説明

映像処理装置及び映像処理装置の制御方法

【課題】 映像のジャンルや種別又は特性などによらず、擬似解像度映像信号であるか否かを判定することができる映像処理装置及び映像処理装置の制御方法を提供する。
【解決手段】 同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、第1の解像度Nの映像信号に係る第1の周波数ヒストグラムと、第1の解像度Nよりも低い第2の解像度N−1の映像信号に係る第2の周波数ヒストグラムとを生成し、生成したヒストグラムの類似度を所定の数式を用いて算出する。類似度と所定の閾値とを比較することで、第1の解像度Nの映像信号及び第2の解像度N−1の映像信号のどちらが疑似解像度映像信号であるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、所定の解像度の映像信号から表示可能な映像データを生成する映像処理装置及び映像処理装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアナログ放送ではSD(Standard Definition)解像度の映像が中心であったが、現在のデジタル放送では高圧縮映像符号化技術を背景にHD(High Definition)解像度で放送されることが多くなっている。このため、従来のSD解像度用の機材を用いて製作されたコンテンツや、過去のSD解像度のコンテンツを放送する際には、補間処理をして画素数を増加させることで、見た目の解像度だけをHD解像度に変換した映像が配信されることがあった。こうした処理で生成された、実質的な解像度を有していない映像を擬似解像度映像と称する。対して、見た目の解像度を向上させる処理を施していない映像のことをオリジナル解像度映像と称することとする。
【0003】
受信した映像の空間周波数を解析することで、擬似解像度映像であるか否かを判別する手法が知られている。HD解像度で撮影や生成された映像は、SD解像度の映像を擬似的にHD解像度に変換した映像に比べて高周波成分を多く含むので、例えば、空間周波数が、ある閾値以上の値を持たなければ、擬似解像度映像であると判別することができる。
【0004】
特許文献1では、擬似解像度映像をSD解像度へダウンコンバートした後に、高画質化処理と解像度変換を行うことで高画質なHD解像度の映像を得ている。この文献に開示の技術では、実質的な解像度を有していない擬似解像度映像を再びダウンコンバートする必要性があるが、上述したように、疑似解像度映像はその解像度と同じ解像度のオリジナル解像度映像と比べて高周波成分が殆ど存在していない。つまり、オリジナル解像度映像と比べると画質面で不利である疑似解像度映像を用いて、その映像をさらにダウンコンバート処理して解像度を低下させるので画質劣化が発生していた。
【0005】
ところで、新しい映像符号化規格であるH.264/SVC(Scalable Video Coding)は、ひとつのストリーム・データに複数の異なる解像度を多重化できるようにH.264/AVC(Advanced Video Coding)規格を拡張したものである。ストリーム・データの一部を取り出すことで、所望の解像度で復号することが可能となる。
【0006】
映像は少なくとも任意のオリジナル解像度で撮影が可能な機材で撮影される。例えば、HD解像度で撮影が可能な機材であれば、HD解像度の映像がオリジナル解像度映像となる。従って、H.264/SVCを用いて配信された放送において、いくつかの解像度の映像のうち、いずれか1つの解像度の映像はオリジナル解像度映像である。また、オリジナル解像度映像の解像度以外の映像は、オリジナル解像度映像から生成した疑似解像度映像やダウンコンバートした映像である。
【0007】
そこで、H.264/SVCで符号化された符号化データのうち、オリジナル解像度映像を復号して高画質化処理と表示解像度への解像度変換を行うことで、従来技術のように擬似的に解像度変換された疑似解像度映像を再びダウンコンバートする過程で発生する画質劣化が避けられるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−328150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術の擬似解像度映像の判別方法では、映像によっては誤検出してしまうことがあった。例えば、アニメなどのように平坦部分が多く、エッジの滑らかな映像においては、元々空間周波数が低いために擬似解像度映像信号であるか否かの判別が難しい。
