説明

有機エレクトロルミネッセンス素子材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】発光波長が制御され、高い発光効率を示し、かつ、発光寿命の長い有機EL素子を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス素子材料は、下記一般式(1−1)で表される金属錯体を含有する。


(式中、A、B、Cは置換基を表し、互いに異なっていてもよい。R1、R2、R3、R4、R5は水素原子を表す。Mはイリジウム又は白金を表し、nは2又は3を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDという)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、さらに、自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0003】
しかしながら、今後の実用化に向けた有機EL素子においては、さらに低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が望まれている。
【0004】
特許第3093796号明細書では、スチルベン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体またはトリススチリルアリーレン誘導体に、微量の蛍光体をドープし、発光輝度の向上、素子の長寿命化を達成している。
【0005】
また、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これに微量の蛍光体をドープした有機発光層を有する素子(例えば、特開昭63−264692号公報)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体をホスト化合物として、これにキナクリドン系色素をドープした有機発光層を有する素子(例えば、特開平3−255190号公報)等が知られている。
【0006】
以上のように、励起一重項からの発光を用いる場合、一重項励起子と三重項励起子の生成比が1:3であるため発光性励起種の生成確率が25%であり、光の取り出し効率が約20%であるため、外部取り出し量子効率(ηext)の限界は5%とされている。
【0007】
ところが、プリンストン大より励起三重項からの燐光発光を用いる有機EL素子の報告(M.A.Baldoet al.,nature、395巻、151−154ページ(1998年))がされて以来、室温で燐光を示す材料の研究が活発になってきている。
【0008】
例えばM.A.Baldo et al.,nature、403巻、17号、750−753ページ(2000年)、また米国特許第6,097,147号明細書等にも開示されている。
【0009】
励起三重項を使用すると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項の場合に比べて原理的に発光効率が4倍となり、冷陰極管とほぼ同等の性能が得られる可能性があることから照明用途としても注目されている。
【0010】
例えば、S.Lamansky et al.,J.Am.Chem.Soc.,123巻,4304ページ(2001年)等においては、多くの化合物がイリジウム錯体系等重金属錯体を中心に合成検討されている。
【0011】
また、前述のM.A.Baldo et al.,nature,403巻,17号,750−753ページ(2000年)においては、ドーパントとして、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムを用いた検討がされている。
【0012】
その他、M.E.Tompson等は、The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)において、ドーパントとしてLIr(acac)例えば(ppy)Ir(acac)を、また、Moon−JaeYoun.0g、Tetsuo Tsutsui等は、やはり、The10th InternationalWorkshop on Inorganic and OrganicElectroluminescence(EL’00、浜松)において、ドーパントとして、トリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウム(Ir(ptpy)),トリス(ベンゾ[h]キノリン)イリジウム(Ir(bzq))等を用いた検討を行っている(なおこれらの金属錯体は一般にオルトメタル化イリジウム錯体と呼ばれている。)。
【0013】
また、前記、S.Lamansky et al.,J.Am.Chem.Soc.,123巻,4304ページ(2001年)等においても、各種イリジウム錯体を用いて素子化する試みがされている。
【0014】
また、高い発光効率を得るために、The 10th International Workshop on Inorganic and Organic Electroluminescence(EL’00、浜松)では、Ikai等はホール輸送性の化合物を燐光性化合物のホストとして用いている。また、M.E.Tompson等は、各種電子輸送性材料を燐光性化合物のホストとして、これらに新規なイリジウム錯体をドープして用いている。
【0015】
中心金属をイリジウムの代わりに白金としたオルトメタル化錯体も注目されている。この種の錯体に関しては、配位子に特徴を持たせた例が多数知られている(例えば、特許文献1〜5及び非特許文献1参照。)。
【0016】
何れの場合も発光素子とした場合の発光輝度や発光効率は、その発光する光が燐光に由来することから、従来の素子に比べ大幅に改良されるものであるが、素子の発光寿命については従来の素子よりも低いという問題点があった。
【0017】
また、りん光性の高効率の発光材料としては色純度のよい青色発光材料が求められているにも関わらず、発光波長の短波化が難しく実用に耐えうる性能を十分に達成できていないのが現状である。波長の短波化に関しては、これまでフェニルピリジンにフッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基等の電子吸引基を置換基として導入すること、配位子としてピコリン酸やピラザボール系の配位子を導入することが知られている(例えば、特許文献6〜10及び非特許文献1〜4参照。)が、これらの配位子では発光材料の発光波長が短波化して青色を達成し、高効率の素子を達成できる一方、素子の発光寿命は大幅に劣化するため、そのトレードオフの改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002−332291号公報
【特許文献2】特開2002−332292号公報
【特許文献3】特開2002−338588号公報
【特許文献4】特開2002−226495号公報
【特許文献5】特開2002−234894号公報
【特許文献6】国際公開第02/15645号パンフレット
【特許文献7】特開2003−123982号公報
【特許文献8】特開2002−117978号公報
【特許文献9】特開2003−146996号公報
【特許文献10】国際公開第04/016711号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Inorganic Chemistry,第41巻,第12号,3055〜3066ページ(2002年)
【非特許文献2】Aplied Physics Letters,第79巻,2082ページ(2001年)
【非特許文献3】Aplied Physics Letters,第83巻,3818ページ(2003年)
【非特許文献4】New Journal of Chemistry,第26巻,1171ページ(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、発光波長が制御され、高い発光効率を示し、かつ、発光寿命の長い有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するための、本発明の一つの態様は、
下記一般式(1−1)で表される金属錯体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料にある。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、A、B、Cは何れも下記一般式(2)で表される置換基を表し、互いに異なっていてもよい。R1、R2、R3、R4、R5は水素原子を表す。Mはイリジウム又は白金を表し、nは2又は3を表す。)
一般式(2) −Xa−(Ra)na
(式中、Raはアルキル基又はアリール基を表す。Xaは酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を表す。naは1又は2を表す。)
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、発光波長が制御され、高い発光効率を示し、かつ、発光寿命の長い有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。
【図2】図2は表示部Aの模式図である。
【図3】図3は画素を構成する駆動回路の等価回路図である。
【図4】図4はパッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
【図5】図5は有機EL素子OLED1−1の封止構造の概略模式図である。
【図6】図6は有機EL素子を具備してなる照明装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
(1) 下記一般式(1)で表される部分構造を有する金属錯体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、A、B、Cは水素原子または置換基を表し、その少なくとも二つは下記一般式(2)で表され、互いに異なっていてもよい。R、R、R、R、Rは水素原子または置換基を表す。Mは元素周期表における第8族、第9族または第10族の元素を表す。)
一般式(2) −Xa−(Ra)na
(式中、Raは置換基を表す。Xaは酸素原子、硫黄原子または窒素原子を表す。naは1または2を表す。)
(2) 前記一般式(2)において、Raがアルキル基であることを特徴とする前記(1)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(3) 一般式(3)で表される部分構造を有する金属錯体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
【0029】
【化3】

