説明

昆虫細胞で産生される改良されたAAVベクター

本発明は、昆虫細胞でのアデノ随伴ウイルスベクターの作製に関する。したがって、前記昆虫細胞は、AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳のための開始コドンが非ATG準最適な開始コドンである、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質をコードする第1のヌクレオチド配列を含む。前記昆虫細胞は、少なくとも1個のAAV逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含む第2のヌクレオチド配列、昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されたRep52又はRep40コード配列を含む第3のヌクレオチド配列、及び、昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されたRep78又はRep68コード配列を含む第4のヌクレオチド配列をさらに含む。本発明はさらに、ウイルス粒子の改良された感染力を提供するウイルスカプシドタンパク質の割合が改変されたアデノ随伴ウイルスベクターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫細胞におけるアデノ随伴ウイルスの産生、及び、改良された感染力を提供するウイルスカプシドタンパク質の割合が改変されたアデノ随伴ウイルスに関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト遺伝子治療用の最も有望なウイルスベクターの1つとみなしてよい。AAVは、分裂中のヒト細胞はもちろん分裂していないヒト細胞にも効率的に感染する能力を有しており、前記AAVウイルスゲノムは宿主細胞ゲノムの単一の染色体部位に組み込まれ、及び、最も重要なことに、AAVは多くのヒトの中に存在するが、これまでいかなる疾病とも関連したことがない。こうした利点を考慮して、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、血友病B、悪性黒色腫、嚢胞性線維症、及びその他の疾病の遺伝子治療臨床試験において評価中である。
【0003】
in vitroでのAAV複製を維持する宿主細胞は、すべてが哺乳動物細胞型由来である。したがって、遺伝子治療で使用するためのrAAVは、たとえば、293細胞、COS細胞、HeLa細胞、KB細胞などの哺乳動物細胞系、及びその他の哺乳動物細胞系(たとえば、米国特許第6,156,303号、米国特許第5,387,484号、米国特許第5,741,683号、米国特許第5,691,176号、米国特許第5,688,676号、米国特許出願公開第200220081721号、国際特許公開第00/47757号、国際特許公開第00/24916号、及び、国際特許公開第96/17947号を参照されたい)でこれまで主に産生されてきた。rAAVは、典型的には、AAV複製起点(逆方向末端反復、すなわちITR)に隣接する治療用遺伝子、AAV複製タンパク質Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40の遺伝子、並びに、ビリオン又は構造タンパク質VP1、VP2、及びVP3の遺伝子を含有するDNAプラスミドを提供することにより、そのような哺乳動物細胞培養系において産生される。さらに、前記AAV遺伝子の発現を増強し、ベクター収量を改良するために、アデノウイルス由来の初期遺伝子(E2A、E4ORF6、VARNA)を含有するプラスミドが提供される(Grimmら、1998年、Hum.Gene Ther.、第9巻、2745頁〜2760頁を参照されたい)。しかし、これらの哺乳動物細胞培養系の大半において、細胞当たり産生されるAAV粒子数は約10粒子である(Clark、2002年、Kidney Int.、第61巻(附録1)、9頁〜15頁に掲載)。臨床研究のためには、rAAVの1015以上の粒子が必要となるであろう。この数のrAAV粒子を作製するためには、およそ1011の培養ヒト293細胞、すなわち5000個の175cmフラスコ相当量の細胞を使ったトランスフェクション及び培養が必要になると考えられ、最大1011の293細胞をトランスフェクトすることになる。したがって、臨床試験用の材料を獲得するための哺乳動物細胞培養系を使ったrAAVの大規模作製は、問題があることがすでに判明しており、工業規模での製造は実現可能ですらない可能性がある。さらに、哺乳動物細胞培養で産生される臨床用途のためのベクターは、前記哺乳動物宿主細胞に存在する望ましくない、おそらく病原性の物質に汚染される危険が常に存在する。
【0004】
哺乳動物作製システムのこれらの問題を克服するために、最近、昆虫細胞を使ったAAV作製システムが開発された(Urabeら、2002年、Hum.Gene Ther.、第13巻、1935頁〜1943頁;米国特許出願公開第20030148506号、及び米国特許出願公開第20040197895号)。バキュロウイルス発現系システムからの昆虫細胞でのAAVの産生のためには、いくつかの改変が必要であった。なぜならば、哺乳動物細胞では、前記3種類のAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2及びVP3)の正確な化学当量での発現は、2種類のスプライス受容部位の交互利用と、昆虫細胞により正確に産生されることがないVP2のACG開始コドンの準最適な利用を組み合わせることに頼っているからである。前記3種類のカプシドタンパク質の正確な化学当量は、前記AAV粒子の感染力にとり重要である。量が減少したVP1を含有するAAV粒子は感染力が低下し、VP1は、感染力においてある機能を有するホスホリパーゼA2活性を含有することは公知である(Girodら、2002年、J.Gen.Virol.、第83巻、973頁〜8頁)。
【0005】
したがって、前記3種類のカプシドタンパク質の発現のために、Urabeら(2002年、上記を参照)は、スプライシングを必要とせずに3種類のVPタンパク質をすべて発現することができる単一のポリシストロン性メッセンジャーに転写される構築物を使用している。前記3種類のカプシドタンパク質の正確な化学当量での作製を目指すため、前記VP1読取り枠、すなわちスキャニングリボソームにより読み取られる最初の開始コドンに、準最適な開始コドンACGが賦与されており、このコドンを取り囲む配列が最適化されている。Urabeら(2002年、上記を参照)は、昆虫細胞で読み通しをしているリボソームは、前記3種類のウイルスカプシドタンパク質の野生型AAVに近い化学当量をもたらすことを報告している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らは、バキュロウイルス系で産生されるAAVベクターでは、VP1はVP2と比べてまだ準最適なレベルで発現されていること、並びに、このために、たとえば、哺乳動物293細胞で産生される従来のAAVベクターと比較した場合、マウスでのin vitro及びin vivo研究では感染力が低下することを見出した。したがって、感染力が改良されたrAAVベクターのためのバキュロウイルスベースの作製システムの必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
定義
本明細書で使用するように、用語「作動可能に連結される」とは、ポリヌクレオチド(又は、ポリペプチド)エレメントが機能的関係で連結することである。核酸は、それが別の核酸配列との機能的関係におかれると、「作動可能に連結されている」。たとえば、転写調節配列は、それがコード配列の転写に影響を与える場合、コード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されるとは、連結中のDNA配列は典型的に近接しており、2個のタンパク質コード化領域を結合させる必要がある場合には、読み枠が近接していることを意味する。
【0008】
「発現制御配列」とは、それが作動可能に連結されているヌクレオチド配列の発現を調節する核酸配列のことである。発現制御配列は、それがヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御し調節する場合には、ヌクレオチド配列に「作動可能に連結されている」。したがって、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム侵入部位(IRES)、転写ターミネーター、タンパク質コード化遺伝子の前の開始コドン、イントロンのスプライシングシグナル、及び終止コドンを含むことができる。用語「発現制御配列」は、最小限、その存在が発現に影響を与えるように設計されている配列を含むことを意図されており、追加の有利な成分も含むことができる。たとえば、リーダー配列及び融合パートナー配列は発現制御配列である。この用語は、枠内及び枠外の望ましくない潜在的な開始コドンが配列から除去されるように、核酸配列を設計することも含むことができる。発現制御配列は、望ましくない潜在的スプライス部位が除去されるように、核酸配列を設計することも含むことができる。発現制御配列は、ポリAテール、すなわち、ポリA配列と呼ばれる配列であるmRNAの3’末端の一連のアデニン残基の付加を指示する配列、すなわちポリアデニル化配列(pA)を含む。発現制御配列は、mRNAの安定性を増強するように設計することもできる。転写及び翻訳安定性に影響を与える発現制御配列、たとえば、プロモーターも、翻訳を生じさせる配列、たとえば、コザック配列も、昆虫細胞においては公知である。発現制御配列は、より低い発現レベルでもより高い発現レベルでも実現されるように、それが作動可能に連結されているヌクレオチド配列を調節するような性質をもつことができる。
