説明

最大変位記憶装置及びその利用

【課題】使用する歪センサの可伸長さに制限されない実用的な最大変位記憶装置を提供する。
【解決手段】最大歪を記憶できる歪センサ10と、歪センサ10に力学的に直列に連結され弾性変形する弾性変形体20とを備える最大変位記憶装置2とする。この装置2は、歪センサ10の可伸長さに制限されることなく、検出可能な最大変位を記憶することができるため、検出可能な最大変位が大きくかつコンパクトな最大変位記憶装置を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大どの程度変位したかを記憶できる装置及び当該装置の利用に関し、地震などの不測の事態発生後において、該事態により生じた変位を記憶し必要に応じて簡易に最大変位を検出できる最大変位記憶装置及びその利用に関する。また、本発明は、動的繰り返し荷重を長期にわたって受ける橋梁等の社会基盤構造物(インフラストラクチャー)の長期的なひび割れ幅増加等を記憶し、管理者の必要に応じ簡易に検出できる最大変位記憶装置及びこれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
地震などの動的な不測事態の発生後には、各所において迅速に発生前の機能が復旧される必要がある。こうした場合、災害を受けた機器や部材が破損していないかどうか、本来の機能を発揮できるかどうかを確認する必要がある。しかし、不測の事態による過大な変位や歪は、機器や部材自体の復元力により外形的には変位前の状態に戻ってしまう場合や機器内部における破損等は外部から確認できない場合がほとんどである。このような状態を検知することなくそのまま作動を開始すれば、これらの機器等を破損するなど意図しない事態が生じるおそれがある。
【0003】
また、橋梁等、動的繰り返し荷重を長期にわたって受ける社会基盤構造物(インフラストラクチャー)は、近年の社会投資額の減少と相まって老朽化が進行している。動的長期荷重を受ける構造物、例えば橋梁床板では、コンクリートの疲労破壊が進行し、放置すれば床板の破壊に至る。鉄筋コンクリート製床板の疲労破壊の進行は、コンクリートに発生するひび割れのパターン、ひび割れ本数、ひび割れ幅によって推定できることが分っている。したがってこれら構造物の管理は、定期的な目視検査によりひび割れ発生状況を観察・記録し、またひび割れ幅を計測するなどして、疲労破壊の進行状況を推定し、状況によっては適宜補修・補強等を行う等の手段によっているが、このために要する維持管理費用の増加も社会問題となってきている。
【0004】
最大歪を検出する最大歪センサとしては、シート状やロッド状等各種の形態のものが既に提案されている(文献1、2)。また、最大変位を記憶し、必要時に簡易に最大変位を取得できる最大変位記憶装置も提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−264159号公報
【特許文献2】特開2005−337819号公報
【特許文献3】特開2006−308414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献3には、シート状センサについては、板バネ等の弾性変形体の歪発生面に装着して使用する最大変位記憶装置が提案されている。しかしながら、これらの装置では、板バネの長さによって計測できる最大変位が決まる。板バネ長さによって歪センサによって検出できる最大ひずみが決まっている。すなわち、シート状センサで検出できる歪範囲は数百μ(μは10−6を表す)から10000μ程度であるため、計測したい変位に応じて板バネの長さを決めなければならない。なぜならば、長い板バネと短い板バネとの先端に同一の曲げ変形(例えば1cm)を与えた場合、シート状センサを装着する板バネ固定端に近い部分の曲げ引張り歪は、長い板バネの方が短い板バネよりも小さくなるからである。従って、長い板バネで小さな変形を計測しようとすれば、センサの検出可能歪範囲の下限に近づき精度が落ち、逆に短い板バネで大きな変形を計測しようとすれば、センサの検出可能歪範囲の上限を超えてしまう。
【0006】
以上のことから、板バネを用いた場合、大きな変形を計測するためには長い板バネを用いる必要がある一方、逆に小さな変形に対して長い板バネを用いると、検出ひずみが小さく、検出精度が落ちてしまうといった不具合があった。また、小さな変位から大きな変位までを板バネを用いたシート状センサで計測するのは困難であった。
【0007】
また、例えば、ロッド状の最大歪センサを直接検出対象部位間に取り付けて最大変位記憶装置として用いる場合、検出対象部位間の伸び変形がそのままロッド状センサの伸び変位に相当することになる。したがって、検出対象区間で想定される歪(対象区間の変形を対象区間長さで割った値)が、ロッド状センサの計測可能範囲歪(数百μ〜10,000μ程度)とほぼ同じであれば、ロッド状センサを直接検出対象区間の両端に固定し、最大歪(あるいは変形)を計測することが可能である。
【0008】
しかしながら、既に述べたような震度6強あるいはそれを超える地震による被害を想定した場合、地震による揺れの最中に、コンクリートのひび割れ幅が最大どの程度に達していたか、あるいは鉄骨溶接部に亀裂・破断が生じていたかなどを判断しなければならない。例えば、図15(a)に示すように、検出対象物(例えばコンクリート、あるいは鉄骨)が引張力を受け弾性変形している場合は、測定区間の歪みあるいは変形はそれほど大きくはなく、ロッド型センサでも十分測定可能である。一方、図15(b)に示すように、対象物にひび割れが発生した場合を想定すると、ひび割れ幅δcは、測定区間の弾性変形δに比べて圧倒的に大きく、測定区間の歪みに換算すると数万μあるいはそれ以上になる。従ってロッド状最大歪記憶センサを直接検出対象部位間に取付ける方法は、徐々にひび割れ幅が増大する疲労破壊の判定、あるいは中小地震等による幅の小さなひび割れ発生による機能維持の判定等の用途に限定されてしまう。大地震直後の構造物の健全性判断のための最大変位検出記憶装置としては、「測定区間は小さく(建築構造物であれば数十cm程度、土木構造物あるいはプラントであっても数m程度)、かつ測定可能変位は平均歪みに換算して数千μm〜数十万μm」が要求されることになる。
【0009】
そこで、本発明では、使用する最大歪記憶センサの計測可能な伸び長さに制限されず、より大きな最大変位を記憶可能な装置及びその用途を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、検出可能な最大変位につき設計自由度の高い最大変位記憶装置及その用途を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、コンパクトな最大変位記憶装置及びその用途を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討したところ、最大歪記憶センサと力学的に直列に、最大歪記憶センサの剛性よりも十分小さな剛性を有する弾性変形体を連結し、最大歪センサに生じる伸び長さを計測可能な伸び長さの範囲に抑えつつ、計測器としての最大計測変位を所定の大きな変位とする方法を見出した。また、本発明者らは、連結する弾性変形体の剛性を調整することにより、計測器の長さと計測可能な最大変位の組合せの自由度を一層高めることができることを見出した。これらの知見によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本発明によれば、1又は2以上の検出対象物上の二つの基点を結ぶ検出区間に配置され当該検出区間における最大変位を記憶する最大変位記憶装置であって、導電性粒子のパーコレーション構造又は連続する導電性繊維による導電経路と、該導電経路を保持する有機質相とを備え、前記導電経路に引張力が作用したとき当該引張力に応じて導電性が変化可能であるとともに、変化した導電性の変化量の少なくとも一部を保持するのに有効な残留抵抗現象を示すことにより、当該導電経路に生じた最大の歪に対応した抵抗値を保持することができる歪センサと、前記歪センサよりも大きな弾性変形能を有し、前記歪センサに対して力学的に直列に連結される1個又は2個以上の弾性変形体と、を備える、装置が提供される。この装置は、前記検出対象物の災害時における健全性判定用、耐久性診断用又は疲労破壊進行状況の判定用とすることができる。
【0012】
本装置においては、前記弾性変形体は前記引張力の作用により圧縮変形するように連結されていてもよいし、前記引張力の作用により伸び変形するように連結されていてもよい。
【0013】
