説明

最終処分場の早期安定化方法

【課題】経済的に焼却残渣の早期安定化を図ることができる最終処分場の早期安定化方法を提供する。
【解決手段】焼却残渣に焼酎廃液を添加して、埋立期間中に焼却残渣が固化することを防止する。その結果焼却残渣の早期安定化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最終処分場の早期安定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国における廃棄物の最終処分場には、一般廃棄物を処分する一般廃棄物最終処分場と、産業廃棄物の中で分解性の廃棄物を処分する管理型最終処分場、安定型最終処分場、遮断型最終処分場が存在する。
その中で特に一般廃棄物最終処分場と産業廃棄物の管理型最終処分場の法に定められた廃止基準のハードルがかなり高いために、通常の処分場では埋め立て終了後、廃止できるまで20〜30年もかかるといわれている。
ここで廃止基準とは、その条件を満たせば処分場を廃止でき、浸出水処理施設を停止できるという基準である。
そのために、廃止基準を満たさない場合には、下記の「発明が解決しようとする課題」に示すように、浸出水処理施設を長期間運転しなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−38168号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の最終処分場にあっては、次のような問題点がある。
<1> 最終処分場の管理者は埋め立て終了後も、廃止基準を満たすまでは、長期間にわたって水処理施設を稼働させ続ける必要があり、膨大な維持管理経費を負担しなければならない。
<2> 長期にわたって多くの有害物質などを含んだ浸出水が埋立地から発生し続けるために、周辺住民は長期にわたって環境リスクを負い続けることになる。
<3> 廃止まで長い年月が必要になるため、住民サービスの一環である埋立跡地の利用が開始できるまで長期間待たされることになる。
<4> 以上のような問題があることが、最終処分場の新規立地に際して地域住民の了解が得られない大きな原因となっている。
<5> 一方では、我が国では廃棄物の焼却処理が進んでおり、埋立廃棄物の無機化が進んでいるため、埋立廃棄物の安定化に寄与する洗い出しの必要性が増加している。
<6> その中で特に被覆型処分場では、浸出水処理施設を小型化するため、散水量を少なめに設定している場合が多く、効率的な洗い出しが求められている。
<7> さらに焼却工場では塩化ビニールなどを燃やしたときに発生する塩化水素ガスを除去する目的でバグフィルターのような廃ガス処理装置の前の煙道に消石灰や生石灰を大量に投入している。そのために未反応の消石灰や生石灰が焼却残渣に混入したまま排出される。これが埋め立て後に、埋め立て地の各所に不均質に固化してしまい有害物質等の洗い出しを阻害する要因となっている。
<8> なお、コンクリートのように均一に強固に固化すれば、焼却残渣中に含まれる重金属類などの有害物質も固化体内に封じこめることができ浸出水で流出するおそれがなく、有害物質等の安定化に悪影響を及ぼさない。しかしこの方法では焼却残渣は不完全に固化するから、固化した焼却残渣の内部から長期にわたって重金属類が浸出水として流出してくるため、速やかな安定化の障害となる。
<9> 埋め立ての前処理として焼却残渣を洗浄する方法も知られている。この方法では大規模な洗浄装置が必要になり、さらに汚染物質を含んだ洗浄水が多量に発生するためにその水処理費用だけでも膨大な金額となる。
<10> あるいは、降雨の浸透を良くするために、埋立地内に縦位置に砕石層を配置する方法が知られている。この方法では砕石層の体積だけ、埋立廃棄物の体積が減少することなり、埋め立て処分費用の収入が減少して不経済な結果となる。
<11> 最終処分場の問題とは別に、従来から焼酎廃液の処理の問題が存在している。焼酎の製造工程で生じる廃液は、焼酎生産量の1/2程度も排出されると言われており、このように大量に発生する廃液の処理、処分が社会問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために本発明は、焼却残渣に焼酎廃液を添加して、埋立期間中に焼却残渣が固化することを防止し、焼却残渣の早期安定化を図る、最終処分場の早期安定化方法を特徴としたものである。
さらに本発明は、埋め立て前の焼却残渣に必要量の焼酎廃液を投入し攪拌してから埋め立てる、最終処分場の早期安定化方法を特徴としたものである。
さらに本発明は、埋め立て前の焼却残渣に必要量の焼酎廃液と水との溶液を投入し攪拌してから埋め立てる、最終処分場の早期安定化方法を特徴としたものである。
