最終糖化産物生成抑制剤
新たな最終糖化産物生成抑制剤、及びその利用方法を提供する。本発明によって、ピリドキサール5’−リン酸を有効成分とした薬剤が提供される。また、ピリドキサール5’−リン酸を用いた最終糖化産物生成抑制方法、硬化性腹膜炎の治療方法、及び腹膜透析方法などが提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は最終糖化産物生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸、ペプチド、タンパク質のアミノ基とケトン、アルデヒド、特にグルコースなどの還元糖が反応して褐色色素を生成する反応をメイラード反応という。メイラード反応の最終産物として生成する物質を最終糖化産物(advanced glycation end products、以下、「AGE」ともいう)という。メイラード反応は、アミノ基とグルコースが非酵素的に反応しシッフ塩基を形成し、ついでアマドリ転位を起こす早期反応、さらに3−デオキシグルコソン(3−DG)などのジカルボニル基を有する活性中間体を生成する中期反応、活性中間体がさらにアミノ基と非酵素的に反応し、脱水、縮合反応を繰り返してAGE形成する後期反応からなる。
AGEとしてはイミダゾロン(非特許文献1)、Nε−カルボキシメチルリシン(CML)(非特許文献2)、ペントシジン、ピラリン、クロスリン、Nε−カルボキシエチルリシン、メチルグリオキサールリシンダイマー、グリオキサールリシンダイマーなどが同定されている。イミダゾロンは3−DGがアルギニンと反応して生成する(非特許文献1)。
AGEが発症、進展に関与している病態としては、加齢、糖尿病(腎症、神経症、網膜症、動脈硬化)、腎不全(硬化性腹膜炎、透析アミロイドーシス、動脈硬化)、アルツハイマー病、慢性関節リウマチなどがある(非特許文献1〜5)。
AGE生成抑制剤としては、アミノグアニジン、OPB−9195などがあるが、その副作用のために臨床応用は困難である。最近、ピリドキサミンがAGEの一種であるCMLをトラップするAGE抑制剤であることが報告された(非特許文献6)。
【0003】
AGEの関与が知られている病態の一つに硬化性腹膜炎がある。腹膜透析(CAPD)患者は、5年を過ぎた長期になると腹膜機能が低下し、腹膜が硬化(繊維化)し被嚢性硬化性腹膜炎のため死亡する例がある。このため早めに腹膜透析を中止して血液透析に移行せざるをえないのが現状である。現在我が国では、腹膜透析患者は約9,000人おり血液透析患者の約23万人に比較してその割合は約4%と極めて少ない。腹膜透析の致死的な合併症である被嚢性硬化性腹膜炎を予防することができれば腹膜透析はもっと普及すると思われる。
腹膜硬化症(硬化性腹膜炎)の予防のために、3−デオキシグルコソン(3−DG)などのグルコース分解産物(GDP)が少なく、中性pHの腹膜透析液の開発がなされた。これはGDPによる最終糖化産物(AGE)の腹膜への沈着を減少させること、さらに中性液により腹膜に対する刺激を低下させることにより腹膜硬化の発生を予防しようというものである。GDPは腹膜透析液中に高濃度に存在するグルコースから、滅菌のための加熱処理により生成する(非特許文献7、8)。上記の腹膜透析液では、滅菌処理を加熱ではなくろ過によって行なうことによりGDPの生成を抑制している(非特許文献9、10)。
腹膜硬化症患者の腹膜には、3−DG由来のイミダゾロン、CMLなどのAGE、トランスフォーミング成長因子(TGF)−β1、血管内皮増殖因子(VEGF)の沈着とともに繊維化、肥厚、血管数の増加が認められている(非特許文献11、12)。繊維化が強い腹膜部位には肝細胞成長因子(HGF)の沈着は認められていない(非特許文献12)。
【0004】
【非特許文献1】Niwa T,Katsuzaki T,Miyazaki S,Miyazaki T,Ishizaki Y,Hayase F,Tatemichi N,Takei Y:Immunohistochemical detection of imidazolone,a novel advanced glycation end product,in kidneys and aortas of diabetic patients.J Clin Invest 99:1272−1280,1997
【非特許文献2】Niwa T,Sato M,Katsuzaki T,et al:Amyloid β2−microglobulin is modified with Nε−(carboxymethyl)lysine in dialysis−related amyloidosis.Kidney Int,50:1303−1309,1996
【非特許文献3】Vlassara H,Bucala R,Striker L.:Pathogenic effects of advanced glycosylation:biochemical,biologic,and clinical implications for diabetes and aging.Lab Invest.70:138−151,1994
【非特許文献4】Franke S,Niwa T,Deuther−Conrad W,Sommer M,Hein G,Stein G:Immunochemical detection of imidazolone in uremia and rheumatoid arthritis.Clin Chim Acta.300:29−41,2000
【非特許文献5】Reddy VP,Obrenovich ME,Atwood CS,Perry G,Smith MA:Involvement of Maillard reactions in Alzheimer disease.Neurotox Res.4:191−209,2002
【非特許文献6】Onorato JM,Jenkins AJ,Thorpe SR,Baynes JW:Pyridoxamine,an inhibitor of advanced glycation reactions,also inhibits advanced lipoxidation reactions.Mechanism of action of pyridoxamine.J Biol Chem.275:21177−21184,2000
【非特許文献7】Kjellstrand P,Martinson E,Wieslander A,Holmquist B:Development of toxic degradation products during heat sterilization of glucose−containing fluids for peritoneal dialysis:influence of time and temperature.Perit Dial Int 15:26−32,1995
【非特許文献8】Schalkwijk CG,Posthuma N,ten Brink HJ,ter Wee PM,Teerlink T:Induction of 1,2−dicarbonyl compounds,intermediates in the formation of advanced glycation endproducts,during heat−sterilization of glucose?based peritoneal dialysis fluids.Perit Dial Int 19:325−333,1999
【非特許文献9】Tauer A,Zhang X,Schaub TP,Zimmeck T,Niwa T,Passlick−Deetjen J,Pischetsrieder M:Formation of advanced glycation end products during CAPD.Am J Kidney Dis 41(S1):S57−S60,2003
【非特許文献10】Tauer A,Knerr T,Niwa T,et al:In vitro formation of Nε−(carboxymethyl)lysine and imidazolones under conditions similar to continuous ambulatory peritoneal dialysis.Biochem.Biophys Res Commun 280:1408−1414,2001
【非特許文献11】Nakamura S,Miyazaki S,Sasaki S,Morita T,Hirasawa Y,Niwa T:Localization of imidazolone in the peritoneum of CAPD patients:A factor for a loss of ultrafiltration.Am J Kidney Dis 38(S1):S107−S110,2001
【非特許文献12】Nakamura S,Tachikawa T,Tobita K,Miyazaki S,Sakai S,Morita T,Hirasawa Y,Weigle B,Pischetsrieder M,Niwa T:Role of advanced glycation end products and growth factors in peritoneal dysfunction in CAPD Patients.Am J Kidney Dis 41(S1):S61−S67,2003
【非特許文献13】Honda K,Nitta K,Horita S,et al:Accumulation of advanced glycation end products in the peritoneal vasculature of continuous ambulatory peritoneal dialysis patients with low ultra−filtration.Nephrol Dial Transplant 14:1541−1549,1999
【非特許文献14】Margetts PJ,Kolb M,Galt T,Hoff CM,Shockley TR,Gauldie J:Gene transfer of transforming growth factor−β1 to the rat peritoneum:Effect on membrane function.J Am Soc Nephrol 12:2029−2039,2001
【非特許文献15】Inagi R,Miyata T,Yamamoto T,et al:Glucose degradation product methylglyoxal enhances the production of vascular endothelial growth factor in peritoneal cells:Role in the functional and morphological alterations of peritoneal membranes in peritoneal dialysis.FEBS Lett 463:260−264,1999