【0009】
本明細書で使用するように、用語「プロモーター」又は「転写調節配列」とは、1個又は複数個のコード配列の転写を制御するように機能し、前記コード配列の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置する核酸フラグメントのことであり、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、並びに、転写因子結合部位、リプレッサー及び活性化タンパク質の結合部位、及び、前記プロモーターからの転写量を直接的に又は間接的に調節するよう作用することが当業者の公知の他のすべてのヌクレオチド配列を含むがこれに限定されるものではない他のすべてのDNA配列の存在により構造的に同定される。「構成的」プロモーターとは、大部分の生理学的及び発生上の条件の下で大半の組織で活性なプロモーターのことである。「誘導性」プロモーターとは、たとえば、化学的誘導因子の適用により生理学的に又は発生的に調節されるプロモーターのことである。「組織特異的」プロモーターは、特定型の組織又は細胞においてのみ活性である。
【0010】
用語「実質的に同一の」、「実質的同一性」又は「基本的に類似している」若しくは「基本的類似性」とは、2個のペプチド又は2個のヌクレオチド配列が、デフォルトパラメータを使ったプログラムGAP又はBESTFITによりなど、最適に整列された場合、本明細書の別の場所で定義された少なくとも一定割合の配列同一性を共有することを意味する。GAPは、ニードルマンとブンシュのグローバル整列アルゴリズムを使って、2個の配列をその全長にわたって整列させ、適合数を最大限にし、ギャップ数を最小限にする。一般に、前記GAPデフォルトパラメータが使われ、ギャップ挿入ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)である。ヌクレオチドでは、使用されるデフォルトスコア行列はnwsgapdna、及びタンパク質では、デフォルトスコア行列はBlosum62である(HenikoffとHenikoff、1992年、PNAS 第89巻、915頁〜919頁)。RNA配列がDNA配列と基本的に類似している又はある程度の配列同一性を有すると言われる場合、DNA配列中のチミン(T)はRNA配列中のウラシル(U)に相当することは明らかである。配列アラインメント及びパーセンテージ配列同一性の点数は、Accelrys社、9658 スクラントンロード、サンディエゴ、カリフォルニア 92121−3752 米国、から入手可能なGCGウィスコンシンパッケージ、バージョン10.3、又はウィンドウズ(登録商標)用のオープンソースソフトウェアエムボス(最新版2.7.1−07)などのコンピュータプログラムを使って決定してよい。代わりに、パーセント類似性又は同一性は、FASTA、BLAST等などのデータベースを検索することにより決定してもよい。
【0011】
本発明は、哺乳動物細胞における核酸の導入及び/又は発現のためのベクターとして使用するための、動物パルボウイルス、特に感染性ヒト又はサルAAVなどのディペンドウイルス、及びその成分(たとえば、動物パルボウイルスゲノム)の使用に関する。特に、本発明は、昆虫細胞で産生される場合のそのようなパルボウイルスベクターの感染力の改良に関する。
【0012】
パルボウイルス科のウイルスは、小型のDNA動物ウイルスである。パルボウイルス科は、脊椎動物に感染するパルボウイルス亜科と、昆虫に感染するデンソウイルス亜科の2つの亜科に分類される。パルボウイルス亜科のウイルスは本明細書ではパルボウイルスと呼ばれ、ディペンドウイルス属を含む。その属の名称から推定されるように、ディペンドウイルス属のウイルスは、細胞培養における増殖性感染のためには、アデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスとの共感染を通常必要とする点で独特である。ディペンドウイルス属には、通常はヒトに感染するAAV(たとえば、セロタイプ1、2、3A、3B、4、5、及び6)又は霊長類に感染するAAV(たとえば、セロタイプ1及び4)、並びに、他の温血動物に感染する近縁ウイルス(たとえば、ウシ、イヌ、ウマ、及びヒツジアデノ随伴ウイルス)がある。パルボウイルス及びパルボウイルス科の他のウイルスに関するそれ以上の情報は、Kenneth I.Berns、「Parvoviridae:The Viruses and Their Replication」Fields Virology第69章(第3版、1996年)に記載されている。便宜のため、本発明は、AAVを参照することにより、本明細書でさらに例証され説明される。しかし、本発明はAAVに限定されるものではなく、他のパルボウイルスにも等しく適用してよいと理解される。
【0013】
すべての既知のAAVセロタイプのゲノム構成は非常に類似している。AAVのゲノムは、長さが約5000ヌクレオチド(nt)未満の直鎖状一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、非構造的複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質の独自のコードヌクレオチド配列に隣接している。前記VPタンパク質はカプシドを形成する。末端145ntは自己相補的であり、T形ヘアピンを形成するエネルギー的に安定した分子内二本鎖を形成するように、組織化される。これらのヘアピン構造体は、ウイルスDNA複製のための起点として機能し、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとして働く。前記Rep遺伝子は、Repタンパク質、すなわちRep78、Rep68、Rep52、及びRep40をコードしている。Rep78及びRep68は、p5プロモーターから転写され、並びに、Rep52及びRep40はp19プロモーターから転写される。cap遺伝子は、VPタンパク質、すなわちVP1、VP2、及びVP3をコードしている。cap遺伝子はp40プロモーターから転写される。
【0014】
第1の態様では、本発明は、動物パルボウイルスVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む読取り枠を含み、前記AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳の開始コドンがATGではなく、ACGではない準最適な開始コドンであるヌクレオチド配列に関する。準最適とは本明細書では、コドンが、正常なATGコドンと比べた場合、他の点では同一の状況において翻訳の開始の効率が低いことを意味すると理解される。好ましくは、前記AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳の開始コドンが、ACG、TTG、GTG、及びCTGから選択され、さらに好ましくは、前記AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳の開始コドンが、TTG、GTG、及びCTGから選択され、最も好ましくは、前記AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳の開始コドンがCTGである。前記動物パルボウイルスは、好ましくは、ディペンドウイルス、さらに好ましくは、ヒト又はサルアデノ随伴ウイルス(AAV)である。
【0015】
動物パルボウイルスVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む読取り枠を含み、前記AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳の開始コドンがTTG又はGTG開始コドンであるヌクレオチド配列では、ビリオンのVP1対VP2タンパク質の量の割合はほぼ等しい、すなわち等モルであり、開始コドンがCTGの場合には、ビリオンのVP1タンパク質の量はVP2の量よりも多い。開始コドンがACGの場合には、ビリオンのVP1タンパク質の量は、VP2の量よりも少ない。ビリオンの感染力は、ビリオン中のVP2に対するVP1の割合とともに増加する。
【0016】
前記AAVカプシドタンパク質の発現のための本発明の好ましいヌクレオチド配列は、配列番号7の9ヌクレオチド配列、又は配列番号7に実質的に相同なヌクレオチド配列を含む発現制御配列を、前記AAV VP1カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の開始コドンの上流に含むヌクレオチド配列である。配列番号7のヌクレオチド配列と実質的な同一性を有し、VP1の発現を増加させるのに寄与するであろう配列は、たとえば、配列番号7の9ヌクレオチド配列と少なくとも60%、70%、80%、又は90%の同一性を有する配列である。
