説明

有害物質除去材及び有害物質除去方法

【課題】有害物質捕集効率、及び寿命を向上させた有害物質除去材を提供する。
【解決手段】担体と、担体上に担持された酵素、抗体、抗菌剤、防カビ剤、触媒、又は強誘電材料からなる有害物質除去要素とを有する有害物質除去材において、担体を構成する繊維・多孔質表面における単位面積あたりの前記有害物質除去要素の平均濃度が、ろ過方向に対して連続的又は段階的に増加又は減少していることを特徴とする有害物質除去材であり、気相中あるいは液相中の細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマ等の有害物質を除去することができる。本有害物質除去材は、空気清浄機用フィルター、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維からなる有害物質除去材、及びそれを用いた有害物質除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細菌、カビ又はウイルスなどが原因となる感染症が社会問題になっており、例えば、病院内や、公共施設など不特定多数の人の集まる場所での大量感染が懸念されている。特に病院内での感染は、抗生物質の乱用などからMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)等の発生を招く原因となることもある。
【0003】
このことに関し、最近の建築物では全室にダクトを設け、このダクトを通じてエアーコンディショナーにより空気を循環させて建物全体の室温等を調整しているため、このエアーコンディショナーを介して施設内を浮遊する細菌、カビ又はウイルスなどが施設全体に拡散することが多く、特にこのような空気を媒体とした感染ルートを遮断することが有効であると考えられるようになってきている。すなわち、エアーコンディショナーや空気清浄機などの空気流通部に、細菌、カビ、ウイルス又はこれらの媒体として空気中の微細浮遊物(ダスト等)を目の細かいフィルターに吸着させたり、酸化チタンや強酸性の滅菌ゾーンを設けて、ここを通過する細菌、カビ又はウイルスなどを不活性化して除去することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、繊維からなるフェルト状の繊維フィルタ部材を有して構成されるフィルタであって、前記繊維フィルタ部材を、互いに結合されず、個々に独立した相対移動可能な繊維の集合で形成すると共に、前記繊維フィルタ部材の前記繊維の間に、粒子を固着させることなく点在させたフィルタが記載されている。また、特許文献2には、塵埃を捕集するフィルタ本体と、このフィルタ本体を構成する繊維に担持された機能材とを備えたエアフィルタであって、前記機能材が、前記塵埃が有する特性に応じて前記フィルタ本体に局所的に配置されていることを特徴とするエアフィルタが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−30279号公報
【特許文献2】特開2006−231180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来からフィルターの効率および寿命の向上を達成するために、フィルターの充填密度に勾配をつけることによってフィルター性能の向上を図ることが試みられてきた。それに対し、フィルター表面の有害物質除去要素を用いて有害物質を除去または分解する機構を有するフィルターに関しては、その性能の向上に関しては十分な検討がなされていなかった。即ち、本発明は、フィルターの効率及び寿命を向上させた有害物質除去材を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、外部と接触する担体表面積の単位面積あたりの前記有害物質除去要素の重量が、ろ過方向に対して連続的又は段階的に増加又は減少させることによって有害物質の捕集効率を従来のフィルタと比べて著しく向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、
担体と、担体上に担持された有害物質除去要素とを有する有害物質除去材において、外部と接触する担体表面積の単位面積あたりの前記有害物質除去要素の重量が、ろ過方向に対して連続的又は段階的に増加又は減少していることを特徴とする有害物質除去材が提供される。
【0009】
好ましくは、担体の平均空間充填率はろ過方向に対して連続的又は段階的に増加している。
【0010】
好ましくは、有害物質除去要素は、有害物質除去剤又は有害物質分解剤である。
好ましくは、有害物質除去要素は、酵素、抗体、抗菌剤、防カビ剤、触媒、又は強誘電材料である。
【0011】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の有害物質除去材を用いて、気相中あるいは液相中の有害物質を除去することを含む、有害物質除去方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気相中あるいは液相中の粒子を高効率で除去することができる有害物質除去材を提供することができる。本発明によれば、気相中あるいは液相中の有害物質を効率的に除去できる空気清浄機あるいは液体清浄機を作製できるため、産業において非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の有害物質除去材は、外部と接触する担体表面積の単位面積あたりの前記有害物質除去要素の重量が、ろ過方向に対して連続的又は段階的に増加又は減少していることを特徴とする。さらに好ましくは、担体の平均空間充填率は、ろ過方向に対して連続的又は段階的に増加している。
