説明

既設構造物付近における水中作業方法と水中作業用装置

【課題】水中で既設構造物に接近して作業する時に損傷のおそれを解決する。
【解決手段】水中作業用装置1の本体1bと、本体1bから揺動自在に支持されて延びる第2アームと、前記第2アームの先端部に揺動自在に支持され伸縮自在な第1アーム1dと、第1アーム1dの先端部に取り付けられた着脱自在なアタッチメントとからなる水中作業用装置1において、第1アーム1dに第1アーム1dの位置,方向,傾斜を計測する計測手段を設け、第1アーム1dにアーム部分の長さを計測するストローク計と、既設構造物までの距離を計測する超音波距離計とが設けられ、前記計測手段とストローク計と超音波距離計とがそれぞれ電気的に接続され各計測されたデータが適宜に演算処理されて表示部に表示されるように本体1bの操作室1アに設けられた演算表示器とからなる水中作業用装置を形成し、既設構造物2の近傍における水中作業を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁若しくは岸壁近くに建てられた構造物などの既設構造物付近における浚渫等の水中作業方法と、その作業に使用する水中作業用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、岸壁などの港湾施設の維持等を目的に、既設構造物直近での浚渫工事等が定期的若しくは不定期に行われるが、既設構造物への影響(例えば、破損等)を与えることなく施工することが求められている。かかる場合に、既設構造物側(陸上側)からの施工も考えられるが、例えば、ガントリークレーンなどが岸壁際に設置され、稼働中の施設もあり陸上側から施工できない場合がほとんどである。海上からの施工では、特許文献1に示すように、グラブ浚渫船などによる施工が一般的であり(図9参照)、既設構造物への離隔を十分に取って浚渫作業を施工している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−27830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の既設構造物付近における水中作業方法では、次のような課題がある。
(1).図9に示すように、グラブバケットを用いたグラブ浚渫船では、気中部分の既設構造物にブーム先端が接触するおそれがある。よって十分に離隔させる必要がある。
(2).クレーントップシーブは上下方向の矢印で示すように、運転席より非常に高い位置にあるため、その位置が把握し難く、近接する岸壁近傍の作業の場合、バケット等による損傷の危険性が高い。
(3).グラブバケットはワイヤーで吊り下げられているため、クレーンの稼働や、船の動揺などでバケットが振れやすく、気中及び水中部分の既設構造物に接触するおそれがある。
(4).陸上の基礎工事などの深堀作業ではテレスコピック式クラムシェルが使用されるが、掘削位置、深度、バケットの動きは目視で確認しており、水中作業のように見えない場所での作業は困難である。
本発明に係る既設構造物付近における水中作業方法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る既設構造物付近における水中作業方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、移動自在で旋回自由な操作室を装備して成る水中作業用装置の本体と、前記本体から揺動自在に支持されて延びる第2アームと、前記第2アームの先端部に揺動自在に支持され伸縮自在な第1アームと、前記第1アームの先端部に取り付けられた着脱自在なアタッチメントとからなる水中作業用装置において、前記第1アームにこの第1アームの位置,方向,傾斜を計測する計測手段を設け、前記第1アームに伸長させたアーム部分の長さを計測するストローク計と、当該第1アームの先端部に設けられ既設構造物までの距離を計測する超音波距離計とが設けられ、前記計測手段とストローク計と超音波距離計とがそれぞれ電気的に接続され各計測されたデータが適宜に演算処理されて表示部に表示されるように前記本体の操作室に設けられた演算表示器とからなる水中作業用装置を形成し、前記水中作業用装置を作業台船の上に設置し、前記水中作業用装置のアタッチメントの位置を確認しながら既設構造物の近傍における水中作業を施工することである。
また、前記水中作業用装置の近傍の台船床面に前記アタッチメントの位置を補正する動揺センサを設け、前記第1アームの先端部とアタッチメントとの間に上下動による衝撃を緩和する衝撃抑制手段を設け、前記既設構造物の近傍における水中作業を施工することである。
【0006】
前記衝撃抑制手段は、ショックアブソーバ若しくはワイヤーでアタッチメントを吊り下げる吊下げ手段であること、;