【0017】
前記AAVカプシドタンパク質の発現のための本発明のさらに好ましいヌクレオチド配列は、前記AAV VP1カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の開始コドンの周辺に、コザックコンセンサス配列を含む発現制御配列を含むヌクレオチド配列である。コザックコンセンサス配列は、本明細書では、GCCRCC(NNN)G(配列番号8)と定義され、Rはプリン(すなわち、A又はG)であり、(NNN)は上の本明細書で定義された準最適な開始コドンのうちのいずれかを表す。好ましくは、本発明のヌクレオチド配列のコザックコンセンサス配列では、RはGである。したがって、コザックコンセンサス配列を含むAAVカプシドタンパク質の発現のための本発明のヌクレオチド配列は、好ましくは、GCCACC(ACG)G、GCCGCC(ACG)G、GCCACC(TTG)G、GCCGCC(TTG)G、GCCACC(GTG)G、GCCGCC(GTG)G、GCCACC(CTG)G、及びGCCGCC(CTG)Gから選択され、さらに好ましくは、コザックコンセンサス配列を含むヌクレオチド配列は、GCCACC(CTG)G、及びGCCGCC(CTG)Gから選択され、最も好ましくは、コザックコンセンサス配列を含むヌクレオチド配列は、GCCGCC(CTG)Gである。本明細書の括弧内のヌクレオチドは、VP1タンパク質の開始コドンの位置を示す。
【0018】
前記AAVカプシドタンパク質の発現のための本発明のヌクレオチド配列は、さらに好ましくは、ヌクレオチドの12位のG、ヌクレオチドの21位のA、及びヌクレオチドの24位のCの中から選択される、AAV VP1カプシドタンパク質をコードするにヌクレオチド配列の少なくとも1個の改変を含む。他のセロタイプのVP1の翻訳のための考えられる誤った開始部位を除去することは、昆虫細胞で認識されることもある推定上のスプライス部位の除去と同じように、当業者によってよく理解されているであろう。昆虫細胞における適切な発現のための野生型AAV配列の種々の改変は、たとえば、SambrookとRussell(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨークに記載されているような公知の遺伝子工学技術の適用により実現される。VP及びビリオンの収量を増加させる、又は、改変されたトロピズムなどの他の望ましい効果を有する、又は、前記ビリオンの抗原性を低下させることができると考えられるVPコード領域の種々の追加の改変は、当業者に公知である。これらの改変は本発明の範囲内である。
【0019】
好ましくは、前記AAVカプシドタンパク質をコードする本発明のヌクレオチド配列は、昆虫細胞での発現のために、発現制御配列に作動可能に連結されている。これらの発現制御配列は、昆虫細胞で活性があるプロモーターを少なくとも含んでいるであろう。昆虫宿主細胞で外来遺伝子を発現するための当業者に公知の技術を使って、本発明を実行することができる。昆虫細胞におけるポリペプチドの分子工学及び発現の方法論は、たとえば、SummersとSmith、1986年、A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures、Texas Agricultural Experimental Station Bull.No.7555、College Station、Tex;Luckow、1991年、In Prokopら、Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors’Recombinant DNA Technology and Applications、97頁〜152頁;King,L.A.とR.D.Possee、1992年、The baculovirus expression system、Chapman and Hall、英国、O’Reilly;D.R.、L.K.Miller、V.A.Luckow、1992年、Baculovirus Expression Vectors、A Laboratory Manual、ニューヨーク;W.H.FreemanとRichardson,C.D.、1995年、Baculovirus Expression Protocols、Methods in Molecular Biology、第39巻;米国特許第4,745,051号、米国特許出願公開第2003148506号、及び国際公開第03/074714号に記載されている。前記AAVカプシドタンパク質をコードしている本発明のヌクレオチド配列の転写に特に適したプロモーターは、たとえば、多面体プロモーターである。しかし、昆虫細胞で活性である他のプロモーター、たとえば、p10、p35、又はIE−1プロモーター、及び上の参考文献に記載の追加のプロモーターは当技術分野で公知である。
【0020】
好ましくは、昆虫細胞での前記AAVカプシドタンパク質の発現のための核酸構築物は、昆虫細胞適合性ベクターである。「昆虫細胞適合性ベクター」又は「ベクター」は、昆虫若しくは昆虫細胞の産生的形質転換又はトランスフェクションが可能な核酸分子と理解されている。例となる生物学的ベクターには、プラスミド、直鎖状核酸分子、及び組換えウイルスがある。いかなるベクターも、それが昆虫細胞適合性がある限り用いることができる。このベクターは昆虫細胞ゲノムに組み込まれてもよいが、昆虫細胞内でのベクターの存在は永久である必要はなく、一過性のエピソームベクターも含まれる。このベクターは、既知のいかなる手段によっても、たとえば、細胞の化学的処理、エレクトロポレーション、又は感染によって導入することができる。好ましい実施形態では、このベクターは、バキュロウイルス、すなわちウイルスベクター、又はプラスミドである。さらに好ましい実施形態では、このベクターはバキュロウイルス、すなわち、この構築物はバキュロウイルスベクターである。バキュロウイルスベクター及びその使用のための方法は、昆虫細胞の分子工学に関して上に引用した参考文献に記載されている。
【0021】
別の態様では、本発明は、上に定義した本発明の核酸構築物を含む昆虫細胞に関する。AAVの複製を可能にし、培養下で維持することができるいかなる昆虫細胞も、本発明に従って使用することができる。たとえば、使われる細胞系は、スポドプテラフルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ショウジョウバエ(drosophila)細胞系、又はカ細胞系、たとえば、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)由来細胞系由来でよい。好ましい昆虫細胞、又は細胞系は、バキュロウイルス感染に感受性の昆虫種由来の細胞であり、たとえば、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、BTI−TN−5B1−4、MG−1、Tn368、HzAm1、Ha2302、Hz2E5、及びInvitrogen社製のHigh Fiveがある。
【0022】
本発明に従った好ましい昆虫細胞は、(a)少なくとも1個のAAV逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含む第2のヌクレオチド配列、(b)昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されたRep52、又はRep40コード配列を含む第3のヌクレオチド配列、及び(c)昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されたRep78、又はRep68コード配列を含む第4のヌクレオチド配列、をさらに含む。
【0023】
本発明に照らして、「少なくとも1個のAAV ITRヌクレオチド配列」は、「A」、「B」、及び「C」領域とも呼ばれる大部分が相補的で、対称的に配置された配列を含む回文配列を意味すると理解される。前記ITRは、複製起点、つまり複製において「シス」の役割を有する部位、すなわち、回文配列及び回文配列の内部の特定の配列を認識するトランス作動性の複製タンパク質(たとえば、Rep78又はRep68)の認識部位である部位として機能する。前記ITR配列の対称性の1つの例外は、前記ITRの「D」領域である。「D」領域は独特である(1つのITR内に相補体をもたない)。一本鎖DNAのニッキングはAとD領域間の接合部で起きる。ここは、新たなDNA合成が開始される領域である。前記D領域は通常、回文配列の一方の方向に位置し、核酸複製段階に方向性を与える。哺乳動物細胞で複製するAAVは、典型的に2個のITR配列を有する。しかし、結合部位が前記A領域の両方の鎖に存在し、D領域は回文配列のそれぞれの側に1つずつ対称的に位置するようにITRを工学的に改変することは可能である。二本鎖環状DNA鋳型(たとえば、プラスミド)上で、次にRep78−又はRep68−支援核酸複製が両方向に進行し、1個のITRで環状ベクターのAAV複製には十分である。したがって、1個のITRヌクレオチド配列を本発明に照らして使用することができる。しかし、好ましくは、2個の又はさらに別の数の規則的なITRが使われる。最も好ましくは、2個のITR配列が使われる。ウイルスベクターの安全を考慮して、細胞内への最初の導入の後はさらに増殖することができないウイルスベクターを構築するのが好ましいであろう。移植患者での望ましくないベクター増殖を制限するためのそのような安全装置は、米国特許出願公開第2003148506号に記載されたキメラITRを有するrAAVを使うことにより提供してもよい。
