説明

既設地下構造物の撤去方法

【課題】大規模又は特殊な機器類の設置を必要とせず、安価な材料及び設備によって、少ない施工用地で複雑な施工管理を伴わずに、安定的挙動の下で撤去対象の地下構造物を解体・撤去できる既設地下構造物の撤去方法を提供する。
【解決手段】地下構造物2aと地盤との間に周摩擦低減層10aを形成した後、穿孔機7dを使用して底盤2cと地盤との間に自硬性流体12aを圧入して、厚さがHQの固化層12bを形成すると共に、地下構造物2aを上方に押動させる。その後、自硬性流体12aを硬化させて地下構造物2aの姿勢及び挙動を安定化し、地下構造物2aが押動した量(リフト量)HLに応じて、地下構造物2aの上部を地上から解体する。そして、この工程を複数回繰り返して行い、地下構造物2aを上部から順次解体撤去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に存在する構造物を押し上げて撤去する既設地下構造物の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎構造物及び容器構造物等の地中に設置されている地下構造物の解体・撤去工事は、地上に存在する構造物の工事に比べて、費用及び時間共にかかるという問題点がある。また、このような地下構造物の解体・撤去工事は、作業空間の自由度が制限されるため、施工性が極めて悪いという問題点もある。
【0003】
図10(A)〜(C)は従来の地下構造物の撤去方法の代表例を示す断面図である。従来、既設地下構造物の撤去方法としては、地上から構造物を引き抜く方法がある。この技術は、構造物の規模が小さく、容易に引き抜くことができる杭等の柱状基礎には適用可能であるが、空間を利用する目的で建設された容器構造物及び橋梁等の大荷重の構造物を支持するために建設された基礎構造物は、必然的に構造物規模が大型化するため、地上から引き抜く方法での撤去は困難を極める。
【0004】
そこで、このような大型の地下構造物は、現行では、図10(A)〜(C)に示すような方法によって撤去作業が行われている。図10(A)に示す方法は、撤去を目的とする地下構造物2aの周囲の地盤面が法面1cとなるように、地下構造物2aの周域を地表面1aから法面掘削し、地下構造物2aの側壁2bを完全に露出させ、掘削面1b上に地下構造物の底盤2cが配置された状態にして解体及び撤去を行い、更に地下構造物2aを撤去した後、掘削土を埋め戻す方法である。
【0005】
また、図10(B)に示す方法は、地下構造物2aを囲繞するように鋼矢板3等で土留め壁を仮設し、この鋼矢板3と地下構造物2aの側壁2bとの間を掘削することにより地下構造物2aを露出させて、地下構造物2aを解体及び撤去する方法である。更に、図10(C)に示す方法は、図10(B)における解体工程を発破及び膨張剤等を用いて化学的に処理することにより、作業の効率化を狙うものである。例えば、発破により解体する場合は、地下構造物2aを囲繞するように鋼矢板3を仮設すると共に、地下構造物2aの側壁2b及び底盤2cに破砕剤4を埋め込み、この破砕剤4により地下構造物2aを解体する。このような方法では、掘削工程が不要となるため、作業効率を向上させることができる。このような方法では、特に大型の構造物では解体工程を時短化できるため、作業効率の向上に繋がる。
【0006】
一方、従来、小規模の基礎杭等を撤去する方法として、基礎杭の外周に杭長にわたって二重構造のケーシングを建て込み、このケーシングの内側管と基礎杭とを一緒に引き抜く方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、基礎杭の周囲にその底盤よりも深い位置にまでケーシングを建て込んだ後、基礎杭に形成された削孔の上端部から下端部に向けて高圧水を注入し、この高圧水により生じる浮力により基礎杭を浮かせて引き抜く方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。更に、地中から基礎杭を持ち上げる方法としては、水を利用する方法以外に、基礎杭の下方に膨張可能な袋体を設置し、この袋体内に固結材を圧入する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−64680号公報
【特許文献2】特開2004−131923号公報
