説明

曳航体の位置制御方法とその装置

【課題】 曳航体を目標位置まで正確に誘導制御することが可能な曳航体の位置制御方法を提供すること。
【解決手段】 トロール船52に備えたオートパイロット機能で設定する針路や船首方位の設定値を、トロール網51から見た目標位置Tへの方向と等しく設定することにより、このトロール網51の位置制御を行って目標位置Tまで自動誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロール船のトロール網や海洋調査船の水中観測器等、自身でアクチュエータを持たない水中の曳航体を目標位置へ誘導する位置制御方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、トロール船のトロール網や海洋調査船の水中観測器等(この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、これら水中を曳航するものを総称して、「曳航体」という。)は、船舶で水中を曳航されている。このような曳航体は、船舶から繰り出されたロープ(この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「ロープ」は、つな、ワイヤロープ等の「索」を全て含む。)で水中を曳航されている。以下、このような曳航体として、トロール船によって曳航されるトロール網を例にして説明する。
【0003】
図3は、トロール船によって曳航されるトロール網の一例を示す概略平面図である。図示するように、前記トロール網51は、トロール船52(船舶)に設けられたウインチ53L,53Rから繰り出されたロープ54L,54Rによって曳航されている。このロープ54L,54Rは、ウインチ53L,53Rによって所定の長さに制御されている。ウインチ53L,53Rは、一般的に油圧駆動のアクチュエータ55L,55Rによって駆動されている。
【0004】
また、トロール網51の場合、通常、その前面を開くための拡網具56L,56R(以下、「オッターボード」という。)を介してトロール船52によって曳航されている。オッターボード56L,56Rは、水流を受けてトロール網51の前面を開くような力を発生させる形状となっている。このオッターボード56L,56Rをトロール船52から繰り出されたロープ54L,54Rで曳くことにより、トロール網51は前面が開いた状態を保ちながら曳航される。
【0005】
このトロール網51を、トロール船52に設けられた魚群探知機等で探知された魚群等の位置に近づけるように位置を制御する場合、トロール網51の位置を音響センサ等によって監視しながら、そのトロール網51が目標位置に近づくように手動で操船している。
【0006】
なお、この種の従来技術として、トロール操業時に発見魚群と自船のトロール漁具との相対位置を一つの画面上に表示させる漁具動態監視手段から得られる情報に対応して、自動定点保持手段でトロール漁具を魚群の漁獲に適した位置に配置させ、この自動定点保持手段による制御に連動してトロール漁具を投揚するオートトロールウインチ手段を設けたオートトロールシステムがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−46034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記したようなトロール網51の位置制御は、操船者がトロール網51の姿勢を想定しながら行う操船であり、操船者の経験や技量に頼る熟練を要するものである。そのため、近年の人手不足により、安定した操船が難しくなっている。しかも、このような操船者の経験や技量に頼る操船は、近年の省力化を推進する上でも妨げになっている。
【0008】
このようなことから、操船者の経験や技量に頼ることなく、トロール網51(曳航体)を目標位置へ安定して誘導できる位置制御方法や装置が切望されている。
【0009】
なお、前記特許文献1に記載の発明によれば、魚群、自船、漁具を一つのモニタ上に表示することにより適切に漁具を誘導することができるが、漁具を魚群まで自動誘導するアルゴリズムは開示されていない。
【0010】
そこで、本発明は、曳航体を目標の位置まで安定して誘導制御することが可能な曳航体の位置制御方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明に係る曳航体の位置制御方法は、オートパイロット機能を備えた船舶で水中を曳航する曳航体の位置制御方法であって、前記オートパイロット機能で設定する方位の設定値を、前記曳航体から見た目標位置方向の方位と等しく設定して該曳航体を船舶で目標位置まで誘導するようにしている。これにより、操船者の経験や技量に頼ることなく、水中の曳航体を目標の位置まで正確に誘導制御することが容易に可能となり、省力化や人手不足の解消を図ることができる。
【0012】
また、前記曳航体が目標位置まで所定の距離に近づいたら、該曳航体と目標位置との所定距離を保った仮想目標位置を該目標位置上に設定するとともに、該曳航体と目標位置とを結ぶ方向に仮想直線を設定し、前記仮想目標位置と曳航体との所定距離を保ちながら該仮想目標位置を前記仮想直線の方向に移動させながら前記曳航体を船舶で目標位置まで誘導するようにしてもよい。これにより、目標位置に近づいた時に曳航体位置の微小変化に対して曳航体から見た目標位置方向の大きな変化を抑えることができ、ひいては船首方位の大きな変化を抑えることができる。
