説明

有害物質処理装置及び有害物質処理方法

【課題】汚染土壌等に含有された有害物質を、排ガスへの移行を抑制して処理する。
【解決手段】有害物質が含有された汚染土壌16と、着火され発熱すると共に有害物質を吸着可能な炭化物18とを混合装置36で混合して、混合土壌20を生成する。混合土壌20は加熱炉12の内部の加熱処理部に投入される。加熱炉12には加熱処理用の空気の吸引口22が設けられ、吸引された空気は加熱処理部14を通過する。加熱処理用の空気は、混合土壌20に混合された炭化物18に発熱用の空気を供給すると同時に、空気中に含まれた有害物質を炭化物18の多孔質の吸着部に吸着させる。加熱処理部14を通過した空気は、加熱炉12の排出口24から排出される。排出口24にはダクト26が連結され、ダクト26の端部には吸引用のブロワ30が取り付けられ、ダクト26の排出口24とブロワ30の間には炭化物系吸着材28が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質処理装置及び有害物質処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PCBやダイオキシン類の有害物質が含有された汚染土壌や汚染底質の多くは、図8に示す方法で処理されていた。即ち、汚染土壌又は汚染底質60を加熱炉62に投入し、加熱炉62の内部で間接加熱(400℃〜700℃)して、有害物質を熱分解や揮発させて土壌や底質から除去する。浄化された土壌や底質64は、加熱炉62から取り出され再利用される。一方、間接加熱により熱分解され、揮発した有害物質は、排ガス処理部66に送られ、排ガス処理部66内の高温燃焼や過熱水蒸気分解等の加熱分解手段で処理される。
【0003】
しかし、この処理方法では、間接加熱や高温燃焼等で多くのエネルギーが消費されるという問題がある。
そこで、エネルギーの消費を減らし、効率的に浄化する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、図9に示すように、ダイオキシン類が含有された汚染土壌60を加熱炉62で加熱し、酸化分解させて無害化する。このとき、汚染土壌60に例えばモンモリロナイト、或いはモンモリロナイト特有のX線回析像を有するベントナイト、酸性白土、活性白土などのスメクタイト族の粘土鉱物68を混合し、加熱炉62に一緒に供給して酸化分解処理をさせる。
【0005】
この方法は、汚染土壌60の原因が焼却飛灰に基づく場合、つまり、土壌中に含有する有害物質が、主にポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)やポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)である場合には有効である。
【0006】
しかし、汚染土壌60の原因が、ポリ塩化ビフェニル(PCB)に基づく場合、つまり、土壌に高濃度のPCBが含まれる場合、加熱炉62内の雰囲気が酸化的であり、かつ、加熱温度が400℃〜500℃である場合には、PCDFが副生成され、毒性が増加する可能性がある。
【0007】
PCDFの副生成を抑制する方法としては、加熱温度を600℃以上の高温にするか、加熱炉62内の雰囲気を還元的にする必要がある。しかし、加熱温度を600℃以上の高温にする場合には、加熱に必要なエネルギーが増大し、処理コストが高くなる。一方、加熱炉62内の雰囲気を還元的にする場合には、汚染土壌60中に有機物由来のタールが発生し、加熱炉62が目詰まりする可能性がある。また、排ガス処理部66で多くのエネルギーが消費される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−92547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事実に鑑み、汚染土壌等に含有された有害物質を、排ガスへの移行を抑制して処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明に係る有害物質処理装置は、PCB又はダイオキシン類の少なくとも一方の有害物質が含有された汚染土壌、汚染底質又は焼却後の灰である汚染焼却廃棄物と、着火されて発熱すると共に前記有害物質を吸着可能な炭化物とを混合する混合装置と、前記混合装置から、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物が投入され、前記炭化物が着火されて発熱し前記有害物質を加熱処理する加熱処理部が設けられた加熱炉と、前記加熱炉の吸引口から吸引した加熱処理用の空気を、前記加熱処理部の前記炭化物の間を通過させた後、前記加熱炉の排出口から排出させる空気吸引装置と、を有することを特徴としている。