説明

有害物質除去装置

【課題】抗体担持フィルターを備えた有害物質除去装置であってフィルター交換時期を報知する機能を有する有害物質除去装置の提供。
【解決手段】抗体を担持した担体からなるフィルター、前記フィルターに光を照射する発光部及び前記フィルターを通過した前記光を受光する受光部、前記受光部の受光量の閾値を基点として回路切替が行われるスイッチ回路を含むスイッチ部、並びに
前記回路切替により異なる信号を表示する報知部を備えた有害物質除去装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質除去装置に関する。より詳しくは、本発明は、抗体担持フィルターを備えた有害物質除去装置であってフィルター交換時期を報知する機能を有する有害物質除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルターを通過させることにより空気を浄化する空気清浄機においては、性能の維持のためにフィルター交換が必要である。特に抗体を担持した担体からなるフィルターは、使用等によるフィルター機能の低下が分かりにくく、交換時期を知らせるための簡便かつ信頼性の高い手段が求められていた。
【0003】
特許文献1では抗体を担持してなる有害物質除去材を用いて有害物質を除去する方法が開示されており、該有害物質除去材における抗体の活性度を示すインジケータを設けることについて記載があるが、インジケータの機構について、具体的な記載はない。
特許文献2には吸気フィルターの汚れを検知して汚れが予め設定されたレベルに達したときに報知する加熱調理器が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3642340号
【特許文献2】特開平11−14071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抗体担持フィルターを備えた有害物質除去装置であってフィルター交換時期を報知する機能を有する有害物質除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意研究を行った結果、光学的検知信号とウイルス捕獲量との間に相関関係を見出した。本発明はこの発見を基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は下記[1]〜[8]を提供するものである。
【0007】
[1]抗体を担持した担体からなるフィルター、前記フィルターに光を照射する発光部及び前記フィルターを通過した前記光を受光する受光部、前記受光部の受光量の閾値を基点として回路切替が行われるスイッチ回路を含むスイッチ部、並びに前記回路切替により異なる信号を表示する報知部を備えた有害物質除去装置。
[2]前記報知部が前記回路切替によって前記受光部の受光量が前記閾値より小さいときに信号を発する又は信号を停止する[1]に記載の有害物質除去装置。
[3]前記閾値が2個以上であり、かつ、前記スイッチ部が閾値ごとに異なるスイッチ回路を有する[1]又は[2]に記載の有害物質除去装置。
[4]前記発光部が発光ダイオードを含む[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
【0008】
[5]前記受光部が光電変換素子を含む[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
[6]前記担体が平均繊維径が100nm以下の繊維である[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
[7]前記抗体が鶏卵抗体である[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
[8][1]〜[7]のいずれか一項に記載の有害物質除去装置を用いて、気相中の有害物質を除去することを含む、有害物質除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、抗体担持フィルターを備えた有害物質除去装置であってフィルター交換時期を報知する機能を有する有害物質除去装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有害物質除去装置の1例の概略図を図1に示す。
抗体担持フィルター21は発光部22と受光部23−1とに挟まれるように取りはずし可能な形態で設けられる。発光部22から、抗体担持フィルター21の1つの面に光を照射し、該フィルターを通過した光を他方の面から受光部23−1で受光する。受光部23−1に対し、図に示すように参照受光部23−2を設けてもよい。受光部は受光した光を電気信号に変換し、該電気信号をスイッチ部に送る。
【0011】
本明細書において閾値とは後述のスイッチ回路の切替の基点となる受光部で受光した光の強度に基づく物理化学的値を意味する。本発明の有害物質除去装置の使用時において、通常受光部で受光する光の強度は減少していくので、閾値は少なくとも受光した光の強度が減少していく際の回路切替の基点となっていればよい。
【0012】
閾値は、通常受光部で受光した光に基づく電圧値などで、設定すればよい。閾値としては例えば、使用開始時の前記フィルターの[(受光部23−1の受光量)/(参照受光部23−2の受光量)]を100とし、前記フィルター部位に遮光フィルターを設置した時の[(受光部23−1の受光量)/(参照受光部23−2の受光量)]を0として、閾値として、必要に応じ、50〜99.9、好ましくは70〜99、より好ましくは80〜98、さらに好ましくは88〜97の範囲にある値を設定することができる。閾値は複数設定してもよい。
【0013】