【特許文献3】特開平9−158235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図9(A)に示す撤去方法には、広大な施工用地が必要となるとなること、また、他の地中埋設物に対する影響が大きいこと等から、市街地において適用することが難しいという問題点がある。また、図9(B)に示す撤去方法には、土留め壁の施工規模が大きくなることから、支保工等を含む仮設資材費の負担が大きいという問題点がある。更に、図9(C)に示す撤去方法には、土留め壁が必要になること、爆圧による周辺の他の地中埋設物への影響を観測する必要があること、及び発生する粉塵等について環境対策を講じる必要があること等の問題点がある。
【0009】
そこで、大型の地下構造物を解体及び撤去する方法にも、小規模の基礎杭等と同様に、地上から引き抜く方法の適用が期待されるが、大型の地下構造物を地上から引き抜くためには、地上設備として必要となる作業用機械の機体寸法の大型化が容易に想像される点、これら機械の設置にあたって予め相応の基礎工事が必要となる点、及び費用増加が必至となる点等をはじめとして現実的に解決困難な課題が多い。
【0010】
例えば、前述の特許文献1〜3に記載の方法を比較的大きな構造物に適用することは、引き抜き用のジャッキの能力及び本数、巨大化するケーシング、並びにこれら仮設機器類の設置に要する労力等を考え併せると現実性に乏しく、また撤去工事のような特に工費圧縮が要求される工種については相応しないものとなる。
【0011】
本発明は上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、大規模又は特殊な機器類の設置を必要とせず、安価な材料及び設備によって、少ない施工用地で複雑な施工管理を伴わずに、安定的挙動の下で撤去対象の地下構造物を解体・撤去できる既設地下構造物の撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は次のように構成される。
【0013】
本発明に係る既設地下構造物の撤去方法は、既設地下構造物の底盤とこの既設地下構造物の下方に位置する地盤との間に自硬性流体を圧入して、前記既設地下構造物を上方に押動させる工程と、前記自硬性流体を硬化させて、前記既設地下構造物の姿勢及び挙動を安定化する工程と、前記既設地下構造物の押動量に応じて、前記既設地下構造物の上部を地上から解体する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
この既設地下構造物の撤去方法では、前記自硬性流体の圧入量を調節することにより前記既設地下構造物の押動量を制御し、前記既設地下構造物を押動させる工程、前記既設地下構造物を安定化する工程及び前記既設地下構造物を解体する工程を、この順に繰り返し行って、前記既設地下構造物を複数回に分けて解体することができる。
【0015】
また、前記既設地下構造物を押動させる工程の前に、前記既設地下構造物と地盤との間に、これらの間に生じる摩擦抵抗を低減する周面摩擦低減材を注入してもよい。
【0016】
更に、前記周面摩擦低減材を注入する前に、前記既設地下構造物の側壁と地盤との間に水を注入し、前記側壁の外面と地盤面との間に生じる摩擦抵抗を一時的に低減することもできる。その際、前記既設地下構造物の底盤と地盤との間にも水を注入し、前記底盤の外面と地盤面との間に生じる摩擦抵抗を一時的に低減してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、地下構造物の下方に自硬性流体を注入することにより地下構造物を上方に押動させ、自硬性流体が硬化した後で地下構造物の上部を解体撤去するため、大規模又は特殊な機器類の設置が不要となり、安価な材料及び設備により、少ない施工用地で複雑な施工管理を伴わずに、安定的挙動の下で撤去対象の地下構造物を解体・撤去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、比較的規模が大きい地下構造物を解体・撤去する場合を例にして、図面を参照しながら説明する。図1は本実施形態の既設地下構造物の撤去方法を示すフローチャート図である。図1に示すように、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法においては、先ず、準備段階として、地下構造物に中空部(以下、中升という。)