説明

最適化されたアドへシンフラグメントおよび対応するナノ粒子

本発明は、最適化されたアドヘシンおよびこのアドヘシンが結合されたナノ粒子に関する。本発明はさらに、このナノ粒子を、インビボ造影剤として、特に、腸の癌の診断のために提供することに関する。CRC細胞に対して高い親和性を有するアドヘシンもしくはアドヘシンフラグメント(「アドヘシン構築物」)を提供することもまた本発明の目的である。この目的は、それぞれの野生型アドヘシンアミノ酸配列、好ましくは、DraE野生型配列と比較して、変異によって改変されたアドヘシンもしくはアドヘシンフラグメントを提供することによって、達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化されたアドヘシンおよび上記アドヘシンが結合したナノ粒子に関する。本発明はさらに、上記ナノ粒子を、インビボ造影剤として、特に、腸の癌の診断のために提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患について、可能な限り早期でかつ有意義な診断は、必要な医療手段を選択し、そして調整して行うために、決定的に重要である。これは、特に、その決定および治療のために健康な組織と発癌組織との間を識別することが必須である多くの種類(あり得る部分を含む)の腫瘍に当てはまる。よって、患者の回復もしくはさらには生存は、処置および/もしくは手術を担当している医師が、異なるタイプの組織を区別し得るか否かもしくは区別し得る程度に決定的に依存する。
【0003】
診断および医療の手段を改善するために、過去に造影剤が開発されてきた。画像化剤は、画像化プロセスによって、身体における可視の機能および構造を作製するのを補助し得る。これらプロセスは、特に、癌関連の細胞変化を特異的に検出するために使用される。
【0004】
特許文献1のA3は、例えば、少なくとも3つの構造(すなわち、不動態化層でコーティングされている無機コアであって、さらに上記不動態化層が特異的リガンドを有する、無機コア)を含む蛍光性ナノ粒子を開示する。これらリガンドは、上記ナノ粒子が標的に特異的に結合することを可能にする。上記標的は、特に、標的細胞の特異的表面分子(例えば、腫瘍関連抗原)であり得る。
【0005】
この印刷された刊行物によって開示される、コアおよび周囲の不動態化層を有する上記ナノ粒子は、好ましくは、5nmと15nmとの間である小さな流体力学的直径を有する。このサイズのナノ粒子は、腎臓を介して排出(ausgeschieden)され得、従って、身体に蓄積しないか、または多くても、許容可能な量においてしか、身体に蓄積しない。これは、ナノ粒子を医療目的に使用するための重要な要件のうちの1つである。
【0006】
別の要件は、身体中の選択された標的構造を認識するナノ粒子に結合されるリガンドの高い選択性である。高い特異的認識のみが、造影剤の医療的使用の主目的である検出を可能にする。これら非常に特異的なリガンドは、同時に、上記ナノ粒子の良好な分布および浸透を妨げないように小さくなければならない。頻繁に使用される特異的リガンド(例えば、抗体もしくはFabフラグメント)は、この要件を満たすためには、通常は大きすぎる。
【0007】
工業国における腸癌の新たな症例数は、最近30年間にわたって大きく上昇した。年間発生数は、100000名の居住者につき30〜35名の新たな症例であり、腸癌は、中央ヨーロッパで最も一般的な悪性腫瘍のうちの1つであり、全ての癌による死亡のうちの約15%の原因である。世界的な発生数は、1年あたり100万の新たな症例と見積もられる。男性は、女性よりわずかに多く罹患しており、特に、直腸癌腫においてそうである(性別比 60:40)。
【0008】
ドイツにおいては、腸癌は、新たな症例ならびに男性および女性における癌による死亡の両方で、2番目に多い一般的な癌の形態であり、2005年には、20000名を超える人々が死亡した。「Gesellschaft der epidemiologischen Krebsregister [Society of epidemiological cancer registers]」は、1年あたりほぼ30000名の死亡者がいるとすら想定している。
【0009】
腸癌とは、腸の任意の悪性腫瘍をいう。それらは、腸粘膜の平滑筋および/もしくは結合組織に由来する、類癌腫(特に、虫垂および小腸における)、平滑筋肉腫および消化管間質腫瘍(gastrointestinale Stromatumoren)(GIST)であり得る。しかし、これら疾患はかなり稀であり、全ての腸癌症例のうちのわずかな割合に相当するに過ぎない。全ての腸癌症例の断然最大の部分(95%を超える)は、盲腸、結腸もしくは直腸の腺癌によって代表され、これに関して、包括的な用語結腸直腸癌もまた、使用される。
【0010】
腸癌(特に、結腸直腸癌腫)は、最初は極めて稀にしか症状を引き起こさず、そしてほぼ常に、最初は良性の腸ポリープから発症する。平均して40〜60%の5年生存率で、手術およびその後の化学療法によって治癒する可能性は、上記腸癌が診断される病期に決定的に依存する。従って、予防的措置および同様に早期の診断は、特に重要である。後者は、腸癌細胞(特に、CRC(結腸直腸癌細胞))の早期検出によって可能である。
【0011】
CRCの検出は、上記細胞に特異的な標的であって、可能であれば、上記腫瘍中で過剰発現される標的を必要とする。CEACAMファミリー(CEA関連細胞接着分子;CEA=癌胎児性抗原)のメンバーは、CRC細胞において上方調節された発現を有すると報告されている。従って、CEACAMファミリーメンバーは、CRC検出のための標的として特に適している。それらとしては、特に、CEA(CEACAM5)およびNCA(CEACAM6)が挙げられる。
【0012】
上記CEACAMファミリーは、Igスーパーファミリーのメンバーである。各ファミリーメンバーは、高度にグリコシル化されており、かつN末端Ig可変様ドメインからなり、その下流に、最大6個のIgC2ドメインが存在する。CEACAM1、CEACAM3およびCEACAM4は、細胞膜中のカルボキシ末端膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを介して挿入されるのに対して、CEA(CEACAM5)、CEACAM6(NCA)、CEACAM7およびCEACAM8は、膜上のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を介してアンカーされる(verankert)。この群内のN末端ドメインは、アミノ酸レベルにおいて90%より高い類似性を有する。
【0013】
CEAおよびNCAは、結腸組織中の円柱上皮および杯細胞に存在する。それらは、成熟腸細胞の先端表面に位置し、それはグリコカリックス/微絨毛領域に存在する。CEACAMは、細胞間接着分子として作用する。正常結腸上皮細胞における、CEACAMのこの厳密に先端での局在は、腺癌細胞において見捨てられてきた(従って、上記タンパク質は、細胞表面全体で発現される)。細胞組織化および細胞極性は、CRC細胞において破壊され、従って、例えば、CEAおよび/もしくはNCAは、細胞表面全体に位置して見いだされ得る。CEAは放出され得、それによって、血流に入り、従って、血清腫瘍マーカーとして検出され得る。
【0014】
これらレセプターについて報告されたリガンドは、とりわけ、E.coli細菌のDrファミリーのアドヘシン(Afa/Drアドヘシン、DrCEAサブファミリー)である。これらアドヘシンは、拡散接着性E.coli(DAEC)株の(線毛中の部分的に組織化された)細菌表面に位置し、そしてその上皮細胞への接着を媒介する。このファミリーのメンバーは、例えば、AfaE−I、AfaE−III、AfaE−V、DraEおよびDaaEである。
【0015】
Afa/Dr アドヘシンをコードする構造的アセンブリ遺伝子は、類似の構成を有する。これらは、少なくとも5つの遺伝子(A〜E)を含むオペロンからなる。ここで遺伝子A〜Dはアクセサリ遺伝子をコードし、遺伝子Dはインベイジン(Invasin)をコードする。遺伝子Eは、実際のアドヘシンをコードする。
【0016】
上記遺伝子クラスターは、高度に保存された領域を有し(例えば、遺伝子afaA、afaB、afaC、afaDおよびafaF)、これは、例えば、調節機能もしくはシャペロン機能を有する。上記構造的AfaEコード遺伝子は、非常に不均一(heterogen)であり、抗原的に異なるアドヘシンが生成される。
【0017】
アドヘシンのAfa/Drファミリーのこれらのメンバーを発現するE.coli細菌は、CEAを発現するCHO細胞に接着する(非特許文献1)。さらに、アドヘシンはまた、非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2007/057182号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Bergerら,「Differential recognition of members of the carcinoembryonic antigen family by Afa/Dr adhesins of diffusely adhering Escherichia coli (Afa/Dr DAEC)」、Molecular Microbiology,(2004)52(4),pp.963−983
【非特許文献2】Alain L.Servin「Pathogenesis of Afa/Dr Diffusely Adhering Escherichia coli」、Clinical Microbiology Reviews(2005年4月)18(2),pp.264−292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、これら公知のアドヘシンは、それらのCEA親和性に関して、なお不十分である。従って、CRC細胞に対して高い親和性を有するアドヘシンもしくはアドヘシンフラグメント(「アドヘシン構築物」)を提供することが、本発明の目的である。この目的に関して、それらは、可能であれば、公知の野生型アドヘシンを超える改善されたCEA親和性を有するべきである。
【0021】
さらに、造影剤を提供するために利用され得るナノ粒子にリガンドとして結合されるのに適したアドヘシンおよび/もしくはアドヘシンフラグメントを提供することは、本発明の目的である。上記ナノ粒子は、好ましくは、医学的に、特に好ましくは、インビボ造影剤として使用可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、それぞれの野生型アドヘシンアミノ酸配列、好ましくは、DraE野生型配列と比較して、変異によって改変されたアドヘシンもしくはアドヘシンフラグメントを提供することによって、達成される。上記改変は、有利なことには、上記CEACAMファミリーのメンバー(特に、CEAおよび/もしくはNCA)に対する、本発明のアドヘシンの改善された親和性を生じる。本発明のアドヘシンおよびアドヘシンフラグメントはまた、本明細書中以下で、「改変された」もしくは「最適化された」アドヘシンとして包括的に言及される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】DraEの配列番号1。
【図2】AfaE−5、DrbE−122、DraE、SM254、DaaE;AfaE−2、AfaE−1およびNfaE−111のアラインメント。