さらに本発明は、埋め立て後の焼却残渣に必要量の焼酎廃液と水との溶液を散水する、最終処分場の早期安定化方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の最終処分場の早期安定化方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 埋め立てた後の焼却残渣の固化を防止できるので、安定化を促進できて最終処分場の廃止基準を満たすまでの期間を大幅に短縮できる。この期間を短縮できるということは、埋め立て終了後の維持管理コストを大幅に削減できるということになる。
<2> 従来の設備に対して、わずかな装置を追加するだけで実施が可能であり、その装置、費用は設備全体に対しては比較にならない程度の小規模のものである。
<3> 例えば廃棄物処分場の廃止期間が20年間から10年間に短縮できたとすると、短縮された10年間の浸出水処理などにかかるコストが不要となる。こうして削減できたコストと比較すると、本発明の装置の費用、維持費用はその1/10以下と言えるから、経済的にもきわめて有効である。
<4> 上記したように砕石層を設置する方法は、その体積だけ埋め立てる廃棄物量が減少するという問題があった。しかし本発明の方法では、投入する焼酎廃液の量は、焼却残渣に含まれるカルシウム濃度に対する重量比で10%程度、焼却残渣に対して3%程度である。しかも焼酎廃液は有機物質であり、埋設期間中に好気性分解によりCO2とH2Oになる。したがって埋立地の全体量からするとこの添加量は無視できる規模であり、埋め立て容量の減少はほとんど生じないと言える。
<5> 多量に発生する焼酎の廃液の処理が社会問題となっているが、本発明はその焼酎廃液を利用して最終処分場の早期安定化を図る技術であるから、ふたつの問題を一挙に解決できる方法である。さらに廃棄物である焼酎廃液を利用するものであるから、薬剤費用がほとんどかからない。また逆に、焼酎廃液の処分費をもらえる可能性もある。
<6> 最終処分場の廃止が早くできるために、地域住民が負う環境負荷がそれだけ軽減される。同時に本格的な跡地利用が速やかに行えることになり、最終処分場の設置に対する地域住民の理解が得やすくなる。
<7> 水処理施設に対して若干の負荷をかけることとになるが、安定化期間に大きく影響を及ぼすほどのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】最終処分場の早期安定化方法の実施例の説明図。
【図2】最終処分場の早期安定化方法の他の実施例の説明図。
【図3a】本発明の最終処分場の早期安定化方法に使用する焼酎廃液の成分表。
【図3b】コンクリート固化遅延材の成分の比較図。
【図4】焼却残渣に、焼酎廃液を混合した場合と、コンクリート固化遅延材を混合した場合の一軸圧縮強度の比較図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>本発明の基本思想。
本発明の基本的な技術的思想は、焼却残渣に焼酎廃液を添加することで埋立期間中に焼却残渣が固化する現象を阻止して、焼却残渣の早期安定化を図ろうとするものである。
焼却残渣は10〜40%のカルシウム分を含有しており、これが水和作用によって固化するのであるが、本発明の方法はその水和作用を焼酎廃液によって阻止するものである。
このような手段で埋め立てた後に始まる焼却残渣の固化を防止することができれば、降雨や散水用水の埋立地内部への浸透に伴う水道(みずみち)ができにくくなる。
その結果、雨水や散水の水がより均等に浸透することになり、洗い出し効果が良好となって焼却残渣に含まれる有害物質を迅速に洗い流すことができ、早期の安定化を図ることができる。
次に本発明の技術思想の具体的な方法について説明するが、焼却残渣への焼酎廃液の供給方法は以下の3種類の処理方法が考えられる。
【0010】
<2>埋め立て前に焼酎廃液の投入。
この処理方法は、埋め立て前の焼却残渣に必要量の固化遅延材としての焼酎廃液を投入し攪拌し、この攪拌後の焼却残渣を埋め立てる方法である。
この作業に入る前に、焼却残渣に含まれているカルシウム濃度(Ca濃度)を把握しておき、投入する焼酎廃液の量を決定する。
カルシウム濃度は焼却工場で定期的に分析しているので、そのデータを使用することができる。
また反応速度以上に速く焼酎廃液を投入したり、その量が多かった場合には未反応の焼酎廃液が浸出水の中に流出するので、浸出水の水質を分析してその情報をフィードバックしながら投入する方法を採用できる。
なお、焼酎廃液はそのまま使用するだけでなく、焼酎廃液から必要な成分のみを取り出し、本発明の処理に不要な成分の全部あるいは一部を取り除いて焼却残渣に投入すればより効果的である。
あるいは、焼酎廃液又は必要成分を希釈・濃縮しても同様の効果が得られる。
また焼酎廃液と焼却残渣との混合は埋立地内で行うことも、あるいは発生源である焼却施設で行うこともできる。
混合手段としては、埋立作業ヤードでスケルトンバケットによって行なうことができる。
