説明

最適化特性を有するFc変異体

本発明は、最適化特性を有するFc変異体、それらの製造方法、最適化特性を有するFc変異体を含むFcポリペプチド、ならびに最適化特性を有するFc変異体の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2005年3月31日出願のUSSN60/667,197;2005年8月3日出願のUSSN60/705,378;2005年10月3日出願のUSSN60/723,294;および、2005年10月3日出願のUSSN60/723,335;ならびに、2005年5月5日出願のUSSN11/124,620の一部継続出願(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される。)に対し米国特許法119条(e)項の利益を請求する。2004年3月26日出願の米国特許出願番号第10/822,231号の開示内容はまた、参照によりその全体が明示的に包含される。
【0002】
発明の分野
本発明は、最適化特性を有するFc変異体ポリペプチド、それらの製造のための操作(engineering)方法、および特に治療目的でのそれらの適用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
抗体は、特定の抗原に結合する免疫学的タンパク質である。ヒトおよびマウスを含むほとんどの哺乳動物において、抗体は、一対の重鎖および軽鎖ポリペプチド鎖から構築される。各鎖は、個々の免疫グロブリン(Ig)ドメインから成り、故に、一般名である免疫グロブリンが、そのようなタンパク質に用いられる。各鎖は、可変領域(V領域)および定常領域と称される2個の異なる領域から成る。軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)は、抗体間の顕著な配列多様性を示し、標的抗原への結合に関与する。定常領域は、配列多様性をあまり示さず、多くの天然タンパク質の結合に関与して重要な生化学的事象を引き起こす。ヒトでは、IgA(IgA1およびIgA2サブクラスを含む)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4サブクラスを含む)、およびIgMを含む5種の異なる抗体クラスがある。これらの抗体クラス間の顕著な特徴は、それらの定常領域であるが、わずかな差異がV領域に存在し得る。免疫グロブリンの一般的な構造的特徴を記載する例として本明細書で用いる図1は、IgG1抗体を示す。IgG抗体は、2個の重鎖および2個の軽鎖からなる四量体タンパク質である。IgG重鎖は、N末端からC末端にV−CH1−CH2−CH3(それぞれ、重鎖可変ドメイン、重鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2、および重鎖定常ドメイン3を示す。)(また、VH−Cγ1−Cγ2−Cγ3(それぞれ、重鎖可変ドメイン、定常ガンマ1ドメイン、定常ガンマ2ドメイン、および定常ガンマ3ドメインを示す。)とも称される。)の順で連結する4個の免疫グロブリンドメインからなる。IgG軽鎖は、N末端からC末端にV−C(それぞれ、軽鎖可変ドメインおよび軽鎖定常ドメインを示す。)の順で連結した2個の免疫グロブリンドメインからなる。
【0004】
抗体の可変領域は、分子の抗原結合決定基を含み、故に、その標的抗原に対する抗体の特異性を決定する。可変領域は、同じクラス内の他の抗体と配列が最も異なるため、そのように称される。配列多様性の大部分は、相補性決定領域(CDR)中に生じる。重鎖および軽鎖あたりそれぞれ3個の、V CDR1、V CDR2、V CDR3、V CDR1、V CDR2、およびV CDR3で示される、計6個のCDRがある。可変領域のうちCDR以外は、フレームワーク(FR)領域と称される。CDRほど多様ではないが、配列多様性が、異なる抗体間のFR領域中に生じる。概して、抗体のこの特徴的構造は、実質的な抗原結合の多様性(CDR)が免疫系により調査され、広範囲の抗原に対する特異性を得ることを可能にする、安定な骨格(FR領域)を提供する。多くの高分解能構造が、異なる生物由来の多様な可変領域断片(いくつかは抗原と非結合、およびいくつかは抗原との複合体)に利用可能である。抗体可変領域の配列および構造的特徴は、よく特徴付けられており(Morea et al., 1997, Biophys Chem 68:9−16;Morea et al., 2000, Methods 20:267−279、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、抗体の保存的特徴は、多くの抗体操作技術の開発を可能にしている(Maynard et al., 2000, Annu Rev Biomed Eng 2:339−376、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。例えば、ある抗体、例えばマウス抗体由来のCDRを、別の抗体、例えばヒト抗体のフレームワーク領域に移植することが可能である。この方法は、当技術分野で“ヒト化”と称され、非ヒト抗体由来の免疫原性の低い抗体治療剤の製造を可能とする。可変領域を含む断片は、抗体の他の領域を欠失して存在することができ、例えばV−Cγ1およびV−Cを含む抗原結合断片(Fab)、VおよびVを含む可変断片(Fv)、同じ鎖中で共に連結するVおよびVを含む単鎖可変断片(scFv)、ならびに多様な他の可変領域断片が含まれる(Little et al., 2000, Immunol Today 21:364−370、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0005】
抗体のFc領域は、多くのFc受容体およびリガンドと相互作用し、エフェクター機能と称される一連の重要な機能を与える。IgGに関して、図1に示す通り、Fc領域は、IgドメインCγ2およびCγ3、ならびにCγ2につながるN末端ヒンジを含む。IgGクラスに関して重要なFc受容体ファミリーは、Fcガンマ受容体(FcγR)である。これらの受容体は、抗体と細胞性免疫応答とのコミュニケーションを仲介する(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ravetch et al., 2001, Annu Rev Immunol 19:275−290、両方とも、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。ヒトにおいて、このタンパク質ファミリーには、イソ型であるFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);イソ型であるFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb−1およびFcγRIIb−2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびに、イソ型であるFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb−NA1およびFcγRIIIb−NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)が含まれる(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。これらの受容体は、典型的に、Fcとの結合を仲介する細胞外ドメイン、膜貫通領域、および細胞内のいくつかのシグナル伝達事象を仲介し得る細胞内ドメインを有する。これらの受容体は、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、およびγγT細胞を含む、様々な免疫細胞において発現される。Fc/FcγR複合体の形成は、これらのエフェクター細胞を結合した抗原の部位に捕捉し、典型的に、細胞内のシグナル伝達事象ならびに、炎症メディエーターの放出、B細胞活性化、エンドサイトーシス、食作用、および細胞傷害性攻撃のようなその後の重要な免疫応答をもたらす。細胞傷害性および食作用エフェクター機能を仲介する能力は、抗体が標的細胞を破壊することによる可能性のある機序である。FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞への抗体の結合を認識し、次いで標的細胞の溶解をもたらす細胞により仲介される反応は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用(ADCC)と称される(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ghetie et al., 2000, Annu Rev Immunol 18:739−766;Ravetch et al., 2001, Annu Rev Immunol 19:275−290、全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞への抗体の結合を認識し、次いで標的細胞の食作用をもたらす細胞により仲介される反応は、抗体依存性細胞介在性食作用(ADCP)と称される。FcγRIIa(pdb受託コード1H9V、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Sondermann et al., 2001, J Mol Biol 309:737−749、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(pdb受託コード1FCG、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Maxwell et al., 1999, Nat Struct Biol 6:437−442、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、FcγRIIb(pdb受託コード2FCB、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Sondermann et al., 1999, Embo J 18:1095−1103、参照によりその全体が本明細書中に包含される);および、FcγRIIIb(pdb受託コード1E4J、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Sondermann et al., 2000, Nature 406:267−273、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を含むヒトFcγRの細胞外ドメインの多くの構造が、解明されている。全てのFcγRは、図2に示す通り、Cγ2ドメインおよび前記ヒンジのN末端でFc上の同じ領域に結合する。この相互作用は、構造的によく特徴付けられており(Sondermann et al., 2001, J Mol Biol 309:737−749、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、ヒトFcγRIIIbの細胞外ドメインに結合するヒトFcのいくつかの構造(pdb受託コード1E4K、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Sondermann et al., 2000, Nature 406:267−273、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(pdb受託コード1IISおよび1IIX、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Radaev et al., 2001, J Biol Chem 276:16469−16477、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、ならびにヒトIgE Fc/FcεRIα複合体の構造(pdb受託コード1F6A、参照によりその全体が本明細書中に包含される)(Garman et al., 2000, Nature 406:259−266、参照によりその全体が本明細書中に包含される)は、解明されてきた。
【0006】
異なるIgGサブクラスは、FcγRに対して異なる親和性を有し、IgG1およびIgG3は典型的に、受容体に対してIgG2およびIgG4よりも実質的によく結合する(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。全てのFcγRは、異なる親和性を有するが、IgG Fcの同じ領域に結合する:高親和性結合体であるFcγRIは、IgG1についてKd10−8−1を有し、一方、低親和性受容体であるFcγRIIおよびFcγRIIIは、一般的に、それぞれ10−6および10−5で結合する。FcγRIIIaおよびFcγRIIIbの細胞外ドメインは、96%の同一性を有する;しかしながら、FcγRIIIbは、細胞内シグナル伝達ドメインを有さない。さらに、免疫受容体チロシン依存性活性化モチーフ(ITAM)を有する細胞内ドメインを有することにより特徴付けられるFcγRI、FcγRIIa/c、およびFcγRIIIaは、免疫複合体により誘発される活性化の正の調節因子であるが、FcγRIIbは、免疫受容体チロシン依存性阻害モチーフ(ITIM)を有し、故に阻害性である。故に、前者は、活性化受容体と称され、FcγRIIbは、阻害性受容体と称される。前記受容体はまた、様々な免疫細胞で発現パターンおよびレベルが異なる。さらに別の複雑度は、ヒトプロテオームにおける多くのFcγR多型の存在である。臨床的重要性を有する特に関連する多型は、V158/F158 FcγRIIIaである。ヒトIgG1は、F158アロタイプよりもV158アロタイプにより高い親和性で結合する。この親和性の差異、およびADCCおよび/またはADCPに対する推定上のその効果が、抗CD20抗体であるリツキシマブ(リツキサン(登録商標)、BiogenIdec)の効果の重要な決定因子であることが示されている。V158アロタイプを有する患者は、リツキシマブ処置に好都合に応答する;しかしながら、低親和性のF158アロタイプを有する患者は、ほとんど応答しない(Cartron et al., 2002, Blood 99:754−758、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。ヒトの約10−20%が、V158/V158ホモ接合型であり、45%が、V158/F158ヘテロ接合型であり、そして35−45%が、F158/F158ホモ接合型である(Lehrnbecher et al., 1999, Blood 94:4220−4232;Cartron et al., 2002, Blood 99:754−758、両方とも、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。故に、ヒトの80−90%がほとんど応答せず、例えば、彼らは、F158 FcγRIIIaの少なくとも一方のアレルを有する。
【0007】
図1に示すFc上の重複しているが別個の部位は、補体タンパク質C1qのための接合部位として機能する。Fc/FcγR結合がADCCを仲介するのと同様に、Fc/C1q結合は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を仲介する。C1qは、セリンプロテアーゼであるC1rおよびC1sと複合体を形成し、C1複合体を形成する。C1qは、6個の抗体を結合し得るが、2個のIgGとの結合が、補体カスケードを活性化するのに十分である。FcとFcγRの相互作用と同様に、様々なIgGサブクラスが、C1qに対して異なる親和性を有し、典型的に、IgG1およびIgG3は、FcγRに対してIgG2およびIgG4よりも実質的に結合する(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。現在、Fc/C1q複合体に利用可能な構造は存在しない;しかしながら、変異誘発実験は、C1qに対するヒトIgG上の結合部位を残基D270、K322、K326、P329、P331およびE333を含む領域にマッピングした(Idusogie et al., 2000, J Immunol 164:4178−4184; Idusogie et al., 2001, J Immunol 166:2571−2575、両方とも、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0008】
図1に示すCγ2ドメインとCγ3ドメインの間のFc上の部位は、胎児性受容体(neonatal receptor:FcRn)との相互作用を仲介し、その結合は、エンドサイトーシスされた抗体をエンドソームから血流に戻して再利用する(Raghavan et al., 1996, Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220;Ghetie et al., 2000, Annu Rev Immunol 18:739−766、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。この過程は、全長分子のサイズが大きいため腎臓ろ過による除去を伴い、結果として、1ないし3週間までの範囲の好都合な抗体の血清半減期をもたらす。FcのFcRnとの結合はまた、抗体輸送において重要な役割を果たす。FcRnのためのFc上の結合部位は、細菌プロテインAおよびGが結合する部位でもある。これらのタンパク質による強い結合は、典型的に、タンパク質精製中に、タンパク質Aまたはタンパク質G親和性クロマトグラフィーを用いることにより抗体を精製するための手段として用いられる。故に、Fc上のこの領域の適合度は、抗体の臨床的特徴およびそれらの精製の両方に重要である。ラットFc/FcRn複合体(Burmeister et al., 1994, Nature, 372:379−383;Martin et al., 2001, Mol Cell 7:867−877、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)、およびFcとタンパク質AおよびGとの複合体(Deisenhofer, 1981, Biochemistry 20:2361−2370;Sauer−Eriksson et al., 1995, Structure 3:265−278;Tashiro et al., 1995, Curr Opin Struct Biol 5:471−481、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)の利用可能な構造は、Fcとこれらのタンパク質の相互作用に関する理解を提供する。
【0009】
Fc領域の1つの重要な特徴は、図1に示すN297に起こる保存されたN結合グリコシル化である。よく記載される通り、この炭水化物またはオリゴ糖は、抗体にとって重要な構造的かつ機能的役割を果たし、抗体を哺乳動物発現系を用いて製造しなければならない根本的理由の1つである。1つの理論に制限されることを望まないが、この炭水化物の構造的目的は、Fcを安定化または可溶化すること、Cγ3とCγ2ドメインの間の特定の角度またはフレキシビリティーレベルを決定すること、2個のCγ2ドメインを互いに中心軸を横切って凝集しないようにすること、またはこれらの組み合わせであり得ると考えられる。FcγRおよびC1qとの効率的なFc結合は、この修飾を必要とし、N297炭水化物の組成の変化またはその除去がこれらのタンパク質との結合に影響を与える(Umana et al., 1999, Nat Biotechnol 17:176−180; Davies et al., 2001, Biotechnol Bioeng 74:288−294; Mimura et al., 2001, J Biol Chem 276:45539−45547.; Radaev et al., 2001, J Biol Chem 276:16478−16483; Shields et al., 2001, J Biol Chem 276:6591−6604; Shields et al., 2002, J Biol Chem 277:26733−26740; Simmons et al., 2002, J Immunol Methods 263:133−147、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。該炭水化物は、FcγRと何ら特定の結合を作製しないが(Radaev et al., 2001, J Biol Chem 276:16469−16477、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、Fc/FcγR結合を仲介するN297炭水化物の機能的役割が、Fc立体構造を決定する構造的役割を果たし得ることが示される。このことは、4個の異なるFc糖型の結晶構造の収集により支持され、それは、オリゴ糖の組成が、Cγ2の立体構造に影響を与え、結果としてFc/FcγR結合をもたらすことを示す(Krapp et al., 2003, J Mol Biol 325:979−989、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0010】
上記の抗体の特徴−標的に対する特異性、免疫エフェクター機構を仲介する能力、および血清中の長い半減期−は、抗体を強力な治療薬にする。モノクローナル抗体は、癌、炎症性疾患および心疾患を含む様々な状態の処置のために治療的に用いられる。現在、10種以上の市販されている抗体製品および数百種の開発中の抗体製品が存在する。抗体に加えて、研究および治療に拡大する役割を見出されている抗体様タンパク質が、Fc融合体である(Chamow et al., 1996, Trends Biotechnol 14:52−60; Ashkenazi et al., 1997, Curr Opin Immunol 9:195−200、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。Fc融合体は、1個以上のポリペプチドが、Fcに作動可能に連結するタンパク質である。Fc融合体は、受容体、リガンドまたはいくつかの他のタンパク質もしくはタンパク質ドメインの標的結合領域と抗体のFc領域を結合し、それにより、その好ましいエフェクター機能および薬物動態組み合わせる。後者の役割は、標的認識を仲介することであり、故に、それは抗体の可変領域に機能的に類似している。Fc融合体と抗体の構造的および機能的重複により、本発明の抗体に関する説明はFc融合体にも拡大される。
【0011】
抗体は、腫瘍学における幅広い適用、特に細胞破壊を目的として、腫瘍細胞で選択的に発現される細胞抗原を標的化するための適用が見出されている。必要な増殖経路の阻止による抗増殖作用、アポトーシス、増強した下方制御および/または受容体のターンオーバーをもたらす細胞内シグナル伝達、CDC、ADCC、ADCP、および適応的免疫応答の促進を含む、抗体が腫瘍細胞を破壊する多くの可能性のある機構が存在する(Cragg et al., 1999, Curr Opin Immunol 11:541−547; Glennie et al., 2000, Immunol Today 21:403−410、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。抗腫瘍効果は、これらの機構の組み合わせの結果であり、臨床治療におけるそれらの相対的重要性は、癌依存性であるように見える。これらの抗腫瘍手段を具備しているにもかかわらず、抗癌剤としての抗体の有効性は満足のいくものではなく、特にそれらは高コストである。患者の腫瘍応答データは、モノクローナル抗体が、通常の単剤の細胞傷害性化学療法剤よりも治療の成功にほんのわずかな改善しか提供しないことを示す。例えば、全ての再発した軽度の非ホジキンリンパ腫の患者の半数しか、抗CD20抗体であるリツキシマブに応答しない(McLaughlin et al., 1998, J Clin Oncol 16:2825−2833、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。166名の臨床患者のうち、約12ヶ月の反応期間中央値で、6%が完全な応答を示し、42%が部分的な応答を示した。転移性乳癌の処置用の抗HER2/neu抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、Genentech)は、効果がより少ない。222名の試験患者に関するトラスツズマブを用いる全体の反応率は、8名の完全な応答、および26名の部分的な応答を含む、わずか15%であって、9ないし13ヶ月の反応期間中央値および生存期間であった(Cobleigh et al., 1999, J Clin Oncol 17:2639−2648、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。現在の抗癌治療においては、死亡率におけるどんな小さな改善も成功を定義する。故に、標的癌細胞を破壊するために抗体の能力を高めることがかなり必要とされる。
【0012】
抗体の抗腫瘍効果を高める有望な手段は、ADCC、ADCPおよびCDCのような細胞傷害性エフェクター機能を仲介するそれらの能力を増強することによる。抗体の抗癌活性に関するFcγRにより仲介されるエフェクター機能の重要性は、マウスで立証されており(Clynes et al., 1998, Proc Natl Acad Sci U S A 95:652−656; Clynes et al., 2000, Nat Med 6:443−446、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)、Fcと任意のFcγRの相互作用の親和性は、細胞ベースのアッセイにおいて標的とする細胞傷害性と相関関係を有する(Shields et al., 2001, J Biol Chem 276:6591−6604; Presta et al., 2002, Biochem Soc Trans 30:487−490; Shields et al., 2002, J Biol Chem 277:26733−26740、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。さらに、相関関係は、ヒトにおける臨床効果と、FcγRIIIaのアロタイプの高親和性多型(V158)または低親和性多型(F158)との間で観察されている(Cartron et al., 2002, Blood 99:754−758、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。これらのデータを合わせると、任意のFcγRに結合するのに最適化される抗体が、エフェクター機能をより多く仲介し、それにより患者の癌細胞をより効果的に破壊することが示唆される。受容体の活性化と阻害のバランスは重要な検討事項であり、最適なエフェクター機能は、活性化受容体、例えばFcγRI、FcγRIIa/c、およびFcγRIIIaに対して増大した親和性を有するが、阻害性受容体FcγRIIbに対して減少した親和性を有する抗体によって生じ得る。さらに、FcγRが、抗原提示細胞による抗原の取り込みおよびプロセシングを仲介し得るため、最適化FcγR親和性はまた、適応的免疫応答を誘導する抗体治療薬の能力を高め得る(Dhodapkar & Dhodapkar, 2005, Proc Natl Acad Sci USA, 102, 6243−6244、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。抗体の抗癌治療に対する補体仲介性エフェクター機能の重要性は、あまり特徴付けられていない。CDCに対して最適化された抗体は、抗体の臨床適用における補体の役割を調査する方法を提供し、抗体の殺腫瘍能力を改善するための可能性のある機構を提供し得る。
【0013】
