説明

日射遮蔽分散体、日射遮蔽体、および、それらの製造方法

【課題】近赤外線の吸収を保持したまま、色調調整し、可視光透過率を制御して無彩色な色調を発色させた日射遮蔽分散体および日射遮蔽体を得ること。
【解決手段】一般式MWO(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、カーボンブラック微粒子とを、固形分重量比で(20:1)〜(200:1)の範囲で、媒体中に混合分散した日射遮蔽分散体であって、可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率よりも日射透過率が低く、L表色系で、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域の光は透過し、近赤外線領域に吸収を持つ近赤外線遮蔽材料を用いた日射遮蔽分散体、日射遮蔽体、および、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱線としての近赤外線を遮蔽し、保温及び断熱の性能を付与するために、ガラス、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の透明基材に近赤外線吸収能を付与することが求められている。
【0003】
従来、透明基材に近赤外線吸収能を付与する方法として、透明基材自体に近赤外線吸収剤を混入配合する方法がある。しかし、この方法では、近赤外線吸収剤の混入時に高い加工温度を必要とするため、使用し得る近赤外線吸収剤の種類が著しく限定される問題がある。また、他の方法として、スパッタリング等の物理気相成膜法で近赤外線吸収性薄膜を透明基材表面に直接形成する方法がある。ところが、この方法では、薄膜製造のために高額の大型設備の導入が必要となり、多品種生産には適合せず、また薄膜の種類によっては耐湿性、耐薬品性、耐久性等が充分ではないという問題がある。さらに、近赤外線吸収剤を溶解した樹脂を透明基材にコーティングしたり、積層したりする方法が提案されている。しかし、この方法では、大量の近赤外線吸収剤の添加に伴い樹脂層の可塑化が起こり、耐擦傷性が不十分になるという問題があった。
【0004】
一方、近赤外線吸収能を有する基材は、上記近赤外線吸収特性と同時に、実用的には色調も重要である。当該色調の中で彩度の低いのは黒色系である。そして、意匠性や実用性の面から、彩度の低い黒色系の色調が好まれることが多い。従って、窓等に使用される近赤外線遮蔽材料には、可視光領域に吸収がある黒色系の顔料が使用されることが多い。
【0005】
例えば、黒色系の自動車窓ガラス用遮光フィルムとして、特許文献1では、マトリックスとしてのシリカ中にCuO−Fe23−Mn23系からなる黒色系顔料が分散された着色膜を、ガラス表面に被覆した濃色着色遮光ガラスが提案されている。上記シリカは、アルコキシシランの加水分解物もしくは部分加水分解物並びにコロイダルシリカより構成され、そのアルコキシシランの加水分解物もしくは部分加水分解物の固形分に対するコロイダルシリカの重量比が60:40〜40:60である。また、上記黒色系顔料は、シリカ固形分との合計重量の5〜10重量%を含有する。
【0006】
また、特許文献2には、ガラス基板上に少なくともCuO−Fe23−Mn23系からなる無機顔料とシリカゾルでなした薄膜層を備えた遮光膜付きガラスが提案されている。上記薄膜層は、膜厚が50nm以上1500nm以下であり、しかも可視光反射率が2%以上10%以下、かつヘーズ値が5.0%以下であり、グレー色系もしくは黒色系の色調を呈することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−351651号公報
【特許文献2】特開平9−030836号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/087680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近赤外線の吸収を保持したまま、可視光透過率を制御して色調調整して無彩色な色調を得ようとすると、数種類の色素を混合する必要がある。しかしながら、本発明者らの検討によると、近赤外域に特性吸収を有する色素の中には他の色素と混在すると特性が変化したり、化学反応等や誘電的相互作用によって近赤外線吸収能が変化するという問題があることが見出された。
また上述した、窓等に使用される可視光領域に吸収がある黒色系顔料の近赤外線遮蔽材料は、可視光領域に大きな吸収があり、近赤外線領域の吸収が少ないため、有効な近赤外線遮蔽材とはいえないという問題があることが見出された。
さらに上述した、ガラス基板上にCuO−Fe23−Mn23系からなる無機顔料とシリカゾルでなした遮光膜付きガラスは、可視光反射率は比較的低いものの、遮光性能の劣化等の経時変化という問題があることが見出された。
【0008】
本発明は、上述の状況の下で成されたものであり、近赤外線の吸収能を保持したまま、色調調整出来、可視光透過率を制御して無彩色な色調を発色し、耐久性に優れた日射遮蔽分散体および日射遮蔽体を得、さらに、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような物質の粉末を光の波長よりも小さい微粒子にすると、可視光領域(380nmから780nm)での幾何学散乱が低減され、可視光領域の透光性が得られる。
【0010】
ここで本発明者らは、研究の結果、可視光領域の光に対して透過性があり、近赤外線領域に吸収がある、青色系の透光性を有する複合タングステン酸化物微粒子と、茶色系のカーボンブラック微粒子とを一定の割合で併用(当該併用とは混合を含む。以下同様)することで上記目的を達成できる可能性を見出し、黒色系もしくはグレー系の色調を呈する近赤外線吸収材料の開発を行ない、無彩色の黒系、グレー系の色調を有するとともに、所定の可視光透過性を有しながら近赤外線遮蔽特性を有する日射遮蔽分散体および日射遮蔽体を得るに至り本発明を完成した。
【0011】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
一般式MWO(但し、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種類以上の元素)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、窒素吸着比表面積が30m/g以上であるカーボンブラック微粒子とが、所定の媒体中に混合分散し、
前記複合タングステン酸化物微粒子と、前記カーボンブラック微粒子との混合分散は、固形分重量比で(20:1)〜(200:1)の範囲にあり、