ここにスケルトンバケットとは、油圧ショベルのバケットの一部を格子状の穴空き状態に形成し、バケットですくった物の一部がその穴から脱落するように構成したものである。
さらにミキサーやトロンメルを使用する方法など公知の方法を採用することができる。
さらに不燃破砕廃棄物などと一緒に混合した場合には透水性がさらに良くなり良好な効果を得ることができる。
【0011】
<3>埋め立て前に焼酎廃液の溶液を投入。
この処理方法は、埋め立て前の焼却残渣に必要量の固化遅延材としての焼酎廃液を投入し攪拌するが、その際に固化遅延材としての焼酎廃液をそのままではなく水に溶解し、その溶解液を散水する方法である。
それ以降の散水した溶液と攪拌した焼却残渣を埋め立てる工程は前記の方法と同様である。
その際に例えば図1に示すように門型ゲート1の水平枠11に複数の散水弁を取り付けておく。
そしてその下に焼却残渣3を搭載したトラック4を停車させ、その荷台の上から荷降ろし時の粉塵発生防止を兼ねて焼酎廃液の水溶液5を散水する。
こうして散水した焼却残渣3をそのまま埋め立てることも、あるいは前記したようなスケルトンバケットなどで両者を攪拌してから埋め立てることもできる。
【0012】
<4>埋め立て後に焼酎廃液の溶液を投入。
焼却残渣を埋め立てた後、散水用の水に対して固化遅延材としての焼酎廃液を必要な濃度になるように混入させ、この溶液を焼却残渣に散水する方法である。
この場合に、通常の埋め立て層の厚さは2.5〜3m程度であるが、この厚さを1m程度とする薄層埋立方法と併用すると効果的である。
特に被覆型処分場の場合、図2に示すように散水設備6が必ず設置してあるので、新たな設備を追加することなく、焼却残渣3を埋め立てた後に焼酎廃液の溶液5を散水する方法を容易に採用することができる。
【0013】
<5>焼酎廃液の成分。
上記したように本発明の基本思想は、焼却残渣に焼酎廃液を添加することで埋め立て期間中に焼却残渣が固化する現象を阻止して、焼却残渣の早期安定化を図ろうとするものである。
そこでまず、焼酎廃液の成分について説明する。
図3aに示すように、焼酎廃液の成分には、クエン酸、グルコースを含んでいる。
一方、図3bに示すように、コンクリート固化遅延材として効果のある物質としてクエン酸、グルコースが知られている。
このように焼酎廃液にはコンクリート固化遅延材と同様の成分を含んでいることから、焼酎廃液が固化遅延に効果があることが予測された。
【0014】
<6>焼酎廃液の機能。
次に、本発明において焼酎廃液が果たすその機能について説明する。
図2は焼却残渣に各種の固化防止剤を混合したときの固化状況を調査実験した結果である。
この図4において焼酎廃液の重量比%は焼却残渣に含まるカルシウム量に対する重量比を意味する。
この実験では焼却残渣に添加量を変えて焼酎廃液を混入し、養生期間7日後に一軸圧縮強度を測定した。
その際に比較のために、これまでの実験でよい結果が得られていた公知のコンクリート固化遅延材(F―1)を混合したものを製作して一軸圧縮強度を測定した。
この結果から明らかなように、焼酎廃液をカルシウム濃度に対して重量比で約10%混入することで、強度が出ないことが分かった。
その程度は、従来よい成果が得られていたコンクリート固化遅延材と同等の効果であった。
【符号の説明】
【0015】
1:門型ゲート
3:焼却残渣
5:焼酎廃液の水溶液
6:散水設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却残渣に焼酎廃液を添加して、
埋立期間中に焼却残渣が固化することを防止し、
焼却残渣の早期安定化を図る、
最終処分場の早期安定化方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
埋め立て前の焼却残渣に必要量の焼酎廃液を投入し攪拌してから埋め立てる、最終処分場の早期安定化方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、
埋め立て前の焼却残渣に必要量の焼酎廃液と水との溶液を投入し攪拌してから埋め立てる、
最終処分場の早期安定化方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、
埋め立て後の焼却残渣に必要量の焼酎廃液と水との溶液を散水する、
最終処分場の早期安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−81419(P2012−81419A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229928(P2010−229928)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(509034247)株式会社松尾設計 (2)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】