説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】均一な膜厚の発光層を形成するとともに、特性の高い有機EL素子を凸版印刷法で作製することができる有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】支持基板上に設けられる有機EL素子の製造方法であって、前記一対の電極のうちの一方の電極が表面に設けられた支持基板を用意する用意工程と、前記発光層の形状に対応する形状の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記発光層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって発光層を形成する発光層形成工程と、前記一対の電極のうちの他方の電極を設ける工程と、をこの順で含み、前記凸版印刷版の前記凸部には、表面部に複数本の凹溝が形成されており、前記発光層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保つことを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある。)の製造方法および有機EL素子を備える照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機物を発光材料として用いた発光素子であり、表示装置や照明装置などの光源として用いられる。この有機EL素子は、有機物の発光材料を含む発光層と、該発光層を介在させて設けられる一対の電極とを含んで構成される。有機EL素子に電圧を印加すると、陽極から正孔が注入されるとともに、陰極から電子が注入され、注入された正孔と電子とが発光層で結合することによって発光する。
【0003】
発光層は、例えば発光材料を含むインキを所定の塗布法によって薄膜化し、これを固化することによって形成することができる。しかしながら発光層のサイズによっては、インキを均一な膜厚で塗布することが困難なために、結果として発光層の膜厚にムラが生じ、そのために発光ムラが生じることがある。均一な膜厚でのインキの塗布は塗布面積が大きくなるほど通常は困難になる。そのためサイズが大きくなるほど、形成される発光層の膜厚にムラが生じ易くなり、発光ムラなどの発光不良が発生するおそれが大きくなる。
【0004】
発光層の大きさは有機EL素子が搭載される装置の仕様に基づいて設計される。例えば有機EL素子は表示装置の画素光源として用いられるが、表示装置に用いられる有機EL素子のサイズは求められる解像度に応じて決まるため、発光層の幅および長さは通常マイクロメートル(μm)オーダーである。このような極小型の有機EL素子では、インキを塗布する面積が小さいために、従来の凸版印刷法を用いたとしても、インキの濃度や印刷速度などを適宜調整することによって比較的均一な膜厚でインキを塗布することができる。そのため均一な膜厚の発光層を比較的容易に形成することができる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
他方、照明装置に用いられる有機EL素子は、幅および長さが通常センチメートル(cm)オーダーであり、表示装置用の有機EL素子と比べると非常に大型である。表示装置用の有機EL素子と照明装置用の有機EL素子のサイズは、前者が100μm角程度であるのに対して、後者が1cm角程度以上なので、面積にして10000倍以上も異なる。すなわち照明装置用の有機EL素子を形成する際には、表示装置用の有機EL素子と比べると10000倍以上の広範囲にインキを塗布する必要がある。このような広範囲にインキを塗布する場合、均一な膜厚でのインキの塗布が格段に難しくなる。そのため表示装置のような極小型の有機EL素子の形成に用いられる凸版印刷法の技術を、単にそのまま転用して、照明装置用の有機EL素子の形成に用いたとしても、均一な膜厚でインキを塗布することができず、塗布ムラが生じる。そのため形成される発光層の膜厚や発光にもムラが生じることがある。特に有機EL素子のサイズが1cm角を超えると塗布ムラが顕著になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−286243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように凸版印刷法で発光層を形成する場合、サイズが大きくなるほど均一な膜厚の発光層を形成することが難しくなるという問題がある。また凸版印刷法で発光層を形成すると素子の特性が低下するという問題がある。
【0008】
従って本発明の目的は、均一な膜厚の発光層を形成するとともに、特性の高い有機EL素子を凸版印刷法で作製することができる有機EL素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一対の電極と、該電極間に設けられる発光層とを含み、支持基板上に設けられる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極が表面に設けられた支持基板を用意する用意工程と、
前記発光層の形状に対応する形状の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記発光層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって発光層を形成する発光層形成工程と、
前記一対の電極のうちの他方の電極を設ける工程と、をこの順で含み、
前記凸版印刷版の前記凸部には、表面部に複数本の凹溝が形成されており、
前記発光層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保つことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0010】
また本発明は、前記発光層形成工程は、不活性ガス雰囲気中において行われることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0011】
また本発明は、前記発光層形成工程は、窒素ガス雰囲気中において行われることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0012】
また本発明は、前記発光層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ1000ppm以下に保つことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記支持基板側に、前記発光層に隣接して設けられる隣接層を備え、
前記用意工程後、前記印刷工程前に、
前記隣接層の形状に対応する形状の凸部を備える第2凸版印刷版を用いて、前記隣接層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって隣接層を形成する隣接層形成工程とを含み、
前記第2凸版印刷版の前記凸部には、表面部に複数本の凹溝が形成されており、
前記隣接層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保つことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、前記隣接層形成工程は、不活性ガス雰囲気中において行われることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0015】
また本発明は、前記隣接層形成工程は、窒素ガス雰囲気中において行われることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、前記隣接層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ1000ppm以下に保つことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、前記発光層形成工程および前記隣接層形成工程では、50℃〜250℃で加熱することにより、前記印刷した膜を固化することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0018】