可視光透過率が30〜90%であり、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽分散体である。
【0012】
第2の構成は、
第1の構成に記載の日射遮蔽分散体が、所定の基材の片面または両面に設けられ、
可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽体である。
【0013】
第3の構成は、
第1の構成に記載の複合タングステン酸化物微粒子が所定の媒体内に分散された、複合タングステン酸化物分散体と、
第1の構成に記載のカーボンブラック微粒子が所定の媒体内に分散された、カーボンブラック分散体と、を有する日射遮蔽分散体であって、
当該日射遮蔽分散体において、前記複合タングステン酸化物微粒子と、前記カーボンブラック微粒子との存在比率は、(20:1)〜(200:1)の固形分重量比の範囲であり、
可視光透過率が30〜90%であり、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽分散体である。
【0014】
第4の構成は、
第3の構成に記載の複合タングステン酸化物分散体と、カーボンブラック分散体とが、所定の基材の片面または両面に設けられ、
当該日射遮蔽体において、前記複合タングステン酸化物微粒子と、前記カーボンブラック微粒子との存在比率は、(20:1)〜(200:1)の固形分重量比の範囲であり、
可視光透過率が30〜90%であり、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽体である。
【0015】
第5の構成は、
上記複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子の粒子径が、1nm以上、800nm以下であることを特徴とする第1若しくは第3の構成に記載の日射遮蔽分散体、または、第2若しくは第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0016】
第6の構成は、
上記複合タングステン酸化物微粒子の表面が、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムを1種類以上含む酸化物で被覆されていることを特徴とする第1若しくは第3の構成に記載の日射遮蔽分散体、または、第2若しくは第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0017】
第7の構成は、
上記媒体が、樹脂もしくはガラスであることを特徴とする第1若しくは第3の構成に記載の日射遮蔽分散体、または、第2若しくは第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0018】
第8の構成は、
上記媒体が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする第1若しくは第3の構成に記載の日射遮蔽分散体、または、第2若しくは第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0019】
第9の構成は、
上記媒体が、板状、フィルム状、薄膜状であることを特徴とする第1若しくは第3の構成に記載の日射遮蔽分散体、または、第2若しくは第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0020】
第10の構成は、
上記基体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第2または第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0021】
第11の構成は、
上記基体が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする第2または第4の構成に記載の日射遮蔽体である。
【0022】
第12の構成は、
複合タングステン酸化物微粒子を分散溶媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を調整することで、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した分散溶媒の色調をL表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−20〜0、bが−25〜3の範囲とする工程と、
前記分散粒子径を調整した複合タングステン酸化物微粒子の分散溶媒へ、カーボンブラック微粒子を添加混合し、混合物を製造する工程と、
を有することを特徴とする、第1〜第3の構成のいずれかに記載の日射遮蔽分散体の製造方法である。
【0023】
第13の構成は、
複合タングステン酸化物微粒子を分散溶媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を調整することで、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した分散溶媒の色調をL表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−20〜0、bが−25〜3の範囲とする工程と、
前記分散粒子径を調整した複合タングステン酸化物微粒子の分散溶媒へ、カーボンブラック微粒子を添加混合し、第1の混合物を製造する工程と、
前記第1の混合物から前記分散溶媒を除去して、分散粉を製造する工程と、
前記分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の混合物を製造する工程と、
前記第2の混合物を、成形固化する工程と、
を有することを特徴とする、第1〜第3の構成のいずれかに記載の日射遮蔽分散体の製造方法である。
【0024】
第14の構成は、
第12または第13の構成に記載の日射遮蔽分散体の製造方法により製造された日射遮蔽分散体を、所定の基材上にコーティングし、第4〜第11の構成のいずれかに記載の日射遮蔽体を得ることを特徴とする、日射遮蔽体の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の日射遮蔽分散体および日射遮蔽体は、黒色系もしくはグレー系の無彩色な色調であり、可視光透過率よりも低い日射透過率を発現させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本実施形態の日射遮蔽分散体は、一般式MWO(但し、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種類以上の元素)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、窒素吸着比表面積が30m/g以上であるカーボンブラック微粒子とを、固形分重量比で(20:1)〜(200:1)の範囲で、共に分散体中に混合分散しているか、または、それぞれ分散体中に分配されて分散した日射遮蔽分散体であって、