【0014】
本発明における担体の平均空間充填率とは、ある単位体積中を担体が占有している体積割合のこと(例えばある形状に加工された空隙部を含んだ担体全体積に対する、空隙部を取り除いた単体体積の割合)を言う。
【0015】
本発明に用いられる繊維の平均繊維径は、1μm以下であることが好ましく、好ましくは10nm以上1μm以下であり、より好ましくは20nm以上700nm以下である。なお、平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の箇所(例えば、300箇所など)における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めることができる。
【0016】
担体を形成する主たる繊維としては、セルロースエステル、ビニロン、アクリル系、ポリウレタンのうち少なくとも1種類を主成分とする繊維が好ましい。また、担体を形成する主たる材料としては、ポリアミドを主成分とする繊維も好ましい。また、担体を形成する主たる材料としては、多孔質ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン等、ポリアルキレン系分子膜の熱延伸による微孔性膜)も好ましい。本発明でいう主成分とは、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する成分であることを指す。
【0017】
本発明におけるセルロースエステルとは、セルロースの水酸基を有機酸でエステル化されているセルロース誘導体を指す。エステル化に用いる有機酸は、例えば酢酸・プロピオン酸・酪酸などの脂肪カルボン酸、安息香酸・サリチル酸などの芳香族カルボン酸などがある。単独もしくは併用したものであってもよい。セルロースの水酸基のエステル基置換率について特に制限はないが、60%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明における担体を形成する主たる材料の群のなかでは、セルロースアシレート繊維が望ましい。セルロースアシレートは、セルロースの水酸基を構成する水素原子の一部または全部がアシル基で置換されているセルロースエステルを指す。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、およびブチリル基など挙げられる。これらの基は1種のみが置換されて構成されていてもよいし、2種以上のアシル基が混合置換されていてもよい。アシル基置換度の総和は、好ましくは2.0〜3.0であり、より好ましくは2.1〜2.8であり、特に好ましくは2.2〜2.7である。なかでも、この置換度を満たすセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートブチレートのいずれかであることが好ましく、セルロースアセテートであることが最も好ましい。一般にセルロースアシレートは、エステル化度によって溶剤が異なることが知られているが、あらかじめエステル化率の高いセルロースアシレートで担体を作製したのちに、アルカリ加水分解処理等を行って表面を親水化してもよい。
【0019】
セルロースアシレート繊維のみでも十分に実用的な有害物質除去材料を形成することが可能であるが、強度や寸度安定性をさらに向上させる等の目的で、ポリエステル系繊維・ポリオレフィン系繊維・ポリアミド系繊維・アクリル系繊維等との混紡繊維により担体を形成してもよい。混紡繊維を用いる場合には、セルロースアシレート繊維の質量分率は50%以上であることが望ましく、70%以上であることがさらに望ましい。
【0020】
本発明における担体を形成する主たる材料の群のなかでは、ポリアミド繊維であることも望ましい。
【0021】
本発明におけるポリアミドとは、化学構造単位にアミド結合を有する線状高分子からなる繊維を指す。
【0022】
ポリアミドの中でも、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸との結合体である直鎖型脂肪族ポリアミドが好ましい。特に、ナイロン66が好ましい。
【0023】
前記のジアミンおよびジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸等を単独または共重合成分として用いた脂肪族ポリアミドを用いることもできる。特に、ε−カプロラクタムの単独使用で製造されるナイロン6が好ましい。
【0024】
これらの他に、原料の脂肪族ジアミンとして一部または全部をシクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1、4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式ジアミンを用いた脂肪族ポリアミド、および/または、ジカルボン酸として一部または全部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0025】
