説明

既設建物の耐震補強構造、及び既設建物の耐震補強工法

【課題】間柱を設置して既設建物を補強する際に、上階や下階からの作業を不要として、作業者の負担の軽減等を図る。
【解決手段】間柱3は水平部31と垂下部32とから構成されていて、該水平部31は天井側の梁23に剛結され、垂下部32は、床スラブ21の上面側から該スラブ21の上面21aに結合されるように構成されている。したがって、それら水平部31の剛結及び垂下部32の結合は、間柱3を設置しようとする階の作業だけで行うことができ、上階や下階からの作業が不要となるので、作業者の負担及び上階や下階の居住者の負担を軽減等することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間柱を使って既設建物を補強する、既設建物の耐震補強構造、及び既設建物の耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設建物(例えば、複数階層の集合住宅やオフィスビル)に間柱を設置して耐震補強をする構造や工法については、種々のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は、既設建物の耐震補強構造の従来例を示す図であり、符号221は、各階の床スラブを示し、符号222は、該床スラブ221に立設された柱(既設柱)を示し、符号223は、該柱222に架け渡された梁を示す。そして、符号203は、耐震補強のために設けられた間柱を示す。この間柱203の上端は、天井側の梁223や上階の床スラブ221を貫通するように設けた定着具241によって固定され、該間柱203の下端は、その階の床スラブ221や下階の梁223を貫通するように設けた定着具242によって固定されている。なお、符号203aは、水平変位の減衰のために設けられたダンパである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−126830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の構成のものでは、定着具241,242が各階を貫通するように設けられているため、ある階に間柱203を設置する場合であっても、上階の側からの作業と、下階の側からの作業を必要とし、作業負担が増えると共に、上階居住者や下階の居住者に迷惑を掛けてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の問題を解消することのできる既設建物の耐震補強構造、及び既設建物の耐震補強工法を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、図1及び図2に例示するものであって、床スラブ(21)と、該床スラブ(21)に立設される2本の柱(以下、「既設柱」とする)と(22)、該2本の既設柱(22)に架け渡されて前記床スラブ(21)に対向するように該床スラブ(21)の上方に配置される梁(23)と、を備えた既設建物(2)を補強する、既設建物の耐震補強構造(1)において、
前記梁(23)の一部であって、前記2本の既設柱(22)の間に位置して前記床スラブ(21)に対向する部分(23a)を「梁中間部」と定義した場合に、
該梁中間部(23a)に沿って略水平に延設される水平部(31)と、該水平部(31)から前記床スラブ(21)の近傍まで垂下される垂下部(32)と、を有する間柱(3)と、
前記水平部(31)を前記梁中間部(23a)に剛結する水平部結合部材(41)と、
前記垂下部(32)を前記床スラブ(21)の上面(21a)に結合する垂下部結合部材(42,142)と、
を備え、
該垂下部結合部材(42,142)は、前記床スラブ(21)の上面側に配置されて、前記垂下部(32)の前記床スラブ(21)への結合を該床スラブ(21)の上面側にて行えるように構成されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記水平部結合部材(41)による前記水平部(31)の前記梁中間部(23a)への剛結は、該水平部(31)と該梁中間部(23a)とを接触させた状態、又は該水平部(31)と該梁中間部(23a)との間に他の部材(以下、「梁側介装部材」とする。不図示。)を介装させた状態で行われ、
