説明

曲げ機械の表裏非対称金型

【課題】表裏非対称金型の表裏の反転作業を短時間で行えるようにする。
【解決手段】プレスブレーキ10のグースネック金型18は、左右の第1軸X方向に延びかつ昇降する上金型支持部材12に装着可能な金型であって、装着部20と、連結部22と、金型部24と、を備えている。装着部20は、上金型支持部材12に装着可能なものである。連結部22は、第1軸X回りに加工姿勢と非加工姿勢との間で揺動自在に装着部20に連結されるものである。金型部24は、第1軸Xと交差する第2軸Y回りに回動自在に連結部22に装着され、刃先24aが斜めに延びる表裏非対称形状のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型、特に、第1軸方向に延びかつ昇降する曲げ機械の金型支持部に装着可能な表裏非対称金型に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスブレーキなどの曲げ機械には、昇降する金型支持部が設けられている。この金型支持部は一方向に延びて形成されており、これに複数の金型が一方向に沿って取り付けられている。金型支持部に取り付けられる金型として、曲げ加工時のワークとの干渉を避けるために、V字型に折り曲げられ刃先が斜めに延びるグースネック金型のような表裏非対称の金型が従来知られている(たとえば、特許文献1参照)。グースネック金型は、刃先が斜めに配置されるので、表面は凹み裏面は突出しており、表裏面が非対称に形成されている。このような表裏非対称金型を用いる場合、曲げ形状によってはワークとの干渉を回避するために金型の表裏を反転させる金型交換作業を行なわなければならない。
【特許文献1】特許4048893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金型は、一般に油圧を用いた着脱装置やボルトにより金型支持部に固定されている。しかし、金型を金型支持部から外して表裏反転する表裏反転作業を行うと、金型の芯の確認や原点位置の確認等の作業が必要になる。このため、作業頻度が多いほど、曲げ機械の稼働時間が短くなるという問題が生じる。
【0004】
本発明の課題は、表裏非対称金型の表裏の反転作業を短時間で行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る曲げ機械の表裏非対称金型は、第1軸方向に延びかつ昇降する金型支持部に装着可能な金型であって、装着部と、連結部と、金型部と、を備えている。装着部は、金型支持部に装着可能なものである。連結部は、第1軸回りに加工姿勢と非加工姿勢との間で揺動自在に装着部に連結されるものである。金型部は、第1軸と交差する第2軸回りに回動自在に連結部に装着され、刃先が斜めに延びる表裏非対称形状のものである。
【0006】
この表裏非対称金型では、金型の表裏の反転作業を行う場合、装着部を金型支持部に装着した状態で、金型部を連結部とともに、装着部に対して加工姿勢から、隣接する金型との干渉が生じなくなる非加工姿勢に第1軸回りに揺動させる。この状態では、隣接する金型との干渉が生じなくなるので、第2軸回りに金型部を180度回動させて表裏を反転させることができる。最後に金型部を連結部とともに非加工姿勢から加工姿勢に戻すと、金型の表裏が反転する。
【0007】
ここでは、金型部を単純に180度回動させるだけではなく、金型部をいったん非加工姿勢に揺動させてから第2軸回りに180度回動させることにより、隣接する金型との干渉を避けて金型を180度回転させることができる。このため、グースネック金型のような表裏非対称金型を金型支持部から外すことなく表裏の反転作業を行えるようになる。したがって、金型を着脱することによる芯の確認や原点位置の確認等の作業が不要になり、金型の反転作業を短時間で行えるようになる。
【0008】
金型部を第2軸方向に沿って連結部と接離するように移動可能な移動機構と、金型部を連結部に接近する方向に付勢する付勢部材と、をさらに備えてもよい。この場合には、金型部が第2軸方向に移動できるので、加工姿勢のときに装着部と金型部との間に凹凸嵌合する係合部を設け、装着部と金型部とを加工姿勢の時に芯出しした状態で連結しても、係合部を係合状態と離脱状態とに簡単に切り換えできる。また、付勢部材により金型部が連結部に接近する方向に付勢されているので、加工姿勢で装着部と金型部とが自動的に係合状態になる。
【0009】
