説明

日本脳炎ウイルス群感染症に対する不活化ワクチンのための増強免疫原およびその製造方法

【課題】マウスの代わりに細胞株を用いてウイルス粒子を量産する技術を提供すること。
【解決手段】本発明は、従来のワクチンに比べ、約2倍〜約10倍に力価が増強された新規な不活化ウイルス粒子、増強免疫原およびその製造方法を提供する。本発明の不活化ウイルス粒子はまた、日本脳炎ウイルス群感染症の診断剤にも有用である。これにより、生産コストが大幅に低減されるだけではなく、バイオハザード対策、製造作業手順、精製工程、品質管理、製造計画等が省力化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、フラビウイルス属の日本脳炎ウイルス群による感染症に対する不活化ワクチンおよび診断剤、特に、その有効成分として優れて有用な増強免疫原あるいは抗原およびその製造方法、並びに不活化日本脳炎ワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術
日本脳炎ウイルス群による感染症の代表例として、以下、日本脳炎を挙げ、そのワクチンにつき説明する。最初の日本脳炎ワクチンは、1954年に実用化された。このワクチンは、マウス脳内で培養したウイルスから調製した抗原を有効成分とし、その精製度は低く、不純物が多いため、アレルギー性の中枢神経障害を誘発する危険性があった。その後、改良され、アルコール沈殿、硫酸プロタミン処理、および超遠心法等の組合せによる高度精製ワクチンが1965年に実用化され、品質が著しく向上した。そして、かかるワクチンおよびその製造技術が踏襲され現在に至っている(非特許文献1)。一方、マウス脳を使用しない不活化ワクチンの開発も試行された。即ち、1965年に日本脳炎ワクチン研究会が結成され、初代細胞培養による組織培養ワクチンが開発された。しかし、不活化ワクチン抗原の量産に要する膨大な量の初代細胞培養の確保が製造コストの点で実用上不可能であったので、このワクチンは実用化に至らなかった。これは、その当時、ワクチン製造用の認可細胞が初代培養細胞に限定され、継代細胞株の使用が危険視かつ否認されていたためである。組織培養の日本脳炎生ワクチンに関しては、中国で初代ハムスター腎細胞培養で増殖させた弱毒ウイルスを有効成分として用いる生ワクチンが1994年頃に実用化されている。しかし、中国以外の諸外国では、有効性および安全性が未確認であり、その使用は知られていない。更に、1986年頃から組換え遺伝子技術を駆使した日本脳炎ワクチン、例えば、エンベロープ(E)タンパク抗原、組換えウイルス等を用いる第二世代ワクチンが多種多様に報告されている。しかし、これ等のワクチンはいずれも、実験あるいは前臨床試験の段階にあり、未だ実用化されていない(非特許文献2)。
【0003】
不活化ワクチン用の抗原あるいは免疫原の量産に細胞株を用いる技術としては、例えば、ポリオ(特許文献1)、狂犬病(特許文献2)、A型肝炎(特許文献3)、ダニ媒介脳炎(特許文献4)等の各ウイルス抗原の量産におけるVero細胞の使用が公知である。これ等のうち、前2者の実用化はそれぞれ衆知であるが、後2者については、量産された各抗原のワクチンとしての安全性および有効性の確認、並びに実用化は知られていない。
【0004】
従来の日本脳炎ワクチンの有効成分は、マウス脳内で増殖させた日本脳炎ウイルスの不活化粒子である。かかるワクチン用抗原の量産には、膨大な数のマウスおよび感染動物のバイオハザード対策等を要するので、生産コストが非常に高くつく。また、製品中へのマウス脳の有害成分、例えば、脱髄を生じる塩基性タンパクの混入や、マウス由来ウイルスの迷入等の危険性を常に伴うため、精製工程および品質管理は複雑多岐にわたる。その上、最近では製造用マウスの入手が困難となり、計画的なワクチン製造に支障が生じていた。更に、マウスを犠牲にする従来技術は、動物愛護や宗教の観点から望まれなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,525,349号明細書
【特許文献2】米国特許第4,664,912号明細書
【特許文献3】米国特許第4,783,407号明細書
【特許文献4】米国特許第5,719,051号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Vaccine Handbook", pp. 103-113, Researcher's Associates, National Institute of Health (Japan), Maruzen (Tokyo) 1996
【非特許文献2】“Vaccine”, 2nd ed., pp. 671-713, S.A.PlotokinおよびE.A.Mortimer著, W.B.Sauders Co. 1994;The Jordan Report, pp. 26-27, 1998
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の開示
