説明

時効後の耐クリープ性にすぐれたNb含有オーステナイト系耐熱鋼

【課題】Nb含有オーステナイト系耐熱鋼において、鋳造後の高温加熱時にシリサイドの生成を可及的に抑制し、時効後の耐クリープ性の向上を図る。
【解決手段】質量%にて、C:0.3〜0.7%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Cr:23〜40%、Ni:23〜50%、Nb:0.1〜1.5%、並びに、Ce、La及びNdを主体として含む希土類元素:0.06〜0.4%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式:
P=28.2×C+4.06×Si+0.49×Cr+0.28×Ni+6.21×Nb-48.3×(Ce+La+Nd)
で表されるパラメータPの値が30〜43の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン製造用反応管、GTL用耐メタルダスティング管、ラジアントチューブ等の材料として好適なNb含有オーステナイト系耐熱鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン製造用反応管等のように高温に長時間さらされる鋳造品の材料として、クリープ変形能の高いNbを含有するオーステナイト系耐熱鋼が好適に用いられている(特許文献1乃至特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−122051号公報
【特許文献2】特開平6−228712号公報
【特許文献3】特開2001−247940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Nb含有オーステナイト系耐熱鋼は、鋳造したままの状態では、炭化物(Cr73、NbC等)とオーステナイト相とからなる組織であるが、高温に加熱されると、硬くて脆いNb−Ni−Si系シリサイドが生成され、補修溶接性の低下やクリープ伸びが助長される問題があった。
本発明の目的は、鋳造後の高温加熱時にシリサイドの生成が可及的に抑制されるNb含有オーステナイト系耐熱鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のオーステナイト系耐熱鋼は、質量%にて、C:0.3〜0.7%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Cr:23〜40%、Ni:23〜50%、Nb:0.1〜1.5%、並びに、Ce、La及びNdを主体として含む希土類元素:0.06〜0.4%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式:
P=28.2×C+4.06×Si+0.49×Cr+0.28×Ni+6.21×Nb-48.3×(Ce+La+Nd)
で表されるパラメータPの値が30〜43の範囲である。なお、上記式中、各元素の数値は質量%である。
【0006】
前記耐熱鋼は、質量%にて、W:3.0%以下、Ti:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%のうちの少なくとも1種をさらに含有することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のNb含有オーステナイト系耐熱鋼は、高温加熱後におけるNi、Si、Nb、Crの一次粒界への移動が抑えられように成分調整されているから、シリサイドの生成が可及的に抑制されるので、時効後においてすぐれた耐クリープ性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、発明例No.3の金属組織の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、発明例No.6の金属組織の顕微鏡写真である。
【図3】図3は、発明例No.7の金属組織の顕微鏡写真である。
【図4】図4は、比較例No.101の金属組織の顕微鏡写真である。
【図5】図5は、比較例No.102の金属組織の顕微鏡写真である。
【図6】図6は、比較例No.106の金属組織の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の鋳鋼品を構成する耐熱鋼の成分限定理由は次の通りである。なお、「%」は、全て質量%で表している。
【0010】
C:0.3〜0.7%
Cは、凝固時において、結晶粒界に炭化物としてCr73やNbCを形成してクリープ破断強度を高める。900℃以上の高温用途でのクリープ破断強度を確保するために、0.3%以上は必要である。0.7%を超えると室温引張延性の低下が大きくなるため、上限を0.7%に規定する。なお、Cの含有量は、0.4〜0.6%がより望ましい。
【0011】
Si:2.5%以下
Siは溶鋼の流動性を高め、耐浸炭性を向上させる元素である。Siは、含有量の増加と共に耐浸炭性の向上に有効であるが、含有量があまり多くなると、高温使用中にシリサイドの生成を助長し、クリープ伸びを増大させるため、2.5%を上限とする。なお、Siの含有量は、1.0〜2.0%がより望ましい。
