晶析反応装置および晶析反応方法
【課題】被処理水中の不純物を省電力で除去することができる電気式脱イオン水製造装置及び当該電気式脱イオン水製造装置を用いる脱イオン水の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置5であって、撹拌翼22を有する撹拌装置20を備え、前記原水に前記消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させるための晶析反応槽12と、前記消石灰を撹拌翼22の近傍に添加する消石灰添加配管22と、酸を添加する酸添加配管30と、を有し、酸添加配管30は、晶析反応槽12に添加する前の原水に、前記酸を添加する晶析反応装置5である。
【解決手段】フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置5であって、撹拌翼22を有する撹拌装置20を備え、前記原水に前記消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させるための晶析反応槽12と、前記消石灰を撹拌翼22の近傍に添加する消石灰添加配管22と、酸を添加する酸添加配管30と、を有し、酸添加配管30は、晶析反応槽12に添加する前の原水に、前記酸を添加する晶析反応装置5である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体工場などのフッ素含有原水のフッ素をフッ化カルシウムとして処理、回収する晶析反応装置および晶析反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素を含むフッ素含有原水を処理するには、カルシウム剤および凝集剤を添加する凝集沈殿法が一般的に用いられており、カルシウム剤としては消石灰が用いられることが多い。ただし、この方法で生成されるフッ化カルシウム汚泥は純度が低いため、回収再利用は困難である。
【0003】
フッ素含有原水にカルシウム剤を添加してフッ化カルシウムを回収する方法としては、種晶が充填された晶析反応槽内にフッ素含有原水とカルシウム剤とを注入し、種晶表面にフッ化カルシウムを析出させて、フッ化カルシウム結晶を得る晶析法等が提案されている。
2HF + CaCl2 → CaF2↓ + 2HCl
【0004】
フッ素含有原水のフッ素が低濃度の場合は、流動床型の晶析装置によりpH3〜11で晶析し(流動床型、図10、特許文献1参照)、フッ素が高濃度の場合は、ドラフトチューブおよび撹拌機付きの晶析反応槽でpH2〜3で晶析する(撹拌式晶析装置、図11、特許文献2参照)ことを本発明者らは提案している。
【0005】
上記の従来技術では、カルシウム剤として塩化カルシウムが用いられている。上記の発明者の提案以外でも、例えば特許文献3では、カルシウム剤として塩化カルシウムを推奨している。また、高濃度フッ酸を対象とした特許文献4では、カルシウム剤として塩化カルシウムを用いている。
【0006】
晶析法においてカルシウム剤として消石灰が用いられない理由としては、消石灰の取扱いの難しさによるところが大きい。消石灰は水に対する溶解度(25℃)が0.149g/100gと低いため、一般的には粉体もしくはスラリとして用いられる。晶析法においては、カルシウム剤注入量の制御の面等から液体の方が用いやすいので、塩化カルシウム溶液が一般的に用いられる。
【0007】
一方で、消石灰は塩化カルシウムに比べて非常に安価であり、また半導体工場のプラント内で供給施設があるため、それを転用しやすいというメリットがある。晶析法において消石灰を用いる場合は、消石灰を酸に溶かして塩化カルシウムにしてから晶析反応槽に注入する方法がある(例えば、特許文献4,5)。
【0008】
また、消石灰を溶解させずに用いる方法として、特許文献6では流動層型の晶析装置を用い、流動層下部もしくは処理水循環ライン中に消石灰を添加する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−225680号公報
【特許文献2】特願2006−238862号公報
【特許文献3】米国特許第5,106,509号明細書
【特許文献4】特開2005−206405号公報
【特許文献5】特開2003−225502号公報
【特許文献6】特許第1527096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献4,5の方法では消石灰に対して化学当量として同量の酸が必要であり、その分のコストがかかる。また、フッ酸と塩化カルシウムとが反応することで塩酸が生じてpHが低下するためアルカリを添加する必要があり、そのコストがさらに必要となる。これら酸とアルカリのコストにより、市販の塩化カルシウム溶液を用いる場合と比較して、ランニングコストの削減はそれほど大きくない。
【0011】
また、本発明者らが実際に特許文献6の方法を検討したところ、処理が安定せず、処理水のフッ素濃度が高くなる問題が生じた。この理由としては、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応により、微細なフッ化カルシウムが生成して系外に多量に流出したためと考えられる。
【0012】
本発明は、フッ素含有原水の処理において、低コストで処理水のフッ素濃度を低減することができる晶析反応装置および晶析反応方法である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置であって、撹拌翼を有する撹拌手段を備え、前記原水に前記消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させるための晶析反応槽と、前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加する消石灰添加手段と、酸を添加する酸添加手段と、を有し、前記酸添加手段は、前記晶析反応槽に添加する前の原水に、前記酸を添加する晶析反応装置である。
【0014】
また、前記晶析反応装置において、前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応槽のpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することが好ましい。
【0015】
また、前記晶析反応装置において、前記晶析反応槽のpHが、0.8〜3の範囲であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応方法であって、撹拌翼により撹拌しながら、前記原水に前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応工程と、酸を添加する酸添加工程と、を含み、前記晶析反応方法において、前記酸添加工程において、前記晶析反応工程で添加する前の原水に、前記酸を添加する晶析反応方法である。
【0017】
また、前記晶析反応方法において、前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応工程におけるpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することが好ましい。
【0018】
また、前記晶析反応方法において、前記晶析反応工程におけるpHが、0.8〜3の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置および晶析反応方法において、酸を添加して、撹拌翼により撹拌しながら、原水に消石灰を撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させることにより、低コストで処理水のフッ素濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】参考例に係る晶析反応装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】参考例に係る晶析反応装置における晶析反応槽の一例を示す概略構成図である。
【図3】参考例に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図8】実施例2におけるフッ素含有原水のpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図である。
【図9】実施例3における塩化カルシウムのpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図である。
【図10】従来の流動床型の晶析反応装置の一例を示す概略構成図である。
【図11】従来の撹拌式の晶析反応装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
参考例に係る晶析反応装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。図1の晶析反応装置1は、原水貯槽10と、晶析反応槽12とを備える。
【0023】
図1の晶析反応装置1において、晶析反応槽12には、原水貯槽10からの原水添加配管32が原水添加手段であるポンプ18を介して接続されており、消石灰添加配管28が消石灰添加手段であるポンプ14を介して接続されており、酸添加配管30が酸添加手段であるポンプ16を介して接続されている。また、晶析反応槽12の出口には処理水排出配管34が接続されている。晶析反応槽12には、モータおよび晶析反応槽12内の流体を撹拌する撹拌翼22を備える撹拌手段である撹拌装置20、pH測定手段であるpHメータ24が設置されており、ドラフトチューブ26を備える。撹拌装置20の撹拌翼22は、撹拌軸を介して伝達されるモータが発生する回転力によって回転する。原水貯槽10には撹拌装置が設けられていてもよい。
【0024】
本実施形態に係る晶析反応方法および晶析反応装置1の動作について説明する。
【0025】
フッ素を含有するフッ素含有原水(以下、単に「原水」と呼ぶ場合がある。)が原水貯槽10からポンプ18により原水添加配管32を通して晶析反応槽12に添加される。次に、カルシウム剤である消石灰を含む消石灰スラリがポンプ14により消石灰添加配管28を通して、晶析反応槽12に添加される(消石灰添加工程)。また、酸がポンプ16により酸添加配管30を通して、晶析反応槽12の撹拌翼22の近傍に添加される(酸添加工程)。晶析反応槽12において、原水に含まれるフッ素と、消石灰とが反応してフッ化カルシウムの結晶が生成される(晶析反応工程)。晶析反応液は撹拌装置20によって撹拌される。pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpHに基づいてポンプ16を制御して、酸の添加量を調整してもよい。晶析反応槽12において晶析反応により生じる、フッ素が低減された処理水は、処理水排出配管34を通して晶析反応槽12の外部に排出される。
【0026】
本実施形態において、消石灰スラリの晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われる。一方、原水の晶析反応槽12への添加、酸の晶析反応槽12への添加は、原水または酸を晶析反応槽12に添加できるものであれば任意の態様が可能であり、原水添加配管32および酸添加配管30は晶析反応槽12の任意の部分に接続することができる。図1のような撹拌式の晶析反応槽の場合は、原水添加配管32は、析出物と処理水との分離という観点から、晶析反応槽10の上部に接続されるのが好ましい。また、図1においては、原水添加配管32、消石灰添加配管28および酸添加配管30はそれぞれ1つであるが、これに限定されるものではなく、これらが複数設けられていてもよい。