【0010】
そこで、本発明は、映像のジャンルや種別又は特性などによらず、擬似解像度映像信号であるか否かを判定することができる映像処理装置及び映像処理装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の映像処理装置は、所定の解像度の映像信号が、当該解像度よりも低い解像度の映像信号から生成された疑似解像度映像信号であるか否かを判定する映像処理装置であって、同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、第1の解像度の映像信号に係る第1の周波数ヒストグラムを生成する第1の生成手段と、同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、前記第1の解像度よりも低い第2の解像度の映像信号に係る第2の周波数ヒストグラムを生成する第2の生成手段と、前記第1の周波数ヒストグラムと前記第2の周波数ヒストグラムとを比較し、当該第1の周波数ヒストグラムと当該第2の周波数ヒストグラムの類似度を所定の数式を用いて算出する算出手段と、前記類似度と所定の閾値とを比較し、前記類似度が前記所定の閾値以下の場合には、前記第1の解像度の映像信号は疑似解像度映像信号であると判定する判定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、映像のジャンルや種別又は特性などによらず、擬似解像度映像信号であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した映像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】空間スケーラビリティの階層構造の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例におけるフローチャートである。
【図4】画像の解像度に応じた度数分布の概略を示す図である。
【図5】各解像度と最大空間周波数との対応関係表を示す図である。
【図6】画像の解像度に応じた空間周波数ヒストグラムから算出される類似度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
【0015】
図1は、本発明を適用できる映像処理装置100の構成を示すブロック図である。図には示していないが、これらのブロックを包括的に制御するCPUが映像処理装置の各ブロックとバス(不図示)を介して接続されている。
【0016】
デジタル放送信号101はチューナ部102に入力され、入力されたデジタル放送信号101の中から任意のチャンネルのMPEG−2 TS(Moving Picture Experts Group−2 Transport Stream)信号を抽出する。このMPEG−2 TS信号にはH.264/SVCで符号化された映像信号およびAAC(Advanced Audio Coding)で符号化された音声信号が多重化されており、チューナ部102において分離される。H.264/SVCで符号化された映像には、最大8層の空間スケーラビリティ(選択可能な解像度)が設定可能と規定されている。
【0017】
図2には、送信されるH.264/SVCで符号化された映像の空間スケーラビリティの階層構造を示す概念図である。図2に示された空間スケーラビリティの階層ID情報とそれに対応付けられた解像度レイヤ情報とを含む階層構造情報が送信される。選択可能な解像度レイヤの情報は、レイヤ毎に用意されるSPS(シーケンス・パラメータ・セット)に含まれており、CPUがSPSを参照することで得られる。本実施例では、階層ID情報N=3の解像度レイヤが最大の解像度レイヤ8K4K(7680×4320ピクセル)とした、4階層の空間スケーラビリティを有する符号化データが送信されるものとする。
【0018】
図1の第1映像復号部103と第2映像復号部104には、チューナ部102で分離された同一のH.264/SVC符号化映像データがそれぞれ入力される。第1映像復号部103では、n=Nとなる解像度レイヤを選択して、符号化映像データを復号する。第2映像復号部104では、n=N−1である解像度レイヤを選択して、符号化映像データを復号する。ここで、nは第1映像復号部103及び第2映像復号部104で復号する解像度レイヤを示すパラメータである。CPUはこれらの映像復号部に対して、処理する階層ID情報Nを通知する。つまり、CPUが階層ID情報N=3の解像度レイヤの復号をこれらの映像復号部に指示した場合、第1映像復号部103では、n=3となる第1の解像度レイヤを選択して符号化映像データを復号し、第2映像復号部104では、n=2の第2の解像度レイヤを選択して符号化映像データを復号することになる。
