既存建物の補強構造
【課題】 中小の地震から大きな地震にまで対応できる経済的で小規模な既存建物の補強構造を提供することである。
【解決手段】 既存建物の補強構造1は、既存建物2の外側に新規耐震補強材4が形成され、該新規耐震補強材4と既存建物2との間には緩衝材14が設置され、これらの新規耐震補強材4間の梁間方向および桁行方向に配線された引張材16が所定の緊張力を付与されて新規耐震補強材4に定着されてなることである。
【解決手段】 既存建物の補強構造1は、既存建物2の外側に新規耐震補強材4が形成され、該新規耐震補強材4と既存建物2との間には緩衝材14が設置され、これらの新規耐震補強材4間の梁間方向および桁行方向に配線された引張材16が所定の緊張力を付与されて新規耐震補強材4に定着されてなることである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は既存建物の外側に緩衝材を介して新規耐震補強材を設けて既存建物を地震から保護するための補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存建物を耐震補強するためには様々な工法が提案されているが、学校の校舎、病院の病棟および集合住宅などを補強するには、短期間でかつ経済的に施工するとともに、施工後における美観、採光性、通風性、使い勝手などを優れたものにするなどの制約がある。そこで、これらの要件を満たした既存建物の耐震補強構造として特許第4091064号の発明がされている。
【特許文献1】特許第4091064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような既存建物の耐震補強構造は、確かに上記の優れた要件を備えてはいるが、四隅に設けた耐震補強柱で既存建物を剛構造にして地震に耐える耐震構造としているため、地震力を負担する耐震補強柱が大地震に耐える剛性と強度を確保する断面を必要とした。そのために耐震補強柱が大きくなって非経済的であるとともに、狭い敷地には適用することができないという問題があった。
【0004】
本願発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、中小の地震から大きな地震にまで対応できる経済的で小規模な既存建物の補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための既存建物の補強構造は、既存建物の外側に新規耐震補強材が形成され、該新規耐震補強材と既存建物との間隙部には緩衝材が設置され、これらの新規耐震補強材間の梁間方向および桁行方向に配線された引張材が所定の緊張力を付与されて新規耐震補強材に定着されてなることを特徴とする。また既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内(層間変形角≦1/200)の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量と緩衝材の最大弾性変形量とを等しくすることを含む。また既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量によって設定されたその他の階の許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、この最大弾性変形量に応じて各階の緩衝材の厚さを設定したことを含む。また新規耐震補強材はバットレスまたは耐震補強フレームであることを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
新規耐震補強材と既存建物との間にエネルギー吸収材である緩衝材が設置されたことにより、緩衝材が地震エネルギーを吸収するができるので、既存建物の反復作用による水平方向の揺れが緩和されて制震効果が得られる。そして、既存建物の共振、共鳴および衝撃による破壊を防ぐことができる。また既存建物の層間変形角1/200以内(層間変形角≦1/200)の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量と緩衝材の最大弾性変形量とを等しくした既存建物の補強構造は、頻繁に発生する中小地震において、緩衝材が変形して地震エネルギーを吸収するので最大弾性変形までは制震補強構造となるが、大地震において緩衝材が最大弾性変形を越えて塑性変形すると、新規耐震補強材が地震力を負担して耐震補強構造となるため、新規耐震補強材を従来よりも小さくすることができる。また既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量によって設定されたその他の階の許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、この最大弾性変形量に応じて各階の緩衝材の厚さを設定したことにより、新規耐震補強材が地震力を負担するときに各階(各層)において均等に負担することができるので、新規耐震補強材を効率的かつ経済的な断面にすることができる。また新規耐震補強材をバットレスまたは耐震補強フレームにしたことにより構築が簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の既存建物の補強構造の実施の形態を図面に基づいて説明する。各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。また本実施の形態における既存建物は学校の校舎であり、これを対象にして説明するが、図に示すように、校舎は概念的に簡略化している。