【非特許文献16】Hippenstiel S,Krull M,Ikemann A,Risau W,Clauss M,Suttorp N:VEGF induces hyperpermeability by a direct action on endothelial cells.Am J Physiol 274:L678−L684,1998
【非特許文献17】Matsumoto K,Nakamura T:Hepatocyte growth factor:Renotropicrole and potential therapeutics for renal disease.Kidney Int 59:2023−2038,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新たな最終糖化産物生成抑制剤(AGE生成抑制剤)、及びその利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新たなAGE生成抑制剤を探索するために、AGE生成の中間体の代表である3−DGをトラップする化合物をスクリーニングした。その結果、ピリドキサール5’−リン酸に濃度依存的な3−DGトラップ作用が認められた。更に検討したところ、ピリドキサール5’−リン酸が、3−DGからAGEの一つであるイミダゾロンの生成を効果的に抑制することが明らかとなった。即ち、ピリドキサール5’−リン酸がAGE抑制作用を有することが見出された。一方、ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用は、AGE生成抑制剤として知られるピリドキサミンに比較して強く、ピリドキサール5’−リン酸が優れたAGE生成抑制剤であることが判明した。
以上の知見を得た後、ピリドキサール5’−リン酸の作用について更に検討を行なった。上でも述べたが、腹膜硬化(硬化性腹膜炎)の発症にAGEが重要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献11〜13)。AGEが原因となって腹膜機能が低下する経路を図11に示す。まず、腹膜に沈着したAGEが、繊維芽細胞やマクロファージ細胞表面にあるRAGEなどのAGE受容体と結合し、これらの細胞を活性化しTGF−β1を生成する。TGF−β1は繊維芽細胞によるコラーゲンI及びIII、TIMP−1の産生を亢進させる(非特許文献14)。その結果、腹膜の繊維化および腹膜中皮の肥厚を来し、腹膜の限外濾過能の低下をもたらす。またAGEは腹膜中皮細胞表面にあるRAGEなどのAGE受容体と結合し、VEGFを生成する。VEGFは血管増生と血管透過性を亢進させ、タンパク質などの大分子物質を漏出し、その結果、腹膜の濾過機能の低下をもたらす(非特許文献15、16)。HGFはTGF−β1の作用と拮抗し繊維化を抑制する作用がある(非特許文献17)。TGF−β1はHGFの発現を減少させる。このようにAGEは、腹膜の機能低下に関わるキー分子であり、その生成を抑制できれば腹膜機能の低下を未然に防止できる。ここで、上記のように、ピリドキサール5’−リン酸が良好なAGE抑制作用を有することが見出されている。したがって、ピリドキサール5’−リン酸を使用すればAGEの生成を効果的に抑制でき、その結果として腹膜機能の低下を防止できるものと予想された。かかる予想の下にピリドキサール5’−リン酸の作用を検証したところ、ピリドキサール5’−リン酸が1)AGEの生成を効果的に抑制すること、2)繊維化を促進するTGF−β1の発現を抑制するとともに、繊維化を抑制するHGFの発現を促進すること、及び3)血管増殖を促進するVEGFの発現を抑制して血管数の増加を抑制することが確認された。即ち、ピリドキサール5’−リン酸の抗腹膜硬化作用が確認された。ここで、現行の腹膜透析液においてはGDPとして3−DGが最も高濃度に存在しており、一方で腹膜透析排液中にはイミダゾロンが高濃度で検出されている。これに対して、本発明者らの行なった試験(後述の実施例)によって、イミダゾロンの生成をピリドキサール5’−リン酸が効果的に抑制することが確認された。つまり、腹膜透析において最も大量に生成されるAGEの生成をピリドキサール5’−リン酸が効果的に抑制することが実証された。このことは、腹膜透析の際にピリドキサール5’−リン酸を用いることが、腹膜透析に伴う腹膜機能の低下を防止する上で極めて有効な手段になることを意味する。
【0007】
以上のように、本発明者らの検討の結果、ピリドキサール5’−リン酸の有するAGE生成抑制作用が明らかとなり、さらに腹膜機能の低下(特に腹膜硬化)に対してピリドキサール5’−リン酸が極めて有効であることが判明した。
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであって以下の構成を提供する。
[1]ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む最終糖化産物生成抑制剤。
[2]ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む抗腹膜硬化剤。
[3]ピリドキサール5’−リン酸を成分の一つとして含む腹膜透析液。
[4]ピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む最終糖化産物生成抑制方法。
[5]治療上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む硬化性腹膜炎の予防又は治療方法。
[6]腹膜硬化の予防上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む腹膜透析方法。
[7]前記ステップが、以下のa〜cの少なくとも一つ以上の時期に実施される、[6]に記載の腹膜透析方法、
a:透析処置の前、
b:透析処置中、
c:透析処理後。
[8]最終糖化産物生成抑制剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
[9]抗腹膜硬化剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明は新規のAGE生成抑制剤及び抗腹膜硬化剤を提供する。本発明の薬剤のAGE生成抑制作用は、AGE生成抑制剤として知られているピリドキサミンのそれよりも高く、少ない用量で高い効果が得られる。また、本発明の薬剤の有効成分はビタミンB6リン酸エステル化合物であることから安全性が高く、副作用の恐れの少ない薬剤となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ピリドキサール5’−リン酸(以下、「PLP」と略称する)と3−DGをインキュベートした後、3−DG濃度をGC/MSで測定した結果のグラフである。PLPによって3−DGがトラップされることが示される。
【図2】図2は、ピリドキサミンと3−DGをインキュベートした後、3−DG濃度をGC/MSで測定した結果のグラフである。ピリドキサミンの3−DGトラップ作用の程度が示される。
【図3】図3は、3−DG、BSA、及びPLPをインキュベートして生成するイミダゾロンをEIAで測定した結果のグラフである。PLPが濃度依存的にイミダゾロンの生成を抑制することがわかる。
【図4】図4は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群の腹膜厚を測定した結果のグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによって腹膜肥厚の増加が抑制されることがわかる。
【図5】図5は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のイミダゾロン陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってイミダゾロン陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図6】図6は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のCML陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってCML陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図7】図7は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群の1型コラーゲン陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによって1型コラーゲン陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図8】図8は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のTGF−β1陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってTGF−β1陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図9】図9は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のHGF陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってHGF容積面積が増加することがわかる。
【図10】図10は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のVEGF陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってVEGF陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図11】図11は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群の血管数を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによって腹膜血管数の増加が抑制されることがわかる。
【図12】図12は、AGE生成から腹膜機能低下に至る経路を表した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ピリドキサール5’−リン酸(以下、「PLP」と略称する)を有効成分として含む薬剤に関する。本発明の薬剤はAGE生成抑制剤として、又は抗腹膜硬化剤として使用される。本発明における「抗腹膜硬化剤」とは、腹膜硬化を予防するために使用される薬剤、又は腹膜硬化の症状の悪化を阻止若しくは症状を改善(部分的又は完全な治癒を含む)するために使用される薬剤のことをいう。したがって本発明の抗腹膜硬化剤には、腹膜硬化の予防的処置に使用可能な薬剤、及び腹膜硬化(例えば被嚢性硬化性腹膜炎)の治療に使用可能な薬剤が含まれる。
