説明

最適化抗体を用いた、免疫応答を逃れる病態の治療法

本発明は、標的細胞が低い密度でしか抗原を発現しない病態、およびエフェクター細胞が少量しかリクルートで機内病態の治療のための、選択された細胞株中で産生される、最適化されたヒトまたはヒト化モノクローナル抗体の使用に関し、該抗体は免疫系のエフェクター細胞のCD16受容体に強い親和性を持ち、サイトカインおよびインターロイキン、特にIFNγまたはIL2の分泌を誘導する能力を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞が低密度の抗原しか発現せず、少量のエフェクター細胞のみしかリクルートされない病態を治療するために、選択された細胞株において生産された最適化されたヒトまたはヒト化キメラモノクローナル抗体を使用することに関するが、ここで、該抗体は免疫系のエフェクター細胞のCD16受容体に強い親和性を持ち、またサイトカインおよびインターロイキン、特にIFNγまたはIL2の分泌を誘導することができる。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体による免疫療法は、医学の最も重要な局面の1つになりつつある。一方で、臨床試験で得られた結果は、対照的でもある。実際、モノクローナル抗体の有効性は十分でない可能性がある。有効性の欠如、臨床治療での使用には適さない副作用といった様々な理由のために、多くの臨床試験が中止されている。治療に対する反応を得るために、あまり活性の高くない抗体が、それを補い、治療に対する反応を得るために高用量で投与されていることを考えると、これらの2つの局面は、相互に関連している。高用量の投与は、副作用を誘導するだけではなく、経済的にも可能ではない。
【0003】
これらは、ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体産業の主要な問題である。
【0004】
標的細胞によって発現される抗原密度が低い、および/または利用できる活性化エフェクター細胞の数が限られているようないくつかの病態では、この問題はさらに悪化するため、現在利用できる抗体では、治療目的に抗体を使用することは技術的に不可能である。例えば、セザリー症候群では、特異的抗原KIR3DL2は弱く発現している(約10000分子のみ)。乳癌におけるHER2-neuのような腫瘍抗原の発現も、負の調節を受けている可能性がある。さらに、VEGFR2のターゲティングを介して血管新生を阻害しようとする場合に、受容体は内在化しているので、効果的にアクセスできる分子標的はほとんどない。同様に、例えば、癌腫、メラノーマ、卵巣癌、前立腺癌の場合、HLAクラス1またはクラス2分子によって提示される腫瘍抗原特異的ペプチドは、一般に、標的腫瘍細胞の表面ではほとんど発現していない。最後に、ウイルス感染では、特定のウイルス(HBV, HCV, HIV)が感染した細胞が、その膜上にわずかのウイルス分子しか発現しないような状況も起こり得る。
【0005】
この問題は、NK細胞の数またはその活性、またはそのCD16の数が低下するすべての病態でも生じる(Cavalcanti M et al., 休止および活性化NK細胞における癌細胞誘導性の不可逆性機能的アネルギーおよびアポトーシス(Irreversible cancer cell-induced functional anergy and apoptosis in resting and activated NK cells), Int J Oncol 1999 Feb; 14(2): 361-6)。例えば、慢性骨髄性白血病(Parrado A. et al., 急性白血病患者におけるナチュラルキラー細胞障害性およびリンパ球サブポピュレーション(Natural killer cytotoxicity and lymphocyte subpopulations in patients with acute leukemia), Leuk Res 1994 Mar; 18(3): 191-7)、特にポリ塩化ビフェニルに暴露した個体を標的とする、環境に関連した病態(Svensson BG. et al., 持続的有機塩素化合物に汚染された魚を多く消費する被験者における免疫能力のパラメータ(Parameters of immunological competence in subjects with high consumption of fish contaminated with persistent organochlorine