また、前記第1アームの先端部とアタッチメントとの間に、該アタッチメントの水平方向に回転させ掘削位置を制御する方向制御装置が設けられていること、;
を含むものである。
【0007】
本発明に係る水中作業用装置の要旨は、移動自在で旋回自由な操作室を装備して成る水中作業用装置の本体と、前記本体から揺動自在に支持されて延びる第2アームと、前記第2アームの先端部に揺動自在に支持され伸縮自在な第1アームと、前記第1アームの先端部に取り付けられた着脱自在なアタッチメントとからなる水中作業用装置において、前記第1アームにこの第1アームの位置,方向,傾斜を計測する計測手段を設け、前記第1アームに伸長させたアーム部分の長さを計測するストローク計と、当該第1アームの先端部に設けられ既設構造物までの距離を計測する超音波距離計とが設けられ、前記計測手段とストローク計と超音波距離計とがそれぞれ電気的に接続され各計測されたデータが適宜に演算処理されて表示部に表示されるように前記本体の操作室に設けられた演算表示器とからなることである。
【0008】
更に、前記第1アームの先端部とアタッチメントとの間に、アタッチメントの上下移動によって受ける衝撃を緩和する衝撃抑制手段が設けられていること、若しくは、アタッチメントを水平方向に回転させて掘削位置を制御する方向制御装置が設けられていること、;
前記衝撃抑制手段は、ショックアブソーバ若しくはワイヤーでアタッチメントを吊り下げる吊下げ手段であること、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の既設構造物付近における水中作業方法とそれに使用する水中作業用装置によれば、当該水中作業用装置のアームが伸縮自在なテレスコピック式なので、長いワイヤでバケット等を吊す構造でないので水中作業用のアタッチメントの振れが少なくなり、また、GPS,傾斜計,ストローク計などの計測手段により正確な位置決めができるようになるので、既設構造物への接触を確実に防ぐことができる。
装置の第1アームが伸縮自在なテレスコピック式であって、その第1アームのトップ位置が操作室の運転席から比較的近く把握しやすいので、また旋回範囲も小さいので気中部での影響も少ない。
水中作業で、クラムシェルなどのアタッチメントの影響でヘドロなどが舞い上がり、肉眼で確認することができないが、計測手段により前記アタッチメントの位置を正確に把握することができる。
作業台船の動揺があっても、動揺センサによってアタッチメントの位置が高精度に補正され、上下動の衝撃は衝撃抑制手段により機器の損傷を防止できる、また、アタッチメントの水平方向の回転を制御して掘削跡を直線的に制御することができる、など数々の優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る既設構造物付近における水中作業方法を示す説明図である。
【図2】同本発明の既設構造物付近における水中作業方法を示す平面図(A)と、側面図(B)とである。
【図3】水中作業用装置1に装備される計測手段の構成図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す平面図(A)と側面図(B)とである。
【図5】同水中作業用装置1と台船7とに装備される計測手段の構成図である。
【図6】第3実施例における超音波距離計5の態様を示す説明図(A),(B),(C)である。
【図7】同第4実施例に係る説明図(A),(B)である。
【図8】同実施例5における説明図(A),(B)である。
【図9】従来例に係る水中作業方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る既設構造物付近における水中作業方法は、図1に示すように、テレスコピック式アームで伸縮自在な水中作業用装置1によって、岸壁2a若しくは岸壁2aの際に建つ構造物2bなどの既設構造物2に近接させて水中作業を行う方法である。
【実施例1】
【0012】
本発明の水中作業方法に使用する水中作業用装置1の構成について説明する。この水中作業用装置1は、図1乃至図2に示すように、クローラによって移動自在で、旋回装置によって旋回自由な操作室1aを装備して成る水中作業用装置の本体1bがある。
【0013】
前記本体1bから揺動自在に支持されて延びる第2アーム1cと、前記第2アーム1cの先端部に揺動自在に支持され伸縮自在な第1アーム1dと、前記第1アーム1dの先端部に取り付けられた着脱自在なアタッチメント(クラムシェルの他に、オレンジピールバケット,掴み機,切断機,圧砕機,ブレーカ,ポンプ等)1eとからなる水中作業用装置1である。
【0014】