本装置は、前記歪センサの前記引張力の作用方向に沿って前記歪センサの一部を保持するアンカー手段と、前記アンカー手段を介して前記検出対象物からの引張力を前記歪センサに伝達する伝達手段と、を備え、前記伝達手段は、前記弾性変形体の弾性変形を介して前記アンカー部に前記引張力を伝達可能に前記弾性変形体と前記アンカー部とを連結する弾性変形体媒介性伝達手段を含むように構成することができる。
【0014】
本装置においては、前記歪センサはロッド状であることが好ましく、また、前記歪センサは、前記導電経路に沿う絶縁性繊維と、該絶縁性繊維に沿う有機高分子材料を熱処理して得られる有機質相と、を備えることが好ましい。さらに、前記弾性変形体はコイルバネ形状を有することが好ましい。
【0015】
本装置は、また、前記歪センサの前記導電経路に通電して前記導電経路の導通時における導電性データを取得する導電性データ取得手段を備えることができる。この態様においては、さらに前記導電性データ取得手段によって取得した前記導電性データに基づいて前記検出対象物における最大変位を検出する最大変位検出手段を備えることもできる。
【0016】
本発明によれば。1又は2以上の上記いずれかの最大変位記憶装置が1又は2以上の部位に装着された機器が提供される。
【0017】
本発明によれば、最大変位検出方法であって、1又は2以上の検出対象物に装着された上記いずれかの最大変位記憶装置の前記歪センサの前記導電経路に通電して前記通電経路の導通時における導電性データを取得する工程と、該取得した導電性データに基づいて前記検出対象物における最大変位を検出する工程と、を備える、方法が提供される。
【0018】
本発明によれば、最大変位検出システムであって、1又は2以上の検出対象物と、導電性粒子のパーコレーション構造又は連続する導電性繊維による導電経路と、該導電経路を保持する有機質相とを備え、前記導電経路に引張力が作用したとき当該引張力に応じて導電性が変化可能であるとともに、変化した導電性の変化量の少なくとも一部を保持するのに有効な残留抵抗現象を示すことにより、当該導電経路に生じた最大の歪に対応した抵抗値を保持することができる歪センサと、前記歪センサよりも大きな弾性変形能を有し、前記歪センサに対して力学的に直列に連結される1個又は2個以上の弾性変形体とを備えて、前記検出対象物の1又は2以上の部位に装着される最大変位記憶装置と、前記最大変位計測装置の前記歪センサの前記導電経路に通電して前記導電経路の導通時における導電性データを取得するとともに、該取得した導電性データに基づいて前記変位検出対象部位における最大変位又は歪みを検出する最大変位検出手段と、を備える、システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、最大変位記憶装置、最大変位記憶装置が装着された機器、最大変位の検出方法、最大変位の検出システムに関する。
【0020】
本発明の最大変位記憶装置は、1又は2以上の検出対象物上の二つの基点を結ぶ検出区間に配置され当該検出区間における最大変位を記憶する最大変位記憶装置であって、導電性粒子のパーコレーション構造又は連続する導電性繊維による導電経路と、該導電経路を保持する有機質相とを備え、前記導電経路に引張力が作用したとき当該引張力に応じて導電性が変化可能であるとともに、変化した導電性の変化量の少なくとも一部を保持するのに有効な残留抵抗現象を示すことにより、当該導電経路に生じた最大の歪に対応した抵抗値を保持することができる歪センサと、前記歪センサよりも大きな弾性変形能を有し、前記歪センサに対して力学的に直列に連結される1個又は2個以上の弾性変形体と、を備えることができる。
【0021】
本発明の装置によれば、検出対象物に変形が生じたとき、歪センサ及び弾性変形体によって構成される力学的直列体には検出対象物の変形と同じ弾性変形が強制される。この時、歪センサと弾性変形体が力学的に直列に結合されているため、両者には同一の引張力が作用する。弾性変形体は歪センサよりも大きな弾性変形能を備えているため(弾性変形体の剛性を歪センサの剛性に比べて小さいため)、検出対象区間における変位の大部分は弾性変形体の変形により占められ、歪センサの変形を、歪センサの計測可能な伸び長さの範囲内に抑えることができる。この結果、検出対象区間における変位と、歪センサの計測可能な伸び長さの差が解消され、歪センサの計測可能な伸び長さに関わらず、検出対象物における変位に対応できるようになる。また、この結果、最大変位記憶装置の検出可能な変位量の設計の自由度を高め、より大きな変位に対応することができる。さらに、歪センサの可伸長さが短くても、検出可能な最大変位を大きく確保することができるため、コンパクトな最大変位記憶装置を提供できる。
【0022】
本発明の最大変位記憶装置を備える機器、最大変位の検出方法及び最大変位の検出システムについても、上記した最大変位記憶装置における作用に基づいて、これらの実施形態に応じた作用が発揮される。すなわち、本発明の機器においては、1つの機器における最大変位又は複数の機器間における最大変位が検出可能となっている。また、本発明の最大変位検出方法及びシステムにおいては、1又は2以上の検出対象物において生じた最大変位を検出することができる。
【0023】
本発明による最大変位記憶装置を用いれば、既に使用している床板でひび割れが生じている場合でも、複数のひび割れをまたいで本発明による装置を設置すれば、その後のひび割れ幅の増加・進行状況を測定することにより疲労破壊の進行状況を推定でき、維持管理に要する時間、人手間、コストを大幅に低減することが可能となる。」
【0024】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の最大変位記憶装置の一例を示す図であり、図2は、図1に示す装置における歪センサとアンカー部との連結について説明する図であり、図3は、図1に示す装置の検出対象物への取り付け状態を示す図であり、図4は、歪センサにおけるひずみと電気抵抗変化率との関係を示す図であり、図5は、歪センサと弾性変形体との連結形態の一例を模式的に示す図であり、図6は、歪センサと弾性変形体との連結形態の他の一例を模式的に示す図であり、図7は、歪センサと弾性変形体のそれぞれのバネ定数とセンサ部の伸びとの関係を示し、図8は、弾性変形体の歪センサに対する柔らかさ比αとセンサ部の伸びとの関係を示すグラフを示す図である。なお、これらの図は、本発明の最大変位記憶装置及びそれに関連する事象の一例を示すものであり、本発明の最大変位記憶装置及び他の実施形態は、これらの図面に限定されるものではない。
【0025】
(最大変位記憶装置)
図1(a)に示すように、本発明の最大変位記憶装置(以下、本装置ともいう。)2は、最大歪センサ(以下、単に歪センサという。)10とこれに連結される弾性変形体20とを有するセンサ部4を備えている。本装置2は、図3に示すように、他に、センサ部4を検出対象物100に装着するための取り付けブラケット40、70を備えている。また、センサ部4は、適当なケーシング(収容体)に収納された状態で検出対象物100に装着されている。
【0026】
本装置2の検出対象物100は、特に限定しない。例えば、各種機器あるいは当該機器を構成する一部分であってもよい。また、建築構造体又はその一部であってもよい。さらに、検出対象である最大変位は、一つの機器又は構成部材における所定部位間の最大変位であってもよいし、2以上の機器又は構成部材の最大変位であってもよい。検出対象である最大変位は、少なくとも本装置2の最大変位センサ部4の両端側、図1〜図3に示す形態では、取り付けブラケット40,70が検出対象物100に装着されることで記憶される。なお、本装置2の検出対象物100への装着形態は特に限定されない。典型的には、図2に示すように、検出対象物100の表面に歪センサ10の伸び方向がほぼ平行となるように装着される。
【0027】
(歪センサ)
本装置2のセンサ部4は、歪センサ10と、これに力学的に直列に連結される弾性変形体20とを備えている。歪センサ10は、引張力に基づく歪(変位)を検出するとともに電気抵抗変化の残留現象によりその歪を記憶することができる。例えば、歪センサ10に引張力が作用して引張り歪が生じるとき、その引張力による変位(歪)の最大値を記憶できる。
【0028】
