説明

易溶性炭酸カルシウム粉末の製造方法及びその方法により得られる炭酸カルシウム粉末

【課題】簡単な手段により効率よく水への溶解性が良好な軽質炭酸カルシウム粉末を製造する方法を提供する。
【解決手段】軽質炭酸カルシウム粉体から、その高濃度分散スラリーを調製し、加熱した固体面に直接接触させることにより、乾燥させ、易溶性軽質炭酸カルシウム粉末を製造する。この方法により平均粒径1μm未満の一次粒子が凝集して平均粒径10〜50μmで見掛け密度0.5g/cm3以上の二次凝集粒子を形成したものが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に容易に溶解し得る炭酸カルシウム粉末の製造方法及びその方法により得られる新規炭酸カルシウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
石灰乳化法により得られる軽質炭酸カルシウム粉末は、水系塗料、水性インキなどの体質顔料や、ゴム、プラスチック、紙などの充填剤や、制酸剤、食品添加剤、化粧品添加剤として広く用いられている。
【0003】
ところで、この軽質炭酸カルシウムの乾燥粉末を調製する方法としては、水酸化カルシウムの水懸濁液と二酸化炭素とを5〜30℃で反応させてカルサイト型炭酸カルシウムの一次粒子を形成させ、次いでこれを噴霧乾燥して比表面積20m2/g以上の球状カルサイト型炭酸カルシウム二次粒子を調製する方法(特許文献1参照)、平均粒径0.1〜100μmの範囲の炭酸カルシウム粉体粒子5〜20重量%と、その粉体粒子の1〜40重量%の分散剤を含む炭酸カルシウムエマルションをスプレードライヤー乾燥又は凍結乾燥して、見掛け比重0.4g/ml以上の粉体とする方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法で調製された軽質炭酸カルシウムは、乾燥時に凝集するため、粉体を再溶解分散させる場合、粒子が十分に分散せず、粒径も乾燥前のものよりも大きくなる傾向があり、また嵩密度も小さく、輸送や貯蔵が不利になるという欠点がある。
【0005】
他方、炭酸カルシウム粉末の分散性を改善する方法として、スラリー状の炭酸カルシウムを親水性乳化剤の水溶液と混合し、この混合物を脱水処理したのち、真空下に乾燥することにより、分散性の良好な炭酸カルシウム複合体を製造する方法(特許文献3参照)が提案されているが、この方法は、炭酸カルシウム以外の成分を含むため、利用分野が制限される上、ショ糖脂肪酸エステルのような特殊な親水性乳化剤を用いるためにコスト的にも不利になるのを免れない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−79740号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2002−34510号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開昭63−173556号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで、従来の軽質炭酸カルシウムの製造方法における欠点を克服し、簡単な手段により効率よく水への溶解性が良好な軽質炭酸カルシウム粉末を製造する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、易溶性軽質炭酸カルシウムの製造方法について種々研究を重ねた結果、従来方法において製造された軽質炭酸カルシウム粉末の水への溶解性が良好でないのは、乾燥を気流中で行うため、乾燥時に10μm以下の小さな凝集体が発生し、乾燥物として得られる二次凝集粒子中の空隙に空気が取り込まれ、それが水への溶解を妨げていること、したがって、乾燥の際、二次凝集粒子中に空気が取り込まれるのを抑制すれば、溶解しやすい軽質炭酸カルシウム粒子が得られること、それには気流乾燥を用いずに、加熱した固体面に粒子を直接接触させる乾燥方法をとればよいことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、軽質炭酸カルシウム粉体から、その高濃度分散スラリーを調製し、加熱した固体面に直接接触させることにより、乾燥させることを特徴とする易溶性軽質炭酸カルシウム粉末の製造方法、及びその方法により得られる平均粒径1μm未満の一次粒子が凝集して平均粒径10〜50μmで見掛け密度0.5g/cm3以上、及び細孔容積1.0cm3/g以下の二次凝集粒子を形成してなる軽質炭酸カルシウム乾燥粉末を提供するものである。ここで平均粒径とはメジアン径を意味する。
【0010】