スイッチ部25は、受光部23−1で受光した光の閾値を基点として回路切替が行われるスイッチ回路を含む。ここでスイッチ回路とは、回路の一部を意味するものであってもよく、通常、少なくとも受光部と接続し報知部と接続しうる回路において、回路の切替を行うことのできるスイッチを意味する。回路切替は例えば、コンパレータを用いた回路を利用することができる。この場合、電圧が閾値より大きいときに出力電圧が0Vとなり、電圧が閾値より小さいときに例えば報知手段として用いる発光ダイオードを発光させるに必要な出力電圧が印加されればよい。
【0014】
スイッチ回路による回路切替によって、例えば、受光部23−1で受光した光が閾値より大きいときは報知部と受光部とが接続せず、受光部23−1で受光した光が閾値より小さいときは報知部と受光部とが接続する回路をとればよい。この場合、報知部は受光部と接続することにより信号を発すればよく、該信号が有害物質除去装置のフィルター交換時期の指標となる。報知部が受光部と接続していない場合に信号を発し、接続した場合に信号を発しない回路であってもよい。また、スイッチ回路は、受光部23−1で受光した光が閾値より大きいときは報知部と受光部とが接続せず、受光部23−1で受光した光が閾値より小さいときは報知部と報知部と受光部とが接続する回路をとってもよい。
【0015】
スイッチ回路は、手動での切替が可能となっていてもよい。また、スイッチ回路はフィルターの交換時に自動で切り替わるようになっていてもよい。このような形態は、閾値が受光した光の強度が上昇した際の回路切替の基点とならない場合などにおいて有用である。
【0016】
発光部は特に限定されないが、発光ダイオード、電極管、有機ELなどを用いることができる。このうち、入手の容易性やコストの観点から、発光ダイオードが好ましい。発光ダイオードとしては赤色LEDなどを用いることができる。発光波長は特に限定されないが、350nm以上1000nm以下が好ましく、400nm以上700nm以下がより好ましい。
【0017】
受光部としては、光を定量的に電気信号に変換する光電素子を用いれがよい。光電素子としては、特に限定されないが、フォトチューブ、フォトマルチプライア、フォトダイオードなどが挙げられる。このうち、大きさ、取り扱い、検出する光の強度などの観点からフォトダイオードを用いることが好ましい。フォトダイオードとしてはシリコンフォトダイオードを用いればよい。また、硫化カドミウム又はカドミウムセレンを主成分とするCdSセルなどを用いることもできる。
【0018】
発光部及び受光部の位置は、発光部から照射された光が前記フィルターを通過して受光部にて受光できるようになっている限り特に限定されないが、抗体担持フィルター面の法線上に該フィルターを挟んで相対する位置にあることが好ましい。抗体担持フィルターに空気が通過する形態で本発明の有害物質除去装置が用いられている場合において、発光部及び受光部は何れが空気の流れの上流側にあっても下流側にあってもよいが、受光部が上流側にあることが好ましい。また、発光部及び受光部は、フィルター交換時に影響を受け難い部位にあることが好ましい。通常、発光部及び受光部は、フィルターの端部に設けられていればよい。また、発光部及び受光部は、それぞれ可動でもよい。発光部及び受光部が同時に可動であることも好ましく、その場合はフィルター面に沿って同様に動く形態とすることが好ましい。
スイッチ回路は、受光部の受光量の閾値を基点として回路の切り替えを行う。従って該スイッチ回路は少なくとも受光部と接続して、受光部により電気信号に変換された光の量に応じて回路を切り替える。
【0019】
報知部は受光部との接続又は未接続によって、視覚又は聴覚などにより認識可能な光や音などによる信号を発する手段であればよく、特に限定されない。例としては、ランプ、ブザーなどが挙げられる。前記閾値が複数設定されている場合は、設定された閾値ごとに別のスイッチ回路を有し、報知部が発する信号において複数の閾値の間の何れにあるかが識別可能となっていることが好ましい。識別可能とするために、報知部において、例えばランプの数の違い、ランプの異なる色の表示、ブザーによる異なる音の表示が行われればよい。複数の閾値の設定によって、フィルター交換の必要性の度合いを報知部で段階的に表示することが可能になる。
【0020】
抗体担持フィルターにおける担体としては、特に限定されないが、繊維が好ましい。繊維としては、セルロースエステル、ビニロン、アクリル系、ポリウレタンのうち少なくとも1種類を主成分とする繊維が好ましい。また、ポリアミドを主成分とする繊維も好ましい。主成分とは、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する成分であることを示す
【0021】
セルロースエステルとは、セルロースの水酸基を有機酸でエステル化されているセルロース誘導体を指す。エステル化に用いる有機酸は、例えば酢酸・プロピオン酸・酪酸などの脂肪カルボン酸、安息香酸・サリチル酸などの芳香族カルボン酸などがある。単独もしくは併用したものであってもよい。セルロースの水酸基のエステル基置換率について特に制限はないが、60%以上であることが好ましい。
【0022】
抗体担持フィルターにおいて担体として用いられる繊維の群のなかでは、セルロースアシレート繊維が望ましい。セルロースアシレートは、セルロースの水酸基を構成する水素原子の一部または全部がアシル基で置換されているセルロースエステルを指す。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、およびブチリル基など挙げられる。これらの基は1種のみが置換されて構成されていてもよいし、2種以上のアシル基が混合置換されていてもよい。アシル基置換度の総和は、好ましくは2.2〜3.0であり、より好ましくは2.2〜2.8であり、特に好ましくは2.2〜2.7である。なかでも、この置換度を満たすセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートブチレートのいずれかであることが好ましく、セルロースアセテートであることが最も好ましい。一般にセルロースアシレートは、エステル化度によって溶剤が異なることが知られているが、あらかじめエステル化率の高いセルロースアシレートで担体を作製したのちに、アルカリ加水分解処理等を行って表面を親水化してもよい。