可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率よりも日射透過率が低く、L表色系で、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴としている。
【0027】
また、本実施形態の日射遮蔽体は、上記複合タングステン酸化物微粒子と上記カーボンブラック微粒子とが共に混合分散した日射遮蔽分散体である被覆層が、後述する適宜な基体の片面あるいは両面に形成された日射遮蔽体であって、
可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率よりも日射透過率が低く、L表色系で、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする。
【0028】
さらに、本実施形態の日射遮蔽分散体は、上記複合タングステン酸化物微粒子が媒体内に分散された複合タングステン酸化物分散体の片面もしくは両面に、上記カーボンブラック微粒子が分散したカーボンブラック分散体が形成されているか、または、上記カーボンブラック微粒子が媒体内に分散されたカーボンブラック分散体の片面もしくは両面に上記複合タングステン酸化物微粒子が分散した複合タングステン酸化物分散体が形成された日射遮蔽分散体であって、
可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率よりも日射透過率が低く、L表色系で、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする。
【0029】
さらに、本実施形態の日射遮蔽体は、上記複合タングステン酸化物微粒子が分散した複合タングステン酸化物分散体と、上記カーボンブラック微粒子が分散したカーボンブラック微粒分散体とを、後述する適宜な基体の片面に積層しているか、または、上記複合タングステン酸化物微粒子が分散した複合タングステン酸化物微粒子分散体を、後述する適宜な基体の片面に有し、かつ、当該基体の他方の面に上記カーボンブラック微粒子が分散したカーボンブラック分散体を有する日射遮蔽体であって、
可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率よりも日射透過率が低く、L表色系で、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする。
【0030】
(1)複合タングステン酸化物微粒子
日射遮蔽機能を有する微粒子として、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.0<z/y<3.0)で表記されるタングステン酸化物の微粒子、および/または、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子が、国際公開WO2005/087680号公報に本出願人によって提案されている。
【0031】
本実施形態に用いられる近赤外線遮蔽機能を有する微粒子は、その中でも、一般式MWO(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。上記複合タングステン酸化物の微粒子は、各種分散体に適用された場合、近赤外線吸収成分として有効に機能する。
上記一般式MWO(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、例えばM元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上を含むような複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。
【0032】
添加元素Mの添加量は、0.1以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33付近が好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。典型的な例としてはCs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Ba0.33WOなどを挙げることができるが、Y、Zが上記範囲に収まるものであれば、良好な赤外線吸収特性を得ることができる。
該複合タングステン酸化物微粒子は、波長400nm〜500nm付近に透過率のピークを持ち、近赤外線領域、特に900〜2200nm付近の光を大きく吸収する。この材料は、可視光領域である380nm〜780nmの光の一部を選択的に透過するために着色が生じ、その透過色調は青色系から緑色系となるものが多い。
【0033】
また、本実施形態の赤外線遮蔽材料を構成する複合タングステン酸化物微粒子の表面は、Si、Ti、Zr、Alの1種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該複合タングステン酸化物微粒子の耐候性の向上の観点から好ましい。これらの被覆酸化物は基本的に透明であり、添加されたことで可視光透過率を低下させることはない。
被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中に、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0034】
(2)カーボンブラック微粒子
本実施形態に用いられるカーボンブラック微粒子は、窒素吸着比表面積が大きく、粒子径が小さい方が、隠蔽力が強くなり、分散性も向上するため好ましい。このため、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は30m/g以上であることが好ましく、100m/g以上であることがより好ましく、200m/g以上であることが更に好ましい。
また、カーボンブラックの粒子径は50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。
また、分散性を向上させるために、当該カーボンブラックの粒子を、予め樹脂で被覆しておくのも好ましい構成である。
【0035】
(3)日射遮蔽分散体