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、混合装置において、有害物質が含有された汚染土壌、汚染底質又は汚染焼却廃棄物と、着火されて発熱すると共に有害物質を吸着可能な炭化物とが混合され、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物が生成される。
【0012】
そして、加熱炉の加熱処理部に、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物が投入される。加熱処理部には、空気吸引装置により吸引口から吸引された加熱処理用の空気が導入される。加熱処理用の空気は、加熱処理部で着火されて発熱する炭化物の間を通過して、排出口から排出される。
【0013】
これにより、吸引口側の炭化物に着火して炭化物を発熱させれば、炭化物に吸着された有害物質が熱分解されると共に、混合土壌等に含有された有害物質も熱分解される。
【0014】
熱分解された有害物質、副生成された有害物質及び熱分解されずに揮発した一部の有害物質等は、炭化物の間を通過する空気と共に排出口側に移動する。そして移動途中で、排出口側の未着火の炭化物に吸着される。
【0015】
この結果、有害物質を、炭化物に吸着したまま炭化物の発熱で熱分解できる。また、揮発された有害物質や熱分解により副生成された有害物質等は、加熱処理部内で未着火の炭化物に順次吸着させることができ、有害物質の排出口から排出される空気(排ガス)への移行を抑制できる。
なお、炭化物は、有害物質を吸着可能で、かつ、有害物質を吸着したまま着火されて赤熱する物質であればよく、例えばプラスチック製、ヤシガラ、活性炭、下水汚泥等が挙げられる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有害物質処理装置において、前記空気吸引装置は、ブロワと、前記ブロワと前記排出口の間を連結する通風路とを有し、前記通風路には、前記炭化物の発熱に伴い熱分解又は揮発された、前記有害物質や副生成物質を吸着する吸着手段が設けられていることを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、排出口と空気吸引装置の間の通風路に設けられた吸着手段により、排出口から排出される空気に含まれた有害物質が吸着される。これにより、加熱炉から大気に放出される有害物質を低減できる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の有害物質処理装置において、前記吸着手段は、炭化物系吸着材であることを特徴としている。
これにより、炭化物系吸着材が有する無数の多孔質部で、有害物質及びその副生成物質等を吸着保持できる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の汚染物質処理装置において、前記炭化物は、前記有害物質及び前記副生成物質を吸着処理させた前記炭化物系吸着材であることを特徴としている。
【0020】
即ち、有害物質及び副生成物質等を吸着処理させた炭化物系吸着材を、着火されて発熱すると共に、有害物質を吸着する炭化物として使用する。これにより、炭化物の有効利用ができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有害物質処理装置において、前記加熱処理部に投入された前記混合土壌、前記混合底質又は前記混合焼却廃棄物の前記吸引口側の端部には、前記炭化物の着火手段が設けられていることを特徴としている。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、着火手段により、加熱処理部に投入された混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物に混合された炭化物が、吸引口側の端部から着火され発熱を開始する。これにより、炭化物が発熱しながら、吸引口側から排出口側に向けて、有害物質を順次熱分解する。即ち、炭化物の自己発熱による内部加熱で熱分解が進行し、外部からの加熱エネルギーの投入を必要としない。
【0023】
