説明

曲の符号化伝送のための方法および装置

【課題】 複数曲のサンプルデータを符号化し、その後、符号化データの復号および再生を行う場合において、無音期間を生じさせることなく複数曲の連続再生を行うことを可能にし、かつ、複数曲のうちの特定の曲からの再生も可能にする。
【解決手段】 符号化装置100は、複数曲の全サンプルデータ列を符号化してMP3フレームを生成するとともに、全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データを生成する。サーバ200は、複数曲における特定曲が要求された場合には、指示された曲に関連した区切り位置データとMP3フレームをクライアント300に送り、クライアント300ではMP3フレームを復号し、得られるサンプルデータ列のうち、指定された曲に属するサンプルデータを区切り位置データに基づいて選択して音声として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、曲の音声波形のサンプルデータを符号化して伝送し、これを受け取った側において音声として再生するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバがクライアントからの要求に応じて、音楽コンテンツを有線LAN、無線LANなどのネットワークを介して配信するコンテンツ配信システムが各種提供されている。このコンテンツ配信システムによれば、ユーザは自室に居ながらクライアントを介してサーバに要求を送り、この要求に応じてサーバから提供される音楽を楽しむことができる。この種のコンテンツ配信システムでは、通常、伝送を効率的に行うため、音声波形のサンプルデータを例えばMP3(MPEG−1 Layer 3)方式の符号化アルゴリズムにより圧縮符号化することにより得られた符号化データが音楽コンテンツとしてサーバに用意され、この符号化データがクライアントに配信される。この種のコンテンツ配信システムの一例として例えば非特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
【非特許文献1】ヤマハ・ミュージックキャスト(登録商標)カタログ 2003年8月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来のコンテンツ配信システムに関し、例えばライブ演奏のアルバムの全曲の音楽コンテンツをサーバからクライアントに送り、クライアント側において各音楽コンテンツを連続的に再生したいというニーズがある。通常、ライブ演奏では、曲と曲との合間でも音が発生しており、このライブ演奏を録音したCDを再生すると、そのような曲間の音も再生される。しかし、従来のコンテンツ配信システムにおいては、曲単位で符号化データを生成し、音楽コンテンツとして配信していた。従って、アルバムの各曲の音楽コンテンツをサーバからクライアントに送り、クライアント側において各曲を連続的に再生することができたとしても、再生される曲と曲との間に無音期間が生じ、CD再生に比べて、どうしても不自然な音楽になってしまう。その理由は次の通りである。
【0005】
MP3などの圧縮符号化アルゴリズムでは、所定数のサンプルデータを1フレームとし、このフレーム単位で圧縮符号化を行う。ここで、曲の先頭から所定数ずつサンプルデータを取り出して圧縮符号化を行うと、曲の終わりの部分では、1フレームに満たない数のサンプルデータが残る。この場合、一般的には、値が0のサンプルデータ(以下、ゼロデータという)を補充して1フレームを構成し、これを圧縮符号化する。従来のコンテンツ配信システムでは、このような圧縮符号化を曲単位で行い、音楽コンテンツとしてサーバに保存していた。従って、仮にクライアント側において複数曲分の符号化データを連続的に復号し再生することができたとしても、曲間においてゼロデータが再生され、無音区間が生じてしまうのである。この問題を解決するための一手段として、ライブ演奏のアルバムについては、曲単位でなく、アルバムの全曲のサンプルデータをひとまとめにし、これに圧縮符号化を施す、という方法も考えられる。しかし、この方法を採った場合、サーバには、アルバムの全曲をまとめて圧縮符号化した符号化データしかないので、必要なデータをクライアント側に送ってアルバム中の特定曲の再生あるいは特定曲以降の曲の再生を行わせることができないという問題が生じる。
