説明

晶析装置及び晶析方法

【課題】結晶種循環用のドラフト管が反応晶析槽内に設けられている晶析装置及び晶析方法において、ドラフト管内に結晶種を多量に存在させ、ドラフト管内でも十分な晶析反応を進行させることを目的とする。
【解決手段】処理水槽4からの処理水で希釈されたリン含有排水が導入口11から反応晶析槽1内に導入される。攪拌機14を作動させて、プロペラ式攪拌翼14aを回転させることにより、ドラフト管13内に下降流を形成する。このドラフト管13は、その上端が流動床1aの界面よりも下位となっているので、ドラフト管13内に下降流が形成されることにより、ドラフト管13の外周囲の流動床1aがドラフト管13の上端を乗り越えてオーバーフローする如くドラフト管13内に流入する。反応晶析槽1内の流動床1aは、ドラフト管13内で下降し、ドラフト管13の外周囲で上昇する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動床方式の反応晶析槽を用いた晶析装置及び晶析方法に関するものであり、特に反応晶析槽内に上下方向にドラフト管を設置し、ドラフト管内外で結晶種を循環させるようにした晶析装置及び晶析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、し尿処理場や工場の排水処理施設からの排水には、リンや場合によってはフッ素、重金属等が含まれており、これらを効率よく除去することが求められている。そして、これらの除去技術として、晶析装置及び晶析方法が開発されている。
【0003】
晶析脱リン装置として、反応晶析槽内にリン含有水を導入し、反応晶析槽内に結晶種の流動床を形成させながらリン含有水を上向流通水させて、リン含有水中のリンと結晶種とを接触させ、リン含有水中のリンを結晶種の表面に析出させて脱リンするよう構成されたものが知られている。
【0004】
本出願人は、反応晶析槽内にリン含有水を導入して、リン含有水中のリンと前記結晶種とを接触させて、リン含有水中のリンをリン酸カルシウム化合物として分離するに際し、反応晶析槽内にドラフト管を設置し、リン含有水を反応晶析槽内で循環させるようにした晶析脱リン方法及び装置を特開2003−305481号にて提案している。このようにリン含有水を反応晶析槽で循環させると、反応晶析槽での結晶種とリン含有水との接触頻度が高くなり、結晶種表面への析出が促進され、脱リン効率が向上する。
【特許文献1】特開2003−305481号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特開2003−305481号の晶析脱リン装置にあっては、ドラフト管は、その上端が反応晶析槽内の流動床よりも上位に位置するように設けられている。反応晶析槽内の液は、このドラフト管内で下降流となり、ドラフト管の外周囲で上向流となるように循環される。
【0006】
この晶析脱リン装置にあっては、ドラフト管外周囲の流動床から上方に飛び出した結晶種がドラフト管上端を回り込んでドラフト管内に流入するが、ドラフト管外周囲に形成されている流動床がオーバーフロー状に直接的にドラフト管内に流れ込むことはない。このため、上記特開2003−305481号では、ドラフト管内の結晶種が少ないものとなり、ドラフト管内における結晶種とリンとの接触効率が低下し、脱リン効率が十分には高くならない。
【0007】
なお、この特開2003−305481号において、ドラフト管外周囲における水の上向流速を増大させ、流動床から上方に飛び出してドラフト管内に入り込む結晶種の量を増加させることが考えられるが、このようにするとドラフト管外周囲における流動床の展開率が増大し、流動床内の単位体積当りの結晶種の存在量(結晶種密度)が減少し、反応効率が悪くなる。また、反応晶析槽から流失する結晶種の量も増加する。
【0008】
