説明

時間の経った赤血球の輸血に伴う副作用を改善するための方法

本発明は、とりわけ、鉄キレート剤を使用した、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するための方法を提供する。そういった副作用を改善するための器具およびキットもまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
2009年6月16日付で出願された米国特許仮出願番号第61/187,600号および2009年8月31日付で出願された米国特許仮出願番号第61/275,579号に対する本出願の利益を主張する。前記両出願の内容全体を、すべてが本明細書中に引用されているかのように本明細書中に援用する。
【0002】
政府による資金提供
本願発明は、米国立衛生研究所によって支給された助成金番号第R21 HL087906号の下、政府の支援を得て作成された。政府は本発明に特定の権利を有する。
【0003】
本発明の分野
本発明は、とりわけ、鉄キレート剤を使用した、時間の経った(aged)赤血球の急性輸血(acute transfusion)に伴う副作用を改善するための方法、キット、および組成物に向けられる。
【背景技術】
【0004】
本発明の背景
合衆国では毎年、約1400万単位の袋詰めされた赤血球(red blood cell)(RBC)が輸血されている[1]。加えて、集中治療室(ICU)は全病床の10%を占め、毎年440万人のアメリカ人が集中治療質に収容され[2]、そして44%のICU患者には彼らの入院中に少なくとも1RBC単位(平均4.6単位)が輸血される[3]。これらの単位の輸血前の平均保存期間は17日間である[1]。いくつかの観察研究[4−9]および大規模無作為前向き臨床研究[10]は、輸血自体が重症患者の罹患率や死亡率、すなわちRBCの保存期間に伴って増大する影響を高めることを示唆している。観察研究では、死亡率[7、11−13]、重篤疾患[7、12、14]、多臓器不全[12、15]、および入院期間[7、13]の増加が、重症患者における古い保存RBCの輸血と相関していた。最近、約6000人の心臓手術患者の後ろ向き試験では、14日未満しか保存していないRBCを輸血した患者に対して、14日超保存したRBCを輸血した患者の院内死亡率、敗血症(sepsis)/菌血症を伴う敗血症(septicemia)、および1年死亡率の有意に高い比率を確認した[12]。異論はあるが[16]、これらの研究では古い保存RBCの輸血の有効性について根本的な疑問を投げ掛けている;加えて、高められた罹患率や死亡率に関与する機構は、大部分が分かっていない[17]。
【0005】
もっとも、使用する、合衆国で輸血されたRBC単位の>70%が白血球除去されている(すなわち、3−log10個の白血球の低減を達成するように濾過されている)にもかかわらず[1]、輸血の副作用を記録しているほとんどの研究で、非白血球除去RBCを使用した。機構(単数又は複数)は分かっていないが、一部の副作用はRBC単位内への白血球の混入に起因する可能性もある[18]。しかしながら、Kochらによる最近の研究[12]では「より古い」保存RBC群の患者の大多数に白血球除去RBCが与えられていた。加えて、白血球除去RBCのみが与えられた外傷患者に関する最近のある研究では、より古い保存単位の輸血が死亡率、腎不全、および肺炎の増加に関連した[19]。よって、白血球除去は保存RBCの副作用を排除することはないが、そのことが副作用の重症度を低減する可能性はある。
【0006】
RBCの機能や生存を低減する、インビトロでの保存中に起こる生物化学的および生体力学的変化は、まとめて「RBC保存損傷」として知られている[17]。これらには、ATPの減少[20]、2,3−ジホスホグリセリン酸の減少[21]、膜胞化[22]、タンパク質および脂質の酸化[23、24]、低いS−ニトロソヘモグロビン[25]、低い表面シアリル化[26]、低いCD47発現[27]、高いホスファチジルセリン露出[28]、および低い変形能[29]が含まれる。これらのうちのいくつかは、保存中に白血球が存在しているときに悪化する[30]。加えて、RBC損傷は、長い保存期間が上清中の高い非トランスフェリン結合鉄レベルにつながることによって誘発された[31]。
【0007】
そのため、食品医薬品局(FDA)は、保存RBCの最大安全保存期限が細胞の完全性の維持(すなわち、遊離ヘモグロビンがRBC単位中の総ヘモグロビンの<1%でなければならない)および輸血後の十分な24時間RBC生存(survival)(75%)を必要とすることを義務付けたが;しかしながら、これらは治療的有用性の代用マーカーである[17]。保存料次第で、最大ヒトRBC保存期間は35〜42日間になる。保存損傷は複雑であり、輸血後の低いRBC生存に関与する機構(単数もしくは複数)に関して不確定要素が残っているが、最終的には保存期間が延びるほど輸血RBCの24時間生存が低下している。期限切れ時点で、平均すると輸血RBCの≧75%が24時間生存していなければならないというFDAの要件にもかかわらず、ほとんどの研究において標準偏差が大きく、問題を含んでいる[32]。実際には、24時間生存は、多くの輸血に関して<75%である[32、33]。加えて、ほとんどのRBCクリアランスが輸血後1時間のうちに起こる[33]。1ヒトRBC単位には220〜250mgの鉄が含まれている。よって、単一単位であったとしても最大25%の急なRBCクリアランスは、単球−マクロファージ系にかなりのヘモグロビン鉄負荷を急激にかける。最後に、FDA承認取得のためのRBC生存試験は健常ボランティアにて通常実施されるが、輸血後24時間のRBC生存は重症患者ではなおさら低い[33、34]。よって、このことが、除去される約25%のRBCを正常に機能しない宿主防衛の考えられる原因として研究することに重きを置くべきだと一部の人々に示すに至った[30]。
【0008】
インビトロにおけるRBC保存損傷の正味の影響は、インビボにおける急速なクリアランスである。なかにはRBC単位の輸血が>25%のクリアランスを結果的にもたらし得るものもあるが、当業者はFDA承認期限切れの時点でRBCの25%が除去されると考えることもある。平均的な単位には約1.5×1012個のRBCが含まれているが、このことは、4×1011個の非生存RBCが単球−マクロファージ系の約1011個の貪食細胞によって処理されていることを意味する[30]。そのため、この状況では、単球−マクロファージ系に加わる鉄負荷の総量は、わずか1時間の期間内に保存RBC1単位あたり約60mgである[33]。これを総体的に見ると、定常状態の健康成人では、毎日約25mgの鉄(約25mLの老化RBCに由来)が単球−マクロファージ系によって除去されている(すなわち、約1mg/時間)。よって、古い単位の保存RBCの輸血は、鉄を1時間あたりの「用量」として最高60倍増まで急激に供給することがある。約90%の24時間生存を有することがある比較的に新しいRBCの輸血でさえ、顕著な鉄負荷を急激に供給することがあり、多くの患者に複数のRBC単位が与えられている。
【0009】
マウスおよびヒトでの研究の両方が、マクロファージにおいて細胞内鉄の増加が様々な刺激に対する炎症誘発性サイトカイン反応を増強するという概念を裏付けている。鉄が炎症反応を助長する機構は、(H22のヒドロキシルラジカル、すなわち強力な酸化剤への変換を触媒する)フェントン(Fenton)反応への鉄の関与に起因する反応性酸素分子種の産生の増加によると考えられる[35−37]。この変更された酸化還元環境は、腫瘍壊死因子(TNF)−α、インターロイキン(IL)−6、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−1、および単球走化性タンパク質(MCP)−1を含めた炎症誘発性サイトカインの合成と分泌を誘発する[35、36、38、39]。例えば、遺伝性ヘモクロマトーシス、すなわち、ヒト鉄代謝障害では、マクロファージ鉄レベルは減少する。同様に、マウス・ヘモクロマトーシスモデルのマクロファージは、少ない細胞内鉄しか持っていない;興味深いことに、サルモネラ誘発腸炎症はこれらのマウスでは軽減され[40]そしてTNF−αおよびIL−6発現はサルモネラまたはリポポリサッカライド(LPS)に対する応答では減少する。サイトカイン産生を阻害する細胞内鉄減少のこの効果は、野生型マクロファージにおいて細胞浸透性鉄キレート剤を使用することで再生した[40]。対照的に、アルコール性肝疾患のマウス・モデルでは[41]、クッパー細胞で鉄が増加し、そしてTNF−αおよびMIP−1の産生が増加した;これは、鉄キレート化によって止められたが、脾臓摘出によって助長された。後者では、クッパー細胞へのヘモグロビン鉄供給が増加するので、炎症誘発性サイトカイン発現を刺激する鉄の役割を裏付けている。ヒトでもまた、細胞内鉄の減少または増強が、それぞれ関連刺激に対する炎症誘発性サイトカイン発現を減弱または増強する[42]。例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスを患っている患者からの単球は、健常対照者または鉄負荷性貧血を患っている患者と比較して、LPSに対する応答において少ないTNF−αしか産生しない[42]。ここまでで分かるように、サイトカインに対する古い保存RBC輸血の影響を調べているヒトでの研究は、全く報告されていない。それにもかかわらず、高いIL−6およびIL−8レベルが手術患者で輸血後に見られた[43−45];サイトカインレベルは、同種RBCよりむしろ自家RBCを与えられた患者で高いので、この応答が同種免疫機構によるものではないことを示唆している[42]。
【0010】
全身性炎症反応症候群では、過剰炎症反応が敗血性ショックや多臓器不全につながることがあり、それが深刻な罹患率および死亡率を引き起こす[46]。マクロファージはこの現象の中心的役割を果たす、つまり、この応答を開始し、継続させ、そして調節するサイトカインを産生している[46]。運命づけられていないマクロファージの運命はサイトカインによって決定される[47]。古典的経路への分化は1型ヘルパーT細胞の応答によるインターフェロン(IFN)−γ依存性活性化よるが、選択的経路活性化は(2型ヘルパーT細胞のサイトカインである)IL−4およびIL−13による[48、49]。あるいは、選択的活性化マクロファージは、細胞内病原を殺滅することはなく、代償性抗炎症反応症候群において役割を果たし得る[49]。この代償性抗炎症反応症候群は全身性炎症反応症候群を調節する[50]。例えば、(例えば、急性膵炎による)重度の全身性炎症反応症候群を患っているマウスは感染症に感染しやすいが[51]、これは一部にはMCP−1[50]によって在住マクロファージから生み出された選択的活性化マクロファージによる[51]。それらがエフェクター応答の強さを制御しているので、T細胞は炎症において主要な制御的役割を担っている;例えば、制御性T細胞は二次感染と自己免疫応答において重要である[52]。興味深いことに、二次感染の発生は、古い保存RBCの輸血と関連づけられ[12]、そしてRBC自家抗体形成は輸血に関連づけられる[53]。よって、古い保存RBCの輸血によって引き起こされた炎症誘発性発作は、代償性抗炎症応答としてのT細胞サブセットを変更し得る。制御性T細胞もまた選択的活性化マクロファージを誘導するので、それによって、宿主防衛を害する別の経路をもたらす[54]。
【0011】
古い保存RBCの輸血によって供給された細胞外非トランスフェリン結合鉄もまた、病理学的に関連している可能性がある。あるいは、単球−マクロファージ系が大量の鉄を処理する必要によって急に圧倒されれば、非トランスフェリン結合鉄がRBC貪食に続いて血漿中に「あふれ出す」可能性もある。
【0012】
血漿鉄がトランスフェリンによって封鎖されていないときには、非トランスフェリン結合鉄は、酸化的損傷、細胞毒性、および接着分子の発現促進につながる酸化還元反応に参加する可能性がある[55、56]。例えば、ヒトでは、インビボにおける高い血漿非トランスフェリン結合鉄レベルは、可溶性細胞間接着分子(ICAM)−1レベル(活性化内皮細胞のマーカー)の上昇と相関する[57]。加えて、ヒト臍帯静脈内皮細胞と単球を、非トランスフェリン結合鉄を含む培地とインビトロでインキュベートすると、細胞間接着が増加し、血管細胞接着分子(VCAM)−1、ICAM−1、およびE−セレクチンの内皮細胞発現が増加し、ならびにインテグリンα4β1(VCAM−1のリガンド)およびインテグリンαLβ2(ICAM−1のためのリガンド)の単球発現が増加した。興味深いことに、これらの接着効果は細胞浸透性鉄キレート剤や抗酸化剤によって妨げられた。同様に、β−サラセミア患者からの血漿における高い非トランスフェリン結合鉄レベルによってインビトロで誘導された酸化促進剤の効果は、鉄キレート剤を用いてインビボで患者を処置することによって急速に(30分以内に)阻害された[58]。
【0013】
鎌状赤血球症は、米国における重要な医学上の問題であり、そして例えば脳卒中などの合併症の多くが、循環内の様々な細胞型(例えば、RBC、内皮細胞、血小板、および白血球)の間の細胞間接着の増強のせいにされている;加えて、炎症誘発性サイトカインがこの過程で重要である可能性もある[61]。慢性的RBC輸血はこれらの主要な合併症を予防するのに有効である[62]。しかしながら、それらの有効性にもかかわらず、RBC保存期間、洗浄、および/または冷凍保存に関して、鎌状赤血球症におけるRBC輸血に対する行為の徴候に基づく基準が存在しない[63]。よって、RBC輸血が高いレベルの炎症誘発性サイトカインを生じる際に担う役割を検討することが重要である。
【0014】
一部の患者、特に子供は、2〜6週ごとの単純な輸血によって管理できるが、彼らには約30%のヘマトクリットまでしか輸血しないことが推奨される、さもなければ、高い粘度のために合併症が起こる可能性がある[64、65]。この状況において、ヘモグロビンSレベルは10〜20%のままなので、患者は(例えば、高い網状赤血球算定によって証明される)低レベルの継続的な溶血反応を示す。よって、実質的に改善している予後にもかかわらず、彼らは継続的な溶血状態のままである。加えて、鎌状赤血球症には、おそらく継続的な低酸素症再潅流傷害による慢性炎症性障害の顕著な特徴がある[66−69]。そのため、鎌状赤血球症の患者はサイトカイン、例えばIL−6などが高いレベルになり得るが[70、71]、それらの慢性的な根本的溶血反応と継続的な炎症誘発状況は、逆説的に、正常レベルの他の炎症性メディエーターを伴う可能性があり、おそらく代償性機構、例えばヘム・オキシゲナーゼ−1などの上方制御による[67、71]。これらの現象は、その後の鉄媒介性発作に対するいくつかの関連保護を提供し得る。そのような「関連保護」は、マウスのLPSへの暴露前にその後のLPS暴露に対して「寛容性」を誘導するという知見に類似していることもある[72、73]。
【0015】
鎌状赤血球症と同様に、β−サラセミア患者もまた、慢性的輸血療法の利益を得る[74]。加えて、彼らは慢性炎症状態の兆候を示すこともあるが[75]、彼らは通常、低レベルの循環炎症誘発性サイトカインを有している[71、76]。これは、慢性的に輸血を受けている個体における低レベルの継続的な溶血反応を反映し得る、および/または疾患の根本的な病態生理学、例えば無効な赤血球産生の増加などに関連し得る。
【0016】
複数回のRBC輸血により、これらの患者は、最終的には心臓、肝臓、および内分泌機能不全に至る柔組織の鉄過負荷を患う[74]。そのため、彼らはキレート剤で処置されて、慢性的な実質鉄過負荷を予防する。鉄キレート化はさらに、RBC輸血に続いて起こるこれらの患者の循環非トランスフェリン結合鉄レベルも調節し得るが[77、78]、このことは詳細に研究されていない。確かに、継続的なキレート療法にもかかわらず、一部の慢性的に輸血を受けている鎌状赤血球症およびβ−サラセミア患者において循環非トランスフェリン結合鉄レベルが高いままであることは興味深い[71、79];RBC輸血はこれらの疾患状況では非トランスフェリン結合鉄をさらに増強する可能性もある。
【0017】
袋詰めされたRBC単位の上清には輸血後の有害転帰、例えば(特に非白血球除去状況において)アレルギーや熱性輸血反応などにつながる生物学的に活性な成分が含まれている可能性もあるので、洗浄RBCが血色素病を患っている患者の処置のために優れた製品を提供すると一部の人々は考えている[63]。洗浄RBC単位は、関連作業やそれらの短い24時間の期限切れのため、血液バンクにとって提供するのが厄介であるが、密閉系を使用した新しい方法は、洗浄RBCをかなり長期間保存できるようにする[80]。しかしながら、後者の場合には、インビトロにおけるRBC品質に関するパラメーターが洗浄ステップ後の延びた保存に伴って劣化し[80]、24時間RBC生存もまた影響を受ける可能性があることを示唆している。
【0018】
慢性的に輸血を受けている血色素病患者は複数の血液型抗原に同種免疫されるようになる可能性があるが、予想される表現型マッチングにより、それは過去に比べて起こる頻繁が低い[81]。それにもかかわらず、この状況において、患者は、受けることが難しい、少ない単位の輸血を必要とすることもある。その結果、血液センターは、特定の抗原表現型を有する複数の冷凍保存RBC単位をストックし、その後、それがこれらの患者の輸血に使用される[63]。しかしながら、冷凍保存RBCは、特にそれらがインビトロにおいて4℃にて著しく長い時間保存された後に冷凍されたか、または著しく長い時間インビトロにおいて4℃にて解凍後保存された場合には、輸血後の最適な24時間生存に比べて低下する可能性がある[27、82−84]。とはいえ、冷凍保存RBC単位の脱グリセリン化は大規模な洗浄を伴い、洗浄RBCに関して先に記載したのと同様に、そのことが上清中の物質による輸血の副作用を改善し得る。
【発明の概要】
【0019】
前記を考慮すると、輸血、特に急性輸血に時間の経ったRBCを使用することに関して先に述べた不利益を改善するための方法、キット、および組成物を供給することは有益であろう。本発明は、とりわけ、そういった方法、キット、および組成物を供給することに向けられる。
【0020】
発明の概要
本発明の一実施形態は、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するための器具(apparatus)である。その器具は、前記組成物と無菌状態で接触する内部表面および有効量の鉄キレート剤を含んでなる。
【0021】
本発明の他の実施形態は、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するためのキットである。そのキットは、鉄キレート剤を直接組成物に、血液製剤関連器具に、またはそれを必要としている患者に投与する方法についての使用説明書が共に包装された、有効量の鉄キレート剤を含むコンテナを含む。
【0022】
本発明の更なる実施形態は、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するための方法である。この方法は、時間の経った赤血球のマクロファージ食作用によって放出された鉄をキレートすることができる鉄キレート剤を供給することを含み;ここで、そのキレート剤が患者の副作用を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】保存RBCの輸血の効果のための本発明による提案機構を示す。
【図2】新しいRBCと保存したRBC生存を示す。概略すると、C57BL/6マウスに、クエン酸リン酸デキストロースアデニン(CPDA−1、50%のヘマトクリットにて100μL;3〜5匹のマウス/群)中に保存した白血球除去RBCを、51Cr標識した新鮮な状態(三角)、2週間目(四角;図2A)、または3週間目(四角;図2B)で輸血した。眼窩後方の血液を、ミクロヘマトクリット管により輸血の直後、ならびに1、2、および24時間後に採血した。これらを遠心分離し、そして袋詰めされたRBC柱の高さを計測した。生存(survival)を、それぞれの時点対直後の時点のRBC柱の高さ1mmあたりの1分あたりのカウントの比に100を掛けて算出した。
【図3】保存RBCの輸血後の用量−血漿炎症誘発性サイトカインレベルの応答増大を示す。概略すると、C57BL/6マウスに、低用量(すなわち、200μL:「1単位」)または高用量(400μL:「2単位」)にて新鮮またはCPDA−1中に保存した2週間目の白血球除去RBCを輸血した。25gのマウスには2mLの血液量があるので、RBCを50%のヘマトクリットにて輸血したという仮定に基づいて、マウスの200μLが、袋詰めされたヒトRBCの1単位に相当すると決定した。マウスを輸血の2時間後に放血させ、そして血漿サイトカインレベルを多重フローサイトメトリーアッセイ(Flex kit、BD)を使用して計測した。サイトカインレベル(±SEM)を示し、そして条件をパネルの下に示す(MCP−1(左のパネル);IL−6(右のパネル))。*は未処理マウスと比較したp<0.05を示す。**は無処置マウスおよび低用量の保存RBC輸血処置マウスと比較したp<0.05を示す。
【図4】インビボにおけるクッパー細胞による赤血球貪食を示す。概略すると、C57BI/6マウスに、3週間保存したRBCまたは新鮮なRBCを輸血した。剖検を輸血の2時間後に実施し;肝臓切片をヘマトキシリンおよびエオジンで染色し、次いで光学顕微鏡検査によって調べた。保存RBCを輸血したマウスの代表的な像において、約4個の貪食されたRBCを持ったクッパー細胞を矢印で示す。
【図5】全鉄が、保存RBCを輸血したマウスの肝臓、脾臓、および腎臓で有意に増加していることを示す。概略すると、C57BL/6マウスに、新鮮なRBC(400μL−白色の棒)またはCPDA−1(50%のヘマトクリットにて400μL;1群あたり13匹のマウス)中に保存した2週間目のRBC(灰色の棒)を輸血した。マウスを輸血の2時間後に屠殺し、そして全鉄を、肝臓、脾臓、および左腎で湿式灰化法を使用して計測した。棒は、対照非輸血マウスと比較した全鉄増加を示す(*は新鮮なRBCと保存RBCの輸血を比較した両側スチューデントt検定におけるp<0.05を表す)。
【図6】炎症誘発性応答には無傷の保存RBCの輸血が必要であることを示す。概略すると、C57BL/6マウスに、2週間保存したRBC(保存;400μL)、10倍量の通常の生理的食塩水で3回洗浄した2週間保存したRBC(ペレット;400μL)、上清(400μL)、または2週間保存したRBC由来のRBCゴースト(400μL)を輸血した。マウスを輸血の2時間後に屠殺し、そして血漿サイトカインレベルを、多重フローサイトメトリーアッセイを使用して計測した(MCP−1(左のパネル);IL−6(右のパネル))。平均サイトカインレベルを示し(±SEM)、そして条件をパネルの下に示す。*は2週間保存したRBCを輸血したマウスと比較したp<0.05を示す。
【図7】保存RBCの輸血が、非トランスフェリン結合鉄を増加させることを示す。概略すると、C57BL/6マウスに、2週間保存したRBC(保存;400μL)、10倍量の通常の生理的食塩水で3回洗浄した2週間保存したRBC(ペレット;400μL)、または上清(400μL)を輸血した。マウスを輸血の2時間後に屠殺し、そして、[93]に記載のとおり血漿非トランスフェリン結合鉄を計測した。平均血漿非トランスフェリン結合鉄レベルを示し(±SEM)、そして条件をパネルの下に示す。*は非輸血マウス(すべてが検出不能なレベルしか有してない(n=5;未掲載))と比較したp<0.05を示す。注意:上清の輸血では、輸血の2時間後の時点で検出可能な非トランスフェリン結合鉄をもたらさなかった。