装着部と金型部との間に設けられ、加工姿勢の時に凹凸嵌合する係合部をさらに備えてもよい。この場合には、加工姿勢の時に金型部と装着部とが凹凸嵌合により係合するので、加工時に金型部と装着部とを芯出しした状態で連結できる。
【0010】
連結部を加工姿勢で位置決めする位置決め機構をさらに備えてもよい。この場合、加工姿勢にあるとき装着部に連結部が位置決めされるので、加工時に連結部ががたつきにくくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金型部を単純に180度回動させるだけではなく、金型部をいったん非加工姿勢に揺動させてから180度回動させることにより、隣接する金型との干渉を避けて金型を180度回転させることができる。このため、グースネック金型のような表裏非対称金型を金型支持部から外すことなく表裏の反転作業を行えるようになる。したがって、金型を着脱することによる芯の確認や原点位置の確認等の作業が不要になり、金型の反転作業を短時間で行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2において、本発明の一実施形態が装着された曲げ機械としてのプレスブレーキ10は、側面形状が前方に開口したC字状のフレーム11を有している。フレーム11の上フレーム部11a及び下フレーム部11bには、上金型支持部材(金型支持部の一例)12及び下金型支持部材13が上下に対向して設置されている。下金型支持部材13の上端には、成形用の凹部を有し左右方向(第1軸方向の一例)に延びる複数種類の下金型16が並べて配置されている。上金型支持部材12は、左右方向に延びる板状の部材であって、上フレーム部11aの左右に配置されたガイド機構14,14によって昇降方向に移動自在に支持されている。上金型支持部材12は、昇降駆動部15により昇降駆動される。上金型支持部材12は、油圧駆動される金型着脱装置12aを有しており、上金型支持部材12に本発明の一実施形態によるグースネック金型(表裏非対称金型の一例)18を含む複数の上金型17が着脱自在に装着される。この上金型17の下端の刃先部17aが下降時に下金型16の凹部に進入することにより、ワークがV字状に折り曲げ加工される。
【0013】
<グースネック金型の構成>
グースネック金型18は、図3及び図4に示すように、上金型支持部材12に着脱自在に装着可能な装着部20と、左右方向に沿った第1軸X回りに揺動自在に装着部20に連結される連結部22と、第1軸Xと直交する第2軸Y回りに回動自在に連結部22に連結され、刃先24aが斜めに延びるグースネック型の金型部24と、を備えている。また、グースネック金型18は、金型部24を第2軸Y方向に沿って連結部22と接離するように移動可能に連結部22と連結する移動機構26と、金型部24を連結部22に接近する方向に付勢する付勢部材28と、加工姿勢のときに装着部20と金型部24とを凹凸嵌合させる係合部30と、連結部22を加工姿勢で位置決めする位置決め機構32と、を備えている。
【0014】
装着部20は、上金型支持部材12に係合する係合溝20aを上部に有している。また、内部に連結部22が収納される第1収納空間20bを下部に有している。第1収納空間20bは、図5に拡大して示すように、装着部20の裏面(図5左側面)と下面とに開口する空間であり、水平に配置される上壁部20cと垂直に配置される縦壁部20dとが奥側で1/4円の円弧部20eでつながっている。この円弧部20eは第1軸Xを中心とする円弧である。
【0015】
第1収納空間20bの円弧部20eには、位置決め機構32を収納する収納穴32aが径方向に沿って形成されている。収納穴32aには、鋼球32bが進退自在に装着されている。鋼球32bは、コイルばねの形態のばね部材32cにより連結部22に向けて付勢されている。
【0016】
連結部22は、第1収納空間20bに収納可能な大きさを有する正面視矩形の板状の部材である。連結部22は、装着部20内に第1軸Xに沿って配置された2本の揺動軸34により装着部20に揺動自在に支持されている。連結部22の上部22aは、第1収納空間20bの円弧部20eに係合するように、断面において第1軸Xを中心とする円弧で丸められている。連結部22の上部22aには、位置決め機構32を構成する球面状の凹穴32dが形成されている。凹穴32dは連結部22が加工姿勢にあるときに鋼球32bに係合する位置に形成されている。連結部22は、縦壁部20dに接触して垂直に配置される加工姿勢と、加工姿勢から90度揺動して上壁部20cに接触する非加工姿勢とを取り得る。