後述の実施例に示されるように、ピリドキサール5’−リン酸にAGE生成抑制作用が見出された。ここで、図11に説明されるようにAGEはTGF−β1の産生を促し、またこれが原因となってコラーゲンI及びIIIの増加及びTIMP−1レベルの上昇が生ずる。一方でAGEはVEGFレベルの上昇を引き起こす。これらの事実は、AGE生成抑制作用を有するピリドキサール5’−リン酸を、TGF−β1の産生抑制や、コラーゲンI又はIIIの増加抑制、TIMP−1レベルの上昇抑制、及びVEGFレベルの上昇抑制を目的として使用することができることを示唆する。したがって、ピリドキサール5’−リン酸を有効成分とした薬剤を、TGF−β1の増加、コラーゲンI又はIIIの増加、TIMPレベルの上昇、及び/又はVEGFレベルの上昇を原因とする疾病の予防又は治療にも使用できると予想される。
また、AGEはVEGFレベルの上昇を介して血管増生及び血管透過性の亢進を引き起こすことから(図11)、ピリドキサール5’−リン酸を血管増生又は血管透過性の亢進を抑制する目的に使用することができるといえ、したがってピリドキサール5’−リン酸を有効成分とした薬剤は、血管増生又は血管透過性の亢進を原因とする疾病の予防又は治療にも使用され得ると考えられる。
【0011】
ここに、本発明の薬剤に使用されるピリドキサール5’−リン酸は以下の化学式で表される。
【化1】
【0012】
本発明の薬剤においてピリドキサール5’−リン酸は他の化合物と結合した状態で存在していてもよい。また、薬学的に許容可能な塩の形態として存在していてもよい。ここでの他の化合物としてはペプチドやタンパク質を例示することができる。一方、ここでの薬学的に許容可能な塩とは例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等との塩(無機酸塩)や、ギ酸、酢酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等との塩(有機酸塩)である。
【0013】
一般に、ある化合物の一部に修飾を施して得られる化合物が修飾前の化合物と同様の性質や特性を有する場合がある。即ち、修飾が化合物の特定の性質等に影響を及ぼさない場合がある。このことを考慮すれば、ピリドキサール5’−リン酸に修飾を施して得られる修飾体であっても、AGE生成抑制作用を維持する限りにおいて、本発明における有効成分として使用され得る。当業者であれば、周知ないし慣用の手段を用いてピリドキサール5’−リン酸を基本とした置換体などの修飾体をデザインすることができる。また、かかるデザインに基づき、周知ないし慣用の手段を用いて目的の修飾体を調製し、その性質や作用を調べることも当業者には容易と考えられる。
【0014】
ピリドキサール5’−リン酸の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D−マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0015】
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして調製できる。
このように製剤化した本発明の薬剤はその形態に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、腹腔内注射など)によって患者に適用され得る。
本発明の薬剤には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分(ピリドキサール5’−リン酸)が含有される。薬剤中の有効成分量は一般に剤型によって異なるが、所望の投与量を達成できるように例えば約1μg重量%〜約1g重量%とする。
【0016】
本発明の適用対象が腹膜硬化の予防である場合には、ピリドキサール5’−リン酸を腹膜透析液の成分として使用することもできる。このように、本発明は他の態様としてピリドキサール5’−リン酸を含有する腹膜透析液を提供する。ピリドキサール5’−リン酸を含有する腹膜透析液はその適用(透析への使用)時において腹膜硬化予防作用を奏することとなる。したがって、このような腹膜透析液を利用すれば腹膜硬化症の発生の恐れが少ない透析処置が実現される。
現行の腹膜透析液は一般に、Na+、Ca2+、Mg2+、Cl−、乳酸、ブドウ糖などをその成分として含む。本発明の腹膜透析液は、このような各種の成分に加えてピリドキサール5’−リン酸を用いることによって調製することができる。また、市販の腹膜透析液にピリドキサール5’−リン酸を所定量添加して本発明の腹膜透析液を調製することもできる。この場合のピリドキサール5’−リン酸の添加は、腹膜透析液の使用直前に行われてもよい。
腹膜透析液中のピリドキサール5’−リン酸の量は例えば40nM(mol/l)〜40mM(mol/l)である。
【0017】
本発明の他の局面では、ピリドキサール5’−リン酸を利用した最終糖化産物生成抑制方法(AGE生成抑制方法)が提供される。本発明のAGE生成抑制方法では、ピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップが実施される。ピリドキサール5’−リン酸は単独で或いは他の物質とともに投与される。典型的には、上記の本発明の薬剤の形態で投与される。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜などを挙げることができる。ピリドキサール5’−リン酸の投与量は、期待される作用(AGE生成抑制作用)が得られるように設定される。期待される作用が十分に得られるとともに、ピリドキサール5’−リン酸の投与による副作用がないか又は治療上問題とならない程度となるようにピリドキサール5’−リン酸の投与量を設定することが好ましい。投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む薬剤を使用する場合には、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約10μg〜約10g、好ましくは約10mg〜約60mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の病状や薬剤の効果持続時間などを考慮することができる。
本発明のAGE生成抑制方法による予防又は治療の対象となる疾病ないし病態は、AGEがその発症や進展などに関与しているものであれば特に限定されない。例えば、加齢、糖尿病、腎症、神経症、網膜症、動脈硬化、腎不全、硬化性腹膜炎、透析アミロイドーシス、動脈硬化、アルツハイマー病、慢性関節リウマチなどが対象となる。中でも硬化性腹膜炎の予防ないし治療に対して本発明の方法は有効であり、本発明はその具体的一態様として以下の各方法、即ち、治療上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップを含む硬化性腹膜炎の予防又は治療方法、及び腹膜硬化の予防上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップを含む腹膜透析方法を提供する。ここでの「治療上有効量」及び「腹膜硬化の予防上有効量」は、患者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0018】
ここに腹膜透析とは、透析液を腹腔内に注入し、一定期間の貯留によって腹膜を介して老廃物や水分等が移行した透析液を体外に取り出すという血液浄化処置である。腹膜透析の方式としては連続携行式腹膜透析(CAPD)及び自動腹膜透析(APD)が知られている。これらいずれの方法にも本発明の腹膜透析方法を適用できる。
【0019】
本発明の腹膜透析方法における、ピリドキサール5’−リン酸の投与時期は特に限定されないが、例えば、透析処置の前に投与を行なう。透析処置は一般に複数回行なわれるが、この場合には一つ以上の透析処置の前にピリドキサール5’−リン酸の投与が実施されることとなる。
透析処置の前にピリドキサール5’−リン酸を投与する場合、ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用を効果的に発揮させるために、投与後できるだけ時間を置かずに透析処置を実施することが好ましい。かかる観点から、透析処理の直前にピリドキサール5’−リン酸の投与を実施することが好ましい。
一方、ピリドキサール5’−リン酸の投与を透析処置中に実施してもよい。即ち、透析処置に並行してピリドキサール5’−リン酸の投与を行なってもよい。例えば透析液中にピリドキサール5’−リン酸を含有させることとすれば、透析操作を何ら複雑化することなくこのような投与方法を実行することができ、患者及び医師等の負担が少ない。勿論、透析液の注入とは別の経路によってピリドキサール5’−リン酸の投与を実施してもよい。
ピリドキサール5’−リン酸の投与を透析処理後に実施することもできる。但しこの場合には、ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用を効果的に発揮させるために、透析処置を終了した後できるだけ時間を置かずにピリドキサール5’−リン酸を投与することが好ましい。かかる観点から、透析処置の直後にピリドキサール5’−リン酸の投与を実施することが好ましい。
尚、透析処置の前、透析処置中、及び透析処置後のいずれか一つの時期だけでなく、これらの二つ以上の時期にピリドキサール5’−リン酸の投与を実施してもよい。
【0020】
インスリンを介さずに細胞内にブドウ糖が受動的に流入する細胞においては、グルコースをソルビトール→フルクトース→フルクトース3リン酸→3−DGに代謝分解し細胞外に排出するポリオール経路がある。ポリオール経路を介して生成した3−DGからもイミダゾロンなどのAGEが生成する(Tsukushi S,Katsuzaki T,Aoyama I,Takayama F,Miyazaki T,Shimokata K,Niwa T:Increased erythrocyte 3−DG and AGEs in diabetic hemodialysis patients Role of the polyol pathway.Kidney Int 55:1970−1976,1999)。メイラード反応のみならず、ポリオール経路により生成した3−DGもPLPはトラップするため、PLPはAGEの生成をより強く抑制する。ポリオール経路は赤血球、網膜、レンズ神経、腎糸球体、心臓などに存在し、糖尿病で亢進している。PLPは、網膜症、神経症、腎症などの糖尿病性合併症におけるポリオール経路を介したAGEの生成を抑制することによりこれらの合併症の進展抑制に効果があることが予想される。
【実施例1】
【0021】
<ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用>
1.方法
1)ピリドキサール5’−リン酸(PLP)(0,5,15mM)と3−DG(3500ng/ml)を37℃で24時間インキュベートした後、3−DG濃度をガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)で測定した。ピリドキサミンと3−DGを同様にインキュベートしてその3−DGトラップ作用を比較した。