歪センサ10は、導電性粒子のパーコレーション構造又は連続する導電性繊維による導電経路を備え、前記導電経路は、前記導電経路に作用した歪に対して導電率の変化を示すとともにその歪の最大値に対応して変化した導電率を保持するのに有効な残留抵抗現象を示すことができる。この結果、引張り歪を受けた後に外力が解除されても一端受けた最大歪を記憶することができる。このような歪センサ10における歪の残留抵抗現象を、図3に基づいて説明することができる。すなわち、図4に示すように、歪センサ10は、受けた歪が、これまで経験した歪よりも小さい場合には、経験した最大歪に相当する電気抵抗変化率を維持し、受けた歪がこれまで受けた歪よりも大きい場合には、電気抵抗変化率が増加する。このように、歪センサ10においては、一旦付加された引張り歪よりも大きな引張り歪が加わらないと電気抵抗値が更新されず、逆にいえば、より大きな引張り歪が作用するまで過去に受けた最大の歪を電気抵抗値として保持(記憶)することができる。なお、導電性の指標として導電率を用いることもできる。したがって、歪センサ10の保持する電気的抵抗変化率から経験した最大歪を求めることができるのである。こうした歪センサは、特開2005−337819号公報及び特開2004−264159号公報において開示されている。
【0029】
こうした、歪センサ10の導電経路に作用した歪の最大値に対応した導電性の変化(導電率変化)を保持するのに有効な残留抵抗現象の残留率(残留保持する導電性変化量の比率)は60%以上であることが好ましく、より好ましくは、80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。
【0030】
歪センサ10において検知される電気抵抗値の変化量と変位や歪との関係を予め得ておくことで、検出した電気抵抗値から検出対象部位に生じた変位や歪を知ることができる。
【0031】
こうした歪センサ10としては、例えば、特開2004−264159号公報や特開2005−337819号公報に記載される歪みセンサを用いることができる。これらの歪センサは、最大歪に対して不可逆的な破壊挙動を示すような導電経路を備えているとともに、残留抵抗現象の残留率が向上され且つその発現歪が低減されており、もって高い精度で最大歪がモニタリング・記憶されるものである。
【0032】
かかる導電経路の1つの形態は、絶縁性繊維により強化されたマトリックスに導電性粒子の連続接触構造により形成された導電経路である。この導電経路においては、粒子形状及び/又は粒子の対有機質相に対する体積割合が調整されること、さらには後述する有機質相の熱処理条件が最適化されることにより、残留抵抗現象の残留率が向上され且つ発現する歪域が低減され、記憶される最大歪精度が向上される。
【0033】
導電性粒子の連続的な接触構造により導電経路が形成される場合には、導電経路はそのまま、好ましくは後述する有機質相に保持されて高分子材料成形体というセンシング材料形態を有している。導電性粒子としては、導電性を有する材料であれば特に限定しないで使用できる。例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、炭素短繊維、フラーレン、カーボンウィスカー、カーボンナノチューブ、金属紛、窒化・炭化・酸化チタニウム等の導電性セラミックス粒子等が選択される。導電性粒子は1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
導電性粒子の形態は特に限定しない。例えば、ストラクチャー(凝集体)状、球状、繊維状、棒状、不定形状、薄片状等各種形状のものを1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、ストラクチャー(凝集体)状の形態を用いることができ、そのストラクチャーを形成する粒子1つ1つの粒子サイズも特に限定しないが、例えば、10nm〜100nmであることが好ましい。より好ましくは、20nm以上60nm以下の粒子から構成されるストラクチャー(凝集体)状の形態を用いることである。さらに、このストラクチャー(凝集)の程度を示す指標であるDBP(DibutylPhthalate)吸収量(JIS K6217)は、好ましくは10〜1000cm/100gである。より好ましくは、100〜500cm/100gである。また、球状もしくは薄片状の粒子として、好ましくは1μm〜100μmの球状もしくは薄片状の粒子を用いることができる。このような凝集体は、一般に、カーボンブラック粒子において形成されることが多い。具体的には、ブドウ状の凝集体形態を採っている。
【0035】
歪センサ10のマトリックスとしての有機質相は、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリホマール、ポリブチラール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、上記ポリマー2種以上の共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が使用できる。これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
さらに、これらの有機質相を熱処理した状態にて使用することもできる。具体的には、不活性雰囲気中にてこれらの有機質相を加熱し、炭化、グラフト、環化、芳香族化、縮合、重合等させることである。この熱処理においては、有機質相の導電性を調整することができる。有機質相において炭素化もしくは黒鉛化の進行を促進すれば、有機質相を導体化させることができ、黒鉛化の進行を抑制することで導体化を抑制し絶縁性を維持することができる。また、有機質相は不活性雰囲気中で熱処理されることによって残留応力が発生する。この残留応力により高い残留率で残留抵抗現象を発現させることができるとともに、低歪であってもその最大値を記憶させることができるようになる。
【0037】
なお、導電経路を有効に機能させるには、有機質相の電気抵抗率が高いこと、すなわち絶縁性であることが望ましい。このための熱処理条件は、使用する有機高分子材料により異なるが、熱処理温度を2000℃以下とすることが好ましく、より好ましくは1000℃以下であり、さらに好ましくは600℃以下である。
【0038】
また、有機質相には、繊維材料を含めることができる。当該繊維材料としては、例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維等の1種あるいは2種以上が使用できる。ここで、導電性粒子の接触構造もしくは導電性繊維を導電経路としてセンシング機能を発現させるため、これらの繊維には電気的絶縁性が必要である。さらに、これらの繊維の方向性は、一方向として歪センサ10による導電率の計測方向もしくは適用構造体に作用する歪方向に対して、平行方向もしくは垂直方向とすることができる。一方向性の場合、同方向を指向する繊維を束ねた繊維束を使用することもできる。計測しようとする歪方向に平行及び垂直方向を指向する繊維を組み合わせたクロス材を用いることもできる。具体的には導電経路に沿って備えられていることが好ましい。
【0039】
また、もう一つの歪センサの形態は、連続する導電性繊維によって導電経路を有する形態である。典型的な導電経路は、樹脂マトリックス中に導入した導電性繊維により形成される導電経路である。この導電経路においては、導電性繊維に張力を負荷した状態とすることで、残留抵抗現象の残留率が向上され且つ発現歪が低減され、記憶される最大歪精度が向上される。
【0040】
ここで導電性繊維としては、導電性を有する繊維であれば特に限定しないが、例えば、ピッチ系・PAN系・気相成長系炭素繊維、SiC等のセラミックス繊維およびその表面に導電性膜を形成した繊維、金属繊維等が選択される。導電性繊維としては各種の導電性繊維を1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。導電性繊維はモノフィラメントであってもよいし、マルチフィラメントであってもよい。その径も特に限定しないが、例えば、1μm〜100μmであることが好ましい。より好ましくは、2μm以上10μm以下である。なお、導電経路が導電性繊維である場合も、後述する有機質相に保持されて高分子材料成形体という複合材料の形態を採っていることが好ましい。
【0041】
導電性繊維を導電経路とする歪センサ10のマトリックスとしての有機質相は、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリホマール、ポリブチラール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、上記ポリマー2種以上の共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が使用できる。これらを1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
