説明

最大有効パターン巾の特定方法

【課題】スプレーガンの最大有効パターン巾を定量的に特定する。
【解決手段】被塗布面3上に、スプレーガン2による長円状の被塗布パターンPを短軸方向に横移動させて帯状の塗布像4をうる塗布像形成ステップT1と、前記塗布像4を、画像データとして取り込むデータ取り込みステップT2と、前記画像データの各画素を明度値0〜nの階調に区分して帯状のモノクロ処理画像5を求めるステップT3と、前記モノクロ処理画像5を、幅向きに走査して波形状の明度分布データ6を得る明度分布データ採取ステップT4と、この明度分布データ6により、予め設定した最大有効パターン巾特定手段に基づいて最大有効パターン巾を特定する特定ステップT5とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレーガンにおける最大有効パターン巾を定量的に特定でき、最大有効パターン巾の標準化を可能とする最大有効パターン巾に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装用のスプレーガンの性能を評価する項目の一つにパターン開き(最大有効パターン巾)がある。このパターン開きは、従来、JIS B9809の「スプレーガン」の8.2項の試験条件、及び8.5項のパターン開きの測定方法に準拠して測定される。
【0003】
具体的には、図6に概念的に示すように、スプレーガンaの塗布軸と直角かつ垂直に保持された規定の上質紙である被塗布面bを、一定速度で横移動させ、これに対して、スプレーガンaから塗料を吹き付ける。このときスプレーガンaでは、塗料噴出量調節装置、空気量調節装置、及びパターン開き調節装置を全開とし、その被塗布パターン(吹き付けパターン)Pを縦長の長円状とすることで、前記被塗布面bに、短軸方向に横移動させた帯状の塗布像cが形成される。なお吹付空気圧力、吹付距離、横移動速度は、スプレーガンの塗料供給方式や被塗物による区分に応じて適宜設定され、例えば通常のスプレーガンにおいては、吹付空気圧力では290kPa又は340kPaの何れかに、吹付距離では200mm又は250mmの何れかに、又横移動速度では0.05m/s以上、0.1m/s以上、又は0.15m/s以上の何れかに設定されている。
【0004】
そしてこの得られた帯状の塗布像cに対して、その有効な塗布巾Wを、100mm間隔を隔てる3位置で測定し、その測定値の平均を、スプレーガンaのパターン開き(最大パターン巾)として規定している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗布像cでは、塗料が有効に噴出されて形成される塗布部分c1と、塗料粒子が飛び散って形成された飛散部分c2との境界が、極めて不明瞭となる。そのため、従来においては、作業者が、経験に基づいて官能的に前記境界を識別し、前記塗布部分c1の巾である前記有効な塗布巾Wを、各位置において特定している。このように従来においては、境界の識別が作業者の技量や官能に大きく影響されるため、最大有効パターン巾Wの精度、及びその信頼性に劣るという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、前記帯状の塗布像を画像解析して、その幅方向の明度分布データを求め、この明度分布データに基づいて最大有効パターン巾を特定することを基本として、作業者の技量や官能に頼ることなく、最大有効パターン巾を定量的に特定でき、その精度、及びその信頼性を高めるとともに、最大有効パターン巾の測定の標準化を達成しうる最大有効パターン巾の特定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本願請求項1の発明は、スプレーガンを用いて被塗布面に塗布した塗布像の最大有効パターン巾を特定する最大有効パターン巾の特定方法であって、
前記スプレーガンの塗布軸と直角な被塗布面で得られる長円状の被塗布パターンを、該被塗布パターンの短軸方向に前記スプレーガンに対して相対的に横移動させることにより、帯状の前記塗布像をうる塗布像形成ステップと、
前記塗布像を、画像データとして取り込むデータ取り込みステップと、
取り込んだ前記塗布像の画像データを、その各画素の明度を明度値0〜nの(n+1)段階の階調に区分して帯状のモノクロ処理画像を求めるステップと、
前記帯状のモノクロ処理画像を、長さ方向を横切る幅向きに走査することにより、該モノクロ処理画像から、幅向きに基準線からの明度が変化する幅向きの波形状の明度分布データを得る明度分布データ採取ステップと、
この明度分布データにより、予め設定した最大有効パターン巾特定手段に基づいて最大有効パターン巾を特定する特定ステップとを具えることを特徴としている。
【0008】
又請求項2の発明では、前記最大有効パターン巾特定手段は、前記基準線と明度分布データとの間の全領域の面積である明度の総和SSを求め、該明度の総和SSを、前記明度値の最大nで割った値(SS/n)を、最大有効パターン巾としたことを特徴としている。
【0009】