【0023】
セルロースアシレート繊維のみでも十分に実用的な有害物質除去材料を形成することが可能であるが、強度や寸度安定性をさらに向上させる等の目的で、ポリエステル系繊維・ポリオレフィン系繊維・ポリアミド系繊維・アクリル系繊維等との混紡繊維により担体を形成してもよい。混紡繊維を用いる場合には、セルロースアシレート繊維の質量分率は50%以上であることが望ましく、70%以上であることがさらに望ましい。
【0024】
抗体担持フィルターにおいて担体として用いられる繊維の群のなかでは、ポリアミド繊維であることも望ましい。
【0025】
本明細書においてポリアミドとは、化学構造単位が主としてアミド結合で結合されている線状高分子からなる繊維を指す。
ポリアミドの中でも、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸との結合体である直鎖型脂肪族ポリアミドが好ましい。特に、ナイロン66が好ましい。
【0026】
前記のジアミンおよびジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸等を単独または共重合成分として用いた脂肪族ポリアミドを用いることもできる。特に、ε−カプロラクタムの単独使用で製造されるナイロン6が好ましい。
【0027】
これらの他に、原料の脂肪族ジアミンとして一部または全部をシクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1、4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジアミンを用いた脂肪族ポリアミド、および/または、ジカルボン酸として一部または全部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0028】
更に、脂肪族パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を部分的な原料として用いて、吸水性の低減や弾性率向上を実現したポリアミドも含まれる。また、ポリアクリル酸アミド、ポリ(N−メチルアクリル酸アミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリル酸アミド)などのような側鎖にアミド結合を有するポリマーであってもよい。
【0029】
ポリアミドの中で最も望ましいのは、ナイロン66またはナイロン6である。アミド結合に由来する適度な吸湿性、適度な長さの長鎖脂肪酸からなる分子鎖を繊維軸配向させやすく比較的延伸性が高いこと、融解熱が高く熱容量が大きいことから動力学的にも速度論的にも溶融しにくい(耐溶融性)、長鎖脂肪鎖からなる分子鎖の可とう性や、アミド結合間の水素結合形成のためにフィブリル化やキンクバンドが生じにくい性質、すなわち繰返し屈伸性など、本発明の担体として好ましい性能を活用することができるためである。
【0030】
同様に強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0031】
本明細書において、ビニロンとは、ビニルアルコール単位を65質量%以上含む線状高分子からなり、温度20℃湿度65%の環境に1週間以上放置した後の水分率が7%以下である繊維を指す。ビニルアルコールの水酸基をホルマール化したものであってもよいが、水酸基をホウ酸架橋したポリマーや、公知のアルカリ紡糸法や冷却ゲル紡糸法などの方法により耐水化処理が施された非ホルマール化繊維であってもよい。ビニルアルコール単位以外の成分としてはエチレン鎖、酢酸ビニル鎖などが含まれていてもよいが、ビニルアルコール担体から形成される繊維であることが好ましい。さらに、均質で高配向度・高結晶化度であるために、優れた機械的特性と信頼性が得られるという点で、冷却ゲル紡糸による非ホルマール化繊維であることが最も望ましい。
【0032】
ビニロンは一般に、他の繊維に対して、高強度、高弾性率、適度な親水性、耐候性、耐薬品性、接着性などに優れており、本発明の担体としてこれらの好ましい性能を活用することができる。
【0033】
本明細書において、アクリル系とは、アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で40%以上含む繊維を指し、例えば、アクリロニトリルのホモポリマーや、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの非イオン性モノマーとアクリルニトリルのコポリマー、ビニルベンゼンするスルホン酸、アリルスルホン酸などのアニオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマー、あるいは、ビニルピリジン、メチルビニルピリジンなどのカチオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマーなどの例がある。アクリロニトリルとミルクカゼインのから形成されるいわゆるプロミックス繊維も本カテゴリーに包含される。
【0034】