compounds), Int Arch Occup Environ Health 1994; 65(6) 351-8)、感染症、特に結核(Restrepo LM. et al., 肺結核病患者および健常対照におけるナチュラルキラー細胞活性(Natural killer cell activity in patients with pulmonary tuberculosis and in health controls), Tubercle 1990 Jun; 71(2);95-102)、慢性疲労症候群(CFS)(Whiteside TL, Friberg D, 慢性疲労症候群におけるナチュラルキラー細胞およびナチュラルキラー細胞活性(Natural killer cells and natural killer cell activity in chronic fatigue syndrome), Am J Med 1998 Sep 28; 105(3A):27S-34S)、および、例えば幼住血吸虫のような全ての寄生虫感染症(Feldmeier H, et al., ヒト住血吸虫症における感染強度と免疫修飾の関係II. NK細胞活性およびインビトロリンパ球増殖(Relationship between intensity of infection and immunomodulation in human schistosomiasis. II. NK cell activity and in vitro lymphocyte proliferation), Clin Exp Immunol 1985 May; 60(2): 234-40)が挙げられる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、現行の抗体と比較して、より有効な新規の抗体を得ることであり、このような新規の抗体は、発現される分子標的がほとんどないか、抗原密度が低い病態、および活性化できるエフェクター細胞の数が限定されている病態の治療のために使用できると考えられる。
【0007】
WO 01/77181 (LFB)の出願において、本発明者らは、FcγRIII (CD16)を介して強いADCC活性を持つ抗体を生産できる細胞株を選択することの重要性を示した。本発明者らは、YB2/0のようなラットのミエローマ細胞株において産生される抗体の定常部断片のグリコシル化を修飾すると、ADCC活性が改善することを発見した。該抗体のグリカン構造は、短い鎖のバイアンテナ型で、低レベルのシアル化、インターカレーションのない末端付加部位のマンノースとGlcNAc、および低レベルのフコシル化を持つ。
【0008】
さて、本発明においては、CD16に強い親和性を持つと言う利点は、免疫系の細胞による、サイトカイン、特にIFNγまたはIL2の産生も誘導する抗体の産生をめざす更なる条件によって、さらに強化できることを発見した。
【0009】
上記の2つの特徴は、互いに補い合う。具体的には、本発明の手段で選択された抗体によって誘導されるIFNγまたはIL2の産生は、細胞障害性活性を増強する。そのような活性化の作用機序は、おそらくエフェクター細胞の正のオートクリン制御に由来する。抗体はCD16に結合し、細胞障害性活性を誘導するが、IFNγまたはIL2の産生も誘導し、これが最終的にはさらに大きく細胞障害性活性を増加させると考えることができる。
【0010】
本発明の最適化抗体は、抗原密度が低い、またはエフェクター細胞の数が限定されている場合にも、高い有効性を維持することを示す。したがって、臨床治療に適合する用量において、現在まで抗体治療が想像できなかった病態も、治療することができる。
【発明の開示】
【0011】
説明
したがって本発明は、抗原部位の数または抗原密度が低い病態、または抗体が抗原に比較的にアクセスしにくい病態、または活性化されたもしくはリクルートされたエフェクター細胞の数が少ない病態の治療を意図した薬用の製品の調製のための、最適化されたヒトまたはヒト化キメラのモノクローナル抗体の使用に関するが、以下のような特徴を持つ:
a) 抗体のFc断片のグリコシル化の性質によって選択された細胞株中で生産される、または
b) Fcγ断片のグリカン構造は、エクスビボで修飾されている、および/または
c) 一次構造はFc受容体との反応性を上昇させるように修飾されている;