エフェクター機能が臨床効果に貢献する抗体治療および適用とは対照的に、いくつかの抗体および臨床適用に関して、1種以上のFcγRとの結合を減少するもしくは除去すること、または限定されないがADCC、ADCPおよび/またはCDCを含む、1種以上のFcγRまたは補体仲介性エフェクター機能を減少するもしくは除去することが、好適であり得る。このことはしばしば、その作用機序が、標的抗原を保持する細胞を殺すのではなく、阻止または抑制することを含む、治療抗体の場合に当てはまる。これらの場合において、標的細胞の減少は望ましくなく、副作用であると考えられ得る。例えば、T細胞上のCD4受容体を阻害する抗CD4抗体の能力は、それらを効果的な抗炎症薬にし、さらに、FcγR受容体を捕捉するそれらの能力はまた、標的細胞に対する免疫的攻撃を誘導し、結果としてT細胞の減少をもたらす(Reddy et al., 2000, J Immunol 164:1925−1933、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。エフェクター機能はまた、放射性複合体と称される放射性標識抗体、および免疫毒素(immunotoxin)と称される毒素と複合体を形成した抗体にとって課題であり得る。これらの薬剤を、癌細胞を破壊するために用いることができるが、FcのFcγRとの相互作用による免疫細胞の捕捉は、健康な免疫細胞を有害なペイロード(放射線または毒素)の近接域にもたらし、結果として標的癌細胞と共に正常なリンパ系組織の減少をもたらす(Hutchins et al., 1995, Proc Natl Acad Sci U S A 92:11980−11984; White et al., 2001, Annu Rev Med 52:125−145、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。補体またはエフェクター細胞の捕捉が不十分であるIgGイソ型、例えばIgG2およびIgG4は、この課題に取り組むために部分的に用いられ得る。Fcリガンド結合を減少または低下するFc変異体も当技術分野で公知である(Alegre et al., 1994, Transplantation 57:1537−1543; Hutchins et al., 1995, Proc Natl Acad Sci USA 92:11980−11984; Armour et al., 1999, Eur J Immunol 29:2613−2624; Reddy et al., 2000, J Immunol 164:1925−1933; Xu et al., 2000, Cell Immunol 200:16−26; Shields et al., 2001, J Biol Chem 276:6591−6604; Armour et al., 1999, Eur J Immunol 29:2613−2624; US6,194,551;US5,885,573;PCT WO99/58572;USSN10/267,286、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。しかしながら、これらの変異体の完全なFcリガンド結合特性およびエフェクター機能の能力、およびWT IgGイソ型と比較したそれらの特性は明らかでない。全てのFcγR結合ならびにFcγRおよび補体仲介性エフェクター機能の完全な低下のための一般的かつ強固な手段が必要である。さらなる検討事項は、他の重要な抗体特性が不安定でないことである。Fc変異体は、FcγRおよび/またはC1qとの結合を低下するだけでなく、抗体の安定性、溶解性および構造的完全性、ならびにFcRnおよびプロテインAおよびプロテインGのような他の重要なFcリガンドと相互作用する能力を維持するように製造されるべきである。
【0014】
最近の成功は、FcγRおよびC1qとの変化した結合を有するFc変異体を得ることを成し遂げ、いくつかの場合において、これらのFc変異体は、FcγRおよび補体仲介性エフェクター機能を仲介する能力について試験されている(2005年5月5日出願の、USSN10/672,280、USSN10/822,231、USSN11/124,620、および2005年10月21日出願のUSSN11/256,060、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。これらの実験において得られたFc変異体は、FcγRとの選択的に改善した結合、増大したADCC、補体タンパク質C1qとの改善した結合、FcγRとの減少した結合、補体タンパク質C1qとの減少した結合、および他の最適化特性を含むFcリガンドおよびエフェクター機能特性の様々な最適な増強を、それらに限定されないが、提供する。本発明は、これらの実験から選択したFc変異体の特性をさらに特徴付けること、および最適化特性を有する新規の変異体を製造するためにそのデータを利用することを目的とする。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明は、最適化特性を有するFc変異体を提供する。該最適化特性には、親Fcポリペプチドと比較して、FcγRとの変化した結合、変化した抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用、および変化した補体依存性細胞傷害作用が含まれる。
【0016】
1つの態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して、1種以上のFcγRとの結合を改善する。別の態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して、抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用を改善する。好ましい態様において、該Fc変異体は、227位、234位、235位、236位、239位、246位、255位、258位、260位、264位、267位、268位、272位、281位、282位、283位、284位、293位、295位、304位、324位、327位、328位、330位、332位および335位(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される1箇所以上でのアミノ酸修飾を含む。
【0017】
別の態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して補体依存性細胞傷害作用を改善する。好ましい態様において、該Fc変異体は、233位、234位、235位、239位、267位、268位、271位、272位、274位、276位、278位、281位、282位、284位、285位、293位、300位、320位、322位、324位、326位、327位、328位、330位、331位、332位、333位、334位および335位(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される1箇所以上でのアミノ酸修飾を含む。
【0018】
別の態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して1種以上のFcγRとの結合を減少する。別の態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用を減少する。別の態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して補体依存性細胞傷害作用を減少する。好ましい態様において、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して、1種以上のFcγRとの結合を減少し、抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用を減少し、補体依存性細胞傷害作用を減少する。最も好ましい態様において、該Fc変異体は、232位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、265位、267位、269位、270位、297位、299位、325位、327位、328位、329位、330位および331位(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される位置での1個以上のアミノ酸修飾を含む。
【0019】
本発明は、最適化特性を有するFc変異体の製造方法を提供する。本発明のさらなる目的は、最適化したFc変異体を得るための実験的製造方法およびスクリーニング方法を提供することである。
【0020】
本発明は、本明細書に記載のFc変異体をコードする単離した核酸を提供する。本発明は、所望により制御配列と作動可能に連結した該核酸を含むベクターを提供する。本発明は、該ベクターを含む宿主細胞、およびFc変異体の製造方法および所望によりFc変異体の回収方法を提供する。
【0021】
本発明は、本明細書に記載のFc変異体を含む、抗体、Fc融合体、単離したFc、およびFc断片を含む新規のFcポリペプチドを提供する。該新規のFcポリペプチドは、治療用製品への使用を見出され得る。最も好ましい態様において、本発明のFcポリペプチドは抗体である。
【0022】
本発明は、本明細書に記載のFc変異体を含むFcポリペプチド、および生理学的または薬学的に許容される担体または希釈剤を含む組成物を提供する。
【0023】
本発明は、本明細書に記載のFc変異体を含むFcポリペプチドの治療的および診断的使用を意図する。
【0024】
図面の簡単な説明
図1。抗体の構造および機能。pdb受託コード1CE1からのヒト化Fab構造(James et al., 1999, J Mol Biol 289:293−301、参照によりその全体が本明細書中に包含される)およびpdb受託コード1DN2からのヒトIgG1Fc構造(DeLano et al., 2000, Science 287:1279−1283、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を用いてモデル化された、全長ヒトIgG1抗体のモデルを示す。FabおよびFc領域を連結するフレキシブルヒンジは示さず。IgG1は、2個の軽鎖および2個の重鎖からなるヘテロ二量体のホモ二量体である。軽鎖のVおよびC、ならびに重鎖のV、Cガンマ1(Cγ1)、Cガンマ2(Cγ2)、およびCガンマ3(Cγ3)を含む、抗体を含むIgドメインを示す。Fc領域を示す。可変領域中の抗原結合部位、ならびにFc領域中のFcγR、FcRn、C1qおよびプロテインAおよびGのための結合部位を含む、関連タンパク質の結合部位を示す。
【0025】
図2。Fc/FcγRIIIb複合体構造1IIS。Fcを灰色リボンで示し、FcγRIIIbを黒色リボンで示す。N297炭水化物を黒色棒で示す。
【0026】
図3a−3b。ヒトIgG免疫グロブリンIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のアミノ酸配列のアライメント。図3aは、CH1(Cγ1)の配列およびヒンジドメインを提供し、図3bは、CH2(Cγ2)およびCH3(Cγ3)ドメインの配列を提供する。位置は、IgG1配列のEU Indexに従って番号付けられ、IgG1と他の免疫グロブリンIgG2、IgG3およびIgG4との差異を、灰色で示す。多型が多数の位置に存在し(Kim et al., 2001, J. Mol. Evol. 54:1−9、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、故に、示した配列と従来の配列とにわずかな差異が存在し得る。Fc領域の可能性のある開始点が示され、EUの226位または230位のどちらかとして本明細書に記載される。
【0027】
図4。ヒトIgG1のガンマ1鎖のアロタイプおよびイソアロタイプの位置および関連するアミノ酸置換を示す(Gorman & Clark, 1990, Semin Immunol 2(6):457−66、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。比較のため、ヒトIgG2、IgG3およびIgG4ガンマ鎖における等価な位置に見出されるアミノ酸も示す。
【0028】
図5。Fc変異体およびFcγR結合データ。全てのFc変異体を、抗体PRO70769 IgG1に照らして構築した。倍数は、AlphaScreen競合アッセイにより測定される、ヒトV158およびF158 FcγRIIIaとの結合に関してWT PRO70769 IgG1と比較したIC50倍数を示す。
【0029】
図6。AlphaScreen競合アッセイにより決定される、選択したPRO70769 Fc変異体によるヒトV158 FcγRIIIa(図6a)およびF158 FcγRIIIa(図6b)との結合。競合抗体(Fc変異体またはWT)の存在において、特徴的阻害曲線が発光シグナルの減少として観察される。結合データを、低および高濃度の抗体それぞれにおけるベースラインにより供される、それぞれの特定の曲線についての最大および最小発光シグナルに対して標準化した。曲線は、非線形回帰を用いて、一部位競合モデルへのデータの適合を示す。
【0030】
図7。AlphaScreen競合アッセイにより測定される、PRO70769 Fc変異体によるヒトV158 FcγRIIIaおよびF158 FcγRIIIaとの結合。図7aは、選択した変異体についてのデータを示し、図7bは、WT PRO70769 IgG1と比較したIC50値および倍数を示す。
【0031】
図8。Fc変異体およびFcγR結合データ。全てのFc変異体を、可変領域PRO70769およびヒトIgG1またはIgG(1/2) ELLGGのどちらかに照らして構築した。図8aは、AlphaScreen競合アッセイにより測定される、ヒト活性化受容体V158およびF158 FcγRIIIa、および阻害性受容体FcγRIIbとの結合の、WT PRO70769 IgG1と比較したIC50値およびIC50倍数を示す。図8bは、選択した変異体のAlphaScreenデータを示す。
【0032】
図9。ヒトV158 FcγRIIIaに対するトラスツズマブにおける、I332EおよびS239D/I332E変異体の結合親和性を測定する競合表面プラズモン共鳴(SPR)実験。図9aは、センサーグラム生データ(sensorgram raw data)を示し、図9bは、各濃度で得られた初期結合率に対する受容体濃度のログ値(対数値)のプロットを示し、そして図9cは、実施例1に記載の、これらのデータへの適合から得られた親和性を示す。
【0033】
図10。抗CD20抗体 PRO70769における、選択したFc変異体の細胞ベースのADCCアッセイ。ADCCを、LDH細胞傷害性検出キット(Roche Diagnostic)を用いて、ラクトースデヒドロゲナーゼの放出により測定した。CD20+リンパ腫WIL2−S細胞を標的細胞として用い、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。低濃度および高濃度の抗体それぞれにおけるベースラインにより供される、それぞれの特定の曲線についての最小および最大蛍光シグナルに対して標準化した、所定の抗体の抗体濃度におけるADCCの用量依存性を示す。曲線は、非線形回帰を用いて、シグモイド型用量応答モデルへのデータの適合を示す。
【0034】
図11。血清レベルのヒトIgGの不存在および存在下におけるPRO70769 IgG1における、選択したFc変異体の細胞ベースのADCCアッセイ。ADCCを、LDH細胞傷害性検出キット(Roche Diagnostic)を用いて、ラクトースデヒドロゲナーゼの放出により測定した。CD20+リンパ腫WIL2−S細胞を標的細胞として用い、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。
【0035】
図12。CDCを増強するように設計されたFc変異体において変異した残基。ヒトIgG1Fc領域の構造(pdb受託コード1E4K、Sondermann et al., 2000, Nature 406:267−273、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を示す。黒色の球および棒は、補体タンパク質C1qとの結合を仲介するのに重要であることが示されている残基D270、K322、P329およびP331を示し、灰色の棒は、CDCに影響を与える変異体を検討するために本発明において変異させた残基を示す。
【0036】
図13。補体仲介性細胞傷害作用(CDC)についてスクリーニングしたFc変異体およびCDCデータ。可変領域は、抗CD20抗体PRO70769のものであり、重鎖定常領域は、IgG1であり、特に他に記載のない限りIgG(1/2)ELLGGである。CDC倍数は、WT PRO70769 IgG1と比較した相対的CDC活性を示す。
【0037】
図14。Fc変異体 抗CD20抗体のCDCアッセイ。補体により仲介される溶解の抗体濃度の用量依存性を、CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する示したPRO70769抗体について示す。溶解を、アラマーブルー(Alamar Blue)の放出を用いて測定し、データを、低濃度および高濃度の抗体それぞれにおいてベースラインにより供される、それぞれの特定の曲線の最小および最大蛍光シグナルに対して標準化した。曲線は、非線形回帰を用いて、勾配変化のあるシグモイド型用量応答モデルへのデータの適合を示す。
【0038】
図15。増大および減少したCDCを供するアミノ酸修飾、および増大/調節したCDCを供し得るように修飾され得る位置。位置は、EU indexに従い番号付けされる。
【0039】
図16。減少したFcγR親和性、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および補体により仲介されるエフェクター機能についてスクリーニングしたFc変異体。可変領域は、抗CD20抗体 PRO70769のものであり、重鎖定常領域はIgG1である。図は、ヒトV158 FcγRIIIaと結合するためのIC50倍数、およびWT PRO70769 IgG1と比較したCDC活性のEC50倍数を示す。
【0040】
図17。AlphaScreen競合アッセイにより決定される、PRO70769 Fc変異体の選択によるヒトV158 FcγRIIIaへの結合。
【0041】
図18。CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する選択した抗CD20抗体 Fc変異体のCDCアッセイ。溶解をアラマーブルー放出により測定した。
【0042】
図19。CD20+リンパ腫WIL2−S細胞に対する選択した抗CD20抗体 Fc変異体の細胞ベースのADCC活性。ヒトPBMCをエフェクター細胞として用い、溶解をLDH放出により測定した。
【0043】
図20。減少したFcγR親和性、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および補体仲介性エフェクター機能についてスクリーニングしたFc変異体。可変領域は、抗CD20抗体 PRO70769のものであり、重鎖定常領域はIgG1である。図は、2つの別個の試験による、WTと比較したヒトV158 FcγRIIIaとの結合についてのIC50倍数、WTと比較したヒトFcγRIとの結合についてのIC50倍数、およびWTと比較したCDC活性についてのEC50倍数を示す。
【0044】
図21。AlphaScreen競合アッセイにより決定される、選択したPRO70769Fc変異体による低親和性ヒト活性化受容体V158 FcγRIIIaおよび高親和性ヒト活性化受容体FcγRIとの結合。
【0045】
図22。CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する選択したPRO70769Fc変異体のCDC活性。溶解をアラマーブルーの放出により測定した。
【0046】
図23。Her2/neu+SkBr−3乳癌標的細胞に対する抗Her2 Fc変異体およびWT IgG抗体の細胞ベースのADCC活性。ヒトPBMCをエフェクター細胞として用い、溶解をLDH放出により測定した。
【0047】
図24。PRO70769(図24aおよび24b)、トラスツズマブ(図24cおよび24d)、およびイピリムマブ(図24eおよび24f)を含む、本発明で用いた可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)のアミノ酸配列。
【0048】
図25。本発明で用いたヒト定常軽鎖カッパ(図25a)および定常重鎖(図25b−25f)のアミノ酸配列。
【0049】
図26。減少したFcリガンド結合およびエフェクター機能特性を有する可能性のある定常重鎖配列(図26a)、および改良した抗CTLA−4抗体の配列(図26b−26d)を示す配列。図26aは、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7およびX8として強調して示す可変位置を含む、可能性のあるFc変異体定常重鎖配列を示す。配列の下の表は、WTアミノ酸およびこれらの位置において可能性のある置換基を示す。改良した抗体配列は、この可能性のある修飾基から選択される1個以上の非WTアミノ酸を含み得る。図26bは、抗CTLA−4抗体の軽鎖配列を示し、図26cおよび26dは、減少したFcリガンド結合およびFcにより仲介されるエフェクター機能を有する抗CTLA−4抗体の重鎖配列を示す。これらには、L235G/G236R IgG1重鎖(図26c)およびIgG2重鎖(図26d)が含まれる。位置は、Kabatに記載のEU indexに従って番号付けられ、故に、配列中の連続順に対応していない。
【0050】
発明の詳しい説明
本発明は、理解をより完全にし得るために、いくつかの定義を以下に記載する。かかる定義は、文法的同等物を包含することを意味する。
【0051】
本明細書で記載の“ADCC”または“抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用”は、標的細胞上に結合した抗体を認識し、次いで標的細胞の溶解をもたらすFcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞である細胞により仲介される反応を意味する。
【0052】
本明細書で記載の“ADCP”または“抗体依存性細胞介在性食作用”は、標的細胞上に結合した抗体を認識し、次いで標的細胞の食作用を誘導するFcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞である細胞により仲介される反応を意味する。
【0053】
本明細書中、“アミノ酸修飾”は、ポリペプチド配列中の、アミノ酸置換、挿入、および/または欠失を意味する。本明細書中、“アミノ酸置換”または“置換”は、親ポリペプチド配列中、特定の位置での、あるアミノ酸の別のアミノ酸との置換を意味する。例えば、L328R置換は、この場合のFc変異体において、328位のロイシンをアルギニンに置換される変異体ポリペプチドを意味する。本明細書で用いる“アミノ酸挿入”または“挿入”は、親ポリペプチド配列中、特定の位置でのアミノ酸の付加を意味する。例えば、G>235−236挿入は、235および236位の間へのグリシンの挿入を意味する。本明細書で用いる“アミノ酸欠失”または“欠失”は、親ポリペプチド配列中、特定の位置でのアミノ酸の除去を意味する。例えば、G236−は、236位でのグリシンの欠失を意味する。本発明のアミノ酸はさらに、同位体または新規のどちらかとして分類され得る。
【0054】
本明細書で記載の“CDC”または“補体依存性細胞傷害作用”は、1個以上の補体タンパク質成分が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、次いで標的細胞の溶解をもたらす反応を意味する。
【0055】
本明細書で記載の“同位体修飾”は、あるイソ型のあるアミノ酸を、対応する異なるアミノ酸(整列したイソ型)に変換するアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgG1は、EU 296位にチロシンを有し、IgG2は、フェニルアラニンを有するため、IgG2におけるF296Y置換は、同位体修飾と見なされる。
【0056】
本明細書で記載の“新規の修飾”は、イソ型ではないアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgGは332位にグルタミン酸を有しないため、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4におけるI332E置換は、新規の修飾と見なされる。
【0057】
本明細書で記載の“アミノ酸”および“アミノ酸同一性”は、特定の定められた位置に存在し得る、20個の天然に存在するアミノ酸または何らかの天然に存在しない類似体のうち1つを意味する
【0058】
本明細書で記載の“エフェクター機能”は、抗体のFc領域と、Fc受容体またはリガンドとの相互作用によりもたらされる生化学的事象を意味する。エフェクター機能には、ADCCおよびADCPのようなFcγRにより仲介されるエフェクター機能、ならびにCDCのような補体仲介性エフェクター機能が含まれる。
【0059】
本明細書で記載の“エフェクター細胞”は、1種以上のFc受容体を発現し、1個以上のエフェクター機能を仲介する免疫系の細胞を意味する。エフェクター細胞には、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、およびγδT細胞が含まれるが、それらに限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含む何れかの生物を含むが、それらに限定されない生物由来であり得る。
【0060】
本明細書で記載の“Fab”または“Fab領域”は、V、CH1、VおよびC免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単独のこの領域、または全長抗体もしくは抗体断片中のこの領域を意味し得る。
【0061】
本明細書で記載の“Fc”または“Fc領域”は、免疫グロブリンドメインの第一の定常領域を除く、抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。故に、Fcは、IgA、IgD、およびIgGの免疫グロブリンドメインの残り2個の定常領域、ならびにIgEおよびIgMの免疫グロブリンドメインの残り3個の定常領域、ならびにこれらのドメインのN末端のフレキシブルヒンジを意味する。IgAおよびIgMに関して、Fcには、J鎖が含まれ得る。IgGに関して、図1に示す通り、Fcは、免疫グロブリンドメインCガンマ2およびCガンマ3(Cγ2およびCγ3)、ならびにCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)の間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変化し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、そのカルボキシル末端に残基C226またはP230を含むと定義され、ここで、番号は、Kabatに記載のEU indexに従う。Fcは、下記の通り、単離したこの領域か、またはFcポリペプチド中のこの領域を意味し得る。本明細書で記載の“Fcポリペプチド”は、Fc領域の全てまたは一部を含むポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは、抗体、Fc融合体、単離されたFc、およびFc断片を含む。
【0062】