が形成され、その内部に荷重水が貯められている場合は、この荷重水を排水し(ステップS1)、更に、地下構造物の外面と地盤面との間に生じる摩擦を一時的に低減させる(ステップS2)。次に、地下構造物の底盤を穿孔し、摩擦低減材及び自硬性流体を注入するための注入管を建て込む(ステップS3)。そして、この注入管から地下構造物の外面と地盤面との間に摩擦低減材を注入した後(ステップS4)、注入管から地下構造物の下方に自硬性流体を圧入し、その注入圧力により地下構造物を上方に押し上げる(ステップS5)。次に、注入した自硬性流体が硬化した後、地下構造物の地上まで押し上げられた部分を解体する(ステップS6)。引き続き、ステップS5の自硬性流体圧入工程及びステップS6の解体工程を繰り返し施工し(ステップS7)、地下構造物の全ての解体・撤去が終了した後、整地する(ステップS8)。以下、上述した各工程について詳細に説明する。
【0019】
ステップS1:中升排水(準備)
図2は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における中升排水工程(ステップS1)を示す断面図である。図2に示すように、地下構造物2aは、地下室のような容器を目的として築造された場合はもちろん、基礎として構築されたものであっても、規模がある程度大きくなると、その内部は中実ではなく中升2dが形成される。この中升2dは、地下構造物2aが容器の場合には当然ながら空洞であるが、地下構造物2aが基礎として利用されていた場合には、その内部に地下水5bの水位と同レベルまで荷重水5aが注水される設計となる構造が多い。そこで、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法においては、撤去の準備工程として、地表面1a上に設置された排水ポンプ6aと、この排水ポンプ6aに連結された排水配管6bによって、中升2d内に貯溜されている荷重水5aを排水処理する。これにより、以降の工程において中升2dの内部からの作業が可能となると共に、地下構造物2aの全体重量を軽減することができる。
【0020】
ステップS2:周面摩擦低減(準備)
図3は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における周面摩擦低減工程(ステップS2)を示す断面図である。図3に示すように、この周面摩擦低減工程においては、地下構造物2aにおける地盤面と接触する周面の摩擦力を一旦低減させて、ステップS4において摩擦低減材を注入するための準備を整える。
【0021】
具体的には、地表面1a上に水7gが入れられた貯水タンク7eを設置し、この貯水タンク7eにバルブ8を介して導水配管7fの一方の端部を連結する。更に、導水配管7fの他方の端部には、高圧の発生を可能とする注入ポンプ7aを介して、先端にジェットノズル7cが取り付けられた注入配管7bを連結する。そして、バルブ8を開放し、注入ポンプ7aによって貯水タンク7e内の水7gを汲み上げ、導水配管7f及び注入配管7bを経由して、水7gをジェットノズル7cから地下構造物2aの側壁2bの全外面又はその一部の必要な面積に対して噴射する。これにより、側壁2bの外面と地盤面との周面摩擦を一時的に低減させることができる。
【0022】
また、地盤と地下構造物2aとの付着力が極めて大きい場合、又は地下構造物2aの構築深度が大きいために地上からの作業が非効率的であるか若しくは困難である場合は、例えば、地下構造物2aの中升2d内に穿孔機7dを設置し、この穿孔機7dを注入機として使用して、地下構造物2aの内部から地盤に向けて水を噴射してもよい。その場合、作業者9によって穿孔機7dを操作し、地下構造物2aの側壁2bを穿孔した後、引き続き穿孔機7dを注入機として使用し、穿孔機7dの注入管の先端に取り付けられたジェットノズル7cから地盤に向けて水7gを噴射する。
【0023】
更に、図3に示すように、地上からの作業と地下構造物2aの内部からの作業とを併用すると、施工時の効率及び精度をより高めることができる。なお、周面摩擦低減作業を地上から行うか、又は地下構造物2aの内部から行うかは、地下構造物2aの規模、地盤の性状、及び工期等から判断して適宜選択することができる。
【0024】