本発明は、結晶種循環用のドラフト管が反応晶析槽内に設けられている晶析脱リン方法及び装置において、ドラフト管内に結晶種を多量に存在させ、ドラフト管内でも十分な脱リン反応を進行させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の晶析装置は、結晶種の流動床が形成された反応晶析槽と、該反応晶析槽内に上下方向に設置されたドラフト管と、該ドラフト管内の結晶種を該ドラフト管の下部又は上部からドラフト管外周囲に向って移動させる移動手段とを有する晶析装置において、該ドラフト管は、その上端が該流動床の界面よりも下位となるように設置されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の晶析装置は、請求項1において、前記ドラフト管の上端と流動床の界面との距離が30〜200cmであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の晶析装置は、請求項1又は2において、前記移動手段は、前記ドラフト管内に配置され、回転により該ドラフト管内に下降流を形成される翼体を有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の晶析方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の晶析装置の反応晶析槽内にリン含有水を導入し、リン含有水中のリンと前記結晶種とを接触させて、リン含有水中のリンをリン酸カルシウム化合物として分離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の晶析装置及び晶析方法では、リン等の晶析対象成分含有水は反応晶析槽内に導入され、該反応晶析槽内で流動している結晶種と接触する。この結晶種の表面にリン等の晶析対象成分が析出することにより晶析対象成分が分離される。
【0014】
本発明においても、前記特開2003−305481号と同様に、該反応晶析槽内にドラフト管が設置され、このドラフト管の内部で下降流を形成する。
【0015】
本発明では、このドラフト管は、その全体が流動床内に埋設しているので、ドラフト管外周囲に形成されている流動床の結晶種がドラフト管の上端をオーバーフロー状に乗り越えてドラフト管内に流入する。このため、ドラフト管内においても結晶種が十分に多量に存在し、リン等の晶析対象成分含有水と結晶種とが十分に接触し、効率よく晶析反応が進行する。
【0016】
また、ドラフト管外周囲において、上向流速を高めなくても、流動床がドラフト管内にスムーズに流れ込むので、ドラフト管外周囲の流動床の展開率を小さくし、流動床の結晶種密度を高めることができる。これによっても晶析効率が向上する。
【0017】
本発明では、このドラフト管外周囲での上向流速を増大させないことにより、流動床からの結晶種の飛び出しが防止されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態では本発明の代表的な対象であるリン含有水の処理について説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、フッ素や重金属などの処理にも適用できる。
【0019】
図1は実施の形態に係る晶析脱リン装置の系統図、図2は図1の晶析脱リン装置の反応晶析槽の拡大図である。
【0020】
原水ピット2内に貯溜された下水処理水等のリン含有排水(リン濃度(PO−Pとして)は通常は1〜10mg/L)が、原水ポンプ2aで抜き出され、配管2bを介して流動床式の反応晶析槽1に供給される。また、既に反応晶析槽1でリンを分離されて処理水槽4に貯溜された処理水が、ポンプ4a及び配管4bを介して配管2bに供給され、前記ピット2からのリン含有排水が希釈されて反応晶析槽1に供給される。
【0021】
石灰乳タンク3内に貯蔵された石灰乳(消石灰の分散液)は、ポンプ3a、配管3b,3c及びバルブ3dを介して循環され、該タンク3内の消石灰濃度が均一に維持されている。配管3b,3cの結合部から配管3eが分岐し、この配管3eにバルブ3fを介して配管3gが接続されている。バルブ3fを開とすることにより、配管3b,3e,3gを介して反応晶析槽1に石灰乳が供給される。この配管3gは、後述のドラフト管13の上方付近まで延設されており、該配管3gから反応晶析槽1内に導入された石灰乳が、反応晶析槽1内を循環するリン含有水の水流に乗るよう構成されている。これにより、反応晶析槽1内の全体に消石灰を速やかに分散させることができる。
【0022】
なお、配管3gに対し処理水槽4から配管4c、ポンプ4d及び配管4eを介して処理水が導入され、これにより、配管3g内で石灰乳が5〜25倍に希釈される。石灰乳は、流動床式の反応晶析槽1の流動床1aのpHが6〜12、好ましくは9.5〜10.5、処理水のCaイオン濃度が20〜100mg/L、好ましくは40〜60mg/Lとなるように自動制御されて供給される。
