説明

昇華型インクジェット捺染転写紙

【課題】昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク吸収・乾燥性と画像再現性と裏抜け防止性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を有する昇華型インクジェット捺染転写紙を提供する。
【解決手段】基材上に昇華型捺染インク受容層を有する昇華型インクジェット捺染転写紙であって、前記基材上に目止め塗工層が設けられ、前記目止め塗工層上に前記昇華型捺染インク受容層が設けられており、
前記昇華型捺染インク受容層は、水溶性樹脂と微細粒子を含有し、
前記目止め塗工層は非水溶性樹脂と無機微粒子を含有し、
JIS P 8122に準拠したステキヒトサイズが60秒〜120秒であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華型インクジェット捺染転写紙に関し、具体的には、インクジェット記録方式により転写紙に昇華型捺染インクを用いた印刷を行い、この転写紙上の印刷された画像をポリエステル等の布帛に転写して昇華転写捺染する際に使用する昇華型インクジェット捺染転写紙に関する。
【背景技術】
【0002】
転写捺染法には、ワックスや樹脂等の熱軟化性固着剤と顔料からなるインクを用いた溶融型転写捺染法、ポリ塩化ビニル等の粉末及び可塑剤及び顔料からなるプラスチゾルインキを用いたラバープリント型転写捺染法、熱昇華性染料を用いた昇華型捺染転写法がある。
【0003】
溶融型転写捺染法では捺染物の風合いや伸縮性が不十分であり、ラバープリント型転写捺染法による捺染物は通気性や感触が良くない。昇華型捺染転写法は、捺染物の風合いを損なわず、他の転写法では出せないシャープな図柄をプリントできることから、現在主に行われている転写捺染法である。従来、熱転写捺染シートはその形成に際してスクリーン版、グラビア版などの印刷版とそれに応じた印刷機が必要であったが、個性の多様化により、小ロットに対応したインクジェット印字用の転写捺染シートの報告がなされ、小ロットに対応した昇華型捺染転写が広まり、需要が伸びてきている。
【0004】
昇華型捺染転写法とは、ポリエステル生地等の被転写物と昇華型捺染転写紙とを重ね合わせたものを180〜220℃に加熱されたドライヤーに密着させて、昇華型捺染転写紙に印刷された印刷インクを熱にて昇華させ、被転写物に転写捺染を行うものである。
【0005】
前記インクジェット印字用の昇華型捺染転写紙としては、基材上に、シリカ等の顔料や、ポリビニルアルコールや水溶性セルロース誘導体等の結着剤等を含有するインク受容層を設けてなるものが知られている(特許文献1〜5を参照)。
【特許文献1】特開2002−292995号公報
【特許文献2】特開2003−276309号公報
【特許文献3】特開2004−255715号公報
【特許文献4】特開2004−255717号公報
【特許文献5】特開2003−266919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェット印刷をする際には、高速印刷をしつつ印刷後の転写紙を高速で巻き取る必要が生じるために、昇華型インクジェット捺染転写紙のインク受容層がきわめて急速に昇華型捺染インクを吸収、乾燥させる性能を有する必要がある。特に近年、印刷速度が1m/分を超える高速印刷が要求されるようになっていることから、格別に優れたインク吸収乾燥性が求められるようになっている。
【0007】
しかしながら、従来の昇華型インクジェット捺染転写紙においては、このような高速印刷時におけるインク吸収乾燥性が十分ではないという問題があった。昇華型捺染インクの吸収乾燥が不十分であると、印刷後の巻き取りの際に、裏写りや、汚れ、コスレの問題が発生する。さらには、印刷後の転写工程で、前記の裏写りや、汚れ、コスレの原因となった不要なインクが転写設備や被転写物に付着して、最終転写物の品質低下や汚れも生じやすくなる。このような場合、印刷時及び転写時の作業性が著しく低下してしまうため、従来品よりもさらに優れたインク吸収乾燥性を持つ昇華型インクジェット捺染転写紙が求められている。
【0008】
一方、被転写物に転写捺染する際においては、昇華型捺染インクが昇華捺染型転写紙の昇華型捺染インク受容層とは異なる裏面側に裏抜けを生じたり、被転写物である布帛等を通過(裏抜け)し、転写用プレス機等に昇華型捺染インクが付着してしまう問題があった。しかしながら、この昇華型捺染インクの吸収乾燥性と昇華型捺染インク裏抜け防止性は相反する性質であり、これを両立させた、すなわち印刷時には昇華型捺染インクを速やかに吸収乾燥させ、かつ転写時には裏抜けをさせない昇華捺染型転写紙を製造することは困難であった。さらに、昇華捺染型転写紙における画像の再現性や、被転写物への転写効率(転写画像の解像性や、転写画像濃度レベルと、その均一性等)についても十分なレベルのものとする必要があった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク吸収乾燥性と画像再現性と裏抜け防止性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を有する昇華型インクジェット捺染転写紙を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材と昇華型捺染インク受容層とを有する昇華型インクジェット捺染転写紙であって、前記基材上に目止め塗工層が設けられ、前記目止め塗工層上に前記昇華型捺染インク受容層が設けられており、前記昇華型捺染インク受容層は、水溶性樹脂と微細粒子を含有し、前記目止め塗工層は、非水溶性樹脂と無機微粒子を含有し、JIS P 8122に準拠したステキヒトサイズが60秒〜120秒であることを特徴とする昇華型インクジェット捺染転写紙に関する。
【0011】
本発明では、前記基材は、片面が艶面であるクラフト紙であり、前記目止め塗工層は、前記艶面上に設けられ、前記昇華型捺染インク受容層は、前記微細粒子を20〜80質量%含有することが好ましい。
【0012】
さらに本発明では、前記目止め塗工層は、体積平均粒径が1.0〜25.0μmの無機微粒子を目止め塗工層固形分のうち60〜90質量%、前記非水溶性樹脂として合成ゴムラテックスを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の昇華型捺染転写紙は、昇華型捺染インクを用いたインクジェット印刷において優れたインク吸収乾燥性を有しており、印刷時及び転写時の作業性が良好であるとともに、転写紙表面での画像再現性、転写後の被転写物表面での画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を有する。特に、インクジェット印刷で高速印刷をしつつ、印刷後の転写紙を高速で巻き取る際において発生しやすい裏写りや、汚れ、コスレの問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施に用いられる基材としては、昇華型捺染インク受容層が設けられる基材であればその素材は限定されない。即ち、木材パルプを主成分とする紙や、無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂からなる多孔性樹脂フィルム、更には不織布、布帛、樹脂被覆紙、合成紙等が挙げられる。本発明の効果が顕著に現れる基材としては、昇華型インクジェット捺染転写紙の裏面への加熱により、昇華型捺染インクが昇華しやすい多孔質な素材であり、具体的には、木材パルプを主成分とする紙や、不織布、布帛である。