【0027】
この方法では、消石灰スラリを撹拌翼22の近傍に添加することにより、処理水のフッ素濃度を低減させることができる。この理由としては、消石灰スラリを撹拌翼22の近傍に添加することで消石灰スラリが瞬時に拡散するため、消石灰が溶けやすくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応を抑制し、微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる効果があると考えられる。
【0028】
本実施形態では、晶析反応槽12における晶析反応液のpHが、0.8〜3の範囲であることが好ましく、1〜1.5の範囲がより好ましい。酸を添加して晶析反応槽12のpHを0.8〜3の範囲で運転することにより、処理水のフッ素濃度を格段に低減させることができる。この理由としては、消石灰スラリを撹拌翼22の近傍に添加することに加え、0.8〜3の範囲という低いpHで運転することで消石灰がさらに溶けやすくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応をさらに抑制する効果があると考えられる。晶析反応槽12における晶析反応液のpHが、0.8未満であると、原水中のフッ素のうち、フッ化カルシウムとならない割合が多くなり、処理水中に溶解性フッ素が多く残存することになってフッ素の回収率が低下する場合があり、3を超えると、消石灰が溶解しにくくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応により微細なフッ化カルシウムが生成する場合がある。
【0029】
加えて、この方法では、消石灰を酸で溶かして塩化カルシウムにしてから添加する場合に比べて、酸の消費量を1〜3割程度に抑えることができる。これは、撹拌による瞬時の拡散と酸による溶解の効果を同時に発揮させることで、消石灰を溶かすのに必要な酸の量が低減するためと考えられる。また、消石灰がアルカリとしても作用するので、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加する必要がなく、アルカリのコストも抑えることができる。
【0030】
フッ化カルシウム析出の際のpHは、pHメータ24等のpH測定手段を用いて、晶析反応槽12内の反応場のpHを測定し、測定されたpHに応じて、酸を槽内に添加することにより、pHを制御することができる。pHメータ24は、フッ化カルシウム析出反応の反応場のpHをモニタできるのであれば、晶析反応槽12のいずれの部分に設置されてもよく、原水の導入部付近、晶析反応槽12からの処理水の出口付近等、特に限定されるものではない。
【0031】
本明細書において、撹拌翼22の「近傍」とは、撹拌翼22の撹拌流によって晶析反応槽12内の晶析反応液が素早く拡散しうる領域を意味する。例えば、消石灰スラリの注入点が、撹拌翼22による撹拌流速が大きい領域に設けられることが好ましい。特に、消石灰スラリの注入点の、撹拌翼22の回転軸方向の高さは、撹拌翼22の回転中心から、撹拌翼22の回転半径の2倍以内の距離であることが好ましい。また、撹拌翼22の回転径方向の位置は、撹拌翼22の回転中心から、撹拌翼22の回転半径の2倍以内の距離であることが好ましい。さらに、中心が撹拌翼22の回転中心であって、半径が撹拌翼22の回転半径の2倍である球状の領域内に設けられることが好ましい。これにより、消石灰は、晶析反応槽12内へ注入されると直ちに拡散せしめられ、その濃度が素早く低下する。このため、消石灰が溶けやすくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応を抑制し、微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる。さらに、形成されたフッ化カルシウムが液中に直接析出することが少なくなり、粒状種晶上の難溶性塩(フッ化カルシウム)の結晶として液中のフッ素をじっくりと取り込むことができる。したがって、処理水に混入する微細なフッ化カルシウムの量を極めて少なくすることができ、粒径の大きな難溶性塩粒子を安定的に得て、フッ素の回収率を大きく向上させることができる。
【0032】
酸の添加位置(注入点)は、特に限定されるものではなく、晶析反応槽12内の晶析反応液、晶析反応槽12に添加する前の消石灰および晶析反応槽12に添加する前のフッ素含有原水のうち少なくとも1つに添加するように設ければよい。例えば、図1のように、撹拌翼22による撹拌流によって晶析反応槽12内に素早く拡散しうる領域、すなわち撹拌翼22の「近傍」に設けることができる。酸を注入後に素早く拡散せしめるようにすれば、消石灰が溶けやすくなり、晶析反応によらない難溶性塩微粒子の直接生成を抑制することができる。従って、酸を撹拌流速が大きい領域へ吐出することで、フッ素の回収率をさらに向上させることができる。
【0033】
また、図3に示すように、酸添加配管30を消石灰添加配管28に接続して、晶析反応槽12に添加する前の消石灰スラリに酸を添加してもよいし、図4に示すように、酸添加配管30を原水貯槽10に接続して、晶析反応槽12に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加してもよい。これらのうち、処理液のフッ素濃度をより低減できる点から、図1のように酸を撹拌翼22の近傍に注入することが好ましい。
【0034】
図4のようにフッ素含有原水に酸を添加する場合、フッ素含有原水に酸を所定の量で添加し、pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpHに基づいてポンプ14を制御して消石灰スラリの添加量を調整し、晶析反応槽12のpHを制御してもよい。また、原水貯槽10にpHメータ36を設置して、フッ素含有原水のpHを計測してもよい。
【0035】
本実施形態においては、図1,2に示すように、晶析反応槽12の水面下に、筒内に撹拌装置20の撹拌翼22が位置するようにドラフトチューブ26を設置することが好ましい。このとき、撹拌翼22は下降流を形成するものであることが好ましい。このようにドラフトチューブ26を設置すると、チューブ下部に向けて下降流が生じ、拡散流速が比較的大きいゾーンが形成される。このため、原水や消石灰等をより素早く拡散させることができ、原水や消石灰の濃度が局所的に濃い領域同士が接触して、難溶性塩粒子の直接生成が生じることを極力抑制することが可能となる。
【0036】
また、上記のようにドラフトチューブ26および撹拌翼22を設置すると、チューブ外周部には流れのゆるやかな上向流ゾーンが形成される。このゾーンでは、粒子が分級されて小粒径の粒子はチューブ外側面に沿って上昇すると共に、チューブ上端からチューブ内部に再侵入して下降し、原水や消石灰等の注入点付近やその下部の撹拌ゾーンへと再循環する。これら小粒径の結晶が核となって晶析反応を促進せしめる。このため、粒径の大きな難溶性塩の結晶を安定的に形成せしめることが可能となり、フッ素の回収率を向上させることができる。
【0037】
さらに、晶析反応が進んで粒径が大きくなった結晶は、チューブ外周部の上向流によっては上昇せず、下に沈んで再びドラフトチューブ26内には入り込まないため、成長した結晶が撹拌翼22との衝突により破壊されてしまうことを防止することができる。このような利点も、粒径の大きな難溶性塩の結晶を安定的に得ることに寄与し、ひいてはフッ素の回収率の向上に寄与することができる。
【0038】
チューブ下部に撹拌流速の比較的大きいゾーンを形成し、チューブ外周部に上向流を安定的に形成するためには、撹拌翼22が、チューブ内でチューブ下半分の何処かに位置することが好ましい。より好ましくは、チューブ下端より少し上方の位置がよい。このような配置とすれば、撹拌流速の大きなゾーンがチューブ下端付近に渦のように形成され、さらにそこから上向流がチューブ外周部に沿って安定的に形成される。従って、原水や消石灰等の拡散や、粒子の分級を効果的に進めることできる。
【0039】
ドラフトチューブ26を設ける場合、原水や消石灰、さらには酸の注入点は、これらをドラフトチューブ26内の下降流に乗せて素早く効果的に拡散させるために、ドラフトチューブ26の筒内に配することが好ましい。より好ましい位置は、ドラフトチューブ26の筒内かつ撹拌翼22の上方である。
【0040】
本実施形態におけるフッ素含有原水は、晶析処理により除去されるフッ素を含むものであれば、如何なる由来の原水であっても良く、例えば、半導体関連産業をはじめとする電子産業、発電所、アルミニウム工業等から排出される原水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
晶析対象物質となるフッ素は、晶析反応により晶析するのであれば、任意の状態で原水中に存在することが可能である。原水中に溶解しているという観点から、晶析対象物質はイオン化した状態であるのが好ましい。晶析対象物質がイオン化した状態としては、例えば、F-等の原子がイオン化したもの、フッ素を含む化合物がイオン化したもの等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
フッ素を含む原水は、アルミの電解精錬工程、製綱工程等からも排出されるが、特に半導体工場において大量に排出される。半導体シリコンウェーハの洗浄等に濃厚フッ酸が用いられ、フッ素含有量が%オーダーの濃厚フッ酸廃液として排出される。このとき、アンモニアや過酸化水素、リン酸等も洗浄剤として用いられるため、それらを含む排水となることがある。また、半導体シリコンウェーハ上に残存するフッ酸の洗浄、パーフルオロ化合物(PFCs)分解後のガスに含まれるHFの洗浄等に大量の水が使用され、希薄系のフッ素含有原水としても排出される。本方法は、フッ酸(フッ化水素)を含む原水中からフッ素を除去するために特に好適に適用しうる。
【0043】
原水に含まれるフッ素の量は、特に限定されるものではないが、例えば、5000mg/L〜100000mg/Lの範囲、特に5000mg/L〜20000mg/Lの範囲である。
【0044】
本実施形態においては、晶析剤として消石灰が用いられるが、消石灰を添加する形態としては、粉末状態でもよいし、スラリ状態であってもよい。消石灰の添加の好ましい態様は、消石灰スラリとして添加する態様である。
【0045】
本明細書において、「消石灰スラリ」とは、消石灰の乾燥固体に水または水溶液を添加して形成されるスラリをいい、使用される水としては、蒸留水、精製水、水道水等任意のソースの水が可能であり、また、水溶液としては、前記水に、酸、アルカリ、これらの塩等任意の化合物が添加された水溶液が可能である。また、本明細書における「消石灰の乾燥固体」とは、前記消石灰スラリに対する概念を示すものであり、スラリを形成していない、粉体、顆粒、塊状物等の固体であれば良く、化合物としての無水物を意味するものではない。
【0046】
消石灰としては、任意のグレードの消石灰を使用することができ、特に限定されるものではない。消石灰スラリの濃度は特に限定されるものではなく、一般的に用いられる1重量%〜20重量%の範囲でよい。
【0047】
カルシウム注入量としては、化学当量としてフッ素の0.8倍〜2倍、1倍〜2倍までがよいが、1倍〜1.2倍がよりよい。カルシウムの化学当量が原水のフッ素の化学当量の2倍より多いとフッ化カルシウムが種晶上に析出せずに微粒子として生成しやすく、処理水にフッ化カルシウムが混入する場合があり、0.8倍より少ないと、原水中のフッ素のうちフッ化カルシウムとならない割合が多くなり、処理水にフッ素が混入する場合がある。
【0048】
