説明

曲げ加工性及び陽極酸化処理後の光輝性に優れたアルミニウム合金ならびにその押出形材

【課題】曲げ加工時に割れやオレンジピールの発生を抑え、陽極酸化処理後の光輝性に優れたアルミニウム合金及びその押出形材の提供を目的とする。
【解決手段】MgSiの化学量論組成としてのMgSi成分0.10〜0.50質量%と過剰Si量を0.50〜0.90質量%を含有するとともに、Cu成分0.10〜0.60質量%、Mn成分0.10〜0.40質量%、Ti成分0.005〜0.1質量%を含有し、Fe成分0.05質量%以下、Cr成分0.10質量%以下、Zr成分0.10質量%以下で残部がアルミニウムと不可避的不純物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工性及び外観意匠性が要求される分野に適したアルミニウム基合金及びその押出形材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量合金として住宅建材や自動車部品等幅広く採用されている。
近年、住宅分野あるいは自動車分野においてデザインの多様化に伴い押出形材を用いて製品化する際に、要求される製品形状に合わせた強い曲げ加工が必要になり、外観は高い光輝性が要求されている。
JIS6000系アルミニウム合金を用いて押出成形すると押出形材は表面部が一般的に粒状の再結晶組織になる。
この再結晶組織の結晶粒径が大きいと曲げ加工時に金属表面にオレンジの皮のような肌荒れのオレンジピールが発生しやすく、曲げ加工を施していない直線部分と表面性状が異なり外観品質が低下する。
そこでオレンジピールを消すために機械的なバフ研磨処理を施す場合が多く、製造コストアップの要因となっている。
また、曲げ加工が強いと曲げR外周部に割れや亀裂が発生しやすい問題もあった。
特に、防錆処理として陽極酸化処理を施す場合にアルミニウム合金中の添加成分に寄因して酸化皮膜に曇りが発生しやすく、再結晶粒の微細化元素の添加に制限があった。
特許文献1には、陽極酸化処理後の光輝性及び曲げ加工部の表面性状に優れたアルミニウム合金を開示するが強い曲げ加工の場合には材料に割れが生じる場合があった。
【0003】
【特許文献1】特許第3690623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、曲げ加工時に割れやオレンジピールの発生を抑え、陽極酸化処理後の光輝性に優れたアルミニウム合金及びその押出形材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に係る曲げ加工性及び陽極酸化処理後の光輝性に優れたアルミニウム合金は、MgSiの化学量論組成としてのMgSi成分0.10〜0.50質量%と過剰Si量を0.50〜0.90質量%を含有するとともに、Cu成分0.10〜0.60質量%、Mn成分0.10〜0.40質量%、Ti成分0.005〜0.1質量%を含有し、Fe成分0.05質量%以下、Cr成分0.10質量%以下、Zr成分0.10質量%以下で残部がアルミニウムと不可避的不純物であることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載に係る曲げ加工性及び陽極酸化処理後の光輝性に優れた押出形材は請求項1記載のアルミニウム合金を用いて製造した押出形材であって、再結晶粒は平均粒径が100μm以下であることを特徴とする。
【0007】
アルミニウム合金の押出形材を用いて要求される製品形状に合わせて曲げ加工を施し、その後に化学研磨処理、電解研磨処理等の光輝処理を行い、次に防錆目的に陽極酸化をする製造工程を採用した場合に、第1に曲げ加工時に曲げ外側に割れや亀裂が生じにくい材料が要求される。
第2に曲げ加工により材料表面に発生しやすいオレンジピールの発生を抑制できる表面性状に優れた押出形材が望ましい。
オレンジピールが大きいと、バフ研磨等の機械研磨が必要になり、製造コストが高くなる。
第3に外観意匠として光輝性が要求される場合には、陽極酸化処理にて形成される酸化皮膜に曇りが少なく、光沢低下が少ない材料が要求される。
しかし、陽極酸化皮膜はアルミニウム合金中に添加成分が多い程、その添加成分が酸化皮膜中に残りやすく曇りが生じやすいのに対して、曲げ加工時にオレンジピールの発生を抑えるには再結晶粒の微細化成分が必要となり、強度を確保するには析出成分が必要となるために強度、曲げ加工性、曲げ加工時の表面品質、陽極酸化処理後の光輝性はそれぞれ相反関係にある。
本発明はこれらの品質の両立を図るべく、精意検討した結果、完成に至ったものである。
【0008】
次にアルミニウム合金の成分範囲を設定した理由を説明する。
(Mg及びSi成分)
アルミニウム合金中のSi成分は陽極酸化処理後の光輝性を低下させる要因となるが6000系合金においては、MgSiの金属間化合物の析出にて強度の向上を図ることになるために、Mgとともに必要な成分であり、MgSiの化学量論組成として0.1〜0.5質量%(以下単に%と表示する。)の範囲がよい。
MgSi析出物の出現により強度が向上するがその析出物の大きさは微細化分散している方が曲げ加工性がよくなる。