また本発明は、前記発光層の寸法が1cm×1cm以上であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0019】
また本発明は、前記凸部は、前記凹溝の延伸方向の一端または両端が当該凸部の側面に開放していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【0020】
また本発明は、前記製造方法によって作製された有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、均一な膜厚の発光層を形成するとともに、特性の高い有機EL素子を凸版印刷法で作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の有機EL素子1を模式的に示す側面図である。
【図2】第2凸版印刷版11の凸部12を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態の有機EL素子の製造方法によって作製される有機EL素子は、一対の電極と、該電極間に設けられる発光層とを含んで構成される。有機EL素子は一対の電極として陽極と陰極を備える。有機EL素子は、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して、必要に応じて発光層とは異なる層を一対の電極間にさらに備えることがあり、また2層以上の発光層を一対の電極間に備えることがある。以下では陽極と発光層の間に1層の隣接層を備える形態の有機EL素子1を1例として説明する。この隣接層は、例えば後述する正孔注入層または正孔輸送層として機能する。
【0024】
図1は本実施形態の有機EL素子1を模式的に示す側面図である。本実施形態の有機EL素子1は支持基板2上に設けられる。有機EL素子1は、第1電極3、隣接層4、発光層5、および第2電極6を支持基板2側からこの順に積層することにより作製される。ここで最も支持基板2寄りに配置される第1電極3は、一対の電極のうちの一方の電極に相当し、第2電極6は、一対の電極のうちの他方の電極に相当する。
【0025】
本実施形態では第1電極3が陽極として設けられ、第2電極6が陰極として設けられる。なお他の実施形態において、第1電極3を陰極とし、第2電極6を陽極とする有機EL素子を構成してもよい。
【0026】
以下本実施形態の有機EL素子の製造方法について説明する。本実施形態の有機EL素子の製造方法は、一対の電極のうちの一方の電極(第1電極)が設けられた支持基板2を用意する用意工程と、発光層5の形状に対応する形状の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記発光層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって発光層を形成する発光層形成工程と、一対の電極のうちの他方の電極(第2電極)を設ける工程とをこの順で含む。
【0027】
なお以下では、用意した前記支持基板上に発光層となる材料を含むインキを印刷する工程を第1印刷工程と記載し、印刷した膜を固化する工程を第1固化工程ということがある。
【0028】
また本実施形態では好ましい形態として発光層に隣接する隣接層が設けられる。そのため、前記用意工程後、前記発光層形成工程前に隣接層形成工程が行われる。隣接層形成工程では、前記隣接層の形状に対応する形状の凸部を備える第2凸版印刷版を用いて、前記隣接層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって隣接層を形成する。なお「第2」という用語を、凸版印刷版の前に付しているので、以下ではこれに対比させて、発光層形成工程において使用する「凸版印刷版」の前に「第1」という用語を付して説明する。また用意した前記支持基板上に、隣接層となる材料を含むインキを印刷する工程を第2印刷工程と記載し、印刷した膜を固化する工程を第2固化工程ということがある。
【0029】
<用意工程>
用意工程では第1電極3が設けられた支持基板2を用意する。本工程では支持基板2上に第1電極3を形成することにより、支持基板2を用意してもよく、また第1電極3が予め形成された支持基板2を入手することにより、支持基板2を用意してもよい。
【0030】
<第2印刷工程>
第2印刷工程では、隣接層の形状に対応する形状の凸部を備える第2凸版印刷版を用いて、前記隣接層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷する。本実施形態では隣接層4は第1電極3に接して積層されるため、第2印刷工程では隣接層となる材料を含むインキを第1電極3の表面上に塗布印刷する。
【0031】
図2は第2凸版印刷版11の凸部12を拡大して示す図である。図2(1)は凸部12の平面模式図であり、図2(2)は凸部12の断面模式図である。
【0032】
本実実施形態では支持基板2の一方から見て(以下、「平面視で」という場合がある。)略矩形状に有機EL素子1を形成する。そのため隣接層4および発光層5は平面視で略矩形状に形成される。従って隣接層4の形状に対応する形状の凸部12として、平面視で略矩形状の凸部12が用いられる。なお凸部12に付着したインキが支持基板2上に転写される際には、支持基板2上でインキが凸部12の形状よりも拡がったり、逆に凸部12の形状よりも縮まったりすることがあるため、凸部12のサイズは、被印刷面およびインキの性状などに応じて適宜設定される。
【0033】
複数本の凹溝13aは、前記凸部12の表面部においてそれぞれ凹溝13aの短手方向に所定の間隔をあけて略平行に配置されることが好ましく、さらには前記所定の間隔が、一定の間隔であることが好ましい。なお凹溝13aの短手方向とは、凹溝の深さ方向および凹溝の延伸する方向(長手方向)にそれぞれ垂直な方向を意味する。以下、短手方向に隣り合う2本の凹溝13aの間の部位を凸条13bという。したがって凸条13bの短手方向の幅とは、前記所定の間隔または前記一定の間隔に相当する。
【0034】
凸条13bおよび凹溝13aの短手方向の幅(ライン/スペース)、凹溝13aの深さ(凸条13bの高さ)は、インキの粘度、蒸発速度、凸部の性状などを勘案して適宜設定される。凸条13bの高さ(凹溝13aの深さ)としては5μm〜50μmが好ましく、凸条13bの短手方向の幅(ラインの幅)としては10μm〜100μmが好ましく、凹溝13aの短手方向の幅(スペースの幅)としては10μm〜100μmが好ましい。
【0035】
凸版印刷版11としてはフレキソ印刷版を用いることが好ましい。凸版印刷版11は通常、版胴に巻き回されて使用される。凸版印刷では、凸版印刷版11を回転させつつインキを凸部12に順次付着させ、インキが付着した凸版印刷版11を回転させながら支持基板に押圧することにより、支持基板2上にインキを順次転写する。これによりインキが印刷される。
【0036】
凹溝13aが形成された凸部12を備える凸版印刷版11を用いると、凸部12に付着したインキが支持基板2上に転写される際に、インキが凸部12からなめらかに剥離し、これが支持基板2上に転写されるため、平坦で均一な塗布膜を凸版印刷法で形成することができる。なお複数の凸部12を備える凸版印刷版11を用いることにより、複数の有機EL素子の各隣接層のインキを一度に印刷することもできる。
【0037】
凹溝13aは、延伸方向の一端が凸部12の側面に開放していることが好ましく、延伸方向の両端が凸部12の側面に開放していることがさらに好ましい。すなわち凹溝13aが、凸部12の一端から他端にわたって形成されていることが好ましい。特に凹溝13aは、延伸方向の一端または両端が凸部12の側面に開放している場合には、インキがよりなめらかに凸部12から剥離するために、より平坦で均一な塗布膜を凸版印刷法で形成することができる。
