレース1bの凹凸部8bに嵌合当接して上下方向のずれ止め一体化が図られる。
【0020】
図6および図7には、図13および図14に示すプレキャストコンクリート製ブレース11a,1bを使用すると共にプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11およびプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12を使用して、地中梁からなる基礎梁13上に補強柱26および補強梁27を備えた耐震補強用の外フレーム14を組立て、外フレーム14と鉄筋コンクリート製の既存建物15との新設梁48を介した連結を図り、既存建物15を耐震補強した状態が示されている。外フレーム14は、これを構成するいずれも高強度コンクリート製の部材により構築されている。
【0021】
前記の既存建物15の例としては、張間方向は耐震壁15aによる強度型の建物で、桁行方向は純ラーメン構造による靭性型の建物の場合が示され、その既存建物15に平行に外フレーム14を桁行方向に構築した形態が示されている。
【0022】
図8と図1および図2には、本発明において使用されるプレキャストコンクリート製ブレース1aを使用した部分が、また、図9と図3および図4には、他のプレキャストコンクリート製ブレース1bを使用した部分が、それぞれ拡大して示されている。
【0023】
既存建物15は、中高層などの鉄筋コンクリート造共同住宅、小中学校等の建物であり、その外壁に近接するように地盤16に適宜鉄筋コンクリート製杭等の基礎杭が左右方向に間隔をおいて、既存建物15と平行に設けられ、基礎杭の上部に前記基礎梁13が設けられる。なお、基礎は、基礎杭を省略して直接基礎としてもよく、地盤条件および既設建物15が低層・中高層であるかの条件により、布基礎または独立基礎にするかをも含めて適宜設定され、基礎梁13の上に、無収縮モルタル等の高さ調整用モルタル13aが介在されて最下段のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11が間隔をおいて、かつ垂直に建て込まれる。
前記のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11の上端部は、基礎梁13に埋め込み固定された縦PC鋼材17の上端部に連結雌ねじ部材(カプラー)を介して連結される縦PC鋼材23の上端部が緊張定着され、前記縦PC鋼材23の上端部にはカプラーが接続可能にされている。
【0024】
プレキャストコンクリート製補強柱ユニット11が建て込まれた後、図14に示すようなプレキャストコンクリート製ブレース1bを一対逆V字状に配置すると共に、各プレキャストコンクリート製ブロック1bにおける上部ブロック3の対向する内側凹凸部8a,8bを嵌合当接して上下方向のずれ止めを図る。前記の凹凸部8a,8bの噛み合いにより一方のプレキャストコンクリート製ブレースに引張りが作用した場合に他方のプレキャストコンクリート製ブレースで圧縮力で負担する構造とされている。また、引張りが作用したプレキャストコンクリート製ブレース1a,1bはPC鋼材5で抵抗できる構成とされている。
【0025】
また、各プレキャストコンクリート製ブレース1bの下部ブロック4と、基礎梁13と最下段のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11との間に無収縮モルタル13aを介在させ接合すると共に、基礎梁13に下部を埋め込み配置されると共に上方に突出するように配置された複数の縦PC鋼材17を、下部ブロック4の縦PC鋼材挿通孔10に挿通して下部ブロック4に緊張定着し、下部ブロック4を基礎梁13に固定する。また、前記各プレキャストコンクリート製ブレース1bは傾倒防止のため、適宜図示省略の仮支持手段により保持される。
【0026】
前記の各プレキャストコンクリート製ブレース1bを組み合わせた逆V字状構造のブレース構造体25は、全てのプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11間に配置されることなく、一つおきの間隔をおいて配置されている。逆V字状構造のブレース構造体25の配置数は、既存建物15の耐震性を考慮して適宜数配置される。
【0027】
最下段のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11の上部側面に、1スパンおきに無収縮モルタルを介在させプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12aを架設する。前記プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12aの中央下面の接合部Aには、無収縮モルタルを介在させて、下面を滑り面とした滑り部材として石板18が固定され、その石板18には間隔をおいて複数のすべり方向に長い楕円状の透孔が形成されている。
【0028】
また、前記プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12aの中央部には、シース等により形成された複数の縦PC鋼材挿通用孔19が前記石板18の楕円状孔に合致するように設けられており、前記プレキャストコンクリート製ブレース1bにおける上部ブロック3と、前記プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12aの縦PC鋼材挿通孔19とに渡って縦PC鋼材20が挿通されて緊張定着され、石材6,18相互の滑り面は圧着されている。また、前記の縦PC鋼材挿通孔19は滑り方向に長い楕円形の縦PC鋼材挿通孔19とされ、縦PC鋼材20の傾斜を許容し、また、石板6,18間の摩擦滑り挙動を可能にし、地震時に水平力を吸収可能にしている。