又請求項3の発明では、前記モノクロ処理画像は、明度値0〜255の256段階の階調に区分されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は叙上の如く、塗布像形成ステップと、データ取り込みステップと、モノクロ処理画像を求めるステップと、明度分布データ採取ステップと、特定ステップとを具え、被塗布面を横移動させて得た帯状の塗布像を、画像処理してその幅向きの波形状の明度分布データを求めるとともに、この波形状の明度分布データに基づいて、最大有効パターン巾の特定を行う。従って、作業者の技量や官能に頼ることなく、最大有効パターン巾を定量的に特定でき、その精度、及び信頼性を高めるとともに、最大有効パターン巾の測定の標準化を達成しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1は、本発明の最大有効パターン巾の特定方法を示すフローチャートである。
【0012】
図2に示すように、本発明の最大有効パターン巾の特定方法は、スプレーガン2を用いて被塗布面3に塗布した塗布像4の最大有効パターン巾Wを特定する方法であって、図1のフローチャートに示すように、
(1)被塗布面3に帯状の塗布像4をうる塗布像形成ステップT1と、
(2)この塗布像4を、画像データとして取り込むデータ取り込みステップT2と、
(3)取り込んだ画像データから、帯状のモノクロ処理画像5を求めるステップT3と、
(4)前記帯状のモノクロ処理画像5を幅向きに走査して、幅向きの明度分布データ6を得る明度分布データ採取ステップT4と、
(5)この明度分布データ6を用いて最大有効パターン巾Wを特定する特定ステップT5と、
を具える。
【0013】
前記塗布像形成ステップT1では、前記図2に示す如く、スプレーガン2の塗布軸jと直角な被塗布面3で得られる長円状の被塗布パターンPを、該被塗布パターンPの短軸方向に前記スプレーガン2に対して相対的に横移動させることにより、帯状の塗布像4をうる。具体的には、例えばスプレーガン2を固定するとともに、このスプレーガン2の塗布軸jと直角かつ垂直に保持された被塗布面3を、該被塗布面3と平行かつ一定速度で横移動させる。
【0014】
そして、この横移動する被塗布面3に対して、予め定めた基準塗布条件に基づいて、スプレーガン2から塗料を吹き付けする。このときスプレーガン2では、前記パターン開き調節装置を全開として被塗布パターンP(吹き付けパターン)を縦長の長円状とすることで、前記被塗布面3に、被塗布パターンPを短軸方向に横移動させた塗布像4を形成する。
【0015】
ここで、前記「基準塗布条件」とは、前記塗布像4を得るに際して、スプレーガン2の吹付け空気圧力、吹付け距離L、横移動の速度V、及びスプレーガン2の各調節装置の設定条件、並びに塗料の選定と塗料の物性値の選定とを規定したものであり、例えば、この特定方法を実施する企業、組織などの実施者が独自の規格化を図るために、各実施者毎に適宜設定することができる。しかし標準化のためには、例えばJIS B9809の「スプレーガン」の8.2項の試験条件に準拠し、各調節装置の設定条件として、スプレーガンの塗料噴出量調節装置、空気量調節装置、及びパターン開き調節装置をそれぞれ全開とするとともに、吹付空気圧力、吹付距離L、横移動速度Vとしては、スプレーガンの塗料供給方式や被塗物による区分に応じ、例えば通常のスプレーガンにおいては、吹付空気圧力では290kPa又は340kPaの何れかに、吹付距離では200mm又は250mmの何れかに、又横移動速度では0.05m/s以上、0.1m/s以上、又は0.15m/s以上の何れかに設定するのが好ましい。
【0016】
次に、データ取り込みステップT2では、例えばスキャナなどを用いて前記塗布像4を読み取り、デジタルの画像データとして、例えばパソコンである画像記憶・処理装置に取り込む。
【0017】
次にモノクロ処理画像を求めるステップT3では、例えばパソコンにインストールされた画像処理ソフトウェアを用い、取り込んだ前記塗布像4の画像データを画像処理し、この画像データを、その各画素の明度が、明度値0〜nの(n+1)段階の階調に区分された帯状のモノクロ処理画像5(図3に示す)に変換する。なお前記画像処理では、前記読み取った画像データにおいて、塗装ムラの特徴がより表れやすくするために、例えば色相H(Hue)、彩度S(Saturation)、明度V(Value)の三要素に対して、HS(色相、彩度)抽出処理、SV(彩度、明度)抽出処理、H(色相)抽出処理、2値化処理といった処理を施すことが好ましい。
【0018】
又各画素の明度を、(n+1)段階の階調に区分する際、非塗布面側の明度値をnとした正画像とする他、逆に非塗布面側の明度値を0としたネガティブ画像とすることもできる。本例では、前記モノクロ処理画像5がネガティブ画像である場合が示されている。又本例のモノクロ処理画像5では、画像の最も明るい部分(即ち塗布像4において塗料が最も塗布されている部分)の明度値を255(白)、最も暗い部分(即ち塗布像4において塗料が塗布されていない部分)の明度値を0(黒)として、画像の明度差を最大限に確保しているため、ムラの発生をより明確に表すことができる。
【0019】
次に、前記明度分布データ採取ステップT4では、前記帯状のモノクロ処理画像5を、長さ方向を横切る幅向きに走査することにより、該モノクロ処理画像5から、幅向きに基準線Xからの明度が変化する幅向きの波形状の明度分布データ6を得る。ここで前記「幅向き」とは、モノクロ処理画像5の長さ方向を横切る向きを意味し、長さ方向に対して90°以外の角度θで横切る向きを含む。しかしながら標準化のためには、本例の如く、前記角度θを90°とした幅方向に走査するのが好ましい。以下本明細書では、前記「幅向き」のうち、θ=90°の場合を特に「幅方向」と呼ぶ場合がある。図4には、図3において幅方向の走査線7に沿ってモノクロ処理画像5を走査した時の明度分布データ6が例示されており、この明度分布データ6では、明度値0を基準線Xとし、幅方向の一方側e1から他方側e2に行くに従い、前記基準線Xからの明度が変化している。