この導電性繊維を導電経路とする歪センサ10が高い残留率を示すために、センサ部4に導入する際、もしくは最大変位記憶装置2を検出対象物100に設置する際に、この歪センサ10に予め引張張力を受ける状態としておくことが望ましい。
【0043】
歪センサ10の形状は特に限定されない。例えば、ロッド状、チューブ状及びシート状等とするこができる。また、その断面形状も特に限定されない。
【0044】
歪センサ10は、有機質相や絶縁性繊維及び/又は導電性繊維により構成されており、適度な剛性を備え、また引張力が作用したとき、弾性変形が可能である。歪センサ10及び弾性変形体20との連結体に検出対象物からの変形が強制され、歪センサ10と弾性変形体20には同一の引張力が作用し、歪センサ10には引張力による弾性歪(変形)が生じ、歪センサ10は生じた歪のうちの最大歪を記憶する。
【0045】
歪センサ10が備えることのできる典型的な形状としては、例えば円形断面で棒状、あるいは、矩形断面でシート状等が挙げられる。これらの形状の歪センサ10と、歪センサ10に引張力を伝達する部品を組合せることでセンサ部4を形成できる。図2(a)では、歪センサ10の形状として円形断面で棒状を示している。
【0046】
歪センサ10の導電性データ、典型的には、導電率又は抵抗率若しくはこれらの変化率を計測する手法としては特に限定しないが、二端子法もしくは四端子法が採用されることが好ましい。こうした導電経路の抵抗率はその材質や作製条件により様々である。導電性粒子による導電経路をもつ歪センサおよび導電性繊維を導電経路にもつ歪センサともに、その抵抗値が高い場合には二端子法を採用し、抵抗値が低い場合には四端子法を採用することが望ましい。また、その導電率の計測方向としては、検出対象物100の検出対象部位に作用する歪の方向性に留意し、歪の作用する方向に一致させることが好ましい。
【0047】
なお、歪センサ10における導電経路には図示しない電極を備えており、この電極には、同様に図示しないリード線が接続されている。この電極を形成する位置としては、アンカー部12aと12bの間にある導電経路の任意の場所(例えば、図2(a)参照)、もしくはアンカー部12aと12bそれぞれの端末面にある導電経路のいずれであってもよい。ただし、この最大変位記憶装置2が作動した状態でもこのアンカー部12a、12bに内包される導電経路には歪が作用しないため、アンカー部12aと12bそれぞれの端面にある導電経路に電極を形成して抵抗値を測定した場合には補正が必要となる。すなわち、計測した抵抗値をもとにアンカー部12aと12bの間の導電経路における抵抗値を求め、それを基準として抵抗変化率を計測する必要がある。
【0048】
(弾性変形体)
弾性変形体20は、歪センサ10と同一の引張力を受けることにより、弾性変形する特性を備えている。また、弾性変形体20は歪センサ10よりも剛性が小さく、より大きな弾性変形能を備えている。歪センサ10より大きな弾性変形能を有して歪センサ10よりも弾性変形容易であることにより、検出対象物100の変形や変位により最大変位記憶装置2に強制される変形の大部分を弾性変形体10の変形が占め、歪センサ10の変形を計測可能な伸び長さの範囲に抑えることができる。このため歪センサ10の計測可能な伸び長さが小さいにもかかわらず、大きな検出可能変位を確保することができる。
【0049】
弾性変形体20の材質又は形態は特に限定されない。各種公知のバネ体ほか、ゴム(ラバー)や発泡体なども用いることができるが、センサ部4における変位量を定量的に検出するには、各種公知のバネ体を用いることが好ましい。すなわち、コイルバネ、板バネ、角バネ等の各種形態のバネ体を利用することができる。好ましくは、コイルバネである。
【0050】
(歪センサと弾性変形体との連結形態)
次に、歪センサ10と弾性変形体20の連結形態について説明する。なお、弾性変形体20の剛性(力を受けた時のかたさ、変形しにくさ)は歪センサ10よりも小さいもの、すなわち、同じ力を受けた時の変形が大きくなるようなものを選択する。歪センサ10と弾性変形体20とは力学的に直列に連結される。
【0051】
歪センサ10と弾性変形体20とを力学的に直列に連結する連結形態の一つをモデル図として図5に示す。図5に示す連結モデルに引張力Pを加えると、センサ10と弾性変形体20には同じ引張力+P(+は引張方向の力を表す)が作用する。この引張力により、歪センサ10も弾性変形体20も弾性伸びを生じる。各々の伸びをδ1、δ2とすれば、直列モデル全体の伸びはδ1+δ2となる。この直列モデルは、図5からも明らかなように、全体の長さが、歪センサ10と弾性変形体20との長さの和以上となる。
【0052】
歪センサ10と弾性変形体20とを力学的に直列に連結する他の一つをモデル図として図6示す。この連結形態は、弾性変形体20に引張力ではなく圧縮力を作用させるようにしてセンサ部4又は装置2としての長さを短くすることができる連結形態である。図6に示すように、この連結モデルでは、引張力を圧縮力に変換するために2個の部材を介在させている。この連結モデルに引張力Pを加えると、歪センサ10には先のモデルと同じ引張力+Pが作用するが、弾性変形体20には大きさは同じで符号の変化した圧縮力−Pが作用する。この力により、センサはδ1の伸び変形を、弾性変形体20はδ2の圧縮変形を生じる。この圧縮変形δ2は、介在させた2個の部材により、装置全体としては伸びる方向の変形となるため、結局モデル全体の伸びはδ1+δ2となる。なお、このモデル図では、原理を説明するためにL型の部品で示しているため、左右の引張力の軸がずれているが、実際の提案ではコイルばねを使用することにより軸を一致させることができる。図6のモデルは図5のモデルと比較して装置は複雑となるが全体の長さが短くできるという利点がある。
【0053】
弾性変形体20は、歪センサ10と力学的に直列に連結されていれば、一つの歪センサ10に対して単一の弾性変形体20が連結されていてもよいし、複数個の弾性変形体20が連結されていてもよい。例えば、図1(a)に示す形態のように、歪センサ10の一端に一個の弾性変形体20が連結されていてもよい。また、図示はしないが、ロッド状の歪センサ10の両端のそれぞれに一つ又は二つ以上の弾性変形体20を連結してもよい。また、弾性変形体20は、図5に示す連結モデルのごとく引張力が作用したときに伸長するもののほか、図6に示す連結モデルのごとく、圧縮バネなど引張力が作用したとき圧縮変形するものであってもよい。
【0054】
以下、歪センサ10と弾性変形体20との具体的な連結形態を、装置2の一例である図1〜図3を参照しながら説明する。図1(a)に示す装置2においては、図2(a)に詳細に示すように、歪センサ10が、歪センサ10に作用する引張力の作用方向に沿って歪センサ10の少なくとも一部(図1(a)に示す例では両端部)を保持するアンカー部12a、12bを備えている。そして、このアンカー部12a、12bを介して歪センサ10を検出対象物100に固定化する伝達部30、60を備えている。以下、図1〜図3に示す装置2の歪センサ10の左側の構造と右側の構造とについて順次説明する。
【0055】
図1(a)に示すように、歪センサ10の左側には、左側アンカー部12a、左側伝達部30を備えている。左側アンカー部12aは、図2(a)に示すように、歪センサ10の左側端部にあって当該端部を保持している。左側アンカー部12aは、図2(b)に示すように、左側アンカー部12aに作用する引張力を歪センサ10に伝達できるように、歪センサ10の左側端部に一体化されている。左側アンカー部12aは、左側伝達部30から引張力が伝達されるように構成されていればよく、その形状、大きさ及び材料等について特に限定されない。左側アンカー部12aの構成材料としては、繊維強化樹脂などの樹脂系材料、セメントなどを含む無機系材料等を適宜用いることができる。また、左側アンカー部12aは、こうした材料を流動化したものを金属系薄板からなる筒状体に注入し固化するなどして形成することができる。左側アンカー部12aとしては、図2(a)に示すように、歪センサ10より大きな直径の円形断面を有する棒状体を例示することができる。
【0056】
左側伝達部30は、検出対象部位に生じる引張力を左側アンカー部12aに伝達するための部材である。左側伝達部30は、左側固定部材32と左側アンカー保持部材34とを備えている。左側固定部材32は、検出対象部位に固定されている左側取り付けブラケット40に装着可能な形成されている。図1〜図3に例示する形態では、棒状体に形成されている。
【0057】