【0006】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、複数曲のサンプルデータを符号化し、その後、符号化データの復号および再生を行う場合において、無音期間を生じさせることなく複数曲の連続再生を行うことを可能にし、かつ、複数曲のうちの特定の曲からの再生も可能にする音声の符号化および再生のための方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明は、複数曲の全サンプルデータ列から所定数ずつサンプルデータを取り出してフレーム化し、各フレームを符号化手段に与えて符号化データを生成するとともに、前記複数曲の全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データを生成し、前記複数曲における特定の曲の再生が指示された場合には、指示された曲に関連した区切り位置データに基づいて、指示された曲の再生のために必要な符号化データを特定して、特定した符号化データを復号手段に与え、前記復号手段から得られるサンプルデータ列のうち、指定された曲に属するサンプルデータを選択して音声として出力することを特徴とする曲の符号化伝送方法を提供する。
また、この発明は、サンプルデータを符号化し、符号化データを出力する符号化手段と、複数曲の全サンプルデータ列から所定数ずつサンプルデータを取り出してフレーム化し、各フレームを前記符号化手段に与えて符号化を行わせるとともに、前記複数曲の全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データを生成する制御手段と、前記符号化データおよび区切り位置データの少なくとも一部を出力する出力手段とを具備することを特徴とする符号化装置を提供する。
また、この発明は、複数曲の全サンプルデータ列から所定数ずつサンプルデータを取り出してフレーム化し、各フレームを符号化することにより得られた符号化データと、前記複数曲の全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データとを取得する入力手段と、前記入力手段により得られる符号化データを復号し、サンプルデータを出力する復号手段と、制御信号に応じて、前記復号手段から出力されるサンプルデータを音声として出力する音声出力手段と、前記複数曲における特定曲の再生が指示された場合に、前記入力手段により得られる当該特定曲に関連した区切り位置データに基づき、当該特定曲の開始位置に当たるサンプルデータが前記復号手段から出力されるタイミングを求め、当該開始位置以降のサンプルデータが前記音声出力手段から音声として出力されるように前記音声出力手段に制御信号を出力する制御手段とを具備することを特徴とする再生装置を提供する。
この発明によれば、複数曲のサンプルデータを符号化し、その後、符号化データの復号および再生を行う場合において、無音期間を生じさせることなく複数曲の連続再生を行うことができ、かつ、複数曲のうちの特定の曲からの再生をすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
図1はこの発明の一実施形態であるコンテンツ配信システムの構成を示すブロック図である。このコンテンツ配信システムは、音楽コンテンツの配信を行うシステムであり、符号化装置100と、サーバ200と、1または複数のクライアント300とを有する。
【0009】
符号化装置100は、各種の音楽のサンプルデータの圧縮符号化を行い、これにより得られる符号化データを音楽コンテンツとして出力する装置であり、制御部101と、記憶部102と、エンコーダ103と、出力部104とを有している。記憶部102は、符号化対象であるサンプルデータを記憶するエリアと、符号化により得られた音楽コンテンツを記憶するエリアとを有している。前者のエリアには、複数の曲のサンプルデータが記憶される。これらの各曲のサンプルデータの中には、ライブ録音により得られた複数曲のサンプルデータも含まれる。後者のエリアに記憶される音楽コンテンツの中には、元のサンプルデータに対応した符号化データのみを含むものもあるが、これ以外に、元のサンプルデータに対応した符号化データとともに区切り位置データを含むものがある。なお、この区切り位置データについては後述する。エンコーダ103は、制御部101による制御の下、記憶部102から読み出されるサンプルデータの圧縮符号化を行う装置である。本実施形態におけるエンコーダ103は、MP3方式の圧縮符号化アルゴリズムに従い、サンプルデータの圧縮符号化を行い、符号化データであるMP3フレームを出力する。出力部104は、制御部101からの指示に従い、記憶部102に記憶されたデータをネットワークを介して配信する、あるいはCDなどの記録媒体に記録する、といった態様で、音楽コンテンツの出力を行う装置である。
