説明

昇華型熱転写シート用染料インキ、及び、昇華型熱転写シート

【課題】溶剤溶解性が低い染料を含有するにもかかわらず染料含有量が高く、熱転写シートの染料層として適用可能な染料インキ及び高濃度であり耐光性が良い印画物を得ることができる熱転写シートを提供する。
【解決手段】染料、バインダー樹脂及び溶剤を含む昇華型熱転写シート用染料インキであって、前記染料は、少なくともDisperse Yellow 160を含有する昇華型熱転写シート用染料インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華型熱転写シート用染料インキ、及び、昇華型熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写を利用した画像の形成方法として、記録材としての熱拡散型染料(昇華型染料)からなる染料層をプラスチックフィルム等の基材上に担持させた熱拡散型熱転写シートと、紙やプラスチックフィルム等の別の基材上に染料の受容層を設けた熱転写受像シートとを互いに重ね合わせてフルカラー画像を形成する熱拡散型転写方式(昇華型熱転写方式)が知られている。
【0003】
熱拡散型熱転写シートにおける染料層は、染料インキを塗工することにより形成される。この染料インキは、一般に、染料の結晶化による塗工面の品質悪化を防止するため、染料及びバインダー樹脂をトルエン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させてインキ化している。このインキ化において、溶剤に対する溶解性が充分でない染料は、インキ中での染料含有量を高くすることができず、実用的な濃度を有するインキを形成することができない問題があった。また、溶剤に対する溶解性が充分な染料であっても、バインダー樹脂に対する溶解性が充分でない場合、乾燥塗膜中で染料の結晶生成等によるブリードアウトが生じ、結果として印画時に未印画部の地肌汚れを生じたり、リボンの背面側への裏写り及びオーバーコート層へのキックバックが生じる等の問題が発生し、染料インキに使用できなかった。
【0004】
染料の溶解度を向上させうる方法として、構造の類似した複数種の染料を混合する手法が知られている。
例えば、特許文献1の実施例1には、染料が溶剤に対して、3.8%の割合で溶解している染料インキが示されているが、用いられている染料のトルエン/メチルエチルケトン=1/1(質量比)混合溶剤に対する20℃での溶解性は、MS−RED−G(三井東圧製、ディスパースレッド60)がそれぞれ1.0%、0.9%であり、マクロレックスバイオレットR(バイエル製、ディスパースバイオレット26)ではそれぞれ3.0%、2.7%であった。特許文献1の実施例1で示されている染料インキは、ディスパースレッド60が溶剤に対して2.15%、ディスパースバイオレット26は1.61%溶解していることになる。
ディスパースレッド60は、染料自体の溶解度を上回る量でインキ中に存在できているが、これは溶剤が混合溶剤であることによる染料の溶解性の向上、構造の異なる複数の染料を同時に存在させたことによる溶解性の向上、バインダー樹脂の存在によりインキ粘度が調整されているため、染料が沈殿しにくくなっていること等の理由が挙げられる。この染料インキは、溶剤に対する溶解性に対して約2倍程度の染料を含有させることができているものの、この方法を使った場合でも、実際に得られる溶解度はたかだか元の2倍程度である。また、この染料インキに使用する染料は、トルエン等の溶剤に対する20℃の温度下における溶解性が1.0質量%程度と実用できる範囲内にあり、更に樹脂バインダーに対する溶解性も実用に耐え得る範囲内にある。
しかしながら、この染料インキでは、使用できる染料の選択範囲は限定されており、所望の色相を有し、高濃度且つ高耐久性である印画物を得ることができないといった場合がある。溶剤に対する溶解性が実用困難な範囲内にある染料を材料とする実用可能な染料インキは、未だ開示されていない。
【特許文献1】特開平9−30138号公報(実施例1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、溶剤溶解性が低い染料を含有するにもかかわらず染料含有量が高く、熱転写シートの染料層として適用可能な染料インキ及び高濃度であり耐光性が良い印画物を得ることができる熱転写シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、染料、バインダー樹脂及び溶剤を含む昇華型熱転写シート用染料インキであって、上記染料は、少なくともDisperse Yellow 160を含有することを特徴とする昇華型熱転写シート用染料インキである。
【0007】
本発明はまた、基材シートと、上記基材シート上に積層された染料層とを有する昇華型熱転写シートであって、上記染料層は、上述の昇華型熱転写シート用染料インキを用いて形成されたことを特徴とする昇華型熱転写シートでもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明は、染料、バインダー樹脂及び溶剤を含む昇華型熱転写シート用染料インキ(以下、単に「染料インキ」ともいう)である。