前記垂下部結合部材(42,142)による前記垂下部(32)の前記床スラブの上面(21a)への結合は、該垂下部(32)と該床スラブの上面(21a)とを接触させた状態、又は該垂下部(32)と該床スラブ(21)の上面(21a)との間に他の部材(以下、「床スラブ側介装部材」とする。不図示。)を介装させた状態で行われたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記垂下部結合部材及び前記水平部結合部材(41)はアンカーボルトであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記垂下部(32)は、前記垂下部結合部材によって前記床スラブ側介装部材又は前記床スラブ(21)にピン結合されたことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記床スラブ(21)に立設された壁部材(図3(a) (b) の符号5、及び図4の符号15参照)の少なくとも一部の壁面(図3(b) の符号5a、及び図4の符号15a参照)が前記梁中間部(23a)の下方又は該下方の近傍に配置され、
前記間柱(3)は、前記垂下部(32)が前記壁部材(5,15)の前記壁面(5a,15a)に沿って垂下されるように配置されたことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の発明において、前記垂下部(32)の下端部近傍が前記垂下部結合部材によって前記壁部材(5,15)の前記壁面(5a,15a)に結合されることにより、該垂下部(32)が該壁部材(5,15)を介して前記床スラブ(21)の上面(21a)に結合されるように構成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、床スラブ(21)と、該床スラブ(21)に立設される2本の柱(以下、「既設柱」とする)(22)と、該2本の既設柱(22)に架け渡されて前記床スラブ(21)に対向するように該床スラブ(21)の上方に配置される梁(23)と、を備えた既設建物(2)を補強する、既設建物の耐震補強工法において、
前記梁(23)の一部であって、前記2本の既設柱(22)の間に位置して前記床スラブ(21)に対向する部分(23a)を「梁中間部」と定義した場合に、
略水平に延設される水平部(31)と該水平部(31)から垂下される垂下部(32)とからなる間柱(3)を、前記水平部(31)が前記梁中間部(23a)に沿うと共に前記垂下部(32)の下端が前記床スラブ(21)の近傍に位置するように配置する工程と、
前記水平部(31)を前記梁中間部(23a)に剛結する工程と、
前記垂下部(32)を、前記床スラブ(21)の上面側から該床スラブ(21)の上面(21a)に結合する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の発明において、前記水平部(31)の前記梁中間部(23a)への剛結は、該水平部(31)と該梁中間部(23a)とを接触させた状態、又は該水平部(31)と該梁中間部(23a)との間に他の部材(以下、「梁側介装部材」とする)を介装させた状態で行い、
前記垂下部(32)の前記床スラブ(21)の上面(21a)への結合は、該垂下部(32)と該床スラブ(21)の上面(21a)とを接触させた状態、又は該垂下部(32)と該床スラブ(21)の上面(21a)との間に他の部材(以下、「床スラブ側介装部材」とする)を介装させた状態で行うことを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項7又は8に記載の発明において、少なくとも一部の壁面(図3(b) の符号5a、及び図4の符号15a参照)が前記梁中間部(23a)の下方又は該下方の近傍に配置されるように壁部材(図3(a) (b)
の符号5、及び図4の符号15参照)が前記床スラブ(21)に立設された場合において、該壁面(5a,15a)に沿って前記垂下部(32)が垂下されるように前記間柱(3)を配置することを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項9に係る発明において、前記垂下部(32)の下端部近傍を前記壁部材(5,15)の前記壁面(5a,15a)に結合することにより、該垂下部(32)が該壁部材(5,15)を介して前記床スラブ(21)の上面に結合されるようにしたことを特徴とする。