左側アンカー保持部材34は、左側固定部材32に一体化されて左側アンカー部12aに引張力を伝達可能に左側アンカー部12aを保持している。具体的には、左側アンカー保持部材34は、左側アンカー部12aを収容可能な中空部を備える容器状に形成されている。左側アンカー保持部材34は、左側アンカー部12aを包囲する筒状体35aとこの筒状体36aの左側開口全体を閉じるように備えられる底部35bと、筒状体35aの右側開口を部分的に閉じる端部35cとを備えている。端部35cは、左側アンカー部12aの外形よりも小さくかつ歪センサ10が挿通可能な開口を残して筒状体35aの右側開口を閉じるように備えられており、端部35cの内側端面が左側アンカー部12aの右側端面に当接されるようになっている。左側アンカー保持部材34の端部35cが実質的に左側アンカー部12aを保持するようになっている。
【0058】
図1(a)に示すように、装置2は、歪センサ10の右側には、右側アンカー部12bと右側伝達部60とを備えている。また、図2(a)に示すように、右側アンカー部12bは、歪センサ10の右側端部にあって当該端部を保持している。右側アンカー部12bも左側アンカー部12aと同様、歪センサ10に引張力を伝達可能にその右側端部に一体化されている。右側アンカー部12bも、右側伝達部60から引張力が伝達されるように構成されていればよく、その形状、大きさ及び材料等について特に限定されない。また、右側アンカー部12bの具体的形状としては、左側アンカー部12a同様、各種材料により構成することができる。図2(a)に示すように、右側アンカー部12bも、左側アンカー部12aと同様、歪センサ10より大きな直径の円形断面を有する棒状体を例示することができる。
【0059】
右側伝達部60は、検出対象部位に生じる引張力を弾性変形体20を介して右側アンカー部12bに伝達するための部材である。右側伝達部60は、右側固定部材62と右側アンカー保持部材64と弾性変形体固定部材68を備えている。
【0060】
右側固定部材62は、検出対象部位に固定されている取り付けブラケット70に装着可能な形成されている。右側固定部材62は、図1〜図3に示す形態では、棒状体に形成されている。
【0061】
右側アンカー保持部材64は、右側アンカー部12bを直接保持するとともに弾性変形体20の右側端部を当接支持している。右側アンカー保持部64は、具体的には、右側アンカー部12bを内包しかつ弾性変形体20に内部の収容される容器状に形成されている。すなわち、右側アンカー保持部材64は、筒状部65aと、この筒状体65aの右側開口全体を閉じるように備えられる底部65bと、筒状体65aの左側開口を部分的に閉じる端部65cとを備えている。底部65bは、弾性変形体20の右側端部を当接支持可能に筒状体65aの外周側に張り出し状に形成されている。また、端部65cは、右側アンカー部12bの外形よりも小さくかつ歪センサ10が挿通可能な開口を残して筒状体65aの左側開口を閉じるように備えられており、その内側端面が右側アンカー部12bの左側端面に当接して右側アンカー部12bを保持するようになっている。
【0062】
弾性変形体連結部材68は、固定部材62と弾性変形体20とを連結可能に形成されている。すなわち、弾性変形体連結部材68は、弾性変形体20の左側端部を当接支持するとともに、固定部材62に一体化可能に構成されている。弾性変形体連結部材68は、具体的には、弾性変形体20を内部に収容可能な容器状に形成されており、筒状体69aと当該筒状体69aの右側開口を完全に閉じる底部69bと、左側開口を部分的に閉じる端部69cとを備えている。底部69bには固定部材62が一体化され、端部69cは、歪センサ10の外径よりも大きく弾性変形体20の外径よりも小さい開口を残して筒状体69aを閉じるように形成され、端部69cの内側端面が弾性変形体20の左側端部を当接支持するようになっている。
【0063】
次に、図1(a)及び図1(b)に示す構造を参照しつつ、装置2における引張力の伝達経路について説明する。まず、歪センサ10の左側における引張力の伝達について説明する。歪センサ10の左側においては、検出対象部位にて発生した引張力は左側取り付けブラケット40から左側伝達部30に伝達される。さらに、引張力は、左側伝達部30の左側アンカー保持部材34の端部35cを介して左側アンカー部12aに伝達される。そして、左側アンカー部12aに伝達された引張力は、図2(b)に示すように、歪センサ10に伝達される。
【0064】
一方、歪センサ10の右側においては、検出対象部位にて発生した引張力は右側取り付けブラケット70及び右側伝達部60の弾性変形体連結部材68を介して弾性変形体20に伝達される。すなわち、弾性変形体連結部材68の端部69cが弾性変形体20の左側端部に当接する部位を介して弾性変形体20に引張力が伝達される。このとき、弾性変形体連結部材68は、引張力を圧縮力に変換して弾性変形体20に伝達する。
【0065】
さらに、弾性変形体20に作用した圧縮力は右側アンカー保持部材64の底部65bにより受け止められるとともに、再び引張力に変換されて右側アンカー保持部材64の端部65cを介して右側アンカー部12bに伝達される。そして、右側アンカー部12aに伝達された引張力は、図2(c)に示すように、歪センサ10に伝達される。
【0066】
以上説明したように、この機構では、図1(b)の摸式図で示すように、歪みセンサ10と弾性変形体20とが力学的に直列に連結されている。そして、検出対象物100の検出対象部位に引張力が作用するとき、結果として弾性変形体20を介して引張力が歪センサ10に伝達されるようになっている。取り付けブラケット40,70間に生じるひび割れ等による強制変形は、左右の固定部材32、62によって歪センサ10及び弾性変形体20に伝達される。歪センサ10には強制変形の結果として引張力が伝達され、歪センサ10の弾性変形(引張変形)を生じさせる。また、弾性変形体20には引張力と大きさは等しく符号の異なる圧縮力として伝達され、弾性変形(圧縮変形)を生じさせる。そして、歪センサ10の弾性変形と弾性変形体20の弾性変形の和が強制変形と等しくなる。
【0067】
このような機構において、歪みセンサ10の剛性に対して弾性変形体20の剛性を小さく(変形しやすく)することにより、弾性変形体20には歪センサ10の変形よりも大きな変形を生じる。したがって、弾性変形体20の剛性を変化させることにより、歪みセンサ10自身の変形に対して、連結体の変形を数倍、数十倍といった変形とすることも可能となる。連結体が大きく変形しても、その大部分は弾性変形体20の変形であり、歪みセンサ10の変形は、計測可能な伸び長さ以下に抑えられている。
【0068】
なお、取り付けブラケット40、70の検出対象物100への取り付け形態は、検出対象物100の変形を歪センサ10に伝達できる限り、特に限定されない。通常用いうる公知の固着手段を適宜選択することができる。また、取り付けブラケット40a、40bにセンサ部4を保持し懸架する取り付け部38a、38bの固定形態についても、検出対象物100の変位を歪センサ10に伝達できる限り特に限定しない。
【0069】
(検出可能な最大変位の設定)
次に、本装置2によって計測できる最大変位の設定について説明する。ここでは、説明を簡素化するために、図5に示すように引張バネである弾性変形体20と歪センサ10とを力学的に直列に連結して引張力により弾性変形体20が伸び変形する最大変位記憶装置における最大変位の設定について説明する。なお、弾性変形体20が圧縮変形する連結形態についても同様に、検出可能な最大変位を設定することができる。
【0070】
こうした装置では、図7(a)に示すように、バネ定数KA(N/mm)の歪センサ10と、バネ定数KB(N/mm)の弾性変形体20が力学的に直列に連結されている。弾性変形体のバネ定数を歪センサのバネ定数よりも小さくし(変形し易くし)、以下のように設定する。
KB=KA/α (N/mm) 式(1)
ここに、α:弾性変形体の剛性に対する歪センサの剛性の比(>1)
この直列体に図7(b)のように引張力Pを作用させる。歪センサ10、弾性変形体20に作用する引張力はPであり、各々の伸び変形δA(mm)、δB(mm)は以下のようになる。
δA=P/KA(mm) 式(2)
δB=P/KB(mm) 式(3)
直列体全体の伸び変形δ(mm)は、(2)、(3)及び(1)式から以下のようになる。
δ=δA+δB=P/KA+P/KB=P/KA+α(P/KA)
=(1+α)(P/KA) 式(4)
ここで、
β=(1+α) 式(5)
ここに β:歪センサ単体の変形に対する直列体の変形の比
とすれば、
δ=β(P/KA) 式(6)
となる。
【0071】