該抗体は、i) CHO株で産生した同じ抗体と比較して、5/1未満、好ましくは2/1未満のE/T(エフェクター細胞/標的細胞)比で、FcγRIII (CD16)を介したADCC活性の割合が50%超、好ましくは100%超;およびii) 免疫系のCD16受容体発現エフェクター細胞による少なくとも1つのサイトカインの産生率が、CHO細胞株で産生される同じ抗体と比較して、50%超、または100%超、または好ましくは200%超である。
【0012】
都合良くは、抗原部位の数は、1つの標的細胞あたり250,000未満、好ましくは100,000または50,000未満である。
【0013】
最適化された抗体によって遊離されるサイトカインは、インターロイキン、インターフェロン、および組織壊死因子(TNF)から選択される。
【0014】
したがって、抗体は、免疫系のCD16受容体発現エフェクター細胞から、IL-1, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-9, IL-10等、TNFα、TGFβ、IP10、およびIFNγからなる群より選択される、少なくとも1つのサイトカインの分泌を誘導する能力によって選択される。
【0015】
好ましくは、選択された抗体は、標的細胞表面に存在する抗原部位が少ない、または抗体がアクセスできる抗原の数が少ない場合に、免疫系のCD16受容体発現エフェクター細胞によるIFNγもしくはIL2の分泌、またはJurkat CD16細胞によるIL2の分泌を誘導する能力を持つ。分泌されるIFNγまたはIL2の量は、抗原結合の完全性(Fc機能)、および有効性(抗原部位)に関して、CD16受容体による抗体結合の質を反映している。また、免疫系の細胞によるIFNγまたはIL2の分泌は、エフェクター細胞の細胞障害性活性を活性化できる。したがって、本発明の抗体は、活性化またはリクルートされたエフェクター細胞の数が少ないような病態の治療にも、有効である。
【0016】
エフェクター細胞は、内在性CD16を発現するか、形質転換される場合がある。「形質転換細胞」という用語は、細胞が、受容体、特にCD16受容体を発現するように遺伝的に修飾されたことを意味する。
【0017】
特定の態様では、本発明の抗体は、白血球細胞、特にNK(ナチュラルキラー)ファミリーの細胞、または単球・マクロファージグループの細胞による、少なくとも1つのサイトカインの分泌を、誘導する能力を持つ。好ましくは、抗体の選択には、CD16受容体をコードする発現ベクターでトランスフェクトされたJurkat細胞株が、エフェクター細胞として用いられる。この細胞株は、不死化されており、培地中で永遠に発生するので、特に有利である。分泌されるインターロイキンIL2の量は、抗原結合の完全性(Fc機能)、および有効性(抗原部位)に関して、CD16受容体による抗体結合の質を反映している。
【0018】
別の態様では、最適化された抗体は、精製後および/またはエクスビボの修飾後に、Fc断片のグリカン構造を修飾することによって、調製できる。このためには、抗体のグリカン構造の修飾に適した任意の化学的、クロマトグラフィー、または酵素を用いた手段が使用できる。
【0019】
別の態様では、抗体はラットミエローマ細胞株、特にYB2/0およびそれに由来する株によって生産できる。他の細胞株は、上記の抗体を生産する性質によって、選択できる。例えば、ヒトリンパ芽球腫細胞、コンチュウ細胞、およびマウスミエローマ細胞がテストできる。選択は、トランスジェニック植物またはトランスジェニック哺乳類によって生産される抗体の評価にも、適応できる。このために、CHO(薬用の製品抗体の生産に使用されるCHO)における生産は、本発明の抗体を産生する産生システムの比較および選択のための、基準となる。
【0020】
抗体の一般的なグリカン構造は、短い鎖のバイアンテナ型に対応しており、低レベルのシアル化、インターカレーションのない末端付加部位のマンノースとGlcNAc、および低レベルのフコシル化を持つ。これらの抗体では、中間のGlcNac含量はゼロではない。
【0021】
したがって、本発明は、特に新生児溶血性疾患、セザリー症候群、慢性骨髄性白血病、抗原標的が弱く発現される癌、特に乳癌、特にポリ塩化ビフェニルに暴露した個体を標的とする、環境に関連した病態、感染症、特に結核、慢性疲労症候群(CFS)、および例えば幼住血吸虫のような寄生虫感染からなる群より選択される、免疫応答を逃れる病態の治療を意図した薬用の製品の調製のための、上述の抗体の使用に関する。
【0022】
実施例1:抗原部位の数の関数としての、抗Rh抗体によって誘導されるADCC
