説明

曲げ特性の向上したエポキシ樹脂

エポキシ樹脂成分と、4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)の粒子を含む硬化剤粉末とを含むエポキシ樹脂組成物であって、DABA粒子の径は100ミクロン未満であり、また、メジアン粒径は20ミクロン未満であるエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く、航空宇宙産業において用いられる高性能エポキシ樹脂に関する。より詳細には、本発明は、このようなエポキシ樹脂の曲げ強さ及び破壊歪み(strain to failure)を向上させることに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維材料により、例えばガラス繊維又は炭素繊維により強化されたエポキシ樹脂は、大きな構造強度及び軽量が必要とされる多様な状況において用いられる。高性能エポキシ樹脂マトリックスを用いるコンポジット材料は、重量及び構造強度が重要な工学的及び設計上の考慮事項である航空宇宙産業において特に好まれている。高性能エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂を「靱性強化(toughening)」する1種又は複数の熱可塑性材料を含み得る。加えて、硬化剤の様々な組合せが、最適な硬化及び樹脂強度を得るために用いられる。このような高性能エポキシ樹脂コンポジット材料は、強度と重量の比がそれらでは比較的大きいという理由で、望ましいが、可撓性(flexibility)及び曲げ特性に関していくつかの特殊な問題点を実際に示す。エポキシ樹脂の曲げ特性は、これらの特性に、このようなエポキシ樹脂を用いて製造されるコンポジットパーツの全体としての強度、損傷許容性及び耐衝撃性が依存しているので、設計上の考慮事項にとって重要である。
【0003】
曲げ強さ、曲げ弾性率及び破壊歪みは、航空宇宙産業においてごく普通に測定される、硬化したエポキシ樹脂の曲げ特性である。硬化したエポキシ樹脂の曲げ強さは、荷重の下での変形に抵抗するその能力として定義される。曲げ強さは、硬化したエポキシ樹脂試験試料を破壊するのに必要とされる力又は荷重の大きさを測定することによって求められる。壊れることなくかなり変形する材料では、破壊時の荷重は、曲げに対する試料の抵抗が劇的に低下する点である。曲げ弾性率は、硬化したエポキシ樹脂の変形の間の応力(荷重)と歪み(曲り)の比である。曲げ弾性率は、曲げ強さの試験の間に得られる値を用いて、曲げ弾性率を計算することによって求められる。破壊歪みは、試料が壊れる前に、試料が曲がる(歪む)度合の指標である。
【0004】
ASTM D790及びISO 178は、硬化したエポキシ樹脂の曲げ特性を求めるために用いられる2つの標準試験法である。これらの2つの方法は基本的に同じである。試験試料が支持スパンで支えられ、荷重(応力)が、指定された速度で3点曲げ(歪み)を生成するように、荷重印加端(loading nose)によって中央に加えられる。試験法の様々なパラメータには、試験での支持スパンの大きさ、荷重印加速度、及び最大変位が含まれる。これらのパラメータは試験試料の大きさに応じて決まり、試験試料の大きさは、ASTM D970とISO 178プロトコルの間で異なる。試験試料の一般的な大きさは、ASTM D790試験では、3.2mm×12.7mm×125mm、ISO 178試験では、10mm×4mm×80mmである。
【0005】
曲げ弾性率に悪影響を及ぼさないで、曲げ強さ及び破壊歪みをできるだけ大きくした高性能エポキシ樹脂の開発は、航空宇宙コンポジット産業における重要な目標であったし、そうあり続けている。
【0006】
エポキシ樹脂配合は、通常、1種又は複数の硬化剤を含む。このような硬化剤の1つは、4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)である。DABAは通常、エポキシ樹脂と直接混合される粉末として供給される。DABAにより硬化され、DABA硬化エポキシ樹脂の曲げ弾性率に思わしくない影響を及ぼすことなく、向上した曲げ強さ及び破壊歪みを示すエポキシ樹脂を提供することは望ましいであろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明により、4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)の特別に分級された(specially sized)粒子を含む粉末が硬化剤として用いられる場合に、高性能エポキシ樹脂の曲げ強さ及び破壊歪みを大きくできることが、予想外に見出された。