【0008】
図1〜図6は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1であり、該既存建物2の四隅における既存柱3、すなわち三階建ての鉄筋コンクリート構造の校舎の四角部における既存柱3の外側(梁間方向の外側)に新規耐震補強材としてのバットレス4が設置され、これらバットレス4間の梁間方向および桁行方向にわたって引張材16が配線されて構成されている。
【0009】
このバットレス4は既存柱3の角部を覆って設置できるようにプレキャストコンクリートで平面L字形に形成され、新規基礎6のPC鋼棒10がカプラー11でバットレス4内のPC鋼材12に繋がれ、このPC鋼材12が所定の緊張力で緊張・定着されたことにより、新規基礎6にPC圧着接合されている。この新規基礎6は既存基礎5に打ち込んだ鉄筋継手インサートなどの後施工アンカー7で新規基礎用鉄筋8が接続されるとともに、コンクリート9が打設されて既存基礎5に一体化して増設されている。
【0010】
これらのバットレス4間に配線された引張材16はPC鋼線やPC鋼より線などであり、既存建物2の開口部以外の箇所、すなわち開口部を塞がないように梁15が設置された箇所に配線され、弛まずかつ緩衝材を圧縮しない程度に緊張され、その両端部がバットレス4に定着されている。
【0011】
また既存柱3とバットレス4との間隙部13には、エネルギー吸収材である天然ゴムまたは合成ゴムなどの弾性材を使用した緩衝材14が設置され、この緩衝材14を介してバットレス4が既存柱3の角部を覆うようにして設置されている。この緩衝材14は各階(各層)の梁15が設置された箇所、すなわち二階〜四階(屋上)の梁15の位置にそれぞれ設置され、梁せいと同じ長さになっている。
【0012】
このように既存建物2の四角部における既存柱3の角部に緩衝材14を介してバットレス4が立設され、これらのバットレス4で既存建物2を囲むように補強しているため、地震エネルギーが緩衝材14で吸収できるようになっている。またバットレス4がプレキャストコンクリートであるため、校舎を使用しながらの施工が可能であり、施工の際における騒音、振動および粉塵の低減を図ることができるとともに、施工期間を短縮することもできる。なお、バットレス4はプレキャストコンクリートに限らず、現場打ちプレストレストコンクリートや鉄骨またはその他の構造で形成することもできる。
【0013】
また図7は既存建物の補強構造1の許容変形量を示した模式図である。実際の既存柱3とバットレス4との間隙部13は僅かであり、緩衝材14も数mm〜数cmの厚さであるが、理解を深めるために模式図に拡張して表している。
【0014】
また既存建物の各層間変形角は各階の層剛性、階高およびその階に作用する地震力の大きさによって異なるため正確には曲線分布になるが、この模式図においては、その差が僅かであるため直線変形で表している。
【0015】
この既存建物の補強構造1は、既存建物の層間変形角1/200以内(層間変形角≦1/200)の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、これに見合う緩衝材14の最大弾性変形量を予め選定して、既存柱3とバットレス4との間隙部13に設置したものである。この既存建物の補強構造1は、頻繁に発生する中小地震時には、緩衝材14の最大弾性変形により地震エネルギーを吸収して制震効果を発揮する制震補強構造になるが、大地震時に緩衝材14が最大弾性変形を越えて塑性変形した場合には、地震力をバットレス4で負担する耐震補強構造になる。なお、許容変形量の設定について、既存建物2の用途、高さ、構造形式や構築年数などによって層間変形角を1/200以内(層間変形角≦1/200)に適宜に設定することができる。また既存建物2の変形を大地震時においても弾性範囲内に保持するためには、層間変形角を1/200〜1/500とすることが好ましい。
【0016】
また図8は第2の実施の形態の既存建物の補強構造17の許容変形量を示した模式図である。この補強構造17は、例えば既存建物2の二階の層間変形角1/200以内の水平変形量を許容変形量とすると、この許容変形量に基づいて一階および三階の許容変形量が算出できるため、この許容変形量を緩衝材14の最大弾性変形量として一階および三階の緩衝材14の厚さを決定したものであり、これ以外は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1と同じ構成である。すなわち各階の緩衝材14の厚さを各階の許容変形量に応じた厚さにしたものである。
【0017】
このような既存建物の補強構造17は、頻繁に発生する中小地震時には、緩衝材の最大弾性変形により地震エネルギーを吸収して制震効果を発揮する制震補強構造になるが、大地震時に緩衝材14が最大弾性変形を越えて塑性変形した場合には、バットレス4が地震力を各階(各層)において均等に負担する耐震補強構造になるため、バットレス4を効率的かつ経済的な形状(断面)にすることができる。
【0018】
また図9および図10は第3の実施の形態の既存建物の補強構造18を示したものである。これは新規耐震補強材をバットレス4に代えて耐震補強フレーム19にしたものであり、これ以外は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1と同じ構成である。この耐震補強フレーム19はプレキャストコンクリートにより、既存建物2の角部の既存柱3に設置した平面L形の耐震補強柱20と、角部の既存柱に隣接した既存柱3に設置した補助柱21と、この補助柱21と耐震補強柱20とを連結した連結材22とから構成され、この耐震補強柱20と既存柱3との間隙部13および、補助柱21と既存柱3との間隙部13に設置した緩衝材14を介して既存建物2の四隅に設置されている。