上記複合タングステン酸化物微粒子と上記カーボンブラック微粒子とを混合することで、近赤外線の吸収を保持したまま、色彩を抑えた色調調整が可能となる。得られた日射遮蔽材の色調は、両材料の組成比にもよるが、青色系から青色系の黒色、黒色系、緑色系の黒色へ可変である。この結果、当該日射遮蔽材において、国際照明委員会(CIE)で規格化されたL表色系(JISZ8729)におけるLが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10の範囲の色調を得ることができた。
【0036】
ここで、カーボンブラック微粒子は、その単位重量あたりの遮蔽能力が非常に高いため、その使用量が少なくて済む。また、複合タングステン酸化物微粒子は、カーボンブラック微粒子と併用してもその近赤外線吸収機能が保持されるため、日射遮蔽材は良好な近赤外線遮蔽特性が得られる。
【0037】
当該複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とを同一の媒体に分散させる場合も、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とを、別々の媒体に分配して分散している場合も、日射遮蔽分散体全体または日射遮蔽体全体としては、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子との固形分重量比が、(20:1)〜(200:1)の範囲にあることが好ましい。固形分重量比がこの範囲にあると、両材料を合わせた色調変化の効果が顕著に表れて無彩色化し、近赤外線遮蔽特性も高い。さらに、当該固形分重量比は、(40:1)〜(150:1)の範囲が特に好ましい。当該固形分重量比を採ることによって、色調をL表色系で、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10へと変化させることができる。これは、太陽光線等からの近赤外線の吸収を保持したまま、色調調整し、無彩色な色調を発色させることができることを示している。従って、この組成比の領域では、近赤外線遮蔽効果が保持され、且つ繊細な色調調整を行うことができる。
【0038】
一方、前記複合タングステン酸化物微粒子が分散した媒体の有する光の透過率のピーク位置は、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径の減少に伴い短波長側へシフトする。これは、主に当該複合タングステン酸化物微粒子の光散乱により起こされる現象である。そして当該透過色調は、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径の減少に伴い、緑色系から青色系へと変化する。
【0039】
上述したように本発明においては、複合タングステン酸化物微粒子と、カーボンブラック微粒子とを、一定の割合で併用することで黒色系もしくはグレー系の色調を得る。ここで、複合タングステン酸化物微粒子の分散液の色調がL表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−20〜0、bが−25〜3の範囲にある時に、カーボンブラック微粒子の分散液と混合することで、より繊細な色調調整を行うことが可能となる。この結果、より完璧な無彩色の色調を発色させることができ好ましい構成である。
【0040】
また、複合タングステン酸化物微粒子を分散溶媒に分散した時の色調が、L表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−20〜0、bが−25〜3の範囲にある時に、カーボンブラック微粒子の分散液と混合して第1の混合物を得ることも出来る。この場合も、より繊細な色調調整を行うことが可能となり、当該第1の混合物において、より完璧な無彩色の色調を発色させることができ好ましい構成である。そして、当該第1の混合物から分散溶媒を除去して得られる分散粉と、樹脂の粉粒体もしくはペレットとを混合溶融して第2の混合物を得、当該第2の混合物を成形固化することにより、黒色系もしくはグレー系のより完璧な無彩色に色調調整された日射遮蔽分散体および日射遮蔽体を得ることができ好ましい構成である。
【0041】
上記固形分重量比の範囲であれば、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とを、共に媒体中あるいは分散体に混合分散している場合、または、それぞれの分散体に分配して分散している場合も含めて、可視光透過率を30〜90%とし、かつ、日射透過率を10〜80%とすることができる。可視光透過率が30%よりも高ければ、遮光性が強くて視界が暗くなりすぎることを防止でき、日射透過率が80%よりも低ければ十分な遮蔽性能が得られる。このため、上記光学特性を有することは近赤外線遮蔽効果として優れている。上記のように特性自体はカーボンとタングステン化合物の混合比で決定されるが、可視光透過率、日射透過率は、媒体の膜厚や成形体の厚さに依存するので、膜厚が薄い場合には高濃度に調整し、膜厚が厚い場合には低濃度に調整することで、所望の光学特性となるよう適宜制御することができる。
【0042】
当該複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子との粒子径が800nm以下であれば、光を遮蔽することがないため、可視光領域の透明性を保持したまま効率よく近赤外線を遮蔽することが可能となる。特に可視光領域の透明性を重視する場合には、粒子径は200nm以下がよく、好ましくは100nm以下がよい。微粒子の粒子径が大きいと、幾何学散乱もしくは回折散乱によって400〜780nmの可視光領域の光を散乱して曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が不可能だからである。
【0043】
粒子径が200nm以下になると、上記散乱が低減してミー散乱もしくはレイリー散乱領域になる。特に、レイリー散乱領域まで粒子径が減少すると、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。更に100nm以下になると散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましく、粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0044】
(4)日射遮蔽分散体および日射遮蔽体の形態
次に、本実施形態の日射遮蔽分散体および日射遮蔽体の好ましい形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の日射遮蔽分散体、日射遮蔽体の模式的な断面図である。尚、図1において、○は複合タングステン酸化物微粒子を示し、●はカーボンブラック微粒子を示し、無地の部分は媒体を示し、斜線の部分は基体を示す。