【図8】LPSと輸血された保存RBCがサイトカインストームを悪化させる、および長引かせるのに相乗効果を示す。概略すると、マウスに、LPS(100μg/マウスのE.コリ(E.coli)0111:B4;Sigma、St. Louis, MO)単体、400μlの2週間保存したRBC単体、または同時にLPS(100μg/マウス)と400μLの新鮮なRBC、2週間保存したRBC、もしくは保存血由来のRBCゴーストのいずれかを注射した。マウス(5〜10匹/群)を処置の24時間後に屠殺し、そしてサイトカインレベルを定量した(MCP−1(左のパネル);IL−6(右のパネル))。サイトカイン測定結果を示し(平均±SEM)、そして条件をパネルの下に示す。*は新鮮なRBCを輸血したマウスと比較したp<0.05を示す。
【図9】鉄キレート化が、より古い保存RBCを輸血したマウスにおいて炎症誘発性サイトカイン反応を阻害することを示す。概略すると、C57BI/6マウスに、400μLの2週間保存したRBC単体(n=13)を輸血するか、あるいは輸血の5〜10分前に120mg/kgの静脈内デフェロキサミン(DFO)(n=10)または輸血の24および6時間前(n=6)に経口の経管栄養法によって投与された30mg/kgのデフェラシロクス(Exjade)のいずれかでの前処理後にそれを輸血した。血漿サイトカインレベルを輸血の2時間後に定量した。新鮮なRBC(400μL)を対照として輸血した(n=13)。サイトカインレベル(MCP−1(上のパネル);IL−6(中央のパネル);KC(CXCL1)(下のパネル))を示し(平均±SEM)、そして条件をパネルの下に示す。*は保存RBCを輸血したマウスと比較したp<0.05を示す。保存RBCとキレート剤の輸血のすべてで、新鮮なRBC輸血と比較してサイトカインレベルが有意に上昇した(p<0.05)。
【図10】健常ボランティアの試験中の、自家RBC提供、輸血、および血液サンプルのタイミングを示す。参加は、最初の提供から最後の静脈切開まで45日間に及ぶ。採血は、各輸血前、ならびに輸血の0、1、2、4、24、および72時間後に起こる。
【図11】1人の患者のための本発明による代表的な研究の概略を示す。時系列上の縦線は1カ月を表す。時系列の上側には専任ドナーの参加を表し、そして時系列の下側には受血者の参加を表す。3対の輸血事象を含む6回の輸血が患者ごとに提案されている。
【図12】本発明による別の代表的な試験の概略を示す。提案された時系列上の各縦線は1カ月を表す。時系列の上側には専任ドナーの参加を表し、そして時系列の下側には受血者の参加を表す。患者ごとに2回の輸血が提案され、そして4対の輸血事象を示している。
【図13】新鮮なRBC、保存RBC由来上清、または保存RBCから調製したゴーストの輸血と比較して、保存RBCの輸血が、高いRBCクリアランス、組織鉄供給、および循環非トランスフェリン結合鉄(NTBI)レベルをもたらすことを示す。すべての輸血受血者が、雄C57BL/6マウス(8〜12週齢)であった。結果を、指定したものを除き、平均±平均の標準誤差(s.e.m.)として示す。図13aは、以下のとおり行ったある代表的な実験の結果を示す:白血球除去した新鮮なFVB/NJマウスRBC(<24時間保存;n=3)と保存RBC(2週間保存;n=5)を輸血し(17.0〜17.5g/dLのヘモグロビンにて400μL)、そして輸血の10分、30分、1時間、2時間(保存RBCについてのみ)、および24時間後に輸血RBC生存を二重標識フローサイトメトリー・トラッキングによって計算した。*P=0.04。図13bは、新鮮なRBCまたは保存RBCの輸血の2時間後のマウスから得た脾臓の代表的な像を示す。図13cは、新鮮なRBC(n=13)および保存RBC(n=13)を輸血したマウスの平均脾臓重量を示す。*P=0.02。図13dに示した結果を得るために、新鮮なRBCのアリコート(400μL)(n=13)、保存RBC(n=13)、洗浄した保存RBC(n=13)、保存RBC由来上清(SN;n=12)、および保存RBCから調製したゴースト(n=8)を輸血した。全鉄を、輸血の2時間後の剖検で得た臓器で計測した;対照である非輸血マウス(n=12)で計測されたものと比較した場合の、鉄の増加を示す。結果を3つの別々の実験から組み合わせる。肝臓(左のパネル):*P=0.04、**P=0.0002、***P=0.03;脾臓(中央のパネル):*P<0.0001;腎臓(右のパネル):*P=0.002、**P=0.0004;新鮮なRBC輸血と比較した場合。図13eに示した結果を得るために、マウスに、表示のとおり輸血し(1群あたりn=5)、そして血漿NTBIを輸血の2時間後に計測した。注意:存在しないエラーバーは検知されないNTBIレベルを示す。結果は2つの別々の実験を代表するものである。新鮮なRBC輸血と比較した場合に*P=0.008、**P=0.01。
【図14】保存RBCの輸血剤が、マウスにおいて用量反応性の炎症誘発性応答を誘発することを示す。図14aに示した結果を得るために、非輸血C57BL/6マウス(n=13)または新鮮なRBC(<24時間保存;1u(すなわち1単位)=200μL、n=5;2u=400μL、n=17)、保存RBC(2週間保存;1u=200μL、n=5;2u=400μL、n=17)、洗浄した保存RBC(400μL;n=13)、保存RBC由来の上清(SN;400μL;n=12)、および保存RBCから調製したゴースト(400μL;n=8)を輸血したマウスを、輸血の2時間後に屠殺し、そして血漿サイトカインレベルを計測した(IL−6(上のパネル)とMCP−1(下のパネル)を示す)。等価用量の輸血した新鮮なRBCと比較した場合に*P<0.0001、**P=0.003。14bに示した結果は、2つの実験を代表するものである。SAA1−ルシフェラーゼレポーターマウスに、200μLの新鮮なRBC(<24時間保存)または保存RBC(2週間保存)を輸血し、そして最長で輸血の24時間後までの複数の時点にて非侵襲性生物発光画像法によってルシフェラーゼ活性を計測した(1群あたりn=3)。図14cに示した結果を得るために、生物発光を、新鮮なRBC(n=6;灰色の円)または保存RBC(n=6;黒色の四角)を輸血していたSAA1−ルシフェラーゼレポーターマウスの肝脾領域にわたって定量した。*P=0.002。図14dは、新鮮なRBCまたは保存RBC(1群あたりn=6)の輸血の24時間後のSAA1−ルシフェラーゼレポーターマウスにおける循環SAA1タンパク質レベルを示す。*P=0.002。結果は2つの別々の実験から組み合わせる。
【図15】保存RBCの輸血が、炎症反応に対してLPSに相乗効果を与え、そして細菌増殖を助長することを示す。図15aに示した結果は、2つの実験を代表するものである。C57BL/6マウスに、亜臨床的用量のLPS(E.コリ0111:B4;尾静脈注射によって1マウスあたり30μg)を注入し、それに続いて400μLの新鮮なRBCまたは保存RBCを輸血した。マウスを、輸血の24時間後に屠殺し、そして血漿サイトカインを計測した(1群あたりn=5)。LPS+保存RBCを輸血したマウスと比較した場合に*P=0.008、**P=0.003。図15bに示した結果を得るために、400μLの新鮮なRBC(n=15)、保存RBC(n=24)、保存RBC由来上清(n=12))、洗浄した保存RBC(n=13)、または保存RBCから調製したゴースト(n=8)の輸血の2時間後のマウスから血漿(100μL)を得た。血漿をさらに、対照非輸血マウス(n=14)または保存RBCの輸血の24時間後(n=8)からも得た。サンプルを、表示のとおり1x106CFUのE.コリと一緒に振盪しながら37℃にてインキュベートした。細菌増殖を、最長5時間まで30分毎に600nmの吸収度によって観察した。保存RBCまたは洗浄した保存RBCの輸血の2時間後のマウスからの血漿中の細菌増殖は、インビトロにおける2.5時間のインキュベーションで他のすべての群と異なり始め、そして各群の濃度曲線下面積(AUC)(括弧内)が図のように有意に異なった。図15cに示した結果を得るために、400μLの新鮮なRBCまたは保存したRBCの輸血の2時間後のマウスからのプール血漿サンプル(100μL)に、クエン酸第二鉄(20μM)、クエン酸ナトリウム(20μM)、ウシ血清アルブミン(BSA;80μM)、またはプロトポルフィリンIX(20μM)を補って、次いで〜1×106CFUのE.コリと一緒に振盪しながら37℃にてインキュベートした。細菌増殖を、1群あたり5連で最長5時間まで30分毎に600nmの吸収度によって観察した。クエン酸ナトリウム、BSA、またはプロトポルフィリンIXを補ったもしくは補っていない新鮮なRBCを輸血したマウスからの血漿中の増殖についての濃度曲線下面積(AUC)(括弧内)は、他の3つの群と有意差があった。図15dに示した結果を得るために、プール血漿(n=4)を、鉄キレート剤であるDFO(20μM)、またはDFOの鉄キレート化形態であるフェリオキサミン(ferroxamine)(FO)(20μM)と一緒にインキュベートし、そして先の実験について示したようにE.コリを接種した。DFOを含む血漿における増殖に関するAUC(括弧内)は、他のすべての群と有意に異なっていた。図15eに示した結果を得るために、プール血漿(n=5)を、クエン酸第二鉄(133μM)を伴ってまたはそれなしに鉄キレート剤である2,2’−ジピリジル(400μM)と一緒にインキュベートし、そして先の実験について示したようにE.コリを接種した。2,2’−ジピリジルを含む血漿における増殖に関するAUC(括弧内)は、他のすべての群と有意に異なっていた。*P<.05。結果は少なくとも2つの実験を代表するものであり、平均(±SEM)として示す。エラーバーの不存在は、プール血漿を用いた非常に再現性の高い反復試験を示していることに留意のこと。
【図16】DFO処置が保存RBC輸血によって誘発された炎症誘発性応答を軽減することを示す。図16aに示した結果を得るために、保存RBC(400μL)の輸血の直前に、マウスを、PBSビヒクル対照(n=28)または等モルのクエン酸第二鉄の添加を伴う(n=15)またはそれを伴わない(n=31)3mgのDFOで前処理した。マウスを輸血の2時間後に屠殺し、そして血漿サイトカインレベルを計測した。PBSビヒクルを注入し、そして保存RBCを輸血したマウスと比較して*P<.05;**P<.01;***P<.001。図16bに示されていた結果を得るために、200μLの新鮮なRBC(n=3;黒丸)、PBSビヒクル対照および保存RBC(n=3;黒四角)、または3mgのDFOおよび保存RBC(n=6;黒三角)を輸血したSAA1−ルシフェラーゼレポーターマウスの肝脾領域にわたって輸血後24時間、生物発光を定量した;ビヒクル処理およびDFO処理マウスと比較して輸血の4時間後と6時間後の時点でP=.095。図16cは、古い保存RBCの輸血がどのように患者に副作用を引き起こし得るのか説明している提案された機構経路(「鉄仮説」)を示す。保存された、しかし新鮮ではないRBCの輸血は、急激に大量のRBCおよびRBC由来の鉄を単球/マクロファージ系に供給し、酸化ストレスと炎症性サイトカインの分泌をもたらす。マクロファージ貪食鉄の一部はさらに、酸化的損傷や細菌増殖の助長も引き起こす可能性がある循環中に、鉄が再び放出される(すなわちNTBI)。SIRSは全身性炎症反応症候群を意味する。
【図17】保存RBCの輸血剤が、用量応答性の炎症誘発性応答を誘導することを示す。非輸血C57BL/6マウス(n=13)または新鮮なRBC(<24時間保存;1u=200μL、n=5;(すなわち、1換算ヒト単位(equivalent human units)=200μL);2u=400μL、n=17)、保存RBC(2週間保存;1u=200μL、n=5;2u=400μL、n=17)、洗浄した保存RBC(400μL;n=13)、保存RBC由来上清(SN;400μL;n=12)、保存RBCから調製したゴースト(400μL;n=8)、および保存RBC由来のストローマ不含溶解物(400μL、n=8)を輸血したマウスを輸血の2時間後に屠殺し、そして血漿サイトカイン/ケモカインレベルを計測した(表示のとおり);新鮮なRBCと比較して*P<.05、**P<.01、***P<.001。
【図18】保存RBCの輸血が、炎症反応に対してLPSに相乗効果を与えることを示す。C57BL/6マウスに、亜臨床的な用量のLPS(E.コリ0111:B4;尾静脈注射によってマウスあたり30μg)を注入し、それに続いて400μLの新鮮なRBCまたは保存RBCのいずれかを輸血した。マウスを輸血の24時間後(または瀕死であればもっと早く)屠殺し、そして血漿サイトカイン/ケモカインを計測した(2つの実験のうち1つの代表的な実験、1群あたりn=5)。LPS+保存RBCを注入したマウスと比較した場合に*P=0.008、**P=0.003、***P=0.03、****P=0.01、*****P=0.004。
【図19】DFO処置が、保存RBC輸血によって引き起こされる炎症誘発応答を阻害することを示す。マウスを、処理しないかまたは保存RBC輸血(400μL;1群あたりn=14)直前に、3mgのDFOで前処理した。マウスを輸血の2時間後に屠殺し、そして血漿サイトカイン/ケモカインレベルを計測した。箱は正中線の25パーセンタイル値および75パーセンタイル値を表す。ヒゲは範囲を表す。KC:P=0.07;MIP−1β:P=0.18;TNF−α:P=0.097。
【図20】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血清中の総ビリルビンレベルを示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図21】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血清中の鉄レベルを示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図22】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血清中のハプトグロビンレベルを示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図23】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血清中のトランスフェリン飽和度を示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図24】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血漿中のNTBIレベルを示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図25】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血漿中の絶対好中球数を示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図26】「新鮮な」3日目のRBC輸血または「古い」42日目のRBC輸血で輸血された患者の、経時的な、血漿中のMCP−1レベルを示すグラフである。水平な点線は正常な基準範囲を表す。
【図27】本発明による代表的な器具の透視図を示す。
【図28】直線A−Aに沿った図27の器具の横断面図を示す。
【図29】本発明による器具の代替実施形態の透視図を示す。
【図30】マクロファージが輸血された保存RBCの除去に関与することを示す。輸血の受血者とドナーのすべてが、同種の雄C57BL/6マウス(8〜12週齢)であった。図30aに示した結果の実験条件は以下のとおりであった。マウスには、保存RBC輸血の48時間前に、2mgのリポソーム化クロドロネート(n=9)または対照PBS−リポソーム(n=10)を腹腔内に注入した。そして、2時間RBC生存を計測した。2時間RBC生存(黒四角)を各マウスについて示し、そして水平な棒線が平均を示す。結果は2つの別々の実験を代表するものである;PBS−リポソームでの処理と比較して***P=0.001。図30bは、表示のとおり、保存RBCの輸血の48時間前にリポソーム化クロドロネートまたは対照PBS−リポソームで処理し、そして抗マウスF4/80モノクローナル抗体によって染色したマウスからの肝臓および脾臓の組織切片の代表的な像を示す。茶色に染色された細胞の不存在によって証明される、リポソーム化クロドロネート処理マウスにおいて組織マクロファージの不存在に留意のこと。図30cは、新鮮なRBCまたは保存RBCを輸血したマウスの肝臓からの組織切片の代表的な像を示す。切片を、表示のとおり、ヘマトキシリンおよびエオシンまたは抗マウスF4/80モノクローナル抗体で染色した。矢印は、RBCを貪食した組織マクロファージを意味する。茶色の染色は、マクロファージのF4/80免疫反応性の結果である;細胞質染色は、貪食されたRBCの蓄積のため、保存RBCを輸血したマウスの細胞周辺部と置き換えられる。本来の倍率は400倍であった。5つの剖検から得られた独特な代表例を示す。
【図31】保存RBCの輸血が、用量応答性の炎症誘発性サイトカイン反応を誘導することを示す。際立った吸光度によって検出される血色素血症は、保存RBC由来のストローマ不含溶解物を輸血したすべてのマウス(n=8)で観察された。新鮮なRBC(<24時間保存)、保存RBC(2週間保存)、または保存RBC由来のストローマ不含溶解物の輸血の2時間後にマウスから得た血漿(PBSで1:4に希釈)の代表的なスペクトルを示す。
【図32】ヒトにおける古い保存RBCの輸血が、インターロイキン−6(図32a)およびヘプシジン(図32b)の循環血清レベルを上げることを示す。分析物(表示のとおり)の循環レベルを、「新鮮」な3日目のRBC輸血、および「古い」42日目のRBC輸血(それぞれ各パネル内の左側と右側のグラフ)について示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の一実施形態は、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血により引き起こされる患者の副作用を改善するための器具である。その器具は、前記組成物と無菌状態で接触する内部表面および有効量の鉄キレート剤を含んでなる。
【0025】
本発明では、器具は、時間の経った赤血球、例えば保存RBCなどを含む組成物の保存や加工に使用されるあらゆる従来のデバイスであってもよい。例えば器具は、それを必要としている患者への輸血のために赤血球を保存するためのコンテナ、例えば従来の輸血バッグなどであってもよい。
【0026】
次に図27を見ると、この実施形態の一態様は従来の血液バッグである。示されているとおり、器具(10)には、内部表面(2)が含まれ、それが内部空間(1)の輪郭を示している。直線A−Aに沿った器具(10)の横断面図が図28に示されている。内部表面(2’)が示されているが、それが内部空間(1’)の輪郭を示しており、その中に、例えばRBCを含む組成物が保存される。
【0027】
本発明による鉄キレート剤は、器具(10’)の内部表面(2’)に配置されてもよい。本発明では、鉄キレート剤は、例えば器具の内部表面へのコーティングとして塗布されても、いずれかの適当な従来の手段を使用して内部表面内に含浸されてもよい。また、器具の内部表面上/内に本発明による鉄キレート剤を適用するための他の従来法もまた企図される。
【0028】
あるいは、本発明の鉄キレート剤は、組成物と無菌状態で接触する内部表面(2’)によって形成される器具(10’)の内部空間(1’)内に配置されてもよい。
【0029】
この実施形態のさらに別の態様では、器具はあらゆる従来の血液フィルターであってもよい。次に図29を見ると、本発明による代表的な血液フィルタ(100)が示されている。その血液フィルターは、内部表面(21)および内部空間(20)を含んでなる。本発明では、あらゆる従来の血液フィルターを使用できる。鉄キレート剤は、例えばRBCと接触する血液フィルターのあらゆる内部表面に配置することもできる。よって、キレート剤は、血液フィルターの内部表面(21)上にコーティングされても、その中に含浸されてもよい。あるいは、鉄キレート剤は、血液フィルターのフィルター部分(22)に配置されてもよい。輸血バッグまたは血液フィルター内に鉄キレート剤を配置する位置や手段は、その鉄キレート剤が時間の経った赤血球を含む組成物と接触し、そしてそこから鉄をキレートできる限り重要ではない。
【0030】
本明細書中に使用されるとき、「急性(acute)」輸血は、単回の輸血か、または対象の慢性的な病状の処置過程の中で実施される慢性的輸血の投薬計画の一部を構成することのない一連の輸血を意味する。用語「慢性的(chronic)」輸血には、慢性的な病状を患っている対象に与えられる輸血の通常または頻繁なスケジュールの一部として投与される単回の輸血が含まれる。
【0031】
本明細書中に使用されるとき、「時間の経った(aged)赤血球」は、ドナーから取り出され、そしてドナーの体外、通常、冷蔵保存状態で、それらがもはや輸血での使用に最適な状態ではなくなるまでの一定の期間保存した赤血球(RBC)を意味する。例えば、細胞が保存された温度または使用される(単数もしくは複数の)保存料により、その後RBCが「時間の経った」RBCと見なされる保存の日数にはある程度ばらつきがあり得る。「時間の経った」RBCには、現在のFDA規格により「期限切れ」であると見なされるRBC、例えば約35〜42日間冷蔵状態で保存したものなどが含まれるが、これだけに限定されるものではない。しかしながら、約35日間未満しか体外で保存されていない細胞でも、当業者に輸血での使用に最適でないと見なされることもあるので、それは本発明の目的とする「時間の経った」ものと見なされる。例えば特定の実施形態では、「時間の経った」RBCという用語は、ドナーの体外で約14日間以上、約16日間以上、約18日間以上、約20日間以上、約22日間以上、約24日間以上、約26日間以上、約28日間以上、約30日間以上、約32日間以上、または約34日間以上保存された細胞を指すこともできる。当業者は、例えば使用した保存料(単数もしくは複数)を含めた保存媒質、保存温度、RBCの生存、対象(例えば被験者または処置対象など)に輸血した後に生き残り、そして循環している細胞の割合、ならびに(これだけに限定されるものではないが、RBCサンプルの、炎症誘発性サイトカインの量、トランスフェリン不含鉄の量、ATPの減少[20]、2,3−ジホスホグリセリン酸の減少[21]、膜胞化[22]、タンパク質および脂質の酸化[23、24]、S−ニトロソヘモグロビンの減少[25]、低い表面シアリル化[26]、低いCD47発現[27]、高いホスファチジルセリン露出[28]、および低い変形能[29]、低い血球完全性、および/または、総ヘモグロビンの1%超の遊離ヘモグロビンのレベルを含めた)特定の生化学的または他の試験パラメーターなどの因子を考慮して、そのような細胞が時間の経ったものと見なされるかどうか判断できる。
【0032】
先に記載したとおり、RBCが時間の経ったものであるとみなされる時期に関してはある程度ばらつきがある。最も高い頻度で、献血および/または輸血の分野に従事している医師または他の医学専門家が、RBCが時間の経ったものと見なされるかどうかに関して測定を行うことができるだろう。