【0024】
用いるベクター又は核酸構築物の数は本発明では制限はない。たとえば、1個、2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のベクターを用いて、本発明の方法に従って昆虫細胞でAAVを作製することができる。6個のベクターが用いられる場合、1個のベクターはAAV VP1をコードし、別のベクターはAAV VP2をコードし、さらに別のベクターはAAV VP3をコードし、さらに別のベクターはRep52又はRep40をコードし、Rep78又はRep68は別のベクターにコードされ、最後のベクターは少なくとも1個のAAV ITRを含む。追加のベクターを用いて、たとえば、Rep52及びRep40、並びに、Rep78及びRep68を発現してもよい。使われるベクターが6個未満の場合、前記ベクターは、少なくとも1個のAAV ITRと、VP1、VP2、VP3、Rep52/Rep40、及びRep78/Rep68のコード配列の種々の組合せを含むことができる。好ましくは、2個のベクター又は3個のベクターが使われ、上記のように2個のベクターのほうが好ましい。2個のベクターを使う場合、好ましくは、前記昆虫細胞は、(a)その構築物が、上の(b)及び(c)で定義された第3及び第4のヌクレオチド配列、すなわち、昆虫細胞での発現のために少なくとも1個の発現制御配列に作動可能に連結されたRep52又はRep40コード配列を含む第3のヌクレオチド配列、及び、昆虫細胞での発現のために少なくとも1個の発現制御配列に作動可能に連結されたRep78又はRep68コード配列を含む第4のヌクレオチド配列、をさらに含む、上記のAAVカプシドタンパク質の発現のための第1の核酸構築物、並びに(b)少なくとも1個のAAV ITRヌクレオチド配列を含む上の(a)で定義された第2のヌクレオチド配列を含む第2の核酸構築物、を含む。3個のベクターが使われる場合、好ましくは、カプシドタンパク質の発現のためとRep52、Rep40、Rep78、及びRep68タンパク質の発現のために別個のベクターが使われる点を除いて、2個のベクターに使われるのと同じ配置が使われる。それぞれのベクター上の配列は、互いに対していかなる順序でもよい。たとえば、1個のベクターが、ITR及びVPカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むORFを含む場合、前記VP ORFは、ITR配列間のDNAが複製されると、前記VP ORFが複製される、又は複製されないように、ベクター上に位置することができる。さらにたとえば、Repコード配列及び/又はVPカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むORFは、ベクター上でいかなる順序でもよい。第2、第3及びそれ以上の核酸構築物は好ましくは昆虫細胞適合性ベクターであり、好ましくは上記のバキュロウイルスベクターであることも理解される。代わりに、本発明の昆虫細胞では、第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、第3のヌクレオチド配列、及び第4のヌクレオチド配列、並びに随意にそれ以上のヌクレオチド配列のうちの1個又は複数個が、昆虫細胞のゲノムに安定的に組み込まれてもよい。当技術分野の通常技術の1つでは、ヌクレオチド配列を昆虫ゲノムに安定的に導入する方法、及びゲノム中にそのようなヌクレオチド配列を有する細胞を同定する方法が知られている。ゲノムへの組込みは、たとえば、昆虫ゲノムの領域に高度に相同なヌクレオチド配列を含むベクターの使用によって支援してもよい。トランスポゾンなどの特定の配列の使用は、ヌクレオチド配列をゲノムに導入する別の方法である。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の昆虫細胞に存在する第2のヌクレオチド配列、すなわち少なくとも1個のAAV ITRを含む配列は、対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列をさらに含み、それにより、好ましくは対象の遺伝子産物をコードする前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が、昆虫細胞で産生されるAAVのゲノムに組み込まれる。好ましくは、対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列は、哺乳動物細胞での発現のための配列である。好ましくは、第2のヌクレオチド配列は、2個のAAV ITRヌクレオチド配列を含み、その中では、対象の遺伝子産物をコードする前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が、前記2個のAAV ITRヌクレオチド配列の間に位置している。好ましくは、(哺乳動物細胞での発現のために)対象の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列は、その配列が2個の規則的ITRの間に位置している、又は2個のD領域で工学的に改変されたITRの一方の側に位置している場合には、昆虫細胞で産生されるAAVゲノムに組み込まれる。
【0026】
したがって、上の本明細書で定義された第2のヌクレオチド配列は、昆虫細胞で複製されるAAVゲノムに組み込まれるように位置している、哺乳動物細胞での発現のために少なくとも1個の「対象の遺伝子産物」をコードするヌクレオチド配列を含んでいてよい。いかなるヌクレオチド配列も、本発明に従って産生されるAAVをトランスフェクトした哺乳動物細胞での後の発現のために組み込むことができる。前記ヌクレオチド配列は、たとえば、RNAi剤、すなわち、たとえば、shRNA(低分子ヘアピン型RNA)又はsiRNA(低分子干渉RNA)などのRNA干渉が可能なRNAi医薬品を発現するように、タンパク質をコードしていてよい。「siRNA」とは、哺乳動物細胞では毒性のない短い二本鎖RNAである低分子干渉RNAを意味する(Elbashirら、2001年、Nature 第411巻、494頁〜98頁;Caplenら、2001年、Proc.Natl.Acad.Sci.、米国、第98巻、9742頁〜47頁)。好ましい実施形態では、第2のヌクレオチド配列は、2個のヌクレオチド配列を含んでいてよく、それぞれが哺乳動物細胞での発現のために、1個の対象の遺伝子産物をコードしている。対象の産物をコードする前記2個のヌクレオチド配列はそれぞれ、昆虫細胞で複製されるrAAVゲノムに組み込まれるように位置している。
【0027】
哺乳動物細胞での発現のための対象の産物は、治療用遺伝子産物でよい。治療用遺伝子産物は、ポリペプチド、若しくはRNA分子(siRNA)、又は、標的細胞で発現されると、たとえば、望ましくない活性の消失、たとえば、感染細胞の消失、若しくは、たとえば、酵素活性に欠損を引き起こす遺伝子異常の補完などの望ましい治療効果を提供する他の遺伝子産物でもよい。治療用ポリペプチド遺伝子産物の例には、CFTR(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)、第IX因子、リポタンパク質リパーゼ(LPL、好ましくはLPL S447X;国際特許公開第01/00220号を参照されたい)、アポリポタンパク質A1、ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)、網膜色素変性症GTPアーゼ調節相互作用タンパク質(RP−GRIP)、及びサイトカイン又は、たとえば、IL−10のようなインターロイキンがある。
【0028】
代わりに、又はさらに第2の遺伝子産物として、上の本明細書に定義された第2のヌクレオチド配列は、細胞の形質転換及び発現を評価するためのマーカータンパク質として働くポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでいてよい。この目的に適したマーカータンパク質は、たとえば、蛍光タンパク質GFP、及び選択可能なマーカー遺伝子HSVチミジンキナーゼ(HAT培地上での選別のため)、細菌のハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(ハイグロマイシンB上での選別のため)、Tn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(G418上での選別のため)、及びジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)(メトトレキサート上での選別のため)、CD20、低親和性神経成長因子遺伝子である。これらのマーカー遺伝子とその使用方法を得るための情報源は、SambrookとRussell(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨークに提供されている。さらに、上の本明細書に定義された第2のヌクレオチド配列は、必要とみなされた場合には、本発明のrAAVを形質導入した細胞由来の、被験者の治療を可能にするフェイルセーフ機構として働く可能性のあるポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含んでいてもよい。そのようなヌクレオチド配列は、自殺遺伝子と呼ばれることが多いが、プロドラックをタンパク質が発現されているトランスジェニック細胞を死滅させることができる有毒物質に変換することができるタンパク質をコードしている。そのような自殺遺伝子に適した例には、たとえば、大腸菌(E.coli)のシトシンデアミナーゼ遺伝子、又は単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、及び水痘帯状疱疹ウイルス由来のチミジンキナーゼ遺伝子の1つがあり、その場合、ガンシクロビルを被験者のトランスジェニック細胞を死滅させるプロドラッグとして使用してよい(たとえば、Clairら、1987年、Antimicrob.Agents Chemother.、第31巻、844頁〜849頁を参照されたい)。
