説明

映像品質推定方法および映像通信システム

【課題】簡単な構成で映像品質を推定する。
【解決手段】映像通信システムは、ユーザ端末11におけるパケットの損失数を測定するパケット損失数測定部5と、パケット損失数と映像信号の品質特性との関係を予め定式化した映像品質推定関数を用いて、測定部5で測定されたパケット損失数からユーザ端末11における映像信号の品質を推定する映像品質推定部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPパケットを用いて映像信号を伝送するビデオオンデマンドやIP放送、テレビ電話やテレビ会議システムなどの映像通信システムに係り、特にサービスや装置の開発時の品質評価と品質設計及び運用時の品質管理において、映像信号を受視聴した際の平均品質特性を推定する映像品質推定方法および映像通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
IPパケットを用いたビデオオンデマンドやIP放送、テレビ電話やテレビ会議システムなどの映像通信では、パケット損失によって受信地点の映像信号の品質が劣化する場合がある。
従来技術では、映像配信サービスやテレビ電話、テレビ会議などの映像コミュニケーションサ−ビスを対象に、損失したパケットから映像品質劣化が継続する映像フレーム数を算出して主観品質を推定する方法が、特許文献1において提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−33722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術では、損失したパケットの生成番号をネットワーク内や受信端末において特定することが前提であり、かつ損失したパケットが属する高能率圧縮符号化時のフレーム種別(I,P,B)およびフレーム発生規則(GOP構造)から映像品質劣化が継続する映像フレーム数を算出する必要があるため、受信端末内外にこれら品質推定機能を備える必要があり、構成が複雑になるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、簡単な構成で映像品質を推定することができる映像品質推定方法および映像通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、パケットを用いて映像信号を伝送する映像通信システムにおいて受信端末における前記映像信号の品質を推定する映像品質推定方法であって、受信端末におけるパケットの損失数を測定する測定手順と、パケット損失数と映像信号の品質特性との関係を予め定式化した映像品質推定関数を用いて、前記測定されたパケット損失数から前記受信端末における映像信号の品質を推定する映像品質推定手順とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の映像品質推定方法の1構成例において、前記映像品質推定手順は、前記映像信号の伝送にパケット誤り訂正が用いられている場合に、前記映像品質推定関数に代入するパケット損失数として、前記測定手順で測定されたパケット損失数からパケット誤り訂正数を引いた実パケット損失数を用いて、前記受信端末における映像信号の品質を推定するようにしたものである。
また、本発明の映像品質推定方法の1構成例において、前記映像品質推定関数は、主観品質評価実験によって得られた、パケット損失数と映像品質の主観値との関係から予め導出されるものである。
また、本発明の映像品質推定方法の1構成例において、前記映像品質推定手順は、前記主観品質評価実験によって得られた定数をa,b,c,d,e、前記パケット損失数をLとしたとき、前記映像信号の品質Qを、Q=a×exp(−L/b)+c×exp(−L/d)+eにより推定するようにしたものである。
また、本発明の映像品質推定方法の1構成例は、前記測定手順と前記映像品質推定手順とを前記受信端末で実行するようにしたものである。
また、本発明の映像品質推定方法の1構成例は、前記測定手順と前記映像品質推定手順とを前記受信端末以外の外部の装置で実行するようにしたものである。
【0007】
また、本発明の映像通信システムは、受信端末におけるパケットの損失数を測定する測定部と、パケット損失数と映像信号の品質特性との関係を予め定式化した映像品質推定関数を用いて、前記測定されたパケット損失数から前記受信端末における映像信号の品質を推定する映像品質推定部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、受信端末におけるパケットの損失数を測定し、パケット損失数と映像信号の品質特性との関係を予め定式化した映像品質推定関数を用いて、前記測定されたパケット損失数から受信端末における映像信号の品質を推定することにより、現在通信中の映像信号の品質を複雑な計算無しに評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。