【0038】
隣接層を形成する際に用いるインキは、隣接層となる材料と、該材料を溶解または分散する溶媒または分散媒とを含む。隣接層となる材料については後述する。また溶媒としては、隣接層となる材料を溶解するものであればよく、例えばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、水などを挙げることができる。また分散媒としては隣接層となる材料を均一に分散する液体であればよく、溶媒として例示した液体を材料に応じて分散媒として適宜用いることができる。
【0039】
<第2固化工程>
第2固化工程では第2印刷工程において印刷した薄膜を固化することによって隣接層を形成する。本工程では薄膜を加熱することによって隣接層を形成することが好ましい。素子の発光特性および寿命特性の観点からは、50℃〜250℃で加熱することが好ましい。加熱時間は隣接層の成分によって適宜設定され、例えば5分〜2時間程度である。なお第2印刷工程において印刷した薄膜を所定の時間放置することにより、インキに含まれる溶媒または分散媒を除去して、隣接層を形成してもよい。
【0040】
<第1印刷工程>
隣接層4を形成した後、第1印刷工程では、発光層5の形状に対応する形状の凸部を備える第1凸版印刷版を用いて、発光層5となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板2上に印刷する。凸部を備える第1凸版印刷版としては、隣接層4を形成する際に用いた第2凸版印刷版と同様の印刷版を用いることができる。なお第1凸版印刷版としては、第2凸版印刷版に用いる版を洗浄してそのまま用いてもよく、また発光層5となる材料を含むインキの性状などに基づいて、寸法などの細部が第2凸版印刷版とは異なる凸版印刷版を用いてもよい。
【0041】
第2印刷工程と同様にして、発光層5となる材料を含むインキを、第1凸版印刷版を用いて印刷することにより、平坦で均一な塗布膜を凸版印刷法で形成することができる。
【0042】
<第1固化工程>
第1固化工程では第1印刷工程において印刷した薄膜を固化することによって発光層を形成する。本工程では薄膜を加熱することによって発光層を形成することが好ましい。素子の発光特性および寿命特性の観点からは、50℃〜250℃で加熱することが好ましい。加熱時間は発光層の成分によって適宜設定され、例えば5分〜2時間程度である。なお第1印刷工程において印刷した薄膜を所定の時間放置することにより、インキに含まれる溶媒または分散媒を除去して、発光層を形成してもよい。
【0043】
以上の発光層形成工程(第1印刷工程および第1固化工程)は、支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保った状態で行われる。なお大気濃度は場所および時間などによって変動するが、大気濃度未満とは、本明細書では酸素濃度および水分濃度を大気濃度よりも低下させる所定の操作が施された状態を意味する。支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度は、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは600ppm以下であり、さらに好ましくは300ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0044】
凸版印刷法では、インキを版に一度付着させた後にこれを被印刷面に転写するために、インキが雰囲気に曝される時間が長くなること、版の位置合わせなどに所定の時間を要することなどに起因して、素子寿命などの特性が低下するおそれが大きくなるが、このように酸素濃度および水分濃度を大気よりも低くした雰囲気で第1印刷工程および第1固化工程を行うことにより素子寿命を向上することができる。
【0045】
<第2電極形成工程>
第2電極形成工程では、第2電極6を発光層5上に形成する。
【0046】
以上説明した製法で有機EL素子1を作製することにより、平坦で均一な膜厚の発光層5、隣接層4を形成することができ、均一発光が可能な有機EL素子1を実現することができる。
【0047】
特に平面視での発光層5の寸法が1cm×1cm以上の有機EL素子1を本実施形態の製法で作製することが好ましい。従来このような大面積の発光層5を凸版印刷法で形成すると、発光層の膜厚にムラが生じ、そのため発光にムラが生じていたが、本実施の形態の製法を適用することにより、平坦で均一な膜厚の発光層5、隣接層4を形成することができ、均一発光が可能な有機EL素子1を実現することができる。このようにして作製した有機EL素子を備える照明装置を実現することにより、均一発光が可能な照明装置を得ることができる。
【0048】
また本実施形態では隣接層形成工程(第2印刷工程および第2固化工程)は、第1印刷工程および第1固化工程と同様に、支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保った状態で行うことが好ましい。酸素濃度および水分濃度は、体積比でそれぞれ好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは600ppm以下であり、さらに好ましくは300ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0049】
有機EL素子の構成要素のうちで発光特性に大きく影響するのは発光層なので、発光層以外の層の作製途中の基板雰囲気を制御することは、素子の発光特性の向上という観点からは考えにくいが、発光層だけでなく隣接層までも、酸素濃度および水分濃度を大気よりも低くした雰囲気で形成することにより、実施例で示すように素子寿命を向上することができる。
【0050】
また第2印刷工程の開始から、第1固化工程の終わりまでの間、一貫して、支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保つことが好ましい。酸素濃度および水分濃度は、体積比でそれぞれ好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは600ppm以下であり、さらに好ましくは300ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。特に凸版印刷法では、版の位置合わせなどの作業を必要とするので、隣接層4を形成する工程と、発光層5を形成する工程との間に、所定の時間があくが、このように雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を低い状態に保つことにより、製造工程において隣接層および発光層が酸素や水に曝されることを抑制することができる。これによって素子寿命をより向上することができる。
【0051】
支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を大気よりも下げる方法としては、支持基板の雰囲気を、不活性ガス雰囲気とするか、または真空雰囲気とすることが好ましい。例えば装置内を真空または不活性ガスに置換可能な装置内に、印刷装置および加熱装置を配置して、印刷工程および固化工程を行えばよい。例えば印刷工程および固化工程を不活性ガス雰囲気で行うか、または印刷工程を不活性ガス雰囲気で行い、固化工程を真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0052】
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス、およびこれらの混合ガスなどを挙げることができ、これらのなかでも素子作製の容易さから窒素ガスが好ましい。また真空雰囲気で固化工程を行う場合には10Pa以下とすることが好ましい。
【0053】