【0010】
制御部101は、符号化装置100のユーザからの指示に従い、記憶部102内の各曲のサンプルデータの符号化をエンコーダ103に行わせるための制御を行う。記憶部102内の1つの曲の符号化が指示された場合、制御部101は、その曲のサンプルデータを1152サンプルずつ記憶部102から読み出し、フレームとしてエンコーダ103に与え、エンコーダ103に各フレームの符号化を行わせ、この結果得られるMP3フレームを音楽コンテンツとして記憶部102に書き込む。一方、記憶部102内のデータのうち例えばライブ録音により得られた複数曲のサンプルデータの符号化が指示された場合、制御部101は、指示された複数曲分の全サンプルデータ列の符号化をエンコーダ103に行わせるとともに、指示された複数曲の各々について区切り位置データを生成し、エンコーダ103から得られるMP3フレームと区切り位置データとを音楽コンテンツとして記憶部102に書き込む。ここで、区切り位置データは、指示された複数曲分のサンプルデータ列全体における各曲の先頭のサンプルデータの位置、より具体的には先頭の曲の先頭のサンプルデータを1番として数えた各曲の先頭のサンプルデータの通し番号を表している。制御部101は、このようにして記憶部102に格納された音楽コンテンツを、ユーザからの指示に従い、出力部104から出力させる。
【0011】
サーバ200は、LANなどのネットワークを介して、1または複数のクライアント300と接続されている。サーバ200は、クライアント300からの要求に応じて、音楽コンテンツの配信を行う装置であり、制御部201と、記憶部202と、バッファ203と、ネットワークインタフェース204とを有している。記憶部202には、予め符号化装置100から取得された音楽コンテンツが格納される。バッファ203は、クライアント300宛に送信する音楽コンテンツのMP3フレームを一時的に記憶するための装置である。ネットワークインタフェース204は、クライアント300との間の通信の制御を行う装置である。
【0012】
制御部201は、クライアントからの配信要求に応じて、要求された音楽コンテンツを記憶部202から読み出し、バッファ203およびネットワークインタフェース204を介して送信する。本実施形態では、1つの曲のみからなる音楽コンテンツの配信要求がクライアント300から与えられる場合と、複数曲からなるアルバムなどの音楽コンテンツの配信要求がクライアント300から与えられる場合とがある。そして、後者の配信要求は、さらに3種類に分けることができる。第1の配信要求は、アルバム全曲の配信要求であり、第2の配信要求は、アルバムの中の特定の曲の配信要求であり、第3の配信要求は、アルバムの中の特定の曲以降の全曲の配信要求である。
【0013】
第1の配信要求が与えられた場合、制御部201は、要求されたアルバムの音楽コンテンツを記憶部202から読み出し、この音楽コンテンツにおける一連のMP3フレームをクライアント300に送る。一方、第2の配信要求が与えられた場合、制御部201は、要求された特定の曲を含むアルバムの音楽コンテンツを記憶部202から読み出す。そして、制御部201は、この音楽コンテンツの中の区切り位置データを参照することにより、クライアント300側での特定の曲の再生に必要なMP3フレームを音楽コンテンツ内の全MP3フレームの中から選択する。また、制御部201は、この音楽コンテンツの中の区切り位置データを参照することにより、クライアント300側において復号されたサンプルデータの出力期間の制御に必要なタイミングデータNonおよびNoffを作成する。そして、制御部201は、クライアント300に対し、タイミングデータNonおよびNoffを送り、これに続けて、選択したMP3フレームを送る。第3の配信要求が与えられた場合、制御部201は、クライアント300側での特定曲以降の再生に必要なMP3フレームと、タイミングデータNonのみをクライアント300に送る。なお、MP3フレームの選択方法と、タイミングデータNonおよびNoffの作成方法とについては、説明の重複を避けるため、本実施形態の動作説明において詳細を明らかにする。
【0014】