図1において、1はカメラやVTRなどからなる映像入力装置、2は映像入力装置1から入力された映像信号を符号化してパケット化する映像符号化装置、3は映像符号化装置2から入力されたパケットをIP(Internet Protocol )ネットワーク4を介してユーザ端末11へ送出する映像配信サーバである。
【0010】
ユーザ端末11は、パケット復号化部8と、映像復号化部9と、映像品質推定装置12とを有する。映像品質推定装置12は、パケット損失数測定部5と、品質情報通信部6と、映像品質推定部7とから構成される。
管理端末13は、例えば映像通信システムの管理者によって運営されるものであり、映像品質管理装置10を有する。
【0011】
ユーザ端末11において、パケット復号化部8は、IPネットワーク4を介して受信したIPパケットから符号化データを復号し、映像復号化部9は、この符号化データから映像信号を復号する。
一方、映像品質推定装置12のパケット損失数測定部5は、IPネットワーク4を介して受信したIPパケットの単位時間当たりのパケット損失数をカウントする。パケット損失数測定部5が求めたパケット損失数は、品質情報通信部6を介して映像品質推定部7に送られる。
【0012】
映像品質推定部7には、パケット損失数と映像品質との関係を定式化した映像品質推定関数F1が予め設定されている。この映像品質推定関数F1は、主観品質評価実験により予め定められたものである。映像品質推定部7は、品質情報通信部6を介して入力されたパケット損失数Lを下記の式(1)のように映像品質推定関数F1に代入することで、映像品質Qを推定する。
Q=F1(L) ・・・(1)
【0013】
ここで、映像品質推定関数F1を導出するための主観品質評価実験の実施方法について述べる。主観品質評価実験では、HDTV(High Definition TeleVision)信号をIPパケットを用いて伝送する図2のような通信系を構築した。
この通信系では、HDTVVTR100から出力されたHDTV信号をH.264ハイプロファイルレベル4.0に準拠したH.264符号化装置101で符号化する。映像符号化ビットレートは10Mbps、GOP長は15(0.5秒)である。IPレイヤでの伝送レートは12.36Mbps、IPパケット長は1356byteである。伝送プロトコルとしてRTP(Real-time Transport Protocol)を用いた。
【0014】
続いて、H.264符号化装置101から出力されたデータパケットに対して、前方誤り訂正(Forward Error Correction、以下、FECとする)演算をFEC符号化装置102で行ってFECパケットを追加する。FEC方式としては、ProMPEG FECを用い、10Colum×10Rowによる1次元のエラー訂正を設定した。なお、本エラー訂正設定によりFECパケットを含む連続11個迄のパケット損失が発生しても映像劣化は生じない。FEC設定時のオーバーヘッドは10%で、IP伝送レートは13.60Mbpsとなる。
【0015】
次に、FEC符号化装置102から出力されるIPパケットをネットワークエミュレータ103を使って擬似的に伝送する。このとき、ネットワークエミュレータ103によってパケットに連続損失を発生させる。ネットワークエミュレータ103から出力されたパケットに対してFEC復号化装置104でFEC演算を行って誤り訂正を行い、H.264復号化装置105がFEC復号化装置104から出力されたパケットからHDTV信号を復号し、このHDTV信号をHDTVVTR106に記録する。
【0016】
こうして、HDTVVTR106に記録したHDTV信号を再生し、映像を被験者に見せることにより、主観品質評価実験を行った。映像品質の評価法としては、ITU−R BT.500−11に記載されている主観品質評価方法である、5段階妨害尺度を使用するDSIS(Double Stimulus Impairment Scale)法を用いた。評価用映像は12シーンを用い、各映像シーン長は10秒である。本実験では、24名の非専門家が被験者となった。なお、実験はFECによって誤り訂正した場合と誤り訂正しない場合の両方について行った。
【0017】
この主観品質評価実験によって得られたパケット損失率(単位時間当たりのパケット損失数)と映像品質との対応関係を図3に示す。図3中の個数表記は10秒あたりのパケット損失数を表している。映像品質の主観値Q’は、被験者24名の評点×全映像シーンの平均値であり、パケット損失が発生していない符号化映像の5段階評価値からの低下量を表している。図3の白丸印で示すように、FECによって誤り訂正した場合は、連続11個のパケット損失まで映像品質は低下しないが、12個以上のパケット損失で品質が急激に低下していることが分かる。