添加する酸は特に限定されるものではないが、好ましくは、カルシウムと難溶性の塩を形成させる成分を含まない任意の酸であり、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられ、塩酸が好ましい。
【0049】
本実施形態においては、原水と消石灰とを晶析反応槽12に添加する前に、あらかじめ、晶析反応槽12に種晶が存在していてもよいし、あらかじめ晶析反応槽12内に種晶が存在していなくてもよい。安定した処理を行うためには、晶析反応槽12にあらかじめ種晶が存在していることが好ましい。晶析反応槽12に充填される種晶の充填量は、フッ素を晶析反応により除去できるのであれば特に限定されるものではなく、原水中のフッ素濃度、消石灰スラリの濃度、また、晶析反応装置1の運転条件等に応じて適宜設定される。
【0050】
種晶は、その表面に生成した難溶性塩の結晶を析出させることができるものであればよく、任意の材質が選択可能であり、例えば、ろ過砂、活性炭、およびジルコンサンド、ガーネットサンド、サクランダム(商品名、日本カートリット株式会社製)などをはじめとする金属元素の酸化物を含んで構成される粒子、ならびに、晶析反応による析出物である難溶性塩を含んで構成される粒子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。より純粋な難溶性塩をペレット等として入手できるという観点から、晶析反応による析出物である難溶性塩を含んで構成される粒子(フッ化カルシウムの場合は例えば蛍石)が好ましい。種晶の形状、粒径は、晶析反応槽12内の流速、フッ素および消石灰の濃度等に応じて適宜設定され、特に限定されるものではない。
【0051】
晶析反応槽12にあらかじめ種晶が充填されている場合は、例えば、原水へ消石灰を晶析反応槽12において添加し、晶析反応槽12内で、種晶上に難溶性塩を析出させてペレットを形成させ、フッ素が低減された処理水を生じさせる。これに対して、晶析反応槽12にあらかじめ種晶が存在していない場合には、原水へ消石灰を添加することにより晶析反応槽12内で析出する難溶性塩がペレットを形成し、成長することとなる。いずれの場合も、晶析反応槽12内の結晶がある程度大きく成長すると、晶析反応槽12内から一部の結晶を引抜く引抜操作と、引抜いた結晶よりも小粒径の種晶を新たに補充する補充操作を繰り返し行うことで、連続的に結晶を得るような方法が採用される。
【0052】
晶析反応槽12は、原水中のフッ素と消石灰とが反応して難溶性塩のフッ化カルシウムの結晶を析出させて、フッ素が低減された処理水を生じさせうる反応槽であればよく、長さ、内径、形状等については任意の態様が可能であり、特に限定されるものではない。
【0053】
晶析反応槽としては、図1のように晶析反応槽12に、撹拌翼22等を備える撹拌装置20を設置し、該撹拌装置20により晶析反応槽12内を撹拌してペレットを流動させる撹拌式の晶析反応槽が挙げられる。撹拌翼22は晶析反応槽12内で内容物を撹拌できるものであればよく、撹拌翼の設置態様、撹拌翼の大きさ等は特に限定されるものではない。
【0054】
また、撹拌式の晶析反応槽12としては、晶析反応槽12の周壁に対向させて内周壁を配置して、この内外周壁間を処理水排出路とし、難溶性塩粒子と処理水との分離能を向上させ、処理水中に難溶性塩粒子が流出するのを防止する分離ゾーンを有するものであってもよい。この態様においては、処理水排出路の上部に処理水排出配管34が接続されるような態様が好ましい。また、この処理水排出路には、ペレットの分離能を向上させるために、処理水排出路の入口部分に複数枚のじゃま板で構成したバッファ板や、複数枚の整流板で構成したバッファ板を位置させていてもよい。この態様の詳細は特開2005−230735号および特開2005−296888号に記載されており、これらの特許文献に記載される晶析反応槽も本実施形態において使用可能である。
【0055】
晶析反応槽12内または処理水中の溶解性のフッ素濃度を測定するために、フッ素濃度計等のフッ素濃度測定手段を晶析反応槽12または処理水排出配管34に設置してもよい。また、晶析反応槽12内または処理水中の溶解性カルシウム等のカルシウム濃度を測定するために、カルシウム濃度計等のカルシウム濃度測定手段を晶析反応槽12または処理水排出配管34に設置してもよい。晶析反応槽12内でのフッ素濃度計、カルシウム濃度計等の設置位置は特に限定されるものではないが、例えば、処理水中の濃度を測定する場合には、晶析反応槽12の出口付近に設置することができる。
【0056】
晶析反応槽12において晶析反応により生じるフッ素が低減された処理水は晶析反応槽12の外部に排出される。処理水は、晶析反応槽12における液体の流れに従って任意の部分から排出されうる。図1では、晶析反応槽12の上部から排出される処理水は、処理水排出配管34を通って最終的に系外に排出される。晶析反応槽12の後段に処理水貯留槽を設置してもよい。
【0057】
得られる処理水において、例えばフッ素濃度は、フッ化カルシウム等の非溶解性フッ素を含む全フッ素として通常500mg−F/L以下、溶解性のフッ素イオンとして通常50mg−F/L以下程度である。カルシウム濃度は、pH2〜3で、溶解性のカルシウムイオンとして通常50mg−Ca/L程度であるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
原水を処理して得られた処理水をさらに沈殿槽において処理してもよい。沈殿槽においては、例えば、pHを3〜12、好ましくは4〜11とすることでフッ化カルシウムを生成させて、フッ素を沈殿除去することにより、さらにフッ素濃度が低減された処理水を得ることができる。
【0059】
本実施形態に係る晶析反応装置および晶析反応方法により、晶析反応槽12内で難溶性塩のフッ化カルシウムの結晶を析出させることにより、原水中のフッ素が難溶性塩の結晶として回収され、フッ素が低減された処理水が生じる。本実施形態においては、フッ素の回収率(1−(処理水中のフッ素量/原水中のフッ素量))として、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上を達成できる。
【0060】
図5は、本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。図5に示す晶析反応装置7において、図1に示す晶析反応装置1と同様の構成については同一の符合を付している。図5に示すように、晶析反応装置7は、原水貯槽10と、カルシウム剤貯槽11と、晶析反応槽12と、を備える。
【0061】
図5の晶析反応装置7において、晶析反応槽12には、原水貯槽10からの原水添加配管32が原水添加手段であるポンプ18を介して接続されており、カルシウム剤貯槽11からのカルシウム剤添加配管29がカルシウム剤添加手段であるポンプ15を介して接続されており、pH調整剤添加配管38が接続されている。また、原水貯槽10及びカルシウム剤貯槽11には、酸添加配管30a,30bが酸添加手段であるポンプ16a,16bを介して接続されている。なお、酸は、ポンプ16a,16bから酸添加配管30a,30bを通して晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水、カルシウム剤に供給されればよいため、酸添加配管30a,30bは、原水貯槽10、カルシウム剤貯槽11に必ずしも接続される必要はなく、原水添加配管32、カルシウム剤添加配管29に接続されていてもよい。
【0062】
晶析反応槽12には、晶析反応槽12の周壁に対向する内周壁が設置されている。そして、周壁と内周壁との間を処理水排出路40とし、処理水排出路40には、処理水排出配管34が接続されている。この処理水排出路40は、上記でも説明したようにフッ化カルシウムの結晶と処理水との分離能を向上させ、処理水中にフッ化カルシウムの結晶が流出するのを防止するために設けられるものであって、必ずしも必要ではない。また、晶析反応槽12の底部には、晶析排出管42が接続されており、晶析排出管42から晶析反応により生成したフッ化カルシウムの結晶が排出される。また、晶析反応槽12内には、ドラフトチューブ26、pH測定手段であるpHメータ24が設置されており、ドラフトチューブ26内には、モータ及び晶析反応槽12内の流体を撹拌する撹拌翼22を備える撹拌手段である撹拌装置20が設置されている。
【0063】
次に、本実施形態に係る晶析反応方法及び晶析反応装置の動作について説明する。
【0064】
酸がポンプ16a,16bにより酸添加配管30a,30bを通して、原水貯槽10、カルシウム剤貯槽11に供給される(酸添加工程)。次に、酸が添加されたフッ素含有原水が、原水貯槽10からポンプ18により原水添加配管32を通して晶析反応槽12に添加される。また、酸が添加されたカルシウム剤が、カルシウム剤貯槽11からポンプ15によりカルシウム剤添加配管29を通して晶析反応槽12に添加される。そして、晶析反応槽12では、フッ素含有原水とカルシウム剤とが撹拌装置20により撹拌されながら、原水に含まれるフッ素と、カルシウム剤とが反応して、フッ化カルシウムの結晶が生成される(晶析反応工程)。そして、晶析反応により生成したフッ化カルシウムの結晶は、晶析排出管42から排出される。また、晶析反応によりフッ素が低減された処理水は、処理水排出路40を通り、処理水排出配管34から晶析反応槽12の外部に排出される。
【0065】
本実施形態では、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤に酸を添加し、フッ素含有原水及びカルシウム剤のpHを低下させている。ここで、上記でも説明したようにフッ素含有原水には、アンモニアを含有しているものがあり、その中でも、アンモニアを高濃度に含有するバッファードフッ酸等がある。このバッファードフッ酸(原水)のpHは4〜7であることが多い。また、バッファードフッ酸中のアンモニアを回収するために苛性ソーダ等が添加され、pH12以上の強アルカリ性の状態となったフッ素含有原水もある。このように、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水のpHが4以上である場合には、原水のpHが4未満に、好ましくは2未満になるように酸を添加する。但し、フッ素含有原水が、フッ酸等の弱酸(pH2.7〜3.0)である場合、すなわち、晶析反応槽12に供給される前からフッ素含有原水のpHが4未満である場合でも、フッ素含有原水のpHが低下するように酸を添加すると、フッ素の回収率を向上させることができ、より有効な効果が得られる。
【0066】
また、晶析反応に用いられるカルシウム剤は、pH5〜7程度の塩化カルシウム、pH12以上の消石灰スラリ等が一般的であり、pH4以上のものがほとんどであるが、いずれにしろ上記同様に、晶析反応に用いられるカルシウム剤(晶析反応槽12に供給される前のカルシウム剤)がpH4以上である場合には、pHが4未満、好ましくは2未満になるように酸を添加し、晶析反応に用いられるカルシウム剤のpHが4未満である場合でも、カルシウム剤のpHが低下するように酸を添加する。
【0067】
このように、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤に酸を添加し、pHを低下させてから(原水、カルシウム剤のpHが4以上の場合には、pHを4未満としてから)、酸を添加したフッ素含有原水及びカルシウム剤を晶析反応槽12に供給することにより、酸、フッ素含有原水及びカルシウム剤を別々に晶析反応槽12に供給するよりも、フッ化カルシウムの溶解度が高くなり、カルシウム剤とフッ素との急激な反応による微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる。その結果、晶析反応による粒径の大きなフッ化カルシウムの結晶を安定的に形成せしめることが可能となると共に、処理水に混入する微細なフッ化カルシウムの量を極めて少なくすることができるため、フッ素の回収率を大きく向上させることができる。