【0030】
(式中、Rb、Rc、Rdは置換基を表し、Xb、Xc、Xdは酸素原子、硫黄原子または窒素原子を表す。nb、nc、ndは1または2を表す。R、R、R、R、R10は水素原子または置換基を表す。Mは元素周期表における第8族、第9族または第10族の元素を表す。)
(4) 前記一般式(3)において、Rb、Rc、Rdがアルキル基であることを特徴とする前記(3)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(5) 前記一般式(3)において、Xdが窒素原子で、Xb、Xcが酸素原子であることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(6) 前記一般式(3)において、Xdが硫黄原子であり、Xb、Xcが酸素原子であることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(7) 前記一般式(3)において、Xb、Xc、Xdが酸素原子であることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(8) Mがイリジウムまたは白金であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(9) Mがイリジウムまたは白金であることを特徴とする前記(3)〜(7)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
(10) 前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(11) 構成層として発光層を有し、該発光層が前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(12) 構成層として正孔阻止層を有し、該正孔阻止層が前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(13) 前記(10)〜(12)のいずれか1項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子を有することを特徴とする表示装置。
(14) 前記(10)〜(12)のいずれか1項に記載の有機エレクトルミネッセンス素子を有することを特徴とする照明装置。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
フェニルピリジンの特定の箇所にある電子的性質をもった置換基を導入した、前記一般式(1)または(3)で表される部分構造を有する金属錯体を含有する有機EL素子材料を含む有機EL素子により、従来の青色用の金属錯体、特に電子吸引基によってのみ発光波長を短波側に制御してきた有機EL素子材料を用いて作製された有機EL素子の問題点であった発光寿命が大幅に改善されることが見出された。
【0033】
以下、本発明に係る各構成要素の詳細について、順次説明する。
【0034】
この検討にあたっては、下記の構造を例にして分子軌道計算による発光波長のシミュレーションにより、フェニルピリジンへの置換基効果と発光波長の変動を詳細に検討した。
【0035】
【化4】