そこでMgSiの化学量論組成に対して、バランスSi量よりも過剰のSi量を0.50〜0.90%の範囲にし、MgSi析出物の微細化分散化を図った。
過剰SiはMgと金属間加工物を形成しないで金属シリコンとして組織中に残存するがこの金属シリコンがMgSiの析出物の大きさを微細化する作用がある。
ここで過剰シリコンが0.50%未満であればMgSi析出物の微細化分散効果が少なく0.90%を超えると陽極酸化処理後の光輝性が低下する。
Mg成分は上述のように強度確保に必要な金属間化合物MgSiの析出に必要な成分であるが本発明においては化学量論的なSiよりも過剰のSiを0.50〜0.90%有することが重要であることから製品に要求される強度に必要な範囲でMg成分は少ない方が好ましく、Mg単独では0.10〜0.50%の範囲がよい。
Mg成分は添加量が多いと押出性が低下する要因ともなるので0.45%以下が好ましく、さらに望ましくは0.3%以下がよい。
【0009】
(Cu成分)
Cu成分は化学研磨処理や電解研磨処理時に光輝性を向上させるのに有用であり、材料の強度向上にも寄与するが添加量が多いと耐食性が低下し、押出性も阻害するので、Cu成分量は0.10〜0.60%の範囲がよく、化学的、電気化学的研磨時に光沢を出現しやすい観点からは0.25〜0.60%の範囲がよく理想的には0.40〜0.60%の範囲である。
【0010】
(Fe成分)
Fe成分は陽極酸化皮膜の透明度を低下させる要因となり陽極酸化処理後の光輝性を維持するには少ない方がよい。
また、Fe成分はSiと金属間化合物を形成し、金属シリコンを晶出物として取り込むので0.05%以下がよい。
【0011】
(Mn,Cr及びZr成分)
Mn,Cr及びZr成分はいずれも再結晶の粗大化を抑制し、結晶粒微細化に効果があり、結晶粒の平均粒径を100μm以下に制御するには少なくともMn成分0.10〜0.40%必要である。
しかし、これらの成分は添加量が多くなると焼入れ感受性が鋭くなり、強度低下及び陽極酸化処理後の光輝性低下の要因ともなる。
従って、Mn成分を0.10〜0.40%の範囲にした場合に、Cr成分0.10%以下、Zr成分0.10%以下がよい。
【0012】
(Ti成分)
Ti成分は押出成形用のビレットを鋳造する際に、結晶粒の微細化に効果があり、その効果が認められる範囲としてTi成分は0.005〜0.10%の範囲がよい。
【0013】
本発明において、上記に説明した以外の不可避的不純物の量は、単体で0.05%以下、合計で0.15%以下に抑えるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明においては、化学量論的MgSiバランス組成よりも過剰のSi量を0.50〜0.90%含有するうように合金設計したのでMgSiの析出物を微細化分散でき、且つ結晶粒微細化成分であるMn,Cr及びZr成分範囲を制御するとともにCu成分を0.10〜0.60%,Fe成分を0.05%以下に抑えたことにより、局部的伸び30%を超えるような強い曲げ加工においても割れが発生せず、材料表面のオレンジピールが従来よりも小さく機械的バフ仕上げ工数の低減を図ることができ、陽極酸化処理後の光輝性にも優れるアルミニウム合金を得ることができる。
【0015】
請求項2記載の発明においては、請求項1記載のアルミニウム合金を用いてビレットを鋳造し、押出成形し押出形材の再結晶粒の平均粒径を100μm以下に制御したので曲げ加工性、曲げ部の表面性状及び光輝性がともに優れた押出形材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るアルミニウム合金例を試作し、従来合金と比較評価をしたので以下説明する。
なお、本発明は試作したアルミニウム合金に限定されるものではない。
【0017】
図1の表に示した合金成分に調整した溶湯を用いて常法により円柱ビレットを鋳造した。
合金No.1〜7が本発明の実施例に該当するアルミニウム合金で、合金No.8〜11が比較例として、従来の光輝処理用合金を試作した。
図1の表中、Si,Fe,Cu,Mn,Mg,Cr,Zn,Zr,Tiは分析で確認した成分であり、残部がAlと不可避的不純物となる。
Si成分とMg成分の分析結果から計算で求めたMgSi成分量と、バランスSi量よりも過剰のSi量をexSiと表示して、それぞれ表中に示した。
鋳造した円柱ビレットは565〜595℃×4時間以上の条件にて均質化処理し、次にこのビレットを470〜510℃に予熱し、常法に従って試験評価用押出形材を押出成形した。
ビレットの均質化処理温度が565℃未満では、鋳造時の晶出物の分散が不充分となる。
また、押出成形時のビレットの予熱温度が470℃未満だと押出後の焼入れが不充分となる。
試験評価用押出形材は幅80mm×厚さ1.2mmの板材であり、押出直後はファン空冷にて70℃/min以上の冷却速度で冷却し、その後に175〜195℃×1〜24時間の人工時効処理を施した。
【0018】
上記にて試作した押出形材を用いて各品質特性を評価した結果を図2の表に示し、評価方法を以下説明する。
なお、表中全ての品質項目が目標に達したものを判定「○」とした。
(T1及びT5材の機械的性質)
引張試験により引張強さ、耐力、破断伸びを調べた。