【0017】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
請求項1乃至3、7及び8に係る発明によれば、前記間柱の設置によって既設建物の耐震強度を高めることができる。また、本発明によれば、前記垂下部結合部材(つまり、前記床スラブの上面に前記垂下部を結合するための部材)が、前記床スラブの上面側に配置されていて、該結合を該床スラブの上面側にて行えるように構成されているので、
・ 前記水平部を前記梁中間部に剛結する作業、及び
・ 前記垂下部を前記床スラブの上面に結合する作業
の両方の作業を、いずれも、前記間柱を設置する居住空間から行うことができる。このため、上階(つまり、前記間柱を設置する居住空間の上の階)での作業や、下階(つまり、前記間柱を設置する居住空間の下の階)での作業を不要として、作業者の負担を軽減できると共に、上階や下階の居住者に負担や迷惑を掛けることも無いという効果を奏する。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、前記垂下部と前記床スラブとの結合をピン結合とすることで、該結合作業が簡単となり、作業負担を軽減することができる。
【0020】
請求項5,6,9及び10に係る発明によれば、該壁部材と前記既設柱との間の開口(例えば、室内とベランダとをつなぐ開口)に前記間柱が配置されることは無いので、既存の動線(つまり、該開口を通り抜けるという動線)を維持できる。また、前記垂下部が前記壁部材に隠されることとなるので、居住者が感じる圧迫感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る、既設建物の耐震補強構造の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係る、既設建物の耐震補強構造の他の例を示す斜視図である。
【図3】図3(a) は、本発明に係る、既設建物の耐震補強構造のさらに他の例を示す正面図であり、同図(b)は、その断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る、既設建物の耐震補強構造のさらに他の例を示す斜視図である。
【図5】図5(a)(b) は、間柱の形状の一例を示す正面図である。
【図6】図6(a)(b) (c) は、梁や既設柱の曲げモーメント等を示す図である。
【図7】図7は、既設建物の耐震補強構造の従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1乃至図6に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
本発明に係る、既設建物の耐震補強構造は、図1に符号1で例示するものであって、
・ 床スラブ21と、
・ 該床スラブ21に立設される2本の柱(以下、「既設柱」とする)22と、
・ 該2本の既設柱22に架け渡されて前記床スラブ21に対向するように該床スラブ21の上方に配置される梁23と、
を備えた既設建物2を補強する構造である。
【0024】
ここで、前記梁23の一部であって、前記2本の既設柱22の間に位置して前記床スラブ21に対向する部分23aを「梁中間部」と定義すると、本発明に係る耐震補強構造1は、
・ 該梁中間部23aに沿って略水平に延設される水平部31と、
・ 該水平部31から前記床スラブ21の近傍まで垂下される垂下部32と、
を有する間柱3を備えている。そして、前記水平部31は、前記梁中間部23aとの間で曲げモーメントが伝達されるように水平部結合部材41によって前記梁中間部23aに剛結されており、前記垂下部32は、垂下部結合部材42によって前記床スラブ21の上面21aに結合されている。さらに、この垂下部結合部材42は、前記床スラブ21の上面側に配置されていて、前記垂下部32の前記床スラブ21への結合を該床スラブ21の上面側にて行えるように構成されている。
【0025】
この場合、前記水平部結合部材41による前記水平部31の前記梁中間部23aへの剛結は、
