説明

既設構築物の耐震補強工法

【課題】施工を合理化して工期を短縮し、施工者や発注者の経済性の向上、既設構築物の供用者の良好な利用の早期回復を図ることができる既設構築物の耐震補強工法を提供する。
【解決手段】 耐震補強すべき既設構築物に形成される開口103内に耐震補強架構2を配置すると共に、耐震補強架構2の周縁と開口103の周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠3・3を配置し、耐震補強架構2に着脱自在な挟持で取り付けられる型枠固定治具5で型枠3を押圧して保持する第1工程と、固結材6として、練り上がりから凝結開始までの時間が1時間以上で、且つ圧縮強度が少なくとも練り上がりからの材齢12時間で5N/mm以上の材料を用い、型枠3・3内に充填する第2工程と、充填した固結材6の所定硬度への到達に応じて、型枠保持治具5を取り外して型枠3を撤去する第3工程と、型枠3の撤去後に固結材6の養生を継続する第4工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄筋コンクリート構築物等の既設構築物の耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートの既設構築物を耐震補強する工法として、柱と梁によって構成される開口内に鉄骨枠付ブレースのような耐震補強架構を据え付ける工法が知られている。この耐震補強架構を開口内に据え付ける場合には、開口内の所定位置に耐震補強架構を仮固定し、耐震補強架構の周囲と柱や梁との間に型枠を設置し、グラウト材を注入して行う。グラウト材には、品質や施工性等を考慮して、セメント系無収縮モルタルを使用するのが一般的である。
【0003】
この無収縮モルタルとその施工は、耐震補強架構と既設構築物とを連結して一体化する重要なものであるため、通常は非特許文献1、2のように、所定品質のものが所定の施工監理状態で施工される。非特許文献1においては、無収縮モルタルの湿潤養生期間はひび割れ防止のために5〜7日程度とされる。非特許文献2においては、型枠の取り外しはグラウト材である無収縮モルタルが十分に硬化し、かつ型枠による膨張圧の拘束が不要になってから行うとされ、その養生期間は3日間が標準とされている。尚、本件出願に関連する他の先行技術文献として特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4086969号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】建築改修工事監理指針 平成19年版 下巻(発行:財団法人建築保全センター)
【非特許文献2】耐震改修設計指針 2001年(発行:財団法人日本建築防災協会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固結材であるグラウト材の注入作業には、型枠の組立が必須であり、木製型枠の場合にはサンギを当ててフォームタイで固定するために型枠大工による作業、鋼製型枠の場合には溶接作業者による作業がグラウト作業者による作業とは別に必要になる。更に、グラウト材の注入作業には上述のような施工監理が定められ、必要十分なグラウト材の養生期間を取った上で型枠を脱型しなければならないため、この種の耐震補強工事は1箇所当たりに要する長い工期を見込まなければならない。
【0007】
この工期の長期化は、施工者や発注者にとっては不経済であると共に、既設構築物を供用中のまま耐震補強工事を行われる既設構築物の利用者にとっても望ましい状態ではない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、施工を合理化して工期を短縮し、施工者や発注者の経済性の向上、既設構築物の供用者の良好な利用の早期回復を図ることができる既設構築物の耐震補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、耐震補強すべき既設構築物に形成される開口内に耐震補強架構を配置すると共に、前記耐震補強架構の周縁と前記開口の周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、前記耐震補強架構に着脱自在な挟持で取り付けられる型枠保持治具で前記型枠を押圧して保持する第1工程と、固結材として、練り上がりから凝結開始までの時間が1時間以上で、且つ圧縮強度が少なくとも練り上がりからの材齢12時間で5N/mm以上の材料を用い、前記型枠内に前記固結材を充填する第2工程と、前記充填した前記固結材の所定硬度への到達に応じて、前記型枠固定治具を取り外して前記型枠を撤去する第3工程と、前記型枠の撤去後に前記固結材の養生を継続する第4工程とを備えることを特徴とする。