請求項6に記載の発明に係る有害物質処理方法は、PCB又はダイオキシン類の少なくとも一方の有害物質が含有された汚染土壌、汚染底質又は焼却後の灰である汚染焼却廃棄物と、着火されて発熱すると共に前記有害物質を吸着可能な炭化物とを混合装置で混合する混合工程と、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物を加熱炉の加熱処理部に投入し、空気吸引装置により、前記加熱炉の吸引口から吸引された加熱処理用の空気を、前記炭化物の間を通過させながら前記炭化物に着火させ、前記炭化物の発熱で前記有害物質を加熱処理する加熱処理工程と、前記加熱処理工程で熱分解又は揮発された前記有害物質及び副生成物質を、前記空気吸引装置で加熱炉の排出口から吸引し、吸着処理用の炭化物系吸着材に吸着させる吸着工程と、を有することを特徴としている。
【0024】
即ち、混合工程で汚染土壌等と炭化物が混合され、加熱処理工程で炭化物を吸引口側から着火して発熱させ有害物質を加熱処理する。同時に、熱分解され又は揮発した有害物質を排出口側の炭化物に吸着させる。最後に、吸着工程で排出口から排出された有害物質を炭化物系吸着材に吸着させる。
この結果、有害物質を、炭化物で吸着したまま炭化物の発熱で熱分解でき、有害物質の排ガスへの移行を抑制して、有害物質を処理することができる。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の有害物質処理方法において、前記吸着工程で使用され、前記有害物質及び前記副生成物質が吸着された前記炭化物系吸着材を、前記混合工程で混合される前記炭化物として使用することを特徴としている。
これにより、吸着工程で使用した炭化物系吸着材の有効利用ができる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の有害物質処理方法において、前記加熱処理工程において、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物に混合された前記炭化物を、前記吸引口側から着火させ加熱処理を開始し、熱分解又は揮発された前記有害物質及び前記副生成物質を、前記排出口側の前記炭化物に順次吸着させることを特徴としている。
【0027】
これにより、汚染土壌等に含まれた有害物質を、排出口側の前記炭化物に順次吸着保持させながら加熱処理が進行するため、有害物質の排ガスへの移行を抑制して、処理することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、上記構成としてあるので、汚染土壌等に含有された有害物質を、排ガスへの移行を抑制して処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の効果検証実験に使用した実験装置の基本構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の効果検証実験の実験結果の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の効果検証実験の実験結果の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の効果検証実験の実験結果の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の効果検証実験の実験結果の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る有害物質処理装置の効果検証実験の実験結果の一例を示す図である。
【図8】従来例の有害物質処理装置の基本構成を示す図である。
【図9】従来例の有害物質処理装置の基本構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、第1の実施の形態に係る有害物質処理装置10は、混合装置36を有している。混合装置36は、PCB又はダイオキシン類の少なくとも一方の有害物質が含有された汚染土壌16と、着火されて発熱すると共に有害物質を吸着可能な炭化物18とを混合して混合土壌20を生成する。
【0031】
混合土壌20は、混合土壌20を加熱処理する加熱炉12に投入される。加熱炉12は耐熱部材で中空状に成形され、内部に設けられた加熱処理部14で、混合土壌20が加熱処理される。
【0032】