【0019】
第1映像復号部103で復号された映像信号は、第1周波数ヒストグラム生成部105と、映像信号切替部108に入力される。同様に、第2映像復号部104で復号された映像信号は、第2周波数ヒストグラム生成部106と、映像信号切替部108に入力される。なお、H.264/SVCの映像信号を復号しているので、これらの映像信号は同一内容の映像となる。第1周波数ヒストグラム生成部105及び第2周波数ヒストグラム生成部106では、入力された映像信号の空間周波数ヒストグラムが生成される。本実施例では、第1周波数ヒストグラム生成部105で生成された空間周波数ヒストグラムを第1の周波数ヒストグラムと称する。また、第2周波数ヒストグラム生成部106で生成された空間周波数ヒストグラムを第2の周波数ヒストグラムと称する。生成されたそれぞれの周波数ヒストグラムの情報は擬似解像度映像判定部107に入力される。空間周波数ヒストグラムを生成する単位は映像を構成するフレーム画像単位である。
【0020】
なお、空間周波数ヒストグラムとは、映像を構成する1枚のフレーム画像について、そのフレーム画像に含まれる周波数成分の度数分布を示すものである。画像を構成する各画素がほぼ均一の画素値を有する画像では空間周波数は低周波成分が多く存在する画像となり、結果として、ヒストグラムを生成すると、低周波側の度数が高周波側の度数に比べて多いヒストグラム形状が得られる。反対に、画素値の変動が大きいエッジ部分を多く含むテクスチャのような画像では空間周波数は高周波成分が多く存在する画像となり、高周波側の度数が多いヒストグラム形状が得られる。一般的によく知られているように、画像の空間周波数は、画像をフーリエ変換することにより取得することが可能である。
【0021】
擬似解像度映像判定部107では、入力された空間周波数ヒストグラム同士の類似度を求める。これにより、n=Nとなる解像度レイヤで復号した映像信号、つまり、第1映像復号部から出力された映像信号が見た目の解像度だけを向上させるように生成された映像信号であるか否かを判定する。擬似解像度映像判定部107の判定結果は不図示のCPUを介して第1映像復号部103と第2映像復号部104に入力され、その後に復号する解像度レイヤの選択に用いられる。また、擬似解像度映像判定部107の判定結果は映像信号切替部108にも入力され、第1映像復号部103と第2映像復号部104から入力された映像信号の切り替えに反映される。なお、類似度の求め方及び疑似解像度映像であるか否かの判定方法については後述する。
【0022】
擬似解像度映像判定部107の判定結果をもとに、映像信号切替部108で選択された映像信号は解像度処理部109に入力される。解像度処理部109では、映像の空間周波数を向上させる超解像処理と、映像表示部110の表示解像度(表示画素数)に合わせた画像とするための解像度変換処理が行われる。こうして生成された映像信号は映像表示部110に送信され、表示される。なお、本実施例の映像表示部110の表示解像度は8K4K(7680×4320ピクセル)のスーパーハイビジョン規格とする。
【0023】
続いて、上述したブロック図で構成される映像処理装置100による、制御手順を図3に示したフローチャートを用いて説明する。まず、ステップS101では、チューナ部102が受信したデジタル放送信号101から任意のチャンネルのMPEG−2 TS信号を抽出する。チューナ部102はさらに、抽出されたMPEG−2 TS信号からH.264/SVCで符号化された映像信号を分離する。
【0024】
ステップS102では、CPUはH.264/SVCで符号化された映像信号のSPSを参照して、空間スケーラビリティの階層構造情報を取得する。そして、CPUは第1映像復号部103と第2映像復号部104で復号する解像度レイヤ、つまりパラメータnを決定するために、階層ID情報Nの初期値を設定する。本実施例では、階層ID情報Nの初期値は、階層構造情報で規定された空間スケーラビリティの階層ID情報Nの最大値と、映像表示部110の表示解像度と等しい解像度レイヤに対応する階層ID情報Nの値とを比較する。比較した結果、CPUはより大きい方の値を階層ID情報Nの初期値として設定する。なお、本実施例では、階層構造情報で規定された空間スケーラビリティの階層ID情報Nの最大値はN=3であり、表示解像度が8K4Kであり、その解像度レイヤに対応する階層ID情報Nの値も3であるので、初期値は3に決定される。