【0033】
本明細書中に使用されるとき、「鉄キレート剤(iron chelator)」という用語は、急性輸血から生じる副作用を予防または阻害できる、Fe(II)またはFe(III)を含めた鉄と相互作用する能力のあるあらゆる物質を意味する。本発明による鉄キレート剤の限定されることのない例には、アポトランスフェリン、ラクトトランスフェリン、金属結合酵素、ヒドロキサム酸重合体(Varaprasedら[110]によって開示されたものを含む)、リン酸化ミオイノシトール重合体(Lemmaら[111]によって開示されたものを含む)、ヘムB、ヘムA、ヘムC、デスフェロキサミン(DFO)、デスフェリチオシン(DFT)、デスフェリ−エキソケリン(desferri−exochelin)(D−Exo)、(S)−DMFT、(S)−DADMDFT、(S)−DADFT、4’−(OH)−DADFT、4’−(OH)−DADMDFTまたはその六座誘導体BDU[112]、デフェリプロン(L1)、その代謝でヒドロキシピリジノン類似体を生じるヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグ、CP94、CP502、CP365、CP102、CP41、CP38、LiNAII、Pr−(Me−3,2−HOPO)およびその六座類似体TREN−(Me−3,2−HOPO)、CP117、CP165、タキピリジン(tachpyridine)アルキル類似体[113]、タキピリジン二級アミン連結類似体、タキピリジンピリジル連結類似体、タキピリジンピリジル連結マレイミド誘導体類似体[114]、PIH、SIH、PCIH、PKIH、PIH類似化合物101、PIH類似化合物102、PIH類似化合物103、PIH類似化合物104、PIH類似化合物105、PIH類似化合物106、PIH類似化合物107、PIH類似化合物108、PIH類似化合物109、PIH類似化合物110、PIH類似化合物112、PIH類似化合物113、PIH類似化合物114、PIH類似化合物115、PIH類似化合物201、PIH類似化合物202、PIH類似化合物204、PIH類似化合物205、PIH類似化合物206、PIH類似化合物207、PIH類似化合物208、PIH類似化合物209、PIH類似化合物212、PIH類似化合物215、PIH類似化合物301、PIH類似化合物302、PIH類似化合物305、PIH類似化合物307、PIH類似化合物308、PIH類似化合物309、PIH類似化合物310、PIH類似化合物312、PIH類似化合物315、PCBH、PCHH、PCBBH、PCAH、PCTH、PKBH、PKAH、PK3BBH、PKHH、PKTH[115]、5−HP、トリアピン(Triapine)、NT、N2mT、N4mT、N44mT、N4eT、N4aT、N4pT、DpT、DP2mT、Dp4mT、Dp44mT、Dp4eT、Dp4aT、Dp4pT、デフェラシロクス(deferasirox)(Exjade、ICL670A)、デフェラシロクスの5,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾール類似体、HBED、Faralex−G、4−ヒドロキシ−2−ノニルキノリン、およびそれらの組み合わせが含まれる。好ましくは、鉄キレート剤は、デスフェロキサミン、デフェラシロクス、およびアポトランスフェリンから成る群から選択される。
【0034】
本発明の他の実施形態は、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するためのキットである。そのキットには、有効量の鉄キレート剤を含むコンテナが、どのようしてその鉄キレート剤を直接組成物に、血液製剤関連器具に、またはそれを必要としている患者に投与するかについての使用説明書と一緒に包装されて含まれている。
【0035】
本明細書中に使用されるとき、「血液製剤(blood product)」という用語は、赤血球を含んでなるあらゆる組成物を指す。そのような血液製剤の例には、全血および「袋詰めされた(packed)赤血球」またはPRBC(当該技術分野では「パックドセル」とも呼ばれる)が含まれるが、これだけに限定されるものではない。PRBCは、一般に、全血から血小板と血漿を取り除いて、主に赤血球を含む調製物を残す。PRBCではさらに、白血球が除去される、すなわち血液から白血球を取り除く工程を受けることもある。米国において輸血に使用される血液製剤の大部分は、白血球除去PRBCである。古い保存血液の輸血によって観察された副作用のうちの、すべてではなく、一部が、血液製剤中の白血球に起因することが、証拠から示唆された。本発明に従って使用される血液製剤は、好ましくは白血球除去されたものである。
【0036】
この実施形態の一態様では、血液製剤関連器具とは、血液フィルターまたは血液バッグである。
【0037】
この実施形態の別の態様では、鉄キレート剤は、アポトランスフェリン、ラクトトランスフェリン、金属結合酵素、ヒドロキサム酸重合体、リン酸化ミオイノシトール重合体、ヘムB、ヘムA、ヘムC、デスフェロキサミン(DFO)、デスフェリチオシン(DFT)、デスフェリ−エキソケリン(D−Exo)、(S)−DMFT、(S)−DADMDFT、(S)−DADFT、4’−(OH)−DADFT、4’−(OH)−DADMDFTまたはその六座誘導体BDU、デフェリプロン(L1)、その代謝でヒドロキシピリジノン類似体を生じるヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグ、CP94、CP502、CP365、CP102、CP41、CP38、LiNAII、Pr−(Me−3,2−HOPO)およびその六座類似体TREN−(Me−3,2−HOPO)、CP117、CP165、タキピリジンアルキル類似体、タキピリジン二級アミン連結類似体、タキピリジンピリジル連結類似体、タキピリジンピリジル連結マレイミド誘導体類似体、PIH、SIH、PCIH、PKIH、PIH類似化合物101、PIH類似化合物102、PIH類似化合物103、PIH類似化合物104、PIH類似化合物105、PIH類似化合物106、PIH類似化合物107、PIH類似化合物108、PIH類似化合物109、PIH類似化合物110、PIH類似化合物112、PIH類似化合物113、PIH類似化合物114、PIH類似化合物115、PIH類似化合物201、PIH類似化合物202、PIH類似化合物204、PIH類似化合物205、PIH類似化合物206、PIH類似化合物207、PIH類似化合物208、PIH類似化合物209、PIH類似化合物212、PIH類似化合物215、PIH類似化合物301、PIH類似化合物302、PIH類似化合物305、PIH類似化合物307、PIH類似化合物308、PIH類似化合物309、PIH類似化合物310、PIH類似化合物312、PIH類似化合物315、PCBH、PCHH、PCBBH、PCAH、PCTH、PKBH、PKAH、PK3BBH、PKHH、PKTH、5−HP、トリアピン、NT、N2mT、N4mT、N44mT、N4eT、N4aT、N4pT、DpT、DP2mT、Dp4mT、Dp44mT、Dp4eT、Dp4aT、Dp4pT、デフェラシロクス(Exjade、ICL670A)、デフェラシロクスの5,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾール類似体、HBED、Faralex−G、4−ヒドロキシ−2−ノニルキノリン、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましくは、鉄キレート剤は、デスフェロキサミン、デフェラシロクス、およびアポトランスフェリンから成る群から選択される。
【0038】
本発明の更なる実施形態は、時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するための方法である。この方法は、鉄キレート剤を提供することを含むが、前記鉄キレート剤は時間の経った赤血球のマクロファージ食作用によって放出された鉄をキレートする能力を有していて、そのキレート剤が患者で副作用を改善する。
【0039】
この実施形態の一態様では、副作用はサイトカインストームである。本明細書中に使用されるとき、「サイトカインストーム」は、様々なサイトカイン、例えばMCP−1、IL−8、IL−6、TNF−α、IFN−γ、およびIL−10などのレベルの上昇を伴う激しい炎症誘発性サイトカイン応答を意味する。
【0040】
この実施形態の別の態様では、副作用は、患者の鉄依存性病原菌の増加である。本発明では、「鉄依存性病原菌」はその宿主、特にヒトに疾患または病気を引き起こす、および鉄を利用するかまたは他の方法で加工するあらゆる生物学的因子である。本発明による鉄依存性病原菌の限定されることのない代表的な例には、鉄依存性ウィルス、鉄依存性細菌、鉄依存性真菌、および鉄依存性プリオンが含まれる。
【0041】
この実施形態の更なる態様では、鉄キレート剤は、ペプチド、重合体、有機または無機小分子、およびその組み合わせから成る群から選択される。
【0042】
本明細書中に使用される「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、互換的に使用される。本発明では、これらの用語は2個以上アミノ酸の連結した配列を意味し、それは、天然のものであっても、合成のものであっても、または天然のものと合成のものの修飾形態または組み合わせであってもよい。
【0043】
本明細書中に使用されるとき、「重合体」は、互いに連結して、これだけに限定されるものではないが、長い鎖を含めた高次構造物を形成する2個以上の分子(アミノ酸を除く)を意味する。
【0044】
本発明では、「小分子」という用語には、鉄キレート剤として機能する、ペプチドおよび重合体以外のあらゆる化学的部分または他の部分が含まれる。小分子には、現在知られている、そして使用されているいくつもの治療薬を含むことができ、それは鉄キレート機能についてスクリーニングする目的のためにそのような分子の研究室で合成されることもできる。小分子は、サイズによって巨大分子と区別される。本発明の小分子は、通常、約5,000ダルトン(Da)未満、好ましくは約2,500Da未満、より好ましくは1,000Da未満、最も好ましくは約500Da未満の分子量を持つ。
【0045】
小分子には、制限されることなしに、有機分子と無機分子が含まれる。本明細書中に使用されるとき、「有機小分子」という用語は、巨大分子、例えば炭素ベースの重合体やポリペプチドなどを除く、炭素ベースの小分子を指し、「無機分子」という用語は、その他の小分子を指す。炭素に加えて、有機小分子は、カルシウム、塩素、フッ素、銅、水素、鉄、カリウム、窒素、酸素、硫黄および他の元素を含有することもできる。有機分子は、芳香族または脂肪族の形態であることもできる。有機小分子の制限されることのない例には、アセトン、アルコール、アニリン、炭水化物、単糖、アミノ酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、脂質、レチノイド、ステロイド、プロテオグリカン、ケトン、アルデヒド、飽和、不飽和および多価不飽和脂肪、油およびワックス、アルケン、エステル、エーテル、チオール、硫化物、環式化合物、複素環式化合物、イミダゾール、ならびにフェノールが含まれる。本明細書中に使用されるとき、有機小分子にはさらに、ニトロ化有機化合物とハロゲン化(例えば、塩素化)有機化合物も含まれる。
【0046】
好ましい小分子は、比較的に簡単かつ安い費用で製造され、製剤化され、または調製される。好ましい小分子は、様々な貯蔵条件下で安定している。好ましい小分子は、巨大分子と密な結合の中に配置されて、生物学的に活性であり、かつ、改善された医薬特性を有する分子を形成することもできる。改善された医薬特性には、所望の生物学的活性に好ましい循環時間の変化、分布、代謝、修飾、排泄、分泌、排除、および安定性が含まれる。改善された医薬特性には、化学物質の毒性学および効能特徴の変化が含まれる。
【0047】
1つの好ましい実施形態では、鉄キレートペプチドは、アポトランスフェリン、ラクトトランスフェリン、金属結合酵素、かかるタンパク質由来の鉄結合性ドメイン、およびかかるタンパク質の鉄結合性部位を模倣するように設計した合成ペプチドから成る群から選択される。
【0048】
別の好ましい実施形態では、鉄のキレート重合体は、ヒドロキサム酸重合体またはリン酸化ミオイノシトール重合体である。
【0049】
この実施形態の更なる態様では、鉄キレート剤は、ヘムB、ヘムA、およびヘムCから成る群から選択されるポルフィリン環である。本明細書中で使用されるとき、「ポルフィリン環」は、メチン架橋(=CH−)を介してそれらのα炭素原子にて相互接続された、修飾された4つのピロール・サブユニットを特徴とする複素環式芳香族分子を意味する。
【0050】
この実施形態のさらに別の態様では、鉄キレート剤は、シデロホアまたは合成によって得られたその類似体である。本明細書中に使用されるとき、「シデロホア」は、環境内の鉄の不溶性性質に対応して、微生物によって分泌される鉄結合性化合物を意味する。好ましくはシデロホアは、デスフェロキサミン(DFO)、デスフェリチオシン(DFT)、およびデスフェリ−エキソケリン(D−Exo)から成る群から選択される。
【0051】
この実施形態の追加態様では、鉄キレート剤は、(S)−DMFT、(S)−DADMDFT、(S)−DADFT、4’−(OH)−DADFT、および4’−(OH)−DADMDFT、またはその六座誘導体BDUから成る群から選択されるDFT類似体である。
【0052】
この実施形態の更なる態様では、鉄キレート剤はヒドロキシピリジノンである。本明細書中に使用されるとき、「ヒドロキシピリジノン」は、複素環式6員環、ケトン基、およびヒドロキシル基を含む有機化合物を意味する。好ましくは、ヒドロキシピリジノンは、デフェリプロン(L1)もしくはその類似体、またはその代謝でヒドロキシピリジノン類似体を生じるヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグから選択される。より好ましくは、デフェリプロン類似体は、CP94、CP502、CP365、CP102、CP41、CP38、LiNAII、Pr−(Me−3,2−HOPO)およびその六座類似体TREN−(Me−3,2−HOPO)から成る群から選択され、そしてヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグは、CP117およびCP165から成る群から選択される。
【0053】
この実施形態のさらに別の態様では、鉄キレート剤は、タキピリジンまたはその類似体である。本明細書中に使用されるとき、「タキピリジン」は、シス,シス−1,3,5−トリアミノシクロヘキサン骨格ベースの六座鉄キレート剤を意味する。好ましくは、タキピリジン類似体は、タキピリジンアルキル類似体、タキピリジン二級アミン連結類似体、タキピリジンピリジル連結類似体、およびタキピリジンピリジル連結マレイミド誘導体類似体から成る群から選択される。
【0054】
この実施形態の追加態様では、鉄キレート剤は、アロイルヒドラゾンである。本明細書中に使用されるとき、「アロイルヒドラゾン」は、構造R12C=NNHR3{式中、R1、R2、および/またはR3は、芳香族環を含む}を有する化合物である。好ましくは、アロイルヒドラゾン鉄キレート剤は、PIH、SIH、311シリーズの類似化合物、PCIH、PKIH、およびそれぞれの親化合物の類似体から成る群から選択される。PIH類似体の制限されることのない例には、100シリーズの類似化合物101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、112、113、114および115;または200シリーズの類似化合物201、202、204、205、206、207、208、209、212および215が含まれる(例えばKalinowski et al.[115]を参照のこと)。311シリーズの類似化合物の制限されることのない例には、化合物301、302、305、307、308、309、310、312および315が含まれる(例えばKalinowski et al.[115]を参照のこと)。PCIH類似体の制限されることのない例には、PCBH、PCHH、PCBBH、PCAHおよびPCTHが含まれる。PKIH類似体の制限されることのない例には、PKBH、PKAH、PK3BBH、PKHHおよびPKTHが含まれる。
【0055】
この実施形態の更なる態様では、鉄キレート剤は、チオセミカルバゾンである。本明細書中に使用されるとき、「チオセミカルバゾン」は、以下の一般構造:
【0056】
【化1】

【0057】
を有する化合物を意味し、そしてそれは鉄をキレートする能力を有する。好ましくは、チオセミカルバゾンは、5−HP、トリアピン、NTシリーズのメンバー、およびDpTシリーズのメンバーから成る群から選択される。NTシリーズの制限されることのない例には、NT、N2mT、N4mT、N44mT、N4eT、N4aT、およびN4pTが含まれる(例えばKalinowski et al.[115]を参照のこと)。DpTシリーズの制限されることのない例には、DpT、DP2mT、Dp4mT、Dp44mT、Dp4eT、Dp4aT、およびDp4pTが含まれる(例えばKalinowski et al.[115]を参照のこと)。
【0058】
この実施形態の別の態様では、鉄キレート剤は、デフェラシロクス(deferasirox)(Exjade、ICL670A)、デフェラシロクスの5,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾール類似体、HBED、Faralex−G、および4−ヒドロキシ−2−ノニルキノリンから成る群から選択される(例えばKalinowski et al.[115]を参照のこと)。
【0059】
この実施形態の追加態様では、供給ステップには、副作用を改善するのに有効である量の鉄キレート剤を患者に投与することが含まれる。
【0060】
この実施形態のさらに別の態様では、供給ステップには、輸血に先立って、時間の経った赤血球を含む組成物を、副作用を改善するのに有効な量の鉄キレート剤と接触させることが含まれる。
【0061】
本発明では、「有効量」(または「有効である」量)は、有益または所望の結果を達成するのに十分な量である。患者、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの処置に関して、鉄キレート剤の「有効量」は、急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するのに十分な量である。有効量は、1回分もしくは複数回分の用量で投与され得る。
【0062】
本発明による鉄キレート剤の投与量の好適な、制限されることのない例は、約1ng/kg〜約1000mg/kgであり、それを患者に投与するのであれば、例えば約5mg/kg〜約50mg/kgを含めた、約1mg/kg〜約100mg/kgなどである。鉄キレート剤の他の代表的な投与量には、約1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、125mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kg、250mg/kg、300mg/kg、400mg/kg、500mg/kg、600mg/kg、700mg/kg、800mg/kg、900mg/kg、または1000mg/kgが含まれる。好ましくは、投与量は約20mg/kg体重である。代替の好ましいが、しかし代表的な実施形態では、鉄キレート剤は、約30〜約50mg/kg/日の投与量で投与されるが、より低用量、例えば約25mg/kg/日なども可能である。化合物の有効量は、1日を通して適当な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6回またはそれ以上の小用量(sub−dose)として投与されてもよい。
【0063】
有効量は、一般に医師によって個別的に決定され、そしてそれは当業者の技能の範疇である。適当な投与量を決定するとき、通常、いくつかの要因が考慮される。これらの要因には、患者の年齢、性別、および体重、処置中の症状、症状の重症度、ならびに投与中の薬物の形態が含まれる。
【0064】
有効な剤形、投与様式、および投与量は、実験的に決定することもでき、そしてそういった決定を行うことは当該技術分野の技能の範疇である。投与量が投与経路、排泄速度、処置の持続期間、投与されるその他の薬物の正体、動物の年齢、サイズ、および種、ならびに医学および獣医学の分野で周知の類似した要因によって変化することは、当業者によって理解されている。一般に、本発明による鉄キレート剤の好適な用量は、所望の効果を生じさせるのに有効な最も低い用量であるところの記鉄キレート剤の量になるだろう。鉄キレート剤の有効量は、1日を通して適当な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6回またはそれ以上の小用量として投与され得る。
【0065】
本発明の鉄キレート剤は、あらゆる所望のおよび効果的な様式で:経口摂取または非経口もしくは任意の適当な様式による他の投与、例えば腹腔内投与、皮下投与、局所投与、皮内投与、吸入、肺内投与、直腸投与、腟内投与、舌下投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、くも膜下腔内投与、またはリンパ管内投与などのための医薬組成物として、投与され得る。さらに、本発明の鉄キレート剤は、他の処置と併用して投与され得る。本発明の鉄キレート剤は、所望であれば、カプセル化されるかまたはほかの方法で胃または他の分泌物から保護され得る。
【0066】
本発明の鉄キレート剤は、単体で投与され得るが、鉄キレート剤が医薬製剤(組成物)として投与されることが好ましい。そういった医薬製剤は、通常、1つもしくは複数の医薬的に許容し得る担体および、場合により1つもしくは複数の他の化合物、薬物、成分および/または材料との混合された有効成分として1つもしくは複数のモジュレーターを含む。選択された投与経路にかかわらず、本発明の鉄キレート剤は、当業者に知られている従来の方法によって、医薬的に許容し得る剤形に処方される。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.、Easton, Pa.)を参照のこと。
【0067】