加熱炉12の一方の端部には、加熱処理用の空気を吸引する吸引口22が設けられ、吸引口22から加熱処理部14に加熱処理用の空気が吸引される。吸引された空気は、加熱処理部14を通過した後、加熱炉12に設けられた排出口24から排出される。このとき、加熱処理用の空気は、加熱処理部14で着火され発熱する炭化物18の間を通過し、炭化物18に発熱用の空気を供給する。同時に、空気中に含まれた有害物質を炭化物18の多孔質の吸着部に吸着させる。
【0033】
排出口24にはダクト26が連結され、ダクト26の端部には加熱処理用の空気を吸引するブロワ30が取り付けられている。ダクト26の排出口24側とブロワ30側の間には、炭化物系吸着材28が設けられている。即ち、ブロワ30を稼動させれば、吸引口22、加熱処理部14、排出口24、ダクト26、炭化物系吸着材28の順に空気を吸引する。
【0034】
炭化物系吸着材28は、混合土壌20の加熱処理に伴い熱分解又は揮発され、吸引空気と共に排出口24から排出された、有害物質や副生成物質を大気に放出する前に吸着する。
そして、有害物質が除去された浄化土壌21は、加熱炉12の土壌取出口34から取り出される。
【0035】
この構成により、ブロワ30を稼動させながら、吸引口22側から混合土壌20に混合された炭化物18に着火すれば、炭化物18が発熱を開始する。この発熱で混合土壌20に混合された汚染土壌16が加熱され、汚染土壌20に含有された有害物質が熱分解される。このとき、有害物質の一部は熱分解されずに揮発する。熱分解され又は揮発された有害物質の一部は、混合土壌20から脱着し、炭化物18の間を通過する空気と共に排出口24側(未着火側)に移動する。このとき、移動途中で未着火の排出口24側の炭化物に吸着される。
【0036】
この結果、汚染土壌16に含有された有害物質の吸引空気への移行を抑制して、有害物質を低減させることができる。
なお、有害物質を含有する汚染土壌を例に説明したが、これに限定されることなく、有害物質を含有する汚染底質、又は有害物質を含有する焼却された後の灰である汚染焼却廃棄物でもよい。即ち、汚染底質と、着火されて発熱すると共に有害物質を吸着可能な炭化物とを混合した混合底質、又は汚染焼却廃棄物と、着火されて発熱すると共に有害物質を吸着可能な炭化物とを混合した混合焼却廃棄物でもよい。
【0037】
次に、有害物質処理方法について説明する。
有害物質処理方法は、図1に示す有害物質処理装置を用いて下記の手順で実行される。
先ず、混合工程を実行する。混合工程は、混合装置36で、PCB又はダイオキシン類の少なくとも一方の有害物質が含有された、汚染土壌、汚染底質又は汚染焼却廃棄物16と、着火されて発熱すると共に有害物質を吸着可能な炭化物18とを混合する。
【0038】
次に、加熱処理工程を実行する。加熱処理工程は、混合工程で生成された混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物20を、加熱炉12の加熱処理部14に投入する。そして、投入された混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物20を、加熱処理部14で加熱処理する。具体的には、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物に含まれた炭化物20を、吸引口22側から着火して発熱させる。
【0039】
このとき、ブロワ30で炭化物18の周囲に空気を通過させながら炭化物18を発熱させる。これにより、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物20を吸引口22側から加熱処理し、熱分解又は揮発された有害物質及び副生成物質を、排出口24側の未燃焼の炭化物18に吸着させることができる。
【0040】
次に、吸着工程を実行する。吸着工程は、ブロワ30で吸引され、排出口24から排出された有害物質及び副生成物質を、吸着処理用の炭化物系吸着材28に吸着させる。
【0041】
この結果、有害物質を、炭化物18で吸着したまま炭化物18の発熱で熱分解できる。また、揮発された有害物質、熱分解により副生成された有害物質等は、排出口24側の炭化物18が吸着保持するため、吸引空気(排ガス)に含まれる有害物質の量を低減することができる。
【0042】
なお、既に吸着工程で使用されて有害物質及び副生成物質が吸着された炭化物系吸着材28を、混合工程で着火され発熱する炭化物18として使用することができる。これにより、炭化物系吸着材28を有効利用できる。
【0043】