【0068】
本実施形態では、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤のうち少なくともいずれか一方に酸を添加し、フッ素含有原水及びカルシウム剤のうち少なくともいずれか一方のpHを低下させればよいが、フッ素含有原水及びカルシウム剤の両方のpHを4未満とするのが好ましく、中でもフッ素含有原水のpHをできるだけ低くする方がより好ましい。
【0069】
酸をフッ素含有原水に添加した場合、該原水の晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われることが好ましい。また、酸をカルシウム剤に添加した場合、該カルシウム剤の晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われることが好ましい。さらに、酸をフッ素含有原水及びカルシウム剤の両方に添加した場合、該原水及びカルシウム剤の晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われることが好ましい。このように酸を添加したフッ素含有原水、カルシウム剤を撹拌翼22の近傍に添加し、晶析反応槽12内に素早く拡散させることにより、カルシウム剤とフッ素との急激な反応を抑制し、微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる。
【0070】
図6は、本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。図6に示す晶析反応装置8において、pHメータ24とポンプ16bとは、電気的に接続されており、pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpH(すなわち、晶析反応槽12内の反応液のpH)に基づいてポンプ16bを制御し、カルシウム剤に添加する酸の添加量を制御してもよい。
【0071】
図7は、本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。図7に示す晶析反応装置9において、pHメータ24とポンプ16aとは、電気的に接続されており、pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpH(すなわち、晶析反応槽12内の反応液のpH)に基づいてポンプ16aを制御して、フッ素含有原水に添加する酸の添加量を制御してもよい。
【0072】
ここで、晶析反応槽12のpHが、好ましくは0.8〜3の範囲、より好ましくは1〜2.3の範囲となるように、フッ素含有原水、カルシウム剤に添加する酸の添加量を制御する。晶析反応槽12内の晶析反応液のpHが0.8未満であると、原水中のフッ素のうち、フッ化カルシウムとならない割合が多くなり、処理水中に溶解性フッ素が多く存在することとなって、フッ素の回収率が低下する場合があり、pHが3を超えると、フッ化カルシウムとフッ素との急激な反応により微細なフッ化カルシウムが多く生成する場合がある。
【0073】
なお、フッ素含有原水、カルシウム剤に添加する酸の添加量を制御すると共に、pH調整剤添加配管38から供給するpH調整剤の供給量を制御することにより、晶析反応槽12のpHの調整を行ってもよい。
【0074】
図5〜図7において説明した晶析反応装置は、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤のうち少なくともいずれか一方に酸を添加し、原水及びカルシウム剤のうちの少なくともいずれか一方のpHを低下させることを要旨とするものであって、その要旨を超えなければ、いかなる技術及び条件、例えば、上記図1〜4において説明した晶析反応装置の技術及び条件を採用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(参考例1〜3、実施例1)
下記条件で、消石灰および酸の添加位置、晶析反応槽のpHの条件を変化させて実験を行い、処理水のフッ素濃度を比較した。実験結果を表1に示す。参考例1,2では、消石灰添加配管および酸添加配管の注入点を、図1のように晶析反応槽の撹拌翼近傍(撹拌翼の回転中心に対して100mm高い位置で、かつ撹拌翼の回転中心から回転径方向へ120mmの位置(撹拌翼の回転中心からの距離が回転半径の1.6倍))に設置した。晶析反応槽内の晶析反応液のpHを、実施例1では2.5±0.2に、参考例2では1.5±0.2に制御した。参考例3では、消石灰添加配管の注入点を実施例1,2と同様にして、酸を図3のように消石灰添加配管に添加した。実施例1では、消石灰添加配管の注入点を実施例1,2と同様にして、酸を図4のように原水貯槽に添加した。
【0077】
また、使用したドラフトチューブは直径が250mmで、上端が水面から150mm、下端が撹拌翼下150mmに位置するように設置した。なお、ここでいう処理水フッ素濃度は、SS性のフッ素(=フッ化カルシウム)と溶解性のフッ素を含む全フッ素濃度である。
【0078】
<実験条件>
晶析反応槽容量:150L(500mmφ×1200mmH)
フッ素含有原水のフッ素濃度:10000mg/L
フッ素含有原水流量:50L/hr
消石灰スラリ濃度:10重量%
酸:塩酸(5重量%)
撹拌翼直径:200mm
【0079】
(比較例1〜3)
比較例1では、酸を添加せずに、消石灰添加配管の注入点を、晶析反応槽の水面付近((晶析反応槽の水面から50mm下の位置で、かつ撹拌翼の回転中心から回転径方向へ220mmの位置(撹拌翼の回転中心からの距離が回転半径の6.4倍))に設置した。比較例2では、酸を添加せずに、消石灰添加配管の注入点を実施例1と同様にして添加した。比較例3では、消石灰添加配管の注入点を比較例1と同様にして、酸添加配管の注入点を実施例1と同様にして添加した。それ以外は、実施例1と同じ条件で実験を行い、処理水のフッ素濃度を比較した。なお、比較例1,2ではpHの調整は行っていない。実験結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
このように、参考例1〜3、実施例1では、酸を添加して、撹拌翼により撹拌しながら、原水に消石灰を撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させることにより、処理水のフッ素濃度を低減することができた。また、従来のカルシウム剤として塩化カルシウムを用いる方法、消石灰を酸に溶かして塩化カルシウムにしてから晶析反応槽に注入する方法に比べて、酸、アルカリの使用量が低減し、処理に要するコストが低減した。
【0082】
(実施例2,3)
実施例2では、図5に示す晶析反応装置を用い、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加して、フッ素含有原水のpHを変化させて実験を行い、処理水のフッ素濃度を測定した。なお、実施例2では、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウム(カルシウム剤)のpHを7.0又は1.5に一定に制御した。実施例3では、図5に示す晶析反応装置を用い、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウムに酸を添加して、塩化カルシウムのpHを変化させて実験を行い、処理水のフッ素濃度を測定した。なお、実施例3では、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水のpHを7.0、2.7又は1.5に制御した。実施例2及び3におけるその他の実験条件を下記に示す。
【0083】
<実験条件>
晶析反応槽容量:150L(500mmφ×1200mmH)
フッ素含有原水のフッ素濃度:10000mg/L
フッ素含有原水流量:30L/hr
塩化カルシウム濃度:10重量%
酸:塩酸(35重量%)
晶析反応槽pH:2.0〜2.3
【0084】
図8は、実施例2におけるフッ素含有原水のpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図であり、図9は、実施例3における塩化カルシウムのpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図である。図8から判るように、実施例2では、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加してpHを4未満にすることにより、処理水のフッ素濃度を低減させることができた。また、図9から判るように、実施例3では、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウムに酸を添加してpHを4未満にすることにより、処理水のフッ素濃度を低減させることができた。特に、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウム(カルシウム剤)に酸を添加してpH4未満にするより、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加してpHを4未満にする方が、処理水のフッ素濃度の低減効果が大きいことが判った。
【符号の説明】
【0085】
1,7,8,9 晶析反応装置、10 原水貯槽、11 カルシウム剤貯槽、12 晶析反応槽、14,15,16,16a,16b,18 ポンプ、20 撹拌装置、22 撹拌翼、24,36 pHメータ、26 ドラフトチューブ、28 消石灰添加配管、29 カルシウム剤添加配管、30,30a,30b 酸添加配管、32 原水添加配管、34 処理水排出配管、38 pH調整剤添加配管、40 処理水排出路、42 晶析排出管。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体工場などのフッ素含有原水のフッ素をフッ化カルシウムとして処理、回収する晶析反応装置および晶析反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素を含むフッ素含有原水を処理するには、カルシウム剤および凝集剤を添加する凝集沈殿法が一般的に用いられており、カルシウム剤としては消石灰が用いられることが多い。ただし、この方法で生成されるフッ化カルシウム汚泥は純度が低いため、回収再利用は困難である。
【0003】
フッ素含有原水にカルシウム剤を添加してフッ化カルシウムを回収する方法としては、種晶が充填された晶析反応槽内にフッ素含有原水とカルシウム剤とを注入し、種晶表面にフッ化カルシウムを析出させて、フッ化カルシウム結晶を得る晶析法等が提案されている。
2HF + CaCl2 → CaF2↓ + 2HCl
【0004】
フッ素含有原水のフッ素が低濃度の場合は、流動床型の晶析装置によりpH3〜11で晶析し(流動床型、図10、特許文献1参照)、フッ素が高濃度の場合は、ドラフトチューブおよび撹拌機付きの晶析反応槽でpH2〜3で晶析する(撹拌式晶析装置、図11、特許文献2参照)ことを本発明者らは提案している。
【0005】
上記の従来技術では、カルシウム剤として塩化カルシウムが用いられている。上記の発明者の提案以外でも、例えば特許文献3では、カルシウム剤として塩化カルシウムを推奨している。また、高濃度フッ酸を対象とした特許文献4では、カルシウム剤として塩化カルシウムを用いている。
【0006】
晶析法においてカルシウム剤として消石灰が用いられない理由としては、消石灰の取扱いの難しさによるところが大きい。消石灰は水に対する溶解度(25℃)が0.149g/100gと低いため、一般的には粉体もしくはスラリとして用いられる。晶析法においては、カルシウム剤注入量の制御の面等から液体の方が用いやすいので、塩化カルシウム溶液が一般的に用いられる。