また、横断面の規模が大きい地下構造物2aの場合は、底盤2cの外面と地盤面との間についても同様に摩擦低減作業を行った方がよいこともある。その場合、例えば、図3に示す穿孔機7dにより、底盤2cをその表面に対して垂直方向に穿孔し(図示せず)、複数個所にわたって前述した方法と同様の方法で水7gの噴射作業を行う。一方、地上から作業する場合は、注入配管7bの先端に突設するジェットノズル7cの噴射方向を、予め鉛直下向きから水平方向に転換しておくことにより、効果的に作業を行うことができる。
【0025】
そして、この周面摩擦低減工程における作業終了時には、地下構造物2aの外面と地盤面との間に、一時的に周面摩擦低減層が形成される。ここで、「一時的に」としている理由は、この工程では、上述した一連の作業により地盤を水7gで攪拌し、地下構造物2aの周囲を高含水状態としているに過ぎず、長期的な摩擦低減効果の期待には乏しいためである。
【0026】
ステップS3:注入管建て込み
図4は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における注入管建て込み工程(ステップS3)を示す断面図である。摩擦低減材及び自硬性流体を地下構造物と地盤との間に注入するための注入機としては、例えば穿孔機7dを使用することができる。その場合、図4に示すように、地下構造物2aの底盤2c上に穿孔機7dを設置して、作業者9によって底盤2cを構造物2aが設置されている地盤面に対して垂直の方向に穿孔し、穿孔機7dの注入管を底盤2cに建て込む。なお、ステップS2において、地下構造物2aの底盤2cの下方に周摩擦低減層10を形成している場合は、その際に使用した穿孔機7d及び注入管をそのまま使用することができるため、この工程は省略することができる。
【0027】
ステップS4:摩擦低減材注入
図5は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における摩擦低減材注入工程(ステップS4)を示す断面図である。摩擦低減材注入工程においては、図5に示すように、ステップS2で形成した周面摩擦低減層10を安定的に長寿命化すると共に高耐力化し、地下構造物2aを上方に押し上げるためのステップを踏む。
【0028】
具体的には、先ず、地上設備として地表面1a上に、摩擦低減材となる泥水11aの濃度を調整する調整タンク(図示せず)に配管接続され、この調整タンクにおいて地下構造物2aが接触する地盤と置換しても崩壊しない程度の濃度に調整された泥水11aを収容する貯泥タンク7hを設置する。そして、注入配管7bにより、貯泥タンク7hとステップS3において地下構造物2a内に建て込んだ穿孔機7aの注入管とを配管接続する。その際、注入配管7bの途中に、バルブ8及び高圧の発生を可能とする注入ポンプ7aを配設する。なお、ここで使用する泥水11aは、例えばベントナイト泥水をはじめとする非自硬性流体を指し、地下構造物2aの表面と地盤面との摩擦低減材(滑材)として機能する。
【0029】
次に、バルブ8を開放し、注入ポンプ7aにより泥水11aを穿孔機7dに向けて圧送する。これにより、泥水11aが注入配管7b及び注入機7dを経由して、地下構造物2aの底盤2cの下方に送泥される。その後、送泥された泥水11aは、ステップS2において造成した周面摩擦低減層10を導水路として、地下構造物2aの底盤2cの下方から側壁2bの周囲に流入し、更に地下構造物2aの地盤と接触する全周面にわたって流動する。そして、最終的には地表面1aに余剰泥水11bの形で流出する。この地表面1aに流出した余剰泥水11bは、貯泥容量の不足が見込まれる場合には、別途ポンプを設備する等して調整タンクに戻し、再度所定の濃度に調整して泥水11aとして再利用することもでき、また、不要な場合には処分してもよい。
【0030】
上述した摩擦低減材注入工程における一連の作業が終了すると、ステップS2において造成した周面摩擦低減層10は、摩擦低減材として作用する泥水11aによって置換された状態(周面摩擦低減層10a)になり、送泥を停止した状況下においても周面摩擦の低減効果は長期化且つ高耐力化することとなる。
【0031】