本実施形態では隣接層を設けるとしたが、他の実施形態では隣接層を設けなくてもよく、また前述した隣接層の他にさらに所定の層を電極間に配置してもよい。また本実施形態では隣接層を前述した所定の印刷法で形成するが、隣接層の形成方法は特に限定されず、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して、適宜所定の方法によって形成してもよい。
【0054】
以下本発明を適用可能な有機EL素子の構成およびその構成要素についてさらに詳しく説明する。なお塗布法によって形成することが可能な層については、工程の簡易さ、膜厚の均一性などの観点から、上述した発光層を形成する方法と同様の方法で形成することが好ましい。
【0055】
陽極と発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0056】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0057】
電子の輸送を堰き止める層として電子ブロック層が機能することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0058】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。また陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という場合がある。
【0059】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0060】
正孔の輸送を堰き止める層として正孔ブロック層が機能することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製することによって確認することができる。例えば正孔ブロック層を備えず、ホール電流のみを流す素子と、該素子に正孔ブロック層を挿入した構成の素子とを作製し、正孔ブロック層を備える素子の電流値の減少で、正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を示すことを確認できる。
【0061】
本実施形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
本実施の形態の有機EL素子は2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜n)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「構造単位A」とすると、2層の発光層を有する有機EL素子の構成として、以下のo)に示す層構成を挙げることができる。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
o)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
また「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、3層以上の発光層を有する有機EL素子の構成として、以下のp)に示す層構成を挙げることができる。
p)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(構造単位B)xは、構造単位Bがx段積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0062】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより、正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0063】
有機EL素子は通常、本実施形態のように支持基板側に陽極を配置するようにして、支持基板上に設けられる。すなわちa)〜p)の構成において、左側の層を支持基板寄りに配置するようにして有機EL素子は支持基板上に設けられる。なお他の実施形態として支持基板側に陰極を配置するようにして有機EL素子を支持基板に設けてもよい。
【0064】
本実施形態のように支持基板側に陽極が配置される場合、陽極が第1電極(一対の電極のうちの一方の電極)に相当し、陰極が第2電極(一対の電極のうちの他方の電極)に相当するため、a)〜p)の構成において、発光層の左側に隣接する層が上述した隣接層に相当する。このような隣接層を印刷法で形成可能な場合には、上述した隣接層の形成方法と同様の方法で隣接層を形成することが好ましい。但しa)〜p)の構成において、発光層の左側の層が陽極の場合には隣接層は存在しない。
【0065】
また支持基板側に陰極を配置する形態では、陰極が第1電極(一対の電極のうちの一方の電極)に相当し、陽極が第2電極(一対の電極のうちの他方の電極)に相当するため、a)〜p)の構成において、発光層の右側に隣接する層が上述した隣接層に相当する。このような隣接層を印刷法で形成可能な場合には、上述した隣接層の形成方法と同様の方法で隣接層を形成することが好ましい。但しa)〜p)の構成において、発光層の右側に隣接する層が陰極の場合には隣接層は存在しない。
【0066】
有機EL素子は、支持基板側から光を出射する構成のボトムエミッション型の素子と、支持基板側とは反対側から光を出射する構成のトップエミッション型の素子とに大別されるが、本実施形態の有機EL素子はどちらの型の素子としてもよい。例えばボトムエミッション型の有機EL素子では、光透過性を示す第1電極および基板を用いることにより、発光層から放射される光が第1電極および支持基板を通って外部に出射する。逆にトップエミッション型の有機EL素子では、光透過性を示す第2電極を用いることにより、発光層から放射される光が基板とは反対側の第2電極を通って外部に出射する。
【0067】
積層する層の順序、層数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設定することができる。
【0068】
次に有機EL素子を構成する各層の材料および形成方法についてより具体的に説明する。
【0069】
<基板>
基板は、有機EL素子を製造する工程において変化しないものが好適に用いられ、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、およびシリコン板、並びにこれらを積層したものなどが用いられる。
【0070】
<陽極>
陽極側から光を取り出す構成の有機EL素子の場合、陽極には光透過性を示す電極が用いられる。光透過性を示す電極としては、金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、電気伝導度および光透過率の高いものが好適に用いられる。具体的には酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などから成る薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。陽極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などを挙げることができる。また陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0071】
陽極の膜厚は、要求される特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0072】
<正孔注入層>
発光層と第1電極の間に、発光層に隣接して正孔注入層が設けられる場合、この正孔注入層が、隣接層として設けられる。この場合、以下の正孔注入層となる材料を含むインキを用いて、前述した凸版印刷法で正孔注入層を形成することが好ましい。
【0073】
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、および酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体などを挙げることができる。