【0025】
ステップS103では、第1映像復号部103及び第2映像復号部104が、H.264/SVCで符号化された符号化データの復号処理を実行する。ステップS102において、CPUが初期値をN=3として決定しているので、この初期値の情報を与えられた第1映像復号部103はn=N=3に相当する解像度レイヤである8K4K解像度の映像を復号する。また、同様に、第2映像復号部では、n=N−1=2に相当する解像度レイヤである4K2K解像度の映像を復号する。
【0026】
ステップS104では、第1映像復号部103で復号された8K4K解像度の映像信号が第1周波数ヒストグラム生成部105に入力され、第1周波数ヒストグラム生成部105により第1の周波数ヒストグラムが生成される。この第1の周波数ヒストグラムを図4(a)に示す。また、第2映像復号部104で復号された4K2K解像度の映像信号が第2周波数ヒストグラム生成部106に入力され、第2周波数ヒストグラム生成部105により第2の周波数ヒストグラムが生成される。この第2の周波数ヒストグラムを図4(b)に示す。横軸は空間周波数であり、その範囲は周波数0から各解像度に対応して予め定められた最大空間周波数までとなる。
【0027】
ここで、図5に示すように、各解像度の画像データが取り得る最大空間周波数は解像度によって異なることが知られている。図5は、各解像度と、その解像度の画像データが取り得る最大空間周波数の対応関係表を示す図である。最大空間周波数とは、各解像度のクロック周波数から再現可能される周波数である。フレームレートが60Hzであれば、計算上は、8K4K解像度ならおよそ1000MHz、4K2K解像度ならおよそ250MHzとなる。例えば、インタレースのHD解像度(1920×1080i)のクロック周波数fsは74.25MHzであるが、このクロック周波数で再現できる解像度の上限、つまり、最大空間周波数はナイキスト周波数として定義され、値はfs/2となる。つまり、ナイキスト周波数はHD解像度の場合、約37MHzとなる。但し、ナイキスト周波数に対して若干の帯域制限をかけることで余裕を持たせるため、HD解像度では最大の空間周波数は約30MHzとしているのが一般的である。
【0028】
このHD解像度の最大空間周波数を用いて、他の解像度の最大空間周波数も求めることが可能となる。例えば、4K2K解像度の場合には、HD解像度の4倍であり、さらに、プログレッシブ画像であれば、インタレースのHD解像度における最大空間周波数の4倍×2倍となり、240MHz程度となる。但し、本実施例では、区切りの良い数値とするため、4K2Kの最大空間周波数を250MHzとしている。同様の考え方で、8K4K解像度の場合には4K2K解像度の4倍になるので1000MHzとしている。一般的に知られた通常の内挿補間処理などを用いた解像度変換処理では、画素数を増加させることはできても元画像のナイキスト周波数よりも高い周波数成分は得られない。
【0029】
ステップS105では、第1周波数ヒストグラム生成部105と第2周波数ヒストグラム生成部106とで生成された第1の周波数ヒストグラム及び第2の周波数ヒストグラムが擬似解像度映像判定部107に入力される。そして、疑似解像度映像判定部107はそれぞれの周波数ヒストグラム間の類似度を算出する。空間周波数ヒストグラム間の類似度算出には、Histogram Intersection法を用いる。式1は類似度を算出するための数式である。
【0030】
【数1】

【0031】
ここで、Sim(Hn=N,Hn=N−1)はn=Nのヒストグラム(第1の周波数ヒストグラム)とn=N−1のヒストグラム(第2の周波数ヒストグラム)間の類似度を表する。そして、Hn=N(m)及びHn=N−1(m)はそれぞれ空間周波数mにおける第1の周波数ヒストグラムと第2の周波数ヒストグラムの度数を表し、min[x,y]はHn=N(m)及びHn=N−1(m)の最小値を表す。パラメータMはヒストグラムの横軸、つまり、最大空間周波数を所定の分解能で分割した際の階級値である。例えば、分解能を8bitとすると、パラメータMは256となる。
【0032】
以上の値を用いて、式1によって算出された類似度は、第1の周波数ヒストグラムと第2の周波数ヒストグラムが類似していれば、その値は1に近くなり、類似していなければ、値は0に近づく。
【0033】