・ 該水平部31と該梁中間部23aとを接触させた状態、又は
・ 該水平部31と該梁中間部23aとの間に他の部材(不図示。以下、「梁側介装部材」とする)を介装させた状態
のいずれかで行うと良い。また、前記垂下部結合部材42による前記垂下部32の前記床スラブ21の上面21aへの結合は、
・ 該垂下部32と該床スラブ21の上面21aとを接触させた状態、又は
・ 該垂下部32と該床スラブ21の上面21aとの間に他の部材(不図示。以下、「床スラブ側介装部材」とする)を介装させた状態
のいずれかで行うと良い。ここで、前記梁側介装部材としては、板状の部材や公知の部材を挙げることができる。また、前記床スラブ側介装部材としては、板状の部材や公知の部材を挙げることができる。
【0026】
ところで、前記垂下部結合部材42は、地震発生時に前記梁23から前記水平部31に曲げモーメントが伝達されたとしても前記垂下部32(正確には、該垂下部32の下端部)が矢印Fで示す方向に前記床スラブ21の上面21aに沿って移動しないように該垂下部32を結合するものであれば良い。図1に示す垂下部結合部材42は、前記垂下部32と前記既設柱22との間に配置された棒状部材であるが、もちろんこれに限られるものではなく、例えば、該垂下部結合部材を、
・ 図2に符号142で示すように、床スラブ21に固定されて前記垂下部32の移動を規制するような部材としても、或いは、
・ アンカーボルト等の公知の部材として、
どちらでも良い。また、垂下部結合部材によって、前記垂下部32を前記床スラブ側介装部材又は前記床スラブ21にピン結合(つまり、せん断力のみが伝達されて曲げモーメントが伝達されないような結合)するようにしても良く、或いは曲げモーメントが多少は伝達される程度の簡単な結合(剛結)としても良い。地震発生時に前記垂下部32(正確には、該垂下部32の下端部)が前記床スラブ21の上面に沿って移動しなければ、前記梁中間部23aの曲げモーメントは低減されずに建物の剛性を高めて、該建物の耐震補強をすることができる。また、前記垂下部32と前記床スラブ21との結合をピン結合又は簡単な結合とすることで、該結合作業が簡単となり、作業負担を軽減することができる。なお、該間柱3を、室内とベランダとの境界部分に配置する場合は、符号41や符号42に示す垂下部結合部材はベランダ側開口(図3(a) の符号A参照)の下縁に配置されることとなるが、該開口Aを出入りする人が躓かないようにそれらの垂下部結合部材を低くしておくと良い。
【0027】
また、上述の水平部結合部材41としてはアンカーボルト等の公知の結合部材を挙げることができる。
【0028】
本発明によれば、前記間柱3の設置によって既設建物の耐震強度を高めることができる。
【0029】
ところで、上述の既設柱22は、住戸と住戸との境界部分に立設されているのが一般的であり、該既設柱22の近傍(ベランダ側)には避難用のパーティション(不図示)が配置されているのが一般的である。このような構成の既設建物2において、仮に、上述の間柱3を該既設柱22に沿って配置しようとすると避難経路が狭くなって好ましくない。これに対し、本発明によれば、前記間柱3は、前記2本の既設柱22の間に位置する梁中間部23aから垂下されるように配置されているため、住戸と住戸との境界部分の避難経路が狭くなることが無く、安全上も好ましい。
【0030】
さらに、本発明によれば、前記垂下部結合部材42(つまり、前記床スラブ21の上面21aに前記垂下部32を結合するための部材)が、前記床スラブ21の上面側に配置されていて、該結合を該床スラブ21の上面側にて行えるように構成されているので、
・ 前記水平部31を前記梁中間部23aに剛結する作業、及び
・ 前記垂下部32を前記床スラブ21の上面21aに結合する作業
の両方の作業を、いずれも、前記間柱3を設置する居住空間から行うことができる。このため、上階(つまり、前記間柱3を設置する居住空間の上の階)での作業や、下階(つまり、前記間柱3を設置する居住空間の下の階)での作業を不要として、作業者の負担を軽減できると共に、上階や下階の居住者に負担や迷惑を掛けることも無いという効果を奏する。
【0031】
ここで、少なくとも一部の壁面が前記梁中間部23aの下方又は該下方の近傍に配置されるように、前記床スラブ21に壁部材が立設されている場合について説明する。例えば、