医薬的に許容し得る担体は、当該技術分野において周知であり(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.、Easton,Pa.)およびThe National Formulary(American Pharmaceutical Association、Washington,D.C.)を参照のこと)、そして糖(例えば、ラクトース、ショ糖、マンニトール、およびソルビトール)、デンプン、セルロース調製物、リン酸カルシウム(例えば、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、およびリン酸水素カルシウム)、クエン酸ナトリウム、水、水溶液(例えば、生理的食塩水、塩化ナトリウム注射、リンゲル液注射、デキストロース注射、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射、乳酸リンゲル液注射)、アルコール(例えば、エチルアルコール、プロピルアルコール、およびベンジルアルコール)、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコール)、有機エスエル(例えば、オレイン酸エチル、およびトリグリセリド)、生分解性高分子(例えば、ポリラクチド−ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)、およびポリ(アンヒドリド))、弾性マトリックス(elastomeric matrices)、リポソーム、マイクロスフィア、油(例えば、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、キャスター、ゴマ、綿実、およびラッカセイ)、ココアバター、ワックス(例えば坐剤ワックス)、パラフィン、シリコーン、タルク、シリシレート(silicylate)などが含まれる。本発明の鉄キレート剤を含む医薬組成物に使用される、各々の医薬的に許容し得る担体は、製剤の他の成分と適合性があり、そして対象に対して有害ではないという意味において、「許容し得る」ものでなければならない。選択された剤形および意図された投与経路に好適である担体は、当技術分野において周知であり、そして選択された剤形に関して許容し得る担体および投与方法は、当該技術分野における通常の技術を使用して決定され得る。
【0068】
本発明の鉄キレート剤を含む医薬組成物には、場合により、医薬組成物において一般的に使用される追加成分、および/または材料を含むこともできる。これらの成分および材料は、当該技術分野において周知であり、そして(1)賦形剤又は増量剤、例えばデンプン、ラクトース、ショ糖、グルコース、マンニトールおよびケイ酸など;(2)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドンン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ショ糖およびアカシアなど;(3)保湿剤、例えばグリセロールなど;(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、デンプングリコール酸ナトリウム(sodium starch glycolate)、架橋されたカルボキシメチルセルロースナトリウムおよび炭酸ナトリウムなど;(5)溶解遅延剤(solution retarding agent)例えばパラフィンなど;(6)吸着加速剤(absorption accelerator)、例えば四級アンモニウム化合物など;(7)湿潤剤、例えばセチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートなど;(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイト粘土など;(9)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、およびラウリル硫酸ナトリウムなど;(10)懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール、およびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド(aluminum metahydroxide)、ベントナイト、寒天、およびトラガカントなど;(11)緩衝剤;(12)賦形剤、例えばラクトース、乳糖、ポリエチレングリコール,動物性および植物性脂肪、オイル、ワックス、パラフィン、ココアバター、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、サリチル酸塩、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、およびポリアミド散剤など;(13)不活性希釈剤、例えば水、又は他の溶媒など;(14)保存剤;(15)界面活性剤;(16)分散剤;(17)制御放出又は吸収遅延剤、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、生分解性高分子、リポソーム、マイクロスフィア、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、およびワックスなど;(18)乳白剤;(19)助剤;(20)湿潤剤;(21)乳化剤および懸濁化剤;(22)可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、キャスター油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステルなど;(23)噴霧剤、例えば、クロロフルオロ炭化水素、および揮発性無置換炭化水素、例えばブタンおよびプロパンなど;(24)抗酸化剤;(25)当該製剤を意図した受血者の血液と等張化する薬剤、例えば糖、および塩化ナトリウムなど;(26)増粘剤;(27)コーティング材、例えばレシチンなど;ならびに(28)甘味剤、香味剤、着色剤、香料および保存料が含まれる。そういった成分および材料の各々は、製剤の他の成分と適合性があり、そして対象に対して有害ではないという意味において、「許容し得る」ものでなければならない。
【0069】
経口投与に好適な医薬組成物は、カプセル、カシェット、丸薬、錠剤、散剤、顆粒、水性もしくは非水性液体の溶液又は懸濁液、水中油型もしくは油中水型エマルジョン、エリキシル剤もしくはシロップ、トローチ、大丸薬、舐剤、又はペースト剤の形態であり得る。これらの製剤は、当技術分野において知られている方法によって、例えば、従来のパン−コーティング、混合、顆粒化、又は凍結乾燥工程によって製造され得る。
【0070】
経口投与のための固体剤形(カプセル、錠剤、丸薬、糖衣錠、散剤、顆粒など)は、1若しくは2以上の活性成分を、1つもしくは2以上の医薬として許容し得る担体と、および場合により1つもしくは2以上の賦形剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸着加速剤、湿潤剤、吸収剤、滑沢剤、および/または着色剤と混合することにより製造され得る。類似タイプの固体組成物は、好適な賦形剤を使用した軟質および硬質充填ゼラチンカプセル(soft and hard−filled gelatin capsule)中の充填剤として使用され得る。錠剤は、圧縮または成形により、場合により1つもしくは2以上の補助成分と共に製造され得る。圧縮錠剤は、好適な結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、保存料、崩壊剤、界面活性剤または分散剤を使用して調製され得る。成形錠剤は、好適な機械による成形によって製造され得る。例えば、本発明による鉄キレート剤は、約125mg、250mg、または500mgの有効成分を持つ錠剤の形態であり得る。錠剤および他の固体剤形、例えば糖衣錠、カプセル、丸薬、および顆粒などは、場合により分割されるか、またはコーティングおよびシェル(shell)、例えば腸溶コーティングおよび医薬製剤の分野において周知である他のコーティングを用いて調製され得る。それらはまた、その中の活性成分の遅延または制御放出を提供するように製剤化され得る。それらは、例えば細菌保持フィルター(bacteria−retaining filter)を通す濾過により無菌化され得る。これらの組成物はまた、場合により乳白剤を含み得、そしてそれらが活性成分のみをまたは優先的に、消化管の特定の部分に、場合により遅延様式で放出するような組成物であり得る。活性成分はまた、マイクロカプセル化された形態でもあり得る。
【0071】
経口投与用の液体剤形は、医薬として許容し得るエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシル剤を含む。液体剤形は、当技術分野において一般的に使用される好適な不活性希釈剤を含み得る。不活性希釈剤に加えて、経口用組成物はまた、助剤、例えば湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味剤、香味剤、着色剤、香料および保存料を含み得る。懸濁液は、懸濁化剤を含み得る。
【0072】
直腸投与または膣内投与のための医薬組成物は、座薬として提供され得、そしてそれは、室温で固体だが体温で液体であり、したがって直腸腔または膣腔中で溶解し、そして活性成分を放出することとなる、1若しくは2以上の好適な非刺激性担体と共に、1若しくは2以上の活性成分を混合することによって調製され得る。膣内投与に好適である医薬組成物はまた、当技術分野において好適であることが知られている、医薬として許容し得る担体を含む、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレー製剤も含む。
【0073】
局所投与または経皮投与のための剤形は、散剤、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ、ドロップ、および吸入剤を含む。活性化合物は、滅菌条件下において、好適な医薬として許容し得る担体と混合され得る。軟膏、ペースト、クリームおよびゲルは、賦形剤を含み得る。散剤およびスプレーは、賦形剤および噴霧剤を含み得る。
【0074】
非経口投与に好適な医薬組成物は、好適な抗酸化剤、緩衝剤、製剤を対象となる受血者の血液と等張化する溶質、または懸濁化剤もしくは増粘剤を含み得る、1もしくは2以上の医薬として許容し得る無菌の等張性水性溶液もしくは非水性溶液、分散剤、懸濁化剤もしくはエマルジョン、または使用直前に無菌の注射溶液もしくは分散液へともどされ得る無菌散剤と組み合わされて1もしくは2以上の鉄キレート剤を含む。適切な流動性が、例えばコーティング材料の使用により、分散剤の場合においては必要とされる粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により維持され得る。これらの組成物はまた、好適な助剤、例えば湿潤剤、乳化剤および分散剤などを含み得る。等張化剤を含むこともまた好ましい。さらに、注射可能な医薬形態の延長された吸収は、吸収を遅らせる薬剤の封入によりもたらされ得る。
【0075】
場合によっては、本発明の鉄キレート剤を含む薬剤の効果を延長させるために、皮下注射または筋肉内注射からのその吸収を遅らせることが好ましい。これは、乏しい水溶性しかない結晶質または非晶質の液体懸濁液の使用により達成され得る。
【0076】
薬剤の吸収速度は、その溶解速度に依存し、同様に、結晶の大きさおよび結晶の形態に依存し得る。代わりに、非経口投与された薬剤の遅延された吸収は、油ビヒクル中に薬剤を溶解または懸濁することによって達成され得る。注射可能な持続性薬剤形態は、生分解性重合体中にマイクロカプセル化マトリックス(microencapsule matrices)を形成することによって製造され得る。活性成分と重合体との比率に依存して、および使用される特定の重合体の性質に依存して、活性成分放出速度は制御され得る。持続性薬剤の注射可能な製剤はまた、薬剤を生体組織に適合可能なリポソームまたはマイクロエマルジョン中に封入することによって製造される。注射可能材料は、例えば、細菌保持フィルターを通す濾過によって無菌化され得る。
【0077】
製剤は、単位用量または複数回用量封入コンテナ、例えばアンプルおよびバイアル中で存在し得、そして無菌の液体担体、例えば注射用水を使用の直前に添加することしか必要としない、凍結乾燥状態で保存され得る。即席の注射溶液および懸濁液が、前記のタイプの無菌の散剤、顆粒および錠剤から調製され得る。
【0078】
以下の実施例は、本発明の組成物および方法をさらに説明するために提供される。これらの実施例は一例にすぎず、そしていかなる場合であっても本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0079】
実施例1
白血球除去されたマウスとヒトのRBCの保存は類似する。
マウス血液を、ヒトに使用する標準的な保存溶液中に心臓穿刺によって無菌的に得た:CPDA−1(Baxter、Deerfield, IL)。30〜50匹のマウスからの全血を、小児用白血球除去フィルター(Purecell Neo, Pall Corp.、Port Washington, NY)を使用して白血球除去し、遠心分離し、そして60〜75%のヘマトクリットで4℃にて最長21日間保存した。正常なマウスRBCの寿命がヒトRBCの寿命の約半分なので[86]、マウスRBCに関しては(ヒトに用いられる≦35日間より)21日以下を選択した。マウスRBCの保存前の白血球除去では、白血球の少なくとも3−log10の低減を実現した(LeucoCOUNTキット、BD Biosciences, San Jose,CA;未掲載)。
【0080】
マウスにおけるRBC生存試験を、51Cr−標識を使用して実施した[87]。保存して2と3週間目のマウスRBCの輸血後24時間生存は、それぞれ73%(±5%)と62%(±6%)であったが、一方で新鮮なRBCのそれは93%(±8%)であった(平均(±1SD)(図2)。保存中の無菌性を確保するために、すべての材料が使い捨て、かつ、発熱物質を含まないものであった。加えて、各実験の前に、500μLの保存RBGsを、Peds Plus/F培養ボトル(BD Diagnostic Systems、Franklin Lakes,NJ)内に接種し、そして細菌増殖をBACTEC(商標)血液培養システム(BD Diagnostic Systems)で≧5日間にわたって検出した;すべてのサンプルが陰性であった。先に注意したとおり、FDAは、平均で、≧75%の保存RBCの輸血後24時間生存を義務付けている。よって、ここで開示した方法を使用してCPDA−1中に≦2週間保存したマウスRBCは、このFDA規格の基準を使用しても許容されるであろう。
【0081】
白血球除去した保存RBCの輸血は炎症誘発性応答を引き起こす。
MCP−1、IL−6(図3)、KC(IL−8のマウス相同体)、MIP−1β、およびTNF−α(未掲載)の血漿レベルの統計的に有意な、かつ、用量応答性の増大が、古い保存RBC輸血の2時間後にそれぞれ観察された(13匹のマウス/群;保存RBCの輸血からの結果を新鮮なRBCと比較したときp<0.05(両側スチューデントt検定))。対照的に、IL−10またはIFN−γに関して有意差は観察されなかった(未掲載)。
【0082】
興味深いことに、マウスに古い保存RBCを輸血したときには、それらには、輸血の2時間後までに炎症誘発性サイトカイン(特にMCP−1)の急上昇があった(図3)。このことは、古い保存RBCの輸血によって引き起こされる「早い」炎症誘発性応答の1つの可能性のある結末が、患者をその後の感染にかかりやすくする「遅い」全身的な抗炎症性応答であることを示唆している(図1)。実際に、感染などの炎症誘発性発作を乗り切るには、自身に対する巻き添え被害を限定する制御された免疫応答が必要である[52]。
【0083】
保存RBCはクッパー細胞による貪食を介して除去される。
マウスに3週間保存したRBCを輸血し、屠殺し、そして肝切片を光学顕微鏡検査によって調べた。古い保存RBCを輸血したマウスにおいて貪食されたRBCを含むクッパー細胞が頻繁に見られたが(>1/高倍率視野)(図4)、新鮮なRBCを輸血したマウスではめったに見ない(未掲載)。よって、より古い保存RBCはインビボにおける貪食によって除去される。
【0084】
保存RBCの輸血は、肝臓、脾臓、および腎臓の鉄含量を高める。
全鉄を、新鮮または保存RBCの輸血(400μLの用量、1群あたり13匹のマウス)の後、剖検時に湿式灰化手順[88]によって様々な臓器において計測した。全鉄は、保存RBCを輸血したマウスの肝臓、脾臓、および腎臓で有意に増加した(p<0.05、両側スチューデントt検定)(図5)。よって、相当量の保存RBCの急速なクリアランスは、肝臓、脾臓、および腎臓における鉄の沈着につながる。典型的な実験では、約140μgの全鉄を各マウスに輸血する。RBC生存データ(図2)に基づくと、輸血の2時間後には、2週間保存したRBCの約25%が除去されている。よって、約35μgの鉄が、単球−マクロファージ系に供給される;これは、これらのマウスの脾臓、腎臓、および肝臓から回収された過剰鉄の量とほとんど同じである(図5)。
【0085】
輸血で誘発される炎症誘発性サイトカイン反応は、無傷のヘモグロビン含有RBCを必要とする。
保存RBCの保存媒質または上清中の因子の添加よりむしろ、膜カプセル化ヘモグロビン鉄の急激な供給がサイトカインストームを引き起こすのに必要であるかどうか判断するために、試験を実施した。このために、生理的食塩水で洗浄した2週間保存したRBC、保存RBCからの上清、および保存RBC由来のRBCゴーストの輸血の効果を比較した。保存RBCを、10倍量の標準的な生理的食塩水で3回洗浄し、次いで洗浄していない保存RBCのそれと同等の最終的なヘモグロビン濃度に生理的食塩水中に再懸濁した。保存RBCの低浸透圧性溶解によって調製したRBCゴーストを[89]、白色のペレットを得るまで十分に洗浄した。ゴーストの濃度をTrucount(BD Biosciences)を使用したフローサイトメトリーによって定量して、同数のゴースト、保存RBC、および洗浄した保存RBCが輸血されることを確かめた。加えて、ゴーストは、同数の保存RBC中に存在している全鉄の約0.07%しか含んでいなかった(未掲載)。マウス(1群につき6〜13匹)に、規準化した量の新鮮なRBC、保存RBC、保存RBCからの上清、生理的食塩水で洗浄した保存RBCペレット、または保存RBC由来のゴーストを輸血した。炎症誘発性サイトカイン反応は、保存RBCまたは生理的食塩水で洗浄した保存RBCペレットのいずれかの輸血後にのみ見られた;MCP−1およびIL−6の結果を例として示した(図6)。質的に類似し、かつ、統計的に有意な結果を、KC、MIP−1β、およびTNF−αについて得た(未掲載);群間の有意差が見られなかったのは、IL−10およびIFN−γについてであった(未掲載)。RBCゴーストが炎症誘発性応答を引き起こさなかったので、このことは、十分な量のヘモグロビン鉄の供給がこの現象を生じさせるのに必要であることを示唆している。加えて、生理的食塩水で洗浄したペレット中の無傷のRBCの輸血が同様のサイトカイン反応を誘発したが、上清ではそうならなかった。このことは、炎症誘発性応答が保存中に上清中に蓄積する化合物、例えば、市販の添加物、RBC由来のベシクル、サイトカイン、または非トランスフェリン結合鉄などに由来しないことを示唆している。
【0086】
保存RBCの輸血は、血漿非トランスフェリン結合鉄レベルを急激に上げる。
血漿非トランスフェリン結合鉄を、新鮮なRBC、2週間保存したRBC、洗浄したRBCペレット、または保存RBCからの上清(400μL、5〜7匹のマウス/群)の輸血後に定量した。血漿非トランスフェリン結合鉄は、保存RBCまたは洗浄RBCペレットのいずれかを輸血したマウスでのみ上がった(図7)。非トランスフェリン結合鉄は、その酸化還元電位のため悪影響を引き起こし得るので、このことは、おそらく古い保存RBCの貪食後の鉄の放出の増加によるものであり、無傷の輸血RBCがこれらのレベル上昇の原因であることを示唆している。
【0087】
現在、より古い単位の保存RBCをヒトに輸血するとき、非トランスフェリン結合鉄の同時注入の重要性を排除することはできなかったが、先に述べたように、より古い保存RBCをマウスに輸血することで、輸血後に非トランスフェリン結合鉄の血漿レベルが上昇した(図7)。興味深いことに、より古い保存マウスRBCの洗浄では、輸血後の炎症誘発性サイトカイン反応の誘導(図6)または循環非トランスフェリン結合鉄レベルの上昇(図7)のいずれも予防できなかった。加えて、保存マウスRBC由来の上清の輸血では、輸血の2時間後にサイトカイン反応を引き起こさず(図6)、非トランスフェリン結合鉄レベルも上昇しなかった(図7)。まとめると、このことは、輸血後の非トランスフェリン結合鉄レベルの上昇が、マウスにおいて、より古い保存RBCの貪食後のマクロファージからの鉄の放出の増加によることを示唆している。
【0088】
保存RBCの輸血は、LPSによって引き起こされるサイトカインストームを悪化させ、そして長引かせる。
C57BL/6マウス(5〜10匹/群)に、新鮮なRBC、2週間保存したRBCまたは保存RBCから調製したゴーストのいずれかの同時輸血と共にまたはそれ無しに、亜致死用量のLPSを注射した。マウスを、輸血の24時間後に屠殺し、そしてサイトカインを計測した(図8)。輸血の24時間後まで、保存RBCを輸血したLPS処理マウスは、KC、MIP−1β、およびTNF−αを含めた多くの炎症誘発性サイトカインの顕著に高いレベルを維持している;例として、MCP−1とIL−6の結果を図8に示す。加えて、保存RBCを輸血したLPS処理マウスはすべて、輸血の24時間後までに瀕死になり、そして自発運動を欠き、鈍い立直り反射しか示さなかった;他の群のマウスはすべて、この時点では健康そうに見えた。最終的に、ヘモグロビン不含ゴーストの輸血は、マウスにおいてLPS誘発性サイトカインストームを助長しなかった。まとめると、このことは、保存RBCの急速なクリアランスがLPSに相乗効果を与えて、サイトカインストームを悪化させ、そして長引かせる;そのため、このマウス・モデルが、患者、例えば敗血症を患っている患者などの副作用により古い保存RBCの輸血が関与することのヒトでの試験を再現していることを示唆している。
【0089】
実施例2
マウス
野生型C57BL/6およびFVB/NJマウスを、Jackson Laboratory(Bar Harbor, ME)から購入した。SAA1−ルシフェラーゼレポーターマウスを、Caliper Life Sciences(Hopkinton, MA)から入手した。マウスは、8〜12週齢の時点で使用した。手順は、適当な施設内動物実験委員会に承認された。
【0090】
マウスRBCの採取、保存、および派生物