【0036】
その結果、波長の短波化,長波化に有効な置換位置は、4位と3p〜6p位であることが見出された。特に、短波化に関しては、置換基が電子供与性基の場合、4位、4p位、6p位への置換基導入が有効である一方、置換基が電子吸引性基の場合、3p位、5p位への置換基導入が有効であることが分かった。また、3、5、6位は置換基の電子的性質によらず長波化することが分かった。さらに、置換基の電子的性質に関して相補的であった。
【0037】
この結果を受けて、本発明者等は発光波長を青色まで短波化するための手段として、上記指針に基づき検討を進め合成検討したところ、シミュレーション結果をほぼ満足する発光波長の制御ができることを見出した。
【0038】
しかしながら、電子吸引性基を3p位、5p位へ導入した場合、青色の色純度改良に有効である一方、素子の寿命が著しく劣化する傾向があることが分かった。一方、電子供与性基を4位、4p位、6p位へ導入した場合、高効率化は実現されたが、置換基の電子供与性がσ性に由来するかπ性に由来するかで異なること分かった。
【0039】
メチル基のようなσ性の強い電子供与性基が置換基である場合、寿命の改善効果は小さい一方、アルコキシ基、アリールオキシ基のようなπ性の強い電子供与性基が置換基である場合、寿命の改善効果が著しく大きくなった。さらに、アルキルチオ基、アリールチオ基のような置換基は電子供与性は小さいが、寿命の改善効果が著しく大きくなった。これは、アルキルチオ基、アリールチオ基の置換基に存在するローンペアのために、これらの置換基の電子的性質がπ性の電子供与基と同等の機能を有するためと推定している。このようにπ性の強い電子供与基が置換基として分子内に少なくとも二つ存在することにより、3p位、5p位に電子吸引基を導入した場合でも,発光素子の寿命が改善できることがわかった。
【0040】
このような知見に基づき、本発明の請求項1〜9で表される分子構造にたどり着き、本発明を完成するに至った。
【0041】
発光波長の計算には、Gaussian 98(Revision A.11.4,M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,V.G.Zakrzewski,J.A.Montgomery,Jr.,R.E.Stratmann,J.C.Burant,S.Dapprich,J.M.Millam,A.D.Daniels,K.N.Kudin,M.C.Strain,O.Farkas,J.Tomasi,V.Barone,M.Cossi,R.Cammi,B.Mennucci,C.Pomelli,C.Adamo,S.Clifford,J.Ochterski,G.A.Petersson,P.Y.Ayala,Q.Cui,K.Morokuma,N.Rega,P.Salvador,J.J.Dannenberg,D.K.Malick,A.D.Rabuck,K.Raghavachari,J.B.Foresman,J.Cioslowski,J.V.Ortiz,A.G.Baboul,B.B.Stefanov,G.Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,I.Komaromi,R.Gomperts,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,M.A.Al−Laham,C.Y.Peng,A.Nanayakkara,M.Challacombe,P.M.W.Gill,B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,J.L.Andres,C.Gonzalez,M.Head−Gordon,E.S.Replogle,andJ.A.Pople,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用いた。
【0042】
計算はB3LYP法を用いて構造最適化したのち、TD−DFT計算によりりん光波長計算を行ない発光波長を求めた。
【0043】
また、前記金属錯体の含有層としては、発光層及び/または正孔阻止層が好ましく、また、発光層に含有する場合は、発光層中の発光ドーパントとして用いることにより、本発明の目的である、有機EL素子の発光寿命の長寿命化を達成することができる。
【0044】
《金属錯体》
本発明の有機EL素子材料に係る金属錯体について説明する。
【0045】
《一般式(1)で表される金属錯体》
本発明に係る、前記一般式(1)で表される金属錯体について説明する。
【0046】
一般式(1)において、A、B、Cは水素原子または置換基で表されるが、その少なくとも二つは前記一般式(2)で表され、互いに異なっていてもよい。A、B、Cで表される置換基としては特に制限はないが、好ましくはアルキル基(例えば、メチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロピニル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、2−ナフチル基、9−フェナンスリル基、2−ピリジル基、2−チエニル基、3−フリル基、メシチル基、カルバゾリル基、フルオレニル基等)、ヘテロ環基(N−モルホリル基、2−テトラヒドロフラニル基等)、アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、パーフルオロフェノキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、シアノ基、フッ化炭化水素基(例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シリル基(例えば、トリフェニルシリル基、トリメチルシリル基等)が挙げられる。この中で特に好ましいものは、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリール基である。最も好ましくは、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基である。
【0047】
一般式(1)において、R、R、R、R、Rは水素原子または置換基を表す。R、R、R、R、Rで表される置換基としては、前記A、B、Cで表される置換基として説明したものと同義である。R、Rで表される置換基としては、電子吸引基(本発明では、σpが0を超える基を表す)でもよい。
【0048】
《ハメットのσp値》
本発明に係るハメットのσp値とは、ハメットの置換基定数σpを指す。ハメットのσpの値は、Hammett等によって安息香酸エチルの加水分解に及ぼす置換基の電子的効果から求められた置換基定数であり、『薬物の構造活性相関』(南江堂:1979年)、『SubstituentConstants for Correlation Analysis in chemistry andbiology』(C.Hansch andA.Leo,John Wiley&Sons,NewYork,1979年)等に記載の基を引用することが出来る。以下にσpが0.10以上の電子吸引基の例を示す。
《σpが0.10以上の電子吸引性基》
ここで、σpが0.10以上の電子吸引性基としては、例えば、−B(OH)(0.12)、臭素原子(0.23)、塩素原子(0.23)、沃素原子(0.18)、−CBr(−0.29))、−CCl(0.33)、−CF(0.54)、−CN(0.66)、−CHO(0.42)、−COOH(0.45)、CONH(0.36)、−CHSOCF(0.31)、−COCH(0.45)、3−バレニル基(0.19)、−CF(CF(0.53)、−CO(0.45)、−CFCFCFCF(0.52)、−C(0.41)、2−ベンゾオキサゾリル基(0.33)、2−ベンゾチアサゾリル基(0.29)、−C=O(C)(0.43)、−OCF(0.35)、−OSOCH(0.36)、−SO(NH)(0.57)、−SOCH(0.72)、−COCHCH(0.48)、−COCH(CH(0.47)、−COC(CH(0.32)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
一般式(1)において、Mは元素周期表における第8族、第9族または第10族の元素を表す。第8族、第9族または第10族の元素としては、好ましくはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金であり、最も好ましくはイリジウム、白金である。
【0050】
一般式(2)において、Raは置換基を表す。Raで表される置換基としては、前記A、B、Cで表される置換基として説明したものと同義である。この中で特に好ましいものは、アルキル基である。
【0051】
一般式(1)において、Xaは酸素原子、硫黄原子または窒素原子を表す。naは1または2を表す。
【0052】
一般式(1)において、A、B、Cの三つが一般式(2)で表される場合が最も好ましい。
【0053】
一般式(1)において、A、B、Cの二つが一般式(2)で表される場合、最も好ましくは一般式(2)が4位と6p位に置換される場合、好ましくは一般式(2)が4位と4p位に置換される場合である。
【0054】
《一般式(3)で表される金属錯体》
本発明に係る、前記一般式(3)で表される金属錯体について説明する。
【0055】
一般式(3)において、Rb、Rc、Rdは置換基を表し、Rb、Rc、Rdで表される置換基としては、前記一般式(1)のA、B、Cで表される置換基として説明したものと同義である。Rb、Rc、Rdの置換基としてはアルキル基であることが好ましい。
【0056】
一般式(3)において、Xb、Xc、Xdは酸素原子、硫黄原子または窒素原子を表す。Xb、Xc、Xdの原子の組み合わせとしては、(1)Xdが窒素原子で、Xb、Xcが酸素原子、(2)Xdが硫黄原子であり、Xb、Xcが酸素原子、または(3)Xb、Xc、Xdが酸素原子であることが好ましい。
【0057】
一般式(3)において、nb、nc、ndは1または2を表す。
【0058】
一般式(3)において、R、R、R、R、R10は水素原子または置換基を表す。R、R、R、R、R10で表される置換基としては、前記一般式(1)のA、B、Cで表される置換基として説明したものと同義である。
【0059】
一般式(3)において、Mは元素周期表における第8族、第9族または第10族の元素を表す。第8族、第9族または第10族の元素としては、好ましくはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金であり、最も好ましくはイリジウム、白金である。
【0060】
以下に、一般式(1)、一般式(3)で表される具体的化合物例を挙げるが、本発明は、これらに限定されない。
【0061】
【化5】