【0019】
これらの耐震補強フレーム19間の梁間方向および桁行方向にはPC鋼線などの引張材16が、既存建物2の開口部以外の箇所、すなわち梁15が設置された箇所に配線され、弛まずかつ緩衝材14を圧縮しない程度に緊張されて、その両端部が耐震補強フレーム19に定着されている。また耐震補強柱20および補助柱21は、上記と同様に既存基礎5に一体形成された新規基礎6に立設され、連結材22も既存建物の梁15の箇所に設置されて開口部を閉鎖しないようにしている。
【0020】
また図11および図12はスパンが長い既存建物2の場合に、両側の耐震補強フレーム19の間に中間の耐震補強フレーム23を設けた補強構造24であり、これ以外は第3の実施の形態の既存建物の補強構造18と同じ構成である。この耐震補強フレーム23は一対の補強柱21が連結材22で接続されて構成され、これらの補強柱21と既存柱3との間隙部13に設置した緩衝材14を介して既存建物2に設置されている。
【0021】
そして、この耐震補強フレーム23には両側の耐震補強フレーム19からの引張材16a、16bが配線され、右側の耐震補強フレーム19からの引張材16aが左側の耐震補強フレーム19からの引張材16bの間に挟まれた状態で定着されている。これらの引張材16a、16bは、上記と同様に、既存建物2の開口部以外の箇所、すなわち梁15が設置された箇所に配線され、弛まずかつ緩衝材14を圧縮しない程度に緊張されている。なお、図11および図12は梁間方向に長い既存建物2の場合について説明したが、桁行方向に長い既存建物であっても同じ構成となる。
【0022】
また図13は第4の実施の形態の既存建物の補強構造25を示したものである。これは緩衝材26を各階(各層)ごとに設置したものではなく、既存柱3とバットレス4との間隙部13の全体にわたって(間隙部の上部から下部までにわたって)設置したものであり、これ以外は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1と同じ構成である。なお、これは上記の第2、第3および図11の実施の形態の既存建物の補強構造17、18、24にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の垂直方向の断面図である。
【図2】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の正面図である。
【図3】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の水平方向の断面図である。
【図4】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の斜視図である。
【図5】(1)は既存建物の柱と耐震補強柱との断面図、(2)は同平面図である。
【図6】新規基礎の断面図である。
【図7】(1)および(2)は第1の実施の形態の既存建物の補強構造の許容変形量の模式図、(3)は塑性変形した緩衝材の断面図である。
【図8】(1)および(2)は第2の実施の形態の既存建物の補強構造の許容変形量の模式図、(3)は塑性変形した緩衝材の断面図である。
【図9】第3の実施の形態の既存建物の補強構造の正面図である。
【図10】第3の実施の形態の既存建物の補強構造の水平方向の断面図である。
【図11】他の実施の形態の既存建物の補強構造の正面図である。
【図12】他の実施の形態の既存建物の補強構造の水平方向の断面図である。
【図13】第4の実施の形態の既存建物の補強構造の垂直方向の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1、17、18、24、25 既存建物の補強構造
2 既存建物
3 既存柱
4 バットレス
5 既存基礎
6 新規基礎
7 後施工アンカー
8 新規基礎用鉄筋
9 コンクリート
10 PC鋼棒
11 カプラー
12 PC鋼材
13 間隙部
14、26 緩衝材
15 梁
16、16a、16b 引張材
19 耐震補強フレーム
20 耐震補強柱
21 補強柱
22 連結材
【技術分野】
【0001】
本願発明は既存建物の外側に緩衝材を介して新規耐震補強材を設けて既存建物を地震から保護するための補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存建物を耐震補強するためには様々な工法が提案されているが、学校の校舎、病院の病棟および集合住宅などを補強するには、短期間でかつ経済的に施工するとともに、施工後における美観、採光性、通風性、使い勝手などを優れたものにするなどの制約がある。そこで、これらの要件を満たした既存建物の耐震補強構造として特許第4091064号の発明がされている。
【特許文献1】特許第4091064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような既存建物の耐震補強構造は、確かに上記の優れた要件を備えてはいるが、四隅に設けた耐震補強柱で既存建物を剛構造にして地震に耐える耐震構造としているため、地震力を負担する耐震補強柱が大地震に耐える剛性と強度を確保する断面を必要とした。そのために耐震補強柱が大きくなって非経済的であるとともに、狭い敷地には適用することができないという問題があった。
【0004】