前記構成では、圧縮強度が早期に高まる固結材を用い、固結材が所定硬度に達した早期に煩雑な作業である型枠撤去を行うことができるので、施工を合理化して工期を短縮し、施工者や発注者の経済性の向上、既設構築物の供用者の良好な利用の早期回復を図ることができる。また、型枠の脱型後も養生を継続することにより、高品質な固結材による固定を確保することができる。また、挟持タイプの型枠固定治具は専門業者でなくても取付や撤去が可能であり、施工の容易化、迅速化を図ることができる。
【0010】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、前記第4工程において、前記型枠の撤去で露出した前記固結材の表面を被覆材で被覆して養生することを特徴とする。
前記構成では、固結材の湿潤状態での養生期間を十分且つ確実に行うことができ、高品質な固結材による固定を一層確実に確保することができる。
【0011】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、前記第4工程における前記固結材の養生の継続中に、前記固結材の充填状況を確認することを特徴とし、より望ましくは充填が不十分な箇所を補修することを特徴とする。
前記構成では、型枠から露出した状態での固結材の養生を利用し、確実な充填状況の確認を行うことができると共に、固結材の充填状況の確認工程、好適には固結材の補修工程を養生期間と重複して行うことができ、施工期間を一層短縮化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、圧縮強度が早期に高まる固結材を用い、固結材が所定硬度に達した早期に煩雑な作業である型枠撤去を行うことができるので、施工を合理化して工期を短縮し、施工者や発注者の経済性の向上、既設構築物の供用者の良好な利用の早期回復を図ることができる。また、型枠の脱型後も養生を継続することにより、高品質な固結材による固定を確保することができる。また、挟持タイプの型枠固定治具は専門業者でなくても取付や撤去が可能であり、施工の容易化、迅速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による実施形態の既設構築物の耐震補強工法を適用する耐震補強構造で、型枠固定治具を省略して固結材を充填する前の状態を示す斜視説明図。
【図2】図1の耐震補強構造で、躯体のアンカーボルトと耐震補強架橋のスタッドボルトを省略して固結材を充填する前の状態を示す斜視説明図。
【図3】実施形態の耐震補強構造における下端近傍領域の拡大断面説明図。
【図4】本発明による実施形態の既設構築物の耐震補強工法の施工工程を示すフローチャート。
【図5】図1及び図2の耐震補強構造に連続混練装置から固結材を充填する作業を説明する正面説明図。
【図6】固結材の配合例を示す図。
【図7】固結材の流動性の経時変化を示す図。
【図8】固結材の圧縮強度の経時変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による実施形態の既設構築物の耐震補強工法について説明する。図1及び図2は実施形態の既設構築物の耐震補強工法を適用する耐震補強構造で固結材を充填する前の状態を示す図、図3は実施形態の耐震補強構造における下端近傍領域の拡大断面説明図、図4は実施形態の既設構築物の耐震補強工法の施工工程を示すフローチャートである。
【0015】
本実施形態の既設構築物の耐震補強工法を適用する耐震補強構造は、図1〜図3に示すように、既設構築物の躯体である柱101・101(手前側の柱省略)の間と、これを連結する上下の梁102・102の間に形成される開口103に設けられる。開口103の周面である柱101、梁102の面は、その表面をはつって所定形状にした後に目荒しされ、例えばEVA(エチレン・ビニル・アセテート)系等の吸水防止プライマーが塗布されると共に、柱101又は梁102の定着材11が内装されている孔104にアンカーボルト1が所定間隔を開けて複数打設される。
【0016】