【図3】配列番号2。
【図4】G2152、SM297、JJB30、SM437、SM249、SM246、SM245、SM54、G2171、G2166、G2106、G2102、G2097、G2096、DraE、G2099、G2100、SM252、JJB17、SM293、G2076、SM513、AFaE−IIIのアラインメント。
【図5】配列番号3。
【図6】配列番号4。
【図7】配列番号5。
【図8】CEA(CEACAM 5)、NCA(CEACAM 6)、CEACAM 1、CEACAM 3、CEACAM 4、CEACAM 7およびCEACAM 8のアラインメント。
【図9】配列番号6。
【図10】配列番号7。
【図11】配列番号8。
【図12】コンセンサス配列(配列番号9)。
【図13】コンセンサス配列(配列番号10)。
【図14】コンセンサス配列(配列番号11)。
【図15】配列番号12。
【図16】ハイコンテントスクリーニングによる、本発明に従って使用可能なナノ粒子の、インビボ分解の分析の結果。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記最適化されたアドヘシンは、以下の変異のうちの1つ以上を含む(ここでアミノ酸位置の番号付けは、DraE野生型アミノ酸配列に基づく;DraEの配列番号1(図1)もまた参照のこと)。
【0025】
【化1】

【0026】
しかし、T88Mおよび/もしくはN77Kが存在する場合、本発明のアドヘシンは、前述の変異のうちの少なくとも1つの他のものを有さなければならない。これは特に、DraE群のアドヘシンに存在する変異に当てはまる。
【0027】
好ましい変異は、V28W;V28F;A39Q;A39S;I41L;Q47S;Q47T;I85L;T95L;G118SおよびT123Iである。
【0028】
本発明の目的に関して、「アドヘシン」とは、原則として、上記CEACAMファミリーのレセプター(本明細書中以降、結合タンパク質ともいう)のN末端ドメインに、特に、CEAおよび/もしくはNCAに結合し得る任意のタンパク質をいう。これらは、「アドヘシン群」のアドヘシン、「DraE群」、ならびに特に、タンパク質DraEおよびAfaE−IIIを包含する。これらはまた、上記アドヘシンに由来するコンセンサス配列を有するタンパク質を包含する。
【0029】
本発明に従うアドヘシンは、好ましくは、139アミノ酸の配列、および17kDaのサイズを有する。しかし、これらはまた、CEACAMに、特に、CEAおよび/もしくはNCAに結合する能力の喪失を生じない限りにおいて、N末端および/もしくはC末端の欠失を有し得る。上記C末端欠失は、可能であったとしても、5アミノ酸、8アミノ酸、でなければ多くても10アミノ酸を超えるべきではない。上記N末端欠失は、最大18アミノ酸までであり得る。しかし、任意のより短い欠失(例えば、5アミノ酸、8アミノ酸もしくは10アミノ酸の欠失)もまた、可能である。本発明の一実施形態において、従って、上記アドヘシンは、111アミノ酸長である。
【0030】
上記「アドヘシン群」は、AfaE−5、DrbE−122、DraE、SM254、DaaE;AfaE−2、AfaE−1およびNfaE−111からなる(これに関連して、図2;アラインメントもまた参照のこと)。本発明によれば、これらは、配列番号2(図3)によるコンセンサス配列、および上記の変異のうちの1つ以上を有する。
【0031】
同じことが、以下のタンパク質(これに関連して、図4、アラインメントもまた参照のこと):G2152、SM297、JJB30、SM437、SM249、SM246、SM245、SM54、G2171、G2166、G2106、G2102、G2097、G2096、DraE、G2099、G2100、SM252、JJB17、SM293、G2076、SM513、AFaE−IIIからなる「DraE群」に当てはまる。これらは、配列番号3(図5)によるコンセンサスを有する。一実施形態において、本発明は、よって、上記の変異のうちの1つ以上を有する配列番号3を有するアドヘシンに関する。
【0032】
配列番号4(図6)によるコンセンサスを有するアドヘシンが、特に好ましい。後者は、DraEおよびAfaE−IIIのアラインメントから得られる。特に好ましいのは、DraEである。
【0033】
本発明のアドヘシンは、CEACAM群のタンパク質のN末端配列に結合し、これは、好ましくは、配列番号5(図7)によるコンセンサス配列である。この群のメンバーは、CEA(CEACAM 5)、NCA(CEACAM 6)、CEACAM 1、CEACAM 3、CEACAM 4、CEACAM 7およびCEACAM 8である(図8もまた参照のこと)。本発明のアドヘシンは、好ましくは、CEAおよびNCAのアラインメントから得られる配列番号6(図9。CEAのみを含む領域に下線が付される)を有するタンパク質のN末端配列に結合する。一実施形態において、本発明のタンパク質は、CEA(配列番号7、図10)およびNCA(配列番号8、図11)のN末端ドメインに結合する。
【0034】
好ましい実施形態において、CEAおよび/もしくはNCAに結合する、DraE(配列番号1)による上記改変されたアドヘシンは、上記の変異のうちの1つを有する。結論として、以下のように、配列番号9によるコンセンサス配列(アラインメント、図12)を有するアドヘシンが好ましい:
【0035】
【化2】

【0036】
さらなる実施形態において、上記アドヘシン(特に、DraE由来のアドヘシン)は、配列番号10によるコンセンサス配列(アラインメント、図13を参照のこと)を有する:
【0037】
【化3】

【0038】
別の実施形態において、上記アドヘシン(特に、DraE由来のアドヘシン)は、以下のコンセンサス配列(配列番号11、図14)を有する:
【0039】
【化4】

【0040】
上記コンセンサス配列(配列番号9、配列番号10および配列番号11として規定される)は、配列番号1に従う番号付けに基づく。ここでまた、上記の欠失は、上記アドヘシンの、CEACAMメンバー(特に、CEAおよび/もしくはNCA)への結合を不可能にしない限りにおいて、N末端および/もしくはC末端において存在し得る。
【0041】
特定の実施形態において、配列番号1に従うアドヘシンであって、以下の変異(すなわち、N77K、T88M、I111V、I114VおよびV116A)を含む、アドへシン(本明細書中以下、「Fuenffach−Mutante」[五重変異体]、FMともいう;配列番号12、図15)が好ましい。
【0042】
当業者は、原則として、アドヘシンモノマーの調製に精通している。組換えタンパク質AfaE−III−dscにおいて、例えば、N末端架橋セクションGは、C末端へとクローニングされ、リンカーは、FとGとの間に導入される。次いで、セクションGは、上記リンカーを超えて反対側に折り返り、そして今度はN末端セクションA1に結合し、それによって、上記モノマー構造を安定化する。次いで、AfaE−III−dscのこのモノマー構造は、ゲル濾過によって検出され得る(Andersonら,2004からの図1Cを参照のこと)。
【0043】
Piatekら(Infection and Immunity(2005)73(1) pp.135−145,「Molecular Aspects of Biogenesis of Escherichia coli Dr Fimbriae: Characterization of DraB−DraE−Complexes」)は、モノマーアドヘシンを生成する別の可能性を記載している。彼らは、アドヘシンのN末端から様々な数のアミノ酸を除去し、これにより、モノマータンパク質を得ている。(Piatekら,2005からの図2を参照のこと)。これら公知の方法はまた、本発明に従って改変されるアドヘシンにも基本的に適用可能である。
【0044】
改変されたアドヘシンを得るために、野生型アドヘシンが、変異誘発(例えば、オリゴヌクレオチドベースの、部位特異的変異誘発(例えば、EP1777292 A1))に供され得る。
【0045】
好ましい実施形態において、本発明のアドヘシンは、さらなる変異誘発のためのテンプレートとして、DAF(崩壊促進因子、CD55)に対する減少した親和性を有するアドヘシン構築物を使用することによって調製され得る。これの例は、N77K変異である(van Loyら,Molecular Microbiology(2002)45(2),pp.439−452,「Identification of amino acids in Dr adhesin required for binding to decay−accelerating factor」)。
【0046】
上記変異誘発によって生成されるライブラリーは、その標的と一緒に酵母へと形質転換され得、そのレポーター遺伝子の読み取り値が検出され得る(これに関連して、以下の例示的実施形態もまた参照のこと)。これは、CEAおよび/もしくはNCAに対して改善された親和性を有する本発明のアドヘシンが同定されることを可能にする。
【0047】
本発明のアドヘシンは、ナノ粒子に結合され得る。後者は、好ましくは、CRC細胞を検出するためのインビボ造影剤として使用され得る。WO 2007/057182 A3は、有利なナノ粒子を開示する。その内容全体は、上記ナノ粒子の調製および使用の開示を目的として、本明細書に参考として援用される。上記ナノ粒子は、特に、その流体力学的直径が15nmを超えずかつ生物学的系において不活性でないものである。
【0048】
本発明のナノ粒子は、少なくとも3つの構造体(すなわち、不動態化層でコーティングされている無機コアであって、さらに上記不動態化層が特異的リガンドを有する、無機コア)を含み、ここで上記特異的リガンドはまた、上記不動態化層の一部であり得る。上記リガンドは、上記生物学的な系の標的に特異的に結合するナノ粒子を生じる。
【0049】
好ましいナノ粒子において、上記無機コア(上記無機コアを囲む上記不動態化層を含む)は、15nm以下、可能であれば、好ましくは、10nm以下の流体力学的直径を有する。特に好ましいのは、8nm以下もしくは5nm以下の流体力学的直径である。これは、球状のナノ粒子に特に当てはまる。このサイズのナノ粒子は、腎臓を介して排出され得、従って、身体に蓄積しないか、または多くても、許容可能な量でしか蓄積しない。このことは、インビボ適用を可能にする。これは、特に、5nm以下の流体力学的直径を有するナノ粒子に当てはまる。
【0050】
代替の実施形態において、上記ナノ粒子はまた、桿状であり得る。この実施形態において、これは、上記桿体の直径が上記の制限15nmを超えない場合に、有利である。ここでまた、身体からの排出を促進するために、5nm、8nm、もしくは10nmの範囲内の直径が好ましい。従って、例えば、本発明に従って使用可能な上記ナノ粒子は、8×15nmの長さ/幅寸法を有し得る。
【0051】
本発明に従って使用可能な上記ナノ粒子は、好ましくは、600〜700nmの間、例えば、620nm〜660nmの間、特に好ましくは、約625nmもしくは655nmの波長において最大発光を有する。上記発光は、ヒトの目で容易に見え、従って、このようなナノ粒子は、医療的介入のための造影剤として、直接的に使用され得る。結論として、補助的光学装置が、いくつかの環境において不要になり得る。
【0052】