【0007】
一方で、消石灰は塩化カルシウムに比べて非常に安価であり、また半導体工場のプラント内で供給施設があるため、それを転用しやすいというメリットがある。晶析法において消石灰を用いる場合は、消石灰を酸に溶かして塩化カルシウムにしてから晶析反応槽に注入する方法がある(例えば、特許文献4,5)。
【0008】
また、消石灰を溶解させずに用いる方法として、特許文献6では流動層型の晶析装置を用い、流動層下部もしくは処理水循環ライン中に消石灰を添加する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−225680号公報
【特許文献2】特願2006−238862号公報
【特許文献3】米国特許第5,106,509号明細書
【特許文献4】特開2005−206405号公報
【特許文献5】特開2003−225502号公報
【特許文献6】特許第1527096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献4,5の方法では消石灰に対して化学当量として同量の酸が必要であり、その分のコストがかかる。また、フッ酸と塩化カルシウムとが反応することで塩酸が生じてpHが低下するためアルカリを添加する必要があり、そのコストがさらに必要となる。これら酸とアルカリのコストにより、市販の塩化カルシウム溶液を用いる場合と比較して、ランニングコストの削減はそれほど大きくない。
【0011】
また、本発明者らが実際に特許文献6の方法を検討したところ、処理が安定せず、処理水のフッ素濃度が高くなる問題が生じた。この理由としては、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応により、微細なフッ化カルシウムが生成して系外に多量に流出したためと考えられる。
【0012】
本発明は、フッ素含有原水の処理において、低コストで処理水のフッ素濃度を低減することができる晶析反応装置および晶析反応方法である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置であって、撹拌翼を有する撹拌手段を備え、前記原水に前記消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させるための晶析反応槽と、前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加する消石灰添加手段と、酸を添加する酸添加手段と、を有し、前記酸添加手段は、前記晶析反応槽に添加する前の原水に、前記酸を添加する晶析反応装置である。
【0014】
また、前記晶析反応装置において、前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応槽のpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することが好ましい。
【0015】
また、前記晶析反応装置において、前記晶析反応槽のpHが、0.8〜3の範囲であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応方法であって、撹拌翼により撹拌しながら、前記原水に前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応工程と、酸を添加する酸添加工程と、を含み、前記晶析反応方法において、前記酸添加工程において、前記晶析反応工程で添加する前の原水に、前記酸を添加する晶析反応方法である。
【0017】
また、前記晶析反応方法において、前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応工程におけるpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することが好ましい。
【0018】
また、前記晶析反応方法において、前記晶析反応工程におけるpHが、0.8〜3の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置および晶析反応方法において、酸を添加して、撹拌翼により撹拌しながら、原水に消石灰を撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させることにより、低コストで処理水のフッ素濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】参考例に係る晶析反応装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】参考例に係る晶析反応装置における晶析反応槽の一例を示す概略構成図である。
【図3】参考例に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。
【図8】実施例2におけるフッ素含有原水のpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図である。
【図9】実施例3における塩化カルシウムのpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図である。
【図10】従来の流動床型の晶析反応装置の一例を示す概略構成図である。
【図11】従来の撹拌式の晶析反応装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
参考例に係る晶析反応装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。図1の晶析反応装置1は、原水貯槽10と、晶析反応槽12とを備える。
【0023】
図1の晶析反応装置1において、晶析反応槽12には、原水貯槽10からの原水添加配管32が原水添加手段であるポンプ18を介して接続されており、消石灰添加配管28が消石灰添加手段であるポンプ14を介して接続されており、酸添加配管30が酸添加手段であるポンプ16を介して接続されている。また、晶析反応槽12の出口には処理水排出配管34が接続されている。晶析反応槽12には、モータおよび晶析反応槽12内の流体を撹拌する撹拌翼22を備える撹拌手段である撹拌装置20、pH測定手段であるpHメータ24が設置されており、ドラフトチューブ26を備える。撹拌装置20の撹拌翼22は、撹拌軸を介して伝達されるモータが発生する回転力によって回転する。原水貯槽10には撹拌装置が設けられていてもよい。
【0024】
本実施形態に係る晶析反応方法および晶析反応装置1の動作について説明する。
【0025】
フッ素を含有するフッ素含有原水(以下、単に「原水」と呼ぶ場合がある。)が原水貯槽10からポンプ18により原水添加配管32を通して晶析反応槽12に添加される。次に、カルシウム剤である消石灰を含む消石灰スラリがポンプ14により消石灰添加配管28を通して、晶析反応槽12に添加される(消石灰添加工程)。また、酸がポンプ16により酸添加配管30を通して、晶析反応槽12の撹拌翼22の近傍に添加される(酸添加工程)。晶析反応槽12において、原水に含まれるフッ素と、消石灰とが反応してフッ化カルシウムの結晶が生成される(晶析反応工程)。晶析反応液は撹拌装置20によって撹拌される。pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpHに基づいてポンプ16を制御して、酸の添加量を調整してもよい。晶析反応槽12において晶析反応により生じる、フッ素が低減された処理水は、処理水排出配管34を通して晶析反応槽12の外部に排出される。
【0026】
本実施形態において、消石灰スラリの晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われる。一方、原水の晶析反応槽12への添加、酸の晶析反応槽12への添加は、原水または酸を晶析反応槽12に添加できるものであれば任意の態様が可能であり、原水添加配管32および酸添加配管30は晶析反応槽12の任意の部分に接続することができる。図1のような撹拌式の晶析反応槽の場合は、原水添加配管32は、析出物と処理水との分離という観点から、晶析反応槽10の上部に接続されるのが好ましい。また、図1においては、原水添加配管32、消石灰添加配管28および酸添加配管30はそれぞれ1つであるが、これに限定されるものではなく、これらが複数設けられていてもよい。
【0027】
この方法では、消石灰スラリを撹拌翼22の近傍に添加することにより、処理水のフッ素濃度を低減させることができる。この理由としては、消石灰スラリを撹拌翼22の近傍に添加することで消石灰スラリが瞬時に拡散するため、消石灰が溶けやすくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応を抑制し、微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる効果があると考えられる。
【0028】
本実施形態では、晶析反応槽12における晶析反応液のpHが、0.8〜3の範囲であることが好ましく、1〜1.5の範囲がより好ましい。酸を添加して晶析反応槽12のpHを0.8〜3の範囲で運転することにより、処理水のフッ素濃度を格段に低減させることができる。この理由としては、消石灰スラリを撹拌翼22の近傍に添加することに加え、0.8〜3の範囲という低いpHで運転することで消石灰がさらに溶けやすくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応をさらに抑制する効果があると考えられる。晶析反応槽12における晶析反応液のpHが、0.8未満であると、原水中のフッ素のうち、フッ化カルシウムとならない割合が多くなり、処理水中に溶解性フッ素が多く残存することになってフッ素の回収率が低下する場合があり、3を超えると、消石灰が溶解しにくくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応により微細なフッ化カルシウムが生成する場合がある。
【0029】
加えて、この方法では、消石灰を酸で溶かして塩化カルシウムにしてから添加する場合に比べて、酸の消費量を1〜3割程度に抑えることができる。これは、撹拌による瞬時の拡散と酸による溶解の効果を同時に発揮させることで、消石灰を溶かすのに必要な酸の量が低減するためと考えられる。また、消石灰がアルカリとしても作用するので、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加する必要がなく、アルカリのコストも抑えることができる。
【0030】
フッ化カルシウム析出の際のpHは、pHメータ24等のpH測定手段を用いて、晶析反応槽12内の反応場のpHを測定し、測定されたpHに応じて、酸を槽内に添加することにより、pHを制御することができる。pHメータ24は、フッ化カルシウム析出反応の反応場のpHをモニタできるのであれば、晶析反応槽12のいずれの部分に設置されてもよく、原水の導入部付近、晶析反応槽12からの処理水の出口付近等、特に限定されるものではない。
【0031】