本明細書で記載の“Fc融合体”は、1個以上のポリペプチドがFc領域に作動可能に連結されるタンパク質を意味する。本明細書中、Fc融合体は、従来技術(Chamow et al., 1996, Trends Biotechnol 14:52−60;Ashkenazi et al., 1997, Curr Opin Immunol 9:195−200、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)で用いられる通り、用語“免疫アドヘシン(immunoadhesin)”、“Ig融合体”、“Igキメラ”、および“受容体グロブリン”(ダッシュを付けることもある)と同義の意味である。Fc融合体は、一般的に、何れかのタンパク質、ポリペプチドまたは小分子であり得る“融合パートナー”を有する免疫グロブリンのFc領域を結合する。Fc融合体の非Fc部分、すなわち融合パートナーの役割は、標的結合を仲介することであり、故に、それは、抗体の可変領域と機能的に類似している。実際、何れかのタンパク質または小分子はFcと結合し、Fc融合体を作製し得る。タンパク質融合パートナーには、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカイン、または他のタンパク質もしくはタンパク質ドメインが含まれ得るが、それらに限定されない。小分子融合パートナーは、Fc融合体を治療標的に向ける何れかの治療剤を含み得る。かかる標的は、何れかの分子、好ましくは疾患に関与する細胞外受容体であり得る。
【0063】
本明細書で記載の“Fcガンマ受容体”または“FcγR”は、IgG抗体Fc領域に結合し、FcγR遺伝子により実質的にコードされる何れかのタンパク質ファミリーのメンバーを意味する。ヒトにおいて、このファミリーには、イソ型FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);イソ型FcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb−1およびFcγRIIb−2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびに、イソ型FcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb−NA1およびFcγRIIIb−NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57−65、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、ならびに何れかの未知のヒトFcγRまたはFcγRイソ型またはアロタイプが含まれるが、それらに限定されない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含むが、それらに限定されない何れかの生物由来であり得る。マウスFcγRには、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、およびFcγRIII−2(CD16−2)、ならびに何れかの未発見のマウスFcγRまたはFcγRイソ型もしくはアロタイプが含まれるが、それらに限定されない。
【0064】
本明細書で記載の“Fcリガンド”は、抗体のFc領域と結合し、Fc/Fcリガンド複合体を形成する、何れかの生物由来の分子、好ましくはポリペプチドを意味する。Fcリガンドには、FcγR、FcγR、FcγR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、ブドウ球菌タンパク質A、ブドウ球菌タンパク質G、およびウイルスFcγRが含まれるが、それらに限定されない。Fcリガンドにはまた、FcγRと相同性のFc受容体ファミリーであるFc受容体相同体(FcRH)が含まれる(Davis et al., 2002, Immunological Reviews 190:123−136、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。Fcリガンドは、Fcに結合する未知の分子を含み得る。
【0065】
本明細書で記載の“全長抗体”は、可変領域および定常領域を含む抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を意味する。例えば、ヒトおよびマウスを含むほとんどの哺乳動物において、IgGイソ型の全長抗体は四量体であり、2個の免疫グロブリン鎖の2個の相同対であって、各対が、1個の軽鎖および1個の重鎖(各軽鎖は、免疫グロブリンドメインVおよびCを含む軽鎖を含み、各重鎖は、免疫グロブリンドメインV、Cγ1、Cγ2およびCγ3を含む。)を有する相同対から構成される。ある哺乳動物、例えばラクダおよびラマにおいて、IgG抗体は、2個の重鎖(各重鎖は、Fc領域に結合した可変ドメインを含む。)のみから構成され得る。
【0066】
本明細書で記載の“IgG”は、認識される免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。ヒトにおいて、このIgGには、サブクラスまたはイソ型であるIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4が含まれる。マウスにおいて、IgGには、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3が含まれる。
【0067】
本明細書中、“免疫グロブリン(Ig)“は、免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされる1個以上のポリペプチドからなるタンパク質を意味する。免疫グロブリンには、抗体が含まれるが、それに限定されない。免疫グロブリンは、全長抗体、抗体断片、および個々の免疫グロブリンドメインを含むが、これらに限定されない多くの構造形態を有し得る。
【0068】
本明細書で記載の“免疫グロブリン(Ig)ドメイン“は、タンパク質構造分野の当業者により確認される異なる構造要素として存在する免疫グロブリンの領域を意味する。Igドメインは典型的に、特徴的なβ−サンドイッチフォールディングトポロジーを有する。抗体のIgGイソ型における既知のIgドメインは、V、Cγ1、Cγ2、Cγ3、VおよびCである。
【0069】
本明細書で記載の“IgG”または“IgG免疫グロブリン”は、認識される免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体クラスに属するポリペプチドを意味する。ヒトにおいて、このクラスには、サブクラスまたはイソ型IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4が含まれる。本明細書で用いる“イソ型”は、それらの定常領域の化学特性および抗原特性により定義される免疫グロブリンのサブクラスのいずれかを意味する。既知のヒト免疫グロブリンイソ型は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgDおよびIgEである。
【0070】
本明細書で記載の“親ポリペプチド”、“親タンパク質”、“前駆体ポリペプチド”または“前駆体タンパク質”は、後に修飾されて変異体を作製する未修飾ポリペプチドを意味する。該親ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチド、または天然に存在するポリペプチドの変異体もしくは改変型であり得る。親ポリペプチドは、そのポリペプチド自体、該親ポリペプチドまたはそれをコードするアミノ酸配列を含む組成物を意味し得る。従って、本明細書で記載の“親Fcポリペプチド”は、修飾されて変異体を作製するFcポリペプチドを意味し、本明細書で記載の“親抗体”は、修飾されて変異体抗体を作製する抗体を意味する。
【0071】
本明細書で記載の“位置”は、タンパク質配列中の位置を意味する。位置は、連続して、または確立された形式、例えばKabatに記載のEU indexに従い、番号付けされ得る。例えば、297位は、ヒト抗体IgG1中の位置である。
【0072】
本明細書で記載の“ポリペプチド”または“タンパク質”は、少なくとも2個の共有結合したアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドが含まれる。
【0073】
本明細書で記載の“残基”は、タンパク質中の位置およびその関係するアミノ酸の特定を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297、またN297とも称する)は、ヒト抗体IgG1中の残基である。
【0074】
本明細書で記載の“標的抗原”は、所定の抗体の可変領域により特異的に結合される分子を意味する。標的抗原は、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の化合物であり得る。
【0075】
本明細書で記載の“標的細胞”は、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0076】
本明細書で記載の“可変領域”は、カッパ、ラムダ、および重鎖免疫グロブリン遺伝子領域それぞれからなるVκ、Vλ、および/またはV遺伝子の何れかにより実質的にコードされる1個以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。
【0077】
本明細書で記載の“変異体ポリペプチド”、“ポリペプチド変異体”または“変異体”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親ポリペプチド配列と異なるポリペプチド配列を意味する。親ポリペプチドは、天然に存在するかまたは野生型(WT)ポリペプチドであり得るか、またはWTポリペプチドの改変型であり得る。変異体ポリペプチドは、ポリペプチド自体、該ポリペプチドまたはそれをコードするアミノ配列を含む組成物を意味し得る。好ましくは、変異体ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して、少なくとも1個のアミノ酸修飾を有し、例えば、親ポリペプチドと比較して約1個ないし約10個のアミノ酸修飾、好ましくは約1個ないし約5個のアミノ酸修飾を有する。本明細書中、変異体ポリペプチド配列は、好ましくは、親ポリペプチド配列と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性、より好ましくは少なくとも約95%の相同性を有し得る。従って、本明細書で記載の“Fc変異体”または“変異体Fc”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親Fc配列とは異なるFc配列を意味する。Fc変異体は、Fc領域のみを含み得るか、または抗体、Fc融合体、単離されたFc、Fc断片、もしくはFcにより実質的にコードされる他のポリペプチドとして存在し得る。Fc変異体は、Fcポリペプチド自体、該Fc変異体ポリペプチドまたはそれをコードするアミノ酸配列を含む組成物を意味し得る。本明細書で記載の“Fcポリペプチド変異体”または“変異体Fcポリペプチド”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親Fcポリペプチドと異なるFcポリペプチドを意味する。本明細書で記載の“タンパク質変異体”または“変異体タンパク質”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親タンパク質と異なるタンパク質を意味する。本明細書で記載の“抗体変異体”または“変異体抗体”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親抗体と異なる抗体を意味する。本明細書で記載の“IgG変異体”または“変異体IgG”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親IgGと異なる抗体を意味する。本明細書で記載の“免疫グロブリン変異体”または“変異体免疫グロブリン”は、少なくとも1個のアミノ酸修飾により親免疫グロブリン配列とは異なる免疫グロブリン配列を意味する。
【0078】
本明細書中、“野生型またはWT”は、アレル変異体を含む、天然に見出されるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質、ポリペプチド、抗体、免疫グロブリン、IgGなどは、意図的に改変されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0079】
抗体
従って、本発明は、変異体抗体を提供する。
【0080】
古典的抗体構造単位には、典型的に、四量体が含まれる。各四量体は、典型的に、ポリペプチド鎖の2個の相同対(各対は、1個の“軽”鎖(典型的に、約25kDaの分子量を有する。)および1個の“重”鎖(典型的に、約50−70kDaの分子量を有する。)を有する。)からなる。ヒト軽鎖は、カッパおよびラムダ軽鎖に分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンに分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして抗体のイソ型を定義する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含むが、それらに限定されない、いくつかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1およびIgM2を含むが、これに限定されないサブクラスを有する。故に、本明細書で記載の“イソ型”は、それらの定常領域の化学特性および抗原特性により定義される免疫グロブリンのサブクラスのいずれかを意味する。既知のヒト免疫グロブリンイソ型は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgDおよびIgEである。
【0081】
各鎖のアミノ末端部位には、抗原認識に主要な役割を果たす、約100ないし110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。可変領域中、3つのループが、重鎖および軽鎖の各Vドメインに集合し、抗原結合部位を形成する。各ループは、相補性決定領域(以降、“CDR”と称する)と称され、そこでのアミノ酸配列中の変異は、最も重要である。
【0082】
各鎖のカルボキシ末端部位は、エフェクター機能に主要な役割を果たす定常領域を定義する。Kabatらは、重鎖および軽鎖の可変領域の多数の主要配列を集めた。該配列の保存の程度に基づき、彼らは、CDRおよびフレームワークに個々の主要配列を分類し、そのリストを作成した(SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th edition, NIH publication, No. 91−3242, E.A. Kabat et alを参照のこと)。
【0083】
免疫グロブリンのIgGサブクラスにおいて、重鎖には、いくつかの免疫グロブリンドメインが存在する。本明細書中、“免疫グロブリン(Ig)ドメイン”とは、異なる三次元構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本発明において興味があるのは、重鎖定常(CH)ドメインおよびヒンジドメインを含む重鎖ドメインである。IgG抗体において、IgGイソ型はそれぞれ、3個のCH領域を有する。従って、IgGにおける“CH”ドメインは、下記である:“CH1”は、Kabatに記載のEU indexに従い、118−220位を示す。“CH2”は、Kabatに記載のEU indexに従い、237−340位を示し、“CH3”は、Kabatに記載のEU indexに従い、341−447位を示す。
【0084】
重鎖のIgドメインの別のタイプは、ヒンジ領域である。本明細書中、“ヒンジ”もしくは“ヒンジ領域”または“抗体ヒンジ領域”もしくは“免疫グロブリンヒンジ領域”は、抗体の第一および第二定常ドメイン間のアミノ酸を含むフレキシブルポリペプチドを意味する。構造的には、IgG CH1ドメインは、EU 220位で終わり、IgG CH2ドメインは、EU 237位の残基で始まる。故に、IgGに関して、抗体ヒンジは、本明細書中、221位(IgG1にてD221)ないし236位(IgG1にてG236)を含むと定義され、ここで、番号は、Kabatに記載のEU indexに従う。いくつかの態様において、例えばFc領域において、一般的に226位または230位に当たる“下流側ヒンジ(lower hinge)”が包含される。
【0085】
本発明において特に興味があるのは、Fc領域である。本明細書で用いる“Fc”または“Fc領域”は、免疫グロブリンドメインの第一の定常領域、いくつかの場合に、ヒンジの一部を除く、抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。故に、Fcは、免疫グロブリンドメインIgA、IgD、およびIgGの残り2個の定常領域、ならびに免疫グロブリンドメインIgEおよびIgMの残り3個の定常領域、ならびにこれらのドメインのN末端のフレキシブルヒンジを意味する。IgAおよびIgMに関して、Fcには、J鎖が含まれ得る。IgGに関して、図1に示す通り、Fcは、免疫グロブリンドメインCガンマ2およびCガンマ3(Cg2およびCg3)、ならびにCガンマ1(Cg1)とCガンマ2(Cg2)の間の下流側ヒンジ領域を含む。Fc領域の境界は変化し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、そのカルボキシル末端に残基C226またはP230を含むと定義され、ここで、番号は、Kabatに記載のEU indexに従う。Fcは、下記に記載の通り、単離したこの領域か、またはFcポリペプチド中のこの領域を意味し得る。本明細書で記載の“Fcポリペプチド”は、Fc領域の全てまたは一部を含むポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは、抗体、Fc融合体、単離されたFc、およびFc断片を含む。
【0086】
いくつかの態様において、抗体は全長である。本明細書中、“全長抗体”とは、本明細書に記載の通り、1個以上の修飾を含む可変領域および定常領域を含む抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を意味する。
【0087】
あるいは、抗体は、それぞれ、抗体断片、モノクローナル抗体、二重特異的抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体(本明細書中、“抗体模倣体”と称されることもある。)、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗体融合体(本明細書中、“抗体複合体”と称されることもある。)、および各断片を含むが、それらに限定されない、多様な構造であり得る。
【0088】
抗体断片
1つの態様において、抗体は抗体断片である。特に興味があるのは、Fc領域、Fc融合体および重鎖の定常領域(CH1−ヒンジ−CH2−CH3)を含み、さらにまた、重鎖定常領域融合体を含む、抗体である。
【0089】
特定の抗体断片には、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFab断片、(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFv断片;(iv)単一の可変領域からなるdAb断片(Ward et al., 1989, Nature 341:544−546)、(v)単離されたCDR領域、(vi)F(ab’)2断片、2つの結合したFab断片を含む二価断片、(vii)一本鎖Fv分子(scFv)(ここで、VHドメインおよびVLドメインは、2個のドメインを結合させ、抗原結合部位を形成させるペプチドリンカーにより連結される(Bird et al., 1988, Science 242:423−426, Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879−5883)、(viii)二重特異的一本鎖Fv二量体(PCT/US92/09965)、ならびに(ix)“二重抗体(diabody)”または“三重抗体(triabody)”、遺伝子融合により構築される多価または多特異的断片(Tomlinson et. al., 2000, Methods Enzymol. 326:461−479;WO94/13804;Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6444−6448)が含まれるが、それらに限定されない。該抗体断片は、修飾され得る。例えば、分子は、VHおよびVLドメインを連結するジスルフィド架橋の組込みにより安定化され得る(Reiter et al., 1996, Nature Biotech. 14:1239−1245)。
【0090】
キメラ抗体およびヒト化抗体
いくつかの態様において、骨格成分は、異なる種由来の混合物であり得る。そういうものとして、問題の抗体がそのような抗体であるとき、かかる抗体は、キメラ抗体および/またはヒト化抗体であり得る。一般的に、“キメラ抗体”および“ヒト化抗体”は両方とも、2種以上由来の領域を組み合わせた抗体を意味する。例えば、“キメラ抗体”には、伝統的に、マウス(またはいくつかの場合に、ラット)由来の可変領域(複数可)およびヒト由来の定常領域(複数可)が含まれる。“ヒト化抗体”は、一般的に、ヒト抗体中に見出される配列に置換した可変ドメインフレームワーク領域を有している非ヒト抗体を意味する。一般的に、ヒト化抗体において、CDRを除く抗体全体は、ヒト起源のポリヌクレオチドによりコードされるか、またはそのCDR内を除いてそのような抗体と同一である。そのいくつかまたは全てが非ヒト生物に由来する核酸によりコードされるCDRは、ヒト抗体可変領域のベータ−シートフレームワークに移植され、抗体を作製し、その特異性は、移植したCDRにより決定される。そのような抗体の作製は、例えば、WO92/11018、Jones, 1986, Nature 321:522−525, Verhoeyen et al., 1988, Science 239:1534−1536に記載される。対応するドナー残基への選択したアクセプターフレームワーク残基の“復帰突然変異(Backmutation)”は、しばしば、初期の移植したコンストラクトで欠失している親和性を再び得るのに必要である(US5530101;US5585089;US5693761;US5693762;US6180370;US5859205;US5821337;US6054297;US6407213)。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部を含み、故に、ヒトFc領域を典型的に含むだろう。ヒト化抗体はまた、遺伝子組み換えされた免疫系を有するマウスを用いて作製され得る(Roque et al., 2004, Biotechnol. Prog. 20:639−654)。非ヒト抗体のヒト化および再形成のための様々な技術および方法は、当技術分野でよく知られている(Tsurushita & Vasquez, 2004, Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells, 533−545, Elsevier Science(USA)およびそこで引用される文献)。ヒト化方法には、Jones et al., 1986, Nature 321:522−525;Riechmann et al.,1988;Nature 332:323−329;Verhoeyen et al., 1988, Science, 239:1534−1536;Queen et al., 1989, Proc Natl Acad Sci, USA 86:10029−33;He et al., 1998, J. Immunol. 160: 1029−1035;Carter et al., 1992, Proc Natl Acad Sci USA 89:4285−9, Presta et al., 1997, Cancer Res.57(20):4593−9;Gorman et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4181−4185;O’Connor et al., 1998, Protein Eng 11:321−8に記載の方法が含まれるが、それらに限定されない。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を減じるヒト化または他の方法には、例えば、Roguska et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:969−973に記載の表面再形成(resurfacing)方法が含まれ得る。1つの態様において、親抗体は、当技術分野で公知の通り、成熟した親和性を有する。構造に基づく方法は、例えばUSSN11/004,590に記載のヒト化および親和性成熟に用いられ得る。選択に基づく方法は、Wu et al., 1999, J. Mol. Biol. 294:151−162;Baca et al., 1997, J. Biol. Chem. 272(16):10678−10684;Rosok et al., 1996, J. Biol. Chem. 271(37): 22611−22618;Rader et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 8910−8915;Krauss et al., 2003, Protein Engineering 16(10):753−759に記載の方法を含むが、これらに限定されない、抗体可変領域のヒト化および/または親和性成熟に用いられ得る。他のヒト化方法は、USSN09/810,502;Tan et al., 2002, J. Immunol. 169:1119−1125;De Pascalis et al., 2002, J. Immunol. 169:3076−3084に記載の方法を含むが、これらに限定されない、CDRの一部のみの移植を伴い得る。
【0091】
二重特異的抗体
1つの態様において、本発明の多特異的抗体、特に二重特異的抗体はまた、“二重抗体”と称されることもある。これらは、2個(またはそれ以上)の異なる抗原に結合する抗体である。二重抗体は、当技術分野で公知の様々な方法で製造することができ(Holliger and Winter, 1993, Current Opinion Biotechnol. 4:446−449)、例えば化学的に、またはハイブリッド・ハイブリドーマ(hybrid hybridoma)から製造することができる。
【0092】
ミニボディ
1つの態様において、抗体はミニボディである。ミニボディは、CH3ドメインに結合したscFvを含む最小化抗体様タンパク質である(Hu et al., 1996, Cancer Res. 56:3055−3061)。いくつかの場合に、scFvは、Fc領域と結合することができ、ヒンジ領域のいくつかまたは全てを包含し得る。
【0093】
ヒト抗体
1つの態様において、抗体は、本明細書に記載の通り、少なくとも1個の修飾を有する全長ヒト抗体である。“全長ヒト抗体”または“完全ヒト抗体”は、本明細書に記載の修飾を有するヒト染色体に由来する抗体の遺伝子配列を有するヒト抗体を意味する。
【0094】
抗体融合体
1つの態様において、本発明の抗体は、抗体融合タンパク質(本明細書中、“抗体複合体”と称されることもある)である。抗体融合体の1つのタイプは、結合パートナーを有するFc領域を連結するFc融合体を含む。本明細書で記載の“Fc融合体”は、1個以上のポリペプチドが、Fc領域に作動可能に連結されるタンパク質を意味する。本明細書中、Fc融合体は、従来技術(Chamow et al., 1996, Trends Biotechnol 14:52−60;Ashkenazi et al., 1997, Curr Opin Immunol 9:195−200)で用いる通り、用語“免疫アドヘシン(immunoadhesin)”、“Ig融合体”、“Igキメラ”、および“受容体グロブリン”(ダッシュを付けることもある)と同義の意味である。Fc融合体は、一般的に、何れかのタンパク質または小分子であり得る融合パートナーを有する免疫グロブリンのFc領域を結合する。実際、何れかのタンパク質または小分子はFcと結合し、Fc融合体を作製し得る。タンパク質融合パートナーには、何れかの抗体の可変領域、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカイン、または他のタンパク質もしくはタンパク質ドメインが含まれ得るが、それらに限定されない。小分子融合パートナーは、Fc融合体を治療標的に向ける何れかの治療剤を含み得る。かかる標的は、疾患に関与する何れかの分子、好ましくは細胞外受容体であり得る。