クライアント300は、ユーザの操作に従ってサーバ200に音楽コンテンツの配信要求を送り、これに応じてサーバ200から配信されてくる音楽コンテンツを再生する装置であり、制御部301と、操作部302と、表示部303と、ネットワークインタフェース304と、バッファ305と、デコーダ306と、音声出力部307とを有している。操作部302は、キーパッドなどの操作子を備え、それらの操作情報を制御部301に伝える。表示部303は、制御部301からの指示に従い、各種の情報を表示する装置である。ネットワークインタフェース304は、サーバ200との間の通信の制御を行う装置である。バッファ305は、ネットワークインタフェース304を介してサーバ200から受信されるMP3フレームを一時的に記憶する装置である。デコーダ306は、バッファ305内のMP3フレームを順次読み出して復号し、サンプルデータを出力する装置である。音声出力部307は、デコーダ306から出力されるサンプルデータをアナログ信号に変換するD/A変換器、D/A変換器から出力されるアナログ信号のレベル調整を行う増幅器、増幅器の出力信号を音として出力するスピーカとにより構成されている。制御部301は、操作部302から与えられる操作情報に従い、サーバ200に音楽コンテンツの配信要求を送る制御と、この配信要求に応じてサーバ200から送られてくる音楽コンテンツの再生制御を行う装置である。
【0015】
次に本実施形態の動作について説明する。
まず、ライブ録音により得られた複数曲のサンプルデータの符号化が指示された場合における符号化装置100の動作について説明する。まず、制御部101は、指示された複数曲のうち最初の曲のサンプルデータ列から1152サンプルずつ取り出してフレームとし、各フレームをエンコーダ103に与え、この結果、エンコーダ103から得られるMP3フレームを記憶部202に書き込む。
【0016】
ここで、1つの曲のサンプルデータのサンプル数が1152の整数倍でない場合、その曲のサンプルデータ列から最後に取り出されるサンプルデータのサンプル数は、1フレームを構成するのに必要な1152サンプルに満たない。そこで、制御部101は、2曲目の先頭のサンプルデータを補充することによってこの不足を補い、1曲目の最後の部分のサンプルデータと2曲目の先頭部分のサンプルデータとからなる1152サンプルのサンプルデータをフレームとし、エンコーダ103に与え、この結果得られるMP3フレームを記憶部102に書き込む。
【0017】
また、この時、制御部101は、2曲目の先頭のサンプルデータが1曲目の先頭のサンプルデータから数えて何サンプル目に当たるのかを示す区切り位置データN2を記憶部102に書き込む。以上と同様の処理を2曲目、3曲目およびそれ以降の曲についても行う。
【0018】
そして、制御部101は、最後の曲のサンプルデータ列から最後にサンプルデータを取り出したとき、取り出したサンプル数が1152に満たない場合には、その不足分相当のゼロデータを補って1152サンプルのサンプルデータからなるフレームを構成し、このフレームをエンコーダ103に与え、この結果得られるMP3フレームを記憶部102に書き込む。以上の処理により、記憶部102には、図2に示すように、2番目〜m番目(最後の曲)の各曲の先頭のサンプルデータの位置を示す区切り位置データN2〜Nmと、m曲分のサンプルデータ列をひとまとめにしたサンプルデータ列から得られたMP3フレーム群からなる音楽コンテンツが得られる。
【0019】
本実施形態では、このようにして得られた音楽コンテンツが符号化装置100からサーバ200に供給され、記憶部202に格納される。なお、音楽コンテンツは、ネットワーク経由で符号化装置100からサーバ200に供給するという態様で供給してもよいし、符号化装置100において音楽コンテンツをCDなどの記録媒体に書き込み、この記録媒体をサーバ200に読み込ませるという態様で供給してもよい。
【0020】
次に、このようにしてサーバ200の記憶部202にアルバムの音楽コンテンツが格納された後、このアルバムの全曲の配信要求がクライアント300から与えられたとする。この場合、サーバ200の制御部201は、要求されたアルバムの音楽コンテンツを記憶部202から読み出し、同音楽コンテンツ内のMP3フレームをクライアント300に順次送信する。クライアント300では、このMP3フレームがバッファ305に蓄積された後、デコーダ306によってサンプルデータに復号され、音声出力部307から音として出力される。この場合において、デコータ306では、各曲のつなぎ目部分においてゼロデータが復号されないため、ユーザは、不自然な無音区間のないライブ演奏を楽しむことができる。