FVB/NJおよびC57BL/6マウスから、ジ−(2−エチルヘキシル)フタラート−可塑化ポリ塩化ビニル製ヒト一次採血パック(製品コード4R3611;Baxter)から直接得たリン酸クエン酸デキストロースアデニン−1(CPDA−1)中に、心臓穿刺によって無菌的に出血させた。保存に使用される最終的なCPDA−1濃度は14%であった。30〜50匹のマウスから採血した全血を、プールし、そしてNeonatal High Efficiency Leukocyte Reduction Filter(Purecell Neo, Pall Corp.)を使用して白血球除去し、遠心分離し(400gにて15分間)、そして17.0〜17.5g/dL(保存RBC対Drabkin’s試薬(Ricca Chemical Company、Arlington, TX)の1:251希釈にて改変Drabkin’sアッセイ[106]によって測定した場合、吸光度を540nmで計測し、そしてCount−a−part Cyanmethemoglobin Standards Set(Diagnostic Technology, Inc.、Belrose,Australia)と比較した)の最終ヘモグロビンレベルまで体積を減らした。残留白血球を、フローサイトメトリー(LeucoCOUNTキット、BD Biosciences)によって数えた。保存RBCを、15mLのFalconチューブに入れ、パラフィルムで封をし、そして暗所内で4℃にて最長14日間保存した。輸血の日に、500μlの保存RBCを、Peds Plus/F培養ボトル(BD Diagnostic Systems)内に接種し、そして最長5日間または細菌増殖が検出されるまでBACTEC連続観察血液培養システム(BD Diagnostic Systems)で細菌増殖を検出した(この方法は、97%の感度で少なくとも1mLあたり10コロニー形成単位(CFU)にて検出する)[116]。洗浄した保存RBCを、10倍量のリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用した3回の洗浄と、400×gでの遠心分離によって調製した。最後の洗浄の後に、洗浄した保存RBCを、輸血のために17.0〜17.5g/dLの最終ヘモグロビン濃度に合わせてPBS中に再懸濁した。保存RBCの400×gの遠心分離を使用して上清を得、そして400μLのこの溶液を希釈せずに輸血した。RBCゴーストを、PBS対蒸留水(1:15)を用いて2倍量の保存RBCの低浸透圧性溶解によって得(すなわち、400μLのゴーストのために、800μLの保存RBCを溶血させた)、それに続いて白色のペレットを得るまで同じバッファーで複数回洗浄し、そして30,000×gにて遠心分離した。RBCゴーストの白色ペレットをPBS中に再懸濁した。ストローマ不含RBC溶解物を、洗浄した保存RBCを凍結−融解し、続いて16,000×gにて遠心分離して、ストローマをペレット化し、そして取り除くことによって調製した。
【0091】
輸血と短期的なRBC生存。
RBC(17.0〜17.5g/dLのヘモグロビンにて200または400μL;それぞれ1または2換算ヒト単位)を、イソフルラン麻酔したマウスの眼窩後方の静脈叢を通して輸血した。輸血の2および24時間後に循環している輸血RBGの割合(すなわち、輸血の2および24時間後の生存)を、二重または単一標識法のいずれかによって計測した(予備試験では、この試験の条件についてこれらの方法で有意差がないことを確認した(未掲載))。二重標識法については、先に記載したように[102]、新鮮な、同種同系であるC57BL/6RBCのアリコートを、クロロメチルベンズアミド1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニン・ペルクロラート(Dil;Invitrogen、Carlsbad, CA)で標識し、そして同種であるFVB/NJの新鮮なRBCまたは保存したRBCのアリコートを、3,3’−ジヘキサデシルオキサカルボシアニン・ペルクロラート(DiO;Invitrogen)で標識した。輸血後の規定の時点で、1〜2μLの血液を尾静脈から得、そして蛍光標識したRBCのフローサイトメトリー検出のために500μLのPBSに移した。生存を、サンプル中のDil標識RBC対DiO標識RBCの割合を、自身での輸血における割合と比較することによって計算した。単一標識試験については、新鮮なRBCまたは保存したRBCの10%のアリコートをDiOで標識した。生存を測定するために、FACSCalibur(登録商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)で得られるDiO標識性RBC対非標識RBCの比を、輸血の10分後のサンプルと最終的な終点で得たサンプルの間で比較した。規定した時点(輸血の2時間または24時間後)では、すべてのマウスをイソフルランで麻酔し、屠殺し、そして血液を心臓穿刺によってヘパリン化シリンジを使用して得た。洗浄した保存RBCを、10倍量のPBSを使用して3回洗浄し、そして400×gにて遠心分離することによって調製した。最後の洗浄に続いて、洗浄した保存RBCを、17.0〜17.5g/dLの最終ヘモグロビン濃度に合わせてPBS中に再懸濁した。保存RBCの400×gの遠心分離後に上清を得、そしてこの溶液400μLを希釈せずに輸血した。RBCゴーストを、PBS:dH2O(1:15)を用いた2倍量の保存RBCの低浸透圧性溶解(すなわち、400μLのゴーストのために、800μLの保存RBCを低浸透圧性溶解した)と、それに続く白色のペレットを得るまでの同じバッファーを用いた複数回の洗浄と30,000×gでの遠心分離によって得た。RBCゴーストの白色のペレットをPBS中に再懸濁した。一部の実験については、100μLのPBS中に溶解したLPS(E.コリ0111:B4(Sigma);マウス1匹あたり30〜100μg)を、輸血直前に尾静脈によってマウスに注射した。LPS処理マウスを、屠殺前にCanon PowerShot SD600を使用してビデオで記録した。一部の実験では、100μLのPBS中に溶解した3mgのデフェロキサミン(DFO、Novartis)、または等モル濃度のクエン酸第二鉄(Sigma−Aldrich)と一緒に1時間プレインキュベートした3mgのDFOを、輸血直前のマウスの尾静脈に注射した。最後に、一部の実験では、2mgのリポソーム化クロドロネートまたはPBS−リポソーム(ともにEncapsula NanoSciences LLC、Nashville, Tennessee製)を、輸血の48時間前にマウスに腹腔内注射した。
【0092】
組織学と免疫組織化学
剖検では、肝臓と脾臓を取り出し、10%の中性緩衝ホルマリンによって一晩固定し、そしてパラフィン内に包埋した。切片を、ヘマトキシリンおよびエオジンによって染色するか、または脱パラフィン処理し、次いで1:500希釈の抗マウスF4/80モノクローナル抗体(eBioscience、San Diego,California)と、続くビオチン化抗ラット二次抗体(1:200希釈)、ABC試薬(1:50希釈)によって免疫染色し、そして3,3’−ジアミノベンジジン基質キット(すべてVector Laboratorie、Burlingame,California製)を用いて現像した。Olympus BX40顕微鏡およびSPOT INSIGHTデジタルカメラ(Diagnostic Instruments、Sterling Heights,Michigan)を使用して像を得た。
【0093】
炎症性タンパク質の測定
インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−10(IL−10)、単球遊走因子(MCP−1)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、マクロファージ炎症性タンパク質−1β(MIP−1β)、およびケラチン生成細胞由来ケモカイン/CXCL1(KC/CXCL1)を含めたサイトカイン/ケモカインを、Cytometric Bead Array Mouse Flex Kit(BD Biosciences)を使用して定量した。心臓穿刺によって得られたヘパリン化血漿を、1:4、および/または1:10希釈にて分析した。FACSCalibur(登録商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)で得たフローサイトメトリーデータを、FlowJoソフトウェア(Tree Star,Inc.、Ash land,OR)を使用して分析した。血漿血清アミロイドA(SAA)レベルを、製造業者の使用説明書に従ってマウスSAA ELISA Kit(Life Diagnostics,Inc.、West Chester,PA)を使用して計測した。
【0094】
鉄に関連する測定
血漿NTBIを、ニトリロ三酢酸(NTA)限外濾過アッセイ[107]によって計測した。概略すると、ヘパリン化血漿(90μL)を、800mMのNTA、pH7.0と一緒に、室温にて30分間インキュベートした。血漿タンパクを、限外濾過(NanoSep、30kDaカットオフ、ポリスルホン型(Pall Life Sciences);10,620×g、15℃にて45分間)によって取り除き、そして限外濾過液中の鉄をフェロジン・アッセイ[95]によって測定した。総臓器鉄を湿式灰化手順[88]を用いて計測した。概略すると、剖検で得られた臓器の湿重量を定量し;脾臓全体または肝臓(約100mg)もしくは腎臓(約80mg)の一部を2mLのガラスバイアルに入れる。65℃にて24時間の乾燥後に、200μlの酸混合物(70%の過塩素酸:硝酸、2:1)を加えた。182℃にて5〜6時間の乾燥後に、1mLの3M HClを加え、そして混合した。次いで、酸性化サンプル(50μL)を200μLの色素体(1.6mMのバソフェナントロリン、2Mの酢酸ナトリウム、および11.5mMのチオグリコール酸)と一緒に30分間インキュベートした。535nmにてサンプルおよび鉄標準物質の吸収度を二連で計測し、そして平均値を総臓器鉄を計算するのに使用した。血色素血症を、PowerWave XS分光光度計(BioTek、Winooski,Vermont)を使用して分光光度測定により検出した。
【0095】
ルシフェラーゼ活性のインビボにおける画像化
雄SAA1−ルシフェラーゼ・トランスジェニック・マウス[108]に、尾静脈注射によって200μLの新鮮なRBC(<24時間保存)または保存RBCを輸血した。生物発光画像法を、[108]に記載のとおり、In Vivo Imaging System(Caliper Life Sciences)を使用して実施した。マウスをイソフルランで麻酔し、150mg/kgのルシフェリン(Caliper Life Sciences)を腹腔内に注射し、そして10分後に1〜60秒間撮像した。特定の領域から放出された光子を、LivingImageソフトウェア(Caliper Life Sciences)を使用して定量した;ルシフェラーゼ活性を1秒あたりの光子として表す。
【0096】
インビトロにおける細菌増殖
尿路感染を患っている匿名の患者から得たE.コリの病原性株を使用した。各実験については、このE.コリの冷凍ストックからのサンプルを、Nutrient Broth(Difco、BD Biosciences)中に接種し、そして中間対数期(約3時間)まで培養した。次いで、細菌をPBSで2回洗浄し、そして約200,000コロニー形成単位(CFU)/μLに合わせて再懸濁した。次いで、5マイクロリットルの細菌懸濁液を、96ウェルEIA/RIAプレート内で100μLのヘパリン化血漿に加えた(Costar、Sigma)。細菌増殖を600nmの吸収度によって計測した。一部の実験では、20μMのクエン酸第二鉄またはクエン酸ナトリウム(Sigma)、ウシ血清アルブミン、2,2’−ジピリジル(すべてSigma−Aldrich製)、プロトポルフィリンIX(Frontier Scientific、Logan,Utah)、またはDFOを細菌接種前に血漿に加えた。
【0097】
統計解析
2つの平均の間の有意性を、両側マンホイットニーU検定を使用して計算した。インビトロにおける細菌増殖に関する有意性を、各増殖曲線の濃度曲線下面積(AUC)値への変換と、それに続く各群について平均AUCを比較するための両側マンホイットニーU検定によって判断した。0.05未満のPの値を有意と見なした。統計解析はPrism5(GraphPad Software,Inc.、La Jolla、CA)を使用して実施した。
【0098】
結果
標準的な保存液であるCPDA−1中で最長2週間保存した白血球除去C57BL/6マウスRBCの輸血後生存は、期限切れ時点でFDA基準に見合っている[109]。本試験において、ドナーFVB/NJマウスRBCを、同種血輸血をモデル化するのに使用した。RBCを保存前に白血球除去したので(>3log10白血球除去(未掲載))、アリコートには5日間の血液培地中でのインキュベーション後でも微生物の増殖がなかった。C57BL/6マウスに輸血した新鮮(すなわち、<24時間の保存)および2週保存した同種FVB/NJのRBCの24時間生存は、同種同系輸血の結果と同様であった(図13a)[109]。これ以降に示した実験については、新鮮なRBCの平均2時間生存は、保存RBCの83.6%(s.e.m.4.7)と比較した場合に、100.1%(s.e.m.3.8)であった;すべての保存RBCは2週間の保存後に輸血した。
【0099】
保存RBCの輸血後に除去されたヘモグロビン鉄の結末を究明するために、組織鉄レベルを、(i)新鮮なRBC、(ii)保存RBC、(iii)洗浄した保存RBC、(iv)保存RBCから調製した上清、および(v)保存RBC由来のゴーストの輸血後2時間の剖検で計測した。洗浄した保存RBCを、輸血されるヘモグロビンの量が新鮮なRBCおよび保存RBCのヘモグロビンの量(1回の輸血あたり17.0〜17.5g/dLのヘモグロビンを含有する200μLまたは400μL)と等しくなるように、PBS中に再懸濁した。上清と保存RBC由来のゴーストは、それぞれ1.19g/dL(s.e.m.0.48)と<0.02g/dLの平均ヘモグロビンを含んでいた。新鮮なRBC輸血と比べた場合に、平均全鉄は、保存RBC輸血後に肝臓(12.1μg)、脾臓(10.1μg)、および腎臓(2.8μg)で有意に増加していた(図13d)。典型的な実験では、(17.5g/dLのヘモグロビンを含む400μlのRBC中の鉄の量として計算して)約225μgの全鉄を1匹のマウスに輸血した。生存データに基づいて、16.4%の保存RBCを輸血の2時間後までに除去し、そして循環から除去された約36μgの鉄をもたらした;よって、これらのマウスの脾臓、腎臓、および肝臓内に回収された余分な鉄は、あわせて、提供された全鉄の約70%を占めた。骨髄鉄は計測しなかった。加えて、保存のクリアランスは、剖検時点で脾臓の変色を生じ(図13b)そして脾臓の重さを重くした(図13c)。肝臓または腎臓の重量の有意差は検出されなかった(未掲載)。最終的に、保存RBCおよび洗浄した保存RBCの輸血だけが、輸血の2時間後に血漿NTBIレベルを増強した(図13e)。血漿NTBIのこの急増は短命であった、血漿NTBIレベルは保存RBCの輸血の24時間後まで検知できなかった。
【0100】
マクロファージがこのモデルにおける保存RBCの除去に関与するかどうか判断するために、マウスを、輸血の48時間前にリポソーム化クロドロネートまたは対照PBS−リポソームで処理した。2時間RBC生存は、PBS−リポソーム化対照と比べて、リポソーム化クロドロネート処理マウスで有意に上昇した(図30a)。F4/80マウスマクロファージ・マーカーに関する免疫組織化学によって評価されるように、リポソーム化クロドロネート処置は、肝臓および脾臓(図30b)のマクロファージを消耗させた。同系保存RBCを輸血した非クロドロネート処理対照動物では、組織学的検査が肝臓(図30c)および脾臓(データ未掲載)のマクロファージによる赤血球貪食の増加を示し、そしてそれをマクロファージのF4/80染色によって確認した(図30c)。
【0101】
急速な保存RBCクリアランスが炎症を引き起こすかどうか、および保存RBC上清に蓄積する因子よりむしろ、膜カプセル化ヘモグロビン鉄が必要であるのかどうかを判断するために、受血マウスに、規準化した量の(i)新鮮なRBC、(ii)保存RBC、(iii)洗浄した保存RBC、(iv)保存RBC由来の上清、(v)保存RBCから調製したゴースト、または(vi)ストローマ不含保存RBC溶解物を輸血した。輸血の2時間後には、ストローマ不含保存RBC溶解物を輸血したマウスは、無傷のRBCを輸血したマウスと比較して、劇的な血色素血症(図31)および血色素尿(データ未掲載)を患っていた。輸血の2時間後までに、保存RBCまたは洗浄した保存RBCのいずれかの輸血後にのみ、用量応答性の炎症誘発性サイトカイン反応を検出した。例として、循環インターロイキン(IL)−6および単球走化性タンパク質(MCP)−1レベルを、図14aに示す。統計的に有意な増加は、CXCL1(すなわち、KC)、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−1β、および腫瘍壊死因子(TNF)−αに見られ(図17);有意差は、IL−10またはインターフェロン(IFN)−γで見られなかった(図17)。質的に同様のサイトカイン結果を、保存同系RBCの輸血後に得た(すなわち、C57BL/6ドナーから;データ未掲載)。
【0102】
保存RBC由来のゴーストの輸血に対する反応の欠如は、炎症を発生させるにはヘモグロビンが必要であることを示唆している。加えて、上清ではなく、無傷の洗浄した保存RBCがこのサイトカイン反応を引き起こした;そのため、保存中に上清中に蓄積する化合物(例えば、サイトカイン、RBC由来のベシクル、無細胞ヘモグロビン、NTBI)は関与していなかった。最後に、誘発されたサイトカインパターンは、リポポリサッカライド(LPS)によって引き起こされたパターン(例えば、LPSによるIL−10およびIFN−γの増加;未掲載)と異なり、そして保存RBC上清の輸血はサイトカインを引き起こさなかった;そのため、保存RBCおよび洗浄した保存RBCの輸血の結果は、不慮のLPS夾雑によるものではなく、輸血した保存RBC自体によるものである。
【0103】
保存RBC輸血後の炎症反応をさらに調査するために、雄トランスジェニック血清アミロイドA1(SAA1)ルシフェラーゼレポーターマウス[108]に、200μLの新鮮なRBCまたは保存RBCを輸血した。SAA1は、炎症誘発性サイトカインレベルの上昇によって誘発される急性相反応物質である[108]。非侵襲性生物発光性画像法によって計測されたとおり、保存RBC輸血だけが肝脾領域において強いルシフェラーゼ・シグナルを引き起こした(基準値の>300倍超、図14b、c)。発現は、輸血の4時間後にて検出可能であり、そして輸血の24時間後までには基準値に戻った。輸血の24時間後の血漿SAA1タンパク質レベルは、画像法の結果(図14d)と一致している。
【0104】
保存RBC輸血は有意な炎症誘発性反応を引き起こしたが、どのマウスも臨床的に明らかな症状、例えば、食欲不振、移動性の低下、注意力の低下、または身づくろい行動の欠如などを発症しなかった。それにもかかわらず、保存RBC輸血に対する炎症反応が、既存の炎症状態を悪化させ、そして臨床的症状をもたらすこともあり得るので、重症患者と、古い保存RBC輸血と、有害転帰の間の相関を説明し得ると考える[11、12]。よって、LPSの亜臨床用量を、同時の新鮮なRBCまたは保存RBCの輸血を伴ってまたはそれなしに、受血マウスに注射した。輸血の24時間後の(または瀕死であればそれより早い)屠殺に続いて、サイトカインは計測した。保存RBCを輸血したLPS処理マウスは、IL−6、MCP−1(図15a)、KC、MIP−1β、IFN−γ、およびIL−10(図18)を含めた複数の炎症誘発性サイトカインのレベルの著しい上昇を維持した。加えて、より高いLPS用量を用いた実験では、保存RBCを輸血したLPS処理マウスは、輸血の18〜24時間後までに瀕死になり、そして自発運動を欠き、鈍い立直り反射しか示さなかったが、他のすべての群のマウスは、それほど病気のようではなく、そして自発運動と身づくろい行動を示していた(未掲載)。まとめると、これらの結果は、急速な保存RBCクリアランスが、LPSに相乗効果を与えて、サイトカインストームを悪化させ、そして長引かせることを示唆している。
【0105】
保存RBCの輸血がインビトロにおける病原菌の増殖を助長するかどうか判断するために、輸血後にマウスから得たヘパリン化血漿サンプルに、E.コリ病原性株をインビトロにおいて接種し、そして増殖を混濁度によって計測した。保存RBCまたは洗浄した保存RBCのいずれかの輸血2時間後のマウスからの血漿は、非輸血マウス、または新鮮なRBC、保存RBC由来の上清、もしくは保存RBCから調製したゴーストを輸血したマウスからの血漿と比較した場合に、有意に高い細菌増殖を示した(図15b)。保存RBC輸血の24時間後に採取した血漿が細菌増殖を助長しなかったので、これは急性的な影響であった(図15b)。新鮮なRBCまたは保存RBCを輸血後2時間のプール血漿中の全鉄は、それぞれ176μg/dLまたは295μg/dLであった(すなわち、保存RBC輸血後に約20μMだけ増加した)。クエン酸ナトリウム(20μM)、ウシ血清アルブミン(80μM)、またはプロトポルフィリンIX(20μM)ではなく、20μmのクエン酸鉄を、新鮮なRBCを輸血したマウスからのプール血漿に加えると、保存RBCを輸血したマウスからの血漿と同じレベルまで、細菌増殖を助長した(図15c)。このことは、保存RBC輸血によって引き起こされる高い循環鉄が、高い細菌増殖に関与することを示唆している。
【0106】
逆に、鉄キレート剤であるDFO(20μM)を、保存RBCを輸血したマウスからのプール血漿に加えると、細菌増殖を部分的に阻害した(図15d)。DFOの、等モル量のクエン酸第二鉄との(すなわち、フェリオキサミン[FO]を生じさせる)プレインキュベーションが細菌増殖の阻害を妨げたので、この阻害はDFOの鉄結合能によるものであった。いくつかのタイプの細菌は鉄源としてFOを使用できるので[117]、より劇的な細菌増殖の阻害はおそらく達成されない。それにもかかわらず、より大規模な細菌増殖の阻害は、高濃度の二座配位子の第一鉄キレート剤である2,2’−ジピリジルを使用することで達成された[118](図15e)。2,2’−ジピリジルを3分の1のモル比のクエン酸第二鉄と一緒にプレインキュベートしたとき、この阻害効果は同様に無効となった。
【0107】
最後に、鉄キレート剤の投与が保存RBC輸血に対する炎症誘発性応答を改善するかどうか調べるために、輸血の直前に、マウスに3mg(約120mg/kg)のデフェロキサミン(DFO)、つまりFDAで承認された鉄キレート剤を静脈内注射した。鉄キレートは、血漿IL−6レベルの増加を妨げ(212.8±30.8pg/mLから98.4±10.1pg/mLに;平均±s.e.m.;P=0.005;図16a)、そして、MCP−1(図16a)、KC、およびTNF−αレベル(図19)が減少に向かう傾向を示した。よって、DFOは、炎症誘発性サイトカインレベルの増加を有意に阻害し(図16a)、そしてSAA1−ルシフェラーゼレポーターマウスにおいてルシフェラーゼシグナルが減少に向かう傾向を示した(図16b)。しかしながら、SAAタンパク質レベルは、輸血の24時間後に有意差はなかった(データ未掲載)。本明細書中に開示した「鉄仮説」モデル(図16c)は、保存RBC輸血の副作用の基礎となる機構を説明するのに使用できる。
【0108】
DFOの効果は、それ自身の鉄キレート能、またはそれが有し得る他の抗酸化特性、例えばヒドロキシルラジカルを除去するその能力など、あるいはその両方の結果と考えることができる[119]。よって対照実験を、FO(すなわち、DFOとクエン酸第二鉄の等モルの組み合わせ)を注射し、それに続いて保存RBCの輸血をすることによって実施した(図16a)。この状況では、FOは、サイトカイン反応を改善する点でDFOと同じくらい有効であった。
【0109】
マウスを用いた現在の試験から得られた主な結論は、長期貯蔵後のRBCの輸血が炎症誘発性応答を引き起こし、高い循環NTBIレベルに関連していて、そして様々な組織における鉄沈着の増加につながるということである。保存RBC由来の膜ゴーストまたはストローマ不含溶解物のいずれかの輸血に対する炎症誘発性反応の欠如は、膜カプセル化ヘモグロビンが炎症を発生させるのに必要であることを示唆している。
【0110】
ストローマ不含RBC溶解物の輸血により観察される劇的な血色素血症(図31)が炎症性サイトカイン応答をもたらさなかったので、血管内溶血がこの影響に関与していないこと;むしろ、マクロファージが媒介する貪食による血管外溶血反応が関与していることを示唆している。
【0111】
