説明

普通型コンバイン

【課題】刈取部への正転駆動力と逆転駆動力とを伝達するための伝動機構を工夫して、機体重心の高くなる傾向を回避することが可能な普通型コンバインを提供する。
【解決手段】刈取正転伝動機構48を、エンジン動力を脱穀装置5に伝達する脱穀駆動系から分岐させた駆動力をフィーダ4Aの動力入力部47に伝える伝動機構によって構成するとともに、走行装置10の駆動系に対する変速機構を内装したミッションケース7に、刈取部4への逆転駆動力を出力する刈取逆転出力部74を設け、刈取逆転伝動機構Aを、刈取逆転出力部74と、その刈取逆転出力部74からフィーダ4Aの動力入力部47への伝動機構24とによって構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取用前処理装置及び刈り取られた穀稈を脱穀装置に向けて搬送するフィーダを有した刈取部を備え、この刈取部に対して正転駆動力を伝達する刈取正転伝動機構と逆転駆動力を伝達する刈取逆転伝動機構とを備えて、前記刈取部を正転駆動状態と逆転駆動状態とに択一的に切り換えて駆動するように構成した普通型コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の普通型コンバインでは、刈取部に対して正転駆動力と逆転駆動力とを伝達するための伝動機構を、次のように構成したものが知られている。
すなわち、刈取部に対して正転駆動力と逆転駆動力とを伝達するための伝動機構を、エンジンから脱穀装置への動力伝達系から分岐させるように構成している。具体的には、脱穀装置の前部に扱胴駆動用の伝動ケースを設け、その扱胴駆動用の伝動ケースに対して、エンジン動力が伝達されるケース入力軸と刈取部への逆転動力を出力する刈取出力軸とを支持させ、かつ、ケース入力軸と刈取出力軸とを伝動ケース内のベベルギヤ機構を介して互いに正転方向と逆転方向とに相対回転するように連動連結している。そして、ケース入力軸から刈取部のフィーダの動力入力部に正転駆動力を伝達し、前記刈取出力軸から刈取部のフィーダの動力入力部に逆転駆動力を伝達するように構成していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−263866号公報(段落〔0021〕、〔0022〕、〔0023〕、図3,4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構造のものでは、エンジン動力を脱穀装置の駆動力、及び刈取部の駆動力として利用でき、かつ刈取部の正転及び逆転状態での駆動を行える点で有用なものである。しかしながら、脱穀装置の前部に、ケース入力軸や刈取出力軸、及びベベルギヤ機構を内装する伝動ケースを配設する必要がある。この伝動ケースは、かなり大型で重量も大きなものであり、しかも扱胴の軸心に近く機体上の比較的高い位置に配設されるものであるため、機体の重心が高くなる傾向があった。
【0005】
本発明の目的は、刈取部への正転駆動力と逆転駆動力とを伝達するための伝動機構を工夫して、機体重心の高くなる傾向を回避することが可能な普通型コンバインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、刈取用前処理装置及び刈り取られた穀稈を脱穀装置に向けて搬送するフィーダを有した刈取部を備え、この刈取部に対して正転駆動力を伝達する刈取正転伝動機構と逆転駆動力を伝達する刈取逆転伝動機構とを備えて、前記刈取部を正転駆動状態と逆転駆動状態とに択一的に切り換えて駆動するように構成した普通型コンバインであって、前記刈取正転伝動機構を、エンジン動力を脱穀装置に伝達する脱穀駆動系から分岐させた駆動力を前記フィーダの動力入力部に伝える伝動機構によって構成するとともに、走行装置の駆動系に対する変速機構を内装したミッションケースに、前記刈取部への逆転駆動力を出力する刈取逆転出力部を設け、前記刈取逆転伝動機構を、前記刈取逆転出力部と、その刈取逆転出力部から前記フィーダの動力入力部への伝動機構とによって構成したことを特徴とする。
【0007】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
上記解決手段1にかかる本発明によると、フィーダの動力入力部に駆動力を伝達する伝達機構のうち、刈取部への逆転駆動力を出力する刈取逆転出力部を、走行装置の駆動系に対する変速機構を内装したミッションケースに設け、このミッションケースからフィーダの動力入力部へ逆転駆動力を伝達するように構成している。