【0062】
【化6】

【0063】
【化7】

【0064】
【化8】

【0065】
【化9】

【0066】
【化10】

【0067】
【化11】

【0068】
【化12】

【0069】
【化13】

【0070】
【化14】

【0071】
【化15】

【0072】
【化16】

【0073】
【化17】

【0074】
【化18】

【0075】
【化19】

【0076】
【化20】

【0077】
【化21】

【0078】
【化22】

【0079】
【化23】

【0080】
【化24】

【0081】
【化25】

【0082】
【化26】

【0083】
【化27】

【0084】
【化28】

【0085】
【化29】

【0086】
これらの化合物は、例えば、Organic Leter,vol13,No.16,p2579〜2581(2001)、Inorganic Chemistry,vol30,No.8,p1685〜1687(1991)、J.Am.Chem.Soc.,vol123,p4304(2001)、InorganicChemistry,vol41,No.12,p13056〜3066(2002)、NewJounal of Chemistry,vol26,p1171(2002)、国際公開第04/045001号パンフレット、Journal of the OrganicChemistry,第67巻、第1号、238から241ページ(2002年)さらにこれらの文献中に記載の参考文献等の方法を適用することにより合成できる。
【0087】
本発明において、上記有機EL素子材料を含有する有機EL素子とは、有機EL素子材料が有機EL素子を構成するいずれかの有機層を形成するか、または有機層に含有された有機EL素子を表す。有機EL素子材料は、好ましくは発光層または正孔阻止層に含有される。
【0088】
(発光ドーパント)
次に発光ドーパント(単にドーパントともいう)と発光ホスト(単にホストともいう)について説明する。
有機EL素子を構成する層において、その層が2種以上の有機化合物で構成されるとき、主成分をホスト、その他の成分をドーパントといい、本発明に係る、一般式(1)で表される化合物は、発光ドーパントとして用いられる。
【0089】
その場合、主成分であるホスト化合物に対するドーパントの混合比は、好ましくは0.1〜30質量%未満である。
【0090】
ただし、発光ドーパントは複数種の化合物を混合して用いてもよく、混合する相手は構造を異にする第8族、第9族または第10族金属錯体でも、その他のリン光性ドーパントでも、蛍光性ドーパントでもよい。
【0091】
これら本発明の化合物と併用してもよいドーパントについて述べる。
【0092】
発光ドーパントは、大きく分けて、蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの2種類がある。
【0093】
前者(蛍光性ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体、その他公知の蛍光性化合物等が挙げられる。
【0094】
後者(リン光性ドーパント)の代表例としては、好ましくは元素周期表で第8族、第9族または第10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくは、イリジウム化合物、オスミウム化合物、パラジウム化合物または白金化合物(白金錯体系化合物)であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0095】
具体的には以下の特許公報に記載されている化合物である。
WO00/70655号、特開2002−280178号、同2001−181616号、同2002−280179号、同2001−181617号、同2002−280180号、同2001−247859号、同2002−299060号、同2001−313178号、同2002−302671号、同2001−345183号、同2002−324679、WO02/15645号、同2002−332291号、同2002−50484号、同2002−332292号、同2002−83684、特表2002−540572号、同2002−117978号、同2002−338588号、同2002−170684号、同2002−352960号、同WO01/93642号、同2002−50483号、同2002−100476号、同2002−173674号、同2002−359082号、同2002−175884号、同2002−363552号、同2002−184582号、同2003−7469号、特表2002−525808号、特開2003−7471号、特表2002−525833号、特開2003−31366号、同2002−226495号、同2002−234894号、同2002−235076号、同2002−241751号、同2001−319779号、同2001−319780号、同2002−62824号、同2002−100474号、同2002−203679号、同2002−343572号、同2002−203678等。
【0096】
その具体例の一部を下記に示す。
【0097】
【化30】