加えて、付随する上清ではなく、無傷の洗浄した保存RBCがこのサイトカイン反応を引き起こした;そのため、保存中に上清中に蓄積する化合物(例えば、サイトカイン、RBC由来のベシクル、無細胞ヘモグロビン、生物活性脂質、NTBIなど)の輸血は関与していなかった。保存RBCの輸血はさらに、LPSに相乗効果を与えて、サイトカインストームを悪化させ、そして長引かせた。最後に、インビトロにおいて細菌増殖の計測は、輸血した保存RBCのクリアランスによって放出された循環鉄(すなわち、NTBI)の増加が細菌増殖を助長することを示唆している。よって我々は、鉄が保存RBC輸血のこれらの副作用の根底にあるという説を出す。
【0112】
輸血に使用されるすべてのRBC単位を保存後に培養し、いずれの細菌増殖も検出されなかったが、それらはLPS夾雑については試験していなかった。低レベルの細菌夾雑の可能性もまた存在している。しかしながら、保存RBC由来の上清またはストローマ不含溶解物の注入は、サイトカイン反応を引き起こさなかった。加えて、LPS単独の注射は、異なったサイトカイン・プロファイルを誘発した(図15aおよび17)。そのため、保存RBCまたは洗浄した保存RBCの輸血によって得られた結果は、おそらくRBC採取や加工中の不慮のLPSまたは細菌夾雑によるものではなく;むしろ、結果は輸血した保存RBC自体によるものである。
【0113】
1960年代からの研究[120−121]は、抗体を媒介したRBCクリアランス、フェニルヒドラジン処置、または異種RBCのクリアランスのいずれかによるマウスにおける赤血球貪食が、それぞれE.コリを含めた様々な細菌種によって引き起こされる敗血症に対する感受性増大に関連することを示唆している。この影響に関する機構は当時解明されなかったが、現在我々のRBC保存と輸血のモデルで見られるような、これらの生物体のフェロフィリア(ferrophilia)[122]とRBCクリアランス後の循環NTBIレベルの劇的な上昇によって説明できる可能性がある。
【0114】
別のマウス輸血モデルを用いた最近の研究では、エンドトキシン血症のマウスへの輸血前のRBCの長期保存が、肺のケモカイン、好中球、および毛細血管透過性の上昇を引き起こした[123]。我々の知見と同様に、輸血前の保存RBCの洗浄がその応答を無効にしなかったので、この応答はRBC自体に関連していた。このモデル[123]で見られた既存の肺炎症の増悪もまた、保存RBCの輸血後の上昇したNTBIレベルに関与する可能性がある。例えば、過剰な血漿鉄がトランスフェリンによって捕捉されないとき、NTBIは酸化還元反応に加わり、そして酸化的損傷、細胞毒性、および内皮接着分子の発現増強を導く[124、125]。よって、NTBIは、この肺傷害モデルにおいて別の病理学的因子として機能し得る。
【0115】
DFO、非膜浸透性キレート剤の両方、およびその鉄キレート形態であるFOが、保存RBCの輸血によって誘発されたサイトカイン反応を同程度まで阻害するという知見(図16)は、DFOの抗酸化性による可能性もある[119]。実際には、LPS投与マウスをDFOまたはFOで処理すると、同様の効果が見られた;ともに、TNF−αレベルを同程度まで低減する[119]。反応性酸素分子種は、核因子Bなどの転写因子を活性化することによってサイトカイン産生を媒介する[126,127];そのため、保存RBCのクリアランス後に生じた反応性酸素分子種がその炎症誘発性応答に関与すること、ならびにDFOおよびFOがこの酸化促進効果を改善することが可能である。貪食されたRBCの処理によって放出される遊離細胞内鉄の役割は、これらの推定される反応性酸素分子種の産生では、明らかにされないままである。SAA1レベルに対するDFOの顕著な効果の欠如は、遺伝的背景の差異の結果である可能性もある。SAA1−ルシフェラーゼ・トランスジェニックマウスはBALB/cバックグラウンド上に存在するが、本試験における他の受血マウスのすべてがC57BL/6バックグラウンド上に存在する。より古い保存RBCの輸血への炎症反応に対するマウス系統の影響を評価するために、追加研究が必要である。
【0116】
発明者らは以前に、免疫グロブリンG(IgG)抗体媒介性RBCクリアランスが不適合RBC輸血のマウス・モデルにおいてサイトカインストームを引き起こすことを観察した[102]。保存RBCまたは不適合RBCのいずれかの輸血後に、同じサイトカインパターンが見られた;しかしながら、前者の場合のサイトカイン反応は深刻ではない。そのため、IgGコートRBCのクリアランスに関与するFcγ受容体仲介シグナリングは、不適合輸血モデルにおけるサイトカイン反応を増幅することが可能である[128−130]。
【0117】
概略すると、現在のマウスRBCの保存および輸血モデルは、古い保存RBCの輸血が肝臓、脾臓、および腎臓における高いレベルの組織鉄およびNTBIの高い循環レベルに関連する炎症誘発性応答を生じさせる証拠を提供する。このことは、保存RBCの急激なクリアランス後に放出された鉄の酸化促進効果が長期保存後のRBC輸血の悪影響の一部に関与し得ることを示している。加えて、高い血漿NTBIレベルの存在は、保存RBC輸血後のヒトにおける後ろ向き試験によって示唆された細菌感染の増加リスクについて可能性のある理由を提供する[7、12、14、131−132]。輸血された保存RBCの急速なクリアランスによって供給された鉄の酸化促進効果を予防することが、これらの副作用を軽減し得る。米国だけでも毎年1500万件を超えるRBC輸血がある状態で、ヒト輸血療法に関連する場合にこの鉄仮説の重大な臨床的意義がある。
【0118】
実施例3
鉄キレート化は、古い保存RBCの輸血によってマウスで引き起こされる炎症誘発性サイトカイン応答を阻害する。
【0119】
このアプローチが古い保存RBC輸血の受血者の有害転帰を予防するための革新的な処置につながることを示すために、原理証明の前臨床試験を実施した。よって、RBC輸血の24および6時間前に、マウスに120mg/kgのデフェロキサミン(DFO;Novartis、East Hanover,NJ)、つまりFDAの承認した静脈内鉄キレート剤、または30mg/kgのデフェラシロクス(Exjade;Novartis)、つまりFDAの承認した細胞浸透性の経口鉄キレート剤を与えた。キレート化は、血漿KCおよびIL−6レベルの上昇を統計的に有意に妨げ、そしてMCP−1レベルの低下に向かう傾向を実証した(図9)。よって、新しい治療介入は、古い保存RBC輸血が副作用を生じさせる機構に関する動物データを確認することによって生じる。
【0120】
実施例4
AS−1中で保存したマウスRBCの輸血は、炎症を引き起こし、かつ、細菌性敗血症を悪化させる。
【0121】
ヒトの観察調査は、古い保存RBCの輸血が細菌性敗血症の高い確率に関連していることを示唆しているが、関連機構は分かっていない。RBC保存および輸血のマウス・モデルを使用することで、プラスチック製試験管内でCPDA−1中に保存したマウスRBCの輸血が、同種異系免疫を助長し、サイトカインストームを誘発し、そして非トランスフェリン結合鉄の血漿レベルを高める。AS−1(アドゾル保存料)およびジ(2−エチルヘキシル)フタラート(DEHP)可塑化保存バッグによる新しいマウスRBC貯蔵システムを使用することで、保存した袋詰めされたRBCの輸血が単−細菌性敗血症を悪化させるかどうかをモデル・フェロフィリック(ferrophilic)病原菌を用いて調べられるであろう。
【0122】
C57BL/6ドナーマウスからのRBCを、リン酸クエン酸デキストロース溶液(CPD)中に採血し、プールし、フィルターで白血球除去し、強く遠心分離し、血漿除去し、AS−1で60%のヘマトクリットに合わせ、そしてDEHP可塑化保存バッグ(Fenwal,Inc.、Lake Zurich,Illinois)内に保存した。規定した期間保存したRBCと新たに採取したRBCを、脂溶性色素(DiOおよびDil)で標識し、C57BL/6受血体に輸血し、そして輸血の24時間後にRBCの回復(PTR)を測定した。
【0123】
ヘモグロビンを、Drabkin’sアッセイで定量した。輸血受血体のサイトカインを、多重フローサイトメトリーアッセイで計測した。1000コロニー形成単位のサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)の菌株LT2(ATCC)を腹腔内に感染させたマウスのコホートに、350μlの新鮮なRBC、2週間保存したRBCを輸血するか、またはRBCを輸血せず、そしてマウス生存を測定した。
【0124】
9日間の保存後に、平均24時間PTRは、食品医薬品局(FDA)の評価基準の75%を下回る24時間PTRを示した1匹のマウスを除けば87.8%(SD9.4%;n=10)であった。インビトロにおける溶血反応は、3.4%(すなわち、上清中のヘモグロビン/総ヘモグロビン)であった。複数の炎症誘発性サイトカイン(すなわち、KC、MCP−1、およびIL−6)の血漿レベルは、9日間保存したRBCの輸血の4時間後のマウスにおいて統計的に有意に上昇した。14日間保存したRBCは、32%(SD4.2%;n=5)の平均24時間PTRを有し、そして輸血受血体は9日目の古いRBCを輸血したものより高い炎症誘発性サイトカインレベルを示した。14日間保存したRBCを輸血した細菌感染マウス(1群あたりn=5)は中央値で4日間生存したが、それに対し新鮮なRBCを輸血したマウスおよび輸血していないマウスは中央値で>14日間生存した(p<0.01ログ−ランク(Mantel−Cox)検定)。死亡時点で、保存RBCを輸血したマウスは、重度の菌血症(>1x104個の細菌/mL血液)であった。
【0125】
よって、9日間にわたるプラスチック製バッグ内のAS−1中でのマウスRBCの保存は、これまでに公開されたモデルに比べて身体のヒトRBC保存条件により厳密に近似している。新鮮なRBCではなく、14日間保存したマウスRBCの輸血は、モデル病原菌による細菌性敗血症を有意に悪化させた。
【0126】
実施例5
健常人への古い保存RBCの輸血は、急性炎症誘発性サイトカイン応答を引き起こす。
【0127】
11人の健常ヒト・ボランティアによる前向き試験を実施するためにコロンビア大学メディカルセンター(CUMC)とニューヨーク血液センター(NYBC)の両方からIRB承認を得た(サンプルサイズの根拠に関しては以下を参照のこと)。各ボランティアについての試験の図式的概略を図10に示す。概略すると、各参加者について試験の1日目には、ボランティアはNYBCにおいてアフェレーシスによって自家の2RBC単位の献血をする。RBC献血を、保存前に白血球除去し、2つのRBC保存バッグに二等分し、CUMC血液バンクにおいてAS−1中に保存した。1単位を同じ参加者に輸血し(すなわち、3日目の「新鮮」);もう一方の単位を最大安全保存期間後に輸血する(すなわち、42日目の「古い」)。よって、各参加者に、新鮮なRBCおよび古い保存RBCの自家輸血を与える。血液サンプル(それぞれ約20mL)を、以下のとおり様々な時点で採血する:輸血前、輸血直後、および輸血の1、2、4、24、および72時間後。表1には、それぞれの時点で計測した分析物のタイプをまとめる;これらは、炎症(例えば、サイトカイン)、溶血反応(例えば、ハプトグロビン)、鉄代謝(例えば、ヘプシジン)、および関連生理系(例えばクレアチニンおよび血中尿素窒素を使用した腎機能の評価)のマーカーに注目している。サイトカインと鉄関連の分析物はさらに、受血者で検出したレベルがインビボにおける内因性産生によるかどうか判断するために、RBC単位輸血前にも計測される。
【0128】
【表1】

【0129】
より古い保存RBC輸血の影響に対する輸血で誘発された赤血球増多症による干渉を予防し、かつ、RBC輸血に対するその後のサイトカイン反応に対する献血の推定される影響を規制するため、ボランティアは、500mLの全血を採血するために、39日目(すなわち、最後の輸血の3日前)に静脈切開される。この単位は廃棄される(すなわち、この単位は42日目に受血者に輸血されない)。これは、「新鮮」および「古い」RBC輸血状況の可能な限り多くの規制を確実にする。
【0130】
試験施設
自家RBC献血を、2倍RBC採血アフェレーシス装置(ALYX;Baxter)を備えたNYBC献血施設の立地条件が良い5か所のうちの1か所で実施する。自家RBC単位は、現在の適正製造基準(cGMP)品質規準に従ってNYBCによって処理され、そして保存3日目までの保存のためにCUMC血液バンクに輸送される。
【0131】
CUMC血液バンクは、1年に約30,000の袋詰めされたRBC単位を支給しているが、完全交差適合性試験後にそれぞれの自家単位を支給し、それに続いてCUMC標準作業手順書を支給する。輸血は、CUMC外来患者アフェレーシスおよび輸血施設において実施するが、それは4人の経験豊富な輸血医学の担当医によって監督され、5人の専門アフェレーシス看護婦が配置され、そして>30年の経験を有するアフェレーシス看護婦によって指揮される。すべての必要な静脈切開および輸血設備は、8床のベッドを一式備えたこの1,000平方フィート(約92.9平方メートル)の中で利用される。すべての輸血は、確立されたCUMC標準作業手順書に従う。
【0132】
すべての血液サンプルを、先端医学的検査センター(CALM)に運ぶ。CALMは、CUMCでの臨床的試験研究のための検査室検査を統括する。そのため、CALMの技術スタッフは、血液チューブにコード化ラベルを与え、チューブを遠心分離にかけ、そして必要であればサンプルを分割し、そしてサンプルを彼らの検査施設に輸送する。例えば、全血球算定などの標準的な臨床的検査のためのサンプルは、検査のためにCUMC臨床的検査室に輸送する;サイトカインレベルなどの研究検査のためのサンプルは、分割され、そして検査まで−80℃にて保存する。CALMには多目的検査室スペース、結果および保存標本の管理のためのコンピューター、冷蔵庫、−20℃と−80℃の冷凍庫、および液体窒素貯蔵設備がある。加えて、すべての鉄およびヘム関連アッセイを、CALM内の鉄の基準検査室で実施する。サイトカインレベルを計測する。最後に、すべての残留サンプルを、分割し、冷凍し、そして今後の使用のために−80℃にて保管する。
【0133】
対象の選択
CUMCの至る所で配布されていた小冊子に応じた健常な男性(18〜65歳)を採用する。年齢または性別に関する交絡因子(例えば、女性の月経周期は鉄レベルとサイトカイン反応に影響し得る)を回避するために、初期試験を18〜65歳の男性に限定する。この試験への参加は、民族に関して制限されることはない。すべての参加者は、現行の標準的な、ボランティアの2倍RBC献血に関するNYBC要件(例えば、体重>130lbs(約59kg)、身長>5’1”(約154.9cm);ヘモグロビン>13.3g/dL;例えば心臓病、主要組織疾患、または癌などの献血を不可能にするであろう過去の重大な病歴がない;など)を満足していなければならない。加えて、所定の感染症検査を、各献血に対してNYBCにおいて実施する。合併感染症がサイトカイン応答を変え得る可能性のために、どんな肯定的な結果も除外に至る。組み入れおよび除外に関する具体的な基準は、以下のとおりである:
【0134】
組み入れ基準:(i)男性、18〜65歳;(ii)体重>130lbs(約59kg);(iii)身長>5’1”(約154.9cm);(iv)ヘモグロビン>13.3g/dL。
【0135】
除外基準:(i)NYBCの献血者アンケートに基づく献血の対象外;(ii)収縮期血圧>180または<90mmHg、拡張期血圧>100または<50mmHg;(iii)心拍数<50または>100;(iv)体温が献血前に>99.5°F(37.5℃);(v)体温>100.4°F(38℃)、または輸血前の自覚的な病感(このことは、輸血後のサイトカイン測定に影響する合併症を回避するためである);(vi)標準的な献血者感染症検査の陽性の結果。
【0136】
サイトカインの測定
以下のもの:MCP−1、IL−8、IL−6、TNF−α、IFN−γ、およびIL−10を、血清で、多重フローサイトメトリーアッセイ(CBA Flex Kit;BD Biosciences)を用いてそれぞれの時点で計測する。これらのマーカーを、前臨床マウス試験に基づいて選択した(先に開示した実施例を参照のこと)。加えて、将来的な試験のための化合物をそして同定するために、特定のサンプルを、(先に列挙したものを含めた)46種類の炎症性メディエーターに関してHuman Inflammation Multi−Analyte Profile(Rules Based Medicine, Inc.)によってスクリーニングした。46種類の伝達物質に関する全リストを以下の表2に挙げる。
【0137】
【表2】

【0138】
鉄関連の測定
非トランスフェリン結合鉄を計測するために、血液サンプルを規定した時点にて微量元素不含チューブ内に採血する;(ヒト非トランスフェリン結合鉄レベルはマウスにおける前臨床試験のように輸血後に上昇する(図7を参照のこと)と仮定すると)これで輸血受血者の非トランスフェリン結合鉄の動態学的の測定が可能になる。血清非トランスフェリン結合鉄を計測するために、これまでに公になっている方法[93]を、わずかな変更を加えて使用する。概略すると、血液サンプルを室温にて20分間凝固させ、次いで1,000g、4℃にて10分間遠心分離する;血清をデカントし、そして分析まで−80℃にてすぐに冷凍する。トランスフェリン上の空の結合部位によるインビトロにおける鉄の取込みを回避するために、血清サンプルをトリス−カルボナトコバルト酸(III)三水和物[94]で処理する。次いで、800mMのニトリロ三酢酸、pH7.0溶液(50μL)を各450μLのサンプルに加える。室温にて30分間のインキュベーションに続いて、超遠心濾過デバイスを使用して血清タンパク質を除去する(NanoSep、30kDaカットオフ、ポリスルホン・タイプ;Pail Life Sciences;10,620×g、10℃にて45分間)。最後に、限外濾過液中の鉄を、フェロジン・アッセイ[95]を使用して定量する。
【0139】
血清ヘプシジン濃度を、近年開発され、そして正当性が認められた競合酵素結合免疫学的アッセイ[96]を使用して計測することもできる。このアッセイは、優れたアッセイ内精度とアッセイ間再現性を有しているので、ヘプシジン濃度の想定される生理学的および病理学的変動を正しく検出する。このアッセイで使用するヘプシジン基準範囲は、男性については29〜254ng/mLそして女性に関しては17〜286ng/mLであり、それぞれ中央値:112対65ng/mLと著しく異なっていた。この差は、女性の低い鉄保持に原因がありそうである。ヘプシジンレベルは、正午と晩(すなわち、午後8時)の値が朝(すなわち、午前8時)の値より有意に高い、日変化を示す。よって、「新鮮な」輸血と「古い」輸血の両方がほとんど同じ時刻に予定される。
【0140】
血清鉄と全鉄結合能(TIBC)を、CALM内の鉄の基準検査室において国際血液標準化委員会によって推薦される方法を使用して計測する。トランスフェリン飽和度を:(血清鉄×100)/TIBCとして計算する。
【0141】
血漿ヘモグロビンとヘムを、溶血反応の誘発を回避するように注意して得た血液サンプルに対して、[97]に記載のとおり、酸素ヘモグロビン、メトヘモグロビン、およびヘミクロム濃度として測定する。
【0142】
その他の所定の臨床検査室アッセイ
先に述べたように、血液サンプルを、CUMCの所定の臨床検査室にCALMのスタッフが輸送する。全血球算定(ヘモグロビン、ヘマトクリット、赤血球数、平均赤血球容積、自動化白血球較差を伴う白血球数算定、血小板数、および絶対網状赤血球算定を含む)をXe−5000 Hematology System(Sysmex,Mississauga,ON)を用いて測定する。総ビリルビン、直接ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、アルブミン、総タンパク質、グルコース、血中尿素窒素、クレアチニン、乳酸デヒドロゲナーゼ、およびフェリチンの血清中濃度を、AU−2700 Chemistry Analyzer(Olympus、Center Valley,PA)を用いて計測する。ハプトグロビンを、BNII Analyzer(Dade Behring Inc.,Newark,DE)を用いて計測する。
【0143】
統計的考察
健常男性ボランティアのこの前向き試験では、各々に2回のRBC輸血、つまり、1回が対照(すなわち、3日間の保存後の「新鮮」)、および1回が実験用(すなわち、42日間の保存後の「古い」)を与える。初期試験の結果は、「新鮮な」RBC輸血と「古い」RBC輸血を比較する、各対象に関する6種類のサイトカイン(表1)の各々の輸血前レベルと輸血後レベルの間の最大差の一対比較である。「新鮮な」RBC輸血と「古い」RBC輸血の間で、輸血前と輸血後の血清非トランスフェリン結合鉄およびヘプシジンレベルを比較した2つの重要な副次的結果を調べる。
【0144】
サンプルサイズの根拠を提示するために、より古い保存RBCの輸血によるヘモグロビン鉄の急激な供給が炎症誘発性サイトカイン反応を引き起こすと考えられる。よって、試験の各参加者に、「新鮮な」ものと、39日間に間に合うように分離した「古い」自家RBC輸血との両方を与える。初期試験の結果は、3日目の「新鮮な」輸血と、42日目の「古い」輸血を比較する、各対象に関する輸血前後のサイトカインレベル(ΔCmax)の最高血中濃度差の一対比較である。そのため、サンプルサイズを、この初期の結果に関してだけ評価した。副次的な分析を他のいくつかの試験結果に関して行うが、これらの比較はサンプルサイズ算出には加えない。
【0145】
マウスにおける前臨床データに基づいて、1単位の新鮮または古い保存RBCの同等物の輸血は、新鮮なRBCの輸血と古い保存RBCの輸血によるサイトカインレベルを比較したとき、138.3pg/mLの標準偏差で、386.4pg/mLの血漿MCP−1(強い炎症誘発性サイトカイン)の平均ΔCmaxをもたらした。同様の差がヒトでも見られると仮定すると、3日目の新鮮な輸血と42日目の古い輸血の間に少なくとも150pg/mLの血漿MCP−1レベルのΔCmaxの差(すなわち、マウスで見られた差の約40%)を検出するには、0.05の両側有意水準と0.80の検定力を有する、対応のある2標本t検定を使用すると、約9人の対象を必要とする:
【数1】

この方程式では、nが試験群のサンプルサイズを示し、zaとzbが、それぞれ正規分布の上側αパーセント点と下側βパーセント点を意味し、σが期待標準偏差であり、そしてδが42日目の古い輸血と3日目の新鮮な輸血の間の血漿サイトカインレベルのΔCmaxの差を意味する。45日間の試験中に(不十分な血液サンプリング、いずれかの理由による除外または離脱による)ボランティア参加者の約20%の喪失が許容されるのであれば、その時には11人の対象を採用する必要がある。
【0146】
計画された副次的な分析を試験に必要なサンプルサイズの計算に加えていないが、示したサンプルサイズはさらに、副次的な比較に十分な検定力ももたらすはずである。例えば、マウスの前臨床データは、新鮮なRBCを輸血したマウスとより古い保存RBCを輸血したマウスを比べて、0.6μMの標準偏差で1.4μMの非トランスフェリン結合鉄のΔCmaxを示す。人体試験では、11人のサンプルサイズが、3日目の新鮮な輸血とより古い42日目の輸血の間の非トランスフェリン結合鉄の0.59μMの差(すなわち、マウスで見られた差の約40%)を検出するのに80%の検定力をもたらす。
【0147】
これまでの結果