Rh D抗原に特異的なIgG1をコードする同じ配列が、CHOおよびYB2/0にトランスフェクトされた。表面に種々の量のRh抗原を発現するRh陽性赤血球細胞に関して、抗体の細胞障害性活性が比較された。すなわち、正常O+赤血球(10-20,000部位)およびRh抗原を過剰発現する赤血球細胞(> 60,000部位)。
【0023】
結果は図1に示されている:
正常赤血球細胞(N、白)またはRh抗原を過剰発現する赤血球細胞(GR6, 黒)に対する、CHO(三角)またはYB2/0(四角)中で発現された抗体のADCC活性が比較された。
【0024】
CHO中で発現された抗体と、YB2/0で発現された抗体の間のADCC活性の差は、特に抗体量が多い場合に、Rh抗原を過剰発現する赤血球細胞に対するほうが少なく、抗原部位の数が低下するにしたがって、この差は大きくなる。したがって、抗原密度が低下すればするほど、YB2/0で産生された抗体と、CHOで産生された抗体の間のADCC活性の差は、大きくなる。
【0025】
実施例2:エフェクター量の関数としての、抗HLA-DR抗体によって誘導されるADCC
HLA-DR抗原に特異的なIgG1をコードする同じ配列が、CHOおよびYB2/0にトランスフェクトされた。種々の量のエフェクター/標的比(図2を参照されたい)の存在下で、Raji細胞に対する抗体の細胞障害性活性が比較された。
【0026】
YB2/0とCHOによって発現された最適化抗体の間の細胞障害性活性の差は、E/T比が低下すると、大きくなる。したがって、以下の比20/1;10/1;5/1;および2/1の場合に、CHO細胞で発現された抗体によって誘導された相対的な溶解%(100%は各比率の場合にYB2/0で発現された抗体での値)は、それぞれ61%、52%、48%、および36%だった。
【0027】
YB2/0で発現された抗体は、エフェクターの量が少ない条件では、CHOによって産生された場合よりも、細胞障害性が高い。
【0028】
実施例3:アクセス可能な抗原の量の関数としての、抗HLA-DR抗体によって誘導されるADCC
HLA-DR抗原に特異的なIgG1をコードする同じ配列が、CHOおよびYB2/0にトランスフェクトされた。種々の量のエフェクター/標的比(E/T比)の存在下で、Raji細胞に対する抗体の細胞障害性活性が比較された。
【0029】
抗体の細胞障害性活性は、あらかじめ抗原部位を不活性(非細胞障害性)抗HLA-DRマウス抗体の量を徐々に増やしてブロックし、評価される抗体が利用できるHLA-DR抗原の数が徐々に低下するようにしたRaji細胞に関して、比較された(図3を参照されたい)。
【0030】
利用できる抗原部位が少なければ少ないほど、YB2/0中で産生された最適化抗体と、CHO中で産生された抗体との間の細胞障害性活性の差は、大きくなる。これは、最適化抗体の用途の1つが、治療用の抗体によって認識される、弱く発現された抗原をその表面に発現する標的細胞に関することを示す。これは、CHO型の細胞で発現される抗体と比較すると、明らかな治療上の優位性を提供する。
【0031】
実施例4:アクセス可能な抗原の量の関数としての、抗HLA-DR抗体のよって誘導されるJurkat CD16のIL2産生
HLA-DR抗原に特異的なIgG1をコードする同じ配列が、CHOおよびYB2/0にトランスフェクトされた。抗体によって誘導されるエフェクター細胞の活性化(JurkatCD16によるIL2の分泌)は、あらかじめ抗原部位をマウス抗HLA-DR抗体の量を徐々に増やしてブロックし、評価される抗体が利用できるHLA-DR抗原の数が徐々に低下するようにしたRaji細胞に関して、比較された(図4を参照されたい)。
【0032】
これらの結果でもやはり、抗原部位が少なければ少ないほど、YB2/0によって産生される最適化抗体と、CHOで産生される抗体の間のエフェクター細胞の活性化に差が大きくなることが示された。
【0033】
実施例5:抗原の量の関数としての、抗CD20抗体によって誘導されるADCC
抗CD20により得られたADCCの結果は、抗HLADRにより得られた結果を確認するものであり、すなわち、標的細胞の表面に発現され、利用できる抗原部位の数が少なければ少ないほど、YB20/によって産生される最適化抗体と、CHOで産生される抗体の間のエフェクター細胞の活性化の差は大きくなる。
【0034】
実施例6:アクセス可能な抗原の量の関数としての、抗CD20抗体によって誘導される、Jurkat CD16によるIL2の生産
【0035】