上述したように、所定の解像度Rの映像信号を、所定の解像度よりも高い解像度Ruとなるように画素数を増加させたとしても、解像度Ruの映像信号には、解像度Rが有していなかった高周波成分を多く含むようなことはない。なぜなら、解像度Ruの映像信号を生成するのに利用した解像度Rの映像信号にはそもそも解像度Rの最大空間周波数を超える範囲の周波数は存在しないためである。
【0034】
このような考え方を用いて、ステップS106では、疑似解像度映像判定部107は、式1によって算出された類似度から、第1映像復号部103で復号した解像度レイヤの映像信号が擬似解像度映像であるか否かを判定する。もし、第1映像復号部103で復号した解像度レイヤの映像信号が擬似解像度映像であった場合は、第1映像復号部103で復号した解像度レイヤの第1の周波数ヒストグラムは第2の周波数ヒストグラムと比較して当該解像度における高周波成分が殆ど存在しないので、類似度は低くなる。一方、第1映像復号部103で復号した解像度レイヤの映像信号が擬似解像度映像でなかった場合、つまり、オリジナル解像度映像であった場合は、第2の周波数ヒストグラムと比較して当該解像度における高周波成分が存在し、類似度は高くなる。従って、疑似解像度映像判定部107は、類似度が閾値Th以下であれば第1映像復号部で復号した映像信号は擬似解像度映像であると判定し、所定の閾値Thよりも大きければ擬似解像度映像で無いと判定する。なお、閾値Thは例えば0.8と設定される。
【0035】
図6に8K4K解像度と4K2K解像度の空間周波数ヒストグラムから算出された類似度が閾値Thよりも小さくなることを示す。図6(a)は8K4K解像度の映像信号の空間周波数ヒストグラムであり、図6(b)は4K2K解像度の映像信号の空間周波数ヒストグラムである。また、図6(c)はHD解像度の映像信号の空間周波数ヒストグラムである。図6(d)の斜線部分は図6(a)と図6(b)の空間周波数ヒストグラム間の重なり合う部分を示したものであるが、この斜線部の面積が類似度に比例する。つまり、斜線部の面積が所定の値より小さい場合、即ち、類似度が閾値Thより小さい場合は、n=N=3、つまり8K4K解像度の映像信号は擬似解像度映像であると判定される。
【0036】
このように、同一映像における複数の解像度の周波数ヒストグラムの類似度を比較することで、映像のジャンルや種別または特性等によらず、擬似解像度映像であるか否かを判別することができる。なお、類似度を比較するためにも、第1及び第2の周波数ヒストグラムを生成する元となるそれぞれのフレーム画像は、同一のフレーム画像であるのが望ましい。同一のフレーム画像を特定する方法は、フレーム画像に付与されたタイムスタンプの一致を判定する等の公知の技術を適用できる。
【0037】
ステップS106で、疑似解像度映像判定部107が、8K4K解像度の解像度レイヤの映像信号は擬似解像度映像であると判定したので、ステップS109へ処理を移行する。ステップS109では、CPUはN=1となるか否かを判定する。この説明のケースでは、N=3であるので、S111へ処理を移行する。ステップS111では、CPUはNの値を1デクリメントして、ステップS103へと戻る。
【0038】
再び、ステップS103〜S106ではN=2として処理が行われる。具体的には、n=2である4K2K解像度の解像度レイヤの映像信号と、n=1であるHD解像度の解像度レイヤの映像信号とからそれぞれ生成した空間周波数ヒストグラム間の類似度を求める。そして、4K2K解像度の解像度レイヤの映像信号が擬似解像度映像であるか否かを疑似解像度映像判定部107が判定する。図6の(b)と(c)に示したように、4K2K解像度の解像度レイヤの映像信号から生成した空間周波数ヒストグラムとHD解像度の解像度レイヤの映像信号から生成した空間周波数ヒストグラムとの類似度は高い。つまり、4K2K解像度の映像がオリジナル解像度映像であり、HD解像度は4K2K解像度の映像からダウンコンバートして生成されたものであると判断することができる。ステップS106において、4K2K解像度の解像度レイヤの映像信号が擬似解像度映像ではないオリジナル解像度映像であると判定されたら、次にCPUはステップS107へ処理を移行する。
【0039】
ステップS107では、疑似解像度映像判定部107から映像切替部108に対して、解像度処理部109に送信する映像信号を選択するための選択信号が送信される。この選択信号は、映像信号切替部108に入力されている第1映像復号部103及び第2映像復号部104がそれぞれ復号した映像信号のうち、どちらの映像信号を解像度処理部109に送信するかを制御するための信号として機能する。