【0012】
Mn:2.5%以下
MnはSを固定して溶接性を向上させる。また、Siと同様に脱酸作用を有する。Mnが2.5%を超えると高温でのクリープ破断強度が低下するため、上限を2.5%にする。なお、Mnの含有量は、0.8〜1.6%がより望ましい。
【0013】
Cr:23〜40%
Crは、含有量の増加と共に耐酸化性が向上する。900℃以上の使用温度において耐酸化性を確保するためには少なくとも23%以上含有させる必要がある。一方、含有量が40%を超えるとクリープ伸びが増大するため、上限を40%に規定する。なお、Crの含有量は23〜35%がより望ましい。
【0014】
Ni:23〜50%
Niはオーステナイト相を安定にし、耐酸化性及び高温強度を向上させる。900℃以上の使用温度を考慮すると、少なくとも23%以上含有させる必要がある。しかし、50%を超えて含有しても高温強度の向上は望めないため、50%を上限とする。なお、Niの含有量は28〜45%がより望ましい。
【0015】
Nb:0.1〜1.5%
Nbは、クリープ破断強度の向上に寄与するので、少なくとも0.1%以上含有させる。一方、Nbは、含有量が多くなると、高温においてシリサイド生成に関与して、クリープ破断強度の低下及びクリープ伸びの増加につながるので上限を1.5%に規定する。なお、Nbの含有量は0.5〜1.5%がより望ましい。
【0016】
希土類元素:0.06〜0.4%
希土類元素とは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、YとScを加えた17種類の元素を意味するが、本発明の耐熱鋼に用いる希土類元素は、Ce、La、Ndが主体であり、これら3元素が約80%以上を占め、好ましくは約90%以上を占める。
Ce、La、Ndは、高温においてNiやSiの粒界への移動を抑制する働きがあり、これによってNb−Ni−Si系シリサイドの生成が抑制される。この効果を得るために、Ce、La、Ndを主体として含む希土類元素を0.06%以上含有させる。しかし、0.4%を超えて含有すると、クリープ伸びの増加を招く。また、鋳造時に酸化物を生成して鋼の清浄度を大きく低下させることになる。このため、上限は0.4%とする。
【0017】
W:3.0%以下
Wはマトリックスに固溶してクリープ破断強度の向上に寄与するので、必要に応じて含有させることができる。なお、含有量が3.0%を超えるとクリープ伸びが大きくなるので、上限は3.0%とする。
【0018】
Ti:0.01〜0.3%及び/又はZr:0.01〜0.3%
Ti、Zrは、脱酸作用を有し、希土類元素の歩留まり向上に寄与し、クリープ破断強度の向上効果を有する。このため、必要に応じて、0.01%以上含有させることができる。なお、含有量が0.3%を超えると延性が低下するので、上限は0.3%とする。なお、両元素を含有する場合でも、合計含有量は0.3%以下とすることが好ましい。
【0019】
本発明のオーステナイト系耐熱鋼は、上記合金成分を含み、残部Feであるが、鋼の溶製時に不可避的に混入するP、Sその他の不純物は、この種の鋼材に通常許容される範囲であれば存在しても構わない。
【0020】
パラメータP:30〜43
本発明のオーステナイト系耐熱鋼は、次式で表されるパラメータPの値が30〜43である。
式:P=28.2×C+4.06×Si+0.49×Cr+0.28×Ni+6.21×Nb-48.3×(Ce+La+Nd)
なお、上記式中、C、Si、Cr、Ni、Nb、Ce、La、Ndには、各元素の質量%の数値を代入する。
【0021】
上記パラメータ式の意義について説明する。
Nb含有オーステナイト系耐熱鋼は、鋳造の際、NbCが一次結晶粒界に晶出する。
このNbCは、高温に加熱されると、比較的短時間のうちにNbとCに分解される。Cはオーステナイト相に放出され、Cr炭化物(Cr236)を形成するが、Nbは粒内に移動することなくその場にとどまる。そこへオーステナイト中のNiやSiが移動してくるため、時間の経過と共に安定なNb−Ni−Si系シリサイドが生成されることになる。
このように、シリサイドの生成には、一次炭化物を生成するC、Cr、Nb及びオーステナイト中に含まれるNi、Siが深く関わっている。
【0022】
発明者らは、オーステナイト中に固溶したCe、La、Ndは、NiやSiの一次粒界への移動を阻害する作用のあることを見出した。そこで、これら元素と含有量との関係を解析し、上記パラメータ式を得たものである。
なお、パラメータP値の範囲を30〜43に規定したのは、後記する実施例において、パラメータPの値が30.1〜42.7の範囲内のときに、シリサイドの生成は観察されず、その結果としてすぐれた耐クリープ性を具備できることがわかったためである。
【実施例】
【0023】
高周波誘導溶解炉の大気溶解により、溶湯を溶製し、金型遠心力鋳造により、表1に示される組成を有する供試管(外径146mm、肉厚22mm、長さ270mm)を鋳造した。
なお、希土類元素については、Ce、La、Ndが合計量で90%以上含まれるものを使用し、表1には、Ce、La、Ndの合計量のみを記載した。
【0024】
<シリサイドの観察>