【0095】
Fc融合体に加えて、抗体融合体は、重鎖の定常領域と、1個以上の融合パートナー(何れかの抗体の可変領域をさらに含む)の融合を含むが、一方、他の抗体融合体は、融合パートナーを有する実質的または完全な全長抗体である。1つの態様において、融合パートナーの役割は標的結合を仲介することであり、故に、それは、抗体の可変領域に機能的に類似する(そして、実際抗体可変領域であり得る)。実際、何れかのタンパク質または小分子は、Fcと結合してFc融合体(または抗体融合体)を作製し得る。タンパク質融合パートナーは、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカインまたはいくつかの他のタンパク質またはタンパク質ドメインを含み得るが、それらに限定されない。小分子融合パートナーは、Fc融合体を治療標的に向ける何れかの治療剤を含み得る。かかる標的は、疾患に関与する何れかの分子、好ましくは細胞外受容体であり得る。
【0096】
結合パートナーは、タンパク性または非タンパク性であり得る;後者は、一般的に、抗体および結合パートナー上の官能基を用いて作製される。例えばリンカーは、当技術分野で公知である;例えば、ホモ−またはヘテロ−二官能性リンカーが、よく知られている(1994 Pierce Chemical Company catalog, technical section on cross−linkers, pages 155−200を参照のこと、参照により本明細書中に包含される)。
【0097】
適する複合体には、下記の標識、薬剤、ならびに細胞毒性剤(例えば、化学療法剤)または毒物またはかかる毒物の活性断片を含むが、これらに限定されない細胞毒性物質が含まれるが、それらに限定されない。適する毒物およびそれらの対応する断片には、ジフテリアA鎖、エクソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシンなどが含まれる。細胞毒性物質にはまた、放射性同位体と抗体を結合すること、または放射性核種と抗体に共有結合しているキレート剤を結合することにより作製される放射性化学物質が含まれる。さらなる態様が、カリケミシン、オーリスタチン(auristatin)、ゲルダナマイシン、マイタンシン、ならびにデュオカルマイシンおよび類似体を利用する;後者に関して、U.S.2003/0050331を参照のこと、参照によりその全体が本明細書中に包含される。
【0098】
抗体の共有結合修飾(Covalent modification)
抗体の共有結合修飾は、本発明の範囲内に包含され、常にではないが一般的に、翻訳後に行われる。例えば、抗体の共有結合修飾のいくつかのタイプは、抗体の特定のアミノ酸残基を、選択した側鎖またはN−もしくはC−末端残基と反応し得る有機誘導体化剤と反応させることにより分子内に導入される。
【0099】
システイニル残基は、最も一般的に、α−ハロ酢酸(および対応するアミン)、例えばクロロ酢酸またはクロロアセトアミドと反応し、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を生じる。システイニル残基はまた、ブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾイル)プロピオン酸、リン酸クロロアセチル、N−アルキルマレイミド、3−ニトロ−2−ピリジルジスルフィド、メチル−2−ピリジルジスルフィド、p−クロロ水銀ベンゾエート、2−クロロ水銀−4−ニトロフェノールまたはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールとの反応により誘導される。
【0100】
ヒスチジル残基は、ヒスチジル側鎖と比較的特異的に反応するピロ炭酸ジエチルとのpH5.5−7.0での反応により誘導される。臭化パラフェンアシルブロミドも有用である;反応は、好ましくは0.1Mカコジル酸ナトリウム中、pH6.0にて行われる。
【0101】
リシニル(Lysinyl)およびアミノ末端残基を、無水コハク酸または他のカルボン酸無水物と反応させる。これらの物質を用いる誘導体化は、リシニル残基の荷電を逆にする効果を有する。アルファ−アミノ含有残基を誘導体化するのに適する他の反応剤には、メチルピコリンイミダート;ピリドキサルリン酸;ピリドキサール;クロロボロハイドライド;トリニトロベンゼンスルホン酸;O−メチルイソウレア;2,4−ペンタンジオンのようなイミドエステル、ならびにグリオキシル酸とのトランスアミナーゼ触媒反応が含まれる。
【0102】
アルギニル残基は、1個またはいくつかの常套反応剤(とりわけ、フェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオンおよびニンヒドリン)との反応により修飾される。アルギニン残基の誘導体化は、グアニジン官能基が高pKaであるためにアルカリ性条件で行うことが必要である。さらに、これらの反応剤は、リシンの複数の基ならびにアルギニン イプシロン−アミノ基と反応し得る。
【0103】
チロシル残基の特異的修飾を、特に関心を持って、芳香族性ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によりチロシル残基中にスペクトル標識を導入することにより作製することができる。最も一般的には、N−アセチルイミジゾール(acetylimidizole)およびテトラニトロメタンを、それぞれO−アセチルチロシル種および3−ニトロ誘導体を形成するために用いる。チロシル酸基を、ラジオイムノアッセイである、適する上記のクロラミンT法に用いるための標識したタンパク質を調製するために125Iまたは131Iを用いてヨウ素化する。
【0104】
カルボキシル側基(アスパルチルまたはグルタミル)は、カルボジイミド(R’N=C=N――R’)(式中、RおよびR’は、所望により、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミドのような異なるアルキル基であり得る。)との反応により選択的に修飾される。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応によりアスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。
【0105】
二官能性物質を用いる誘導体化は、下記の方法に加えて、様々な方法での使用のために抗体を不水溶性支持マトリックスまたは表面に架橋させるのに有用である。常用される架橋剤には、例えば、1,1−ビス(ジアゾアセチル)−2−フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、例えば、4−アジドサリチル酸とのエステル、3,3’−ジチオビス(サクシンイミジルプロピオネート)のようなジサクシンイミジルエステルを含むホモ二官能性イミドエステル、およびビス−N−マレイミド−1,8−オクタンのような二官能性マレイミドが含まれる。メチル−3−[(p−アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデートのような誘導体化剤は、光の存在下で架橋を形成し得る光活性化中間体を生じる。あるいは、臭化シアン活性化炭水化物のような反応性不水溶性マトリックスおよび米国特許番号第3,969,287号;同第3,691,016号;同第4,195,128号;同第4,247,642号;同第4,229,537号;および、同第4,330,440号に記載の反応基質を、タンパク質固定化に用いる。
【0106】
グルタミニルおよびアスパラギニル残基は、しばしば、それぞれ対応するグルタミルおよびアスパルチル残基に脱アミド化される。あるいは、これらの残基は、弱酸性条件下で脱アミド化される。これらの残基の形態はどちらも、本発明の範囲内である。
【0107】
他の修飾には、プロリンおよびリシンのヒドロキシル化、セリルまたはトレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リシン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T. E. Creighton, Proteins: Structure and Molecular Properties, W. H. Freeman & Co., San Francisco, pp. 79−86 [1983])、N末端アミンのアセチル化、ならびに何れかのC末端カルボキシル基のアミド化が含まれる。
【0108】
グリコシル化
共有結合修飾の別のタイプは、グリコシル化である。他の態様において、本明細書に記載のIgG変異体は、1個以上の改変された糖鎖(engineered glycoform)を含むように修飾され得る。本明細書で用いる“改変された糖鎖”は、IgGと共有結合する炭水化物組成物を意味し、ここで該炭水化物組成物は、親IgGのそれと化学的に異なる。改変された糖鎖は、エフェクター機能を増強するかまたは減少することを含むが、これらに限定されない様々な目的に有用であり得る。改変された糖鎖は、当技術分野で公知の様々な方法により作製され得る(Umana et al., 1999, Nat Biotechnol 17:176−180;Davies et al., 2001, Biotechnol Bioeng 74:288−294;Shields et al., 2002, J Biol Chem 277:26733−26740;Shinkawa et al., 2003, J Biol Chem 278:3466−3473;US6,602,684;USSN10/277,370;USSN10/113,929;PCT WO00/61739A1;PCT WO01/29246A1;PCT WO02/31140A1;PCT WO02/30954A1;PotelligentTM technology [Biowa, Inc., Princeton, NJ];GlycoMAb(登録商標)glycosylation engineering technology [Glycart Biotechnology AG, Zuerich, Switzerland])。多くのこれらの技術は、例えば、様々な生物、または遺伝子組み換えもしくは他の方法の細胞株(例えば、Lec−13 CHO細胞またはラットハイブリドーマYB2/0細胞)中でIgGを発現させることによるか、またはグリコシル化経路に関与する酵素(例えば、FUT8[α1,6−フコシルトランスフェラーゼ]および/またはβ1−4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII[GnTIII])を調節することによるか、またはIgGが発現された後、炭水化物(複数可)を修飾することにより、Fc領域に共有結合するオリゴ糖のフコシル化レベルを制御すること、および/またはそれを2つに切断することに基づく。改変された糖鎖は、典型的に、異なる炭水化物またはオリゴ糖を意味する;故に、IgG変異体、例えば抗体またはFc融合体は、改変された糖鎖に包含され得る。あるいは、改変された糖鎖は、異なる炭水化物またはオリゴ糖を含むIgG変異体を意味し得る。当技術分野で公知の通り、グリコシル化パターンは、タンパク質の配列(例えば、下記の特定のグリコシル化アミノ酸残基の存在または不存在)、または該タンパク質を産生する宿主細胞もしくは生物に依存し得る。特定の発現系を以下に記載する。
【0109】
ポリペプチドのグリコシル化は、典型的に、N結合またはO結合のいずれかである。N結合は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付加を意味する。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−トレオニン(式中、Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である。)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。故に、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列の何れかの存在は、可能性のあるグリコシル化部位をもたらす。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはトレオニンであるが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用可能である。)への糖の一種(N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロース)の付加を意味する。
【0110】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、(N結合グリコシル化部位のために)1個以上の上記トリペプチド配列を含むようにアミノ酸配列を改変することにより都合よく達成される。該改変はまた、(O結合グリコシル化部位のために)出発配列への1個以上のセリンまたはトレオニン残基の付加または置換により成され得る。簡単には、抗体のアミノ酸配列を、好ましくはDNAレベルでの変化により、特に、コドンが所望のアミノ酸に翻訳され得るように作製されるように予め選択された塩基にて、標的ポリペプチドをコードするDNAを変異させることにより、改変する。
【0111】
抗体上の炭水化物部分の数を増加する他の手段は、タンパク質へのグリコシドの化学的または酵素的カップリングによる。これらの方法は、NおよびO結合グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞におけるタンパク質の産生を必要としない点で有利である。用いるカップリング法に依存して、糖(糖類)を、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインの一部のような遊離スルフヒドリル基、(d)セリン、トレオニンまたはヒドロキシプロリンの一部のような遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトランの一部のような芳香族性残基、または(f)グルタミンのアミド基に結合させることができる。これらの方法は、1987年9月11日刊行のWO87/05330およびAplin and Wriston, 1981, CRC Crit. Rev. Biochem., pp. 259−306に記載される。
【0112】
出発抗体上に存在する炭水化物部分の除去を、化学的または酵素的に達成することができる。化学的脱グリコシル化は、トリフルオロメタンスルホン酸化合物、または等価化合物へのタンパク質の暴露を必要とする。この処理により、結果として、架橋している糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)を除くほとんどまたは全ての糖鎖が切断されるが、一方、ポリペプチドは無傷のままである。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin et al., 1987, Arch. Biochem. Biophys. 259:52、およびEdge et al., 1981, Anal. Biochem. 118:131に記載される。ポリペプチド上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakura et al., 1987, Meth. Enzymol. 138:350に記載の通り、様々なエンド−およびエキソ−グリコシダーゼの使用により達成され得る。可能性のあるグリコシル化部位でのグリコシル化は、Duskin et al., 1982, J. Biol. Chem. 257:3105に記載の通り、ツニカマイシン化合物の使用により阻止することができる。ツニカマイシンは、タンパク質−N−グリコシド結合の形成を妨げる。
【0113】
抗体の共有結合修飾の他のタイプは、米国特許第4,640,835号;同第4,496,689号;同第4,301,144号;同第4,670,417号;同第4,791,192号または同第4,179,337号に記載の方法で、抗体を、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンのような様々なポリオールを含むが、これらに限定されない様々な非タンパク性ポリマーに結合することを含む。さらに、当技術分野で公知の通り、アミノ酸置換を、PEGのようなポリマーの付加を促進するために抗体内の様々な部位に行うことができる。例えば、米国特許公開番号2005/0114037(参照によりその全体が本明細書中に包含される)を参照のこと。
【0114】
標識抗体
いくつかの態様において、本発明の抗体の共有結合修飾は、1個以上の標識の付加を含む。いくつかの場合において、これらは、抗体融合体と見なされる。
【0115】
用語“標識基”は、何れかの検出可能な標識を意味する。いくつかの態様において、標識基を、可能性のある立体障害を減じるために様々な長さのスペーサーアームを介して抗体と結合させる。タンパク質を標識するための多様な方法が、当技術分野で公知であり、本発明の実施に用いられ得る。
【0116】
一般的に、標識は、それらが検出される分析に依存して様々なクラスに分類される:a)放射性同位体または重同位体であり得るアイソトープ標識;b)磁気標識(例えば、磁性粒子);c)レドックス活性部分;d)光学色素;酵素群(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ);e)ビオチン化基;および、f)二次レポーターにより認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー塩基対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグなど)。いくつかの態様において、標識基を、可能性のある立体障害を減じるために様々な長さのスペーサーアームを介して抗体と結合させる。タンパク質を標識するための多様な方法が、当技術分野で公知であり、本発明の実施において用いられ得る。
【0117】
特定の標識は、発色団、蛍光体およびフルオロフォアを含むが、これらに限定されない光学色素を含み、多くの例において特に後者である。フルオロフォアは、“小分子”蛍光物質、またはタンパク性蛍光物質のどちらかであり得る。
【0118】
“蛍光標識”は、その固有の蛍光特性により検出され得る何れかの分子を意味する。適する蛍光標識には、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチル−クマリン、ピレン、マラカイトグリーン(Malacite green)、スチルベン、黄色蛍光色素(Lucifer Yellow)、Cascade BlueJ、テキサスレッド、IAEDANS、EDANS、BODIPY FL、LC Red 640、Cy5、Cy5.5、LC Red 705、Oregon green、Alexa−Fluor色素(Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680)、Cascade Blue、Cascade YellowおよびR−フィコエリトリン(PE)(Molecular Probes, Eugene, OR)、FITC、ローダミン、およびテキサスレッド(Pierce, Rockford, IL)、Cy5、Cy5.5、Cy7(Amersham Life Science, Pittsburgh, PA)が含まれるが、それらに限定されない。適するフルオロフォアを含む光学色素は、Richard P. HauglandのMolecular Probes Handbook(参照により本明細書中に明示的に包含される)に記載される。
【0119】
適するタンパク性蛍光標識にはまた、ウミシイタケ(Renilla)種、ウミエラ(Ptilosarcus)種、またはオワンクラゲ(Aequorea)種のGFPを含む緑色蛍光タンパク質(Chalfie et al., 1994, Science 263:802−805)、EGFP(Clontech Laboratories, Inc., Genbank受託番号U55762)、青色蛍光タンパク質(BFP、Quantum Biotechnologies, Inc. 1801 de Maisonneuve Blvd. West, 8th Floor, Montreal, Quebec, Canada H3H 1J9;Stauber, 1998, Biotechniques 24:462−471;Heim et al., 1996, Curr. Biol. 6:178−182)、増強黄色蛍光タンパク質(EYFP、Clontech Laboratories, Inc.)、ルシフェラーゼ(Ichiki et al., 1993, J. Immunol. 150:5408−5417)、β−ガラクトシダーゼ(Nolan et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:2603−2607)およびウミシイタケ(WO92/15673、WO95/07463、WO98/14605、WO98/26277、WO99/49019、米国特許番号第5292658号、同第5418155号、同第5683888号、同第5741668号、同第5777079号、同第5804387号、同第5874304号、同第5876995号、同第5925558号)が含まれるが、それらに限定されない。上記の引用文献は全て、参照により本明細書中に明示的に包含される。
【0120】
任意の変異体において、抗体とは、認識された免疫グロブリン遺伝子の全てまたは一部により実質的にコードされる1個以上のポリペプチドからなるタンパク質を意味し得る。例えばヒトにおいて認識された免疫グロブリン遺伝子には、無数の可変領域遺伝子、ならびに定常領域遺伝子である、IgM、IgD、IgG(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)、IgE、およびIgA(IgA1およびIgA2)イソ型それぞれによりコードされるミュー(μ)、デルタ(δ)、ガンマ(γ)、シグマ(σ)およびアルファ(α)を共に含む、カッパ(κ)、ラムダ(λ)および重鎖遺伝子領域が含まれる。本明細書中、抗体は、全長抗体および抗体断片を含むことを意味し、何れかの生物由来の天然抗体、改変された抗体、または実験目的、治療目的または他の目的で組み換え的に作製された抗体を意味し得る。
【0121】
Fc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して1個以上のアミノ酸修飾を含み、ここで、該アミノ酸修飾(複数可)は、1個以上の最適化特性を提供する。本発明のFc変異体は、少なくとも1個のアミノ酸修飾によりその親IgGと異なるアミノ酸配列である。故に、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して少なくとも1個のアミノ酸修飾を有する。あるいは、本発明のFc変異体は、親Fcポリペプチドと比較して2個以上のアミノ酸修飾、例えば約1個ないし5個のアミノ酸修飾、好ましくは約1個ないし10個のアミノ酸修飾、最も好ましくは約1個ないし約5個のアミノ酸修飾を有し得る。故に、Fc変異体の配列および親Fcポリペプチドの配列は、実質的に相同性である。例えば、本明細書中、変異体Fcの変異体配列は、親Fc変異体配列と約80%の相同性、好ましくは少なくとも約90%の相同性、最も好ましくは少なくとも約95%の相同性を有し得る。修飾を、分子生物学を用いて遺伝子組み換え的に行うか、または酵素的または化学的に行うことができる。
【0122】
本発明のFc変異体は、それらを構成するアミノ酸修飾に従って定義される。故に、例えばI332Eは、親Fcポリペプチドと比較してI332E置換を含むFc変異体である。同様に、S239D/A330L/I332Eは、親Fcポリペプチドと比較してS239D、A330LおよびI332E置換を含むFc変異体を定義する。置換が供される順序は任意であり、すなわち、例えば、S239D/A330L/I332Eは、S239D/I332E/A330Lなどと同じFc変異体であることが特記される。本発明で検討する全ての位置について、番号付けは、EU indexまたはEU番号付けスキームに従う(Kabat et al., 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., United States Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。EU indexまたはKabatに記載のEU indexまたはEU番号付けスキームとは、EU抗体の番号付けを意味する(Edelman et al., 1969, Proc Natl Acad Sci USA 63:78−85、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0123】
本発明のFc変異体は、何らかの生物、好ましくはヒトを含むがそれに限定されない哺乳動物、マウスおよびラットを含むがそれらに限定されないげっ歯動物、ウサギおよび野ウサギを含むがそれらに限定されないウサギ目(lagomorpha)、ラクダ、ラマおよびヒトコブラクダを含むがそれらに限定されないラクダ科(camelidae)、ならびに原猿(Prosimian)、広猿類(Platyrrhini)(新世界サル)、オナガザル上科(Cercopithecoidea)(旧世界サル)、ならびにギボンズおよび小型および大型類人猿を含むヒト上科を含むがそれらに限定されない非ヒト霊長動物由来の遺伝子により実質的にコードされ得る。最も好ましい態様において、本発明のFc変異体は、実質的にヒトのものである。
【0124】
親Fcポリペプチドは、抗体であり得る。親抗体は、例えば遺伝子組み換えマウス(Bruggemann et al., 1997, Curr Opin Biotechnol 8:455−458、参照によりその全体が本明細書中に包含される)または選択方法と一体となったヒト抗体ライブラリー(Griffiths et al., 1998, Curr Opin Biotechnol 9:102−108、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を用いて得られる、完全長ヒト抗体であり得る。親抗体は、天然に存在する必要はない。例えば、親抗体は、キメラ抗体およびヒト化抗体(Clark, 2000, Immunol Today 21:397−402、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を含むがそれらに限定されない遺伝子組み換えにより作製された抗体であり得る。親抗体は、1個以上の天然抗体遺伝子によって実質的にコードされる遺伝子組み換え的に作製された抗体変異体であり得る。1つの態様において、親抗体は、当技術分野で公知の通り、成熟した親和性を有する。あるいは、抗体は、いくつかの他の方法で、例えば2003年3月3日出願のUSSN10/339788(参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の通りに修飾されている。
【0125】
本発明のFc変異体は、何れかの抗体クラスに属する免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされ得る。好ましい態様において、本発明のFc変異体を、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4を含む抗体のIgGクラスに属する配列を含む抗体またはFc融合体に使用する。図3は、これらのヒトIgG配列のアライメントを提供する。別の態様において、本発明のFc変異体を、IgA(IgA1およびIgA2サブクラスを含む)、IgD、IgE、IgGまたはIgMの抗体クラスに属する配列を含む抗体またはFc融合体に使用する。本発明のFc変異体は、2個以上のタンパク質鎖を含み得る。すなわち、本発明を、モノマー、またはホモ−もしくはヘテロ−オリゴマーを含むオリゴマーである抗体またはFc融合体に用い得る。
【0126】