【0021】
次に上記アルバムにおけるk番目の曲の配信要求がクライアント300からサーバ200に与えられた場合の動作を説明する。
この場合、サーバ200の制御部201は、要求された曲を含むアルバムの音楽コンテンツを記憶部202から読み出し、その中に含まれるk番目の曲の区切り位置データNkおよびNk+1番目の曲の区切り位置データとをタイミングデータNonおよびNoffとしてクライアント300に送る。次に制御部201は、送信すべきMP3フレームの先頭のもののフレーム番号Fsと最後のもののフレーム番号Feとを次式により求め、アルバムの音楽コンテンツの全MP3フレームの中からフレーム番号Fs〜Feの各MP3フレームを順次取り出し、クライアント300に送る。
Fs=Int(Nk/1152)+1 ……(1)
Fe=Int(Nk+1/1152)+1 ……(2)
【0022】
図2(b)は、以上のようにしてクライアント300に送られるタイミングデータNonおよびNoffと、フレーム番号Fs〜FeのMP3フレームを示している。図2(b)に示すように、送信されるMP3フレームのうち最初のものは、k番目の曲の最初のサンプルデータを含むフレームに対して数フレーム(例えばjフレームとする)だけ前のMP3フレームであり、送信されるMP3フレームのうち最後のものは、k+1番目の曲の最初のサンプルデータを含むフレームに対応したMP3フレームとなる。ここで、必要なフレーム数jは、曲、ビットレートに依存するが、クライアント側ではフレーム番号FsのMP3フレームを解析すれば必要なフレーム数jを計算することができる。なお、クライアント300からアルバムの最後の曲の配信要求が与えられる場合もある。この場合には、該当するMP3フレームとタイミングデータNonのみがクライアント300に送られ、タイミングデータNoffは送られない。
【0023】
タイミングデータNonおよびNoffとフレーム番号Fs〜FeのMP3フレームとを受け取ったクライアント300側では、次の動作が行われる。
まず、サーバ200から受信されたタイミングデータNonおよびNoffは、ネットワークインタフェース304を介して制御部301に送られる。また、サーバ200から受信されるMP3フレームは、ネットワークインタフェース304を介してバッファ305に蓄積される。
制御部301は、タイミングデータNonおよびNoffを受け取ると、次式に従い、タイミングデータTonおよびToffを求める。
Ton=mod(Non/1152)+1152×j ……(3)
Toff=Noff−Non+Ton ……(4)
【0024】
再生開始に先立ち、制御部301は、音声出力部307に音声出力のミュートを指示する。音声出力部307は、この指示に従い、D/A変換部の後段の増幅器を出力禁止状態にする。
【0025】
バッファ305にある程度の量のMP3フレームが蓄積された時点で、制御部301は、デコード処理の開始をデコーダ306に指示する。これによりデコーダ306は、バッファ305内のフレーム番号Fs〜Feの各MP3フレームを順次取り出し、デコード処理を行い、図2(c)に示すように、一定のサンプリングレートで、サンプルデータを出力する。制御部301は、このデコーダ306から出力されるサンプルデータの個数をカウントする。j個のMP3フレームのデコードが行われ、1152×j個のサンプルデータが出力された後、さらにj+1番目のMP3フレームのデコードが始まると、やがてサンプルデータのカウント値は、タイミングデータTonが示す値に到達する。この時点で制御部301は図2(d)に示すように音声出力部307にミュート解除を指示する。この結果、アルバムにおけるk番目の曲の最初のサンプルデータから始まる一連のサンプルデータが音声出力部307から音として出力される。
【0026】
制御部301は、その後もサンプルデータの個数のカウントを続ける。そして、デコーダ306によりフレーム番号FeのMP3フレームのデコードが行われ、そのフレームのサンプルデータの出力が始まると、やがてサンプルデータのカウント値は、タイミングデータToffが示す値に到達する。この時点で制御部301は、図2(d)に示すように音声出力部307にミュートを指示する。従って、k番目の曲の最後のサンプルデータが音として出力された後は、音声出力部307による音声出力は停止する。
【0027】