【0015】
基材として、木材パルプを主成分とする紙を使用することが好ましく、ヤンキードライヤーを用いて乾燥工程を行うことで片面を艶面とした片艶紙を使用することが特に好ましい。片艶紙は従来の紙と異なり、寸法安定性に優れ、フィルムと異なりリサイクルが可能であり、昇華型捺染インクの吸収乾燥性に優れる特徴を有する。
【0016】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙における基材は、昇華型捺染インク受容層が設けられる支持体であれば、その素材は限定されないが、本発明者が最も好適として見出した片艶紙を基材として以下に説明する。
【0017】
本発明者が最も好適として見出した片艶紙を基材として以下に説明する。
【0018】
片艶紙の艶面は表面の平坦性が高いので、ここに昇華型捺染インク受容層を設けることによって均質性の高い昇華型捺染インク受容層を得ることが可能になり、画像再現性や作業性に優れているとともに、昇華捺染のための加温転写時に被転写物の画像再現性や、転写効率の点においても優れた特性を有することができ、本発明における昇華型インクジェット捺染転写紙に特に優れた基材として好適に用いられ、さらに、バックコート層を非艶面に設けることで、より伸縮率を低い数値とすることができる。
【0019】
片艶紙は、ヤンキードライヤーを用いて乾燥工程を行うことでヤンキードライヤー面を艶面とした紙である。片艶紙は、湿紙をヤンキードライヤーに貼り付けて乾燥させるため、多筒式ドライヤーを用いる湿紙の乾燥方式に比べ、寸法安定性に優れ、艶面が高平滑であるので、優れた画像再現性を達成することができる。更に、艶面に比べ裏面が粗面であり空隙を多く有するため、加熱時に熱保持効果が高く、均等且つ効果的に昇華型捺染インクの昇華を促す事ができる。これに用いる片艶紙は、米坪が60〜150g/mであることが好ましく、90〜110g/mがより好ましい。片艶紙の米坪が60g/m未満であると、引張強度と引裂強度の低下により紙切れや昇華型捺染インク受容層への記録時に、基材に波うちや加熱時に伸縮変動が起きやすくなるとともに、作業性が低下する問題が生じ易い。片艶紙の米坪が150g/mを超えると被転写物への昇華型捺染インクの加熱転写時に熱伝達が悪くなり、転写効率が低下する傾向がある。
【0020】
また、片艶紙の艶面のJIS P 8119に準拠下したベック平滑度が40〜200秒であることが好ましく、50〜100秒がより好ましい。艶面のベック平滑度が40秒未満であると印刷時の昇華型捺染インクの吸収・乾燥性は高くなるももの、画像再現性が低下し、被転写物への昇華型捺染インクの転写時の画像再現性と転写効率が低下する傾向がある。また、200秒を超えると水溶性樹脂と微細粒子からなる昇華型捺染インク受容層の形成にムラが発生し、画像再現性が低下する傾向がある。
【0021】
片艶紙の艶面は表面の平坦性が高いので、ここに目止め塗工層、さらに昇華型捺染インク受容層を設けることによって均質性の高い昇華型捺染インク受容層を得ることが可能になり、画像再現性や作業性に優れているとともに、昇華捺染のための加温転写時に被転写物の画像再現性や、転写効率の点においても優れた特性を有することができ、本発明における昇華型インクジェット捺染転写紙に特に優れた基材として好適に用いられる。
【0022】
非艶面である裏面の平滑度は、18秒程度が好ましい。裏面が艶面と同等以上の平滑度を有すると、加熱時の熱保持性が劣り、転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点で劣る問題が発現する恐れがある。従って、表裏面とも多筒ドライヤーで乾燥された上質紙などは、片艶紙に比べ転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点で劣る場合がある。
【0023】
更に、片艶紙の裏面にバックコート層を設けることで、艶面に付与されたヤンキードライヤーによる緊張乾燥に近似した、繊維同士の寸法変化の少ない裏面性状を得ることができ、艶面、裏面相俟って寸法変化の少ない性状を醸し出すことが出来る。
【0024】
本発明に係る片艶紙はいわゆる製紙分野で使用される原料より構成される。使用するパルプとしては特に限定されないが、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)や針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)や広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)等の機械パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェストパルプ(WP)等の化学パルプや機械パルプを含む古紙パルプ等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択して用いることができる。これらのうち、針葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹晒クラフトパルプを、紙質強度と基材表面の平坦性、昇華型捺染インクの昇華型インクジェット捺染転写紙における品質確認において適宜組合せて用いることが好ましい。
【0025】
特に基材原料として好ましいパルプは、使用するパルプ原料の平均繊維長が1.0mm以上1.6mm未満であり、NBKPとLBKPの配合割合が50/50〜15/85質量%であり、さらに、ルンケル比が0.8以下のパルプ繊維を用いる事が好ましい。ルンケル比は、繊維のルーメン(内腔)の幅Lと細胞壁の厚さtによって求められる値であり、R =2 ・t /L によって表される。このルンケル比は、数値が低いほど同じ径に対して繊維壁の厚みが小さくなり、繊維は柔軟性を持つ。ルンケル比が0.8以下であれば、昇華捺染工程において、被転写物との密着性にすぐれ、昇華型捺染インクにおける溶媒を紙中に吸収しやすくなり、昇華型捺染インクの吸収乾燥性を向上させることができる。ルンケル比が0.8以下のパルプ繊維を得るには、木材として比較的成長の早い植林木等を原料とするのが好ましい。
【0026】
前記基材は、好適にはJIS P 8117に準拠した昇華型インクジェット捺染転写紙の透気度が80〜30,500秒、より好適には1,350〜30,000秒、さらに好適には、1,500〜29,000秒に調整可能な範囲で、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の填料を含有するものであってもよい。透気度が、80秒未満では、転写効率や昇華型捺染インクの裏抜け防止性が低下する問題が生じ、30,500秒を超えると、熱伝達が低下し昇華型捺染インクの転写効率が低下すると共に、画像再現性が悪くなる。
【0027】
本発明では基材上に目止め塗工層を設ける。当該目止め塗工層は、非水溶性樹脂及び無機微粒子を含有する塗工液を基材表面に塗工して形成される層であり、印刷時に昇華型捺染インクが基材に浸透するのを抑制することができる。これによって、加熱転写時に昇華型捺染インクが基材の裏面側から昇華する、いわゆる裏抜けの問題を防止することができる。
【0028】