曲げ強さ及び破壊歪みのこれらの予想外の増加は、通常の硬化剤を用いて硬化された既存の高性能エポキシ樹脂に匹敵する又は超えるレベルに曲げ弾性率を保ちながら、実現し得ることもまた見出された。さらに、本発明の硬化した樹脂は、比較的高いガラス転移温度(T)を示す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エポキシ樹脂成分と、100ミクロン未満の径を有し、メジアン粒径が20ミクロン未満である4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)粒子からなる硬化剤粉末とを含む未硬化エポキシ樹脂組成物を包含する。この特別に分級されたDABA硬化剤粉末により硬化されたエポキシ樹脂は、より大きな粒径を含む市販のDABA粉末により硬化されたエポキシ樹脂で認められるものよりかなり大きな曲げ強さ及び破壊歪みのレベルを有する。この硬化樹脂が、予想外に高いガラス転移温度を有することもまた見出された。
【0009】
未硬化エポキシ樹脂組成物に加えて、本発明は、プリプレグのマトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂組成物の使用、さらには未硬化エポキシ組成物と繊維材料との他の組合せを包含する。加えて、本発明は、硬化したエポキシ樹脂組成物、並びに、樹脂マトリックスが本発明による硬化したエポキシ樹脂組成物である繊維強化コンポジットパーツを包含する。本発明は、また、未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法、及び該エポキシ樹脂組成物を組み入れた硬化パーツの製造方法も包含する。
【0010】
本発明の前記及び他の多くの特徴並びに付随する利点は、添付図に関連させて考察された場合に、以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】市販品供給元から受け取った時のDABA硬化剤粉末の粒径分布を示すグラフである。
【0012】
【図2】本発明によるDABA硬化剤粉末の粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるエポキシ樹脂組成物は、大きな曲げ強さ及び破壊歪みを有する硬化したエポキシ樹脂が望まれる多様な状況において使用され得る。エポキシ樹脂組成物は、また、220℃を超える、硬化した樹脂のガラス転移温度(T)が望まれる状況においても有用である。エポキシ樹脂組成物は単独で用いられ得るが、これらの組成物は通常、繊維支持体(fibrous support)と組み合わせてコンポジット材料を生成する。コンポジット材料は、プリプレグ又は硬化した最終パーツの状態であり得る。コンポジット材料は、何らかの意図される目的にも使用され得るが、好ましくは、それらは、構造及び非構造パーツの両方として宇宙航空用途に用いられる。
【0014】
例えば、エポキシ樹脂は、航空機の構造パーツ(例えば、胴体、翼、及び尾部アセンブリー)に使用されるコンポジット材料を生成するために使用され得る。エポキシ樹脂は、また、飛行機の非構造部分に用いられるコンポジット材料パーツを製造するためにも使用され得る。例示的な外部非構造パーツには、エンジンナセル及び航空機外表面が含まれる。例示的な内部パーツには、航空機調理室及び洗面所構造体、さらには、窓枠、床パネル、座席上収納、間仕切り壁、衣装戸棚、ダクト、天井パネル、及び内部側壁が含まれる。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、1種又は複数のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂成分を55から75重量パーセント含む。エポキシ樹脂は、宇宙航空用高性能エポキシに用いられるエポキシ樹脂のいずれかから選択され得る。二官能、三官能及び四官能エポキシ樹脂が用いられ得る。好ましくは、エポキシ樹脂成分は、三官能エポキシ化合物から実質的に構成され得る。望まれる場合、四官能エポキシが含められ得る。三官能及び四官能エポキシの相対量は変わり得る。しかし、三官能エポキシの量が、四官能エポキシの量を超えるか、又は等しいことが好ましい。
【0016】