本願発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、中小の地震から大きな地震にまで対応できる経済的で小規模な既存建物の補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための既存建物の補強構造は、既存建物の外側に新規耐震補強材が形成され、該新規耐震補強材と既存建物との間隙部には緩衝材が設置され、これらの新規耐震補強材間の梁間方向および桁行方向に配線された引張材が所定の緊張力を付与されて新規耐震補強材に定着されてなることを特徴とする。また既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内(層間変形角≦1/200)の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量と緩衝材の最大弾性変形量とを等しくすることを含む。また既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量によって設定されたその他の階の許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、この最大弾性変形量に応じて各階の緩衝材の厚さを設定したことを含む。また新規耐震補強材はバットレスまたは耐震補強フレームであることを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
新規耐震補強材と既存建物との間にエネルギー吸収材である緩衝材が設置されたことにより、緩衝材が地震エネルギーを吸収するができるので、既存建物の反復作用による水平方向の揺れが緩和されて制震効果が得られる。そして、既存建物の共振、共鳴および衝撃による破壊を防ぐことができる。また既存建物の層間変形角1/200以内(層間変形角≦1/200)の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量と緩衝材の最大弾性変形量とを等しくした既存建物の補強構造は、頻繁に発生する中小地震において、緩衝材が変形して地震エネルギーを吸収するので最大弾性変形までは制震補強構造となるが、大地震において緩衝材が最大弾性変形を越えて塑性変形すると、新規耐震補強材が地震力を負担して耐震補強構造となるため、新規耐震補強材を従来よりも小さくすることができる。また既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量によって設定されたその他の階の許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、この最大弾性変形量に応じて各階の緩衝材の厚さを設定したことにより、新規耐震補強材が地震力を負担するときに各階(各層)において均等に負担することができるので、新規耐震補強材を効率的かつ経済的な断面にすることができる。また新規耐震補強材をバットレスまたは耐震補強フレームにしたことにより構築が簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の既存建物の補強構造の実施の形態を図面に基づいて説明する。各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。また本実施の形態における既存建物は学校の校舎であり、これを対象にして説明するが、図に示すように、校舎は概念的に簡略化している。
【0008】
図1〜図6は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1であり、該既存建物2の四隅における既存柱3、すなわち三階建ての鉄筋コンクリート構造の校舎の四角部における既存柱3の外側(梁間方向の外側)に新規耐震補強材としてのバットレス4が設置され、これらバットレス4間の梁間方向および桁行方向にわたって引張材16が配線されて構成されている。
【0009】
このバットレス4は既存柱3の角部を覆って設置できるようにプレキャストコンクリートで平面L字形に形成され、新規基礎6のPC鋼棒10がカプラー11でバットレス4内のPC鋼材12に繋がれ、このPC鋼材12が所定の緊張力で緊張・定着されたことにより、新規基礎6にPC圧着接合されている。この新規基礎6は既存基礎5に打ち込んだ鉄筋継手インサートなどの後施工アンカー7で新規基礎用鉄筋8が接続されるとともに、コンクリート9が打設されて既存基礎5に一体化して増設されている。
【0010】
これらのバットレス4間に配線された引張材16はPC鋼線やPC鋼より線などであり、既存建物2の開口部以外の箇所、すなわち開口部を塞がないように梁15が設置された箇所に配線され、弛まずかつ緩衝材を圧縮しない程度に緊張され、その両端部がバットレス4に定着されている。
【0011】
また既存柱3とバットレス4との間隙部13には、エネルギー吸収材である天然ゴムまたは合成ゴムなどの弾性材を使用した緩衝材14が設置され、この緩衝材14を介してバットレス4が既存柱3の角部を覆うようにして設置されている。この緩衝材14は各階(各層)の梁15が設置された箇所、すなわち二階〜四階(屋上)の梁15の位置にそれぞれ設置され、梁せいと同じ長さになっている。
【0012】
このように既存建物2の四角部における既存柱3の角部に緩衝材14を介してバットレス4が立設され、これらのバットレス4で既存建物2を囲むように補強しているため、地震エネルギーが緩衝材14で吸収できるようになっている。またバットレス4がプレキャストコンクリートであるため、校舎を使用しながらの施工が可能であり、施工の際における騒音、振動および粉塵の低減を図ることができるとともに、施工期間を短縮することもできる。なお、バットレス4はプレキャストコンクリートに限らず、現場打ちプレストレストコンクリートや鉄骨またはその他の構造で形成することもできる。
