説明

既設エレベータの改修方法及びエレベータ装置

【課題】既設の油圧式エレベータ装置を改修する際に、改修のための費用と期間とを削減する。
【解決手段】既設の油圧式エレベータを巻胴式に改修するために、先ず、作業者が油圧ジャッキのシリンダ8の上端部高さで作業を行うことができるように、非常止め装置13を動作させて、かご1を昇降路2内で停止させる。また、油圧ジャッキのプランジャ9を上昇させて、綱車10を所定の高さに配置する。綱車10を上記所定高さに配置した後、プランジャ9をシリンダ8に固定して、プランジャ9のシリンダ8に対する上下動を拘束し、既設の主ロープ11を取り外す。また、昇降路2内に、巻胴式の巻上機18、及び、この巻上機18を制御する制御装置20を新設し、新設された巻上機18及びかご1の間に、中間部を綱車10に巻き掛けた状態で新規主ロープ21を連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設の油圧式エレベータを巻胴式に改修する既設エレベータの改修方法、及びその改修方法によって改修されたエレベータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は従来から使用されている油圧式エレベータ装置を示す全体構成図である。図3において、1はエレベータ昇降路2内を昇降するかご、3は昇降路2内に立設されたかご用ガイドレール、4はかご1の下方に設けられた緩衝器、5は昇降路2のピット底面に設けられ、かご用ガイドレール3の下端部及び緩衝器4を支持する緩衝器台である。また、6はかご1の駆動装置からなる油圧パワーユニット、7は油圧パワーユニット6の制御等、エレベータ全体の制御を司る制御装置、8は昇降路2内に立設された油圧ジャッキのシリンダ、9はシリンダ8に対して上下方向に移動する油圧ジャッキのプランジャ、10はプランジャ9の上端部に回動自在に設けられた綱車である。
【0003】
そして、主ロープ11は、中間部が綱車10に巻き掛けられた状態で、昇降路2の固定体とかご1とに連結されている。具体的に、主ロープ11は、その一端部が、昇降路2のピットに設けられた、油圧ジャッキを支持する支持台12に弾性的に連結される。また、主ロープ11は、一端部から上方に向かって配置され、中間部が綱車10の綱溝に巻き掛けられることにより、下方に折り返される。そして、主ロープ11の他端部が、かご1の固定体に上方から連結される。
【0004】
上記構成を有する油圧式エレベータ装置では、油圧パワーユニット6によって油圧ジャッキのプランジャ9を上下動させる、即ち、主ロープ11が巻き掛けられた綱車10を上下動させることにより、主ロープ11の移動を介してかご1を昇降させている。しかし、このような油圧式エレベータ装置は、駆動装置となる油圧パワーユニット6が大型で広い設置スペースが必要になる、作動油の扱いが大変である等の問題点があり、現在新たに設置されるエレベータ装置においては、ほとんど採用されていない。
【0005】
そこで、従来技術として、既設の油圧式エレベータ装置を、現在主流のロープ式機械室レスエレベータ装置に改修する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の改修方法では、昇降路内への薄型巻上機の設置、釣合い重り用ガイドレールの据付、釣合い重りの設置、主ロープの連結といった種々の工程を実施することにより、旧型の油圧式エレベータ装置から最新式の機械室レスエレベータ装置へのリニューアルを実現している。
【0006】
【特許文献1】特開2007−39224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のものでは、油圧式エレベータ装置を改修するための工程が多く、改修のための費用と期間とが多大になるといった問題があった。特に、エレベータ装置が1台しか備えられていないビルでは、改修期間中はエレベータ装置を使用することができなくなるため、改修期間が長期化することは深刻な問題となっていた。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、既設の油圧式エレベータ装置を改修するための費用と期間とを大幅に削減することができる既設エレベータの改修方法、及び、その改修方法によって改修されたエレベータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る既設エレベータの改修方法は、一端部が昇降路固定体に、他端部がエレベータのかごに連結された主ロープと、主ロープの中間部が巻き掛けられた綱車を上下動させる油圧ジャッキと、を備えた既設の油圧式エレベータを改修する既設エレベータの改修方法であって、作業者が油圧ジャッキのシリンダの上端部高さで作業を行うことができるように、非常止め装置を動作させて、かごを昇降路内で停止させるステップと、非常止め装置を動作させてかごを停止させた後、油圧ジャッキのプランジャを上昇させて、綱車を所定の高さに配置するステップと、綱車を所定高さに配置した後、プランジャをシリンダに固定して、プランジャのシリンダに対する上下動を拘束するステップと、非常止め装置を動作させてかごを停止させた後、主ロープを取り外すステップと、昇降路内に、巻胴式の巻上機、及び、巻上機を制御する制御装置を新設するステップと、新設された巻上機及びかごの間に、中間部を綱車に巻き掛けた状態で新規主ロープを連結するステップと、を備えたものである。
【0010】