押出形材よりJIS5号引張試験片を作製し、JIS規格に準拠した引張試験機でJIS−Z2241に基づいて求めた。
ここでT1材とは押出及び空冷後の材料をいい、曲げ加工性から伸び(δ)20%以上を目標とした。
T5材は人工時効処理した材料をいい、製品強度を確保する観点から0.2%耐力(σ0.2)150MPa以上を目標とした。
(光輝性)
供試材をリン酸70〜85%、硝酸3〜3.5%の水溶液を用いて95〜100℃にて90秒間化学研磨処理後に硝酸20%で酸洗し、硫酸20%の電解液を用いて100〜120A/mで30分陽極酸化処理し、膜厚約10μmのアルマイト皮膜を化成したもので評価した。
アルミニウム合金の表面の色調をLab表色系(CIE規格)による色差計(村上色彩技術研究所製、鏡面色差計SCD−1)によりL値を測定した。
金属光沢に近い光輝性をねらいにL値80以上を目標とした。
(再結晶粒)
供試材を鏡面研磨仕上げを行い、その後、エッチングして400倍の光輝顕微鏡により金属組織を観察し、平均結晶粒径を測定した。
(表面性状)
供試材から20mm×150mmの板材を切り出し、曲げR1.5mmでU字形に加工したものについて評価した。
機械的バフ研磨が必要ない程度以下のオレンジピールを良好と評価した。
(曲げ性)
図5(a)に示すように、供試材より20×150mmの試験片を切り出し、治具にて固定し、上部から先端所定Rのパンチにて負荷を加え、その際の変位−荷重線図を図5(b)に示すように求めた。
このように曲げ加工するとU字先端部は30〜40%以上の伸びが必要である。
比較例アルミニウム合金(従来合金)はaのような変位−荷重線を示した。
それに対して、本発明によるアルミニウム合金を用いると、bに示すような変位−荷重線になる。
これは、従来のアルミニウム合金には、局部的な30%以上の伸びに耐えられず最大荷重付近で材料に亀裂が発生すると、すぐに大きく成長して割れとなり、荷重が急降下するのに対して、本発明合金による場合には割れが生じにくく、いわゆるねばりがあり、徐々に荷重が降下するためである。
割れ発生状況を図6の写真に示した。
また、参考に図7に示した模式図にて、外周の伸び率を試算した。
限界曲げRを予測するために図7のような曲げ角度90度の単純モデルを考える。
この部分の曲げ厚みの外周と内周の長さの差が材料伸びとなるので内周の伸びが無いと仮定した場合、外周長と伸びの関係から伸び率は、

中立軸を板厚中央とすると伸び率/2=40%と試算できる。
【0019】
実施例No.1〜7の合金及び比較例No.10,11の合金を用いた押出形材はバランスシリコンよりも過剰の過剰Si(exSi)の値が0.50〜0.90%の範囲にあり、図6(a)に示したように局部的に30%以上伸びるように曲げても割れが発生しなかったのに対して、比較例No.8,9は図6(b)に示すように割れが発生した。
また、比較例No.10は曲げ評価にて割れは発生しなかったが比較例No.8,9とともに再結晶粒の平均粒径が図3(b)に示すように200μmもあり、100μmを超えているので曲げ部表面に図4(b)に示すような大きいオレンジピールが発生した。
これに対して実施例No.1〜7の合金を用いた押出形材は再結晶粒の平均粒径が図3(a)に示すように100μm以下であり図4(a)に示すようにオレンジピールが小さかった。
膜厚10μmの陽極酸化処理した表面の鏡面L値を比較すると実施例No.1〜8は80以上あったのに対して比較例No.10,11は光輝性が低かった。
【0020】
以上、説明したとおり、本発明に係るアルミニウム合金を用いた押出形材は伸び30%以上の局部的曲げにも割れが発生しなく、陽極酸化処理後のL値で80以上の光輝性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】試験評価に用いたアルミニウム合金の成分表を示す。
【図2】押出形材の各特性の評価結果を示す。
【図3】再結晶粒の顕微鏡写真を示す。
【図4】曲げ部の表面性状の写真を示す。
【図5】曲げ評価方法と変位−荷重線図を示す。
【図6】曲げ試験後の外観写真を示す。
【図7】曲げRと伸びの関係を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgSiの化学量論組成としてのMgSi成分0.10〜0.50質量%と過剰Si量を0.50〜0.90質量%を含有するとともに、Cu成分0.10〜0.60質量%、Mn成分0.10〜0.40質量%、Ti成分0.005〜0.1質量%を含有し、Fe成分0.05質量%以下、Cr成分0.10質量%以下、Zr成分0.10質量%以下で残部がアルミニウムと不可避的不純物であることを特徴とする曲げ加工性及び陽極酸化処理後の光輝性に優れたアルミニウム合金。
【請求項2】
請求項1記載のアルミニウム合金を用いて製造した押出形材であって、
再結晶粒は平均粒径が100μm以下であることを特徴とする曲げ加工性及び陽極酸化処理後の光輝性に優れた押出形材。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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