説明

既存杭と新設杭とを用いた基礎構造

【課題】施工性に優れるとともに、既存杭が負担すべき水平荷重を確実に新設杭よりも小さくすることができ、よって既存杭の合理的な再利用が可能になる既存杭と新設杭とを用いた基礎構造を提供する。
【解決手段】既存構造物を撤去することにより地中に残存した既存杭1と、この既存杭から離間した所定位置に打設された新設杭3と、これら既存杭および新設杭の杭頭に構築される新設基礎4とを備えてなり、既存杭1と新設杭3とは、それぞれ同じ固定条件によって新設基礎4に接合されているとともに、新設杭3は、その杭径D1が既存杭の杭径D2以上であって、かつ既存杭1よりも大きな水平荷重を負担するように形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を建て替えるに際して、残存する既存杭を利用して新設構造物を構築するための既存杭と新設杭とを用いた基礎構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存の建物を取り壊して、新たな建物に立て替える場合に、地中に残存した既存建物の杭を、所定の箇所に増設する新設杭とともに新設建物の杭として再利用すれば、当該既存杭の撤去や埋め戻しに要する多大の手間を省くことができて経済的であるとともに、多量の廃棄物の発生も防ぐことができ、環境への負担低減の観点からも好ましい。
【0003】
ところが、一般に上記既存杭は、施工当時の旧基準に則って設計されているために、所望の鉛直支持能力は有するものの、水平抵抗能力が不足しており、この結果上記新設杭と同じ荷重負荷条件によって再利用することができない場合が多い。
【0004】
このため、例えば下記特許文献1においては、既存杭には鉛直荷重のみを負担させ、新設杭には鉛直荷重と水平荷重の双方を負担させることを特徴とする新設杭と既存杭とを併用した新設建物の基礎構造が提案されている。
しかしながら、上記従来の基礎構造にあっては、既存杭に水平荷重を全く負担させない構造であるために、新設建物の構築にあたって打設すべき新設杭の杭径や本数が増加するために、施工性や経済性の面で種々の問題点があった。
【0005】
そこで、本出願人は、上記問題点を解決しうる基礎構造として、先に下記特許文献2に見られる既存杭を利用した新設建物の基礎構造を提案した。
この基礎構造は、新設建物の基礎に、既存杭を半剛接合によって接合するとともに、新設杭を剛接合または半剛接合によって接合することにより、既存杭が負担する水平荷重を新設杭が負担する水平荷重よりも小さくしたものである。
【0006】
ところが、上記構成からなる基礎構造にあっても、上述した従来の基礎構造と同様に、既存杭と新設杭とで新設基礎に対する固定条件が互いに異なるために、施工が煩雑化するという問題点があった。また、計画上、新設杭と既存杭とが、共に半剛接合となる場合には、両者の新設基礎との固定度に大きな相違がなくなるために、既存杭に対する所望の水平荷重の負担軽減効果を得ることが難しくなるという問題点もあった。
【特許文献1】特開平9−60007号公報
【特許文献2】特開2003−82688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、施工性に優れるとともに、既存杭が負担すべき水平荷重を確実に新設杭よりも小さくすることができ、よって既存杭の合理的な再利用が可能になる既存杭と新設杭とを用いた基礎構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、既存構造物を撤去することにより地中に残存した既存杭と、この既存杭から離間した所定位置に打設された新設杭と、これら既存杭および新設杭の杭頭に構築される新設基礎とを備えてなり、上記既存杭と新設杭とは、それぞれ同じ固定条件によって上記新設基礎に接合されているとともに、上記新設杭は、その杭径が上記既存杭の杭径以上であって、かつ上記既存杭よりも大きな水平荷重を負担するように形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
ここで、上記既存杭と新設杭とが、同じ固定条件によって上記新設基礎に接合されているとは、両者が共に剛接合またはピン接合によって新設基礎に接合され、あるいは両者の杭頭に上記新設基礎が載置されていることをいうものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の新設杭が、上記新設基礎から下方に向けた所定の長さ寸法の範囲において、その杭径が上記既存杭の杭径よりも大きく形成された拡頭杭であることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記固定条件が、上記既存杭および新設杭の主筋を、上記新設基礎に定着しない半剛接合であることを特徴とするものである。