【0022】
3−DG測定法のためのGC/MSは以下の方法で行った。試料溶液1mlに対し内部標準物質として13C6−3−DG200ngを加えた。エタノール2mlを加えてキャップし軽く震盪した。4℃、3000回転で10分間遠心した。上清をネジ口ガラス管に移し、窒素気流でエタノールが残らないように溶媒を飛ばした。エタノールが飛びきって溶液が1ml以下になったら窒素を止めた。反応物質として2,3−ジアミノナフタレン100μgを加えた。蓋をして氷室に一晩置いた。酢酸エチル2mlを加えてしっかり震盪してから静置し、上清を先細ガラス試験管にとった。これを2回行った。窒素気流で酢酸エチルを飛ばした。試験管にN,O−ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド(BSTFA)25μlを入れ、70℃、30分でトリメチルシリル(TMS)化した。
2μlをキャピラリーカラム(30m×0.25mm ID,0.25μm膜厚;SPB−50、スペルコ社製)を装着したGC/MS(GCMS−QP5000;島津製作所製)を用いて3−DGを定量した。GCはスプリットレス注入方式として、気化室温度は280℃、インターフェイス温度250℃とした。カラム温度は100℃で1分間平衡の後、330℃まで10℃/分の昇温にした。イソブタンを反応ガスとした化学イオン化を灯った。13C6−3−DGはm/z507.15イオン、3−DGはm/z501.15イオンを用いた選択イオン検出(SIM)により21.8分に検出され、そのピーク面積比より3−DGを定量した。
【0023】
2)3−DG(50μg/ml)、牛血清アルブミン(BSA)(50mg/ml)およびPLP(P5P)を7日間インキュベートして生成するイミダゾロンをエンザイムイムノアッセイ(EIA)で測定した。3−DG、BSAおよびピリドキサミンをインキュベートして、イミダゾロン生成量を同様に測定した。
EIAは以下の方法に従って測定した。
96穴蛋白吸着プレートに50μlずつAGE solution[1Mグルコース+50mg/ml牛血清アルブミン(BSA)を37℃で1カ月間インキュベートして作製、10μg/mlとして使用]を注ぎ、一晩放置した。PBSにて3回洗浄した。0.25%BSA 50μlにてブロッキングした。標準AGE溶液(200,175,150,125,100,75.50,25,10,3μg/ml)と検体25μlずつアプライした。AG−1(抗イミダゾロン抗体)またはAG−10(抗CML抗体)50μlをアプライし30分間室温に放置した後、溶液を吸引、除去した。反応開始液15mlにo−フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)1錠(13mg/錠)を混合した溶液100μlを添加し、15分間室温に放置した。
*反応開始液:Na2HPO4・12H2O 10.9g
H2O2 255μl
クエン酸1水和物 1.83g
H2O 390ml(pH6.2)
【0024】
反応停止液(0.8M H2SO4)100μlをアプライし、マイクロプレートリーダー(Ex.490nm,Em.630nm)を用いてAGE濃度を測定した。
【0025】
2.結果
図1に示すように、3−DGとPLPをインキュベートすると、PLPの濃度依存性に3−DGをトラップし、3−DG濃度が低下した。ピリドキサミンの3−DGトラップ作用は、同じPLP濃度に比較して弱かった(図2)。
図3に示すように、3−DGとBSAを7日間インキュベートすると、PLP濃度依存性にイミダゾロンの生成を抑制した。5mM、15mMではPLPのイミダゾロンの生成はピリドキサミンに比較して強く抑制された。
以上の結果より、PLPは、3−DGをトラップしイミダゾロンの生成を抑制したことから、AGE生成阻害作用を有するといえる。また、PLPのAGE生成阻害作用は、同濃度のピリドキサミンより強い。
【実施例2】
【0026】
<ピリドキサール5’−リン酸の抗腹膜硬化作用>
1.方法
正常ラットを3群に分け、各群(n=7)の腹腔内に1)生理食塩液20ml(生食水群)、2)腹膜透析液(2.5%ダイアニール)20ml(透析液群)、3)腹膜透析液(2.5%ダイアニール)20ml+PLP50mg/日(透析液+PLP群)、を1日1回4週間注入した。2.5%ダイアニール(PD−2)の組成はNa+:132mEq/l、Ca2+:3.5mEq/l、Mg2+:0.5mEq/l、Cl−:96mEq/l、乳酸−:40mEq/l、ブドウ糖:2.27%、浸透圧:396mOsm/l、pH:4.5〜5.5である。
顕微鏡下(100倍)で腹膜厚を測定した。また、イミダゾロン、CML、TGF−β1、HGF、VEGF、1型コラーゲンに対する抗体を用いて免疫染色を行った。免疫染色は以下の方法に従って行った。
使用抗体:(1)ウサギ抗ヒトHGF−α抗体(ポリクローナル);
(2)マウス抗ヒトVEGF抗体;
(3)ウサギ抗TGF−β1抗体(ポリクローナル);
(4)マウス抗イミダゾロン抗体(AG−1);
(5)マウス抗Nε−カルボキシメチルリシン(CML)抗体(AG−10)
(6)ウサギ抗ラット1型コラーゲン抗体(ポリクローナル)
【0027】
キシレン、エタノールを用いて脱パラフィン化し、蒸留水で5分間、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で5分間、アセトンで10分間、さらに蒸留水、PBSで洗浄した。プロテナーゼK(0.01mg/ml)を添加し、37℃で10分間処理した。PBSで3回洗浄、0.3%H2O2を含むメタノールで10分間、PBSで2回洗浄した後、10%血清によるブロッキングを30分間行った。各抗体を添加し4℃で一晩静置した。PBSで3回洗浄し、ビオチンラベル2次抗体を添加し、30分後、PBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを添加し、37℃で30分間反応させた後、PBSで3回洗浄し、p−ジメチルアミノアゾベンゼン(DAB)で発色させた。
免疫染色を行った組織を顕微鏡(×100、ニコン社製、Eclipse、E600、H−III−35)で観察し、デジタルネットカメラ(ニコン社製、DN100)で取り込み、NIHイメージ(1.62)ソフトを用い、腹膜長さ300μm当たりの陽性面積(μm2)で表示した。またVEGF染色組織の顕微鏡観察により、腹膜長さ300μm当たりの血管数を測定した。
【0028】
2.結果
図4に示すように、透析液群では腹膜壁の肥厚が認められた。透析液+PLP群では、透析液群に比較して腹膜肥厚の増加は抑制されていた。
図5に示すように、透析液群では腹膜におけるイミダゾロンの陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較してイミダゾロンの陽性面積の増加は抑制されていた。
図6に示すように、透析液群では腹膜におけるCML陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較してCML陽性面積の増加は抑制されていた。
図7に示すように、透析液群では腹膜における1型コラーゲン陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較して1型コラーゲン陽性面積の増加は抑制されていた。
図8に示すように、透析液群では腹膜におけるTGF−β1陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較してTGF−β1陽性面積の増加は抑制されていた。
図9に示すように、透析液+PLP群では、生食水群、透析液群に比較して腹膜におけるHGF陽性面積が増加していた。
図10に示すように、透析液群では腹膜におけるVEGF陽性面積の増加傾向を示した。透析液+PLP群では、透析液群に比較してVEGF陽性面積の増加は抑制されていた。
図11に示すように、透析液群では腹膜における血管数の増加が認められた。透析液+PLP群では、透析液群に比較して腹膜血管数の増加が抑制されていた。
【0029】
以上の結果をまとめると以下の通りとなる。
1)PLPは腹膜肥厚の増加を抑制した。
2)PLPはイミダゾロン、CMLなどのAGE生成を抑制した。
3)PLPは、1型コラーゲンなど腹膜の繊維化を抑制した。
4)PLPは、繊維化を促進するTGF−β1の発現を抑制し、繊維化を抑制するHGFの発現を促進した。
5)PLPは、血管増殖を促進するVEGFの発現を抑制し、腹膜血管数の増加を抑制した。
6)PLPは腹膜硬化抑制作用を示した。
【0030】
以上のように、透析液+PLP群では、透析液群に比較して、イミダゾロン、CMLなどのAGE沈着の減少、TGF−β1及びVEGF発現の減少、HGF発現の増加、腹膜血管数の減少、腹膜繊維化及び腹膜肥厚の抑制が認められた。PLPは3−DGをトラップしイミダゾロンの産生を抑制した。またPLPはCMLの産生も抑制した。その結果、TGF−β1発現を減少させ、HGF発現を増加させることにより、腹膜繊維化および腹膜肥厚を抑制した。またVEGF発現を減少させ腹膜血管数の増加を抑制した。これらの実験事実より、PLPは腹膜硬化症(硬化性腹膜炎)の発症および進行を抑制し予防する作用を有するといえる。
【0031】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の薬剤は、AGEが発症、進展に関与している様々な疾病ないし病態の予防ないし治療に利用され得る。本発明の薬剤は特に、腹膜透析に伴い発症することが問題とされている硬化性腹膜炎の予防ないし治療に利用され得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は最終糖化産物生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸、ペプチド、タンパク質のアミノ基とケトン、アルデヒド、特にグルコースなどの還元糖が反応して褐色色素を生成する反応をメイラード反応という。メイラード反応の最終産物として生成する物質を最終糖化産物(advanced glycation end products、以下、「AGE」ともいう)という。メイラード反応は、アミノ基とグルコースが非酵素的に反応しシッフ塩基を形成し、ついでアマドリ転位を起こす早期反応、さらに3−デオキシグルコソン(3−DG)などのジカルボニル基を有する活性中間体を生成する中期反応、活性中間体がさらにアミノ基と非酵素的に反応し、脱水、縮合反応を繰り返してAGE形成する後期反応からなる。
AGEとしてはイミダゾロン(非特許文献1)、Nε−カルボキシメチルリシン(CML)(非特許文献2)、ペントシジン、ピラリン、クロスリン、Nε−カルボキシエチルリシン、メチルグリオキサールリシンダイマー、グリオキサールリシンダイマーなどが同定されている。イミダゾロンは3−DGがアルギニンと反応して生成する(非特許文献1)。