当技術分野でよく知られている通り、ヒト集団には免疫グロブリン多型が存在する。Gm多型は、ヒトIgG1、IgG2およびIgG3分子のマーカーのためのG1m、G2mおよびG3mアロタイプ(Gmアロタイプは、ガンマ4鎖上に見出されていない)と称されるアロタイプ抗原決定基をコードするアレルを有するIGHG1、IGHG2およびIGHG3遺伝子により決定される。マーカーは、‘アロタイプ’および‘イソアロタイプ’に分類され得る。これらは、イソ型間の強い配列相同性に依存して異なる血清学的塩基に区別される。アロタイプは、Ig遺伝子のアレル形態により特定される抗原決定基である。アロタイプは、異なる個々の重鎖または軽鎖のアミノ酸配列中にわずかな差異を示す。単一のアミノ酸差異でも、アロタイプ決定基を形成し得るが、多くの場合、いくつかのアミノ酸置換が起こっている。アロタイプは、血清がアレルの差異のみを認識する、サブクラスのアレル間の配列の差異である。イソアロタイプは、1個以上の他のイソ型の非多型相同性領域と共有されるエピトープを生じる1個のイソ型におけるアレルであり、このため、血清は、関連アロタイプおよび関連相同性イソ型の両方と反応し得る(Clark, 1997, IgG effector mechanisms, Chem Immunol. 65:88−110; Gorman & Clark, 1990, Semin Immunol 2(6):457−66、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0127】
ヒト免疫グロブリンのアレル形態は、よく特徴付けられている(WHO Review of the notation for the allotypic and related markers of human immunoglobulins. J Immunogen 1976, 3: 357−362; WHO Review of the notation for the allotypic and related markers of human immunoglobulins. 1976, Eur. J. Immunol. 6, 599−601; Loghem E van, 1986, Allotypic markers, Monogr Allergy 19: 40−51、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。さらに、他の多型が特徴付けられている(Kim et al., 2001, J. Mol. Evol. 54:1−9、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。現在、18個のGmアロタイプが知られている:G1m(1、2、3、17)またはG1m(a、x、f、z)、G2m(23)またはG2m(n)、G3m(5、6、10、11、13、14、15、16、21、24、26、27、28)またはG3m(b1、c3、b5、b0、b3、b4、s、t、g1、c5、u、v、g5)(Lefranc, et al., The human IgG subclasses: molecular analysis of structure, function and regulation. Pergamon, Oxford, pp. 43−78 (1990); Lefranc, G. et al., 1979, Hum. Genet.: 50, 199−211、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。固定された組み合わせで遺伝するアロタイプは、Gmハプロタイプと称される。
【0128】
図4は、位置および関連アミノ酸置換を示すヒトIgG1のガンマ1鎖のアロタイプおよびイソアロタイプを示す(Gorman & Clark, 1990, Semin Immunol 2(6):457−66、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。比較のため、ヒトIgG2、IgG3およびIgG4ガンマ鎖中の等価な位置に見出されるアミノ酸も示す。
【0129】
本発明のFc変異体は、何れかの免疫グロブリン遺伝子の何れかのアロタイプまたはイソアロタイプにより実質的にコードされ得る。好ましい態様において、本発明のFc変異体は、G1m(1)、G1m(2)、G1m(3)、G1m(17)、nG1m(1)、nG1m(2)、および/またはnG1m(17)に分類されるIgG1配列を含む抗体またはFc融合体に用いられる。故に、IgG1イソ型において、本発明のFc変異体には、214位にLys(G1m(17))またはArg(G1m(3))、431位にAsp356/Leu358(G1m(1))もしくはGlu356/Met358(nG1m(1))、および/またはGly(G1m(2))もしくはAla(nG1m(2))が含まれる。
【0130】
最も好ましい態様において、本発明のFc変異体は、ヒトIgG配列に基づき、そのためヒトIgG配列は、他の配列が比較される、他の生物、例えばげっ歯動物および霊長類由来の配列を含むが、それらに限定されない“ベース”配列として用いられる。Fc変異体はまた、IgA、IgE、IgD、IgMなどのような他の免疫グロブリンクラス由来の配列を含み得る。本発明のFc変異体は、ある親IgGに照らして製造されるが、該変異体は、別の、第二の親IgGに照らして製造または“変換”され得ることが考慮される。これは、一般的に、第一と第二のIgG配列間の配列または構造同一性に基づき、第一と第二のIgG間の“等価”または“対応する”残基および置換基を決定することにより行われる。相同性を確立するために、本明細書に概説する第一のIgGのアミノ酸配列を、第二のIgGの配列と直接比較する。アライメントを維持するために必要な挿入および欠失を考慮し(すなわち、任意の欠失および挿入による保存残基の除去を避けて)、当技術分野で公知の1個以上の相同性アライメントプログラムを用いて(例えば、種間で保存された残基を用いて)配列をアライメント後、第一のFc変異体の初めの配列において特定のアミノ酸と等価の残基が定義される。保存残基のアライメントは、好ましくはかかる残基の100%を保存すべきである。しかしながら、保存残基の75%以上またはわずか50%程度のアライメントも、等価残基を定義するのに適する。等価残基はまた、構造が決定されているIgGの三次構造レベルで、第一と第二のIgG間の構造的相同性を決定することにより定義され得る。この場合に、等価残基は、親または前駆体の特定のアミノ酸残基の2個以上の主鎖原子(NとN、CAとCA、CとCおよびOとO)の原子座標が、アライメント後、約0.13nm以内、好ましくは約0.1nmであると定義される。アライメントは、ベストモデルが、タンパク質の非水素タンパク質原子の原子座標の最大重複を与えるように方向および位置付けされた後、達成される。等価または対応残基をどのように決定するかに関わらず、かつIgGが作製される親IgGの同一性に関わらず、伝えられるべきであるとされていることは、本発明により見出されたFc変異体を、重要な配列またはFc変異体と構造的相同性を有する何れかの第二の親IgGに改変することができることである。故に、例えば、変異体抗体を、上記の方法または等価残基を決定するための他の方法を用いることにより作製するとき(ここで、親抗体はヒトIgG1である。)、変異体抗体は、異なる抗原を結合する別のIgG1親抗体、ヒトIgG2親抗体、ヒトIgA親抗体、マウスIgG2aまたはIgG2b親抗体などに改変され得る。さらに、上記の通り、親Fc変異体においては、本発明のFc変異体を他の親IgGに転換する能力に影響しない。
【0131】
実質的には、下記の標的リストに属するタンパク質、サブユニット、ドメイン、モチーフおよび/またはエピトープが含まれるが、それらに限定されない全ての抗原は、本発明のFc変異体により標的とされ得る:17−IA、4−1BB、4Dc、6−ケト−PGF1a、8−イソ−PGF2a、8−オキソ−dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE−2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK−2、アクチビンRIB ALK−4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK−1、ALK−7、アルファ−1−アンチトリプシン、アルファ−V/ベータ−1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF−1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7−1、B7−2、B7−H、B−リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE−1、Bad、BAFF、BAFF−R、Bag−1、BAK、Bax、BCA−1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b−ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL−CAM、BLK、BMP、BMP−2 BMP−2a、BMP−3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP−4 BMP−2b、BMP−5、BMP−6 Vgr−1、BMP−7(OP−1)、BMP−8(BMP−8a、OP−2)、BMPR、BMPR−IA(ALK−3)、BMPR−IB(ALK−6)、BRK−2、RPK−1、BMPR−II(BRK−3)、BMP、b−NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE−DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD−8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、
【0132】
CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7−1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8−1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN−1、COX、C−Ret、CRG−2、CT−1、CTACK、CTGF、CTLA−4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC−SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1−3)−IGF−I(脳IGF−1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM−1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA−A1、EDA−A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB−1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E−セレクチン、ET−1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN−1、フェリチン、FGF、FGF−19、FGF−2、FGF3、FGF−8、FGFR、FGFR−3、フィブリン、FL、FLIP、Flt−3、Flt−4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP−2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF−1、GDF−3(Vgr−2)、GDF−5(BMP−14、CDMP−1)、GDF−6(BMP−13、CDMP−2)、GDF−7(BMP−12、CDMP−3)、GDF−8(ミオスタチン)、GDF−9、GDF−15(MIC−1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa−1、GFR−アルファ1、GFR−アルファ2、GFR−アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM−CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP−capまたはNIP−cap)、
【0133】
HB−EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)、Her4(ErbB−4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW−MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA−DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I−309、IAP、ICAM、ICAM−1、ICAM−3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF−1R、IGFBP、IGF−I、IGF−II、IL、IL−1、IL−1R、IL−2、IL−2R、IL−4、IL−4R、IL−5、IL−5R、IL−6、IL−6R、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13、IL−15、IL−18、IL−18R、IL−23、インターフェロン(INF)−アルファ、INF−ベータ、INF−ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP−10、I−TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF−1)、潜在的TGF−1、潜在的TGF−1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス−Y抗原、ルイス−Y関連抗原、LFA−1、LFA−3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L−セレクチン、LT−a、LT−b、LTB4、LTBP−1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac−1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK−2、MCP、M−CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA−DR)、MIF、MIG、MIP、MIP−1−アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP−1、MMP−10、MMP−11、MMP−12、MMP−13、
【0134】
MMP−14、MMP−15、MMP−2、MMP−24、MMP−3、MMP−7、MMP−8、MMP−9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N−カドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン−3,−4、または−6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF−ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG−3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P−Cadherin、PCNA、PDGF、PDGF、PDK−1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF−1、SERINE、血清アルブミン、sFRP−3、Shh、SIGIRR、SK−1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP−II、TACE、TACI、TAG−72(腫瘍関連糖タンパク質−72)、TARC、TCA−3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF−アルファ、TGF−ベータ、TGF−ベータ Pan 特異的、TGF−ベータRI(ALK−5)、TGF−ベータRII、TGF−ベータRIIb、TGF−ベータRIII、TGF−ベータ1、TGF−ベータ2、TGF−ベータ3、TGF−ベータ4、TGF−ベータ5、トロンビン、胸腺Ck−1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF−アルファ、TNF−アルファベータ、TNF−ベータ2、TNFc、TNF−RI、TNF−RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo−2、DR4)、
【0135】
TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK−2A、TRICK−B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55−60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75−80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo−1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4−1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo−3、LARD、TR−3、TRAMP、WSL−1)、TNFSF10(TRAIL Apo−2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo−3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF−a コネクチン、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF−b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo−1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4−1BBリガンド CD137リガンド)、TP−1、t−PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL−R1、TRAIL−R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP−2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR−1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM−1、VECAD、VE−Cadherin、VE−cadherin−2、VEFGR−1(flt−1)、VEGF、VEGFR、VEGFR−3(flt−4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA−1、VLA−4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF−1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、ならびにホルモンおよび成長因子のための受容体。
【0136】
本発明は、様々な治療的に関連のある特性について最適化されるFc変異体を提供する。1個以上の最適化特性を示すように組み込まれるまたは予測されるFc変異体は、本明細書中、“最適化Fc変異体”と称される。最適化され得る特性には、FcγRに対する増大または減少した親和性が含まれるが、これらに限定されない。好ましい態様において、本発明のFc変異体は、ヒト活性化FcγR、好ましくはFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIc、FcγRIIIaおよびFcγRIIIb、最も好ましくはFcγRIIIaに対して増加した親和性を有するように最適化される。別の好ましい態様において、Fc変異体は、ヒト阻害性受容体 FcγRIIbに対して減少した親和性を有するように最適化される。これらの好ましい態様は、例えばヒトにおける増大した治療特性を有するIgGポリペプチドを提供することが予想される。別の態様において、本発明のFc変異体は、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIc、FcγRIIIa、およびFcγRIIIbを含むが、これらに限定されないヒトFcγRに対する減少または低下した親和性を有するように最適化される。これらの態様は、ヒトにおける増強された治療特性、例えば減少したエフェクター機能および減少した毒性を有するIgGポリペプチドを提供することが予定される。他の態様において、本発明のFc変異体は、1種以上のFcγRに対して増大した親和性を提供するが、1個以上の他のFcγRに対して減少した親和性を提供する。例えば、本発明のFc変異体は、FcγRIIIaに対して増大した結合を有し得るが、FcγRIIbに対して減少した結合を有し得る。あるいは、本発明のFc変異体は、FcγRIIaおよびFcγRIに対して増大した結合を有し得るが、FcγRIIbに対して減少した結合を有し得る。さらに別の態様において、本発明のFc変異体は、FcγRIIbに対して増大した親和性を有し得るが、1個以上の活性化FcγRに対して減少した親和性を有し得る。
【0137】
好ましい態様には、ヒトFcγRとの結合の最適化が含まれるが、別の態様において、本発明のFc変異体は、げっ歯動物および非ヒト霊長動物を含むが、これらに限定されない非ヒト生物由来のFcγRに対して増大または減少した親和性を有する。非ヒトFcγRとの結合を最適化されるFc変異体は、実験で使用され得る。例えば、マウスモデルは、所定の薬剤候補についての効果、毒性、および薬物動態のような特性の検査を可能にする様々な疾患に利用可能である。当技術分野で公知の通り、異種移植と称される方法である、癌細胞を、ヒト癌を模倣するためにマウスに移植または注入することができる。1個以上のマウスFcγRに対して最適化されるFc変異体を含むFc変異体の試験は、タンパク質の有効性、その作用機序などに関する有益な情報を提供し得る。本発明のFc変異体はまた、グリコシル化形態の機能性および/または溶解特性を増大するために最適化され得る。好ましい態様において、本発明のグリコシル化Fc変異体は、親Fc変異体のグリコシル化形態よりも強い親和性でFcリガンドを結合する。該Fcリガンドには、FcγR、C1q、FcRn、ならびにプロテインAおよびGが含まれるが、これらに限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギまたはサルを含むが、これらに限定されない何れかの起源由来、好ましくはヒト由来であり得る。別の好ましい態様において、Fc変異体は、親Fc変異体のグリコシル化形態よりも安定および/または溶解性になるように最適化される。
【0138】
本発明のFc変異体は、補体タンパク質、FcRn、およびFc受容体相同体(FcRH)を含むが、これらに限定されないFcγR以外のFcリガンドと相互作用するように調節される修飾体を含み得る。FcRHには、FcRH1、FcRH2、FcRH3、FcRH4、FcRH5、およびFcRH6が含まれるが、これらに限定されない(Davis et al., 2002, Immunol. Reviews 190:123−136、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0139】
好ましくは、本発明のFc変異体のFcリガンド特異性は、その治療的有用性を決定し得る。治療目的のための所定のFc変異体の有用性は、標的抗原のエピトープまたは形態ならびに処置される疾患または適応症に依存して変わり得る。いくつかの標的および適応症について、増強したFcγRにより仲介されるエフェクター機能が、好ましい。このことは、抗癌性Fc変異体にとって特に好ましい。故に、活性化FcγRに対する増大した親和性および/または阻害性FcγRに対する減少した親和性を提供するFc変異体を含むFc変異体が、用いられ得る。いくつかの標的および適応症について、異なる活性化FcγRに対する異なる選択性を提供するFc変異体を利用することは、さらに有益であり得る;例えば、いくつかの場合に、FcγRIIaおよびFcγRIIIaとの増加した結合が望ましいが、FcγRIには望ましくなく、一方、他の場合において、FcγRIIaのみとの増加した結合が好ましい。任意の標的および適応症について、FcγRおよび補体により仲介されるエフェクター機能の両方を増強するFc変異体を利用することが好ましいが、一方、他の場合について、FcγRまたは補体により仲介されるエフェクター機能のどちらかを増大するFc変異体を利用するのが都合よい。いくつかの標的または癌適応症について、1個以上のエフェクター機能を、例えばC1q、1種以上のFcγR、FcRn、または1個以上の他のFcリガンドとの結合をなくすことにより減少または低下することは都合よい。他の標的および適応症について、活性化FcγRとのWTレベルの、減少したまたは低下した結合であるが、阻害性FcγRIIbとの増大した結合を提供するFc変異体を利用することが好ましい。このことは、例えば、Fc変異体の目的が、炎症疾患または自己免疫疾患を阻止すること、またはいくつかの方法で免疫系を調節することであるとき、特に有用であり得る。
【0140】
所定の疾患を処置するための所定のFc変異体の最も有益な選択性を決定する明らかに重要なパラメーターは、Fc変異体であり、例えばどのタイプFc変異体が用いられるかである。故に、所定のFc変異体のFcリガンド選択性または特異性は、それが、抗体、Fc融合体、または結合した融合体もしくは複合体パートナーを有するFc変異体を含むかどうかに依存して異なる特性を提供し得る。例えば、毒物、放射性核種、または他の複合体は、それらを含むFc変異体が、1種以上のFcリガンドとの結合を減少または低下したならば、正常細胞に対して毒性が少ない。別の例として、炎症性疾患または自己免疫疾患を阻止するため、活性化FcγRと結合し、それらの活性化を阻害するような、活性化FcγRに対する増大した親和性を有するFc変異体を利用することが好ましい。反対に、増大したFcγRIIb親和性を有する2個以上のFc領域を含むFc変異体は、免疫細胞の表面上でこの受容体と共結合し、それによりこれらの細胞の増殖を阻止し得る。いくつかの場合において、Fc変異体は、1つの細胞タイプ上のその標的抗原と結合し、さらに標的抗原とは別の細胞上のFcγRと結合し得るが、他の場合において、それは、標的抗原として同じ細胞の表面上のFcγRとの結合に都合よい。例えば、抗体が、1種以上のFcγRを発現する細胞上の抗原を標的とするならば、その細胞の表面上のFcγRとの結合を増大または減少するFc変異体を利用するのが有益であり得る。このことは、例えば、Fc変異体が抗癌剤として用いられるとき可能であり、同じ細胞の表面上の標的抗原およびFcγRの共結合は、増殖阻害、アポトーシス、または他の抗増殖性効果をもたらす細胞内のシグナル伝達事象を促進する。あるいは、同じ細胞上の抗原およびFcγRの共結合は、Fc変異体が、いくつかの方法で免疫系を調節するために使用されるとき都合よく、ここで、標的抗原およびFcγRの共結合は、いくつかの増殖性または抗増殖性効果を提供する。同様に、2個以上のFc領域を含むFc変異体は、FcγR選択性または特異性を調節して同じ細胞の表面上のFcγRを共結合するFc変異体により有益であり得る。
【0141】
FcγRの異なる多型形態の存在は、本発明のFc変異体の治療的利用性に影響を与えるさらに別のパラメーターを提供する。FcγRの異なるクラスに対する所定のFc変異体の特異性および選択性は、所定の疾患の処置のために所定の抗原を標的とするFc変異体の能力に顕著な影響を与えるが、これらの受容体の異なる多型に対するFc変異体の特異性または選択性は、調査または前臨床実験が、試験に適当であり得るかどうか、最終的に患者集団が、処置に応答し得るかまたは応答し得ないかを一部決定することができる。故に、本発明のFc変異体の、FcγR、C1q、FcRnおよびFcRH多型を含むが、これらに限定されないFcリガンド多型に対する特異性または選択性を、有効な調査および前臨床実験、臨床試験計画、患者の選択、用量依存性、および/または他の臨床試験に関する局面の選択を導くために用いることができる。
