説明

易酸化性物質を充填する為の容器

【課題】工業生産において、酸素により極めて酸化を受け易い物質を充填し、保存中の酸化を防止する為の容器を提供する。
【解決手段】易酸化性物質を充填する為の空の酸素透過性容器及び脱酸素剤及び酸素検知剤を酸素不透過性容器に密封し、前記酸素不透過性容器内を脱酸素化する事により、前記酸素透過性容器内を脱酸素化した易酸化性物質を充填する為の容器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素により酸化を受け易い物質を充填する為の容器に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素により酸化を受け易い物質を、酸素透過度が800cm3/24h・m2・atm程度の酸素透過性の容器に充填し、前記充填済みの酸素透過性の容器を脱酸素剤と共に酸素不透過度が10cm3/24h・m2・atm程度の酸素不透過性の容器で密封包装して、保存中の酸化を防止する技術が知られている(特開昭63-275346、特開2006-104069)。しかし、工業生産において、易酸化性物質の中でも、極めて易酸化性の物質を容器に充填する為の容器に関し、酸化防止の為の十分な検討は不足していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-275346号公報
【特許文献2】特開2006-104069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化により品質が低下する易酸化性物質としては、主な例として、ビタミン類、アミノ酸類、脂肪酸類、酵素、抗生物質、色素や生理活性物質等が挙げられる。医薬品としてのアミノ酸類などに関しては、酸素透過性の容器に充填し、前記充填済みの酸素透過性の容器を脱酸素剤と共に酸素不透過性容器で密封包装して保存する技術が知られている(特開昭63-275346)。また、易酸化性物質の中でも、極めて酸化されやすい易酸化性物質の一例として、人工酸素運搬体としてのヘモグロビン含有リポソーム懸濁液は、酸素運搬の主役であるヘモグロビンが酸素により酸化され易く、酸化されてメトヘモグロビンとなると酸素運搬機能を失う。この様な酸素により酸化を受け易い物質は、製造工程及び保存中の酸化防止は非常に重要な技術である。ヘモグロビンベースの人工酸素運搬体として、ヘモグロビンを化学修飾した溶液タイプのものもあるが、このタイプにおいても、酸化防止の技術は同様に重要である。易酸化性物質の中でも、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の様に、極めて酸化されやすい場合は、製造工程において予め脱酸素化したヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を酸素透過性の容器に充填し、前記脱酸素化したヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を充填済みの酸素透過性容器を、脱酸素剤と共に酸素不透過性の容器に密封包装する技術が検討されて来た(特開2006-104069)。
しかし、予め脱酸素化してから充填する技術を追加しても効果は十分ではなかった。この方法においては、前記充填前の酸素透過性容器の内部隙間に存在する酸素は除去されていなかった。前記充填前の酸素透過性容器の内部隙間に酸素が存在すると、前記酸素透過性容器に充填されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のヘモグロビンと反応し、ヘモグロビンのメト化が起こり、製品化時のヘモグロビンのメト化率の初期値が上昇してしまう。本発明は、生産工程における、酸化防止を目的として、極めて易酸化性の物質を容器に充填する為の容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
酸素により極めて酸化を受け易い物質を容器に充填する為の容器に関し、下記のごとく上記課題を解決する。
【0006】
(1)易酸化性物質を充填する為の密封された空の酸素透過性容器、脱酸素剤及び酸素検知剤を酸素不透過性容器に密封し、前記酸素不透過性容器内を脱酸素化する事により、前記酸素透過性容器内を脱酸素化した易酸化性物質を充填する為の容器。
【0007】