弾性変形体20の有する歪センサ10に対する柔らかさ比αとバネの伸び倍率βとの関係を図8に示す。
【0072】
図8に示すように、柔らかさ比αの弾性変形体20を用いることで、歪センサ10と弾性変形体20とを連結したときの伸び量を、歪センサ10単独のときよりも容易に高めることができる。また、弾性変形体20の柔らかさ比α、すなわち、バネ定数Kを選択することにより、本装置2の変位量の測定範囲を決定することができる。
【0073】
例えば、歪センサ10のバネ定数Kが2000N/mmであり、歪センサ10の測定可能範囲が1000×10−6以上10000×10−6以下であるときの、本装置2の検出可能な最大変位Sと弾性変形体20のバネ定数KB、柔らかさ比α及び伸び率βとの関係を表1に示す。
【表1】

【0074】
表1に示すように、歪センサ10のバネ定数Kに対して弾性変形体20のバネ定数Kを決めることで、歪センサ10のバネ定数Kに関わらず検出可能な最大変位Sをより大きく自在に設定することができる。この結果、検出可能な最大変位Sを確保できるような長さを歪センサ10において確保する必要がないため、本装置2をコンパクト化することができる。
【0075】
(導電性データ取得手段)
本装置2は、単に変位記憶装置としてのみ機能させてもよいが、歪センサ10の導電率又は電気抵抗率等の導電性に関する導電率などの導電性データを取得する導電性データ取得手段を備えることができる。本装置2に、導電性データ取得手段を備えることにより、容易に歪センサ10における導電率変化を検出することができる。これらを取得する手法としては、得に限定しないが、二端子法もしくは四端子法が採用されることが好ましい。歪センサ10における導電経路の抵抗率はその材質や作製条件により様々である。導電性粒子による導電経路をもつ歪センサ10および導電性繊維を導電経路にもつ歪センサ10ともに、その抵抗値が高い場合には二端子法を採用し、抵抗値が低い場合には四端子法を採用することが望ましい。また、その導電率等の計測方向は、本装置2の検出対象部位に作用する歪の方向性に留意し、歪の作用する方向に一致させることが好ましい。
【0076】
導電性データ取得手段は、典型的には、ディジタル式電気抵抗値測定器を採用することができる。測定点数が少ない場合には、歪センサ10に接続されたリード線をデータ取得手段に直結させて導電率等の測定を行うことができる。
【0077】
なお、導電性データ取得手段は、ディジタル式電気抵抗値測定器にCPUやRAM,ROM等を中心としたマイクロプロセッサを付加して、最大変位検出手段として構成されてもよい。最大変位記憶装置に最大変位検出手段を備える場合には、全体として最大変位記憶・検出装置(以下、最大変位検出装置という。)を構成することができる。最大変位検出手段は、計測した導電率等に加えて、予め記憶した計算式や所定の入力データに基づいて、最大変位を算出し出力することができる。なお、導電性データ取得手段は必ずしも本装置2に備えられてなくともよい。本装置2を検出対象部位に装着しておき、最大変位を検出したいときにのみ、本装置2に導電性データ取得手段を接続して導電性データを取得できればよい。
【0078】
例えば、図1に示す装置2を用いて最大変位を算出する形態の一例を図9に示す。図9に示すように、装置2の出力端子に導電性データ取得手段として電気的抵抗測定装置を接続し、抵抗値を計測し記録する。取り付け時の初期抵抗値との差(抵抗変化値)あるいは抵抗変化値を初期抵抗値で除した抵抗変化率を求めて、予め作成しておいたゲージファクター(抵抗変化率から経験最大変位への変換式)によって経験した最大変位を求める。抵抗値から最大変位を求めるのはマニュアルで行うこともできるし、適当なPC等で処理してもよい。図9に示す計測形態は、計測点数が少ない場合において最も簡易で経済的である。
【0079】
構造物の健全性判定、劣化状況の診断あるいは構造物の耐久性診断等に用いる場合は、計測点数も多く、また計測後のデータ処理時間の短縮が求められる。このような場合の最大変位の計測形態を図10に例示する。図10に示す計測形態では、複数の最大変位記憶装置群と、最大変位検出手段として電気抵抗値を計測し計測した電気抵抗値から最大変位を算出するマイクロプロセッサを搭載した最大変位検出ユニットとが組み合わされており、全体として最大変位検出装置を構成している。
【0080】
この計測形態では、複数個の最大変位記憶装置が用意されている。これらの最大変位記憶装置群は、検出対象部位等に応じて複数の群に分割されており、各群を構成する個々の最大変位記憶装置に接続される計測用コードが群毎の端子ボックスにまとめられている。一方、最大変位検出ユニットは、複数の端子ボックスを識別して電気信号を読取可能するための切替部と、端子ボックスに集約された各最大変位記憶装置の抵抗値を順次読み取る抵抗値読取部と、切替部と抵抗値読取部とを制御するとともに、測定した抵抗値から抵抗変化率を求めさらに経験最大変位を求める演算他を実施する制御部と、抵抗値読取を実施するための制御プログラムの他、演算等に利用するデータや演算結果を記憶する記憶部と、演算結果等を表示する表示部と、図示しない入出力インターフェースとを備えている。
【0081】
この計測形態によれば、多数個の最大変位記憶装置を1又は2以上の検出対象物上に配置される場合であっても、容易に最大変位を計測できる。なお、最大変位記憶装置群と最大変位検出ユニットは必ずしも一つの最大変位検出装置を構成している必要はなく、それぞれ別個の装置として後述する最大変位検出システムを構成していてもよい。
【0082】
なお、電気抵抗値の測定にあたっては、測定用端子に計測器を直接接続してデータを送受信する有線方式、計測用端子ボックスと計測器側の計測端子側と間を無線でデータ送受信する無線(非接触)方式、計測用端子ボックスと計測端子との接触によりデータを送受信するタッチ方式等など公知の測定方式から適宜選択して採用することができる。、特に有線方式及び無線方式の場合には、データ送受信に必要な電源を計測端子側が持つ場合と、計測器側から供給する場合とが可能であり、各々の用途により選択し設計・製作することができる。
【0083】
なお、このような導電性データ取得手段は、地震時などの不測の事態の時に使用されるため、電池あるいは充電式バッテリなどで作動するものとすることが好ましい。
【0084】
(最大変位の検出)
次に、本装置2を用いた最大変位の検出方法について説明する。本装置2の歪センサ10は、経験した最大の歪に対応して変化した導電性(電気抵抗変化率)を保持している。したがって、歪センサ10における電気抵抗変化率を検出することで、経験した最大歪及び変位を取得することができる。経験した最大歪と電気抵抗変化率との関係は、予め取得しておけばよい。電気抵抗変化率と経験した最大歪(ε)との関係は、図4でも表すことができるが、便宜的には、図11に示すように指数関数で近似できる。すなわち、ゲージファクター(電気抵抗の変化測定値ρから経験した最大歪εへの変換係数)としてa及びbを用い、経験した最大歪を式(7)で求めることができる。
ε=a×ρ 式(7)
【0085】
さらに、歪センサ10の長さがLsであるとき、歪センサ10の伸び変位δsを以下の式(8)で求めることができる。
δs=ε×Ls=aρbLs 式(8)
【0086】
さらに、この歪センサ10の伸び変位δsに以下の式(9)を適用することで、経験最大変位Sを求めることができる。
S=(1+α)aρbLs 式(9)
ただし、S:最大変位mm
α:歪センサのバネ定数に対する弾性変形体のバネ定数の比
a、b:歪センサのゲージファクター
ρ:計測した電気抵抗変化率
Ls:歪センサの長さmm
【0087】
以上説明した本装置2によれば、歪センサ10に対して弾性変形体20を連結することで、測定可能歪み範囲に制限されず、検出対象物100において必要とされる記憶すべき最大変位に対応した変位測定装置を設計し提供することができる。このため、歪センサ10と測定対象物100との剛性が違っていても、検出対象物100の最大変位を容易に記憶することができる。また、歪センサ10自体の可変範囲長を超える検出対象物の最大変位を記憶することができる。また、検出可能な最大変位Sを確保できるような長さを歪センサ10において確保する必要がないため、本装置2をコンパクト化することができる。
【0088】
なお、以上の実施形態における左側アンカー部12a及び右側アンカー部12bが本発明におけるアンカー手段に相当し、左側伝達部30及び左側伝達部60が本発明の伝達手段に相当し、弾性変形体連結部材68を含む右側伝達部60が本発明の弾性変形体媒介性伝達手段に相当する。
【0089】