ここで、上記半剛接合とは、既存杭および新設杭の杭頭に新設基礎を載置することにより、新設基礎から既存杭または新設杭に作用するモーメントが、剛接合よりも小さく、かつピン接合よりも大きい接合形態であり、少なくとも既存杭および新設杭の主筋を新設基礎に定着しない限りにおいて、上記既存杭または新設杭と新設基礎とを、相互間の引張力を伝達する軸筋で繋ぐことまでを排除するものではない。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記新設杭の断面積Anに対する当該新設杭と上記新設基礎との接触面積Ancの比(Anc/An)が、上記既存杭の断面積Aeに対する当該既存杭と上記新設基礎との接触面積Aecの比(Aec/Ae)よりも大きいことを特徴とするものである。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の新設杭の長期軸力が、上記既存杭の長期軸力よりも大きいことを特徴とするものであり、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の新設杭の主筋量が、上記既存杭の主筋量よりも多いことを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜6に記載の発明において、上記新設杭を構成するコンクリート強度が、上記既存構造物の撤去時における上記既存杭の実際のコンクリート強度よりも高いことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜7のいずれかに記載の発明によれば、既存杭と新設杭とを、それぞれ同じ固定条件によって新設基礎と接合しているために、施工が容易になる。この際に、単に同じ固定条件で新設基礎に接合すると、既存杭にも新設杭と同等の水平荷重の負担が生じるが、本発明においては、上記新設杭の杭径を上記既存杭の杭径以上であって、かつ上記既存杭よりも大きな水平荷重を負担するように形成しているために、新設杭の断面係数を大きくして剛性を高めることにより、当該新設杭によって負担する水平荷重を既存杭よりも大きく、すなわち既存杭が負担すべき水平荷重を確実に新設杭よりも小さくすることができる。ちなみに、上記新設杭の杭径を、既存杭よりも大きくすれば、確実に新設杭によって既存杭よりも大きな水平荷重を負担することができて好適である。
【0016】
この際に、上記水平荷重によって新設杭に作用するモーメントは、当該新設杭の径、そのコンクリート強度や配筋等によって定量的には異なるものの、その定性的な分布は杭頭から下方に向けた一定の範囲内において大きなものとなる。このため、請求項2に記載の発明のように、当該新設杭として、上記モーメント分布に応じて、上記新設基礎から下方に向けた所定の長さ寸法範囲の杭径を既存杭の杭径よりも大きくした拡頭杭を用いれば、一層経済的である。
【0017】
また、既存杭と新設杭とを同じ固定条件によって新設基礎に接合するに際しては、既存杭と新設杭とを共に新設基礎に剛接合、半剛接合もしくはピン接合することにより行うことができるが、特に請求項3に記載の発明のように、両者を半剛接合によって新設基礎に接合すれば、単に既存杭および新設杭の杭頭に新設基礎を載置するのみで接合を行うことができるために、剛接合のように既存杭の杭頭をはつって主筋を露出させる必要が無く、一層施工が容易になる。
【0018】
さらに、請求項4に記載の発明においては、上記新設杭の断面積Anに対する当該新設杭と上記新設基礎との接触面積Ancの比(Anc/An)が、上記既存杭の断面積Aeに対する当該既存杭と上記新設基礎との接触面積Aecの比(Aec/Ae)よりも大きく(Anc/An>Aec/Ae)しているために、これら既存杭および新設杭の互いの接触面積の比によっても、既存杭および新設杭と新設基礎との固定度を調整することができる。
【0019】
これに対して、請求項5に記載の発明によれば、新設杭の長期軸力を既存杭の長期軸力よりも大きくすることにより、新設杭と新設基礎との固定度を既存杭における固定度よりも高めて、新設杭が負担する水平荷重を大きくすることができる。この際に、既存杭と新設杭とが隣接する場合には、新設杭を新設構造物の柱の直下に設けることが好ましい。
【0020】
また、請求項6に記載の発明においては、新設杭の主筋量を上記既存杭の主筋量よりも多くして、新設杭における剛性および断面係数を高めることにより、新設杭が負担する既存杭よりも大きな水平荷重に抗することができる。
【0021】