【0040】
上述した実施例では、4K2K解像度の解像度レイヤの映像信号が疑似解像度映像ではないオリジナル解像度映像であると判定されている。従って、疑似解像度映像判定部107は映像信号切替部108に対して、第1映像復号部103から入力された映像信号を解像度処理部109に送信することを示す選択信号を送信する。
【0041】
ステップS108では、解像度処理部109が映像の空間周波数を向上させる超解像処理と、映像表示部110の表示解像度に合わせるための解像度変換処理を実行する。処理された映像信号が映像表示部110に送信され、映像表示部110で表示されて本実施例のフローは終了となる。ただし、映像切替部108で選択された映像信号の解像度が映像表示部110の表示解像度と一致していた場合は、解像度処理部109では特に処理を行わずに入力された映像信号を映像表示部110に送信する。
【0042】
なお、ステップS109でN=1であった場合は、n=N=1であるHD解像度の映像信号が擬似解像度映像であると疑似解像度映像判定部107で判定されていることを意味する。これは、第2映像復号部104で復号した解像度レイヤの映像信号が最も低い解像度の映像信号となり、かつ、第1映像復号部103で復号した解像度レイヤの映像信号が疑似解像度映像である場合に相当する。従って、結果的にN=0であるSD解像度の解像度レイヤの映像信号がオリジナル解像度映像であると疑似解像度映像判定部107は判定する。その結果、ステップS110ではn=N−1=0であるSD解像度で復号された映像が映像信号切替部108で選択される。
【0043】
超解像処理は、上述した通常の内挿補間処理による解像度変換処理と異なり、ナイキスト周波数以上の高周波成分を復元することが可能である。しかしながら、超解像処理を施す映像信号が、疑似解像度映像の場合、本来その解像度が有している高周波成分が欠落しているので、当該映像を用いて超解像処理を施しても、大きな画質向上は望めない。一方、疑似解像度映像ではないオリジナル解像度映像は高周波成分の欠落が無いので、当該映像を用いて超解像処理を施すと、疑似解像度映像に比べて、より鮮明な映像信号を生成することが可能となる。このように、オリジナル解像度映像を精度良く判定することで、超解像処理の効果をより引き出した高画質映像をユーザに提供することが可能となる。
【0044】
以上、本実施例の内容を説明したが、上述した本実施例の構成及び制御により、映像のジャンルや種別又は特性などによらず、擬似解像度映像であるか否かを判定することができる。疑似解像度映像であるか否か、即ち、オリジナル解像度映像であるか否かを判定することができるので、高画質化処理を行う対象映像として、疑似解像度映像より高画質化処理効果が見込めるオリジナル解像度映像を選択することが可能となる。
【0045】
上述した実施例1では、H.264/SVCで符号化された映像データを前提とした説明を行ったが、本発明は、上記の符号化方式に限定されるものではない。例えば、複数種類の解像度で同一映像が送信されているような形態、例えば、放送波ではHD解像度の映像が送信されており、ネットワーク経由で4K2K解像度の同一映像が送信されているような形態などでも本発明は利用可能である。
【0046】
なお、上述した実施例では、n=Nと、n=N−1の解像度レイヤの比較を行っていた。つまり、比較対象は隣接した解像度同士の比較となっていた。しかし、本発明はこれに限らず、異なる解像度の映像信号を順次比較することで、結果として疑似解像度映像信号とオリジナル解像度映像信号とを判定することが可能である。
【0047】
また、上述した実施例では、最も高い解像度の映像信号から比較判定処理を開始していたが、本発明はこれに限らず、どの解像度の映像信号から比較判定処理を開始してもよい。例えば、図2で示した解像度レイヤにおいて、SD解像度の映像信号とHD解像度の映像信号との比較を最初に行うように構成することも可能である。なお、この場合には、SD解像度とHD解像度のそれぞれの映像信号のヒストグラムの類似度が高いからといって、HD解像度の映像信号がオリジナル解像度映像であるとは限らない。なぜなら、例えば4K2Kの解像度の映像信号がオリジナル解像度映像であると想定した場合、4K2Kの解像度の映像信号からダウンコンバートしてそれぞれ生成したHD解像度及びSD解像度の映像信号のヒストグラムは類似度が高くなるためである。そのため、類似度が高い解像度の映像信号のうち、最も解像度が高い映像信号をオリジナル解像度映像であると判定する処理を実行すれば良い。