三官能エポキシ樹脂は、化合物骨格におけるフェニル環のパラ又はメタ位置に直接又は間接のいずれかで置き換わった3つのエポキシ基を有すると理解される。四官能エポキシ樹脂は、化合物の骨格に4つのエポキシ基を有すると理解される。適切な置換基には、例として、水素、ヒドロキシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリール、アリールオキシル、アラルキルオキシル、アラルキル、ハロ、ニトロ、又はシアノ基が含まれる。適切な非エポキシ置換基は、パラ若しくはオルト位置でフェニル環に結合していることも、或いは、エポキシ基によって占有されていないメタ位置に結合していることもある。
【0017】
適切な三官能エポキシ樹脂には、例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック;フェノール−アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;二脂肪族(dialiphatic)トリグリシジルエーテル;脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシ化オレフィン;臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン及びグリシジルエーテル;複素環式グリシジルイミジン及びアミド;グリシジルエーテル;フッ素化エポキシ樹脂、又はこれらの任意の組合せに基づくものが含まれる。好ましい三官能エポキシは、パラアミノフェノールのトリグリシジルエーテルであり、これは、Huntsman Advanced Materials(Monthey、スイス)からAraldite MY 0500又はMY 0510として市販されている。別の好ましい三官能エポキシ樹脂は、トリグリシジルメタ−アミノフェノールである。特に好ましい三官能エポキシは、トリグリシジルメタ−アミノフェノールであり、これは、Araldite MY0600の商用名でHuntsman Advanced Materials(Monthey、スイス)から、また、ELM− 120の商用名で住友化学(大阪、日本)から市販されている。
【0018】
適切な四官能エポキシ樹脂には、例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック;フェノール−アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;二脂肪族トリグリシジルエーテル;脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシ化オレフィン;臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン及びグリシジルエーテル;複素環式グリシジルイミジン及びアミド;グリシジルエーテル;フッ素化エポキシ樹脂、又はこれらの任意の組合せに基づくものが含まれる。好ましい四官能エポキシは、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミンであり、これは、Araldite MY0720又はMY0721としてHuntsman Advance Materials(Monthey、スイス)から市販されている。
【0019】
望まれる場合、エポキシ樹脂成分は、また、二官能エポキシ、例えば、ビスフェノール−A(Bis−A)又はビスフェノール−F(Bis−F)エポキシ樹脂を含み得る。例示的なBis−Aエポキシ樹脂は、Araldite GY6010(Huntsman Advanced Materials)、又はDER 331(これは、Dow Chemical Company(Midland、ミシガン州)から入手可能である)として市販されている。例示的なBis−Fエポキシ樹脂は、Araldite GY281及びGY285(Huntsman Advanced Materials)として市販されている。エポキシ樹脂成分中に存在するBis−A又はBis−Fエポキシ樹脂の量は変わり得る。全エポキシ樹脂成分の20重量パーセント以下が二官能エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂成分は、5から15重量パーセントの熱可塑性靱性強化剤を任意選択で含み得る。熱可塑性靱性強化剤は、高性能エポキシ樹脂の調製に用いられることがよく知られている。例示的な靱性強化剤には、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、及びポリアミドイミド(PAI)が含まれる。PESは、様々な化学品製造会社から市販されている。例として、PESは、Sumikaexcel 5003pの商用名で住友化学(大阪、日本)から市販されている。ポリエーテルイミドは、ULTEM 1000PとしてSabic(ドバイ)から市販されている。ポリアミドイミドは、TORLON 4000TFとしてSolvay Advanced Polymers(Alpharetta、ジョージア州)から市販されている。熱可塑性成分は、硬化剤の添加の前にエポキシ樹脂成分中に混合される粉末として、好ましくは供給される。