つまり、走行装置の駆動系に対する変速機構を内装したミッションケースは、機体上の比較的低い位置にあり、このミッションケースに設けられる刈取逆転出力部も比較的低い位置にあって、機体重心を比較的低く維持する上で有効である。
そして、刈取部に対して正転駆動力を伝達する刈取正転伝動機構は、脱穀駆動系の動力を利用するものでありながら、伝達動力を正転系と逆転系とに変換するためのベベルギヤ機構などを介在させる必要はなく、単なる伝動ベルトやプーリなどの比較的軽量な部品を用いて構成することが可能であるから、大型で重い伝動ケースを用いた伝動構造を採用した場合のような機体重心が高くなる傾向を回避することができる。
【0008】
〔解決手段2〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、前記刈取逆転出力部が遊星歯車機構を用いた減速機構によって構成されていることを特徴とする。
【0009】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段2にかかる発明の構成によると、単なる平ギヤでのギヤ対を多段に用いて逆転及び減速を行う刈取逆転出力部を構成する場合に比べて、小型化し易い遊星歯車機構を用いた減速機構によって刈取逆転出力部を構成したことにより、刈取逆転出力部をミッションケース内に配備するための所要スペースが少なくて済み、ミッションケースの小型化を図り得る利点がある。
【0010】
〔解決手段3〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、前記刈取正転伝動機構は、前記フィーダの動力入力部よりも低い位置の脱穀駆動系から分岐されていることを特徴とする。
【0011】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段3にかかる発明の構成によると、エンジン動力を脱穀装置に伝達する脱穀駆動系から分岐される刈取正転伝動機構が、フィーダの動力入力部よりも低い位置で分岐されていることより、脱穀装置の扱胴に対する入力箇所などから分岐させる場合に比べて、刈取正転伝動機構の全体を機体上の低い箇所に配設し易く、この点でも機体重心が高くなる傾向を抑制することができる。
【0012】
〔解決手段4〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、前記刈取逆転出力部が前記ミッションケースの後部上部に内装されていることを特徴とする。
【0013】
〔解決手段4にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段4にかかる発明の構成によると、刈取逆転出力部をミッションケース内という低い位置に配設しながらも、その刈取逆転出力部をミッションケース内の後部上部に設けることによって、フィーダの動力入力部に対して少しでも近い位置関係で配設できるので、この刈取逆転出力部からフィーダの動力入力部への伝動機構をコンパクトに構成し得る利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】普通型コンバインの全体側面図
【図2】普通型コンバインの全体平面図
【図3】動力伝達系を示す線図
【図4】フィーダの動力入力部への動力伝達構造を示す一部切り欠き側面図
【図5】脱穀駆動系における動力伝達構造を示す一部切り欠き正面図
【図6】転輪の支持構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面の記載に基づいて説明する。
〔普通型コンバインの全体構成〕
図1は、本発明に係る普通型コンバインの全体側面図、図2は全体平面図である。これらの図に示すように、本発明に係る普通型コンバインは、機体フレーム1の下側に左右一対のクローラ走行装置10,10(走行装置に相当する)を備えて自走機体を構成し、機体フレーム1の前部に、エンジン20を装備した原動部2、及び原動部2の上側に運転座席30を備えた運転部3を設けてある。
前記運転部3の後方側に脱穀装置5と穀粒袋詰め部6とが機体横方向に並べて配設してあり、前記脱穀装置5の前部にフィーダ4Aが連結された刈取部4を備えている。
【0016】
前記刈取部4は、図1乃至図3に示すように、搬送ケース40の内部にフィーダコンベヤ41を内装した前記フィーダ4Aを備えるとともに、このフィーダ4Aの前端部に連結されている前処理フレーム42に前処理装置4Bを支持させて構成してある。