・ 図3(a)
(b) に示すように、ベランダ側開口Aを仕切る方立壁5の壁面5aが前記梁中間部23aの下方又は該下方の近傍に配置されている場合、或いは、
・ 図4に示すように、部屋と部屋とを仕切る仕切り壁15の側端壁15aが前記梁中間部23aの下方又は該下方の近傍に配置されている場合
には、前記垂下部32が前記壁面5a、5aに沿って垂下されるように前記間柱3を配置すると良い。そのようにした場合には、該壁部材5,15と前記既設柱22との間の開口(例えば、図3(a) に符号Aで示すような、室内とベランダとをつなぐ開口)に前記間柱3が配置されることは無いので、既存の動線(つまり、該開口Aを通り抜けるという動線)を維持できる。また、前記垂下部32が前記方立壁5や前記仕切壁15に隠されることとなるので、居住者が感じる圧迫感を低減することができる。
【0032】
さらに、上述のように間柱3(前記垂下部32)を前記壁部材5,15の前記壁面5a,15aに沿って配置する場合には、該垂下部32の下端部近傍を前記垂下部結合部材(例えば、アンカーボルト)によって該壁部材5,15の前記壁面5a,15aに結合すると良い。なお、該垂下部32と該壁部材5,15との間に隙間が生じてしまうような場合にはそれらの間に板状の部材(図3(b) の符号6参照)を挟んで該垂下部32を該壁部材5,15に固定するようにすると良い。
【0033】
ところで、図1乃至4に示す間柱3の形状(正面から見た形状)は、前記水平部31と前記垂下部32とによって形成されたT字形であるが(図5(a) 参照)、もちろんこれに限られるものではなく、図5(b) に示すような形状としても良い。
【0034】
一方、本発明に係る、既設建物の耐震補強工法は、
・ 床スラブ21と、
・ 該床スラブ21に立設される2本の既設柱22と、
・ 該2本の既設柱22に架け渡されて前記床スラブ21に対向するように該床スラブ21の上方に配置される梁23と、
を備えた既設建物2を補強する工法である。そして、該工法は、略水平に延設される水平部31と該水平部31から垂下される垂下部32とからなる間柱3を配置する工程を備えている。その配置は、前記水平部31が前記梁中間部23a(つまり、前記梁23の一部であって、前記2本の既設柱22の間に位置して前記床スラブ21に対向する部分23a)に沿うと共に前記垂下部32の下端が前記床スラブ21の近傍に位置するように行われる。さらに、本発明に係る耐震補強工法は、
・ 前記水平部31を前記梁中間部23aに剛結する工程と、
・ 前記垂下部32を、前記床スラブ21の上面側から該床スラブ21の上面21aに結合する工程と、
を備えている。
【0035】
この場合、前記水平部31の前記梁中間部23aへの剛結は、
・ 該水平部31と該梁中間部23aとを接触させた状態、又は
・ 該水平部31と該梁中間部23aとの間に前記梁側介装部材(不図示)を介装させた状態
のいずれかで行うと良い。また、前記垂下部32の前記床スラブ21の上面21aへの結合は、
・ 該垂下部32と該床スラブ21の上面21aとを接触させた状態、又は
・ 該垂下部32と該床スラブ21の上面21aとの間に前記床スラブ側介装部材(不図示)を介装させた状態
のいずれかで行うと良い。ここで、前記梁側介装部材としては、板状の部材や公知の部材を挙げることができる。また、前記床スラブ側介装部材としては、板状の部材や公知の部材を挙げることができる。
【0036】
ここで、少なくとも一部の壁面が前記梁中間部23aの下方又は該下方の近傍に配置されるように、前記床スラブ21に壁部材が立設されている場合について説明する。例えば、
・ 図3(a)
(b) に示すように、ベランダ側開口Aを仕切る方立壁5の壁面5aが前記梁中間部23aの下方又は該下方の近傍に配置されている場合、或いは、
・ 図4に示すように、部屋と部屋とを仕切る仕切り壁15の側端壁15aが前記梁中間部23aの下方又は該下方の近傍に配置されている場合
には、前記垂下部32が前記壁面5a、5aに沿って垂下されるように前記間柱3を配置すると良い。そのようにした場合には、該壁部材5,15と前記既設柱22との間の開口(例えば、図3(a) に符号Aで示すような、室内とベランダとをつなぐ開口)に前記間柱3が配置されることは無いので、既存の動線(つまり、該開口Aを通り抜けるという動線)を維持できる。また、前記垂下部32が前記方立壁5や前記仕切壁15に隠されることとなるので、居住者が感じる圧迫感を低減することができる。