アクリル系の繊維は一般に、有機系湿式紡糸法で製造することが多い。この方法では、紡糸原液が凝固浴中で凝固糸を形成するときに、凝固剤である水がノズルより紡出される紡糸原液中に浸入する一方で、紡糸溶剤が紡出した原液から外部に拡散し、このとき、水と有機溶剤(DMF、DMAcなど)が相互拡散することで重合体が析出して無数の空洞が網目状につながった構造をもつ凝固糸条が形成される。また、凝固過程で溶剤が凝固浴中に拡散することによる体積収縮により形成される繊維断面の変形や表面のマクロフィブリル構造形成による凹凸形成が特徴である。これらの微細構造は本発明で使用する担体の構造としては、非表面積向上や抗体担持のし易さの点で好ましい。
【0035】
本発明で用いるアクリル系繊維は、原料ポリマーの組成や紡糸法、製造工程内の後処理条件などにより変動するが、一般に、適度な親水性、耐候性が高い、かさ高い繊維が得られやすいという利点がある。
【0036】
本発明で用いるポリウレタンは、単量体相互の結合部分または基本となる基材重合体相互の結合部分が主としてウレタン結合による線状合成高分子からなる繊維を指す。ポリウレタンセグメントを質量比で85%以上含むことが望ましい。低融点で柔らかい分子量数千までのソフトセグメントと、剛直性で凝集力の高い高融点のハードセグメントからなるセグメント化ポリウレタンのブロック共重合であることが望ましい。ソフトセグメントとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル、ハードセグメントとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネートなどで形成されるウレタン基を用いることができる。ポリウレタンは一般に高い弾性を示すのが特徴で、両セグメントの化学構造や分布など高分子鎖の一時構造の違いや、製糸条件の違いなどからくる二次構造の違いによって異なるが、よく伸びる、伸縮回復力が高い、ゴム材料に比べて老化しにくい・細い繊維が得られるなどの特徴があり、本発明の担体として用いた場合にもこれらの性質を活用することができる。
【0037】
また、本発明で用いる担体を構成する繊維の20℃の水に対する体積膨潤度は1.1%以上10%未満であり、好ましくは1.1%以上8%未満であり、特に好ましくは1.1%以上6%未満であり、最も好ましくは1.1%以上5%未満である。なお、本発明における20℃の水に対する繊維の体積膨潤度とは、乾燥繊維を20℃の純水に1時間浸漬する前後の繊維の密度を密度勾配管法(JIS−K7112)にて求めた体積膨潤度をさす。
【0038】
担体を構成する繊維の機械的物性ならびに寸法安定性については、乾燥時伸度が25%以上であることが望ましい。ここで乾燥時伸度とは、十分に長い時間かけて乾燥した繊維の20℃における引張試験における破断伸度をさす。一般に乾燥時伸度が10%以上で製布等の加工に適することが、フィルター加工及び実用時の破壊(ろ過効率の低下につながる)を防止するには25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが最も好ましい。
【0039】
担体を構成する繊維の公定水分率は、1.0%以上7.0%未満であることが好ましく、3.0%以上6.5%未満であることがより好ましく、5.0%以上6.5%未満であることが最も好ましい。本領域の公定水分率において、担持した抗体の活性の発現と、担体の機械的強度、剛性、環境(特に湿度)に対する寸法安定性が得られ、ひいてはフィルターとしての高い性能と信頼性を示すことができる。
【0040】
なお、ここで言う水分率とは公定水分率のことであり、公定水分率とは繊維を20℃、相対湿度65%の環境下に長時間放置したときに繊維に含まれる水分率のことを指す。また、他の繊維との混紡繊維の場合にはその混紡繊維全体の公定水分率を指すものとする。
【0041】
担体を構成する繊維の表面は、数十ナノメートルから数マイクロメートルスケールの微細な凹凸構造を有することが好ましい。凹凸の形状は、繊維方向と平行方向に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよいし、繊維方向と垂直すなわち軸に対して同心円状に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよく、これらの立体形状は繊維方向と平行方向から垂直方向迄の任意の角度で形成されたものが任意の比率、密度で存在してもよい。公知のセルロースアセテート繊維の紡糸法で得られる試料には、表層のスキン層形成と溶剤乾燥に伴うスキン層の陥没により、繊維断面が不定形の菊型を形成することが知られているが、この凹凸は本発明においても好ましい形態である。
【0042】
ナノメートルからマイクロメートルスケールの微細な凹凸構造は、空孔状および/または突起状であってもよい。平均径にして50nmから1μmの空孔または突起であることが望ましい。これらの空孔や突起は、例えば溶液のキャビテーションや微細分散質を分散させた溶液(例えば硫酸バリウム粒子を分散させたスラリーとの混合)を利用するなどの方法により紡糸工程で形成させたり、アシル基の加水分解や表面酸化処理など方法(例えばアルカリ水溶液により繊維表面をセルロース化したのち、酵素処理により繊維表面にミクロクレーターを発現させたりするなど)により後工程によって形成させたりすることができる。
【0043】
抗体担持フィルター担体として用いられる繊維の平均繊維径は、50μm以下であることが望ましく、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。なお、本発明の平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の300箇所における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めた数値である。
【0044】