【0020】
なお前記明度分布データ採取ステップT4では、1以上の走査位置から明度分布データ6を得るが、好ましくは2以上の複数の走査位置から明度分布データ6を得るのが良い。この走査位置は任意に設定しても良いが、例えば、所定間隔(例えば50〜100mm程度)にて隔たるK箇所(例えば3〜10箇所程度)の走査位置から明度分布データ6を得るなど、予めその数、及び位置を設定しておくことが好ましい。特に、JIS B9809の8.5項のパターン開きの測定方法に準拠し、100mm間隔を隔てる3つの走査位置にて、明度分布データ6を取得するのが好ましい。
【0021】
次に、前記特定ステップT5では、前記波状の明度分布データ6により、予め設定した最大有効パターン巾特定手段に基づいて最大有効パターン巾Wを特定する。なお前記明度分布データ採取ステップT4にて複数(K個)の明度分布データ6を取得した場合、取得した各明度分布データ6毎に最大有効パターン巾Wを特定するとともに、これらを平均して、最終的に最大有効パターン巾Wを求めるのが好ましい。
【0022】
ここで、前記最大有効パターン巾特定手段として、種々のものを採用することができ、本例では、前記図4に示す如く、前記基準線Xと明度分布データ6との間の全領域の面積である明度の総和SSを求める。そしてこの明度の総和SSを、前記明度の最大値n(本例では255)で割った値(SS/n)を、最大有効パターン巾Wとして特定する。これにより、最大有効パターン巾Wを作業者の技量や官能に頼ることなく一義的に特定でき、その精度及び信頼性を大幅に高めることができる。
【0023】
又前記最大有効パターン巾特定手段の他の例としては、図5に示すように、前記明度の最大値nのm%の値の明度直線iと、前記明度分布データ6とが交わる交点のうちで、最も幅方向の両外側に位置する両端点q1、q1間の領域範囲として特定することもできる。このとき、前記m%を、70%±10%の範囲とするのが好ましい。
【0024】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の最大有効パターン巾の特定方法を示すフローチャートである。
【図2】塗布像形成ステップを説明する斜視図である。
【図3】モノクロ処理画像の一例を示す図面である。
【図4】図3のモノクロ処理画像を幅向きに走査した時の明度分布データを示すグラフである。
【図5】最大有効パターン巾特定手段の他の例を説明する明度分布データのグラフである。
【図6】従来の最大有効パターン巾の特定方法及びその問題点を説明する図面である。
【符号の説明】
【0026】
2 スプレーガン
3 被塗布面
4 塗布像
5 モノクロ処理画像
6 明度分布データ
j 塗布軸
P 被塗布パターン
T1 塗布像形成ステップ
T2 データ取り込みステップ
T3 モノクロ処理画像を求めるステップ
T4 明度分布データ採取ステップ
T5 特定ステップ
X 基準線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーガンを用いて被塗布面に塗布した塗布像の最大有効パターン巾を特定する最大有効パターン巾の特定方法であって、
前記スプレーガンの塗布軸と直角な被塗布面で得られる長円状の被塗布パターンを、該被塗布パターンの短軸方向に前記スプレーガンに対して相対的に横移動させることにより、帯状の前記塗布像をうる塗布像形成ステップと、
前記塗布像を、画像データとして取り込むデータ取り込みステップと、
取り込んだ前記塗布像の画像データを、その各画素の明度を明度値0〜nの(n+1)段階の階調に区分して帯状のモノクロ処理画像を求めるステップと、
前記帯状のモノクロ処理画像を、長さ方向を横切る幅向きに走査することにより、該モノクロ処理画像から、幅向きに基準線からの明度が変化する幅向きの波形状の明度分布データを得る明度分布データ採取ステップと、
この明度分布データにより、予め設定した最大有効パターン巾特定手段に基づいて最大有効パターン巾を特定する特定ステップとを具えることを特徴とする最大有効パターン巾の特定方法。
【請求項2】
前記最大有効パターン巾特定手段は、前記基準線と明度分布データとの間の全領域の面積である明度の総和SSを求め、該明度の総和SSを、前記明度値の最大nで割った値(SS/n)を、最大有効パターン巾としたことを特徴とする請求項1記載の最大有効パターン巾の特定方法。
【請求項3】
前記モノクロ処理画像は、明度値0〜255の256段階の階調に区分されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の最大有効パターン巾の特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−112963(P2009−112963A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289986(P2007−289986)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000155230)株式会社明治機械製作所 (23)
【Fターム(参考)】