また、既存構造物における既存杭は、長期間にわたるコンクリートの養生効果によって、既存構造物の構築時よりも撤去時の方がコンクリート強度が高くなっている。そこで、請求項7に記載の発明のように、上記新設杭を構成するコンクリート強度を、上記既存構造物の撤去時における既存杭の実際のコンクリート強度よりも高くすることにより、確実に新設杭の剛性を高めて、同様に既存杭よりも大きな水平荷重に抗することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
図1〜図5は、本発明に係る既存杭と新設杭とを用いた基礎構造の第1実施形態を示すもので、図中黒塗りで示した符号1の杭が、図示されない既存建物(既存構造物)を撤去することにより、地中2に残存した既存杭である。
これら既存杭1間の所定箇所には、新設建物を支持するために増設すべき新設杭3が打設されており、これら既存杭1と新設杭3との杭頭上に、新設基礎4が載置されている。そして、この新設基礎4上に、新設建物(新設構造物)5が構築されている。なお、符号1aは、新設建物5の面積等により利用されない既存杭である。
【0023】
ここで、既存杭1および新設杭3の杭頭には、切頭円錐状の錐台6、7が形成されており、これら錐台6、7の上面6a、7aが新設基礎4の下面に当接している。そして、新設杭3は、その杭径D1が、既存杭1の杭径D2よりも大きく形成されるとともに、さらに新設杭3の断面積をAn、その錐台7の上面7aにおける新設基礎4との接触面積をAnc、既存杭1の断面積をAe、その錐台6の上面6aにおける新設基礎4との接触面積をAecとしたときに、Anc/An>Aec/Aeとなるように形成されている。
【0024】
また、既存杭1および新設杭3は、内部に軸線方向に沿って主筋8、9が全体として円形状に配置されるとともに、これら主筋8、9の外周に帯筋10、11が水平方向に巻回されている。そして、これら主筋9および帯筋11からなる新設杭3の主筋量が、主筋8および帯筋10からなる既存杭1の主筋量よりも多くなるように配筋されている。
【0025】
また、新設杭3は、その長期軸力が既存杭1の長期軸力よりも大きくなるように設計されると共に、既存建物の撤去時における既存杭1のコンクリート強度よりも高い強度を有するコンクリートによって打設されている。
【0026】
そして、これら既存杭1および新設杭3は、共に主筋8、9を新設基礎4に定着しない半剛接合によって新設基礎4に接合されている。なお、特に新設杭3については、図2および図3に示すように、当該新設杭3と新設基礎4との間を繋いで引張力に抗する軸筋12を配筋してもよい。
【0027】
以上の構成からなる基礎構造によれば、既存杭1と新設杭3とを、互いの主筋8、9を新設基礎4に定着させない半剛接合によって新設基礎4と接合しているために、異なる施工が交錯することが無く、しかも単に既存杭1および新設杭3の錐台6、7上に新設基礎4を載置するのみで接合を行うことができるために、剛接合のように既存杭1の杭頭をはつって主筋8を露出させる必要が無く、極めて容易に施工を行うことができる。
【0028】
加えて、新設杭3の杭径D1を既存杭1の杭径D2よりも大きくし、かつ新設杭3の長期軸力を既存杭1の長期軸力よりも大きくしているために、新設杭3の断面係数を増大させて剛性を高めるとともに、新設杭3と新設基礎4との固定度を既存杭1の固定度よりも高めることにより、新設杭3によって負担する水平荷重を既存杭1よりも大きくして、既存杭1が負担すべき水平荷重を確実に新設杭3よりも小さくすることができる。
【0029】
また、新設杭3の断面積Anに対する上面7aと新設基礎4との接触面積Ancの比(Anc/An)が、既存杭1の断面積Aeに対する上面6aと新設基礎4との接触面積Aecの比(Aec/Ae)よりも大きく(Anc/An>Aec/Ae)しているために、これら既存杭1および新設杭3の互いの接触面積の比によっても、既存杭1および新設杭3と新設基礎4との固定度を適宜の比率に調整することができる。
【0030】
さらにまた、新設杭3の主筋量を既存杭1の主筋量よりも多くするとともに、新設杭3を構成するコンクリート強度を、既存建物の撤去時における既存杭1のコンクリート強度よりも高くしているために、確実に新設杭3の剛性および断面係数を高めて、新設杭3が負担する既存杭1よりも大きな水平荷重に抗することができる。
【0031】
(第2実施形態)
図6は、本発明の基礎構造の第2実施形態における新設杭の杭頭部分を示すもので、当該新設杭以外の構成部分については、第1実施形態に示したものと同様であるために、同一符号を用いて説明を簡略化する。
この実施形態においては、新設杭20として、拡頭杭が用いられている。
すなわち、一般に新設基礎4から作用する水平荷重によって新設杭20に作用するモーメントの分布は、新設基礎4に接合された錐台21から下方に向けた一定の範囲内において大きなものとなる。
【0032】