【0029】
また、隣接するプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11の上部間には、図13に示すようなプレキャストコンクリート製ブレース1aが対称に配置されると共にその下部ブロック4が配置され、下部ブロック4間に短尺のプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12が配置されて適宜仮保持され、前記プレキャストコンクリート製補強柱ユニット11と、下部ブロック4と、各プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12a,12との各横PC鋼材挿通孔21に渡って配置された各横PC鋼材22が桁行方向端部のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11に緊張定着されて一体化されている。
【0030】
なお、前記のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11と下部ブロック4との間、および下部ブロック4とプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12との間には、適宜無収縮モルタルが介在されて接合されている。また、前記プレキャストコンクリート製ブレース1a,1bの上部ブロック3相互の凹凸部8a,8bは嵌合当接されて上下方向のずれ止めを図り一体化される。
【0031】
次いで、最下段のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11の上部に無収縮モルタルが介在されて2階のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11が建て込まれ、前記縦PC鋼材23の上端部に接続したカプラー24に接続するように縦PC鋼材23が前記2階のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11に挿通されて、その上端部に緊張定着されている。
このように、下位のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11内に挿通配置された縦PC鋼材23の上端部の接合カプラー24に、上位のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11に挿通配置したPC鋼材23の下端部を連結して、上位のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11の上端部で緊張定着して、上位のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11は建て込まれている。
【0032】
次いで、図13に示すようなプレキャストコンクリート製ブレース1aの一対の逆V字状のブレース構造体25が千鳥配置になるように、下位のプレキャストコンクリート製ブレース1bに対して桁行方向に位置をずらすようにしてプレキャストコンクリート製ブレース1aを配置し、プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12a単体または、プレキャストコンクリート製ブレース1aとプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12とが組み合わされて組立配置される。
【0033】
以下、同様に、縦PC鋼材23により緊張定着するように、プレキャストコンクリート製補強柱ユニット11を建て込んだ後、下位のプレキャストコンクリート製ブレース1aに対して桁行方向に1スパンのピッチ位置をずらして、図13に示すようなプレキャストコンクリート製ブレース1aの一対からなる逆V字状のブレース構造体25が千鳥配置になるように、プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12または12a単体または、プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12と一対のプレキャストコンクリート製ブレース1aからなる逆V字状のブレース構造体25とが組み合わされて組立配置されている。
【0034】
また、横方向については、プレキャストコンクリート製補強柱ユニット11とプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12(または12a)、あるいはプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11とプレキャストコンクリート製ブレース1aの下部ブロック4とプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12とに渡って挿通された横PC鋼材22が適宜緊張定着され、また、端部のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11に緊張定着されている。
前記のようにして、上下方向の補強柱26と横方向の補強梁27とを備えた外フレーム14が形成され、また、補強柱26と既存建物15とは、図12に示すように、既存建物15側の柱に連結するように新設梁筋が配筋されると共にコンクリートが打設されて構築される新設梁(新設の梁)48を介して接合されている。
【0035】