【0017】
連結部22の内部には、移動機構26を収納するための第2収納空間22bが形成されている。第2収納空間22bは、概ね円柱状に形成されており、奥側の底部には非円形の回り止め部22cが形成されている。
【0018】
移動機構26は、回り止め部22cに係合して頭部40aが回り止めされるボルト部材40を有している。ボルト部材40の頭部40aは、回り止め部22c内で第2軸Y方向に移動可能である。ボルト部材40は、先端が金型部24にナット44により固定されている。ボルト部材40は、金型部24を第2軸Y方向に貫通して金型部24の表面に形成されたナット収納部24bに先端が露出している。このボルト部材40の露出部分にナット44を締め込むことで金型部24が第2軸Y方向に移動可能に連結部22に連結される。なお、ナット44とボルト部材40との間には、回り止め剤が塗布されており、ナット44が緩みにくくなっている。
【0019】
付勢部材28は、ボルト部材40の外周側に圧縮状態で配置されたコイルばねの形態のものである。付勢部材28は、ボルト部材40の頭部40aと、第2収納空間22bに頭部40aと間隔を隔てて装着された止め輪42に引っ掛けられたワッシャ43とに両端が係止されている。ボルト部材40の頭部40aが付勢部材28により付勢されることで、金型部24は、連結部22、すなわち装着部20に接近する方向に付勢される。
【0020】
金型部24は、斜めに配置された刃先24aを有し、V字状に屈曲したグースネック構造であり、移動機構26を介して連結部22と連結されている。金型部24の上面には、係合部30を構成する断面が等脚台形形状の係合突起30aが形成されている。係合部30は、係合突起30aと、装着部20の下面に係合突起30aに係合するように台形に凹んで形成された係合凹部30bとを有している。係合突起30a及び係合凹部30bは、図3に示すように、装着部20の下面及び金型部24の上面に第1軸X方向の概ね全長にわたって形成されている。このような等脚台形形状の係合部30を形成したので付勢部材28の付勢力により通常状態では係合部30での係合により装着部20と金型部24とが自動的に芯出しされる。
【0021】
<グースネック金型の表裏反転作業>
グースネック金型18を表裏反転する作業を行う場合には、最初に金型部24を手で持って図4に示す加工姿勢から図6に示す非加工姿勢に、たとえば90度揺動させる。非加工姿勢は、隣接する金型との干渉を避けるための姿勢である。これにより、隣接する金型17と干渉しなくなり、金型部24を第2軸Y回りに回動させることができる。次に、付勢部材28の付勢力に抗して金型部24を第2軸Y方向に引っ張り、係合部30による装着部20と金型部24との係合を解除する。この状態で金型部24を180度回動させて表裏を反転する。この状態を図6に二点差線で示す。最後に、180度反転した金型部24を非加工姿勢から加工姿勢に戻す。加工姿勢に戻ると、鋼球32bが凹穴32dに向かって移動し連結部22が装着部20に対して位置決めされ、図4に二点差線で示すように、金型部24が反転した状態になる。そして、所望の数のグースネック金型18の反転が終了すると、金型の反転作業は終了する。
【0022】
なお、多数のグースネック金型18を表裏反転させる場合、一つおきにグースネック金型を非加工姿勢に揺動させ、残りは加工姿勢のままにしてもよい。1つおきに非加工姿勢にすれば、その間のグースネック金型18は、隣接するグースネック金型18との干渉が生じなくなるので、加工姿勢のままで表裏反転できる。
【0023】
ここでは、金型部24を単純に180度回動させるだけではなく、金型部24をいったん非加工姿勢に揺動させてから180度回動させることにより、隣接する金型との干渉を避けて金型部24を180度回転させることができる。このため、グースネック金型18を上金型支持部材12から外すことなくグースネック金型18の表裏の反転作業を行えるようになる。したがって、グースネック金型18を着脱することによる芯の確認や原点位置の確認等の作業が不要になり、グースネック金型18の反転作業を短時間で行えるようになる。
【0024】
また、金型部24を第2軸Y方向に沿って連結部22と接離するように移動可能な移動機構26と、金型部24を連結部22に接近する方向に付勢する付勢部材28と、をさらに備えているので、金型部24が第2軸Y方向に移動できる。このため、加工姿勢のときに装着部20と金型部24との間に係合部30を設け、装着部20と金型部24とを加工姿勢の時に芯出しした状態で連結しても、係合部30を係合状態と離脱状態とに簡単に切り換えできる。また、付勢部材28により金型部24が連結部22に接近する方向に付勢されているので、加工姿勢で装着部20と金型部24とが自動的に係合状態になる。