本発明の染料インキにおいて、上記染料は、少なくともDisperse Yellow 160を含有する。
【0009】
上記Disperse Yellow 160は、下記化学式(1)で表される構造を有する染料であり、上記染料として該Disperse Yellow 160を含有することで、本発明の染料インキは、溶剤溶解性が低い染料を含有するにもかかわらず染料含有量が高く、熱転写シートの染料層として適用可能な染料インキを得ることができる。
【0010】
【化1】

【0011】
上記化学式(1)で表される構造を有するDisperse Yellow 160は、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等、染料インキに汎用される有機溶剤に低溶解性であるにもかかわらず、インキ中での染料含有量を高くすることができる。そのため、本発明の染料インキでは、高い染料/樹脂比の染料担持層を形成することができる。よって、上記染料を含む染料インキからなる熱転写シートは、転写時の感度が良好であり、発色濃度にも優れるものとなる。
【0012】
上記Disperse Yellow 160は、トルエン中の吸光係数が5.1万mL/mol・cmであり、通常1万〜10万mL/mol・cmが望ましいことから考え発色性の点で十分な性能を持っている。
本明細書において、上記吸光係数は、染料をトルエン中0.0002質量%の溶液を作製し、島津製作所社製UV−3100PCにて最大吸収波長λmax時の吸光係数を測定した値である。
【0013】
本発明の染料インキは、上記染料として上記化学式(1)で表される構造を有するDisperse Yellow 160をバインダー樹脂及び溶剤中に分散させてなるものであり、また、上記染料として、上記化学式(1)で表されるDisperse Yellow 160を上記溶剤に対する溶解度を超えた量で含有することができる。
すなわち、本発明の染料インキは、上記染料を溶解度の許す限り溶剤に溶解させ、更に、上記染料をバインダー樹脂及び溶剤に分散させてなるものである。
上記染料は、溶剤に対して低溶解性であるが、バインダー樹脂及び溶剤中に良好に分散されているため、本発明の染料インキは、所望の濃度、色相及び耐久性を有した印画物を形成するのに充分な量の染料を含有することが可能である。
【0014】
本発明の染料インキは、上記染料の含有量をa(質量%)とし、上記染料の上記溶剤に対する20℃での溶解度をs(質量%)としたときに、aとsとが、式a>sで表される関係を満たすものであることが好ましい。
すなわち、本発明の染料インキにおいては、上記染料が溶剤に溶解する限度以上の量で存在することが可能であるし、バインダー樹脂の溶剤溶解液に溶解する限度を超えた量で存在することも可能である。
【0015】
なお、本明細書において、「分散」とは、染料インキを20〜25℃の温度下に168時間(7日間)静置後、染料粒子の沈降を目視で確認できない状態であることを意味する。
上記染料に関し、溶剤に溶解する限度とは、染料が溶剤100g中に20℃の温度下で最大限に溶解する場合における該染料の質量を意味し、バインダー樹脂の溶剤溶解液に溶解する限度とは、染料がバインダー樹脂1質量%を溶解させた溶剤100g中に20℃の温度下で染料が最大限に溶解する場合における該染料の質量を意味する。
【0016】
本発明の染料インキにおいて、上記染料の含有量a(質量%)と上記溶解度s(質量%)とが、上記式a>sで表される関係を満たすものである場合、上記染料の含有量a(質量%)は、1〜15質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、転写感度不足のおそれがあり、15質量%を超えると、インキを塗布するのに適切な粘度範囲を外れるおそれがある。上記含有量aは、より好ましい下限は2質量%、より好ましい上限は10質量%である。
【0017】
また、上記染料は、粒度分布が0.05μm≦D50粒径≦1.0μm、及び、0.1μm≦D90粒径≦5.0μmであることが好ましい。
【0018】
上記D50粒径、D90粒径は、固形分濃度8.0質量%(このうち染料濃度4.5質量%、バインダー樹脂濃度3.5質量%)に調整した染料インキについて、大塚電子社製濃厚系粒子アナライザーFPAR−1000を用いて測定して得られる粒度分布において、累積体積50%となる粒径をD50粒径とし、累積体積90%となる粒径をD90粒径として算出した数値である。D50粒径は平均粒径を、D90粒径は粗大粒子の存在状態を理解するための指標である。
(測定条件)
・測定原理:動的光散乱法
・光源:半導体レーザ
・測定溶媒:バインダー樹脂5質量%溶液
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5、積水化学工業社製)をトルエン、メチルエチルケトン混合溶媒(質量比1:1)で溶液化したもの。
・溶媒屈折率:1.4318
・溶媒粘度:115.1839cp
【0019】