代替の実施形態において、上記の流体力学的直径を超えるナノ粒子は、上記粒子が、インビボで不活性でないことが保証される限りにおいて、本発明に従って使用され得る。後者は、上記粒子が生分解性であるため、そしてその結果として、最初に粒状物としてそこに結合された金属(例えば、Cd)は、イオン性形態に変換されるための前提条件である。この分解生成物は、腎臓を介して排出され得る。
【0053】
イミダゾール成分を含む不動態化層を有する無機ナノ粒子は、実際には、(以前に実証されたように)インビボで不活性ではなく、これらの条件下で分解される。従って、上記ナノ粒子は、インビボ適用に特に関連する、生分解性の基準および分解生成物の腎通過の基準を満たす。このことは、驚くべき知見であった。なぜなら、上記不動態化層は、特に、上記ナノ粒子の化学的安定性および/もしくは物理的安定性を増大するようにも作用するからである(これに関連して、以下のさらなるコメントも参照のこと)。従って、一方では、良好な診断に必要とされる上記ナノ粒子の安定性と、他方では、「大きな」粒子の腎通過に必要とされる生分解性との間の関係は、インビボ造影剤としての使用に適している。
【0054】
上記不動態化層の主要な課題は、上記無機コアの蛍光強度、ならびに化学的安定性および物理的安定性を増大することである。上記不動態化層によってコーティングされた上記無機コアは、少なくとも10%、有利なことには、少なくとも30%、50%もしくはさらに70%の量子収率によって特徴付けられる。量子収率は、本明細書で、上記サンプルによって発せられる光の量の、サンプルによって吸収される光の量に対する比を意味する。有利なことには、上記不動態化層は、1nm以下の厚みを有する。この場合、上記不動態化コアの直径の増加は、2nm以下であった。
【0055】
有利なことには、上記ナノ粒子にはまた、各場合において、特に、生物学的環境との適合性を改善するために、モディファイアー(Modifikatoren)が提供される。好ましくは、モディファイアーの使用に起因するその流体力学的半径の増加は、2nmを超えない。特定の場合において、上記不動態化層および上記モディファイアーの厚みはまた、上記2つの構造体の互いの中での関係、および上記無機コアに対する関係に依存する。
【0056】
本発明のナノ粒子は、上記のようにサイズが制限される場合、生きている患者における診断剤としての使用に特に適している。従って、サイズ縮小は、組織への拡散速度および浸透の深さを増大させる。このことは、上記ナノ粒子を、均一にかつ迅速に生物学的環境において拡散させること、ならびに局所投与後、組織(例えば、腫瘍)のできるだけ遠くまで浸透させることを可能にする。本発明のナノ粒子は、同様に、注射によっても行われ得る全身投与を可能にする。しかし、局所投与(例えば、表面適用または腫瘍の処置のための腫瘍内投与もしくは腫瘍周辺(peritumorale)投与)もまた、可能である。
【0057】
上記改変されたアドヘシンに連結された上記ナノ粒子を含む本発明の特に有利な実施形態は、8nm以下、特に好ましくは、4nm以下の流体力学的直径を有する。この規模のナノ粒子は、腎臓を介してすぐに排出され得、従って、身体に蓄積しないか、または非常に少ない程度でしか蓄積しない。結果として、本発明のナノ粒子は、公知の量子ドットとおそらく関係する長期の毒性という問題をかなり減少させる。
【0058】
上記ナノ粒子は、特に好ましくは、600〜660nmの間での最大発光、特に好ましくは、620〜660nmの間での最大発光を有する、600〜700nmの間の蛍光スペクトルを、有利なことに発光する。上記発光スペクトルは、ヘモグロビンおよび生体系における他の光吸収物質(水を含む)によって、ごく少量しか吸収されないため、組織透過が非常に高いという利点を有する。これら波長の光は、ヒトの目によってなお感知され得、従って、処置を担当している医師が、さらにいかなる複雑な技術的検出補助物(例えば、CCDカメラ)をも使用せずに、標識した組織を同定することを可能にする。このことは、CEA発現細胞および/もしくはNCA発現細胞を同定するための、特に、発癌組織と健康な組織とを区別するための、外科的介入中に、造影剤として本発明のナノ粒子を使用する場合に、特に有利である。
【0059】
一実施形態において、好ましくは、使用可能なナノ粒子は、例えば、科学的刊行物を参照するUS 2004/0247861において記載されるような、(例えば、CdSe、CdSもしくはCdTeの)コアを有する公知のナノ粒子である。本公報はまた、上記コア物質の調製に関する文書(例えば、米国特許第6,179,912号)を参照する。これら公知のナノ粒子の特性およびその調製の開示に関する、これら文書の全体の内容が参照される。ナノ粒子を調製するための方法は、米国特許第7,147,712 B2号においてもさらに開示され、この公報もまた、開示の目的で参照される。
【0060】
特に有利なことには、上記ナノ粒子の上記無機コアは、本質的に半導体からなる。これらコアは、それらの個々のサイズおよび/もしくは組成に依存して、種々の色の光を発するが、これらコアの全ては、同一範囲の光スペクトル(UVからVIS範囲まで)内における広域にわたって吸収する。その高いストークスシフトに起因して、励起スペクトルと発光スペクトルとは、非常に離れており、このことは、種々のナノ粒子の単純かつ同時の励起を可能にする。これらは、ごくわずかに重なり合うかもしくは全く重なり合わない、狭く、対称な発光スペクトルを有する。特に、侵入深度の改善(verbesserte Eindringtiefe)およびインビボ標識のために非常に重要な他の有益な特性は、最大80%に至る高い量子収率および高い光安定性である。
【0061】
好ましいナノ粒子は、例えば、WO 2005/001889において開示された。それによると、それらは、少なくとも2種の半導体の合金から作製される無機コアを含む。上記半導体は、均一に分布するか、または各場合において、上記合金内で濃度勾配が存在するかのいずれかである。上記ナノ粒子の性質および調製の開示に関し、上記で引用されるWO 2005/001889が参照される。上記コアは、各場合において、それらのサイズにおいて5%まで異なり得る。
【0062】
よって、上記ナノ粒子の無機コアは、少なくとも2種の半導体の合金を含み得、ここで上記コアは、均質な組成を有し、上記2種の半導体のモル比に対して非線形的である「バンドギャップエネルギー(Band−Gap−Energie)」によって特徴付けられる。
【0063】
あるいは、上記コアは、不均一であり得、上記第1の半導体の濃度は、上記コアの中心から始まって上記コアの表面へと徐々に増大しており、上記第2の半導体の濃度は、上記コアの中心からその表面へと徐々に減少している。
【0064】
両方のコアについて、上記半導体のうちの少なくとも1種は、II族−VI族の半導体もしくはIII群−V群の半導体(族の定義は、元素周期表の族に対応する)である。例えば、上記合金は、以下の合金の群から選択され得る:CdSeTe、CdSSe、CdSTe、ZnSeTe、ZnCdTe、CdHgS、CdHgTe、InGaAs、InGaP、GaAlAs、InGaN。これらコアは、無機物質(例えば、半導体(例えば、ZnS))のコーティングをさらに有し得る。このさらなる層は、「キャッピング」もしくは「シェル(shell)」として、当業者に公知である。
【0065】
II族−VI族およびIII族−V族の半導体は、一般に公知であり、例として以下が挙げられる:CdS1−xSe、CdS1−xTe、CdSe1−xTe、ZnSe1−xTe、Zn1−xCdTe、Cd1−xHgS、Cd1−xHgTe、In1−xGaAs、Ga1−xAlAsおよびIn1−xGaP。半導体CdSe1−xTe、CdS1−xTe、ZnSe1−xTe、Zn1−xCdTe、Cd1−xHgS、Cd1−xHgTe、In1−xGaAs、In1−xGaP(ここでxは、0〜1の分数(Fraktion)である)を使用することが好ましい。
【0066】
上記半導体のモル比は、任意のモル比であり得る。しかし、上記合金がCdSSeを含む場合、分子式CdS1−xSeを有する合金が好ましい。上記合金がCdSTeを含む場合、分子式CdS1−xTeを有する合金が好ましい。上記合金がZnSeTeを含む場合、分子式ZnSe1−xTeを有する合金が好ましい。上記合金がZnCdTeを含む場合、CdTeのみの分子式を有する合金が好ましい。これらの場合の各々において、xは、0〜1の間の分数である。
【0067】
上記ナノ粒子のこれら好ましい無機コアは、以下の工程を使用して調製され得る:(i)ナノ結晶の形成を可能にする条件下で、第1の溶液を調製すること、(ii)ナノ結晶の形成を可能にしない条件下で、一定のモル比を有する上記半導体の前駆物質を含む第2の溶液を調製すること、(iii)上記第2の溶液を上記第1の溶液に添加し、ナノ粒子の形成を可能にすること、および(iv)上記条件を変更して、上記ナノ結晶の成長および形成を停止させること。上記コアを調製するための方法は、WO 2005/001889に例示され、これは、本発明のナノ粒子の無機コアのこの好ましい実施形態の調製の開示に関し、参照される。
【0068】
代替の実施形態において、上記無機コアは、好ましくは、2個〜27個の貴金属原子を含む貴金属クラスターから本質的になり得る。好ましい実施形態において、上記貴金属は、金、銀、銅、白金、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウムおよびロジウムからなる群より選択された。上記クラスターは、種々の電荷を有し得る。
【0069】
これらコアは、それらの吸収および発光が強いので、弱い水銀ランプ励起を用いても個々の「ナノドット」として容易に検出され得るという利点を有する。これらコアを含む本発明のナノ粒子は、有利なことには、蛍光性の個々の分子標識および質量標識として使用され得る。
【0070】
用語「貴金属」とは、金、銀、および銅、ならびに白金族金属(PGM)(白金、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウムおよびロジウム)からなる群より選択される元素の群をいう。本発明の好ましい実施形態において、上記貴金属は、金、銀および銅からなる群より選択される。特に好ましい実施形態において、上記貴金属は、銀もしくは金である。
【0071】
用語「クラスター」とは、2〜27個の金属原子の化合物に関する。クラスターは、特に、化学触媒、セラミックス、半導体技術および材料科学の分野から、公知である。従って、当業者は、それらの調製に精通している。WO 2004/003558は、特に、貴金属クラスターの調製を記載し、さらに、この主題に関する広範囲なさらなる参考文献を含んでいる。より具体的には、これは、有機分子と会合した貴金属ナノクラスターの調製を開示している。用語、会合とは、ここで、結合の化学的性質にも物理的性質にもかかわりなく、任意の結合形態(従って、例えば、共有結合、非共有結合、静電気結合もしくはファンデルワールス結合)を意味する。本発明のナノ粒子のコアとしての上記ナノクラスターの調製に関して、WO 2004/003558が参照される。
【0072】
好ましくは本発明に従って使用可能である上記ナノ粒子は、蛍光強度を増大し、上記無機コアの化学的安定性および物理的安定性を改善する不動態化層を有する。結果として、上記ナノ粒子は、好ましくは、10%より大きい、好ましくは、50%より大きい量子収率で、光を発する。
【0073】