CD20抗原に特異的なIgG1をコードする同じ配列が、CHOおよびYB2/0にトランスフェクトされた。抗体によって誘導されるエフェクター細胞の活性化(JurkatCD16によるIL2の分泌)は、あらかじめ抗原部位を不活化マウス抗CD20抗体の量を徐々に増やしてブロックし、評価される抗体が利用できるCD20抗原の数が徐々に低下するようにしたRaji細胞に関して、比較された(図5を参照されたい)。
【0036】
利用できる抗原部位が少なければ少ないほど、YB2/0によって産生される最適化抗体と、CHOで産生される抗体によって誘導されるJurkat CD16細胞の活性化の差は大きくなる。これは、発現する抗原密度の低い細胞でも、最適化抗体を介してエフェクター細胞の活性化を誘導できることを示す。この能力は、CHOで発現される抗体では、はるかに限定されているか、ゼロでさえある。
【0037】
したがって、最適化抗体、すなわちYB2/0で産生される抗体の治療への適応は、その表面に抗原を弱く発現する標的細胞に関連する可能性がある。
【0038】
結論として、抗原の種類を問わず、標的細胞がその表面に抗原をわずかに発現する場合に、最適化抗体を治療に応用することが特に有用であることが示された。
【0039】
実施例7:Jurkat CD16細胞によるIL-2の放出とADCCとの間のインビトロの相関
この実験では、3つの抗Dモノクローナル抗体が比較された。
【0040】
モノクローナル抗体(Mab) DF5-EBVは、D陰性免疫化ドナーから得られ、EBVによる形質転換によって不死化されたヒトBリンパ球によって産生された。この抗体は、臨床試験では、血流中からRh陽性赤血球細胞を排除できないことが示されたので、陰性対照として使用された。
【0041】
モノクローナル抗体(Mb) DF5-YB2/0は、YB2/0細胞株でDF5-EBVの一次配列を発現されることによって得られた。モノクローナル抗体R297および他の組み換え抗体も、YB2/0中で発現された。
【0042】
抗体について、単核細胞(PBL)をエフェクターとして用いて、インビトロでパパイン処理赤血球細胞の溶解を誘導する能力を調べた。
【0043】
すべてのアッセイは、生理的条件を再建するように、ヒト免疫グロブリン(IVIg)の存在下で実施された。
【0044】
IVIgは、FcγRI (CD64)に高い親和性で結合すると考えられる。DF5-YB2/0およびR297の2つのMabは、WinRhoポリクローナル抗体に相当するレベルで、赤血球細胞の溶解を誘導する。一方、Mab DF5-EBVは完全に無効である。
【0045】
第2のシリーズの実験では、精製されたNK細胞および未処理の赤血球細胞が、それぞれエフェクターおよび標的として用いられた。5時間のインキュベーション後、抗D Mab R297およびDF5-YB2/0は、赤血球細胞の溶解を引き起こす能力があるが、DF5-EBVは効果を持たないままであることが示された。
【0046】
これらの2つの実験では、赤血球の溶解は、FcγRIII (CD16)に対するMab 3G8によって阻害された。
【0047】
要約すると、これらの結果は、Mab R297およびMab DF5-YB2/0によるADCCには、NK細胞の表面に発現されるFcγRIIIが関与していることを示す。
【0048】
本発明の状況で、抗D抗体の有効性を評価するために、Jurkat CD16細胞を用いたインビトロアッセイを用いた、第3のシリーズの実験が行なわれた。MabはRh陽性赤血球細胞およびJurkat CD16細胞と一晩インキュベートされた。上清へのIL-2の放出はELISAによって評価された。
【0049】
ADCCとJurkat細胞の活性化(IL2の生産)の間の強い相関が観察されたが、これはこのアッセイを用いて、FcγRIII (CD16)への反応性の関数として、抗D MAbを区別することができることを意味する。
【0050】
ADCCおよびJurkat IL2アッセイによって、同じ試料が評価された。その結果は、「抗D R297」基準抗体に対する割合として、標示されている。2つのテクニックの間の相関曲線は、r2係数が0.9658となる(図6)。
【0051】
結論として、これらのデータは、抗体の構造の翻訳後修飾の重要性と、FcγRIII (CD16)特異的ADCC活性へのその影響を示している。Jurkat CD16細胞によるIL2のようなサイトカインの放出は、この活性を反映している。
【0052】
実施例8:NK細胞の活性化ならびにIL2およびIFNγの生産