この発明では、前記課題の解決のために、マウスの代わりに細胞株を用いてウイルス粒子を量産する。これにより、生産コストが大幅に低減されるだけではなく、バイオハザード対策、製造作業手順、精製工程、品質管理、製造計画等が省力化される。特筆すべきは、本発明が新規なウイルス粒子についての予測困難な驚くべき発見に基づいていることである。この発明により、従来の不活化ワクチンの免疫原に比べ、中和抗体価で表される力価が2倍〜10倍増強された免疫原としての新規な不活化ウイルス粒子およびその製造方法が提供される。即ち、日本脳炎ウイルス群の感染症に対する不活化ワクチン、特に、不活化日本脳炎ワクチンの免疫原として、あるいは診断剤の抗原として、卓抜した免疫原性あるいは抗原性を有する新規な日本脳炎ウイルス粒子およびその製造方法が提供される。かかる粒子は、技術的には、日本脳炎ウイルス群に属するウイルス、例えば、日本脳炎ウイルスを細胞株で培養する工程および/またはその後の濃縮、精製、および不活化を含む一連の工程下で生成されるが、その純科学的な生成機構は未だ定かでない。以上に基づき、この発明により、次の(1)〜(10)が提供される:
【0008】
(1)日本脳炎ウイルス群に属するウイルスの感染細胞培養物から調製された不活化ウイルス粒子であって、該ウイルス粒子で免疫して得られる抗血清中の中和抗体価が、マウス脳内で培養されたウイルスから調製された不活化ウイルス粒子で免疫して得られる抗血清中の中和抗体価の2倍〜10倍である、増強免疫原としての不活化ウイルス粒子。
【0009】
(2)日本脳炎ウイルス群に属するウイルスを細胞株で培養する工程、ならびに細胞培養物を不活化および精製する工程を含む、不活化ウイルス粒子の製造方法。
【0010】
(3)細胞株がVero細胞である、上記2に記載の製造方法。
【0011】
(4)不活化が精製の前に行われる、上記2または3に記載の製造方法。
【0012】
(5)不活化が約4℃〜約10℃で行われる、上記2〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
(6)精製が、物理的方法により行われる、上記2〜5のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
(7)日本脳炎ウイルス群に属するウイルスが日本脳炎ウイルスの北京株またはThCMAr67/93株である上記2〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
(8)上記2〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造される、不活化ウイルス粒子。
【0016】
(9)上記1または8に記載の不活化ウイルス粒子を含有する不活化ワクチン。
【0017】
(10)上記8に記載の不活化ウイルス粒子の全部または一部を抗原として含む、日本脳炎ウイルス群感染症の診断剤。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、北京株についての試作ワクチンに含まれる本発明のウイルス粒子(R粒子;A)およびマウス脳由来の市販ワクチンに含まれる従来技術のウイルス粒子(MB粒子;B)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明を実施するための最良の形態
この発明の実施形態の特徴は、代表例としての従来の日本脳炎ワクチンの免疫原と本発明のそれとの間の物質および製造の両側面の比較において顕現される。これを考慮し、以下、上記両者の免疫原性および形態の相違、免疫原としてのウイルス粒子、ウイルス培養の宿主、ウイルスの精製、ウイルスの不活化、力価試験、および電子顕微鏡解析の順に説明する。
【0020】
従来の日本脳炎ワクチンの免疫原:これは、現在市販の不活化日本脳炎ワクチンの有効成分(免疫原)を意味する。この免疫原は、薬事法(昭和35年法律第145号)第42条第1項の規定に基づく厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」(英語版:Minimum Requirements for Biological Products, Association of Biologicals Manufacturers of Japan, 1986)に定める「日本脳炎ワクチン」または「乾燥日本脳炎ワクチン」の規程に準拠して製造され、かつ、安全性・有効性等に係る種々の試験を行い、その適格性が確認されたものである。このワクチンの有効成分すなわち免疫原は、日本脳炎ワクチン製造用株ウイルスをマウス脳内に接種して増殖・量産させた後、それに伴う発症マウス脳の磨砕物を出発材料とする。この材料を高度精製すると共に、不活化剤で不活化して得られる日本脳炎ウイルス粒子、即ち、マウス脳(MB)に由来の不活化ウイルス粒子が免疫原として用いられる。以下、これを「MB粒子」または「MB免疫原」と略記する。
【0021】