【0021】
エポキシ樹脂組成物は、また、付加的な成分を、例えば、性能向上及び/又は調整剤を、それらもまた、硬化した樹脂の曲げ強さ、破壊歪み、及び曲げ弾性率に悪影響を及ぼさないという条件で、含み得る。性能向上又は調整剤は、例えば、可撓性付与剤、粒子状フィラー、ナノ粒子、コア/シェル型ゴム粒子、難燃剤、湿潤剤、顔料/染料、導電性粒子、及び粘度調整剤から選択され得る。樹脂組成物は付加的な成分を含まないことが好ましい。樹脂組成物は、エポキシ成分と、下で記載される特別に分級された硬化剤粉末に限定されることが好ましい。より好ましくは、樹脂組成物は、三官能エポキシと、硬化剤としての特別に分級された硬化剤粉末とから構成され得る。最も好ましいのは、特別に分級されたDABA硬化剤粉末と、メタ置換三官能エポキシ(例えば、MY0600)の組合せである。
【0022】
本発明によれば、エポキシ樹脂成分は、粉末の4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)を硬化剤として用い、硬化される。粉末DABA硬化剤は、市販のDABA粉末を購入し、それを、No.400の篩(0.0015インチの目開き)に通すことによって、好ましくは調製される。通常の市販のDABA粉末の粒径分布が図1に示されている。このようなDABA粉末は、かなり多数の市販品供給源から入手できる。例示的な市販品供給元には、Acros Organics(Fair Lawn、ニュージャージー州)、及びAlfa Aesar(Ward Hill、マサチューセッツ州)が含まれる。これらの粉末は、通常、少なくとも95重量%の純度のDABAであり、より典型的には、少なくとも98重量%の純度のDABAである。市販粉末の粒径分布は、Horiba LA−500粒径測定装置を用いて求めた。「受け取った時」の市販粉末は、200ミクロンのように大きく、0.2ミクロンのように小さい粒子を含んでいた。メジアン粒径は約48ミクロンであり、平均粒径は約53ミクロンである。粒子の約38パーセントが、10と50ミクロンの間の粒径を有し、約14パーセントの粒子が100ミクロンを超える粒径を有する。約40パーセントの粒子が、50と100ミクロンの間の粒径を有する。
【0023】
前記の市販DABA粉末がNo.400の篩に通される時に、結果として得られる特別に分級された粉末は、Horiba LA−500粒径測定装置を用いて求めると、図2に示される粒子分布曲線を有する。図2に示される粒径分布を有する、特別に分級された粉末DABA硬化剤は、図1に示されるようにより大きな粒子を含む市販のDABA粉末により硬化されたエポキシ樹脂で認められるものよりかなり大きい、曲げ強さ、破壊歪み及びTのレベルをもたらす。
【0024】
本発明による特別に分級されたDABA粉末は、100ミクロンより大きい粒子を、たとえ含むとしても、僅かしか含むべきでない。特別に分級された粉末は、また、約0.1ミクロン未満の径の粒子を、たとえ含むとしても、僅かしか含まないであろう。より小さい粒径もあり得るし、特別に分級された粉末に含まれ得る。しかし、通常の粉砕及び篩分け技術は、一般に、0.1ミクロンより小さい多数の粒子を生成しない。それゆえに、粒径の好ましい下限は、約0.1ミクロンである。粉末のメジアン粒径は、20ミクロン未満であるべきである。好ましくは、メジアン粒径は、10と20ミクロンの間であり、特に好ましいメジアン粒径は約15ミクロンであり得る。粉末の平均粒径もまた、20ミクロン未満であるべきである。好ましくは、平均粒径は、10と20ミクロンの間であり、特に好ましい平均粒径は約17ミクロンであり得る。少なくとも70パーセントの粒子が、50ミクロン未満の粒径を有するべきである。好ましくは、約85パーセントの粒子が50ミクロン未満の粒径を有し、最も好ましいのは、少なくとも95パーセントの粒子が50ミクロン未満の粒径を有する粉末である。少なくとも約16パーセントの粒子が、5ミクロン未満の粒径を有することもまた好ましい。
【0025】