なお、図4及び図5においては、周面摩擦低減層10,10aをある一定の層厚が確保されているように記載しているが、これは書類表記上の都合によるものであり、以下の図においても同様である。実際の周面摩擦低減層10,10aは、地下構造物2aの側壁2b及び底盤2cの外面に密着して存在し、厚さが1〜数十mm程度の泥水膜である。この周面摩擦低減層10,10aの層厚(膜厚)を必要以上に厚くすると、周面摩擦低減層10,10aによって生じる地下構造物2aの側方変位量が大きくなり、地下構造物2aが不安定となるため、周面摩擦低減層10,10aの厚さは、安定的に存在し、且つ後述する自硬性流体の圧入工程において地下構造物2aを押動させることができる範囲内で、できるだけ薄くすることが望ましい。
【0032】
ステップS5:自硬性流体圧入
図6は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における自硬性流体圧入工程(ステップS5)を示す断面図である。図6に示すように、自硬性流体圧入工程においては、ステップS4で造成された周面摩擦低減層10aの下部に自硬性流体12aを注入し、固化層12bを造成することにより、地下構造物2aの姿勢及び挙動を安定化する。
【0033】
具体的には、先ず、地上に固化材として作用する自硬性流体12aを貯溜する固化材タンク7iを設置する。そして、注入配管7bにより、固化材タンク7iとステップS3において地下構造物2a内に建て込んだ穿孔機7aの注入管とを配管接続する。このとき、図6に示すように、固化材タンク7iに連結した注入配管7bを、バルブ8を介して、ステップS4で設置した貯泥タンク7hの配管に配設された注入ポンプ7aに接続することもできる。その場合、バルブ8を操作して配管系統を切り替えることにより、地下構造物2aの下方に形成された周面摩擦低減層10aの下部に自硬性流体12aが注入されるようにする。なお、図6には、泥水11aを注入する配管系統と自硬性流体12aを注入する配管系統とが、一部共通である場合を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、もちろんこれらを完全に独立した単独注入ラインとして、全体で複数系統の注入設備を構築することもできる。
【0034】
そして、自硬性流体12aを注入ポンプ7aにより圧送し、注入配管7b及び注入機7dの注入管を経由して、周面摩擦低減層10aの最下部に注入する。このとき、泥水膜である周面摩擦低減層10aに極力損傷を与えることなく注入作業を進めるため、自硬性流体12aは緩速注入することが望ましい。また、自硬性流体12aとしては、例えばソイルモルタル及び流動化処理土等のように、周面摩擦低減層10aを形成する泥水11aよりも比重が大きな材料を使用する。
【0035】
上述した方法で自硬性流体12aを注入するに従い、周面摩擦低減層10aによる地下構造物の底盤2cの表面及び側壁2bの表面と地盤面との摩擦低減効果、並びに自硬性流体12aの注入による押圧力の発生によって、地下構造物2aは鉛直上方に向かって徐々に押動すると共に、地下構造物2aの下方に固化層12bが造成される。このとき、地下構造物2aの外周面に泥膜を形成する周面摩擦低減層10aの泥水11aも同時に押動し、地表面1aから余剰泥水11bとなって流出するが、その場合、前述の摩擦低減材注入工程(ステップS4)と同様の方法で処理すればよい。また、作業者9が、自硬性流体12aの注入量に応じて注入機7dの注入管を操作し、順次ステップダウンすることにより、周面摩擦低減層10aをより一層保護することができる。
【0036】
次に、地下構造物2aが上方に押動した距離、即ち、地下構造物リフト量HLが所定の値になった時点で、自硬性流体12aの注入を停止すると共に、バルブ8を操作して配管系統を泥水11aが収容された貯泥タンク7hに切り換える。そして、泥水11aにより、注入ポンプ7a、穿孔機(注入機)7dの注入管、及びこれらの間に配設された注入配管7b内に残留する自硬性流体12aを圧送し、固化層12bに注入する。その後、穿孔機(注入機)7dの注入管を地下構造物2aの内部まで引き上げることにより、機械設備内部の自硬性流体12aの全てを排出し、固着等による不具合を回避する。その際、一旦、地下構造物2a内から設備を撤去し、水等によりその内部を清掃することがより望ましい。また、自硬性流体12aの注入が完了した後で、泥水11aを再度地下構造物2aの周囲に形成された周面摩擦低減層10aに注入することにより、周面摩擦低減層10aの耐久性をより安定的且つ安全に確保することができる。
【0037】