本発明に係る日本脳炎ワクチンの免疫原:これは、不活化日本脳炎ワクチンの有効成分(免疫原)であって、日本脳炎ウイルスの培養宿主として細胞株の培養細胞を用いること以外は、前述の日本脳炎ワクチンの規程に準拠して製造され、かつ、種々の品質管理試験を行い、その適格性が確認されたものを意味する。したがって、この免疫原は、日本脳炎ウイルスを細胞株の培養細胞に接種して増殖させ量産した後、その細胞培養物を出発材料とする。この材料を高度精製すると共に、不活化剤で不活化することにより調製された日本脳炎ウイルス粒子、即ち、組織培養に由来の不活化ウイルス粒子が免疫原として用いられる。この免疫原は、次の(1)に示す特徴を有し、さらに、通常、次の(2)に示す主な特徴をも併せて有する:
(1)上記粒子で免疫して得られる抗血清中の中和抗体価が、後述する力価試験により測定される場合、従来のMB粒子またはMB免疫原で免疫して得られる抗血清中の中和抗体価の約2倍〜約10倍である(以下、これを「増強免疫原」と呼び、「R粒子」または「R免疫原」と略記する);および
(2)電子顕微鏡解析に基づく粒子構造、特に、粒子表面またはエンベロープ層の外観が、MB粒子が滑らかであるのに対し、R粒子は粗いか若しくは毛羽立っている。
【0022】
以上の日本脳炎ワクチンの免疫原の説明は、本発明に係る日本脳炎ウイルス群により生じる感染症に対するワクチン用の免疫原の代表例として記載されたものである。本発明に係るワクチン、例えば、日本脳炎ワクチンは、液状または乾燥の形態で、密栓したバイアル瓶ないしは熔封したアンプルに入れて提供される。液状製剤はそのまま、乾燥製剤は溶解液で液状にもどした後、これを、例えば、ワクチン被接種者一人当たり0.2ml〜1.0mlずつ、皮下接種することにより使用される。
【0023】
免疫原としてのウイルス:この発明に係る日本脳炎ウイルス群には、例えば、日本脳炎、クンジン、マレーバレー脳炎、セントルイス脳炎、ウェストナイル等のウイルスが含まれ、その詳細は、Archives of Virology, Supplement 10, pp. 415-427, 1995 (”Virus Taxonomy”, Classification and Nomenclature of Viruses; Sixth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses)に記載の通りである。これ等のうち、日本脳炎ウイルスについては、例えば、マウス脳由来の北京−1株、この株を本発明者らが更にマウス脳内で継代することにより得たJWS−P−4(Am29Sm1Am5;すなわち、成熟マウス(Am)において29代、次いでは乳のみマウス(Sm)において1代、さらにAmにおいて5代継代して得られた株を意味する)、JWS−P−4を更にVero細胞で2代継代して得たマスターシードJMSV001(北京−1株、JWS−P−4、およびJMSV001を以下「北京株」という)、中山−予研株(以下「中山株」という)、JaOArS982株、JaOH0566株、また、90年代に五十嵐らが新たに分離したThCMAr67/93およびThCMAr44/92両株(Aliら、Archives of Virology, 140, 1557-1575, 1995、ならびにAliおよびIgarashi、Microbiology and Immunology, 41, 241-252, 1977)等々を用いることができる。
【0024】
この発明において、免疫原として使用する日本脳炎ウイルス株としては、北京株およびThCMAr67/93が特に好ましい。これらのウイルス株を用いると、抗原スペクトルの広いワクチン、即ち、ワクチン製造に用いたウイルス株以外の複数の株に対しても極めて良好な防御作用を有するワクチンを得ることができる。北京株はJMSV001が好ましい。
【0025】
この発明において、2種類のウイルス株、例えば、北京株およびThCMAr67/93株から製造されるワクチンを混合することにより2価ワクチンを調製してもよい。混合比は、例えば、抗原タンパク量として、0.5:1〜1:0.5が好ましい。かかる混合により、従来の1価ワクチン単独に比べ、感染防御の抗原スペクトルが更に広いワクチンを得ることができる。
【0026】
ウイルス培養は、宿主として適切な細胞株の培養細胞にウイルスを接種した後、感染細胞を維持培養することにより行う。培養方法は後述の細胞培養と同じである。以下、便宜的に、ウイルス培養物を低速遠心した上清を「細胞外ウイルス」と呼び、一方、遠心ペレットから集めた感染細胞を0.2%(W/V)ウシ血清アルブミン添加イーグル最少必須培地(MEM)で元の体積に浮遊させて超音波処理した後、これを再度、低速遠心した上清を「細胞内ウイルス」と称する。細胞外ウイルスおよび細胞内ウイルスのいずれからも本発明の不活化ウイルス粒子を得ることができる。細胞外ウイルスが好ましい。その理由は、ウイルス粒子の収率が高く、しかも、成熟粒子であり、さらに細胞内ウイルスに比べ、細胞由来成分の取り込みが少ないので、精製が容易だからである。