セットアップモデル:CD16受容体をコードする遺伝子でトランスフェクトされたJurkat細胞株。用途:抗腫瘍反応の増強。抗原・抗体免疫複合体によって活性化されたエフェクター細胞によって生産されるIL2は、Tリンパ球およびNK細胞の活性化を誘導し、さらにこれは細胞増殖の刺激にまでつながり得る。IFNγはCTLの活性を刺激し、マクロファージの活性を増強し得る。
【0053】
実施例9:単球-マクロファージの活性化およびTNFおよびIL-1Raの生産
用途:貪食作用の増強および抗炎症性の性質の誘導。抗原-抗体免疫複合体によって活性化されたエフェクター細胞によって生産されるTNFは、腫瘍浸潤性リンパ球およびマクロファージの増殖を刺激する。IL-1Raは受容体に対してIL1と競合するサイトカインであり、それにより抗炎症効果を発揮する。
【0054】
実施例10:樹状細胞の活性化とIL10 の生産
用途:特定の抗原に特異的な免疫寛容の誘導。IL10は様々なエフェクター細胞の活性化およびサイトカインの生産を阻害する分子である。したがって、抗原-抗体免疫複合体によって活性化されたエフェクター細胞によって生産されるIL10は、正常でありながら意図される標的細胞と共通する抗原を発現する細胞に関して、抗体の細胞障害性活性を調節する役割を果たす可能性があり、TNFαの効果を変化させる可能性もある。
【0055】
実施例11:種々のエフェクター細胞によるサイトカイン分泌の誘導
3つの細胞群が研究された:多形核細胞、単核細胞、およびNK細胞である。抗体に誘導されるサイトカイン合成は、標的の存在に依存する。抗D抗体R297およびポリクローナル抗体が種々のサイトカインの生産を誘導する能力には、ほとんど差がない。一方、AD1はサイトカイン分泌を非常に一般的には誘導しない。
【0056】
結果:
11.1 モノクローナル抗体R297およびポリクローナル抗体WinRhoは、単核細胞の存在下で、かなりのIL8の分泌を誘導する。この分泌は、抗体濃度および抗原性の標的、すなわちRh陽性赤血球細胞の存在に依存する。抗体AD1はIL8生産を誘導する能力がはるかに低い(図7)。
【0057】
単核細胞およびRh陽性赤血球細胞の存在下では、モノクローナル抗体R297およびポリクローナル抗D抗体WinRhoは、かなりのTNFαの分泌と、これよりは弱いながらAD1による誘導よりは多い量のIL6、IFNγ、IP10、TNFα、およびTGFβの分泌を誘導する。抗体濃度がより高い場合には、IL6、IFNγ、およびIP10の分泌は上昇するが、TNFαとTGFβの分泌は低下する(図8)。
【0058】
11.2 モノクローナル抗体R297およびポリクローナル抗D抗体WinRhoは、多形核細胞による、IL2、IFNγ、IP10、およびTNFの分泌を、非常に弱いながらもAD1よりは強いレベルで誘導する。この分泌は、抗体濃度に依存する(図9)。
【0059】
11.3 モノクローナル抗体R297およびポリクローナル抗D抗体WinRhoは、NK細胞による、IFNγ、IP10、およびTNFのかなりの分泌を誘導する。この分泌は、抗体濃度に依存する(図10)。
【0060】
実施例11:YB2/0中で産生される最適化キメラ抗CD20抗体および抗HLA-DR抗体
序論
本発明者らの最初の結果は、YB2/0において産生された抗D抗体、および臨床的に使用されているポリクローナル抗体は、精製されたNK細胞または単核細胞から、サイトカイン、特にTNFαおよびインターフェロンγ(IFNγ)の生産を誘導することを示した。一方で、他の細胞株で産生された抗D抗体は、ADCCが陰性であり、サイトカイン分泌を誘導する能力を持たないことが分かった。
【0061】
以下の更なる結果は、この機構はRh陽性赤血球細胞の存在下の抗D抗体に限られたものではなく、YB2/0で発現された抗CD20抗体および抗HLA-DR抗体にも当てはまることを示す。CHO細胞における発現では、抗体に与えられる実質的な活性化の性質は、より弱いものになる。これは、ADCCについて得られた結果と相関している。
【0062】
材料
抗体
抗CD20:YB2/0にトランスフェクトされた抗CD20キメラ抗体は、CHOにおいて産生された市販の抗CD20抗体(リタキサン)と比較された。
抗HLA-DR:抗HLA-DRキメラ抗体をコードする同じ配列が、CHO (B11)またはYB2/0 (4B7)にトランスフェクトされた。
標的細胞:表面にCD20およびHLA-DR抗原を発現しているRaji細胞。
エフェクター細胞:ヒト血液バッグから負の選択によって精製されたヒトNK細胞。
【0063】
方法
様々な濃度の抗CD20抗体または抗HLA-DR抗体が、Raji細胞およびNK細胞とインキュベートされた。16時間インキュベーションした後、細胞は遠心された。上清のTNFαおよびIFNγが測定された。