【0074】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば正孔注入材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。例えば隣接層を形成する際に用いられるインキの溶媒または分散媒として例示した液体を、溶液からの成膜に用いられる溶媒として用いることができる。
【0075】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができ、第2印刷工程の項で説明した凸版印刷法が好ましい。
【0076】
正孔注入層の膜厚は、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜決定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0077】
<正孔輸送層>
発光層と第1電極の間に、発光層に隣接して正孔輸送層が設けられる場合、この正孔輸送層が隣接層として設けられる。この場合、以下の正孔輸送層となる材料を含むインキを用いて、前述した凸版印刷法で正孔輸送層を形成することが好ましい。
【0078】
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0079】
これらの中で正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などの高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0080】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0081】
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0082】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0083】
正孔輸送層の膜厚は、求められる特性および工程の簡易さを考慮して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0084】
<発光層>
発光層は通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、または該有機物とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。なお有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、発光層は、溶媒への溶解性の観点からもポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料を挙げることができる。
【0085】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
【0086】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、またはAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0087】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどを挙げることができる。
【0088】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0089】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0090】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜200nmである。
【0091】
発光層は上述した発光層となる材料を含むインキを用いる凸版印刷法により、前述した方法で形成することができる。なお発光層となる材料を含むインキは、発光層となる材料と、該材料を溶解または分散する溶媒または分散媒とを含む。溶媒としては、発光層となる材料を溶解するものであればよく、例えばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。また分散媒としては発光層となる材料を均一に分散する液体であればよく、溶媒として例示した液体を材料に応じて分散媒として適宜用いることができる。
【0092】
<電子輸送層>
発光層と第1電極の間に、発光層に隣接して電子輸送層が設けられる場合、この電子輸送層が隣接層として設けられる。この場合、以下の電子輸送層となる材料を含むインキを用いて、前述した凸版印刷法で電子輸送層を形成することが好ましい。
【0093】
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0094】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0095】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では溶液または溶融状態からの成膜を挙げることができる。なお溶液または溶融状態からの成膜する場合には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法を挙げることができる。
【0096】
電子輸送層の膜厚は、求められる特性および工程の簡易さを考慮して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0097】
<電子注入層>
発光層と第1電極の間に、発光層に隣接して電子注入層が設けられる場合、この電子注入層が隣接層として設けられる。この場合には、以下の電子注入層となる材料を含むインキを用いて、前述した凸版印刷法で電子注入層を形成することが好ましい。
【0098】
電子注入層を構成する材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、またはこれらの物質の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどを挙げることができる。また、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体で構成されてもよく、例えばLiF/Caなどを挙げることができる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0099】
<陰極>
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。また陽極側から光を取出す構成の有機EL素子では、発光層から放射される光を陰極で陽極側に反射するために、陰極の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極には、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表13族金属などを用いることができる。陰極の材料としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、前記金属のうちの2種以上の合金、前記金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。また、陰極としては導電性金属酸化物および導電性有機物などから成る透明導電性電極を用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZOを挙げることができ、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などを挙げることができる。なお陰極は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。なお電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0100】