開口103内には耐震補強架構2が配設される。耐震補強架構2は、開口103より一回り小さい鉄骨の枠状フレーム21と、その内部に溶接等で斜めに取付けた複数本の筋交い22とから構成される。枠状フレーム21は、図3に示すように、H型鋼で形成され、その外周側の一対の片のうちの一方の片は、枠状フレーム21を開口103内に建て込む際にアンカーボルト1との干渉を避けるために予め切除されている。枠状フレーム21の周縁には外方に突出してスタッドボルト23が設けられ、スタッドボルト23は所定間隔を開けて複数打設される。耐震補強架構2は、仮止め用のアンカー棒(図示省略)で開口103内に仮止めされる。
【0017】
耐震補強架構2の周縁の両側外面には鋼製又は木製の板状の型枠3・3がそれぞれ配置され、両側の型枠3・3は、間隔保持部材4で所定の間隔に保持される。両側の型枠3・3により、耐震補強架構2の周縁と開口103の周面との間の隙間が閉塞され、固結材充填空間Sが形成される。尚、両側の型枠3・3の内、枠状フレーム21の切除された側の一方側の型枠3は、切除された部分も含めて隙間を閉塞可能なように他方側の型枠3よりも幅広に形成されている。
【0018】
間隔保持部材4は、型枠3・3が挿入され得るように断面が略U字状に屈曲した一対の係合部42・42と、係合部42・42を接続するように装着された丸鋼等からなる棒材41により構成されている。即ち、係合部42・42それぞれの対向する側には溶接等により一体化された雌ねじ部が形成されており、一方、棒材41の両端には雄ねじが形成され、棒材41の両端が係合部42の雌ねじ部にそれぞれ螺着されている。間隔保持部材4は、両端部の係合部42・42に両側の型枠3・3の一端側がそれぞれ挿入して係合され、型枠3・3の間隔が保持される。間隔保持部材4で所定間隔に保持された型枠3・3の他端側は、耐震補強架構2の枠状フレーム21に取り付けられた型枠固定治具5で押圧するように把持されて固定される。
【0019】
型枠固定治具5は、図3に示す例では、前記切除された側に設けられる型枠固定治具5aと、その反対側に設けられる型枠固定治具5bとから構成される。型枠固定治具5aは、略L字形の本体51aと、本体51aの一端側に設けられる雌ねじ部511aにねじ込まれて進退可能に設けられる押圧ボルト52aと、本体51aにボルト531aで取付けられた一対の軸受板53a・53aと、軸受板53a・53aに支軸532aを中心に揺動可能に取り付けられた揺動レバー54aとから構成され、揺動レバー54aの先端には押圧ロッド541aが設けられている。型枠固定治具5aは本体51aと軸受板53aで構成される凹溝55aを枠状フレーム21に係合して凹溝55aで枠状フレーム21を挟持する。その揺動レバー54aは、進行する押圧ボルト52aの先端で後端を押されて支軸532aを中心に揺動し、揺動レバー54aの先端側が一方側に型枠3に押し付けられ、揺動レバー54aと枠状フレーム21とで型枠3を挟持するようになっている。
【0020】
また、型枠固定治具5bは、枠状フレーム21に係合され枠状フレーム21を挟持する本体51bと、本体51bに進退可能に設けられる押圧ボルト52bとから構成され、押圧ボルト52bを先端部に設けた押圧パッド53bを介して他方側の型枠3を圧接するようになっている。本体51bは、略鉤状の形状であり、その鉤の先端側には枠状フレーム21に係合される凹溝511bが形成され、凹溝511bの先端には押圧ロッド512bが設けられている。また、本体51bの押圧ロッド512bと反対側の端部には雌ねじ部513bが設けられ、雌ねじ部513bに押圧ボルト52bがねじ込まれて進退可能になっており、押圧ボルト52bの進行に応じて押圧パッド53bを型枠3に押し当て、押圧パッド53bと枠状フレーム21とで型枠を挟持するようになっている。
【0021】
尚、図3の例では、両側の型枠固定治具5を別構成としたが、双方の型枠固定治具5とも型枠固定治具5a・5aの構成とする、或いは型枠固定治具5b・5bの構成とすることが可能である。更に、型枠固定治具5は、耐震補強架構2に着脱自在な挟持で取り付けられ、型枠3を押圧して固定或いは保持可能なものであれば適宜であり、これらの型枠固定治具5を両側で同一或いは異なる構成の型枠固定治具5として用いることができる。
【0022】
更に、型枠3・3と柱101及び梁102の接触或いは近接部位には図示省略するシール材が施され、また、固結材充填空間Sにはアンカーボルト1やスタッドボルト23に絡めてスパイラル筋7或いは割裂防止筋が設けられる。
【0023】