【0064】
結果:
1) TNFα:結果は、上清中で測定されたTNFαのレベルとして、pg/mlで表示されている。反応液に添加された抗体の様々な濃度が、X軸に示されている(図11)。
【0065】
YB2/0中で産生されたキメラ抗CD20および抗HLA-DR抗体は、その標的(Raji)が存在する場合に、CHOで産生された同じ抗体と比較して、高レベルのTNFを誘導する。TNFαの量は、添加された抗体の濃度と、明らかに用量依存性がある。抗体が10 ng/mlの場合、CHOで産生された抗体と比較して、YB2/0で産生された抗体では、5倍のTNFαが誘導される。
【0066】
2) IFNγ:結果は、上清中で測定されたIFNγのレベルとして、pg/mlで標示されている。反応液に添加された抗体の様々な濃度が、X軸に示されている(図12)。
【0067】
YB2/0中で産生されたキメラ抗CD20および抗HLA-DR抗体は、その標的(Raji)が存在する場合に、CHOで産生された同じ抗体と比較して、高レベルのIFNγを誘導する。IFNγの量は、添加された抗体の濃度と、明らかに用量依存性がある。使用された全ての濃度で(10?200 ng/ml)、CHOで産生された抗HLA-DR抗体は、IFNγの分泌を全く誘導しなかったが、YB2/0で産生された40 ng/mlの抗体は、約1000 pg/mlのIFNγを誘導した。
【0068】
抗CD20抗体では、300 pg/mlのIFNγを誘導するために、YB2/0で産生された抗体の場合は10 ng/ml未満、CHOで産生された抗体の場合は200 ng/mlが必要である(図12)。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】赤血球細胞に対するADCC:正常赤血球(N)とRh抗原を過剰発現する赤血球細胞(GR6)の比較(Teg 500μg/ウェル、ADCC 375 03 017)。
【図2】E/T比の関数として表された、CHOまたはYB2/0中で発現された抗HLA-DRキメラ抗体によって誘導されたADCC活性。
【図3】CHO(四角)またはYB2/0(三角)中で発現された抗HLA-DRキメラ抗体によって誘導されるADCC活性に対する、Raji上で発現されたHLA-DR抗原の数(Lym-1でブロック)の影響。
【図4】CHO(四角)またはYB2/0(三角)中で発現された抗HLA-DRキメラ抗体によって誘導されるJurkat CD16 (IL2)活性化に対する、Raji上で発現されたHLA-DR抗原の数(Lym-1でブロック)の影響。
【図5】Jurkat CD16活性化に対する、Raji上で発現されたCD20抗原の数(CAT 13でブロック)の影響。
【図6】ADCCアッセイと、Jurkat CD16によるIL2分泌の間の相関。
【図7】標的の存在下および非存在下における、MNCにより分泌されるIL8。
【図8】抗Rh抗体によって誘導された、MNCによるサイトカインの分泌(標的なしの推定値)。Tox 324 03 062
【図9】抗Rh抗体によって誘導された、多形核細胞によるサイトカインの分泌。
【図10】抗Rh抗体によって誘導された、NK細胞によるサイトカインの分泌。
【図11】CHOおよびYB2/0(324 03 082)中で発現された抗CD20および抗HLA-DR抗体によって誘導された、NK細胞によるTNFαの分泌。
【図12】CHOおよびYB2/0(324 03 082)中で発現された抗CD20および抗HLA-DR抗体によって誘導された、NK細胞によるIFNγの分泌。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原部位の数または抗原密度が低い病態、または抗体が抗原に比較的にアクセスしにくい病態、または活性化されたもしくはリクルートされたエフェクター細胞の数が少ない病態の治療を意図した医薬用の生産物の調製のための、以下の特徴を持つ、最適化されたヒトまたはヒト化キメラモノクローナル抗体の使用:
a) 抗体のFc断片のグリコシル化の性質によって選択された細胞株で生産される、または
b) Fcγのグリカン構造が、エクスビボで修飾されている、および/または
c) Fc受容体との反応性を上昇させるように、一次配列が修飾されている;