更に、目止め塗工層を設ける事で、得られる昇華型インクジェット捺染転写紙の透気度を1500秒以上、より好適には3000秒以上に高めることが可能になると共に、透気度の調整手段としても機能させることが可能になり、先の裏抜け防止効果と相俟って、本発明の課題である昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク吸収乾燥性と画像再現性と裏抜け防止性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率を向上させることができる。
【0029】
本発明の目止め塗工層で使用する非水溶性樹脂としては、例えば、合成ゴムラテックスとして、SBR、NBR、MBR等、ビニルポリマー系ラテックスが挙げられる。なかでも、印刷時に昇華型捺染インクの基材への浸透及び裏抜け防止を効果的に抑制できることから、合成ゴムラテックスが好ましい。微細な合成ゴムのエマルジョンからなる合成ゴムラテックスは、被膜形成性に優れるものの、本発明における昇華型捺染インクの溶媒を均等に基材中に浸透せしめ、後述する基材中に含有させる消サイズ剤との相乗効果にて、昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク吸収乾燥性と画像再現性と裏抜け防止性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率を向上させることができる。
【0030】
本発明の目止め塗工層は、無機微粒子を含有する。無機微粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、コロイダルシリカ、合成非晶質シリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物(擬ベーマイト等)、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等が挙げられる。なかでも、カオリンが好ましい。
【0031】
本発明で好適に用いることができるカオリンは、板状結晶構造をもち目止め塗工層表面の平坦性向上に寄与するとともに、昇華型捺染インクの溶媒を速やかに基材に浸透させる効能を有し、ステキヒトサイズに代表されるピンホール的な昇華型捺染インクの基材への浸透や裏抜け防止効果に優れる。
【0032】
目止め塗工層に配合する無機微粒子としては、体積平均粒径が1.0〜25.0μmのものが、より好ましくは5.0〜20.0μmのものが好ましい。これによって、印刷時に昇華型捺染インクが基材に浸透するのを効果的に抑制できる。体積平均粒径が1.0μm未満であると、目止め効果が高くなりすぎて昇華型捺染インクの溶媒の基材中への浸透を阻害する問題を引き起こし、逆に25.0μmを超えると、昇華型捺染インクの目止め性が十分でなく、昇華型捺染インクの溶質(染料成分)の基材への浸透や、加熱による昇華捺染工程において、昇華捺染インクの裏抜けが生じやすくなる問題が生じやすくなり好ましくない。
【0033】
目止め塗工層では、目止め塗工層固形分のうち、無機微粒子を60〜90質量%含有することが好ましい。無機微粒子の含有量が60質量%未満であると、昇華型捺染インクの目止め性が十分でなく、昇華型捺染インクの溶質(染料成分)の基材への浸透や、加熱による昇華捺染工程において、昇華捺染インクの裏抜けの問題が生じやすくなり、逆に90質量%を超えると、目止め効果が高くなりすぎて昇華型捺染インクの溶媒の基材中への浸透を阻害する問題を引き起こす場合が生じるため好ましくない。
【0034】
目止め塗工層の塗工量は特に限定されないが、乾燥質量で1.0〜8.0g/mの範囲、より好ましくは2.0〜7.0g/mが好ましい。塗工量が1.0g/m未満であると、目止め塗工層の効果の発現が困難であり、逆に8.0g/mを超えると目止め塗工層の効果が高すぎるとともに、加熱による昇華捺染工程において昇華型捺染インク受容層への熱の伝達が阻害され、昇華型捺染インクの転写効率が低下するため好ましくない。
【0035】
目止め塗工層の塗布方法としては特に限定されないが、例えば、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター等の公知の塗工機を用いて塗工することができる。
【0036】
特に、目止め塗工層において、無機微粒子として体積平均粒径が1.0〜25.0μmのものを、目止め塗工層固形分のうち60〜90質量%になるよう使用し、かつ非水溶性樹脂として合成ゴムラテックスを使用することで、印刷時に昇華型捺染インクが基材に浸透するのを抑制し、加熱転写時に昇華型捺染インクが基材の裏面側に裏抜けする問題を効果的に防止することができる。
【0037】
このように基材上に目止め塗工層を設けた後、さらに目止め塗工層上に昇華型捺染インク受容層を設ける。昇華型捺染インク受容層は、微細粒子と、バインダーとして水溶性樹脂とを含有するものである。また、後述するが、本発明の好適な態様では昇華型捺染インク受容層の表面は微細粒子の凝集塊による凹凸にて被覆された性状を呈しており、この性状が、印刷時には昇華型捺染インクの吸収乾燥性と紙における画像再現性や作業性を良好にするとともに、昇華捺染のための加温転写時に昇華型捺染インクが昇華型インクジェット捺染転写紙の裏側に裏抜けするのを防止する特性においても優れ、さらには、転写による被転写物の画像再現性や、転写効率の点においても優れた特性を醸し出すものである。
【0038】
本発明者等の知見では、本発明に基づき得られた昇華型インクジェット捺染転写紙のJIS P 8122に準拠したステキヒトサイズが60秒〜120秒である。ステキヒトサイズが60秒未満では、昇華型インクジェット捺染転写紙への昇華型捺染インクによるインクジェット印刷時だけでなく、印字加熱による昇華捺染工程において、昇華型捺染インクの裏抜けが生じやすく、120秒を超えると、高速印字時の昇華型捺染インクのインク乾燥性が低下し、コスレ汚れや裏移りという問題が生じる。
【0039】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙のステキヒトサイズ度は、目止め塗工層や昇華型捺染インク受容層の構成による調整も可能と考えられるものの、昇華型インクジェット捺染転写紙の品質維持を考慮すると、基材のサイズ性を調整することが好ましく、最も好適な手法としては基材中に消サイズ剤を含有させることが好適である。
【0040】
本発明において好適に使用できる消サイズ剤は、嵩高剤とも呼ばれる薬剤であり、紙料に内添して抄紙することで、紙の密度を低下させることができる界面活性剤である。本発明で使用可能な消サイズ剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤として、アルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸およびその塩等が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、アルキルアミン酸塩等が挙げられ、非イオン性界面活性剤としては多価アルコールの脂肪酸エステル、および、当該多価アルコールの脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アミドおよび当該脂肪酸アミドのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。中でも、昇華型捺染インクの定着促進を来たさない、アニオン性界面活性剤、更にはポリオキシアルキレン脂肪酸エステルが易水溶性であり、基材中での分散性に優れ紙力低下が少ない事から最も好適に用いられる。