特別に分級されたDABA粉末は、前記の粒径分布が得られるという条件で、かなりの数の方法で製造され得る。例えば、市販粉末に似た粒径分布(図1に示される)を得るために、比較的大きな断片のDABAが粉砕され、様々な篩を通され得る。次いで、得られた粉末が、前記の粒径分布範囲に合う粒子から構成される粉末を得るために、No.400の篩を通される。図1に示されるものと同じ又は類似の粒径分布を有する粉末が購入される、又は調製され、次いで、No.400の篩を通されて、特別に分級されたDABA粉末を得ることが好ましい。望まれる場合、図1に示される粒径分布を有する、商業的に入手された粉末が、No.400の篩を通される前に、さらに粉砕され得る。特別に分級されたDABA粉末は、少なくとも95重量%がDABAであるべきである。より好ましくは、粉末は、少なくとも98重量%の純度のDABAであるべきである。
【0026】
未硬化エポキシ樹脂組成物を生成するためにエポキシ樹脂成分と混合される、特別に分級されたDABA硬化剤粉末の量は、ASTM D970を用いて測定して、少なくとも25ksiの曲げ強さ及び少なくとも4パーセントの破壊歪みの値を有する硬化した樹脂が得られるように、変わり得る。曲げ弾性率は、約790ksi以上であるべきであり、Tは、220℃以上であるべきである。好ましくは、エポキシ成分:DABAの化学量論比は、1.0:1.0と、1.0:0.6の間であり得る。エポキシ成分:DABAの好ましい化学量論比は、約1.0:0.85である。少量の他の硬化剤が、エポキシ樹脂組成物に含められてもよい。しかし、エポキシ樹脂成分のための硬化剤の少なくとも80重量パーセントは、特別に分級されたDABA硬化剤粉末であることが好ましい。最も好ましいのは、硬化剤が、特別に分級された少なくとも95重量パーセントのDABAの硬化剤粉末である未硬化エポキシ樹脂組成物である。添加され得る例示的な他の硬化剤には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、及び4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)が含まれる。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、高性能エポキシ樹脂に対する標準的加工方法に従って製造される。2種以上のエポキシが用いられる場合、エポキシ樹脂成分を生成するために、複数のエポキシ樹脂が室温で混合される。熱可塑性成分又は他の添加剤があれば添加され、次いで、熱可塑性又は他の添加剤を溶かすために、必要であれば、混合物は加熱される。次に、必要であれば、混合物は、65℃以下である温度(好ましくは、室温)まで冷却され、最終の未硬化エポキシ樹脂組成物を生成するために、特別に分級されたDABA硬化剤粉末が樹脂混合物に混合される。DABA硬化剤粉末は、エポキシ樹脂成分に添加される前に溶かされるべきではない。比較例3で示されるように、粉末の粒径を低下させることの代わりとして、溶媒にDABA粉末を前もって溶かすことは、特別に分級されたDABA粉末が硬化剤として用いられた時に得られる、向上した曲げ特性をもたらさない。
【0028】
未硬化エポキシ樹脂組成物は、高性能エポキシ樹脂が必要とされる如何なる用途にも使用され得る。しかし、このような樹脂の主な使用法は、硬化したコンポジットパーツを成形するために後で用いられるプリプレグを生成するための、繊維強化材との組合せである。未硬化エポキシ樹脂組成物は、知られているプリプレグ製造技術のいずれかに従って繊維強化材に付けられる。繊維強化材は、プリプレグの生成の間、エポキシ樹脂組成物により、完全に、又は部分的に含侵され得る。通常、プリプレグは、保護フィルムで両側を覆われ、時期尚早な硬化を避けるために室温より十分低く通常保たれる温度での保管及び出荷のために、巻き上げられる。望まれる場合、他のプリプレグ製造方法及び保管/出荷方式のいずれも用いることができる。
【0029】
繊維強化材は、合成若しくは天然繊維、又はこれらの組合せを含む、ハイブリッド又は混合繊維システムから選択され得る。例示的な好ましい繊維強化材料には、ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド(芳香族ポリアミド)繊維が含まれる。繊維強化材は、好ましくは、炭素繊維から構成される。
【0030】
繊維強化材は、砕いた(すなわち、けん切(stretch−broken))繊維、又は選択的に不連続な繊維、或いは連続繊維を含み得る。繊維強化材は、織物の、捲縮されてない、織物でない、一方向の、又は多軸テキスタイル構造の形態、例えば、一方向繊維の準等方性切断片(quasi−isotropic chopped pieces)であり得る。織物の形態は、平織り、繻子織り、又は綾織り様式から選択され得る。捲縮されてない形態及び多軸の形態は、かなりの数の層及び繊維配向を有し得る。このような様式及び形態は、コンポジット強化分野においてよく知られており、Hexcel Reinforcements(Villeurbanne、フランス)を含めて、かなりの数の会社から市販されている。