更に、脂肪族パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を部分的な原料として用いて、吸水性の低減や弾性率向上を実現したポリアミドも含まれる。また、ポリアクリル酸アミド、ポリ(N−メチルアクリル酸アミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリル酸アミド)などのような側鎖にアミド結合を有するポリマーであってもよい。
【0026】
ポリアミドの中で最も望ましいのは、ナイロン66またはナイロン6である。アミド結合に由来する適度な吸湿性、適度な長さの長鎖脂肪酸からなる分子鎖を繊維軸配向させやすく比較的延伸性が高いこと、融解熱が高く熱容量が大きいことから動力学的にも速度論的にも溶融しにくい(耐溶融性)、長鎖脂肪鎖からなる分子鎖の可とう性や、アミド結合間の水素結合形成のためにフィブリル化やキンクバンドが生じにくい性質、すなわち繰返し屈伸性など、本発明の担体として好ましい性能を活用することができるためである。
【0027】
化学構造単位中のアミド結合が、主鎖ではなく側鎖に有するポリアミドも好ましく用いることができる。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N‘−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N−ヘキシルアクリルアミド)などのポリアクリルアミドを挙げることができる。一般に側鎖にアミド結合を有するポリマーは親水性が高く膨潤・変形しやすいため、ゲル化現象を利用して物理架橋体を形成させたり、アルキル基を導入させたりするなどの方法により疎水化することが望ましい。
【0028】
同様に強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0029】
本発明におけるビニロンとは、ビニルアルコール単位を65質量%以上含む線状高分子からなり、温度20℃湿度65%の環境に1週間以上放置した後の水分率が7%未満である繊維を指す。ビニルアルコールの水酸基をホルマール化したものであってもよいが、水酸基をホウ酸架橋したポリマーや、公知のアルカリ紡糸法や冷却ゲル紡糸法などの方法により耐水化処理が施された非ホルマール化繊維であってもよい。ビニルアルコール単位以外の成分としてはエチレン鎖、酢酸ビニル鎖などが含まれていてもよいが、ビニルアルコール担体から形成される繊維であることが好ましい。さらに、均質で高配向度・高結晶化度であるために、優れた機械的特性と信頼性が得られるという点で、冷却ゲル紡糸による非ホルマール化繊維であることが最も望ましい。
【0030】
ビニロンは一般に、他の繊維に対して、高強度、高弾性率、適度な親水性、耐候性、耐薬品性、接着性などに優れており、本発明の担体としてこれらの好ましい性能を活用することができる。
【0031】
本発明におけるアクリル系とは、アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で40%以上含む繊維を指し、例えば、アクリロニトリルのホモポリマーや、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの非イオン性モノマーとアクリルニトリルのコポリマー、ビニルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸などのアニオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマー、あるいは、ビニルピリジン、メチルビニルピリジンなどのカチオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマーなどの例がある。アクリロニトリルとミルクカゼインから形成されるいわゆるプロミックス繊維も本カテゴリーに包含される。
【0032】
アクリル系の繊維は一般に、有機系湿式紡糸法で製造することが多い。この方法では、紡糸原液が凝固浴中で凝固糸を形成するときに、凝固剤である水がノズルより紡出される紡糸原液中に浸入する一方で、紡糸溶剤が紡出した原液から外部に拡散し、このとき、水と有機溶剤(DMF、DMAcなど)が相互拡散することで重合体が析出して無数の空洞が網目状につながった構造をもつ凝固糸条が形成される。また、凝固過程で溶剤が凝固浴中に拡散することによる体積収縮により形成される繊維断面の変形や表面のマクロフィブ
リル構造形成による凹凸形成が特徴である。これらの微細構造は本発明で使用する担体の構造としては、比表面積向上や抗体担持のし易さの点で好ましい。
【0033】
本発明で用いるアクリル系繊維は、原料ポリマーの組成や紡糸法、製造工程内の後処理条件などにより変動するが、一般に、適度な親水性、耐候性が高い、かさ高い繊維が得られやすいという利点がある。
【0034】
本発明で用いるポリウレタンは、単量体相互の結合部分または基本となる基材重合体相互の結合部分が主としてウレタン結合による線状合成高分子からなる繊維を指す。ポリウレタンセグメントを質量比で85%以上含むことが望ましい。低融点で柔らかい分子量数千までのソフトセグメントと、剛直性で凝集力の高い高融点のハードセグメントからなるセグメント化ポリウレタンのブロック共重合であることが望ましい。ソフトセグメントとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ハードセグメントとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネートなどで形成されるウレタン基を用いることができる。ポリウレタンは一般に高い弾性を示すのが特徴で、両セグメントの化学構造や分布など高分子鎖の一時構造の違いや、製糸条件の違いなどからくる二次構造の違いによって異なるが、よく伸びる、伸縮回復力が高い、ゴム材料に比べて老化しにくい・細い繊維が得られるなどの特徴があり、本発明の担体として用いた場合にもこれらの性質を活用することができる。