上記ナノ粒子は、好ましくは、4℃の水性環境において少なくとも12ヶ月の貯蔵安定性を有し、可能であれば、pH5〜pH10、好ましくは、pH7〜pH10のpH範囲にわたって安定であり、すなわち、上記ナノ粒子は、それらの特定のスペクトル特性(例えば、量子収率,最大発光の位置、発光スペクトルの半値幅)に関して、50%未満の偏差を示す。好ましい粒子は、これら特定のスペクトル特性に関して、10%未満の偏差を示す。
【0074】
本発明の別の実施形態に従って使用可能な上記ナノ粒子は、本質的に、生物学的(すなわち、生理学的)条件下でも、もしくは少なくとも3日間にわたってインビボで、上記コア(これを囲む上記不動態化層を含む)の特性の恒常性/安定性を示す。好ましい粒子は、7〜14日間にわたって、この種の恒常性/安定性を示し、ここで安定性によって、上記特性のうちの1つの恒常性の少なくとも50%を保持する。この情報は、特に、実際の標的器官における上記ナノ粒子の安定性に言及する。主に異化機能を有する器官において(例えば、肝臓において)、上記ナノ粒子の安定性が、明らかに低下し得るということは、注目すべきである。このことは、明らかに望ましくすらあり得る。
【0075】
上記ナノ粒子は、上記の意味において安定であるが、それにも拘わらず、基本的にインビボで分解性であり、結果として、不活性でない。この意味において、「不活性でない」とは、上記ナノ粒子のうちの少なくとも50%が、投与の12週間後もしくはこれ以上後では、既に分解されていることを意味する。8週間後、6週間後、もしくは4週間後において既に、少なくとも50%の分解が検出可能であることが好ましい。身体に残っている上記粒子の検出は、この目的のための、身体器官中および血漿中での検出を含む。よって、「不活性な」とは、上記粒子のうちの50%より多く、さらには、最大ほぼ100%までが、投与の4週間後に上記患者の身体中でなお検出可能であることを意味する。
【0076】
上記ナノ粒子の分解性は、当業者に公知のアッセイによって(すなわち、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)によって)、検出され得る。このアッセイはまた、上記サンプルが適切であれば(これについて本明細書以降も参照のこと)、蛍光分光光度測定によって補われ得る。
【0077】
上記不動態化層は、金属原子もしくは金属イオン(例えば、亜鉛イオン、水銀イオンもしくはカドミウムイオン)を配位し得る少なくとも1種の化合物を含む。この化合物は、ルイス塩基または共鳴電子を有する環式もしくは直鎖状の不飽和化合物であり得る。環式不飽和化合物として、上記化合物はまた、複素環もしくはヘテロ芳香族であり得る。好ましい実施形態において、上記不飽和基もしくは共役基は、上記分子の構造に基づく末端位置にある。上記不動態化層は、架橋剤をさらに有し得、または環式もしくは直鎖状の不飽和化合物はまた、架橋剤として作用し得る。上記架橋剤は、塩基性であり得る。
【0078】
金属原子もしくは金属イオンを含む配位化合物は、キレート化、配位、もしくはルイス塩基の電子供与特性によって蛍光性無機コアに機能的に結合し得、かつ対応する共役部分/基を有し得る。上記分子は、上記分子でコーティングされている上記コアに水性溶液中での可溶性もしくは湿潤性を付与する特定の部分をさらに含み得る。
【0079】
上記分子もしくは化合物は、1つ、2つもしくはこれ以上の結合した(もしくはまた、縮合した)環を含む均一なもしくは不均一な(複素環式)環系を含み得る。ヘテロ芳香族系の好ましい例は、チアゾール、チアゾール誘導体、オキサゾール、オキサゾール誘導体、ピロール、ピロール誘導体(ドープされたかもしくは非ドープのポリピロールオリゴマーを含む)、チオフェン、チオフェン誘導体(ドープされたかもしくは非ドープのポリチオフェンを含む)、フラン、フラン誘導体、ピリジンおよびピリジン誘導体、ピリミジンおよびその誘導体、ピラジン、ピラジン誘導体、トリアジンおよびトリアジン誘導体、トリアゾール、トリアゾール誘導体、フタロシアニンおよびフタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびポルフィリン誘導体である。上記化合物としては、アセチレン、プロピンおよびアレンを含み得る不飽和(オレフィン)炭化水素またはそのアミン、リン誘導体もしくは酸素誘導体が挙げられ得るが、これらに限定されない。上記半導体コアの表面で付加物もしくは共鳴の形成に関与するために、十分なp−電子密度もしくはπ−電子密度を有する分子が好ましいはずである。
【0080】
上記ヘテロ芳香族化合物は、好ましくは、イミダゾール成分である。さらに、架橋剤として、ホスフィン化合物、好ましくは、アルキルホスフィン化合物を添加することが好ましい。
【0081】
用語「イミダゾール成分」とは、本発明の説明の目的において、少なくとも1つのイミダゾール基(イミダゾール誘導体を含む)を含み、かつ上記無機コア、もしくは上記不動態化層(これは、金属(例えば、カドミウム、亜鉛、ガリウムまたは金属カチオンもしくはそのようなカチオンを含む基材)を有する)への結合に利用可能である、複素環式もしくはヘテロ芳香族の分子を意味する。この点について、好ましくは、少なくとも1つのイミダゾール基は、上記分子の構造に基づく末端位置にあるべきである。その機能的形態にある上記イミダゾール成分は、上記蛍光性ナノ結晶に対して、非局在化分子軌道を含む環を介して結合する。通常、上記イミダゾール環の窒素原子は、配位リガンドとして働いて、金属イオン(例えば、カドミウムもしくは亜鉛)を機能的に結合させる。
【0082】
一実施形態において、上記イミダゾール成分は、反応性官能基(例えば、1個もしくは2個のアミノ酸(例えば、ヒスチジン、カルノシン、アンセリン、バレイン(Balein)、ホモカルノシン、ヒスチジルフェニルアラニン、シクロ−ヒスチジルフェニルアラニン、5−アミノ−4−イミダゾールカルボキサミド、ヒスチジルロイシン、2−メルカプトイミダゾール、boc−ヒスチジン、ヒドラジド、ヒスチノール、1−メチルヒスチジン、3−メチルヒスチジン、イミダゾリシン(Imidazolysin)、イミダゾール含有オルニチン(例えば、5−メチルイミダゾール)、イミダゾール含有アラニン(例えば、(β)−(2−イミダゾリル)−L−(α)アラニン)、カルジニン(Carzinin)、ヒスタミン)を含む。これらヒスチジンベースの分子もしくはイミダゾール含有アミノ酸は、一般に公知の方法によって合成され得る。
【0083】
用語「ホスフィン」とは、本発明の目的で、非金属(例えば、Se、Sもしくは他の非金属)または上記の原子を含む基材を結合もしくはキレート化するための少なくとも1個のホスフィン基(それらの誘導体を含む)を有し、かつ隣り合う分子との反応のための少なくとも1個の官能基(例えば、ヒドロキシル−、アミノ−、チオール−、カルボキシル−、カルボキサミド−など)を提供する分子を意味する。
【0084】
好ましくは、少なくとも1個のホスフィン基は、上記分子の構造に基づく末端位置に位置すべきである。上記ホスフィン部分は、配位リガンドとして働いて、その機能的形態において、例えば、SeもしくはSなどの非金属もしくはイオンを、蛍光性コアまたはシールド層からの化合物と結合させる。
【0085】
好ましい実施形態において、上記ホスフィン含有化合物は、互いに(例えば、ポリマー形態において)連結した1個、2個もしくはこれ以上のホスフィン基を含み、これらとしては、ヒドロキシメチルホスフィン化合物などが挙げられ得るが、これらに限定されない。ホスフィン含有化合物は、一般に公知の方法によって合成され得る。さらに、アルキルホスフィン含有化合物は、1個以上のさらなる官能基(例えば、ヒドロキシル−、アミノ−、チオール−、カルボキシル−、カルボキサミド−など)も有し得ることが公知である。誘導体の例は、その誘導体化が、本明細書に記載されるコーティングとしてのホスフィンの機能と適合性がある限りにおいて、ヒドロキシメチルホスフィン誘導体、アミドもしくはエステルである。
【0086】
本発明のナノ粒子の蛍光性無機コアをコーティングするためには、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンおよびβ−[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ]プロパン酸が特に好ましい。架橋されたホスフィン含有化合物は、さらに金属原子および/もしくはイオン(例えば、ZnもしくはCd)に機能的に結合し得ることが周知である。この点に関して、官能化されたイソシアネートもしくはアルキルシアノアクリレートは、リガンドにとってのおよび上記蛍光性コアとの付加物形成にとっての架橋剤としてさらに有用であり得る。上記架橋剤はまた、塩基性であり得る。
【0087】
本発明に従って存在する上記不動態化層の不動態化効果は、ヘテロ芳香族もしくは複素環との(好ましくは、上記イミダゾール成分との)錯体形成による表面のカドミウム原子もしくは亜鉛原子などの遮蔽に、および上記ホスフィン含有化合物との錯体形成を介した対原子(Gegenatome)(SeもしくはSなど)の遮蔽に基づく。
【0088】
本発明のナノ粒子の上記不動態化層は、US 2004/0247861 A1において開示された。この公開された出願は、上記不動態化層でコーティングされた無機コア(例えば、量子ドット)の調製を記載する。従って、本発明に従って使用される上記不動態化層およびこれらでコーティングされる上記無機コアの調製の開示の目的のため、US 2004/0247861が参照される。
【0089】
上記不動態化層の分子は、標的分子および細胞(特異的リガンド)を結合および架橋するために、さらに化学基を有し得る。適切な試薬(例えば、ZnSOおよびNaS)の存在下で、上記分子もしくは化合物は、上記蛍光性コア上の分子と不動態化層を形成し得る(「キャッピング」もしくは「シェル」)。これら試薬はまた、上記蛍光性ナノ結晶の表面上の原子もしくはイオンに機能的に結合し得、結果として、このさらなる不動態化層はまた、上記コアの表面上に直接形成され得る。
【0090】
有利な実施形態において、本発明のナノ粒子は、有機部分および/もしくは無機部分からなり得るモディファイアーをさらに有し得る。それらは、液体もしくは懸濁媒体中で、特に生理学的環境において、上記ナノ粒子の適合性、効能および/もしくは溶解性を改変するために使用される。この表面改変は、生物系、特にヒトの身体における非常に低い非特異的吸着および増大した適合性を達成するために、特に有利である。
【0091】
1つの可能性としては、特定の医療適用について既に認可されているポリエチレングリコール(PEG)で、特に、上記ナノ粒子が小さな全体的サイズを維持するために低分子量形態のPEGで、表面を改変することがある。これによって、上記ナノ粒子の生体適合性と血液循環時間との両方、さらに、細胞への取り込み効率を、増大させ得る。低分子量PEG層と他の物質(例えば、ビタミン(例えば、葉酸))との組み合わせは、マクロファージへの上記ナノ粒子の低い取り込みを達成し得る。なぜなら、上記ナノ粒子へのタンパク質吸着は、上記組み合わせによって低下し、これによって免疫系による上記ナノ粒子の認識がより困難になるからである。
【0092】
モディファイアーを使用することによる別の考えられる有利な表面改変は、1つのタイプのモノサッカリドもしくは種々のモノサッカリドから構成される、モノサッカリド、ジサッカリドもしくはトリサッカリドから低分子量ポリサッカリドまででのコーティングである。考えられる開発の1つのタイプは、ポリグルコースでの改変であり、例えば、ここでデキストランが使用され得、デキストランは、代用血液として医学的に承認されている。これは、良好な生体適合性/寛容性を示す。別の実施形態は、あり得る分解を妨げるための、サッカリドの立体異性形態(D−/L−)の使用である。