前記フィーダ4Aの脱穀装置5に対する上下揺動操作により、前処理フレーム42の下部に位置するプラットホーム42aが地面付近に下降した下降作業状態と、前記プラットホーム42aが地面から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降作動可能に構成されている。
【0017】
前記前処理装置4Bは、前処理フレーム42の前部に位置して刈取り対象の植立穀稈を分草する左右一対のデバイダ43,43と、刈取り対象の植立穀稈の穂先側を掻き込む回転リール45と、刈取り対象の植立穀稈を刈り取るバリカン型の刈取装置44と、刈り取られた穀稈をフィーダ4Aの前側に寄せてフィーダ4Aの搬送ケース40の入り口40aに送り込むように搬送するオーガ46とを備えて構成されている。
この前処理装置4Bは、図3に示すように、フィーダ4Aの動力入力部であるフィーダ入力軸47の回転を、フィーダ4A及び前処理フレーム42の左側に配設したチェーン伝動機構、ベルト伝動機構、及び軸伝動機構などで構成される周知の前処理駆動機構Bによって駆動されるように構成してある。
前記フィーダ4Aは、内部にフィーダコンベヤ41(図3参照)を備え、前記オーガ46側から送り込まれた刈取り穀稈をフィーダ4Aの後端部に搬送し、この後端部に位置する排出口40bから脱穀装置5の扱室50に、刈り取られた穀稈の株元から穂先までの全体を供給するように構成されている。
【0018】
前記脱穀装置5は、扱室50の内部に、機体前後向きの軸芯xを有した扱胴軸51を介して扱胴52、及び選別装置(図示せず)を配設してあり、扱胴軸51に伝達される脱穀駆動系の駆動力によって扱胴52を回転駆動して、脱穀処理物を脱穀粒と排ワラとに選別処理し、脱穀粒を前記穀粒袋詰め部6の袋詰めタンク6aに供給するように構成してある。
前記扱室50の左右の横側壁50a,50aのうち、左側の横側壁50aは、機体後方側の上下方向の軸心y1回りで上部側を横外側方に大きく開放できるように構成してあり、この左側の横側壁50aを開放した状態で扱室50の内部の保守点検を行うことができるように構成されている。横側壁50aの下部は脱穀装置5の固定枠部分に対して図示しないボルトの脱着操作で着脱可能に構成されている。
このように扱室50の横側壁50aの上部を開放するようにしたことにより、例えば水平方向の横軸心回りで扱室50の上方側の天井壁板(図示せず)を開閉操作可能に構成した場合に比べて、重い天井壁板を揺動開閉するための持ち上げ力をアシストするための補助持ち上げ手段としてエアーダンパ(図示せず)を配設するというような構造の複雑化や重量増加を招く虞もない。
【0019】
穀粒袋詰め部6では、袋詰めタンク6a内に供給された穀粒を、袋詰めタンク6aの下部に備えられた穀粒吐出口(図外)から吐出させて袋詰めできるように構成してある。
【0020】
機体フレーム1の前部に設けられた原動部2では、運転部3の運転座席30の下側に相当する箇所の機体フレーム1に対して、出力軸21が機体左右方向に沿う横置き姿勢のエンジン20を搭載してある。
このエンジン20の出力軸21には、左右のクローラ走行装置10,10を駆動するための後述する走行駆動系の伝動機構22、及び脱穀装置5へ駆動力を伝達するための後述する脱穀駆動系の伝動機構55が連係されている。
【0021】
〔運転部〕
前記運転部3は、運転座席30の機体前方側に対向して操縦操作具を備えた操縦搭31を立設してあり、運転座席30の左横側方に各種作業装置の操作具を備えた操縦ボックス32を立設してある。
前記運転座席30は、運転部ステップ3Aの後部側に形成した支持台3Bの上側に配設してある。この支持台3Bは、上面が平坦で前後に立ち上がり壁部分を有した台状に形成してあり、この台状の支持台3Bの下側空間に前記原動部2のエンジン20が位置することで、この運転部ステップ3Aが原動部2のエンジン20を上側から覆うエンジンボンネットを兼ねるように構成されている。
【0022】
この運転部3では、前記操縦搭31にステアリング操作レバー31aを設けてあり、前記操縦ボックス32の前部側に、機体の前後進切換を含む変速操作を行うための主変速レバー33、及び副変速レバー34を設けてある。
そして、前記操縦ボックス32の後部側には、刈取部4を正転駆動するための正転用刈取クラッチ12の入り切り操作を行う正転用刈取クラッチレバー36を、運転座席20に近い側に位置させて配設し、その正転用刈取クラッチレバー36よりも運転座席20から機体左右方向で遠い側に位置させて、脱穀装置5の駆動を断続する脱穀クラッチ11を入り切り操作するための脱穀クラッチレバー35を設けてある。