【0142】
修飾は、IgG安定性、溶解性、機能性または臨床的用途を改善するために行われ得る。好ましい態様において、本発明のFc変異体は、ヒトにおける免疫原性を減少するための修飾を含み得る。最も好ましい態様において、本発明のFc変異体の免疫原性を、2004年12月3日出願のUSSN11/004,590(参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の方法を用いて減少させる。別の態様において、本発明のFc変異体は、ヒト化される(Clark, 2000, Immunol Today 21:397−402、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。本明細書で記載の“ヒト化”抗体は、ヒトフレームワーク領域(FR)および非ヒト(通常、マウスまたはラット)抗体由来の1個以上の相補性決定領域(CDR)を含む抗体を意味する。CDRを提示する非ヒト抗体は、“ドナー”と称され、フレームワークを提示するヒト免疫グロブリンは、“アクセプター”と称される。ヒト化は、主に、アクセプター(ヒト)VLおよびVHフレームワーク上へのドナーCDRの移植による(例えば、Winter et al, US 5225539、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。このストラテジーは、“CDR移植”と称される。選択したアクセプターフレームワーク残基の対応するドナー残基への“逆変異(Backmutation)”は、しばしば、最初に移植されたコンストラクトが欠く親和性を取り戻すのに必要である(US5530101;US5585089;US5693761;US5693762;US6180370;US5859205;US5821337;US6054297;および、US6407213、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分、典型的にヒト免疫グロブリンの少なくとも一部分を含み、故に、典型的に、ヒトFc領域を含み得る。非ヒト抗体のヒト化および再形成のための様々な技術および方法は、当技術分野でよく知られている(Tsurushita & Vasquez, 2004, Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells, 533−545, Elsevier Science (USA)、およびそこに引用される文献を参照のこと、全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。ヒト化方法には、Jones et al., 1986, Nature 321:522−525; Riechmann et al.,1988; Nature 332:323−329; Verhoeyen et al., 1988, Science, 239:1534−1536; Queen et al., 1989, Proc Natl Acad Sci, USA 86:10029−33; He et al., 1998, J. Immunol. 160: 1029−1035; Carter et al., 1992, Proc Natl Acad Sci USA 89:4285−9, Presta et al., 1997, Cancer Res.57(20):4593−9; Gorman et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4181−4185; O’Connor et al., 1998, Protein Eng 11:321−8(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の方法が含まれるが、それらに限定されない。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を減じるヒト化方法または他の方法には、例えば、Roguska et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:969−973(参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載のような、表面再形成法が含まれ得る。1つの態様において、親抗体は、当技術分野でよく知られている通り、成熟した親和性を有する。構造に基づく方法は、例えばUSSN11/004,590(参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載のヒト化および親和性成熟に用いられ得る。選択に基づく方法は、Wu et al., 1999, J. Mol. Biol. 294:151−162;Baca et al., 1997, J. Biol. Chem. 272(16):10678−10684;Rosok et al., 1996, J. Biol. Chem. 271(37): 22611−22618;Rader et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 8910−8915;Krauss et al., 2003, Protein Engineering 16(10):753−759(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される。)に記載の方法を含むが、これらに限定されない抗体可変領域のヒト化および/または親和性成熟に用いられ得る。他のヒト化方法は、USSN09/810,510;Tan et al., 2002, J. Immunol. 169:1119−1125;De Pascalis et al., 2002, J. Immunol. 169:3076−3084(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される。)に記載の方法を含むが、これらに限定されない、CDRの一部のみの移植を伴い得る。
【0143】
免疫原性を減少する修飾には、親配列由来の処理ペプチドのMHCタンパク質への結合を減少する修飾が含まれ得る。例えば、アミノ酸修飾は、どんな一般的なMHCアレルにも高親和性で結合することが予測される免疫エピトープがないかまたはそれが最小数となるように、作製され得る。タンパク質配列中のMHC結合エピトープを同定するいくつかの方法が、当技術分野で公知であり、本発明のFc変異体中のエピトープを数えるために用い得る。例えば、WO98/52976;WO02/079232;WO00/3317;USSN09/903,378;USSN10/039,170;USSN60/222,697;USSN10/754,296;PCT WO 01/21823;および、PCT WO 02/00165;Mallios, 1999, Bioinformatics 15: 432−439;Mallios, 2001, Bioinformatics 17: 942−948;Sturniolo et al., 1999, Nature Biotech. 17: 555−561;WO98/59244;WO02/069232;WO02/77187;Marshall et al., 1995, J. Immunol. 154: 5927−5933;and Hammer et al., 1994, J. Exp. Med. 180: 2353−2358(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を参照のこと。配列に基づく情報は、所定のペプチド−MHC相互作用の結合スコアを決定するために用い得る(例えば、Mallios, 1999, Bioinformatics 15: 432−439;Mallios, 2001, Bioinformatics 17: p942−948;Sturniolo et. al., 1999, Nature Biotech. 17: 555−561を参照のこと、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。
【0144】
1つの態様において、本発明のFc変異体は、1個以上の改変された糖鎖(engineered glycoform)を含む。本明細書で用いる“改変された糖鎖”は、IgGと共有結合する炭水化物組成物を意味し、ここで該炭水化物組成物は、親IgGのそれと化学的に異なる。改変された糖鎖は、エフェクター機能を増強するかまたは減少することを含むが、これらに限定されない様々な目的に有用であり得る。改変された糖鎖は、当技術分野で公知の様々な方法により作製され得る(Umana et al., 1999, Nat Biotechnol 17:176−180;Davies et al., 2001, Biotechnol Bioeng 74:288−294;Shields et al., 2002, J Biol Chem 277:26733−26740;Shinkawa et al., 2003, J Biol Chem 278:3466−3473);(US6,602,684;USSN10/277,370;USSN10/113,929;PCT WO00/61739A1;PCT WO01/29246A1;PCT WO02/31140A1;PCT WO02/30954A1);(PotelligentTM technology [Biowa, Inc., Princeton, NJ];GlycoMAb(登録商標)glycosylation engineering technology [GLYCART Biotechnology AG, Zuerich, Switzerland])(全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。多くのこれらの技術は、例えば遺伝子組み換えまたは他の様々な生物または細胞株(例えば、Lec−13 CHO細胞またはラットハイブリドーマYB2/0細胞)でIgGを発現することによるか、またはグリコシル化経路に関与する酵素(例えば、FUT8[α1,6−フコシルトランスフェラーゼ]および/またはβ1−4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII[GnTIII])を調節することによるか、またはIgGが発現された後、炭水化物(複数可)を修飾することにより、Fc領域に共有結合するオリゴ糖のフコシル化レベルを制御すること、および/またはそれを2つに切断することに基づく。改変された糖鎖は、典型的に、異なる炭水化物またはオリゴ糖と称される;故に、Fc変異体、例えば抗体またはFc融合体は、改変された糖鎖を含み得る。あるいは、改変された糖鎖は、異なる炭水化物またはオリゴ糖を含むFc変異体と称され得る。
【0145】
別の態様において、本発明のFc変異体は、別の治療化合物と結合されるか、または作動可能に連結される。該治療化合物は、細胞毒性剤、化学療法剤、毒物、放射性同位体、サイトカイン、または他の治療的活性剤であり得る。IgGは、様々な非タンパク性ポリマーのうち1つ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのコポリマーと結合し得る。
【0146】
本発明は、Fc変異体を製造、産生およびスクリーニングするための方法を提供する。記載の方法は、本発明が、何れかの特定の用途または操作理論にとらわれることを意味しない。むしろ、提供される方法は、一般的に、1種以上のFc変異体が、最適化されたエフェクター機能を有するFc変異体を実験的に得るために、製造、産生、およびスクリーニングされ得ることを説明することを意図する。様々な方法が、抗体の設計、産生、および試験、ならびにタンパク質変異体について、USSN10/672,280、USSN10/822,231、USSN11/124,620、およびUSSN11/256,060(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載される。
【0147】
様々なタンパク質製造方法が、最適化したエフェクター機能を有するFc変異体を設計するために用いられ得る。1つの態様において、構造に基づく製造方法を用いることができ、ここで利用可能な構造情報を、置換を誘導するために用いる。配列のアライメントを、表示の位置での置換を誘導するために用いることができる。あるいは、無作為的または半無作為的変異誘導法を、所望の位置にアミノ酸修飾を製造するために用いることができる。
【0148】
Fc変異体の製造方法およびスクリーニング方法は、当技術分野でよく知られている。抗体分子生物学、発現、精製、およびスクリーニングのための一般的方法は、Antibody Engineering、Duebel & Kontermann編集, Springer−Verlag, Heidelberg, 2001;および、Hayhurst & Georgiou, 2001, Curr Opin Chem Biol 5:683−689;Maynard & Georgiou, 2000, Annu Rev Biomed Eng 2:339−76(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載される。また、USSN10/672,280、USSN10/822,231、USSN11/124,620、およびUSSN11/256,060(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の方法を参照のこと。
【0149】
本発明の1つの態様において、Fc変異体配列を、メンバー配列をコードし、故に、宿主細胞中にクローニングされ、要すれば発現され、かつ分析され得る核酸を製造するために用いる。これらの実施を、公知の方法、およびMolecular Cloning−A Laboratory Manual, 3rd Ed.(Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001)、およびCurrent Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons)(両方とも、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の、本発明において使用され得る様々な方法を用いて行う。本発明のFc変異体を、タンパク質の発現を誘導または引き起こすのに適当な条件下で、Fc変異体をコードする核酸を含む、核酸、好ましくは発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養することにより作製することができる。哺乳動物細胞、細菌、昆虫細胞および酵母を含むが、これらに限定されない多様な適当な宿主細胞を、用いることができる。例えば、本発明において使用され得る様々な細胞系は、ATCC細胞系カタログ(American Type Culture Collectionにより利用可能)に記載される。宿主細胞中に外来の核酸を導入する方法は、当技術分野で公知であり、用いる宿主細胞により異なり得る。
【0150】
好ましい態様において、Fc変異体を発現後に精製または単離する。抗体を、当業者に公知の多様な方法で単離または精製することができる。標準的精製方法には、クロマトグラフ法、電気泳動法、免疫学的方法、沈殿法、透析法、ろ過法、濃縮法およびクロマト分画技術が含まれる。当技術分野で公知の通り、様々な天然タンパク質、例えば細菌プロテインA、G、およびLが抗体に結合し、これらのタンパク質は、精製用に本発明で使用され得る。しばしば、精製は、特定の融合パートナーにより可能であり得る。例えば、タンパク質を、GST融合が用いられるときグルタチオン樹脂を用いて、Hisタグが用いられるときNi+2親和性クロマトグラフィーを用いて、またはフラグタグが用いられるとき固定化抗フラグ抗体を用いて精製することができる。適する精製技術における一般的ガイダンスについては、Antibody Purification: Principles and Practice, 3rd Ed., Scopes, Springer−Verlag, NY, 1994(参照によりその全体が本明細書中に包含される)を参照のこと。
【0151】
Fc変異体を、インビトロ分析、インビボおよび細胞に基づくアッセイ、ならびに選択技術に用いる方法を含むが、これらに限定されない様々な方法を用いてスクリーニングすることができる。自動化高性能スクリーニング技術を、スクリーニング方法に利用することができる。スクリーニングには、融合パートナーまたは標識、例えば免疫標識、同位体標識、または蛍光もしくは比色色素のような小分子標識の使用を用いることができる。
【0152】
好ましい態様において、Fc変異体の機能的および/または生物物理的特徴を、インビトロ分析においてスクリーニングする。好ましい態様において、タンパク質を、機能性、例えばその反応を触媒する能力またはその標的に対するその結合親和性についてスクリーニングする。
【0153】
当技術分野で公知の通り、スクリーニング法の一部には、ライブラリーの好ましいメンバーを選択する方法が含まれる。該方法は、本明細書中、“選択方法”と称され、これらの方法は、本発明においてFc変異体のスクリーニングに使用される。タンパク質ライブラリーを、選択方法を用いてスクリーニングするとき、増殖され、単離され、および/または観察されるライブラリーのメンバーのみが、いくつかの選択基準を満たすとして好ましい。本発明においてタンパク質ライブラリーのスクリーニングに使用され得る様々な選択方法が、当技術分野で公知である。本発明において使用され得る他の選択方法には、インビボ方法のような提示によらない方法が含まれる。“定向進化(directed evolution)”法と称される選択方法の一部は、時折新規の変異の挿入を含む、選択中の好ましい配列のメイティング(mating)またはブレッディング(breading)を含む方法である。
【0154】
好ましい態様において、Fc変異体を、1個以上の細胞に基づくアッセイまたはインビボアッセイを用いてスクリーニングする。そのような分析のために、精製または非精製タンパク質が典型的に、細胞が個々の変異体またはライブラリーに属する変異体の集合に暴露されるように、細胞外に添加される。これらの分析は、常にではないが一般的に、Fcポリペプチドの機能に基づく;すなわち、その標的に結合し、いくつかの生化学的事象、例えばエフェクター機能、リガンド/受容体結合阻害、アポトーシスなどを仲介するFcポリペプチドの能力に基づく。かかる分析はしばしば、IgGに対する細胞の応答、例えば細胞生存、細胞死、細胞形態の変化、または天然遺伝子もしくはレポーター遺伝子の細胞発現のような転写活性化を観察することを含む。例えば、かかる分析は、ADCC、ADCP、またはCDCを誘導するFc変異体の能力を測定することができる。いくつかの分析に関して、標的細胞に加えて、さらなる細胞または成分、例えば血清補体、または末梢血単球(PBMC)、NK細胞、マクロファージなどのエフェクター細胞を添加する必要があり得る。かかる添加細胞は、何れかの生物、好ましくはヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサル由来であり得る。抗体は、標的を発現する任意の細胞系のアポトーシスを引き起こし得るか、またはその分析に添加された免疫細胞による標的細胞への攻撃を仲介し得る。細胞死または細胞生存を観察するための方法は、当技術分野で公知であり、それらには、色素、免疫化学的反応剤、細胞化学的反応剤、および放射性反応剤の使用が包含される。転写活性化は、細胞に基づくアッセイにおいて機能を分析するための方法にもなり得る。あるいは、細胞に基づくスクリーニングを、変異体をコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトした細胞を用いて行う。すなわち、Fc変異体を、細胞に対して細胞外に添加しない。
【0155】
好ましい態様において、Fc変異体の免疫原性を、1個以上の細胞に基づくアッセイ法を用いて実験的に決定する。いくつかの方法を、エピトープの実験的確認に用いることができる。
【0156】
本発明のFc変異体の生物学的特徴を、細胞、組織および生物全体の実験において特徴付けることができる。当技術分野で公知の通り、薬剤をしばしば、疾患または疾患モデルに対する処置のための薬剤の効果を測定するため、または薬剤の薬物動態、毒性および他の特性を測定するために、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタおよびサルを含むが、これらに限定されない動物において試験する。該動物は、疾患モデルと称され得る。治療剤をしばしば、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植マウス、および遺伝子組み換えマウス(ノックインおよびノックアウトを含む)を含むが、それらに限定されないマウスにおいて試験する。かかる実験は、治療剤として用いられるタンパク質の可能性を決定するための意味のあるデータを提供することができる。何れかの生物、好ましくは哺乳動物を試験に用いることができる。例えばヒトに遺伝的に類似するため、サルを適する治療モデルとすることができ、故に、本発明のIgGの効果、毒性、薬物動態、または他の特性を試験するために用いることができる。ヒトにおける試験が、薬剤としての承認のために最終的に必要であり、故に、もちろんこれらの実験が意図される。従って、本発明のIgGをヒトにおいて試験し、その治療効果、毒性、免疫原性、薬物動態、および/または他の臨床特性を決定することができる。
【0157】
本発明のFc変異体は、様々な製品に用いられ得る。1つの態様において、本発明のFc変異体は、治療剤、診断剤、または実験反応剤であり、好ましくは治療剤である。Fc変異体は、モノクローナルまたはポリクローナルである抗体組成物に用いられ得る。好ましい態様において、本発明のFc変異体を、標的抗原を有する標的細胞、例えば癌細胞を殺すために使用する。別の態様において、本発明のFc変異体を、標的抗原を阻止、アンタゴナイズまたはアゴナイズするため、例えばサイトカインまたはサイトカイン受容体をアンタゴナイズするために用いる。別の好ましい態様において、本発明のFc変異体を、標的抗原を阻止、アンタゴナイズまたはアゴナイズするため、および標的抗原を有する標的細胞を殺すために用いる。
【0158】
本発明のFc変異体を、様々な治療目的に用いることができる。好ましい態様において、Fc変異体を含む抗体を、抗体関連疾患を処置するために患者に投与する。本目的に関して“患者”には、ヒトおよび他の動物、好ましくは哺乳動物が含まれ、最も好ましくはヒトである。本明細書中、“抗体関連疾患”または“抗体応答性疾患”または“状態”または“疾患”は、本発明のFc変異体を含む医薬組成物の投与により緩和され得る疾患を意味する。抗体関連疾患には、自己免疫疾患、免疫学的疾患、感染症、炎症性疾患、神経疾患、疼痛、肺疾患、血液学的状態、線維性状態、ならびに癌を含む腫瘍性および新生物性疾患が含まれるが、これらに限定されない。本明細書中、“”および“癌性”は、制御されない細胞増殖により典型的に特徴付けられる哺乳動物における生理的状態を意味するか、または記載する。癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫(脂肪肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍、中皮種、神経鞘腫(schwanoma)、髄膜腫、腺癌、黒色腫、ならびに白血病およびリンパ性悪性腫瘍が含まれるが、それらに限定されない。処置され得る他の状態には、リウマチ性関節炎、若年性リウマチ性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群(Sjorgren's disease)、多発性硬化症、強直性脊椎炎、喘息、アレルギーおよびアレルギー状態、移植片対宿主疾患などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で用いる用語“処置”は、治療的処置、ならびに疾患、状態もしくは障害の予防的、または抑制的手段を含むことを意味する。故に、例えば、疾患の発症前の、本発明のFc変異体を含む医薬組成物の成功裏の投与は、結果として疾患の“処置”をもたらす。別の例として、疾患の症状に対抗するための疾患の臨床症状後の、本発明のFc変異体を含む医薬組成物の成功裏の投与は、疾患の“処置”に含まれる。“処置”はまた、疾患を根絶するための、疾患の出現後の本発明のFc変異体を含む医薬組成物の投与を含む。臨床症状の排除可能性および疾患の改善可能性を有する、発症後および臨床症状の発生後の本発明のFc変異体を含む医薬組成物の成功裏の投与は、疾患の“処置”に含まれる。本明細書で用いる用語“処置を必要とする”ものには、予防されるべき疾患または障害を含む該疾患または障害を既に有する哺乳動物、ならびに該疾患または障害を有する傾向のある哺乳動物が含まれる。
【0159】
1つの態様において、本発明のFc変異体は、患者に投与される唯一の治療的活性剤である。あるいは、本発明のFc変異体を、細胞毒性薬、化学療法剤、サイトカイン、増殖阻害剤、抗ホルモン剤、キナーゼ阻害剤、血管形成阻害剤、心臓保護剤、または他の治療剤を含むが、それらに限定されない1個以上の他の治療剤と併用して、ならびに外科手術の前または後に投与する。IgG変異体を、1個以上の他の治療レジメンと併用して投与し得る。例えば、本発明のFc変異体を、外科手術、化学療法、放射線治療、または外科手術、化学療法および放射線治療のいずれかもしくは全てと併用して、患者に投与し得る。1つの態様において、本発明のFc変異体を、本発明のFc変異体を含み得るかまたは含み得ない1個以上の抗体と併用投与することができる。本発明の別の態様に従い、本発明のFc変異体および1個以上の他の抗癌治療剤を、エクスビボで癌細胞の処置に用いる。かかるエクスビボ処置は、骨髄移植および特に、自家骨髄移植に有用であり得ると考えられる。もちろん、本発明のFc変異体は、外科手術のような、さらに他の治療技術と組み合わせて用いることができると考えられる。
【0160】
様々な他の治療剤が、本発明のFc変異体との併用投与に使用され得る。1つの態様において、IgGを、血管形成阻害剤と併用投与する。本明細書で用いる“血管形成阻害剤”は、血管の形成を阻止、またはある程度妨げる化合物を意味する。血管形成阻害因子は、例えば、血管形成の促進に関与する増殖因子または増殖因子受容体と結合する、小分子またはタンパク質、例えば抗体、Fc融合体もしくはサイトカインであり得る。本明細書中、好ましい血管形成阻害因子は、血管内皮増殖因子(VEGF)と結合する抗体である。別の態様において、IgGを、適応的免疫応答を誘導または増大する治療剤、例えばCTLA−4を標的とする抗体と共に投与する。別の態様において、IgGを、チロシンキナーゼ阻害剤と共に投与する。本明細書で用いる“チロシンキナーゼ阻害剤”は、チロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性をある程度阻害する分子を意味する。別の態様において、本発明のFc変異体を、サイトカインと共に投与する。本明細書で用いる“サイトカイン”は、細胞間メディエーターとして別の細胞に作用する、ある細胞集団により放出されるタンパク質の一般名を意味する。
【0161】
医薬組成物とは、本発明のFc変異体および1個以上の治療的活性剤が、製剤されることを意図する。本発明のFc変異体の製剤は、所望の純度を有するIgGを、所望により薬学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed., 1980、参照によりその全体が本明細書中に包含される)と共に混合することにより、凍結乾燥製剤または水溶液の形態に保存用に調製される。インビボ投与用に使用される製剤を、好ましくは滅菌する。これは、滅菌ろ過膜を通すろ過または他の方法により容易に達成される。本明細書に記載のFc変異体および他の治療的活性剤は、免疫リポソーム、および/またはマイクロカプセル封入としても製剤され得る。