陰極の膜厚は、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜設計され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0101】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などを挙げることができる。
【0102】
以上説明した有機EL素子は、大面積での均一発光が可能であり素子寿命が長いために、照明装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0103】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
以下の作製例1,2および比較例1〜6では、本発明の有機EL素子の製造方法の特徴の1つである凸版印刷法の効果を確認するために、所定の構造が表面部に形成された凸部を備える複数種類の凸版印刷版(フレキソ印刷版)を用いて、ガラス基板にインキを印刷し、印刷した薄膜の発光の様子を観察した。
【0105】
(作製例1)
複数の凹溝がその表面部に形成されている凸部を有する凸版印刷版(フレキソ印刷版)を用いて、ガラス基板上にインキを塗布した。ガラス基板には200mm(縦)×200mm(横)×0.7mm(厚み)の透明ガラス板を用いた。
【0106】
インキは、高分子発光材料(サメイション製、商品名「GP1300」)を溶媒に溶解することにより調整した。インキにおける高分子発光材料の濃度を1重量%とした。また溶媒には、アニソールとシクロへキシルベンゼンとを重量比1:1で混合した混合溶媒を用いた。
【0107】
印刷には、日本写真印刷(株)製の印刷機「オングストローマーSDR−0023(商品名)、版ドラム直径:80mm」を用いた。印刷速度は50mm/秒とした。
【0108】
版と基板とが接触する状態を印刷押し込み量0μmとして、その位置から版を50μm押し付けた状態(印刷押し込み量=50μm)で印刷した。
【0109】
印刷版にはポリエステル系樹脂製のフレキソ印刷版(凸版印刷版)を用いた。このフレキソ印刷版の表面部には、等間隔をあけて平行に配置された複数本の凹溝が形成されている。また複数本の凹溝はその長手方向が印刷方向に一致するように形成されている。凸条の短手方向の幅(ライン)は、40μmであり、凹溝の短手方向の幅(スペース)は、40μmであった(ライン/スペース=40μm/40μm)。凸条の高さは15μmであった。
【0110】
(作製例2)
フレキソ印刷版のみを異ならせて、作製例1と同様にガラス基板上にインキを塗布した。用いたフレキソ印刷版の表面部には、等間隔をあけて平行に配置された複数本の凹溝が形成されている。凸条の短手方向の幅(ライン)は、30μmであり、凹溝の短手方向の幅(スペース)は、50μmであった(ライン/スペース=30μm/50μm)。凸条の高さは15μmであった。
【0111】
(比較例1)
フレキソ印刷版のみを異ならせて、作製例1と同様にガラス基板上にインキを塗布した。フレキソ印刷版には表面が平坦な版(ベタ版)を用いた。
【0112】
(比較例2〜6)
フレキソ印刷版のみを異ならせて、作製例1と同様にガラス基板上にインキを塗布した。比較例2〜6ではフレキソ印刷版に網版を用いた。比較例2、3、4、5、6では、それぞれ100/インチ、200/インチ、400/インチ、600/インチ、900/インチの網版を用いた。網点の高さは15μmであった。
【0113】
(評価)
印刷した薄膜に紫外線を当て、塗布膜からの蛍光(PL)の強度分布を光学顕微鏡で観察し、膜厚分布(印刷ムラ)を評価した。評価結果を(表1)に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
なお(表1)において、記号「○」は、印刷ムラがなかったことを表し、記号「×」は、印刷ムラがあったことを表す。
【0116】
以上の結果から、表面部に複数本の凹溝が形成された凸部を備える凸版印刷版を用いることにより、均一な膜厚でインキを塗布することができることを確認した。
【0117】
(作製例3)
以下では所定の雰囲気中で有機EL素子を作製することにより素子特性が向上することを確認するために、雰囲気中のガスの濃度を制御して有機EL素子を作製した。
【0118】
以下の構成の有機EL素子を作製した。
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物1(20nm)/高分子化合物2(65nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
まずスパッタ法によって膜厚150nmのITO膜(陽極)がその表面上に形成されたガラス基板を用意した。この基板上にポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(スタルク製;Baytron P)の懸濁液をスピンコート法により塗布し、厚みが65nmの塗膜を成膜し、さらにホットプレート上で200℃、10分間乾燥することによって正孔注入層を得た。なお正孔注入層の形成は大気雰囲気中においておこなった。
【0119】
なお大気雰囲気における酸素濃度は体積比で2×10ppm程度であり、水分濃度は体積比で2×10ppm程度である。
【0120】
次に高分子化合物1をテトラリンに溶解して、テトラリン溶液1を用意した。このテトラリン溶液1における高分子化合物1の濃度を1.0重量%とした。次に酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において、テトラリン溶液1をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が20nmの正孔輸送層用の塗膜を成膜した。これを、酸素濃度が体積比で400ppm以上450ppm以下、水分濃度が体積比で440ppm以上540ppm以下に制御された雰囲気中に10分間放置した(以下の作製例および比較例において、正孔輸送層は隣接層に相当する。)。次に酸素濃度が体積比で400ppm以上450ppm以下、水分濃度が体積比で440ppm以上540ppm以下に制御された雰囲気中において180℃、1時間加熱することによって塗膜を焼成し、正孔輸送層を得た。
【0121】
次に高分子化合物2をテトラリンに溶解して、テトラリン溶液2を用意した。このテトラリン溶液2における高分子化合物2の濃度を1.37重量%とした。酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において、テトラリン溶液2をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が65nmの発光層用塗膜を成膜した。これを、酸素濃度が体積比で400ppm以上450ppm以下、水分濃度が体積比で500ppm以上540ppm以下に制御された雰囲気中に10分間放置した。次に酸素濃度が体積比で400ppm以上450ppm以下、水分濃度が体積比で500ppm以上540ppm以下に制御された雰囲気中において130℃、10分加熱することによって塗膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層および発光層を形成する工程における基板雰囲気の圧力を大気圧とした。
【0122】
次に1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、バリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約80nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止を行い、有機EL素子を作製した。
【0123】