【0013】
一方、本発明に係る曳航体の位置制御装置は、オートパイロット機能を備えた船舶で水中を曳航する曳航体の位置制御装置であって、前記オートパイロット機能で設定する方位の設定値を前記曳航体から見た目標位置方向の方位と等しく設定する制御装置を設け、該制御装置に、該制御装置で設定した方位に船舶を航行させて前記曳航体を目標位置まで誘導する機能を備えさせている。この装置によっても、操船者の経験や技量に頼ることなく、水中の曳航体を目標の位置まで正確に誘導制御することが容易に可能となり、省力化や人手不足の解消を図ることができる。
【0014】
また、前記制御装置に、前記曳航体が目標位置まで所定の距離に近づいたら、該曳航体と目標位置との所定距離を保った仮想目標位置を該目標位置上に設定するとともに、該曳航体と目標位置とを結ぶ方向に仮想直線を設定する機能と、前記仮想目標位置と曳航体との所定距離を保ちながら該仮想目標位置を前記仮想直線の方向に移動させながら前記曳航体を船舶で目標位置まで誘導する機能とを備えさせてもよい。この装置によっても、目標位置に近づいた時に曳航体位置の微小変化に対して曳航体から見た目標位置方向の大きな変化を抑えることができ、ひいては船首方位の大きな変化を抑えることができる。
【0015】
さらに、前記曳航体がトロール網であり、前記船舶がトロール船であれば、トロール網を魚群位置まで誘導制御することが安定してできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上説明したような手段により、操船者の経験や技量に頼ることなく、曳航体を目標の位置まで安定して誘導制御することが可能となり、省力化や人手不足の解消を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る位置制御装置を備えたトロール船の制御を模式的に示す平面図であり、図2は、図1に示すトロール船が目標位置に近づいた後の制御を模式的に示す平面図である。この実施の形態でも、曳航体としてトロール船で曳航されるトロール網を例に説明する。また、トロール船(船舶)には、ジャイロコンパス式オートパイロットや、マグネットコンパス式オートパイロット等のオートパイロット(針路や船首方位の自動制御機能)が備えられているものとして説明する。なお、以下の説明における角度は、北方向Nを基準とした角度(方位)によって説明する。また、以下の説明において、前記図3に示す構成と同一の構成には同一符号を付して説明する。
【0018】
図1に示す平面視の状態において、船体位置観測装置は、GPS(global positioning system) 信号を受信して自船(トロール船52)の位置が観測されており、トロール網51の網口中央部の位置は、音響センサによって自船からの相対位置が計測され、これと自船位置とを合わせて計算することにより得られている。また、目標位置Tは、この実施の形態では、トロール船52を例にしているので、魚群探知機で船の前方の魚群を探知し、その魚群の位置を目標位置T(以下の説明では、「位置T」ともいう。)として位置制御装置1に入力されている。
【0019】
この状態で目標位置Tがトロール網51から遠い場合には、トロール網51から見た目標位置方向Lの方位がγnのとき、曳航しているトロール船52のオートパイロットの設定方位ψsetをγnと等しく設定する。そして、その状態でロープ54によってトロール網51を曳航することにより、トロール網51を目標位置Tの近くまで誘導する。
【0020】
このようにしてトロール網51を目標位置Tに向けて曳航している時には、トロール網51が潮流等の外力によって前記目標位置方向Lから外れるが、トロール網51と目標位置Tとの位置が常時観測され、この観測値に基いてトロール網51と目標位置Tとを結ぶ目標位置方向Lに補正が加えられる。そして、その目標位置方向Lの方位γnにトロール船52の設定方位ψsetが等しく設定されるので、トロール網51は目標位置Tに向けて誘導されるように補正される。このように、トロール網51と目標位置Tとを結ぶ目標位置方向Lは常時補正され、その補正された目標位置方向Lの方位γnに等しく設定されるトロール船52の設定方位ψsetも常時補正されることにより、トロール網51が誘導制御されている。
【0021】
そして、図2に示すように、トロール網51が目標位置Tに近づいて、トロール網51と目標位置Tとが所定距離Rになると、その時のトロール網51と目標位置Tとを結ぶ目標位置方向Lに目標位置Tを超える仮想直線ILが設定されるとともに、その時の目標位置T上に仮想目標位置ITが設定される。その後、トロール船52で曳航されるトロール網51が目標位置Tに近づくと、その近づいた分だけ前記所定距離Rを保ちながら仮想目標位置ITを仮想直線ILに沿って遠ざけるように移動させ、トロール網51と仮想目標位置ITとの所定距離Rを一定に保ちながらトロール網51を目標位置Tまで誘導する誘導制御が行われる。
【0022】