【0162】
製剤中の治療的に活性なFc変異体の濃度は、約0.001ないし100重量%で変化し得る。好ましい態様において、IgGの濃度は、0.003ないし1.0モルの範囲内である。患者を処置するために、本発明のFc変異体の治療的有効用量を投与することができる。本明細書中、“治療的有効用量”とは、それが投与されて効果を生じる用量を意味する。正確な用量は、処置の目的に依存して変化し、公知の技術を用いて当業者により確認され得る。投与量は、体重1kg当たり0.001ないし100mgまたはそれ以上、例えば体重1kg当たり0.1、1、10、または50mgの範囲であり、1ないし10mg/kgが好ましい。当技術分野で公知の通り、タンパク質分解、全身的対局所送達、および新しいタンパク質合成の速度、ならびに年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与の時間、薬剤の相互作用および状態の重症度に関する調整が必要であり、当業者により常套的実験にて確認され得る。
【0163】
好ましくは滅菌水溶液の形態の、本発明のFc変異体を含む医薬組成物の投与を、経口、皮下、静脈内、経鼻的、耳内(intraotically)、経皮的、局所的(例えば、ジェル、軟膏、ローション、クリームなど)、腹腔内、筋肉内、肺内(例えば、Aradigmにより市販されるAERx(登録商標)吸入可能技術、またはInhale Therapeuticsにより市販されるInhance(登録商標)肺送達システムなど)、経膣的、非経腸的、経直腸的、または眼内(intraocularly)を含むが、それらに限定されない様々な方法で行うことができる。本明細書に記載の治療剤を、他の治療剤と併用して投与することができる。
【実施例】
【0164】
実施例
下記の実施例を、本発明を説明するために提供する。これらの実施例は、どんな特定の適用または操作理論にも本発明を制限することを意味しない。
【0165】
実施例1.増大したFcγRにより仲介されるエフェクター機能を有するFc変異体
USSN10/672,280、USSN10/822,231、USSN11/124,620およびUSSN11/256,060(全て、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の方法を用いて、さらなるFc変異体を、Fcリガンドとの結合を増大し、エフェクター機能を最適化するため、ならびにFcγR結合およびエフェクター機能を減少または低下させるために設計した。該変異体を、細胞に基づくアッセイにおいて測定可能なCDCおよびADCCを仲介することが知られる、抗CD20抗体であるPRO70769(PCT/US2003/040426、参照によりその全体が本明細書中に包含される)に照らして構築した。既に特徴付けられた変異体もまた、それらの特性をさらに特徴付け、現在の一連の新しい変異体の比較物(comparator)を提供するために、PRO70769中にコンストラクトした。図5は、これらのFc変異体のリストを提供する。とりわけ、この変異体セットには、多くの挿入が含まれる。例えば、“インサート L>235−236/I332E”は、I332E置換および残基235と236位の間へのロイシンの挿入を含む二重変異体を意味する。
【0166】
PRO70769の可変領域の遺伝子(図24aおよび24b)を、リカーシブ(recursive)PCRを用いてコンストラクトし、全長軽鎖カッパ(Cκ)および重鎖IgG1定常領域を含む哺乳動物発現ベクターであるpcDNA3.1Zeo(Invitrogen)中にサブクローニングした。変異体を、quick−change変異誘発技術(Stratagene)を用いて、pcDNA3.1Zeoベクター中の抗体の可変領域中にコンストラクトし、293T細胞中で発現させた。DNAを、配列の忠実度を確認するために配列決定した。重鎖遺伝子(VH−CH1−CH2−CH3)(野生型または変異体)を含むプラスミドを、軽鎖遺伝子(VL−Cκ)を含むプラスミドと共に、293T細胞中に共トランスフェクトした。培地をトランスフェクションの5日後に集め、抗体をプロテインA親和性クロマトグラフィー(Pierce)を用いて上清から精製した。選択したFc変異体は、アレムツズマブにおいても発現した。
【0167】
IgG抗体によるヒトFcγRに対する結合親和性を、AlphaScreenTM競合分析を用いて測定した。AlphaScreenは、ビーズに基づく発光近接分析である。ドナービーズのレーザー励起は、酸素を励起し、アクセプタービーズとの接近が十分なとき、化学発光事象のカスケードを生じ、最終的に520−620nmでの蛍光放出をもたらし得る。AlphaScreenを、抗体をスクリーニングするための競合分析として用いた。野生型IgG1抗体を、ストレプトアビジン ドナービーズへの標準的結合方法によりビオチン化し、タグ付きFcγRを、グルタチオンキレート アクセプタービーズに結合させた。競合するFcポリペプチドの不存在において、野生型抗体およびFcγRが相互作用し、520−620nmでのシグナルを生じる。タグの付いていない抗体の添加は、野生型Fc/FcγR相互作用と競合し、蛍光を定量的に減少させて相対的結合親和性の決定を可能にする。
【0168】
図6は、ヒト活性化受容体V158 FcγRIIIa(図6a)およびF158 FcγRIIIa(図6b)に対する選択したPRO70769Fc変異体の結合についてのAlphaScreen競合データを提供する。該データを、非線形回帰を用いて一部位競合モデルに適合させ、これらの適合を、図中曲線で示す。これらの適合は、各抗体についての50%の阻害濃度(IC50)(すなわち、50%阻害に必要な濃度)を提供し、故に、WTと比較した相対的結合親和性を決定することができる。図5は、これらの結合曲線への適合についての、WTと比較したIC50およびIC50倍数を提供する。
【0169】
選択したFc変異体を再発現させ、ヒトV158 FcγRIIIaおよびF158 FcγRIIIaとの結合についてAlphaScreen競合アッセイを用いて再試験した(図7)。図7aは、これらの変異体の結合データを示し、図7bは、これらの結合曲線への適合についての、WTと比較したIC50およびIC50倍数を提供する。
【0170】
これらのデータに基づき、多くのさらなるFc変異体を、PRO70769 IgG1に照らしてコンストラクトした。さらに、いくつかのFc変異体を、2005年10月21日出願のUSSN11/256,060(参照によりその全体が本明細書中に包含される)に記載の新規IgG分子であるIgG(1/2)ELLGGに照らしてコンストラクトした。これらの変異体を、上記の通りにコンストラクトし、多くの既に特徴付けられたFc変異体と共に発現させ精製した。これらの変異体を図8aに列記する。ヒト活性化受容体V158 FcγRIIIaおよびF158 FcγRIIIa、ならびに阻害性受容体FcγRIIbとの該変異体の結合を、AlphaScreen競合アッセイを用いて測定した。図8bは、選択した変異体のこれらの受容体との結合データを示し、図8aは、この一連のFc変異体全てについての、WT PRO70769 IgG1と比較したIC50およびIC50倍数を提供する。
【0171】
該アッセイの高反応性性質のため、AlphaScreenは、相対的親和性のみ提供する。正確な結合定数を、抗体/FcγR平衡における非結合抗体をFcγRIIIa表面に捕捉した、競合SPR装置(Nieba et al., 1996, Anal Biochem 234:155−65、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を用いて得た。この実験を、上記でコンストラクトされ特徴付けられたトラスツズマブ IgG1に照らして、I332EおよびS239D/I332E変異体を用いて行った(USSN10/672,280、USSN10/822,231、およびUSSN11/124,620、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。WTおよび変異体トラスツズマブ抗体を、上記の通りに発現させ精製した。この実験に関して、データをBIAcore 3000装置(BIAcore)で得た。V158 FcγRIIIa−His−GSTを、固定化抗GST抗体を用いて捕捉し、組み換えGSTを用いてブロッキングし、抗体/受容体への結合競合分析物を測定した。抗GST抗体を、BIAcore GSTキャプチャーキットを用いてCM5センサーに共有結合させた。各センサーチップに1個のフローセルを、非特異的結合の対照としてエタノールアミンと結合させ、バルク屈折率変化をオンラインで減算した。泳動バッファーは、HBS−EP(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%v/v界面活性剤P20、BIAcore)であり、チップ再生バッファーは、グリシン1.5(10mMグリシン−HCl、pH1.5、BIAcore)であった。1μM V158 FcγRIIIa−His−GSTを、1μl/分にて5分間、HBS−EP中で抗GST CM5チップに結合させた。表面を、1μl/分にて2分間、5μMの組み換えGST(Sigma)を注入してブロッキングした。100nMの野生型または変異体トラスツズマブ抗体を、4ないし1000nMの間の連続希釈のV158 FcγRIIIa−His−GSTと合わせ、室温で少なくとも2時間インキュベートした。該競合結合物を、50μl/分にて、HBS−EP中、30秒間の結合のために、V158 FcγRIIIa−His−GST/組み換えGST表面上に注入した。抗体を含むが競合受容体を含まない1サイクルが、ベースライン応答を提供した。
【0172】
上記の“競合BIAcore”法を用いて、動力学的曲線を結合率を導くために適合させた(Nieba et al., 1996, Anal Biochem 234:155−65、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。本発明者らは、動力学的曲線から得られる結合率が用いた抗体濃度に非線形相関を示したため、この方法があまり信頼性のないことを見出した。本研究に用いた分析は、初期結合率Rの遊離抗体濃度との比例に基づく(Holwill et al., 1996, Process Control and Quality 8:133−145; Edwards & Leatherbarrow, 1997, Anal Biochem 246:1−6、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。応答単位データを、BIA評価ソフトウェア(BIAcore)を用いて出力し、Xlfitバージョン3.0.5のマイクロソフトExcel(IDBS)を用いて分析した。(シグナル増加の)初期結合率値を、傾きのExcel式を用いて各センサーグラムの生データから決定した。平衡解離結合定数(K)を、各濃度で得られた初期結合率に対するFcγRIIIa濃度のlog値をプロットすることにより決定した。GraphPad Prism(GraphPad Software)を用いて、下記の式にデータを合わせた:
【0173】
【数1】


〔式中、
[A]=抗体濃度
=競合する受容体の不存在下での、抗体濃度Aでの初期結合率
X=log[L](ここで、[L]=インプット受容体濃度である。)
=平衡解離定数である。〕。
は、抗体と固定化受容体との結合率を示し(競合する受容体の不存在下での)、それらの異なる受容体親和性のため、それを、WT、I332E、およびS239D/I332E抗体について別個に計算した。
【0174】
初期結合率Rについての式は、単一の結合部位についてのK
【数2】


で示される定義、および質量保存式
【数3】


〔式中:
[L]=遊離受容体の濃度である。〕
から導かれる。
【0175】
初期結合率を、センサーグラムの生データから決定し(図9a)、K値を、各濃度で得られる初期結合率に対する受容体濃度のlog値をプロットすることにより計算した(図9b、9c)(Edwards & Leatherbarrow, 1997, Anal Biochem 246:1−6、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。WT K(252nM)は、公表されたデータとよく一致する(SPRからの208nM、熱量測定からの535nM)(Okazaki et al., 2004 J Mol Biol 336:1239−49、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。I332E(30nM)およびS239D/I332E(2nM)変異体のK値は、V158 FcγRIIIaに対してそれぞれおよそ10倍および100倍値(1-および2-logs)の強い親和性を示す。
【0176】
本発明のFc変異体を含む抗体の、FcγRにより仲介されるエフェクター機能を発揮するための能力を調査するために、インビトロでの細胞ベースのADCCアッセイを、エフェクター細胞としてヒトPBMCを用いて行った。ADCCを、LDH細胞傷害性検出キット(Roche Diagnostic)を用いてラクトースデヒドロゲナーゼの放出により測定した。ヒトPBMCを、フィコール・グラディエント(ficoll gradient)法を用いてleukopackから精製し、CD20+標的リンパ腫細胞株WIL2−SをATCCから得た。標的細胞を、96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルで播種し、Fc変異体またはWT抗体を示した最終濃度で用いてオプソニン化した。トライトンX100およびPBMCのみを、対照として用いた。エフェクター細胞を、PBMC:標的細胞を25:1で添加し、プレートを、37℃で4時間インキュベートした。細胞を、LDH反応混合物と共にインキュベートし、蛍光を、FusionTMAlpha−FP(Perkin Elmer)を用いて測定した。データを、最大溶解(トライトン)および最小溶解(PBMCのみ)に標準化し、シグモイド型用量応答モデルに合わせた。図10は、可変領域PRO70769およびIgG1またはIgG(1/2)ELLGGのどちらかにおける選択したFc変異体抗体についてのこれらのデータを提供する。Fc変異体は、WT PRO70769 IgG1抗体と比較して、FcγRにより仲介されるCD20+標的細胞溶解における明確な増大を提供する。
【0177】
これらのインビトロ分析は、本発明のFc変異体が、臨床設定における増強した効力および/または有効性を提供し得ることを示唆する。インビボ性能は、これらのインビトロ実験で検討されないいくつかの因子を含む多くの因子の影響を受け得る。1つのそのようなパラメーターは、抗体の臨床効力に影響を与えることが示されている、血清中非特異的IgGの高濃度である(Vugmeyster & Howell, 2004, Int Immunopharmacol 4:1117−24; Preithner et al., 2005, Mol Immunol, 43(8):1183−93、全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)。本発明のFc変異が、インビボ生物学により酷似した溶液中でどのように起こるのかを調べるため、ADCCアッセイを、生物学的に関連する濃度(1mg/ml)のヒト血清から精製したIgG(Jackson Immunoresearch Lab, Inc.により市販されている)の存在下で繰り返した。これらのデータを、図11に示す。WT 抗CD20抗体の有効性は、血清レベルのIgGの存在下で減少するだけでなく、完全になくなる。対照的に、Fc変異体抗体は、顕著に減少するが、依然、標的細胞系を殺すのを仲介する実質的な能力を示す。
【0178】
実施例2.増大した補体により仲介されるエフェクター機能を有するFc変異体
多くの変異体を、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強するのを目的として設計した。Fc/FcγR結合がADCCを仲介するのと同じ方法で、Fc/C1q結合は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を仲介する。現在、Fc/C1q複合体に利用可能な構造は存在しない;しかしながら、変異誘発研究は、残基D270、K322、P329およびP331を中心とする領域にC1qのためのヒトIgG上の結合部位をマッピングした(Idusogie et al., 2000, J Immunol 164:4178−4184; Idusogie et al., 2001, J Immunol 166:2571−2575、両方とも参照によりその全体が本明細書中に包含される)。図12は、このマッピングされた中心点を含むヒトIgG1Fc領域の構造を示す。これらの4個の残基に構造的に近いUSSN10/672,280、USSN10/822,231、USSN11/124,620、およびUSSN11/256,060(全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)に開示される選択したアミノ酸修飾を、C1qに対する増加した親和性を仲介し、および/または増加したCDCを提供し得る変異体を探索するために調査した。増加したFcγR親和性およびFcγRにより仲介されるエフェクター機能を既に示した変異体には、この一連の変異体が含まれ、それらの相補的特性を特徴付けた。この変異体ライブラリーを、図13に示す。
【0179】
該変異体を、抗CD20抗体 PRO70769(可変領域)および重鎖定常領域としてIgG1またはIgG(1/2)ELLGGのどちらかに照らして、上記の通りにコンストラクトした。変異体を、上記の通りに発現させて精製した。細胞ベースの分析を、Fc変異体がCDCを仲介する能力を測定するために用いた。溶解を、Fc変異体およびWT PRO70769によりオプソニン化したWIL2−Sリンパ腫細胞の溶解をヒト血清補体によりモニターするために、アラマーブルーの放出を用いて測定した。標的細胞を、10%FBS培地で遠心および再懸濁して3回洗浄し、WTまたは変異体リツキシマブ抗体を、示した最終濃度で添加した。ヒト血清補体(Quidel)を、培地を用いて50%に希釈し、抗体によりオプソニン化した標的細胞に添加した。補体の最終濃度は、原液の1/6であった。プレートを37℃で2時間インキュベートし、アラマーブルーを添加し、細胞を2日間インキュベートし、蛍光を測定した。この分析の代表的なデータを図14に示す。結合データを、低濃度および高濃度の抗体それぞれでのベースラインにより、それぞれの特定の曲線について最大および最小発光シグナルに標準化した。データを、非線形回帰を用いて傾き変化モデル(variable slope model)を含むシグモイド型用量応答に適合させ、これらの適合を、図に曲線で示す。これらの適合は、Fc変異体の相対的結合親和性を定量的に決定するのを可能にする、各抗体についての50%有効濃度(EC50)(すなわち、50%応答に必要な濃度)を提供する。各変異体のEC50をWT PRO70769のEC50で割ることにより、WT PRO70769(WT倍数)と比較した増加倍数または減少倍数を得た。これらの値を、図13に示す。ここで、1を超える倍数は、WT PRO70769と比較してCDC EC50の増大を示し、1より小さい倍数は、CDC EC50の減少を示す。
【0180】
図13および14のデータは、WT PRO70769 IgG1と比較して増大したCDCを提供することを示す。例えば、2倍以上のCDCの増大が、修飾239D、267D、267Q、268D、268E、268F、268G、272I、276D、276L、276S、278R、282G、284T、285Y、293R、300T、324I、324T、324V、326E、326T、326W、327D、330H、330S、332E、333F、334Tおよび335Dで観察される(図15)。さらに、データは、多くの修飾体が、WT PRO70769 IgG1と比較して減少したCDCを提供することを示す。例えば、0.5倍以下の相対的CDCを示す修飾には、235D、239D、284D、322H、322T、322Y、327R、330E、330I、330L、330N、330V、331D、331Lおよび332Eが含まれる(図15)。これらの修飾は、増大したCDCのための変異体のさらなる設計を導くために用いられ得るさらなる有益な構造活性相関(SAR)情報を提供する。同時に、データは、235位、239位、267位、268位、272位、276位、278位、282位、284位、285位、293位、300位、322位、324位、326位、327位、330位、331位、332位、333位、334位および335位(図15)での修飾が、親Fcポリペプチドと比較して、増大したCDCを提供し得ることを示唆する。
【0181】
実施例3.減少したFcγRおよび補体により仲介されるエフェクター機能を有するFc変異体
上記の通り、エフェクター機能が臨床効果に貢献する抗体治療および適応とは対照的に、いくつかの抗体および臨床適用に関して、1種以上のFcγRとの結合を減少するもしくは除去するか、またはADCC、ADCPおよび/またはCDCを含むが、これらに限定されない1個以上のFcγRまたは補体により仲介されるエフェクター機能を減少するもしくは除去するのが、好ましい。これはしばしば、その作用機序が標的抗原を有する細胞の死ではなく、その阻止または拮抗作用を伴う治療抗体の場合である。これらの場合において、標的細胞の減少は望ましくなく、副作用と見なされ得る。エフェクター機能はまた、放射性複合体と称される放射性標識抗体、および免疫毒素と称される毒素と複合体形成した抗体についての課題でもあり得る。これらの薬物を、癌細胞を破壊するために用いることができるが、FcとFcγRとの相互作用による免疫細胞の捕捉は、有害なペイロード(放射物または毒素)の近接域に健康な免疫細胞をもたらし、結果として標的癌細胞と共に正常なリンパ系組織の減少をもたらす。
【0182】
低下したFcγR結合および補体結合の従来考慮されていなかった利点は、エフェクター機能が必要ない場合に、FcγRおよび補体との結合が、薬物の活性濃度を効果的に低下し得ることである。Fcリガンドとの結合は、抗体またはFc融合体、または血清タンパク質が遊離の(複合体を形成していない)ときと比較して活性が低いかまたは不活性である血清タンパク質との複合体を細胞表面に局在化させ得る。これは、抗体が所望される結合部位での低下した有効濃度のためか、または恐らく、Fcリガンド結合が、Fcポリペプチドを、非結合であった場合より活性が低い立体構造にし得るためである。さらなる考察は、FcγR受容体が、抗体のターンオーバーの1つ機序であり得ること、ならびに樹状細胞およびマクロファージのような抗原提示細胞による取り込みおよびプロセシングを仲介し得ることである。これは、抗体またはFc融合体の薬物動態(または、インビボ半減期)およびその免疫原性(両方とも、臨床パフォーマンスの重要なパラメーターである。)に影響を与え得る。
【0183】
Fc/FcγR構造(図2)および上記のFc/C1q接合部位(図12)の外観図、ならびに上記およびUSSN10/672,280、USSN10/822,231、USSN11/124,620、およびUSSN11/256,060(全て参照によりその全体が本明細書中に包含される)のデータを、FcγRに対する減少した親和性、および減少したCDCを有する変異体をスクリーニングするためのライブラリーの設計の指針に用いた。この変異体ライブラリーを図16に示す。変異体を、PRO70769 IgG1に照らしてコンストラクトし、上記の通り発現させ精製した。相対的FcγR親和性を、上記の通りに、AlphaScreen競合アッセイを用いて測定した。図17は、選択したFc変異体のヒトV158 FcγRIIIaとの結合についてのAlphaScreenデータを示し、図16は、WT PRO70769 IgG1と比較したそのIC50倍数を示す。変異体を、上記のCDCアッセイを用いて、CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する補体仲介性溶解を仲介するその能力についても調べた。図18は、選択したFc変異体のCDCデータを示し、図16は、WT PRO70769 IgG1と比較したEC50倍数を示す。これらの実験の結果に基づき、選択したFc変異体を、FcγRにより仲介されるエフェクター機能を仲介するその能力について特徴付けた。ヒトPBMCをエフェクター細胞として、およびWIL2−Sリンパ腫細胞を標的細胞として用いるADCCアッセイを、上記の通りに行った。図19は、選択した変異体についてのこれらのADCCデータを示す。
【0184】
データは、多くの位置での修飾が、減少または低下したFcγR親和性、減少したFcγRにより仲介されるエフェクター機能、および減少した補体により仲介されるエフェクター機能を提供することを示す。さらに、235および330位を含むがこれらに限定されないいくつかの位置での修飾は、減少したCDCを提供するが、FcγR親和性はWTレベルであり得る。例えば、235D、330L、330Nおよび330Rは、そのような作用を示す。あるいは、236位および299位を含むがこれらに限定されないいくつかの位置における修飾は、減少したFcγR親和性を提供するが、CDCはWTレベルであり得る。例えば、236Iおよび299Aは、これらの特性を示す。
【0185】
これらの実験の結果に基づき、FcγR親和性およびCDCを同時に低下する多くの修飾を、完全に低下したFcγR親和性、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および補体により仲介されるエフェクター機能を有する変異体をスクリーニングするために設計されたFc変異体の新しいライブラリー中の多数の変異を有する変異体に組み合わせた。これらの変異体は、234位、235位、236位、267位、269位、325位および328位での修飾を含み、図20に示す。WT IgG1抗体、ならびにIgG2およびIgG4抗体変異体、グリコシル化変異体N297S、および減少したエフェクター機能を有することが既に特徴付けられた2つの変異体:L234A/L235A(Xu et al., 2000, Cellular Immunology 200:16−26;USSN10/267,286、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、およびE233P/L234V/L235A/G236−(Armour et al., 1999, Eur J Immunol 29:2613−2624、参照によりその全体が本明細書中に包含される)が、包含される。
【0186】
これらの変異体を、IgG2およびIgG4抗体以外の重鎖定常領域であるIgG1を含み、抗CD20抗体 PRO70769に照らしてコンストラクトした。抗体を、上記の通りに発現させ精製した。AlphaScreen競合アッセイを、Fc変異体の相対的FcγR親和性を測定するために、上記の通りに用いた。図21は、選択した変異体の、低親和性のヒト活性化受容体V158 FcγRIIIa、ならびに高親和性のヒト活性化受容体FcγRIとの結合についてのAlphaScreenデータを示す。WTと比較したIC50倍数を、図20に示す。Fc領域に対するそのより大きな結合親和性のため、FcγRIは、変異体のよりストリンジェントな試験を提供する。図20および21のデータはこれを支持し、変異体は、FcγRIIIaに対する親和性を実質的に減少し得るかまたは完全に低下し得るが、FcγRI結合にはあまり影響しないことを示す。Fc変異体はまた、上記のCDCアッセイを用いて、CD20+WIL2−S細胞に対して補体仲介性溶解を仲介するそれらの能力を試験した。図22は、選択したFc変異体についてのCDCデータを示し、図20は、WT PRO70769 IgG1と比較したEC50倍数を示す。
【0187】