作製した有機EL素子を初期輝度5,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の50%となるまでの時間(寿命)は、131時間であった。この寿命を、初期輝度3,000cd/m2で定電流駆動した際の寿命に換算すると365時間(換算式=131×(5000/3000)2)であった。
【0124】
(作製例4)
以下の構成の有機EL素子を作製した。
【0125】
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物1(20nm)/高分子化合物2(65nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
まず厚み150nmのITO膜(陽極)がスパッタ法により形成されたガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(スタルク製;Baytron P)の懸濁液をスピンコート法により塗布し、厚みが65nmの塗膜を成膜し、さらにホットプレート上で200℃、10分間乾燥することによって正孔注入層を得た。なお正孔注入層の形成は大気雰囲気中においておこなった。
【0126】
次に作製例3と同様にしてテトラリン溶液1を用意した。酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において、テトラリン溶液1をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が20nmの正孔輸送層用の塗膜を成膜した。さらに酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において180℃、1時間加熱することによって塗膜を焼成し、正孔輸送層を得た。
【0127】
次に作製例3と同様にしてテトラリン溶液2を用意した。酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において、テトラリン溶液2をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が65nmの発光層用塗膜を成膜した。さらに酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において130℃、10分加熱することによって塗膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層および発光層を形成する工程における基板雰囲気の圧力を大気圧とした。
【0128】
次に1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、バリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約80nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止を行い、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0129】
作製した有機EL素子を初期輝度3,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の50%となるまでの時間(寿命)は、415時間であった。
【0130】
(比較例7)
以下の構成の有機EL素子を作製した。
【0131】
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物1(20nm)/高分子化合物2(65nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
まず厚み150nmのITO膜(陽極)がスパッタ法により形成されたガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(スタルク製;Baytron P)の懸濁液をスピンコート法により塗布し、厚みが65nmの塗膜を成膜し、さらにホットプレート上で200℃、10分間乾燥することによって正孔注入層を得た。なお正孔注入層の形成は大気雰囲気中においておこなった。
【0132】
次に作製例3と同様にしてテトラリン溶液1を用意した。酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において、テトラリン溶液1をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が20nmの正孔輸送層用の塗膜を成膜した。さらに酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において180℃、1時間加熱することによって塗膜を焼成し、正孔輸送層を得た。
【0133】
次に作製例3と同様にしてテトラリン溶液2を用意した。大気雰囲気中において、テトラリン溶液2をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が65nmの発光層用塗膜を成膜した。これを、大気雰囲気中に10分間放置した。次に酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において130℃、10分加熱することによって塗膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層および発光層を形成する工程における基板雰囲気の圧力を大気圧とした。
【0134】
次に1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、バリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約80nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止を行い、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0135】
作製した有機EL素子を初期輝度3,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の50%となるまでの時間(寿命)は、266時間であった。
(比較例8)
以下の構成の有機EL素子を作製した。
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物1(20nm)/高分子化合物2(65nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
まず厚み150nmのITO膜(陽極)がスパッタ法により形成されたガラス基板に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(スタルク製;Baytron P)の懸濁液をスピンコート法により塗布し、厚みが65nmの塗膜を成膜し、さらにホットプレート上で200℃、10分間乾燥することによって正孔注入層を得た。なお正孔注入層の形成は大気雰囲気中においておこなった。
【0136】
次に、作製例3と同様にしてテトラリン溶液1を用意した。大気雰囲気中において、テトラリン溶液1をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が20nmの正孔輸送層用の塗膜を成膜した。これを、大気雰囲気中に10分間放置した。次に酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において180℃、1時間加熱することによって塗膜を焼成し、正孔輸送層を得た。
【0137】
次に作製例3と同様にしてテトラリン溶液2を用意した。大気雰囲気中において、テトラリン溶液2をスピンコート法により基板上に塗布し、膜厚が65nmの発光層用塗膜を成膜した。これを、大気雰囲気中に10分間放置した。次に酸素濃度および水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素雰囲気中において130℃、10分加熱することによって塗膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層および発光層を形成する工程における基板雰囲気の圧力を大気圧とした。