【0093】
別の実施形態は、モディファイアーとしての、生物学的に適合性の親水性ビタミンの使用である(例えば、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ピリドキシン、コバラミン、パントテン酸、アスコルビン酸および葉酸)。従って、例えば、葉酸は、癌細胞へのナノ粒子の好ましい結合をもたらし得る。このビタミンは、ごく低い免疫原性しか示さず、従って、高い生体適合性を示す。上記ナノ粒子の内在化は、膜結合型葉酸レセプターへの結合によって促進される。
【0094】
表面改変はまた、親油性ビタミン(レチノール、コレカルシフェロール、トコフェロールおよびフィロキノンなど)で可能である。従って、例えば、ビタミンEは、ナノ粒子の細胞取り込みを増大し得る。
【0095】
脂肪酸(例えば、1−オクタデセンもしくは18−メチルエイコサン酸およびこれらの誘導体)は、上記コロイドの溶解性および安定性を増大させ得、ならびに、その後の特異的リガンドの結合について利用され得る末端官能性カルボキシル基を有し得る。従って、モディファイアーとして脂肪酸を含むことは有用である。
【0096】
表面改変の別の実施形態は、多価アルコール(例えば、ジエチレングリコール(DEG))でのコーティングである。これらは、非特異的タンパク質吸着を減少させることにおいて特に良好である。同じことが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Teflon(登録商標))(特にその低分子量形態のもの)に当てはまり、ポリテトラフルオロエチレンは、低下したタンパク質吸着を達成し得る。ポリテトラフルオロエチレンは、心臓外科適用において頻繁に使用される。
【0097】
表面改変は、タンパク質新生に関与する(proteinogenen)アミノ酸およびタンパク質新生に関与しないアミノ酸の両方を包含する1個以上の天然に存在するアミノ酸、ならびに1個以上の合成アミノ酸を使用して同様に行われ得る。立体異性体(D体およびL体)の両方が、ここで使用され得る。上記アミノ酸のジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドから小さなポリペプチドまでは、免疫系をほとんど刺激せず、従って、薄い適合性層にもに適している。それらは、人工アミノ酸配列、ならびに生物学的タンパク質に由来する配列であり得る。天然タンパク質(例えば、ファイトケラチン)のペプチド誘導体は、同様に、表面改変のために使用され得る。TatペプチドおよびTatペプチド含有ペプチドでの表面改変は、生物医療的適用において使用できるナノ粒子を作製する別の可能性である。上記Tatペプチドは、例えば、細胞膜を通って核へと金ナノ粒子を送達するための有効な分子である。
【0098】
考えられるモディファイアーの別の実施形態は、ホスホリルコリンコーティングの形成である。ホスホリルコリンは、(例えば、コンタクト・レンズ上の)考えられる非特異的タンパク質吸着を減少させる。その非血栓形成特性のおかげで、ホスホリルコリン改変は、生物学的系において容易に使用され得、高い貯蔵安定性によって認識される。
【0099】
ポリラクテートは生体適合性であるので、この物質は、種々の医療的適用において使用される。より具体的には、ポリラクテートの低分子量形態は、本発明のナノ粒子の別の考えられる表面改変を構成する。両方の立体異性体(D体/L体)が、考えられる生体分解を減らすために、本明細書で使用され得る。
【0100】
記載された表面改変とは別に、上記ナノ粒子への、非特異的タンパク質の、タンパク質分解により切断可能な結合もまた可能である。これは、生体適合性/適合性を増大させ得る。標的位置において、大きなタンパク質は、組織中に放出される小さなナノ粒子とともに除去され得る。上記除去はまた、適切な滞留時間の後に起こり得る。これに適切なのは、好ましくは、例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、セルロプラスミン、エラスチンおよびアルブミンのような一般に使用されるタンパク質、ならびに非特異的吸着を低下させる他のタンパク質である。従って、例えば、ポリペプチドとエラスチンとの組み合わせから構成される表面コーティングは、望ましくない凝塊形成を予防し得、従って、上記ナノ粒子の生体適合性を増大させ得る。
【0101】
主要な血清タンパク質アルブミンは、形質膜との非特異的相互作用を低下させ得る。さらに、適切に改変されたナノ粒子は、特異的リガンド(これは、同時に上記粒子表面に結合している)によって、標的細胞との特異的相互作用を発生させる能力を保持する。血清アルブミンでのコーティングは、静脈内投与後のマクロファージによる迅速な取り込みを防止することによって、コーティングされていないナノ粒子での場合よりも実質的に長い血液循環時間を生じ得る。
【0102】
上記に概説される非特異的コーティングとは別に、本発明のナノ粒子は、標的細胞−特異的リガンドでの選択的標識を有し;これらは、例えば、タンパク質、抗体、ペプチドと、あるいは特に好ましくは、小さな高親和性タンパク質ドメイン、抗体フラグメントまたは例えば、腫瘍細胞特異的構造もしくは他の標的に結合する他の有機分子と、結合体化される。好ましいリガンドは、アドヘシンである(例示的実施形態4を参照のこと)。この状況において「特異的」とは、上記リガンドが、もっぱら、もしくは増大した程度にまでのいずれかで標的上に発現されることを意味する。
【0103】
記載された拡散および灌流のより高い速度を生じる低下した流体力学的直径を、上記の特性および改善ならびに高い蛍光強度(特に、可視赤色光範囲において)と組み合わせることは、本発明のナノ粒子を、インビボで組織形態の選択的かつ正確な識別のための多くの異なる方法において使用され得る、単純な診断剤にする。これらの可能性は、抗原特異的生体マーカーとの組み合わせにおいて、特に、CEA発現細胞および/もしくはNCA発現細胞を同定するために、特に、異常な(前)発癌組織を正常な組織から区別し、より正確な腫瘍切除のための外科的介入の間に視覚的評価を補助するために使用される。従って、本明細書で使用可能な本発明のナノ粒子は、造影剤として働く。このことは、特に、腸癌診断および外科手術における使用に適用される。
【0104】
本発明による改変されたアドヘシンを有する上記ナノ粒子は、インビトロもしくはインビボでの診断剤、セラノスティック剤(Theranostikum)および/もしくは治療剤のいずれかとして使用され得る。この目的に関して、それらは、局所的に(例えば、腫瘍内に、筋肉内にもしくは外科的に接近可能な組織/器官に)投与され得、さもなければ、全身に(例えば、静脈内に)もまた投与され得る。局所/表面投与は、液体、スプレー溶液、ゲル、フォーム、クリーム、活性パッチ(Wirkpflaster)によって、提供され得る。これは、特に、中空器官(例えば、腸癌の場合)の処置/診断のために好適であり得る。例えば、シロップ剤として、または錠剤もしくはカプセル剤の形態において、経口摂取もまた可能である。吸入も同様に可能である(例えば、スプレー)。坐剤による肛門投与は、想定される。1つの改変において、上記ナノ粒子は、デポー形態において移植され得る。
【0105】
用語「診断剤」とは、「造影剤」の同義語として本発明の状況において使用される。すなわち、診断剤は、医療的介入を補助するために、生物学的系、特に、生きている人々において、形態的構造もしくは機能的構造の識別的可視化のために働く。
【0106】
上記ナノ粒子は、特に、外科的介入において、診断剤として使用され得る。これらはまた、低侵襲法(minimal−invasiven Verfahren)(例えば、内視鏡検査法、腹腔鏡検査法)において使用され得る。画像化法(例えば、PET、MRT、CTなど)との組み合わせは、価値がある。
【0107】
既に上で述べられているように、局所投与の形態における本発明に従う使用は、特に有利である。この点について局所投与に際して使用されるCdの量は、有利なことには、高齢でかつ通常の生活様式のヒトの肝臓および腎臓に、一生の間にいずれにせよ通常蓄積する総曝露量の10分の1を超えない。これら器官の総曝露量は、約18mgである(Saturagら 2000;British Journal of Nutrition;2000,(84),791−802)。よって、局所投与に際して、供給されるCdの量が少なくとも実質的に2mgを超えないように、ナノ粒子の量を制限することは有利である。特に好ましい実施形態において、腫瘍可視化は、カドミウムが0.6mg、特に好ましくは、0.2mgの合計量を超えない造影剤の量ですら可能である。
【0108】
「局所投与」とは、本発明の目的では、上記造影剤の量もしくは用量の増大が、投与様式に依存して、身体の明確な領域において期待され得る、任意の投与を意味する。よって、例えば、輸入管もしくは輸出管に結紮を適用することなど、投与する職員による付随的手段によって、本質的に妨げられていない様式で身体中の血管系の至る所に上記造影剤が拡がることがないようにされる場合、上記造影剤の脈管投与もまた、局所投与である。
【0109】
この実施形態の特有の利点は、生きているヒトに対する医療的適用における上記ナノ粒子の使用がこれによって初めて可能になることである。なぜなら、別の方法(すなわち、全身投与)は、上記ナノ粒子の使用に関連する毒性が原因で、予め排除されるからである。上記の利点は、局所投与が、適切に可視化するために必要なナノ粒子の用量を低下させることによる。
【0110】
Cd含有造影剤が、有利なことに、インビボで腫瘍を可視化するために、腫瘍組織1cm3あたり0.002〜0.02mgのCdの量に対応する用量で本発明に従って使用されることが明らかになった。0.002〜0.015mg Cd/cm3 腫瘍組織の上記造影剤の用量は、特に有利であり、とりわけ、0.002〜0.010mg Cd/cm3の間の用量が有利である。ヒトについての曝露の通常受容可能である上限を超えることなく、インビボで最大約150cm3の体積を有する腫瘍を可視化することは、この有利な投与量で可能である。最大50cm3までの体積を有する腫瘍の可視化のために、特に都合がよい。
【0111】
調査は、患者の全ての接近可能な組織/器官(特に、皮膚、中空器官(例えば、胃腸管、尿生殖路、気道))に、または感覚器官の外側から接近可能な領域に、および心血管系に関し得る。
【0112】
インビトロ診断剤としての使用もまた可能である(例えば、免疫組織化学もしくはFACS、およびELISA)。インビボ診断とインビトロ診断との組み合わせ(例えば、生検材料)は、特に有利である。
【0113】
本発明に従う改変されたアドヘシンは、上記ナノ粒子に結合されたままであり得るか、または、除去可能か検出可能か放出可能であり得る。
【実施例】
【0114】
(例示的実施形態)
(I.改変されたアドヘシンの提供)
上記N末端CEACAM(例えば、CEA)ドメインは、アドヘシンの結合に十分である。このことは、精製した線毛(特定のアドヘシンも含む)を使用した結合研究から公知である(Korotkovaら,The Journal of Biological Chemistry(2006)281(39),pp.29120−29139,「A Subfamily of Dr Adhesins of Escherichia coli Bind Independently to Decay−accelerating Factor and the N−domain of Carcinoembryonic Antigen」)。従って、CEAおよびNCA(CEACAM6)のN末端ドメインを、本実施形態に従うアドヘシンの標的として使用した。