そこで、新設杭20として、新設基礎4から下方に向けて上記モーメント分布から算出された所定の長さ寸法の範囲において、その杭径D1が既存杭1の杭径D2よりも大きく形成された拡頭杭が用いられている。
【0033】
上記新設杭20を用いた基礎構造によれば、第1実施形態に示したものと同様の作用効果が得られることに加えて、大きなモーメントが作用しない新設杭3の下部についてまで、既存杭1の杭径D2よりも大径に形成する必要がないために、余剰のコンクリートの打設を回避することができ、一層経済的であるという利点がある。
【0034】
なお、上記第1および第2実施形態においては、いずれも既存杭1および新設杭3、20を半剛接合によって新設基礎4に接合した場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、既存杭1と新設杭3、20とを同じ固定条件によって新設基礎4に接合する限りにおいて、既存杭1と新設杭3、20とを、共に新設基礎4に剛接合あるいはピン接合してもよい。
また、本発明は、一般的な建物のみならず、地上タンク等の土木構造物に対しても、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の基礎構造の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の新設杭の杭頭部分を示す拡大図である。
【図3】図2のIII−III線視断面図である。
【図4】図1の既存杭の杭頭部分を示す拡大図である。
【図5】図4のV−V線視断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態における新設杭の杭頭部分を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0036】
1 既存杭
2 地中
3、20 新設杭
4 新設基礎
5 新設建物(新設構造物)
6a、7a 新設基礎との接触面
8、9 主筋
1 新設杭の杭径
2 既存杭の杭径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存構造物を撤去することにより地中に残存した既存杭と、この既存杭から離間した所定位置に打設された新設杭と、これら既存杭および新設杭の杭頭に構築される新設基礎とを備えてなり、
上記既存杭と新設杭とは、それぞれ同じ固定条件によって上記新設基礎に接合されているとともに、上記新設杭は、その杭径が上記既存杭の杭径以上であって、かつ上記既存杭よりも大きな水平荷重を負担するように形成されていることを特徴とする既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。
【請求項2】
上記新設杭は、上記新設基礎から下方に向けた所定の長さ寸法の範囲において、その杭径が上記既存杭の杭径よりも大きく形成された拡頭杭であることを特徴とする請求項1に記載の既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。
【請求項3】
上記固定条件は、上記既存杭および新設杭の主筋を、上記新設基礎に定着しない半剛接合であることを特徴とする請求項1または2に記載の既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。
【請求項4】
上記新設杭の断面積Anに対する当該新設杭と上記新設基礎との接触面積Ancの比(Anc/An)は、上記既存杭の断面積Aeに対する当該既存杭と上記新設基礎との接触面積Aecの比(Aec/Ae)よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。
【請求項5】
上記新設杭の長期軸力は、上記既存杭の長期軸力よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。
【請求項6】
上記新設杭の主筋量は、上記既存杭の主筋量よりも多いことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。
【請求項7】
上記新設杭を構成するコンクリート強度は、上記既存構造物の撤去時における上記既存杭の実際のコンクリート強度よりも高いことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の既存杭と新設杭とを用いた基礎構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−315136(P2007−315136A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148351(P2006−148351)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】