【0041】
基材中に消サイズ剤を含有することで、基材が嵩高となり、その嵩高な基材が昇華型捺染インクの溶媒部分を迅速に吸収しながら、昇華型捺染インクの溶質部分を昇華型捺染インク受容層の表面にとどめることができる。
【0042】
上記消サイズ剤の含有量は、基材総量のうち0.01〜3.0質量%であることが好ましく,さらに0.05〜0.1質量%であることがより好ましい。消サイズ剤の含有量が0.01質量%未満であると、消サイズ剤の効果が発現できない問題があり、逆に3.0質量%を超えると、紙力低下を招き目止め塗工層塗工時や昇華型捺染インク受容層塗工時、昇華型捺染工程での加熱時に熱劣化を招き、断紙を生じる問題がある。
【0043】
また基材中には、酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の各種澱粉や、紙力増強剤、内添サイズ剤、外添サイズ剤、歩留向上剤等の添加薬品を含有することもできる。
【0044】
本発明では、昇華型捺染インク受容層に配合する微細粒子として、合成非晶質シリカを用いることが好ましい。このような合成非晶質シリカとは、ケイ酸のゲル化によりSiOの三次元構造を形成させた、細孔容積の多い多孔性で不定形の微粒子であり、10〜2000オングストローム程度の細孔径を有する。該合成非晶質シリカを用いることによって、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙の昇華型捺染インクの吸収乾燥性を向上させると共に、昇華型捺染インクの被転写物への転写効率も向上し、被転写物上の画像を一層鮮明にすることができる。
【0045】
このような合成非晶質シリカとしては、市販のものを好適に用いることができ、例えば、ミズカシルP−526、ミズカシルP−801、ミズカシルNP−8、ミズカシルP−802、ミズカシルP−802Y、ミズカシルC−212、ミズカシルP−73、ミズカシルP−78A、ミズカシルP−78F、ミズカシルP−87、ミズカシルP−705、ミズカシルP−707、ミズカシルP−707D、ミズカシルP−709、ミズカシルC−402、ミズカシルC−484(以上、水澤化学工業(株)製)、トクシールU、トクシールUR、トクシールGU、トクシールAL−1、トクシールGU−N、トクシールN、トクシールNR、トクシールPR、ソーレックス、ファインシールE−50、ファインシールT−32、ファインシールX−30、ファインシールX−37、ファインシールX−37B、ファインシールX−45、ファインシールX−60、ファインシールX−70、ファインシールRX−70、ファインシールA、ファインシールB(以上、(株)トクヤマ製)、シペルナート、カープレックスFPS−101、カープレックスCS−7、カープレックス22S、カープレックス80、カープレックス80D、カープレックスXR、カープレックス67(以上、DSL.ジャパン(株)製)、サイロイド63、サイロイド65、サイロイド66、サイロイド77、サイロイド74、サイロイド79、サイロイド404、サイロイド620、サイロイド800、サイロイド150、サイロイド244、サイロイド266(以上、富士シリシア化学(株)製)、ニップジェルAY−200、ニップジェルAY−6A2、ニップジェルAZ−200、ニップジェルAZ−6A0、ニップジェルBY−200、ニップジェルBY−200、ニップジェルCX−200、ニップジェルCY−200、ニップシールE−150J、ニップシールE−220A、ニップシールE−200A(以上、東ソー・シリカ(株)製)などが挙げられる。
【0046】
本発明で用いられる合成非晶質シリカは微細な粒子の凝集体であることが好ましく、凝集体の平均粒子径が1.7μm〜13μm、好適には2.3μm〜12.7μmの範囲内にあることが好ましい。合成非晶質シリカとして平均粒子径が1.7μm〜13.0μmの凝集体を使用することにより、高品質な色再現性、画像再現性を得ることができる。微細な粒子の凝集体の平均粒子径が1.7μm未満であると昇華型捺染インクの吸収乾燥性が低下する傾向があり、また、微細な粒子の凝集体の平均粒子径が13.0μmを超えると転写したプリント物の発色濃度が低くなる場合がある。
【0047】
本発明では、合成非晶質シリカを1種類のみの単独での凝集体を用いることができるが、好適には、凝集体の平均粒子径が異なる2種類以上の合成非晶質シリカ凝集体を組み合わせて使用することが好ましい。特に、凝集体の平均粒子径が1.7〜5.0μmの合成非晶質シリカ凝集体と、凝集体の平均粒子径が5μmを超える合成非晶質シリカ凝集体とを併用し、組合せた微細粒子の混合体を用いることが好ましい。このように平均粒子径が数μmの範囲で異なる合成非晶質シリカ凝集体を併用することによって、凝集体と凝集体の間隙を異なる平均粒子径の凝集体が補完する凝集塊が形成され、昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク乾燥性と画像再現性、裏抜け防止性及び耐熱性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を得ることができる。
【0048】
更に好適には、理由が明確ではないが、2種類以上の合成非晶質シリカ凝集体を組み合わせて使用することで、後述の凹凸の形成が容易になり、優れた昇華型捺染インク乾燥性など本発明の効果を達成することができる。
【0049】
このような合成非晶質シリカ凝集体としては、市販のものを用いることができ、例えば、凝集体の平均粒子径が1.7〜5.0μmの合成非晶質シリカ凝集体の市販品としてはニップジェルAY−200等が挙げられ、凝集体の平均粒子径が5.0μmを超える合成非晶質シリカ凝集体の市販品としてはニップジェルAY−6A2等が挙げられる。
【0050】
本発明でいう平均粒子径(体積平均粒子径)は、少量のサンプルをメタノール溶液に添加し、超音波分散器で3分間分散した溶液をコールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製TA−II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定を行った。
【0051】
好適な平均粒子径が異なる合成非晶質シリカ凝集体の組合せにおいて、凝集体の平均粒子径が1.7〜5.0μmの合成非晶質シリカ凝集体と、凝集体の平均粒子径が5.0μmを超える合成非晶質シリカ凝集体の配合比としては、特に限定されないが、好適には、固形分の質量比で10:90〜50:50程度であることが好ましい。固形分の質量比で10:90〜50:50程度とすることで、粒子径の大きいシリカ凝集体の間隙を、粒子径の小さいシリカ凝集体が埋めるため、得られる凝集塊の多孔性が増し、昇華型捺染インク受容層表面の凹凸の形成において、均等な凝集塊の凹凸による被覆が得られるため、優れた昇華型捺染インクの吸収乾燥性、昇華型インクジェット捺染転写紙における画像の再現性、被転写物における画像の再現性と、高い昇華型捺染インクの転写効率を得ることができる。
【0052】
本発明の効果を奏する限りにおいて、合成非晶質シリカとともに、合成非晶質シリカ以外の微細粒子を配合することが可能である。他の微細粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物(擬ベーマイト等)、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0053】