【0138】
次に1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、バリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約80nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止を行い、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0139】
作製した有機EL素子を初期輝度3,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の50%となるまでの時間(寿命)は、236時間であり、初期輝度5,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の50%となるまでの時間(寿命)は、80時間であった。
【0140】
作製例3、4、比較例7、8の有機EL素子の作製条件と素子寿命の関係を表2に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
以上の結果から、発光層を形成する際の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を低く抑えることによって素子寿命が向上することを確認した。さらに発光層に接する正孔注入層も、形成する際の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を低く抑えることによって、素子寿命がさらに向上することを確認した。
【0143】
なお前述した高分子化合物1の替わりとして、例えば以下の高分子化合物3を用い、高分子化合物2の替わりとしてLumation BP361(サメイション製)を用いて作製例3および4と同様に有機EL素子を作製したとしても、作製例3、4の有機EL素子と同様に素子寿命の長い有機EL素子を実現することができる。
【0144】
(高分子化合物3)
下記構造式で表される2つの繰り返し単位を含む高分子化合物3を以下のようにして合成した。

【0145】
不活性雰囲気下、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(5.20g)、ビス(4−ブロモフェニル)−(4−セカンダリブチルフェニル)−アミン(0.14g)、酢酸パラジウム(2.2mg)、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン(15.1mg)、Aliquat336(0.91g,アルドリッチ製)、トルエン(70ml)を混合し、105℃に加熱した。この反応溶液に2M Na2CO3水溶液(19ml)を滴下し、4時間還流させた。反応後、フェニルホウ酸(121mg)を加え、さらに3時間還流させた。次いでジエチルジチアカルバミン酸ナトリウム水溶液を加え80℃で4時間撹拌した。冷却後、水(60ml)で3回、3%酢酸水溶液(60ml)で3回、水(60ml)で3回洗浄し、アルミナカラム、シリカゲルカラムを通すことにより精製した。得られたトルエン溶液をメタノール(3L)に滴下し、3時間撹拌した後、得られた固体をろ取し、乾燥させた。得られた高分子化合物3の収量は5.25gであった。
【0146】
高分子化合物3のポリスチレン換算数平均分子量は、1.2×105であり、ポリスチレン換算重量平均分子量は2.6×104であった。
【符号の説明】
【0147】
1 有機EL素子
2 支持基板
3 第1電極
4 隣接層
5 発光層
6 第2電極
11 第2凸版印刷版
12 凸部
13a 凹溝
13b 凸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該電極間に設けられる発光層とを含み、支持基板上に設けられる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極が表面に設けられた支持基板を用意する用意工程と、
前記発光層の形状に対応する形状の凸部を備える凸版印刷版を用いて、前記発光層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって発光層を形成する発光層形成工程と、
前記一対の電極のうちの他方の電極を設ける工程と、をこの順で含み、
前記凸版印刷版の前記凸部には、表面部に複数本の凹溝が形成されており、
前記発光層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保つことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記発光層形成工程は、不活性ガス雰囲気中において行われることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記発光層形成工程は、窒素ガス雰囲気中において行われることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記発光層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ1000ppm以下に保つことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記支持基板側に、前記発光層に隣接して設けられる隣接層を備え、
前記用意工程後、前記印刷工程前に、
前記隣接層の形状に対応する形状の凸部を備える第2凸版印刷版を用いて、前記隣接層となる材料を含むインキを、用意した前記支持基板上に印刷し、印刷した膜を固化することによって隣接層を形成する隣接層形成工程とを含み、
前記第2凸版印刷版の前記凸部には、表面部に複数本の凹溝が形成されており、
前記隣接層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ大気濃度未満に保つことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記隣接層形成工程は、不活性ガス雰囲気中において行われることを特徴とする請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記隣接層形成工程は、窒素ガス雰囲気中において行われることを特徴とする請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記隣接層形成工程では、前記支持基板の雰囲気中の酸素濃度および水分濃度を、体積比でそれぞれ1000ppm以下に保つことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
前記発光層形成工程および前記隣接層形成工程では、50℃〜250℃で加熱することにより、前記印刷した膜を固化することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記発光層の寸法が1cm×1cm以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記凸部は、前記凹溝の延伸方向の一端または両端が当該凸部の側面に開放していることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載の製造方法によって作製された有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−14251(P2011−14251A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154749(P2009−154749)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】