【0013】
また図7は既存建物の補強構造1の許容変形量を示した模式図である。実際の既存柱3とバットレス4との間隙部13は僅かであり、緩衝材14も数mm〜数cmの厚さであるが、理解を深めるために模式図に拡張して表している。
【0014】
また既存建物の各層間変形角は各階の層剛性、階高およびその階に作用する地震力の大きさによって異なるため正確には曲線分布になるが、この模式図においては、その差が僅かであるため直線変形で表している。
【0015】
この既存建物の補強構造1は、既存建物の層間変形角1/200以内(層間変形角≦1/200)の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、これに見合う緩衝材14の最大弾性変形量を予め選定して、既存柱3とバットレス4との間隙部13に設置したものである。この既存建物の補強構造1は、頻繁に発生する中小地震時には、緩衝材14の最大弾性変形により地震エネルギーを吸収して制震効果を発揮する制震補強構造になるが、大地震時に緩衝材14が最大弾性変形を越えて塑性変形した場合には、地震力をバットレス4で負担する耐震補強構造になる。なお、許容変形量の設定について、既存建物2の用途、高さ、構造形式や構築年数などによって層間変形角を1/200以内(層間変形角≦1/200)に適宜に設定することができる。また既存建物2の変形を大地震時においても弾性範囲内に保持するためには、層間変形角を1/200〜1/500とすることが好ましい。
【0016】
また図8は第2の実施の形態の既存建物の補強構造17の許容変形量を示した模式図である。この補強構造17は、例えば既存建物2の二階の層間変形角1/200以内の水平変形量を許容変形量とすると、この許容変形量に基づいて一階および三階の許容変形量が算出できるため、この許容変形量を緩衝材14の最大弾性変形量として一階および三階の緩衝材14の厚さを決定したものであり、これ以外は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1と同じ構成である。すなわち各階の緩衝材14の厚さを各階の許容変形量に応じた厚さにしたものである。
【0017】
このような既存建物の補強構造17は、頻繁に発生する中小地震時には、緩衝材の最大弾性変形により地震エネルギーを吸収して制震効果を発揮する制震補強構造になるが、大地震時に緩衝材14が最大弾性変形を越えて塑性変形した場合には、バットレス4が地震力を各階(各層)において均等に負担する耐震補強構造になるため、バットレス4を効率的かつ経済的な形状(断面)にすることができる。
【0018】
また図9および図10は第3の実施の形態の既存建物の補強構造18を示したものである。これは新規耐震補強材をバットレス4に代えて耐震補強フレーム19にしたものであり、これ以外は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1と同じ構成である。この耐震補強フレーム19はプレキャストコンクリートにより、既存建物2の角部の既存柱3に設置した平面L形の耐震補強柱20と、角部の既存柱に隣接した既存柱3に設置した補助柱21と、この補助柱21と耐震補強柱20とを連結した連結材22とから構成され、この耐震補強柱20と既存柱3との間隙部13および、補助柱21と既存柱3との間隙部13に設置した緩衝材14を介して既存建物2の四隅に設置されている。
【0019】
これらの耐震補強フレーム19間の梁間方向および桁行方向にはPC鋼線などの引張材16が、既存建物2の開口部以外の箇所、すなわち梁15が設置された箇所に配線され、弛まずかつ緩衝材14を圧縮しない程度に緊張されて、その両端部が耐震補強フレーム19に定着されている。また耐震補強柱20および補助柱21は、上記と同様に既存基礎5に一体形成された新規基礎6に立設され、連結材22も既存建物の梁15の箇所に設置されて開口部を閉鎖しないようにしている。
【0020】
また図11および図12はスパンが長い既存建物2の場合に、両側の耐震補強フレーム19の間に中間の耐震補強フレーム23を設けた補強構造24であり、これ以外は第3の実施の形態の既存建物の補強構造18と同じ構成である。この耐震補強フレーム23は一対の補強柱21が連結材22で接続されて構成され、これらの補強柱21と既存柱3との間隙部13に設置した緩衝材14を介して既存建物2に設置されている。
【0021】
そして、この耐震補強フレーム23には両側の耐震補強フレーム19からの引張材16a、16bが配線され、右側の耐震補強フレーム19からの引張材16aが左側の耐震補強フレーム19からの引張材16bの間に挟まれた状態で定着されている。これらの引張材16a、16bは、上記と同様に、既存建物2の開口部以外の箇所、すなわち梁15が設置された箇所に配線され、弛まずかつ緩衝材14を圧縮しない程度に緊張されている。なお、図11および図12は梁間方向に長い既存建物2の場合について説明したが、桁行方向に長い既存建物であっても同じ構成となる。
【0022】
また図13は第4の実施の形態の既存建物の補強構造25を示したものである。これは緩衝材26を各階(各層)ごとに設置したものではなく、既存柱3とバットレス4との間隙部13の全体にわたって(間隙部の上部から下部までにわたって)設置したものであり、これ以外は第1の実施の形態の既存建物の補強構造1と同じ構成である。なお、これは上記の第2、第3および図11の実施の形態の既存建物の補強構造17、18、24にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の垂直方向の断面図である。
