説明

既設構造物のアンダーピニング構造及び方法、並びに、既設構造物の近くに新設構造物を構築する方法

【課題】安全性の確保、工費削減、工期短縮を図りながらアンダーピニング工事を行って、既設構造物の近くに新設構造物を構築する。
【解決手段】既設構造物1を支持するフーチング3の水平方向への張り出し部に鉛直に孔22を穿設し、それと前後して当該フーチングの直上の既設構造物の柱2または梁4またはその両方に反力受用の補強鋼材21を設ける。次いで、前記孔22に鋼管杭23を挿入し、補強鋼材21に反力をとって鋼管杭23をフーチングの下方の地盤に圧入し、鋼管杭23の上端と補強鋼材21との間にジャッキ24を装備して、既設構造物を補強鋼材21とジャッキ24を介して鋼管杭23で支持し、フーチングの張り出し部の一部を壊してその位置に、新設構造物の山留壁10を既設構造物に隣接して構築し、山留壁10内の掘削を行って新設構造物の構築を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フーチングで支持した既設構造物のアンダーピニング構造及びそれを実現する方法、並びに、既設構造物の近くに新設構造物を構築する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設構造物の近くに新設構造物を築造する際に新設構造物の工事の影響が既設構造物に出るおそれがある場合には、既設構造物の基礎部分に対してアンダーピニングを行うのが一般的である。従来のアンダーピニングは、構造物の直下で施工するのが基本であった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従って、例えば図3に示すように、フーチング3で構造物荷重を地盤に伝える支持構造にアンダーピニング工事を施す場合、従来の考え方に基づくと、既設構造物1の柱2の直下でフーチング3の下側に杭体5を施工し、ジャッキ6を介して既設構造物1を支持するように計画することになる。図において、4は杭体5の施工のための簡易山留、10は新設構造物を築造するための山留壁(SMW=ソイル杭柱列山留壁)である。
【特許文献1】特開2001−220762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フーチング3の直下に杭体5を施工することは、現実的には困難が伴う上に、安全性の面でも問題が多い。例えば、工事の計画としては、まず(1)山留壁(SMW)10を構築し、次に(2)山留壁10越しにフーチング3の下部に薬液を注入し、続いて(3)山留壁10の芯材によりフーチング3を一次仮受けし、その状態で(4)フーチング3の直下で杭体5を施工する、というような手順で工程を進めることになるが、山留壁10越しの薬液注入は信頼性に問題がある上、フーチング3の背面の土砂崩壊の問題や作業エリア確保の問題もあり、安全性を確保するのが難しい。また、フーチング3に干渉する位置に山留壁(SMW)10を構築する必要がある場合は、その施工段階で既設構造物1の沈下のおそれもあり、安全性、工費、工期等の面で実施は難しい。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、安全性の確保、工費削減、工期短縮を図り得る、実施の容易な既設構造物のアンダーピニング構造及び方法、並びに、既設構造物の近くに新設構造物を構築する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明のアンダーピニング構造は、既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設すると共に、当該フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保し、前記孔を貫通してフーチングの下方の地盤に挿入した杭体の上端と前記補強部との間にジャッキを装備し、既設構造物を前記補強部とジャッキを介して前記杭体で支持したことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明のアンダーピニング方法は、既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設する工程と、それと前後して当該フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保する工程と、前記孔に杭体を挿入し前記補強部に反力をとって前記杭体をフーチングの下方の地盤に圧入する工程と、前記杭体の上端と補強部との間にジャッキを装備して既設構造物を前記補強部とジャッキを介して前記杭体で支持する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明の既設構造物の近くに新設構造物を構築する方法は、既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設する工程と、それと前後して当該フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保する工程と、前記孔に杭体を挿入し前記補強部に反力をとって前記杭体をフーチングの下方の地盤に圧入する工程と、前記杭体の上端と補強部との間にジャッキを装備して既設構造物を前記補強部とジャッキを介して前記杭体で支持する工程と、前記フーチングの近傍位置または前記フーチングの張り出し部の一部を壊してその位置に新設構造物の山留壁を既設構造物に隣接して構築する工程と、前記山留壁内の掘削を行い新設構造物の構築を行う工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設し、フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保し、前記孔に杭体を挿入し補強部に反力をとって杭体をフーチングの下方の地盤に圧入し、杭体の上端と補強部との間にジャッキを装備して既設構造物を補強部とジャッキを介して杭体で支持するようにしたので、フーチングの直下の工事が不要であり、安全性を確保することができると共に、工費の低減や工期の短縮を図ることができる。