【0027】
ウイルス培養の宿主:ウイルス培養の宿主として既知の細胞株、例えば、二倍体細胞株であるWI−38、MRC−5、FRhL−2等、また、連続継代細胞株であるVero、BHK−21、CHO等が使用できる。連続継代細胞が好ましい。その理由は、細胞の量産が容易かつ計画的に行えると共に、細胞の性状が明らかにされており、迷入ウイルスの存在が否定されているからである。更に、常用のCV−1、BSC−1、MA104、MDCK、CaC0−2等、ならびにウイルスワクチンの製造に従来から用いられているDBS−FLC−1、DBS−FLC−2、DBS−FRhL−2、ESK−4、HEL、IMR−90、WRL68等も使用できる(“ATCC Microbes & Cells at Work”,2nd ed., pp. 144, American Type Culture Collection (ATCC) 1991, USA)。前述の日本脳炎ウイルス株の培養宿主には、このウイルスの増殖が良好な許容細胞を選別して採用することが望ましい。例えば、Vero(ATCC番号CCL−81)、BHK−21[C−13](ATCC番号CCL−10)、C6/36(ATCC番号CRL−1660)等の細胞の使用が好ましい。これ等の細胞株の使用に際しては、世界保健機構(WHO)が勧告する生物学的製剤の製造用細胞に関する基準(Requirements for Biological Substances No. 50)に準拠して迷入因子および腫瘍原性等に関する種々の試験を行い、ワクチン製造用細胞としての適格性を確認する必要がある(WHO Technical Report Series, No. 878, pp.19-52,1998)。
【0028】
細胞培養:上記細胞株の培養方法には、静置培養、灌流システム培養、振盪培養、ローラーチューブ培養、ローラーボトル培養、浮遊培養、マイクロキャリアー培養等を採用できる。例えば、細胞のマイクロキャリアーとして市販の種々の規格のCytodex[ファルマシアバイオテク社(スウェーデン)製]を用い、市販の種々の動物細胞培養装置により行うことができる。
【0029】
ウイルスの不活化:ホルマリン、β−プロピオラクトン、グルタルジアルデヒド等の不活化剤を、ウイルス浮遊液に添加混合し、ウイルスと反応させて不活化する。例えば、ホルマリンを使用の場合、その添加量は約0.005%〜約0.1%(V/V)、不活化温度は約4℃〜約38℃、不活化時間は主に不活化温度に依存し、例えば、38℃では約5時間〜約180時間、4℃では約20日〜約90日である。
【0030】
ウイルスの精製:精製方法には、物理学的方法および化学的方法がある。物理的方法とは、精製対象物の大きさ、密度、沈降係数などの物理的性質を利用する精製方法であって、例えば、ゾーナル超遠心、密度勾配遠心、濾過等を包含する。物理的方法は、通常、pH、塩濃度などの周囲環境を変化させることなく行うことができる。化学的方法とは、化学ないし物理化学反応による吸脱着を利用する精製方法であって、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトクロマトグラフィー、塩析等を包含する。かかる操作は、約4℃〜室温で行う。
【0031】
ウイルスの濃縮:不活化および/または精製に先だって、低速遠心、限外濾過膜による濃縮を行ってもよい。
【0032】
この発明によれば、R粒子の不活化は、約4℃〜約10℃で、その精製前に行うことが望ましい。また、精製工程では、物理的方法の採用が望ましい。これにより、精製後に不活化した粒子あるいは化学的方法により精製された粒子に比べ、より高い免疫原性ないしは抗原性を確保することができる。
【0033】
電子顕微鏡解析:例えば、2%(W/V)酢酸ウラニルを用いるネガティブ染色法により調製したウイルス標本を、電子顕微鏡(株式会社日立製作所製)で観察できる。ウイルス粒子の形状等を、写真撮影により得られる2万〜10万倍に拡大したウイルス粒子画像について解析できる。
【0034】
ワクチンの調製:本発明の不活化ウイルス粒子を、所望の力価を与えるように、適切な希釈剤で希釈することができる。公知の担体またはアジュバントをワクチンに添加しても良い。ワクチンはまた、必要に応じて、防腐剤、安定剤などを含み得る。
【0035】
力価試験:前述「生物学的製剤基準」に定める「日本脳炎ワクチン」に規定の「力価試験」に準拠して行う。例えば、4週齢のddYマウスを各群15匹ずつ使用し、2倍階段希釈した各ワクチンを0.5ml/マウス、腹腔内に接種した後、その7日目に第2回接種を行い追加免疫する。第2回接種後、7日目に各マウスから個体別に採血して血清を分離した後、各群ごとにマウス血清を等量プールし、56℃にて30分間の非働化を行い、これを免疫血清として中和試験に供する。中和試験にはウイルス培養宿主としてニワトリ胚細胞培養を使用し、攻撃ウイルスには、ワクチン抗原あるいは免疫原に用いたウイルス、例えば、北京株、中山株、ThCMAr67/93株等を使用できる。中和抗体価は、攻撃ウイルスが形成するプラーク数を50%減少させる上記免疫血清の最高希釈倍数を以て表わす。