ここで、該抗体は、i) CHO株で産生した同じ抗体と比較して、5/1未満、好ましくは2/1未満のE/T(エフェクター細胞/標的細胞)比で、FcγRIII (CD16)依存性ADCC活性の割合が50%超、好ましくは100%超;およびii) Jurkat CD16エフェクター細胞または免疫系のCD16受容体発現エフェクター細胞による少なくとも1つのサイトカインの産生率が、CHO細胞株で産生される同じ抗体と比較して、50%超、100%超、または好ましくは200%超である。
【請求項2】
抗原部位の数が、1標的細胞あたり250,000未満、好ましくは100,000または50,000未満であるという特徴を持つ、請求項1記載の使用。
【請求項3】
最適化された抗体から放出されるサイトカインが、インターロイキン、インターフェロン、および組織壊死因子(TNF)からなる群より選択されるという特徴を持つ、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
最適化された抗体が、免疫系のエフェクター細胞、特にCD16受容体を発現するエフェクター細胞から、IL-1, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-9, IL-10等、TNFα、TGFβ、IP10、およびIFNγからなる群より選択される少なくとも1つのサイトカインの分泌を誘導するという特徴を持つ、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
抗体が、標的細胞表面に存在する抗原部位の数が少ない、または抗体がアクセスできる抗原の数が少ない、またはエフェクター細胞の数が少ない場合に、Jurkat CD16細胞によるIL2の分泌、または免疫系のCD16受容体発現エフェクター細胞によるIFNγおよびIL2の分泌を誘導するという特徴を持つ、請求項1または2に記載の使用。
【請求項6】
エフェクター細胞が、白血球細胞、特にNK(ナチュラルキラー)ファミリーの細胞、または単球-マクロファージグループの細胞という特徴を持つ、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
エフェクター細胞が、CD16受容体をコードする発現ベクターでトランスフェクトされたJurkat細胞であるという特徴を持つ、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
最適化抗体が、精製後および/またはエクスビボの修飾後に、Fc断片のグリカン構造を修飾することによって、調製されるという特徴を持つ、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
最適化された抗体が、ラットミエローマ細胞株、特にYB2/0およびそれに由来する株によって生産されるという特徴を持つ、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
最適化抗体が、短い鎖のバイアンテナ型、低レベルのシアル化、インターカレーションのない末端付加部位のマンノースとGlcNAc、および低レベルのフコシル化という一般的なグリカン構造はを持つという特徴を持つ、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
最適化抗体は、ゼロではない中間のGlcNac含量を持つという特徴を持つ、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
新生児溶血性疾患、セザリー症候群、慢性骨髄性白血病、抗原標的が弱く発現される癌、特に乳癌、特にポリ塩化ビフェニルに暴露した個体を標的とする、環境に関連した病態、感染症、特に結核、慢性疲労症候群(CFS)、および例えば幼住血吸虫のような寄生虫感染からなる群より選択される、病態の治療を意図した薬用の製品の調製のための、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−504700(P2006−504700A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539110(P2004−539110)
【出願日】平成15年9月15日(2003.9.15)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002714
【国際公開番号】WO2004/028564
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505093378)ラボラトワール フランセ デュ フラクションヌメント エ デ バイオテクノロジーズ (6)
【Fターム(参考)】