本明細書において、撹拌翼22の「近傍」とは、撹拌翼22の撹拌流によって晶析反応槽12内の晶析反応液が素早く拡散しうる領域を意味する。例えば、消石灰スラリの注入点が、撹拌翼22による撹拌流速が大きい領域に設けられることが好ましい。特に、消石灰スラリの注入点の、撹拌翼22の回転軸方向の高さは、撹拌翼22の回転中心から、撹拌翼22の回転半径の2倍以内の距離であることが好ましい。また、撹拌翼22の回転径方向の位置は、撹拌翼22の回転中心から、撹拌翼22の回転半径の2倍以内の距離であることが好ましい。さらに、中心が撹拌翼22の回転中心であって、半径が撹拌翼22の回転半径の2倍である球状の領域内に設けられることが好ましい。これにより、消石灰は、晶析反応槽12内へ注入されると直ちに拡散せしめられ、その濃度が素早く低下する。このため、消石灰が溶けやすくなり、未溶分の消石灰とフッ素との急激な反応を抑制し、微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる。さらに、形成されたフッ化カルシウムが液中に直接析出することが少なくなり、粒状種晶上の難溶性塩(フッ化カルシウム)の結晶として液中のフッ素をじっくりと取り込むことができる。したがって、処理水に混入する微細なフッ化カルシウムの量を極めて少なくすることができ、粒径の大きな難溶性塩粒子を安定的に得て、フッ素の回収率を大きく向上させることができる。
【0032】
酸の添加位置(注入点)は、特に限定されるものではなく、晶析反応槽12内の晶析反応液、晶析反応槽12に添加する前の消石灰および晶析反応槽12に添加する前のフッ素含有原水のうち少なくとも1つに添加するように設ければよい。例えば、図1のように、撹拌翼22による撹拌流によって晶析反応槽12内に素早く拡散しうる領域、すなわち撹拌翼22の「近傍」に設けることができる。酸を注入後に素早く拡散せしめるようにすれば、消石灰が溶けやすくなり、晶析反応によらない難溶性塩微粒子の直接生成を抑制することができる。従って、酸を撹拌流速が大きい領域へ吐出することで、フッ素の回収率をさらに向上させることができる。
【0033】
また、図3に示すように、酸添加配管30を消石灰添加配管28に接続して、晶析反応槽12に添加する前の消石灰スラリに酸を添加してもよいし、図4に示すように、酸添加配管30を原水貯槽10に接続して、晶析反応槽12に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加してもよい。これらのうち、処理液のフッ素濃度をより低減できる点から、図1のように酸を撹拌翼22の近傍に注入することが好ましい。
【0034】
図4のようにフッ素含有原水に酸を添加する場合、フッ素含有原水に酸を所定の量で添加し、pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpHに基づいてポンプ14を制御して消石灰スラリの添加量を調整し、晶析反応槽12のpHを制御してもよい。また、原水貯槽10にpHメータ36を設置して、フッ素含有原水のpHを計測してもよい。
【0035】
本実施形態においては、図1,2に示すように、晶析反応槽12の水面下に、筒内に撹拌装置20の撹拌翼22が位置するようにドラフトチューブ26を設置することが好ましい。このとき、撹拌翼22は下降流を形成するものであることが好ましい。このようにドラフトチューブ26を設置すると、チューブ下部に向けて下降流が生じ、拡散流速が比較的大きいゾーンが形成される。このため、原水や消石灰等をより素早く拡散させることができ、原水や消石灰の濃度が局所的に濃い領域同士が接触して、難溶性塩粒子の直接生成が生じることを極力抑制することが可能となる。
【0036】
また、上記のようにドラフトチューブ26および撹拌翼22を設置すると、チューブ外周部には流れのゆるやかな上向流ゾーンが形成される。このゾーンでは、粒子が分級されて小粒径の粒子はチューブ外側面に沿って上昇すると共に、チューブ上端からチューブ内部に再侵入して下降し、原水や消石灰等の注入点付近やその下部の撹拌ゾーンへと再循環する。これら小粒径の結晶が核となって晶析反応を促進せしめる。このため、粒径の大きな難溶性塩の結晶を安定的に形成せしめることが可能となり、フッ素の回収率を向上させることができる。
【0037】
さらに、晶析反応が進んで粒径が大きくなった結晶は、チューブ外周部の上向流によっては上昇せず、下に沈んで再びドラフトチューブ26内には入り込まないため、成長した結晶が撹拌翼22との衝突により破壊されてしまうことを防止することができる。このような利点も、粒径の大きな難溶性塩の結晶を安定的に得ることに寄与し、ひいてはフッ素の回収率の向上に寄与することができる。
【0038】
チューブ下部に撹拌流速の比較的大きいゾーンを形成し、チューブ外周部に上向流を安定的に形成するためには、撹拌翼22が、チューブ内でチューブ下半分の何処かに位置することが好ましい。より好ましくは、チューブ下端より少し上方の位置がよい。このような配置とすれば、撹拌流速の大きなゾーンがチューブ下端付近に渦のように形成され、さらにそこから上向流がチューブ外周部に沿って安定的に形成される。従って、原水や消石灰等の拡散や、粒子の分級を効果的に進めることできる。
【0039】
ドラフトチューブ26を設ける場合、原水や消石灰、さらには酸の注入点は、これらをドラフトチューブ26内の下降流に乗せて素早く効果的に拡散させるために、ドラフトチューブ26の筒内に配することが好ましい。より好ましい位置は、ドラフトチューブ26の筒内かつ撹拌翼22の上方である。
【0040】
本実施形態におけるフッ素含有原水は、晶析処理により除去されるフッ素を含むものであれば、如何なる由来の原水であっても良く、例えば、半導体関連産業をはじめとする電子産業、発電所、アルミニウム工業等から排出される原水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
晶析対象物質となるフッ素は、晶析反応により晶析するのであれば、任意の状態で原水中に存在することが可能である。原水中に溶解しているという観点から、晶析対象物質はイオン化した状態であるのが好ましい。晶析対象物質がイオン化した状態としては、例えば、F-等の原子がイオン化したもの、フッ素を含む化合物がイオン化したもの等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
フッ素を含む原水は、アルミの電解精錬工程、製綱工程等からも排出されるが、特に半導体工場において大量に排出される。半導体シリコンウェーハの洗浄等に濃厚フッ酸が用いられ、フッ素含有量が%オーダーの濃厚フッ酸廃液として排出される。このとき、アンモニアや過酸化水素、リン酸等も洗浄剤として用いられるため、それらを含む排水となることがある。また、半導体シリコンウェーハ上に残存するフッ酸の洗浄、パーフルオロ化合物(PFCs)分解後のガスに含まれるHFの洗浄等に大量の水が使用され、希薄系のフッ素含有原水としても排出される。本方法は、フッ酸(フッ化水素)を含む原水中からフッ素を除去するために特に好適に適用しうる。
【0043】
原水に含まれるフッ素の量は、特に限定されるものではないが、例えば、5000mg/L〜100000mg/Lの範囲、特に5000mg/L〜20000mg/Lの範囲である。
【0044】
本実施形態においては、晶析剤として消石灰が用いられるが、消石灰を添加する形態としては、粉末状態でもよいし、スラリ状態であってもよい。消石灰の添加の好ましい態様は、消石灰スラリとして添加する態様である。
【0045】
本明細書において、「消石灰スラリ」とは、消石灰の乾燥固体に水または水溶液を添加して形成されるスラリをいい、使用される水としては、蒸留水、精製水、水道水等任意のソースの水が可能であり、また、水溶液としては、前記水に、酸、アルカリ、これらの塩等任意の化合物が添加された水溶液が可能である。また、本明細書における「消石灰の乾燥固体」とは、前記消石灰スラリに対する概念を示すものであり、スラリを形成していない、粉体、顆粒、塊状物等の固体であれば良く、化合物としての無水物を意味するものではない。
【0046】
消石灰としては、任意のグレードの消石灰を使用することができ、特に限定されるものではない。消石灰スラリの濃度は特に限定されるものではなく、一般的に用いられる1重量%〜20重量%の範囲でよい。
【0047】
カルシウム注入量としては、化学当量としてフッ素の0.8倍〜2倍、1倍〜2倍までがよいが、1倍〜1.2倍がよりよい。カルシウムの化学当量が原水のフッ素の化学当量の2倍より多いとフッ化カルシウムが種晶上に析出せずに微粒子として生成しやすく、処理水にフッ化カルシウムが混入する場合があり、0.8倍より少ないと、原水中のフッ素のうちフッ化カルシウムとならない割合が多くなり、処理水にフッ素が混入する場合がある。
【0048】
添加する酸は特に限定されるものではないが、好ましくは、カルシウムと難溶性の塩を形成させる成分を含まない任意の酸であり、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられ、塩酸が好ましい。
【0049】
本実施形態においては、原水と消石灰とを晶析反応槽12に添加する前に、あらかじめ、晶析反応槽12に種晶が存在していてもよいし、あらかじめ晶析反応槽12内に種晶が存在していなくてもよい。安定した処理を行うためには、晶析反応槽12にあらかじめ種晶が存在していることが好ましい。晶析反応槽12に充填される種晶の充填量は、フッ素を晶析反応により除去できるのであれば特に限定されるものではなく、原水中のフッ素濃度、消石灰スラリの濃度、また、晶析反応装置1の運転条件等に応じて適宜設定される。
【0050】
種晶は、その表面に生成した難溶性塩の結晶を析出させることができるものであればよく、任意の材質が選択可能であり、例えば、ろ過砂、活性炭、およびジルコンサンド、ガーネットサンド、サクランダム(商品名、日本カートリット株式会社製)などをはじめとする金属元素の酸化物を含んで構成される粒子、ならびに、晶析反応による析出物である難溶性塩を含んで構成される粒子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。より純粋な難溶性塩をペレット等として入手できるという観点から、晶析反応による析出物である難溶性塩を含んで構成される粒子(フッ化カルシウムの場合は例えば蛍石)が好ましい。種晶の形状、粒径は、晶析反応槽12内の流速、フッ素および消石灰の濃度等に応じて適宜設定され、特に限定されるものではない。
【0051】
晶析反応槽12にあらかじめ種晶が充填されている場合は、例えば、原水へ消石灰を晶析反応槽12において添加し、晶析反応槽12内で、種晶上に難溶性塩を析出させてペレットを形成させ、フッ素が低減された処理水を生じさせる。これに対して、晶析反応槽12にあらかじめ種晶が存在していない場合には、原水へ消石灰を添加することにより晶析反応槽12内で析出する難溶性塩がペレットを形成し、成長することとなる。いずれの場合も、晶析反応槽12内の結晶がある程度大きく成長すると、晶析反応槽12内から一部の結晶を引抜く引抜操作と、引抜いた結晶よりも小粒径の種晶を新たに補充する補充操作を繰り返し行うことで、連続的に結晶を得るような方法が採用される。
【0052】
晶析反応槽12は、原水中のフッ素と消石灰とが反応して難溶性塩のフッ化カルシウムの結晶を析出させて、フッ素が低減された処理水を生じさせうる反応槽であればよく、長さ、内径、形状等については任意の態様が可能であり、特に限定されるものではない。
【0053】
晶析反応槽としては、図1のように晶析反応槽12に、撹拌翼22等を備える撹拌装置20を設置し、該撹拌装置20により晶析反応槽12内を撹拌してペレットを流動させる撹拌式の晶析反応槽が挙げられる。撹拌翼22は晶析反応槽12内で内容物を撹拌できるものであればよく、撹拌翼の設置態様、撹拌翼の大きさ等は特に限定されるものではない。
【0054】