【0037】
さらに、上述のように間柱3(前記垂下部32)を前記前記壁部材5,15の前記壁面5a,15aに沿って配置する場合には、該垂下部32の下端部近傍を前記垂下部結合部材(例えば、アンカーボルト)によって該壁部材5,15の前記壁面5a,15aに結合すると良い。
【0038】
以下、前記梁23や前記既設柱22等にかかるせん断力や曲げモーメントについて説明する。
【0039】
所定の大きさの地震が発生した場合に1本の既設柱22に生じるせん断力をQcとすると、2本の既設柱22に関し、
【数1】

となる場合に、上述のような耐震補強が必要とされる。上述のように間柱3を設置した場合であって、地震発生時において該間柱3に生じるせん断力Qaが下記関係式を満足する場合には、該間柱3による補強は有効であるということになる。
【数2】

【0040】
この場合のせん断力Qaは、前記水平部結合部材41及び前記垂下部結合部材42等を介して既設建物2に伝達され、既設建物2の耐力は、前記間柱3を1本設置するごとに前記Qaだけ増加することとなる。ここで、該間柱3を設置していない場合における前記梁23のせん断力をQb1とし(図6(a) 参照)、該間柱3を設置している場合における前記梁23のせん断力をQb2とすると(同図(b) 参照)、該間柱3の設置により梁23のスパンが短くなるので、Qb2>Qb1となる。既設の梁23が保有するせん断耐力Qbuが前記Qb2よりも大きい場合には、前記既設柱22及び前記間柱3がせん断耐力に達する前に前記梁23がせん断耐力に達することはない。
【0041】
また、地震発生時における梁23の曲げモーメント分布は、前記間柱3を設置していない場合には図6(a) に符号M1で示すようになり、梁23の端部では曲げモーメントが大きくなり(M1max参照)、梁23に生じるせん断力はQb1になる。これに対し、本発明では、前記2本の既設柱22の間に位置する梁中間部23aに前記間柱3(具体的には、前記水平部31)を剛結しているため、梁23の曲げモーメント図は図6(b)
に符号M2で示すようになり、梁23に生じるせん断力はQb2になる。つまり、本発明は前記梁23のせん断力(Qb2)が保有耐力(Qbu)を超えない範囲において、新設した間柱3の水平耐力(間柱3の本数分の水平耐力)を層の水平耐力に付加することで、その層の耐力を高めるようにしたものである。
【0042】
一方、前記間柱3の、地震発生時における曲げモーメント分布は、前記垂下部結合部材42による結合がピン結合であるか剛結であるかによって異なり、ピン結合の場合は図6(b) に符号M3で示すようになり、剛結の場合は図6(c) に符号M4で示すようになる。なお、該間柱3をピン結合する場合の結合強度は前記せん断力Qaを考慮して決定し、前記間柱3を剛結する場合の結合強度は前記せん断力Qa及び前記曲げモーメントM4を考慮して決定すれば良い。
【符号の説明】
【0043】
1 耐震補強構造
2 既設建物
3 間柱
5 壁部材(方立壁)
5a 壁部材の壁面
15 壁部材(仕切り壁)
15a 壁部材の壁面(仕切り壁の側端壁)
21 床スラブ
21a 前記床スラブの上面
22 既設柱
23 梁
23a 梁中間部
31 水平部
32 垂下部
41 水平部結合部材
42 垂下部結合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床スラブと、該床スラブに立設される2本の柱(以下、「既設柱」とする)と、該2本の既設柱に架け渡されて前記床スラブに対向するように該床スラブの上方に配置される梁と、を備えた既設建物を補強する、既設建物の耐震補強構造において、
前記梁の一部であって、前記2本の既設柱の間に位置して前記床スラブに対向する部分を「梁中間部」と定義した場合に、
該梁中間部に沿って略水平に延設される水平部と、該水平部から前記床スラブの近傍まで垂下される垂下部と、を有する間柱と、
前記水平部を前記梁中間部に剛結する水平部結合部材と、
前記垂下部を前記床スラブの上面に結合する垂下部結合部材と、
を備え、
該垂下部結合部材は、前記床スラブの上面側に配置されて、前記垂下部の前記床スラブへの結合を該床スラブの上面側にて行えるように構成された、