また、外フレーム14は上方になるに従って、両端側のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11とプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12が少なくされて、階段状に組立構成され、既存建物15側の採光、換気、景観等を含む居住空間を確保して耐震補強されている。
【0036】
前記のように、プレキャストコンクリート製ブレース1aの下部ブロック4は、下部のプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12と同断面とされ、プレキャストコンクリート製補強柱ユニット11間の各下部ブロック4の残りの長さ分を、プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12の梁ブロックとしている。
【0037】
前記のように、プレキャストコンクリート製ブレース1a,1bの上部ブロック3は、上部補強梁27を構成するプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12aの下部中央で接合され、プレキャストコンクリート製ブレース1a,1bの上部ブロック3と上部補強梁27を構成するプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12aの下部は、滑り材としての石板6,18を介して接している。またプレキャストコンクリート製ブレース1の上部ブロック3と上部補強梁27には、縦PC鋼材20の緊張材を貫通する縦PC鋼材挿通用孔19が設けられ滑り材としての石板6,18には地震時の移動に対応できるように楕円形の孔が明けられ、その孔に縦PC鋼材20が緊張定着され、この部分の縦PC鋼材挿通孔には、充填材が充填されることなく、滑り摺動移動による縦PC鋼材23の傾斜を許容している。
【0038】
なお、縦PC鋼材23によって上下段のプレキャストコンクリート製補強柱ユニット11を継ぎ足す例を図10によって説明する。補強柱ユニット11内にシース28によって形成された縦PC鋼材挿通孔に縦PC鋼材23が挿通され、この縦PC鋼材23にカプラー24が介在されて新たな縦PC鋼材23ga上方に継ぎ足され、補強柱ユニット11の上端面に適宜高さ調整用モルタルが設けられる。縦方向のPC鋼材23の端部の雄ねじ軸部33はナット等の定着金具29による緊張定着を行い、最上段の補強柱ユニット11に挿通された縦方向の縦PC鋼材23の上端部は、緊張装置(図示省略)により縦方向のPC鋼材23の全体が所定の値に緊張された状態で、図10の上部に示すように、縦PC鋼材23の上端部の凹部30内の上面に係合されたナット等の定着金具29により定着され、前記凹部30内に充填された防食材料31により防食処理される。
【0039】
また、横PC鋼材22の端部の雄ねじ軸部は、図11(a)、(b)に示すように、端部補強柱ユニット11の側面の凹部32において、ナット等の定着金具29により定着され、凹部32にモルタル等の防食材料31を充填して埋め込まれ防錆処理が施される。
【0040】
プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12a,12と既存建物15との接合は、図12に示すように、既存建物15の鉄筋コンクリート製外廊下34の先端部小梁35に、桁方向に多数のアンカー材36を間隔をおいて外向きに固定し、既存建物15側の各アンカー材36と、プレキャストコンクリート製補強梁ユニット12にねじ込み固定され突出する多数の間隔をおいたアンカー材37とに桁方向にスパイラル鉄筋38を配置して場所打ちコンクリート39により一体化する。
【0041】
また、前記小梁35内側とプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12a,12または下部ブロック4とにPC鋼材挿通孔を設けてこれらに渡ってPC鋼材40を挿通すると共にそのPC鋼材40の端部を緊張定着して、前記小梁35とプレキャストコンクリート製補強梁ユニット12を一体化している。また、前記外廊下34の下面凹部41には、既存建物15の梁42にアンカー材43の基端部を固定すると共にそのアンカー材43を前記下面凹部41内に配置し、下面凹部41内に鉄筋44を配筋して場所打ちコンクリート45が充填硬化されて、外廊下34の補強が図られている。なお、図中符号46は型枠、47は型枠支持部材である。
【0042】
前記のように構成された外フレーム14では、逆V字状のブレース構造体25が、外フレーム14における補強柱26と補強梁27によって形成される空間すべての部分に配置されることなく、一部に配置されているので、(1)限られた構面数でも、大きな補強耐力を得ることができ、また、(2)高強度コンクリートの外フレーム14に取付けることで、プレキャストコンクリート製ブレース1,1bの耐力増加を効果的に計ることが可能で、(3)外フレーム14全体にプレキャストコンクリート製ブレース1を配置する場合に比べて、外フレーム14の一部に部分的にプレキャストコンクリート製ブレース1a、1bを組み込めばよいので、既存建物15との剛性のバランスを図りながら、経済的に外フレーム14を補強して耐力を高めることができ、しかも既存建物15の剛性に適した耐震性に高めることができる。
【0043】
また、前記のように構成された耐震補強構造では、プレキャストコンクリートコンクリート製ブレース1a,1bを外フレーム14の構面内に位置するように組み込むので、外フレーム14を増設する場合の床面積の増加による確認申請に伴う制約を受けることなく、敷地の条件で新たな外フレームの増設が出来ない場合等、必要なフレームの増設を行えない場合でも、外フレームを増設することなく、外フレームの耐力を容易に高めることができる。
【0044】