次に、効果について実証実験データを用いて説明する。
図2に実験装置40を示す。実験装置40は、中空の円筒状とされ、鉛直方向に設けられた加熱炉12を有している。加熱炉12の内部には、加熱処理部14が設けられ、加熱処理部14には、加熱炉12の外部で汚染土壌と炭化物を混合して生成された混合土壌20が投入されている。
【0044】
加熱炉12の上面には、加熱処理用の空気の吸引口22が設けられ、加熱炉12の底面には、排出口24が設けられている。加熱炉12の底面には砂利層42が設けられ、砂利層42の上に混合土壌20が投入されている。混合土壌20の上には、着火用の木炭44が載せられている。木炭44は、実験開始時にバーナで着火される。
【0045】
吐出口24にはダクト26が接続され、ダクト26の先端には加熱処理用の空気を吸引する吸引ポンプ38が取り付けられている。ダクト26には、揮発された有害物質や熱分解により副生成された有害物質等を吸着する、炭化物系吸着材28が設けられている。なお、炭化物系吸着材28は、効果検証のため、実験条件(後述するRUN1、2)によっては、取り外している。
【0046】
また、ダクト26には、炭化物系吸着材28と吸引ポンプ38の間に、加熱された空気を冷却する冷却部42、吸引する空気に含まれる有害物質を吸着するために直列に3段に配置された吸着剤(XAD1〜3)45、加熱処理用の空気量を計測する流量計46がそれぞれ取り付けられている。
【0047】
実験は、先ず、加熱処理時間を30分とした予備実験(RUN1)を行った。実験条件は、混合土壌20に混合された炭化物の重量割合(混合土壌質量に対する炭化物質量の割合)を20%とし、混合土壌20を通過する加熱処理用の空気の平均速度は42mm/秒とした。吸着剤45は取り外した状態とした。
また、砂利層42の深さは20mm、加熱処理部14に投入された混合土壌20の深さは80mmとした。
なお、混合土壌20に混合された炭化物の重量割合は、汚染土壌の種類や汚染の程度、使用する炭化物の種類等により適宜、最適値が決定される。
【0048】
図3〜図5に実験結果の一例を示す。
図3は、加熱処理部14の内部に投入された混合土壌20sの、着火されてから30分間の温度変化を示している。横軸は着火されてからの経過時間であり、縦軸は計測点の温度である。なお、着火は、木炭44がバーナで加熱されて赤熱された状態とし、実験はこの状態からスタートした。
【0049】
図3において、破線で示す特性T1は、混合土壌20の上面から20mm下方の混合土壌20の温度変化を、2点鎖線で示す特性T2は、混合土壌20の上面から40mm下方の混合土壌20の温度変化を、破線で示す特性T3は、混合土壌20の上から60mm下方の混合土壌20の温度変化を、1点鎖線で示す特性T4は、混合土壌20の上から80mm下方(砂利層42との境界)の混合土壌20の温度変化を、実線で示す特性T5は、測定点T1〜T4の平均温度を、それぞれ示している。
【0050】
時間経過と共に特性T1〜T5は徐々に上昇しており、特性T2が最も温度が高く(750℃程度まで上昇)、特性T4が最も温度が低い。平均温度は、約400℃〜450℃であった。特性T1の温度上昇が小さいのは、吸引空気で冷却されたためと思われる。なお、温度測定点は、混合土壌20の中の土壌部であり、赤熱した炭化物の内部は、より高温と推定される。
【0051】
図4に、PCBの濃度変化の測定結果を示す。横軸は吸引空気が通過する代表的な計測場所を示し、縦軸はPCB総量(μg)を示している。
なお、結果の棒グラフは、PCBに含まれる塩素の数ごとに積み重ねた総量を示したものであり、記号aは塩素の数が1個、記号bは2個、記号cは3個、記号dは4個、記号eは5個、記号fは6個、記号gは7個、記号hは8個、記号iは9個、記号jは10個の特性基を有するPCBであることを示す。
【0052】
結果から、棒グラフP1に示すように、加熱処理前の汚染土壌に含まれていたPCB総量は455μgであった。加熱処理後には、棒グラフP2に示すように、混合土壌20の上部半分(試料上層)のPCB総量は30μg、棒グラフP3に示すように、混合土壌20下部半分(試料上層)のPCB総量は240μg、棒グラフP4に示すように、砂利のPCB総量は10μg以下、棒グラフP5、P6に示すように、吸着剤(XAD1〜3)45で吸着された吸引空気中のPCB総量は10μg以下となっている。なお、XAD3は全く吸着は見られなかったので、記載を省略した。
【0053】