(2)(1)に記載のされた前記酸素不透過性容器を開封し、酸素透過性容器を取り出し、脱酸素化された酸素透過性容器に予め脱酸素化した易酸化性物質を充填し、前記易酸化性物質を充填済みの酸素透過性容器と脱酸素剤を酸素不透過性容器に密封包装してなる易酸化性物質を充填した容器。
【0008】
(3)(2)に記載の易酸化性物質がヘモグロビン含有リポソーム懸濁液であることを特徴とする(2)に記載の容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、酸素不透過性容器内に酸素透過性容器、脱酸素剤及び酸素検知剤を密封し、前記酸素不透過性容器内を脱酸素化する事により、前記酸素透過性容器内を脱酸素化した易酸化性物質を充填する為の容器を提供する。前記の易酸化性物質を充填する為の容器を使用する時は、前記酸素不透過性容器を開封し、前記酸素透過性容器を取り出し、公知の方法により、予め脱酸素化した易酸化性物質を充填し、前記易酸化性物質を充填済みの酸素透過性容器と脱酸素剤を酸素不透過性容器に密封包装して保存する。以上により、酸素により極めて酸化を受け易い易酸化性物質を充填した、保存中の酸化を防止する易酸化性物質を充填した容器が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<易酸化性物質を充填する為の容器>
本発明における、酸素により極めて酸化を受け易い、易酸化性の充填対象物の一例としての、人工酸素運搬体であるヘモグロビン含有リポソーム懸濁液は、酸素運搬能を持った輸液剤として見る事も出来る。充填用の容器としては一般に輸液剤の充填用容器として用いられるポリエチレン製容器、ポリプロピレン製容器、エチレン−酢酸ビニル共重合体容器等がある。これらの容器はいずれも酸素透過性であり、その酸素透過度は、一般に、800cm3/24h・m2・atm 以上である。これらの酸素透過性容器に本発明の易酸化性物質を充填する時は、公知の方法により、前記易酸化性物質を充填した前記酸素透過性容器と脱酸素剤を酸素不透過性の容器に入れ密封包装した後、保存される。本発明における酸素不透過性とは酸素透過性が10cm3/24hr・m2・atm以下とする。本発明の酸素不透過性容器は酸化珪素、酸化アルミ、アルミニウム等を蒸着したフィルム、アルミ箔、又はポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニル共重合体、ポリビニルアルコールなどの樹脂フィルムを層成分として含む。
なお、酸素運搬体であるヘモグロビン含有リポソーム懸濁液は例えば特開2006-104069 に示されるような公知の方法により製造される。
【0011】
<易酸化性物質を充填する為の容器を予め脱酸素化する>
本発明の前記易酸化性物質を充填する為の容器の内部を予め脱酸素化する方法は、前記易酸化性物質を充填する為の密封容器(充填前)及び脱酸素剤及び酸素検知剤を前記酸素不透過性容器に封入し、所定温度、所定時間放置する事により行なわれる。脱酸素の確認は酸素検知剤により行なう。この時の脱酸素化の条件は(1)使用する脱酸素剤の種類(2)容器内容積に対する脱酸素剤の個数(直接的には容器内容積に対する脱酸素剤の重量が関係する)(3)放置温度(4)放置時間(5)脱酸素化製剤充填用容器の酸素透過性により決定される。脱酸素剤は三菱ガス化学製の型式SA-202などが、酸素検知剤としては三菱ガス化学製の型式アイ−LSなどが使用出来る。
以上により、脱酸素化した状態の、密封された酸素透過性容器が易酸化性物質の充填用容器として提供される。
【0012】
<易酸化性物質を充填する為の容器への充填及び酸素不透過性容器による密封包装>
前記酸素不透過性容器を開封して予め脱酸素化した易酸化性物質を充填する為の容器を、取り出す。前記の易酸化性製剤を充填する為の容器側の充填用チューブと製造工程からの製剤充填ライン側チューブを無菌接合装置などを使用して、外気に暴露されない様にして接合し、所定時間内に、製造工程にて予め脱酸素化した易酸化性物質を、前記の易酸化性物質を充填する為の容器に充填する。その後、脱酸素剤と共に酸素不透過性容器に密封包装する。なお、予め脱酸素化した物質が充填された容器は酸素透過性なので、容器外側環境の酸素が透過流入しない様に、所定時間内に充填及び酸素不透過性容器による密封包装を終了させる必要が有る。
【実施例1】
【0013】