前記昇華型捺染インク受容層中の微細粒子の含有量は20〜80質量%が好ましく、23〜65質量%がより好ましい。含有量が20質量%未満だと昇華型捺染インク受容量が少なくなり転写効率が低下する傾向がある。また80質量%を超えると、昇華型捺染インク受容量は多くなるが、転写時の昇華効率が低下する傾向があり、汚損の問題が生じる場合がある。なお、昇華型捺染インク受容層中の水溶性樹脂が熱可塑性を示すため、昇華型捺染インク受容層中の微細粒子の含有率を高くすることにより、昇華捺染転写紙の耐熱性が向上する。
【0054】
本発明において水溶性樹脂は主としてバインダーとして用いられ、例えば、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、各種鹸化度のポリビニルアルコール又はそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種誘導体、カゼイン、ゼラチン、変性ゼラチン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等の水溶性合成高分子が挙げられ、これらの水溶性高分子を単独で若しくは併用して用いることができる。
【0055】
本発明者らが見出した最も好適な水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコールとカルボキシメチルセルロースが挙げられ、最も好適には、両者を併用することが好ましい。
【0056】
ポリビニルアルコールとしては特に限定されず、各種ケン化度のポリビニルアルコールを使用することができるが、ケン化度としては、87〜89mol%程度が好ましい。重合度としては特に限定されないが、例えば、重合度が約1000以下のものが、カルボキシメチルセルロースとの相溶性や昇華型捺染インクをインク受容層に留め置くに特に好ましい。このようなポリビニルアルコールの市販品としては、ポバールPVA−210、ポバールPVA−205((株)クラレ製)等が挙げられる。
【0057】
水溶性樹脂として、ケン化度が87〜89mol%程度で、重合度が約1000以下のポリビニルアルコールをインク受容層に用いることで、インク受容層塗料の調整において用いる合成非晶質シリカの分散性、特に2種類以上の合成非晶質シリカ凝集体を組み合わせて使用する際における凹凸の形成能が向上し、昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク乾燥性と画像再現性、裏抜け防止性及び耐熱性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を得ることができる。
【0058】
ポリビニルアルコールの配合量としては、固形分で、少なくとも合成非晶質シリカを含む微細粒子100質量部に対して1〜200質量部程度が好ましく、2〜100質量部程度がより好ましい。この範囲によって、優れた昇華型捺染インクの乾燥性と、高度の昇華型捺染インク裏抜け防止性を両立することができる。
【0059】
微細粒子100質量部に対してポリビニルアルコールの配合量が1質量部未満では、ポリビニルアルコールによるバインダー効果が十分に発揮されず、インク受容層の剥離や傷が入りやすくなり、画像再現性を低下させる問題が生じる。
【0060】
微細粒子100質量部に対してポリビニルアルコールの配合量が200質量部を超えると、ポリビニルアルコールによる被膜形成のため、昇華型捺染インク乾燥性の低下が問題となる。
【0061】
好適に用いられる水溶性樹脂としてのカルボキシメチルセルロースとしては、特に限定されず、エーテル化度で0.5〜1.0の範囲のものが好ましい。
【0062】
水溶性樹脂として、エーテル化度で0.5〜1.0のカルボキシメチルセルロースは、好適に組合わせて使用されるポリビニルアルコール、特にケン化度が87〜89mol%程度で、重合度が約1000以下のポリビニルアルコールとの相溶性が良好であると共に、合成非晶質シリカの分散性、特に2種類以上の合成非晶質シリカ凝集体を組み合わせて使用する際における凹凸の形成能を阻害させることなく、昇華型捺染インクを用いた昇華型インクジェット捺染転写紙への印刷時の優れた昇華型捺染インク乾燥性と画像再現性、裏抜け防止性及び耐熱性を有するとともに、転写による被転写物の画像再現性や転写効率の点でも良好な特性を得ることができる。
【0063】
市販品としては、セロゲン7A(以上、第一工業製薬(株)製)等を使用することができる。
【0064】
好適には、ポリビニルアルコールとカルボキシメチルセルロースを前記範囲にて併用した水溶性樹脂を用いることによって、優れた昇華型捺染インクの乾燥性と、高度の昇華型捺染インク裏抜け防止性を両立することができる。
【0065】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙の好適な態様では、従来品とは異なり、昇華型捺染インク受容層が特異な凹凸の表面構造を呈している。従来品では図2に示すように、昇華型捺染インク受容層は顔料とバインダーがほぼ一定の厚みで基材表面を被覆するものであったが、本発明では、昇華型捺染インク受容層の表面には図1に示すように凹凸が形成されている。この凹凸は、微細粒子による凝集塊であることが好ましいが、特に、粒子径の異なる2種類の合成非晶質シリカ凝集体が凝集することによって得られる凝集塊により形成された凹凸であることがより好ましい。最も好ましくは、凝集塊により、好ましくは幅が10μm以上の凸部が多数形成され、このような凹凸を表面に有する昇華型捺染インク受容層が基材の表面を被覆することによって本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙が形成されている。
【0066】
この凹凸が存在するために基材表面の比表面積が増大するので、昇華型捺染インクを昇華型捺染インク受容層で瞬時に吸収、保持(乾燥)することが可能になり昇華型捺染インクの吸収乾燥性が向上する。更に、滲みが少なく、画像再現性に優れ、基材に昇華型捺染インクが含浸し難いため、寸法安定性と耐コックリング性にも優れたものとなる。これとともに、昇華型インクジェット捺染転写紙として比較的透気度が低いため当該熱が用紙の厚み方向に伝達しやすくなり、熱の損失が少なくなる。そのため、凝集塊に保持された昇華型捺染インクへの熱伝達速度が高くなり、かつ伝達熱量も多くなることから、転写効率が飛躍的に向上するものと考えられる。
【0067】
ここで、本発明で云う凹凸とは、微細粒子の凝集塊による昇華型捺染インク受容層表面の起伏のことを云い、その形成は昇華型捺染インク受容層を形成する塗工液の攪拌段階で水溶性樹脂に微細粒子を添加し、混合分散処理する事により得られるものである。混合分散時の物理的剪断力が強すぎると、微細粒子の均質な分散が生じ凹凸を形成し難くなるため、好適には分散処理を適宜調整し、塗工液中に微細粒子の凝集塊を形成させ、昇華型捺染インク受容層形成時に凹凸を形成させる。凹凸を形成するメカニズムは明確ではないが、水溶性樹脂が基材に含浸することで、水溶性樹脂中に分散された微細粒子の凝集塊が表出し、基材表面上に昇華型捺染インク受容層を形成すると共に、凝集塊による凹凸を形成する。
【0068】