この結果から、PCBは、加熱処理されても、吸引空気側には移行していないことが分かる。また、混合土壌20の上部半分では大きく低減しているが、混合土壌20の下部半分では、未だ十分には熱分解されてない。これは、加熱処理時間が短く、混合土壌20の下部半分までは熱分解が進んでいないためと推定される。加熱処理時間を長くした確認実験を別途行った。確認実験の結果については、後述する。
【0054】
図5に、ダイオキシン類の濃度変化の測定結果を示す。横軸は計測場所を示し、縦軸はダイオキシン類総量(pg)を示している。なお、棒グラフは、検出されたダイオキシン類の種類ごとに記号a〜jで区分けして、積層した結果である。
ここに、記号aはダイオキシン類のTCDDsを、記号bはPCDDsを、記号cはHCDDsを、記号dはHCDDs、記号eはOCDDを、記号fはTCDFsを、記号gはPCDFsを、記号hはHCDFsを、記号iはHCDFs、記号jはOCDFを、それぞれ示す。
【0055】
結果から、棒グラフD1に示すように、処理前には、汚染土壌のダイオキシン類総量は約19万pgであった。処理後には、棒グラフD2に示すように混合土壌20の上部半分のダイオキシン類総量は8万pg、棒グラフD3に示すように混合土壌20の下部半分のダイオキシン類総量は15.5万pg、棒グラフD4に示すように砂利のダイオキシン類総量は0.2万pg以下、棒グラフD5、D6に示すように吸引空気中のダイオキシン類総量は0.2万pg以下となっている。
【0056】
この結果から、ダイオキシン類は、加熱処理されても吸引空気側に移行していないことが分かる。また、混合土壌20の上部半分では半分以下に低減しているが、混合土壌20の下部半分では、十分には熱分解されていない。しかし、ダイオキシン類の低減に関しても、PCBの場合と同様に、後述するように加熱処理時間を長くすることで、満足すべき結果を得ることができる。
【0057】
図6は、図2と同じ実験装置を使用し、加熱処理時間を長くした確認実験の結果である。加熱処理部14の内部に投入された混合土壌20が着火されてから、120分間の各部の温度変化を示している。横軸は着火されてからの経過時間であり、縦軸は計測点の温度である。
【0058】
温度計測点も、図3と同じであり、破線で示す特性T1は、混合土壌20の上面から20mm下方の混合土壌20の温度変化を、2点鎖線で示す特性T2は、混合土壌20の上面から40mm下方の混合土壌20の温度変化を、破線で示す特性T3は、混合土壌20の上から60mm下方の混合土壌20の温度変化を、1点鎖線で示す特性T4は、混合土壌20の上から80mm下方(砂利層42との境界)の混合土壌20の温度変化を、実線で示す特性T5は、測定点T1〜T4の平均温度を示している。
【0059】
個々の温度変化は、炭化物の局部的な密度の違い、温度計測点の炭化物との距離違い等により若干の違いがあるが、大きな傾向は予想通り、下層の温度上昇、及び平均温度の上昇が確認された。
即ち、混合土壌20の上層の特性T1、T2は、時間経過と共に急激に上昇した後、着火後90分程度まで500℃〜600℃の温度を維持しており、その後、着火後120分まで徐々に低下し300℃前後に到達する。
【0060】
混合土壌20の下層の特性T3、T4は、着火直後の温度上昇は緩やかで、特性T4は着火後90分の時点で急激に上昇している。そして、着火後120分の時点で、300℃程度に達している。平均温度は、約300℃〜400℃程度であった。
【0061】
図7に、着火後120分経過後の、各部におけるPCB濃度の測定結果を示す。横軸は実験条件を示し、縦軸はPCB収支を示している。
ここに、RUN1は、上述した予備実験の結果であり、空気空塔速度42mm/sec、処理時間30分、炭吸着カラム無しの条件であり、RUN2は、空気空塔速度50mm/sec、処理時間120分、炭吸着カラム無しの条件であり、RUN3は、空気空塔速度42mm/sec、処理時間120分、炭吸着カラム有り、の各条件を示す。なお、RUN1〜3は、いずれも炭化物の混合割合は20%とした。
【0062】
即ち、処理前(着火前)に汚染土壌に含有されていたPCBは、RUN1の条件では約40%が分解され、約50%が試料下層に、約7%が試料上層に含有されている。
これに対し、RUN2の条件では、約60%が分解され、約25%が排ガスに、約5%が氷冷部に、約10%が砂利に含有されている。
RUN3の条件では、約90%が分解され、残りの約10%が排ガス、炭吸着カラム、試料の下層に、試料の上層にそれぞれ含有されている。