このように、トロール網51が目標位置Tに距離Rまで近づいた後の制御を行うことにより、トロール網51の位置が微小変化することにより目標位置Tとの角度γn(=ψset)が大きく変化するのを防いでいる。つまり、トロール網51が目標位置Tに近づくことにより、トロール網51の位置が微小変化しても目標位置方向Lの角度γnは大きく変化するので、その角度γnと等しくなるように設定される設定方位ψsetの誘導制御の感度が大きく増加してしまうのを防いでいる。前記所定距離Rとしては、船と網との相対距離やロープ長に応じて設定される。そして、トロール網51がオリジナルの目標位置Tを通過した時点で誘導制御は終了する。
【0023】
以上のように構成された曳航体の位置制御装置1によれば、オートパイロット等の針路や船首方位の自動制御機能を備えた船舶において、方位設定値をトロール網51から見た目標位置T方向への方位と等しく設定することにより、トロール網51を目標位置Tまで安定して誘導することができる。しかも、オートパイロット付きのトロール船52(船舶)でトロール網51(曳航体)の位置が計測できれば、簡単にシステムを構築することができ、水中の曳航体の位置制御を自動化することも可能である。
【0024】
また、前記実施の形態ではトロール船52によって曳航されるトロール網51を例に説明したが、観測機器を曳航して海底の形状等を観測したい場合等も、観測機器で観測したい通過点等の目標位置Tを設定し、観測機器から見た目標位置方向Lの方位を設定してその方位と等しく方位設定値を設定すれば、前記実施の形態と同様に誘導制御することができ、曳航する曳航体は前記実施の形態に限定されるものではない。
【0025】
なお、前記実施の形態におけるオートパイロットは、船舶が定められた命令針路または船首方位で航行しているときに外乱が作用して命令針路または船首方位からはずれたとしても、舵や推進方向を変更する旋回式プロペラ等を使って進路方向または船首を命令針路または船首方位に戻す機能を備えていれば、他の構成であってもよい。また、前記実施の形態では北方向Nを基準とする方位として説明したが、基準となる方向は北に限定されるものではない。
【0026】
さらに、前述した実施の形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る曳航体の位置制御方法は、水中の曳航体を目標位置まで曳航する時の操船を簡便に自動化したい場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態に係る位置制御装置を備えたトロール船の制御を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示すトロール船が目標位置に近づいた後の制御を模式的に示す平面図である。
【図3】トロール船によって曳航されるトロール網の一例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…位置制御装置
T…目標位置
L…目標位置方向
R…所定距離
IT…仮想目標位置
IL…仮想直線
51…トロール網
52…トロール船
54…ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートパイロット機能を備えた船舶で水中を曳航する曳航体の位置制御方法であって、
前記オートパイロット機能で設定する方位の設定値を、前記曳航体から見た目標位置方向の方位と等しく設定して該曳航体を船舶で目標位置まで誘導することを特徴とする曳航体の位置制御方法。
【請求項2】
前記曳航体が目標位置まで所定の距離に近づいたら、該曳航体と目標位置との所定距離を保った仮想目標位置を該目標位置上に設定するとともに、該曳航体と目標位置とを結ぶ方向に仮想直線を設定し、
前記仮想目標位置と曳航体との所定距離を保ちながら該仮想目標位置を前記仮想直線の方向に移動させながら前記曳航体を船舶で目標位置まで誘導する請求項1に記載の曳航体の位置制御方法。
【請求項3】
オートパイロット機能を備えた船舶で水中を曳航する曳航体の位置制御装置であって、
前記オートパイロット機能で設定する方位の設定値を前記曳航体から見た目標位置方向の方位と等しく設定する制御装置を設け、該制御装置に、該制御装置で設定した方位に船舶を航行させて前記曳航体を目標位置まで誘導する機能を備えさせたことを特徴とする曳航体の位置制御装置。
【請求項4】
前記制御装置に、
前記曳航体が目標位置まで所定の距離に近づいたら、該曳航体と目標位置との所定距離を保った仮想目標位置を該目標位置上に設定するとともに、該曳航体と目標位置とを結ぶ方向に仮想直線を設定する機能と、
前記仮想目標位置と曳航体との所定距離を保ちながら該仮想目標位置を前記仮想直線の方向に移動させながら前記曳航体を船舶で目標位置まで誘導する機能とを備えさせた請求項3に記載の曳航体の位置制御方法。
【請求項5】
前記曳航体がトロール網であり、前記船舶がトロール船である請求項3又は請求項4に記載の曳航体の位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247104(P2008−247104A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88740(P2007−88740)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)