【0023】
反応晶析槽1の底部には、処理水で希釈されたリン含有水の導入口11が設けられている。反応晶析槽1内の下部には分散板(ディストリビュータ)1cが設置され、その上側に結晶種の流動床1aが形成される。この結晶種としては、粒径0.1〜1mm特に0.15〜0.5mm程度の骨炭、リン酸カルシウム、リン鉱石などの天然鉱石や人工的に調整した脱リン材を用いることができる。なお、結晶種の粒径が0.1mm未満では粉砕コストが高くなり、逆に、粒径が1mm以上では晶析反応速度が遅くなるおそれがある。
【0024】
反応晶析槽1内には、反応晶析槽1よりも径の小さな略円筒状のドラフト管13が設けられている。ドラフト管13の断面積は、反応晶析槽1の断面積の1/50〜1/2、特に1/25〜1/4程度とすることが好ましい。
【0025】
このドラフト管13は、管軸方向を鉛直方向とし、その全体が流動床1aに埋設するように設置されている。ドラフト管13の上端と流動床1aの界面との距離(高低差)Hは30〜200cm特に50〜100cm程度が好適である。また、ドラフト管13の下端は、前記分散板1cから30〜100cm特に40〜60cm程度上方に配置されるのが好ましい。なお、ドラフト管13の上端は、反応晶析槽内を静置し、結晶種が静止している状態での結晶種充填層の上部よりも上位に位置するのが好ましい。
【0026】
このドラフト管13内には、ドラフト管13内に下降流を形成するために、攪拌機14のプロペラ式攪拌翼14aが配置されている。
【0027】
反応晶析槽1の上部には、脱リン処理水の流出口12が設けられている。この流出口12は、流動床1aからの結晶種の流失を防止するために、流動床1aの界面よりも30cm以上例えば30〜150cm特に50〜100cm程度上方に配置されることが好ましい。
【0028】
このように構成された晶析脱リン装置では、処理水槽4からの処理水で希釈されたリン含有排水が導入口11から反応晶析槽1内に導入される。この反応晶析槽1内に導入されるリン含有排水の流量は、撹拌機14を作動させない状態においても流動床1aの展開率が30〜150%となるようにすることが好ましい。このようにして反応晶析槽1内に導入されたリン含有排水は、分散板1cを通過し、反応晶析槽1内を好ましくは10〜20m/hrの線速度LVで上昇し、結晶種を流動化させて流動床1aを形成する。そして、結晶種とリン含有排水とが接触し、結晶種表面にリン酸カルシウムが析出する。
【0029】
なお、ここで線速度LVは、反応晶析槽1内に導入されるリン含有排水(配管2bを介して供給される原水と配管4bを介して供給される処理水との合計)を反応晶析槽1の断面積で除したものである。
【0030】
このように撹拌機14を作動させない状態においても十分に流動床1aが形成されるような上向流を与えることによって、撹拌機1の動力が小さくても流動床1aを十分に撹拌混合することが可能となる。
【0031】
この晶析脱リン装置では、攪拌機14を作動させて、プロペラ式攪拌翼14aを回転させることにより、ドラフト管13内に下降流を形成する。このドラフト管13は、その上端が流動床1aの界面よりも下位となっているので、ドラフト管13内に下降流が形成されることにより、ドラフト管13の外周囲の流動床1aがドラフト管13の上端を乗り越えてオーバーフローする如くドラフト管13内に流入する。この結果、反応晶析槽1内の流動床1aは、ドラフト管13内で下降し、ドラフト管13の外周囲で上昇するという上下方向の循環を行うようになる。特に、ドラフト管13の上端と流動床1aの界面との距離Hを30cm以上と大きくすることにより、ドラフト管13直近付近だけでなく、流動床1aの界面付近の全体にドラフト管13に向う求心方向の流れが形成され、流動床1aの全体が万遍なく循環するようになる。なお、撹拌機14を作動させた状態においても、流動床1aの展開率は30〜150%となるようにすることが好ましい。
【0032】
このようにして、この実施の形態では、ドラフト管13の外周囲だけでなくドラフト管13内にも結晶種が十分に存在するようになり、反応晶析槽内の流動床1aの界面以下の全域において結晶種とリン含有排水とが接触する。しかも流動床1aの全体がドラフト管13を通って上下方向に循環して万遍なく攪拌混合される。この結果、脱リン反応が流動床1aの全域において極めて効率よく進行し、リン濃度の低い処理水を得ることが可能となる。
【0033】