【0029】
別の実施形態では、対象の遺伝子産物は、AAVタンパク質、特に、Rep78若しくはRep68などのRepタンパク質、又はその機能的フラグメントでよい。Rep78及び/又はRep68をコードするヌクレオチド配列は、本発明のrAAVゲノム上に存在し、本発明のrAAVを形質導入された哺乳動物細胞で発現される場合、前記形質導入された哺乳動物細胞のゲノムへの前記rAAVの組込みを可能にする。rAAV形質導入又は感染哺乳動物細胞でのRep78及び/又はRep68の発現は、前記rAAVにより細胞に導入される他のいかなる対象の遺伝子産物も長期に又は永久に発現させることにより、前記rAAVのある種の使用の利点を提供することができる。
【0030】
本発明のrAAVベクターでは、哺乳動物細胞での発現のために対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列は、好ましくは、少なくとも1個の哺乳動物細胞適合性発現制御配列、たとえば、プロモーターに作動可能に連結されている。多くのそのようなプロモーターが当技術分野では公知である(SambrookとRussel、2001年、上記を参照されたい)。CMVプロモーターなどの、多くの細胞型で広く発現される構成的プロモーターを使用してよい。しかし、誘導性、組織特異的、細胞型特異的、又は細胞周期特異的であるプロモーターがより好ましいであろう。たとえば、肝臓特異的発現では、プロモーターは、α1アンチトリプシンプロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、LPS(チロキシン結合グロブリン)プロモーター、HCR−ApoCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター及びアポリポタンパク質Eプロモーターから選択してよい。他の例には、腫瘍選択的な、及び、特に、神経学的細胞腫瘍選択的な発現には、E2Fプロモーター(Parrら、1997年、Nat.Med.、第3巻、1145頁〜9頁)、又は単核血液細胞での使用には、IL−2プロモーター(Hagenbaughら、1997年、J Exp Med;第185巻、2101頁〜10頁)がある。
【0031】
AAVはいくつかの哺乳動物細胞に感染することができる。たとえば、Tratschinら、Mol.Cell Biol.、5(11)、3251頁〜3260頁(1985年)、及びGrimmら、Hum.Gene Ther.、10(15)、2445頁〜2450頁(1999年)を参照されたい。しかし、ヒト滑膜線維芽細胞のAAV形質導入は、類似のマウス細胞よりも有意に効率的であり(Jenningsら、Arthritis Res、3:1(2001年))、AAVの細胞トロピシティはセロタイプ間で異なる。たとえば、Davidsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.、米国、97(7)、3428頁〜3432頁(2000年)(哺乳動物CNS細胞トロピズム及び形質導入効率に関して、AAV2、AAV4、及びAAV5間の相違を論じている)を参照されたい。
【0032】
昆虫細胞でのAAVの作製のために本発明で使用してよいAAV配列は、いかなるAAVセロタイプのゲノム由来でもよい。一般に、AAVセロタイプは、アミノ酸及び核酸レベルで、顕著に相同なゲノム配列を有し、同一の一連の遺伝機能を提供し、基本的に物理的及び機能的に等価なビリオンを産生し、並びに実質的に同一の機構により複製し組み立てられる。種々のAAVセロタイプのゲノム配列及びゲノム類似性の概観は、たとえば、GenBankアクセッション番号U89790、GenBankアクセッション番号J01901、GenBankアクセッション番号AF043303,GenBankアクセッション番号AF085716、Chloriniら(1997年、J.Vir.、第71巻、6823頁〜33頁)、Srivastavaら(1983年、J.Vir.、第45巻、555頁〜64頁)、Chloriniら(1999年、J.Vir.、第73巻、1309頁〜1319頁)、Rutledgeら(1998年、J.Vir.、第72巻、309頁〜319頁)、及びWuら(2000年、J.Vir.、第74巻、8635頁〜47頁)を参照されたい。ヒト又はサルアデノ随伴ウイルス(AAV)セロタイプは、本発明に照らして使用するためのAAVヌクレオチド配列の好ましい供給源であり、さらに好ましくは、通常、ヒト(たとえば、セロタイプ1、2、3A、3B、4、5、及び6)又は霊長類(たとえば、セロタイプ1及び4)に感染するAAVセロタイプである。
【0033】
好ましくは、本発明に照らして使用するためのAAV ITR配列は、AAV1、AAV2、及び/又はAAV4に由来する。同様に、Rep52、Rep40、Rep78、及び/又はRep68コード配列は、好ましくは、AAV1、AAV2、及び/又はAAV4由来である。しかし、本発明に照らして使用するためのVP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードする配列は、既知の42個のセロタイプのいずれからでも、さらに好ましくは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、若しくはAAV9、又は、たとえば、カプシドシャフリング技術により得られる新たに開発されたAAV様粒子、及びAAVカプシドライブラリーから採用してよい。
【0034】
AAV Rep及びITR配列は、特に大半のセロタイプの間で保存されている。種々のAAVセロタイプのRep78タンパク質は、たとえば、89%超同一であり、AAV2、AAV3A、AAV3B、及びAAV6間のゲノムレベルでの全ヌクレオチド配列同一性は約82%である(Bantel−Schaalら、1999年、J.Virol.、73(2)939頁〜947頁)。さらに、多くのAAVセロタイプのRep配列及びITRは、哺乳動物細胞でのAAV粒子の産生の際に他のセロタイプ由来の相応する配列と効率的にクロス補完する(すなわち、機能的に置換する)ことが公知である。米国特許出願公開第2003148506号では、AAV Rep及びITR配列も昆虫細胞で他のAAV Rep及びITR配列に効率的にクロス補完することが報告されている。
【0035】
前記AAV VPタンパク質は、AAVビリオンの細胞トロピシティを決定することが公知である。前記VPタンパク質コード化配列は、異なるAAVセロタイプ間でRepタンパク質及び遺伝子に比べ有意に保存されていない。Rep及びITR配列が他のセロタイプの相応する配列にクロス補完する能力を備えているために、セロタイプ(たとえば、AAV3)のカプシドタンパク質及び別のAAVセロタイプ(たとえば、AAV2)のRep及び/又はITR配列を含む偽型AAV粒子の産生が可能になる。そのような偽型AAV粒子は本発明の一部である。
【0036】
改変された「AAV」配列も、たとえば、昆虫細胞でのrAAVベクターの産生のために、本発明に照らして使用することができる。そのような改変された配列には、たとえば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、若しくはAAV9に対し、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、若しくはそれ以上のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列同一性を有し(たとえば、約75〜99%ヌクレオチド配列同一性を有する配列)、そのITR、Rep、又はVPは野生型AAV ITR、Rep、又はVP配列に代わって使うことができる。
【0037】