次に上記アルバムにおけるk番目以降の全曲の配信要求がクライアント300からサーバ200に与えられた場合の動作を説明する。
この場合、k番目以降の全曲の再生に必要なMP3フレームと、タイミングデータTonのみがサーバ200からクライアント300へ送られ、クライアント300ではk番目の曲の最初のサンプリングデータが復号されるタイミングに合わせて音声出力部307におけるミュートが解除され、k番目以降の全曲が再生される。
【0028】
以上のように本実施形態によれば、ライブ演奏のアルバムなどの複数曲の音楽コンテンツをクライアントに供給し、クライアント側において曲間の無音期間を生じさせることなく再生することができる一方、そのような複数曲の中の特定の曲の配信要求があった場合でも、その曲の再生に必要なMP3フレームをクライアントに送り、クライアント側においてその曲の開始点から終了点までの部分を正確に再生することができる。
【0029】
また、本実施形態では、アルバムにおけるk番目の曲の配信をする場合に、そのk番目の曲の最初のサンプルデータを含むフレームのjフレーム前のフレームのMP3フレームから配信を行った。これは、MP3の圧縮符号化アルゴリズムでは、あるフレームの符号化を行う場合において、音質向上を意図し、音の情報量が多いと判断した場合には、その前のMP3フレームのビットを借りて圧縮符号化を行う、いわゆるビット借りが行われるのを考慮したものである。本実施形態では、k番目の曲の最初のサンプルデータを含むフレームに対応したMP3フレームではなくその数フレーム前のMP3フレームからクライアント300に送り、その復号を行わせるので、ビット借りが行われている場合でもk番目の曲の最初のサンプルデータを含むフレームを正確に復号することができる。
【0030】
本発明の実施形態として、以上説明したものの他にも各種の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
(1)曲間の区切りにおいてフェードインおよびフェードアウトを行う実施形態
曲の切り換え時点においては、音声波形のスペクトル分布が急激に変化する。このため、複数曲のサンプルデータ列をひとまとめにして符号化を行うと、この符号化により得られた符号化データを復号して音として再生した場合における曲の切り換え時点と実際の曲の切り換え時点との間に微妙なずれが生じることがある。本実施形態は、区切り位置データを利用することにより、この不都合を回避するものである。
【0031】
本実施形態において、クライアント300では、区切り位置データに基づいて、曲の開始タイミングと終了タイミングを把握し、曲の開始タイミングから所定期間、音声出力部307における増幅器の利得を徐々に高めて音声出力のフェードインを行い、曲の終了タイミング手前の所定期間、音声出力部307における増幅器の利得を徐々に低下させ、音声出力のフェードアウトを行う。このフェードイン/フェードアウトは、アルバムの中の特定曲をクライアント300において再生する場合と、例えば1曲目と3曲目という具合に不連続な曲の再生を行う場合に行われる。
【0032】
(2)CDなどの再生装置としての実施形態
本発明の実施の形態として、CDなどの再生装置もあり得る。図3は、本実施形態に係るCD再生装置の構成を示すブロック図である。この図において、操作部402、表示部403、バッファ405、デコーダ406および音声出力部407は、図1のクライアント300内に設けられたものと同様の構成のものである。CD読み取り部404は、CDに記録されたデータを読み取る装置である。本実施形態におけるCD読み取り部404には、図2に示すような区切り位置データとMP3フレームが記録されたCDが装填される。なお、以下では、このCDにライブ演奏から得られた複数曲分の区切り位置データとMP3フレームが記録されているものとする。
【0033】
制御部401は、操作部402を介して、CDに収録されている複数曲のうちのk番目の曲の再生の指示を受け取ると、CD読み取り部404を介して、区切り位置データを取得し、上記第1実施形態と同様の方法により、k番目の曲の再生に必要なタイミングデータTonおよびToffとフレーム番号Fs〜Feを求める。そして、制御部401は、フレーム番号Fs〜FeのMP3フレームの読み取りをCD読み取り部404に指示する。この結果、指示されたMP3フレームがCDから順次読み出され、バッファ405に蓄積される。制御部401は、ある程度の分量のMP3フレームがバッファ405に蓄積された時点でデコーダ406に復号開始を指示する。その後、制御部401は、デコーダ406から出力されるサンプルデータの個数をカウントし、カウント値がTonになった時点で音声出力部407にミュート解除を指示し、カウント値がToffになった時点で音声出力部407にミュートを指示する。