凝集塊を形成する好適な条件としては、水溶性樹脂中に、予め水溶液に分散させた微細粒子を固形分濃度2〜25質量%になるように含有させ、分散時間を30分以内、好適には20分以内とする事で、30μm以下、好適には20μm以下の凝集塊を形成できる。更に好適には固形分濃度を3〜12質量%とすることが、凝集塊に均一な物理的剪断力を加え易く、均質な凝集塊が得られ、均質な昇華型捺染インク受容層の凹凸を形成させることができるので好ましい。前記条件をはずれると、微細又は過大な凝集塊の生成が生じ、均質な昇華型捺染インク受容層の凹凸を形成し難くなる。
【0069】
吸水度に関しては、JIS P 8140に準拠した前記昇華型捺染インク受容層の吸水度が15g/m以上であり、更に好適には20〜90g/mが好ましい。吸水度が15g/m未満であるとインク受容量が少なく、良好な吸収乾燥性や転写効率を達成することができない。また、吸水度に関係して、従来品はインク受容能力が10g/m程度であったが、微細粒子が合成非晶質シリカで且つ昇華型捺染インク受容層が微細粒子を20〜80質量%含有する系では、50g/m程度までインクを受容することが可能になる。転写効率を考えると20〜30g/mのインク受容能を有することが好ましい。
【0070】
凹凸の存在は後述のように分析走査型電子顕微鏡(日本電子データム(株)製JSM−6390A型)を用いて確認することができる。本発明者らの知見によると、凹凸を形成する凝集塊の凸部の幅が大きくなりすぎると、昇華型捺染インクの裏抜け防止性が低下する傾向があるので、30μm程度以下が好ましく、20μm程度以下がより好ましい。なお、この幅は無作為に選択した凝集塊60個の、個々の長短の幅からの平均値を実測し、最小値5個、最大値5個を除く50個の実測平均値を測定した。
【0071】
また、当該昇華型捺染インク受容層の表面粗さをレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製カラーレーザー顕微鏡 高解像度タイプVK−9700型)で測定すると、二乗平均粗さで3μm以上を満足することが好ましい。好ましくは4μm以上である。上限は21μm以下、あるいは20μm以下程度が好ましい。表面粗さが3μm未満と低すぎると昇華型捺染インクの乾燥性が十分でなく、21μmを超える過大な粗さの場合は、昇華型インクジェット捺染転写紙における画像再現性が低下すると共に、被転写物における画像再現性、転写効率が低下するほか本発明の効果を達成するのに不都合である。なお、従来品における二乗平均粗さは3μm未満である。
【0072】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙では昇華型捺染インク受容層の表面に凹凸が形成されているものであるが、昇華型捺染インク受容層同士の静摩擦係数としてJIS P 8147に準拠して0.20〜1.05、好適には0.30〜0.99、更に好適には、0.35〜0.95とすることが好ましい。静摩擦係数が0.20未満と低すぎると昇華型捺染インクの乾燥性が十分でなく、逆に、1.05を超えるほど高すぎると昇華型捺染インクの転写効率や裏抜け防止性が低下する傾向がある。なお、従来品における静摩擦係数は0.20未満である。
【0073】
昇華型捺染インク受容層を、主成分として水溶性樹脂と微細粒子にて構成し、昇華型捺染インク受容層同士の静摩擦係数としてJIS P 8147に準拠して0.20〜1.05になるように、昇華型捺染インク受容層の表面に凹凸を形成することで、更に、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、印刷時には昇華型捺染インクの吸収乾燥性と紙における画像再現性や作業性に優れているとともに、昇華捺染のための加温転写時に昇華型捺染インクが昇華型インクジェット捺染転写紙の裏側に裏抜けするのを防止する特性においても優れている。さらには、転写による被転写物の画像再現性や、転写効率の点においても優れた特性を得ることができる。
【0074】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、主として凹凸を形成する微細粒子による凝集塊に保持された昇華型捺染インクに転写時の熱が迅速に伝達することによって、昇華型捺染インクの転写効率を向上させるものであるが、基材中の空気は熱の伝達を阻害するものと考えられ、当該昇華型インクジェット捺染転写紙の透気度は低く調整したほうが好ましい。
【0075】
具体的には、JIS P 8117に準拠した透気度として、30,500秒以下が好ましく、30,000秒以下、更には25,000秒以下がより好ましい。しかし逆に低すぎると転写効率や昇華型捺染インクの裏抜け防止性が低下するので、80秒以上が好ましく、1,350秒以上、より好適には1,500秒以上がより好ましく、7,000秒以上がさらに好ましい。
【0076】
基材として透気度の高い基材を用いることが好ましいが、昇華型インクジェット捺染転写紙としての透気度が昇華型捺染インクへの加熱時の熱を伝える上で調整が必要であり、透気度をJIS P 8117に準拠した透気度として、30,500秒以下とし、熱による寸法安定性や昇華型捺染インクへの熱伝達を考慮して基材として紙を選択し、好適には片艶紙を選択し、昇華型捺染インク受容層における昇華型捺染インクの保持と昇華が適切に成される微細粒子を用い、好適には緻密な多孔性を形成する少なくとも粒子径の異なる2種類の凝集体を併用して形成される凝集塊を用い、更には、昇華型捺染インク受容層を前記凝集塊から成る凹凸で被覆することで、印刷時には昇華型捺染インクの吸収乾燥性と紙における画像再現性や作業性に優れているとともに、昇華捺染のための加温転写時に昇華型捺染インクが昇華型インクジェット捺染転写紙の裏側に裏抜けするのを防止する特性においても優れ、更には、転写による被転写物の画像再現性や、転写効率の点においても優れた昇華型インクジェット捺染転写紙を得ることができる。
【0077】
インク受容層の塗工量としては、3〜25g/mが好ましく、さらに6〜15g/mがより好ましい。3g/m未満では十分な昇華型インクの吸収容量が確保できず、転写画像の解像性が悪化し、ベタ画像部にムラが発生する傾向がある。インク受容層の塗工量が25g/mを超えると、相対的に表面強度が低下し、粉落ち等が発生して作業性を低下させる原因になる。
【0078】
昇華型捺染インク受容層の塗工にあたってその手法は特に限定されないが、本発明の効果を効率よく達成するには、水溶性樹脂の好適な例としてポリビニルアルコールとカルボキシメチルセルロースの組合せを選択し説明すると、まず、濃度が30質量%の合成非晶質シリカ粒子(特に粒子径の異なる2種類の合成非晶質シリカ)分散液とポリビニルアルコールとを予め混合しておき、次にカルボキシメチルセルロースを加えた後、5%濃度に調整した塗工液を、塗工量が乾燥質量で3〜25g/cmとなるように基材上に塗工する方法が好ましい。塗布方法としては特に限定されないが、例えば、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター等の公知の塗工機を用いて塗工することができる。その後、凹凸の調整又は静摩擦係数の調整のために、マシンカレンダーやソフトカレンダー等を用いて平坦化処理することも出来る。またカール等の補正を目的にバックコート層を設けることも可能である。
【実施例】
【0079】
以下に、インクジェット記録方法を用いて昇華型捺染インクにて昇華捺染型記録用紙に記録を行った場合の実施例を掲げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例で示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り質量部、及び質量%を示す。なお、配合において示す部数は、固形分の部数である。