以上の実施形態では、本装置2は、同一の検出対象物100上の2点の基点間を検出対象部位としたが、これに限定するものではなく、2以上の検出対象物100間を検出対象部位とすることもできる。例えば、検出対象部位をプラントや機器となど2以上の検出対象物100間とすることができる。独立した検出対象物は、地震時等にそれぞれ独立に振動することから、これらの検出対象物間には相対的な変形が生じる。特に、プラント等においては、このような相対変形に対して、配管類にフレキシブルジョイントを設ける等の安全性を確保するための手段が講じられてはいるが、想定外の大変形を受けた場合には構造物102が損傷を受け、地震後にプラントを再稼動した時に漏洩等が生じ、二次災害が発生する可能性がある。従って地震直後速やかに独立した検出対象物間の経験最大相対変位を知ることは、プラント再稼動のための重要な判断材料の一つとなる。
【0090】
検出対象部位を独立した二つの検出対象物100間とする場合の一例を図12に示す。図12(a)には、検出対象物100としてそれぞれプラント等である構造物Aと構造物B’があり、これらを結ぶ例えば配管のような構造物102が配置された状態を示している。このような配管等の構造物102に沿って本装置2を設置することができる。構造物Aと構造物Bは、地震時等にそれぞれ独立に振動することから、両構造物間には相対的な変形が生じる。配管等の構造物102は、一般に構造物A、Bに比べ剛性・耐力ともに低く、この相対変形を抑止することはできず、発生した当該相対変形を強制変形として受ける。したがって、構造物102に本装置2を配置して最大変位を記憶させ、検出することにより、これらの構造物A、B間の有用な経験最大変位を簡易に取得できる。
【0091】
また、構造物Aと構造物Bとの間の相対変形を検出するには、図12(b)に示すような測定用の治具200を用い、この治具200上に装置2を備えることもできる。治具200は、構造物A、B間の相対変形を判定したい基点間に横架するように取り付けられている。治具200の形状は特に限定しないが、例えば、パイプ状の形態とすることができる。構造物A,B間の距離変化に対応可能に外筒と内筒とから構成して、両者が軸方向に相対移動可能に構成されていることが好ましい。具体的には、図12(c)に示すように、その外筒と内筒との間にリニアボールベアリング等のローラー部材を介装し、両者を軸方向の相対変形は自由とし、その他の変形および回転を許さない状態で連結する。また、図12(b)において、構造物A、Bにおける治具200の各取り付け基点は、冶具200の端部の回転は自由とし、その他の変形を許さないピン支点とする。
【0092】
このように構造物A、B間に設置された治具200によれば、構造物A、Bの相対変形は、ローラー部材設置位置での相対変形に集約されるので、この位置に装置2を取り付けることで地震等の災害直後に、簡易にかつ迅速に相対変形の最大値を確認でき、プラントの早期再稼動に資することができる。なお、このような相対変形測定のための治具は、建築・土木・機械等の分野の当業者において周知であり、本装置2をこうした治具に対して設置することで、これらの各種分野で取得される相対変形に関し、経験最大変位を記憶し計測できるようになる。
【0093】
以上の実施形態においては、歪センサ10と圧縮バネである弾性変形体20との連結形態について説明したが、歪センサ10と弾性変形体20との連結形態はこれに限定するものではない。引張力を歪センサ10に伝達できる限り、圧縮バネである弾性変形体20と歪センサ10との連結形態はこれに限定するものではなく、例えば、伝達部60のアンカー保持部材64や弾性変形体連結部材68は、必ずしも容器状である必要はなく、圧縮バネである弾性変形体20を圧縮変形させる作用部を備えていれば足りる。具体的には、連結部は、圧縮バネに係合する係合爪などの係合部を主体とするものであってもよい。
【0094】
以上の実施形態においては、弾性変形体20として圧縮バネを用いた連結形態について説明したが、弾性変形体20としては、ラバー、発泡体など各種の弾性変形体を用いることができる。また、伸び変形する各種の弾性変形体を用いることもできる。例えば、図13に示すように、弾性変形体20としての引張バネを伸び変形させるように保持させることもできる。図13に示す形態では、アンカー保持部12bの歪センサ10の中央から離れた端部側(図中右側端部)を保持するとともにこのアンカー保持部12bに弾性変形体20として引張バネを連結し、検出対象物への固定可能に形成されたたアンカー保持・弾性変形体連結部材を含む弾性変形体媒介性の伝達部160を備えることができる。なお、アンカー保持部12bへの弾性変形体20の連結は、それぞれの材質にもよるが、溶接、溶着などの固着手段のほか、弾性変形体20を係止する係止部材をアンカー保持部12bに設けることなどによる物理的固着手段を用いることでもきる。このような形態によれば、より簡易に最大歪記憶装置を構成することができるほか、計測点間距離(取り付けブラケット40、70の距離)大きくする場合に都合がよい。
【0095】
以上の実施形態においては、歪センサ10としてロッド状の歪センサを用いたがシート状等の歪センサを用いることもできる。シート状歪センサを用いて構成した最大歪記憶装置202の一例を図14に示す。図14に示すように、シート状歪センサ210を用いる場合、シート状歪センサ210の少なくとも一部を保持するアンカー部212として金属製など剛性の高いシート状体を用いることができる。また、弾性変形体媒介性の伝達部として、アンカー部212b及び弾性変形体20の双方を、検出対象部位に生じる引張力をシート状歪センサ210に伝達可能に保持するアンカー保持・弾性体連結部材とともに、検出対象物100への固定化を可能とする一体型の伝達部260を用いることができる。図14に示す形態では、弾性変形体20を伸び変形させる形態で保持しているが、図1(a)に示すように弾性変形体20として圧縮バネを用いて引張力により弾性変形体220を圧縮変形させる形態で保持する形態も可能である。
【0096】
(最大変位記憶装置を備える機器)
本発明の機器は、本発明の最大変位記憶装置が1又は2以上の部位に装着された機器である。本発明の機器は、本装置により最大歪及び最大変位が記憶されているため、本装置から導電性データを取得することで、この機器が経験した最大変位をいつでも容易に取得できる。本発明の機器にあっては、既に説明した本発明の最大変位記憶装置についての各種形態をそのまま適用することができる。また、機器としては、特に限定されない。
【0097】
(最大変位の検出方法)
本発明の最大変位の検出方法は、検出対象部位に装着された本発明の最大変位記憶装置の前記歪センサの前記導電経路に通電して前記通電経路の導通時における導電性データを取得する工程と、該取得した導電性データに基づいて前記検出対象物における最大変位を検出する工程と、を備えることができる。本発明の検出方法によれば、本発明の最大変位記憶装置が保持している導電性データを取得することができれば、容易に検出対象物が経験した最大変位を容易に取得することができる。本発明の検出方法にあっては、既に説明した本発明の最大変位記憶装置についての各種形態をそのまま適用することができる。また、本発明の検出方法において、歪センサにおける導電性データの取得及び最大変位の検出(算出)にあたっても、本発明の最大変位記憶装置を利用して最大変位を検出する際の形態をそのまま適用することができる。
【0098】
(最大変位検出システム)
本発明の最大変位検出システムは、1又は2以上の検出対象物と、本発明の最大変位記憶装置と、前記最大変位計測装置の前記歪センサの前記導電経路に通電して前記導電経路の導通時における導電性データを取得するとともに、該取得した導電性データに基づいて前記変位検出対象部位における最大変位又は歪みを検出する最大変位検出手段とを備えることができる。本発明の検出システムによれば、本発明の最大変位記憶装置が保持している導電性データを取得して容易に検出対象物が経験した最大変位を容易に取得することができる。本発明の検出システムにあっては、既に説明した本発明の最大変位記憶装置についての各種形態をそのまま適用することができる。また、本発明の検出システムにおいて、歪センサにおける導電性データの取得及び最大変位の検出(算出)にあたっても、本発明の最大変位記憶装置を利用して最大変位を検出する際の形態をそのまま適用することができる。
【0099】
本発明の検出システムは、LANやインターネットあるいは専用回線などのネットワークを介して接続された複数の機器に備えた最大変位記憶装置とこれらにおける導電性データを取得管理する最大変位検出手段(管理装置)とからなる最大変位計測システムの形態を採ることもできる。