AGEが発症、進展に関与している病態としては、加齢、糖尿病(腎症、神経症、網膜症、動脈硬化)、腎不全(硬化性腹膜炎、透析アミロイドーシス、動脈硬化)、アルツハイマー病、慢性関節リウマチなどがある(非特許文献1〜5)。
AGE生成抑制剤としては、アミノグアニジン、OPB−9195などがあるが、その副作用のために臨床応用は困難である。最近、ピリドキサミンがAGEの一種であるCMLをトラップするAGE抑制剤であることが報告された(非特許文献6)。
【0003】
AGEの関与が知られている病態の一つに硬化性腹膜炎がある。腹膜透析(CAPD)患者は、5年を過ぎた長期になると腹膜機能が低下し、腹膜が硬化(繊維化)し被嚢性硬化性腹膜炎のため死亡する例がある。このため早めに腹膜透析を中止して血液透析に移行せざるをえないのが現状である。現在我が国では、腹膜透析患者は約9,000人おり血液透析患者の約23万人に比較してその割合は約4%と極めて少ない。腹膜透析の致死的な合併症である被嚢性硬化性腹膜炎を予防することができれば腹膜透析はもっと普及すると思われる。
腹膜硬化症(硬化性腹膜炎)の予防のために、3−デオキシグルコソン(3−DG)などのグルコース分解産物(GDP)が少なく、中性pHの腹膜透析液の開発がなされた。これはGDPによる最終糖化産物(AGE)の腹膜への沈着を減少させること、さらに中性液により腹膜に対する刺激を低下させることにより腹膜硬化の発生を予防しようというものである。GDPは腹膜透析液中に高濃度に存在するグルコースから、滅菌のための加熱処理により生成する(非特許文献7、8)。上記の腹膜透析液では、滅菌処理を加熱ではなくろ過によって行なうことによりGDPの生成を抑制している(非特許文献9、10)。
腹膜硬化症患者の腹膜には、3−DG由来のイミダゾロン、CMLなどのAGE、トランスフォーミング成長因子(TGF)−β1、血管内皮増殖因子(VEGF)の沈着とともに繊維化、肥厚、血管数の増加が認められている(非特許文献11、12)。繊維化が強い腹膜部位には肝細胞成長因子(HGF)の沈着は認められていない(非特許文献12)。
【0004】
【非特許文献1】Niwa T,Katsuzaki T,Miyazaki S,Miyazaki T,Ishizaki Y,Hayase F,Tatemichi N,Takei Y:Immunohistochemical detection of imidazolone,a novel advanced glycation end product,in kidneys and aortas of diabetic patients.J Clin Invest 99:1272−1280,1997
【非特許文献2】Niwa T,Sato M,Katsuzaki T,et al:Amyloid β2−microglobulin is modified with Nε−(carboxymethyl)lysine in dialysis−related amyloidosis.Kidney Int,50:1303−1309,1996
【非特許文献3】Vlassara H,Bucala R,Striker L.:Pathogenic effects of advanced glycosylation:biochemical,biologic,and clinical implications for diabetes and aging.Lab Invest.70:138−151,1994
【非特許文献4】Franke S,Niwa T,Deuther−Conrad W,Sommer M,Hein G,Stein G:Immunochemical detection of imidazolone in uremia and rheumatoid arthritis.Clin Chim Acta.300:29−41,2000
【非特許文献5】Reddy VP,Obrenovich ME,Atwood CS,Perry G,Smith MA:Involvement of Maillard reactions in Alzheimer disease.Neurotox Res.4:191−209,2002
【非特許文献6】Onorato JM,Jenkins AJ,Thorpe SR,Baynes JW:Pyridoxamine,an inhibitor of advanced glycation reactions,also inhibits advanced lipoxidation reactions.Mechanism of action of pyridoxamine.J Biol Chem.275:21177−21184,2000
【非特許文献7】Kjellstrand P,Martinson E,Wieslander A,Holmquist B:Development of toxic degradation products during heat sterilization of glucose−containing fluids for peritoneal dialysis:influence of time and temperature.Perit Dial Int 15:26−32,1995
【非特許文献8】Schalkwijk CG,Posthuma N,ten Brink HJ,ter Wee PM,Teerlink T:Induction of 1,2−dicarbonyl compounds,intermediates in the formation of advanced glycation endproducts,during heat−sterilization of glucose?based peritoneal dialysis fluids.Perit Dial Int 19:325−333,1999
【非特許文献9】Tauer A,Zhang X,Schaub TP,Zimmeck T,Niwa T,Passlick−Deetjen J,Pischetsrieder M:Formation of advanced glycation end products during CAPD.Am J Kidney Dis 41(S1):S57−S60,2003
【非特許文献10】Tauer A,Knerr T,Niwa T,et al:In vitro formation of Nε−(carboxymethyl)lysine and imidazolones under conditions similar to continuous ambulatory peritoneal dialysis.Biochem.Biophys Res Commun 280:1408−1414,2001
【非特許文献11】Nakamura S,Miyazaki S,Sasaki S,Morita T,Hirasawa Y,Niwa T:Localization of imidazolone in the peritoneum of CAPD patients:A factor for a loss of ultrafiltration.Am J Kidney Dis 38(S1):S107−S110,2001
【非特許文献12】Nakamura S,Tachikawa T,Tobita K,Miyazaki S,Sakai S,Morita T,Hirasawa Y,Weigle B,Pischetsrieder M,Niwa T:Role of advanced glycation end products and growth factors in peritoneal dysfunction in CAPD Patients.Am J Kidney Dis 41(S1):S61−S67,2003
【非特許文献13】Honda K,Nitta K,Horita S,et al:Accumulation of advanced glycation end products in the peritoneal vasculature of continuous ambulatory peritoneal dialysis patients with low ultra−filtration.Nephrol Dial Transplant 14:1541−1549,1999
【非特許文献14】Margetts PJ,Kolb M,Galt T,Hoff CM,Shockley TR,Gauldie J:Gene transfer of transforming growth factor−β1 to the rat peritoneum:Effect on membrane function.J Am Soc Nephrol 12:2029−2039,2001
【非特許文献15】Inagi R,Miyata T,Yamamoto T,et al:Glucose degradation product methylglyoxal enhances the production of vascular endothelial growth factor in peritoneal cells:Role in the functional and morphological alterations of peritoneal membranes in peritoneal dialysis.FEBS Lett 463:260−264,1999
【非特許文献16】Hippenstiel S,Krull M,Ikemann A,Risau W,Clauss M,Suttorp N:VEGF induces hyperpermeability by a direct action on endothelial cells.Am J Physiol 274:L678−L684,1998
【非特許文献17】Matsumoto K,Nakamura T:Hepatocyte growth factor:Renotropicrole and potential therapeutics for renal disease.Kidney Int 59:2023−2038,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新たな最終糖化産物生成抑制剤(AGE生成抑制剤)、及びその利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新たなAGE生成抑制剤を探索するために、AGE生成の中間体の代表である3−DGをトラップする化合物をスクリーニングした。その結果、ピリドキサール5’−リン酸に濃度依存的な3−DGトラップ作用が認められた。更に検討したところ、ピリドキサール5’−リン酸が、3−DGからAGEの一つであるイミダゾロンの生成を効果的に抑制することが明らかとなった。即ち、ピリドキサール5’−リン酸がAGE抑制作用を有することが見出された。一方、ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用は、AGE生成抑制剤として知られるピリドキサミンに比較して強く、ピリドキサール5’−リン酸が優れたAGE生成抑制剤であることが判明した。