更に、図3及び図5に示すように、例えば一方側の型枠3の下部の左右方向中央部に、固結材充填空間Sにモルタル等のグラウト材である固結材6を充填するための注入口31が設けられ、注入口31は固結材の連続混練装置200から延びる注入ホース201が接続され、固結材充填空間S内に固結材6が注入されるようになっている。また、例えば一方側の型枠3の最上部の両側角部には空気抜き孔32が設けられ、空気抜き孔32から固結材充填空間S内に固結材6を注入する際に固結材充填空間S内に残留する空気を排出させるようになっている。
【0024】
上記固結材充填空間Sに固結材6を充填することにより、躯体側のアンカーボルト1と耐震補強架構2側のスタッドボルト23とが固結材6に埋設され、固結材6が固化することで、耐震補強架構2と既設構築物の躯体である柱101と梁102とが一体的に連結される。
【0025】
そして、本実施形態の耐震補強工法を適用して上記耐震補強構造を構成する場合には、図4に示す施工工程により行う。
【0026】
先ず、例えば鉄筋コンクリートの既設構築物の開口103の周面に相当する柱101と梁102の面について、はつって所定形状にした後に目荒しすると共に、この柱101と梁102の面と耐震補強架構2のはつりガラ、溶接時の屑、木材の切粉、結束線の屑、油等を完全に取り除いて清掃する(S101)。次いで、この柱101と梁102の面に吸水防止プライマーを噴霧器を用いてまんべんなく塗布する(S102)。
【0027】
そして、開口103の周面にアンカーボルト1を打設すると共に、周縁にスタッドボルト23が設けられている耐震補強架構2を開口103内に配置し(S103)、耐震補強架構2の周縁と開口103の周面との間の隙間を塞ぐようにして両側に型枠3・3を配置する。型枠3・3の配置の際には、固結材注入時の圧力で破損や変形を防止すべく、間隔保持部材4を設置し、間隔保持部材4の係合部42・42に型枠3・3を係合して所定間隔を開けて保持すると共に、型枠固定治具5a、5bを図4に示すように耐震補強架構2の枠状フレーム21に着脱自在な挟持で取り付け、その型枠固定治具5aの揺動レバー54aと型枠固定治具5bの押圧ボルト52bで型枠3・3を両側から押圧して保持するように固定し、堅固な構造とする(S104)。尚、固結材のドライアウトを防止するために、型枠3の乾燥し過ぎに留意する。更に、躯体である柱101及び梁102と耐震補強架構2と型枠3との隙間をシールする(S105)。このシール材には、固結材の圧力に耐えられるように、モルタルや発泡ウレタン等が用いられる。
【0028】
その後、一方側の型枠3に注入口31と空気抜き孔32を形成する(S106)。注入口31を形成する際には、断面欠損とならないように配慮する。更に、注入口31には注入ホース201が接続される。空気抜き孔32には、例えば直径20mm程度のビニールホース(不図示)を1m程度の間隔で配置すると共に、上方へ10cm以上立ち上げるようにして設置する。
【0029】
次いで、連続混練装置200と固結材6を準備する(S107)。連続混錬装置200は、連続混錬ポンプであり、図4に示すように、固結材6の素材であるプレミックス粉体と水が投入され、これを連続的に混錬して固結材6とし、内蔵されている圧送ポンプにより注入ホース201を介して固結材6を圧送して注入する構成である。尚、混錬装置として、連続混錬装置200に代えて、例えばモルタル用高速ミキサー、ハンドミキサー等を用いることも可能である。
【0030】
また、固結材6としては、練り上がりから凝結開始までの時間(可使時間)が1時間以上で、且つ圧縮強度が少なくとも練り上がりからの材齢12時間で5N/mm以上の材料を用いる。この固結材6には、例えば特許文献1のカルシウムアルミネートと石膏類とからなる速硬材と、遊離石灰を含むカルシウムスルホアルミネートからなる膨張材と、水溶性セルロースエーテルとを含有し、J14漏斗流下値が2〜12秒である速硬性無収縮グラウトモルタルを用いると好適であり、そのプレミックス粉体の具体例としては、電気化学工業株式会社製の無収縮モルタル「デンカハイプレタスコン」等を用いる。プレミックス粉体は、湿気、直射日光を避けて保管しておく。
【0031】
そして、連続混錬ポンプである連続混錬装置200により、プレミックス粉体と水を配合して混錬し、試験練りを行う(S108)。プレミックス粉体を「デンカハイプレタスコン」とする場合、例えば図6に示す混錬標準配合例に基づいて混錬する。この混錬の際には、水温を例えば10℃以上、練り上がり温度を例えば10〜35℃の規定値内に収まるように管理する。J14漏斗流下値が規定値にならない場合には水量を変え、水温や練り上がり温度が規定値から外れている場合には水温の調整を行って再度試験練りを行い、規定値を満足する水量を決定する(S109、S110)。更に、可使時間を調整する場合には、例えば有機酸系の凝結遅延材を環境温度毎にキャリブレーションされた分量ずつ添加して調整する。