軽質炭酸カルシウムは、水酸化カルシウムの水性懸濁液に二酸化炭素を導入して炭酸化反応を行わせて、炭酸カルシウムを生成させ、沈降させることによって製造される。このようにして得られる軽質炭酸カルシウムには、その製造条件によってカルサイト型、アラゴナイト型及びパテライト型の3種の結晶構造を有するものを生じるが、本発明方法においては、そのいずれも用いることができる。この軽質炭酸カルシウムは平均粒径1μm未満、好ましくは0.1〜0.5μmの一次粒子からなる粉末として用いる。
【0011】
本発明方法においては、先ず原料の軽質炭酸カルシウムを水に加え、再分散処理して、高濃度水性スラリーを調製する。この水性スラリーの濃度としては、50質量%以上、好ましくは60質量%以上が選ばれる。この水性スラリーの調製は、分散剤なしで行ってもよいし、分散剤を用いて行ってもよい。
【0012】
この分散剤としては、軽質炭酸カルシウムの水性スラリーを調製する際に慣用されているものの中から任意に選んで用いることができる。このような分散剤としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸−マレイン酸共重合体アンモニウム塩、メタクリル酸−ナフトキシポリエチレングリコールアクリレート共重合体、メタクリル酸−ポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体アンモニウム塩、ポリエチレングリコールモノアクリレートなどがある。これらは、単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの分散剤を用いる場合には、軽質炭酸カルシウム粉末100質量部当り、0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部の割合で添加される。
【0013】
本発明方法においては、上記の軽質炭酸カルシウムの高濃度水性スラリーを乾燥して粉体を形成させるが、この乾燥は、水性スラリーを加熱した固体面に直接接触させ、急速に水分を除去することにより行うことが必要である。この加熱面に直接接触させて行う乾燥は、例えばドラムドライヤー、ディスクドライヤーのような円筒型乾燥機を用いる方法、ホットプレート上で転動させる方法などによって行うことができるが、特にスラリーの撹拌、混合を効率的にするディスク状の熱交換面を備えた乾燥機(特開平9−324986号公報参照)を用いて行うのが好ましい。
この際の加熱した固体面の温度としては100〜200℃、好ましくは110〜150℃の範囲が選ばれる。
【0014】
このようにして、見掛け密度0.5g/cm3以上、かつ細孔容積1.0cm3/g以下をもつ、平均粒径1μm未満の一次粒子の凝集した平均粒径10〜50μmの二次凝集粒子からなる易溶性軽質炭酸カルシウム乾燥粉末が得られる。
【0015】
これまでの方法で得られる軽質炭酸カルシウム粉末の見掛け密度は、0.5g/cm3未満、通常は0.17〜0.38g/cm3程度であり、見掛け密度0.5g/cm3以上のものを得ることは困難であった。それは従来の軽質炭酸カルシウム粉末の製造に際しては、炭酸カルシウム水性スラリーの乾燥方法として用いられている噴霧乾燥、凍結乾燥はいずれも空気のようなガス気流中で行われており、乾燥時に一次粒子が凝集して、平均粒径10〜50μmの二次凝集粒子が形成する際、一次粒子間の空隙に雰囲気中のガス、例えば空気が取り込まれ、軽質炭酸カルシウムを水に投入した場合、その空隙中のガスが水の浸入を妨げる結果、水への溶解性が低下するためであった。
【0016】
本発明方法においては、気流ガス粒子中に取り込まれるのを極力避けるために、軽質炭酸カルシウムの高濃度水性スラリーを直接加熱した固体面に接触させ、雰囲気中のガスが一次粒子間空隙に取り込まれない条件下で脱水し、乾燥する。この乾燥に際しては、雰囲気中のガスに取り込まれるのをできるだけ避けるために真空条件下で行うのも有利である。
【0017】
このようにして、含水率1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、細孔容積1.0cm3/g以下、好ましくは0.8cm3/g以下の二次凝集粒子からなる、水に易溶性の軽質炭酸カルシウム粉末が得られる。そして、このようにして得られた軽質炭酸カルシウム粉末は、従来のガス気流中乾燥により得られたものが、見掛け密度0.5g/cm3未満という低密度であるのに対し、見掛け密度0.5g/cm3以上、多くの場合0.65g/cm3又はそれ以上という高密度のものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水中に投入した時、従来のものに比べ、約1/4という短時間で溶解する易溶解性軽質炭酸カルシウム粉末を簡単に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、実施例により、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明は、これによりなんら限定されるものではない。