以上の知見を得た後、ピリドキサール5’−リン酸の作用について更に検討を行なった。上でも述べたが、腹膜硬化(硬化性腹膜炎)の発症にAGEが重要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献11〜13)。AGEが原因となって腹膜機能が低下する経路を図11に示す。まず、腹膜に沈着したAGEが、繊維芽細胞やマクロファージ細胞表面にあるRAGEなどのAGE受容体と結合し、これらの細胞を活性化しTGF−β1を生成する。TGF−β1は繊維芽細胞によるコラーゲンI及びIII、TIMP−1の産生を亢進させる(非特許文献14)。その結果、腹膜の繊維化および腹膜中皮の肥厚を来し、腹膜の限外濾過能の低下をもたらす。またAGEは腹膜中皮細胞表面にあるRAGEなどのAGE受容体と結合し、VEGFを生成する。VEGFは血管増生と血管透過性を亢進させ、タンパク質などの大分子物質を漏出し、その結果、腹膜の濾過機能の低下をもたらす(非特許文献15、16)。HGFはTGF−β1の作用と拮抗し繊維化を抑制する作用がある(非特許文献17)。TGF−β1はHGFの発現を減少させる。このようにAGEは、腹膜の機能低下に関わるキー分子であり、その生成を抑制できれば腹膜機能の低下を未然に防止できる。ここで、上記のように、ピリドキサール5’−リン酸が良好なAGE抑制作用を有することが見出されている。したがって、ピリドキサール5’−リン酸を使用すればAGEの生成を効果的に抑制でき、その結果として腹膜機能の低下を防止できるものと予想された。かかる予想の下にピリドキサール5’−リン酸の作用を検証したところ、ピリドキサール5’−リン酸が1)AGEの生成を効果的に抑制すること、2)繊維化を促進するTGF−β1の発現を抑制するとともに、繊維化を抑制するHGFの発現を促進すること、及び3)血管増殖を促進するVEGFの発現を抑制して血管数の増加を抑制することが確認された。即ち、ピリドキサール5’−リン酸の抗腹膜硬化作用が確認された。ここで、現行の腹膜透析液においてはGDPとして3−DGが最も高濃度に存在しており、一方で腹膜透析排液中にはイミダゾロンが高濃度で検出されている。これに対して、本発明者らの行なった試験(後述の実施例)によって、イミダゾロンの生成をピリドキサール5’−リン酸が効果的に抑制することが確認された。つまり、腹膜透析において最も大量に生成されるAGEの生成をピリドキサール5’−リン酸が効果的に抑制することが実証された。このことは、腹膜透析の際にピリドキサール5’−リン酸を用いることが、腹膜透析に伴う腹膜機能の低下を防止する上で極めて有効な手段になることを意味する。
【0007】
以上のように、本発明者らの検討の結果、ピリドキサール5’−リン酸の有するAGE生成抑制作用が明らかとなり、さらに腹膜機能の低下(特に腹膜硬化)に対してピリドキサール5’−リン酸が極めて有効であることが判明した。
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであって以下の構成を提供する。
[1]ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む最終糖化産物生成抑制剤。
[2]ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む抗腹膜硬化剤。
[3]ピリドキサール5’−リン酸を成分の一つとして含む腹膜透析液。
[4]ピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む最終糖化産物生成抑制方法。
[5]治療上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む硬化性腹膜炎の予防又は治療方法。
[6]腹膜硬化の予防上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む腹膜透析方法。
[7]前記ステップが、以下のa〜cの少なくとも一つ以上の時期に実施される、[6]に記載の腹膜透析方法、
a:透析処置の前、
b:透析処置中、
c:透析処理後。
[8]最終糖化産物生成抑制剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
[9]抗腹膜硬化剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明は新規のAGE生成抑制剤及び抗腹膜硬化剤を提供する。本発明の薬剤のAGE生成抑制作用は、AGE生成抑制剤として知られているピリドキサミンのそれよりも高く、少ない用量で高い効果が得られる。また、本発明の薬剤の有効成分はビタミンB6リン酸エステル化合物であることから安全性が高く、副作用の恐れの少ない薬剤となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ピリドキサール5’−リン酸(以下、「PLP」と略称する)と3−DGをインキュベートした後、3−DG濃度をGC/MSで測定した結果のグラフである。PLPによって3−DGがトラップされることが示される。
【図2】図2は、ピリドキサミンと3−DGをインキュベートした後、3−DG濃度をGC/MSで測定した結果のグラフである。ピリドキサミンの3−DGトラップ作用の程度が示される。
【図3】図3は、3−DG、BSA、及びPLPをインキュベートして生成するイミダゾロンをEIAで測定した結果のグラフである。PLPが濃度依存的にイミダゾロンの生成を抑制することがわかる。
【図4】図4は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群の腹膜厚を測定した結果のグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによって腹膜肥厚の増加が抑制されることがわかる。
【図5】図5は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のイミダゾロン陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってイミダゾロン陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図6】図6は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のCML陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってCML陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図7】図7は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群の1型コラーゲン陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによって1型コラーゲン陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図8】図8は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のTGF−β1陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってTGF−β1陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図9】図9は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のHGF陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってHGF容積面積が増加することがわかる。
【図10】図10は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群のVEGF陽性面積を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによってVEGF陽性面積の増加が抑制されることがわかる。
【図11】図11は、ラットを用いた腹膜透析試験において、各試験群の血管数を比較したグラフである。腹膜透析液にPLPを添加することによって腹膜血管数の増加が抑制されることがわかる。
【図12】図12は、AGE生成から腹膜機能低下に至る経路を表した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ピリドキサール5’−リン酸(以下、「PLP」と略称する)を有効成分として含む薬剤に関する。本発明の薬剤はAGE生成抑制剤として、又は抗腹膜硬化剤として使用される。本発明における「抗腹膜硬化剤」とは、腹膜硬化を予防するために使用される薬剤、又は腹膜硬化の症状の悪化を阻止若しくは症状を改善(部分的又は完全な治癒を含む)するために使用される薬剤のことをいう。したがって本発明の抗腹膜硬化剤には、腹膜硬化の予防的処置に使用可能な薬剤、及び腹膜硬化(例えば被嚢性硬化性腹膜炎)の治療に使用可能な薬剤が含まれる。
後述の実施例に示されるように、ピリドキサール5’−リン酸にAGE生成抑制作用が見出された。ここで、図11に説明されるようにAGEはTGF−β1の産生を促し、またこれが原因となってコラーゲンI及びIIIの増加及びTIMP−1レベルの上昇が生ずる。一方でAGEはVEGFレベルの上昇を引き起こす。これらの事実は、AGE生成抑制作用を有するピリドキサール5’−リン酸を、TGF−β1の産生抑制や、コラーゲンI又はIIIの増加抑制、TIMP−1レベルの上昇抑制、及びVEGFレベルの上昇抑制を目的として使用することができることを示唆する。したがって、ピリドキサール5’−リン酸を有効成分とした薬剤を、TGF−β1の増加、コラーゲンI又はIIIの増加、TIMPレベルの上昇、及び/又はVEGFレベルの上昇を原因とする疾病の予防又は治療にも使用できると予想される。
また、AGEはVEGFレベルの上昇を介して血管増生及び血管透過性の亢進を引き起こすことから(図11)、ピリドキサール5’−リン酸を血管増生又は血管透過性の亢進を抑制する目的に使用することができるといえ、したがってピリドキサール5’−リン酸を有効成分とした薬剤は、血管増生又は血管透過性の亢進を原因とする疾病の予防又は治療にも使用され得ると考えられる。
【0011】
ここに、本発明の薬剤に使用されるピリドキサール5’−リン酸は以下の化学式で表される。
【化1】
【0012】
本発明の薬剤においてピリドキサール5’−リン酸は他の化合物と結合した状態で存在していてもよい。また、薬学的に許容可能な塩の形態として存在していてもよい。ここでの他の化合物としてはペプチドやタンパク質を例示することができる。一方、ここでの薬学的に許容可能な塩とは例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等との塩(無機酸塩)や、ギ酸、酢酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等との塩(有機酸塩)である。