【0031】
プリプレグは、連続テープ、トウプレグ、ウェッブ、又は切断された長さのもの(切断及びスリット作業は、エポキシ樹脂組成物を繊維強化材に含侵させた後のいずれかの時点で実施され得る)の形態であり得る。プリプレグは、接着剤又は表面仕上げフィルムとして用いられてもよく、さらに、様々な織物、編物の両方、及び不織物の形態で埋め込まれたキャリアを有し得る。
【0032】
プリプレグは、コンポジットパーツを成形するために用いられる標準的技術のいずれかを用いて成形され得る。通常、1つ又は複数の層のプリプレグが、適切な成形型に配置され、硬化されて、最終のコンポジットパーツが成形される。本発明の未硬化エポキシ樹脂組成物を含むプリプレグは、当技術分野において知られている適切な温度、圧力、及び時間条件のいずれかを用いて、完全に、又は部分的に硬化され得る。通常、プリプレグは、オートクレーブ中、160℃と190℃の間の温度で硬化され得るが、約175℃と185℃の間の硬化温度が好ましい。準等方性切断プリプレグ又は成形材料の圧縮成形は、好ましい方法である。準等方性切断プリプレグは、この準等方性切断プリプレグの樹脂成分が本発明に従って製造されること以外は、Hexcel Corporation(Dublin、カリフォルニア州)から入手できるHexMC(登録商標)圧縮成形材料と同じである。このような準等方性材料は、EP 113431 B1、及び米国特許出願第11/476965号に記載されている。
【0033】
以下は実施例である。
【実施例】
【0034】
(比較例1)
20.00gのMY600(トリグリシジルメタ−アミノフェノール)エポキシを、9.14gの3,3’−DDS及び1.02gの4,4’−DDS(これらは、高性能エポキシ樹脂を硬化させるために用いられる通常の硬化剤である)と混合して、比較エポキシ樹脂試料を調製した。エポキシ及び硬化剤を室温で一緒に混合し、得られる樹脂を、177℃で2時間硬化させて、硬化した樹脂試料を生成し、これらの試料をASTM D790に従って試験した。硬化した樹脂試料の曲げ弾性率は749ksiであった。曲げ強さは31.1ksiであり、破壊歪みは4.0%であった。硬化した樹脂のTは205℃であった。
【0035】
(比較例2)
21.20gのMY600エポキシを、9.86gのDABA硬化剤粉末(供給元から受け取った時のままの)と混合し、MY600:DABAの化学量論比を1:0.85として、比較エポキシ樹脂試料を調製した。DABA硬化剤粉末の粒径分布は図1に示されている。粉末のメジアン粒径は、約48ミクロンであり、平均粒径は約53ミクロンであった。約14パーセントの粒子は100と200ミクロンの間の粒径を有し、約8パーセントは、15ミクロン未満の粒径を有していた。約70%の粒子は、150ミクロンと30ミクロンの間の粒径を有していた。
【0036】
エポキシ及びDABA硬化剤粉末を室温で一緒に混合し、得られる樹脂を、177℃で2時間硬化させて、硬化樹脂試料を生成し、これらの試料をASTM D790に従って試験した。硬化した樹脂試料の曲げ弾性率は745ksiであった。曲げ強さは12.2ksiであり、破壊歪みは2.4%であった。硬化した樹脂試料のTは214℃であった。
【0037】
(比較例3)
3つの比較エポキシ樹脂試料(CA、CB及びCC)を、MY600エポキシと、様々な量のDABA硬化剤とを混合することによって調製した。比較例2におけるようにDABA硬化剤粉末をエポキシ樹脂に直接添加する代わりに、粉末を、樹脂に添加する前に、ジオキソランに溶かした。樹脂CAは、17.92gのMY600及び10.11gのDABAを含み、MY600:DABAの化学量論比は1:1であった。樹脂CBは、21.20gのMY600及び9.86gのDABAを含んでいた(1:0.85の化学量論比)。樹脂CCは、21.75gのMY600及び8.82gのDABAを含んでいた(1:0.75の化学量論比)。
【0038】