上述した自硬性流体圧入工程における一連の作業の後、所定の時間が経過すると、固化層12bは地下構造物2aの支持地盤として充分な強度を発現し、地下構造物2aは極めて安定的な設置状態となる。このとき、地下構造物2aのリフト量と自硬性流体12aの注入量との関係は、地下構造物2aの周囲の地盤によって左右される部分もあるが、一般に、地下構造物リフト量HLと固化層12bの厚さ(固化層厚)HQとが略等しくなることから、自硬性流体12aの注入量を管理することにより、地下構造物リフト量HLも同時に管理することができ、その結果、施工管理面での省力化に繋がる。
【0038】
また、自硬性流体12aは、硬化後の固化層12bの強度が周辺地盤強度相当若しくはそれ以上となるように、予め配合の決定がなされており、これにより地盤崩壊を抑止することができる。更に、地下構造物2aの形状及び規模が主要因となって、後述する解体工程に要する時間が左右されるため、硬化時間についても自硬性流体12aの配合決定の要素として加味しておく必要がある。
【0039】
ステップS6:解体
図7は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における解体工程(ステップS6)を示す断面図である。なお、図7においては、前述した注入関連の設備については図示を省略している。図7に示すように、解体工程においては、地上の地盤面1a上に設置した破砕機13によって、地下構造物2aの側壁2bを地下構造物リフト量HL分だけ、解体破砕して撤去する。このとき、地下構造物2aは、ステップS5において底盤2cの下方に自硬性流体12aを注入して造成された固化層12bによって、極めて安定した状態に設置されているため、地上部に地下構造物2aを支持するための支保工等の設備を設置する必要がない。これにより、解体作業に頻用される大型重機等の施工性を著しく向上させることができると共に、安全性の向上及び作業工数の低減等の効果も得られる。
【0040】
また、基本的には、解体破砕した解体殻は、その都度運搬・搬出することになるが、地下構造物2aの重量規模が比較的軽量である場合については、中升2dに設備した注入機7d及び配管設備等の養生(防護)を充分に行った上で、中升2dの内部に解体殻を集積しておき、全ての作業が終了した時点で一括搬出するといった方法も採用することができる。なお、図7においては、解体に使用する設備としてブレーカ型の破砕機13を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、解体設備は、地下構造物2aの形状及び作業環境に合わせて適宜選択すればよく、破砕機13以外にも、例えば油圧式割岩機、発破及びワイヤソーイングマシン等を使用することができる。
【0041】
ステップS7:繰り返し施工
図8は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における繰り返し施工工程(ステップS7)を示す断面図である。本実施形態の既設地下構造物の撤去方法においては、自硬性流体12aを注入することにより固化層12bを造成し、地下構造物2aを上方に押動させる工程、及び地下構造物2aの地表面1aよりも高い位置において押し上げられた部分を解体する工程、即ち、ステップS5及びステップS6における一連の作業を繰り返し行う。
【0042】
具体的には、図8に示すように、先ず、第1回目の地下構造物2aの側壁2bの解体作業を終了した後、第1回目に造成した固化層12bの上に自硬性流体12aを注入し、第2回目の固化層12bを造成する。そして、第1回目と同様に地下構造物リフト量HLだけ地下構造物2aを上方に押動させる。その後、破砕機13によって、地下構造物2aの側壁2bの押し上げられた部分を解体撤去する。この第2回目の解体作業が終了した後、引き続き、第3回目の自硬性流体12aの注入・固化及び地下構造物2aの解体を行う。このように、ステップS5の自硬性流体圧入工程及びステップS6の解体工程を繰り返し施工することにより、地下構造物2aの側壁2bを解体撤去し、更に解体工程の最後の段階において底盤2cを解体撤去する。これにより、地下構造物2aが設置されていた部分に、厚さがHQの固化層12bが複数層積層形成される。
【0043】
ステップS8:整地