AAV5は、多くの点で他のAAVセロタイプに類似しているが、他の既知のヒト及びサルセロタイプ以上に、他のヒト及びサルAAVセロタイプとは異なっている。それを考慮すると、AAV5の産生は、昆虫細胞での他のセロタイプの産生とは異なっていてよい。本発明の方法を用いてrAAV5を作製する場合、1個又は複数個のベクターが、AAV5 ITRを含むヌクレオチド配列、AAV5 Rep52及び/又はRep40コード配列を含むヌクレオチド配列、並びに、AAV5 Rep78及び/又はRep68コード配列を含むヌクレオチド配列を、複数個のベクターの場合は集団的に、含むのが好ましい。そのようなITR及びRep配列は、昆虫細胞でrAAV5又は偽型rAAV5ベクターを効率的に産生するように、要望通りに改変することができる。たとえば、昆虫細胞でのrAAV5の産生が改良されるように、前記Rep配列の開始コドンを改変でき、VPスプライス部位を改変する、若しくは除去することができ、並びに/又は前記VP1開始コドン及び近接するヌクレオチドを改変することができる。
【0038】
追加の態様では、本発明は、AAVビリオンに関する。好ましくは、そのゲノムに対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列を含み、前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が自然のAAVヌクレオチド配列ではなく、AAV VP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質の化学量論において、VP1の量が(a)VP2の量の少なくとも100、105、110、120、150、200、若しくは400%である、又は(b)VP3の量の少なくとも8、10、10.5、11、12、15、20、若しくは40%である、又は(c)少なくとも(a)と(b)両方で定義されるAAVビリオンである。好ましくは、VP1、VP2、及びVP3の量は、VP1、VP2、及びVP3のそれぞれに共通のエピトープを認識する抗体を使って決定される。VP1、VP2、及び/又はVP3の相対量を定量化することができる種々の免疫アッセイを、当技術分野では利用することができる(たとえば、Using Antibodies、E.HarlowとD.Lane、1999年、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク、を参照されたい)。前記3種類のカプシドタンパク質に共通のエピトープを認識する適切な抗体は、たとえば、マウス抗Cap B1抗体である(ドイツ、Progen社より市販されている)。
【0039】
本発明に従った好ましいAAVは、そのゲノムに対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列を含み、前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が自然のAAVヌクレオチド配列ではなく、AAVビリオンがアミノ酸の1位にロイシン又はバリンを含むVP1カプシドタンパク質を含む、ビリオンである。本発明に従ったさらに好ましいAAVビリオンは、上記の割合のカプシドタンパク質を有し、アミノ酸の1位にロイシン又はバリンを含むVP1カプシドタンパク質を含む。たとえば、下の本明細書に定義する方法で、上記の昆虫細胞から得ることができるAAVビリオンはさらに好ましい。
【0040】
上記の割合のカプシドタンパク質を有する本発明のAAVビリオンの利点は、その改良された感染力である。特に、感染力は、カプシドのVP2及び/又はVP3の量に対して、カプシドのVP1タンパク質の量が増加するに従って、増加する。AAVビリオンの感染力は、本明細書では、トランス遺伝子の発現割合及びトランス遺伝子から発現される産物の量又は活性から推定される、ビリオンに含まれるトランス遺伝子の形質導入の効率を意味すると理解されている。
【0041】
別の態様では、したがって、本発明は、昆虫細胞でのAAVの作製方法に関する。好ましくは、前記方法は、(a)上の本明細書で定義された昆虫細胞を、AAVが産生されるような条件の下で培養する段階、及び(b)前記AAVの回収の段階を含む。培養昆虫細胞の生育条件、及び培養昆虫細胞での異種産物の作製は、当技術分野では公知であり、たとえば、昆虫細胞の分子工学に関する上に引用した参考文献に記載されている。
【0042】
好ましくは、前記方法は、抗AAV抗体、好ましくは固定化された抗体を使った前記AAVの親和性精製の段階をさらに含む。前記抗AAV抗体は、好ましくはモノクロナール抗体である。特に適切な抗体は、たとえば、ラクダ又はラマから得られる一本鎖ラクダ抗体又はそのフラグメントである(たとえば、Muyldermans、2001年、Biotechnol.、第74巻、277頁〜302頁を参照されたい)。AAVの親和性精製のための抗体は、好ましくはAAVカプシドタンパク質上のエピトープに特異的に結合し、好ましくは前記エピトープが複数のAAVセロタイプのカプシドタンパク質上に存在するエピトープである抗体である。たとえば、前記抗体は、AAV2カプシドへの特異的結合に基づいて産生しても、又は選択してもよいが、同時に前記抗体はAAV1、AAV3、及びAAV5カプシドに特異的に結合してもよい。
【0043】
本文書及びその特許請求の範囲では、動詞「含む」及びその活用は、限定されない意味で用いて、前記単語に続く項目は含まれるが、具体的に言及されない項目は排除されることはないことを意味する。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈がその要素が1個及び1個だけ存在することを明確に要求しているのでなければ、複数のその要素が存在する可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常「少なくとも1個」を意味するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
(実施例)
1.材料と方法
1.1 バキュロウイルスプラスミド構築
ただ1つのポリシストロン性メッセンジャーRNAからVP1、2、3を発現するために、Urabeら(2002年、上記を参照されたい)により記載された通りに、バキュロウイルス−AAV−Cap構築物を設計した。手短に言えば、VP1のATG開始コドンをACGに変異させた。11位での潜在的ATG開始コドンは、ACGに変えられている。前記VP1開始コドンの下流のスプライス受容部位は破壊した(21位及び24位の変異)。前記変異させたCap発現カセットを、バキュロウイルス発現構築物、すなわちBamHI/StuI制限部位のあるpFastBacDual(pFBDAAV1VPm11)にクローン化した。このプラスミド(pFBDAAV1VPm11)は、VP1の交互開始コドンの導入のための出発物質であった。前記言及した変異体を導入するために、Urabeら(2002年、上記を参照されたい)が使用した順方向プライマーは、
【化1】


であった。
以下の順方向プライマーを使って、出発材料としてpFBDAAV1VPm11(Urabeら、2002年、上記を参照されたい)を使って発現構築物を作製した。
【化2】


さらに、2個の順方向プライマーを使って、ACG及びCTGコドンは、それぞれ、好ましい形のコザック配列「GCCGCC(NNN)G」(配列番号8を参照されたい。(NNN)は準最適な開始コドンを表す)が先行している構築物を調製した。
【化3】

【0045】
上の順方向プライマーとともにPCR反応で使用した逆方向プライマーは、前記VP1開始コドンから〜230bp下流の位置に向け、独自のStuI部位(AGGCCT)を含有している。
【化4】

【0046】
PCRにより上述の組の順方向及び逆方向プライマー対でフラグメントを増幅した。BamHI及びStuIでのPCR産物の消化に続いて、前記PCR産物はpFBDAAV1vpm11のBamHI/StuI部位にサブクローン化して、種々の試料バキュロウイルス−AAV−Cap構築物が得られた。DNA構築物は、Baseclear社、ライデン、オランダの配列分析により検証した。
【0047】
1.2 組換えバキュロウイルス作製
オートグラファカリフォルニカ(Autographa californica)核多核体病ウイルス(AcNPV)由来の組換えバキュロウイルスを、Bac−to−Bacバキュロウイルス発現システム(インビトロゲン社製)を使って作製した。rBac−Capは、多重感染度0.1でml当たり2×10Sf9細胞に感染させることにより増幅した。感染の3日後、前記細胞は遠心沈澱させ、ウイルスを含有する上澄みを回収した。
【0048】
rAAVバッチを、Urabeら、2002年、に従って3種類の組換えバキュロウイルスを使って作製した。しかし、この研究のために、1種類のバキュロウイルスは、LPLS447X−トランス遺伝子の発現構築物を内部に有していた。前記トランス遺伝子から発現される治療上活性な物質は、ヒトリポタンパク質リパーゼの天然の変異体であり、448個のアミノ酸の一本鎖ポリペプチドである。前記LPLS447X変異体は、タンパク質のC末端に2個のアミノ酸の欠失がある。第2のバキュロウイルスは、AAV複製遺伝子の発現構築物、すなわちRep78及びRep52を内部に有している。第3のバキュロウイルスは、VP1のACG又はTTG、CTG、GTG開始コドンの一方があるAAV1カプシド配列を内部に有していた。
【0049】
プラスミドトランスフェクションシステムで作製される哺乳動物rAAVバッチは、Grimmら、1998年に従って作製した(「組換えアデノ随伴ウイルスベクターの作製及び精製のための新規の道具(Novel tools for production and purification of recombinant adeno−associated virus vectors)」、Hum Gene Ther.1998年 Dec 10;9(18):2745頁〜60頁)。