これまでに、18〜65歳の年齢の2人の男性ボランティアが試験を完了し、そして(1人の女性を含めた)3人が現在、組み入れられている。2人の対象からの結果を、図20〜26および32に示す。より古い保存RBC単位のみの輸血の0〜4時間後に、両ボランティアとも、総ビリルビン、血清鉄、トランスフェリン飽和度、NTBI、および絶対好中球数の劇的な上昇を示した。加えて、血清ヘプシジンレベルおよび炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン−6(IL−6)が、2人のボランティアのうち1人で上昇した(図32)。「新鮮な」RBC輸血後に、これらの分析物の検出可能な増加はない。ハプトグロビンレベルに検出可能な変化がないということは、RBCが血管外に除去されていることを示唆している。まとめると、このことは、除去されたRBCの処理後に鉄が循環中に解放される証拠を提供する;特に、このクリアランスは血漿NTBlのレベルを上げるのに十分なほど多く、血漿NTBlは健常ボランティアで通常検知されない。加えて、循環好中球およびIL−6の急激な上昇は、古い保存RBC輸血に続く炎症反応の存在を示唆している。
【0148】
実施例6
古い保存RBCの輸血は、鎌状赤血球症またはβ−サラセミアを患っている慢性的に輸血を受けている患者において急性炎症誘発性応答を引き起こす。
【0149】
より古い保存血液の輸血は、鎌状赤血球症およびβ−サラセミアを患っている患者において炎症誘発性サイトカイン反応を誘発すると考えられる。加えて、この状況で使用されることが多い他の標準的なRBC製剤(すなわち、洗浄RBCや冷凍保存RBC)が類似した影響を誘発するか測定した。興味深いことに、インビトロにおけるヒト・ドナーRBC単位の保存は、おそらく損傷したRBCまたは溶血したRBC由来の鉄による、非トランスフェリン結合鉄レベルの漸進的増加を導き、それが最終的には、上清中の利用可能なトランスフェリンを飽和する。加えて、少なくとも幼児では、RBC輸血は、高いレベルの血漿非トランスフェリン結合鉄を導く[59]。より古い保存RBC単位の輸血による非トランスフェリン結合鉄の付随する注入が有害であれば、その時には、鉄キレート剤と抗酸化剤がこの損傷を予防できる[31、60]。同様に、より古い保存RBC単位の洗浄が、上清中の非トランスフェリン結合鉄を取り除く;その結果、非トランスフェリン結合鉄の注入を予防する。しかしながら、RBCの洗浄では輸血の毒性成分を取り除けない(毒性成分は時間の経ったRBC自体であるため)と考えられているため、洗浄したRBCがまだ炎症誘発性サイトカイン反応を引き起こすという副次的な考え方を検証する。マウスにおける前臨床試験では、古い保存RBCの洗浄は輸血後の炎症誘発状態の誘導を予防しなかった(図6);この実施例では、輸血直前により古い保存RBC単位を洗浄することによって、ヒト患者においてこの問題に対処する。また、冷凍保存の過程がRBCに損傷を与え得るので、冷凍保存したRBCがさらに重大な炎症誘発性サイトカイン反応を引き起こすという副次的な考え方も検証する。この試験では、献血直後に冷凍保存されたそれらの単位だけが使用される。最後に、継続的な慢性溶血状態(すなわち、鎌状赤血球症)の患者と、より軽度の継続的な溶血反応(すなわち、β−サラセミア)の患者における古い保存RBC輸血の影響を比較することによって、慢性溶血が炎症誘発性応答を軽減するという副次的な考え方を検証する。これらの患者における鉄保護遺伝子(例えば、ヘム・オキシゲナーゼ−1)の上方制御のため、慢性溶血が炎症誘発性応答を低減し得るか、または予防し得る。これらの考え方を系統的に検証するためのデータを提供するように、以下に記載した試験を設計する。
【0150】
総説
2〜6週間毎に慢性的に簡易輸血を受けている、あらゆる検出可能なRBC同種抗体を持たない、そして以前の試験研究に参加しながらCUMCにて処置を受けている、鎌状赤血球症またはβ−サラセミアの患者のコホートを特定した[90、91](表3)。彼らの平均年齢は18.8歳(4歳〜42歳の範囲)であり、65%が男性である。過去6カ月にわたる彼らの輸血履歴の再調査では、これらの患者に輸血された単位の保存期間が5〜32日間の範囲にわたり、そしてほとんどの患者が2〜6週間毎に1〜2単位を輸血されていることを示す。β−サラセミア患者の全員が脾摘出術を受けており、そして鎌状赤血球症患者は機能的に無脾症であると推定される;そのため、これらの患者のRBCクリアランスの大部分がおそらく肝臓において起こっている。
【0151】
【表3】

【0152】
前記の表3では、事象毎に輸血される単位数、輸血の頻度、および輸血した単位の保存年齢を、過去6カ月の輸血履歴の再調査に基づいて計算した。ヘモグロビン(g/dL単位のHb)と網状赤血球数(%)(%retic)を、彼らの最新の輸血直前に得られた輸血前の値である。**は、この患者が過去6カ月にわたって洗浄RBCを受けたことを示している、とはいえ、これが臨床的に必要ではなく、そしてこの試験への参加を妨げない。
【0153】
これらの慢性的に輸血を受けている患者に参加による何らかの利益を提供するために、そして献血者のばらつきを規制するために、専任ドナーを受血者ごとに6回の輸血を供給するために採用する。専任ドナーの採用は、慢性的に輸血を受けている患者をリスクにさらす機会を減らし、そしてニューヨーク血液センターによって管理される。試験に対するIRB承認を得る。概略すると、図11に示すとおり、同じドナーがそれぞれの場面においてアフェレーシスによって2倍RBC単位を提供する3対の輸血事象があるが、その単位は、白血球除去され、そして標準的なAS−1保存料中に保存される。所定の献血からの2単位のそれぞれを、同じ血色素病患者に3〜6週間ずらして、連続して輸血する。各患者の輸血スケジュールは十分に融通がきく;そのため、この試験に関して、「新鮮な」輸血は3〜14日間の保存と規定し、そして「古い」輸血は28〜42日間の保存と規定する。最初の対を成す輸血事象は、「新鮮な」RBC輸血と「古い」RBC輸血を比較したときに、検出可能な炎症誘発性サイトカイン反応があるかどうかを調べる。2回目の対を成す輸血事象は、輸血前にRBCを洗浄することによる有益または不利益な効果があるか調べる。3回目の対を成す輸血事象は、炎症誘発性応答に対するRBC冷凍保存の影響を調べる。
【0154】
RBC輸血の品質管理のために、輸血したRBCのインビボにおける生存を定量する。鎌状赤血球症およびβ−サラセミア患者における(洗浄や冷凍保存の影響を含めた)保存RBC輸血のRBC生存については、わずかにしか知られていない。そのため、RBC生存の試験を実施することで、この試験の負の初期結果(すなわち、炎症誘発性サイトカイン反応の欠如)が実際には、より古い保存RBCが除去されていないことよりむしろ、病態生理学的機構の差のためであることを確認する。このために、ドナーRBCの10mLのアリコートをビオチンで標識し[98]、そして生存をその後の採血において循環ビオチン標識RBCをフローサイトメトリー検出によって計算する(詳細は以下に示す)。RBC生存を計算するための血液サンプル(EDTA中で1mL)を、5mLのビオチン標識RBCの注入の5分後と1時間後に得る。RBC単位の残りを1時間サンプルの採血後に輸血する。試験の中のこの態様は、患者の採用を制限することもあるので、この要素への参加は任意である。
【0155】
他の分析のための血液サンプル(推定される患者の全血液量によって5〜10mL)を、輸血前、ならびに輸血の1および2時間後に採血する。これらの時点を、前臨床マウス試験に基づいて選択した;しかしながら、実施例4の結果を調べた後に、それらを調整する必要があり得る。表4には、それぞれの時点で計測する分析物をまとめる;これらは、炎症(例えば、サイトカイン)、溶血反応(例えば、ハプトグロビン、遊離ヘモグロビン)、鉄関連の測定、および関連生理系(例えばクレアチニンおよび血中尿素窒素を使用した腎機能の評価)のマーカーに注目している。血液サンプルの体積によって制限されるときには、表中のより上にある検査室検査を優先する。サイトカインはさらに、受血者で検出したレベルがインビボにおける内因性産生によるかどうか判断するために、RBC単位輸血前にも計測される。加えて、洗浄したRBCが保存単位中のこの潜在的有害物質の蓄積を減少させるかどうかを検証するために、非トランスフェリン結合鉄をRBC単位中で計測する。
【0156】
【表4】

【0157】
患者が彼の輸血投薬計画に基づいてどの場合にも2RBC単位以上を定期的に輸血している場合には、最初に指示された単位を輸血し、そしてその後の指示のない輸血中に、輸血後の血液サンプルを採血する。その後の輸血がサイトカインの結果を妨げるのを予防するために、これらの事例中は、その後のランダムなドナーの輸血を新鮮なもの(すなわち、<14日間の保存)にする。最後に、これらの患者はすべて慢性的に鉄キレート療法を受けており、かつ、前臨床試験では、これが試験の結果に影響を及ぼすことが示唆されているので、デフェロキサミン(Desferal、Novartis、t1/2=6時間)が与えられている患者は、6回の計画されている試験輸血それぞれの36時間前にキレート療法を中止する。デフェラシロクス(Exjade、Novartis、t1/2=8〜16時間)が与えられている患者は、6回の計画されている試験輸血それぞれの3日前にキレート療法を中止する。キレート療法を中止するこの時間は、鉄関連のアッセイへの干渉を予防するのに十分である[99、100]。加えて、これらの患者は頻繁に短い「キレーション・ホリデー(chelation holidays)」を経験しているので、こうした短期間のキレート療法の中止の副作用は最小限であると予想される。
【0158】
試験施設
この実施例における試験施設は、実施例4に記載されているとおりである。
【0159】
RBCのビオチン化
RBCを、幹細胞治療研究所でビオチン化するが、そこは、外来患者アフェレーシスおよび輸血施設から約25ヤード(約23メートル)離れていて、血液バンクに隣接している。幹細胞治療研究所は、FACT認証されており、同種間および自家造血幹細胞製剤を患者に提供するための最新のヒト製剤の製造/品質管理基準(current Good Tissue Practices)(cGTP)を使用している。よって、RBCアリコートをビオチン化するために、[98]に記載のような、詳細な標準的な操作手順が使用される。手順を以下に詳述する。すべてのビオチン化RBC製剤を、リムルス溶解物アッセイを用いる現行の標準的操作手順のわずかな改法を使用して、提供前にLPS夾雑がないかどうか検証する。得られた製剤のビオチン化と無菌状態の妥当性を立証するために、血液バンクから廃棄されたドナーRBCを使用した予備試験を実施する。
【0160】
対象(輸血受血者)の選抜
慢性的に簡易輸血療法を受けている鎌状赤血球症およびβ−サラセミアの患者を、あらかじめ試験する。表3には、(以下に詳述した具体的な組み入れおよび除外基準に基づく)この試験の潜在的な患者の匿名リストを示す。この試験への参加は、性別または民族性よって制限を受けないが、1歳より上の年齢に制限する。民族性データを、すべての試験対象について収集する。組み入れと除外の愚弟的な基準は、以下のとおりである:
【0161】
組み入れ基準:(i)特異的で、十分に特徴がある血色素病;(ii)慢性的な簡易輸血療法(頻度が≦6週間毎の輸血エピソード);(iii)慢性的な鉄キレート療法;(iv)自己申告により妊婦ではなく、かつ、妊娠を計画していない;(v)年齢>1歳。
【0162】
除外基準:(i)陽性のRBC抗体スクリーン;(ii)臨床的に不安定;(iii)精神病のための処置;(iv)投獄;(v)収容。
【0163】
対象(輸血受血者)の登録
血液科外来診療所で診察され、そして選定基準を満たす血色素病の成人および小児科の患者を、潜在的試験対象(例えば、表3の人たち)と見なす。あらゆる利害の衝突を回避するために彼らを処置している医師以外の人によって、これらの患者に口頭および書面でこの試験に関する情報を提供する。参加に前向きな人を、インフォームドコンセント後に試験に登録する。
【0164】
対象(輸血ドナー)の選抜
NYBCによって維持されている頻繁なRBCドナー・データベースからのドナーを、各対象の専任の有向ドナーとして採用する。ドナーは、2倍RBC献血のためのNYBC要件を満たさなければならない(例えば、男性は、体重130lbs(約59kg)超であって、5’1”(約154.9cm)より背が高くなければならず;女性は、体重150lbs(約68kg)超であって、5’5”(約165.1cm)より背が高くなければならない)。ニューヨーク州は、16歳超、且つ、76歳未満のドナーを許可したが、ドナーが頻繁な献血歴を有することを確実にし、そして健康または社会的理由によるドナーの脱落を減少させるために、ドナー年齢を21〜65歳に制限する。すべてのドナーに、2〜2.5年間にわたり4回の2倍RBC献血に行くように依頼する。彼らが試験期間中にニューヨーク市の都市部にとどまっていることに十分に確信がもてないドナーを、除外する。加えて、β−サラセミア・コホートのすべてのドナーはABOおよびRh(D)に合致し、そして鎌状赤血球症コホートのすべてのドナーがABO、Rh(D、C、c、E、e)であり、そしてKellは、CUMCのこれらの患者による実施の現行基準のとおり合致した。最後に、対を成す輸血事象が生じた後に専用ドナーが試験から脱落したら、新しい専任ドナーをその後の献血のために採用する(すなわち、このことは、自動的に調査からの輸血受血者の除外につながるわけではない)。組み入れと除外の具体的な基準は、以下のとおりである:
【0165】
組み入れ基準:(i)21〜65歳;(ii)男性は体重>130lbs(約59kg)、女性は体重>150lbs(約68kg);(iii)男性は身長>5’1”(約154.9cm)、女性は身長>5’5”(約165.1cm);(iv)ヘモグロビン>13.3g/dL;(v)試験期間中にニューヨーク市の都市部にとどまっている意志の十分な確信;(vi)これまでにアフェレーシスによる2倍RBC献血を許容されている;(vii)過去5年にわたる平均して1年あたり少なくとも3回のRBC単位献血によって規定されるNYBCにおける頻繁なドナー。
【0166】
除外基準:(i)NYBCの献血者アンケートに基づく献血の対象外;(ii)収縮期血圧<90または>180mmHg、拡張期血圧<50または>100mmHg;(iii)心拍数<50または>100;(iv)体温が献血前に>99.5°F(37.5℃);(v)標準的な感染症検査による陽性。
【0167】
インビボにおけるRBC生存試験
生存試験は任意である(すなわち、患者はRBC生存試験を見合わせるか、全般的な調査に残るかを選ぶことができる)。加えて、患者あたり最高1回のRBC生存試験を実施する。インビボにおけるRBC生存の計測のために、袋詰めされたRBCの10mLのアリコートを、わずかな改変を伴って[98]に記載のとおりビオチン化する。概略すると、袋詰めされたRBCの10mLのアリコートを、輸血当日に試験単位からの無菌様式で取り出す。このアリコートを、4倍量のDulbecco’s PBS(Invitrogen)で3回洗浄し、175mLのチューブ(Nalgene、Rochester,NY)に移し、そしてビオチン化のために7%のヘマトクリットに調整する。10%のDMSO中の2mg/mLのN−ヒドロキシスクシンイミドビオチン(NHS−ビオチン)の原液を、0.5mLのDMSO中に10mgのNHS−ビオチン(Sigma)を溶解し、続いて4.5mLのDulbecco’s PBSを添加することによって調製する。この原液を、DMSO抵抗性材料でできた0.2μmのシリンジ・フイルター(Corning Glassware)を通す濾過によって滅菌する。NHS−ビオチン原液を、ゆるやかに撹拌しながら7%のRBC懸濁液に加えて、1μg/mLの最終的なNHS−ビオチン濃度を得る。室温にて30分間のインキュベーション後に、RBCを、少なくとも3倍量のDulbecco’s PBSで2回洗浄する。その後の2回の洗浄を、注射可能な等張食塩水で実施し、そしてRBCを6〜10mLの注射用生理的食塩水中に再懸濁する。これらのRBCを、RBC単位の輸血前に「IVプッシュ」によって注射する(合計5mL)。注射の5分後と1時間後に得た血液サンプル(EDTA中に1mL)を、1時間RBC生存を計算するのに使用し、次いで、試験輸血を始める。総括的な考え方が、より古い保存RBC輸血からの単球−マクロファージ系へのヘモグロビン鉄の急激な供給が炎症誘発性応答を引き起こすというものなので、そして急激なRBCクリアランスの大部分が輸血後の最初の1時間以内に起こるので[33]、1時間RBC生存だけを計測する。
【0168】
血液サンプル(注射の5分後と1時間後に得た;EDTA中に採取した1mL)を、循環ビオチン化RBCのパーセンテージを計算するためにフローサイトメトリーによって分析する。概略すると、これらのサンプルから作製した1%のRBC懸濁液80μLを、(PBS中に)1:20希釈のストレプトアビジン−フィコエリトリン(Molecular Probes、Invitrogen)20μLと混合し、そして室温にて30分間インキュベートする。PBSでの2回の洗浄に続けて、RBCをPBS中に再懸濁し、そしてフローサイトメトリーによって分析する。注入の1時間後のサンプルのフィコエリトリン陽性RBCのパーセンテージを、5分後サンプルと比較して、1時間RBC生存を推定した。
【0169】
洗浄RBCと冷凍保存RBC
2単位の献血された2倍RBC単位のうちの1単位の冷凍保存を、採血の24時間以内にNYBCの標準的な操作手順を使用して実施した。古い保存RBC単位の洗浄と冷凍保存RBC単位の脱グリセリン化を、同様にNYBCの標準的な操作手順に従って、輸血の24時間以内にともに実施する。RBC単位の脱グリセリン化と洗浄を、自動細胞洗浄システム(COBE2991、CaridianBCT、Lakewood, CO)を使用してそれぞれ実施する。
【0170】
サイトカインの測定とその他の所定の臨床検査室アッセイ
すべての分析物を、先に開示した実施例に記載したとおりに計測する。
【0171】
統計的考察
これは、それぞれ3対のRBC輸血を受ける慢性的な輸血療法に関する血色素病患者の前向き試験である。それぞれの対を成す輸血事象を、1種類の対照および1種類の実験的輸血で構成する(試験の概要については図11を参照のこと)。最初の対を成す輸血事象では、慢性的に輸血を受けている患者においてより古い保存RBCの輸血が急性炎症誘発性応答を引き起こすという考え方を検証する。この輸血事象は、1種類の対照輸血(すなわち、「新鮮:」3〜14日間の保存)および1種類の実験的輸血(すなわち、「古い:」28〜42日間の保存)で構成される。初期試験の結果は、「新鮮な」RBC輸血と「古い」RBC輸血からの得られたレベルを比較する、各対象に関する6種類のサイトカイン(表1)の各々の輸血前レベルと輸血後レベルの間の最大差の一対比較である。他の2回の対を成す輸血事象は、洗浄した古い保存RBCが同様の炎症誘発性サイトカイン反応を引き起こすかどうか、および冷凍保存がさらに重大なサイトカイン反応を引き起こすかどうかという副次的な考え方を検証する。副次的な結果を、慢性的な溶血状況を有する鎌状赤血球症患者と通常は慢性的な溶血状況を有していないβ−サラセミア患者の間のサイトカイン反応の程度を比較することによって調べる。
【0172】
サンプルサイズの根拠を提示するために、より古い保存RBCの輸血によるヘモグロビン鉄の急激な供給が炎症誘発性サイトカイン反応を引き起こすと考えられる;よって、RBC単位の洗浄は、毒性成分(すなわち、時間の経ったRBC自体)を取り除かないので、サイトカイン反応を改善するはずがない、および冷凍保存は、損傷した冷凍保存RBCのクリアランスの増加のため応答をより大きくする。初期試験の結果は、「新鮮な」輸血(3〜14日間の保存)と「古い」輸血(28〜42日間の保存)を比較する、各対象に関する輸血前後のサイトカインレベル(ΔCmax)の最高血中濃度差の一対比較である。そのため、サンプルサイズを、この初期の結果に関してだけ評価した。副次的な分析を他の試験結果に関して行うが、これらの比較をサンプルサイズ算出には加えなかった。
【0173】
マウスにおける前臨床データに基づいて、1単位の新鮮およびより古い保存RBCの同等物の輸血は、新鮮なRBCの輸血とより古い保存RBCの輸血から得られる値を比較したとき、138.3pg/mLの標準偏差で、386.4pg/mLの血漿MCP−1(強い炎症誘発性サイトカイン)のΔCmaxをもたらした。統計的には、本初期結果判定法は、実施例4と同様である。よって、0.05の両側有意水準、138.3pg/mLの予想標準偏差、および0.80の検定力を有する、対応のある2標本t検定を使用すると、150pg/mLの差を検出するために約8.9人の対象を必要とする。これは、マウスで見られた差の約40%である。よって、試験を完成するためには、各群からの9人の患者を必要とする(すなわち、表3で列挙した鎌状赤血球症患者の約50%とβ−サラセミア患者の100%)。表3で列挙した患者から必要数の人を首尾よく採用し、そして維持し得るが、追加の患者を特定する必要がある可能性もある。この目的のために、CUMCの小児科の血液学部門が行動的であり、臨床サービスを拡大する。加えて、ニューヨーク都市部からの鎌状赤血球症およびβ−サラセミアのその他の患者が、CUMCで受診し、そして成人担当の血液学者によって治療を受けている。そのため、追加の患者が必要になることがあれば、彼らを容易に利用できる。
【0174】
同様の考察は副次的な考え方に適用され、そこでは洗浄RBCと冷凍保存RBCの効果を検証している。未処理の「古い」RBC輸血から得られたレベルを、洗浄した「古い」RBCまたは冷凍保存したRBC輸血のいずれかと比較するとき、0.05の両側有意水準と0.80の検定力を有する、対応のある2標本t検定を使用すると、少なくとも150pg/mLの血漿MCP−1レベルのΔCmaxの差を検出できる。
【0175】
このサンプルサイズもまた、慢性的な溶血が炎症誘発性反応を軽減するかどうかを検証する(すなわち、鎌状赤血球症およびβ−サラセミア患者におけるサイトカインレベルを比較する)副次的な考え方に適当な検定力を供給する。0.05の両側有意水準と0.80の検定力を有する、対応のない2標本t検定を使用すると、鎌状赤血球症およびβ−サラセミア患者の間の少なくとも195pg/mLの血漿MCP−1レベルのΔCmaxの差を検出できる。これはマウスで見られたサイトカイン差の50%を意味する。
【0176】
鎌状赤血球症またはβ−サラセミアを患っていて慢性的に輸血を受けている患者において、より古い保存RBCの輸血が急性炎症誘発性応答を引き起こすと予想される。
【0177】
実施例7
鉄キレート剤を用いた鎌状赤血球症およびβ−サラセミア患者の処置が、より古い保存RBCの輸血によって誘発される急性炎症誘発性応答を予防する。
【0178】
初期試験の考え方は、鉄キレート化が鎌状赤血球症およびβ−サラセミアの患者における炎症誘発性サイトカイン応答を改善するというものである。
【0179】
総説