抗体フィルターにおいて担体として用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸もしくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、さらに加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、および167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用することが好ましい。
【0045】
紡糸に用いる溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水など、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば何でも用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0046】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、さらに塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0047】
抗体担持フィルターの担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが望ましい。かような構造をとることにより、加工ならびに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また本発明の抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着は
SEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0048】
接着点を形成する方法としては、乾式紡糸法で形成される癒着や溶融紡糸法で形成される融着点で形成してもよいし、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
【0049】
抗体フィルターに用いられる抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0050】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0051】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液または融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鶏卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鶏卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0052】
抗体担持フィルターに用いられる抗体は鶏卵抗体であることが好ましい。
【0053】
前記担体に抗体を担持する(固定化する)方法としては、担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0054】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0055】
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0056】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0057】
前記抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的にはマレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0058】
本発明の有害物質除去装置を用いた気相中の有害物質の除去は、どのような形態で行ってもよく特に限定されないが、抗体担持フィルターに空気が通過する形態で行われることが好ましい。なお、フィルター面は、通過する空気の流れに対して略垂直となっていることが好ましい。例えば、本発明の有害物質除去装置を、一定の空気の流れがある場所に設置したり、気圧が異なる2つの部屋の境界に設置したりしてもよい。また、空調システムに、本発明の有害物質除去装置を設けてもよい。さらには本発明の有害物質除去装置を吸気部及び排気部を備えたケースに収めた形状とし、空気清浄機として用いてもよい。この場合、吸気部から取り込まれた空気の全てが抗体担持フィルターを通過して排気部へと向かう状態となっていることが好ましい。具体的にはフィルターとケース本体が密着して両者の間に視覚的に確認できるよう隙間を生じせしめない状態であることが好ましい。
【0059】
フィルターに空気を効率よく通過させるために、本発明の有害物質除去装置は送風部を備えていてもよい。送風部としては、軸流ファンやプロペラファンなどが挙げられる。送風部としては、給気機能を有する送風部を用いてもよく、排気機能を有する送風部を用いてもよく、両方を用いてもよい。排気機能を有する送風部の例としてはシロッコファンなどが挙げられる。シロッコファンは、円筒状の回転体の円周面に複数の小型の翼が設けられた構成を有し、小型化、軽量化に適し、また、駆動時に発生する音が小さいという利点がある。
【0060】
本発明の有害物質除去装置は、病院、学校、幼稚園、公共施設、待合室、飛行機、電車などの室内に設置することができる。例えば、病院の床頭台に設置することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
[抗体担持フィルターの作製]