【0045】
日射遮蔽分散体の第一の形態は、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とが、共に媒体内に分散して含有されているものである。当該形態例を図1(A)に示す。尚、当該形態において、媒体に機械的強度のあるものを用い、基材を用いることなく日射遮蔽体として使用することも勿論可能である。
日射遮蔽体の第一の形態は、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とを共に含有する分散体を、後述する適宜な基体の片面あるいは両面に有するものである。当該形態例を図1(B)に示す。
日射遮蔽分散体の第二の形態は、複合タングステン酸化物微粒子が媒体内に分散された複合タングステン酸化物微粒子分散体の片面もしくは両面に、カーボンブラック微粒子を含有するカーボンブラック微粒子分散体を有するか、または、カーボンブラック微粒子が媒体内に分散されたカーボンブラック微粒子分散体の片面もしくは両面に、複合タングステン酸化物微粒子を含有する複合タングステン酸化物微粒子分散体を有するものである。当該形態例を図1(C)に示す。尚、当該形態において、媒体に機械的強度のあるものを用い、基材を用いることなく日射遮蔽体として使用することも勿論可能である。
日射遮蔽体の第二の形態は、複合タングステン酸化物微粒子を含有する複合タングステン酸化物微粒子分散体と、カーボンブラック微粒子を含有するカーボンブラック微粒子分散体とを、後述する適宜な基体の片面に積層して有するか、または、複合タングステン酸化物微粒子分散体を、当該基体の片面に有し、且つこの基体の他方の片面にカーボンブラック微粒子分散体を有するものである。当該形態例を図1(D)に示す。
【0046】
(5)日射遮蔽分散体の形成方法
上述の各形態の日射遮蔽分散体および日射遮蔽体を作製する場合、複合タングステン酸化物微粒子またはカーボンブラック微粒子を含む組成物を媒体上にコーティングすること、あるいは上記微粒子を媒体中に練り込んで分散させることが出来る。
これらの適用方法としては通常のコーティング方法や分散方法を用いることができる。これらの方法は、樹脂等の耐熱温度の低い材料への応用が可能であり、且つ、作製の際に、大型の装置を必要とせず安価である。
【0047】
ここで、複合タングステン酸化物微粒子は導電性材料であるため、当該微粒子が連接して連続的な膜となっている場合には、携帯電話等の電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、この複合タングステン酸化物微粒子は、例えば、ビーズミルを用いて分散することで、微粒子としてマトリックス中に分散した場合には、粒子一つ一つが孤立した状態で分散しているため、電波透過性を発揮することができ、汎用性を有している。
【0048】
a)複合タングステン酸化物微粒子および/またはカーボンブラック微粒子を媒体の内部に分散させる方法
複合タングステン酸化物微粒子および/またはカーボンブラック微粒子を媒体の内部に分散させる場合には、該微粒子単独あるいは混合物を媒体表面から浸透させてもよく、あるいは、媒体を溶融温度以上に加熱して溶融させた後、該微粒子単独あるいは混合物を混合してもよい。また、予め原料樹脂中に該微粒子を高濃度に分散せしめたマスターバッチを製造し、これを所定の濃度に希釈調整して用いることも可能である。このようにして得られた複合タングステン酸化物微粒子および/またはカーボンブラック微粒子を含有する樹脂は、所定の方法で、板状、フィルム状、薄膜状に成形することができる。
【0049】
上記マスターバッチの製造方法は、特に限定されないが、例えば、複合タングステン酸化物微粒子の分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、分散媒を除去しながら均一に溶融混合することで、熱可塑性樹脂に微粒子が均一に分散した混合物として調整することができる。
その際の混合には、リボブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機などの混練機を使用することができる。
【0050】
また、該微粒子分散液の分散媒を公知の方法で除去し、得られた該微粒子と熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に溶融混合する方法を用いて、熱可塑性樹脂に微粒子を均一に分散させた混合物を調整することもできる。
そのほか、該微粒子を熱可塑性樹脂に直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。微粒子を樹脂に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波分散、媒体攪拌ミル、ボールミル、サンドミルなどを使用することができる。
上述の微粒子の分散媒は、特に限定されるものではなく、配合する樹脂に合わせて選択することが可能である。例えば、水、あるいは、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、芳香族化合物など、一般的な溶媒の使用が可能である。また、必要に応じて、酸やアルカリを添加してpHを調整してもよい。更に、微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することも可能である。
【0051】
上述の方法により得られた混合物は、更にペント式一軸もしくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することによって、樹脂中に複合タングステン酸化物微粒子および/またはカーボンブラック微粒子を高濃度に分散させたマスターバッチを得ることができる。
【0052】
b)複合タングステン酸化物微粒子および/またはカーボンブラック微粒子を含有する分散体の形成方法
複合タングステン酸化物微粒子および/またはカーボンブラック微粒子を含有する分散体をコーティングにより、後述する適宜な基体上に形成する場合には、例えば、複合タングステン酸化物微粒子を溶媒中に分散させ、これに樹脂バインダーを添加した後、媒体表面にコーティングし、溶媒を蒸発させ、所定の方法で樹脂を硬化させることにより、複合タングステン酸化物微粒子を含む分散体を形成することができる。また、複合タングステン酸化物微粒子を樹脂バインダー中に直接分散したものは、媒体表面にコーティングした後、溶媒を蒸発させる必要がないため、環境的にも工業的にも好ましい。
【0053】