【0036】
別の局面において、この発明により得られるウイルス粒子(R粒子)は、診断用抗原、例えば、免疫沈降法、HI試験、CF反応、ELISA、ラジオイムノアッセイ、蛍光抗体法等の抗原として使用できる。かかる診断用抗原としての該R粒子の特徴は、ポリクローナル抗体および特定のモノクローナル抗体と反応する粒子あたりの感度が、MB粒子のそれに比べ、約2〜10倍高いことにある。すなわち、本発明の不活化ウイルス粒子の全部または一部を用いると、日本脳炎ウイルス群の感染、特に日本脳炎ウイルスの感染を検出する高感度の診断剤が可能になる。ここで、不活化ウイルス粒子の「一部」とは、ウイルス粒子に由来する所望の抗原性を保持するウイルス粒子の画分である。これには、例えば、下記実施例1に記載の精製工程下で可溶化されたウイルスの構造タンパク質が含まれる。
【実施例】
【0037】
以下、この発明の態様並びに構成および効果を実験例および実施例によって示し、具体的に説明する。但し、この発明は、これ等に限定されるものではない。
【0038】
(参考例)
北京およびThCMAr67/93両株の遺伝子配列表:この発明での使用に特に適切な日本脳炎ウイルス北京株およびThCMAr67/93株の同定を容易にするため、これ等の両株のゲノムRNAに相補的なエンベロープタンパク遺伝子cDNAの塩基配列と、それがコードする推定アミノ酸配列とを配列番号1〜4に示す。配列番号1および2はThCMAr67/93株(Archives of Virology, 140, 1557-1575, 1995)、配列番号3および4は北京株であるマスターシードウイルスJMSV001に関する。以下の実施例における「北京株」は、このJMSV001である。
【0039】
cDNAの塩基配列の決定は、上記Aliらの文献(1995)に記載の方法で行った。すなわち、Vero細胞によるウイルス培養物から、そのゲノムRNAを抽出の後、エンベロープタンパクをコードする領域を、プライマーを用いる逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で増幅し、得られたcDNA断片の塩基配列をジデオキシチェーンターミネーション法により決定した。また、塩基配列がコードするアミノ酸配列は、ユニバーサルコードにより解読した。
【0040】
(実験例1)
ウイルス感染価の測定:後述のVero−M細胞を用いるプラーク法により、ウイルス感染価PFU(プラーク形成単位)/mlで計数した。
【0041】
ウイルス抗原量の測定:日本脳炎ウイルス抗原量は、抗日本脳炎ウイルスモノクローナル抗体[Group−8 Clone 503(東京都神経科学総合研究所保井博士から分与:K. Yasuiら、Journal of General Virology, 67, 2663-2672, 1986)]IgGを用いるELISAにより測定した。ELISA値は、マウス脳由来自家標準品(北京株)を100単位とし、その相対値を平行線検定法により算出した。
【0042】
HA試験:試験にはU型マイクロプレートを使用した。至適pHに調整したリン酸緩衝液による0.33%(V/V)ガチョウ赤血球浮遊液とウイルス液とを等量混合の後、37℃で60分間、反応させ、赤血球凝集の有無を判定した。HA価は、赤血球凝集が陽性であるウイルス液の最高希釈倍数で表わした。
【0043】
ウシ血清抗原量の測定:抗ウシ血清ヤギIgGを用いるELISAにより測定した。ウシ血清標準抗原におけるタンパク質含量に対する相対値を平行線検定法により算出し、その値を抗原量とした。
【0044】
(実験例2)
ウイルス培養用の細胞株の増殖性:付着性の2系統のVero細胞、Vero−A(ATCC番号CCL−81に由来)およびVero−M(国立感染症研究所から入手したVeroに由来)、3系統のBHK−21細胞、BHK/WI2(大阪府立公衆衛生研究所から入手した付着性BHK−21に由来)、BHK/JHIH(国立家畜衛生試験場から入手した浮遊性BHK−21に由来)およびBHK−21[C−13](ATCC番号CCL−10に由来)、並びに蚊由来のC6/36細胞(ATCC番号CRL−1660に由来)をウイルス培養用の候補細胞株とし、これ等の各細胞株の増殖性を観察した。2系統のVero、およびにBHK/WI2およびBHK−21[C13]は、各々1.5×10細胞/mlになるよう増殖培地で調製し、これを37℃で3日間、静置培養した後、それぞれ細胞数を計測した。上記と同様にして、浮遊性BHK/JNIHでは2.0×10細胞/mlを調製し、これを37℃で3日間、振盪培養の後、また、C6/36では1.0×10細胞/mlを調製し、これを28℃で7日間静置培養の後、各々細胞数を計測した。尚、増殖培地には、最終濃度8%(V/V)ウシ血清を添加混合したMEMを用いた。その結果、2系統のVero、並びにBHK/WI2およびBHK−21[C13]は7.0〜9.0×10細胞/ml、浮遊性BHK/ANIHおよびC6/36は、2.8×10細胞/mlであった。