【0013】
一般に、ある化合物の一部に修飾を施して得られる化合物が修飾前の化合物と同様の性質や特性を有する場合がある。即ち、修飾が化合物の特定の性質等に影響を及ぼさない場合がある。このことを考慮すれば、ピリドキサール5’−リン酸に修飾を施して得られる修飾体であっても、AGE生成抑制作用を維持する限りにおいて、本発明における有効成分として使用され得る。当業者であれば、周知ないし慣用の手段を用いてピリドキサール5’−リン酸を基本とした置換体などの修飾体をデザインすることができる。また、かかるデザインに基づき、周知ないし慣用の手段を用いて目的の修飾体を調製し、その性質や作用を調べることも当業者には容易と考えられる。
【0014】
ピリドキサール5’−リン酸の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D−マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0015】
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして調製できる。
このように製剤化した本発明の薬剤はその形態に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、腹腔内注射など)によって患者に適用され得る。
本発明の薬剤には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分(ピリドキサール5’−リン酸)が含有される。薬剤中の有効成分量は一般に剤型によって異なるが、所望の投与量を達成できるように例えば約1μg重量%〜約1g重量%とする。
【0016】
本発明の適用対象が腹膜硬化の予防である場合には、ピリドキサール5’−リン酸を腹膜透析液の成分として使用することもできる。このように、本発明は他の態様としてピリドキサール5’−リン酸を含有する腹膜透析液を提供する。ピリドキサール5’−リン酸を含有する腹膜透析液はその適用(透析への使用)時において腹膜硬化予防作用を奏することとなる。したがって、このような腹膜透析液を利用すれば腹膜硬化症の発生の恐れが少ない透析処置が実現される。
現行の腹膜透析液は一般に、Na+、Ca2+、Mg2+、Cl−、乳酸、ブドウ糖などをその成分として含む。本発明の腹膜透析液は、このような各種の成分に加えてピリドキサール5’−リン酸を用いることによって調製することができる。また、市販の腹膜透析液にピリドキサール5’−リン酸を所定量添加して本発明の腹膜透析液を調製することもできる。この場合のピリドキサール5’−リン酸の添加は、腹膜透析液の使用直前に行われてもよい。
腹膜透析液中のピリドキサール5’−リン酸の量は例えば40nM(mol/l)〜40mM(mol/l)である。
【0017】
本発明の他の局面では、ピリドキサール5’−リン酸を利用した最終糖化産物生成抑制方法(AGE生成抑制方法)が提供される。本発明のAGE生成抑制方法では、ピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップが実施される。ピリドキサール5’−リン酸は単独で或いは他の物質とともに投与される。典型的には、上記の本発明の薬剤の形態で投与される。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜などを挙げることができる。ピリドキサール5’−リン酸の投与量は、期待される作用(AGE生成抑制作用)が得られるように設定される。期待される作用が十分に得られるとともに、ピリドキサール5’−リン酸の投与による副作用がないか又は治療上問題とならない程度となるようにピリドキサール5’−リン酸の投与量を設定することが好ましい。投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む薬剤を使用する場合には、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約10μg〜約10g、好ましくは約10mg〜約60mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の病状や薬剤の効果持続時間などを考慮することができる。
本発明のAGE生成抑制方法による予防又は治療の対象となる疾病ないし病態は、AGEがその発症や進展などに関与しているものであれば特に限定されない。例えば、加齢、糖尿病、腎症、神経症、網膜症、動脈硬化、腎不全、硬化性腹膜炎、透析アミロイドーシス、動脈硬化、アルツハイマー病、慢性関節リウマチなどが対象となる。中でも硬化性腹膜炎の予防ないし治療に対して本発明の方法は有効であり、本発明はその具体的一態様として以下の各方法、即ち、治療上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップを含む硬化性腹膜炎の予防又は治療方法、及び腹膜硬化の予防上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップを含む腹膜透析方法を提供する。ここでの「治療上有効量」及び「腹膜硬化の予防上有効量」は、患者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0018】
ここに腹膜透析とは、透析液を腹腔内に注入し、一定期間の貯留によって腹膜を介して老廃物や水分等が移行した透析液を体外に取り出すという血液浄化処置である。腹膜透析の方式としては連続携行式腹膜透析(CAPD)及び自動腹膜透析(APD)が知られている。これらいずれの方法にも本発明の腹膜透析方法を適用できる。
【0019】
本発明の腹膜透析方法における、ピリドキサール5’−リン酸の投与時期は特に限定されないが、例えば、透析処置の前に投与を行なう。透析処置は一般に複数回行なわれるが、この場合には一つ以上の透析処置の前にピリドキサール5’−リン酸の投与が実施されることとなる。
透析処置の前にピリドキサール5’−リン酸を投与する場合、ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用を効果的に発揮させるために、投与後できるだけ時間を置かずに透析処置を実施することが好ましい。かかる観点から、透析処理の直前にピリドキサール5’−リン酸の投与を実施することが好ましい。
一方、ピリドキサール5’−リン酸の投与を透析処置中に実施してもよい。即ち、透析処置に並行してピリドキサール5’−リン酸の投与を行なってもよい。例えば透析液中にピリドキサール5’−リン酸を含有させることとすれば、透析操作を何ら複雑化することなくこのような投与方法を実行することができ、患者及び医師等の負担が少ない。勿論、透析液の注入とは別の経路によってピリドキサール5’−リン酸の投与を実施してもよい。
ピリドキサール5’−リン酸の投与を透析処理後に実施することもできる。但しこの場合には、ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用を効果的に発揮させるために、透析処置を終了した後できるだけ時間を置かずにピリドキサール5’−リン酸を投与することが好ましい。かかる観点から、透析処置の直後にピリドキサール5’−リン酸の投与を実施することが好ましい。
尚、透析処置の前、透析処置中、及び透析処置後のいずれか一つの時期だけでなく、これらの二つ以上の時期にピリドキサール5’−リン酸の投与を実施してもよい。
【0020】
インスリンを介さずに細胞内にブドウ糖が受動的に流入する細胞においては、グルコースをソルビトール→フルクトース→フルクトース3リン酸→3−DGに代謝分解し細胞外に排出するポリオール経路がある。ポリオール経路を介して生成した3−DGからもイミダゾロンなどのAGEが生成する(Tsukushi S,Katsuzaki T,Aoyama I,Takayama F,Miyazaki T,Shimokata K,Niwa T:Increased erythrocyte 3−DG and AGEs in diabetic hemodialysis patients Role of the polyol pathway.Kidney Int 55:1970−1976,1999)。メイラード反応のみならず、ポリオール経路により生成した3−DGもPLPはトラップするため、PLPはAGEの生成をより強く抑制する。ポリオール経路は赤血球、網膜、レンズ神経、腎糸球体、心臓などに存在し、糖尿病で亢進している。PLPは、網膜症、神経症、腎症などの糖尿病性合併症におけるポリオール経路を介したAGEの生成を抑制することによりこれらの合併症の進展抑制に効果があることが予想される。
【実施例1】
【0021】
<ピリドキサール5’−リン酸のAGE生成抑制作用>
1.方法
1)ピリドキサール5’−リン酸(PLP)(0,5,15mM)と3−DG(3500ng/ml)を37℃で24時間インキュベートした後、3−DG濃度をガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)で測定した。ピリドキサミンと3−DGを同様にインキュベートしてその3−DGトラップ作用を比較した。
【0022】
3−DG測定法のためのGC/MSは以下の方法で行った。試料溶液1mlに対し内部標準物質として13C6−3−DG200ngを加えた。エタノール2mlを加えてキャップし軽く震盪した。4℃、3000回転で10分間遠心した。上清をネジ口ガラス管に移し、窒素気流でエタノールが残らないように溶媒を飛ばした。エタノールが飛びきって溶液が1ml以下になったら窒素を止めた。反応物質として2,3−ジアミノナフタレン100μgを加えた。蓋をして氷室に一晩置いた。酢酸エチル2mlを加えてしっかり震盪してから静置し、上清を先細ガラス試験管にとった。これを2回行った。窒素気流で酢酸エチルを飛ばした。試験管にN,O−ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミド(BSTFA)25μlを入れ、70℃、30分でトリメチルシリル(TMS)化した。
2μlをキャピラリーカラム(30m×0.25mm ID,0.25μm膜厚;SPB−50、スペルコ社製)を装着したGC/MS(GCMS−QP5000;島津製作所製)を用いて3−DGを定量した。GCはスプリットレス注入方式として、気化室温度は280℃、インターフェイス温度250℃とした。カラム温度は100℃で1分間平衡の後、330℃まで10℃/分の昇温にした。イソブタンを反応ガスとした化学イオン化を灯った。13C6−3−DGはm/z507.15イオン、3−DGはm/z501.15イオンを用いた選択イオン検出(SIM)により21.8分に検出され、そのピーク面積比より3−DGを定量した。
【0023】
2)3−DG(50μg/ml)、牛血清アルブミン(BSA)(50mg/ml)およびPLP(P5P)を7日間インキュベートして生成するイミダゾロンをエンザイムイムノアッセイ(EIA)で測定した。3−DG、BSAおよびピリドキサミンをインキュベートして、イミダゾロン生成量を同様に測定した。