【0035】
担体を構成する繊維の機械的物性ならびに寸法安定性については、乾燥時伸度が25%以上であることが望ましい。ここで乾燥時伸度とは、十分に長い時間かけて乾燥した繊維の20℃における引張試験における破断伸度をさす。一般に乾燥時伸度が10%以上で製布等の加工に適することが、フィルター加工及び実用時の破壊(ろ過効率の低下につながる)を防止するには25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが最も好ましい。
【0036】
担体を構成する繊維の公定水分率は、1.0%以上7.0%未満であることが好ましく、3.0%以上6.7%未満であることがより好ましく、5.0%以上6.5%未満であることが最も好ましい。本領域の公定水分率において、担持した抗体の活性の発現と、担体の機械的強度、剛性、環境(特に湿度)に対する寸法安定性が得られ、ひいてはフィルターとしての高い性能と信頼性を示すことができる。
【0037】
なお、ここで言う水分率とは公定水分率のことであり、公定水分率とは繊維を20℃、相対湿度65%の環境下に長時間放置したときに繊維に含まれる水分率のことを指す。また、他の繊維との混紡繊維の場合にはその混紡繊維全体の公定水分率を指すものとする。
【0038】
担体を構成する繊維の表面は、数十ナノメートルから数マイクロメートルスケールの微細な凹凸構造を有することが好ましい。凹凸の形状は、繊維方向と平行方向に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよいし、繊維方向と垂直すなわち軸に対して同心円状に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよく、これらの立体形状は繊維方向と平行方向から垂直方向迄の任意の角度で形成されたものが任意の比率、密度で存在してもよい。公知のセルロースアセテート繊維の紡糸法で得られる試料には、表層のスキン層形成と溶剤乾燥に伴うスキン層の陥没により、繊維断面が不定形の菊型を形成することが知られているが、この凹凸は本発明においても好ましい形態である。
【0039】
ナノメートルからマイクロメートルスケールの微細な凹凸構造は、空孔状および/または突起状であってもよい。平均径にして50nmから1μmの空孔または突起であることが望ましい。これらの空孔や突起は、例えば溶液のキャビテーションや微細分散質を分散させた溶液(例えば硫酸バリウム粒子を分散させたスラリーとの混合)を利用するなどの方法により紡糸工程で形成させたり、アシル基の加水分解や表面酸化処理など方法(例えばアルカリ水溶液により繊維表面をセルロース化したのち、酵素処理により繊維表面にミクロクレーターを発現させたりするなど)により後工程によって形成させたりすることができる。
【0040】
本発明に用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸もしくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、さらに加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、および167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用することが好ましい。
【0041】
紡糸に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒など、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば何でも用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0042】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、さらに塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0043】
本発明の有害物質除去材の担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが望ましい。かような構造をとることにより、加工ならびに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また本発明の抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着は
SEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0044】
接着点を形成する方法としては、乾式紡糸法で形成される癒着や溶融紡糸法で形成される融着点で形成してもよいし、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
【0045】
本発明で用いる有害物質除去要素としては、有害物質除去剤又は有害物質分解剤を挙げることができ、具体的には、酵素、抗体、抗菌剤、防カビ剤、触媒、又は強誘電材料などを挙げることができる。
【0046】