D50粒径が0.05μm未満であると染料が溶解している状態と同じ性質を有してしまい、その結果、本発明の染料インキを用いてなる熱転写シートの地肌汚れ等が起こる場合がある。D50粒径が1.0μmを超えると本発明の染料インキを用いてなる熱転写シートの転写感度不足が起こり所望の濃度が得られないことがある。
上記D50粒径の下限は、0.1μmであることがより好ましい。また、上記D50粒径の上限は0.8μmであることがより好ましい。
【0020】
D90粒径が0.1μm未満であるとD50粒径同様、染料が溶解している状態と同じ性能を有することがある。D90粒径が5.0μmを超えると染料をバインドしきれないことがあり、熱転写シートの地汚れ(サーマルヘッドで加熱しなくても着色する現象)が生じたり、熱転写シートを高温保存すると染料が析出してしまい、品質が劣ってしまうことがある。上記D90粒径の下限は0.1μmであることがより好ましく、上限は3.0μmであることがより好ましい。
【0021】
本発明の染料インキは、バインダー樹脂を含む。上記バインダー樹脂は、上記染料を担持するものである。
上記バインダー樹脂としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノキシ樹脂;等が挙げられる。
【0022】
上記樹脂バインダーとしては、更に、離型性グラフトコポリマーも挙げられる。上記離型性グラフトコポリマーは、離型剤として、上記樹脂バインダーとともに配合することもできる。
上記離型性グラフトコポリマーは、ポリシロキサンセグメント、フッ化炭素セグメント、フッ化炭化水素セグメント及び長鎖アルキルセグメントから選択された少なくとも1種の離型性セグメントを、上述の樹脂バインダーを構成するポリマー主鎖にグラフト重合させてなるものである。
上記離型性グラフトコポリマーとしては、なかでも、ポリビニルアセタールからなる主鎖にポリシロキサンセグメントをグラフトさせて得られるグラフトコポリマーが好ましい。
【0023】
本発明の染料インキは、溶剤を含む。
上記溶剤としては特に限定されず、染料インキの材料として従来公知のものが挙げられ、例えば、アセトン、メタノール、水、メチルエチルケトン、トルエン、エタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノン、酢酸エチル、これらの混合溶剤等が挙げられる。
【0024】
上記溶剤は、本発明の染料インキが塗工中に蒸発して粘度アップするのを防止することができるといった塗工適性の点で、沸点が低い溶剤と沸点がやや高い溶剤との混合溶剤を使用することが好ましい。
また、上記溶剤は、上記バインダー樹脂を溶解するものが好ましく、該バインダー樹脂を、20℃において該溶剤の3質量%に相当する量以上溶解できるものが特に好ましい。バインダー樹脂を溶解する溶剤を使用することにより、インキ粘度を調節することが可能となり染料の析出をおきにくくすることができる。
上記バインダー樹脂の溶解度は、上記範囲内であれば20℃において実用上該溶剤の50質量%に相当する量程度以下であってもよい。
上記溶剤としては、トルエン、メチルエチルケトン、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤がより好ましい。
【0025】
本発明の染料インキは、上記染料、バインダー樹脂及び溶剤に加え、更に、従来公知の各種添加剤を含有していてもよい。
上記添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、ポリエチレンワックス、有機微粒子、無機微粒子、染料の分散性を安定させる為に添加する分散剤等が挙げられる。
上記分散剤としては、例えば、常温液体の界面活性剤や常温固体の高分子界面活性剤等が挙げられる。
本発明の染料インキは、上記分散剤を0.02〜10質量%の量で含有するものであってもよい。
【0026】
本発明の染料インキは、上述した染料とバインダー樹脂との合計量、すなわち固形分が質量基準で2〜30質量%程度であることが好ましい。
上記固形分の好ましい含有量は、使用するコーティング方式により任意に選定できる。例えば、グラビアコーティングではインキを塗布するにあたって適した粘度範囲とする点で、固形分としては10質量%前後が好適である。よって、その場合の染料含有量は1〜10質量%となる。
【0027】
本発明の染料インキは、例えば、ペイントシェーカー、プロペラ型攪拌機、ディゾルバー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、2本ロールミル、3本ロールミル、超音波分散機、ニーダー、ラインミキサー、2軸押出機等を用いる従来公知の製造方法により製造することができる。
【0028】
本発明の染料インキを製造する1つの手法として、ビーズミル、ボールミルを用いる場合、用いるビーズ、ボールとしては、ガラス、セラミック、スチール、ジルコニア等が挙げられ、なかでもジルコニアビーズは特に硬度、耐磨耗性及び粒径の点から好適である。
ビーズ径としては0.05〜2.0mmのものが好ましく、特に染料の初期粒径に応じてビーズ径を選定すればよい。