【0018】
主観品質評価実験によって得られたデータを基に、例えば下記の式(2)のように映像品質推定関数F1を導出することができる。
Q=F1(L)
=a×exp(−L/b)+c×exp(−L/d)+e ・・・(2)
ここで、a,b,c,d,eは主観品質評価実験によって得られたパケット損失数と映像品質の主観値Q’との関係(以下、この関係を示す実験データを学習データと呼ぶ)から求めた定数、Lは品質情報通信部6を介して入力されるパケット損失数である。なお、FEC使用時のパケット損失数は、エラー訂正できなかった実パケット損失数(パケット損失数測定部5で測定されたパケット損失数からFEC訂正の連続パケット数11を引いた数値)とする。
【0019】
図4は学習データ及び非学習データ(式(2)の導出に用いていない実験データ)に対する式(2)の品質推定精度を示す図であり、映像品質の主観値Q’と推定値Qとの対応関係を示す図である。この図4は、学習データ、非学習データ共に、パケット損失数Lを式(2)に代入して映像品質の推定値Qを計算し、この推定値Qと被験者が評価した主観値Q’との関係を求めたものである。
【0020】
非学習データに対する主観値Q’と推定値Qとの2乗平均平方根誤差(RMSE)0.153は、各劣化映像サンプルの主観値の95%信頼区間の平均値0.314以下である。また、主観値Q’と推定値Qの相関係数は0.975である。このように、式(2)の映像品質推定関数F1によれば、パケット損失数Lから映像信号の平均品質特性を高精度に推定できることが分かる。
【0021】
次に、映像品質推定部7は、式(2)により求めた映像品質の推定値Qを品質情報通信部6へ送付する。映像情報通信部6は、この推定値QをIPネットワーク4を介して管理端末13の映像品質管理装置10へ送付する。映像品質管理装置10では、推定値Qをユーザ端末11へ送る映像信号の品質評価に用いることができる。
こうして、本実施の形態では、簡単な構成で映像品質を推定することができる。なお、映像品質推定関数F1は式(2)に限るものではなく、パケット損失数と映像品質との関係を適切に表現できるものであれば、他の式でもよいことは言うまでもない。
【0022】
[第2の実施の形態]
図5は本発明の第2の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。第1の実施の形態では、ユーザ端末11に映像品質推定装置12を設けていたが、本実施の形態では、ユーザ端末21の外部に映像品質推定装置22を設けている。映像品質推定装置22は、映像配信サーバ3からIPネットワーク4を介して受信したIPパケットをユーザ端末21に送るが、その他の動作は映像品質推定装置12と同じである。本実施の形態では、ユーザ端末21の外部に映像品質推定装置22を設けることにより、既存のユーザ端末21を改変することなく、映像品質を推定することが可能となる。
【0023】
[第3の実施の形態]
図6は本発明の第3の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。第1の実施の形態では、ユーザ端末11に映像品質推定部7を設けていたが、本実施の形態では、管理端末33に映像品質推定部37を設けている。
【0024】
ユーザ端末31内の品質情報送信装置34において、品質情報通信部36は、パケット損失数測定部5が求めたパケット損失数の情報をIPネットワーク4を介して管理端末33内の映像品質推定部37へ送付する。映像品質推定部37は、映像品質推定部7と同様にして映像品質の推定値Qを求め、この推定値Qを映像品質管理装置10へ送付する。本実施の形態では、管理端末33内に映像品質推定部37を設けることにより、既存のユーザ端末31内部に映像品質推定部37を付加することなく、映像品質を推定することが可能となる。
【0025】
[第4の実施の形態]
図7は本発明の第4の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。第1の実施の形態では、ユーザ端末11内部に映像品質推定装置12を設けていたが、本実施の形態では、ユーザ端末41の外部に品質情報送信装置44を設け、管理端末43に映像品質推定部47を設けている。
【0026】
品質情報送信装置44は、映像配信サーバ3からIPネットワーク4を介して受信したIPパケットをユーザ端末41に送るが、その他の動作は品質情報送信装置34と同じであり、品質情報通信部46は、パケット損失数測定部5が求めたパケット損失数の情報をIPネットワーク4を介して管理端末43内の映像品質推定部47へ送付する。映像品質推定部47は、映像品質推定部7と同様にして映像品質の推定値Qを求め、この推定値Qを映像品質管理装置10へ送付する。本実施の形態では、既存のユーザ端末41内部に映像品質推定部47を付加することなく、映像品質を推定することが可能となり、さらに映像品質推定部47を管理端末43内部に設けることで、エンドユーザ側に設置する機能を軽減し、低コスト化を図ることが可能となる。