また、前記のように構成された耐震補強構造では、地震時等に、図5および図8,9に示すように、矢印方向の過剰な水平力が作用した場合、この水平力を受けて上部の補強梁27は、図の右方向に変位し、下部の補強梁27は図の左方向に変位することになり、プレキャストコンクリート製ブレース1a、1bの上下部の接合構造にはせん断荷重が加わることになり。この場合、下部ブロック4の接合部Bは、自身が破断しないかぎり、下部の補強梁27が受けた荷重をプレキャストコンクリート製ブレース1a,1bに伝達する。一方、上部の滑り接合部Aでは、所定の荷重以上の過剰な荷重が加わると、石板6と石板6とが相互に摺動する。このため、柱の荷重がプレキャストコンクリート製ブレース1に伝達されず、摩擦熱に変換され、地震時エネルギーが消費され、耐震性が向上される。なお、図13に示すように、下部ブロック4の接合部Bのせん断耐力が確保されるように横PC鋼材22によるプレストレスが導入され、また、縦PC鋼材17によるプレストレスが導入されている
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の耐震補強構造の一実施形態を示す一部縦断正面図である。
【図2】図1の一部縦断側面図である。
【図3】本発明の耐震補強構造の他の実施形態を示す一部縦断正面図である。
【図4】図2の一部縦断側面図である。
【図5】すべり接合部の作用を説明するための説明図である。
【図6】本発明の耐震補強構造を実施して耐震補強された既存建物を示す概略正面図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】図6の一部を拡大して示す正面図である。
【図9】図6の一部を拡大して示す正面図である。
【図10】縦PC鋼材の上端部付近及び中間継手付近を示す縦断正面図である。
【図11】(a)は、横PC鋼材の一端部付近を示す縦断正面図、(b)は、防錆処理をした状態を示す縦断正面図である。
【図12】既存建物と外フレームとの接合部を示す断面図である。
【図13】本発明で使用するプレキャストコンクリート製ブレースの一例を示すものであって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図14】本発明で使用するプレキャストコンクリート製ブレースの他の例を示すものであって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0046】
1a プレキャストコンクリート製ブレース
1b プレキャストコンクリート製ブレース
2 ブレース本体
3 上部ブロック
4 下部ブロック
5 PC鋼材
6 石板
7 縦PC鋼材挿通用孔
8a 凹凸部
8b 凹凸部
9 横PC鋼材挿通用孔
10 縦PC鋼材挿通用孔
11 プレキャストコンクリート製補強柱ユニット
12a プレキャストコンクリート製補強梁ユニット
12 プレキャストコンクリート製補強梁ユニット
13 基礎梁
13a 高さ調整用モルタル
14 外フレーム
15 既存建物
15a 耐震壁
16 地盤
17 縦PC鋼材
18 石板
19 縦PC鋼材挿通用孔
20 縦PC鋼材
21 横PC鋼材挿通用孔
22 横PC鋼材
23 縦PC鋼材
24 カプラー
25 逆V字状のブレース構造体
26 補強柱
27 補強梁
28 シース
29 定着金具
30 凹部
31 防食材料
32 凹部
33 雄ねじ軸部
34 外廊下
35 小梁
36 アンカー材
37 アンカー材
38 スパイラル鉄筋
39 場所打ちコンクリート
40 PC鋼材
41 下面凹部
42 既存建物の梁
43 アンカー材
44 鉄筋
45 場所打ちコンクリート
46 型枠
47 型枠支持部材
48 新設梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の外側に新設梁を介して配置される複数のプレキャストコンクリート製補強柱ユニットおよび複数のプレキャストコンクリート製補強梁ユニットをPC鋼材により組立て構成される外フレームにより既存建物を耐震補強する耐震補強構造において、外フレームの一部に、プレキャストコンクリート製ブレースが組み込まれて外フレームが補強されていることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
プレキャストコンクリート製ブレースが外フレームの構面内に位置するように組み込まれて、前記外フレームが補強されていることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
プレキャストコンクリート製ブレースの一端部とコンクリート製補強梁ユニットの接合部において、前記各コンクリート部材の対抗面にはそれぞれ滑り部材が定着され、前記滑り部材どうしが当接するように前記各コンクリート部材は配置され、前記各滑り部材と前記各コンクリート部材とには貫通する孔が設けられ、その孔には充填材が注入されること無く緊張材が貫通されて、その緊張材に緊張力が導入されて、前記接合部が圧着されていることを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
プレキャストコンクリート製ブレースは、その他端部が、プレキャストコンクリート製補強梁ユニットの断面と同形状とされたブロック状部分とされ、プレキャストコンクリート製補強梁ユニットに直列に接続する梁の一部を兼ねたプレキャストコンクリート製ブレースとされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の耐震補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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