【0063】
このことから、RUN2の条件では、処理時間を30分から120分に長くすることで、分解量が40%から60%に増加している。しかし、空気空塔速度を42mm/secから50mm/secまで上げたことで、炭化物に吸着されずに排ガスに含まれる量が増加している。
そこで、RUN3の条件のごとく、空気空塔速度を42mm/secとし、炭吸着カラムを設け、排ガスに含まれたPCBを回収し、加熱源として再利用し付着したPCBを熱分解することで、約90%の分解を実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
10 有害物質処理装置
12 加熱炉
14 加熱処理部
16 汚染土壌(汚染土壌、汚染底質又は汚染焼却廃棄物)
18 炭化物
20 混合土壌
22 吸引口
24 排出口
26 ダクト(通風路、空気吸引装置)
28 炭化物系吸着材(吸着手段)
30 ブロワ(空気吸引装置)
36 混合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB又はダイオキシン類の少なくとも一方の有害物質が含有された汚染土壌、汚染底質又は焼却後の灰である汚染焼却廃棄物と、着火されて発熱すると共に前記有害物質を吸着可能な炭化物とを混合する混合装置と、
前記混合装置から、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物が投入され、前記炭化物が着火されて発熱し前記有害物質を加熱処理する加熱処理部が設けられた加熱炉と、
前記加熱炉の吸引口から吸引した加熱処理用の空気を、前記加熱処理部の前記炭化物の間を通過させた後、前記加熱炉の排出口から排出させる空気吸引装置と、
を有する有害物質処理装置。
【請求項2】
前記空気吸引装置は、ブロアと、前記ブロアと前記排出口の間を連結する通風路とを有し、前記通風路には、前記炭化物の発熱に伴い熱分解又は揮発された、前記有害物質や副生成物質を吸着する吸着手段が設けられている請求項1に記載の有害物質処理装置。
【請求項3】
前記吸着手段は、炭化物系吸着材である請求項2に記載の有害物質処理装置。
【請求項4】
前記炭化物は、前記有害物質及び前記副生成物質を吸着処理させた前記炭化物系吸着材である請求項3に記載の有害物質処理装置。
【請求項5】
前記加熱処理部に投入された前記混合土壌、前記混合底質又は前記混合焼却廃棄物の前記吸引口側の端P部には、前記炭化物の着火手段が設けられている請求項1〜4のいずれか1項に記載の有害物質処理装置。
【請求項6】
PCB又はダイオキシン類の少なくとも一方の有害物質が含有された汚染土壌、汚染底質又は汚染焼却廃棄物と、着火されて発熱すると共に前記有害物質を吸着可能な炭化物とを混合装置で混合する混合工程と、
混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物を加熱炉の加熱処理部に投入し、空気吸引装置により、前記加熱炉の吸引口から吸引された加熱処理用の空気を、前記炭化物の間を通過させながら前記炭化物に着火させ、前記炭化物の発熱で前記有害物質を加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程で熱分解又は揮発された前記有害物質及び副生成物質を、前記空気吸引装置で加熱炉の排出口から吸引し、吸着処理用の炭化物系吸着材に吸着させる吸着工程と、
を有する有害物質処理方法。
【請求項7】
前記吸着工程で使用され、前記有害物質及び前記副生成物質が吸着された前記炭化物系吸着材を、前記混合工程で混合される前記炭化物として使用する請求項6に記載の有害物質処理方法。
【請求項8】
前記加熱処理工程において、混合土壌、混合底質又は混合焼却廃棄物に混合された前記炭化物を、前記吸引口側から着火させ加熱処理を開始し、熱分解又は揮発された前記有害物質及び前記副生成物質を、前記排出口側の前記炭化物に順次吸着させる請求項6又は7に記載の有害物質処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206659(P2011−206659A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75973(P2010−75973)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(505331487)有限会社グリーニングラボラトリ (2)
【Fターム(参考)】