【0027】
なお、第1〜第4の実施の形態におけるユーザ端末11,21,31,41、管理端末13,33,43、映像品質推定装置22、及び品質情報送信装置44は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第4の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、映像通信システムにおいて受信端末における映像信号の品質を推定する技術に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態において映像品質推定関数の導出に用いた通信系の構成を示すブロック図である。
【図3】主観品質評価実験によって得られたパケット損失率と映像品質との対応関係を示す図である。
【図4】映像品質の主観値と推定値との対応関係を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る映像通信システムの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0030】
1…映像入力装置、2…映像符号化装置、3…映像配信サーバ、4…IPネットワーク、5…パケット損失数測定部、6,36,46…品質情報通信部、7,37,47…映像品質推定部、8…パケット復号化部、9…映像復号化部、10…映像品質管理装置、11,21,31,41…ユーザ端末、12,22…映像品質推定装置、13,33,43…管理端末、34,44…品質情報送信装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パケットを用いて映像信号を伝送する映像通信システムにおいて受信端末における前記映像信号の品質を推定する映像品質推定方法であって、
受信端末におけるパケットの損失数を測定する測定手順と、
パケット損失数と映像信号の品質特性との関係を予め定式化した映像品質推定関数を用いて、前記測定されたパケット損失数から前記受信端末における映像信号の品質を推定する映像品質推定手順とを備えることを特徴とする映像品質推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の映像品質推定方法において、
前記映像品質推定手順は、前記映像信号の伝送にパケット誤り訂正が用いられている場合に、前記映像品質推定関数に代入するパケット損失数として、前記測定手順で測定されたパケット損失数からパケット誤り訂正数を引いた実パケット損失数を用いて、前記受信端末における映像信号の品質を推定することを特徴とする映像品質推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の映像品質推定方法において、
前記映像品質推定関数は、主観品質評価実験によって得られた、パケット損失数と映像品質の主観値との関係から予め導出されることを特徴とする映像品質推定方法。
【請求項4】
請求項3記載の映像品質推定方法において、
前記映像品質推定手順は、前記主観品質評価実験によって得られた定数をa,b,c,d,e、前記パケット損失数をLとしたとき、前記映像信号の品質Qを、Q=a×exp(−L/b)+c×exp(−L/d)+eにより推定することを特徴とする映像品質推定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の映像品質推定方法において、
前記測定手順と前記映像品質推定手順とを前記受信端末で実行することを特徴とする映像品質推定方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の映像品質推定方法において、
前記測定手順と前記映像品質推定手順とを前記受信端末以外の外部の装置で実行することを特徴とする映像品質推定方法。
【請求項7】
パケットを用いて映像信号を伝送する映像通信システムであって、
受信端末におけるパケットの損失数を測定する測定部と、
パケット損失数と映像信号の品質特性との関係を予め定式化した映像品質推定関数を用いて、前記測定されたパケット損失数から前記受信端末における映像信号の品質を推定する映像品質推定部とを備えることを特徴とする映像通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−211579(P2008−211579A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47056(P2007−47056)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】