次に本発明の実施例により、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
1.空の酸素透過性容器を予め脱酸素化する為の準備
薬剤充填用チューブが付いた100mL用の空の酸素透過性ポリエチレン製容器〔細川洋行製、MHフィルム〕をヒートシーラーで密封した後、4350mL用の酸素不透過性容器〔マルアイ製、MZ-TB〕内に前記酸素透過性ポリエチレン製容器〔細川洋行製、MHフィルム〕20個、及び脱酸素剤〔三菱ガス化学製、SA-202〕5個、酸素検知剤〔三菱ガス化学製、アイ‐LS〕1個を入れ密封する。
【0015】
2.脱酸素剤により空の酸素透過性容器を予め脱酸素化する
上記1.で準備した、酸素不透過性容器を25±2℃、1週間放置する事により、酸素検知剤の色の変化をマーカーとして酸素不透過性容器内を脱酸素化する。この時、空の酸素透過性容器は密封されているが、酸素透過性があるので、所定温度、所定時間放置すれば、酸素不透過性容器内の脱酸素化に連れて、空の酸素透過性ポリエチレン製容器内も脱酸素化される。放置温度、放置時間の条件設定に際しては、前記の所定温度、所定時間の放置後の空の酸素透過性ポリエチレン製容器内の気体をサンプリングし、酸素分析計〔東レエンジニアリング製、LC-700F〕で酸素濃度0.1%以下である事を確認して行なう。以上により、脱酸素化した状態で、酸素透過性容器が易酸化性物質の充填用容器として提供される。
【0016】
3.易酸化性物質の充填
前記酸素不透過性容器〔マルアイ製、MZ-TB〕を開封し、薬剤充填用チューブ付きの酸素透過性ポリエチレン製容器を取り出す。製造工程において予め脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を、製造工程から酸素透過性ポリエチレン製容器に充填する為のチューブと、酸素透過性バッグの充填用チューブを無菌接合装置〔テルモ製、TSCD202〕で接合し、予め脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を前記酸素透過性ポリエチレン製容器に充填する。
【0017】
4.脱酸素化した易酸化性物質を充填済みの酸素透過性容器の密封包装
とする。る。め脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液充填済みの酸素透過性ポリエチレン製容器と脱酸素剤〔三菱ガス化学製、SA-202〕を、260mL用の酸素不透過性容器〔細川洋行製、透明蒸PET/ONY/CPP〕内に入れ密封包装する。なお、上記3.で酸素不透過性容器〔マルアイ製、MZ-TB〕を開封してから、本工程4.で酸素不透過性容器〔細川洋行製〕に密封包装するまでの操作時間を、操作環境の酸素が前記酸素透過性ポリエチレン製容器の容器材質を介して透過流入し、内部に充填されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液をメト化を進行させない為の配慮として、1 時間以内とする。
【0018】
5.保存中のメト化進行加速試験
定したところ5.5%であった。たところ5.5%であった。ころ5.5%であった。
5.5%であった。
5%であった。
であった。
った。

ム懸濁液のメト化率を測定したところ5.5%であった。(比較例 1)
【0019】
られた。。記載の1.及び2.の「空の酸素透過性容器の脱酸素化」を実施しない事以外は、実施例 1.と同様の方法で用意した予め脱酸素化した易酸化性物質の最終製品包装形態における保存中の加速試験として、37±1℃で44時間放置後のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液のメト化率を測定したところ9.1%であった。実施例と比較し、約1.65倍のメト化進行が認められた。
【実施例】
【0020】
1. 空の酸素透過性容器を予め脱酸素化する為の準備
薬剤充填用チューブが付いた100mL用の空の酸素透過性ポリプロピレン製容器〔旧STEDIM製、STEDIM 100〕をヒートシーラーで密封した後、4350mL用の酸素不透過性容器〔マルアイ製、MZ-TB〕内に前記酸素透過性ポリプロピレン製容器〔旧STEDIM製、STEDIM 100〕20個及び脱酸素剤〔三菱ガス化学製、SA-202〕5個、酸素検知剤〔三菱ガス化学製、アイ‐LS〕1個を入れ密封する。
【0021】
2. 脱酸素剤により空の酸素透過性容器を予め脱酸素化する
