説明

既設管内面の樹脂ライニング工法及び樹脂ライニング治具

【課題】ピグを用いた既設管内面の樹脂ライニング工法において、簡易な施工でありながら樹脂ライニング膜の周方向の膜厚を均一に施工することができる。
【解決手段】管の内径に対して小径の直径を有するピグを用い、管内に挿入したピグの進行方向前方に樹脂を充填して樹脂溜まりを形成し、その樹脂溜まりを押すように管内に沿ってピグを移動させることで、ピグの外周と管内面との間隙に応じた樹脂ライニング膜を形成する工法であって、ピグの比重を0.3〜0.7にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管内面の樹脂ライニング工法及び樹脂ライニング治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
老朽化した既設管に対して、内面に樹脂ライニング膜を形成することで気密性回復などの改修を行う工法は古くから知られており、現場状況などに応じた多くの工法が提案されている。
【0003】
下記特許文献1に記載された従来技術は、管の内径に対して若干小径の直径を有する球状のピグを用いる工法である。これによると、管内に挿入したピグの進行方向前方に樹脂を充填して樹脂溜まりを形成し、その樹脂溜まりを押すように管内に沿ってピグを移動させることで、ピグの外周と管内面との間に樹脂ライニング膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−24758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなピグを用いた樹脂ライニング工法では、ピグの中心と管の中心を一致させた状態でピグを移動させることが難しい。この際、ピグの中心が管の中心に対して上方にずれると樹脂ライニング膜の膜厚は上方が薄くなり下方が厚くなる。また逆に、ピグの中心が管の中心に対して下方にずれると樹脂ライニング膜の膜厚は上方が厚くなり下方が薄くなる。
【0006】
このように、樹脂ライニング膜の膜厚が周方向で不均一になると、薄くなった箇所の膜厚が設定膜厚に達しないことがあり、十分な管の改修ができない問題が生じる。従来は、これを避けるためにピグの外径と管の内径との差を大きくして全体的な膜厚を大きくすることで、最も薄い箇所の膜厚であっても設定膜厚以上になるような施工がなされていた。しかしながら、このような施工では、必要以上に樹脂ライニング膜の膜厚を厚くすることで管内有効径を狭めることになり、また、樹脂を多量に使うことになるので施工コストが高くなる問題があった。
【0007】
一方、施工対象の既設管の敷設状態は様々であり、比較的短管状態で両端が開放されているような状態では、できるだけ簡易な工法で且つ施工コストを低く抑えることができる工法が求められる。例えば、ガス配管を例に説明すると、道路下の本支管から分岐した供給管は、道路と私有地(宅地)の境界壁や道路沿いの鉄筋構造物の壁を貫通して私有地や建物内に配管される場合がある。このような既設管の敷設状態において、ガス事業者が本支管と供給管の入れ取り替え工事を行う場合に、壁を貫通した管の入れ取り替え工事が困難な場合には、壁を貫通している状態で部分的に配管を残すことが行われており、残された壁貫通管は約2m程度の直線状の短管である。このような壁貫通管に樹脂ライニング膜を形成するには、壁の外側から行う施工が必要であり、しかも、簡易且つ低コストの施工が求められている。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、ピグを用いた既設管内面の樹脂ライニング工法において、簡易な施工でありながら樹脂ライニング膜の周方向の膜厚を均一に施工することができること、樹脂ライニング膜の周方向の膜厚を均一にすることで、膜厚を必要以上に厚くすることを避け、樹脂の使用量を最小限にして低コストの施工を行うことができること、壁貫通管の施工に適した樹脂ライニング工法を提供することができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明による既設管内面の樹脂ライニング工法は、以下の構成を少なくとも具備する。
管の内径に対して小径の直径を有するピグを用い、管内に挿入した前記ピグの進行方向前方に樹脂を充填して樹脂溜まりを形成し、その樹脂溜まりを押すように管内に沿って前記ピグを移動させることで、前記ピグの外周と管内面との間隙に応じた樹脂ライニング膜を管内面に形成する工法であって、前記ピグの比重を0.3〜0.7にしたことを特徴とする既設管内面の樹脂ライニング工法。
【発明の効果】
【0010】
ピグの比重を適正に設定することで、樹脂溜まりを押して移動しながら管内面に樹脂ライニング膜を形成する際に、ピグの位置を管の中心に保持することができる。樹脂ライニングに用いられる樹脂の比重は1.1〜1.2程度の範囲にあり、ピグの比重を0.3〜0.7にすることで、樹脂溜まりの中でピグが浮き上がったり沈み込んだりすることなく移動することができる。これによって、周方向に均一な樹脂ライニング膜を管内面に形成することができる。
【0011】