【0034】
CD再生装置には、k番目以降の全曲の再生指示が与えられる場合もある。この場合の動作は、タイミングデータToffの生成およびこのタイミングデータToffに基づくミュート指示が行われない点を除く、k番目の曲の再生指示が与えられた場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の一実施形態であるコンテンツ配信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態の動作を示すタイムチャートである。
【図3】この発明の他の実施形態であるCD再生装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
100……符号化装置、101……制御部、102……記憶部、103……エンコーダ、104……出力部、200……サーバ、201……制御部、202……記憶部、203……バッファ、204……ネットワークインタフェース、300……クライアント、301……制御部、302……操作部、303……表示部、304……ネットワークインタフェース、305……バッファ、306…デコーダ、307……音声出力部、400……クライアント、401……制御部、402……操作部、403……表示部、404……CD読み取り部、405……バッファ、406…デコーダ、407……音声出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数曲の全サンプルデータ列から所定数ずつサンプルデータを取り出してフレーム化し、各フレームを符号化手段に与えて符号化データを生成するとともに、前記複数曲の全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データを生成し、
前記複数曲における特定の曲の再生が指示された場合には、指示された曲に関連した区切り位置データに基づいて、指示された曲の再生のために必要な符号化データを特定して、特定した符号化データを復号手段に与え、前記復号手段から得られるサンプルデータ列のうち、指定された曲に属するサンプルデータを選択して音声として出力する
ことを特徴とする音声の符号化および再生を行う方法。
【請求項2】
サンプルデータを符号化し、符号化データを出力する符号化手段と、
複数曲の全サンプルデータ列から所定数ずつサンプルデータを取り出してフレーム化し、各フレームを前記符号化手段に与えて符号化を行わせるとともに、前記複数曲の全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データを生成する制御手段と、
前記符号化データおよび区切り位置データの少なくとも一部を出力する出力手段と
を具備することを特徴とする符号化装置。
【請求項3】
複数曲の全サンプルデータ列から所定数ずつサンプルデータを取り出してフレーム化し、各フレームを符号化することにより得られた符号化データと、前記複数曲の全サンプルデータ列における曲間の区切り位置を示す区切り位置データとを取得する入力手段と、
前記入力手段により得られる符号化データを復号し、サンプルデータを出力する復号手段と、
制御信号に応じて、前記復号手段から出力されるサンプルデータを音声として出力する音声出力手段と、
前記複数曲における特定曲の再生が指示された場合に、前記入力手段により得られる当該特定曲に関連した区切り位置データに基づき、当該特定曲の開始位置に当たるサンプルデータが前記復号手段から出力されるタイミングを求め、当該開始位置以降のサンプルデータが前記音声出力手段から音声として出力されるように前記音声出力手段に制御信号を出力する制御手段と
を具備することを特徴とする再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−30577(P2006−30577A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209111(P2004−209111)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】