【0029】
本発明の染料インキを製造する別の1つの手法として、高シェアレートで染料/バインダー樹脂の塊を混練し、それに溶剤を加えペイントシェーカーにて溶解・分散させる手法がある。
例えば、アイメックス(株)製 ウルトラビスコミル UVM−2を用いてジルコニアビーズ(平均直径0.3mm)、回転数1000rpmで10時間分散処理した染料インキと、関西ロール(株)製 2本ロールミルを用いてロール温度20℃、ロール回転数を前ロール20rpm、後ロール24rpmの条件にて染料:バインダー樹脂:溶剤=3:3:4の割合で混練し、それに溶剤を加えペイントシェーカーにて溶解・分散させることにより調製できる。
【0030】
上記2つの手法で作製した染料インキの粒度分布は、両者とも上記粒度分布測定において所望の染料粒径範囲が達成されることが確認できている。
【0031】
従来、溶剤への溶解度が1質量%未満である等、溶剤に対する溶解性が低い染料を含有する染料インキ、及び、そのような染料インキを乾燥固化させた染料層を持った熱転写シートは実用化されていなかった。これに対し、本発明の染料インキは、上述のDisperse Yellow 160を含有する染料を選択することにより、溶剤溶解性が低い染料を熱転写シートにおける染料層の材料として実用的なレベルで含有することができる。
ゆえに、本発明の染料インキは、熱転写シートにおける染料層の材料として使用することで、得られた熱転写シートは、塗工面のムラ等がなく、高濃度で優れた品質の印画物を形成することができる。
【0032】
本発明の染料インキを用いてなる昇華型熱転写シートも本発明の一つである。
すなわち、本発明の昇華型熱転写シート(以下、本発明の熱転写シートともいう)は、基材シートと、上記基材シート上に積層された染料層とを有する昇華型熱転写シートであって、上記染料層は、上述の昇華型熱転写シート用染料インキからなることを特徴とするものである。
【0033】
上記基材シートとしては、従来公知のある程度の耐熱性と強度とを有するものであれば、いずれのものでもよい。
上記基材シートとしては、例えば、グラシン紙、コンデンサー紙、パラフィン紙等の紙類;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルホン等の耐熱性の高いポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエチレンの誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、アイオノマー等のプラスチック等が挙げられる。
上記基材シートとしてのプラスチックは、延伸フィルムであってもよいし、未延伸フィルムであってもよい。
本発明における基材シートは、上述の紙類、プラスチック等を積層したものであってもよい。
本発明の熱転写シートにおいて、基材シートの厚さは、強度、耐熱性等が適切になるように材料に応じて適宜選択することができるが、通常は1〜100μm程度が好ましい。
【0034】
本発明の熱転写シートにおける染料層は、上述した本発明の昇華型熱転写シート用染料インキから得られるものである。
本発明の熱転写シートは、上述の本発明の染料インキから得られる染料層を1種のみ有するものであってもよいし、上記染料層を2種有するものであってもよい。
更に、本発明の熱転写シートは、染料層として、上述の本発明の染料インキから得られる染料層を少なくとも1つ有するものであれば、他の種類の染料インキから形成された染料層を有するものであってもよい。
【0035】
本発明の熱転写シートは、更に、上述の染料層を形成する面と反対側の基材シート面上に、耐熱滑性層を設けてなるものであってもよい。
上記耐熱滑性層は、ステッキングや印画しわ等、熱転写時にサーマルヘッドの熱が原因で生じる問題を防止するために設けるものである。
【0036】
上記耐熱滑性層は、主に耐熱性樹脂からなるものである。
上記耐熱性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0037】
上記耐熱滑性層は、耐熱性樹脂に加え、滑り性付与剤、架橋剤、離型剤、有機粉末、無機粉末等の添加剤を配合してなるものであってもよい。
【0038】
本発明の熱転写シートは、例えば、本発明の染料インキを基材シートの一方の面に塗工し乾燥して染料層を形成することで製造することができる。また、上記耐熱滑性層を有する本発明の熱転写シートは、例えば、(1)基材の一方の面に、耐熱滑性層塗工液を塗工し、乾燥することにより耐熱滑性層を形成し、(2)得られた耐熱滑性層を有する基材シートに対し、該耐熱滑性層と反対側の面に、上記染料インキを塗工し乾燥して染料層を形成することで製造することができる。
【0039】
上記耐熱滑性層は、通常、上述の耐熱性樹脂、並びに、所望により添加する上記滑り性付与剤及び添加剤を適当な溶剤中に加えて、各成分を溶解又は分散させて耐熱滑性層塗工液を調製し、その後、該耐熱滑性層塗工液を基材の上に塗工し、乾燥させて形成することができる。