ことを特徴とする、既設建物の耐震補強構造。
【請求項2】
前記水平部結合部材による前記水平部の前記梁中間部への剛結は、該水平部と該梁中間部とを接触させた状態、又は該水平部と該梁中間部との間に他の部材(以下、「梁側介装部材」とする)を介装させた状態で行われ、
前記垂下部結合部材による前記垂下部の前記床スラブの上面への結合は、該垂下部と該床スラブの上面とを接触させた状態、又は該垂下部と該床スラブの上面との間に他の部材(以下、「床スラブ側介装部材」とする)を介装させた状態で行われた、
ことを特徴とする請求項1に記載の、既設建物の耐震補強構造。
【請求項3】
前記垂下部結合部材及び前記水平部結合部材はアンカーボルトである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の、既設建物の耐震補強構造。
【請求項4】
前記垂下部は、前記垂下部結合部材によって前記床スラブ側介装部材又は前記床スラブにピン結合された、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の、既設建物の耐震補強構造。
【請求項5】
前記床スラブに立設された壁部材の少なくとも一部の壁面が前記梁中間部の下方又は該下方の近傍に配置され、
前記間柱は、前記垂下部が前記壁部材の前記壁面に沿って垂下されるように配置された、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の、既設建物の耐震補強構造。
【請求項6】
前記垂下部の下端部近傍が前記垂下部結合部材によって前記壁部材の前記壁面に結合されることにより、該垂下部が該壁部材を介して前記床スラブの上面に結合されるように構成された、
ことを特徴とする請求項5に記載の、既設建物の耐震補強構造。
【請求項7】
床スラブと、該床スラブに立設される2本の柱(以下、「既設柱」とする)と、該2本の既設柱に架け渡されて前記床スラブに対向するように該床スラブの上方に配置される梁と、を備えた既設建物を補強する、既設建物の耐震補強工法において、
前記梁の一部であって、前記2本の既設柱の間に位置して前記床スラブに対向する部分を「梁中間部」と定義した場合に、
略水平に延設される水平部と該水平部から垂下される垂下部とからなる間柱を、前記水平部が前記梁中間部に沿うと共に前記垂下部の下端が前記床スラブの近傍に位置するように配置する工程と、
前記水平部を前記梁中間部に剛結する工程と、
前記垂下部を、前記床スラブの上面側から該床スラブの上面に結合する工程と、
を備えたことを特徴とする、既設建物の耐震補強工法。
【請求項8】
前記水平部の前記梁中間部への剛結は、該水平部と該梁中間部とを接触させた状態、又は該水平部と該梁中間部との間に他の部材(以下、「梁側介装部材」とする)を介装させた状態で行い、
前記垂下部の前記床スラブの上面への結合は、該垂下部と該床スラブの上面とを接触させた状態、又は該垂下部と該床スラブの上面との間に他の部材(以下、「床スラブ側介装部材」とする)を介装させた状態で行う、
ことを特徴とする請求項7に記載の、既設建物の耐震補強工法。
【請求項9】
少なくとも一部の壁面が前記梁中間部の下方又は該下方の近傍に配置されるように壁部材が前記床スラブに立設された場合において、該壁面に沿って前記垂下部が垂下されるように前記間柱を配置する、
ことを特徴とする請求項7又は8記載の、既設建物の耐震補強工法。
【請求項10】
前記垂下部の下端部近傍を前記壁部材の前記壁面に結合することにより、該垂下部が該壁部材を介して前記床スラブの上面に結合されるようにした、
ことを特徴とする請求項9に記載の、既設建物の耐震補強工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−193557(P2012−193557A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58911(P2011−58911)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(511069998)株式会社クライン建築研究所 (1)
【出願人】(511070008)
【Fターム(参考)】