【0115】
この目的のために、事前に、CEAおよびNCAのN末端ドメインのコドン使用法、およびリガンドとしてのDraE成熟タンパク質(アドヘシン)のコドン使用法を、Saccharomyces cerevisiaeにおける発現のために最適化した。これらの遺伝子を合成した。
【0116】
(好ましくは、変異N77Kを含む)DraE構築物およびCEAの末端ドメイン(本明細書中以降、N−CEA)を、酵母THベクターにクローニングし、酵母へ形質転換した。
【0117】
上記アドヘシンを変異誘発、特に好ましい実施形態において、オリゴベースの部位特異的変異誘発(例えば、EP1777292 A1)に供する。そこから得られるライブラリーを、単一コロニーおよび上記ライブラリーDNAを配列決定することによって特徴付ける。
【0118】
上記ライブラリーおよび上記標的(N−CEA)を、ゲノムへのMet1遺伝子(これは、ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼをコードする)の組込みによって改変された酵母株Y190に形質転換し、この酵母を、25mMの3−ATを含む培地上に蒔く。レポーター遺伝子(Met1およびβ−ガラクトシダーゼ)が読み取られるためには、上記2つのタンパク質が相互作用しなければならない。
【0119】
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行う。上記Met1レポーター遺伝子を、ウロポルフィリノーゲンIIIの酵素的変換から生じる産物の蛍光によって検出する。
【0120】
得られたヒットを確認するために、さらなる試験を、上記第2のレポーター遺伝子(lacZ)の配列決定の前に利用した。この目的のために、β−ガラクトシダーゼの活性を、この酵素(β−ガラクトシダーゼ)によって基質FDGを蛍光産物へと変換することによって決定し、これによって、配列決定の前に、ヒット数を25%に低下させた。
【0121】
従って、野生型よりも(さらにとりわけ、上記テンプレートよりも)改善されたCEA親和性および/もしくはNCA親和性を有するアドヘシン変異体を提供することは可能である。上記テンプレートに対する親和性(これは、例えば、EP1721974 A1に開示されるスクリーニング法に従うレポーター遺伝子の読み取り値として記録される)の改善は、少なくとも約5%、好ましくは、少なくとも100%、特に好ましくは、さらに少なくとも300%もしくは少なくとも500%である。野生型と比較した親和性は、ここで上記テンプレートの親和性の最大2倍まで、さもなければ最大4倍までの値にまさに近づき得る。
【0122】
親和性における特に優れた改善を、少なくとも2つの変異、好ましくは、さらに、最大3つ、5つもしくは7つの変異を組み合わせることによって達成する。親和性の特に大きな増大は、特に、EP1721974 A1のスクリーニング工程を反復する(必要に応じて、さらに数回反復する)ことによって、可能である。
【0123】
種々の親和性を有する改善された変異体の検出が、意図される。本明細書において、野生型より改善されているアドヘシンを同定するために、上記野生型を見いだすことは重要である。これは、親和性が改善された変異体についての完全配列空間を含む。
【0124】
すなわち、1個もしくはそれより多いアミノ酸位置において改変された本発明の改変アドヘシンは、これらの調査から得られ得る。
【0125】
(1.有利な改変)
(例示的実施形態1−88位−スレオニン)
変異T88Mは、文献(Korotkovaら,The Journal of Biological Chemistry(2006)281(39),pp.29120−29139,「A Subfamily of Dr Adhesins of Escherichia coli Bind Independently to Decay−accelerating Factor and the N−domain of Carcinoembryonic Antigen」)から、アドヘシンにおいて、特に、DraEにおいて、上記アドヘシンのCEA親和性の増大を引き起こすことが公知である。したがって、T88位を、最初の変異誘発のために選択した。
【0126】
この情報およびこの後の全ての情報は、配列番号1に従うDraEにおけるアミノ酸位置に関する。
【0127】
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1において記載されるように行った。
【0128】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
M>L>WT
このT88M位を有する最も改善された変異体を、以下の変異誘発のためのテンプレートとして使用した。
【0129】
さらに、変異N77Kを、アドヘシンがDAFへ結合しないように、導入した(van Loyら,Molecular Microbiology(2002)45(2),pp.439−452,「Identification of amino acids in Dr adhesin required for binding to decay−accelerating factor」)。この変異は、N−CEAへのアドヘシンの結合に影響を与えない(Korotkovaら,The Journal of Biological Chemistry(2006)281(39),pp.29120−29139,「A Subfamily of Dr Adhesins of Escherichia coli Bind Independently to Decay−accelerating Factor and the N−domain of Carcinoembryonic Antigen」および発明者自身のデータ)。従って、以下の変異誘発のためのテンプレートは、DraE T88M N77Kである。
【0130】
(例示的実施形態2−7位−スレオニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0131】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
N>(F,C)>S>V>R,A>(I,L,Y)>WT
(例示的実施形態3−17位−グルタミン酸)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0132】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>P>K>G,D,R,N>H,Q>WT
(例示的実施形態4−22位−アルギニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0133】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
T>A>S>N>K>WT
(例示的実施形態5−25位−アスパラギン酸)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0134】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>G>N>A,T>K,R,H,Q,M>WT
(例示的実施形態6−27位−スレオニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0135】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
K>R>L>V,Y>P,N,Q>WT
(例示的実施形態7−28位−バリン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0136】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
W=F>WT
(例示的実施形態8−29位−アラニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0137】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
K>R>S>E,Q>F,G>L,H>P,N,T,W>WT
(例示的実施形態9−31位−スレオニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0138】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
G=D>S>N>WT
(例示的実施形態10−34位−グルタミン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0139】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
D>>G>S=N>L=V=T=A>WT
(例示的実施形態11−37位−アスパラギン酸)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0140】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
N>>WT
(例示的実施形態12−38位−アラニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0141】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S=T>L>WT
(例示的実施形態13−39位−アラニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0142】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
Q>S>D,M>G,F>WT
(例示的実施形態14−41位−イソロイシン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0143】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
V>>WT
FDGアッセイによる再スクリーニングにおいて、I41Lクローンは、I41Vクローンよりも高い読み取り値を有した。その配列を分析したところ、これらクローンの全てが、さらなる変異V116Aも有することが明らかになった。従って、I41L V116Aはまた、改善された変異体である。
【0144】
(例示的実施形態15−47位−グルタミン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0145】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
T>>N=C>S>G=A=P>WT
(例示的実施形態16−52位−アスパラギン酸)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0146】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