【0023】
前記正転用刈取クラッチレバー36と脱穀クラッチレバー35とは、正転用刈取クラッチレバー36と脱穀クラッチレバー35とが図2に実線で示すように、共にクラッチ切り位置(機体後方側)に操作されている状態から、脱穀クラッチレバー35は単独で図2に仮想線で示す入り位置(機体前方側)に操作することができるが、正転用刈取クラッチレバー36は、図2に仮想線で示す入り位置(機体前方側)への操作を行うと、切り位置にある脱穀クラッチレバー35も一緒に入り位置へ操作して、刈取部4の駆動とともに脱穀装置5も駆動されるように、正転用刈取クラッチレバー36と脱穀クラッチレバー35とを連係させてある。
逆に、正転用刈取クラッチレバー36と脱穀クラッチレバー35とが共にクラッチ入り位置にある状態では、正転用刈取クラッチレバー36は単独で切り位置に操作することはできるが、脱穀クラッチレバー35を切り位置に操作すると、正転用刈取クラッチレバー36も一緒に切り位置へ操作して、脱穀装置5とともに刈取部4の駆動も停止されるように連係させてある。
【0024】
つまり、脱穀装置5は単独で駆動の入り切りを行うことはできるが、刈取部4の正転駆動は単独で行うことができず、脱穀装置5の同期駆動を伴うように連係されている。
この連係のための具体構成は図示しないが、例えば、前記正転用刈取クラッチレバー36側から脱穀クラッチレバー35の切り操作方向側に接当する係止部材を連設する、あるいは、前記脱穀クラッチレバー35側から正転用刈取クラッチレバー36の入り操作方向側に接当する係止部材を連設するなどの手段によって構成するなど、適宜の手段を採用すればよい。
【0025】
また、図2に示すように、操縦ボックス32に配設された前記正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35よりも、さらに運転座席30から機体左右方向で遠い位置である脱穀装置5の前部側箇所には、刈取部4を逆転駆動、及び駆動停止するための逆転用刈取クラッチ13の入り切り操作を行う逆転用刈取クラッチレバー37を設けてある。この逆転用刈取クラッチレバー37は機体左右方向の横軸心回りに揺動してほぼ上下方向に入り切り操作されるように枢支してある。
そしてこの逆転用刈取クラッチレバー37の機体前後方向における配設位置は、図2及び図4に示すように、前記正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35が入り操作位置に操作されている状態では、正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35の握り部36a,35aと同程度の位置に握り部37aが位置するように設けられている。前記正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35の切り操作位置では、正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35の握り部36a,35aよりも機体前方側に逆転用刈取クラッチレバー37の握り部37aが位置するように設けられている。
【0026】
このように前記正転用刈取クラッチレバー36、脱穀クラッチレバー35、及び逆転用刈取クラッチレバー37が配設されていることにより、正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35が入り操作位置に操作されている状態で、逆転用刈取クラッチレバー37を入り操作すべきではないときには、逆転用刈取クラッチレバー37を入り側へ操作し難い位置に正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35の握り部36a,35aが存在する状態となっている。
逆に、正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35が切り操作位置に操作されている状態では、正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35の握り部36a,35aが機体後方側へ位置した状態となるので、切り位置の正転用刈取クラッチレバー36、及び脱穀クラッチレバー35に邪魔されずに逆転用刈取クラッチレバー37の入り切り操作を行い易いように配設されている。
【0027】
前記逆転用刈取クラッチ13と前記正転用刈取クラッチ12とは、両方を切り状態に操作することはできるが、何れか一方が入り状態であるときには他方を入り操作できないように、図示しない牽制連係機構によって互いに連係されている。