また、撹拌式の晶析反応槽12としては、晶析反応槽12の周壁に対向させて内周壁を配置して、この内外周壁間を処理水排出路とし、難溶性塩粒子と処理水との分離能を向上させ、処理水中に難溶性塩粒子が流出するのを防止する分離ゾーンを有するものであってもよい。この態様においては、処理水排出路の上部に処理水排出配管34が接続されるような態様が好ましい。また、この処理水排出路には、ペレットの分離能を向上させるために、処理水排出路の入口部分に複数枚のじゃま板で構成したバッファ板や、複数枚の整流板で構成したバッファ板を位置させていてもよい。この態様の詳細は特開2005−230735号および特開2005−296888号に記載されており、これらの特許文献に記載される晶析反応槽も本実施形態において使用可能である。
【0055】
晶析反応槽12内または処理水中の溶解性のフッ素濃度を測定するために、フッ素濃度計等のフッ素濃度測定手段を晶析反応槽12または処理水排出配管34に設置してもよい。また、晶析反応槽12内または処理水中の溶解性カルシウム等のカルシウム濃度を測定するために、カルシウム濃度計等のカルシウム濃度測定手段を晶析反応槽12または処理水排出配管34に設置してもよい。晶析反応槽12内でのフッ素濃度計、カルシウム濃度計等の設置位置は特に限定されるものではないが、例えば、処理水中の濃度を測定する場合には、晶析反応槽12の出口付近に設置することができる。
【0056】
晶析反応槽12において晶析反応により生じるフッ素が低減された処理水は晶析反応槽12の外部に排出される。処理水は、晶析反応槽12における液体の流れに従って任意の部分から排出されうる。図1では、晶析反応槽12の上部から排出される処理水は、処理水排出配管34を通って最終的に系外に排出される。晶析反応槽12の後段に処理水貯留槽を設置してもよい。
【0057】
得られる処理水において、例えばフッ素濃度は、フッ化カルシウム等の非溶解性フッ素を含む全フッ素として通常500mg−F/L以下、溶解性のフッ素イオンとして通常50mg−F/L以下程度である。カルシウム濃度は、pH2〜3で、溶解性のカルシウムイオンとして通常50mg−Ca/L程度であるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
原水を処理して得られた処理水をさらに沈殿槽において処理してもよい。沈殿槽においては、例えば、pHを3〜12、好ましくは4〜11とすることでフッ化カルシウムを生成させて、フッ素を沈殿除去することにより、さらにフッ素濃度が低減された処理水を得ることができる。
【0059】
本実施形態に係る晶析反応装置および晶析反応方法により、晶析反応槽12内で難溶性塩のフッ化カルシウムの結晶を析出させることにより、原水中のフッ素が難溶性塩の結晶として回収され、フッ素が低減された処理水が生じる。本実施形態においては、フッ素の回収率(1−(処理水中のフッ素量/原水中のフッ素量))として、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上を達成できる。
【0060】
図5は、本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。図5に示す晶析反応装置7において、図1に示す晶析反応装置1と同様の構成については同一の符合を付している。図5に示すように、晶析反応装置7は、原水貯槽10と、カルシウム剤貯槽11と、晶析反応槽12と、を備える。
【0061】
図5の晶析反応装置7において、晶析反応槽12には、原水貯槽10からの原水添加配管32が原水添加手段であるポンプ18を介して接続されており、カルシウム剤貯槽11からのカルシウム剤添加配管29がカルシウム剤添加手段であるポンプ15を介して接続されており、pH調整剤添加配管38が接続されている。また、原水貯槽10及びカルシウム剤貯槽11には、酸添加配管30a,30bが酸添加手段であるポンプ16a,16bを介して接続されている。なお、酸は、ポンプ16a,16bから酸添加配管30a,30bを通して晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水、カルシウム剤に供給されればよいため、酸添加配管30a,30bは、原水貯槽10、カルシウム剤貯槽11に必ずしも接続される必要はなく、原水添加配管32、カルシウム剤添加配管29に接続されていてもよい。
【0062】
晶析反応槽12には、晶析反応槽12の周壁に対向する内周壁が設置されている。そして、周壁と内周壁との間を処理水排出路40とし、処理水排出路40には、処理水排出配管34が接続されている。この処理水排出路40は、上記でも説明したようにフッ化カルシウムの結晶と処理水との分離能を向上させ、処理水中にフッ化カルシウムの結晶が流出するのを防止するために設けられるものであって、必ずしも必要ではない。また、晶析反応槽12の底部には、晶析排出管42が接続されており、晶析排出管42から晶析反応により生成したフッ化カルシウムの結晶が排出される。また、晶析反応槽12内には、ドラフトチューブ26、pH測定手段であるpHメータ24が設置されており、ドラフトチューブ26内には、モータ及び晶析反応槽12内の流体を撹拌する撹拌翼22を備える撹拌手段である撹拌装置20が設置されている。
【0063】
次に、本実施形態に係る晶析反応方法及び晶析反応装置の動作について説明する。
【0064】
酸がポンプ16a,16bにより酸添加配管30a,30bを通して、原水貯槽10、カルシウム剤貯槽11に供給される(酸添加工程)。次に、酸が添加されたフッ素含有原水が、原水貯槽10からポンプ18により原水添加配管32を通して晶析反応槽12に添加される。また、酸が添加されたカルシウム剤が、カルシウム剤貯槽11からポンプ15によりカルシウム剤添加配管29を通して晶析反応槽12に添加される。そして、晶析反応槽12では、フッ素含有原水とカルシウム剤とが撹拌装置20により撹拌されながら、原水に含まれるフッ素と、カルシウム剤とが反応して、フッ化カルシウムの結晶が生成される(晶析反応工程)。そして、晶析反応により生成したフッ化カルシウムの結晶は、晶析排出管42から排出される。また、晶析反応によりフッ素が低減された処理水は、処理水排出路40を通り、処理水排出配管34から晶析反応槽12の外部に排出される。
【0065】
本実施形態では、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤に酸を添加し、フッ素含有原水及びカルシウム剤のpHを低下させている。ここで、上記でも説明したようにフッ素含有原水には、アンモニアを含有しているものがあり、その中でも、アンモニアを高濃度に含有するバッファードフッ酸等がある。このバッファードフッ酸(原水)のpHは4〜7であることが多い。また、バッファードフッ酸中のアンモニアを回収するために苛性ソーダ等が添加され、pH12以上の強アルカリ性の状態となったフッ素含有原水もある。このように、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水のpHが4以上である場合には、原水のpHが4未満に、好ましくは2未満になるように酸を添加する。但し、フッ素含有原水が、フッ酸等の弱酸(pH2.7〜3.0)である場合、すなわち、晶析反応槽12に供給される前からフッ素含有原水のpHが4未満である場合でも、フッ素含有原水のpHが低下するように酸を添加すると、フッ素の回収率を向上させることができ、より有効な効果が得られる。
【0066】
また、晶析反応に用いられるカルシウム剤は、pH5〜7程度の塩化カルシウム、pH12以上の消石灰スラリ等が一般的であり、pH4以上のものがほとんどであるが、いずれにしろ上記同様に、晶析反応に用いられるカルシウム剤(晶析反応槽12に供給される前のカルシウム剤)がpH4以上である場合には、pHが4未満、好ましくは2未満になるように酸を添加し、晶析反応に用いられるカルシウム剤のpHが4未満である場合でも、カルシウム剤のpHが低下するように酸を添加する。
【0067】
このように、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤に酸を添加し、pHを低下させてから(原水、カルシウム剤のpHが4以上の場合には、pHを4未満としてから)、酸を添加したフッ素含有原水及びカルシウム剤を晶析反応槽12に供給することにより、酸、フッ素含有原水及びカルシウム剤を別々に晶析反応槽12に供給するよりも、フッ化カルシウムの溶解度が高くなり、カルシウム剤とフッ素との急激な反応による微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる。その結果、晶析反応による粒径の大きなフッ化カルシウムの結晶を安定的に形成せしめることが可能となると共に、処理水に混入する微細なフッ化カルシウムの量を極めて少なくすることができるため、フッ素の回収率を大きく向上させることができる。
【0068】
本実施形態では、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤のうち少なくともいずれか一方に酸を添加し、フッ素含有原水及びカルシウム剤のうち少なくともいずれか一方のpHを低下させればよいが、フッ素含有原水及びカルシウム剤の両方のpHを4未満とするのが好ましく、中でもフッ素含有原水のpHをできるだけ低くする方がより好ましい。
【0069】
酸をフッ素含有原水に添加した場合、該原水の晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われることが好ましい。また、酸をカルシウム剤に添加した場合、該カルシウム剤の晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われることが好ましい。さらに、酸をフッ素含有原水及びカルシウム剤の両方に添加した場合、該原水及びカルシウム剤の晶析反応槽12への添加は、撹拌翼22の近傍に行われることが好ましい。このように酸を添加したフッ素含有原水、カルシウム剤を撹拌翼22の近傍に添加し、晶析反応槽12内に素早く拡散させることにより、カルシウム剤とフッ素との急激な反応を抑制し、微細なフッ化カルシウムの生成を低減できる。
【0070】
図6は、本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。図6に示す晶析反応装置8において、pHメータ24とポンプ16bとは、電気的に接続されており、pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpH(すなわち、晶析反応槽12内の反応液のpH)に基づいてポンプ16bを制御し、カルシウム剤に添加する酸の添加量を制御してもよい。
【0071】
図7は、本発明の実施形態に係る晶析反応装置の他の例を示す概略構成図である。図7に示す晶析反応装置9において、pHメータ24とポンプ16aとは、電気的に接続されており、pHメータ24により計測される晶析反応槽12のpH(すなわち、晶析反応槽12内の反応液のpH)に基づいてポンプ16aを制御して、フッ素含有原水に添加する酸の添加量を制御してもよい。
【0072】
ここで、晶析反応槽12のpHが、好ましくは0.8〜3の範囲、より好ましくは1〜2.3の範囲となるように、フッ素含有原水、カルシウム剤に添加する酸の添加量を制御する。晶析反応槽12内の晶析反応液のpHが0.8未満であると、原水中のフッ素のうち、フッ化カルシウムとならない割合が多くなり、処理水中に溶解性フッ素が多く存在することとなって、フッ素の回収率が低下する場合があり、pHが3を超えると、フッ化カルシウムとフッ素との急激な反応により微細なフッ化カルシウムが多く生成する場合がある。
【0073】
なお、フッ素含有原水、カルシウム剤に添加する酸の添加量を制御すると共に、pH調整剤添加配管38から供給するpH調整剤の供給量を制御することにより、晶析反応槽12のpHの調整を行ってもよい。
【0074】