セルロースアセテート(アルドリッチ製、全置換度2.4、数平均分子量3万)のアセトン:水(97:3)溶液(10質量%)を用い、ナノファイバー製造装置(カトーテック製:図2参照)を用いて、シリンジ送り速度0.05mm/min、引加電圧15kVで電界紡糸を行い、さらに真空中80℃8時間乾燥して膜厚85μmの微細不織布試料を作製した。該試料の平均繊維径をSEMで測定したところ、80nmであった。次に抗原を投与したニワトリが産んだ免疫卵を精製してインフルエンザ抗体(IgY抗体)を作製した。IgY抗体を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、抗体濃度100ppmになるよう調液し、さらにこの溶液の0.45μmのフィルターによるろ過を行って、担持液を調製した。本担持液に前記不織布試料を室温で16〜24時間浸漬して繊維表面に抗体を担持させ、抗体担持フィルター試料を得た。
【0062】
[回路作製及び動作確認]
発光素子には市販の赤色LED素子、受光素子にはシリコンフォトダイオードを用い、発光素子に対して、受光素子1(測定用)はフィルターを挟んで、受光素子2(参照用)はフィルターを挟まずに設置した(図1参照)。さらに図3に示すような回路を組んだ。受光素子1をND0.3の光量調整フィルター(富士フイルム製)で遮ることで報知部の発光ダイオードが点灯することを確認した。可変抵抗R1によってスイッチング回路の閾電圧を調節できることを確認した。
【0063】
[ウイルス不活化効率評価]
供試ウイルス液としては精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したものを使用した(20万プラーク/mL)。各抗体担持フィルター試料を5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルスを噴霧した。試料下流側にはゼラチンフィルターを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルターを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、試料通過後のウイルス感染価を求めた。抗体担持フィルター試料の有り無しでのゼラチンフィルターのウイルス感染価の比較から、各試料のウイルスの除去率を算出し、該除去率から抗体担持フィルターが捕獲したウイルス量を算出した。
【0064】
[閾値条件設定]
図3の回路の(1)端子Cをアースし、端子A-A'にゲイン=1となるように抵抗を入れ、端子B-B'の電位を測定した。次に、上記ウイルス不活化効率試験を、抗体担持フィルター試料を交換せずに繰返し、1,3,10回後の回路の出力電圧を測定した。結果を表1及び図4に示す。結果から分かるように、電圧値は試験回数と正の相関を示した。従って、本回路の出力信号を用い、使用環境や安全係数を任意に設定することによって、フィルター交換時期をユーザーに知らせるインジケータに活用できることが確認できた。
【0065】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の有害物質除去装置の概念図を示す図である。
【図2】実施例ならびに比較例で用いた電界紡糸装置を示す図である。
【図3】実施例で用いた本発明の有害物質除去装置の回路図を示す図である。
【図4】出力電圧とフィルターが捕獲したウイルス量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
11 電源装置
12 シリンジ
13 ニードル
14 コレクター
15 ポリマー溶液
16 ナノファイバー
21 抗体担持フィルター
22 発光部
23−1 受光部
23−2 参照受光部
25 スイッチ部
26 報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を担持した担体からなるフィルター、
前記フィルターに光を照射する発光部及び前記フィルターを通過した前記光を受光する受光部、
前記受光部の受光量の閾値を基点として回路切替が行われるスイッチ回路を含むスイッチ部、並びに
前記回路切替により異なる信号を表示する報知部を備えた有害物質除去装置。
【請求項2】
前記報知部が前記回路切替によって前記受光部の受光量が前記閾値より小さいときに信号を発する又は信号を停止する請求項1に記載の有害物質除去装置。
【請求項3】
前記閾値が2個以上であり、かつ、前記スイッチ部が閾値ごとに異なるスイッチ回路を有する請求項1又は2に記載の有害物質除去装置。
【請求項4】
前記発光部が発光ダイオードを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
【請求項5】
前記受光部が光電変換素子を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
【請求項6】
前記担体が平均繊維径が100nm以下の繊維である請求項1〜5のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
【請求項7】
前記抗体が鶏卵抗体である請求項1〜6のいずれか一項に記載の有害物質除去装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の有害物質除去装置を用いて、気相中の有害物質を除去することを含む、有害物質除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−95438(P2009−95438A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268679(P2007−268679)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】