【0098】
【化31】

【0099】
【化32】

【0100】
(発光ホスト)
発光ホスト(単にホストともいう)とは、2種以上の化合物で構成される発光層中にて混合比(質量)の最も多い化合物のことを意味し、それ以外の化合物については「ドーパント化合物(単に、ドーパントともいう)」という。例えば、発光層を化合物A、化合物Bという2種で構成し、その混合比がA:B=10:90であれば化合物Aがドーパント化合物であり、化合物Bがホスト化合物である。さらに、発光層を化合物A、化合物B、化合物Cの3種から構成し、その混合比がA:B:C=5:10:85であれば、化合物A、化合物Bがドーパント化合物であり、化合物Cがホスト化合物である。
【0101】
本発明に用いられる発光ホストとしては、併用される発光ドーパントのリン光0−0バンドよりも短波長なそれをもつ化合物が好ましく、発光ドーパントにそのリン光0−0バンドが480nm以下である青色の発光成分を含む化合物を用いる場合には、発光ホストとしてはリン光0−0バンドが450nm以下であることが好ましい。
【0102】
本発明に用いられる発光ホストとしては、構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有し、かつ前記0−0バンドが450nm以下の化合物が好ましい化合物として挙げられる。
【0103】
また、本発明に用いられる発光ホストは低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
【0104】
発光ホストとしては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0105】
発光ホストの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が好適である。
特開2001−257076号、同2002−308855号、同2001−313179号、同2002−319491号、同2001−357977号、同2002−334786号、同2002−8860号、同2002−334787号、同2002−15871号、同2002−334788号、同2002−43056号、同2002−334789号、同2002−75645号、同2002−338579号、同2002−105445号、同2002−343568号、同2002−141173号、同2002−352957号、同2002−203683号、同2002−363227号、同2002−231453号、同2003−3165号、同2002−234888号、同2003−27048号、同2002−255934号、同2002−260861号、同2002−280183号、同2002−299060号、同2002−302516号、同2002−305083号、同2002−305084号、同2002−308837号等。
【0106】
本発明のホスト化合物として好ましいものの具体例を挙げる。
【0107】
【化33】