【0080】
実施例1
フリーネス530ml(C.S.F.)の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)とフリーネス580ml(C.S.F.)の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を等質量配合し、助剤として、カチオン化デンプンを0.8%、内添サイズ剤を1.1%、アニオン変性ポリアクリルアマイドを0.3%、消サイズ剤としてポリオキシアルキレン脂肪酸エステル(星光PMC株式会社製、品番DF45)を0.10%添加して紙料を調製し、ヤンキードライヤーを備えた抄紙機で抄紙し、米坪100g/m、平滑度60秒の片艶紙を製造した。
【0081】
無機微粒子として、カオリン(エリエール商工社製、体積平均粒径8.0μm)を70部、非水溶性重合体として、SBRラテックス(住友A&L社製、型番:SN307)を30部使用し、固形分濃度45%の目止め塗工層塗料を調製した。この塗料を前記基材の艶面に乾燥塗工量が5g/mになるよう塗工して、目止め塗工層を形成した。 次いで、微細粒子として、平均粒子径が3.7μmの合成非晶質シリカであるシリカA(トクヤマ社製、型番:ファインシールX37B)を85部、平均粒子径が6.2μmの合成非晶質シリカであるシリカB(トクヤマ社製、型番:ファインシールX60)を15部、前記微細粒子100部に対して、水溶性樹脂としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下CMCと略す。) CMC−A(第一工業製薬社製、商品名:セロゲンPR、重合度220〜250、分子量47000〜54000)を200部、ポリビニルアルコール(以下PVAと略す。) PVA−A(クラレ社製、商品名:PVA−205、ケン化度87〜89mol%、重合度500)を25部使用し、固形分濃度6.6%の昇華型捺染インク受容層塗料を調製した。微細粒子の凝集塊を形成するため、65〜80℃の高温のCMC中に、20℃〜30℃の低温のシリカ分散スラリーを添加しシリカを凝集させ、ゲル化した混合物を得た。その後PVAを添加し、20〜45℃にて混合分散しシリカ凝集塊の大きさが15μmになるよう物理的剪断力を調整した。
【0082】
微細粒子の凝集塊を調整した塗液は、前記目止め塗工層上に乾燥塗工量が5g/mになるよう塗工し、昇華型捺染転写紙を得た。製造した昇華型捺染転写紙を、後述する評価基準により評価した。
【0083】
以下の実施例、比較例は、実施例1の条件を基本に、表1〜3に示すとおり、基材、目止め塗工層の非水溶性粒子及び無機微粒子、インク受容層の微細粒子、水溶性樹脂及び塗工量を変更して昇華型捺染転写紙を製造し、実施例1と同様に評価した。
【0084】
消サイズ剤としては、実施例1で使用したもののほか以下を使用した。
アルキル硫酸塩:(日光ケミカルズ社製、型番:NIKKOL SLS)
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩:(第一工業製薬社製、型番:ハイテノール12)
塩化アルキルトリメチルアンモニウム:(花王株式会社製、型番:エレクトロストリッパーQN)
多価アルコールの脂肪酸エステル:(花王株式会社製、型番:エキセパールPE−MO)
合成非晶質シリカとしては、実施例1で使用したもののほか以下を使用した。
シリカC(東ソー・シリカ社製、型番:ニップジェルAZ−204、平均粒子径が1.7μm)
シリカD(DSL.ジャパン(株)製、型番:カープレックスBS−312AJ、平均粒子径が4.3μm)
シリカF(DSL.ジャパン(株)製、型番:カープレックスBS−304N、平均粒子径が10.1μm)
シリカG(DSL.ジャパン(株)製、型番:カープレックスBS−303、平均粒子径が12.7μm)
実施例8では、平均粒径6.3μmの焼成クレーを使用した。
【0085】
カルボキシメチルセルロースナトリウムとしては、実施例1で使用したもののほか以下を使用した。
CMC−B(第一工業製薬社製、商品名:セロゲン7A、重合度120〜150、分子量27000〜33000)
CMC−C(第一工業製薬社製、商品名:セロゲン5A、重合度120以下、分子量27000以下)
CMC−D(第一工業製薬社製、商品名:セロゲンWS−A、重合度460〜500、分子量100000〜110000)
CMC−E(第一工業製薬社製、商品名:セロゲンBS−H、重合度500〜800、分子量180000〜190000)
ポリビニルアルコールとしては、実施例1で使用したもののほか以下を使用した。
PVA−B(クラレ社製、商品名:PVA210、ケン化度87〜89mol%、重合度1000)
PVA−C(クラレ社製、商品名:PVA203、ケン化度87〜89mol%、重合度300)
PVA−D(クラレ社製、商品名:PVA110、ケン化度98〜99mol%、重合度1000)
PVA−E(クラレ社製、商品名:PVA120、ケン化度98〜99mol%、重合度2000)
実施例16では目止め塗工層の非水溶性樹脂としてNBRラテックス(日本ゼオン(株)社製、型番:NIPOL LX 531B)を使用した。
【0086】
比較例1〜4では、目止め塗工層では非水溶性樹脂ではなく水溶性樹脂である酸化澱粉又はポリビニルアルコールを使用した。
【0087】
<測定・評価方法>
昇華型捺染インクを用いたインクジェット記録評価には、ミマキ株式会社製、JV4型インクジェットプリンタを用いて、ISO300にて規定されているインクジェット記録評価用の画像を、ミマキ製の昇華型インク(SPC−370シリーズ)を用いて行った。
【0088】
被転写物には、ポリエステル布素材を使用した。
【0089】
(1)シリカ凝集塊の有無:走査型電子顕微鏡(日本電子データム社製JSM−6390A型)を用い、シリカ凝集隗の有無を確認した。
○:凝集隗を確認でき、凝集隗と凝集隗との間に5μm以上の空隙が確認できる。
△:凝集隗を確認できるが、凝集隗と凝集隗の間に5μm以上の空隙が確認できない。
×:凝集隗が確認できない。
【0090】
(2)塗工液の塗工性:シリカ凝集隗を塗工する際には、凝集隗を起点としたストリーク欠陥の発生と樹脂の中の泡による未塗工欠損による塗工性を考慮する必要がある。
(i)ストリーク欠陥:基材に塗工液をウェブし、定量塗工する目的でブレードにて余除塗工液を掻き落す際に、異物またはシリカ凝集隗を起点に未塗工部が発生する欠陥の発生を、塗工機に設置した反射型欠陥検出器による欠陥検出個数で決定した。
◎:流れ10,000mに0〜1個
○:流れ10,000mに2〜4個
△:流れ10,000mに5〜7個
×:流れ10,000mに8個以上
(ii)スクラッチ欠陥:基材に塗工液をウェブし、定量塗工する目的でブレードにて余除塗工液を掻き落す際に、樹脂の破泡等による未塗工欠損の発生の数を塗工機で目視確認した数で決定した。
◎:流れ5,000mに1回
○:流れ5,000mに2回
△:流れ5,000mに3〜4回
×:流れ5,000mに5回以上
【0091】
(3)瞬間吸液性:試料ホルダーに両面テープを気泡が入らないように貼り、両面テープの上に試料を張り合わせた。動的液体浸透性測定装置(ドイツEMCO社製 DPM33およびDPM3−2−T)試料ホルダーをセットし、測定を開始し、超音波透過強度データを得た。超音波透過強度の相対値は、受信信号の最小値を100%になるように次式より算出した。