図5〜図7において説明した晶析反応装置は、晶析反応槽12に供給される前のフッ素含有原水及びカルシウム剤のうち少なくともいずれか一方に酸を添加し、原水及びカルシウム剤のうちの少なくともいずれか一方のpHを低下させることを要旨とするものであって、その要旨を超えなければ、いかなる技術及び条件、例えば、上記図1〜4において説明した晶析反応装置の技術及び条件を採用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(参考例1〜3、実施例1)
下記条件で、消石灰および酸の添加位置、晶析反応槽のpHの条件を変化させて実験を行い、処理水のフッ素濃度を比較した。実験結果を表1に示す。参考例1,2では、消石灰添加配管および酸添加配管の注入点を、図1のように晶析反応槽の撹拌翼近傍(撹拌翼の回転中心に対して100mm高い位置で、かつ撹拌翼の回転中心から回転径方向へ120mmの位置(撹拌翼の回転中心からの距離が回転半径の1.6倍))に設置した。晶析反応槽内の晶析反応液のpHを、実施例1では2.5±0.2に、参考例2では1.5±0.2に制御した。参考例3では、消石灰添加配管の注入点を実施例1,2と同様にして、酸を図3のように消石灰添加配管に添加した。実施例1では、消石灰添加配管の注入点を実施例1,2と同様にして、酸を図4のように原水貯槽に添加した。
【0077】
また、使用したドラフトチューブは直径が250mmで、上端が水面から150mm、下端が撹拌翼下150mmに位置するように設置した。なお、ここでいう処理水フッ素濃度は、SS性のフッ素(=フッ化カルシウム)と溶解性のフッ素を含む全フッ素濃度である。
【0078】
<実験条件>
晶析反応槽容量:150L(500mmφ×1200mmH)
フッ素含有原水のフッ素濃度:10000mg/L
フッ素含有原水流量:50L/hr
消石灰スラリ濃度:10重量%
酸:塩酸(5重量%)
撹拌翼直径:200mm
【0079】
(比較例1〜3)
比較例1では、酸を添加せずに、消石灰添加配管の注入点を、晶析反応槽の水面付近((晶析反応槽の水面から50mm下の位置で、かつ撹拌翼の回転中心から回転径方向へ220mmの位置(撹拌翼の回転中心からの距離が回転半径の6.4倍))に設置した。比較例2では、酸を添加せずに、消石灰添加配管の注入点を実施例1と同様にして添加した。比較例3では、消石灰添加配管の注入点を比較例1と同様にして、酸添加配管の注入点を実施例1と同様にして添加した。それ以外は、実施例1と同じ条件で実験を行い、処理水のフッ素濃度を比較した。なお、比較例1,2ではpHの調整は行っていない。実験結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
このように、参考例1〜3、実施例1では、酸を添加して、撹拌翼により撹拌しながら、原水に消石灰を撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させることにより、処理水のフッ素濃度を低減することができた。また、従来のカルシウム剤として塩化カルシウムを用いる方法、消石灰を酸に溶かして塩化カルシウムにしてから晶析反応槽に注入する方法に比べて、酸、アルカリの使用量が低減し、処理に要するコストが低減した。
【0082】
(実施例2,3)
実施例2では、図5に示す晶析反応装置を用い、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加して、フッ素含有原水のpHを変化させて実験を行い、処理水のフッ素濃度を測定した。なお、実施例2では、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウム(カルシウム剤)のpHを7.0又は1.5に一定に制御した。実施例3では、図5に示す晶析反応装置を用い、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウムに酸を添加して、塩化カルシウムのpHを変化させて実験を行い、処理水のフッ素濃度を測定した。なお、実施例3では、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水のpHを7.0、2.7又は1.5に制御した。実施例2及び3におけるその他の実験条件を下記に示す。
【0083】
<実験条件>
晶析反応槽容量:150L(500mmφ×1200mmH)
フッ素含有原水のフッ素濃度:10000mg/L
フッ素含有原水流量:30L/hr
塩化カルシウム濃度:10重量%
酸:塩酸(35重量%)
晶析反応槽pH:2.0〜2.3
【0084】
図8は、実施例2におけるフッ素含有原水のpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図であり、図9は、実施例3における塩化カルシウムのpHと処理水のフッ素濃度との関係を示す図である。図8から判るように、実施例2では、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加してpHを4未満にすることにより、処理水のフッ素濃度を低減させることができた。また、図9から判るように、実施例3では、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウムに酸を添加してpHを4未満にすることにより、処理水のフッ素濃度を低減させることができた。特に、晶析反応槽に添加する前の塩化カルシウム(カルシウム剤)に酸を添加してpH4未満にするより、晶析反応槽に添加する前のフッ素含有原水に酸を添加してpHを4未満にする方が、処理水のフッ素濃度の低減効果が大きいことが判った。
【符号の説明】
【0085】
1,7,8,9 晶析反応装置、10 原水貯槽、11 カルシウム剤貯槽、12 晶析反応槽、14,15,16,16a,16b,18 ポンプ、20 撹拌装置、22 撹拌翼、24,36 pHメータ、26 ドラフトチューブ、28 消石灰添加配管、29 カルシウム剤添加配管、30,30a,30b 酸添加配管、32 原水添加配管、34 処理水排出配管、38 pH調整剤添加配管、40 処理水排出路、42 晶析排出管。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置であって、
撹拌翼を有する撹拌手段を備え、前記原水に前記消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させるための晶析反応槽と、
前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加する消石灰添加手段と、
酸を添加する酸添加手段と、を有し、
前記酸添加手段は、前記晶析反応槽に添加する前の原水に、前記酸を添加することを特徴とする晶析反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の晶析反応装置であって、
前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応槽のpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することを特徴とする晶析反応装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の晶析反応装置であって、
前記晶析反応槽のpHが、0.8〜3の範囲であることを特徴とする晶析反応装置。
【請求項4】
フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応方法であって、
撹拌翼により撹拌しながら、前記原水に前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応工程と、
酸を添加する酸添加工程と、を含み、
前記酸添加工程において、前記晶析反応工程で添加する前の原水に、前記酸を添加することを特徴とする晶析反応方法。
【請求項5】
請求項4に記載の晶析反応方法であって、
前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応工程におけるpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することを特徴とする晶析反応方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の晶析反応方法であって、
前記晶析反応工程におけるpHが、0.8〜3の範囲であることを特徴とする晶析反応方法。
【請求項1】
フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応装置であって、
撹拌翼を有する撹拌手段を備え、前記原水に前記消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させるための晶析反応槽と、
前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加する消石灰添加手段と、
酸を添加する酸添加手段と、を有し、
前記酸添加手段は、前記晶析反応槽に添加する前の原水に、前記酸を添加することを特徴とする晶析反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の晶析反応装置であって、
前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応槽のpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することを特徴とする晶析反応装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の晶析反応装置であって、
前記晶析反応槽のpHが、0.8〜3の範囲であることを特徴とする晶析反応装置。
【請求項4】
フッ素を含む原水に消石灰を添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応方法であって、
撹拌翼により撹拌しながら、前記原水に前記消石灰を前記撹拌翼の近傍に添加してフッ化カルシウムの結晶を生成させる晶析反応工程と、
酸を添加する酸添加工程と、を含み、
前記酸添加工程において、前記晶析反応工程で添加する前の原水に、前記酸を添加することを特徴とする晶析反応方法。
【請求項5】
請求項4に記載の晶析反応方法であって、
前記原水に前記酸を所定の量で添加し、前記晶析反応工程におけるpHに基づいて前記消石灰の注入量を制御することを特徴とする晶析反応方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の晶析反応方法であって、
前記晶析反応工程におけるpHが、0.8〜3の範囲であることを特徴とする晶析反応方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2012−210629(P2012−210629A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134923(P2012−134923)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2008−238196(P2008−238196)の分割
【原出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2008−238196(P2008−238196)の分割
【原出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】
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