【0025】
さらに、連結部22を加工姿勢で位置決めする位置決め機構32を備えているので、加工姿勢にあるとき装着部20に連結部22が位置決めされる。このため、加工時に連結部22ががたつきにくくなる。
【0026】
<他の実施形態>
(a)前記実施形態では、油圧式の着脱装置で上金型支持部材12に固定されるグースネック金型を例に本発明を説明したが、図7に示すように、ボルト60により上金型支持部材112に固定されるグースネック金型118にも本発明を適用できる。なお、グースネック金型118のその他の構成は、前記実施形態と同様なため、説明を省略する。
【0027】
(b)前記実施形態では、非対称金型としてグースネック金型を例に本発明を説明したが、本発明はこれに限定されず、曲げ機械に装着される表裏面が非対称のすべての金型に適用できる。
【0028】
(c)前記実施形態では、位置決め機構32で加工姿勢の時だけ位置決めしているが、非加工姿勢の時にも位置決めしてもよい。この場合は連結部22の上面22aに凹穴32dと、たとえば90度間隔を隔ててもうひとつ凹穴を形成すればよい。この場合、加工途中で不要になるが、その後必要になる上金型を着脱することなく再使用できる。
【0029】
(d)前記実施形態では、非加工姿勢と加工姿勢との間隔を90度に設定した。しかし、非加工姿勢は、隣接する金型との干渉を避けるための姿勢であるため、90度に限定されず、干渉を避けることが可能な角度であればどのような間隔でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、非対称金型の表裏反転作業の作業時間を短縮できるので、プレスブレーキなどの曲げ機械の非対称金型の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るグースネック金型が搭載されたプレスブレーキの正面図。
【図2】そのプレスブレーキ側面図。
【図3】本発明の一実施形態によるグースネック金型の正面一部破断図。
【図4】加工姿勢のグースネック金型の側面図。
【図5】加工姿勢のグースネック金型の側面拡大部分図。
【図6】非加工姿勢のグースネック金型の側面図。
【図7】他の実施形態のグースネック金型の図4に相当する図。
【符号の説明】
【0032】
10 プレスブレーキ(曲げ機械の一例)
12,112 上金型支持部材(金型支持部の一例)
18,118 グースネック金型(表裏非対称金型の一例)
20 装着部
22 連結部
24 金型部
24a 刃先
26 移動機構
28 付勢部材
30 係合部
32 位置決め機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に延びかつ昇降する金型支持部に装着可能な曲げ機械の表裏非対称金型であって、
前記金型支持部に装着可能な装着部と、
前記第1軸回りに加工姿勢と非加工姿勢との間で揺動自在に前記装着部に連結される連結部と、
前記第1軸と交差する第2軸回りに回動自在に前記連結部に装着され、刃先が斜めに延びる表裏非対称形状の金型部と、
を備えた曲げ機械の表裏非対称金型。
【請求項2】
前記金型部を前記第2軸方向に沿って前記連結部と接離するように移動可能に前記連結部と連結する移動機構と、
前記金型部を前記連結部に接近する方向に付勢する付勢部材と、
をさらに備える、請求項1に記載の曲げ機械の表裏非対称金型。
【請求項3】
前記装着部と前記金型部との間に設けられ、前記加工姿勢のときに凹凸嵌合する係合部をさらに備える、請求項2に記載の曲げ機械の表裏非対称金型。
【請求項4】
前記連結部を前記加工姿勢で位置決めする位置決め機構をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の曲げ機械の表裏非対称金型。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−291821(P2009−291821A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148945(P2008−148945)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】