エポキシ及び溶かしたDABA粉末を室温で一緒に混合して、3つの比較混合物を生成した。溶媒を蒸発させるために、30インチHgの下で混合物を室温から50℃に約2時間加熱した。得られる樹脂(CA、CB及びCC)を177℃で2時間硬化させて、硬化した比較樹脂試料を生成させ、それらをASTM D790に従って試験した。硬化した樹脂試料の曲げ弾性率は、樹脂CAでは825ksi;樹脂CBでは863ksi;また樹脂CCでは816ksiであった。曲げ強さは、樹脂CAでは13.9ksi;樹脂CBでは17.4ksi;また樹脂CCでは19.2ksiであった。破壊歪みは、樹脂CAでは1.7%;樹脂CBでは2.0%;また樹脂CCでは2.4%であった。硬化した樹脂のTは、樹脂CA、CB及びCCでそれぞれ、202℃、219℃及び199℃であった。
【0039】
(例1)
3つの例示的エポキシ樹脂試料(A、B及びC)を、MY600エポキシと、様々な量のDABA硬化剤粉末を混合することによって調製した。比較例2におけるようにDABA硬化剤粉末をエポキシ樹脂に直接添加する代わりに、粉末を、最初に、400メッシュのスクリーンに通して、図2に示される粒径分布を有する粉末を得た。粉末のメジアン粒径は約15ミクロンであり、平均粒径は約16ミクロンであった。粒径が約100ミクロンを超えるものは全くなく、粒径が0.1ミクロン未満であるものは全くなかった。約3パーセントの粒子が50と100ミクロンの間の粒径を有し、約25パーセントの粒子が10ミクロン未満の径を有していた。約75%の粒子が、50ミクロンと10ミクロンの間の粒径を有していた。
【0040】
樹脂Aは、17.92gのMY600及び10.11gの粒径低下(reduced−size)DABAを含み、MY600:DABAの化学量論比は1:1であった。樹脂Bは、21.20gのMY600及び9.86gの粒径低下DABAを含んでいた(1:0.85の化学量論比)。樹脂Cは、21.75gのMY600及び8.82gの粒径低下DABAを含んでいた(1:0.75の化学量論比)。
【0041】
エポキシ及び粒径低下DABA粉末を室温で一緒に混合して、3つの例示的樹脂試料A、B及びCを生成した。得られる樹脂を177℃で2時間硬化させて、硬化した樹脂試料を生成し、それらを、ASTM D790に従って試験した。硬化した樹脂試料の曲げ弾性率は、樹脂Aでは794ksi;樹脂Bでは794ksi;また樹脂Cでは801ksiであった。曲げ強さは、樹脂Aでは27.7ksi;樹脂Bでは33.6ksi;また樹脂Cでは30.2ksiであった。破壊歪みは、樹脂Aでは4.6%;樹脂Bでは5.6%;また樹脂Cでは4.9%であった。硬化した樹脂のTgは、樹脂A、B及びCでそれぞれ、229℃、234℃及び227℃であった。
【0042】
上の例から分かるように、曲げ強さ及び破壊歪みは、比較例2及び3より例1で、かなり、また予想外に大きい。出願人の発明により、例1の粒径低下DABA硬化剤粉末により硬化されたエポキシ樹脂は、より大きな径のDABA粒子(比較例2)、又は比較例3に示されるより小さい径の粒子(すなわち、溶けたDABA粉末)により達成できないと思われる、曲げ強さ及び破壊歪みのレベルを達成することが見出された。本発明による粒径低下DABAにより硬化された樹脂の曲げ弾性率は、また、比較的高いレベルのままである。さらに、例示の樹脂のTは、比較樹脂のTよりも、予想外に高かった。
【0043】
本発明による樹脂(A、B及びC)は、比較例1に示される通常の硬化剤(3,3’−DDS、及び4,4’−DDS)により硬化されたエポキシ樹脂と同じ範囲にある、曲げ強さ及び破壊歪みのレベルを有する。さらに、本発明のDABAにより硬化された樹脂の曲げ弾性率は、比較例1に記載される通常の硬化剤により硬化された類似のエポキシ樹脂の曲げ弾性率と同じである、又はそれより大きい。
【0044】
こうして本発明の例示的実施形態を説明したが、含まれる開示は単なる例示であること、並びに、様々な他の代替、適応及び改変が本発明の範囲内でなされ得ることが、当業者によって認められるべきである。したがって、本発明は、前記の実施形態によって限定されず、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂成分;及び
4,4’−ジアミノベンズアニリドの粒子を含む硬化剤粉末;
を含み、該粒子の径が100ミクロン未満であり、また、メジアン粒径が20ミクロン未満である、未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記メジアン粒径が10ミクロンと20ミクロンの間である、請求項1に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂成分が三官能エポキシから実質的に構成される、請求項1に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