【0050】
1.3 ウェスタンブロット分析
昆虫細胞にバキュロウイルスCapを感染させた。感染後3日目に、細胞を遠心分離にかけた(3000g;15分)。上澄みは0.22μm Millexフィルターでろ過した。NuPAGE LDS試料緩衝液(Invitrogen社製)を前記上澄み試料に添加し、4〜12%Bis−Trisゲルに充填した。前記ゲルは100Vで電気泳動を行った。タンパク質は100V、350mAで1時間ニトロセルロース膜(BioRad社製)上にブロットした。1%マーベル乾燥脱脂粉乳で前記膜をブロックすることによりウェスタン免疫化学を実施し、続いてマウス抗Cap(B1 Progen社製、ドイツ;1対50に希釈)及びウサギ抗マウスHRP(DAKO社製、1対100に希釈)でインキュベートした。VP1、2及び3は、ルミライトプラスウェスタンブロッティング基質(Roche社製)を使った化学蛍光染色により視覚化した。
【0051】
1.4 生化学的測定
ヒトLPLS447X活性は、放射性トリオレオイルグリセロールエマルジョン基質を使って以前記載された通りにアッセイした(Nilsson−EhleとScholtz、1976年)。ヒトLPLS447X免疫反応質量は、ニワトリIgY及びマウス5D2抗hLPL抗体でサンドイッチELISAを使ってアッセイした(Liuら、2000年)。血漿トリグリセリドレベルは、市販のキット(Boehringer Mannheim社、#450032)を使って製造業者のプロトコルに従って測定した。
【0052】
2.結果
2.1 組換えバキュロウイルスの構築
VP1発現のための異なる交互開始コドンを、Urabeら(2002年、上記を参照されたい)が設計したバキュロウイルスプラスミドに導入するために、BamHI制限部位、及びVP1のACG開始コドンに代わってTTG、ATT、GTG、CTGコドンのうちのいずれかを含有する一連の上流プライマーを設計した。StuI部位を含有する下流プライマーと組み合わせてこれらのプライマーを使うPCRにより、pFBDVPm11(Bac−Cap)のBamHI/StuI部位にサブクローン化されたフラグメントが増幅された。こうして得られたバキュロウイルスプラスミドは、Bac−to−Bacバキュロウイルス発現システムを使った組換えバキュロウイルスの調製のために使用した。調製された組換えバキュロウイルスは、AAVカプシドを作製するために昆虫細胞に感染させた。感染後の3日目に、異なるバキュロウイルスバッチのウイルスタンパク質発現をウェスタンブロットで決定した。前記ウェスタンブロットから、VP1のTTG開始コドンを含有するバキュロウイルス構築物は、以前使われたACG開始コドンと比べて高いレベルでこのタンパク質を発現したことが明らかになった。TTGコドンを使用したVP1とVP2間の比は1対1であることがわかり、この比は野生型AAVで報告されている比に類似している(図1)。
【0053】
2.2 rAAVバッチの培養細胞への感染
TTG開始コドンをもつ組換えバキュロウイルス由来のAAVカプシドの感染力を調べるために、rAAVを作製した。哺乳動物HEK293細胞へのプラスミドトランスフェクションによりrAAVバッチも作製した。両方のrAAVバッチのベクターゲノム力価はqPCRにより決定した。この力価を使って、マイクロタイタープレート中のHEK293細胞に多重感染度を高めながら感染させた。感染後の2日目に、トランス遺伝子産物(LPLS447X)の定量分析(LPLS447X質量アッセイ)を感染した細胞の培地上で実施した。前記アッセイにより、バキュロウイルス産生rAAVにより産生されたLPLS447Xの量は、プラスミド産生rAAVにより産生したLPLに類似していることが明らかになった(図2)。
【0054】
2.3 マウスでのrAAVバッチの感染
バキュロウイルス産生システム及び従来の哺乳動物プラスミド産生システムで産生されたrAAVバッチを、マウスに筋肉内注入し、in vivoでのLPLS447X−タンパク質活性及び空腹時トリグリセリドを追跡した。注入に続く3日目、7日目、及び2週間目に、血液試料を採取し評価した。ウイルス投与の3日後と7日後の間で、哺乳動物−rAAVを注入した両方のマウスとバキュロ−rAAVを注入した1匹のマウスから試料採取した血漿は、乳白色から完全に透明になった。1匹のバキュロ−rAAV注入マウス由来の血漿は比較的乳白色のままであったが、脂肪レベルは明らかに減少した。トリグリセリドレベルは、処理したマウスすべてでそれぞれ低下した(図3)。14日目、哺乳動物−AAV処理した両方のマウスのTGレベル、及びバキュロウイルス−(TTG)−AAV処理マウスのTGレベルは96%低下した。ウイルス投与の2週間後に採取した血漿試料は、バキュロウイルス−AAV及び哺乳動物−AAVで処理したマウスのLPLS447X−活性は類似していた(図4)。
【0055】
2.4 異なるVP1−開始コドンをもつ組換えAAVバッチの作製
異なるVP1−開始コドン(CTG、GTG、TTG、ACG)をもつAAV−Cap type1発現ユニットを含有する組換えバキュロウイルスを使って、昆虫細胞でrAAV1−LPLバッチを調製した。前記ウイルスバッチは、評価のために精製しNuPageゲルに充填した(図5)。前記ゲルは種々のウイルスのVP1、VP2及びVP3タンパク質間の化学量論を明らかにしている。先ず、我々は、HEK293細胞で従来のプラスミドトランスフェクションシステム(pPD1、DKFZ(ドイツ癌センター)、ハイデルベルグ、ドイツ)を使って以前作製したrAAV1−LPLを指摘する。我々の手により、このシステムは、VP1、VP2及びVP3タンパク質間に、VP1がVP2よりも多くの量存在する珍しい化学量論を生じている。この化学量論は、wtAAV又は他の哺乳動物AAVベクター作製プラットホームに見える、1対1対10として報告されているVP1、VP2及びVP3タンパク質の化学量論とはかなり異なっている。
【0056】
バキュロウイルスシステムでは、CTGコドンをもつrAAV構築物は、VP2のカプシドの量と比較してVP1の量が有意に多いウイルスを産生している。この特定の実験では(図5)、BAC−Cap GTG又はACG構築物で作製したVP1、VP2及びVP3カプシドタンパク質の化学量論は、ゲル上で類似のVP1対VP2の比を示しており、TTG構築物はVP2よりわずかに少ないVP1を発現しているように思われる。しかし、TTG及びGTG構築物は、VP1及びVP2タンパク質がほぼ等量存在する類似の化学量論を示しているが、ACG構築物は通常、VP1がVP2タンパク質よりも少ない化学量論を生じていることが繰り返し見出された。CTG構築物は、VP1がVP2タンパク質よりも多い化学量論を一貫して生じている。
【0057】
rAAVの産生率をさらに改良するため、我々は、ACG及びCTGコドンが、それぞれコザックコンセンサス配列中「GCCGCC(NNN)G」(配列番号8参照)に存在し、「(NNN)」がACG及びCTGコドンそれぞれの位置を特定している構築物を調製した。CTGコドンにコザック配列が先行している構築物からの昆虫細胞でのAAV産生では、コザック配列のない構築物よりも有意に多くのAAVが産生された(データは示されず)。これとは対照的に、ACGコドンにコザック配列が先行する構築物からの昆虫細胞でのAAV産生では、AAVがより多く産生されることはなかった(データは示されず)。
【0058】
2.5 rAAVバッチのマウスへの注入
ウイルスカプシド中のVP1含有量がベクター感染力と関連していることを実証するために、バキュロウイルス産生AAV1バッチ及びプラスミド産生AAV1バッチをホモ接合型LPL(−/−)マウスの筋肉に注入し、活性型LPL発現の結果としてのトリグリセリド(TG)の低下を経時モニターした(図6)。その結果は、CTG開始コドンで作製したAAV1−LPLバッチは、その他のAAV1バッチと比較して、予想通りTGレベルを速く大きく低下させることを示している。しかし、化学量論は類似しているが、バキュロ−CTG変異体でのTG低下は、プラスミド産生AAV1(pDP1で産生)と比べてはるかに大きいことは注目に値する。
【0059】
CTG構築物で作製したバキュロウイルス産生AAVは、その他の準最適な開始コドン構築物で作製したAAVと比べて、特にACGコドンをもつ構築物と比較した場合には、in vitroでもin vivoでも、よい成績を上げた、すなわち、より大きな感染力を示すことが繰り返し観察された。CTG構築物で作製したAAVビリオン中のVP1含有量は、VP2と比べて多くのVP1を含有し、他の構築物、特にACGではそうではないことも繰り返し観察された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】VP1カプシドタンパク質に対する、TTG又はACG開始コドンを含有する組換えバキュロウイルスで産生したrAAVのウェスタンブロット分析の結果を示す図である。