【0028】
〔動力伝達構造〕
前記エンジン20が設けられた箇所よりも機体前方側寄りの機体フレーム1の前端側には、左右のクローラ走行装置10,10を駆動するための駆動系に対する変速機構を内装したミッションケース7が配設してある。
このミッションケース7の入力軸70に対して前記エンジン20からの駆動力を伝える走行駆動系のベルト伝動機構22を、前記エンジン20の出力軸21とミッションケース7の入力軸70との間に設けてある。
つまり、この走行駆動系のベルト伝動機構22は、エンジン20の出力軸21に設けた走行系出力プーリ21aとミッションケース7の入力軸70に設けた入力プーリ70aとの間に、機体フレーム1の固定部に枢支された中間軸23に設けた中間プーリ23a,23bを介して、第1伝動ベルト22aと第2伝動ベルト22bとを掛張して連動連結している。
【0029】
前記ミッションケース7には、可変容量形でアキシャルプランジャ形の油圧ポンプと、この油圧ポンプからの圧油によって駆動されるアキシャルプランジャ形の油圧モータとを備えて構成された静油圧式無段変速機構71と、左右のクローラ走行装置10,10の駆動軸73に対して駆動力を伝達するギヤ式変速機構72とが組み込まれている。そして、前記入力軸70から入力されたエンジン動力を、静油圧式無段変速機構71で無段階に変速し、さらにその変速された動力をギヤ式変速機構72で多段に変速して、左右のクローラ走行装置10,10の各駆動軸73,73を左右各別に駆動及び駆動停止するように構成してある。
【0030】
〔逆転駆動系〕
そして、このミッションケース7内には、前記走行駆動系に動力を伝達するギヤ式変速機構72とは別に、刈取部4に対して逆転動力を出力するための刈取逆転出力部74が設けてある。
この刈取逆転出力部74は、図3に示すように、遊星歯車機構を用いた減速機構によって構成してある。この刈取逆転出力部74は、前記入力軸70から入力されたエンジン動力を、静油圧式無段変速機構71による変速の影響を受けない伝動上手側の伝動ギヤ70bから分岐させた動力が入力され、遊星歯車機構によって大きく減速された動力を逆転用出力軸75から出力するように構成されている。
【0031】
前記逆転用出力軸75は、ミッションケース7の前記入力軸70が突出している側の横側面とは反対側の横側面に突出するように設けてある。この逆転用出力軸75から出力される動力は、刈取部4のフィーダ4Aにおけるフィーダ入力軸47(動力入力部に相当する)に入力される動力のうち、脱穀駆動系の伝動機構55を介して伝達される動力の回転方向とは逆方向の回転となる状態でフィーダ入力軸47に伝達されるように、逆転伝動用の伝動機構24を介して駆動力を伝達するように構成してある。
【0032】
前記逆転伝動用の伝動機構24は、逆転用出力軸75に設けた出力プーリ75aと、フィーダ入力軸47に設けた逆転用入力プーリ47aとの間に、機体フレーム1の固定部に枢支された中間軸25に設けた中間プーリ25a,25bを介して、第1逆転伝動ベルト24aと第2逆転伝動ベルト24bとを掛張することによって構成してある。この伝動機構24では、逆転用出力軸75に設けた出力プーリ75aと中間軸25に設けた中間プーリ25aとの間、及び中間プーリ25bと逆転用入力プーリ47aとの間で、さらに減速駆動が行われるように構成してある。
そして、前記逆転伝動用の伝動機構24と、前記ミッションケース7に設けた刈取逆転出力部74とによって、刈取部4のフィーダ4Aのフィーダ入力軸47に対して逆転用の駆動力を伝達する刈取逆転伝動機構Aを構成している。
【0033】
前記逆転伝動用の伝動機構24には、前記中間軸25に設けた一方の中間プーリ25bとフィーダ入力軸47に設けた逆転用入力プーリ47aとの間に掛張された第2逆転伝動ベルト24bに作用する逆転用刈取クラッチ13を設けてある。
この逆転用刈取クラッチ13は、図3,4に示すように、第2逆転伝動ベルト24bに接当するテンション輪体13aを備えていて、前記運転部3に設けた逆転用刈取クラッチレバー37の入り切り操作で、このテンション輪体13aが、第2逆転伝動ベルト24bを緊張状態と弛緩状態とに切り換えるように、逆転用刈取クラッチレバー37とテンション輪体13aとを図示しない連係機構によって連係させてある。この逆転用刈取クラッチレバー37は、運転部3の横外側近傍に配設されているものであり、前記脱穀クラッチレバー35や正転用刈取クラッチレバー36よりは運転座席30から遠い側ではあるが、運転座席30に搭座した状態で運転者が手を伸ばして操作し易い位置に配設されている。