この発明に係るエレベータ装置は、エレベータの昇降路内に立設された油圧ジャッキのシリンダと、上端部に綱車が回動自在に設けられ、綱車が所定高さに配置された状態で、シリンダに対する上下動が拘束された油圧ジャッキのプランジャと、昇降路内に設けられた巻胴式の巻上機と、巻上機を制御する制御装置と、中間部が綱車に巻き掛けられた状態で、巻上機及びエレベータのかごの間に連結された主ロープと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、既設の油圧式エレベータ装置を改修するための費用と期間とを大幅に削減することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ装置を示す全体構成図、図2はこの発明の実施の形態1におけるエレベータ装置の要部詳細図である。なお、図1は、図3に示す既設の油圧式エレベータ装置を改修することによって得られたエレベータ装置を、また、図2は図1のA部を示している。以下に、図1乃至図3に基づき、図3に示す油圧式エレベータ装置を、図1に示す巻胴式のエレベータ装置に改修する方法について、具体的に説明する。
【0014】
既設の油圧式エレベータ装置の改修において、エレベータ作業員は、先ず、油圧ジャッキのシリンダ8の上端部(パッキン部)高さで作業を行うことができるように、非常止め装置13を動作させて、かご1をかご用ガイドレール3の所定高さに固定する。なお、上記非常止め装置13はエレベータに必ず備えられている安全装置であり、通常は、主ロープ11の弛緩を検出して、かご1を昇降路2内に非常停止させる機能を有している。その後、作業員は、昇降路2のピットに進入し、支持台12から主ロープ11の一端部を取り外して、安全回路(図示せず)を短絡させる。
【0015】
非常止め装置13を動作させてかご1を昇降路2内に停止させた後、作業員は、油圧パワーユニット6を動作させることによって油圧ジャッキのプランジャ9を上方に移動させ、綱車10を、その可動範囲の最頂部に配置する。そして、綱車10を上記所定の高さに配置した後、作業者は、プランジャ9をシリンダ8に固定して、プランジャ9のシリンダ8に対する上下動を拘束する。なお、図2はシリンダ8のパッキン部の拡大図を示しており、プランジャ9の上記固定作業が終了した状態を示している。
【0016】
即ち、上記プランジャ9の固定作業に際しては、作業者は、先ず、プランジャ9のうち、シリンダ8の上面よりも僅かに上方となる位置に、水平に貫通孔14を形成する。次に、シリンダ8の上面とプランジャ9の側面とに、プランジャ9の両側からL字状の固定金具15を宛がい、ボルト16等を用いてシリンダ8の上面に固定する。なお、固定金具15には、プランジャ9の側面に対向する立上部15aに、貫通孔が形成されている。作業者は、固定金具15の貫通孔とプランジャ9に形成した上記貫通孔14とが一直線状になるように、固定金具15を配置する。そして、各固定金具15の貫通孔とプランジャ9の貫通孔14とにピン17を挿入し、このピン17を固定金具15に固定する。
【0017】
上記プランジャ9の固定作業が終了した後、作業者は、次に、油圧式エレベータ装置に使用されている作動油の回収作業を行う。具体的には、先ず、機械室に配置されたストップバルブを全閉し、油圧パワーユニット6と油圧ジャッキとの作動油の移動を遮断する。そして、油圧ジャッキ内の作動油、及び、油圧パワーユニット6(機械室オイルタンク)内の作動油を全て抜き取り、油圧パワーユニット6や制御装置7を機械室から撤去する。
【0018】
不要となる既設機器の撤去が終了した後、作業者は、次に、新設機器の設置を行う。具体的には、巻胴式の巻上機18、そらせ車19、巻上機18を制御するための制御装置20を昇降路2内に新設する。なお、既設の油圧式エレベータ装置には、昇降路2内に上記新設機器の設置場所が十分に確保されてないことが多い。かかる場合は、巻上機18及び制御装置20を、例えば、設置スペースを比較的確保し易い昇降路2のピットに設置する。また、巻胴式の巻上機18として、巻胴の回動軸が垂直方向を向いている横型タイプのものを採用することにより、新設機器の設置スペース(特に、高さ方向)を更に抑制することが可能となる。なお、油圧式エレベータ装置で使用される主ロープ11は、一般に上下方向に配置されている。したがって、横型タイプの巻胴式巻上機18を新設する場合には、新設主ロープを水平方向に方向転換するためのそらせ車19を、巻上機18の主ロープ巻き取り位置及び方向に合わせて、適切に配置する必要がある。なお、図1に示すエレベータ装置では、そらせ車19を緩衝器台5或いは支持台12に支持させた場合を示している。
【0019】
上記新設機器の設置が完了した後、作業者は、既設の主ロープ11を取り外し、新設の主ロープ21をかご1と巻上機18との間に連結する。具体的には、主ロープ21の中間部を綱車10に巻き掛けた状態で両端部を下方に垂れ下げ、一端部を、かご1の主ロープ11が連結されていた部分に連結する。また、主ロープ21をそらせ車19に巻き掛けて水平方向に方向転換させた後、その他端部を巻上機18に連結する。そして、最後に、制御ケーブル22を制御装置20に接続する。
【0020】
この発明の実施の形態1によれば、既設の油圧式エレベータ装置を改修してリニューアルする場合に、改修に要する費用と時間とを大幅に削減させることができるようになる。即ち、エレベータ装置を巻胴式に改修することにより、釣合い重りの設置や釣合い重り用ガイドレールの据付等が不要になり、改修に要する手間と工期とを大幅に削減できる。また、綱車10を最頂部に配置した状態でプランジャ9を固定することにより、改修後も綱車10を利用してかご1を昇降させることができ、油圧ジャッキの撤去作業等も必要なくなる。