図9は本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における固化層造成段階の最終状態及び施工完了時の整地状況を示す断面図である。図9に示すように、整地工程においては、地下構造物2aの撤去が完了した後、地下構造物2aが設置されていた部分が地表面1aと同じ高さになるように、表土1dを埋め戻して整地する。ステップS7の繰り返し工程の終了後には、複数の固化層12bが積層され、全体では地下に一体化された厚さがΣHQの固化材仕上層12cが造成されるが、予め撤去後の用地の再利用が明確な場合は、その目的に応じて、例えば固化材仕上層12cの厚さΣHQを減じて埋め戻し土量を増やすことにより、円滑に用地の引き渡しを行うことが可能となる。
【0044】
上述の如く、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法においては、上部からの引き抜きによる方法に依存せず、地上に専用重機等の大型設備及び機材を設置する必要がないため、市街地等の施工用地の確保が困難な場所での施工が可能となる。また、対象となる既設地下構造物以外の埋設物等の地下施設の事前処理をする必要がなく、更に矢板等で土留め壁を仮設する必要もないことから、準備工程の費用、仮設資機材費及び仮設工事費の縮減が可能となる。加えて、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法においては、特殊な資機材及び高価な材料を使用せずに施工が可能であるため、工費の縮減のみならず資機材の調達も容易となる。更に、既設地下構造物を上方に移動(押動)させる過程においては、常に構造物の最下面が支持されているため、地下構造物2aの側部又は上部を支持する施工法に比べて安全性が優れており、また低騒音作業が可能となることから環境保全の面においても優れている。
【0045】
更にまた、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法においては、既設地下構造物の撤去と撤去後の地盤の埋め戻し工程とを同時に作業することが可能となるため、工数を低減することができ、施工管理が簡単化する他、施工中断等の不意の事象が発生しても、特別な措置を必要とすることなく作業環境を保全できる。更にまた、既設地下構造物の種類に依存することなく、基礎、容器、大型、小型、又は特殊形状の構造物を撤去することができ、適用可能範囲が広い。以上の効果により、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法によれば、従来の技術以上に安全で且つ適用範囲が広い既設地下構造物の撤去作業が可能となる。
【0046】
なお、地上部に充分な施工用地を確保でき、更に注入ポンプ7aの注入圧力が設計に満たない場合は、例えば地上部にクレーン等を設置し、補助的に上部からの引き抜きを併用することにより、地下構造物2aを容易に撤去可能となる。このように、上述した工法と引き抜き工法とを併用することにより、地下構造物2aの傾斜修正も可能になるため、地盤沈下等によって沈下及び/又は傾斜した既設地下構造物の撤去にも適用することができる。
【0047】
また、本実施形態においては、既設地下構造物の規模及び形状に依存せず解体撤去が可能となる旨を前記したが、例えばニューマチックケーソンのような躯体最下部に中埋めコンクリートが充填されており、本体構造物との付着力低下が見込まれる場合をはじめとして、構造物の側壁同士又は側壁部と底盤部との接合状態に強度不足が懸念される場合等、また地下構造物築造に際し矢板等による仮設の土留め壁を残置する物件等のように、基礎構造物又は基礎構造物とこの構造物の付帯構造物との間に一体性の欠如が想定される場合については、構造物の相互をアンカー締結する等の既往技術による方法をもって一体的な構造とすることにより、本技術の適用がより有効なものとなる。
【0048】
なお、上述した中升排水工程(ステップS1)及び周面、摩擦低減工程(ステップS2)は、必要に応じて実施すればよく、また、本実施形態の既設地下構造物の撤去方法の構成を適宜設計変更して実施することは、本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法を示すフローチャート図である。