【0032】
尚、プレミックス粉体を「デンカハイプレタスコン」とする混錬標準配合例の固結材6の流動性の経時変化を図7に、その圧縮強度の経時変化を図8に示す。図7、図8には前記標準配合例の固結材6で環境温度が30℃、20℃、5℃の場合と一般的な無収縮モルタルの場合の各線が示されている。前記標準配合例の固結材6は、図7から分かるように、何れの環境温度でも、練り上がりから可使限界に達する凝結開始までの時間(可使時間)が1時間以上になっている。また、前記標準配合例の固結材6は、図8から分かるように、何れの環境温度でも、練り上がりからの材齢12時間で圧縮強度が脱型可能強度である5N/mm以上になっている。
【0033】
そして、1回当たりの練り上がり量を決定し、必要な水量と練り混ぜ時間の確認を行い、連続混錬装置200により、プレミックス粉体と水を配合して混錬し、本練りを行う(S111)。尚、本練りをした際には、圧縮強度試験体を定められた本数採取する(S112)。また、固結材6の練り上がりの時刻を記録し、後述する脱型時間の起点とする。
【0034】
次いで、連続混錬装置200の圧送ポンプにより圧送を開始し(S113)、本練りで混錬した固結材6を注入ホース201を介して圧送し、型枠3・3内の固結材充填空間S内に注入して充填する(S114)。この固結材6を圧送、注入する前には、注入ホース201内での固結材6のドライアウトを防止するため、事前に注入ホース102にセメントペーストを圧送することが好ましい。更に、固結材6を圧送、注入する際には、固結材6の気温による凝結開始時間の違いに留意し、凝結開始時間を超えて注入を中断しないようにすると共に、固結材6を落下させる注入を避け、固結材6が分離しないように配慮する。そして、空気抜き孔32から空気の巻き込みのない固結材6が流出するオーバーフローを確認する(S115)。固結材6の充填が完了すると、注入口31、空気抜き孔32をテープで密閉すると共に、注入ホース201を折り曲げて結束線で結束する(S116)。また、固結材6の充填完了時間を記録して管理する。
【0035】
次いで、固結材充填空間Sに充填した固結材6を養生する(S117)。養生では、振動や衝撃を与えないようにし、注入口31、空気抜き孔32、シール部分からの漏れに注意する。更に、養生時の環境温度である気温を測定し、測定した気温に応じて脱型するまでの脱型時間を決定する。気温が低い場合は長めの脱型時間が必要になるので留意する。
【0036】
所定の脱型時間が経過し、充填した固結材6の所定硬度への到達に応じて、型枠保持治具5a、5bを取り外して型枠3を撤去して脱型する(S118)。この型枠3の撤去は、所定硬度として図8の脱型可能強度に到達した直後に行うことが好ましく、この脱型可能強度に到達する時間を脱型時間とするとよい。例えば環境温度25℃の場合には、脱型可能強度に達する6時間後とすると好適である。また、型枠3を撤去する際には、充填された固結材6の面に傷をつけないように撤去し、固結材6の面に無理な力がかからないようにする。
【0037】
尚、脱型時間の時間管理は、例えば管理シートに固結材6の練り上がりの時刻を記載し、作業者が時計で所定時間の経過を認識して脱型する構成、或いは携帯端末等の時刻認識装置に練り上がり時刻と設定時間を入力部から入力し、練り上がり時刻から記憶部に記憶される設定時間の経過を制御部が認識し、設定時間の到来に伴ってスピーカ等の出力部から設定時刻の到来を告げる注意情報を出力し、注意情報を認識した作業者が脱型する構成等とすることが可能である。
【0038】
そして、型枠3の撤去後に、固結材6の養生を継続する(S119)。この固結材6の養生の継続では、固結材6の所要の湿潤状態を維持できるならばそのままの状態で養生することも可能であるが、型枠3の撤去で露出した固結材6の表面を被覆材で被覆して養生を継続すると好適である。この被覆材の被覆は、養生する固結材6の所要の湿潤状態を維持可能なものであれば適宜であり、例えばフィルム或いはシートを養生する固結材6に被覆する構成、或いは乾燥防止剤を塗布する若しくはスプレーする構成等とすることが可能である。また、この被覆材の被覆に代えて、或いは被覆材の被覆とともに、固結材の表面に水を霧吹きする構成とすることも可能である。この養生の継続は、固結材の推定圧縮強度が所定値以上となるまで継続することが望ましい。
【0039】