【0021】
なお、プランジャ9の固定作業に際しては、かご1が昇降可能となった後に、プランジャ9の上側を昇降路2の固定体に固定するようにしても良い。プランジャ9の上端部には、綱車10を回動自在に支持する綱車支持部23が設けられている。また、油圧式エレベータ装置では、綱車10の昇降方向を案内するためのガイドレール24が、綱車10の両側に設けられている。上記綱車支持部23とガイドレール24との構成、寸法等は既知であるため、綱車10を所定の高さに配置した後、予め用意した適当な固定手段(例えば、固定金及びボルト等)を使用して綱車支持部23をガイドレール24に固定すれば、工期を短縮でき、容易に上記固定作業を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータ装置を示す全体構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータ装置の要部詳細図である。
【図3】従来から使用されている油圧式エレベータ装置を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1 かご、 2 昇降路、 3 かご用ガイドレール、 4 緩衝器、
5 緩衝器台、 6 油圧パワーユニット、 7 制御装置、 8 シリンダ、
9 プランジャ、 10 綱車、 11 主ロープ、 12 支持台、
13 非常止め装置、 14 貫通孔、 15 固定金具、 15a 立上部、
16 ボルト、 17 ピン、 18 巻上機、 19 そらせ車、
20 制御装置、 21 主ロープ、 22 制御ケーブル、 23 綱車支持部、
24 ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部が昇降路固定体に、他端部がエレベータのかごに連結された主ロープと、
前記主ロープの中間部が巻き掛けられた綱車を上下動させる油圧ジャッキと、
を備えた既設の油圧式エレベータを改修する既設エレベータの改修方法であって、
作業者が前記油圧ジャッキのシリンダの上端部高さで作業を行うことができるように、非常止め装置を動作させて、前記かごを昇降路内で停止させるステップと、
前記非常止め装置を動作させて前記かごを停止させた後、前記油圧ジャッキのプランジャを上昇させて、前記綱車を所定の高さに配置するステップと、
前記綱車を前記所定高さに配置した後、前記プランジャを前記シリンダに固定して、前記プランジャの前記シリンダに対する上下動を拘束するステップと、
前記非常止め装置を動作させて前記かごを停止させた後、前記主ロープを取り外すステップと、
昇降路内に、巻胴式の巻上機、及び、前記巻上機を制御する制御装置を新設するステップと、
新設された前記巻上機及び前記かごの間に、中間部を前記綱車に巻き掛けた状態で新規主ロープを連結するステップと、
を備えたことを特徴とする既設エレベータの改修方法。
【請求項2】
巻胴の回動軸が垂直方向となるように、巻胴式の巻上機を昇降路内に新設するステップと、
主ロープを水平方向に方向転換するためのそらせ車を、前記巻上機の主ロープ巻き取り位置に合わせて昇降路内に新設するステップと、
を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の既設エレベータの改修方法。
【請求項3】
綱車を所定高さに配置した後、油圧ジャッキ内及び前記油圧ジャッキを駆動する油圧パワーユニット内の作動油を抜き取り、前記油圧パワーユニットを撤去するステップと、
を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の既設エレベータの改修方法。
【請求項4】
綱車を所定高さに配置した後、前記綱車を回動自在に支持する綱車支持部を、前記綱車の昇降方向を案内するために昇降路内に設けられているガイドレールに固定するステップと、
を更に備えたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の既設エレベータの改修方法。
【請求項5】
エレベータの昇降路内に立設された油圧ジャッキのシリンダと、
上端部に綱車が回動自在に設けられ、前記綱車が所定高さに配置された状態で、前記シリンダに対する上下動が拘束された前記油圧ジャッキのプランジャと、
昇降路内に設けられた巻胴式の巻上機と、
前記巻上機を制御する制御装置と、
中間部が前記綱車に巻き掛けられた状態で、前記巻上機及びエレベータのかごの間に連結された主ロープと、
を備えたことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項6】
巻上機は、巻胴の回動軸が垂直方向に配置され、
主ロープを水平方向に方向転換するためのそらせ車が、前記巻上機の主ロープ巻き取り位置に合わせて昇降路内に設置された
ことを特徴とする請求項5に記載のエレベータ装置。
【請求項7】
プランジャの上端部に設けられ、綱車を回動自在に支持する綱車支持部と、
前記綱車の昇降方向を案内するために昇降路内に設けられているガイドレールに、前記綱車支持部を固定する固定手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57194(P2009−57194A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227915(P2007−227915)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】