【0045】
(実験例3)
候補細胞株における日本脳炎ウイルスの増殖性:実験例2で用いた候補細胞株につき、C6/36細胞は28℃で7日間、それ以外の細胞は37℃で3日間培養の後、各細胞に北京株を感染多重度(MOI)が0.1になるよう接種し、細胞外ウイルス量の経時的変移を、ウイルス感染価(PFU)、ウイルス抗原量(ELISA価)およびHA価で測定し比較した。その結果を表1に示す。数値は、2回実験した各細胞株でのウイルス増殖曲線における最高値の平均値であり、C6/37では、ウイルス感染価は培養3日目に、ELISA価およびHA価は共に、培養4日目に各々最高値であった。その他の細胞株では、ウイルス感染価は培養2日目に、ELISA価およびHA価は培養3日目または4日目に各々最高値であった。
【0046】
【表1】

(実験例4)
Cytodexの種類およびVero−A細胞の増殖性:1.5×10細胞/mlのVero−A細胞浮遊液を500mlずつ入れた細胞培養用フラスコ3本の各々に、Cytodex 1、2または3のいずれか1種を1.5g/Lになるように添加の後、37℃にて回転数40rpmによる攪拌下で7日間、培養した。その結果を以下に記載する:培養7日目の細胞数/mlは、Cytodex 1、2、および3について、それぞれ7.5×10、8.3×10、および9.4×10であった。また、Cytodex 1での7日間培養により、全てのビーズの表面に100個以上のVero−A細胞が隙間なく付着し増殖した。
【0047】
(実験例5)
Cytodexの濃度およびVero−A細胞の増殖性:1.5×10細胞/mlの細胞浮遊液を500mlずつ入れた細胞培養用フラスコ4本(A、B、CおよびD)のうち、AおよびBにはCytodex 1を各々1.5g/L、Cには3.0g/L、Dには4.5g/Lになるようそれぞれ添加した後、37℃にて回転数40rpmによる攪拌下で7日間、培養し、細胞数および細胞が付着したビーズの割合(付着率)を計測した。付着率の算出には、200個以上の各ビーズを観察し、5個以上の細胞が付着しているビーズを細胞付着ビーズとした。尚、Cytodex 1を1.5g/L添加したAは、培養終了時まで同じ増殖培地で培養し、残りのB、CおよびDの各フラスコについては、培養開始から3、4、および5日目の各日に、培養液の1/2量を新鮮な増殖培地と交換した。その結果を以下記載する:培養液の交換の有無(AおよびB)は細胞数には影響しなかった。7日間培養後の細胞数/mlは、Bが9.1×10 、Cが7.7×10 、Dが8.0×10 であった。付着率は、AおよびBが培養1日目から98%以上で培養4日目には100%に達し、培養1日目のCは93%、Dは80%と低かった。しかし、培養6日目にはA、B、CおよびDは共に100%に達した。
【0048】
(実験例6)
Cytodex 1により高密度培養したVero−A細胞の増殖性:Cytodexの濃度および細胞数をそれぞれ3倍にした高密度培養を行った。4.5×10細胞/mlのVero−A細胞浮遊液に、Cytodex 1を4.5g/Lになるよう添加して、培養液量50リットルの動物細胞培養装置を用いて培養した。回転数は最初の24時間が15rpm、それ以降は20rpm、pH7.0、溶存酸素を5ppmに設定した。培養3日目および5日目に培養液の1/2量を新鮮な増殖培地と交換した。その結果を以下に記載する:培養5日目の細胞数は2.0×10細胞/ml、7日目には2.6×10細胞/mlであった。また。培養2日目における細胞のビーズへの付着率は100%であった。
【0049】
(実験例7)
ワクチン製造用ウイルス候補株のVero−A細胞における増殖性:シャーレで3日間静置培養したVero−Aに、マウス脳由来の日本脳炎ウイルスの上記候補株、北京株、中山株、JaOH0566、およびJaOArS982の4株をそれぞれMOIが0.1になるように接種し、ウイルスを90分間吸着後、2%(V/V)ウシ血清を含むMEMを加え37℃で7日間培養した。そして、細胞外および細胞内ウイルスの感染価および抗原量の経時的変移を観察した。その結果を以下に記載する:感染価について、中山株を除く3株の細胞外ウイルスは培養2日目の値が最も高く1.0×10PFU/ml以上、細胞内ウイルスのそれは細胞外ウイルスの1/3以下であり、中山株の細胞外ウイルスのそれは、培養3日目が最高であったが、他の3株の値の1/5以下であった。ELISA抗原価に関し、中山株を除く3株の細胞外ウイルスのそれは培養3〜5日目が最も高く、いずれも約70単位、細胞内ウイルスのそれは細胞外ウイルスの1/5以下であり、中山株では培養5〜7日目にプラトーとなり、30単位であった。HA価は、培養2〜4日目の細胞外ウイルスにつき、中山株が160、他の3株は640〜1280であった。
【0050】
(実験例8)