酵素としては、リパーゼなどの加水分解酵素、又はプロテアーゼなどの蛋白質分解酵素などを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0048】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイスル(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0049】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液または融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鶏卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鶏卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は鶏卵抗体であることが好ましい。
【0050】
前記担体に抗体を固定化する方法としては、担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0051】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0052】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0053】
前記抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的にはマレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
【0054】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0055】
抗菌剤及び防カビ剤としては、有機シリコン第4級アンモニウム塩系、有機第4級アンモニウム塩系、ビグアナイド系、ポリフェノール系、キトサン、銀担持コロイダルシリカ、ゼオライト担持銀系などが挙げられる。そして、その加工法としては、繊維からなる担体に抗菌/防カビ剤を含浸させるまたは塗布する後加工法や、担体を構成する繊維の合成段階で抗菌/防カビ剤を練り込む原糸原綿改質法などがある。
【0056】
触媒としては、例えば、酸化チタンなどの光触媒などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
強誘電材料としては、フッ化ビニリデン系、又はポリアミド系高分子などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明の有害物質除去材は、空気清浄機用フィルター、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。
【0058】
空気清浄機用フィルターとして使用する際には、粗塵を除くためのプレフィルター、除塵フィルター、消臭効果を示す光触媒フィルター、他の有害物質を除去する抗菌フィルター、VOC吸着フィルターなど任意の公知のフィルターと組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0060】
実施例1
図1に記載の装置を用いてエレクトロスピニング法で酢酸セルロースナノファイバーフィルターを膜厚方向へ空孔径が7〜0.8μmへ順次変化する膜厚1μmの不織布を作成した。この不織布に対して空孔径の大きい側から、インフルエンザウィルスに対して抗原抗体反応を示す抗体を溶解(1mg/ml)した水溶液を0.5ml噴霧した。この抗体に対し特異的に抗原抗体反応する標識抗体の溶液にフィルターをろ過方向と垂直な方向に3枚に分割し浸漬した。標識抗体の蛍光の強度から、抗体固定量を分割したフィルターにそれぞれついて求め、空孔径の大きい側からそれぞれ、0.23mg、0.16mg、0.11mgの結果を得た。SEM画像によるフィルターの画像を空孔径の大きい側から順に、1枚目表、2枚目表、3枚目表、3枚目裏から観察することで、それぞれ平均繊維径0.7μm、0.6μm、0.4μm、0.2μm、平均充填率10%、12%、16%、20%の結果を得た。この結果および、フィルター質量、ポリマー密度から計算されるポリマー体積をもちいて、ファイバー表面単位面積あたりの抗体の固定量を見積もると、空孔径の大きい側のフィルターからそれぞれ、0.92μg/cm2、0.39μg/cm2、0.12μg/cm2となった。また、ファイバー表面単位面積あたりの抗体固定量の勾配は1.6μg/cm2・μmとなった。実施例1のフィルターの模式図を図3に示す。
【0061】
次に、このフィルターを用いて、ウイルス捕集試験と圧力損失の評価を以下の通り実施した。供試ウイルス液は精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したものを使用した。前記フィルターを5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収用装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルスを噴霧した。マスク下流側には、ゼラチンフィルターを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルターを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、サンプル通過後のウイルス感染価を求めた。サンプル有り無しでのゼラチンフィルターのウイルス感染価の比較から、各サンプルのウイルス捕集率を算出した。また、圧力損失については、直径120mmのサンプルで仕切った箱に差圧計を取り付け、上流側から流量85L/minの清浄空気を送り、1分後の差圧を測定して圧力損失を評価した。その結果、捕集率は95%であり、圧力損失は81Paであった。