後述する適宜な基体表面へのコーティング方法としては、均一にコートできれば特に制限はなく、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法などを用いることができる。これらのコーティング方法により形成した複合タングステン酸化物微粒子を含有する層は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相法(CVD法)などの乾式法や、スプレー法で作製した場合に比べて、光の干渉効果を用いなくても、特に近赤外線領域の光を効率よく吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることができる。
【0054】
上記媒体、および、上述した適宜な基体としては、例えば、フィルム、樹脂もしくはガラス等が挙げられる。但し、これらの材料を基体として用いる場合は、それぞれの使用状況に応じた機械的強度を有することが求められる。
樹脂であれば、一般的に、透過性があり散乱の少ない、無色透明の樹脂が適しており、用途に適した樹脂を選択すればよい。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート樹脂が好適である。
【0055】
また、これら樹脂もしくはフィルムを用いる場合、その表面は、樹脂バインダーとの結着性向上を目的とした表面処理が施されていてもよく、その代表的な処理方法は、コロナ表面処理、プラズマ処理、スパッタリング処理等の放電処理、火炎処理、金属ナトリウム処理、プライマー層コート処理等が挙げられる。
樹脂もしくはフィルムの意匠性を重視する場合には、あらかじめ着色された媒体、もしくは型どりされた媒体を使用することもできる。また、塗布液中に着色顔料や染料を添加してもよい。
樹脂もしくはフィルム等の形状の分散体をガラス等の基体に貼り付けるため、接着面に接着層と離型フィルム層とを積層してもよい。自動車のバックウィンドウのように曲面に貼り付け易いように、ドライヤーの熱で簡単に軟化するフィルムを使用してもよい。
接着剤中に紫外線遮蔽剤を添加すれば、フィルムや樹脂の紫外線劣化を防止できる。紫外線吸収剤には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、CeO、TiO、ZnO等が挙げられる。
【0056】
上記媒体や基体に用いる樹脂としては、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑性樹脂などを目的に応じて選択することができる。
また、分散体の媒体として金属アルコキシドを用いることも可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zrなどのアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを媒体として用いた分散体は加水分解して、加熱することで酸化膜を形成することが可能である。
【0057】
上記実施形態の日射遮蔽分散体および日射遮蔽体は、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子とを、共に媒体中に混合分散しているか、または、別々に媒体中に分散した日射遮蔽分散体および日射遮蔽体であり、簡便な方法で製造できるうえ、耐候性が良く、低コストである。しかも、本実施形態の日射遮蔽分散体および日射遮蔽体は、太陽光からの近赤外線の吸収を保持したまま色調調整し、青色系の複合タングステン酸化物微粒子と茶色系のカーボンブラック微粒子との併用により、黒色系もしくはグレー系の無彩色な色調を発色させることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例と比較例によってより詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO微粒子の分散液を作製した(A液)。当該A液の色調は、L表色系において、Lを84.70とした場合、aが−7.00、bが−4.28であった。同様の方法で、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を作製した(B液)。このA液とB液をCs0.33WO微粒子とカーボンブラック微粒子の固形分重量比が120:1、塗布液中のハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)の割合が20%となるように、トルエンで希釈して十分混合し塗布液とした。この塗布液をバーコーターを用いて50μmPETフィルム上に塗布、成膜した。この膜を60℃で1分乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ、目的とする膜を得た。
作製された膜の光学特性を、日立製作所製の分光光度計を用いて波長200〜2100nmの光の透過率により測定し、JIS A 5759に従って可視光透過率、日射透過率、色調(L、a、b表色系)を算出した。
この結果を表1に示す。また、表1には下記の実施例2〜6、比較例1で得られた結果についても併せて示す。
【0059】
(実施例2)
Rb0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのRb0.33WO微粒子の分散液を作製した(C液)。当該C液の色調は、L表色系において、Lを84.91とした場合、aが−6.92、bが−3.92であった。同様の方法で、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を作製した(B液)。このC液とB液をRb0.33WO微粒子とカーボンブラック微粒子の固形分重量比が60:1、塗布液中のハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)の割合が20%となるように、トルエンで希釈して十分混合し塗布液とした。この塗布液をバーコーターを用いて50μmPETフィルム上に塗布、成膜した。この膜を60℃で1分乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ、目的とする膜を得た。
この膜の光学特性を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO微粒子の分散液を作製した(A液)。当該A液の色調は、L表色系において、Lを84.70とした場合、aが−7.00、bが−4.28であった。同様の方法で、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を作製した(B液)。このA液とB液をCs0.33WO微粒子とカーボンブラック微粒子の固形分重量比が100:1、塗布液中のハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)の割合が20%となるように、トルエンで希釈して十分混合し塗布液とした。この塗布液をバーコーターを用いて50μmPETフィルム上に塗布、成膜した。この膜を60℃で1分乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ、目的とする膜を得た。