これによって、逆転用刈取クラッチレバー37を入り操作するとテンション輪体13aが第2逆転伝動ベルト24bを緊張させて逆転用刈取クラッチ13がクラッチ入り状態となり、逆転用刈取クラッチレバー37を切り操作するとテンション輪体13aが第2逆転伝動ベルト24bを弛緩させて逆転用刈取クラッチ13がクラッチ切り状態となるベルトテンションクラッチが構成されている。
【0034】
前記ミッションケース7の後部上部に内装されている刈取逆転出力部74は、ミッションケース7自体の上部が機体フレーム1の上面に近くに位置して、機体の低い位置に配設されているものであるため、図4に示すように、刈取部4のフィーダ4Aの動力入力部であるフィーダ入力軸47よりも低い箇所に設けられている。
そして、逆転伝動用の伝動機構24も、逆転用出力軸75や中間軸25がフィーダ入力軸47よりも低い位置にあって、第1逆転伝動ベルト24a及び第2逆転伝動ベルト24bの大部分が動力入力部であるフィーダ入力軸47よりも下方側に配設されている。
したがって、前記刈取逆転出力部74及び逆転伝動用の伝動機構24の重心を考えると、フィーダ入力軸47よりもかなり低い位置にある。
【0035】
〔正転駆動系〕
前記エンジン20の出力軸21には、脱穀装置5などの脱穀駆動系に駆動力を伝達するための脱穀系出力プーリ21bが一体に設けてある。
この脱穀系出力プーリ21bと、脱穀装置5の底部近くに設けてある唐箕軸53に備えた脱穀入力プーリ53aと、前記脱穀系出力プーリ21bと脱穀入力プーリ53aとにわたって掛張された脱穀用伝動ベルト54とによって、エンジン動力が脱穀駆動系に伝達される脱穀駆動系の伝動機構55を構成してある。
そして、前記唐箕軸53に伝えられたエンジン動力は、この唐箕軸53に、前記脱穀入力プーリ53aの他に、扱胴出力プーリ53b、選別出力プーリ53c、及び刈取正転出力プーリ53dが固設されていることで、扱胴52に動力を伝達する扱胴伝動機構56と、脱穀装置5内の各種選別機構に動力を伝達する選別伝動機構57と、刈取部4のフィーダ入力軸47に動力を伝達する刈取正転伝動機構48のそれぞれに分岐されるように構成してある。
【0036】
前記扱胴52に動力を伝達する扱胴伝動機構56は、図3に示すように、脱穀装置5の右側の横側壁50aよりも右横外方に突出する箇所の唐箕軸53に設けた扱胴出力プーリ53bと、扱胴52に対する駆動力伝達用の扱胴入力プーリ51aとにわたって設けられたものである。
この扱胴伝動機構56は、脱穀装置5の右側の横側壁50aの上部で横側壁50aに支持された中継軸56aと、脱穀装置5の前壁50bの上部で前壁50bに支持された中継軸56bとを備えている。前記横側壁50aに支持された中継軸56aは横側壁50aに沿う横壁中継プーリ56cを備え、前壁50bに支持された中継軸56bは前壁50bに沿う前壁中継プーリ56dを備えている。
前記扱胴出力プーリ53bと横壁中継プーリ56cとにわたって第1扱胴伝動ベルト56eを掛張し、前記扱胴入力プーリ51aと前壁中継プーリ56dとにわたって第2扱胴伝動ベルト56fを掛張してある。
そして、横壁中継プーリ56cと前壁中継プーリ56dとを脱穀装置5の前壁50b及び横側壁50aの内方側で互いに連動させるように、それぞれの中継軸56a,56b同士を端部に設けたベベルギヤ56g,56hで連動させてある。
【0037】
脱穀装置5内の各種選別機構に動力を伝達する選別伝動機構57は、脱穀装置5の扱室50よりも左横外方に突出する箇所の唐箕軸53に設けた選別出力プーリ53cから、伝動ベルト57a,57bを介して、一番スクリューコンベヤ58A、二番スクリューコンベヤ58B、及び揺動選別装置の駆動軸58C等を駆動するように構成してある。
【0038】
前記刈取正転伝動機構48は、前記選別出力プーリ53cよりもさらに左外側位置の唐箕軸53に設けた刈取正転出力プーリ53dから動力を取り出すように構成されている。
つまり、刈取部4のフィーダ4A側では、フィーダ入力軸47の前記逆転用入力プーリ47aが設けられた側とは、フィーダ4Aを挟んで反対の左側に正転用入力プーリ47bを設けてあり、その正転用入力プーリ47bに対して伝動ベルト48aを介して、刈取正転出力プーリ53dから正転用の駆動力を伝達するように構成されている。
【0039】