上記耐熱滑性層塗工液の塗工法としては、例えば、ワイヤーバーコーティング、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等が挙げられるが、なかでもグラビアコーティングが好ましい。
上記耐熱滑性層塗工液は、乾燥塗布量が好ましくは0.1〜3g/m、より好ましくは1.5g/m以下となるよう塗布すればよい。
【0040】
上記染料層は、上述の本発明の昇華型熱転写用染料インキを基材シート上に塗工し、乾燥させて形成することができる。
上記染料層の塗工法としては、例えば、ワイヤーバーコーティング、グラビア印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等が挙げられるが、なかでもグラビアコーティングが好ましい。
上記染料インキは、乾燥塗布量が好ましくは0.2〜3g/m程度、より好ましくは0.4〜1.0g/m程度となるよう塗布すればよい。
上記乾燥は、不充分であると、地汚れや巻取りにした際に染料インキが裏移りし、更にその裏移りした染料インキが巻き返した際に異なる色相である染料層に再移転する、いわゆるキックバックが生じるといった問題がある。
上記乾燥は、上記問題の発生しない範囲で任意に選択するとよく、60〜120℃の温度にて1秒〜5分程度行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の染料インキは、上記構成からなるものであるので、溶剤溶解性の低い染料であるにもかかわらず、熱転写シートにおける染料層の材料として、染料濃度を実用的なレベルとすることができる。従って、本発明の染料インキを染料層の材料として使用して得られる熱転写シートは、塗工面のムラ等がなく、高濃度で耐光性等に優れた印画物を形成することができる。
本発明の熱転写シートは、上記構成からなるものであるので、塗工面のムラ等がなく、高濃度で優れた品質の印画物を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、文中、部又は%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0043】
(実施例1)
以下の手順に従って、染料インキ及び熱転写シートを作製した。
(染料インキの作製)
200mLカップサイズのガラス瓶に、下記量の染料、バインダー樹脂及び溶剤、更に平均粒径0.3mmのジルコニアビーズを約250部投入し、ペイントシェーカー(浅田鉄工(株)製)で3時間染料を分散させた。
<染料インキ組成>
Disperse Yellow 160(有本化学工業(株)製Plast Yellow 8050) 4.5部
トルエン/MEK=1/1 92部
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5、積水化学工業社製) 3.5部
【0044】
(熱転写シートの作製)
基材シートとして、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム〔PET〕上に、上記染料インキをグラビアコーティングにより、乾燥塗布量が0.6g/mになるように塗布し、80℃で2分乾燥して染料層を形成し、熱転写シートを作製した。
なお、上記基材シートの他方の面に、予め下記組成の耐熱滑性層塗工液をワイヤーバーにより、乾燥塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥して、耐熱滑性層を形成しておいた。
【0045】
<耐熱滑性層塗工液組成>
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX−1、積水化学工業社製) 13.6部
ポリイソシアネート硬化剤(タケネートD218、武田薬品工業社製) 0.6部
リン酸エステル(プライサーフA208S、第一工業製薬社製) 0.8部
メチルエチルケトン 42.5部
トルエン 42.5部
【0046】
(比較例1)
染料インキにおいて、染料を下記構造(化合物1)のキノフタロン系染料に代えた以外は、実施例1と同様に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の熱転写シートを作製した。
【0047】
【化2】

【0048】
(比較例2)
染料インキにおいて、染料をDisperse Yellow 201(DY201)に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の熱転写シートを作製した。
【0049】
(比較例3)
染料インキにおいて、染料をSolvent Yellow 93(SY93)に代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の熱転写シートを作製した。
【0050】
(評価)
各実施例及び比較例で作製した染料インキ及び熱転写シートについて、以下の評価を行った。
【0051】
<染料溶解性>