G>N,S>C,P,Q,Y,H,K,R,T>WT
(例示的実施形態17−84位−アスパラギン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0147】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
D>>S>H>WT
上記スクリーニングはまた、上記FDG再スクリーニングにおいて、N84Sと比較してより高い読み取り値を有する、(組み合わせ)変異体Q34L N84Sを見いだした。
【0148】
このことは、変異体の組み合わせが、その単一変異体との比較において、CEAに対しより高い親和性を生じることを示す。
【0149】
(例示的実施形態18−86位−アルギニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0150】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
V>>WT
(例示的実施形態19−95位−スレオニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0151】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
L>>M,Y,F>(C,W,Q)>N,E,S,I,H>WT
組み合わせ変異体T95E T123Iをまた、見いだした;この組み合わせは、T95E変異体より高いFDG読み取り値を有した。
【0152】
このことは、変異体のこの組み合わせにより、その単一変異体と比較して、より高いCEA親和性が得られることを示す。
【0153】
(例示的実施形態20−100位−フェニルアラニン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0154】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
Y>V>WT
組み合わせ変異体F100S T11I D37Gをまた、見いだした;この組み合わせは、F100S変異体よりも高いFDG読み取り値を有した。同様に、組み合わせ変異体F100I T123Iは、F100I変異体よりも高いFDG読み取り値を示すことを見出した。
【0155】
このことは、変異体のこの組み合わせにより、その単一変異体と比較して、より高いCEA親和性が得られることを示す。
【0156】
(例示的実施形態21−105位−バリン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0157】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>A,T>R>M,V,P,N,E>Q,G,K,H>WT
(例示的実施形態22−111位−イソロイシン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0158】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
C>V>H>Y>T>M=F>WT
(例示的実施形態23−114位−イソロイシン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0159】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる;
V>>L>A=C>WT
(例示的実施形態24−115位−チロシン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0160】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
T=W>E>V>WT
(例示的実施形態25−116位−バリン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0161】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
A>S>L>WT
(例示的実施形態26−118位−グリシン)
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0162】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
P>S>WT
組み合わせ変異体G118S I85Lをまた、見いだした;この組み合わせは、G118Sと比較して、より高いFDG読み取り値を有した。この組み合わせを最初のヒットの中で見いだした。
【0163】
このことは、変異体の組み合わせにより、その単一変異体と比較して、より高いCEA親和性が得られることを示す。
【0164】
(例示的実施形態1〜26のまとめ)
以下のコンセンサス配列の全てを、DraE N77Kの以下の配列に基づいて特定する(図1、配列番号1もまた参照のこと):
【0165】
【化5】

【0166】
これら例示的実施形態は、アドヘシン遺伝子内で変異すると、上記アドヘシンの改善されたCEA親和性を生じるようなアミノ酸についての、以下の「ポジティブ(positive)」コンセンサス配列を生じる:
(コンセンサス配列 配列番号9)
【0167】
【化6】

【0168】
アラインメントを、図12に示す。
【0169】
有利な実施形態において、本発明に従う改変されたアドヘシンは、以下のアミノ酸のうちの1つ以上を有する:L26、G42、P43、V44、L49、D89、S91、S107、W108、G110。特に好ましい実施形態において、これらアミノ酸のうちの全てが存在する。
【0170】
このことは、有利なことには、以下のコンセンサス配列を生じる:
(コンセンサス配列、配列番号10)
【0171】
【化7】

【0172】
アラインメントを、図13に示す。有利に存在するアミノ酸には、ここで下線を付す。
【0173】
本発明のアドヘシンが、さらに、以下のアミノ酸のうちの1個以上を、特に、全てを有する場合、有利である:C19、C51、G106、Y128、T129。
【0174】
よって、本発明のアドヘシンは、以下のようなコンセンサスを、有利に有する:コンセンサス配列11(図14を参照なこと。有利に存在する全てのアミノ酸に、下線を付す;コンセンサス構造9および10、ならびに上記の情報に従うさらなる好ましいアミノ酸の組み合わせ):
(コンセンサス配列、配列番号11)(図14):
【0175】
【化8】

【0176】
(2.特に好ましい変異の組み合わせ)
単一の変異体の以下の組み合わせは、特に有利であることが判明した:
野生型アドヘシン DraEの変異誘発は、改善された変異体T88M(例示的実施形態1を参照のこと)を生じ、テンプレートとしてこの変異体DraE T88M(N77K)を用いたさらなるラウンドの変異誘発により、さらに改善された変異体が検出された(例示的実施形態2〜26を参照のこと)。従って、例えば、多重変異体DraE T88M(N77K) I111Hを生成した。これは、野生型アドヘシンDraEおよび上記DraE T88M変異体と比較して、明らかにより高いCEA親和性を示す。
【0177】
別の例は、構築物DraE T88M Q34L N84Sであり、これは、DraE T88M N84Sより高いCEA親和性を有する(例示的実施形態17を参照のこと)。組み合わせ変異体DraE T88M G118S I85Lはまた、変異体DraE T88M G118Sと比較して、より高いCEA親和性を有する(例示的実施形態26)。
【0178】
組み合わせ変異体F100S T11I D37Gは、F110Sと比較して、増大したCEA親和性を有した(例示的実施形態20を参照のこと)。これはまた、組み合わせ変異体F100I T123Iについても事実であり、F100I T123Iは、F100Iと比較して増大したCEA親和性を有した(例示的実施形態20を参照のこと)。組み合せ変異体T95E T123Iをまた、見いだした;この組み合わせは、T95E変異体よりも高いCEA親和性を有した(例示的実施形態19を参照のこと)。
【0179】
結論として、本発明の目的は、CEAおよび/もしくはNCAに対する親和性に関して、改善されたアドヘシンリガンドの好ましい実施形態を規定することによって解決される。その実施形態は、各場合において、コンセンサス配列1において列挙された単一変異体の任意の考えられる組み合わせを有する。
【0180】
列挙された例示的実施形態は、本明細書で使用される上記nHybrid/Two−Hybridスクリーニング法が、反復サイクルを行うことによって、CEAおよび/もしくはNCAに対して増大した親和性を有する組み合わせ変異体を生成するのを可能にすることを実証する。
【0181】
(3.多重変異誘発)
これらの実験を、nHybridシステムにおいて行った(EP1721974 A1)。
【0182】
第1に、DraE T88M N77K I111V(TM=三重変異体)を、変異誘発テンプレートとして使用し、第2に、DraE T88M N77K I111V I114V V116A(FM=「Fuenffachmutante」[五重変異体])を使用した。これは、さらに高いCEA親和性を有する。
【0183】
(例示的実施形態27−39位−アラニン)
a)テンプレートとしてのTM
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0184】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>G>D=H>Q>WT
DraE T88M N77Kをテンプレートとして使用したところ、改善された変異体の順序は、Q>S>D>M>G>Fであった。このことは、上記TMが、おそらく、異なる変異体もしくは異なる順序の公知の変異体(これらは、39位において見いだされる)を生じる、改変された構造を有することを意味する。
【0185】
b)テンプレートとしてのFM
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0186】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>WT
DraE T88M N77Kをテンプレートとして使用したところ、改善された変異体の順序は、Q>S>D>M>G>Fであった。このことは、上記FMが、おそらく、異なる変異体もしくは異なる順序の公知の変異体(これらは、39位において見いだされる)を生じる、改変された構造を有することを意味する。
【0187】
c)上記2つのテンプレートの比較
TM:S>G>D=H>Q>WT
FM:S>WT
(例示的実施形態28−41位−イソロイシン)
a)テンプレートとしてのTM
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0188】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
V>L>T>WT
これは、上記TMをテンプレートとして使用してもなお、この部位における変異が、CEA親和性をさらに改善することを意味する;この場合において、変異体の範囲(Mutantenspektrum)は、テンプレートとしてDraE T88M N77Kを用いたときと同じように現れる。この事実は、上記TMにおける構造的改変は、アミノ酸41位に大きな影響を及ぼさないことを示唆する。