周方向に均一な樹脂ライニング膜を形成できることで、気密性確保に必要な最小限の樹脂量での施工が可能になり、低コストの施工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る樹脂ライニング工法を適用できる配管状態の一例を示した説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る樹脂ライニング工法の各工程を示した説明図である。
【図3】ピグの比重を変えた場合に樹脂ライニング膜の膜厚が管断面の上方位置(12時の位置)と下方位置(6時の位置)でどのような厚さになるかを実験調査したグラフである。
【図4】ピグの比重を変えた場合に樹脂ライニング膜の膜厚が管断面の上方位置(12時の位置)と下方位置(6時の位置)でどのような厚さになるかを実験調査したグラフである。
【図5】ピグの比重毎に12時の位置の膜厚と6時の位置の膜厚の平均値を求め、その差を縦軸にし、横軸をピグの比重にした相関グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態に係る樹脂ライニング工法を適用できる配管状態の一例を示した説明図である。ここでは、ガス導管を例にして説明するが、本発明は特にこれに限定されるものでない。
【0014】
図1(a)に示すように、ガス導管における本支管P1の多くは、道路下に敷設されている。この本支管P1から分岐した供給管P2を鉄筋建物Mの内部に引き込み、内部のガス機器m1に接続するには、建物基礎の壁(鉄筋壁)を貫通させて供給管P2を引き込み、ガスメータ(図示省略)やガス栓m2を介してガス機器m1に接続する。このような配管状態では、道路下に埋設された本支管P1と鉄筋建物Mの壁の外側までの供給管P2がガス事業者の資産で有り、鉄筋建物M内(敷地内)の配管が需要家の資産になる。
【0015】
そして、ガス事業者が本支管P1と供給管P2の入れ取り替え工事を行う場合には、前述したように、図1(b)に示すように壁Maを貫通している状態で部分的に配管を残すことが行われている。残された壁貫通管Pの保守管理はガス事業者が行うことになり、この壁貫通管Pに樹脂ライニングを施す場合には、壁Maの外側から作業を行うことが必要になる。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係る樹脂ライニング工法の各工程を示した説明図である。本発明の実施形態は、管の内径に対して小径の直径を有するピグを用い、管内に挿入したピグの進行方向前方に樹脂を充填して樹脂溜まりを形成し、その樹脂溜まりを押すように管内に沿ってピグを移動させることで、ピグの外周と管内面との間隙に応じた樹脂ライニング膜を管内面に形成する工法が前提になる。この際のピグの移動は、重量方向に大きな規制がない移動であれば、どのような手段による移動であってもよい。以下の説明では、前述した壁貫通管Pを対象にした工法の例を説明するが、特にこれに限定されるものではない。
【0017】
壁貫通管Pは両端が開放した直線状の管であり、これに対して管端の片側から作業を行って管内面に樹脂ライニング膜を形成する。このために、牽引紐1a付きのピグ1と手押し棒2a付きのピグ2を樹脂ライニング治具として用いる。ピグ1には牽引紐1aの先端がその中心に連結されており、ピグ2には手押し棒2aの先端がその中心に連結されている。ピグ1とピグ2は共に、壁貫通管Pの内径に対して小径の直径を有する球形状であり、ピグ1の直径に対してピグ2の直径を同径か若しくは若干大きくしている。
【0018】
図2(a)に示した工程では、壁貫通管Pの一端側から他端側に向けて牽引紐1a付きのピグ1を挿入している。この際、壁貫通管Pの一端に導入継手3を装着し、ピグ1を壁貫通管Pの一端から管内に挿入する。その後手押し棒2a付きピグ2を壁貫通管Pの一端から管内に挿入して、手押し棒2aを壁貫通管Pの他端側に向けて押し込むことでピグ1を押して壁貫通管Pの他端側まで移動させる。導入継手3には樹脂注入口3aが設けられている。
【0019】
図2(b)に示した工程では、手押し棒2a付きのピグ2を一端側に一旦引き抜き、図2(c)に示すように、樹脂注入口3aを通して壁貫通管Pの一端側から管内に樹脂4を充填する。その後、図2(d)に示すように、手押し棒2a付きのピグ2を壁貫通管Pの一端側から他端側に向けて移動することで、樹脂溜まり4aをピグ1の手前まで送り込む。この際、ピグ2の移動によって管内面には一次ライニング膜が形成される。
【0020】
図2(e)に示した工程では、手押し棒2a付きのピグ2を壁貫通管Pの一端側に引き抜いた後、牽引紐1aを壁貫通管Pの一端側から引くことで、ピグ1を壁貫通管Pの他端側から一端側に向けて移動させる。これによって、先に形成された一次ライニング膜の上に二次ライニング膜が形成され、併せて設定厚さの樹脂ライニング膜5が形成されることになる。
【0021】
このような工程を有する樹脂ライニング工法において、ピグ1の比重を適正に設定することで、樹脂ライニング膜5の膜厚を周方向に均一化することができる。図2(e)に示したように牽引紐1aでピグ1を牽引するような場合には、ピグ1は樹脂溜まり4aの中で重力方向の規制無く移動するので、ピグ1の重さによって重力方向の挙動が変化する。ピグ1が軽すぎる場合には、移動中に生じる浮力でピグ1が上昇し易くなり、管断面の上方位置(時計針の12時の位置)で樹脂ライニング膜5の膜厚は薄くなり、それに応じて管断面の下方位置(時計針の6時の位置)で樹脂ライニング膜5の膜厚は厚くなる。これに対して、ピグ1が重すぎる場合には、重力でピグ1が移動中に沈み込み易くなり、管断面の下方位置(時計針の6時の位置)で樹脂ライニング膜5の膜厚は薄くなり、それに応じて管断面の上方位置(時計針の12時の位置)で樹脂ライニング膜5の膜厚は厚くなる。