トルエン/メチルエチルケトン=1/1(質量比)に各染料を1wt/v%となるよう添加し、50℃にて加熱攪拌した。続いて、20℃にて60時間放置した後、目視にて染料の溶解性を判断した。結果を表1に示す。
【0052】
<染料溶解度>
メチルエチルケトン/トルエン=1/1の混合溶剤中に、20℃の温度下で5質量%の染料を含む染料溶液20gを作製後40℃で2時間攪拌し、72時間放置した。その後、溶液の上積み部分を5g採取して直径185mmのフィルターペーパー(東洋濾紙(株)製)でろ過し、得られたろ液を60℃、5時間で乾燥させることにより溶剤を揮発させた後、残った染料の量から溶解度を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
<粒度分布測定>
大塚電子社製濃厚系粒子アナライザーFPAR−1000を用いて測定した。なお、測定用の染料インキは、実施例及び比較例で作製したものである。結果を表1に示す。
【0054】
<濃度、色相変化>
OLYMPUS社製P−400プリンター専用のA4サイズスタンダードペーパーを被転写体として用いた。各熱転写シートの染料層と上記被転写体の染料受容面とを対向させて重ね合わせ、熱転写シートの裏面からサーマルヘッドを用いて熱転写記録を行い、印画エネルギーが等間隔となるイエローの階調画像を形成した。また、画像形成後上記P−400プリンター専用リボンのオーバーコートを熱転写した。
(印字条件)
・サーマルヘッド:F3598(東芝ホクト電子株式会社製)
・発熱体平均抵抗値:5176(Ω)
・主走査方向印字密度:300dpi
・副走査方向印字密度:300dpi
・印字電力:0.12(W/dot)
・1ライン周期:2(msec.)
・パルスDuty:85%
・印字開始温度:35.5(℃)
【0055】
(測色条件)
・測色器:分光測定器SpectroLino(Gretag Macbeth社製)
・光源:D65
・視野角:2°
・フィルター:ANSI Status A
【0056】
得られたイエロー画像をキセノンウェザオメター(アトラス社製、Ci4000:ブラックパネル温度50℃、フィルター:Sタイプボロシリイケイト、試験機内40℃50%、照射制御340nmの紫外線を0.35w/mに固定)にて96時間照射を行い、照射前後の濃度変化(濃度残存率(%)=試験後濃度/初期濃度×100)および色相変化(ΔE*ab=((照射後L*−照射前L*)+(照射後a*−照射前a*)+(照射後b*−照射前b*)1/2;(式中、L*、a*及びb*は、CIE1976L*a*b*表色系に基づくものであり、L*は明度を、a*及びb*は、知覚色度指数を表す。)を確認した。なお、表2に初期濃度と濃度残存率との関係を示し、図1に初期濃度と濃度残存率との関係を示すグラフを示す。また、表3に初期濃度と色相変化との関係を示し、図2に初期濃度と色相変化との関係を示すグラフを示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表1〜3より、実施例は、耐光性及び濃度共に優れていた。一方、比較例1は耐光性は良好であるものの、最高濃度が低く、比較例2は最高濃度は良好であるものの耐光性に劣り、比較例3は濃度、耐光性共に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の染料インキは、上記構成からなるものであるので、溶剤溶解性の低い染料であるにもかかわらず、熱転写シートにおける染料層の材料として染料濃度を実用的なレベルとすることができる。従って、本発明の染料インキは、熱転写シートにおける染料層の材料として使用することで、得られる熱転写シートは、塗工面のムラ等がなく、高濃度で耐光性等に優れた印画物を形成することができる。
本発明の熱転写シートは、上記構成からなるものであるので、塗工面のムラ等がなく、高濃度で優れた品質の印画物を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、初期濃度と濃度残存率との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、初期濃度と色相変化との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料、バインダー樹脂及び溶剤を含む昇華型熱転写シート用染料インキであって、前記染料は、少なくともDisperse Yellow 160を含有することを特徴とする昇華型熱転写シート用染料インキ。
【請求項2】
基材シートと、前記基材シート上に積層された染料層とを有する昇華型熱転写シートであって、前記染料層は、請求項1に記載の昇華型熱転写シート用染料インキを用いて形成されたことを特徴とする昇華型熱転写シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−78463(P2009−78463A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249705(P2007−249705)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】