繊維支持構造体をさらに含む、請求項1に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ成分:前記4,4’−ジアミノベンズアニリドの化学量論比が、1.0:1.0と、1.0:0.7の間である、請求項1に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ成分:前記4,4’−ジアミノベンズアニリドの化学量論比が、約1.0:0.85である、請求項5に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化剤粉末の粒子の少なくとも70パーセントが、50ミクロン未満の粒径を有する、請求項1に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂成分が硬化した、請求項1に記載の硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂成分が硬化した、請求項4に記載の硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
少なくとも25ksiの曲げ強さ、及び少なくとも4.0パーセントの破壊歪みを有する、請求項8に記載の硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
エポキシ樹脂成分を準備するステップ;
4,4’−ジアミノベンズアニリドの粒子を含み、前記粒子の径が100ミクロン未満であり、また、メジアン粒径が20ミクロン未満である硬化剤粉末を準備するステップ;
未硬化エポキシ樹脂組成物を得るために、前記エポキシ樹脂成分及び前記硬化剤粉末を一緒に混合するステップ;
を含む、未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記メジアン粒径が10ミクロンと20ミクロンの間である、請求項11に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記エポキシ樹脂成分が三官能エポキシから実質的に構成される、請求項11に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記未硬化エポキシ樹脂組成物を繊維支持構造体と組み合わせるステップをさらに含む、請求項11に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記エポキシ成分:前記4,4’−ジアミノベンズアニリドの化学量論比が、1.0:1.0と、1.0:0.7の間である、請求項11に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記エポキシ成分:前記4,4’−ジアミノベンズアニリドの化学量論比が、約1.0:0.85である、請求項15に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
前記硬化剤粉末の粒子の少なくとも70パーセントが50ミクロン未満の粒径を有する、請求項11に記載の未硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
前記エポキシ樹脂成分を硬化させるさらなるステップを含む、請求項11に記載の硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項19】
前記エポキシ樹脂成分を硬化させるさらなるステップを含む、請求項14に記載の硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項20】
前記硬化したエポキシ樹脂組成物が、少なくとも25ksiの曲げ強さ、及び少なくとも4.0パーセントの破壊歪みを有する、請求項18に記載の硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−527515(P2012−527515A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511878(P2012−511878)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/033822
【国際公開番号】WO2010/135086
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(503308494)ヘクセル コーポレイション (15)
【Fターム(参考)】