【0020】
なお、各例中の物性値は以下の方法により測定したものである。
(1)平均粒径(メジアン径)
堀場製作所製レーザー回折散乱式粒度分布測定装置「LA−920」を用いて測定した。
(2)見掛け密度
JIS K 5101に規定された方法に従って測定した。
(3)B型粘度
トキメック社製B型粘度計を用い、ローター回転数60rpm、スラリー温度25℃において測定した。
(4)細孔容積
マイクロメリティックス社製、細孔容積測定装置「ポアサイザ9320」を用いて測定した。
【0021】
参考例1
水酸化カルシウムを20℃の水に混合して400g/リットルの濃度に調整したのち、コーレスミキサーで処理して25℃における粘度2500mPa・sの水酸化カルシウム水性懸濁液を得た。この水酸化カルシウム水性懸濁液を水で希釈して200g/リットルに調整し、そのうちの15リットルを回分式反応槽に供給した。この反応槽中の懸濁液の液温を40℃に調整したのち、工業用二酸化炭素ガス(純度99.9vol%)を0.2m3/hの割合で導入し、炭酸化反応を行い、平均粒径0.47μmのアラゴナイト柱状炭酸カルシウムスラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスを用いて脱水処理し、ケーキ状の炭酸カルシウムを得た。
【0022】
参考例2
酸化カルシウムを60℃の水を用いて消化し、1時間撹拌したのち、目開き44μmの篩で残渣を除去した。さらにこのスラリーを3液分離型の液体サイクロン(TR−10、大石機械社製)で処理を行い、トップ及びミドルより吐出された固形分濃度10質量%の水酸化カルシウムスラリーを回収した。このスラリーの一部を採取し、水で希釈して15℃、3質量%に調整したのち、そのうちの30リットルを回分式反応槽に供給した。この反応槽に工業用二酸化炭素ガス(純度99.9vol%)を0.06m3/hの割合で導入し、炭酸化率が20%になるまで炭酸化反応を行い、一次炭酸化スラリーを得た。
一方、液体サイクロンより回収したスラリー20リットルを別の回分式反応槽に供給し、さらに一次炭酸化スラリー5リットルと水5リットルを加え、30リットルとしたのち、温度を50℃に調整し、工業用二酸化炭素ガス(純度99.9vol%)を0.6m3/hの割合で導入し、炭酸化反応を行い、平均粒径0.49μmのカルサイト紡錘状炭酸カルシウムスラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスを用いて脱水処理し、ケーキ状の炭酸カルシウムを得た。
【実施例1】
【0023】
参考例1で得た炭酸カルシウムケーキ100質量部(固形分)にポリアクリル酸ナトリウム分散剤を1.2質量%添加し、羽分散機を用いて一次分散を行い、続いてサンドミルを用いて二次分散処理を施し、固形分濃度63質量%の分散スラリーとした。
この分散スラリーを、間接加熱式伝動加熱型乾燥機(西村鐵工所社製CDドライヤー)を用いて乾燥し、乾燥粉体を得た。得られた粉体は、水分0.34質量%、見掛け密度0.67g/cm3であり、走査型電子顕微鏡で観察したところ、アラゴナイト一次粒子からなる平均粒径10〜50μmの二次凝集粒子であることが分かった。このものの細孔容積は0.61cm3/gであった。
【実施例2】
【0024】
参考例2で得た炭酸カルシウムケーキにポリアクリル酸ナトリウム分散剤を1.2質量%添加し、羽分散機を用いて一次分散を行い、続いてサンドミルを用いて二次分散処理を施し、固形分濃度63質量%の分散スラリーとした。
この分散スラリーを、間接加熱式伝導加熱型乾燥機(西村鐵工所社製CDドライヤー)を用いて乾燥し、乾燥粉体を得た。得られた粉体は、水分0.38質量%、見掛け密度0.71g/cm3であり、走査型電子顕微鏡で観察したところ、カルサイト一次粒子からなる10〜50μmの二次凝集粒子であることが分かった。このものの細孔容積は0.73cm3/gであった。
【0025】
比較例1
参考例1で得た炭酸カルシウムケーキを、ケージミルを備えた気流乾燥機を用いて乾燥、粉砕を行い、乾燥粉体を得た。得られた粉体は、水分0.29質量%、見掛け密度0.16g/cm3であり、走査型電子顕微鏡で観察したところ、主として10μm未満の粒子で構成されていることが分かった。また、このものの細孔容積は1.83cm3/gであった。