この膜の光学特性を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0061】
(実施例4)
Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO微粒子の分散液を作製した(A液)。当該A液の色調は、L表色系において、Lを84.70とした場合、aが−7.00、bが−4.28であった。同様の方法で、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を作製した(B液)。さらにスプレードライヤーを用いて(A液)および(B液)のトルエンを除去し、Cs0.33WO分散粉である(A粉)とカーボンブラック分散粉である(B粉)を得た。
得られた(A粉)および(B粉)を、各々ポリエステル樹脂ペレットに添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、Cs0.33WOを含有するマスターバッチとカーボンブラックを含有するマスターバッチを得た。
このCs0.33WOを含有するマスターバッチとカーボンブラックを含有するマスターバッチの固形分重量比が150:1となるように、同じ方法で調製した無機微粒子を添加していないマスターバッチと混合した。
この混合マスターバッチを押出し成形して、厚さ50μmのフィルムを形成した。このフィルムの光学特性を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO微粒子の分散液を作製した(A液)。当該A液の色調は、L表色系において、Lを84.70とした場合、aが−7.00、bが−4.28であった。このA液70重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)20重量部とトルエン10重量部とを混合して、Cs0.33WO微粒子分散体液を得た。同様の方法で、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を作製した(B液)。このB液5重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)20重量部とトルエン75重量部とを混合して、カーボンブラック微粒子分散体液を得た。
このCs0.33WO微粒子分散体液をバーコーターを用いて50μmPETフィルム上に塗布、成膜した。この膜を60℃で1分乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させた。その後、PETフィルムのもう片面に、同様の方法でカーボンブラック微粒子分散体液を塗布、成膜し、硬化させ、Cs0.33WO微粒子とカーボンブラック微粒子の固形分重量比が80:1となるような膜を得た。
この膜の光学特性を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0063】
(実施例6)
Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO微粒子の分散液を作製した(A液)。当該A液の色調は、L表色系において、Lを84.70とした場合、aが−7.00、bが−4.28であった。
さらにスプレードライヤーを用いて(A液)のトルエンを除去し、Cs0.33WO分散粉である(A粉)を得た。得られた(A粉)を、ポリエステル樹脂ペレットに添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、Cs0.33WOを含有するマスターバッチを得た。このCs0.33WOを含有するマスターバッチを同じ方法で調製した無機微粒子を添加していないマスターバッチと混合した。この混合マスターバッチを押出し成形して、厚さ50μmのフィルムを形成した。
同様の方法で、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を作製した(B液)。このB液5重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)20重量部とトルエン75重量部とを混合して、カーボンブラック微粒子分散体液を得た。このカーボンブラック微粒子分散体液をバーコーターを用いて、Cs0.33WO微粒子を含有している上記フィルム上に塗布、成膜し、硬化させ、Cs0.33WO微粒子とカーボンブラック微粒子の固形分重量比が40:1となるような膜を得た。
この膜の光学特性を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
カーボンブラック微粒子(比表面積20m/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのカーボンブラック微粒子の分散液を得た(B液)。このB液5重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)20重量部とトルエン75重量部とを混合して、カーボンブラック微粒子分散体液を得た。
このカーボンブラック微粒子分散体液を、バーコーターを用いて50μmPETフィルム上に塗布、成膜した。この膜を60℃で1分乾燥し溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ、目的とする膜を得た。
この膜の光学特性を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0065】
(評価)
比較例1は、可視光透過率よりも日射透過率の方が高く、透明な日射遮蔽体としては断熱効果が悪い。また、b値が大きいため色調に黄色みがあり意匠性において好ましくない。
これに対し、実施例1〜6は、複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子を併用することで、日射透過率が低く保持されたままでも、断熱効果が高いことがわかる。また、色調は黒色系であった。