シリサイドの有無を調べるために、前記供試管から試験片(幅20mm、長さ30mm、厚さ10mm)を作製し、1150℃、500時間の時効処理を施した後、10N(規定)のKOH溶液中で電解腐食を行ない、シリサイド生成の有無を光学顕微鏡で観察した。試験結果を表1に示している。
【0025】
<クリープ伸び試験>
クリープ伸びを調べるために、前記供試管から、平行部径6mm、標点間距離24mmの試験片を作製した。各試験片について、1100℃、1500時間の時効処理を行なった後、JISZ2271に準拠して、1100℃、16.5MPaの試験条件にてクリープ伸び試験を実施した。試験結果を表1に示している。
【0026】
【表1】

【0027】
供試No.1〜No.7は発明例である。
No.1〜No.7にはシリサイドの生成は観察されなかった。クリープ伸びは、最大のNo.3でも23%であり、良好な耐クリープ性を示した。
【0028】
供試No.101〜No.111は比較例である。
No.101〜No.105は、希土類元素を含まず、パラメータPの値が本発明の規定から外れる例であり、シリサイドの生成が観察された。これら比較例のクリープ伸びは最小のNo.101でも34%であり、発明例よりも大きい。
No.106は、パラメータPの値は本発明の規定の範囲内であるが、Cが本発明の規定より少なく、希土類元素を含まない例である。シリサイドの生成が観察され、クリープ伸びは発明例よりも大きい。
No.107は、Nbが本発明の規定より多く、希土類元素を含まず、パラメータPの値が本発明の規定から外れる例である。シリサイドが生成され、クリープ伸びも大きい。
No.108は、Siが本発明の規定より多く、希土類元素を含まず、パラメータPの値が本発明の規定から外れる例である。シリサイドが生成され、クリープ伸びも大きい。
No.109及びNo.110は、パラメータPの値のみが本発明の規定から外れる例である。シリサイドが生成され、クリープ伸びも大きい。
No.111は、パラメータPの値は本発明の規定の範囲内にあるが、希土類元素が本発明の規定より多い例である。シリサイドは生成されなかったが、クリープ伸びが35%もあり、発明例よりも大きい。
【0029】
図1〜図3は発明例、図4〜図6は比較例の金属組織の顕微鏡写真を示したもので、図1はNo.3、図2はNo.6、図3はNo.7、図4はNo.101、図5はNo.102及び図6はNo.106に関するものである。
KOH溶液中での電解腐食により、シリサイドは着色されるが、炭化物は着色されないので、シリサイドと炭化物との識別が可能である。写真中、濃く現れている部分がシリサイド(Nb−Ni−Si系)であり、細長く又は楕円形状で比較的薄く現れている部分が一次Cr炭化物(Cr236)である。また、オーステナイト中に細かく分散している粒子は加熱によって析出した二次Cr炭化物(Cr236)である。
【0030】
図4〜図6の比較例ではシリサイドの生成が観察された。シリサイドは硬くて脆い化合物であるから、シリサイドの生成が、高温での時効後におけるクリープ伸びの増大に到るものと考えられる。
本発明の耐熱鋼は、高温で時効された後、シリサイドは生成されることなく、すぐれた耐クリープ性を享受することができる。また、マトリックス中に残存するNi、Si、Nb、Crが時間の経過を経て二次Cr炭化物や二次Nb炭化物を析出するので、時効後におけるクリープ変形抵抗がより一層高められる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のNb含有オーステナイト系耐熱鋼は、時効後の耐クリープ性にすぐれており、エチレン製造用反応管、ガラスロール、ハースロール、コンダクターロール、空気伝熱管、GTL(Gas to Liquids)用メタルダスティング管、硫黄分の多い雰囲気下で使用される高温用耐食管、浸炭炉用ラジアントチューブとして適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、C:0.3〜0.7%、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、Cr:23〜40%、Ni:23〜50%、Nb:0.1〜1.5%、並びに、Ce、La及びNdを主体として含む希土類元素:0.06〜0.4%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式:
P=28.2×C+4.06×Si+0.49×Cr+0.28×Ni+6.21×Nb-48.3×(Ce+La+Nd)
で表されるパラメータPの値が30〜43の範囲である、時効後の耐クリープ性にすぐれたオーステナイト系耐熱鋼。
【請求項2】
W:3.0%以下を含有している請求項1のオーステナイト系耐熱鋼。
【請求項3】
Ti:0.01〜0.3%及び/又はZr:0.01〜0.3%を含有している請求項1又は請求項2のオーステナイト系耐熱鋼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236010(P2010−236010A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84624(P2009−84624)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)