EIAは以下の方法に従って測定した。
96穴蛋白吸着プレートに50μlずつAGE solution[1Mグルコース+50mg/ml牛血清アルブミン(BSA)を37℃で1カ月間インキュベートして作製、10μg/mlとして使用]を注ぎ、一晩放置した。PBSにて3回洗浄した。0.25%BSA 50μlにてブロッキングした。標準AGE溶液(200,175,150,125,100,75.50,25,10,3μg/ml)と検体25μlずつアプライした。AG−1(抗イミダゾロン抗体)またはAG−10(抗CML抗体)50μlをアプライし30分間室温に放置した後、溶液を吸引、除去した。反応開始液15mlにo−フェニレンジアミン二塩酸塩(OPD)1錠(13mg/錠)を混合した溶液100μlを添加し、15分間室温に放置した。
*反応開始液:Na2HPO4・12H2O 10.9g
H2O2 255μl
クエン酸1水和物 1.83g
H2O 390ml(pH6.2)
【0024】
反応停止液(0.8M H2SO4)100μlをアプライし、マイクロプレートリーダー(Ex.490nm,Em.630nm)を用いてAGE濃度を測定した。
【0025】
2.結果
図1に示すように、3−DGとPLPをインキュベートすると、PLPの濃度依存性に3−DGをトラップし、3−DG濃度が低下した。ピリドキサミンの3−DGトラップ作用は、同じPLP濃度に比較して弱かった(図2)。
図3に示すように、3−DGとBSAを7日間インキュベートすると、PLP濃度依存性にイミダゾロンの生成を抑制した。5mM、15mMではPLPのイミダゾロンの生成はピリドキサミンに比較して強く抑制された。
以上の結果より、PLPは、3−DGをトラップしイミダゾロンの生成を抑制したことから、AGE生成阻害作用を有するといえる。また、PLPのAGE生成阻害作用は、同濃度のピリドキサミンより強い。
【実施例2】
【0026】
<ピリドキサール5’−リン酸の抗腹膜硬化作用>
1.方法
正常ラットを3群に分け、各群(n=7)の腹腔内に1)生理食塩液20ml(生食水群)、2)腹膜透析液(2.5%ダイアニール)20ml(透析液群)、3)腹膜透析液(2.5%ダイアニール)20ml+PLP50mg/日(透析液+PLP群)、を1日1回4週間注入した。2.5%ダイアニール(PD−2)の組成はNa+:132mEq/l、Ca2+:3.5mEq/l、Mg2+:0.5mEq/l、Cl−:96mEq/l、乳酸−:40mEq/l、ブドウ糖:2.27%、浸透圧:396mOsm/l、pH:4.5〜5.5である。
顕微鏡下(100倍)で腹膜厚を測定した。また、イミダゾロン、CML、TGF−β1、HGF、VEGF、1型コラーゲンに対する抗体を用いて免疫染色を行った。免疫染色は以下の方法に従って行った。
使用抗体:(1)ウサギ抗ヒトHGF−α抗体(ポリクローナル);
(2)マウス抗ヒトVEGF抗体;
(3)ウサギ抗TGF−β1抗体(ポリクローナル);
(4)マウス抗イミダゾロン抗体(AG−1);
(5)マウス抗Nε−カルボキシメチルリシン(CML)抗体(AG−10)
(6)ウサギ抗ラット1型コラーゲン抗体(ポリクローナル)
【0027】
キシレン、エタノールを用いて脱パラフィン化し、蒸留水で5分間、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で5分間、アセトンで10分間、さらに蒸留水、PBSで洗浄した。プロテナーゼK(0.01mg/ml)を添加し、37℃で10分間処理した。PBSで3回洗浄、0.3%H2O2を含むメタノールで10分間、PBSで2回洗浄した後、10%血清によるブロッキングを30分間行った。各抗体を添加し4℃で一晩静置した。PBSで3回洗浄し、ビオチンラベル2次抗体を添加し、30分後、PBSで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを添加し、37℃で30分間反応させた後、PBSで3回洗浄し、p−ジメチルアミノアゾベンゼン(DAB)で発色させた。
免疫染色を行った組織を顕微鏡(×100、ニコン社製、Eclipse、E600、H−III−35)で観察し、デジタルネットカメラ(ニコン社製、DN100)で取り込み、NIHイメージ(1.62)ソフトを用い、腹膜長さ300μm当たりの陽性面積(μm2)で表示した。またVEGF染色組織の顕微鏡観察により、腹膜長さ300μm当たりの血管数を測定した。
【0028】
2.結果
図4に示すように、透析液群では腹膜壁の肥厚が認められた。透析液+PLP群では、透析液群に比較して腹膜肥厚の増加は抑制されていた。
図5に示すように、透析液群では腹膜におけるイミダゾロンの陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較してイミダゾロンの陽性面積の増加は抑制されていた。
図6に示すように、透析液群では腹膜におけるCML陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較してCML陽性面積の増加は抑制されていた。
図7に示すように、透析液群では腹膜における1型コラーゲン陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較して1型コラーゲン陽性面積の増加は抑制されていた。
図8に示すように、透析液群では腹膜におけるTGF−β1陽性面積が増加していた。透析液+PLP群では、透析液群に比較してTGF−β1陽性面積の増加は抑制されていた。
図9に示すように、透析液+PLP群では、生食水群、透析液群に比較して腹膜におけるHGF陽性面積が増加していた。
図10に示すように、透析液群では腹膜におけるVEGF陽性面積の増加傾向を示した。透析液+PLP群では、透析液群に比較してVEGF陽性面積の増加は抑制されていた。
図11に示すように、透析液群では腹膜における血管数の増加が認められた。透析液+PLP群では、透析液群に比較して腹膜血管数の増加が抑制されていた。
【0029】
以上の結果をまとめると以下の通りとなる。
1)PLPは腹膜肥厚の増加を抑制した。
2)PLPはイミダゾロン、CMLなどのAGE生成を抑制した。
3)PLPは、1型コラーゲンなど腹膜の繊維化を抑制した。
4)PLPは、繊維化を促進するTGF−β1の発現を抑制し、繊維化を抑制するHGFの発現を促進した。
5)PLPは、血管増殖を促進するVEGFの発現を抑制し、腹膜血管数の増加を抑制した。
6)PLPは腹膜硬化抑制作用を示した。
【0030】
以上のように、透析液+PLP群では、透析液群に比較して、イミダゾロン、CMLなどのAGE沈着の減少、TGF−β1及びVEGF発現の減少、HGF発現の増加、腹膜血管数の減少、腹膜繊維化及び腹膜肥厚の抑制が認められた。PLPは3−DGをトラップしイミダゾロンの産生を抑制した。またPLPはCMLの産生も抑制した。その結果、TGF−β1発現を減少させ、HGF発現を増加させることにより、腹膜繊維化および腹膜肥厚を抑制した。またVEGF発現を減少させ腹膜血管数の増加を抑制した。これらの実験事実より、PLPは腹膜硬化症(硬化性腹膜炎)の発症および進行を抑制し予防する作用を有するといえる。
【0031】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の薬剤は、AGEが発症、進展に関与している様々な疾病ないし病態の予防ないし治療に利用され得る。本発明の薬剤は特に、腹膜透析に伴い発症することが問題とされている硬化性腹膜炎の予防ないし治療に利用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む最終糖化産物生成抑制剤。
【請求項2】
ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む抗腹膜硬化剤。
【請求項3】
ピリドキサール5’−リン酸を成分の一つとして含む腹膜透析液。
【請求項4】
ピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む最終糖化産物生成抑制方法。
【請求項5】
治療上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む硬化性腹膜炎の予防又は治療方法。
【請求項6】
腹膜硬化の予防上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む腹膜透析方法。
【請求項7】
前記ステップが、以下のa〜cの少なくとも一つ以上の時期に実施される、請求項6に記載の腹膜透析方法、
a:透析処置の前、
b:透析処置中、
c:透析処理後。
【請求項8】
最終糖化産物生成抑制剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
【請求項9】
抗腹膜硬化剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
【請求項1】
ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む最終糖化産物生成抑制剤。
【請求項2】
ピリドキサール5’−リン酸を有効成分として含む抗腹膜硬化剤。
【請求項3】
ピリドキサール5’−リン酸を成分の一つとして含む腹膜透析液。
【請求項4】
ピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む最終糖化産物生成抑制方法。
【請求項5】
治療上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む硬化性腹膜炎の予防又は治療方法。
【請求項6】
腹膜硬化の予防上有効量のピリドキサール5’−リン酸を患者に投与するステップ、を含む腹膜透析方法。
【請求項7】
前記ステップが、以下のa〜cの少なくとも一つ以上の時期に実施される、請求項6に記載の腹膜透析方法、
a:透析処置の前、
b:透析処置中、
c:透析処理後。
【請求項8】
最終糖化産物生成抑制剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
【請求項9】
抗腹膜硬化剤を製造するための、ピリドキサール5’−リン酸の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【国際公開番号】WO2005/018649
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513305(P2005−513305)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011991
【国際出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/011991
【国際出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】
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