【0108】
【化34】

【0109】
【化35】

【0110】
【化36】

【0111】
【化37】

【0112】
次に、代表的な有機EL素子の構成について述べる。
【0113】
《有機EL素子の構成層》
本発明の有機EL素子の構成層について説明する。
【0114】
本発明において、有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0115】
《陰極》
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させることにより作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1000nm、好ましくは50nm〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0116】
次に、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、正孔輸送層、電子輸送層等について説明する。
【0117】
《注入層》:電子注入層、正孔注入層
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記のごとく陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び、陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0118】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0119】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0120】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0121】
上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1nm〜100nmの範囲が好ましい。
【0122】
阻止層は、上記のごとく、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば特開平11−204258号、同11−204359号、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0123】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層であり、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0124】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層であり、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0125】
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。
【0126】
この注入層は、上記材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。注入層の膜厚については特に制限はないが、通常は5〜5000nm程度である。この注入層は、上記材料の一種または二種以上からなる一層構造であってもよい。
【0127】
《発光層》
本発明においては、前記本発明のVIII族金属錯体を発光ドーパントに用いることが好ましいが、これら以外にも公知の発光ホストや発光ドーパントを併用してもよい。
【0128】
併用してもよい公知の発光ホストとしては、後述の電子輸送材料及び正孔輸送材料もその好ましい一例として挙げられ、青色または白色の発光素子、表示装置及び照明装置に適用する場合には、蛍光極大波長が415nm以下であることが好ましく、リン光の0−0バンドが450nm以下であることがさらに好ましい。
【0129】
この発光層は、上記化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。発光層としての膜厚は、特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この発光層は、これらの発光材料一種または二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは、同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0130】
また、この発光層は、特開昭57−51781号公報に記載されているように、樹脂等の結着材と共に上記発光材料を溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法等により薄膜化して形成することができる。このようにして形成された発光層の膜厚については、前記の通り通常は5nm〜5μmの範囲である。
【0131】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層もしくは複数層設けることができる。
【0132】
正孔輸送材料としては、特に制限はなく、従来、光導伝材料において、正孔の電荷注入輸送材料として慣用されているものやEL素子の正孔注入層、正孔輸送層に使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0133】
正孔輸送材料は、正孔の注入もしくは輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0134】
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0135】
芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0136】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0137】
また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0138】
また、本発明においては正孔輸送層の正孔輸送材料は、青色または白色の発光素子、表示装置及び照明装置に適用する場合には、415nm以下に蛍光極大波長を有することが好ましく、リン光の0−0バンドが450nm以下であることがさらに好ましい。
【0139】
正孔輸送材料は、高Tgである化合物が好ましい。
【0140】
この正孔輸送層は、上記正孔輸送材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5〜5000nm程度である。この正孔輸送層は、上記材料の一種または二種以上からなる一層構造であってもよい。
【0141】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層もしくは複数層設けることができる。
【0142】
本発明においては、前記本発明のVIII族金属錯体を正孔阻止層に用いることが好ましいが、これら以外にも公知の電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)を併用してもよい。
【0143】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、下記の材料が知られている。
【0144】
さらに、電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0145】
この電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0146】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0147】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えばトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0148】
電子輸送層に用いられる好ましい化合物は、青色または白色の発光素子、表示装置及び照明装置に適用する場合には、蛍光極大波長が415nm以下であることが好ましく、リン光の0−0バンドが450nm以下であることがさらに好ましい。
【0149】
電子輸送層に用いられる化合物は、高Tgである化合物が好ましい。
【0150】
この電子輸送層は、上記電子輸送材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5〜5000nm程度である。この電子輸送層は、上記材料の一種または二種以上からなる一層構造であってもよい。
【0151】
《基体(基板、基材、支持体等ともいう)》
本発明の有機EL素子に係る基体としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また、透明のものであれば特に制限はないが、好ましく用いられる基板としては例えばガラス、石英、光透過性樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい基体は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0152】
樹脂フィルムとしては、特に限定はなく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルまたはポリアリレート類、アートン(商品名:JSR(株)製)またはアペル(商品名:三井化学(株)製)といったノルボルネン系(またはシクロオレフィン系)樹脂、有機無機ハイブリッド樹脂等を挙げることができる。有機無機ハイブリッド樹脂としては、有機樹脂とゾルゲル反応によって得られる無機高分子(例えばシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等)を組み合わせて得られるものが挙げられる。
【0153】
樹脂フィルムの表面には無機物もしくは有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよい。
【0154】
被膜の具体例としてはゾル−ゲル法により形成されたシリカ層、ポリマーの塗布等により形成された有機層(例えば重合性基を有する有機材料膜に紫外線照射や加熱等の手段で後処理を施した膜を含む)、DLC膜、金属酸化物膜または金属窒化物膜等が挙げられる。金属酸化物膜、金属窒化物膜を構成する金属酸化物、金属窒化物としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム等の金属酸化物、窒化珪素等の金属窒化物、酸窒化珪素、酸窒化チタン等の金属酸窒化物が挙げられる。
【0155】
前記、表面に無機物もしくは有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成された樹脂フィルムの水蒸気透過率は、0.01g/m・day・atm以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0156】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは2%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0157】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用してもよい。
【0158】
照明用途で用いる場合には、発光ムラを低減させるために粗面加工したフィルム(アンチグレアフィルム等)を併用することもできる。
【0159】
表示装置として用いる場合は少なくとも2種類の異なる発光極大波長を有する有機EL素子からなるが、有機EL素子を作製する好適な例を説明する。
【0160】
《有機EL素子の作製方法》
本発明の有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0161】
まず適当な基体上に、所望の電極物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10nm〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陽極を作製する。次に、この上に素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層の有機化合物薄膜を形成させる。
【0162】
この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如くスピンコート法、キャスト法、インクジェット法、蒸着法、印刷法等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法またはスピンコート法が特に好ましい。さらに層ごとに異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6Pa〜10−2Pa、蒸着速度0.01nm〜50nm/秒、基板温度−50℃〜300℃、膜厚0.1nm〜5μmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0163】
これらの層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施してもかまわない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0164】
本発明の表示装置は、発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
【0165】
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、印刷法である。蒸着法を用いる場合においてはシャドーマスクを用いたパターニングが好ましい。
【0166】
また作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0167】
このようにして得られた表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0168】
本発明の表示装置は、表示デバイス、ディスプレー、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレーにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることにより、フルカラーの表示が可能となる。
【0169】
表示デバイス、ディスプレーとしてはテレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。
【0170】
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等の照明装置が挙げられるがこれに限定するものではない。
【0171】
また、本発明に係る有機EL素子に共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。
【0172】
このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより、上記用途に使用してもよい。
【0173】
《表示装置》
本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0174】
(発明の実施の態様)
本発明の有機EL素子から構成される表示装置の一例を図面に基づいて以下に説明する。
【0175】
図1は、有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0176】
ディスプレイ1は、複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。
【0177】
制御部Bは、表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0178】
図2は、表示部Aの模式図である。
【0179】
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と、複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
【0180】
図においては、画素3の発光した光が、白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0181】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6は、それぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。
【0182】
画素3は、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を、適宜、同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0183】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
【0184】
図3は、画素の模式図である。
【0185】
画素は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサ13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0186】
図3において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサ13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0187】
画像データ信号の伝達により、コンデンサ13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0188】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサ13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
【0189】
すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0190】
ここで、有機EL素子10の発光は、複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。
【0191】
また、コンデンサ13の電位の保持は、次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0192】
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0193】
図4は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図4において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0194】
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
【0195】
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子がなく、製造コストの低減が計れる。
【0196】
本発明に係わる有機EL材料は、また、照明装置として実質白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得る。複数の発光色の組み合わせとしては、青色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0197】
また、複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光で発光する発光材料と発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、本発明に係わる白色有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせ混合するだけでよい。発光層もしくは正孔輸送層或いは電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分けるなど単純に配置するだけでよく、他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で例えば電極膜を形成でき、生産性も向上する。この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
【0198】
発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係わる白金錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
【0199】
このように、本発明の白色発光有機EL素子は、前記表示デバイス、ディスプレーに加えて、各種発光光源、照明装置として、家庭用照明、車内照明、また露光光源のような一種のランプとして、また液晶表示装置のバックライト等、表示装置にも有用に用いられる。
【0200】
その他、時計等のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体等の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等、更には表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられる。
【実施例】
【0201】
実施例1
《有機EL素子OLED1−1の作製》
陽極としてガラス上にITOを150nm成膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をiso−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0202】
この透明支持基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、5つのタンタル製抵抗加熱ボートに、α−NPD、CBP、Ir−12、BCP、Alqをそれぞれ入れ、真空蒸着装置(第1真空槽)に取付けた。
【0203】
【化38】