図4に示すように、刈取正転伝動機構48の脱穀駆動系からの分岐箇所は、唐箕軸53に設けた刈取正転出力プーリ53dであるから、フィーダ4Aの動力入力部であるフィーダ入力軸47よりも低い脱穀装置5の底部近く箇所であり、この刈取正転伝動機構48も、比較的重心の低い位置に配設されている。
【0040】
前記刈取正転伝動機構48には、刈取正転出力プーリ53dと正転用入力プーリ47bとの間に掛張された伝動ベルト48aに作用する正転用刈取クラッチ12を設けてある。
この正転用刈取クラッチ12は、図3,4に示すように、伝動ベルト48aに接当するテンション輪体12aを備えていて、前記運転部3に設けた正転用刈取クラッチレバー36の入り切り操作で、このテンション輪体12aが、伝動ベルト48aを緊張状態と弛緩状態とに切り換えるように、正転用刈取クラッチレバー36とテンション輪体12aとを図示しない連係機構によって連係させてある。
これによって、正転用刈取クラッチレバー36を入り操作するとテンション輪体12aが伝動ベルト48aを緊張させて正転用刈取クラッチ12がクラッチ入り状態となり、正転用刈取クラッチレバー36を切り操作するとテンション輪体12aが伝動ベルト48aを弛緩させて正転用刈取クラッチ12がクラッチ切り状態となるベルトテンションクラッチが構成されている。
【0041】
前記エンジン20の出力軸21に設けた脱穀系出力プーリ21bと唐箕軸53に備えた脱穀入力プーリ53aとにわたって掛張された脱穀用伝動ベルト54に作用する脱穀クラッチ11を設けてある。
この脱穀クラッチ11は、図3に示すように、脱穀用伝動ベルト54に接当するテンション輪体11aを備えていて、前記運転部3に設けた脱穀クラッチレバー35の入り切り操作で、このテンション輪体11aが、脱穀用伝動ベルト54を緊張状態と弛緩状態とに切り換えるように、脱穀クラッチレバー35とテンション輪体11aとを図示しない連係機構によって連係させてある。
これによって、脱穀クラッチレバー35を入り操作するとテンション輪体11aが脱穀用伝動ベルト54を緊張させて脱穀クラッチ11がクラッチ入り状態となり、脱穀クラッチレバー35を切り操作するとテンション輪体11aが脱穀用伝動ベルト54を弛緩させて脱穀クラッチ11がクラッチ切り状態となるように構成されている。
【0042】
このように構成されているので、刈取部4と脱穀装置5とを共に駆動して刈取脱穀作業を行う際には、正転用刈取クラッチレバー36を入り位置(機体前方側)へ操作すれば、脱穀クラッチレバー35も入り位置(機体前方側)に操作され、刈取部4と脱穀装置5とが共に駆動して刈取脱穀作業が行われる。
このとき、逆転用刈取クラッチレバー37が入り位置に操作されていれば、前記正転用刈取クラッチレバー36の入り位置への操作はできないように、前述した牽制連係機構を介して正転用刈取クラッチレバー36と逆転用刈取クラッチレバー37とが連係されている。
【0043】
刈取部4と脱穀装置5とが共に駆動して刈取脱穀作業が行われている状態から、前記正転用刈取クラッチレバー36を切り位置へ操作すれば、刈取部4の駆動が停止され、脱穀装置5の駆動は続行される。脱穀クラッチレバー35を切り位置へ操作すれば、脱穀装置5と刈取部4の駆動が共に停止される。
上記の刈取脱穀作業が行われている状態から逆転用刈取クラッチレバー37を入り位置に操作しようとすると、前述したように、正転用刈取クラッチレバー36を先にクラッチ切り位置に操作しないかぎり逆転用刈取クラッチレバー37を入り操作できないように、前述した牽制連係機構を介して正転用刈取クラッチレバー36と逆転用刈取クラッチレバー37とが連係されている。
【0044】
〔その他〕
クローラ走行装置10,10は、図5に示すように、クローラベルト14の左右一対の芯金突起14a,14aの中間に位置する爪係合孔14bが、クローラベルト14の左右方向での中心位置よりも少し外側寄りの位置に形成されている。これによって、爪係合孔14bに駆動爪15aが係合する駆動スプロケット15や芯金突起14aの間で転動するガイド輪16も、クローラベルト14の左右方向での中心位置よりも少し外側に位置することになる。
そして、クローラベルト14の内周側で芯金突起14aの左右両外側に位置する転輪17,17は、その機体左右方向での幅w1,w2が、芯金突起14aの機体中心側に位置する転輪17の左右方向幅w1よりも、機体中心から離れる側に位置する転輪17の左右方向幅w2が広くなるように形成されている。