【0062】
比較例1
図1に記載の装置を用いてエレクトロスピニング法で酢酸セルロースナノファイバーフィルターを膜厚方向へ空孔径が7〜0.8μmへ順次変化する膜厚1μmの不織布を作成した。このフィルターは抗体溶液噴霧でなくフィルターを抗体溶液(0.5mg/ml)につけることで作成した。実施例1と同様の方法で測定および計算することにより、フィルターへの抗体固定量は0.5mg、ファイバー表面単位面積あたりの抗体固定量は、0.31μg/cm2でほぼ均一となった。比較例1のフィルターの模式図を図3に示す。比較例1で作成した抗体固定の表面濃度勾配を持たないフィルターでは、捕集率は75%であり、圧力損失79Paであった。
【0063】
実施例2
図1に記載の装置を用いてエレクトロスピニング法で酢酸セルロースナノファイバーを平均空孔径が4μm、膜厚1μmの不織布を作成した。この不織布に対して、インフルエンザウィルスに対して抗原抗体反応をしめす抗体を溶解(1mg/ml)した水溶液を 0.5ml噴霧した。実施例1と同様の方法でファイバー表面単位面積あたりの抗体固定量の勾配を見積もったところ、0.8μg/cm2・μmとなった。実施例2のフィルターの模式図を図4に示す。このフィルターを用いて、実施例1と同様にウイルス捕集試験を実施したところ、捕集率は92%であり、圧力損失は108Paであった。
【0064】
比較例2
図1に記載の装置を用いてエレクトロスピニング法で酢酸セルロースナノファイバーを平均空孔径が4μm、膜厚1μmの不織布を作成した。このフィルターを抗体溶液(0.5mg/ml)につけることで実施例2と同量の抗体を固定した。比較例2のフィルターの模式図を図3に示す。比較例2で作成した抗体固定の表面濃度勾配を持たないフィルターでは、捕集率は78%であり、圧力損失は105Paであった。
【0065】
実施例3
ろ過方向に対し、空孔径を50〜20μmへ順次変化する膜厚100μmのポリエステル不織布フィルターを用い実験を行った。このフィルターに対しろ過と逆方向から、酸化チタン含有水溶液(1mg/ml)を2ml噴霧した。SEMにより、このフィルターをろ過方向および逆方向から観察し、繊維表面元素分析のマッピングを行ったところ、それぞれ、繊維表面の単位面積あたりの酸化チタンの重量がそれぞれ1.5μg/cm2、3.7μg/cm2が被覆されていた。実施例3のフィルターの模式図を図5に示す。実施例3で作成したフィルターを用いて紫外線照射下3時間後のアンモニア濃度を計測したところ、60%の除去効率が得られた。
【0066】
比較例3
空孔径35μmで、膜厚100μmのポリエステル不織布を用い実験を行った。このフィルターを酸化チタン含有水溶液(0.5mg/ml)に浸漬した。このフィルターを、ろ過方向および逆方向から観察したが、酸化チタンの被覆率はともに5%であった。比較例3のフィルターの模式図を図5に示す。比較例3で作成したフィルターを用いて紫外線照射下3時間後のアンモニア濃度を計測したところ、40%の除去効率が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、実施例で用いた紡糸装置を示す。
【図2】図2は、フィルターの構成を示す。
【図3】図3は、実施例1と比較例1のフィルターの模式図を示す。
【図4】図4は、実施例2と比較例2のフィルターの模式図を示す。
【図5】図5は、実施例3と比較例3のフィルターの模式図を示す。
【符号の説明】
【0068】
11 電源装置
12 シリンジ
13 ニードル
14 コレクター
15 ポリマー溶液
16 ファイバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、担体上に担持された有害物質除去要素とを有する有害物質除去材において、外部と接触する担体表面積の単位面積あたりの前記有害物質除去要素の重量が、ろ過方向に対して連続的又は段階的に増加又は減少していることを特徴とする有害物質除去材。
【請求項2】
担体の平均空間充填率がろ過方向に対して連続的又は段階的に増加している、請求項1に記載の有害物質除去材。
【請求項3】
有害物質除去要素が、有害物質除去剤又は有害物質分解剤である、請求項1又は2に記載の有害物質除去材。
【請求項4】
有害物質除去要素が、酵素、抗体、抗菌剤、防カビ剤、触媒、又は強誘電材料である、請求項1から3の何れかに記載の有害物質除去材。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の有害物質除去材を用いて、気相中あるいは液相中の有害物質を除去することを含む、有害物質除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−172550(P2009−172550A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16145(P2008−16145)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】