そして、前記水中作業用装置1には、前記第1アーム1dにこの第1アームの位置,方向,傾斜を計測する計測手段3を設ける。これは、図3に示すように、例えば、位置を示すものとして高精度のGPS(Global Positioning System:全地球測位システム、以下同じ)3aと、方位計付傾斜計3bとである。また、前記GPSに代わって光波測距儀でもよい。更に、組合せとして、GPSと方位計と傾斜計、若しくは、GPSを2台にして傾斜計と組み合わせても良い。
【0015】
また、図3に示すように、前記第1アーム1dに伸長させたアーム部分1fの長さを計測するストローク計4と、当該第1アーム1dの先端部に設けられ既設構造物2までの距離を計測する超音波距離計5とが設けられる。そして、これらの前記計測手段3とストローク計4と超音波距離計5とがそれぞれ電気的に接続され各計測されたデータが表示部に表示されるように前記本体1bの操作室1aに設けられた演算表示器6があり、これらが水中作業用装置1を形成している。
【0016】
前記ストローク計4については、ロータリーエンコーダ検出計などの他の計測手段でも良い。また、前記演算表示器6は、各測定器などからの信号で演算プログラムによって演算処理し、既設構造物2の位置や掘削等の計画値も表示部に表示できるものである。
【0017】
上記水中作業用装置1を使用した水中作業方法について説明する。まず、図1乃至図2に示すように、前記水中作業用装置1を作業台船7の上に設置する。そして、前記計測手段3、ストローク計4、超音波距離計5および演算表示器6を駆動させる。
【0018】
水中作業用装置1のアタッチメントであるクラムシェル1eを、第2アーム1cおよび第1アーム1dをそれぞれ屈曲させ、テレスコピック式の第1アーム1dを伸長させてアーム部分1fで岸壁2aの側の海中に水没させる。作業者は、操作室1aにおいて、前記演算表示器6によって演算されたクラムシェル1eの3次元位置などの計測数値をリアルタイムで確認しながら、掘削作業を行うものである。
【0019】
前記計測手段3とストローク計4により、クラムシェル1eの位置,掘削深度が表示され、又、超音波距離計5によって既設構造物2までの距離がリアルタイムでわかるものである。よって、岸壁2aの近くまで建てられた既設構造物2があっても、岸壁に近接させて掘削作業ができるので、岸壁2aの側に堆積した土砂などを掘削できるものである。
【実施例2】
【0020】
本発明の第2実施例は、図4乃至図5に示すように、台船7に、波の影響で動揺が大きいときにアタッチメント1eの位置を補正する手段として、動揺センサ8を設ける。更に、水中作業用装置1と台船7との相対位置を計測する手段としての旋回角度計9を、当該水中作業用装置1に設ける。この旋回角度計9のデータは演算表示器6に電気信号として送られ、演算部で基準位置から移動した距離などが計算処理され、第1アーム1dの位置データが算出される。このように、前記旋回角度計9を水中作業用装置1に設け、動揺センサ9を台船7に装備することで、波が大きくなって台船7が動揺しても、アタッチメント1eの位置を正確に把握することができる。
【実施例3】
【0021】
図6に示すように、アタッチメントのクラムシェル1eと、既設構造物2までの接近距離においては、前記クラムシェル1eの方向によって接近距離が変化するので、超音波距離計5を、例えば、複数個の超音波距離計5をある程度の角度をつけて設置する(図6(A)参照)ようにする。又、超音波距離計5の計測幅(指向角)が大きいものを使用する(図6(B)参照)。更には、扇状に計測できる超音波距離計5を使用する(図6(C)参照)。これにより、クラムシェル1eと既設構造物2との距離を正確に測定できるようになる。
【実施例4】
【0022】
図7に示すように、海上の作業においては波浪などの影響で台船7が動揺する事があり、その上下動によってアタッチメント1eが下からの突き上げで、故障することが懸念されるので、伸長されたアーム部分1fの端部とアタッチメント1eとの間に、ショックアブソーバ10aを設けたり(図7(A)参照)、比較的短いワイヤ10bで吊持するようにしたり(図7(B)参照)して、この衝撃抑制手段により衝撃を緩和させるものである。
【実施例5】
【0023】
図8(A)の左図に示すように、水中作業用装置1において、第2アーム1c及び第1アーム1dを本体1bを中心に旋回しながら掘削すると、掘削等の計画ライン11に対して掘削跡12が扇状となってしまう。そこで、これを解消するため、図8(B)に示すように、アタッチメントのクラムシェル1eに方向制御装置13を設ける。
【0024】
この方向制御装置13は、電動若しくは油圧などの駆動により水平方向に回転する機構および回転角度検出センサを持つものである。回転角度センサの計測値は、演算表示器6に電気的に伝達され、アタッチメント1eの正確な位置が把握出来るようになる。そして、図8(A)の右図のように、計画ライン11に対して掘削跡12を沿わせるようにすることができるものである。
【0025】