【0010】
また、新設工事のための山留壁(SMW)の構築をアンダーピニング工事の後から行うことができるので、フーチングと干渉する位置に山留壁を構築する必要がある場合にも、アンダーピニング施工後にフーチングの一部を壊してから、山留壁の施工を行うことができ、既設構造物に沈下等の変形が生じるおそれがない。従って、安全面、工費、工期の面から実施が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態の構造及び方法の説明図、図2は図1のII矢視図である。
図1において、1は既設構造物、2はその柱、3は柱2を介して既設構造物1を支持するフーチングである。この既設構造物1の隣り(図1の右側)に新設構造物を構築する場合、既設構造物1に新設工事の影響が出るおそれがあるので、まず、アンダーピニング工事を行うことになる。
【0012】
本実施形態では、そのアンダーピニング工事として、既設構造物1を支持するフーチング3の水平方向への張り出し部に鉛直に孔22を穿設する。また、それと前後して、当該フーチング3の直上の既設構造物1の柱2または梁4またはその両方に反力受用の補強部として補強鋼材21を取り付ける。
【0013】
次に、フーチング3に形成した孔22に、杭体として、内部にコンクリートを充填した鋼管杭23を挿入し、補強鋼材21に反力をとって前記鋼管杭23をフーチング3の下方の地盤に圧入する。そして、鋼管杭23の上端と補強鋼材21との間にジャッキ24を装備して、既設構造物1を補強鋼材21とジャッキ24を介して、鋼管杭23で支持する。
【0014】
こうして、既設構造物1のアンダーピニング構造ができあがったら(アンダーピニング工事が終了したら)、フーチング3の近傍位置またはフーチング3の張り出し部の一部を壊してその位置に、新設構造物の山留壁(SMW)10を既設構造物1に隣接して構築する。そして、山留壁10内の掘削を行い、新設構造物の構築を始める。
【0015】
このように施工した場合、フーチング3の直下の工事が全く不要となることから、安全性を確保することができる。また、工費の低減や工期の短縮を図ることができる。また、新設工事のための山留壁(SMW)10の構築を、アンダーピニング工事の後から行うことができるようになるので、フーチング3と干渉する位置に山留壁10を構築することも容易になる。
【0016】
なお、既設構造物1に補強部に相当する部位が既にある場合は、それを補強部として使用することも可能である。また、杭体として充填コンクリート鋼管杭23を使用した場合を示したが、これに代わる杭体を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の構造及び方法の説明図である。
【図2】図1のII矢視図である。
【図3】従来の考えに基づいて計画した場合の施工例の説明図である。
【符号の説明】
【0018】
1 既設構造物
2 柱
3 フーチング
4 梁
10 山留壁(SMW)
21 補強鋼材(補強部)
22 孔
23 鋼管杭(杭体)
24 ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設すると共に、当該フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保し、前記孔を貫通してフーチングの下方の地盤に挿入した杭体の上端と前記補強部との間にジャッキを装備し、既設構造物を前記補強部とジャッキを介して前記杭体で支持したことを特徴とする既設構造物のアンダーピニング構造。
【請求項2】
既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設する工程と、それと前後して当該フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保する工程と、前記孔に杭体を挿入し前記補強部に反力をとって前記杭体をフーチングの下方の地盤に圧入する工程と、前記杭体の上端と補強部との間にジャッキを装備して既設構造物を前記補強部とジャッキを介して前記杭体で支持する工程と、を備えることを特徴とする既設構造物のアンダーピニング方法。
【請求項3】
既設構造物を支持するフーチングの水平方向への張り出し部に鉛直に孔を穿設する工程と、それと前後して当該フーチングの直上の既設構造物の柱または梁またはその両方に反力受用の補強部を確保する工程と、前記孔に杭体を挿入し前記補強部に反力をとって前記杭体をフーチングの下方の地盤に圧入する工程と、前記杭体の上端と補強部との間にジャッキを装備して既設構造物を前記補強部とジャッキを介して前記杭体で支持する工程と、前記フーチングの近傍位置または前記フーチングの張り出し部の一部を壊してその位置に新設構造物の山留壁を既設構造物に隣接して構築する工程と、前記山留壁内の掘削を行い新設構造物の構築を行う工程と、を備えることを特徴とする既設構造物の近くに新設構造物を構築する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−328716(P2006−328716A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151377(P2005−151377)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】