超音波透過強度の相対値(%)=超音波受信信号の最小値/各測定時間における超音波受信信号×100 (超音波受信信号は負の値で。)
超音波透過強度の相対値の経時変化を図4のようにグラフに表示し、最小値のピークが現れた時間を表4に示す。
【0092】
(4)接触角:JIS R 3257に準拠したぬれ性試験方法の静滴法により、昇華型捺染インク受容層の表面の接触角を測定した。
【0093】
(5)凹凸の有無及び凸部の幅:製造した各転写紙のインク受容層表面に対して、走査型電子顕微鏡(日本電子データム社製JSM−6390A型)を用い、凹凸の有無を観察し、凹凸がある場合については、任意の凝集塊60個の幅を実測し、個々の長短の幅からの平均値を実測し、最小値5個、最大値5個を除く50個の実測平均値を測定した。
【0094】
(6)インク受容層の表面平均粗さ:インク受容層の表面粗さをレーザー顕微鏡(キーエンス社製カラーレーザー顕微鏡 VK−9700型)を用い、2乗平均粗さ(μm)として測定した。
【0095】
(7)インク乾燥性:製造した各転写紙にインクジェットプリンタで黒ベタ印字した直後に印字面をテッシュペーパーにて擦り、拭取った際に紙面上のインクの伸びを目視で確認し、下記の基準にて5段階評価した。3段階以上の評価が実用レベルである。
5:乾燥が早い。テッシュペーパーによる擦り拭取りした紙面は、インクの伸びがない。
4:乾燥が早い。テッシュペーパーによる擦り拭取りした紙面は、インクの伸びが殆どない。
3:乾燥が若干遅いが、実用上問題ないレベル。テッシュペーパーによる擦り拭取りした紙面は、インクの伸びが少しある。
2:乾燥が遅く、テッシュペーパーによる擦り拭取りした紙面は、インクの伸びがある。
1:乾燥が遅く、装置汚れや印字部の汚れにつながり、使用不可。テッシュペーパーによる擦り拭取りした紙面は、インクの伸びが長い。
【0096】
(8)画像再現性:目視にて、ISO300に規定されるデジタル画像の転写紙紙面への画像再現性を下記の基準にて5段階評価した。3段階以上の評価が実用レベルである。
5:原版と差異の無い画像再現性である。
4:画像再現性が良好。
3:画像再現性がやや劣るが使用可能。
2:画像再現性が劣り、使用不可能。
1:画像再現性が悪く、使用不可。
【0097】
(9)寸法安定性:10×150mmの各転写紙について、自動式紙伸縮計(熊谷理機工業株式会社製)を用いて温度による伸びを測定した。測定は、20℃におけるサンプルの長さを基準にして60℃で30分保持後の伸びを測定し、20℃におけるサンプルの長さ(基準長さ)に対する伸びを%表示した。下記の基準にて5段階評価した。3段階以上の評価が実用レベルである。
5:換算値が30未満
4:換算値が30以上〜35未満
3:35以上〜40未満
2:40以上〜50未満
1:50以上
【0098】
(10)インクの裏抜け(昇華性染料裏抜け防止性):製造した各転写紙に昇華性インクを印字し、熱源より熱を加えた際に、製造した転写紙のインク受容層面の反対面へのインクの裏抜けを目視で判定し、裏抜け防止性を下記の基準にて5段階評価した。3段階以上の評価が実用レベルである。
5:昇華性インクの裏抜けが全くない。
4:僅かに昇華性インクの裏抜けが殆どない。
3:僅かに昇華性インクの裏抜けがあるが実用上全く問題がない。
2:昇華性インクの裏抜けが認められ、熱源が少し汚れる。
1:昇華性染料の裏抜けが多く認められ、熱源装置を激しく汚す。
【0099】
(11)耐熱性:製造した各転写紙に昇華性インクを印字し、温度条件を変えた熱源より熱を加えた際に、製造した転写紙のインク受容層面の劣化が始まる温度を測定した。210℃以上が実用レベルである。
【0100】
(12)透気度:JIS−P−8117 「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験方法」に準拠して測定した。
【0101】
(13)ステキヒトサイズ度:JIS−P−8122(2004) 「紙及び板紙−サイズ度試験方法−ステキヒト法」に準拠して測定した。
【0102】
(14)転写効率:(i)解像性の評価、(ii)ベタ画像部の評価(ベタ画像部の画像濃度と均一性)に分けて目視で判定して昇華捺染型インクジェット記録の転写効率を下記の基準にて5段階評価した。3段階以上の評価が実用レベルである。
(i)解像性
5:解像性良好。印字面にゆがみなどの現象が認められず、印字原稿に匹敵する印字調子の再現性がある。
4:解像性良好。印字面にゆがみなどの現象が認められないが、印字原稿に匹敵する印字調子の再現性が若干劣る。
3:解像性がやや劣るが、実用上全く問題が無い。印字面にゆがみなどの現象が認められず、印字原稿に匹敵する印字調子の再現性がやや劣るが被転写物の使用上問題が起こらない。
2:解像性がやや悪いが、条件によって使用可能。印字面にゆがみなどの現象が僅かに認められ、印字原稿に匹敵する印字調子の再現性がやや劣る。
1:解像性が悪く、使用不可。印字面にゆがみなどの現象が認められ、印字原稿に匹敵する印字調子の再現性がない。
(ii)ベタ画像部
5:画像濃度が高く、ベタ画像部にムラがない。
4:画像濃度が高く、ベタ画像部に若干ムラが認められる。
3:画像濃度やや高く、ベタ画像部にムラが認められるが実用上全く問題がない。
2:画像濃度がやや低く、ベタ画像部にムラが認められる。
1:画像濃度が低く、ベタ画像部に多くのムラが認められる。
【0103】
以上により得られた結果を表3〜4に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】昇華型捺染インク受容層表面に凹凸が形成されている場合(本発明の好適な態様)を示す電顕写真
【図2】昇華型捺染インク受容層表面に凹凸が形成されていない場合(従来品:市販品2)を示す電顕写真
【図3】昇華型捺染インク受容層表面に凹凸が形成されていない場合(従来品:市販品3)を示す電顕写真
【図4】実施例1並びに市販品1及び2において超音波透過強度の相対値の時間変化を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と昇華型捺染インク受容層とを有する昇華型インクジェット捺染転写紙であって、
前記基材上に目止め塗工層が設けられ、前記目止め塗工層上に前記昇華型捺染インク受容層が設けられており、
前記昇華型捺染インク受容層は、水溶性樹脂と微細粒子を含有し、
前記目止め塗工層は、非水溶性樹脂と無機微粒子を含有し、
JIS P 8122に準拠したステキヒトサイズが60秒〜120秒であることを特徴とする昇華型インクジェット捺染転写紙。
【請求項2】
前記基材は、片面が艶面であるクラフト紙であり、前記目止め塗工層は、前記艶面上に設けられ、
前記昇華型捺染インク受容層は、前記微細粒子を20〜80質量%含有することを特徴とする請求項1記載の昇華型インクジェット捺染転写紙。
【請求項3】
前記目止め塗工層は、体積平均粒径が1.0〜25.0μmの無機微粒子を目止め塗工層固形分のうち60〜90質量%と、前記非水溶性樹脂として合成ゴムラテックスを含有する請求項1又は2記載の昇華型インクジェット捺染転写紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−110973(P2010−110973A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284781(P2008−284781)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】