【0066】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態の日射遮蔽分散体、日射遮蔽体の模式的な断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MWO(但し、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種類以上の元素)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、窒素吸着比表面積が30m/g以上であるカーボンブラック微粒子とが、所定の媒体中に混合分散し、
前記複合タングステン酸化物微粒子と、前記カーボンブラック微粒子との混合分散は、固形分重量比で(20:1)〜(200:1)の範囲にあり、
可視光透過率が30〜90%であり、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽分散体。
【請求項2】
請求項1に記載の日射遮蔽分散体が、所定の基材の片面または両面に設けられ、
可視光透過率が30〜90%であり、かつ、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽体。
【請求項3】
請求項1に記載の複合タングステン酸化物微粒子が所定の媒体内に分散された、複合タングステン酸化物分散体と、
請求項1に記載のカーボンブラック微粒子が所定の媒体内に分散された、カーボンブラック分散体と、を有する日射遮蔽分散体であって、
当該日射遮蔽分散体において、前記複合タングステン酸化物微粒子と、前記カーボンブラック微粒子との存在比率は、(20:1)〜(200:1)の固形分重量比の範囲であり、
可視光透過率が30〜90%であり、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽分散体。
【請求項4】
請求項3に記載の複合タングステン酸化物分散体と、カーボンブラック分散体とが、所定の基材の片面または両面に設けられ、
当該日射遮蔽体において、前記複合タングステン酸化物微粒子と、前記カーボンブラック微粒子との存在比率は、(20:1)〜(200:1)の固形分重量比の範囲であり、
可視光透過率が30〜90%であり、日射透過率が10〜80%であり、可視光透過率の数値よりも日射透過率の数値が低く、
表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−15〜1、bが−10〜10であることを特徴とする日射遮蔽体。
【請求項5】
上記複合タングステン酸化物微粒子とカーボンブラック微粒子の粒子径が、1nm以上、800nm以下であることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の日射遮蔽分散体、または、請求項2若しくは4に記載の日射遮蔽体。
【請求項6】
上記複合タングステン酸化物微粒子の表面が、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムを1種類以上含む酸化物で被覆されていることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の日射遮蔽分散体、または、請求項2若しくは4に記載の日射遮蔽体。
【請求項7】
上記媒体が、樹脂もしくはガラスであることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の日射遮蔽分散体、または、請求項2若しくは4に記載の日射遮蔽体。
【請求項8】
上記媒体が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の日射遮蔽分散体、または、請求項2若しくは4に記載の日射遮蔽体。
【請求項9】
上記媒体が、板状、フィルム状、薄膜状であることを特徴とする請求項1若しくは3に記載の日射遮蔽分散体、または、請求項2若しくは4に記載の日射遮蔽体。
【請求項10】
上記基体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項2または4に記載の日射遮蔽体。
【請求項11】
上記基体が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする請求項2または4に記載の日射遮蔽体。
【請求項12】
複合タングステン酸化物微粒子を分散溶媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を調整することで、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した分散溶媒の色調をL表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−20〜0、bが−25〜3の範囲とする工程と、
前記分散粒子径を調整した複合タングステン酸化物微粒子の分散溶媒へ、カーボンブラック微粒子を添加混合し、混合物を製造する工程と、
を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の日射遮蔽分散体の製造方法。
【請求項13】
複合タングステン酸化物微粒子を分散溶媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を調整することで、当該複合タングステン酸化物微粒子を分散した分散溶媒の色調をL表色系で評価したとき、Lが50〜95、aが−20〜0、bが−25〜3の範囲とする工程と、
前記分散粒子径を調整した複合タングステン酸化物微粒子の分散溶媒へ、カーボンブラック微粒子を添加混合し、第1の混合物を製造する工程と、
前記第1の混合物から前記分散溶媒を除去して、分散粉を製造する工程と、
前記分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の混合物を製造する工程と、
前記第2の混合物を、成形固化する工程と、
を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の日射遮蔽分散体の製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の日射遮蔽分散体の製造方法により製造された日射遮蔽分散体を、所定の基材上にコーティングし、請求項4〜11のいずれかに記載の日射遮蔽体を得ることを特徴とする、日射遮蔽体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314752(P2007−314752A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261379(P2006−261379)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】