【0204】
さらに、タンタル製抵抗加熱ボートにフッ化リチウムを、タングステン製抵抗加熱ボートにアルミニウムをそれぞれ入れ、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付けた。
【0205】
まず、第1の真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で透明支持基板に膜厚25nmの厚さになるように蒸着し、正孔注入/輸送層を設けた。
【0206】
さらに、CBPの入った前記加熱ボートとIr−12の入ったボートをそれぞれ独立に通電して発光ホストであるCBPと発光ドーパントであるIr−10の蒸着速度が100:7になるように調節し膜厚30nmの厚さになるように蒸着し、発光層を設けた。
【0207】
ついで、BCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で厚さ10nmの正孔阻止層を設けた。さらに、Alqの入った前記加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で膜厚40nmの電子輸送層を設けた。
【0208】
次に、前記の如く電子輸送層まで製膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、電子輸送層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクが配置されるように装置外部からリモートコントロールして設置した。
【0209】
第2真空槽を2×10−4Paまで減圧した後、フッ化リチウム入りのボートに通電して蒸着速度0.01〜0.02nm/秒で膜厚0.5nmの陰極バッファー層を設け、次いでアルミニウムの入ったボートに通電して蒸着速度1〜2nm/秒で膜厚150nmの陰極をつけた。さらにこの有機EL素子を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスで置換したグローブボックス)へ移し、図5に示したような内部を窒素で置換した封止構造にして、有機EL素子OLED1−1を作製した。なお、捕水剤である酸化バリウム105は、アルドリッチ社製の高純度酸化バリウム粉末を、粘着剤付きのフッ素樹脂系半透過膜(ミクロテックスS−NTF8031Q 日東電工製)でガラス製封止缶104に貼り付けたものを予め準備して使用した。封止缶と有機EL素子の接着には紫外線硬化型接着剤107を用い、紫外線ランプを照射することで両者を接着し封止素子を作製した。図5において101は透明電極を設けたガラス基板、102が前記正孔注入/輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層等からなる有機EL層、103は陰極を示す。
【0210】
《有機EL素子OLED1−2〜1−41の作製》
上記の有機EL素子OLED1−1の作製において、表1に記載のように、発光ドーパントを変更した以外は同様にして、有機EL素子OLED1−2〜1−41を作製した。
(OLED1−42、43の作製方法)
OLED1−1の作製において、発光ホストをCBPからAZ1に変更し、発光ドーパントを本発明の金属錯体(表中に化合物Noで示した)を使用した以外は、OLED1−1と同様にして、有機EL素子1−42、43を作製した。
(OLED1−44〜1−47の作製方法)
OLED1−1の作製において、発光ホストをCBPからCDBPに変更し、発光ドーパントを本発明の金属錯体(表中に化合物Noで示した)を使用した以外は、OLED1−1と同様にして、有機EL素子1−44から47を作製した。
【0211】
【化39】

【0212】
得られた有機EL素子OLED1−1〜1−47について下記のような評価を行った。
【0213】
《外部取り出し量子効率》
有機EL素子OLED1−1〜1−47を室温(約23〜25℃)、2.5mA/cmの定電流条件下による点灯を行い、点灯開始直後の発光輝度(L)[cd/m]を測定することにより、外部取り出し量子効率(η)を算出した。ここで、発光輝度の測定は、CS−1000(ミノルタ製)を用いた。
【0214】
また、外部取り出し量子効率は、有機EL素子OLED1−1を100とした時の相対値で表した。
【0215】
《発光寿命》
有機EL素子OLED1−1〜1−47を室温下、2.5mA/cmの定電流条件下による連続点灯を行い、初期輝度の半分の輝度になるのに要する時間(τ1/2)を測定した。また、発光寿命は、有機EL素子OLED1−1を100とした時の相対値で表した。
【0216】
《色度差》
有機EL素子OLED1−1〜1−47を室温(約23〜25℃)、2.5mA/cmの定電流条件下による点灯を行い、点灯開始直後の素子の発光色のCIE色度((x,y)=(a,b))を測定し、NTSC(modern)の青((x,y)=(0.155,0.07))との差をΔとして算出した。CIE色度の測定は、CS−1000(ミノルタ製)を用いた。Δは、以下の式に従って求めた。
【0217】
Δ=((0.155−a)+(0.07−b)1/2
また、外部取り出し量子効率は、有機EL素子OLED1−1を100とした時の相対値で表した。
【0218】
得られた結果を表1に示す。
【0219】
【表1】