Cytodex 1によるVero−A細胞培養での北京株の増殖:Cytodex 1を用いて培養した20リットルのVero−A細胞(1.96×10細胞/ml)に、Vero−Aで4代継代した北京株ウイルスをMOIが0.1になるよう接種し、ウシ血清を含まないMEMで培養した。その結果を以下に記載する:細胞内ウイルスの感染価は培養2日目が最も高く1.3×10PFU/ml、細胞外ウイルスは培養3日目が最も高く4.0×10PFU/mlであった。ELISA抗原価は細胞外ウイルスは培養4日目が最も高く67単位、細胞内ウイルスは培養3日目が最も高く26単位であった。細胞外ウイルスのHA価は培養3日目で320であり、細胞内ウイルスは40であった。
【0051】
(実験例9)
株の遺伝学的安定性:マウス由来ウイルス(JWS−P−4)をVero細胞で2代継代することにより調製したマスターシード(JMSV001)を、さらにVero細胞で7代連続継代しても、コア、pre-M、およびエンベロープの各タンパク質の遺伝子の塩基配列に変異は見られず、マスターシードは遺伝学的に安定であった。また、これ等の遺伝子がコードするアミノ酸配列はJWS−P−4のそれと同一であった。なお、遺伝子解析は、参考例1に記載の方法で行った。
【0052】
(実施例1)
試作ワクチンの調製:Cytodex 1を用いて培養したVero−A細胞に、マウス由来ウイルス(JWS−P−4)をVero−Aにおいて4代継代した北京株を、MOIが0.1になるように接種し、ウシ血清を含まないMEMで37℃にて4日間、培養した。培養上清(すなわち、細胞外ウイルス)を採取し、分画分子量が100kDaの限外濾過膜で1/10量に濃縮した後、最終濃度1/1500(V/V)量のホルマリンを添加混合し、ウイルスを不活化した。不活化条件は、4℃で50日間であった。次に、不活化ウイルス浮遊液を、蔗糖密度勾配ゾーナル超遠心に2回かけ、ウイルスを精製した。2回超遠心の条件は共に、P35ZTローター(日製産業社製)を用いる25〜50%(W/W)蔗糖密度勾配、30,000rpm、13時間であった。これよりウイルス画分(蔗糖密度41%)を採取し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)透析の後、これをワクチン原液とした。この原液について、前記の「生物学的製剤基準」に準拠して安全性および有効性に関する各種試験を行い、ワクチンとしての適格性を確認した。次いで、この原液のタンパク質含量が7.8μg/mlになるよう199培地(TC Medium 199: Difco Laboratories, USA)で希釈調整し、これを3ml容のバイアル瓶に1mlずつ分注の後、各瓶を密栓し、試作ワクチンとした。タンパク質含量は、前述の「生物学的製剤基準」に規定の一般試験法(加熱トリクロル酢酸(TCA)により沈殿するタンパク質をローリー法で定量する)に準拠して測定した。
【0053】
(実施例2)
試作ワクチンの主な工程時の性状:実施例1に記載の試作ワクチンの主な製造工程の各々を終了した時点で採取した各検体について、実験例1に記載の各種試験を行った。その結果を以下に示す:ウイルスの培養上清、即ち、ウイルス浮遊液の感染価は2.2×10PFU/ml、ELISA抗原価は70単位、HA価は160であった。該ウイルス浮遊液を限外濾過膜を用いて1/10容に濃縮したときの感染価および抗原量は共に10倍高い値を示した。ゾーナル超遠心1回後のウイルス抗原について、蔗糖濃度41%および34%の2つの画分にその極大値が見られた。電子顕微鏡観察によれば、41%の画分はウイルス粒子であり、34%の画分はウイルス抗原活性を有するウイルス粒子より微細な粒子であった。また、細胞培養からの持ち込みウシ血清抗原は、蔗糖濃度28%以下の画分に検出され、ウイルス粒子画分から分離された。上記のウイルス粒子画分を再度、ゾーナル超遠心により精製したウイルス粒子は、蔗糖濃度40%の画分に単一性のピークとして確認された。この画分から試作ワクチンを調製した。試作ワクチンのELISA抗原価は45単位、タンパク質含量は7.8μg/mlであった。
【0054】
(実施例3)
試作ワクチンの電子顕微鏡観察:試作ワクチンおよびマウス脳由来の市販ワクチンの両者について、前述の電子顕微鏡解析を行った(図1)。その結果、ウイルス粒子表面またはエンベローブ層の外観に関し、市販ワクチン中のMB粒子が滑らかであるのに対し(図1B)、この発明に係る試作ワクチン中のR粒子は粗いか若しくは毛羽立っていた(図1A)。
【0055】
(実施例4)
中和反応に基づく試作ワクチンの力価:実施例1で得た試作ワクチン、マウス脳由来の市販ワクチン、および力価試験用参照ワクチンの3種類の各ワクチン(いずれも有効成分として不活化された北京株ウイルスを含有)の力価を、前述の「力価試験」により測定した。即ち、各ワクチンをPBSで2倍階段希釈し、これ等をそれぞれ用いてマウスを免疫し、得られた各血清の北京株ウイルスに対する中和抗体価を比較した。ワクチンの希釈倍数と、中和抗体価の常用対数値との関係を表2に示す。
【0056】