【図2】LPL質量アッセイの結果を示す図である。マイクロタイタープレートのHEK293細胞に、バキュロウイルス産生システム及びプラスミド産生システムで作製したrAAVを、100と25000の間の多重感染度で感染させた。感染後の2日目、LPLS447Xタンパク質を、LPLS447X質量ELISAにより測定した。「DKFZ/ラマ」(A−079−024及びA−093−130/137)は、プラスミド産生システムで作製したrAAV−LPLS447Xバッチを表す。「対照」は、LPLS447Xを発現していないが、細菌性タンパク質LacZは発現しているrAAV−LacZウイルスバッチを表す。バキュロ/ラマは、TTG開始コドンをもつrBac−Capウイルスを使ってバキュロウイルス産生システムで作製したrAAV−LPLS447Xバッチを表す。
【図3】AAVベクターバッチの注入後の結果を示す図である。血漿中のトリグリセリド(TG)レベルを決定した。マウス(n=2)に、バキュロウイルス産生システム(DJ17jun05)及び(n=2)哺乳動物産生システム(Clin)で作製したrAAVを注入した。前記ベクター投与後の3日目、7日目、及び14日目に、血液試料を採取し、空腹時TGをアッセイした。
【図4】血漿試料でLPLS447X活性を測定した結果を示す図である。マウスに、バキュロウイルス産生システム(DJ17jun05)及び哺乳動物産生システム(C−0045)で作製したrAAVを注入した。前記ベクター投与後の14日目に、血液試料を採取し、LPLS447X活性を決定した。
【図5】図1:昆虫細胞においてバキュロウイルス発現システムで作製した4種類のAAV1バッチをNupageゲルに充填して、VP1、2、3化学量論を評価した結果を示す図である。レーン:VP1開始コドンCTG(レーン1)、GTG(レーン2)、ACG(レーン3)、TTG(レーン4)を含有するバキュロウイルスCap構築物で調製したAAV1バッチ。対照として、プラスミド産生AAV1バッチ(FSB−02)を充填した(レーン5)。CTG開始コドンを使ったAAV1の化学量論はFBS−02バッチと同程度である。
【図6】AAV1−LPLのバッチをLPL欠損(−/−)マウスの筋肉に、3×1012gc/kgで注入した結果を示す図である。CTG開始コドンを含有するrBac−Cap構築物で調製したAAV1−LPLバッチは、他のバッチと比べてトリグリセリド(TG)低下の点で有意に良好な成績を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)VP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む読取り枠を含むヌクレオチド配列であって、AAV VP1カプシドタンパク質の翻訳のための開始コドンがTTG、CTG、及びGTGから選択されるヌクレオチド配列。
【請求項2】
AAV VP1カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の開始コドンの上流に、配列番号7の9ヌクレオチド配列、又は配列番号7に実質的に相同なヌクレオチド配列を含む発現制御配列を含む、請求項1に記載のヌクレオチド配列。
【請求項3】
AAV VP1カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の開始コドンの周辺にコザックコンセンサス配列を含む発現制御配列を含み、前記コザックコンセンサス配列がGCCRCCNNNG(配列番号8)であり、Rはプリンであり、NNNはTTG、CTG、及びGTGから選択される準最適な開始コドンを表す、請求項1に記載のヌクレオチド配列。
【請求項4】
ヌクレオチドの12位のG、ヌクレオチドの21位のA、及びヌクレオチドの24位のCの中から選択される、AAV VP1カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の少なくとも1個の改変をさらに含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載のヌクレオチド配列。
【請求項5】
前記ヌクレオチド配列が、昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されている、請求項1から4までのいずれか一項に記載のヌクレオチド配列を含む核酸構築物。
【請求項6】
前記ヌクレオチド配列が多面体プロモーターに作動可能に連結されている、請求項5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
前記構築物が昆虫細胞適合性ベクター、好ましくはバキュロウイルスベクターである、請求項5又は6に記載の核酸構築物。
【請求項8】
請求項5から7までのいずれか一項に記載の核酸構築物を含む昆虫細胞。
【請求項9】
(a)少なくとも1個のAAV逆方向末端反復(ITR)ヌクレオチド配列を含む第2のヌクレオチド配列、
(b)昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されたRep52又はRep40コード配列を含む第3のヌクレオチド配列、及び
(c)昆虫細胞での発現のために発現制御配列に作動可能に連結されたRep78又はRep68コード配列を含む第4のヌクレオチド配列
をさらに含む、請求項8に記載の昆虫細胞。
【請求項10】
(a)請求項9の(b)及び(c)で定義される第3及び第4のヌクレオチド配列をさらに含む、請求項5から7までのいずれか一項に記載の第1の核酸構築物、及び
(b)請求項9の(a)で定義される第2のヌクレオチド配列を含む第2の核酸構築物
を含む、請求項9に記載の昆虫細胞。
【請求項11】
前記第2の核酸構築物が、昆虫細胞適合性ベクター、好ましくはバキュロウイルスベクターである、請求項10に記載の昆虫細胞。
【請求項12】
前記第2のヌクレオチド配列が、(哺乳動物細胞における発現のために)対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列をさらに含み、対象の遺伝子産物をコードする前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が前記昆虫細胞で産生されるAAVのゲノムに組み込まれる、請求項9から11までのいずれか一項に記載の昆虫細胞。
【請求項13】
前記第2のヌクレオチド配列が、2個のAAV ITRヌクレオチド配列を含み、対象の遺伝子産物をコードする前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が、前記2個のAAV ITRヌクレオチド配列の間に位置している請求項12に記載の昆虫細胞。
【請求項14】
前記第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、第3のヌクレオチド配列、及び第4のヌクレオチド配列が、昆虫細胞のゲノムに安定的に組み込まれている、請求項9に記載の昆虫細胞。
【請求項15】
そのゲノムに、対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列を含み、前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が自然のAAVヌクレオチド配列ではなく、AAV VP1、VP2、及びVP3カプシドタンパク質の化学量論において、VP1の量が、
(a)VP2の量の少なくとも110%である、又は
(b)VP3の量の少なくとも11%である、又は
(c)VP2の量の少なくとも110%であり、且つVP3の量の少なくとも11%であり、
VP1、VP2、及びVP3の量が、VP1、VP2、及びVP3のそれぞれに共通のエピトープを認識する抗体を使って決定される、AAVビリオン。
【請求項16】
そのゲノムに、対象の遺伝子産物をコードする少なくとも1個のヌクレオチド配列を含み、前記少なくとも1個のヌクレオチド配列が自然のAAVヌクレオチド配列ではなく、AAVビリオンが、アミノ酸の1位にロイシン又はバリンを含むVP1カプシドタンパク質を含む、AAVビリオン。
【請求項17】
アミノ酸の1位にロイシン又はバリンを含むVP1カプシドタンパク質を含む、請求項15に記載のAAVビリオン。
【請求項18】
(a)請求項9から14までのいずれか一項で定義される昆虫細胞を、AAVが産生されるような条件の下で培養する段階、及び(b)前記AAVを回収する段階を含む、昆虫細胞でAAVを産生するための方法。
【請求項19】
抗AAV抗体、好ましくは固定化した抗体を使った前記AAVの親和性精製の段階をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗AAV抗体が、一本鎖ラクダ抗体又はそのフラグメントである請求項19に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2009−512436(P2009−512436A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536532(P2008−536532)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/NL2006/050262
【国際公開番号】WO2007/046703
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(506421611)アムステルダム モレキュラー セラピューティクス ビー.ブイ. (5)
【Fターム(参考)】