【0220】
表1から、本発明に係る金属錯体を用いて作製した有機EL素子は比較有機EL素子に比べ、高い発光効率と、発光寿命の長寿命化が達成できることが明らかである。また、色純度も従来の素子に比べて向上していることが分かった。
【0221】
実施例2
《有機EL素子OLED2−1〜2−22の作製》
実施例1の有機EL素子OLED1−1の作製において、発光ドーパントをIr−12からIr−1に変更し、正孔阻止材料を表2に記載のように変更した以外は同様にして、有機EL素子OLED2−1〜2−22を作製した。
【0222】
得られた有機EL素子OLED2−1〜2−22について、外部取り出し量子効率、発光寿命の測定を実施例1に記載の方法を用いて行った。評価は、有機EL素子OLED2−1の値を100としたときの有機EL素子各試料の各々の相対値で表した。得られた結果を表2に示す。
【0223】
【表2】

【0224】
表2より、比較の有機EL素子に比べて、本発明の有機EL素子は高い発光効率と、発光寿命が得られることが分かった。なお、本発明の有機EL素子の発光色は全て緑色だった。
【0225】
実施例3
《フルカラー表示装置の作製》
(青色発光素子の作製)
実施例1の有機EL素子OLED1−11を青色発光素子として用いた。
【0226】
(緑色発光素子の作製)
実施例2の有機EL素子OLED2−7を緑色発光素子として用いた。
【0227】
(赤色発光素子の作製)
実施例1の有機EL素子OLED1−11の作製において、発光ドーパントをI−1からIr−9に変更した以外は同様にして作製した有機EL素子を赤色発光素子として用いた。
【0228】
上記赤色、緑色、青色各発光有機EL素子を同一基板上に並置し、図1に記載のような形態を有するアクティブマトリクス方式フルカラー表示装置を作製し、図2には、作製した前記表示装置の表示部Aの模式図のみを示した。即ち、同一基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と、並置した複数の画素3(発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素等)とを有し、配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示せず)。前記複数画素3は、それぞれの発光色に対応した有機EL素子、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタと駆動トランジスタそれぞれが設けられたアクティブマトリクス方式で駆動されており、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。この様に各赤、緑、青の画素を適宜、並置することによって、フルカラー表示装置を作製した。
【0229】
フルカラー表示装置を駆動することにより、輝度が高く、高耐久性を有し、かつ、鮮明なフルカラー動画表示が得られることが分かった。
【0230】
実施例4
《白色発光素子及び白色照明装置の作製》
実施例1の透明電極基板の電極を20mm×20mmにパターニングし、その上に実施例1と同様に正孔注入/輸送層としてα−NPDを25nmの厚さで製膜し、さらに、CBPの入った前記加熱ボートと本発明化合物P−9の入ったボート及びIr−9の入ったボートをそれぞれ独立に通電して発光ホストであるCBPと発光ドーパントである本発明化合物P−9及びIr−9の蒸着速度が100:5:0.6になるように調節し膜厚30nmの厚さになるように蒸着し、発光層を設けた。
【0231】
ついで、BCPを10nm製膜して正孔阻止層を設けた。さらに、Alqを40nmで製膜し電子輸送層を設けた。
【0232】
次に、実施例1と同様に、電子輸送層の上にステンレス鋼製の透明電極とほぼ同じ形状の正方形穴あきマスクを設置し、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nm及び陰極としてアルミニウム150nmを蒸着製膜した。
【0233】
この素子を実施例1と同様な方法及び同様な構造の封止缶を具備させ平面ランプを作製した。図6に平面ランプの模式図を示した。図6(a)に平面模式を図6(b)に断面模式図を示す。
【0234】
この平面ランプに通電したところほぼ白色の光が得られ、照明装置として使用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0235】
本発明により、発光波長が制御され、高い発光効率を示し、かつ、発光寿命の長い有機EL素子、照明装置及び表示装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)で表される金属錯体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
【化1】

(式中、A、B、Cは何れも下記一般式(2)で表される置換基を表し、互いに異なっていてもよい。R1、R2、R3、R4、R5は水素原子を表す。Mはイリジウム又は白金を表し、nは2又は3を表す。)
一般式(2) −Xa−(Ra)na
(式中、Raはアルキル基又はアリール基を表す。Xaは酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を表す。naは1又は2を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−199562(P2012−199562A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109340(P2012−109340)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【分割の表示】特願2006−511956(P2006−511956)の分割
【原出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】