したがって、芯金突起14aの左右両外側に位置する転輪17,17のうち、機体中心から離れる側に位置する転輪17は、機体左右方向での幅w2が、芯金突起14aの機体中心側に位置する転輪17の左右方向幅w1と同じ程度に狭く形成されていた場合よりも、機体中心からその転輪17の最外側端縁までの距離Lが大きくなる。その結果、機体中心から左右両側の転輪17の最外側端縁までの距離L,Lが大きくなって、機体の転倒角が大きくなり、機体の走行安定性が向上することになる。
【0045】
〔別実施形態の1〕
上記の実施形態では、刈取部4に対して逆転動力を出力するための刈取逆転出力部74として、ミッションケース7内に設けた遊星歯車機構を用いたものであるが、これに限らず、例えばミッションケース7内に平ギヤのギヤ対等で構成された逆転機構を用いたり、ミッションケース7の逆転用出力軸75から出力された動力を、ミッションケース7の外側でベルト伝動機構を用いて逆転させる等、適宜の逆転機構を用いることができる。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0046】
〔別実施形態の2〕
上記の実施形態では、中間軸25を介して連動される第1逆転伝動ベルト24aと第2逆転伝動ベルト24bとを備えた逆転伝動用の伝動機構24と、ミッションケース7に設けた刈取逆転出力部74とによって刈取逆転伝動機構Aを構成したものであるが、これに限らず、例えば、刈取逆転出力部74の逆転用出力軸75に設けた出力プーリ75aとフィーダ入力軸47に設けた逆転用入力プーリ47aとを一本のベルトで連動させて刈取逆転伝動機構Aを構成しても良い。この場合、逆転用出力軸75に設けた出力プーリ75aとフィーダ入力軸47に設けた逆転用入力プーリ47aとに掛張される一本のベルトにテンションクラッチを設けて逆転動力の入り切りを行うようにすればよい。
また、逆転伝動用の伝動機構24としては、ベルト伝動機構を用いるものに限らず、チェーン伝動や、ギヤ連動機構によって動力伝達を行うように構成したものであってもよい。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0047】
〔別実施形態の3〕
上記の実施形態では、刈取正転伝動機構48は、フィーダ4Aの動力入力部であるフィーダ入力軸47よりも低い位置の唐箕軸53から分岐させたものであるが、これに限らず、フィーダ入力軸47と同等以上の高い位置から分岐させたものであってもよい。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明を適用する普通型コンバインとしては、稲、麦などの穀粒を収穫するものに限らず、大豆などの豆類や菜種などの花卉類を収穫するものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
4 刈取部
4A フィーダ
5 脱穀装置
7 ミッションケース
10 走行装置(クローラ走行装置)
24 逆転伝動用の伝動機構
47 動力入力部(フィーダ入力軸)
48 刈取正転伝動機構
74 刈取逆転出力部
A 刈取逆転伝動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取用前処理装置及び刈り取られた穀稈を脱穀装置に向けて搬送するフィーダを有した刈取部を備え、この刈取部に対して正転駆動力を伝達する刈取正転伝動機構と逆転駆動力を伝達する刈取逆転伝動機構とを備えて、前記刈取部を正転駆動状態と逆転駆動状態とに択一的に切り換えて駆動するように構成した普通型コンバインであって、
前記刈取正転伝動機構を、エンジン動力を脱穀装置に伝達する脱穀駆動系から分岐させた駆動力を前記フィーダの動力入力部に伝える伝動機構によって構成するとともに、
走行装置の駆動系に対する変速機構を内装したミッションケースに、前記刈取部への逆転駆動力を出力する刈取逆転出力部を設け、
前記刈取逆転伝動機構を、前記刈取逆転出力部と、その刈取逆転出力部から前記フィーダの動力入力部への伝動機構とによって構成したことを特徴とする普通型コンバイン。
【請求項2】
前記刈取逆転出力部が遊星歯車機構を用いた減速機構によって構成されている請求項1記載の普通型コンバイン。
【請求項3】
前記刈取正転伝動機構は、前記フィーダの動力入力部よりも低い位置の脱穀駆動系から分岐されている請求項1又は2記載の普通型コンバイン。
【請求項4】
前記刈取逆転出力部が前記ミッションケースの後部上部に内装されている請求項1〜3の何れか一項記載の普通型コンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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