流動床1aを上方に通り抜けた水は、処理水として配管1bから処理水槽4へ抜き出され、その一部はピット2からのリン含有水やタンク3からの石灰乳の希釈に用いられ、残部は系外に取り出される。
【0034】
この実施の形態では、上記の通り、流動床1aの全体においてドラフト管13を通した結晶種の上下方向の循環運転が生じるので、流動床1aの上向流速を大きくすることなく、流動床1aが十分に攪拌混合される。このため、結晶種の展開率を低くし、流動床1a内の結晶種密度を高くすることができ、これによっても脱リン効率が向上する。このように流動床1aの展開率を低くすることにより、動力コストも低減されると共に、流動床の界面が安定化し、結晶種の流失も防止される。
【0035】
なお、この実施の形態では、ドラフト管13内における下向きの流量を、流入口11からの流入水量の2倍以上特に4〜10倍とすることが好ましい。
【0036】
上記実施の形態ではピット2からの原水を処理水の一部で希釈しているが、ピット2からの原水を、希釈することなくそのまま反応晶析槽1に導入してもよい。
【0037】
上記実施の形態ではドラフト管13を1本だけ設置しているが、2本以上設置してもよい。ただし、反応晶析槽1の直径が3m以下の場合は、ドラフト管を1本設置するだけで十分である。
【0038】
上記実施の形態ではプロペラ翼式の攪拌機14を設置しているが、水中ミキサなど結晶種を破砕しにくい構造のものであれば、他方式のものを用いてもよい。
【0039】
また、撹拌翼は高速で回転させると結晶種を破砕する恐れがあるため、撹拌機の回転数は低回転数であることが好ましく、具体的には翼周速が300m/min以下、特に200m/min以下であることが好ましい。
【0040】
上記実施の形態では反応晶析槽1に石灰乳を添加しているが、塩化カルシウム等を添加してもよい。ただし、Ca(OH)はカルシウムイオン供給源だけでなくpH調整用アルカリ剤としても使用できるので、石灰乳を用いるのが好ましい。
【0041】
上記実施の形態では、反応晶析槽1の側壁の上部に単に流出口12を設けているが、反応晶析槽1内のリン含有水の流動床1aの界面と流出口12との間に整流板を設けて、反応晶析槽1から結晶種が流出するのを防止するようにしてもよい。結晶種表面が微生物により著しく汚染される場合には、次亜塩素酸ソーダを数ppm添加し、又は、オゾン処理して汚染を除去した後に、反応晶析槽1内に導入してもよい。ドラフト管13の形状は円筒形が好適であるが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態に係る晶析脱リン装置の系統図である。
【図2】図1の晶析脱リン装置の反応晶析槽の拡大図である。
【符号の説明】
【0043】
1 反応晶析槽
1a 流動床
1c 分散板(ディストリビュータ)
4 処理水槽
13 ドラフト管
14 攪拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶種の流動床が形成された反応晶析槽と、
該反応晶析槽内に上下方向に設置されたドラフト管と、
該ドラフト管内の結晶種を該ドラフト管の下部又は上部からドラフト管外周囲に向って移動させる移動手段と
を有する晶析装置において、
該ドラフト管は、その上端が該流動床の界面よりも下位となるように設置されていることを特徴とする晶析装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ドラフト管の上端と流動床の界面との距離が30〜200cmであることを特徴とする晶析装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記移動手段は、前記ドラフト管内に配置され、回転により該ドラフト管内に下降流を形成される翼体を有することを特徴とする晶析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の晶析装置の反応晶析槽内にリン含有水を導入し、リン含有水中のリンと前記結晶種とを接触させて、リン含有水中のリンをリン酸カルシウム化合物として分離することを特徴とする晶析方法。

【図1】
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【図2】
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