型枠3の撤去後における固結材6の養生終了後、好ましくはその養生中に、固結材6の充填状況を確認し(S120)、充填が不十分な箇所を補修する。この補修では充填が不十分な箇所の広さを確認し(S121)、長さ5mm以下など狭い場合にはエポキシ樹脂等を注入して補修し(S122)、長さ5mm超など広い場合には断面修復材を充填して補修する(S123)。尚、養生中に、固結材6の充填状況を確認し、養生後に充填が不十分な箇所を補修するようにすることも可能である。最後に、片付け、清掃をして耐震補強工法の施工が完了する(S124)。
【0040】
本実施形態の既設構築物の耐震補強工法は、圧縮強度が早期に高まる固結材6を用い、固結材6が所定硬度に達した早期に煩雑な作業である型枠撤去を行うことができるので、施工を合理化して工期を短縮し、施工者や発注者の経済性の向上、既設構築物の供用者の良好な利用の早期回復を図ることができる。また、型枠3の脱型後も養生を継続することにより、高品質な固結材6による固定を確保することができる。また、挟持タイプの型枠固定治具5a、5bは専門業者でなくても取付や撤去が可能であり、施工の容易化、迅速化を図ることができる。
【0041】
また、被覆材による被覆により、固結材6の湿潤状態での養生期間を十分且つ確実に行うことができ、高品質な固結材6による固定を一層確実に確保することができる。また、固結材6の養生継続中に充填確認等を行う場合には、型枠3から露出した状態での固結材6の養生を利用し、確実な充填状況の確認を行うことができると共に、固結材6の充填状況の確認工程や固結材6の補修工程を養生期間と重複して行うことができ、施工期間を一層短縮化することができる。
【0042】
尚、本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば病院やオフィスビル等の既設構築物を耐震補強する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…アンカーボルト 11…定着材 2…耐震補強架構 21…枠状フレーム 22…筋交い 23…スタッドボルト 3…型枠 31…注入口 32…空気抜き孔 4…間隔保持部材 41…棒材 42…係合部 5、5a、5b…型枠固定治具 51a…本体 511a…雌ねじ部 52a…押圧ボルト 53a…軸受板 531a…ボルト 532a…支軸 54a…揺動レバー 541a…押圧ロッド 55a…凹溝 51b…本体 511b…凹溝 512b…押圧ロッド 513b…雌ねじ部 52b…押圧ボルト 53b…押圧パッド 6…固結材 7…スパイラル筋 101…柱 102…梁 103…開口 104…孔 200…連続混練装置 201…注入ホース S…固結材充填空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐震補強すべき既設構築物に形成される開口内に耐震補強架構を配置すると共に、前記耐震補強架構の周縁と前記開口の周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、前記耐震補強架構に着脱自在な挟持で取り付けられる型枠固定治具で前記型枠を押圧して保持する第1工程と、
固結材として、練り上がりから凝結開始までの時間が1時間以上で、且つ圧縮強度が少なくとも練り上がりからの材齢12時間で5N/mm以上の材料を用い、前記型枠内に前記固結材を充填する第2工程と、
前記充填した前記固結材の所定硬度への到達に応じて、前記型枠保持治具を取り外して前記型枠を撤去する第3工程と、
前記型枠の撤去後に前記固結材の養生を継続する第4工程と、
を備えることを特徴とする既設構築物の耐震補強工法。
【請求項2】
前記第4工程において、前記型枠の撤去で露出した前記固結材の表面を被覆材で被覆して養生することを特徴とする請求項1記載の既設構築物の耐震補強工法。
【請求項3】
前記第4工程における前記固結材の養生の継続中に、前記固結材の充填状況を確認し、充填が不十分な箇所を補修することを特徴とする請求項1又は2記載の既設構築物の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−185029(P2011−185029A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114017(P2010−114017)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フォームタイ
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】