この実験では、可能性のある治療的介入を検証する。よって、この実験は、患者が鉄キレート療法中に、「新鮮な」(すなわち、3〜14日間の保存)RBC単位および「古い」(28〜42日間の保存)RBC単位の対を成す輸血事象を含むための、実施例5で開示した2年間の試験の続きを単に表している。実施例5で開示した3回の対を成す輸血事象では、患者は輸血前に一時的にキレート療法を中止する;この実験構成では、キレート化中の炎症誘発性サイトカイン反応が計測され、そしてその結果を実施例5に記載の最初の対を成す輸血事象で得た結果と比較する。同じ専任ドナーを使用し、そして同じ分析物を計測する。よって、すべての試験を図12にまとめる;この4年間のプロジェクトのうちの2年目と3年目に起こることとしてこの図面に記録したが、これらの試験が一部の患者について4年目まで続くことが予想される。例えば、18人の患者が登録されると、これは合計144回の輸血(すなわち、18×8)を必要とする;目標は、平均で1週間に約1.1回の輸血を実施することである。
【0180】
統計的考察
これは、キレート療法中に2種類のRBC輸血を受け、そしてキレート療法を中止して2種類のRBC輸血を受ける血色素病患者の前向き試験である、1種類の対照輸血(すなわち、「新鮮:」3〜14日間の保存)および1種類の実験的輸血(すなわち、「古い:」28〜42日間の保存)。初期試験の結果は、各対象に関する6種類のサイトカイン(表1)各々の輸血前後のレベルの間の最大差の一対比較であり、「新鮮な」RBC輸血と「古い」RBC輸血の間で、キレート療法中のこの差を、キレート療法を中止して得られた値と比較する。
【0181】
サンプルサイズの根拠を提示するために、より古い保存RBCの輸血によるヘモグロビン鉄の急激な供給が炎症誘発性サイトカイン反応を引き起こすと仮定する;そのため、鉄キレート化がこの応答を軽減するはずである。初期試験の結果は、各対象に関する、輸血前後のサイトカインレベル(ΔCmax)の間、および「新鮮な」輸血事象(すなわち、3〜14日間の保存)と「古い」輸血事象(すなわち、28〜42日間の保存)の間の最大濃度差の一対比較であり、そして患者がキレート療法中である間のこの値を、キレート療法を中止して得られた値と比較する。マウスにおける前臨床データに基づいて、鉄キレート化は炎症誘発性サイトカイン反応を50%超低減する。加えて、1単位の新鮮およびより古い保存RBCの同等物の輸血は、新鮮なものとより古い保存RBC単位の輸血とを比較したとき、138.3pg/mLの標準偏差で、386.4pg/mLの血漿MCP−1(強い炎症誘発性サイトカイン)のΔCmaxをもたらした。統計的には、この実施例における初期結果判定法は、実施例4および5のものと同様である。よって、0.05の両側有意水準、138.3pg/mLの予想標準偏差、およびと0.80の検定力を有する、対応のある2標本t検定を使用した場合には、150pg/mLの差を検出するために約8.9人の対象を必要とする。これは、マウスで見られた差の約40%であり、キレート療法によるサイトカインレベルの50%の差を検出するためのこの試験に十分に検定力を与える。先に開示した試験に十分に検定力を与えるためには、9人の鎌状赤血球症患者と9人のβ−サラセミア患者が必要である。この慎重なサンプルサイズ見積りと0.80の検定力を使用することで、サイトカインレベルの40%の差を検出できる、そしてそれはマウスで見られた50%効果をまだ下回っている。
【0182】
結果
鉄キレート剤による鎌状赤血球症およびβ−サラセミア患者の処置は、より古い保存RBCの輸血によって誘発される急性炎症誘発性応答を予防すると予想される。
【0183】
本発明が、より古い保存した白血球除去RBCの輸血が炎症誘発性応答を誘発することを初めて実証したと考えられる。従って、実質的にいかなる機構によっても、単球−マクロファージ・システムへの相当量のヘモグロビン鉄の急激な供給が酸化ストレスを引き起こし、その結果、炎症誘発性サイトカインの分泌を引き起こす。
【0184】
本明細書中に開示したヒト患者のこれまでの観察とマウスにおける前臨床結果に基づいて、より古い保存RBCの輸血から生じる臨床証拠と症状は、受血者の原疾患の状況によって異なると考えられる。例えば、健康なマウスへのより古い保存RBCの輸血は明白な症状を生じさせなかったが、少量のLPSを注入したマウスにおいて、RBC輸血後に劇的な応答が見られ、そしてサイトカインストームの延長と増悪に至った(図8)。そのため、試験は、慢性的なRBC輸血を必要とする2つの疾患状況:鎌状赤血球症およびβ−サラセミアを基にして行われる。患者が自分自身の対照としての役割を果たし、かつ、ドナーの露出を最小限にする計画を使用して、基本的な溶血状況(すなわち、鎌状赤血球症対β−サラセミア)が、より古い保存RBCを使用した輸血に対する炎症誘発性応答に影響を及ぼすかどうか調べる。他の標準的なRBC製剤が、輸血に続いて炎症誘発性応答を引き起こすかどうかもまた、測定する;これらには洗浄したRBC(洗浄したRBCはいくつかのセンターで大規模に使用されている)および冷凍保存したRBC(冷凍保存したRBCは高度に同種免疫感作された患者に必要であり得、それはインビトロにおいていくつかの損傷を有している)を含む。
【0185】
最後に、慢性的輸血からの鉄過負荷を予防するための、これらの患者における鉄キレート療法の所定の使用は、より古い保存RBCの輸血直後起こる急性炎症誘発性応答を鉄キレート化が阻害するかどうかに関する測定を可能にする。
【0186】
この試験からもたらされる陽性の知見(すなわち、より古い保存RBCが、実際には、健常ボランティアまたは患者の急性炎症誘発性応答を引き起こすこと)が、現在の輸血医薬の実施にすぐに影響を与え、そして輸血前の適当なRBC保存間隔の決定に関する証拠に基づくアプローチのための科学的根拠が提供され始める。結果は患者群によって異なる(例えば、鎌状赤血球症の慢性溶血状況は、古い保存RBC輸血の急性副作用に対する不応期を引き起こし得る)。しかしながら、陰性の知見(すなわち、古い保存RBCの輸血は、ヒトでは急性炎症誘発性反応を引き起こさないこと)もまた、現在の輸血医薬の実施にとって大きな意味がある;よって、このことは、現在のRBC保存基準が適当であるという再確認を提供する。
【0187】
興味深いことに、これらの試験はさらに、現在でも説明の難しい観察結果の1つ;すなわち、(白血球除去前ほど一般的ではないが)発熱性の輸血反応が白血球除去したRBCの輸血によってもまだ引き起こされていること、を解明することもできる。これらの反応の原因は、解明されないまま残されているか、または原因となるRBC単位の最適とはいえない白血球除去のせいにされるかのいずれかである。これらのケースの一部が、保存RBCのクリアランスによるヘモグロビン鉄の急激な供給後の単球−マクロファージ系による炎症誘発性サイトカインの過剰分泌から生じ得る。より古いRBC単位が輸血に使用されるときに、こういった「反応」がより高頻度で見られると予測される。宿主特異的因子(例えば、サイトカイン遺伝子における遺伝的多型[104])が特定の輸血受血者にそういった反応を発現しやすくし得ることもまた可能である。実際に、これが、より古い保存RBCの非免疫介在性血管外溶血に続発する新型の輸血反応に相当し得る。
【0188】
参照による組み込み
本願明細書において参照された、又は以下に列挙された全ての刊行物及び特許は、あたかもそれらの個々の刊行物又は特許が、具体的に又は個別に参照により組み込まれることが意図されていたかのように、本明細書において参照により完全に組み込まれる。矛盾がある場合には、全ての定義を含む本願が支配的となり得る。
【0189】
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【表21】

【表22】

【表23】

【0190】
同等物
対象発明の具体的な実施形態について議論したが、先の明細書は説明のためのものであって、限定するものではない。本発明の多くの変形形態が、この明細書および以下の請求項を検討することで当業者には明らかになるであろう。本発明の完全な範囲は、同等物のそれらの完全な範囲だけでなく、請求項を参照し、そしてそういった変形形態だけでなく、明細書を参照することによって判断されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するための器具であって、前記組成物と無菌状態で接触する内部表面、及び有効量の鉄キレート剤を含んでなる、前記器具。
【請求項2】
前記鉄キレート剤が、前記組成物と無菌状態で接触する前記器具の内部表面に配置される、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記鉄キレート剤が、前記組成物と無菌状態で接触する前記内部表面によって形成された前記器具の内部空間内に配置される、請求項1に記載の器具。
【請求項4】
輸血を必要としている患者への輸血のための赤血球を保存するためのコンテナである、請求項1に記載の器具。
【請求項5】
前記コンテナが輸血バッグである、請求項4に記載の器具。
【請求項6】
前記器具が血液フィルターである、請求項1に記載の器具。
【請求項7】
前記鉄キレート剤が、アポトランスフェリン、ラクトトランスフェリン、金属結合酵素、ヒドロキサム酸重合体、リン酸化ミオイノシトール重合体、ヘムB、ヘムA、ヘムC、デスフェロキサミン(DFO)、デスフェリチオシン(DFT)、デスフェリ−エキソケリン(D−Exo)、(S)−DMFT、(S)−DADMDFT、(S)−DADFT、4’−(OH)−DADFT、4’−(OH)−DADMDFTまたはその六座誘導体BDU、デフェリプロン(L1)、その代謝がヒドロキシピリジノン類似体を生じるヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグ、CP94、CP502、CP365、CP102、CP41、CP38、LiNAII、Pr−(Me−3,2−HOPO)およびその六座類似体TREN−(Me−3,2−HOPO)、CP117、CP165、タキピリジンアルキル類似体、タキピリジン二級アミン連結類似体、タキピリジンピリジル連結類似体、タキピリジンピリジル連結マレイミド誘導体類似体、PIH、SIH、PCIH、PKIH、PIH類似化合物101、PIH類似化合物102、PIH類似化合物103、PIH類似化合物104、PIH類似化合物105、PIH類似化合物106、PIH類似化合物107、PIH類似化合物108、PIH類似化合物109、PIH類似化合物110、PIH類似化合物112、PIH類似化合物113、PIH類似化合物114、PIH類似化合物115、PIH類似化合物201、PIH類似化合物202、PIH類似化合物204、PIH類似化合物205、PIH類似化合物206、PIH類似化合物207、PIH類似化合物208、PIH類似化合物209、PIH類似化合物212、PIH類似化合物215、PIH類似化合物301、PIH類似化合物302、PIH類似化合物305、PIH類似化合物307、PIH類似化合物308、PIH類似化合物309、PIH類似化合物310、PIH類似化合物312、PIH類似化合物315、PCBH、PCHH、PCBBH、PCAH、PCTH、PKBH、PKAH、PK3BBH、PKHH、PKTH、5−HP、トリアピン(Triapine)、NT、N2mT、N4mT、N44mT、N4eT、N4aT、N4pT、DpT、DP2mT、Dp4mT、Dp44mT、Dp4eT、Dp4aT、Dp4pT、デフェラシロクス(deferasirox)(Exjade、ICL670A)、デフェラシロクスの5,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾール類似体、HBED、Faralex−G、4−ヒドロキシ−2−ノニルキノリン、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載の器具。
【請求項8】
前記鉄キレート剤が、デスフェロキサミン、デフェラシロクス、およびアポトランスフェリンから成る群から選択される、請求項7に記載の器具。
【請求項9】
時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するためのキットであって、鉄キレート剤を直接的に組成物へ、血液製剤関連器具へ、またはそれを必要としている患者へ投与する方法についての使用説明書が共に包装された、有効量の鉄キレート剤を含んでなるコンテナを含んでなる、前記キット。
【請求項10】
前記血液製剤関連器具が、血液フィルターまたは血液バッグである、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記鉄キレート剤が、アポトランスフェリン、ラクトトランスフェリン、金属結合酵素、ヒドロキサム酸重合体、リン酸化ミオイノシトール重合体、ヘムB、ヘムA、ヘムC、デスフェロキサミン(DFO)、デスフェリチオシン(DFT)、デスフェリ−エキソケリン(D−Exo)、(S)−DMFT、(S)−DADMDFT、(S)−DADFT、4’−(OH)−DADFT、4’−(OH)−DADMDFTまたはその六座誘導体BDU、デフェリプロン(L1)、その代謝でヒドロキシピリジノン類似体を生じるヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグ、CP94、CP502、CP365、CP102、CP41、CP38、LiNAII、Pr−(Me−3,2−HOPO)およびその六座類似体TREN−(Me−3,2−HOPO)、CP117、CP165、タキピリジンアルキル類似体、タキピリジン二級アミン連結類似体、タキピリジンピリジル連結類似体、タキピリジンピリジル連結マレイミド誘導体類似体、PIH、SIH、PCIH、PKIH、PIH類似化合物101、PIH類似化合物102、PIH類似化合物103、PIH類似化合物104、PIH類似化合物105、PIH類似化合物106、PIH類似化合物107、PIH類似化合物108、PIH類似化合物109、PIH類似化合物110、PIH類似化合物112、PIH類似化合物113、PIH類似化合物114、PIH類似化合物115、PIH類似化合物201、PIH類似化合物202、PIH類似化合物204、PIH類似化合物205、PIH類似化合物206、PIH類似化合物207、PIH類似化合物208、PIH類似化合物209、PIH類似化合物212、PIH類似化合物215、PIH類似化合物301、PIH類似化合物302、PIH類似化合物305、PIH類似化合物307、PIH類似化合物308、PIH類似化合物309、PIH類似化合物310、PIH類似化合物312、PIH類似化合物315、PCBH、PCHH、PCBBH、PCAH、PCTH、PKBH、PKAH、PK3BBH、PKHH、PKTH、5−HP、トリアピン、NT、N2mT、N4mT、N44mT、N4eT、N4aT、N4pT、DpT、DP2mT、Dp4mT、Dp44mT、Dp4eT、Dp4aT、Dp4pT、デフェラシロクス(Exjade、ICL670A)、デフェラシロクスの5,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾール類似体、HBED、Faralex−G、4−ヒドロキシ−2−ノニルキノリン、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項9に記載のキット。
【請求項12】
前記鉄キレート剤が、デスフェロキサミン、デフェラシロクス、およびアポトランスフェリンから成る群から選択される、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
時間の経った赤血球を含む組成物の患者への急性輸血によって引き起こされる患者の副作用を改善するための方法であって、前記時間の経った赤血球のマクロファージ食作用によって放出された鉄をキレートすることができる鉄キレート剤を供給することを含み、ここで前記キレート剤は前記患者の副作用を改善する、前記方法。
【請求項14】
前記副作用がサイトカインストームである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記副作用が、患者における鉄依存性病原菌の増大である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記鉄キレート剤が、ペプチド、重合体、有機または無機小分子、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記鉄キレートペプチドが、アポトランスフェリン、ラクトトランスフェリン、金属結合酵素、かかるタンパク質由来の鉄結合性ドメイン、およびかかるタンパク質の鉄結合性部位を模倣するように設計した合成ペプチドから成る群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記鉄キレート重合体が、ヒドロキサム酸重合体またはリン酸化ミオ−イノシトール重合体である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記鉄キレート剤が、ヘムB、ヘムA、およびヘムCから成る群から選択されるポルフィリン環である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記鉄キレート剤が、シデロホアまたは合成によって得られたその類似体である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記シデロホアが、デスフェロキサミン(DFO)、デスフェリチオシン(DFT)、およびデスフェリ−エキソケリン(D−Exo)から成る群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記鉄キレート剤が、(S)−DMFT、(S)−DADMDFT、(S)DADFT、4’−(OH)−DADFT、および4’−(OH)−DADMDFTまたはその六座誘導体BDUから成る群から選択されるDFT類似体である、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記鉄キレート剤がヒドロキシピリジノンである、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒドロキシピリジノンが、デフェリプロン(L1)もしくはその類似体、またはその代謝でヒドロキシピリジノン類似体を生じるヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグから選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記デフェリプロン類似体が、CP94、CP502、CP365、CP102、CP41、CP38、LiNAII、Pr−(Me−3,2−HOPO)およびその六座類似体TREN−(Me−3,2−HOPO)から成る群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒドロキシピリジノンエステル・プロドラッグが、CP117およびCP165から成る群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記鉄キレート剤が、タキピリジンまたはその類似体である、請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記タキピリジン類似体が、タキピリジンアルキル類似体、タキピリジン二級アミン連結類似体、タキピリジンピリジル連結類似体、およびタキピリジンピリジル連結マレイミド誘導体類似体から成る群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記鉄キレート剤がアロイルヒドラゾンである、請求項13に記載の方法。
【請求項30】
前記アロイルヒドラゾン鉄キレート剤が、PIH、SIH、311シリーズ類似化合物、PCIH、PKIH、およびそれぞれの親化合物の類似体から成る群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記PIH類似体が、100シリーズ類似化合物101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、112、113、114および115から成る群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記PIH類似体が、200シリーズ類似化合物201、202、204、205、206、207、208、209、212および215から成る群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記311シリーズ類似化合物が、化合物301、302、305、307、308、309、310、312および315から成る群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記PCIH類似体が、PCBH、PCHH、PCBBH、PCAHおよびPCTHから成る群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記PKIH類似体が、PKBH、PKAH、PK3BBH、PKHHおよびPKTHから成る群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記鉄キレート剤がチオセミカルバゾンである、請求項13に記載の方法。
【請求項37】
前記チオセミカルバゾンが、5−HP、トリアピン、NTシリーズのメンバー、およびDpTシリーズのメンバーから成る群から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記NTシリーズが、NT、N2mT、N4mT、N44mT、N4eT、N4aT、およびN4pTから成る群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記DpTシリーズが、DpT、DP2mT、Dp4mT、Dp44mT、Dp4eT、Dp4aT、およびDp4pTから成る群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記鉄キレート剤が、デフェラシロクス(Exjade、ICL670A)、デフェラシロクスの5,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾール類似体、HBED、Faralex−G、および4−ヒドロキシ−2−ノニルキノリンから成る群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項41】
前記供給ステップが、副作用を改善するのに有効である量の鉄キレート剤を患者に投与することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項42】
前記供給ステップが、輸血に先立って、時間の経った赤血球を含む組成物を、副作用を改善するのに有効な量の鉄キレート剤と接触させることを含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公表番号】特表2012−530133(P2012−530133A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516048(P2012−516048)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/001610
【国際公開番号】WO2010/147621
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(507013925)ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク (5)
【Fターム(参考)】