【0189】
b)テンプレートとしてのFM
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0190】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
L>WT
DraE T88M N77Kをテンプレートとして使用したところ、わずかに改善された変異体としてLが検出された;Vは、最良の変異体であった。このことは、上記FMが、おそらく、異なる変異体もしくは異なる順序の公知の変異体(これらは、41位において見いだされる)を生じる、改変された構造を有することを意味する。
【0191】
c)上記2つのテンプレートの比較
TM:V>L>T>WT
FM:L>WT
(例示的実施形態29−47位−グルタミン)
a)テンプレートとしてのTM
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0192】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>A>C>T>WT
DraE T88M N77Kをテンプレートとして使用したところ、改善された変異体の順序は、T>N=C>S>G=A=P>WTであった。このことは、上記TMは、おそらく、異なる変異体もしくは異なる順序の公知の変異体(これらは、47位において見いだされる)を生じる、改変された構造を有することを意味する。
【0193】
b)テンプレートとしてのFM
定量的スクリーニングを、EP1721974 A1に記載されるように行った;さらに、再スクリーニングを行った(上記を参照のこと)。
【0194】
(i)ヒットの配列決定および評価
細菌への形質転換後のヒットからのDNAの配列決定により、同定されたヒットの頻度に基づいて、改善されたCEA親和性を有する変異体の以下の順序が得られる:
S>WT
DraE T88M N77Kをテンプレートとして使用したところ、改善された変異体の順序は、T>N=C>S>G=A=P>WTであった。このことは、上記FMは、おそらく、異なる変異体もしくは異なる順序の公知の変異体(これらは、47位において見いだされる)を生じる、改変された構造を有することを意味する。
【0195】
c)上記2つのテンプレートの比較
TM:S>A>C>T>WT
FM:S>WT
これらの列挙された例示的実施形態は、本明細書で使用される上記nHybridスクリーニング法が、反復サイクルを行うことによって、増大したCEA親和性を有する組み合わせ変異体を生成するのを可能にすることを再び実証した。
【0196】
(3.ハイコンテントスクリーニング(High Content Screening)による、本発明に従って使用可能な上記ナノ粒子の、インビボ分解の分析)
この研究の目的は、選択したマウス器官における、ジペプチドコーティングしたナノ粒子(コア:CdSe、シェル:ZnS、最大発光:655nm、流体力学的直径はタンパク質リガンドなしで約12.5nm)の生物学的分解を検出することであり、これは、体重1kgあたり1.7mgの用量で蛍光ナノ粒子結合体を静脈内注射した後に、2日目の蛍光と42日目の蛍光とを比較することによって行った。
【0197】
(方法)
6匹のNMRIマウスに、体重1kgあたり1.7mgの上記蛍光ナノ粒子結合体(QD655#D416−36−KNH−タンパク質リガンドクローン5582(「Fuenfach−Mutante」FM[五重変異体]、上記を参照のこと))を、尾静脈を介して注射した。上記マウスを、注射後2日目および42日目にそれぞれ屠殺し、その器官を取り出し、−80℃で急速冷凍した。
【0198】
(サンプル調製)
200mgの特定の器官を秤量し、クリオチューブ(Cryoroehrchen)中で、1mlの500mM Bicine緩衝液(pH=8.3)および1gのホモジナイゼーションビーズ(MatrixD from MP Biomedicals)を用いて、Fastprep24(MP Biomedicals)ホモジナイザーを使用し1分間ホモジナイズした。そのホモジネートを、氷上に置いた。
【0199】
サンプル包埋ミックス(全て容量(μl単位))
【0200】
【表1】

【0201】
上記BSA溶液を、エッペンドルフ容器に入れ、続いて、上記ホモジネートを添加し、そしてこのサンプルを、氷上で2分間にわたって冷却した。これに続いて、グルタルアルデヒド溶液を添加し、迅速に混合した。各場合において、上記サンプルのうちの200μlを、カバースリップが底にあるマイクロタイタープレート(Greiner)のウェルにピペットで入れた。グルタルアルデヒド固定には、数分間かかり、数分間後、固体ゲルになった。
【0202】
(生データの測定)
顕微鏡観察を、60×/1.2Wレンズを備えたOlympus Scan^Rシステムを用いて行った。上記サンプルの画像を、Scan^R Aquisitionソフトウェアを使用して取得した:1サンプルあたり(=1ウェルあたり)16スタック(Stapel)を、各場合において、1スタックあたり40フレームで記録した。フレームは、0.5μm間隔であった。上記画像を、並行して2チャネルで撮った:ナノ粒子チャネル(吸収フィルタ(Emissionsfilter)655/16)における露出時間は、200msであり、自動蛍光チャネル(吸収フィルタ525/30)では、1000msであった。
【0203】
画像領域およびボリュームに関する情報は、以下のとおり。
【0204】
【表2】

【0205】
(生データの評価)
上記ナノ粒子を、Scan^R Analysisソフトウェアによって定量した。まず、上記スタックの最大投射(Maximalprojektion)を、平面上にz軸に沿って生成し、続いて、ローリングボールによって平滑化を行い、最後に、重み付けした自動蛍光チャネルを、ナノ粒子チャネルから差し引いた。セグメント化のための強度閾値を、43に設定した。
【0206】
見いだされた上記ナノ粒子を、ゲーティングによって3つのカテゴリー(小、中、大)に分けた。その基準は、平均強度(60〜400の範囲のグレースケール値)によって定義される感知できるコリドー(sinnvollen Korridors)内における、見いだされた上記ナノ粒子の面積である。上記ゲートは矩形であり、かつ以下のように定義した:
小:4〜35ピクセル
中:36〜400ピクセル
大:401〜100000ピクセル。
【0207】
大部分の物体を、小ゲートにおいて見いだした。最も少ないのは、大ゲートにおいてであった。
【0208】
大および中〜大の大きさの凝集物の出現のため、正確な定量の提示が不可能である。なぜなら、各凝集物を形成する個々のナノ粒子の数を、正確に決定できないからである。しかし、上記ナノ粒子分布および薬物動態に関する定性的な提示を、凝集物中のナノ粒子に数に概して比例する無次元パラメーターとして、その蛍光を介して行い得る。
【0209】
無次元蛍光の計算:
物体の数に、ナノ粒子の粒状クラスの平均総強度(物体あたりの平均総蛍光強度)を乗算する:
物体×平均強度=蛍光
2日目および42日目の肝臓、脾臓および肺からのホモジネートの蛍光を計算し、その平均を決定した。2日目の蛍光を、各場合において100%に正規化した。
【0210】
上記の結果を、図16にまとめる。これによれば、2日目と比較して42日目で、肝臓においては蛍光の0.54%のみが、脾臓においては蛍光の4.97%のみが、肺においては蛍光の18.66%のみが検出可能であった。このことは、本発明のアドヘシン連結ナノ粒子が、インビボで分解されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列:
a.アドヘシン群(配列番号2)
b.DraE群(配列番号3)
c.DraE/AfaE−III(配列番号4)
d.DraE(配列番号1)
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むアドヘシンであって、ここで該アドヘシンは、以下の変異:
【化9】


のうちの1つ以上を有し、かつ最大18個、好ましくは、最大12個、10個もしくは5個までのアミノ酸が、N末端で欠失され得、そして/または最大10個まで、好ましくは、最大8個もしくは5個までのアミノ酸がC末端で欠失される、アドヘシン。
【請求項2】
以下の配列:
a.CEACAM群(配列番号5)
b.CEA/NCA(配列番号6)
c.CEA(配列番号7)および/もしくはNCA(配列番号8)
の群より選択されるアミノ酸配列を有する結合タンパク質のN末端配列に結合し得る点で特徴付けられる、請求項1に記載のアドヘシン。
【請求項3】
前記アドヘシンは、請求項2に記載される結合タンパク質、特に、CEAのN末端配列に対して親和性を有し、該親和性は、野生型の親和性に対して少なくとも5%、好ましくは、少なくとも100%、特に、少なくとも300%もしくは500%改善されている点で特徴付けられる、請求項1および2のいずれかに記載のアドヘシン。
【請求項4】
前記アドヘシンは、以下の変異:
V28W;V28F;A39Q;A39S;I41L;Q47S;Q47T;I85L;T95L;G118SおよびT123I、
のうちの1つ以上を有する点で特徴付けられる、先の請求項のいずれか1項に記載のアドヘシン。
【請求項5】
配列番号12に記載の配列IDを有する、アドヘシン。
【請求項6】
先の請求項のうちの1項以上に記載のアドヘシンに結合体化された、ナノ粒子。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、無機コアおよび不動態化層を有し、該不動態化層を含む該無機コアの最小の直径は、15nm以下、好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下である点で特徴付けられる、請求項6に記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記ナノ粒子は、不活性でない点で特徴付けられる、請求項6および7のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項9】
医療用途の造影剤を調製するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアドヘシンもしくは請求項6〜8のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項10】
腸の癌、特に、CRC細胞を同定する目的の造影剤を調製するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアドヘシンもしくは請求項6〜8のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2011−514890(P2011−514890A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547961(P2010−547961)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004867
【国際公開番号】WO2009/106102
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(508146662)シグナロミクス ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】