以上のような水中作業用装置1によって、既設構造物2の近傍における海底の土砂などを掘削する水中作業を施工するものである。アタッチメント1eの動揺による衝撃を緩和して損傷が生じないようになされ、掘削跡12を計画ライン11に沿って掘削出来るようになる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の水中作業用装置1及びそれによる水中作業方法は、アタッチメント1eを各種作業用の機器に交換することで、数多くの水中作業に応用できるものである。
【符号の説明】
【0027】
1 水中作業用装置、 1a 操作室、
1b 本体、 1c 第2アーム、
1d 第1アーム、 1e アタッチメント
1f アーム部分、
2 既設構造物、 2a 岸壁、
3 計測手段、 3a GPS、
3b 方位計付傾斜計、
4 ストローク計、
5 超音波距離計、
6 演算表示器、
7 台船、
8 動揺センサ、
9 旋回角度計、
10a ショックアブソーバ、 10b ワイヤ、
11 計画ライン、
12 掘削跡、
13 方向制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動自在で旋回自由な操作室を装備して成る水中作業用装置の本体と、前記本体から揺動自在に支持されて延びる第2アームと、前記第2アームの先端部に揺動自在に支持され伸縮自在な第1アームと、前記第1アームの先端部に取り付けられた着脱自在なアタッチメントとからなる水中作業用装置において、前記第1アームにこの第1アームの位置,方向,傾斜を計測する計測手段を設け、前記第1アームに伸長させたアーム部分の長さを計測するストローク計と、当該第1アームの先端部に設けられ既設構造物までの距離を計測する超音波距離計とが設けられ、前記計測手段とストローク計と超音波距離計とがそれぞれ電気的に接続され各計測されたデータが適宜に演算処理されて表示部に表示されるように前記本体の操作室に設けられた演算表示器とからなる水中作業用装置を形成し、
前記水中作業用装置を作業台船の上に設置し、
前記水中作業用装置のアタッチメントの位置を確認しながら既設構造物の近傍における水中作業を施工すること、
を特徴とする既設構造物付近における水中作業方法。
【請求項2】
水中作業用装置の近傍の台船床面に前記アタッチメントの位置を補正する動揺センサを設け、
第1アームの先端部とアタッチメントとの間に上下動による衝撃を緩和する衝撃抑制手段を設け、
既設構造物の近傍における水中作業を施工すること、
を特徴とする請求項1に記載の既設構造物付近における水中作業方法。
【請求項3】
衝撃抑制手段は、ショックアブソーバ若しくはワイヤーでアタッチメントを吊り下げる吊下げ手段であること、
を特徴とする請求項2に記載の既設構造物付近における水中作業方法。
【請求項4】
第1アームの先端部とアタッチメントとの間に、該アタッチメントの水平方向に回転させ掘削位置を制御する方向制御装置が設けられていること、
を特徴とする請求項2または3に記載の既設構造物付近における水中作業方法。
【請求項5】
移動自在で旋回自由な操作室を装備して成る水中作業用装置の本体と、
前記本体から揺動自在に支持されて延びる第2アームと、
前記第2アームの先端部に揺動自在に支持され伸縮自在な第1アームと、
前記第1アームの先端部に取り付けられた着脱自在なアタッチメントとからなる水中作業用装置において、
前記第1アームにこの第1アームの位置,方向,傾斜を計測する計測手段を設け、
前記第1アームに伸長させたアーム部分の長さを計測するストローク計と、
当該第1アームの先端部に設けられ既設構造物までの距離を計測する超音波距離計とが設けられ、
前記計測手段とストローク計と超音波距離計とがそれぞれ電気的に接続され各計測されたデータが適宜に演算処理されて表示部に表示されるように前記本体の操作室に設けられた演算表示器とからなること、
を特徴とする水中作業用装置。
【請求項6】
第1アームの先端部とアタッチメントとの間に、アタッチメントの上下移動によって受ける衝撃を緩和する衝撃抑制手段が設けられていること、若しくは、アタッチメントを水平方向に回転させて掘削位置を制御する方向制御装置が設けられていること、
を特徴とする請求項5に記載の水中作業用装置。
【請求項7】
衝撃抑制手段は、ショックアブソーバ若しくはワイヤーでアタッチメントを吊り下げる吊下げ手段であること、
を特徴とする請求項6に記載の水中作業用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−26190(P2012−26190A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166872(P2010−166872)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)