【図2】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の正面図である。
【図3】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の水平方向の断面図である。
【図4】第1の実施の形態の既存建物の補強構造の斜視図である。
【図5】(1)は既存建物の柱と耐震補強柱との断面図、(2)は同平面図である。
【図6】新規基礎の断面図である。
【図7】(1)および(2)は第1の実施の形態の既存建物の補強構造の許容変形量の模式図、(3)は塑性変形した緩衝材の断面図である。
【図8】(1)および(2)は第2の実施の形態の既存建物の補強構造の許容変形量の模式図、(3)は塑性変形した緩衝材の断面図である。
【図9】第3の実施の形態の既存建物の補強構造の正面図である。
【図10】第3の実施の形態の既存建物の補強構造の水平方向の断面図である。
【図11】他の実施の形態の既存建物の補強構造の正面図である。
【図12】他の実施の形態の既存建物の補強構造の水平方向の断面図である。
【図13】第4の実施の形態の既存建物の補強構造の垂直方向の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1、17、18、24、25 既存建物の補強構造
2 既存建物
3 既存柱
4 バットレス
5 既存基礎
6 新規基礎
7 後施工アンカー
8 新規基礎用鉄筋
9 コンクリート
10 PC鋼棒
11 カプラー
12 PC鋼材
13 間隙部
14、26 緩衝材
15 梁
16、16a、16b 引張材
19 耐震補強フレーム
20 耐震補強柱
21 補強柱
22 連結材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の外側に新規耐震補強材が形成され、該新規耐震補強材と既存建物との間隙部には緩衝材が設置され、これらの新規耐震補強材間の梁間方向および桁行方向に配線された引張材が所定の緊張力を付与されて新規耐震補強材に定着されてなることを特徴とする既存建物の補強構造。
【請求項2】
既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量と緩衝材の最大弾性変形量とを等しくすることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の補強構造。
【請求項3】
既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量によって設定されたその他の階の許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、この最大弾性変形量に応じて各階の緩衝材の厚さを設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物の補強構造。
【請求項4】
新規耐震補強材はバットレスまたは耐震補強フレームであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の既存建物の補強構造。
【請求項1】
既存建物の外側に新規耐震補強材が形成され、該新規耐震補強材と既存建物との間隙部には緩衝材が設置され、これらの新規耐震補強材間の梁間方向および桁行方向に配線された引張材が所定の緊張力を付与されて新規耐震補強材に定着されてなることを特徴とする既存建物の補強構造。
【請求項2】
既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量と緩衝材の最大弾性変形量とを等しくすることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の補強構造。
【請求項3】
既存建物の所定の階の層間変形角1/200以内の該建物の水平変形量を許容変形量とし、この許容変形量によって設定されたその他の階の許容変形量を緩衝材の最大弾性変形量とし、この最大弾性変形量に応じて各階の緩衝材の厚さを設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物の補強構造。
【請求項4】
新規耐震補強材はバットレスまたは耐震補強フレームであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の既存建物の補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−47926(P2010−47926A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211494(P2008−211494)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【特許番号】特許第4272253号(P4272253)
【特許公報発行日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【特許番号】特許第4272253号(P4272253)
【特許公報発行日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【Fターム(参考)】
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