【0100】
また、大地震による被災状況の把握、安全性の判断といった状況では、電源のダウンあるいはネットワークの破断等により、集中的な検出・計測システムが使用できなくなることが予想される。このような場合に備え、構造物の複数個所に端子盤を設置し、近傍のセンサ・リード線を端子盤に集め、この端子盤からデータを採取するという形態を採る事が有効である。測定器は電源自立・可搬式のものとすることが望ましい。データの採取方法としては、通常の有線方式(プラグ差込み等)、無線方式(非接触方式)、あるいは接触方式(ワンタッチ方式)等が利用できる。
【0101】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】最大変位記憶装置の一例を示す図である。図1(a)は、最大変位記憶装置のセンサ部を示す図であり、図1(b)は、各部の連結形態を力学的に示す図である。
【図2】図1に示す最大変位記憶装置における歪センサとアンカー部との連結について説明する図である。図2(a)は、歪センサとアンカー部との連結状態を示し、図2(b)は、引張力の伝達状態を示す図である。
【図3】図1に示す最大変位記憶装置の取り付け状態の一例を示す図である。
【図4】歪センサにおけるひずみと電気抵抗変化率との関係を示す図である。
【図5】歪センサと弾性変形体の連結形態の一例を示す図である。
【図6】歪センサと弾性変形体の連結形態の他の一例を示す図である。
【図7】歪センサと弾性変形体のそれぞれのバネ定数とセンサ部の伸びとの関係を示す図である。図7(a)は、引張力作用前の状態を示し、図7(b)は引張力作用時の状態を示す。
【図8】弾性変形体の最大歪センサに対する柔らかさ比αとセンサ部の伸びとの関係を示すグラフを示す図である。
【図9】最大変位記憶装置をもちいる最大変位計測形態の一例を示す図である。
【図10】複数個の最大変位記憶装置を用いる最大変位の計測形態の一例を示す図である。
【図11】電気抵抗変化率と経験最大歪みとの関係を示すグラフ図である。
【図12】二つの検出対象物100への最大変位記憶装置の設置例を示す図である。図12(a)は、構造物A、B間の配管等を利用した最大変位記憶装置の設置例を示し、図12(b)は、治具を用いた最大変位記憶装置の設置例を示し、図12(c)は、図12(b)で用いる治具において相対変形を可能とするための構造の一例を示す。
【図13】弾性変形体として引張バネを用いた最大変位記憶装置の一例を示す図である。
【図14】シート状の歪センサを用いた最大変位記憶装置の一例を示す図である。
【図15】図15(a)は、検出対象物における検出区間において弾性変形δが生じたときの状態を示し、図15(b)は、弾性変形δとひび割れδcが生じたときの状態を示す。
【符号の説明】
【0103】
2 最大変位記憶装置、4 センサ部、10 最大歪センサ、12a、12b、212 アンカー部、20、220 弾性変形体、30、60、160、260 伝達部、32、72 固定部材、34、64 アンカー保持部材、68 弾性変形体連結部材、40、70 取り付けブラケット、100 検出対象物、102 構造物、200 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上の検出対象物上の二つの基点を結ぶ検出対象部位に配置され当該検出対象部位における最大変位を記憶する最大変位記憶装置であって、
導電性粒子のパーコレーション構造又は連続する導電性繊維による導電経路と、該導電経路を保持する有機質相とを備え、前記導電経路に引張力が作用したとき当該引張力に応じて導電性が変化可能であるとともに、変化した導電性の変化量の少なくとも一部を保持するのに有効な残留抵抗現象を示すことにより、当該導電経路に生じた最大の歪に対応した抵抗値を保持することができる歪センサと、
前記歪センサよりも大きな弾性変形能を有し、前記歪センサに対して力学的に直列に連結される1個又は2個以上の弾性変形体と、
を備える、装置。
【請求項2】
前記弾性変形体は前記引張力の作用により圧縮変形するように連結されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記弾性変形体は前記引張力の作用により伸び変形するように連結されている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記歪センサの前記引張力の作用方向に沿って前記歪センサの一部を保持するアンカー手段と、
前記アンカー手段を介して前記検出対象物からの引張力を前記歪センサに伝達する伝達手段と、
を備え、
前記伝達手段は、前記弾性変形体の弾性変形を介して前記アンカー部に前記引張力を伝達可能に前記弾性変形体と前記アンカー部とを連結する弾性変形体媒介性伝達手段を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記歪センサはロッド状である、請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記歪センサは、前記導電経路に沿う絶縁性繊維と、該絶縁性繊維に沿う有機高分子材料を熱処理して得られる有機質相と、を備える、請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記弾性変形体はコイルバネ形状を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
さらに、前記歪センサの前記導電経路に通電して前記導電経路の導通時における導電性データを取得する導電性データ取得手段を備える、請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
さらに、前記導電性データ取得手段によって取得した前記導電性データに基づいて前記検出対象物における最大変位を検出する最大変位検出手段を備える、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記検出対象物の災害時における健全性判定用である、請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記検出対象物の耐久性判定用である、請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記検出対象物の疲労破壊進行状況の判定用である、請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
1又は2以上の請求項1〜12のいずれかに記載の最大変位記憶装置が1又は2以上の部位に装着された機器。
【請求項14】
最大変位検出方法であって、
1又は2以上の検出対象物に装着された請求項1〜12のいずれかに記載の最大変位記憶装置の前記歪センサの前記導電経路に通電して前記通電経路の導通時における導電性データを取得する工程と、
該取得した導電性データに基づいて前記検出対象物における最大変位を検出する工程と、
を備える、方法。
【請求項15】
最大変位検出システムであって、
1又は2以上の検出対象物と、
導電性粒子のパーコレーション構造又は連続する導電性繊維による導電経路と、該導電経路を保持する有機質相とを備え、前記導電経路に引張力が作用したとき当該引張力に応じて導電性が変化可能であるとともに、変化した導電性の変化量の少なくとも一部を保持するのに有効な残留抵抗現象を示すことにより、当該導電経路に生じた最大の歪に対応した抵抗値を保持することができる歪センサと、前記歪センサよりも大きな弾性変形能を有し、前記歪センサに対して力学的に直列に連結される1個又は2個以上の弾性変形体とを備えて、前記検出対象物の1又は2以上の部位に装着される最大変位記憶装置と、
前記最大変位計測装置の前記歪センサの前記導電経路に通電して前記導電経路の導通時における導電性データを取得するとともに、該取得した導電性データに基づいて前記変位検出対象部位における最大変位又は歪みを検出する最大変位検出手段と、
を備える、システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−186308(P2009−186308A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26085(P2008−26085)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(500408795)株式会社大崎総合研究所 (2)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】