度0.1%以下である事を確認して行なう。.1%以下である事を確認して行なう。%以下である事を確認して行なう。下である事を確認して行なう。ある事を確認して行なう。
事を確認して行なう。
確認して行なう。
して行なう。
行なう。
う。

ポリプロピレン製容器は密封されているが、酸素透過性があるので、所定温度、所定時間放置すれば、酸素不透過性容器内の脱酸素化に連れて、空の酸素透過性ポリプロピレン製容器内も脱酸素化される。放置温度、放置時間の条件設定に際しては、前記の所定温度、所定時間の放置後の空の酸素透過性ポリプロピレン製容器内の気体をサンプリングし、酸素分析計〔東レエンジニアリング製、LC-700F〕で酸素濃度0.1%以下である事を確認して行なう。
【0022】
3. 易酸化性物質の充填
前記酸素不透過性容器〔マルアイ製、MZ-TB〕を開封し、薬剤充填用チューブ付きの酸素透過性ポリプロピレン製容器を取り出す。製造工程において脱酸素化されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を製造工程から酸素透過性ポリプロピレン製容器に充填する為のチューブと、酸素透過性ポリプロピレン製容器の充填用チューブを無菌接合装置〔テルモ製、TSCD202〕で接合し、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を酸素透過性ポリプロピレン製容器に充填する。
【0023】
4. 脱酸素化した易酸化性物質を充填済みの酸素透過性容器の密封包装
上記3で用意した予め脱酸素化したヘモグロビン含有リポソーム懸濁液充填済みの酸素透過性ポリプロピレン製容器と脱酸素剤〔三菱ガス化学製、SA-202〕を、260mL用の酸素不透過性容器〔細川洋行製、透明蒸PET/ONY/CPP〕内に入れ密封包装する。なお、上記3.で酸素不透過性容器〔マルアイ製、MZ-TB〕を開封してから、本工程4.で酸素不透過性容器〔細川洋行製〕に入れ密封包装するまでの操作時間を、操作環境の酸素が前記酸素透過性ポリプロピレン製容器の容器材質を介して浸透流入し、内部に充填されたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液をメト化を進行させない配慮として、1 時間以内とする。
【0024】
5.保存中のメト化進行加速試験
上記4.で用意した脱酸素化した易酸化性物質の最終製品包装形態における保存中の加速試験として、37±1℃で44時間放置後のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液のメト化率を測定したところ6.1%であった。
(比較例 2)
【0025】
実施例 2に記載の1.及び2.の「空の酸素透過性容器の脱酸素化」を実施しない事以外は、実施例と同様の方法で用意した脱酸素化した易酸化性物質の最終製品包装形態における保存中の加速試験として、37±1℃で44時間放置後のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液のメト化率を測定したところ14.8%であった。実施例 2と比較し、約2.43倍のメト化進行が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易酸化性物質を充填する為の密封された空の酸素透過性容器、脱酸素剤及び酸素検知剤を酸素不透過性容器に密封し、前記酸素不透過性容器内を脱酸素化する事により、前記酸素透過性容器内を脱酸素化した易酸化性物質を充填する為の容器。
【請求項2】
請求項1に記載のされた前記酸素不透過性容器を開封し、酸素透過性容器を取り出し、脱酸素化された酸素透過性容器に予め脱酸素化した易酸化性物質を充填し、前記易酸化性物質を充填済みの酸素透過性容器と脱酸素剤を酸素不透過性容器に密封包装してなる易酸化性物質を充填した容器。
【請求項3】
請求項2に記載の易酸化性物質がヘモグロビン含有リポソーム懸濁液であることを特徴とする請求項2に記載の容器。

【公開番号】特開2011−55932(P2011−55932A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206757(P2009−206757)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】