試作および市販の両ワクチン(同等タンパク質含量)を免疫することにより得られる抗血清中の中和抗体価の常用対数値の差は、ワクチンの希釈倍数8〜32について、0.38〜1.11であった。即ち、試作ワクチン免疫原で得られる中和抗体価は、市販ワクチン免疫原によるそれの約2倍〜約10倍であった。更に、これ等の測定値を平行線検定法に基づき推計した結果、試作ワクチン/市販ワクチンの力価、中和抗体価の算出倍率は約3倍であった。
【0057】
【表2】

(実施例5)
交差中和反応に基づく試作ワクチン間の免疫原性の相違:Vero−A細胞で4代継代した北京株、およびVero−A細胞で2代継代した、タイ国由来のThCMAr67/93およびThCMAr44/92の3株をそれぞれシードウイルスに用い、実施例1の記載と同様にして各株の不活化ウイルスを有効成分として含有する試作ワクチンを調製した。これら各ワクチンを免疫してマウスで得られる抗血清の中和抗体価を実施例4の記載と同様にして測定比較し、株間の交差反応性を解析した。比較対照として、北京株および中山株の各不活化ウイルスを有効成分として含有するマウス脳由来の市販ワクチン、および参照ワクチンとしてTCAタンパク質含量が5.4μg/mlのマウス脳由来ワクチン(北京株)を用いた。マウス免疫では、試作および市販の合計5種の各ワクチンのTCAタンパク質含量が7.5μg/mlになるよう調整の後、PBSで16倍希釈した。中和試験における攻撃ウイルスには、前記4株ウイルス、即ち、北京株、中山株、ThCMAr67/93、およびThCMAr44/92の各ウイルスを用いた。結果を表3に示す。交差反応スペクトルの観点から、北京株およびThCMAr67/93株の両ウイルス抗原が、不活化日本脳炎ワクチンの免疫原として優れていた。
【0058】
【表3】

(実施例6)
試作2価ワクチンの調製:北京株およびThCMAr67/93株の各ワクチン原液を、実施例1の記載と同様に調製後、これ等の原液の各タンパク質含量が10μg/mgになるようPBSで希釈調整した。次いで両者を等量混合し、バイアル瓶に分注して、2価ワクチンを得た。この2価ワクチンは、それぞれの1価ワクチン単独よりさらに広い交差反応スペクトルを有した。
【0059】
(実施例7)
診断剤の調製:実施例1で調製した北京株ワクチン原液中のR粒子を診断用抗原として使用し、その有効性を前述の「ウイルス抗原量の測定」と同様のELISAにより検定した。比較対照抗原として市販の北京株ワクチン中のMB粒子を用いた。抗体として、モノクローナル抗体503(MAb503:全ての日本脳炎ウイルスに共通かつ特異的な中和エピトープに対する抗体)、MAb302(日本脳炎ウイルス群に特異的なエピトープに対する抗体)、およびポリクローナル抗体(PAb:マウスの過免疫血清)を用いた。抗原量を一定(タンパク量7.6μg/ml)に保ち、抗体を階段希釈しELISA価をそれぞれ測定した。(R粒子のELISA価/MB粒子のELISA価)は、Mab503では、53/47、Mab302では226/22、およびPAbでは120/52であった。この結果に基づき、Mab302およびPAbに対するR粒子の感度は、MB粒子のそれに比べ、約2〜約10倍高いと判断された。Mab302についての結果から、本発明の抗原は、日本脳炎ウイルス群の予備的検出用の抗原として有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明では、飼育管理が繁雑かつ微妙な上に高価なマウスの代わりに、取扱いが容易かつ低廉な細胞株を用い、ウイルス粒子が量産される。従って、多数のマウスを犠牲にしないので、動物愛護の観点から望ましい。また、経済的には、生産コストが大幅に低減されるばかりなく、バイオハザード対策、製造に係る作業手順、精製工程、品質管理、製造計画等が著しく省力化される。特に、従来の不活化ワクチンに比べ、約2倍〜約10倍の力価を発揮する、増強免疫原として新規なウイルス粒子、およびその製造方法が提供される。特に、この発明により、不活化日本脳炎ワクチン用の免疫原あるいは診断剤用の抗原として卓抜した免疫原性あるいは抗原性を有する新規な日本脳炎ウイルス粒子およびその製造方法が提供される。従って、この発明は、低廉でしかも優れた品質のワクチンや診断剤の提供を可能にし、日本脳炎ウイルス群感染症の予防および診断の全世界にわたる飛躍的な普及および向上をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【公開番号】特開2009−225809(P2009−225809A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162261(P2009−162261)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【分割の表示】特願2000−574663(P2000−574663)の分割
【原出願日】平成11年6月2日(1999.6.2)
【出願人】(000173692)財団法人阪大微生物病研究会 (23)
【Fターム(参考)】