Fc変異体がADCCを仲介する能力を調べるため、選択した変異体を、抗Her2/neu抗体であるトラスツズマブ(可変領域配列を、図24cおよび24dに示す)中にサブクローニングした。トラスツズマブは、Her2+発現細胞系に対してADCCアッセイにおいて実質的なシグナルを確実に提供し、故に、エフェクター機能を減少/低下するFc変異体の厳しい検査を提供する。Fc変異体L235G、G236R、G237K、N325L、N325A、L328R、L235G/G236R、G236R/G237K、G236R/N325L、G236R/L328R、G237K/N325L、L235G/G236R/G237KおよびG236R/G237K/L328Rを、トラスツズマブIgG1に照らしてコンストラクトした。WT IgG1、WT IgG2およびWT IgG4抗体変異体を、同様にコンストラクトした。ADCCアッセイを、Her2+乳癌細胞系SkBr−3を標的細胞として用いた以外、上記の通りに行った。図23は、ADCC実験の結果を示す。データは、いくつかの変異体が、ADCCを完全に低下することを示す。さらに、IgG2はまた、ADCCを仲介しないことが明らかであるが、IgG4は、かなりのレベルのADCCを示す。
【0188】
結果は、232位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、265位、267位、269位、270位、297位、299位、325位、327位、328位、329位、330位および331位を含むが、これらに限定されない多くの位置でのアミノ酸修飾が、FcγR結合、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および/または補体仲介性エフェクター機能が所望されない、抗体およびFc融合体の臨床特性を改善するための有望な候補を提供することを示す。例えば、アミノ酸修飾232G、234G、234H、235D、235G、235H、236I、236N、236P、236R、237K、237L、237N、237P、238K、239R、265G、267R、269R、270H、297S、299A、299I、299V、325A、325L、327R、328R、329K、330I、330L、330N、330P、330R、330Sおよび331Lは、顕著に減少したFcリガンド結合特性および/またはエフェクター機能を提供する。Fcリガンドとの結合およびエフェクター機能を減少するのに特に有効なのは、変異体236R/237K、236R/325L、236R/328R、237K/325L、237K/328R、325L/328R、235G/236R、267R/269R、234G/235G、236R/237K/325L、236R/325L/328R、235G/236R/237K、および237K/325L/328Rである。特に、234G、235G、236R、237K、267R、269R、325L、および328Rを含むこれらの変異体を含むアミノ酸修飾は、FcγRIIIaおよびFcγRIの両方との結合を減少し、10倍以上CDCを減少させ得る。さらに、データは、ヒトIgG2が、ヒトIgG4と比較して、顕著に減少したFcγR親和性、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および補体により仲介されるエフェクター機能を有することを示す。
【0189】
上記の通り、減少したFcγR親和性および/またはエフェクター機能は、Fcリガンド結合またはエフェクター機能が毒性および/または減少した効果をもたらすFcポリペプチドに最適であり得る。例えば、CTLA4を標的とする抗体がT細胞活性化の阻害を阻止し、抗腫瘍免疫応答を促進するのに有効であるが、抗体により仲介されるエフェクター機能によるT細胞の破壊は、作用機序および/または潜在的な毒性に逆効果となり得る。実際の毒性は、抗CTLA4抗体であるイピリムマブの臨床適用で観察した(Maker et al., 2005, Ann Surg Oncol 12:1005−16、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。US6,984,720の配列番号7(VL、図24e)および配列番号17(VH、図24f)(参照により本明細書中にその全体が包含される)から抜粋した、抗CTLA4抗体であるイピリムマブ(Mab 10D.1、MDX010)の配列を、図24に示す。説明を目的として、本発明の多くのFc変異体を、CTLA4を標的とする抗体の配列中に組み込む。本発明のFc変異体の組み合わせが、典型的に、相加的または相乗的結合調節、それによるエフェクター機能の相加的または相乗的調節をもたらしたため、本発明で供されるFc変異体の未だ明らかになっていない組み合わせ、または他の既報の修飾との組み合わせがまた、好ましい結果を提供し得ることが、予想される。可能性のあるFc変異体を図26aに示す。最適化した抗体配列には、X、X、X、X、X、X、X、およびXからなる群から選択される少なくとも1個の非WTアミノ酸が含まれる。例えば、IgG1定常領域中L235GおよびG236R修飾を含む改良された抗CTLA−4抗体配列を、図26bおよび26cに示す。あるいは、本発明が示す通り、IgG2およびIgG4を、Fcリガンド結合およびFcにより仲介されるエフェクター機能を減少するためにも用い得る。図26bおよび26dは、改良した抗CTLA4 IgG2抗体配列の配列を提供する。本明細書中、抗CTLA4の使用は、単なる一例であり、Fc変異体の適用をこの抗体または何れか他の特定のFcポリペプチドに制限することを意味しない。減少したFcリガンド結合および/またはエフェクター機能の他の例示的適用には、例えばインフリキシマブおよびアダリムマブを含む抗TNFα抗体、例えばベバシツマブを含む抗VEGF抗体、例えばナタリズマブを含む抗α4−インテグリン抗体、および例えばUSSN10/643,857(参照により本明細書中にその全体が包含される)に記載のものを含む抗CD32b抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0190】
好ましいFc変異体のこのリストは、本発明を制限することを意味しない。実際に、供される何れかのFc変異体の全ての組み合わせが、本発明の態様を提供する。さらに、本発明の何れかのFc変異体と他の発見されたまたは未発見のFc変異体との組み合わせも、好ましい特性を提供することができ、これらの組み合わせはまた、本発明の態様として意図される。最後に、これらの結果から、本発明において変異した位置での他の置換が、好ましい結合増大および特異性も提供し得ること、故に、本明細書に記載の全ての位置での置換が考慮されることが予想される。
【0191】
全ての引用される文献は、参照により本明細書中にその全体が明示的に包含される。
【0192】
本発明の特定の態様は、説明を目的として上記されるが、多数の変形が、添付の特許請求の範囲に記載の通り、本発明から逸脱しない範囲で製造され得ることは、当業者に認められるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】抗体の構造および機能。pdb受託コード1CE1からのヒト化Fab構造(James et al., 1999, J Mol Biol 289:293−301、参照によりその全体が本明細書中に包含される)およびpdb受託コード1DN2からのヒトIgG1Fc構造(DeLano et al., 2000, Science 287:1279−1283、参照によりその全体が本明細書中に包含される)を用いてモデル化された、全長ヒトIgG1抗体のモデルを示す。FabおよびFc領域を連結するフレキシブルヒンジは示さず。IgG1は、2個の軽鎖および2個の重鎖からなるヘテロ二量体のホモ二量体である。軽鎖のVおよびC、ならびに重鎖のV、Cガンマ1(Cγ1)、Cガンマ2(Cγ2)、およびCガンマ3(Cγ3)を含む、抗体を含むIgドメインを示す。Fc領域を示す。可変領域中の抗原結合部位、ならびにFc領域中のFcγR、FcRn、C1qおよびプロテインAおよびGのための結合部位を含む、関連タンパク質の結合部位を示す。
【図2】Fc/FcγRIIIb複合体構造1IIS。Fcを灰色リボンで示し、FcγRIIIbを黒色リボンで示す。N297炭水化物を黒色棒で示す。
【図3】ヒトIgG免疫グロブリンIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4のアミノ酸配列のアライメント。図3aは、CH1(Cγ1)の配列およびヒンジドメインを提供し、図3bは、CH2(Cγ2)およびCH3(Cγ3)ドメインの配列を提供する。位置は、IgG1配列のEU Indexに従って番号付けられ、IgG1と他の免疫グロブリンIgG2、IgG3およびIgG4との差異を、灰色で示す。多型が多数の位置に存在し(Kim et al., 2001, J. Mol. Evol. 54:1−9、参照によりその全体が本明細書中に包含される)、故に、示した配列と従来の配列とにわずかな差異が存在し得る。Fc領域の可能性のある開始点が示され、EUの226位または230位のどちらかとして本明細書に記載される。
【図4】ヒトIgG1のガンマ1鎖のアロタイプおよびイソアロタイプの位置および関連するアミノ酸置換を示す(Gorman & Clark, 1990, Semin Immunol 2(6):457−66、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。比較のため、ヒトIgG2、IgG3およびIgG4ガンマ鎖における等価な位置に見出されるアミノ酸も示す。
【図5】Fc変異体およびFcγR結合データ。全てのFc変異体を、抗体PRO70769 IgG1に照らして構築した。倍数は、AlphaScreen競合アッセイにより測定される、ヒトV158およびF158 FcγRIIIaとの結合に関してWT PRO70769 IgG1と比較したIC50倍数を示す。
【図6】AlphaScreen競合アッセイにより決定される、選択したPRO70769 Fc変異体によるヒトV158 FcγRIIIa(図6a)およびF158 FcγRIIIa(図6b)との結合。競合抗体(Fc変異体またはWT)の存在において、特徴的阻害曲線が発光シグナルの減少として観察される。結合データを、低および高濃度の抗体それぞれにおけるベースラインにより供される、それぞれの特定の曲線についての最大および最小発光シグナルに対して標準化した。曲線は、非線形回帰を用いて、一部位競合モデルへのデータの適合を示す。
【図7】AlphaScreen競合アッセイにより測定される、PRO70769 Fc変異体によるヒトV158 FcγRIIIaおよびF158 FcγRIIIaとの結合。図7aは、選択した変異体についてのデータを示し、図7bは、WT PRO70769 IgG1と比較したIC50値および倍数を示す。
【図8】Fc変異体およびFcγR結合データ。全てのFc変異体を、可変領域PRO70769およびヒトIgG1またはIgG(1/2) ELLGGのどちらかに照らして構築した。図8aは、AlphaScreen競合アッセイにより測定される、ヒト活性化受容体V158およびF158 FcγRIIIa、および阻害性受容体FcγRIIbとの結合の、WT PRO70769 IgG1と比較したIC50値およびIC50倍数を示す。図8bは、選択した変異体のAlphaScreenデータを示す。
【図9】ヒトV158 FcγRIIIaに対するトラスツズマブにおける、I332EおよびS239D/I332E変異体の結合親和性を測定する競合表面プラズモン共鳴(SPR)実験。図9aは、センサーグラム生データ(sensorgram raw data)を示し、図9bは、各濃度で得られた初期結合率に対する受容体濃度のログ値(対数値)のプロットを示し、そして図9cは、実施例1に記載の、これらのデータへの適合から得られた親和性を示す。
【図10】抗CD20抗体 PRO70769における、選択したFc変異体の細胞ベースのADCCアッセイ。ADCCを、LDH細胞傷害性検出キット(Roche Diagnostic)を用いて、ラクトースデヒドロゲナーゼの放出により測定した。CD20+リンパ腫WIL2−S細胞を標的細胞として用い、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。低濃度および高濃度の抗体それぞれにおけるベースラインにより供される、それぞれの特定の曲線についての最小および最大蛍光シグナルに対して標準化した、所定の抗体の抗体濃度におけるADCCの用量依存性を示す。曲線は、非線形回帰を用いて、シグモイド型用量応答モデルへのデータの適合を示す。
【図11】血清レベルのヒトIgGの不存在および存在下におけるPRO70769 IgG1における、選択したFc変異体の細胞ベースのADCCアッセイ。ADCCを、LDH細胞傷害性検出キット(Roche Diagnostic)を用いて、ラクトースデヒドロゲナーゼの放出により測定した。CD20+リンパ腫WIL2−S細胞を標的細胞として用い、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いた。
【図12】CDCを増強するように設計されたFc変異体において変異した残基。ヒトIgG1Fc領域の構造を示す(pdb受託コード1E4K、Sondermann et al., 2000, Nature 406:267−273、参照によりその全体が本明細書中に包含される)。黒色の球および棒は、補体タンパク質C1qとの結合を仲介するのに重要であることが示されている残基D270、K322、P329およびP331を示し、灰色の棒は、CDCに影響を与える変異体を検討するために本発明において変異させた残基を示す。
【図13】補体仲介性細胞傷害作用(CDC)についてスクリーニングしたFc変異体およびCDCデータ。可変領域は、抗CD20抗体PRO70769のものであり、重鎖定常領域は、IgG1であり、特に他に記載のない限りIgG(1/2)ELLGGである。CDC倍数は、WT PRO70769 IgG1と比較した相対的CDC活性を示す。
【図14】Fc変異体 抗CD20抗体のCDCアッセイ。補体により仲介される溶解の抗体濃度の用量依存性を、CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する示したPRO70769抗体について示す。溶解を、アラマーブルー(Alamar Blue)の放出を用いて測定し、データを、低濃度および高濃度の抗体それぞれにおいてベースラインにより供される、それぞれの特定の曲線の最小および最大蛍光シグナルに対して標準化した。曲線は、非線形回帰を用いて、勾配変化のあるシグモイド型用量応答モデルへのデータの適合を示す。
【図15】増大および減少したCDCを供するアミノ酸修飾、および増大/調節したCDCを供し得るように修飾され得る位置。位置は、EU indexに従い番号付けされる。
【図16】減少したFcγR親和性、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および補体により仲介されるエフェクター機能についてスクリーニングしたFc変異体。可変領域は、抗CD20抗体 PRO70769のものであり、重鎖定常領域はIgG1である。図は、ヒトV158 FcγRIIIaと結合するためのIC50倍数、およびWT PRO70769 IgG1と比較したCDC活性のEC50倍数を示す。
【図17】AlphaScreen競合アッセイにより決定される、PRO70769 Fc変異体の選択によるヒトV158 FcγRIIIaへの結合。
【図18】CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する選択した抗CD20抗体 Fc変異体のCDCアッセイ。溶解をアラマーブルー放出により測定した。
【図19】CD20+リンパ腫WIL2−S細胞に対する選択した抗CD20抗体 Fc変異体の細胞ベースのADCC活性。ヒトPBMCをエフェクター細胞として用い、溶解をLDH放出により測定した。
【図20】減少したFcγR親和性、FcγRにより仲介されるエフェクター機能、および補体仲介性エフェクター機能についてスクリーニングしたFc変異体。可変領域は、抗CD20抗体 PRO70769のものであり、重鎖定常領域はIgG1である。図は、2つの別個の試験による、WTと比較したヒトV158 FcγRIIIaとの結合についてのIC50倍数、WTと比較したヒトFcγRIとの結合についてのIC50倍数、およびWTと比較したCDC活性についてのEC50倍数を示す。
【図21】AlphaScreen競合アッセイにより決定される、選択したPRO70769Fc変異体による低親和性ヒト活性化受容体V158 FcγRIIIaおよび高親和性ヒト活性化受容体FcγRIとの結合。
【図22】CD20+WIL2−Sリンパ腫標的細胞に対する選択したPRO70769Fc変異体のCDC活性。溶解をアラマーブルーの放出により測定した。
【図23】Her2/neu+SkBr−3乳癌標的細胞に対する抗Her2 Fc変異体およびWT IgG抗体の細胞ベースのADCC活性。ヒトPBMCをエフェクター細胞として用い、溶解をLDH放出により測定した。
【図24】PRO70769(図24aおよび24b)、トラスツズマブ(図24cおよび24d)、およびイピリムマブ(図24eおよび24f)を含む、本発明で用いた可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)のアミノ酸配列。
【図25】本発明で用いたヒト定常軽鎖カッパ(図25a)および定常重鎖(図25b−25f)のアミノ酸配列。
【図26】減少したFcリガンド結合およびエフェクター機能特性を有する可能性のある定常重鎖配列(図26a)、および改良した抗CTLA−4抗体の配列(図26b−26d)を示す配列。図26aは、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7およびX8として強調して示す可変位置を含む、可能性のあるFc変異体定常重鎖配列を示す。配列の下の表は、WTアミノ酸およびこれらの位置において可能性のある置換基を示す。改良した抗体配列は、この可能性のある修飾基から選択される1個以上の非WTアミノ酸を含み得る。図26bは、抗CTLA−4抗体の軽鎖配列を示し、図26cおよび26dは、減少したFcリガンド結合およびFcにより仲介されるエフェクター機能を有する抗CTLA−4抗体の重鎖配列を示す。これらには、L235G/G236R IgG1重鎖(図26c)およびIgG2重鎖(図26d)が含まれる。位置は、Kabatに記載のEU indexに従って番号付けられ、故に、配列中の連続順に対応していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親FcポリペプチドのFc変異体であって、該Fc変異体は、該親Fcポリペプチドと比較して少なくとも1個のFcγRとの変化した結合または変化した抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用を示し、該親FcポリペプチドのFc領域中に少なくとも1個のアミノ酸修飾を含み、該変異体は、227G/332E、234D/332E、234E/332E、234Y/332E、234I/332E、234G/332E、235I/332E、235S/332E、235D/332E、235E/332E、246H/332E、255Y/332E、258H/332E、260H/332E、267E/332E、267D/332E、268E/330Y、268D/330Y、272R/332E、272H/332E、283H/332E、293R/332E、295E/332E、304T/332E、324I/332E、324G/332E、324I/332D、324G/332D、327D/332E、328F/332E、328Y/332E、328D/332E、328A/332D、328T/332D、328V/332D、328I/332D、328F/332D、328Y/332D、328M/332D、328D/332D、328E/332D、328N/332D、328Q/332D、335D/332E、239D/268E/330Y、239D/332E/268E/330Y、239D/332E/327A、239D/332E/268E/327A、239D/332E/330Y/327A、332E/330Y/268E/327A、および239D/332E/268E/330Y/327A(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される、Fc変異体。
【請求項2】
該FcポリペプチドがヒトIgG1抗体を構成する、請求項1記載のFc変異体。
【請求項3】
該FcポリペプチドがヒトIgG1抗体を構成し、該IgG1抗体がアロタイプ残基356Dおよび358Lを有する、請求項2記載のFc変異体。
【請求項4】
該FcポリペプチドがヒトIgG1抗体を構成し、該IgG1抗体がアロタイプ残基356Eおよび358Mを有する、請求項2記載のFc変異体。
【請求項5】
該Fcポリペプチドが、配列番号12に定義されるIgG(1/2)ELLGG抗体を構成する、請求項1記載のFc変異体。
【請求項6】
親IgG1ポリペプチドのIgG1変異体であって、該IgG1変異体が、少なくとも1個のFcγRとの改善された結合を示し、該Fc変異体が、該親IgG1ポリペプチドのFc領域中に少なくとも1個のアミノ酸挿入を含む、IgG1変異体。
【請求項7】
該挿入が、235位および236位、297位および298位、ならびに326位および327位(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される2つの位置の間で起こる、請求項6記載のIgG1変異体。
【請求項8】
該挿入が、235および236位の間のGの挿入、235および236位の間のAの挿入、235および236位の間のSの挿入、235および236位の間のTの挿入、235および236位の間のNの挿入、235および236位の間のDの挿入、235および236位の間のVの挿入、235および236位の間のLの挿入、235および236位の間のGの挿入、235および236位の間のAの挿入、235および236位の間のSの挿入、235および236位の間のTの挿入、235および236位の間のNの挿入、235および236位の間のDの挿入、235および236位の間のVの挿入、235および236位の間のLの挿入、297および298位の間のGの挿入、297および298位の間のAの挿入、297および298位の間のSの挿入、297および298位の間のDの挿入、326および327位の間のGの挿入、326および327位の間のAの挿入、326および327位の間のTの挿入、326および327位の間のDの挿入、ならびに326および327位の間のEの挿入(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される、請求項7記載のIgG1変異体。
【請求項9】
親FcポリペプチドのFc変異体であって、該Fc変異体は、該親Fcポリペプチドと比較して変化した補体依存性細胞傷害作用を示し、該親FcポリペプチドのFc領域中に少なくとも1個のアミノ酸修飾を含み、該修飾は、233I、234Y、235D、235Y、239D、267D、267E、267Q、268D、268E、268F、268G、271A、271D、271I、272H、272I、272R、274E、274R、274Y、276D、276L、276S、278E、278H、278Q、278R、281D、282G、284D、284E、284T、285Y、293R、300D、300T、320I、320T、320Y、322H、322T、322Y、324D、324H、324I、324L、324T、324V、326L、326T、327A、327D、327H、327R、328Q、330E、330G、330H、330I、330L、330N、330V、330Y、331D、331L、332E、333F、334T、335Dおよび335Y(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される、Fc変異体。
【請求項10】
親FcポリペプチドのFc変異体であって、該Fc変異体は、該親Fcポリペプチドと比較して改善した補体依存性細胞傷害作用を示し、該親FcポリペプチドのFc領域中に少なくとも1個のアミノ酸修飾を含み、該修飾は、235位、239位、267位、268位、272位、276位、278位、282位、284位、285位、293位、300位、322位、324位、327位、330位、331位、332位および335位(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される位置である、Fc変異体。
【請求項11】
該Fc変異体が、239D、267D、267Q、268D、268E、268F、268G、272I、276D、276L、276S、278R、282G、284T、285Y、293R、300T、324I、324T、324V、327D、330H、330S、332E、335Dからなる群から選択される1個以上のアミノ酸修飾を含む、請求項10記載のFc変異体。
【請求項12】
親FcポリペプチドのFc変異体であって、該Fc変異体は、該親Fcポリペプチドと比較して1種以上のFcγRとの減少した結合、減少した抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用、または減少した補体依存性細胞傷害作用を示し、該親FcポリペプチドのFc領域中に少なくとも1個のアミノ酸修飾を含み、該変異体は、236R/237K、236R/325L、236R/328R、237K/325L、237K/328R、325L/328R、235G/236R、267R/269R、234G/235G、236R/237K/325L、236R/325L/328R、235G/236R/237K、および237K/325L/328Rからなる群から選択される、Fc変異体。
【請求項13】
親FcポリペプチドのFc変異体であって、該Fc変異体は、該親Fcポリペプチドと比較して、ヒトFcγRIIIaとの親和性、ヒトFcγRIとの親和性、および補体依存性細胞傷害作用が少なくとも10倍減少する、Fc変異体。
【請求項14】
該Fcポリペプチドが、234G、235G、236R、237K、267R、269R、325L、328R(ここで、番号は、EU indexに従う。)からなる群から選択される位置での少なくとも1個の修飾を含む、請求項13記載のFc変異体。
【請求項15】
CTLA−4、TNFα、VEGF、α4−インテグリン、またはCD32bを標的とするIgG抗体であって、WT抗体と比較して、減少したFcγR親和性、減少した抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用、または減少した補体依存性細胞傷害作用を有する、IgG抗体。
【請求項16】
該抗体が、親IgG抗体と比較して、234位、235位、236位、237位、267位、269位、325位および328位(ここで、番号は、EU Indexに従う。)からなる群から選択される位置での1個のアミノ酸修飾を含む、請求項15記載のIgG抗体。
【請求項17】
該抗体がヒトIgG2またはIgG4抗体である、請求項15記載のIgG抗体。
【請求項18】
親IgG抗体のIgG抗体変異体であって、競合するIgGの存在下で改善した抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用を示す、IgG抗体変異体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図9a】
image rotate

【図9b】
image rotate

【図9c】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23a】
image rotate

【図23b】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公表番号】特表2008−537941(P2008−537941A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504389(P2008−504389)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/011752
【国際公開番号】WO2006/105338
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(501154035)ゼンコー・インコーポレイテッド (18)
【氏名又は名称原語表記】XENCOR、 INC.
【Fターム(参考)】