【0022】
本発明の実施形態は、前述したような樹脂溜まり4a内でのピグ1の挙動に着目して、ピグ1の比重を適正に設定することで樹脂ライニング膜5の膜厚を周方向で均一化するものである。樹脂ライニングに用いられるエポキシ樹脂などの樹脂は、どのような樹脂であってもその比重が1.1〜1.2の範囲で大きな違いがない。したがって、ピグ1の比重を実験的に得られる適正な値に設定することで、一般に行われる樹脂ライニング工法において、樹脂ライニング膜の均一性を高める効果を得ることができる。
【0023】
図3及び図4は、ピグの比重を変えた場合に樹脂ライニング膜の膜厚が管断面の上方位置(12時の位置)と下方位置(6時の位置)でどのような厚さになるかを実験調査したグラフである。ここでは図2に示した工法を採用し、口径80Aの管を対象にしている。使用した樹脂は比重1.15のエポキシ樹脂である。比重が0.2,0.41,0.55,0.64,1.04と異なるピグ1を用いて、図2(a)〜(e)の工程で樹脂ライニング膜5を形成し、管端からの距離が10cm,30cm,50cmの位置において、樹脂ライニング膜5の膜厚(mm)を上方位置(12時の位置)と下方位置(6時の位置)でそれぞれ計測した。グラフにおける各点の値は複数回の計測値の平均値である。
【0024】
図5は、図3〜図4の計測結果に基づいて、ピグ1の比重毎に12時の位置の膜厚と6時の位置の膜厚の平均値を求め、その差を縦軸にし、横軸をピグ1の比重にした相関グラフである。このグラフから明らかなように、ピグ1の比重を適正に設定することで、12時の位置と6時の位置の膜厚差を最小にすることができる。そして、ピグ1の比重を0.4〜0.6の間にすることで、12時の位置と6時の位置の膜厚差を極力小さくすることができる。また、ピグ1の比重を0.3〜0.7にすることで実用上支障が無い許容範囲に膜厚差を抑えることができる。
【0025】
ピグ1の比重調整は各種の方法で行うことができる。例えば、比較的比重が軽い単泡スポンジ等でピグを成形し、その成形時にピグの中心部に比重調整用の錘を内蔵させる方法や、比較的比重の重い高分子材料や金属材料でピグを形成し、その内部に形成する空洞の大きさで比重を調整する方法などがある。ピグ1の材質は比重を設定する上では重要な要因になるが、特定の材質に限定されるものではない。
【0026】
ピグ1の比重を0.3〜0.7の範囲に設定し、図2に示した工程で壁貫通管Pに樹脂ライニング膜5を形成することで、壁貫通管Pの片側から行う簡易な施工でありながら、周方向にほぼ均一な厚さを有する樹脂ライニング膜5を形成することができる。そして、樹脂ライニング膜5の周方向の膜厚を均一にすることで、膜厚を必要以上に厚くすることを避け、樹脂の使用量を最小限にして低コストの施工を行うことができる。これによって、特に、壁貫通管Pの施工に適した樹脂ライニング工法を提供することができる。
【符号の説明】
【0027】
1:ピグ,1a:牽引紐,
2:ピグ,2a:手押し棒,
3:導入継手,3a:樹脂注入口,
4:樹脂,4a:樹脂溜まり,
5:樹脂ライニング膜,
P:壁貫通管,P1:本支管,P2:供給管,
M:鉄筋建物,Ma:壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内径に対して小径の直径を有するピグを用い、管内に挿入した前記ピグの進行方向前方に樹脂を充填して樹脂溜まりを形成し、その樹脂溜まりを押すように管内に沿って前記ピグを移動させることで、前記ピグの外周と管内面との間隙に応じた樹脂ライニング膜を管内面に形成する工法であって、
前記ピグの比重を0.3〜0.7にしたことを特徴とする既設管内面の樹脂ライニング工法。
【請求項2】
前記ピグの比重を0.4〜0.6にしたことを特徴とする請求項1記載に記載された既設管内面の樹脂ライニング工法。
【請求項3】
前記管の一端側から他端側に向けて牽引紐付きの前記ピグを挿入する工程と、
前記管の一端側から管内に樹脂を充填して、手押し棒付きピグを前記管の一端側から他端側に向けて移動することで、樹脂溜まりを前記ピグの手前まで送り込む工程と、
前記手押し棒付きピグを前記管の一端側に引き抜いた後、牽引紐を前記管の一端側から引くことで、前記ピグを前記管の他端側から一端側に向けて移動させる工程とを有することを特徴とする請求項1又は2記載の既設管内面の樹脂ライニング工法。
【請求項4】
請求項3に記載された樹脂ライニング工法に用いる治具であって、前記手押し棒付きピグと前記ピグとからなる樹脂ライニング治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−94751(P2013−94751A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241517(P2011−241517)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】