例えば、SD解像度とHD解像度の映像信号の類似度が高いと判定した場合には、HD解像度よりも高い解像度の映像信号が存在しているか否かを判定する。そして、高い解像度の映像信号が存在している場合には、HD解像度の映像信号と4K2K解像度の映像信号のそれぞれのヒストグラムの類似度を判定する。さらに、4K2K解像度の映像信号と8K4Kの解像度の映像信号のそれぞれのヒストグラムの類似度を判定する。類似度が高いと判定された映像信号のうち、最も高い解像度の映像信号は4K2Kの解像度の映像信号であったので、8K4K解像度の映像信号は疑似解像度映像信号であり、4K2K解像度の映像信号がオリジナル解像度映像信号であると判定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の解像度の映像信号が、当該解像度よりも低い解像度の映像信号から生成された疑似解像度映像信号であるか否かを判定する映像処理装置であって、
同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、第1の解像度の映像信号に係る第1の周波数ヒストグラムを生成する第1の生成手段と、
同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、前記第1の解像度よりも低い第2の解像度の映像信号に係る第2の周波数ヒストグラムを生成する第2の生成手段と、
前記第1の周波数ヒストグラムと前記第2の周波数ヒストグラムとを比較し、当該第1の周波数ヒストグラムと当該第2の周波数ヒストグラムの類似度を所定の数式を用いて算出する算出手段と、
前記類似度と所定の閾値とを比較し、前記類似度が前記所定の閾値以下の場合には、前記第1の解像度の映像信号は疑似解像度映像信号であると判定する判定手段と、
を有することを特徴とする映像処理装置。
【請求項2】
任意の解像度の映像信号に対して、当該映像信号の空間周波数を向上させる解像度変換処理を実行する処理手段を有し、
前記判定手段は、前記類似度が前記所定の閾値より高い場合であり、かつ前記第1の解像度の映像信号よりも高い解像度の映像信号が存在しない場合には、前記第1の解像度の映像信号をオリジナル解像度映像信号であると判定し、
前記処理手段は、前記オリジナル解像度映像信号として判定された映像信号に対して空間周波数を向上させる解像度変換処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の映像処理装置。
【請求項3】
所定の解像度の映像信号が、当該解像度よりも低い解像度の映像信号から生成された疑似解像度映像信号であるか否かを判定する映像処理装置の制御方法であって、
同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、第1の解像度の映像信号に係る第1の周波数ヒストグラムを生成するステップと、
同一内容の映像信号で、かつ、複数の異なる解像度の映像信号のうち、前記第1の解像度よりも低い第2の解像度の映像信号に係る第2の周波数ヒストグラムを生成するステップと、
前記第1の周波数ヒストグラムと前記第2の周波数ヒストグラムとを比較し、当該第1の周波数ヒストグラムと当該第2の周波数ヒストグラムの類似度を所定の数式を用いて算出するステップと、
前記類似度と所定の閾値とを比較し、前記類似度が前記所定の閾値以下の場合には、前記第1の解像度の映像信号は疑似解像度映像信号であると判定するステップと、
を有することを特徴とする映像処理装置の制御方法。
【請求項4】
任意の解像度の映像信号に対して、当該映像信号の空間周波数を向上させる解像度変換処理を実行するステップを有し、
前記判定するステップでは、前記類似度が前記所定の閾値より高い場合であり、かつ前記第1の解像度の映像信号よりも高い解像度の映像信号が存在しない場合には、前記第1の解像度の映像信号をオリジナル解像度映像信号であると判定し、
前記処理ステップでは、前記オリジナル解像度映像信号として判定された映像信号に対して空間周波数を向上させる解像度変換処理を実行することを特徴とする請求項3に記載の映像処理装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−44868(P2011−44868A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191194(P2009−191194)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】