【0026】
比較例2
参考例2で得た炭酸カルシウムケーキを、ケージミルを備えた気流乾燥機を用いて乾燥、粉砕を行い、乾燥粉体を得た。得られた粉体は、水分0.31質量%、見掛け密度0.19g/cm3であり、走査型電子顕微鏡で観察したところ、主として10μm未満のカルサイト粒子で構成されていることが分かった。また、このものの細孔容積は1.61cm3/gであった。
【0027】
参考例3
実施例1及び比較例1で得た炭酸カルシウム乾燥粉体をそれぞれコーレスミキサー(分散羽根:エッジタービン型、3インチ)を用い、回転数6400rpm、分散時間20分で水中に再分散処理し、固形分濃度72.5質量%の分散スラリーを得た。
この際、比較例1の粉体に対しては、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム1.2質量%を添加した。
この粉体を水中に投入する場合、1度に多量の投入を行うとスラリーの流動性が著しく低下し、分散処理が不十分になるため、粉体のスラリーの流動性が低下しないように注意しながら徐々に投入した。
この際の各粉体の投入時間と得られたスラリーの物性を表1に示す。また、再分散処理時間と平均粒径の変化を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
これらの表から、本発明方法により得られた粉体(実施例1)は、従来方法で得られた粉体(比較例1)に比べ、5分の1の時間で投入が完了しており、また再分散の処理時間も短かくなっているので、易溶性であることが分かる。
【0031】
参考例4
実施例2及び比較例2で得た炭酸カルシウム乾燥粉体を参考例3と同様にして再分散処理し、固形分濃度71.0質量%の分散スラリーを得た。
この際、比較例2の粉体に対しては、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム1.2質量%を添加した。
このようにして得たスラリーの物性を表3に、また再分散処理時間と平均粒径の変化を表4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
これらの表から、本発明方法により得られた粉体(実施例2)は、従来方法で得られた粉体(比較例2)に比べ、4分の1の時間で投入が完了しており、また、再分散の処理時間も短かくなっているので、易溶性であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、体質顔料、食品添加剤、紙、ゴム、プラスチックの充填料、化粧品成分として有用な軽質炭酸カルシウムの製造方法であり、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽質炭酸カルシウム粉体から、その高濃度分散スラリーを調製し、加熱した固体面に直接接触させることにより、乾燥させることを特徴とする易溶性軽質炭酸カルシウム粉末の製造方法。
【請求項2】
易溶性軽質炭酸カルシウム粉末が、平均粒径1μm未満の一次粒子が凝集した平均粒径10〜50μmの二次凝集粒子からなる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
易溶性軽質炭酸カルシウム粉末が、見掛け密度0.5g/cm3以上を有する請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
高濃度分散スラリーが濃度50質量%以上の分散スラリーである請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
加熱した固体面が円筒型乾燥機の接触加熱面である請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5記載の方法により得られる平均粒径1μm未満の一次粒子が凝集して平均粒径10〜50μmで見掛け密度0.5g/cm3以上の二次凝集粒子を形成してなる軽質炭酸カルシウム乾燥粉末。
【請求項7】
細孔容積1.0cm3/g以下の軽質炭酸カルシウム粉体からなる請求項6記載の軽質炭酸カルシウム乾燥粉末。
【請求項8】
軽質炭酸カルシウム粉体が、高濃度分散スラリーを加熱した固体面に直接接触させて得られる乾燥物である請求項5記載の軽質炭酸カルシウム乾燥粉末。

【公開番号】特開2010−150067(P2010−150067A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328633(P2008−328633)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】