【図2】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における中升排水工程(ステップS1)を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における周面摩擦低減工程(ステップS2)を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における注入管建て込み工程(ステップS3)を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における摩擦低減材注入工程(ステップS4)を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における自硬性流体圧入工程(ステップS5)を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における解体工程(ステップS6)を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における繰り返し施工工程(ステップS7)を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態の既設地下構造物の撤去方法における固化層造成段階の最終状態及び施工完了時の整地状況を示す断面図である。
【図10】(A)〜(C)は従来の地下構造物の撤去方法の代表例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1a 地盤面(地表面)
1b 地盤面(掘削面)
1c 地盤面(法面)
1d 表土
2a 地下構造物
2b 地下構造物(側壁)
2c 地下構造物(底盤)
2d 中升
3 鋼矢板
4 破砕剤
5a 荷重水
5b 地下水位
6a 排水ポンプ
6b 排水配管
7a 注入ポンプ
7b 注入配管
7c ジェットノズル
7d 穿孔機(注入機)
7e 貯水タンク
7f 導水配管
7g 水
7h 貯泥タンク
7i 固化材タンク
8 バルブ
9 作業者
10,10a 周面摩擦低減層
11a 泥水
11b 余剰泥水
12a 自硬性流体
12b 固化層
12c 固化材仕上層
13 破砕機
HL 地下構造物リフト量
HQ 固化材層厚
ΣHQ 固化材仕上層厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設地下構造物の底盤とこの既設地下構造物の下方に位置する地盤との間に自硬性流体を圧入して、前記既設地下構造物を上方に押動させる工程と、
前記自硬性流体を硬化させて、前記既設地下構造物の姿勢及び挙動を安定化する工程と、
前記既設地下構造物の押動量に応じて、前記既設地下構造物の上部を地上から解体する工程とを有することを特徴とする既設地下構造物の撤去方法。
【請求項2】
前記自硬性流体の圧入量を調節することにより前記既設地下構造物の押動量を制御し、前記既設地下構造物を押動させる工程、前記既設地下構造物を安定化する工程及び前記既設地下構造物を解体する工程を、この順に繰り返し行って、前記既設地下構造物を複数回に分けて解体することを特徴とする請求項1に記載の既設地下構造物の撤去方法。
【請求項3】
前記既設地下構造物を押動させる工程の前に、前記既設地下構造物と地盤との間に、これらの間に生じる摩擦抵抗を低減する周面摩擦低減材を注入することを特徴とする請求項1又は2に記載の既設地下構造物の撤去方法。
【請求項4】
前記周面摩擦低減材を注入する前に、前記既設地下構造物の側壁と地盤との間に水を注入し、前記側壁の外面と地盤面との間に生じる摩擦抵抗を一時的に低減することを特徴とする請求項3に記載の既設地下構造物の撤去方法。
【請求項5】
更に、前記周面摩擦低減材を注入する前に、前記既設地下構造物の底盤と地盤との間にも水を注入し、前記底盤の外面と地盤面との間に生じる摩擦抵抗を一時的に低減することを特徴とする請求項4に記載の既設地下構造物の撤去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−177447(P2007−177447A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375342(P2005−375342)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(391035795)株式会社白石 (15)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】